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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017521
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】脂肪性肝疾患抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/00 20060101AFI20240201BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240201BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
A61K33/00
A61P1/16
A61K47/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120209
(22)【出願日】2022-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】510136312
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立成育医療研究センター
(71)【出願人】
【識別番号】508098958
【氏名又は名称】株式会社アッチェ
(71)【出願人】
【識別番号】522301315
【氏名又は名称】高原 史郎
(71)【出願人】
【識別番号】522302002
【氏名又は名称】市丸 直嗣
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梨井 康
(72)【発明者】
【氏名】南部 景樹
(72)【発明者】
【氏名】高原 史郎
(72)【発明者】
【氏名】市丸 直嗣
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076BB01
4C076CC16
4C076DD25
4C076FF68
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA01
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA52
4C086NA13
4C086ZA75
(57)【要約】
【課題】本発明は、安全で害が少ないと考えられる一方で優れた脂肪性肝疾患抑制作用を示す脂肪性肝疾患抑制剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る脂肪性肝疾患抑制剤は、平均粒子径が1μm以上、100μm以下であり、炭酸カルシウムマグネシウムを含み、且つ水分と接触することにより1gあたり0.1μL以上、100μL以下の水素ガスを発生する水素担持粉末を有効成分として含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が1μm以上、100μm以下であり、炭酸カルシウムマグネシウムを含み、且つ水分と接触することにより1gあたり0.1μL以上、100μL以下の水素ガスを発生する水素担持粉末を有効成分として含むことを特徴とする脂肪性肝疾患抑制剤。
【請求項2】
前記脂肪性肝疾患が非アルコール性脂肪性肝炎である請求項1に記載の脂肪性肝疾患抑制剤。
【請求項3】
前記水素担持粉末が、赤外分光分析において、500cm-1以上、600cm-1以下および900cm-1以上、1000cm-1以下に吸収を有する請求項1に記載の脂肪性肝疾患抑制剤。
【請求項4】
前記水素担持粉末が70質量%以上の炭酸カルシウムマグネシウムを含む請求項1に記載の脂肪性肝疾患抑制剤。
【請求項5】
前記水素担持粉末を接触した水分の酸化還元電位が-400mV以上、-30mV以下である請求項1に記載の脂肪性肝疾患抑制剤。
【請求項6】
経口投与されるものである請求項1~5のいずれかに記載の脂肪性肝疾患抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全で害が少ないと考えられる一方で優れた脂肪性肝疾患抑制作用を示す脂肪性肝疾患抑制剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
肝臓中に脂肪が過度に蓄積する脂肪肝の患者数は増加傾向にある。脂肪肝はかつて良性の疾患と考えられていたが、肝線維化や肝がんに進行し得る非アルコール性脂肪性肝炎(NASH:Non-Alcohol SteatoHepatitis)が知られるようになり、脂肪肝に対する認識が大きく変化した。近年、糖質がコカインよりも中毒を引き起こし易いとの実験結果が公表されている一方で、果糖ブドウ糖液糖が清涼飲料水などに大量に用いられるようになってきており、過栄養性のNASHが大きな問題になっている。しかし、NASHに対する薬剤治療は確立しておらず、食事療法や運動療法に大きく依存しているのが現状である。
