(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175237
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】樹脂部材
(51)【国際特許分類】
C23C 24/04 20060101AFI20241211BHJP
B01J 35/39 20240101ALI20241211BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20241211BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
C23C24/04
B01J35/02 J
B32B15/08
C23C28/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092850
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】伊澤 佳典
(72)【発明者】
【氏名】小瀬村 透
【テーマコード(参考)】
4F100
4G169
4K044
【Fターム(参考)】
4F100AA21
4F100AA21C
4F100AB01
4F100AB01B
4F100AB01C
4F100AB17
4F100AB17B
4F100AB17C
4F100AB18
4F100AB18C
4F100AK07
4F100AK07A
4F100AR00B
4F100AR00C
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA07
4F100DE01
4F100DE01C
4F100EH71
4F100EH71B
4F100GB31
4F100GB41
4F100JK12
4F100JK15
4F100JN02
4F100JN02B
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA22A
4G169BA22B
4G169BA48A
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BC31B
4G169BC35B
4G169BC72B
4G169CA07
4G169CA10
4G169CA17
4G169DA05
4G169EA08
4G169EC22X
4G169EC22Y
4G169EC27
4G169EC28
4G169ED04
4G169EE01
4G169FA03
4G169FB80
4G169HA07
4G169HA08
4G169HB02
4G169HC15
4G169HC23
4G169HD12
4G169HD23
4G169HD24
4G169HE06
4G169HE07
4K044AA16
4K044BA02
4K044BA06
4K044BA08
4K044BA10
4K044BB03
4K044BC00
4K044CA15
4K044CA23
4K044CA27
4K044CA29
(57)【要約】
【課題】光触媒効果が高く、かつ樹脂基材の劣化を防止できる、光触媒被膜を備えた樹脂部材を提供する。
【解決手段】本発明の樹脂部材は、樹脂基材表面に光触媒被膜を備える。
そして、上記光触媒被膜が、上記樹脂基材側から順に遮蔽層と活性層とを有し、
上記活性層は、アナターゼ型酸化チタン粒子と金属粒子とが混在した構造であり、上記遮蔽層が、金属材料から成ることとしたため、高い光触媒効果と樹脂基材の劣化防止とを両立させた、光触媒被膜を備えた樹脂部材を提供することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材表面に光触媒被膜を備える樹脂部材であって、
上記光触媒被膜が、上記樹脂基材側から順に遮蔽層と活性層とを有し、
上記活性層は、アナターゼ型酸化チタン粒子と金属粒子とが混在した構造であり、
上記遮蔽層が、金属材料から成ることを特徴とする樹脂部材。
【請求項2】
上記金属粒子のビッカース硬度が、700(Hv)以下であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂部材。
【請求項3】
上記遮蔽層と活性層とが、少なくともアンカー効果により接合していることを特徴とする請求項1に記載の樹脂部材。
【請求項4】
上記遮蔽層が、粒子積層構造であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂部材。
【請求項5】
