(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175267
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】スパンボンド不織布の製造方法、スパンボンド不織布、及び、その利用
(51)【国際特許分類】
D04H 3/16 20060101AFI20241211BHJP
D04H 3/009 20120101ALI20241211BHJP
D01F 6/62 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
D04H3/16
D04H3/009
D01F6/62 305Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092912
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】宮本 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】島本 仁志
(72)【発明者】
【氏名】前田 武和
(72)【発明者】
【氏名】田村 正信
【テーマコード(参考)】
4L035
4L047
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035BB32
4L035DD13
4L035EE20
4L035FF05
4L035HH10
4L035KK05
4L047AA26
4L047AB03
4L047BA08
4L047CA05
4L047CC12
(57)【要約】
【課題】生産性に優れ、強度が高い生分解性のスパンボンド不織布の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有する原料組成物からスパンボンド不織布を得る製造方法であって、前記製造方法は、
前記原料組成物の加熱溶融物を紡糸口金から吐出し原糸を得る工程(A)と、前記原糸をウェブ化しウェブを得る工程(B)とを含み、
前記原料組成物の165℃でのメルトマスフローレートが20g/10min以上~150g/10min、かつ、前記原料組成物の重量平均分子量(但し、重量平均分子量とは、クロロホルム溶媒を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー法によるポリスチレン換算の重量平均分子量を指す。以下同じ)が10万以上30万以下である、スパンボンド不織布の製造方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有する原料組成物からスパンボンド不織布を得る製造方法であって、前記製造方法は、
前記原料組成物の加熱溶融物を紡糸口金から吐出し原糸を得る工程(A)と、前記原糸をウェブ化しウェブを得る工程(B)とを含み、
前記原料組成物の165℃でのメルトマスフローレートが20g/10min以上150g/10min以下、かつ、前記原料組成物の重量平均分子量(但し、重量平均分子量とは、クロロホルム溶媒を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー法によるポリスチレン換算の重量平均分子量を指す。以下同じ)が10万以上30万以下である、スパンボンド不織布の製造方法。
【請求項2】
前記ウェブを、[ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の結晶化温度(Tc)-50℃]未満の温度で加圧する工程(C)を含む、請求項1に記載のスパンボンド不織布の製造方法。
【請求項3】
前記原料組成物は、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂100重量部に対して結晶核剤を0.1~2.5重量部含有する、請求項1または2に記載のスパンボンド不織布の製造方法。
【請求項4】
繊維を含むスパンボンド不織布であって、
前記繊維はポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有する樹脂組成物を含み、
前記樹脂組成物の165℃でのメルトマスフローレートが20g/10min以上650g/10min以下、かつ、
前記樹脂組成物の重量平均分子量が10万以上25万以下である、スパンボンド不織布。
【請求項5】
製造時の流れ方向(MD方向)における、単位断面積当たりの最大応力が1.0MPa以上である、請求項4に記載のスパンボンド不織布。
【請求項6】
前記スパンボンド不織布のCD方向の引張強さに対する、前記スパンボンド不織布のMD方向の引張強さの比(MD引張強さ/CD引張強さ)が、1.6以上である、請求項4又は5に記載のスパンボンド不織布。
【請求項7】
目付が3~50g/m2未満である、請求項4又は5に記載のスパンボンド不織布。
【請求項8】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、単独重合体及び/又は共重合体を含み、構成単位として3-ヒドロキシブチレートを80モル%以上含有する、請求項4又は5に記載のスパンボンド不織布。
【請求項9】
前記樹脂組成物は、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂100重量部に対して結晶核剤を0.1~2.5重量部含有する、請求項4又は5に記載のスパンボンド不織布。
【請求項10】
第1の不織布と、該第1の不織布の少なくとも片面に積層された第2の不織布とを備える、積層体であって、
前記第1の不織布が、請求項4又は5に記載のスパンボンド不織布であり、
前記第2の不織布が、メルトブローン不織布である、積層体。
【請求項11】
請求項4に記載のスパンボンド不織布、又は、請求項10に記載の積層体で形成された、マスク。
【請求項12】
請求項4又は5に記載のスパンボンド不織布で形成された、飲食物抽出用フィルター。
【請求項13】
請求項4又は5に記載のスパンボンド不織布で形成された、熱接着用不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパンボンド不織布の製造方法、スパンボンド不織布、及び、その利用に関する。
【背景技術】
【0002】
スパンボンド不織布は、熱可塑性樹脂組成物を加熱溶融し紡糸口金からポリマーを吐出し原糸を得、得られた原糸をウェブ化するスパンボンド法により得られた不織布であり、高い強度と高い寸法安定性を有する。
【0003】
スパンボンド不織布は、例えば、紙おむつやマスク等の衛生用品、革製品のキズ防止用等の包装材、油吸着材などを構成する材料に利用されている。
【0004】
近年、プラスチック廃棄物が、生態系への影響、燃焼時の有害ガス発生、大量の燃焼熱量による地球温暖化等、地球環境に負荷を与える原因となっており、生分解性プラスチックを用いたスパンボンド不織布の開発が求められている。
【0005】
生分解性プラスチックの中でも、生分解性およびカーボンニュートラルの観点から、植物由来の原料を炭素源として微生物産生される生分解性プラスチック、特に脂肪族ポリエステル系樹脂が注目されている。中でも、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)単独重合樹脂、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)共重合樹脂、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)共重合樹脂、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)共重合樹脂といった、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂が注目を集めている。
【0006】
特許文献1には、生分解性を有するポリラクチド、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート等のスパンボンド不織布が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般的に、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂、特にポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系共重合体は、結晶化速度が遅い、あるいは、樹脂融点と樹脂の分解温度が近い等の点で、樹脂の強度を損なうことなく不織布の製造するためには課題があった。
