(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175251
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】質量分析装置及び質量分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20241211BHJP
H01J 49/16 20060101ALI20241211BHJP
H01J 49/42 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
G01N27/62 D
H01J49/16 400
H01J49/42 400
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092879
(22)【出願日】2023-06-06
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.MATLAB
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北村 洸
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA04
2G041FA12
2G041LA01
(57)【要約】
【課題】ケミカルノイズをより的確に除去して質の高いマススペクトルを作成する。
【解決手段】本発明に係る質量分析装置の一態様は、一つのサンプルに対し所定のm/z範囲に亘る質量分析を複数回繰り返し実行し、複数組のプロファイルデータを取得する測定部(1)と、測定部により得られた複数組のプロファイルデータを積算又は平均化して積算データを取得する積算部(24)と、積算部による積算対象であるプロファイルデータについて、m/z値毎に又は所定の幅のm/z範囲毎に信号強度が所定のレベルであるか否かを判定し、該所定のレベルである総数を反映した頻度情報をm/z値毎に又はm/z範囲毎に求める頻度情報収集部(22、23)と、頻度情報に基いて、積算データにおけるm/z値毎の又はm/z範囲毎の信号強度を調整してマススペクトルデータを求める強度調整部(25)と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つのサンプルに対し所定の質量電荷比範囲に亘る質量分析を複数回繰り返し実行し、複数組のプロファイルデータを取得する測定部と、
前記測定部により得られた複数組のプロファイルデータを積算又は平均化して積算データを取得する積算部と、
前記積算部による積算対象であるプロファイルデータについて、質量電荷比値毎に又は所定の幅の質量電荷比範囲毎に信号強度が所定のレベルであるか否かを判定し、該所定のレベルである総数を反映した頻度情報を質量電荷比値毎に又は質量電荷比範囲毎に求める頻度情報収集部と、
前記頻度情報に基いて、前記積算データにおける質量電荷比値毎の又は質量電荷比範囲毎の信号強度を調整してマススペクトルデータを求める強度調整部と、
を備える質量分析装置。
【請求項2】
前記頻度情報収集部は、プロファイルデータに対し質量電荷比値毎に又は所定の幅の質量電荷比範囲毎に信号強度と所定値の大小比較を行うことで、プロファイルデータの信号強度が所定のレベルであるか否か判断する、請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項3】
前記頻度情報収集部は、プロファイルデータ又は積算データに基いて、それらデータにより形成されるスペクトル波形のベースラインを推定するベースライン推定部を含み、該ベースライン上の値又は該値に一定値を加えた値を前記所定のレベルとする、請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項4】
前記強度調整部は、発生頻度が低くなるに従って単調に減少する重み付け係数を信号強度に乗じることで信号強度を調整する、請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項5】
前記強度調整部は、発生頻度が所定の閾値以下である質量電荷比値又は質量電荷比範囲における信号強度を相対的に小さい任意の値に置き換える、請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項6】
一つのサンプルに対して所定の質量電荷比範囲に亘る質量分析を複数回繰り返し行うことで複数組のプロファイルデータを取得する測定ステップと、
前記測定ステップにおいて得られた複数組のプロファイルデータを積算又は平均化して積算データを取得する積算ステップと、
前記積算ステップにおける積算対象のプロファイルデータについて、質量電荷比値毎に又は所定の幅の質量電荷比範囲毎に信号強度が所定の閾値を超えているか否かを判定し、該所定の閾値を超えている数を反映した頻度情報を求める頻度情報収集ステップと、
前記頻度情報に基いて、前記積算データにおける質量電荷比値毎の又は質量電荷比範囲毎の信号強度を調整してマススペクトルデータを求める強度調整ステップと、
を有する質量分析方法。
【請求項7】
