(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175153
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池負極用組成物
(51)【国際特許分類】
H01M 4/134 20100101AFI20241211BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20241211BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241211BHJP
H01M 4/1395 20100101ALI20241211BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20241211BHJP
H01M 4/1393 20100101ALI20241211BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01M4/62 Z
H01M4/1395
H01M4/133
H01M4/1393
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021182390
(22)【出願日】2021-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(72)【発明者】
【氏名】山本 達也
(72)【発明者】
【氏名】松本 和明
(72)【発明者】
【氏名】柏原 宮人
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA17
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB29
5H050DA11
5H050EA23
5H050EA28
5H050HA01
5H050HA10
5H050HA14
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高いサイクル特性を発現し、さらに電極の生産性にも優れたリチウムイオン二次電池負極用組成物を提供する。
【解決手段】重合体を有するバインダーとケイ素を有する負極活物質とを含むリチウムイオン二次電池負極用組成物であって、該重合体は、20℃における水100gに対する溶解度が2g以上であるエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有し、該重合体における該構造単位の割合が10質量%以上であり、該重合体の濃度を2質量%とした水分散体の粘度が20mPa・s以下である、リチウムイオン二次電池負極用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体を有するバインダーと、
ケイ素を有する負極活物質とを含むリチウムイオン二次電池負極用組成物であって、
該重合体は、20℃における水100gに対する溶解度が2g以上であるエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有し、
該重合体における該構造単位の割合が10質量%以上であり、
該重合体の濃度を2質量%とした水分散体の粘度が20mPa・s以下である、
リチウムイオン二次電池負極用組成物。
【請求項2】
前記重合体に、ホモポリマーのガラス転移温度が10℃以下であるエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を含む、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池負極用組成物。
【請求項3】
前記重合体に、架橋性単量体に由来する構造単位を含む、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池負極用組成物。
【請求項4】
前記重合体および水を含有する、請求項1~3何れかに記載のリチウムイオン二次電池負極用組成物。
【請求項5】
請求項1~4何れかに記載のリチウムイオン二次電池負極用組成物から形成されてなる負極合材層と集電体を含む、リチウムイオン二次電池負極。
【請求項6】
請求項5に記載の負極を有するリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池負極用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池のサイクル特性の向上を達成すべく、電極合材層の形成に用いられるバインダーの改良が試みられている。例えば、ビニルアルコールやエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物等から得られる重合体(特許文献1)や、スチレン、エチレン性不飽和カルボン酸エステル及びエチレン性不飽和カルボン酸等から得られる重合体(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公報第2014/57627号
【特許文献2】特開2011-243464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまでのバインダーでは、サイクル特性と電極の生産性を両立できない課題があった。そこで本発明は、高いサイクル特性を発現し、さらに電極の生産性にも優れたリチウムイオン二次電池負極用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を達成する為に種々検討を行ない、本発明に想到した。すなわち本開示は、重合体を有するバインダーとケイ素を有する負極活物質とを含むリチウムイオン二次電池負極用組成物であって、該重合体は、20℃における水100gに対する溶解度が2g以上であるエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有し、該重合体における該構造単位の割合が10質量%以上であり、該重合体の濃度を2質量%とした水分散体の粘度が20mPa・s以下である、リチウムイオン二次電池負極用組成物である。
【発明の効果】
【0006】
本開示のリチウムイオン二次電池負極用組成物は、優れたサイクル特性を発現し、さらに電極の生産性を高くすることができるリチウムイオン二次電池負極用組成物を提供することを目的とする。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0008】
[バインダー]
<エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位>