【0009】
本発明は、上記現状に鑑み、生産性に優れ、強度が高いスパンボンド不織布の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含み、高い強度を有するスパンボンド不織布や、当該スパンボンド不織布を備える積層体、マスクなどを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のメルトマスフローレートと重量平均分子量を有するポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系を含む樹脂組成物において、高い強度を有するスパンボンド不織布を良好な生産性で製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有する原料組成物からスパンボンド不織布を得る製造方法であって、前記製造方法は、前記原料組成物の加熱溶融物を紡糸口金から吐出し原糸を得る工程(A)と、前記原糸をウェブ化しウェブを得る工程(B)とを含み、前記原料組成物の165℃でのメルトマスフローレートが20g/10min以上150g/10min以下、かつ、前記原料組成物の重量平均分子量(但し、重量平均分子量とは、クロロホルム溶媒を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー法によるポリスチレン換算の重量平均分子量を指す。以下同じ)が10万以上30万以下である、スパンボンド不織布の製造方法に関する。
【0012】
また本発明は、繊維を含むスパンボンド不織布であって、前記繊維はポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有する樹脂組成物を含み、前記樹脂組成物の165℃でのメルトマスフローレートが20g/10min以上650g/10min以下、かつ、
前記樹脂組成物の重量平均分子量が10万以上25万以下である、スパンボンド不織布にも関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、生産性に優れ、強度が高いスパンボンド不織布の製造方法を提供することができる。
【0014】
また、本発明によれば、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含み、高い強度を有するスパンボンド不織布や、当該スパンボンド不織布を備える積層体、マスクなどを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例において不織布の製造に用いた装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
〔1.スパンボンド不織布の製造方法〕
本発明のスパンボンド不織布の製造方法は、下記工程(A)及び(B)を含む方法である。本発明の不織布の製造方法は、その他の工程を含んでもよい。
【0018】
工程(A):ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有する原料組成物の加熱溶融物を紡糸口金から吐出し原糸を得る工程
工程(B):前記原糸をウェブ化しウェブを得る工程
本実施形態に係るスパンボンド不織布の製造方法は、スパンボンド法による製造方法であって、前記工程(A)において得られた原糸を、工程(B)でエジェクターという吸引機のような部分を通し延伸しウェブ化する方法による不織布の製造方法である。+
【0019】
[工程(A)]
工程(A)においては、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂(以下、「P3HA」と称することがある。)を含有する原料組成物の加熱溶融物を紡糸口金から吐出し、P3HAを含む組成物で構成された原糸を得る。
【0020】
本実施形態に係る原料組成物は、165℃でのメルトマスフローレート(MFR)が20g/10min以上150g/10min以下 、かつ、前記原料組成物の重量平均分子量(但し、重量平均分子量とは、クロロホルム溶媒を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー法によるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を指す。以下同じ)が10万以上30万以下である。
【0021】
前記原料組成物のMFRおよびMwを上記範囲とすることにより、スパンボンド法により高強度の繊維、不織布を製造することが可能となる。
前記原料組成物のMFRが20g/10min未満であると、溶融時の流動性が十分でなくメルトフラクチャー等の発生により表面均一性が不十分となり、単繊維での延伸・配向が不十分となる傾向があり、MFRの下限値は、20g/10min以上、好ましくは30g/10min以上、特に好ましくは40g/10min以上である。前記原料組成物のMFRが150g/10minを超える場合は、流動性が高くなりすぎるため、延伸時に糸切れしやすい傾向があり、MFRの上限は、150g/10min以下、好ましくは140g/10min以下、特に好ましくは130g/10min以下である。
【0022】
本願における前記原料組成物の165℃でのメルトマスフローレート(MFR)については、ASTM-D1238(ISO1133-1、JIS K7210-1:2011)のB法で原料組成物の165℃でのメルトボリュームフローレート(MVR)を求め、原料組成物の165℃でのメルトボリュームフローレート(MVR)及び原料組成物の密度から、原料組成物の165℃でのメルトマスフローレート(MFR)を求める。
また、原料組成物の165℃でのメルトボリュームフローレート(MVR)は、原料組成物5g以上を165℃で4分間加熱した後、加熱した原料組成物に5kgの荷重をかけて測定する。
【0023】
Mwが10万未満であると、得られる不織布の強度または破断伸度が不十分となる傾向があり、Mwの下限値は、10万以上、好ましくは12万以上である。Mwが30万を超えると加工に適する溶融粘度を得られ難くなる傾向があり、Mwの上限は、30万以下、好ましくは25万以下である。
【0024】
本願における重量平均分子量は、クロロホルム溶離液を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレン換算分子量分布より測定されたものをいう。測定条件としては実施例に記載の方法が適用される。
【0025】
本実施形態に係る原料組成物は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含む。
<ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂>
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、生分解性を有する脂肪族ポリエステル(好ましくは芳香環を含まないポリエステル)であり、少なくとも1種又は2種以上の3-ヒドロキシアルカノエート単位を有する共重合体である。
【0026】
前記3-ヒドロキシアルカノエート単位は、下記一般式(1)で表されることが好ましい。
[-CHR-CH2-CO-O-] (1)
一般式(1)中、RはCpH2p+1で表されるアルキル基を示し、pは1~15の整数を示す。Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、メチルプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の直鎖または分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。pとしては、1~10が好ましく、1~8がより好ましい。
【0027】
P3HAとしては、特に微生物から産生されるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系共重合体が好ましい。微生物から産生されるP3HAにおいては、3-ヒドロキシアルカノエート単位が、全て(R)-3-ヒドロキシアルカノエート単位として含有される。