前記頻度情報収集ステップでは、プロファイルデータに対し質量電荷比値毎に又は所定の幅の質量電荷比範囲毎に信号強度と所定値の大小比較を行うことで、プロファイルデータの信号強度が所定のレベルであるか否か判断する、請求項6に記載の質量分析方法。
【請求項8】
前記頻度情報収集ステップでは、プロファイルデータ又は積算データに基いて、それらデータにより形成されるスペクトル波形のベースラインを推定し、該ベースライン上の値又は該値に一定値を加えた値を前記所定の閾値とする、請求項6に記載の質量分析方法。
【請求項9】
前記強度調整ステップでは、発生頻度が低くなるに従って単調に減少する重み付け係数を信号強度に乗じることで信号強度を調整する、請求項6に記載の質量分析方法。
【請求項10】
前記強度調整ステップは、発生頻度が所定の閾値以下である質量電荷比値又は質量電荷比範囲における信号強度を相対的に小さい任意の値に置き換える、請求項6に記載の質量分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は質量分析装置及び質量分析方法に関し、さらに詳しくは、複数回の測定においてそれぞれ取得されたスペクトルデータを積算してマススペクトルを求める質量分析装置及び質量分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析装置(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization Mass Spectrometer:MALDI-MS)は、生体試料中の有機化合物の分析などに広く利用されている。MALDI-MSでは、1回のパルス状のレーザー光照射によって生成されるイオンの量が比較的少なく、そのために、生成されたイオンを質量分析することにより得られるデータのSN比が低い場合がある。また、レーザー光照射毎に、生成されるイオンの量のばらつきが比較的大きく、そのためにSN比のばらつきも大きくなりがちである。こうしたことから、MALDI-MSでは、通常、同一のサンプルに対してレーザー光の照射を複数回繰り返し、そのレーザー光照射毎に得られる所定の質量電荷比(厳密には斜体字の「m/z」であるが、本明細書では「m/z」又は「質量電荷比」と記す)範囲に亘るプロファイルデータを積算又は平均化することで、そのサンプルについてのマススペクトルを作成している(特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-56947号公報
【特許文献2】特開2015-200532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プロファイルデータの積算回数を増やすほど、電気的ノイズなどのランダム性ノイズを要因とするSN比は改善される。しかしながら、積算回数を増やすと測定時間が長引くし、レーザー素子等の部品の劣化を促進するという問題が生じるため、積算回数の増加には制約があり、それによるSN比の向上には限界がある。
【0005】
積算回数を増やす以外にSN比をさらに改善する手法として、積算前のプロファイルデータに対し、例えば所定の閾値以下の信号強度をゼロにするというカットオフ処理を行うことで、ベースライン付近に存在するノイズを低減するという方法が知られている。こうしたカットオフ処理は、ノイズレベルがその処理の閾値以下のレベルである場合にはかなり有効である。しかしながら、処理の閾値を超える強度のノイズが比較的多い状況では、その有効性はかなり限定的である。
【0006】
MALDI-MSでは、通常、液体クロマトグラフ等による試料前処理を実施しないため、様々な夾雑物がサンプルに含まれることが多い。また、サンプルの調製にはマトリックスが使用され、マトリックスにも夾雑物が含まれていることがある。MALDI-MSでは、こうしたサンプル自体やマトリックスに含まれる夾雑物などのイオンのほか、そうしたイオンがポストソース分解(Post Source Decay)やインソース分解(In-Source Decay)で開裂して生じたイオンなどに由来するケミカルノイズ(化学的ノイズ)がしばしば発生する。
【0007】
そうしたケミカルノイズの信号強度は目的成分の信号強度と同様に、レーザー光照射毎に変動し、場合によってはカットオフ処理の閾値を上回ることもある。ケミカルノイズの除去効果を高めるためにカットオフ処理の閾値を上げることも考えられるが、そうすると目的成分由来のピークもカットされてしまう懸念がある。そのため、カットオフ処理によってこうしたケミカルノイズを十分に低減することは難しい。また、ガウシアンフィルタなどの平滑化フィルタなどを用いることによってケミカルノイズを小さくする波形処理が従来行われている。しかしながら、平滑化フィルタではノイズを小さくする効果が得られる一方、目的成分信号の強度や分解能を低下させる作用もあるため、SN比向上の効果は限定的である。
【0008】
本発明はこうした課題を解決するために成されたものであり、その主たる目的は、ケミカルノイズなどの、目的成分に対応する信号以外の様々な要因によるノイズ信号が発生する場合であっても、SN比が良好な質の高いマススペクトルを得ることができる質量分析装置及び質量分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析装置の一態様は、