上記遮蔽層が、メッキ層であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂部材。
【請求項6】
表面粗さ(Ra)が、25μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂部材。
【請求項7】
自動車用樹脂部品、輸送機器用樹脂部品、電子機器用樹脂部品、家電用樹脂部品、事務用樹脂部品、住宅用樹脂部品及び医療衛生用樹脂部品から成る群から選ばれた樹脂部品を構成していることを特徴とする請求項1~6のいずれか1つの項に記載の樹脂部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂部材に係り、更に詳細には、セルフクリーニング性を有する樹脂部材に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンは、光エネルギーによって酸化作用を発現する光触媒効果を有し、汚染物質や臭い物質などの有機物を酸化分解することができ、加えて、抗菌・抗ウイルス効果をも示すので、部材の表面を被覆することで、部材の表面をきれいに保つセルフクリーニング性を付与することができる。
【0003】
この酸化チタンの光触媒効果は、結晶構造がアナターゼ型の方がルチル型よりも高く、上記アナターゼ型の酸化チタンは、700℃を超える温度でルチル型に転移し、光触媒効果が低下してしまう。
【0004】
特許文献1には、酸化チタン粒子を造粒により大粒径化することで、被膜形成時の溶射熱による酸化チタンのアナターゼ型からルチル型への転移を抑制でき、アナターゼ型酸化チタンの残存比率を向上できる旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の光触媒被覆材にあっては、酸化チタンのルチル型への転移抑制が充分でなく、光触媒効果が低いのに加えて、酸化チタンの酸化作用よって樹脂基材が劣化しまう。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、光触媒効果が高く、かつ樹脂基材の劣化を防止できる、光触媒被膜を備えた樹脂部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、光触媒被膜の樹脂基材側に、金属材料から成る遮蔽層を設けることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の樹脂部材は、樹脂基材表面に光触媒被膜を備える。
そして、上記光触媒被膜が、上記樹脂基材側から順に遮蔽層と活性層とを有し、
上記活性層は、アナターゼ型酸化チタン粒子と金属粒子とが混在した構造であり、上記遮蔽層が、金属材料から成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光触媒被膜の樹脂基材側に、金属材料から成る遮蔽層を設けることとしたため、高い光触媒効果と樹脂基材の劣化防止とを両立させた、光触媒被膜を備えた樹脂部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の樹脂部材の構造の一例を示す断面図である。
【
図2】本発明の樹脂部材の構造の他の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の樹脂部材について詳細に説明する。
本発明の樹脂部材は、樹脂基材表面に光触媒被膜を備え、この光触媒被膜は、
図1に示すように、樹脂基材側から順に、金属材料から成る遮蔽層と、アナターゼ型酸化チタン粒子と金属粒子とが混在した構造の活性層とを有する。
【0013】
本発明の光触媒被膜は、樹脂基材側に金属材料から成る遮蔽層を有し、光触媒被膜と樹脂基材との界面に酸化チタン粒子が存在しない。加えて、光触媒被膜に入射した光は、上記遮蔽層で遮蔽され、樹脂基材まで透過することがないので、上記酸化チタン粒子の酸化作用による樹脂基材の劣化を防止できる。
【0014】
また、上記活性層は、アナターゼ型酸化チタン粒子と金属粒子とが混在した構造をしており、光触媒効果が高い。
【0015】
上記活性層は、アナターゼ型酸化チタン粒子と金属粒子を含有する原料粒子をコールドスプレーすることで作製される。
【0016】
上記コールドスプレー法は、原料粒子を溶融またはガス化させることなく非溶融状態で、作動ガスの超音速流によって固相状態の原料粒子を基材に衝突させて被膜を形成する方法である。
【0017】
このコールドスプレー法によれば、活性層を低温下で成膜することができ、他の溶射法のように、アナターゼ型酸化チタン粒子をその転移温度以上に加熱する必要がないため、酸化チタン粒子がアナターゼ型からルチル型に転移することが防止され、高い光触媒効果を得ることができる。
