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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175252
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】異常検知装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20241211BHJP
【FI】
G05B23/02 302T
G05B23/02 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092886
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】メドラノ カテレヤ
(72)【発明者】
【氏名】矢敷 達朗
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA01
3C223BA03
3C223CC01
3C223DD03
3C223EA04
3C223FF23
3C223FF26
3C223FF35
3C223FF45
3C223GG01
3C223HH02
(57)【要約】
【課題】本開示は、複数の機器と複数のセンサを含む装置またはシステムに使用され、少なくとも一つの機器とその機器に関する物理量を検出するセンサの異常を検知可能な異常検知装置を提供する。
【解決手段】相関探索部2は、複数のセンサSの中から、異常検知対象の対象センサの検出値とそれ以外の非対象センサの検出値との相関を示す相関係数に基いて、対象センサとの相関を有する少なくとも一つの相関センサを選択する。仮想出力生成部3は、複数の機器Eのうち、対象センサと相関センサのそれぞれの検出対象である対象機器と相関機器のモデルに基いて、対象センサと相関センサのそれぞれの検出値をシミュレートした仮想対象出力および仮想相関出力を生成する。異常判定部4は、対象センサの検出値と仮想対象出力との差が所定の第1閾値を超えた場合に、相関センサの検出値と仮想相関出力との比較に基いて、対象機器の異常または対象センサの異常を判定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の機器と複数のセンサを含む装置またはシステムに使用され、少なくとも一つの機器および該機器に関する物理量を検出する少なくとも一つのセンサの異常を検知する異常検知装置であって、
前記複数のセンサのうち異常検知対象の対象センサの検出値と該対象センサを除く少なくとも一つの非対象センサの検出値との相関を示す相関係数を算出し、該相関係数に基いて前記対象センサとの相関を有する少なくとも一つの相関センサを選択する相関探索部と、
前記複数の機器のうち前記対象センサと前記相関センサのそれぞれの検出対象である対象機器と相関機器のモデルに基いて前記対象センサと前記相関センサのそれぞれの検出値をシミュレートした仮想対象出力および仮想相関出力を生成する仮想出力生成部と、
前記対象センサの検出値と前記仮想対象出力との差が所定の第1閾値を超えた場合に、前記相関センサの検出値と前記仮想相関出力との比較に基いて前記対象機器の異常または前記対象センサの異常を判定する異常判定部と、
を備えることを特徴とする異常検知装置。
【請求項2】
前記異常判定部は、前記相関センサの検出値と前記仮想相関出力との差が、所定の第2閾値を超えた場合に前記対象機器の異常を判定し、該第2閾値を超えない場合に前記対象センサの異常を判定することを特徴とする請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項3】
前記対象センサと前記相関センサのそれぞれの検出値に基いて前記対象機器と前記相関機器の前記モデルのパラメータをチューニングするモデル調整部をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載の異常検知装置。
【請求項4】
前記対象機器と前記相関機器の前記モデルは、物理モデルまたはデータドリブンモデルであることを特徴とする請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項5】
前記相関探索部は、前記対象センサの検出値の時系列と、前記非対象センサの検出値の時系列とに基いて前記相関係数を算出することを特徴とする請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項6】