一つのサンプルに対し所定の質量電荷比範囲に亘る質量分析を複数回繰り返し実行し、複数組のプロファイルデータを取得する測定部と、
前記測定部により得られた複数組のプロファイルデータを積算又は平均化して積算データを取得する積算部と、
前記積算部による積算対象であるプロファイルデータについて、質量電荷比値毎に又は所定の幅の質量電荷比範囲毎に信号強度が所定のレベルであるか否かを判定し、該所定のレベルである総数を反映した頻度情報を質量電荷比値毎に又は質量電荷比範囲毎に求める頻度情報収集部と、
前記頻度情報に基いて、前記積算データにおける質量電荷比値毎の又は質量電荷比範囲毎の信号強度を調整してマススペクトルデータを求める強度調整部と、
を備える。
【0010】
また本発明に係る質量分析方法の一態様は、
一つのサンプルに対して所定の質量電荷比範囲に亘る質量分析を複数回繰り返し行うことで複数組のプロファイルデータを取得する測定ステップと、
前記測定ステップにおいて得られた複数組のプロファイルデータを積算又は平均化して積算データを取得する積算ステップと、
前記積算ステップにおける積算対象であるプロファイルデータについて、質量電荷比値毎に又は所定の幅の質量電荷比範囲毎に信号強度が所定のレベルであるか否かを判定し、該所定のレベルである総数を反映した頻度情報を質量電荷比値毎に又は質量電荷比範囲毎に求める頻度情報収集ステップと、
前記頻度情報に基いて、前記積算データにおける質量電荷比値毎の又は質量電荷比範囲毎の信号強度を調整してマススペクトルデータを求める強度調整ステップと、
を有する。
【0011】
質量電荷比値毎に又は質量電荷比範囲毎に信号強度を判定するための上記「所定のレベル」は、質量電荷比値毎に又は質量電荷比範囲毎に異なるレベルであってもよいし同一のレベルであってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る質量分析装置及び質量分析方法の上記態様では、複数回の質量分析においてその全てで又はその大部分で信号強度が所定の閾値を超えるような質量電荷比値又は質量電荷比範囲に対する積算データにおける信号強度は相対的に高く、逆に、その複数回の質量分析においてその大部分で信号強度が所定の閾値を下回るような質量電荷比値又は質量電荷比範囲に対する積算データにおける信号強度は相対的に低くなるように調整される。これにより、本発明に係る質量分析装置及び質量分析方法の上記態様によれば、サンプル中の目的成分に比べて含有量が十分に少ない夾雑物等に起因するケミカルノイズの影響を軽減し、そのサンプルに対してSN比の良好な質の高いマススペクトルを取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態であるMALDI-MSの概略構成図。
【
図2】本実施形態のMALDI-MSにおけるデータ積算処理の手順を示すフローチャート。
【
図3】本実施形態のMALDI-MSにおけるデータ積算処理の概略説明図。
【
図4】信号強度値を調整するための、計数値と信号強度調整用の重み付け係数と対応関係の一例を示す図。
【
図5】実測データに対して信号強度値の調整を行ったときの積算データ波形を示す図。
【
図6】信号強度値の判定処理の他の例を示すフローチャート。
【
図7】信号強度値の判定処理の他の例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る質量分析装置及び質量分析方法の一実施形態であるMALDI-MSについて、添付図面を参照しつつ説明する。
【0015】
[本実施形態のMALDI-MSの構成]
図1は、本実施形態によるMALDI-MSの概略構成図である。このMALDI-MSは、イオン源としてMALDIイオン源を用い、質量分離器としてイオントラップ型質量分離器を用いた質量分析装置である。
図1に示すように、このMALDI-MSは、測定部1、制御・処理部2、入力部3、及び表示部4、を備える。
【0016】
測定部1は、真空ポンプ11により真空排気される箱形状のチャンバー10を含み、このチャンバー10の内部には、サンプルプレート14が載置される試料ステージ13と、引出電極16と、四重極型デフレクター17と、イオントラップ18と、イオン検出器19と、が配置されている。チャンバー10の試料ステージ13直上の壁面(天面)には、透明な窓100が設けられ、この窓100の外側にはレーザー光照射部12が配置されている。試料ステージ13は、モーター等を含むステージ駆動部15により、
図1中に示すX軸、Y軸の2軸方向に移動自在である。なお、互いに直交するX、Y、Zの3軸は便宜的に定められたものである。通常、X-Y平面は装置の設置面に平行な面であり、試料ステージ13におけるサンプルプレート載置面もX-Y平面に平行である。
【0017】