【0003】
現在、脂肪肝治療の保険薬として我国で認可されているのはポリエンフォスファチジルコリン製剤(EPL)のみである。EPLの作用機序としては、EPLの摂取により肝臓でのトリグリセリドの輸送や燃焼が促進される結果、脂肪肝の抑制に繋がると考えられている。しかしながらEPLによる薬剤治療は、脂肪肝の原因である原疾患の治療や食事療法、運動療法に加えて行われる補足的な治療方法として認識されている。EPLは1960年代に販売が開始された古典的な薬剤であるにもかかわらず、NASHが問題になってきたのは最近であることからも、EPLの効果が十分でないことが分かる。
【0004】
脂肪肝の治療薬としては、インスリン抵抗性や糖尿病治療用の薬剤が利用されることがある。例えば特許文献1には、脂肪肝の治療薬としてPPARα(ペルオキソーム増殖因子活性化レセプターα;Peroxisome proliferator-activated receptor α)活性化剤が開示されている。ところがこのような薬剤は、糖尿病自体の治療などにも使われる合成医薬品であり副作用も強いと考えられる。例えば、特許文献1にPPARα活性化剤として挙げられているフェノフィブラートには、かえって肝肥大などの副作用が知られている。
【0005】
また、肝臓は沈黙の臓器といわれるように、特に各疾患の初期にはほとんど自覚症状がない。脂肪肝の場合も初期には自覚症状がなく、進行に伴って、疲れ易い、体がだるい、食欲不振といった肝臓疾患の一般的症状があらわれるが、肝臓疾患と自覚することは少なく、風邪などと勘違いして放置することによりさらに悪化させることも多い。よって、安全なものであり、予防的な使用も可能な薬剤が好ましいといえる。
【0006】
ところで、近年、体内の活性酸素が、炎症、アレルギー反応、生活習慣病の原因の一つであると指摘されていることから、還元作用を有する水素を含む水素水が健康食品として販売されている。しかし、20℃、1気圧における水に対する水素の溶解度は僅か1.62ppmであり、効果を十分に発揮できる量の水素を水が含んでいるとは言い難い。それに対して、本発明者らは、優れた水素発生能を有する水素担持粉末を開発している(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-220345号公報
【特許文献2】特許第6337192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、水素を含むことが謳われている健康食品は販売されている。しかし、従来の水素を含む健康食品の摂取により、水素が体内の問題箇所に送達され、還元作用を有効に発揮できるか否かは不明である。
そこで本発明は、安全で害が少ないと考えられる一方で優れた脂肪性肝疾患抑制作用を示す脂肪性肝疾患抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、本発明者らが開発している水素担持粉末が、経口投与により脂肪性肝疾患を有効に抑制できることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0010】
[1] 平均粒子径が1μm以上、100μm以下であり、炭酸カルシウムマグネシウムを含み、且つ水分と接触することにより1gあたり0.1μL以上、100μL以下の水素ガスを発生する水素担持粉末を有効成分として含むことを特徴とする脂肪性肝疾患抑制剤。
[2] 前記脂肪性肝疾患が非アルコール性脂肪性肝炎である前記[1]に記載の脂肪性肝疾患抑制剤。
[3] 前記水素担持粉末が、赤外分光分析において、500cm-1以上、600cm-1以下および900cm-1以上、1000cm-1以下に吸収を有する前記[1]に記載の脂肪性肝疾患抑制剤。
[4] 前記水素担持粉末が70質量%以上の炭酸カルシウムマグネシウムを含む前記[1]に記載の脂肪性肝疾患抑制剤。
[5] 前記水素担持粉末を接触した水分の酸化還元電位が-400mV以上、-30mV以下である前記[1]に記載の脂肪性肝疾患抑制剤。