前記モデル調整部は、前記仮想対象出力と前記対象センサの検出値との差に基いて前記第1閾値を設定し、前記仮想相関出力と前記相関センサの検出値との差に基いて前記第2閾値を設定することを特徴とする請求項3に記載の異常検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、異常検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から機器に設けられたセンサの検出値に対する異常重要度を算出する技術が知られている(下記特許文献1を参照)。特許文献1において、予測値算出部は、ビル内の各機器が正常稼働しているときにセンサ群が取得した複数の検出値情報に基いて、機器が正常稼働しているならば各センサが検出するであろうと予測される検出予測値を算出する。
【0003】
また、特許文献1において、異常度算出部は、各センサの検出予測値と各センサの実際の検出値との差異とに基いて、各センサの異常度を算出する。また、異常重要度算出部は、あるセンサが異常値を検出した異常検出時における当該センサの異常度のみならず、異常検出時における当該注目センサ以外のセンサである他のセンサの異常度にも基いて、当該注目センサの異常重要度を算出する。
【0004】
また、発電プラントの監視計器や制御装置使用される各種の検出器の異常診断方法が知られている(下記特許文献2を参照)。特許文献2の異常診断方法は、プラントのプロセス量を計測する検出器の異常を診断する方法である。この従来の方法では、診断を必要としない複数の検出器の出力を用いて診断を必要とする複数の検出器の値をそれらの間の動的関係式によりそれぞれ推定する。
【0005】
さらに、上記推定された値と計測された値との差から異常評価基準量を計算する。そして、その基準量が所定の値を超えた時に、上記診断を必要とする検出器のいずれかを除いた残りの検出器の値を、上記診断を必要としない複数の検出器の出力を用いて再度推定して異常評価基準量を再計算する。再計算された基準量が所定の値以下の時、上記推定しなかった検出器が異常であると診断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2018/216197号
【特許文献2】特開平01-269018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載された技術では、センサが検出した異常値が、機器における真の不具合によるものかどうかを示す指標である異常重要度を算出することはできるが、センサの不具合を検知することはできない。また、上記特許文献2は、診断を必要としない複数の検出器の具体的な選定方法を開示していない。そのため、診断を必要とする複数の検出器に対して、条件を満たさない検出器が選定され、異常診断が不正確になるおそれがある。
【0008】
本開示は、複数の機器と複数のセンサを含む装置またはシステムに使用され、少なくとも一つの機器とその機器に関する物理量を検出するセンサの異常を検知可能な異常検知装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様は、複数の機器と複数のセンサを含む装置またはシステムに使用され、少なくとも一つの機器および該機器に関する物理量を検出する少なくとも一つのセンサの異常を検知する異常検知装置であって、前記複数のセンサのうち異常検知対象の対象センサの検出値と該対象センサを除く少なくとも一つの非対象センサの検出値との相関を示す相関係数を算出し、該相関係数に基いて前記対象センサとの相関を有する少なくとも一つの相関センサを選択する相関探索部と、前記複数の機器のうち前記対象センサと前記相関センサのそれぞれの検出対象である対象機器と相関機器のモデルに基いて前記対象センサと前記相関センサのそれぞれの検出値をシミュレートした仮想対象出力および仮想相関出力を生成する仮想出力生成部と、前記対象センサの検出値と前記仮想対象出力との差が所定の第1閾値を超えた場合に、前記相関センサの検出値と前記仮想相関出力との比較に基いて前記対象機器の異常または前記対象センサの異常を判定する異常判定部と、を備えることを特徴とする異常検知装置である。
【発明の効果】
【0010】
本開示の上記一態様によれば、複数の機器と複数のセンサを含む装置またはシステムに使用され、少なくとも一つの機器とその機器に関する物理量を検出するセンサの異常を検知可能な異常検知装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示に係る異常検知装置の実施形態1を示すブロック図。
図2図1の異常検知装置の動作の一例を示すフロー図。
図3図2の相関センサ選択処理の詳細を示すフロー図。
図4図2の相関センサ選択処理で使用される相関テーブルの一例。
図5図2の仮想出力生成処理の詳細を示すフロー図。
図6図2の異常判定処理の詳細を示すフロー図。