四重極型デフレクター17はY軸方向に延伸する4本のロッド電極からなり、図示しない電源から各ロッド電極にそれぞれ印加される直流電圧によって、それらロッド電極で囲まれる空間にイオンの進行方向を略直角に折り曲げる偏向電場を形成する。イオントラップ18は、略円環状であるリング電極181と、そのリング電極181を挟んで対向して配置される一対のエンドキャップ電極182、184とを含む3次元四重極型の構成である。四重極型デフレクター17側に位置する入口側エンドキャップ電極182にはイオン入射孔183、出口側エンドキャップ電極184にはイオン出射孔185が形成されている。図示しない電源からリング電極181、エンドキャップ電極182、184にはそれぞれ所定の電圧が印加され、それによって、それら電極で囲まれる空間にイオンを捕捉したり、イオンを該空間内からイオン出射孔185を通して排出したりすることができる。
【0018】
制御・処理部2は、機能ブロックとして、測定制御部20、データ収集部21、信号強度判定部22、頻度情報取得部23、データ積算部24、信号強度調整部25、マススペクトル作成部26、などを含む。
【0019】
測定制御部20は、測定を実行するために測定部1に含まれる各構成要素を制御する。データ収集部21は、図示しないもののアナログデジタル変換器やデータ格納用の記憶部を含み、イオン検出器19による検出信号をデジタル化してプロファイルデータとして記憶部に格納する。データ積算部24は、一つのサンプルに対し多数回の測定によってそれぞれ得られた所定のm/z範囲に亘る多数組のプロファイルデータを積算することで、積算データを算出するものである。信号強度判定部22及び頻度情報取得部23は、後述する特徴的な処理によって、m/z値毎に又は所定のm/z幅を有するm/z範囲毎に、積算データにおける信号が有意な信号であることの信頼性の高さを判定するための頻度情報を取得するものである。また、信号強度調整部25は、m/z値毎の又はm/z範囲毎の頻度情報に基いて、積算データにおける信号強度を調整し、より品質の高い積算データを出力するものである。
【0020】
なお、一般に、制御・処理部2の実体はパーソナルコンピューターやワークステーションなどのコンピューターであり、該コンピューターにインストールされた専用のソフトウェア(コンピュータープログラム)を該コンピューターで実行することにより、上記機能ブロック等が具現化される。その場合、入力部3はコンピューターに付設されたキーボードやポインティングデバイスであり、表示部4はディスプレイモニターである。
【0021】
[本実施形態のMALDI-MSにおけるデータ積算処理]
本実施形態のMALDI-MSにおいて、サンプルプレート14上の一つのサンプルに対するマススペクトルを作成する際の、測定動作を含むデータ積算処理の手順について、
図2に示すフローチャート、及び
図3に示す概略図を参照して説明する。
【0022】
サンプルプレート14上には、解析対象である試料にマトリックスを混合することで調製されたサンプルが形成される。このサンプルプレート14が試料ステージ13上に載置され、チャンバー10の内部は真空ポンプ11により真空排気される。ユーザーによる入力部3からの指示によって測定が開始されると、測定制御部20による制御の下で、目的のサンプルが測定位置に来るようにステージ駆動部15により試料ステージ13が移動される。その状態で測定制御部20は、目的のサンプルに対しN回の測定を繰り返し実行するように測定部1を制御する。
【0023】
サンプルに対する1回の測定は次のように行われる。まず、レーザー光照射部12は短時間レーザー光を出射する。このレーザー光は窓100を通過し、サンプルプレート14上のサンプルに略垂直に照射される。このレーザー光の照射を受けて、サンプル中の試料成分は気化してイオン化される。生成されたイオンは、引出電極16により形成される電場によってサンプルプレート14の近傍から上方に引き出され、概ねZ軸方向に進行して四重極型デフレクター17に到達する。四重極型デフレクター17により形成される偏向電場によって、イオンはその軌道を略90°曲げ、概ねX軸方向に進行する。そして、イオンはイオン入射孔183を通ってイオントラップ18の内部空間に入り、リング電極181に印加される高周波電圧によって形成される電場によって一旦捕捉される。
【0024】
そのあと、エンドキャップ電極182、184に印加される電圧によって形成される電場によって、イオンはm/zの小さい順(又は逆に大きい順)にイオン出射孔185を通して外部に排出される。なお、イオントラップ18からのイオン排出の際には、特定のm/zを有するイオンを大きく振動させる共鳴励起排出を利用することができる。イオン検出器19はイオントラップ18から排出されたイオンを順次検出し、入射したイオン量に応じた検出信号を生成して出力する。制御・処理部2においてデータ収集部21は、この検出信号を受けてデジタル化し、所定のm/z範囲に亘る1組のプロファイルデータとして記憶部に格納する。
【0025】
目的サンプルに対して1回の測定が終了すると、同じサンプル上でごく近傍の異なる部位が測定位置に来るようにステージ駆動部15により試料ステージ13が僅かに移動される(但し、この移動は必須ではない)。そして、上記と同様にして2回目の測定が実行され、これがN回繰り返される。このNの値はデータ積算数として予めユーザーにより指定され得る。一般に、Nの値は小さくも10程度、大きければ1000などとすることができる。上述のようにして一つのサンプルに対しN回の測定が繰り返し実施されると、データ収集部21の記憶部には、所定のm/z範囲に亘るN組のプロファイルデータが保存される(ステップS1)。1組のプロファイルデータは、m/z値の範囲がM1~M2であってΔMステップ毎のm/z値に対する信号強度(イオン強度)データを集めたものである。