【0028】
P3HAは、3-ヒドロキシアルカノエート単位(特に、一般式(1)で表される単位)を、全構成単位(モノマー単位)の50モル%以上含むことが好ましく、60モル%以上含むことがより好ましく、70モル%以上含むことが更に好ましい。P3HAは、重合体の構成単位として、1種以上の3-ヒドロキシアルカノエート単位のみを含むものであってもよいし、1種以上の3-ヒドロキシアルカノエート単位に加えて、その他の単位(例えば、4-ヒドロキシアルカノエート単位等)を含むものであってもよい。
【0029】
P3HAは、3-ヒドロキシブチレート(以下、3HBと称する場合がある)単位を含むことが好ましく、3HB単独重合体であてもよいし、3HB単位と他のヒドロキシアルカノエート単位を含む共重合体であることが好ましい。当該3-ヒドロキシブチレート単位は、全て(R)-3-ヒドロキシブチレート単位であることが好ましい。
【0030】
前記他のヒドロキシアルカノエート単位は、3HB単位以外の3-ヒドロキシアルカノエート単位であってよいし、3-ヒドロキシアルカノエート単位以外のヒドロキシアルカノエート単位(例えば、4-ヒドロキシアルカノエート単位)であってもよい。前記他のヒドロキシアルカノエート単位は、1種のみが含まれてもよいし、2種以上が含まれてもよい。
【0031】
P3HAの具体例としては、例えば、ポリ(3―ヒドロキシブチレート)(略称:P3HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシプロピオネート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)(略称:P3HB3HV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(略称:P3HB3HH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘプタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシノナノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシデカノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシウンデカノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)(略称:P3HB4HB)等が挙げられる。特に、優れた生分解性と成形加工性の両立の観点から、P3HB、P3HB3HH、P3HB3HV、又は、P3HB4HBが好ましく、P3HB3HHが特に好ましい。
【0032】
前記P3HAは、前記3HB単位を含む場合において3HB単位の含有割合は、80.0モル%以上99.0モル%以下、好ましくは82.0モル以上98.0以下、より好ましくは85.0モル以上97.0以下である。
【0033】
前記P3HAにおける前記3HB単位の含有割合が80.0モル%以上であることにより、前記繊維の曲げ剛性が高くなる。
【0034】
前記P3HAにおける前記3HB単位の含有割合が99.0モル%以下であることにより、本実施形態に係るスパンボンド不織布の破断伸度が高くなり、破れにくくなる。
【0035】
なお、前記P3HAにおける前記3HB単位の含有割合は、前記原料組成物に含まれる前記P3HA全体における前記3HB単位の含有割合を意味する。
【0036】
前記P3HAにおける3HB単位の含有割合は、以下のようにして求めることができる。
【0037】
まず、前記原料組成物P3HA20mgに、硫酸とメタノールとの混合液(硫酸の体積:メタノールの体積=15:85)2mL、及び、クロロホルム2mLを添加した試料を密栓し、密栓した状態で該試料を100℃で140分間加熱することにより、P3HAの分解物であるメチルエステルを含む第1の反応液を得る。
そして、該第1の反応液を冷却し、冷却した第1の反応液に1.5gの炭酸水素ナトリウムを少しずつ加えて中和し、炭酸ガスの発生がとまるまで放置することにより、第2の反応液を得る。
さらに、第2の反応液と、4mLのジイソプロピルエーテルとをよく混合することにより、混合物を得る。
次に、該混合物を遠心分離することにより、上清液を得る。
そして、上清液中の前記分解物のモノマーユニット組成をキャピラリーガスクロマトグラフィーにより下記条件で分析することにより、P3HAにおける3HB単位の含有割合を求める。
ガスクロマトグラフ:島津製作所製のGC-17A
キャピラリーカラム:GLサイエンス社製のNEUTRA BOND-1(カラム長:25m、カラム内径:0.25mm、液膜厚:0.4μm)
キャリアガス:He
カラム入口圧:100kPa
サンプルの量:1μL
温度条件については、100~200℃では8℃/分の速度で昇温し、さらに200~290℃では30℃/分の速度で昇温する。
【0038】
<他の樹脂>
前記原料組成物は、P3HAに該当しない他の樹脂を含有するものであってもよい。当該他の樹脂としては特に限定されないが、前記P3HAを成形する際に相溶性や加工性、又は、得られる繊維あるいは不織布の機械特性を著しく低下させないものが好ましい。また、得られる成形体が、生分解性が要求される用途に用いられる際には、前記他の樹脂は、生分解性樹脂であることが好ましい。
【0039】
前記他の樹脂としては、例えば、脂肪族ジオール及び脂肪族ジカルボン酸が重縮合した構造からなる脂肪族ポリエステルや、脂肪族化合物と芳香族化合物の両方をモノマーとする脂肪族芳香族ポリエステル等が挙げられる。前者の例としては、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリヘキサメチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリエチレンセバケート、ポリブチレンセバケート等が挙げられる。後者の例としては、ポリ(ブチレンアジペート-co-ブチレンテレフタレート)(PBAT)、ポリ(ブチレンセバケート-co-ブチレンテレフタレート)、ポリ(ブチレンアゼレート-co-ブチレンテレフタレート)、ポリ(ブチレンサクシネート-co-ブチレンテレフタレート)(PBST)等が挙げられる。前記他の樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
前記原料組成物が前記他の樹脂を含有する場合、当該他の樹脂の含有量は、P3HAの合計100重量部に対して、20重量部以下であることが好ましく、10重量部以下がより好ましく、5重量部以下がさらに好ましく、1重量部以下が特に好ましい。他の樹脂の含有量の下限は特に限定されず、0重量部であってもよい。
【0041】
<結晶核剤>
前記原料組成物は、結晶核剤をさらに含有するものであってもよい。前記原料組成物が結晶核剤を含有することにより、樹脂成分の結晶化が更に促進され、成形速度、生産性等が向上し得る。
【0042】
前記結晶核剤としては特に限定されず、従来公知のものを使用することができるが、例えば、ペンタエリスリトール、窒化ホウ素、酸化チタン、タルク、層状ケイ酸塩、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、金属リン酸塩等の無機物;エリスリトール、ガラクチトール、マンニトール、アラビトール等の天然物由来の糖アルコール化合物;ポリビニルアルコール、キチン、キトサン、ポリエチレンオキシド、脂肪族カルボン酸アミド、脂肪族カルボン酸塩、脂肪族アルコール、脂肪族カルボン酸エステル、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジブチルセバケート等のジカルボン酸誘導体;インジゴ、キナクリドン、キナクリドンマゼンタ等の官能基C=Oと、NH、SおよびOから選ばれる官能基と、を分子内に有する環状化合物;ビスベンジリデンソルビトール、ビス(p-メチルベンジリデン)ソルビトール等のソルビトール系誘導体;ピリジン、トリアジン、イミダゾール等の窒素含有ヘテロ芳香族核を含む化合物;リン酸エステル化合物、高級脂肪酸のビスアミドおよび高級脂肪酸の金属塩等が挙げられる。これらの結晶核剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