図7図6の対象センサ異常判定が実施される場合の一例を示すグラフ。
図8図6の対象機器異常判定が実施される場合の一例を示すグラフ。
図9】本開示に係る異常検知装置の実施形態2を示すブロック図。
図10図9の異常検知装置のモデル調整部の動作を示すフロー図。
図11図9の異常検知装置のモデル調整部による出力の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本開示に係る異常検知装置の実施形態を説明する。
【0013】
[実施形態1]
図1は、本開示に係る異常検知装置1の実施形態1を示すブロック図である。本実施形態の異常検知装置1は、たとえば、複数の機器Eと複数のセンサSを含む装置APまたはシステムSYに使用される。装置APまたはシステムSYは、たとえば、n個(nは2以上の自然数)の機器E1,E2,…,Enと、m個(mは2以上の自然数)のセンサS1,S2,…,Smを含む。
【0014】
なお、一つの機器Eに異なる物理量を検出する二つ以上のセンサSが取り付けられていてもよい。各々のセンサSが検出する各々の機器Eに関する物理量は、特に限定されないが、たとえば、温度、圧力、流量、湿度、濃度、振動数、回転数、速度、加速度、外気温、雨量などを含む。また、装置APまたはシステムSYは、たとえば、各々のセンサSの検出値を取得してネットワークを介して異常検知装置1へ送信する制御装置Cを備えている。
【0015】
異常検知装置1が使用される装置APは、たとえば、産業プラント、化学プラント、エネルギープラント、および、環境プラントなどを含む。また、装置APを構成する複数の機器Eは、たとえば、ポンプ、コンプレッサ、タービン、熱交換器、反応器などを含む。また、異常検知装置1が使用されるシステムSYは、たとえば、車両のエンジンシステム、ハイブリッドシステム、EVシステム、および、燃料電池システムなどを含む。システムSYを構成する複数の機器Eは、たとえば、エンジン、吸気系、排気系、燃料供給系、バッテリ、モータ、燃料電池セルなどを含む。
【0016】
異常検知装置1は、たとえば、装置APまたはシステムSYを構成する複数の機器Eの中の少なくとも一つの機器Eの異常を検知する。また、異常検知装置1は、たとえば、装置APまたはシステムSYを構成する複数のセンサSのうち、異常検知対象の少なくとも一つの機器Eに関する物理量を検出する少なくとも一つのセンサSの異常を検知する。異常検知装置1は、たとえば、入出力部と、中央処理装置(CPU)と、ROMやRAMなどのメモリと、タイマとを含む一つ以上のマイクロコントローラまたはコンピュータによって構成されている。
【0017】
図1に示すように、異常検知装置1は、たとえば、相関探索部2と、仮想出力生成部3と、異常判定部4と、を備えている。これらの異常検知装置1の各部は、たとえば、メモリに記憶されたプログラムをCPUによって実行することで実現される異常検知装置1の各機能を表している。また、異常検知装置1は、たとえば、記憶部5を備えてもよい。記憶部5は、たとえば、メモリやハードディスクなどの記憶装置によって構成することができる。また、異常検知装置1は、たとえば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置6に接続されていてもよい。
【0018】
図2は、図1の異常検知装置1の動作の一例を示すフロー図である。異常検知装置1のユーザは、たとえば、図2に示す処理フローの開始前に、装置APまたはシステムSYの複数のセンサSの中から、異常検知対象の対象センサStを選択して、異常検知装置1の入力装置に入力する。また、たとえば、選定された対象センサStの情報と、その対象センサStによって物理量が検出される機器Eである対象機器Etの情報が、あらかじめ異常検知装置1の入力装置に入力されて記憶部5に格納される。
【0019】
より具体的には、異常検知装置1のユーザは、複数のセンサSの中からセンサS1を対象センサStとして選択することができる。この場合、対象機器Etは、たとえば、センサS1によって物理量が検出される機器E1となり、異常検知装置1は、センサS1の異常および機器E1の異常を検知することになる。対象センサStおよび対象機器Etが決定されると、異常検知装置1は、図2に示す処理フローを開始して、相関センサScを選択する処理P1と、仮想出力を生成する処理P2と、対象機器Etおよび対象センサStの異常を判定する処理P3とを、順次実行する。
【0020】