【0026】
次に、信号強度判定部22は、各組のプロファイルデータに対し、ΔMステップであるm/z値毎に信号強度値が所定の閾値を超えているか否かを判定し、例えば超えている場合に「1」、超えていない場合に「0」のフラグを付す(ステップS2)。一例として所定の閾値は一定値(全てのm/z値に対して同一値)とすることができるが、後述する例のように、一定値としなくてもよい。また、この所定の閾値は、事前に装置に設定された固定値であってもよいが、ユーザーが入力部3から適宜に入力又は変更できる値であってもよい。また、固定値ではなく、例えば得られたプロファイルデータの中の最大の信号強度値に所定の係数(例えば0.1、0.3など)を乗じることで、所定の閾値が適応的に決められるようにしてもよい。
【0027】
続いて、頻度情報取得部23は、N組のプロファイルデータに対してステップS2で実施された処理の結果を受けて、m/z値毎に所定の閾値を超えている信号強度値の数、つまりは「1」であるフラグの個数をカウントし、その計数値を頻度情報として求める(ステップS3)。
【0028】
一般に、サンプルに或る程度以上の濃度(又は量)の目的成分が含まれていれば、レーザー光照射毎の信号強度のばらつきなどがあるにしても、その目的成分に対応するピークの信号強度はN回の計測中で或る程度の割合(確率)で検出されることが想定される。一方、目的成分以外の殆どの夾雑物の含有量は目的成分の含有量に比べて少ないため、夾雑物がイオン化し信号として検出される割合は相対的に低いし、その夾雑物由来のイオンからIDSやPDS等により生成される開裂イオンが検出される割合はさらに低いことが想定される。そのため、上述した所定の閾値を適切に定めることで、サンプル中の目的成分由来のイオンの信号強度は多くの場合、上記閾値を超え、ケミカルノイズの一因である夾雑物等に由来するイオンの信号強度が上記閾値を超えるケースは少ない筈である。従って、ステップS3において得られるm/z値毎の頻度情報は、そのm/z値におけるピークが目的成分由来の有意なピークであるのか否かを示している指標であるとみることができる。
【0029】
ごく簡易的な例を
図3に示している。この例では、四つのプロファイルデータにおいて、信号強度値が閾値を超えている波形のみを(A)に示している。(C)に示す計数値は、その四つのプロファイルデータにおいて閾値を超えている信号強度値の数である。この例では、例えばm/z M3では計数値が3であり、高い頻度を示しているから、m/z M3の信号強度は有意であると判断することができる。一方、m/z M4、m/z M5などにおいては、一部のプロファイルデータにおいて大きなピークが観測されるものの、計数値は1であって頻度は低い。従って、m/z M4、M5などの信号強度は有意でないと判断することができる。
【0030】
なお、ステップS2の処理は、ステップS1において全てのプロファイルデータの収集が終了する前に開始することができることは明らかである。また、ステップS3の処理は、ステップS2において全てのプロファイルデータについて信号強度値を判定し終える前に開始することができることは明らかである。従って、ステップS2及びS3の処理を、ステップS1における測定の実行中に開始することで、全体の処理を効率的に進めることができる。
【0031】
データ積算部24は、ステップS1において収集されたN組のプロファイルデータについて、m/z値毎に信号強度値を積算し、所定のm/z範囲に亘る一組の積算データを算出する(ステップS4)。なお、このステップS4の処理はステップS2の処理の前に、或いは、ステップS2、S3の処理と並行して、さらにはステップS1における測定の実行中に行うことができることは明らかである。
【0032】
信号強度調整部25は、積算データとm/z値毎の頻度情報とを受けて、相対的に頻度の低いm/z値に対する信号強度値が減少するように信号強度値を調整する(ステップS5)。
具体的な調整方法の一例としては、
図4に示すような、計数値と重み付け係数との対応関係を用い、m/z値毎の計数値に応じて信号強度値に重み付け係数を乗じることにより信号強度値を調整することができる。
図4の例では、頻度情報である計数値がP1以上(最大値PmaxはN)である場合には、積算データにおける信号強度値をそのまま維持し、計数値がP1未満の範囲では計数値が小さいほど積算データにおける信号強度値に対する減少度合が大きくなる。
【0033】
マススペクトル作成部26は、強度調整後の積算データに基いて、そのサンプルに対する代表となるマススペクトルを作成し(ステップS6)、表示部4の画面上に表示する。
【0034】
図3の例では、計数値が2以上の信号強度はそのまま維持し、計数値が1以下である(実質的には計数値が1である)信号強度には1未満の重み付け係数を乗じることで信号強度値を調整している。その結果、(B)に示すような積算データは(D)に示すように調整される。計数値が1であるm/z値に対するピーク、例えばプロファイル[2]におけるm/z M4に対応するピークは高いピーク強度を有しているもののケミカルノイズである可能性が高い。そのため、調整後の積算データではその信号強度が大きく減衰され、目的成分由来のピークがより目立つ、つまりはSN比が改善されている。