本開示のバインダーには、エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有する重合体を有する。
【0009】
本開示のエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位とは、単量体が重合して形成される構造と同じ構造を有する構造単位を言い、通常は、単量体に含まれる炭素炭素不飽和二重結合の少なくとも1つが、炭素炭素単結合に置き換わった構造である。なお、単量体に由来する構造単位は、実際に単量体が重合することにより形成された構造単位である必要は無く、単量体が重合して形成される構造と同じ構造であれば、単量体が重合する以外の方法で形成された構造単位であっても、単量体に由来する構造単位に含まれる。例えば、アクリル酸メチル、CH2=CH(-COOCH3)、であれば、アクリル酸メチルに由来する構造単位は、-CH2-CH(-COOCH3)-、で表すことができる。
【0010】
本開示のエチレン性不飽和単量体は、水との親和性が高いことが好ましい。例えば、水への溶解度が、20℃において、水100gに対し2g以上であることが好ましく、より好ましくは、5g以上であり、より好ましくは10g以上であり、さらに好ましくは20g以上であり、水と完全に混和するものでもよい。
【0011】
本開示のエチレン性不飽和単量体とは、極性を有する官能基を含むことが好ましい。
【0012】
極性を有する官能基とは特に限定さればいが、例えば、カルボキシ基、アミド基、ニトリル基、アミノ基、水酸基、エポキシ基、ポリオキシエチレン基が挙げられる。好ましくは、カルボキシ基、アミド基、ニトリル基、水酸基を有する。ここで、カルボキシ基は、カルボン酸;カルボン酸のエステル;アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニアとのカルボン酸金属塩が挙げられる。
【0013】
カルボキシ基を有するエチレン性不飽和単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル系単量体;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、無水マレイン酸などのカルボン酸系単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル等が挙げられる。好ましくは、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート等のアクリル系モノマー;アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、無水マレイン酸などのカルボキシ基含有単量体が挙げられる。より好ましくは、エチルアクリレート(20℃における水100に対する溶解度(以下、溶解度という場合がある)6g)、アクリル酸(溶解度20g以上)、マレイン酸(溶解度20g以上)、クロトン酸(溶解度20g以上)、イタコン酸(溶解度8g)、無水マレイン酸(溶解度20g以上)である。
【0014】
アミド基を有するエチレン性不飽和単量体としては、アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N-ビニルピロリドンなどが挙げられる。好ましくは、アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルアクリルアミド、N-ビニルピロリドンが挙げられる。より好ましくは、N,N-ジメチルアクリルアミド(溶解度20g以上)、N-ビニルピロリドン(溶解度20g以上)である。
【0015】
ニトリル基を有するエチレン性不飽和単量体としては、好ましくは、アクリロニトリル(溶解度7g)である。
【0016】
エポキシ基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えばグリシジルメタクリレートが挙げられる(溶解度5g)。
【0017】
ポリオキシエチレン基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)エチレングリコールメトキシ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールメトキシ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0018】
本開示のエチレン性不飽和単量体には、極性を有する官能基を1種以上有していてもよく、2種類以上有してもよい。
【0019】
本開示のエチレン性不飽和単量体としては、より好ましくは、以下、一般式(1)の構造を有する。
【0020】
【0021】
(一般式(1)中、R1は、炭素数1~4のアルキル基、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、またはアンモニウムを表す。)
さらに好ましくは、R1が炭素数1であり、よりさらに好ましくは、2-ヒドロキシメチルメタクリル酸である。
【0022】
本開示のエチレン性不飽和単量体としては、ホモポリマーのガラス転移温度は、-75℃以上であることが好ましく、より好ましくは-70℃以上であり、さらに好ましくは-65℃以上である。一方、10℃以下であることが好ましく、より好ましくは5℃以下であり、さらに好ましくは0℃以下である。
【0023】
本開示の重合体は、エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を1種以上含んでいてもよく、2種以上有していても良い。
【0024】
本開示の重合体には、20℃における水100gに対する溶解度が2g以上であるエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を、重合体の総量に対し、10質量%以上含むことが好ましく、より好ましくは10.5質量%以上であり、さらに好ましくは11質量%以上である。一方、90質量%以下であることが好ましく、より好ましくは80質量%以下であり、さらに好ましくは、70質量%以下である。リチウムイオン二次電池負極用組成物において、後述する負極活物質を、均一に分散し易くする傾向にある。
本開示の重合体は、エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を1種以上含んでいてもよく、2種以上有していても良い。
本開示の重合体には、極性を有する官能基を1種以上有していてもよく、2種類以上有してもよい。