図2に示す処理P1において選択される相関センサScは、複数のセンサSのうち、その検出値が対象センサStの検出値と所定の相関を有する一つ以上のセンサSである。処理P2で生成される仮想出力は、複数の機器Eのうち、対象センサStおよび相関センサScによる物理量の検出対象である対象機器Etおよび相関機器Ecのモデルを用いたシミュレーションに基く対象センサStおよび相関センサScの仮想的な出力である。処理P3では、対象センサStおよび相関センサScのそれぞれの検出値および仮想出力に基いて、対象センサStおよび対象機器Etの異常を検知する。以下、処理P1から処理P3までをより詳細に説明する。
【0021】
図3は、図2の相関センサScを選択する処理P1の詳細を示すフロー図である。図4は、図2の相関センサScを選択する処理P1で使用される相関テーブルCTの一例である。図3に示す処理P1が開始されると、異常検知装置1の相関探索部2は、たとえば、記憶部5に相関テーブルCTが格納済みであるか否かを判定する処理P11を実行する。この処理P11において、相関探索部2は、たとえば、記憶部5に相関テーブルCTが格納されていること(YES)を判定すると、相関テーブルCTを更新するか否かを判定する処理P12を実行する。
【0022】
この処理P12において、相関探索部2は、たとえば、表示装置6に相関テーブルCTの更新の有無を確認する画像を表示し、異常検知装置1の入力装置により、相関テーブルCTの更新の有無についてのユーザの指示を受け付ける。ユーザが異常検知装置1の入力装置に相関テーブルCTの更新がないことを示す指示を入力すると、相関探索部2は相関テーブルCTの更新なし(NO)を判定し、後述する相関センサScを選択する処理P16を実行する。
【0023】
一方、処理P12において、ユーザが異常検知装置1の入力装置に相関テーブルCTの更新があることを示す指示を入力すると、相関探索部2は相関テーブルCTの更新あり(YES)を判定し、複数のセンサSの検出値を取得する処理P13を実行する。また、前述の処理P11において、相関探索部2が、記憶部5に相関テーブルCTが格納されていないこと(NO)を判定した場合も、複数のセンサSの検出値を取得する処理P13が実行される。
【0024】
処理P13において、相関探索部2は、たとえば、装置APまたはシステムSYの制御装置Cおよびネットワークを介して、装置APまたはシステムSYの複数のセンサSの検出値を取得する。また、相関探索部2は、取得した複数のセンサSの検出値を時系列で記憶部5に格納する。相関探索部2が取得する複数のセンサSの検出値は、たとえば、制御装置Cに蓄積された過去の時系列、すなわち履歴データであってもよいが、取得可能な最新の検出値を含むことが望ましい。
【0025】
次に、相関探索部2は、たとえば、相関係数CFを算出する処理P14を実行する。この処理P14において、相関探索部2は、複数のセンサSのうち、あらかじめ選定された一つ以上の対象センサStの検出値の時系列と、他の一つ以上のセンサSである非対象センサSeの検出値の時系列とを用いて、相関係数CFを算出する。相関係数CFは、たとえば、ピアソンの相関係数である。また、相関係数CFは、たとえば、線形回帰を用いて求めてもよい。また、相関係数CFとして、決定木分析により算出した重要度を用いてもよい。
【0026】
次に、相関探索部2は、たとえば、図4に示す相関テーブルCTを生成する処理P15を実行する。ここで、対象センサStをセンサS1とすると、相関探索部2は、たとえば、処理P14で算出した相関係数CFを用い、対象センサStの検出値との相関係数CFが算出された他の一つ以上の非対象センサSeを相関係数CFの高い順に並べた相関テーブルCTを生成する。また、相関探索部2は、たとえば、生成した相関テーブルCTを表示装置6に表示する。これにより、専門的な知識を有しないユーザに対象センサStの検出値との相関を有する非対象センサSeを提示することができる。
【0027】
図4に示す例において、相関テーブルCTは、各々のセンサSの相関係数CFの他、各々のセンサSが検出する物理量(たとえば、圧力、流量、温度など)と、設置場所(たとえば、機器E1,E2、エリアA1など)の情報を含む。相関探索部2は、たとえば、処理P15で生成された相関テーブルCTを記憶部5に格納する。なお、前述の処理P12で異常検知装置1のユーザによって相関テーブルCTを更新する指示が入力された場合、相関探索部2は、記憶部5に格納されていた既存の相関テーブルCTを更新する。これにより、複数のセンサSの最新の検出値の時系列を相関テーブルCTに反映することができる。
【0028】
次に、相関探索部2は、相関センサScを選択する処理P16を実行する。この処理P16において、相関探索部2は、たとえば、相関テーブルCTを用い、相関係数CFがより高く、順位が高い一つ以上のセンサSを相関センサScとして選択する。より具体的には、相関探索部2は、たとえば、相関係数CFが所定の閾値以上のセンサSを相関センサScとして選択することができる。
【0029】