前記結晶核剤としては、P3HAの結晶化速度の改善効果の観点、並びに、P3HAとの相溶性及び親和性の観点から、糖アルコール化合物、ポリビニルアルコール、キチン、キトサンが好ましい。
【0044】
また、該糖アルコール化合物のうち、ペンタエリスリトールが好ましい。
【0045】
前記原料組成物は、P3HA100質量部に対して結晶核剤を、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上含有する。
【0046】
前記原料組成物がP3HA100質量部に対して結晶核剤を0.1質量部以上含有することにより、スパンボンド法によりスパンボンド不織布を作製する際に、P3HAの結晶化がより一層促進されやすくなるという利点がある。
【0047】
また、前記樹脂組成物は、P3HA100質量部に対して結晶核剤を、好ましくは2.5質量部以下、より好ましくは2.0質量部以下含有する。
【0048】
前記樹脂組成物がP3HA100質量部に対して結晶核剤を2.5質量部以下含有することにより、スパンボンド法によりスパンボンド不織布を作製する際に、繊維が得やすくなるという利点がある。
【0049】
<滑剤>
前記原料組成物は、滑剤をさらに含有するものであってもよい。滑剤を含有することにより、得られる繊維の表面平滑性が向上し得る。前記滑剤としては、特に限定されないが、ベヘン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミドおよびオレイン酸アミドからなる群より選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。これらの滑剤を含有することにより、得られる成形体は、良好な滑性(特に、外部滑性)を備え得る。中でも、加工性や生産性が向上するという観点から、ベヘン酸アミド、及び/又は、エルカ酸アミドを含有することが好ましい。
【0050】
前記滑剤として、ベヘン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、オレイン酸アミドまたはこれらの2種以上の組合せを使用してもよく、ベヘン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミドまたはオレイン酸アミドと、これら以外の滑剤(以下、「その他の滑剤」という。)との組み合わせであってもよい。その他の滑剤としては、例えば、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド等のアルキレン脂肪酸アミド;ポリエチレンワックス、酸化ポリエステルワックス、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンモノラウレート等のグリセリンモノ脂肪酸エステル;コハク酸飽和脂肪酸モノグリセライド等の有機酸モノグリセライド;ソルビタンベヘネート、ソルビタンステアレート、ソルビタンラウレート等のソルビタン脂肪酸エステル;ジグリセリンステアレート、ジグリセリンラウレート、テトラグリセリンステアレート、テトラグリセリンラウレート、デカグリセリンステアレート、デカグリセリンラウレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル;ステアリルステアレート等の高級アルコール脂肪酸エステル等が挙げられるが、これらに限定されない。前記その他の滑剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
前記滑剤の含有量(滑剤を複数使用する場合は、その合計含有量)は、繊維に滑性を付与できれば特に限定はないが、P3HA100重量部に対して0.01~20重量部であることが好ましく、0.05~10重量部がより好ましく、0.5~10重量部がさらに好ましく、0.5~5重量部がより更に好ましく、0.7~4重量部が特に好ましい。滑剤の含有量が前記範囲内にあると、繊維表面への滑剤のブリードアウトを回避しつつ、滑剤としての効果を得ることができる。
【0052】
<その他の成分>
前記原料組成物は、得られる成形体の機能を損なわない範囲で、可塑剤;無機充填剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;染料、顔料等の着色剤;帯電防止剤等の他の成分を含有することができる。
【0053】
前記可塑剤としては特に限定されないが、例えば、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノデカノエート等の変性グリセリン系化合物;ジエチルヘキシルアジペート、ジオクチルアジペート、ジイソノニルアジペート等のアジピン酸エステル系化合物;ポリエチレングリコールジベンゾエート、ポリエチレングリコールジカプリレート、ポリエチレングリコールジイソステアレート等のポリエーテルエステル系化合物;安息香酸エステル系化合物;エポキシ化大豆油;エポキシ化脂肪酸2-エチルヘキシル;セバシン酸系モノエステル等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記可塑剤の中でも、入手のし易さや効果の高さの点で、変性グリセリン系化合物およびポリエーテルエステル系化合物が好ましい。また、これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
前記無機充填剤としては特に限定されないが、例えば、クレー、合成珪素、カーボンブラック、硫酸バリウム、マイカ、ガラス繊維、ウィスカー、炭素繊維、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガラス粉末、金属粉末、カオリン、グラファイト、二硫化モリブデン、酸化亜鉛等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
前記酸化防止剤としては特に限定されないが、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
前記紫外線吸収剤としては特に限定されないが、例えば、ベンゾフェノン系化合物類、ベンゾトリアゾール系化合物類、トリアジン系化合物類、サリチル酸系化合物類、シアノアクリレート系化合物類、ニッケル錯塩系化合物類等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
前記顔料、染料等の着色剤としては特に限定されないが、例えば、酸化チタン、炭酸カルシウム、酸化クロム、亜酸化銅、珪酸カルシウム、酸化鉄、カーボンブラック、グラファイト、チタンイエロー、コバルトブルー等の無機系着色剤、レーキレッド、リソールレッド、ブリリアントカーミン等の溶性アゾ顔料、ジニトリアンオレンジ、ファストイエロー等の不溶性アゾ顔料、モノクロロフタロシアニンブルー、ポリクロロフタロシアニンブルー、ポリブロモフタロシアニングリーン等のフタロシアニン顔料、インジゴブルー、ペリレンレッド、イソインドリノンイエロー、キナクリドンレッド等の縮合多環系顔料、オラセットイエロー等の染料等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
工程Aでは、例えば、溶融押出機を用いて、原料組成物を溶融し、紡糸口金(紡糸ノズルとも称される。)から連続的に押出して原料組成物で構成された繊維を形成する。上記溶融押出機は、用いる原料組成物に含まれるP3HAの分子量や溶融粘度を適度に保つことが可能であれば一般的な装置でよく、溶融部分が一定温度に恒温される圧縮押出装置や連続供給が可能なスクリュー型押出装置のどちらを用いてもよい。少量生産には前者が適しており、工業的な生産には後者が適した装置である。
【0059】
溶融押出機のシリンダー温度及びダイ出口温度に関しては、P3HAの分子量やモノマー組成に応じてP3HAの溶融粘度が適度に保たれるように調節すればよい。また、繊維の溶融紡糸温度は、好ましくは、145~190℃であり、より好ましくは150~190℃、さらに好ましくは150~180℃である。紡糸温度を145℃以上とすることにより、十分にPHA組成物を溶解させることができるために、紡糸がいっそう安定化する傾向がある。一方、紡糸温度を190℃以下とすることにより、樹脂の熱分解が抑制され、紡糸がいっそう安定化し、得られる繊維の物性がより向上する傾向がある。なお、溶融紡糸温度とは、P3HA組成物が繊維化される間に加えられる温度のうち、最も高い温度域の温度をいう。