【0035】
上記説明では、
図4に示すような計数値(頻度情報)と重み付け係数との対応関係を利用して信号強度値を調整していたが、信号強度値の調整方法はこれに限らない。例えば、計数値が所定値以下であるm/z値では信号強度値を0に置換してもよい。つまり、計数値(頻度情報)と重み付け係数との対応関係は、計数値が所定値未満で重み付け係数が0、計数値が所定値以上で重み付け係数が1であるステップ状の関係である。勿論、計数値(頻度情報)と重み付け係数との対応関係が曲線で表される関係であってもよいし、多段のステップ状であってもよい。
【0036】
図5は、実測データに対して上述した手順による信号強度値の調整を行ったときの積算データ波形を示す図である。
図5において(A)は信号強度値の調整を行っていない積算データ、(B)は
図4に示したような対応関係に基いて計数値に応じた重み付け係数を乗じることで信号強度値の調整を行った後の積算データ、(C)は計数値が2以下である信号強度値を0に置換することで信号強度値の調整を行った後の積算データ、(D)は計数値が4以下である信号強度値を0に置換することで信号強度値の調整を行った後の積算データである。なお、サンプルは7種類のペプチドを混合したものであり、総積算回数Nは100である。
【0037】
図5(A)では、m/z範囲全体に亘って、目的成分(ペプチド)のピークにノイズが重畳していることが分かる。これに対し、
図5(C)、(D)に示すように、計数値を判定する閾値をより大きくすることで、ノイズピークの数を明瞭に減らすことができることが分かる。また、
図5(D)でも目的成分以外のピークが或る程度残っているのに対し、
図5(B)に示したように、計数値に応じた適切な重み付け係数を乗じることで、7種類の目的成分に対応するピークが最も明瞭に観測されていることが分かる。
【0038】
以上のようにして、本実施形態のMALDI-MSでは、ケミカルノイズ等のノイズである可能性が高いピークの信号強度を相対的に減衰させることにより、SN比がより改善されたマススペクトルを得ることができる。
【0039】
[データ積算処理における信号強度判定の変形例]
上記実施形態の説明では、ステップS2においてm/z値毎に信号強度値が所定の閾値を超えているか否かを判定していたが、その判定の仕方を変更しても同じ結果を得ることができる。例えば、信号強度判定部22は、1組のプロファイルデータ全体に対してまず信号強度値からそれぞれ所定の閾値を減算するカットオフ処理を行い、そのカットオフ後の値が正値であるか負値であるかを判定し、正値である場合にカットオフ前の信号強度値が閾値を超えていると判断してもよい。
【0040】
また、信号強度判定部22における信号強度値の判定方法の他の例を
図6、
図7に示す。
まず
図6に示した判定方法を説明する。
この場合、信号強度判定部22は、1組のプロファイルデータに基いて、そのプロファイルのベースラインを推定する(ステップS11)。ベースラインの推定には、従来、ベースラインサブトラクトにおいてよく知られている様々なアルゴリズムを用いることができる。例えば特許文献1にも記載されているように、市販の数値解析ソフトウェア(MatLab)中にはマススペクトル用ベースライン除去関数「msbackadj」が組み込まれており、その関数を用いて容易にマススペクトルにおけるベースラインを推定することができる。
【0041】
次に、信号強度判定部22は、そのプロファイルデータのm/z値毎の信号強度値から、ステップS11で求めたベースラインにおける対応する強度信号値を減算する(ステップS12)。即ち、ステップS11及びS12の処理は、プロファイルデータに対するベースラインサブトラクト処理そのものである。信号強度判定部22は、こうしてベースライン減算が行われた後のプロファイルデータに対し、上記ステップS2と同様のステップS13の処理を実行する。即ち、m/z値毎に信号強度値が所定の閾値を超えているか否かを判定する。或いは、同様の結果を得られる処理として、上述したように、m/z値毎に信号強度値から一律に上記閾値に相当する値を減算し、その減算後の信号強度値が正値であるか否かを判定してもよい。
【0042】
一般に、質量分析により得られたプロファイル波形のベースラインは、一定値ではなくうねりを有する曲線である。従って、上記ステップS11~S13の処理は、プロファイルデータのm/z値毎の信号強度値を、それぞれ異なる値の閾値と比較することで、信号強度値が閾値を超えているか否か判定することと、実質的に同じである。特にベースラインの変動が大きい状況では、ベースラインの変動を反映してm/z値毎に異なる閾値で以て信号強度値を判定することが好ましい。それにより、プロファイルデータにおけるm/z値毎の信号強度の判定をより正確に行うことができ、それによってノイズをより的確に除去する一方、観測したい目的成分由来のピークが除去されることを避けることができる。
【0043】
続いて
図7に示した判定方法を説明する。
