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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175271
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/02 20120101AFI20241211BHJP
   B60W 40/06 20120101ALI20241211BHJP
【FI】
B60W30/02
B60W40/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092921
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野塚 友也
(72)【発明者】
【氏名】豊田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】島崎 美鈴
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA15
3D241BA18
3D241BB24
3D241CA16
3D241CC17
3D241CC18
3D241CE01
3D241CE02
3D241CE04
3D241CE05
3D241CE09
3D241DA54Z
3D241DB02Z
3D241DB13Z
3D241DB15Z
3D241DB16Z
3D241DB26Z
3D241DB32Z
3D241DC49Z
(57)【要約】
【課題】計算の負荷を低減して車両の挙動を予測することができる車両制御装置を提供すること。
【解決手段】車両制御装置10は、路面Rの状態を表す路面情報Irを取得する路面情報取得部11と、制御入力を用いて車両Mの挙動を予測する予測部12と、を含んで構成される。予測部12は、複数の制御入力候補の各々を車両Mの二次元的な挙動を表現可能な簡易モデルに適用して、それぞれの簡易モデルが路面Rを走行したと仮定した場合における車輪の走行軌跡を予測する。又、予測部12は、路面情報取得部11から取得した路面情報Irに基づいて、各々の走行軌跡に沿った路面プロファイルを取得する。そして、予測部12は、路面プロファイルに起因して変化する車輪の路面Rに対する接地性及び簡易モデルにおける乗り心地を評価することにより、簡易モデルに適用した複数の制御入力候補のうちから特定の制御入力候補を抽出して選定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の進行方向前方の路面の状態を表す路面情報を取得する路面情報取得部と、
前記車両の制御に関連して入力可能な制御入力を用いて前記車両の挙動を予測する予測部と、を含んで構成され、
前記予測部は、
前記路面情報取得部から前記路面情報を取得し、
前記制御入力になり得る複数の制御入力候補の各々を前記車両の二次元的な挙動を表現可能な簡易モデルに適用して、それぞれの前記簡易モデルが前記路面を走行したと仮定した場合における前記簡易モデルの車輪の走行軌跡を予測し、
前記路面情報に基づいて、各々の前記制御入力候補に対応する前記走行軌跡に沿った前記路面の路面変位を表す路面プロファイルを取得し、
前記路面プロファイルに起因して変化する前記車輪の前記路面に対する接地性及び前記簡易モデルにおける乗り心地を評価することにより、前記簡易モデルに適用した複数の前記制御入力候補のうちから特定の前記制御入力候補を抽出して選定する、
車両制御装置。
【請求項2】
前記予測部は、選定した前記制御入力候補を前記車両の三次元的な挙動を表現可能な詳細モデルに適用して、前記車両の挙動である三次元車両運動を予測する、
請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記予測部は、選定した前記制御入力候補について、前記接地性及び前記乗り心地が良好である順に順位付けする、
請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記予測部は、順位付けした前記制御入力候補の順位上位から順に前記車両の挙動を表現する詳細モデルに適用して前記車両の三次元車両運動を予測する、
請求項3に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記予測部は、予測した前記車両の挙動が所定状態に至らない前記制御入力候補を最終的に前記制御入力として決定する、
請求項1-4の何れか一項に記載の車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、特許文献1に開示された車両制御装置が知られている。従来の車両制御装置は、モデル予測制御において、計算負荷を抑制するために、予測点の間隔を車両の近位から遠位に向けて増加するように設定する。そして、従来の車両制御装置では、車両の近位側の予測点の重みよりも遠位側の予測点の重みの方が小さく設定することにより、運転者に違和感を与えることのない予測走行経路を算出するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-172095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両がオフロードを走行する際、舗装された路面と比較して路面変位に伴う路面入力が大きくなる。これにより、車両においては、接地性の悪化や乗り心地の悪化を招くと共に、転倒リスクや横滑りリスク等の増加が予想される。このため、例えば、従来の車両制御装置でも行うモデル予測制御において、車両の挙動を計算して予測し、接地性や乗り心地、転倒リスク等を予め評価することにより、より安全な走行が可能になると考えられる。
【0005】