たとえば、図4に示す例では、相関係数CFの閾値が0.95であれば、センサS2のみが相関センサScとして選択され、相関係数CFの閾値が0.9であれば、センサS2,S3が相関センサScとして選択される。その後、異常検知装置1は、図3に示す処理P1を終了し、仮想出力生成部3により、図2に示す仮想出力を生成する処理P2を実行する。
【0030】
図5は、図2の仮想出力を生成する処理P2の詳細を示すフロー図である。仮想出力生成部3は、図5に示す処理P2を開始すると、まず、モデルを選択する処理P21を実行する。ここで、異常検知装置1の記憶部5には、たとえば、装置APまたはシステムSYを構成する複数の機器Eの各々のモデルが、あらかじめ格納されている。記憶部5に格納されるモデルは、各々の機器Eにおける温度、圧力、流量などの物理量をシミュレーションして、各々のセンサSの検出値の仮想出力を生成するモデル式である。
【0031】
記憶部5に格納されるモデルは、たとえば、物理モデルまたはデータドリブンモデルである。より具体的には、モデルは、たとえば、質量保存則、エネルギー保存則、運動量保存則など、基礎的な科学、工学、物理学に基く方程式を含む物理モデルである。また、モデルは、たとえば、ニューラルネットワークなどの機械学習によって生成されるデータドリブンモデルである。たとえば、機器E1が熱交換器である場合、機器E1のモデルは、機器E1の出口温度をシミュレートして、出口温度を検出するセンサS1の検出値の仮想出力を生成する。
【0032】
仮想出力生成部3は、モデルを選択する処理P21において、記憶部5に格納された複数の機器Eのモデルのうち、対象センサStと相関センサScのそれぞれの検出対象である対象機器Etと相関機器Ecのモデルを選択する。次に、仮想出力生成部3は、仮想出力を生成する処理P22を実行する。
【0033】
この処理P22において、仮想出力生成部3は、前の処理P21で選択したモデルに基いて、対象センサStと相関センサScのそれぞれの検出値をシミュレートした仮想対象出力および仮想相関出力を生成して、記憶部5に格納する。なお、対象センサStと相関センサScが同一の機器Eに設けられている場合、対象機器Etと相関機器Ecのモデルは同一になるが、そのモデルは、対象センサStの仮想対象出力と相関センサScの仮想相関出力とを、それぞれ生成可能である。
【0034】
なお、仮想出力を生成する処理P22は、たとえば、前の処理P21で選択されたモデルの条件およびパラメータの設定を含んでもよい。たとえば、機器E1が熱交換器である場合、機器E1の出口温度を検出するセンサS1の仮想対象出力を生成するモデルの条件は、機器E1に使用される流体(たとえば、蒸気など)の入口温度および流量、機器E1の周囲の気温などを含む。仮想出力生成部3は、たとえば、記憶部5に格納されたセンサS1の検出値の時系列を用いて、上記センサS1の仮想対象出力を生成するモデルの条件を設定することができる。
【0035】
また、機器E1が熱交換器である場合、上記センサS1の仮想対象出力を生成する機器E1のモデルのパラメータは、たとえば、機器E1の物理的特性や熱的特性、たとえば、寸法や熱伝達係数を含む。モデルの条件やパラメータは、たとえば、あらかじめ記憶部5に格納される。処理P22の終了後、異常検知装置1は、図5に示す処理P2を終了させ、異常判定部4によって図2に示す異常判定処理P3を実行する。
【0036】
図6は、図2の異常判定処理P3の詳細を示すフロー図である。異常判定部4は図6に示す異常判定処理P3を開始すると、まず、仮想出力を取得する処理P31を実行する。この処理P31において、異常判定部4は、たとえば、前述の仮想出力生成処理P2で生成されて記憶部5に格納された対象センサStと相関センサScのそれぞれの仮想出力である仮想対象出力と仮想相関出力とを取得する。また、異常判定部4は、たとえば、前述のセンサSの検出値を取得する処理P13で取得されて記憶部5に格納された対象センサStと相関センサScの検出値の時系列を取得する。
【0037】
次に、異常判定部4は、対象センサStの検出値と仮想対象出力との差ΔDtが所定の第1閾値Th1を超えているか否かを判定する処理P32を実行する。差ΔDtは、たとえば、対象センサStの検出値と仮想対象出力との差の絶対値である。この処理P32において、異常判定部4は、差ΔDtが第1閾値Th1を超えていないこと(NO)を判定すると、対象センサStの異常も対象機器Etの異常も判定することなく、図6に示す処理フローを終了させる。
【0038】
また、処理P32において、異常判定部4は、差ΔDtが第1閾値Th1を超えていること(YES)を判定すると、相関センサScの検出値と仮想相関出力との差ΔDcが所定の第2閾値Th2を超えているか否かを判定する処理P33を実行する。差ΔDcは、たとえば、相関センサScの検出値と仮想相関出力との差の絶対値である。なお、第1閾値Th1および第2閾値Th2は、たとえば、異常検知装置1のユーザによってあらかじめ設定され、または、入力されて記憶部5に格納されている。