本開示の重合体には、極性を有する官能基を含むエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を、重合体の総量に対し、40質量%以上含むことが好ましく、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上である。一方、99.99質量%以下であることが好ましく、より好ましくは99.95質量%以下であり、さらに好ましくは99.90質量%以下である。
【0025】
本開示の重合体には、20℃における水100gに対する溶解度が2g以上であるエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を、重合体の総量に対し、10質量%以上含むことが好ましく、より好ましくは10.5質量%以上であり、さらに好ましくは11質量%以上である。一方、90質量%以下であることが好ましく、より好ましくは80質量%以下であり、さらに好ましくは、70質量%以下である。リチウムイオン二次電池負極用組成物において、後述する負極活物質を、均一に分散し易くする傾向にある。
【0026】
本開示の重合体には、重合体の総量に対し、ホモポリマーのガラス転移温度が10℃以下であるエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を、10質量%以上含むことが好ましく、より好ましくは15質量%以上であり、さらに好ましくは20質量%以上である。一方、90質量%以下であることが好ましく、より好ましくは80質量%以下であり、さらに好ましくは、70質量%以下である。
【0027】
本開示の重合体は、そのうち少なくとも一部が加水分解されていることが好ましい。
【0028】
本開示の重合体の少なくとも一部が加水分解されているとは、重合体が、部分加水分解物、完全加水分解物、これらの加水分解中和物のいずれかであることを意味する。
本開示の重合体の部分加水分解物とは、本開示の重合体に、例えば、2-ヒドロキシメチルアクリル酸メチル単量体に由来する構造単位を有する場合、2-ヒドロキシメチルアクリル酸メチル単量体に由来する構造単位と2-ヒドロキシメチルアクリル酸単量体に由来する構造単位との両方を含む。
【0029】
本開示の重合体の完全加水分解物又はその中和物とは、2-ヒドロキシメチルメタクリル酸メチル単量体に由来する構造単位を実質的に含まず、2-ヒドロキシメチルメタクリル酸単量体やその中和物に由来する構造単位を含む。
【0030】
本開示の完全加水分解物又はその中和物とは、例えば、加水分解される際に塩基が含まれていた場合、その塩基との塩が挙げられる。塩基としては、アルカリ金属を有する水酸化物、アルカリ土類金属を有する水酸化物、アンモニアなどを含む水溶液が挙げられる。
本開示の重合体は、例えば、上述した加水分解によって、加水分解された重合体を含む水分散体の状態となりうる。
【0031】
本開示の重合体には多層構造を有していてもよく、例えばコア部とその表面に設けられたシェル部で構成されるコアシェル構造であってもよい。
【0032】
本開示の重合体の体積平均粒子径が10nm~10μmであることが好ましく、50nm~5μmであることがより好ましく、100nm~1μmであることがさらに好ましく、150~850nmであることが特に好ましい。本開示の重合体の体積平均粒子径は、たとえば動的光散乱法により測定することができる。
【0033】
本開示の重合体には、集電体との結着力が強くなる観点から、下記一般式(2)に由来する構造単位を含むことが好ましい。
【0034】
【0035】
(一般式(2)中、R1は、炭素数1~4のアルキル基、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、またはアンモニウムを表す。)
上記R1で表される炭素数1~4のアルキル基は、炭素数1~2のアルキル基であることが好ましく、炭素数1のアルキル基(メチル基)であることがより好ましい。
【0036】
R1で表されるアルカリ金属原子は、リチウム、ナトリウム、カリウムが好ましく、ナトリウム、カリウムがより好ましく、ナトリウムがより更に好ましい。
【0037】
R1で表されるアルカリ土類金属原子としては、カルシウム、マグネシウムなどが挙げられる。
【0038】
R1で表されるアンモニウムとは、NH4+に限られず、有機アンモニウムを含む意味であると定義される。有機アンモニウムとしては、テトラメチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムなどのテトラアルキルアンモニウムなどの4級アンモニウム;アミンをプロトン化することによって形成されるアンモニウム(1~3級アンモニウム)などが挙げられる。R1としては、アンモニア又はアミンのプロトン化によって形成されるアンモニウムが好ましい。前記アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどのトリアルキルアミン(好ましくはトリC1-10アルキルアミン);ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのヒドロキシアルキルアミン(好ましくはジ又はトリ(ヒドロキシC1-10アルキル)アミンなど)などが挙げられ、ヒドロキシアルキルアミンが好ましい。
【0039】
上記一般式(2)で表される構造単位は、下記一般式(1)で表される単量体が重合反応を経由することにより形成されても良いが、他の方法で形成されても良い。例えば、一般式(1)において、R1が炭素数1~4のアルキル基である単量体を重合し、塩基性物質で加水分解をすることにより、上記一般式(2)においてR1がアルカリ金属の構造単位、アルカリ土類金属の構造単位、またはアンモニウムの構造単位を形成しても良い。
【0040】
【0041】
(一般式(1)中、R1は、炭素数1~4のアルキル基、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、またはアンモニウムを表す。)
なお、上記一般式(1)において、R1は、1種であってもよく、2種以上であっても良い。R1が2種以上の場合、2種以上の上記一般式(2)で表される単量体を重合して形成してもよく、R1が炭素数1~4のアルキル基である上記一般式(2)で表される単量体を重合した後に、エステル基を部分加水分解したり、2種以上の塩基性物質で加水分解することにより形成しても良い。
【0042】
本開示の重合体には、上記一般式(2)で表される構造単位を30質量%以上含むことが好ましく、40質量%以上含むことがより好ましく、45質量%以上含むことがさらに好ましく、50質量%以上含むことがよりさらに好ましい。一方、本開示の重合体は、上記一般式(2)で表される構造単位を、99.9質量%以下含むことが好ましく、99質量%以下含むことがより好ましく、97質量%以下含むことがさらに好ましく、95質量%以下含むことが最も好ましい。上記範囲で含むことにより、pHや親水性などを調整することができるため、二次電池負極組成物において、活物質を均一に分散し易くする傾向にある。