[6] 経口投与されるものである前記[1]~[5]のいずれかに記載の脂肪性肝疾患抑制剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る脂肪性肝疾患抑制剤は、食品やサプリメントにも配合されている炭酸カルシウムマグネシウムを主成分とする水素担持粉末を有効成分とするものであることから安全性に優れ、毎日の服用も可能である。また、本発明で用いる水素担持粉末は、優れた水素ガス発生能を示すことから、本発明に係る脂肪性肝疾患抑制剤は、極めて優れた脂肪性肝疾患抑制作用を示す。また、本発明者らによる実験的知見によれば、本発明に係る脂肪性肝疾患抑制剤の経口摂取により、脂肪性肝疾患を有効に抑制できることが認められている。従って、本発明に係る脂肪性肝疾患抑制剤は、服用者に苦痛を感じさせることなく、脂肪性肝疾患を効果的に抑制できるものとして、非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、未処置群ラット、対照群ラット、及び本発明に係る水素担持粉末摂取群の体重に対する肝臓重量比を示すグラフである。
図2図2は、未処置群ラット、対照群ラット、及び本発明に係る水素担持粉末摂取群の血清中AST濃度を示すグラフである。
図3図3は、未処置群ラット、対照群ラット、及び本発明に係る水素担持粉末摂取群の血清中総コレステロール濃度を示すグラフである。
図4図4は、未処置群ラット、対照群ラット、及び本発明に係る水素担持粉末摂取群の未処置群に対する肝臓組織中SREBP-1c遺伝子mRNA発現量の相対比を示すグラフである。
図5図5は、未処置群ラット、対照群ラット、及び本発明に係る水素担持粉末摂取群の未処置群に対する肝臓組織中Leptin R遺伝子mRNA発現量の相対比を示すグラフである。
図6図6は、未処置群ラット、対照群ラット、及び本発明に係る水素担持粉末摂取群の未処置群に対する肝臓組織中TNF-α遺伝子mRNA発現量の相対比を示すグラフである。
図7図7は、未処置群ラット、対照群ラット、及び本発明に係る水素担持粉末摂取群の未処置群に対する肝臓組織中CCR2遺伝子mRNA発現量の相対比を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る脂肪性肝疾患抑制剤は、水素担持粉末を有効成分として含む。水素担持粉末の平均粒子径としては、1μm以上、100μm以下が好ましい。当該平均粒子径が100μm以下であれば、水素担持粉末の比表面積は十分に大きく、水素を有効に吸着できると考えられる。また、1μm以上であれば、粉砕のために過剰なエネルギーが必要無い。当該平均粒子径としては、5μm以上がより好ましく、10μm以上がより更に好ましく、また、50μm以下がより好ましく、20μm以下がより更に好ましい。なお、本開示において平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定するものとし、平均粒子径の基準としては、体積基準、重量基準、数基準などがあるが、体積基準が好ましい。
【0014】
水素担持粉末の主成分としては、炭酸カルシウムマグネシウムが好ましい。炭酸カルシウムにおけるカルシウムの一部がマグネシウムに置換されることで、カルシウムとマグネシウムのイオン半径が異なることにより置換後の構造に歪みが生じ、水素担持可能なサイトが増加することによって、マグネシウムを含まない純粋な炭酸カルシウムに比べて水素担持量がより多い粉末が得られると考えられる。
【0015】
炭酸カルシウムマグネシウムにおけるCa:Mg比は、好ましくは30:70~99:1、より好ましくは40:60~98:2であり、更に好ましくは60:40~95:5である。十分量の水素の担持のためにMgは必要であるが、Mg比が低い程、水素担持量は増加する傾向にある。
【0016】
炭酸カルシウムマグネシウムは、例えば、式(1)で表される構造、好ましくは式(2)で表される構造および式(3)で表される構造の少なくとも一方、より好ましくは式(2)で表される構造および式(3)で表される構造の両方を含んでいることが好ましい。
(MgxCay)CO3 ・・・ (1)
[式中、0.01≦x≦0.15、0.85≦y≦0.99であり、x+y=1であり、xとしては、0.02以上、0.14以下が好ましく、yとしては、0.86以上、0.98以下が好ましい。]
【0017】
式(1)は、好ましくは式(2)または式(3)である。
(Mgx2Cay2)CO3 ・・・ (2)
[式中、0.01≦x2≦0.05、0.95≦y2≦0.99であり、x2+y2=1であり、x2としては、0.02以上、0.04以下が好ましく、y2としては、0.96以上、0.98以下が好ましい。]
(Mgx3Cay3)CO3 ・・・ (3)
[式中、0.05<x3≦0.15、0.85≦y3<0.95であり、x3+y3=1であり、x3としては、0.10以上、0.14以下が好ましく、y3としては、0.86以上、0.90以下が好ましい。]
【0018】