【0039】
処理P33において、異常判定部4は、差ΔDcが第2閾値Th2を超えていること(YES)を判定すると、対象機器Etの異常を判定する処理P34を実行する。また、この処理P33において、異常判定部4は、差ΔDcが第2閾値Th2を超えていないこと(NO)を判定すると、対象センサStの異常を判定する処理P35を実行する。
【0040】
図7は、図6の対象センサStの異常を判定する処理P35が実施される場合の一例を示すグラフである。また、図8は、図6の対象機器Etの異常を判定する処理P34が実施される場合の一例を示すグラフである。図7および図8の上下のグラフの縦軸は、それぞれ、対象センサStの検出値と仮想対象出力との差ΔDt、および、相関センサScの検出値と仮想相関出力との差ΔDcである。また、図7および図8の上下のグラフの横軸は、ともに時間である。
【0041】
図7に示す時刻t1から時刻t2の間の期間T1において、差ΔDtは第1閾値Th1を超え、差ΔDcは第2閾値Th2を下回っている。この場合、前述の処理P32の条件(ΔDt>Th1)を満たし、処理P33の条件(ΔDc>Th2)を満たさず、処理P35が実行されて対象センサStの異常が判定される。
【0042】
また、図8に示す時刻t3から時刻t4までの期間T2において、差ΔDtは第1閾値Th1を超え、差ΔDcも第2閾値Th2を超えている。この場合、前述の処理P32の条件(ΔDt>Th1)を満たし、処理P33の条件(ΔDc>Th2)も満たし、処理P34が実行されて対象機器Etの異常が判定される。
【0043】
処理P34または処理P35の終了後、異常判定部4は、たとえば、判定結果を出力する処理P36を実行する。この処理P36において、異常判定部4は、たとえば、表示装置6に処理P34または処理P35の判定結果、すなわち、対象センサStの異常判定または対象機器Etの異常判定を表示させ、ユーザに判定結果を通知する。その後、異常検知装置1は、図6に示す処理P3を終了させ、図2に示す処理フローを終了させる。
【0044】
以下、本実施形態の異常検知装置1の作用を説明する。
【0045】
近年、サイバーフィジカルシステム(CPS)に対する関心が高まり、モノのインターネット(IoT)化が進む中、装置APやシステムSYの健全性や運転状態を遠隔で監視するセンサSへの依存が高まっている。たとえば、産業プラントなどの装置APでは、センサSの普及により、機器Eの状態を局所的に計測するための作業員を常時配置する必要がなくなり、人件費の削減や業務効率の向上が期待できる。これらの利点は、特に過酷な環境や遠隔地に設置される機器Eにおいて顕著に表れる。
【0046】
しかしながら、センサSには、誤作動や破損などの異常が発生するリスクがある。センサSに異常が発生すると、そのセンサSによる物理量の検出対象である機器Eの実際の状態が乖離するおそれがある。したがって、センサSの異常を検知することは、機器Eの損傷などの問題を回避するために重要である。また、センサSの検出値の異常が、センサS自体の異常なのか、そのセンサSが物理量を検出する対象である機器Eの異常なのかを判別することも重要である。
【0047】
上記特許文献1に記載された技術では、センサが検出した異常値が、機器における真の不具合によるものかどうかを示す指標である異常重要度を算出することはできるが、センサの不具合を検知することはできない。また、上記特許文献2は、診断を必要としない複数の検出器の具体的な選定方法を開示していない。そのため、診断を必要とする複数の検出器に対して、条件を満たさない検出器が選定され、異常診断が不正確になるおそれがある。
【0048】
これに対し、本実施形態の異常検知装置1は、複数の機器Eと複数のセンサSを含む装置APまたはシステムSYに使用され、少なくとも一つの機器Eおよびその機器Eに関する物理量を検出する少なくとも一つのセンサSの異常を検知する装置である。異常検知装置1は、相関探索部2と、仮想出力生成部3と、異常判定部4とを備えている。相関探索部2は、複数のセンサSのうち、異常検知対象の対象センサStの検出値と、その対象センサStを除く少なくとも一つの非対象センサSeの検出値との相関を示す相関係数CFを算出し、その相関係数CFに基いて対象センサStとの相関を有する少なくとも一つの相関センサScを選択する。仮想出力生成部3は、複数の機器Eのうち、対象センサStと相関センサScのそれぞれの検出対象である対象機器Etと相関機器Ecのモデルに基いて対象センサStと相関センサScのそれぞれの検出値をシミュレートした仮想対象出力および仮想相関出力を生成する。異常判定部4は、対象センサStの検出値と仮想対象出力との差ΔDtが所定の第1閾値Th1を超えた場合に、相関センサScの検出値と仮想相関出力との比較に基いて、対象機器Etの異常または対象センサStの異常を判定する。