【0043】
本開示の重合体には、その他単量体に由来する構造単位を有していてもよい。
【0044】
<その他単量体に由来する構造単位>
その他単量体としては、20℃における水100gに対する溶解度が2g以上であるエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位以外の単量体に由来する構造単位(以下、「その他単量体に由来する構造単位」という場合もある)を1種または2種以上含んでいてもよい。
【0045】
(架橋性単量体)
本開示の重合体には、架橋性単量体に由来する構造単位を有してもよい。
【0046】
架橋性単量体に由来する構造単位とは、架橋性単量体が重合して形成される構造と同じ構造を有する構造単位を言い、単量体が重合する以外の方法で形成された構造単位であってもよい。
【0047】
架橋性単量体としては、架橋性を有する単量体であればよく、例えば、エチレン性不飽和結合を2又は3以上有する単量体が挙げられる。エチレン性の炭素炭素二重結合を2又は3以上含む化合物であればよい。例えば、CH2=CH-基、CH2=CH-O-基、CH2=CH-CH2-O-基、CH2=C(CH3)-CH2-O-基、CH2=CH-CH2-CH2-O-基、CH2=C(CH3)-CH2-CH2-O-基、CH2=CH-CO-O-基、CH2=C(CH3)-CO-O-基、CH2=CH-CO-NH-基、から選択される1種又は2種以上のエチレン性の炭化炭素二重結合を2又は3以上含む化合物が挙げられる。
架橋性単量体としては、分子量が50以上、1000以下であることが好ましく、100以上、400以下であることがより好ましい。
【0048】
架橋性単量体としては、具体的には、ジビニルベンゼン;1,3-ブタジエン;トリビニルベンゼン;ジビニルナフタレン;トリビニルシクロヘキサン;ジビニルエーテル;ジアリルエーテル;多価(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0049】
多価メタクリル酸エステルとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールトリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。好ましくは、ジビニルベンゼン;1,3-ブタジエン;多価(メタ)アクリル酸エステル等であり、より好ましくは、ジビニルベンゼンである。
【0050】
本開示の重合体に含まれる架橋性単量体に由来する構造単位としては、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることがさらに好ましい。一方、0.01質量部以上であることが好ましく、より好ましくは、0.02質量%以上であり、さらに好ましくは、0.04質量%以上である。
【0051】
(芳香族単量体)
本開示の重合体は、芳香族炭化水素基を有することが好ましい。例えば、芳香族炭化水素基を有する単量体に由来する構造単位を含むことが挙げられる。
【0052】
芳香族単量体としては、分子量が50以上、1000以下であることが好ましく、100以上、400以下であることがより好ましい。
【0053】
芳香族単量体としては、芳香族を有する単量体であればよく、エチレン性不飽和炭化水素結合を、1以上有する化合物が挙げられる。具体的には、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、tert-ブチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエンなどのスチレン系単量体などが挙げられる。
【0054】
本開示の重合体における、芳香族を有する単量体に由来する構造単位の含有量は、90質量%以下であることが好ましく、より好ましくは60質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下である。一方、0.01質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.02質量%以上であり、さらに好ましくは0.04質量%以上である。
【0055】
本開示の重合体には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(メトキシエトキシ)シラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、2-スチリルエチルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルヒドロキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルヒドロキシシランなどのシラン基含有単量体;トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレートなどのフッ素原子含有単量体;2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-(メタ)アクリレート等の光安定化単量体;ベンゾトリアゾール系紫外線吸収性単量体、ベンゾフェノン系紫外線吸収性単量体などの紫外線吸収性単量体などが含まれていてもよい。
【0056】
本開示のバインダーには、その他成分を含んでいても良い。その他成分としては、例えば、溶剤、分散剤、増粘剤、湿潤剤、pH調整剤、安定化剤、界面活性剤、酸化防止剤、重合禁止剤などが挙げられる。
【0057】
溶媒としては、水;メタノール、エタノール、イソピルアルコール、ヘキサノール等のアルコール類;アセトン、2-ブタノン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類等が挙げられる。好ましくは、水である。
【0058】
本開示のバインダーに含まれる重合体は、バインダーの総量に対し、5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは7.5質量%以上であり、さらに好ましくは10質量%以上である。一方、90質量%以下であることが好ましく、より好ましくは80質量%以下であり、さらに好ましくは70質量%以下である。
【0059】
本開示のバインダーに含まれる重合体を、2質量%とした水分散体の粘度は、20mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは15mPa・s以下であり、さらに好ましくは10mPa・s以下である。一方、0.50mPa・s以上であることが好ましく、より好ましくは0.75mPa・s以上であり、さらに好ましくは1.00mPa・s以上である。