【0060】
P3HA組成物を溶融し、流量を調整して吐出量を一定に保ちながら紡糸ノズルから押し出すが、この際の紡糸ノズルの開口面積は、0.15~3.5mm2であることが好ましい。開口面積を0.15mm2以上とすることにより、紡糸中の切れがいっそう抑制される傾向がある。一方、開口面積を3.5mm2以下とすることにより、繊維が太くなり過ぎないために固化に要する時間が長くなり過ぎず、成形された伸び切り鎖の緩和が抑制され、加工性や強度がいっそう向上する傾向がある。
【0061】
吐出量は最終的に必要な繊維径と生産時の紡糸速度に基づいて任意に選定することが可能であるが、吐出量(紡糸口金の単孔あたりのP3HA組成物の吐出量)が0.2~1.2g/分が好ましく、0.2~0.7g/分がより好ましい。吐出量を0.2g/分以上とすることにより、繊維が細くなり過ぎず糸切れがいっそう抑制される傾向がある。一方、吐出量を1.2g/分以下とすることにより、糸が太くなり過ぎず、繊維の固化が速やかに進行し繊維同士の互着が抑制される傾向がある。
【0062】
また、押出時の熱による樹脂の分解を抑制することから、紡糸機内部での樹脂の滞在時間が30分以下であることが好ましく、15分以下とするのがより好ましい。
【0063】
紡糸口金から押し出す雰囲気温度は、特に限定されず、例えば、5~40℃の範囲で適宜調整可能である。
【0064】
[工程(B)]
工程(B)では、工程(A)で紡糸口金から押出されたP3HAを含む原料組成物で構成された繊維、すなわち原料組成物を溶融紡糸して得られた繊維をウェブ化し、ウェブを得る。この工程において、原料組成物で構成された繊維(紡糸フィラメント)は、目的の繊度となるように牽引細化し(延伸フィラメントとなる。)、工程の流れ方向(MD)に移動するコンベヤなどの捕集面上に堆積させて長繊維ウェブを形成する。
【0065】
スパンボンド法で不織布を製造する方法においては、工程(B)でエジェクターなどの吸引装置を用いて、空気延伸して牽引細化する。例えば、
図1に示されているようなエジェクター3を用いる場合、空気牽引の圧力を調整することで、紡糸速度を調節することが可能である。空気圧を高くすることで、紡糸速度が上昇する。空気圧は、0.01~1.0MPaが好ましく、より好ましくは、0.05~0.7MPaである。0.01より低い場合、十分な紡糸速度が得られにくく、1.0MPaより高い場合は、安定に紡糸できる紡糸速度である7000m/分より大きくなりやすい。空気延伸による紡糸速度は好ましくは、500~7000m/分であり、より好ましくは700~7000m/分、さらに好ましくは700~5000m/分、特に好ましくは700~4000m/分である。この紡糸速度範囲では、紡糸性が担保できる原料組成物からなる繊維の固化が得られる。紡糸速度が遅い場合は、作製した不織布が冷却時に収縮する場合があり、均質で良好な不織布が得られないことがある。引取り速度に上限値は特に限定されないが、7,000m/分より大きいと得られる繊維の強度が変わらなくなるので、7,000m/分より高くする必要は無い。吸引装置から捕集面までの距離は長いほど良くて80cm以上が好ましい。80cm以上とすることにより、繊維の固化が速やかに進行し、吸引装置内で繊維同士が互着しにくく、糸切れが抑制される傾向がある。また、捕集面の下から吸引することで、ウェブの収縮を低減しやすい。
【0066】
工程Bでは、工程Aで紡糸口金から押し出された繊維(紡糸フィラメント)を牽引細化する前に、
図1に示されているようなクエンチ2等の整流風を与える装置にて、整流風を与えることが好ましい。整流風は、クエンチ風とも呼ばれ、糸条の流れを安定化させる働きがある。また、冷却した気体を用いることで紡糸フィラメントを冷却することも可能である。クエンチ風は、ネットやメッシュを通して放出され、均一に糸条に送られることが好ましい。ウェブ作製装置の場合、ウェブ形成用のコンベアの流れ方向と同一方向からクエンチ風が送風されることが好ましく、糸条に対し片面もしくは両面から送風されても良い。クエンチ風の温度は、3~40℃が好ましく、更に好ましくは、10~30℃である。5℃より低い場合は、繊維に残留応力が生じ、繊維が捲縮する場合がある。40℃より高い場合は、樹脂の固化が不十分となり、繊維が固着する。クエンチ風の風速は、0.1~1.5m/秒が好ましい。0.1m/秒より低い場合、整流の効果が低くなりやすく、1.5m/秒より高い場合は、クエンチ風が強すぎ、逆に糸条の乱れの原因となり、繊維同士の固着や糸切れが発生するおそれがある。
【0067】
エジェクター3により空気牽引された繊維(延伸フィラメント)は、例えば、
図1に示されているように、コンベア4上で捕集され、コンベアが走行することでシート状のウェブが形成される。コンベアの捕集面の内側から吸引することで、ウェブの収縮を低減しやすい。コンベアの作動速度であるラインスピードを変化させることで、溶融紡糸時の吐出量が同じ場合、不織布の目付を調節することができる。ラインスピードを上げることで、目付は小さくなるが、上げすぎるとウェブの収縮や切断が発生するおそれがある。
【0068】
[その他工程]
本発明の製造方法において、前記工程(A)及び(B)以外の工程を含んでいてもよい。
【0069】
工程(B)で得られたウェブを、不織布の形状固定化、薄膜化、賦形することを目的して、前記ウェブを、加圧する工程(C)を含んでいることが好ましい。
【0070】
前記工程(C)では、工程Bで得られたウェブを加圧処理する。加圧方法としては、例えば、上下一対のロール表面にそれぞれ彫刻が施されたエンボスロールや、片方のロール表面がフラット(平滑)なロールと他方のロール表面に彫刻が施されたロールの組み合わせからなるエンボスロール、上下一対のフラット(平滑)ロールの組み合わせからなる熱カレンダーロールなど各種ロールによる加圧や、不織ウェブの厚み方向に熱風を通過させるエアスルー方式を適用することが出来る。中でも機械的強度を向上させながら適度な通気性も保持できるエンボスロールを用いた加圧を好ましく採用することができる。
【0071】
工程Cにおける加圧処理温度、即ち、加圧ロールの表面温度は、[ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の結晶化温度(Tc)-50℃]未満の温度が好ましい。なお、Tcは、後述の方法で測定されるP3HAの結晶化温度である。加圧処理温度をこの温度範囲にすることで、P3HAを含む原料組成物からなる繊維を不織布の形状を保つことができるとともに、シートの剥離や毛羽の発生を抑えることができる。一方、この温度範囲外で加圧すると、熱による強度の低下や、繊維が固化できず、ロールに張り付く以外に、不織布の形が維持できず、不織布が収縮したり破れたりする傾向がある。
【0072】
加圧に必要な圧力(ロール間圧力)は、特に限定されないが、形状の保持性などの点で20~60Kg/cmであることが好ましく、より好ましくは30~50Kg/cmである。加圧熱接着ロールの圧力が、20Kg/cmより低い場合、形状の固定化や薄膜化等の効果が十分得られないおそれがある。一方、60Kg/cmより高い場合は、不織布に過剰な応力がかかり、不織布が破断するおそれがある。
【0073】
尚、P3HAの結晶化温度は、以下の装置、条件、方法で測定される温度である。
・測定方法:示差走査熱分析(DSC,Differential Scannning Calorimetry)
・測定装置:日立ハイテックスサイエンス製EXSTAR6000シリーズDSC6200
・測定サンプル:P3HA5~10mgをアルミパンに入れて蓋をしてクリンプしたもの。
・測定条件:25℃から180℃まで10℃/minで昇温したあとに、10℃/minで25℃まで降温する。測定中、窒素ガスを50mL/minを流す。
・結晶化温度の特定:降温過程で見られる発熱ピークを結晶化ピークとし、ピークトップを結晶化温度とする。
【0074】
本発明の実施形態の不織布の製造方法において、工程(A)、工程(B)、工程(C)は、連続的に実施してもよいし、非連続的に実施してもよい。特に工程(A)、工程(B)、工程(C)は連続的に実施することが、より不織布を効率的に製造できる点で好ましい。工程(A)及び(B)を実施する速度は、特に限定されないが、例えば、工程(A)にて繊維を得てから工程(B)が終了するまでの時間を30秒~3分とすることが好ましく、より好ましくは40秒~1分である。