【0018】
また、活性層中の金属粒子は、活性層を形成するバインダーとしての役割を担っており、活性層が金属粒子を含有することで上記酸化チタン粒子を保持することができ、密着強度の高い活性層を形成できる。
【0019】
つまり、上記金属粒子は、延性・展性を有し、塑性変形可能であるので、コールドスプレー法によって遮蔽層に吹き付けられた金属粒子は、遮蔽層中にめり込み、塑性変形して密着し、遮蔽層との界面に不規則な凹凸を形成し、アンカー効果により機械的に接合する。
【0020】
この凹凸内に入り込み遮蔽層と密着した金属粒子は、遮蔽層と接合するだけでなく、後から衝突した酸化チタン粒子によっても塑性変形し、該酸化チタン粒子を受け止めて保持するので跳ね返りを抑制することができる。
【0021】
このようなコールドスプレー法で形成した活性層は、金属粒子同士や金属粒子と遮蔽層とが、衝突により塑性変形してアンカー効果だけでなく冶金的にも接合する。また、酸化チタン粒子は、金属間化合物の形成や拡散など冶金的な接合によらず、アンカー効果により金属粒子や遮蔽層基材と機械的に接合するので密着強度が向上する。
【0022】
上記金属粒子のビッカース硬度は、700(Hv)以下であることが好ましく、さらに500(Hv)以下であることが好ましく、400(Hv)以下であることがより好ましい。
【0023】
金属粒子のビッカース硬度が700(Hv)以下であることで、衝突によって金属粒子が大きく塑性変形し被膜強度を向上させることができる。
【0024】
また、上記活性層中の金属粒子の含有量(面積%)は、10%~50%であることが好ましく、10%~40%であることがより好ましい。
【0025】
活性層中の金属粒子の含有量が10面積%以上であることで、密着強度が高い活性層を形成することができ、50面積%以下であることで、アナターゼ型酸化チタン粒子の含有量が増加して高い光触媒効果を得ることができる。
【0026】
上記金属粒子としては、金属単体や合金の粒子を使用することができる。
上記金属単体としては、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、銀(Ag)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)を挙げることができる。
【0027】
また、上記合金としては、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、銀(Ag)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)から成る群から選ばれた1種の金属を50質量%以上含有する合金を挙げることができる。
【0028】
中でも、銅や銀は、殺菌作用を有するので、銅や銀の単体やこれらを50質量%以上含有する合金を好ましく使用することができる。
【0029】
また、意匠性の観点からは、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、銀(Ag)の単体を用いることで、光触媒被膜に光沢や艶を付与することができ、鉄(Fe)やチタン(Ti)の単体を用いることで、艶消しの光触媒被膜を形成することができる。
【0030】
さらに、上記合金、例えば、Cu-ZnやCu-Ni-Znは、その成分比を変えることで光触媒被膜の硬さや耐久性を向上できるだけでなく、光触媒被膜の色を変えることも可能である。
【0031】
加えて、表面粗さ(Ra)を、25μm以下にすることで触感を向上させることができ、表面粗さ(Ra)が5~25μmの範囲であればシボ感による高級感を演出でき、表面粗さ(Ra)を5μm未満にすることで金属光沢を向上させることができる。
【0032】
上記金属粒子の平均粒径は、10~50μmであることが好ましく、20~40μmがより好ましい。
これにより、遮蔽性が向上すると共に、コールドスプレー時の運動の運動エネルギーが大きくなって被膜形成効率を向上させることができる。
また、光触媒被膜の厚さが100μm程度である場合、金属粒子の粒径が50μm超えると研磨研削時に金属粒子が脱落し易くなり、加えて、金属粒子が大きくなるため光触媒被膜表面の酸化チタン粒子の均一分散性が低下してしまう。
【0033】
上記酸化チタン粒子としては、平均粒径が0.01μm~2μmのアナターゼ型酸化チタン粒子を使用することができる。
【0034】
また、粒子中に銅を担持したアナターゼ型酸化チタン粒子は、紫外光でなく可視光によっても光触媒効果を発現するため、紫外光の少ない屋内においてもセルフクリーニング性を付与することができるため好ましく使用でできる。