しかしながら、従来の車両制御装置は、モデル予測制御において、予測走行経路を算出する際に路面の形状に関する路面情報を加味していない。又、モデル予測制御において、例えば、車両の制御に関連する全ての制御入力に対して車両の挙動を計算して予測することは、計算の負荷が高くなって現実的ではない。
【0006】
本発明の目的は、計算の負荷を低減して車両の挙動を予測することができる車両制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車両制御装置は、路面情報取得部と、予測部と、を含んで構成される。路面情報取得部は、車両の進行方向前方の路面の状態を表す路面情報を取得する。予測部は、車両の制御に関連して入力可能な制御入力を用いて車両の挙動を予測する。本発明の車両制御装置においては、予測部は、路面情報取得部から路面情報を取得する。又、予測部は、制御入力になり得る複数の制御入力候補の各々を車両の挙動を表現する簡易モデルに適用して、それぞれの簡易モデルが路面情報によって表される路面を走行したと仮定した場合における簡易モデルの車輪の走行軌跡を予測する。そして、予測部は、路面情報に基づいて、各々の制御入力候補に対応する走行軌跡に沿った路面の路面変位を表す路面プロファイルを取得し、路面プロファイルに起因して変化する車輪の路面に対する接地性及び簡易モデルにおける乗り心地を評価することにより、簡易モデルに適用した複数の制御入力候補のうちから特定の制御入力候補を抽出して選定する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、予測部は、車両の簡易モデルを用いて路面プロファイルを取得して予め接地性及び乗り心地を評価することにより、制御入力候補を絞り込むことができる。そして、予測部は、絞り込んだ特定の制御入力候補を用いて車両の挙動を計算して予測することができる。従って、例えば、全ての制御入力を用いて車両の全ての挙動を計算する場合に比べ、制御入力の数を絞ることによって計算の回数を減らすことができるため、予測部は、計算の負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の車両及び車両制御装置の概略的な構成図である。
図2】簡易モデルにおける走行軌跡を説明するための図である。
図3】簡易モデルにおけるばね上及びばね下の鉛直方向の挙動を説明するための図である。
図4図1の予測部によって実行される制御入力決定プログラムのフローチャートである。
図5図1の予測部によって実行される制御入力候補選定ルーチンのフローチャートである。
図6】ばね上及びばね下の変位の周波数特性とばね上及びばねの加速度の周波数特性とを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態である車両制御装置10を、図面を参照しながら詳しく説明する。尚、本発明は、以下に説明する実施形態の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施できる。
【0011】
図1に示すように、車両Mは、車体1と、前後左右にそれぞれ配置された車輪2と、車体1及び各々の車輪2を支持するサスペンション装置3を有し、例えば、自動運転による走行が可能な車両である。ここで、車両Mは、左右前輪(車輪2)に加え左右後輪(車輪2)が転舵されても良いし、左右前後の各車輪2が独立して転舵されても良い。又、車両Mには、センサ群4が搭載されている。センサ群4は、例えば、図示を省略する前輪側転舵装置のアクチュエータの駆動によって左右前輪が転舵したときの前輪側転舵角δfを検出する前輪側転舵角センサを含むことができる。
【0012】
又、センサ群4は、図示を省略する後輪側転舵装置のアクチュエータによって左右後輪が転舵したときの後輪側転舵角δrを検出する後輪側転舵角センサを含むことができる。更に、センサ群4は、前後左右のそれぞれの車輪2の車輪速度を検出する車輪側センサを含むことができる。尚、車速Vは、各々の車輪速度を用いて算出することができる。
【0013】
車両制御装置10は、図1に示すように、車両Mに搭載される。車両制御装置10は、CPU、ROM、RAM、各種インターフェースを有するマイクロコンピュータを主要構成部品とし、車両Mに搭載された他の制御装置等(図示省略)と通信可能に構成されている。車両制御装置10は、路面情報取得部11と、予測部12と、を含んで構成される。
【0014】
路面情報取得部11は、車両Mの進行方向前方の路面Rの状態を表す路面情報Irを取得する。路面情報取得部11は、例えば、ステレオカメラ及び/又はライダー(LiDAR:Light Detection And Ranging, or Laser imaging Detection And Ranging)等を備えており、車両Mの進行方向前方の路面Rの凹凸やうねり、轍等、即ち、路面Rの所定基準位置Bからの高さH(後述の図3を参照)である路面変位を含む路面情報Irを取得する。
【0015】
尚、路面情報取得部11は、例えば、地図情報と、地図情報に関連付けられた路面情報Irとを含む路面情報マップを予め記憶していて、進行方向と路面情報マップと車両Mの位置情報とに基づいて、車両MがXメートル進んだときの又はt秒後の路面情報Irを取得することもできる。又、路面情報取得部11は、GNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)の受信機を備えていて、例えば、自動運転によって走行している車両Mの位置情報に基づいて、外部(例えば、管制システムやクラウドサーバ等)から路面情報Irを取得することもできる。
【0016】