【0075】
本発明の実施形態において、不織布は、例えば、
図1に示す装置で作製することができる。
【0076】
まず、工程(A)にて、P3HAを含む原料組成物を溶融し、紡糸口金1から押し出すことで、溶融紡糸し、繊維a(紡糸フィラメント)を得る。
【0077】
次に、工程(B)にて、繊維aをウェブ化してウェブbを得る。具体的には、まず、繊維aにクエンチ2にて整流風を与える。次に、繊維aをエジェクター3にて空気牽引して、所定の繊度になる(延伸フィラメント)ように牽引細化し、縦方向(MD)に移動するコンベヤ4上に堆積させて長繊維ウェブbを形成する。
【0078】
次に、工程(C)を実施する前に、長繊維ウェブbをコンベア4上に設置した仮止めロール5を通し、加圧ロール6に導く。
【0079】
次に、工程(C)にて、加圧ロール6にて所定の温度で長繊維ウェブbを加圧処理して長繊維不織布cを得る。その後、得られた長繊維不織布cを巻取りロール7にて巻き取る。
【0080】
本実施形態に係るスパンボンド不織布のドラフト比は、ノズル孔の開口面積と繊維の断面積の比(ドラフト比=ノズル孔の開口面積/繊維の断面積の比)であり、350以上であることが好ましい。ドラフト比が350以下であると、単繊維の延伸・配向が不足して、引張強度が低くなりやすく、また、弾性率も低くなる。
【0081】
〔2.スパンボンド不織布〕
本実施形態に係るスパンボンド不織布は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有する樹脂組成物を含み、前記樹脂組成物の165℃でのメルトマスフローレート(MFR)が20g/10min以上650g/10min以下であり、かつ、前記樹脂組成物の重量平均分子量が10万以上25万以下である。
【0082】
本実施形態に係るスパンボンド不織布は、前記〔1.スパンボンド不織布の製造方法〕の項に記載の製造方法により、好適に得ることができる。
【0083】
そのほか、本実施形態に係るスパンボンド不織布に関する各態様(例えば、P3HA系樹脂、MFR、重量平均分子量、3HB単位の含有量の測定方法など)は、前記〔1.スパンボンド不織布の製造方法〕の項に説明したものと同じであるため、当該記載を援用し、ここでは説明を省略する。
【0084】
前記スパンボンド不織布における樹脂組成物の165℃でのメルトマスフローレートが650g/10min以下であり、又は、前記スパンボンド不織布における樹脂組成物の重量平均分子量が10万以上であることにより、スパンボンド不織布の強度及び伸度が高まる。
【0085】
前記スパンボンド不織布における樹脂組成物の165℃でのメルトマスフローレートが20g/10min以上であり、又は、前記スパンボンド不織布における樹脂組成物の重量平均分子量が25万以下であることにより、スパンボンド不織布を作製する際の溶融物の粘度を高めやすくなる。これにより溶融物を延伸させやすくなり、得られるスパンボンド不織布における繊維の繊維径を細くしやすくなる。
【0086】
前記樹脂組成物の165℃でのメルトマスフローレート(MFR)は、好ましくは30g/10min以上650g/10min以下、より好ましくは40g/10min以上600g/10min以下である。
【0087】
前記樹脂組成物の重量平均分子量は、好ましくは10万以上23万以下、より好ましくは11万以上20万以下、さらに好ましくは11万以上18万以下である。
【0088】
本実施形態のスパンボンド不織布にかかる前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、単独重合体及び/又は共重合体を含み、構成単位として3-ヒドロキシブチレートを80モル%以上含有することが好ましい。
【0089】
前記繊維における繊維径の平均値は、5.0~30.0μmであり、好ましくは7.0~20μmである。
【0090】
前記繊維における繊維径の変動係数は、0.36以下であり、好ましくは0.35以下である。また、前記繊維における繊維径の変動係数は、例えば、0.10以上である。
【0091】
前記繊維における繊維径の平均値が7.0μm以上であることにより、スパンボンド不織布による圧力損失が低くなる。
【0092】
前記繊維における繊維径の平均値が7.0μm以上であることにより、スパンボンド不織布の強度及び伸度が高まる。
【0093】
前記繊維における繊維径の変動係数が0.36以下であることにより、極端に太い繊維が少なくなり、その結果、スパンボンド不織布の厚みムラおよび目付ムラが低下する。また、前記繊維における繊維径の変動係数が0.36以下であることにより、極端に細い繊維が少なくなり、その結果、スパンボンド不織布の強度及び伸度が高まる。
【0094】
なお、繊維における繊維径の平均値及び変動係数は、以下のようにして求めることができる。
【0095】
まず、スパンボンド不織布から試験片を取得する。
次に、走査電子顕微鏡で試験片の面において5箇所の写真(1700倍)を撮影する。
そして、1つ写真につき無作為に選択した繊維20本以上の直径(幅)を測定する。
次に、測定した全ての繊維の直径(幅)の値から算術平均値及び変動係数(=標準偏差/算術平均値)を求める。
【0096】
本実施形態に係るスパンボンド不織布の目付は、3g/m2以上100g/m2以下であり、好ましくは5g/m2以上70g/m2以下、より好ましくは5g/m2以上50g/m2以下である。
【0097】
本実施形態に係るスパンボンド不織布の目付が3g/m2以上であることにより、スパンボンド不織布の強度及び伸度が高まる。
【0098】
また、本実施形態に係るスパンボンド不織布の目付が50g/m2以下であることにより、圧力損失が低下し、通液性(通水性等)又は通気性を高めることができる。
【0099】
なお、本実施形態に係るスパンボンド不織布の目付は、以下のようにして求めることができる。
【0100】
まず、本実施形態に係るスパンボンド不織布から試験片を取得する。
試験片の大きさは、例えば100mm×100mm、200mm×200mm等とすることができる。
次に、電子天秤などにより試験片の重量を測定する。
そして、試験片の重量を試験片の面積で除して目付を算出する。
【0101】
また、本実施形態に係るスパンボンド不織布の厚みは、好ましくは0.05~0.40mm、より好ましくは0.10~0.35mmである。
【0102】
本実施形態に係るスパンボンド不織布の厚みが0.10~0.40mmであることにより、スパンボンド不織布を作製する際に、均質なスパンボンド不織布を得やすくなる。
【0103】
また、本実施形態に係るスパンボンド不織布の厚みが0.10mm以上であることにより、スパンボンド不織布の強度及び伸度が高まるとともに、スパンボンド不織布による粒子の捕集効率が高まる。
【0104】
さらに、本実施形態に係るスパンボンド不織布の厚みが0.40mm以下であることにより、スパンボンド不織布の通液性(通水性等)又は通気性を高めることができる。
【0105】
なお、本実施形態に係るスパンボンド不織布の厚みについては、厚み計でスパンボンド不織布の3箇所以上の厚みを測定し、その算術平均値をスパンボンド不織布の厚みとすることができる。
【0106】
厚み計としては、例えば、尾崎製作所社製の「PEACOCK」などが挙げられる。
【0107】
さらに、本実施形態に係るスパンボンド不織布の圧力損失は、好ましくは10Pa/cm2以下、より好ましくは5Pa/cm2以下である。
【0108】
本実施形態に係るスパンボンド不織布の圧力損失が10Pa/cm2以下であることにより、不織布の通液性(通水性等)又は通気性を高めることができる。
【0109】
本実施形態に係るスパンボンド不織布の圧力損失は、JIS T9001:2021「医療用マスク及び一般用マスクの性能要件及び試験方法」に従って求めた圧力損失である。
【0110】
本実施形態に係る目付19~23g/m2の時のスパンボンド不織布のMD方向の引張強さは、好ましくは1.2N/0.8cm幅以上、より好ましくは1.5N/0.8cm幅以上である。上限は特に限定されないが、例えば10N/0.8cm幅以下である。
【0111】
また、本実施形態に係る目付19~23g/m2の時のスパンボンド不織布のCD方向の引張強さは、好ましくは0.5N/0.8cm幅以上、より好ましくは0.8N/0.8cm幅以上である。上限は特に限定されないが、例えば5.0N/0.8cm幅以下である。