【0060】
[バインダーの製造方法]
<重合方法>
重合方法としては、懸濁重合、乳化重合、分散重合等が挙げられる。中でも、乳化剤の存在下、上記原料単量体成分を反応溶媒に分散させて(ラジカル)重合反応を行う乳化重合が好ましく、具体的には、本発明の重合体の製造方法としては、乳化剤の存在下、上記式(1)で示される単量体の少なくとも1種を水系溶媒に分散させて重合反応を行う乳化重合を含むことが好ましい。乳化重合は、1段階のみで行ってもよく多段階で行ってもよい。
【0061】
前記乳化剤としては、1種又は2種以上を用いることができ、非反応型界面活性剤であっても、ラジカル重合可能な基を構造中に有する反応型界面活性剤であってもよい。
【0062】
非反応型界面活性剤には、アニオン性、ノニオン性の界面活性剤が包含される。アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸塩、アルキル(アリル)スルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル硫酸塩等が挙げられ、ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー等が挙げられる。
【0063】
反応型界面活性剤には、アニオン性、ノニオン性の界面活性剤が包含される。アニオン性反応型界面活性剤としては、エーテルサルフェート型反応型界面活性剤、リン酸エステル系反応型界面活性剤が挙げられるが、これに限定されない。
【0064】
乳化剤は、原料単量体成分の合計100質量部に対して、0.05質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.3質量部以上であり、20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下、特に好ましくは3質量部以下である。
【0065】
本開示において、水系溶媒とは、水単独、または水と水混和性有機溶媒との混合溶媒が挙げられるが、水単独であることが好ましい。水系溶媒とは、典型的には、水の含有量が50体積%を超える溶媒を指す。水としては、イオン交換水(脱イオン水)、蒸留水、純水等を用いることができる。水混和性有機溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール等)を用いることができる。重合体中に有機溶媒が極力残存しないようにする観点から、水系溶媒の80体積%以上が水である水系溶媒が好ましく、水系溶媒の90体積%以上が水である水系溶媒がより好ましく、水系溶媒の95体積%以上が水である水系溶媒がさらに好ましく、実質的に水からなる水系溶媒(99.5体積%以上が水である水系溶媒)が特に好ましく、水単独であることが最も好ましい。
【0066】
原料単量体成分を重合する際には、例えば、重合開始剤、紫外線や放射線の照射、熱の印加等の手段が用いられ、重合開始剤を使用することが好ましく、原料単量体成分を効率よく反応させ、残存するモノマーを十分に低減させる観点から、酸化剤及び還元剤を組み合わせた重合開始剤(レドックス型重合開始剤)が好ましい。
【0067】
重合反応を行う際の反応温度は、特に限定されず、通常、好ましくは30℃以上、より
好ましくは50℃以上であり、好ましくは100℃以下、より好ましくは95℃以下であ
る。反応温度がこの範囲にあれば、重合反応の制御が容易である。
【0068】
<加水分解方法>
本開示の重合体は、エチレン性不飽和単量体と、例えば、架橋性単量体とを含有する単量体成分を水系溶媒中で重合させた後、部分的に又は完全に加水分解された重合体を製造することにより得ることができる。
【0069】
本開示の重合体の加水分解は、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、アンモニア水溶液、シクロヘキシルアミン水溶液等の塩基性水溶液を添加することで加水分解を行うことができる。さらに、加水分解液に適宜酸を添加することで、部分中和又は完全中和を行うことができる。加水分解及び中和を行うことで、例えば、上記一般式(1)のR1に該当する基を水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ金属原子またはアンモニウムにできる。重合時、加水分解時、及び中和時に用いる酸や塩基の量を調整したり、R1が水素原子である単量体単位の割合を調整することで、重合体のpHや親水性を調整することができ、集電体に対する結着力を強くする傾向にある。
【0070】
[負極活物質]
本開示の負極活物質には、ケイ素を有する物質が含まれていればよい。
ケイ素を含む負極活物質(以下シリコン系負極活物質という場合もある)としては、ケイ素(Si)、ケイ素を含む合金、ケイ素を含む炭化物、ケイ素を含む窒化物、ケイ素を含む酸化物などが挙げられる。具体的には、Si、SiB4、SiB6、Mg2Si、Ni2Si、TiSi2、MoSi2、CoSi2、NiSi2、CaSi2、CrSi2、Cu5Si、FeSi2、MnSi2、NbSi2、TaSi2、VSi2、WSi2、ZnSi2、SiC、Si3N4、Si2N2O、SiOx(0<x≦2)、SnSiOx、LiSiOを例示することができる。SiOx(0<x≦2)であることが好ましく、より好ましくは一酸化ケイ素(SiO)等である。リチウムイオン二次電池のサイクル特性を高くすることが出来る。
【0071】
本開示の負極活物質は、1種であってもよく、2種以上を併用してもよい。より好ましくは、2種以上である。
【0072】
本開示の負極活物質は、シリコン系負極活物質以外のその他負極活物質を含んでいてもよく、その他負極活物質としては、例えば、グラファイト、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンフィブリル等の炭素材料、ポリアセン系導電性ポリマー、チタン酸リチウム等の複合金属酸化物、リチウム合金などが挙げられる。
【0073】
ケイ素の含有量は、分散性の観点から負極活物質の総量に対し、5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは7質量%以上であり、さらに好ましくは10質量%以上である。一方、90質量%以下であることが好ましく、より好ましくは80質量%以下であり、さらに好ましくは70質量%以下である。
【0074】
[リチウムイオン電極用組成物]
本開示のリチウムイオン電極用組成物には、上記重合体と上記負極活物質が含まれていればよい。
【0075】