水素担持粉末100質量%中、炭酸カルシウムマグネシウムの含有率としては、70質量%以上が好ましく、80質量%以上、85質量%以上または90質量%以上がより好ましく、95質量%以上または98質量%以上がより更に好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0019】
水素担持粉末の組成は、例えば、赤外分光分析(IR)やX線回折(XRD)により確認できる。具体的には、本発明で用いる水素担持粉末は、赤外分光分析において、500cm-1以上、600cm-1以下および900cm-1以上、1000cm-1以下に吸収を有することにより確認することができる。また、本発明で用いる水素担持粉末がカルシウムに加えてマグネシウムも含むことは、XRDにより確認することができる。
【0020】
特に、サンゴ、貝類、真珠、有孔虫およびウミユリよりなる群から選択される少なくとも1種以上に由来する粉末は、炭酸カルシウムと炭酸カルシウムマグネシウムをバランス良く含むため、本発明の原料として最適である。
【0021】
水素担持粉末は、腸溶性高分子によりコーティングされていたり、腸溶性高分子により顆粒化されたものであってもよい。腸溶性高分子とは、胃中の強酸性(pH1~2)では溶解せず、小腸における弱酸性から中性域(pH5~7)で溶解する高分子をいう。本発明では、水素は主に腸管から吸収されて肝臓に作用すると考えられるため、腸溶性高分子により胃における水素担持粉末からの水素の放出を抑制し、且つ小腸における水素担持粉末からの水素の放出を促進することができる。
【0022】
腸溶性高分子としては、特に制限されないが、例えば、ヒプロメロースフタル酸エステル、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、以下の(メタ)アクリレート単位(I)と、アルキル(メタ)アクリレート単位(II)を含む(メタ)アクリレート共重合体が挙げられる。
【0023】
【化1】
[式中、R1~R3は、独立して、HまたはC1-6アルキル基を示す。]
【0024】
「C1-6アルキル基」は、炭素数1以上、6以下の直鎖状または分枝鎖状の一価飽和脂肪族炭化水素基をいう。例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル等である。R1として好ましくはC1-4アルキル基であり、より好ましくはC1-2アルキル基であり、より更に好ましくはメチルである。R2として、好ましくはHまたはC1-4アルキル基であり、より好ましくはHまたはC1-2アルキル基であり、より更に好ましくはHまたはメチルである。R3として好ましくはC1-4アルキル基であり、より好ましくはC1-2アルキル基である。
【0025】
(メタ)アクリレート共重合体は、アルキル(メタ)アクリレート単位(II)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。当該数としては、5種以下が好ましく、3種以下がより好ましく、2種または1種がより更に好ましい。また、(メタ)アクリレート単位(I)とアルキル(メタ)アクリレート単位(II)との比としては、例えば、(メタ)アクリレート単位(I)に対するアルキル(メタ)アクリレート単位(II)のモル比を0.5以上、1.5以下に調整することが好ましい。当該モル比としては、0.8以上が好ましく、0.9以上がより好ましく、また、1.2以下が好ましく、1.1以下がより更に好ましい。
【0026】
腸溶性高分子による水素担持粉末のコーティングや顆粒化は、常法により行うことができる。例えば、造粒乾燥機中、水素担持粉末を流動させつつ、腸溶性高分子の溶液または分散液を噴霧して乾燥することにより、水素担持粉末を腸溶性高分子によりコーティングしたり顆粒化することができる。
【0027】
本発明で用いる水素担持粉末は、優れた水素発生能を有する。具体的には、密閉容器に水と共に水素担持粉末を入れ、35℃で24時間振盪した場合における密閉容器の気相中における水素濃度から下記式により求められる、水素担持粉末1gあたりの水素発生量が、0.1μL以上、100μL以下である。腸溶性高分子でコーティングまたは顆粒化された水素担持粉末の水素発生能を試験する場合には、水の代わりに日本薬局方の溶出試験第2液(pH6.8)を用いてもよい。当該水素発生量としては、0.2μL以上がより好ましく、0.3μL以上がより更に好ましく、また、50μL以下がより好ましい。
水素担持粉末1gあたりの水素ガスの発生量(μL/g)=A×25×10-3/3
[式中、Aは密閉容器の気相中の水素ガス濃度(ppm)を示す。]
【0028】