【0112】
ここで、MD方向は、スパンボンド不織布を製造する際に、スパンボンド不織布が移動する方向(流れ方向、Machine Direction)である。
【0113】
CD方向は、MD方向に対して垂直な方向である。
【0114】
なお、引張強さは、JIS B7721:2018「引張試験機・圧縮試験機-力計測系の校正方法及び検証方法」に準拠した定速伸長形引張試験機を用いて測定することができる。なお、定速伸長形引張試験機としては、万能試験機(エー・アンド・ディ社製のRTG-1210)等を用いることができる。
【0115】
引張強さは、具体的には以下のようにして求めることができる。
【0116】
まず、スパンボンド不織布から試験片(幅:8mm、長さ:40mm)を切り出す。
次に、試験片を初荷重で引張試験機につかみ間隔を20mmで取り付ける。ただし、初荷重は、試験片を手でたるみが生じない程度に引っ張った状態とする。
そして、20mm/分の引張速度で試験片が切断するまで荷重を加える。
【0117】
前記スパンボンド不織布のCD方向の引張強さに対する、前記スパンボンド不織布のMD方向の引張強さの比(MD引張強さ/CD引張強さ)は、好ましくは1.6以上、より好ましくは1.8以上である。上限は特に限定されないが、10.0以下であってよく、8.0以下であってよく、5.0以下であってもよい。MD引張強さ/CD引張強さが1.6未満である場合は、ノズル幅に対して、不織布の幅方向に収縮が発生し、成形が不良である。
【0118】
次に、下記式により引張強さの1種である単位断面積あたりの最大応力を求める。
単位断面積あたりの最大応力[MPa]=最大荷重(N)÷{ 厚み(mm)×サンプル幅(mm) }
【0119】
本実施形態に係るスパンボンド不織布のMD方向の単位断面積あたりの最大応力は、好ましくは1.0MPa以上10MPa以下、より好ましくは1.5MPa以上8.0MPa以下である。
【0120】
本実施形態に係るスパンボンド不織布のCD方向の単位断面積あたりの最大応力は、好ましくは0.3MPa以上5.0MPa以下、より好ましくは0.7MPa以上3.0MPa以下である。
【0121】
前記スパンボンド不織布のCD方向の単位断面積あたりの最大応力に対する、前記スパンボンド不織布のMD方向の単位断面積あたりの最大応力の比(MD最大応力/CD最大応力)は、好ましくは1.6以上、より好ましくは1.8以上である。上限は特に限定されないが10.0以下であってよく、8.0以下であってよく、5.0以下であってもよい。MD最大応力/CD最大応力が1.6未満である場合は、ノズル幅に対して、不織布の幅方向に収縮が発生し、成形が不良である。
【0122】
次に、伸度と加重による応力曲線の初期の傾きを3~5点プロットして平均して、不織布の弾性率(ヤング率)を求める。
【0123】
本実施形態に係るスパンボンド不織布のMD方向の弾性率(ヤング率)は、好ましくは35MPa以上150MPa以下、より好ましくは40MPa以上100MPa以下である。
【0124】
本実施形態に係るスパンボンド不織布のMD方向のヤング率が35以上であることにより、スパンボンド不織布の伸度が高まり、しわになりにくい。
また、本実施形態に係るスパンボンド不織布のMD方向のヤング率が150以下であることにより、スパンボンド不織布の形状が維持しやすくなり、折り目がつけやすい。
【0125】
本実施形態に係るスパンボンド不織布は、例えば、フィルターの材料やマスク用不織布、熱接着用不織布などとして好適に用いることができる。
【0126】
前記フィルターとしては、飲食物抽出用フィルター(例えば、コーヒードリップ用フィルター、ティーバッグ、出汁粉末用フィルターなど)、血球を捕集する血液フィルター、細胞分離フィルター等が挙げられる。 また、本実施形態に係るスパンボンド不織布は、2枚以上積層されて、フィルターの材料などとして用いられてもよい。
【0127】
前記熱接着用不織布としては、コーヒーカプセル用蓋材などが挙げられる。
【0128】
<積層体>
本実施形態に係る積層体は、第1の不織布と、該第1の不織布の少なくとも片面に積層された第2の不織布とを備える。
【0129】
前記第1の不織布は、本実施形態に係るスパンボンド不織布である。
【0130】
前記第2の不織布は、メルトブローン不織布である。
【0131】
前記メルトブローン不織布の原料としては、ポリプロピレン繊維、ポリ乳酸繊維、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含む繊維などが挙げられる。
【0132】
<マスク>
本実施形態に係るマスクは、本実施形態に係るスパンボンド不織布、又は、本実施形態に係る積層体で形成される。
【0133】
さらに、本実施形態に係るマスクは、使い捨てマスクであってもよい。
【0134】
また、本実施形態に係るマスクは、例えば、本実施形態に係るスパンボンド不織布と、メルトブローン不織布と、本実施形態に係るスパンボンド不織布とがこの順で積層された3層構造を有しており、すなわち、SMSの三層構造を有していてもよい。言い換えれば、前記マスクは、SMSマスクとなっていてもよい。
【0135】
以下の各項目では、本開示における好ましい態様を列挙するが、本発明は以下の項目に限定されるものではない。
[項目1]
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有する原料組成物からスパンボンド不織布を得る製造方法であって、前記製造方法は、
前記原料組成物の加熱溶融物を紡糸口金から吐出し原糸を得る工程(A)と、前記原糸をウェブ化しウェブを得る工程(B)とを含み、
前記原料組成物の165℃でのメルトマスフローレートが20g/10min以上150g/10min以下、かつ、前記原料組成物の重量平均分子量(但し、重量平均分子量とは、クロロホルム溶媒を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー法によるポリスチレン換算の重量平均分子量を指す。以下同じ)が10万以上30万以下である、スパンボンド不織布の製造方法。
[項目2]
前記ウェブを、[ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の結晶化温度(Tc)-50℃]未満の温度で加圧する工程(C)を含む、項目1に記載のスパンボンド不織布の製造方法。
[項目3]
前記原料組成物は、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂100重量部に対して結晶核剤を0.1~2.5重量部含有する、項目1または2に記載のスパンボンド不織布の製造方法。
[項目4]
繊維を含むスパンボンド不織布であって、
前記繊維はポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有する樹脂組成物を含み、
前記樹脂組成物の165℃でのメルトマスフローレートが20g/10min以上650g/10min以下、かつ、
前記樹脂組成物の重量平均分子量が10万以上25万以下である、スパンボンド不織布。
[項目5]
製造時の流れ方向(MD方向)における、単位断面積当たりの最大応力が1.0MPa以上である、項目4に記載のスパンボンド不織布。
[項目6]
前記スパンボンド不織布のCD方向の引張強さに対する、前記スパンボンド不織布のMD方向の引張強さの比(MD引張強さ/CD引張強さ)が、1.6以上である、項目4又は5に記載のスパンボンド不織布。
[項目7]
目付が3~50g/m2未満である、項目4~6の何れかに記載のスパンボンド不織布。
[項目8]
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、単独重合体及び/又は共重合体を含み、構成単位として3-ヒドロキシブチレートを80モル%以上含有する、項目4~7の何れかに記載のスパンボンド不織布。
[項目9]
前記樹脂組成物は、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂100重量部に対して結晶核剤を0.1~2.5重量部含有する、項目4~8の何れかに記載のスパンボンド不織布。
[項目10]
第1の不織布と、該第1の不織布の少なくとも片面に積層された第2の不織布とを備える、積層体であって、
前記第1の不織布が、項目4~9の何れかに記載のスパンボンド不織布であり、