ベースライン推定の手法にも依るが、ランダム性のノイズが比較的多い場合、積算前のプロファイル波形から推定されるベースラインは本来のベースラインと乖離したものとなりがちである。そこで、ベースラインをより正確に推定するには、ランダム性ノイズがかなりの程度除去された状態である積算データ波形を利用する方がよい。そこで、この判定方法では、まずデータ積算部24は、収集された全ての組(N組)のプロファイルデータについて、m/z値毎に信号強度値を積算し、所定のm/z範囲に亘る一組の積算データを算出する(ステップS21)。
【0044】
信号強度判定部22は、その積算データ波形に基いてベースラインを推定する(ステップS22)。ベースラインの推定手法は上記例と同様である。
図6に示した判定方法では、各組のプロファイルデータに対してそれぞれ異なるベースラインが求まるのに対し、この判定方法では、N組のプロファイルデータに対しベースラインは共通である。そして、信号強度判定部22は、各組のプロファイルデータのm/z値毎の信号強度値から、ステップS22で求めた共通のベースラインにおける対応する強度信号値を減算する(ステップS23)。
【0045】
そうしてベースラインを差し引いたプロファイルデータに対し、上記ステップS2又はS13と同様のステップS24の処理を実行する。即ち、m/z値毎に信号強度値が所定の閾値を超えているか否かを判定する。或いは、同様の結果を得られる処理として、上述したように、m/z値毎に信号強度値から一律に上記閾値に相当する値を減算し、その減算後の信号強度値が正値であるか否かを判定してもよい。
【0046】
なお、上記実施形態及び変形例の説明では、測定部1において信号強度データが得られるΔM幅のm/z値毎に、つまりはm/z走査における検出信号のサンプリング間隔毎に頻度情報を求めていたが、m/z軸上で隣接する複数のm/z値に対して得られる信号強度を合算し、その合算した信号強度を閾値と比較することで頻度情報を求めてもよい。また、複数のm/z値に対して得られる信号強度を合算するのではなく、m/z軸上で隣接する複数のm/z値に対して得られる信号強度に基いて求めた計数値を合算し、それを頻度情報として用いてもよい。このようにm/z軸上で隣接する複数のm/z値に対して得られる情報を合算することで、データ処理のための計算量を減らすことが可能である。
【0047】
また、上記実施形態及び変形例の説明では、N回の繰り返し測定を行うことで得られたN組のプロファイルデータそれぞれに対して例えばステップS2の処理を実施していたが、N組のプロファイルデータのうちのM組(通常MはNに比べて格段に小さい正の整数)のプロファイルデータを積算して(又は平均化して)部分積算データを求め、この部分積算データに対してステップS2等の処理を実施するようにしてもよい。こうしたプロファイルデータの数を実質的に減らす処理を行うことによっても、データ処理のための計算量を減らすことが可能である。
【0048】
また、上記実施形態のMALDI-MSでは、質量分離器としてイオントラップを用いていたが、質量分離器の種類や方式は問わない。例えば、質量分離器として飛行時間型質量分離器を用いたMALDI-TOFMSやMALDI-IT-TOFMSなどにも本発明を適用することができる。また、イオン源もMALDIイオン源に限らず、表面支援レーザー脱離イオン化法、エレクトロスプレーイオン化法、大気圧化学イオン化法、大気圧光イオン化法など、MALDI法以外のイオン化法を用いた質量分析装置にも本発明を適用し得ることは明らかである。
【0049】
さらに、上記実施形態や各種の変形例はあくまでも本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨に沿って適宜に追加、削除、変更を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【0050】
[種々の態様]
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0051】
(第1項)本発明に係る質量分析装置の一態様は、
一つのサンプルに対し所定の質量電荷比範囲に亘る質量分析を複数回繰り返し実行し、複数組のプロファイルデータを取得する測定部と、
前記測定部により得られた複数組のプロファイルデータを積算又は平均化して積算データを取得する積算部と、
前記積算部による積算対象であるプロファイルデータについて、質量電荷比値毎に又は所定の幅の質量電荷比範囲毎に信号強度が所定のレベルであるか否かを判定し、該所定のレベルである総数を反映した頻度情報を質量電荷比値毎に又は質量電荷比範囲毎に求める頻度情報収集部と、
前記頻度情報に基いて、前記積算データにおける質量電荷比値毎の又は質量電荷比範囲毎の信号強度を調整してマススペクトルデータを求める強度調整部と、
を備える。
【0052】
(第6項)また本発明に係る質量分析方法の一態様は、
一つのサンプルに対して所定の質量電荷比範囲に亘る質量分析を複数回繰り返し行うことで複数組のプロファイルデータを取得する測定ステップと、
前記測定ステップにおいて得られた複数組のプロファイルデータを積算又は平均化して積算データを取得する積算ステップと、
前記積算ステップにおける積算対象であるプロファイルデータについて、質量電荷比値毎に又は所定の幅の質量電荷比範囲毎に信号強度が所定のレベルであるか否かを判定し、該所定のレベルである総数を反映した頻度情報を質量電荷比値毎に又は質量電荷比範囲毎に求める頻度情報収集ステップと、