本開示のリチウムイオン電極用組成物には、重合体が、リチウムイオン電極用組成物の総量に対して1質量%以上含まれていることが好ましく、より好ましくは1.5質量%以上であり、さらに好ましくは2質量%以上である。一方、20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは15質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下である。上記範囲に含めることで、高いサイクル特性が発現し易い傾向にある。
【0076】
本開示のリチウムイオン電極用組成物には、負極活物質が、リチウムイオン電極用組成物の総量に対して85質量%以上含まれていることが好ましく、より好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上である。一方、99質量%以下であることが好ましく、より好ましくは98質量%以下であり、さらに好ましくは97質量%以下である。
【0077】
本開示のリチウムイオン二次電池負極用組成物は、その他成分を含んでいてもよい。その他成分としては、導電助剤、溶剤、分散剤、増粘剤、成膜助剤、湿潤剤、pH調整剤、安定化剤、重合禁止剤、界面活性剤、接着促進剤、充填剤、酸化防止剤、帯電防止剤、染料、顔料などが挙げられる。
【0078】
導電助剤としては、リチウムイオン二次電池の出力を向上させやすい傾向にあることから、導電性カーボンが好ましい。導電性カーボンとしては、例えば、カーボンブラック、ファイバー状カーボン、黒鉛等が挙げられるが、より好ましくは、カーボンブラックである。カーボンブラックとしては、具体的には、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等が挙げられる。
【0079】
導電助剤の含有率は、リチウムイオン二次電池の出力特性及び電気特性を向上させる観点から、リチウムイオン二次電池負極用組成物の総量に対し0.01質量%以上含まれることが好ましく、より好ましくは0.1質量%以上であり、さらに好ましくは1質量%以上である。一方、15質量%以下であることが好ましく、より好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0080】
溶媒としては、水;メタノール、エタノール、イソピルアルコール、ヘキサノール等のアルコール類;アセトン、2-ブタノン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,2-ジメチルエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類等が挙げられる。
【0081】
溶媒の含有率は、リチウムイオン二次電池負極用組成物の総量に対し20質量%以上含まれることが好ましく、より好ましくは25質量%以上であり、さらに好ましくは30質量%以上である。一方、70質量%以下であることが好ましく、より好ましくは60質量%以下であり、さらに好ましくは50質量%以下である。
【0082】
本開示のリチウムイオン二次電池負極用組成物の25℃でのpHは、集電体の腐食を抑制する観点から、好ましくは5以上、より好ましくは5.5以上、より一層好ましくは6以上、さらに好ましくは6.5以上である。また、リチウムイオン二次電池負極用組成物の25℃でのpHは、集電体の腐食を抑制する観点から、好ましくは10以下、より好ましくは9以下、より一層好ましくは8以下、さらに好ましくは7.5以下である。
【0083】
本開示のリチウムイオン二次電池負極用組成物は、バインダーに含まれる重合体によって、活物質やその他成分を高濃度で分散させることができるため、省エネルギー化が可能となり、電極の生産を向上させることができる。
【0084】
[リチウムイオン二次電池負極]
リチウムイオン二次電池用の電極には、正極及び負極が含まれる。本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の電極は、いずれの電極にも用いることができるが、負極に好適に使用できる。
【0085】
リチウムイオン二次電池用の負極は、負極集電体上に、リチウムイオン二次電池用電極組成物から形成された負極合材層を有する。
【0086】
負極集電体に用いられる金属としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金等が挙げられる。これらの中では銅が好ましい。なお、負極集電体の形状や寸法は特に制限されない。
【0087】
[リチウムイオン二次電池負極の製造方法]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の電極は、例えば、集電体に、リチウムイオン二次電池負極用組成物を塗布や、集電体をリチウムイオン二次電池負極用組成物に浸漬させ、その後乾燥させて、負極合材層を形成させることができる。
【0088】
乾燥させる温度は、40℃以上が好ましく、より好ましくは50℃以上である。一方、150℃以下であることが好ましく、より好ましくは130℃以下である。
【0089】
電極には、必要により、例えば、金型プレス、ロールプレス等を用いて加圧処理を施してもよい。
【0090】
[リチウムイオン二次電池]
本開示のリチウムイオン二次電池は、正極と上記負極を含有する。より具体的には、このリチウムイオン二次電池は、正極及び上記負極と、該正極及び負極との間に設けられたセパレーターと、該セパレーターに含浸された状態で、該正極及び負極等と共に外装ケースに収容される電解液とを備える。
【0091】
セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂等の樹脂からなるフィルムを用いることができる。
【0092】
電解液には、支持電解質を有機溶媒に溶解させた電解液を用いることができる。支持電解質としては、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlCl4、LiClO4、CF3SO3Li、C4F9SO3Li、CF3COOLi、(CF3CO)2NLi、(FSO2)2NLi、(CF3SO2)2NLi、(C2F5SO2)2NLi等が挙げられる。前記有機溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、メチルエチルカーボネート等のカーボネート、γ-ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル等が挙げられる。