本発明で用いる水素担持粉末が水分と接触した場合、その水分の酸化還元電位としては、-400mV以上、-30mV以下が好ましい。当該酸化還元電位がこの範囲にあれば、水素担持粉末により還元作用が有効に発揮され、炎症などが抑制されると考えられる。当該酸化還元電位としては、-350mV以上がより好ましく、-300mV以上がより更に好ましく、また、-70mV以下または-100mV以下がより好ましく、-150mV以下がより更に好ましい。
【0029】
上記の特性を有する水素担持粉末は、例えば、温度が450℃超、900℃以下、水素濃度が5vol%以上、100vol%以下、且つ圧力が0.1MPa以上、1.5MPa以下であるガス雰囲気下において、炭酸カルシウムマグネシウム含有粉末を熱処理して水素担持粉末前駆体を製造する高温処理工程、及び、温度が150℃以上、400℃以下、水素濃度が5vol%以上、100vol%以下、且つ圧力が0.1MPa以上、1.5MPa以下であるガス雰囲気下において、水素担持粉末前駆体を熱処理して水素担持粉末を製造する低温処理工程を含む方法により製造することができる。
【0030】
高温処理工程における温度は、好ましくは500℃以上、より好ましくは550℃以上、更に好ましくは600℃以上であり、酸化還元電位を下げるためには、好ましくは680℃以上であり、好ましくは880℃以下、より好ましくは860℃以下であり、水分との接触による水素ガスの発生量を増やすためには、好ましくは650℃以下である。前記温度が高くなる程、酸化還元電位は下がる傾向にあり、一方で前記温度が低くなる程、水素ガスの発生量は増える傾向にある。
【0031】
低温処理工程における温度は、好ましくは160℃以上、より好ましくは180℃以上、更に好ましくは200℃以上であり、好ましくは380℃以下、より好ましくは360℃以下であり、水分との接触よる水素ガスの発生量を増やすためには、好ましくは250℃以下である。前記温度が高くなる程、酸化還元電位は下がる傾向にあり、一方で前記温度が低くなる程、水素ガスの発生量は増える傾向にある。
【0032】
高温処理工程および低温処理工程は水素ガスを含むガス雰囲気下で実施され、前記ガス雰囲気中、高温処理工程および低温処理工程における水素濃度は、それぞれ、好ましくは20vol%以上、より好ましくは50vol%以上、更に好ましくは80vol%以上、より更に好ましくは90vol%以上であり、特に好ましくは100vol%である。前記ガス雰囲気中、水素ガス以外の残部としては、窒素、アルゴン、二酸化炭素などの不活性ガスが好ましい。
【0033】
高温処理工程および低温処理工程における圧力は、それぞれ、好ましくは0.2MPa以上、より好ましくは0.3MPa以上、更に好ましくは0.4MPa以上であり、好ましくは1.2MPa以下、より好ましくは1.1MPa以下、更に好ましくは1.0MPa以下である。前記圧力が高い程、製造される水素担持粉末の性能が良好となる。
【0034】
本発明では、高温処理工程を、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは0.75時間以上、更に好ましくは1時間以上、好ましくは2時間以下、より好ましくは1.75時間以下、更に好ましくは1.5時間以下行うことが好ましい。
【0035】
また低温処理工程を、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上、更に好ましくは3時間以上、好ましくは6時間以下、より好ましくは5.5時間以下、更に好ましくは5時間以下行うことが好ましい。
【0036】
前記高温処理工程と前記低温処理工程を十分な時間実施することにより、水分との接触により所望量の水素ガスを発生し、且つ、その水分の還元力の高い水素担持粉末が製造される。
【0037】
高温処理工程および低温処理工程のいずれにおいても、水素濃度の調整が容易なことから、熱処理は水素濃度が5vol%以上、100vol%以下にコントロールされたガスを流通しながら行ってもよい。
【0038】
得られた水素担持粉末の粒径は、粉砕および/または分級により適宜調整可能である。
【0039】
本発明に係る脂肪性肝疾患抑制剤は、非常に優れた脂肪性肝疾患抑制作用を示す。具体的には、脂肪性肝疾患による肝臓の肥大を抑制し、肝機能を改善させる。おそらく、有効成分である水素担持粉末が優れた水素発生能を有し、還元作用を示すことから、例えば活性酸素を原因とする炎症などを抑制できると考えられる。その一方で、有効成分である水素担持粉末は、食品やサプリメントにも配合されている炭酸カルシウムマグネシウムを主成分とするため、安全性が非常に高く、恒常的な使用も可能であると考えられる。よって、例えば、脂肪性肝疾患の治療のために一日あたり複数回の服用も可能であり、また、長期にわたる脂肪性肝疾患の予防などを目的として恒常的な服用も可能である。
【0040】