【0049】
このような構成により、本実施形態の異常検知装置1によれば、相関探索部2によって、複数のセンサSの中から、異常検知対象の対象センサStの検出値と所定の相関を有する検出値を出力する相関センサScを、自動的に選択することができる。これにより、専門的な知識や経験を有しないユーザであっても、対象センサStの検出値に対して所定の相関を有する相関センサScを選択することが可能になり、対象センサStおよび対象機器Etの異常検知精度を向上させることができる。また、相関センサScの選定時のヒューマンエラーによる異常検知精度の低下を防止することができる。また、対象センサStの検出値と仮想対象出力との差ΔDtに基いて、対象センサStと対象機器Etのどちらかに異常が発生したことを検知することができる。その後、相関センサScの検出値と仮想相関出力とを比較することで、対象センサStと対象機器Etのどちらの異常であるかを特定することができる。これにより、装置APまたはシステムSYのメンテナンスを行う作業員が、異常が判定された対象センサStまたは対象機器Etに対して適切な対応を取ることが可能になる。
【0050】
また、本実施形態の異常検知装置1において、異常判定部4は、相関センサScの検出値と仮想相関出力との差ΔDcが、所定の第2閾値Th2を超えた場合に対象機器Etの異常を判定し、第2閾値Th2を超えない場合に対象センサStの異常を判定する。このように、異常判定部4が相関センサScの検出値と仮想相関出力との差ΔDcを所定の第2閾値Th2と比較することで、より正確に対象センサStと対象機器Etの異常判定を行うことが可能になる。
【0051】
また、本実施形態の異常検知装置1において、対象機器Etと相関機器Ecのモデルは、物理モデルまたはデータドリブンモデルである。このような構成により、対象機器Etおよび相関機器Ecの状態をより正確にシミュレートすることが可能になり、対象センサStおよび相関センサScの実際の検出値により近い仮想対象出力および仮想相関出力を生成することが可能になる。
【0052】
また、本実施形態の異常検知装置1において、相関探索部2は、対象センサStの検出値の時系列と、非対象センサSeの検出値の時系列とに基いて相関係数CFを算出する。このような構成により、算出される相関係数CFの精度が向上し、より適切な相関センサScを選択することが可能になる。
【0053】
以上説明したように、本実施形態によれば、複数の機器Eと複数のセンサSを含む装置APまたはシステムSYに使用され、少なくとも一つの機器Eとその機器Eに関する物理量を検出するセンサSの異常を検知可能な異常検知装置1を提供することができる。
【0054】
[実施形態2]
次に、図9から図11を参照して、本開示に係る異常検知装置の実施形態2を説明する。図9は、本開示に係る異常検知装置の実施形態2を示すブロック図である。本実施形態の異常検知装置1Aは、モデル調整部7をさらに備える点で、前述の実施形態1の異常検知装置1と異なっている。本実施形態の異常検知装置1Aのその他の構成は、前述の実施形態1の異常検知装置1の構成と同様であるので、同様の部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0055】
モデル調整部7は、相関探索部2、仮想出力生成部3、および異常判定部4と同様に、異常検知装置1Aを構成するCPUによって記憶部5に格納されたプログラムを実行することで実現される異常検知装置1Aの機能を表している。モデル調整部7は、対象センサStと相関センサScのそれぞれの検出値に基いて、対象機器Etと相関機器Ecのモデルのパラメータをチューニングする。
【0056】
図10は、図9の異常検知装置1Aのモデル調整部7の動作を示すフロー図である。モデル調整部7は、図10に示すチューニング処理P4を開始すると、まず、モデルのパラメータkを初期化する処理P41を実行する。この処理P41において、モデル調整部7は、たとえば、モデルの初期状態、パラメータkの初期値、およびチューニングの終了時間teを規定することで、対象機器Etおよび相関機器Ecのモデルを初期化する。パラメータkの初期値等は、たとえば、あらかじめ記憶部5に格納されている。
【0057】
次に、モデル調整部7は、仮想出力を生成する処理P42を実行する。この処理P42において、モデル調整部7は、前の処理P41で初期化された対象機器Etおよび相関機器Ecのモデルを用いて仮想対象出力と仮想相関出力を生成する。より具体的には、対象機器Etが熱交換器であれば、熱交換器の出口温度を検出する対象センサStの検出値に対応する仮想対象出力を生成する。