前記頻度情報に基いて、前記積算データにおける質量電荷比値毎の又は質量電荷比範囲毎の信号強度を調整してマススペクトルデータを求める強度調整ステップと、
を有する。
【0053】
第1項に記載の質量分析装置及び第6項に記載の質量分析方法では、複数回の質量分析においてその全てで又はその大部分で信号強度が所定の閾値を超えるようなm/z値又はm/z範囲に対する積算データにおける信号強度は相対的に高く、逆に、その複数回の質量分析においてその大部分で信号強度が所定の閾値を下回るようなm/z値又はm/z範囲に対する積算データにおける信号強度は相対的に低くなるように調整される。これにより、第1項に記載の質量分析装置及び第6項に記載の質量分析方法によれば、サンプル中の目的成分に比べて含有量が十分に少ない夾雑物等に起因するケミカルノイズの影響を軽減し、そのサンプルに対してSN比の良好な質の高いマススペクトルを取得することができる。
【0054】
(第2項)第1項に記載の質量分析装置において、前記頻度情報収集部は、プロファイルデータに対し質量電荷比値毎に又は所定の幅の質量電荷比範囲毎に信号強度と所定値の大小比較を行うことで、プロファイルデータの信号強度が所定のレベルであるか否か判断するものとすることができる。
【0055】
(第7項)第6項に記載の質量分析方法において、前記頻度情報収集ステップでは、プロファイルデータに対し質量電荷比値毎に又は所定の幅の質量電荷比範囲毎に信号強度と所定値の大小比較を行うことで、プロファイルデータの信号強度が所定のレベルであるか否か判断するものとすることができる。
【0056】
(第3項)第1項又は第2項に記載の質量分析装置において、前記頻度情報収集部は、プロファイルデータ又は積算データに基いて、それらデータにより形成されるスペクトル波形のベースラインを推定するベースライン推定部を含み、該ベースライン上の値又は該値に一定値を加えた値を前記所定のレベルとするものとすることができる。
【0057】
(第8項)第6項又は第7項に記載の質量分析方法において、前記頻度情報収集ステップでは、プロファイルデータ又は積算データに基いて、それらデータにより形成されるスペクトル波形のベースラインを推定し、該ベースライン上の値又は該値に一定値を加えた値を前記所定のレベルとするものとすることができる。
【0058】
ベースラインの推定は上述したような既知の方法を用いることができる。第3項に記載の質量分析装置及び第8項に記載の質量分析方法によれば、ベースラインの変動の影響を軽減し、各ピークの信号強度をより正確に把握することができる。それにより、頻度情報をより的確に得ることができ、不要なノイズピークをより確実に除去する一方、サンプル中の目的成分由来のピークが意図せずに除去されてしまうことを回避することができる。
【0059】
(第4項)第1項~第3項のいずれか1項に記載の質量分析装置において、前記強度調整部は、発生頻度が低くなるに従って単調に減少する重み付け係数を信号強度に乗じることで信号強度を調整するものとすることができる。
【0060】
(第9項)第6項~第8項のいずれか1項に記載の質量分析方法において、前記強度調整ステップでは、発生頻度が低くなるに従って単調に減少する重み付け係数を信号強度に乗じることで信号強度を調整するものとすることができる。
【0061】
第4項に記載の質量分析装置及び第9項に記載の質量分析方法によれば、目的成分由来のピークの信号強度に影響を与えずに、ケミカルノイズである可能性が高いピークの信号強度をより適切に減じることができる。それにより、より品質の高いマススペクトルを作成することができる。
【0062】
(第5項)第1項~第4項のいずれか1項に記載の質量分析装置において、前記強度調整部は、発生頻度が所定の閾値以下である質量電荷比値又は質量電荷比範囲における信号強度を相対的に小さい任意の値に置き換えるものとすることができる。
【0063】
(第10項)第6項~第9項のいずれか1項に記載の質量分析方法において、前記強度調整ステップは、発生頻度が所定の閾値以下である質量電荷比値又は質量電荷比範囲における信号強度を相対的に小さい任意の値に置き換えるものとすることができる。
【0064】
ここで、相対的に小さい任意の値は例えばゼロとすることができる。第5項に記載の質量分析装置及び第10項に記載の質量分析方法によれば、目的成分由来のピークの信号強度に影響を与えずに、ケミカルノイズである可能性が高いピークを除去することができる。それにより、より品質の高いマススペクトルを作成することができる。
【符号の説明】
【0065】
1…測定部
10…チャンバー
100…窓
11…真空ポンプ
12…レーザー光照射部
13…試料ステージ
14…サンプルプレート
15…ステージ駆動部
16…引出電極
17…四重極型デフレクター
18…イオントラップ
181…リング電極
182、184…エンドキャップ電極
183…イオン入射孔
185…イオン出射孔
19…イオン検出器
2…制御・処理部
20…測定制御部
21…データ収集部
22…信号強度判定部
23…頻度情報取得部
24…データ積算部
25…信号強度調整部
3…入力部
4…表示部