脂肪性肝疾患には、脂肪肝と脂肪性肝炎が含まれる。脂肪肝とは、肝細胞に中性脂肪が過剰にたまった状態のことをいい、脂肪性肝炎は、脂肪肝に炎症と線維化が起こる疾患であり、いずれも自覚症状は無いか或いは低く、肝機能を示す数値の悪化により明らかになる場合が多く、脂肪肝から脂肪性肝炎へ、更には肝硬変や肝臓癌に進行し得る。脂肪性肝疾患は、一般的に、一日あたりビール中瓶を2本以上または日本酒を2合以上の飲酒を原因とするアルコール性脂肪性肝疾患と、一日あたりビール400mL未満または日本酒1号未満でなる非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)に分類され、更に非アルコール性脂肪性肝疾患には、軽度の単純性脂肪肝と炎症により、肝臓に強い機能性障害を起こす非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)が含まれる。本発明者らの実験的知見によれば、本発明に係る脂肪性肝疾患抑制剤は、非アルコール性脂肪性肝炎のモデルラットの症状を改善する作用を有する。
【0041】
本発明に係る脂肪性肝疾患抑制剤の使用量は、服用者の状態、年齢、性別などに応じて適宜調整すべきであり、特に制限されない。例えば、本発明に係る脂肪性肝疾患抑制剤の使用量は、脂肪性肝疾患抑制作用が認められる範囲で適宜調整すればよいが、例えばヒトに対して、水素担持粉末の摂取量が1日あたり100mg以上、5g以下程度となるように、1日当たり1回以上、5回以下程度投与することができる。本発明に係る脂肪性肝疾患抑制剤を投与すべき対象者としては、ヒトの他、愛玩動物などヒト以外の動物が考えられる。
【0042】
本発明に係る脂肪性肝疾患抑制剤の剤形は特に制限されないが、例えば、錠剤、カプセル剤、液剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、エアゾール剤などの内服剤とすることができる。本発明に係る脂肪性肝疾患抑制剤は、剤形に応じて様々な添加成分を配合してもよい。例えば、基材、賦形剤、着色剤、滑沢剤、矯味剤、乳化剤、増粘剤、湿潤剤、安定剤、保存剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、界面活性剤、抗酸化剤、佐薬、緩衝剤、pH調整剤、甘味料、香料などを添加することができる。また、これら添加剤の配合量は、本発明の作用効果を妨げない様な量である限り、必要に応じて適宜設定することができる。さらに、他の薬効成分を添加してもよい。好適には経口製剤とする。また、本発明に係る脂肪性肝疾患抑制剤は、水素担持粉末を含む腸溶性カプセル剤であってもよい。
【0043】
本発明の脂肪性肝疾患抑制剤は、食物の過剰摂取などを原因とする脂肪性肝疾患を効果的に抑制することができる。また、例えば全肝細胞に対する脂肪化細胞の割合がいったん高まっても、その割合を低減できる可能性もある。即ち、本発明に係る脂肪性肝疾患抑制剤は、恒常的な摂取により脂肪性肝疾患の発生を抑制する脂肪性肝疾患予防剤に加え、いったん生じた脂肪性肝疾患が正常な肝臓となる脂肪性肝疾患治療剤も含まれる概念である。よって、本発明の脂肪性肝疾患抑制剤は、脂肪性肝疾患の予防効果を有する健康食品として、恒常的に継続して使用することもできる。
【実施例0044】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0045】
実施例1
(1)処置
6月齢の雄性F344系統ラット54匹を、未処置(Naive)群12匹、対照(Control)群20匹、水素担持粉末投与群22匹に任意に分け、対照群と水素担持粉末投与群は、実験開始の2日前から断食させた。次いで、対照群と水素担持粉末投与群には、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の症状に似た症状をつくり出すことのできるメチオニン/コリン無添加飼料(日本クレア社製)を3日間自由摂取させ、次の3日間は通常飼料を自由摂取させた。水素担持粉末投与群には、メチオニン/コリン無添加飼料と通常飼料に加えて、水素担持粉末(アッチェ社製)を精製水に分散させた懸濁液を、300mg/kg体重の水素担持粉末の量で、ゾンデを使って1日一回、6日間にわたって胃内投与した。未処置群には、実験期間を通じて通常飼料を自由摂取させた。
実験開始から3日目に、未処置群12匹と、対照群から10匹、水素担持粉末投与群から11匹を任意に選択し、イソフルランにより安楽死させ、また、実験開始から7日目に残りのラットをイソフルランにより安楽死させ、体重を測定し、肝臓を摘出して重量を測定し、また血液試料を採取し、血清を分離した。
【0046】
(2)肝臓重量/体重比