【0058】
次に、モデル調整部7は、センサSの検出値を取得する処理P43を実行する。この処理P43において、モデル調整部7は、たとえば、装置APまたはシステムSYから、制御装置Cを介して対象センサStおよび相関センサScの検出値を取得する。より具体的には、対象機器Etが熱交換器であれば、熱交換器の出口温度を検出する対象センサStの検出値を取得する。
【0059】
次に、モデル調整部7は、モデルのパラメータkをチューニングする処理P44を実行する。より具体的には、モデル調整部7は、たとえば、アンサンブルカルマンフィルタ(EnKF)やパーティクルフィルタなどのデータ同化手法を用いて、パラメータkをチューニングする。これにより、対象センサStの検出値と仮想対象出力との間の誤差eおよび相関センサScの検出値と仮想相関出力との間の誤差eが得られる。
【0060】
次に、モデル調整部7は、チューニング処理P4の時間tが終了時間teに達したか否かを判定する処理P45を実施し、終了時間teに達していない(NO)と判定すると、時間tを加算する処理P46を実施し、処理P42から処理P45までを繰り返す。その後、モデル調整部7は、処理P45において、チューニング処理P4の時間tが終了時間teに達した(YES)と判定すると、処理P44の結果に基いてパラメータkを更新する処理P47を実行する。また、モデル調整部7は、たとえば、生成された出力を表示装置6に表示させる。
【0061】
図11は、図9の異常検知装置1Aのモデル調整部7による出力の一例を示すグラフである。図11の上のグラフはパラメータkの時間変化を示し、図11の下のグラフは誤差eの時間変化を示す。図11の上のグラフに示すように、時刻t5においてチューニングされたパラメータkの値が平均値k’で安定し始める。同時に、図11の下のグラフに示すように、誤差eの値が初期値e’0よりも小さい誤差e’で安定し始めている。
【0062】
図11に示すモデル調整部7の出力は、モデル調整部7が時刻t5からパラメータkを正常にチューニングできたことを示している。そのため、モデル調整部7は、モデルを更新する処理P47において、既存のパラメータkをチューニングされたパラメータk’に置き換える。
【0063】
以上のように、本実施形態の異常検知装置1Aは、対象センサStと相関センサScのそれぞれの検出値に基いて対象機器Etと相関機器Ecのモデルのパラメータkをチューニングするモデル調整部7をさらに備える。
【0064】
このような構成により、対象機器Etおよび相関機器Ecの挙動が劣化などにより経時的に変化する場合でも、対象機器Etおよび相関機器Ecのモデルの挙動を、対象機器Etおよび相関機器Ecの実際の挙動に追従させることができる。これにより、対象機器Etおよび対象センサStの異常をより正確に判定することができる。なお、モデル調整部7によるチューニング処理P4の頻度は、たとえば、1年に一回など、ユーザが定義することが可能である。
【0065】
また、本実施形態の異常検知装置1Aにおいて、モデル調整部7は、たとえば、図7に示す第1閾値Th1および第2閾値Th2を自動的に設定することも可能である。具体的には、モデル調整部7は、パラメータkのチューニング後に、仮想対象出力と対象センサStの検出値との差ΔDtに基いて第1閾値Th1を設定し、仮想相関出力と相関センサの検出値との差ΔDcに基いて第2閾値Th2を設定する。
【0066】
このような構成により、第1閾値Th1および第2閾値Th2を自動的に設定することが可能になる。したがって、ユーザが誤って不適切な第1閾値Th1および第2閾値Th2を設定することが防止され、対象センサStおよび対象機器Etの異常が誤って判定されたり、異常が検出できなかったりすることが防止される。なお、モデル調整部7は、表示装置6を介してユーザが正しい第1閾値Th1および第2閾値Th2を設定するための情報を提供してもよい。
【0067】
以上、図面を用いて本開示に係るの実施形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本開示に含まれるものである。
【符号の説明】
【0068】
1 異常検知装置
1A 異常検知装置
2 相関探索部
3 仮想出力生成部
4 異常判定部
7 モデル調整部
AP 装置
CF 相関係数
E 機器
Ec 相関機器
Et 対象機器
S センサ
Sc 相関センサ
Se 非対象センサ
St 対象センサ
SY システム
Th1 第1閾値
Th2 第2閾値
ΔDc 差
ΔDt 差
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11