【0093】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、例えば、正極と負極とをセパレーターを介して重ね合わせ、得られた積層体を電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより、容易に製造することができる。
【0094】
電池容器には、必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子等の過電流防止素子、リード板等を入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をしてもよい。
【0095】
電池の形状としては、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型等が挙げられるが、本開示は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【実施例0096】
[重合体の合成]
<製造例1>
攪拌機、温度計及び冷却管を備えたステンレス製の反応釜に、脱イオン水684.8質量部、及びエーテルサルフェート型アンモニウム塩を主成分とするアニオン性反応型界面活性剤アデカリアソープSR-20(有効成分100質量%、ADEKA社製)をイオン交換水で有効成分25.0質量%に希釈したもの(以下、「SR-20(有効成分25.0質量%)」という)0.72質量部を加え、内温を75℃まで昇温し、同温度に保った。滴下ロートAにメチルメタクリレート(以下「MMA」と称する)67.5質量部、n-ブチルアクリレート(以下「BA」と称する)67.5質量部、SR-20(有効成分25.0質量%)11.0質量部、及び脱イオン水124.0質量部とを投入して、滴下ロート内で滴下用プレエマルションAを調製した。滴下ロートBに2-ヒドロキシメチルアクリル酸メチル(以下「RHMA」と称する)135.0質量部、ジビニルベンゼン(日鉄ケミカル&マテリアル社製、ジビニルベンゼン純度81%、以下「DVB810」と称する)15.0質量部、SR-20(有効成分25.0質量%)12.3質量部、アンモニア水溶液(濃度28質量%)0.27質量部、及び脱イオン水137.5質量部を投入して、滴下ロート内で滴下用プレエマルションBを調製した。滴下ロートCに過酸化水素水(濃度0.61質量%)320質量部を投入した。滴下ロートDにL-アスコルビン酸水溶液(濃度0.92質量%)320質量部を投入した。
次に、反応釜内を窒素ガスで置換した後、MMA7.5質量部とBA7.5質量部の混合単量体組成物15.0質量部、過酸化水素水(濃度0.25質量%)20質量部、及びL-アスコルビン酸水溶液(濃度0.38質量%)20質量部を反応釜内に添加して、初期重合反応を行った。続いて、滴下ロートAから滴下用プレエマルションAを60分間、滴下ロートBから滴下用プレエマルションBを180分間、滴下ロートCから過酸化水素水を240分間、滴下ロートDからL-アスコルビン酸水溶液を240分間滴下した。なお、滴下用プレエマルションBは、滴下用プレエマルションAの滴下が完了した直後に滴下を開始した。
滴下終了後、反応釜の内温を75℃に保持し、同温度で2時間保持して熟成した後、反応溶液を冷却して、重合体粒子が分散した重合体粒子分散体を得た。
前記重合体粒子水分散体280.0質量部、及び塩基性水溶液として水酸化ナトリウム水溶液(濃度10.0質量%)31.4質量部を混合し、25℃で終夜撹拌することにより、部分的に加水分解された重合体粒子(1)が分散した重合体粒子水分散体(1a)を得た。この際、重合体粒子水分散体中のRHMAのモル数に対し、加えた水酸化ナトリウムのモル数の割合は50%であった。また、体積平均粒子径は400nmであった。
【0097】
<製造例2~4>
製造例1において単量体組成物の比率を表1の通り変更したこと以外は、製造例1と同様にして部分的に加水分解された重合体粒子(2)、(3)および(4)が分散した重合体粒子分散体(2a)、(3a)および(4a)をそれぞれ合成した。また重合体粒子(2)、(3)および(4)の体積平均粒子径は255、268および285nmであった。
【0098】
<製造例5>
攪拌機、温度計及び冷却管を備えたステンレス製の反応釜に、脱イオン水45.0質量部を加え、内温を75℃まで昇温し、同温度に保った。滴下ロートAにスチレン(以下「St」と称する)50.4質量部、2-エチルへキシルアクリレート(以下「2EHA」と称する)44.1質量部、ヒドロキシエチルメタクリレート(以下「HEMA」と称する)2.0質量部、アクリル酸(以下「AA」と称する)1.6質量部、スチレンスルホン酸ナトリウム(以下「NaSS」と称する)0.4質量部、トリメチロールプロパントリメタクリレート(以下「TMPTMA」と称する)0.5質量部、ハイテノール08E(有効成分20質量%、第一工業製薬社製)0.40質量部、エレミノールJS-20(有効成分20質量%、三洋化成社製)0.40質量部、及び脱イオン水82.2質量部を投入して、滴下ロート内で滴下用プレエマルションAを調製した。
次に、反応釜内を窒素ガスで置換した後、前記滴下用プレエマルションの内1.87質量部と過硫酸カリウム水溶液(濃度1.24質量%)20質量部を反応釜内に添加して、初期重合反応を行った。続いて、滴下ロートAから滴下用プレエマルションAを180分間滴下した。
滴下終了後、反応釜の内温を80℃に昇温し、同温度で2時間保持して熟成した後、反応溶液を冷却して、重合体粒子(5)が分散した重合体粒子水分散体(5a)を合成した。体積平均粒子径は93nmであった。
【0099】
<製造例6>
攪拌機、温度計及び冷却管を備えたステンレス製の反応釜に、脱イオン水1368.9質量部、及びSR-20(有効成分25.0質量%)1.60質量部を加え、内温を50℃まで昇温し、同温度に保った。滴下ロートAにアクリル酸メチル(以下「MA」と称する)80.0質量部、酢酸ビニル(以下「VAc」と称する)80.0質量部、SR-20(有効成分25.0質量%)6.40質量部、アンモニア水溶液(濃度28質量%)0.18質量部、及び脱イオン水113.4質量部とを投入して、滴下ロートA内で滴下用プレエマルションAを調製した。滴下ロートBに過酸化水素水(濃度1.07質量%)100質量部を投入した。滴下ロートCにL-アスコルビン酸水溶液(濃度1.60質量%)100質量部を投入した。
次に、反応釜内を窒素ガスで置換した後、MA20.0質量部とVAc20.0質量部の混合単量体組成物40.0質量部、過酸化水素水(濃度2.00質量%)20.0質量部、及びL-アスコルビン酸水溶液(濃度1.33質量%)20.0質量部を反応釜内に添加して、初期重合反応を行った。続いて、滴下ロートAから滴下用プレエマルションAを240分間、滴下ロートBから過酸化水素水を300分間、滴下ロートCからL-アスコルビン酸水溶液を300分間滴下した。