【0035】
このような酸化チタン粒子としては、例えば、テイカ製のTKP-103などを挙げることができる。
【0036】
上記遮蔽層は、コールドスプレー法や無電解メッキにより作製することができ、遮蔽層を構成する金属材料としては、上記活性層の金属粒子と同様の金属単体や合金を使用できる。
【0037】
コールドスプレー法で作製した遮蔽層は、
図1に示すように、複数の金属粒子が積み重なった粒子積層構造を形成し、アンカー効果により樹脂基材に密着するので、被膜強度を向上させることができる。
【0038】
コールドスプレー法で遮蔽層を形成する場合、本発明においては、樹脂基材に遮蔽層を形成するので、遮蔽層を構成する原料粒子を噴射するノズルと樹脂基材との間隔を拡げて、作動ガスの温度を樹脂基材の耐熱温度未満に低下させる。
【0039】
具体的には、500~600℃で噴射した作動ガスを、100~150℃まで低下させて樹脂基材に原料粒子を衝突させる。これにより、作動ガスによる樹脂基材の変形や劣化を防止することができる。
【0040】
上記作動ガスは、ノズルから噴射されることで膨張して温度が低下する。ノズル樹脂基材との間隔が近すぎると十分に作動ガスの温度が下がらず樹脂基材が溶けてしまい、逆に遠すぎると作動ガスが冷えすぎるだけでなく、原料粒子の速度が低下して樹脂基材との付着性が低下するので、ノズルと樹脂基材間の距離は150mm程度であることが好ましい。
【0041】
コールドスプレー法で遮蔽層を形成すれば、原料粒子を変えるだけで、上記遮蔽層と上記活性層とを連続して形成できるので、作業工程を減らした光触媒被膜の形成が可能である。
【0042】
上記樹脂基材を構成する樹脂としては、特に制限はなく、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれも使用することができるが、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0043】
遮蔽層形成の際、遮蔽層を構成する原料粒子の運動エネルギーが衝突によって熱エネルギーに変換され、上記原料粒子が衝突した部位の熱可塑性樹脂が局所的に溶融して衝突した原料粒子と溶着するので、上記アンカー効果による接合と相俟って樹脂基材と光触媒被膜との接合強度を向上させることができる。
【0044】
上記無電解メッキは、パラジウム(Pd)触媒を核とする化学反応を利用したメッキ法であり、広い範囲に薄く緻密な層を形成できるので、光触媒被膜の形成面積が大きい大型の樹脂部材を安価に作製することが可能である。
【0045】
本発明の樹脂部材は、セルフクリーニング性を有するので、皮脂汚れなどが付着し易いハンドルやドアの取っ手などの自動車用樹脂部品の他、輸送機器用樹脂部品、電子機器用樹脂部品、家電用樹脂部品、事務用樹脂部品、住宅用樹脂部品、医療衛生用樹脂部品などに好ましく使用できる。
【実施例0046】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0047】
[実施例1]
銅粒子(福田金属箔粉工業製Cu-HWQ-350)を、下記条件のコールドスプレー法によりポリプロピレン樹脂基材の表面に吹き付け、遮蔽層を形成した。
続けて、Cu-Zn粒子(福田金属箔粉工業製Bra-At-350)粒子とアナターゼ型酸化チタン粒子(テイカ製JA-1)とを質量比4:1で混合した原料粒子を、同条件で上記遮蔽層の表面に吹き付けて活性層を形成し、光触媒被膜の表面をブラシで研削して
図1に示す構造の樹脂部材を作製した。
コールドスプレー条件
装置:PCS-1000(プラズマ技研工業製)
作動ガス : N
2ガス、噴射圧3MPa、噴射温度600℃
ノズル~基材間距離 : 150mm
(樹脂基材に衝突時の原料粒子の温度100℃、原料粒子の衝突速度300m/s)
【0048】
[実施例2]
ポリプロピレン樹脂基材の表面の表面をエッチング処理して粗面化し、キャタリスト所処理により表面にパラジウム触媒を埋め込んだ。
このポリプロピレン樹脂基材を無電解メッキ処理により銅をメッキして遮蔽層を形成する他は、実施例1と同様にして光触媒被膜を形成し、表面をブラシで研削して
図2に示す構造の樹脂部材を作製した。
【0049】
実施例1,2で作製した樹脂部材の断面をエネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)で観察し、光触媒被膜の元素分析を行った結果、樹脂基材の表面が、銅(Cu)で形成された遮蔽層よって完全に遮蔽されており、酸化チタンによる樹脂基材の劣化を防止できることが確認された。