図1に、各群の肝臓重量/体重比を示す。以下の図中、「*」はStudent tテストにおいてp<0.05で有意差が認められたことを示し、「**」はp<0.01で有意差が認められたことを示し、「***」はp<0.001で有意差が認められたことを示し、「****」はp<0.0001で有意差が認められたことを示し、「D3」および「D7」はそれぞれ実験開始から3日目および7日目のマウスであることを示し、「H2」は水素担持粉末投与群マウスを示す。
図1に示される結果の通り、未処置群に対して、メチオニン/コリン無添加飼料を投与した対照群では体重に対する肝臓重量比が有意に増加したが、本発明に係る水素担持粉末を摂取した群では、対照群に対して体重に対する肝臓重量の比が有意に低減され、肝臓の肥大が有意に抑制されたことが示された。
【0047】
(3)AST
各群の血清中AST(アスパレート・アミノトランスフェラーゼ)濃度を図2に示す。
図2に示される結果の通り、未処置群に対して、メチオニン/コリン無添加飼料を投与した対照群では血清中AST濃度が有意に高くなった。その理由としては、肝細胞が破壊されて細胞中のASTが血中に漏出したことによると考えられる。しかし、本発明に係る水素担持粉末を摂取した群では、対照群に対して血清中AST濃度が有意に低減され、肝細胞の破壊が有意に抑制されたことが示された。
【0048】
(4)TC
各群の血清中TC(総コレステロール)濃度を図3に示す。
図3に示される結果の通り、未処置群に対して、メチオニン/コリン無添加飼料を投与した対照群では血清中TC濃度が有意に高くなった。その理由としては、メチオニン/コリン無添加飼料により肝機能に乱れが生じて肝臓における代謝が正常に行われなくなったことによると考えられる。しかし、本発明に係る水素担持粉末を摂取した群では、対照群に対して血清中TC濃度が有意に低減され、肝機能が正常に近くなったことが示された。
【0049】
(5)SREBP-1c
SREBP-1cは肝臓において脂肪酸やトリグリセリドの合成を支配する転写因子であり、SREBP-1cの発現上昇や活性化により、その応答遺伝子である脂肪酸やトリグリセリドの合成酵素群が発現し、摂取エネルギーが脂肪として蓄えられる。インスリン抵抗性モデル動物において、肝臓のSREBP-1cの活性化が報告されている。
図4に、未処置群に対する肝臓組織中SREBP-1c遺伝子mRNA発現量の相対比を示す。
図4に示される結果の通り、メチオニン/コリン無添加飼料に続く通常飼料の摂取により、対照群ではSREBP-1cの発現が上昇する傾向が認められたが、本発明に係る水素担持粉末を摂取した群では対照群に対してそれが有意に抑制されている。よって、本発明に係る水素担持粉末により、脂肪の蓄積などを抑制できると考えられる。
【0050】
(6)Leptin R
肝臓中のレプチン受容体(Leptin R)は、SREBP-1cと同様に脂肪の蓄積や脂肪性肝疾患に関与する。図5に、未処置群に対する肝臓組織中Leptin R遺伝子mRNA発現量の相対比を示す。
図5に示される結果の通り、メチオニン/コリン無添加飼料の摂取により、対照群では肝臓におけるレプチン受容体遺伝子の発現が有意に上昇したが、本発明に係る水素担持粉末を摂取した群では対照群に対してそれが有意に抑制されている。よって、本発明に係る水素担持粉末により、脂肪の蓄積や脂肪性肝疾患の進行などを抑制できると考えられる。
【0051】
(7)TNF-α
図6に、未処置群に対する肝臓組織中TNF-α遺伝子mRNA発現量の相対比を示す。
図6に示される結果の通り、メチオニン/コリン無添加飼料に続く通常飼料の摂取により、対照群では血中TNF-α濃度が有意に上昇したが、本発明に係る水素担持粉末を摂取した群のTNF-α濃度は対照群に比べて有意に低減されていた。TNF-αは炎症に関与することから、水素担持粉末により肝炎が抑制された可能性が考えられる。
【0052】
(8)CCR2
C-Cケモカイン受容体2(CCR2)とC-Cケモカインリガンド2がマクロファージの肝臓への浸潤に関与しており、浸潤したマクロファージがTNF-αの産生やTh1細胞の誘導による病態の形成に重要な役割を果たし、また、肝炎患者の血液中にCCR2やCCR5が増加することが知られている。
図7に、未処置群に対する肝臓組織中CCR2遺伝子mRNA発現量の相対比を示す。
図7に示される結果の通り、メチオニン/コリン無添加飼料に続く通常飼料の摂取により、対照群では血中CCR2濃度が有意に上昇したが、本発明に係る水素担持粉末を摂取した群のCCR2濃度は対照群に比べて有意に低減されていた。CCR2は肝炎などに関与することから、水素担持粉末により肝炎が抑制された可能性が考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7