滴下終了後、反応釜の内温を50℃に保持し、同温度で1時間保持して熟成した後、反応溶液を冷却して、重合体粒子が分散した重合体粒子分散体を得た。体積平均粒子径は89nmであった。
前記重合体粒子水分散体40.0質量部、及び塩基性水溶液として水酸化ナトリウム水溶液(濃度20.0質量%)7.89質量部を混合し、25℃で終夜撹拌することにより、部分的に加水分解された重合体が溶解した重合体水溶液を得た。この際、重合体粒子水分散体中のMAとVAcの合計のモル数に対し、加えた水酸化ナトリウムのモル数の割合は100%であった。
次に前記部分的に加水分解された重合体が溶解した重合体水溶液をメタノールに投入し、重合体を再沈殿させ、これを乾燥させることにより、重合体(6)を得た。そして前記重合体(6)をイオン交換水に溶解させることで重合体水溶液(6a)を得た。
【0100】
<体積平均粒子径>
重合体粒子をイオン交換水で希釈したものを光散乱粒度分布測定機(スペクトリス社製「Zetasizer Ultra」)を用いて測定して、動的光散乱法により重合体粒子の体積平均粒子径(nm)を求めた。
【0101】
<水分散体の粘度>
バインダーに含まれる重合体が2質量%となるようにイオン交換水で希釈した重合体2質量%の水分散体の粘度を粘度計(東機産業社製「TV-25形粘度計」)を用いて測定した。
【0102】
<二次電池負極用組成物の評価>
[実施例1]
(1-1)電極用スラリーの調製
カルボキシメチルセルロース(ダイセルファインケム社製、商品名「CMCダイセ
ル2200」、以下「CMC」と称する)をイオン交換水に投入し、撹拌脱泡機(シンキー社製、あわとり練太郎ARE-310)を使用して、2000rpmで10分間撹拌
混合することにより、濃度2質量%のCMC水溶液を調製した。
前記で得られたCMC水溶液50部と、負極活物質(1)(昭和電工マテリアルズ社製、黒鉛活物質、「MAGE」)80質量部、負極活物質(2)(信越化学工業社製、シリコン活物質、「KSC-1265」)20質量部、導電助剤(1)(昭和電工社製、「VGCF-H」)2部、導電助剤(2)(デンカ社製、「デンカブラック粉状品」)3部、イオン交換水を所定量添加し、撹拌脱泡機を使用して、2000rpmで27分間撹拌混合した。その後、製造例1で得られた重合体粒子水分散体(1a)(濃度13.0質量%)をバインダー(1b)として23.08質量部と所定量のイオン交換水を加えて混合することで電極用スラリー(負極組成物)を調製した。その際、電極用スラリー粘度が1350±150mPa・sとなるように加えるイオン交換水の量を調整した。前記電極用スラリーの固形分を表1に示す。
【0103】
(1-2)電池評価用の負極の作製
集電体である銅箔(福田金属箔粉工業社製、厚み16μm)に、前記で得られた電極用スラリーを、乾燥後の塗工重量が5.82g/cm2となるようにアプリケーターで塗布し、60℃で10分間熱風乾燥し、次いで80℃で10時間真空乾燥処理を行った。その後、ロールプレス機により密度1.5g/cm3となるまで加圧成形し、負極を得た。
【0104】
(1-3)電池の作製
正極としてリチウム箔(本城金属社製、厚み0.5mm)、前記で得られた負極、及びポリエチレン製セパレーター(厚み25μm)を、それぞれ円形(負極Φ12mm、リチウム箔Φ15mm、セパレーターΦ16mm)に打ち抜いた。CR2032コイン型電池用部品(宝泉社製:ケース(SUS316L製)、キャップ(SUS316L製)、スペーサー(0.5mm厚、SUS316L製)、ウェーブワッシャー(SUS316L製)、ガスケット(ポリプロピレン製))を用いて、以下の手順でコイン型リチウムイオン二次電池をそれぞれ作製した。
まず、ガスケットを装着したキャップ、リチウム箔、セパレーターをこの順で重ねた。次に、エチレンカーボネート(キシダ化学社製):ジメチルカーボネート(キシダ化学社製):フルオロエチレンカーボネート(キシダ化学社製)=2:7:1(体積比)溶液にLiPF6(ステラケミファ社製)を1.0mol/Lの濃度で溶解させて調製した電解液を、セパレーターに含浸させた。そして、負極塗布面がリチウム箔と対向するように、前記で得られた負極を設置し、その上にスペーサー、ウェーブワッシャー、ケースをこの順で重ね、カシメ機(宝泉社製)で封口してコイン型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0105】
(1-4)充放電試験
前記で得られたコイン型リチウムイオン二次電池(設計容量3.73mAh)について、温度25℃の環境下、充放電試験装置(アスカ電子社製)を使用し、容量維持率の測定を行った。0.1Cで0.01Vまで定電流定電圧放電し、0.1C、0.1C、0.2C、1C、2C、0.1Cの順で、1.5Vまで定電流充電し、各充放電時には10分の充放電休止時間を設けて充放電試験を行った。その容量維持率を表1に示す。
【0106】
[実施例2]
製造例1で得られ重合体粒子水分散体(1a)の代わりに、製造例2で得られた重合体水分散体(2a)(濃度13.3%)をバインダー(2b)として22.56質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で評価した。
【0107】
[実施例3]
製造例1で得られた重合体粒子水分散体(1a)の代わりに、製造例3で得られた重合体水分散体(3a)(濃度14.1%)をバインダー(3b)として21.28質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で評価した。
【0108】
[実施例4]
製造例1で得られた重合体粒子水分散体(1a)の代わりに、製造例4で得られた重合体水分散体(4a)(濃度11.5%)をバインダー(4b)として26.08質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で評価した。
【0109】
[比較例1]
製造例1で得られた重合体粒子水分散体(1a)の代わりに、製造例5で得られた重合体水溶液(5a)(濃度41.1%)をバインダー(5b)として7.30質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で評価した。
【0110】
[比較例2]
製造例1で得られた重合体粒子水分散体(1a)の代わりに、製造例6で得られた重合体水溶液(6a)(濃度10.0%)をバインダー(6b)として30.00質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で評価した。
【0111】
【0112】
表1の結果から、本開示のリチウムイオン二次電池負極用組成物は、高いサイクル特性を発現し、さらに高濃度化が実現され生産性にも優れることが明らかとなった。