前記第2の不織布が、メルトブローン不織布である、積層体。
[項目11]
項目4~9の何れかに記載のスパンボンド不織布、又は、項目10に記載の積層体で形成された、マスク。
[項目12]
項目4~9の何れかに記載のスパンボンド不織布で形成された、飲食物抽出用フィルター。
[項目13]
項目4~9の何れか記載のスパンボンド不織布で形成された、熱接着用不織布。
【実施例0136】
次に、実施例、及び、比較例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0137】
下記材料を用意した。
<実施例及び比較例で使用した化合物>
[ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂]
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂(P3HA)として、以下のポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HH)を使用した。
P3HB3HH-1:P3HB3HH(平均含有割合:3HB/3HH=95.0/5.0(モル%/モル%)、重量平均分子量(Mw):19.5万、MFR:72、結晶化温度(Tc)=82℃)、国際公開第2019/142845号の実施例1の方法に準拠して製造して得られた樹脂を高度加速寿命試験装置(ESPEC社製、EHS-222MD)を用いて高温多湿下(温度:120℃、湿度:100%)で処理することにより、得た。
P3HB3HH-2:P3HB3HH(平均含有割合:3HB/3HH=94.6/5.4(モル%/モル%)、重量平均分子量(Mw):35万、MFR:5、結晶化温度(Tc)=80℃)、国際公開第2019/142920の方法に準拠して製造して得られた。
[添加剤]
添加剤-1:ペンタエリスリトール[三菱ケミカル社製:ノイライザーP]
添加剤-2:エルカ酸アミド(日本精化者製:ニュートロンS)
添加剤-3:ベヘン酸アミド(日本精化社製:BNT-22H)
各実施例および比較例において、各種評価は下記の方法により実施した。
【0138】
<P3HAの重量平均分子量の測定>
P3HAの重量平均分子量は、まず、クロロホルムに測定対象の樹脂を溶解させて60℃の温水槽中で0.5時間加温し、可溶分をPTFE製0.45μm孔径ディスポーザーブルフィルターにてろ過した後、そのろ液を用いて、以下の条件でGPC測定を行うことにより測定し、重量平均分子量の値を求めた。
GPC測定装置:島津製作所製Nexera シリーズGPCシステム
カラム:本体カラム:東ソー社製TSK-GEL GMHXL 16141(2本)、
ガードカラム:TSK-GUARDCOLUMN H(1本)
(本体:カラム長:300mm、カラム内径:7.8mm、ガードカラム:カラム長:40mm、カラム内径:6.0mm)
カラム入口圧:1.5MPa
試料濃度:3mg/ml
遊離液:HPLC用クロロホルム
遊離液流量:1.0ml/分
試料注入量:100μL
分析時間:30分
標準試料:標準ポリスチレン
【0139】
<P3HAの結晶化温度(Tc)の測定>
P3HAの結晶化温度(Tc)、及び融点は、示差走査熱分析(DSC,Differential Scannning Calorimetry)により測定した。装置は日立ハイテックスサイエンス製EXSTAR6000シリーズDSC6200を用いた。P3HB3HH5~10mgをアルミパンに入れて蓋してクリンプしたものを測定サンプルとした。温度条件は25℃から180℃まで10℃/minで昇温したあとに、10℃/minで25℃まで降温する条件とした。測定中、窒素ガスを50mL/minを流した。昇温過程で見られる吸熱ピークを融解ピークとし、そのピークトップ温度を融点とした。降温過程で見られる発熱ピークを結晶化ピークとし、そのピークトップ温度を結晶化温度(Tc)とした。
【0140】
<原料組成物および樹脂組成物のメルトマスフローレート(MFR)の測定>
原料組成物の165℃でのメルトマスフローレート(MFR)は以下のように求めた。
ASTM-D1238(ISO1133-1、JIS K7210-1:2011)のB法で原料組成物の165℃でのメルトボリュームフローレート(MVR)を求め、原料組成物の165℃でのメルトボリュームフローレート(MVR)及び原料組成物の密度から、原料組成物の165℃でのメルトマスフローレート(MFR)を求めた。
また、原料組成物の165℃でのメルトボリュームフローレート(MVR)は、原料組成物5g以上を165℃で4分間加熱した後、加熱した原料組成物に5kgの荷重をかけて測定した。
樹脂組成物については原料組成物を樹脂組成物に置き換えて測定した。
【0141】
<スパンボンド不織布の目付量と繊維径の測定>
得られた不織布はJIS L 1096に基づき、25×20cmの試験片にカットし、重さを測定し、面積当たりの重さを5回測定し、平均化した値を目付とした。不織布の光学顕微鏡の観察を行い、繊維の直径(糸径)を測定した。
【0142】
<スパンボンド不織布のCD方向及びMD方向の最大荷重(引張強さ)及び伸度>
スパンボンド不織布について、CD方向及びMD方向の最大荷重及び伸度を測定した。
なお、CD方向及びMD方向の最大荷重及び伸度は、JIS B7721:2018「引張試験機・圧縮試験機-力計測系の校正方法及び検証方法」に準拠した定速伸長形引張試験機を用いて測定した。
なお、定速伸長形引張試験機としては、万能試験機(エー・アンド・ディ社製のRTG-1210)等を用いた。
まず、スパンボンド不織布から試験片(幅:8mm、長さ:40mm)を切り出した。
次に、試験片を初荷重で引張試験機につかみ間隔を20mmで取り付けた。ただし、初荷重は、試験片を手でたるみが生じない程度に引っ張った状態とした。
そして、20mm/分の引張速度で試験片が切断するまで荷重を加え、CD方向及びMD方向の最大荷重及び伸度を測定した。
最大荷重を本発明における引張強さとした。
【0143】
<スパンボンド不織布の単位断面積あたりの最大応力>
上記で求めた最大荷重、サンプル厚み、サンプル幅から下記式にて求めた。
単位断面積あたりの最大応力[MPa]=最大荷重(N)÷{ 厚み(mm)×サンプル幅(mm
<スパンボンド不織布の圧力損失>
スパンボンド不織布による圧力損失を測定した。
圧力損失は、JIS T9001:2021「医療用マスク及び一般用マスクの性能要件及び試験方法」に従って測定した。
【0144】
<スパンボンド不織布の弾性率(ヤング率)>
引張試験での伸度と加重による応力曲線の初期の傾きを3~5点プロットして平均し、不織布の弾性率(ヤング率)を求めた。
【0145】
(実施例1~13)
P3HB3HH-1(100重量部)に対して、結晶核剤としてペンタエリスリトール(日本合成化学社製のノイライザーP)1重量部と、東芝機械社製の2軸押出機(TEM26SS)を用いて130~160℃で溶融混錬してペレット状の原料組成物(平均含有割合:3HB/3HH=95.0/5.0(モル%/モル%)、重量平均分子量(Mw):19.5万、MFR:72、結晶化温度(Tc)=82℃)を得た。得られた当該原料組成物を、スクリュー径20mmの1軸押出機で溶融し、ギアポンプで流量を調整し、表1に示すように、溶融紡糸温度170℃で、直径が0.3mmの紡糸孔を815個有する紡糸ダイスから表1に記載の吐出量で押し出し、25℃の冷却空気流を用いて冷却した後、エジェクターにて表1に記載の圧力で延伸させ、移動するコンベヤ上に堆積させてウェブを形成した。その後、このウェブを引き続いて表1に記載のラインスピードと加圧ロールにて加圧成形した。得られたスパンボンド不織布の各種物性を測定し、表1に示した。
【0146】
上記で不織布の製造に用いた装置の概略図を
図1に示した。
【0147】
(比較例1~11)
P3HB3HH-1の代わりにP3HB3HH-2を使用し、結晶核剤としてペンタエリスリトール1.5重量部、滑剤としてエルカ酸アミド0.5重量部およびベヘン酸アミド0.5重量部を溶融混錬してペレット状の原料組成物(平均含有割合:3HB/3HH=94.6/5.4(モル%/モル%)、重量平均分子量(Mw):35万、MFR:5、結晶化温度(Tc)=80℃)を得た。得られた当該原料組成物を、表2に示す条件で、実施例1と同様にして実施した。得られたスパンボンド不織布の各種物性を測定し、表2に示した。
【0148】