予測部12は、路面情報取得部11から路面情報Irを取得する。又、予測部12は、後に詳述するように、車両Mの制御に関連して入力可能な複数の制御入力を一組とする制御入力候補として選定し、選定した制御入力候補を用いて車両の挙動を予測する。ここで、予測部12は、制御入力候補を選定する場合、図2及び図3に示すように、制御入力になり得る複数の制御入力候補の各々を車両Mの二次元的な挙動を表現可能な簡易モデル20(例えば、二次元モデル)に適用する。予測部12は、簡易モデル20が路面情報Irによって表される路面Rを走行したと仮定した場合の簡易モデル20の前後二輪の車輪22の走行軌跡Rtを予測する。そして、予測部12は、各々の制御入力候補に対応する走行軌跡Rtに沿ったそれぞれの路面Rの路面変位を表す路面プロファイルを取得する。
【0017】
このように、簡易モデル20を用いて路面プロファイルを取得(抽出)することにより、予測部12は、例えば車両Mの4つの車輪2の走行軌跡を計算する場合に比べて、計算負荷を低減することができる。尚、予測部12は、走行軌跡Rtを予測する場合、換言すれば、水平面内における走行軌跡Rtを予測する場合、簡易モデル20として、図2に示す等価二輪モデル(線形二輪モデル)を用いることができる。又、予測部12は、後述するように、ばね上及びばね下の変位及び加速度等を予測する場合、換言すれば、鉛直方向の挙動(運動)を予測する場合、簡易モデル20として、図3に示す二自由度系の二輪モデルを用いることができる。
【0018】
又、予測部12は、簡易モデル20において、路面プロファイル(路面変位)に起因して変化する車輪22の路面Rに対する接地性及び車体21における乗り心地の良好な特定の制御入力候補を、簡易モデル20に適用した複数の制御入力候補のうちから抽出して選定する。更に、予測部12は、選定した特定の制御入力候補について、簡易モデル20における車輪22の接地性及び車体21における乗り心地が良好である順に順位を付ける。
【0019】
そして、予測部12は、選定して順位付けした制御入力候補を順位上位から順に、車両Mの三次元的な挙動を表現可能な詳細モデル(例えば、三次元モデル)に適用して、車両Mの三次元車両運動を予測する。更に、予測部12は、予測した三次元車両運動に基づき、車両Mの挙動が所定状態に至らない制御入力候補を最終的な制御入力として決定する。
【0020】
これにより、予測部12は、接地性及び乗り心地が良好となるように数を絞り込んだ制御入力候補について三次元車両運動を予測することができる。このため、予測部12は、計算回数を減らして計算負荷を低減できるようになっている。更には、予測部12は、制御入力候補を順位上位から順に用いて三次元車両運動を予測する。これにより、予測部12は、接地性及び乗り心地が良好、且つ、車両Mの挙動が所定状態に至らない制御入力を早期に、即ち、少ない計算回数で決定して計算負荷を低減できるようになっている。
【0021】
次に、図4に示すフローチャートを参照して、予測部12(より詳しくは、予測部12を構成するマイクロコンピュータ)が実行する制御入力決定プログラムを説明する。予測部12は、ステップS10にて制御入力決定プログラムの実行を開始する。
【0022】
続くステップS11において、予測部12は、路面情報取得部11から車両の進行方向前方(図1にて矢印で示す方向)における路面情報Irを取得する。即ち、予測部12は、路面情報取得部11によって検出された車両Mの進行方向前方の路面Rの路面変位(図3の高さHに相当)を含む路面情報Irを取得する。
【0023】
続くステップS12において、予測部12は、図5に示す「制御入力候補選定ルーチン」を実行する。制御入力候補選定ルーチンは、図2及び図3に示すように、車両Mの二次元的な挙動を表現する簡易モデル20を用いて、接地性が良く且つ乗り心地が良い制御入力を複数個選定すると共に各々の制御入力に順位付けするルーチンである。
【0024】
ここで、以下の説明において、「ばね上」とは、車両Mのサスペンション装置3によって支持される車体1側、及び、簡易モデル20のサスペンション装置23によって支持される車体21側を意味する。又、以下の説明において、「ばね下」とは、車両Mのサスペンション装置3によって支持される車輪2側、及び、簡易モデル20のサスペンション装置23によって支持される車輪22側を意味する。
【0025】
予測部12は、制御入力候補選定ルーチンをステップS100にて実行を開始する。そして、予測部12は、続くステップS101にて、車両Mにおいて設定可能な複数の制御入力からなる制御入力候補の各々を区別する変数jの値を「1」に設定する(j=1,2,…,N)。ここで、制御入力候補は、図1に示すように、センサ群4から取得可能な、例えば前輪側転舵角δfや後輪側転舵角δr、車速V等の制御入力を含み、制御入力候補数としてN個設定される。
【0026】
予測部12は、続くステップS102にて、j番目の制御入力候補を構成するそれぞれの制御入力を簡易モデル20に適用し、前後二輪の車輪22の位置における時系列の走行軌跡Rt(以下、単に「車輪位置の走行軌跡Rt」とも称呼する。)を計算して予測する。これにより、予測部12は、図2及び図3に示すように、簡易モデル20が路面情報Irによって表される路面Rを走行することを仮定した場合において、簡易モデル20の「車輪位置の走行軌跡Rt」を計算することができる。
【0027】
予測部12は、続くステップS103において、「車輪位置の走行軌跡Rt」に沿った時系列の路面プロファイルを計算する。つまり、予測部12は、ステップS103において、図3に示すように、車体21及び車輪22を上下方向に移動させる路面Rの凹凸即ち路面変位を時系列で表した路面プロファイルを計算する。
【0028】
具体的に、予測部12は、上述したように、前記ステップS11にて路面情報Irを取得している。このため、予測部12は、「車輪位置の走行軌跡Rt」に対応する、換言すれば、各車輪22が通過する位置における路面変位を時系列の路面プロファイルとして抽出して計算する。
【0029】
予測部12は、続くステップS104にて、時系列の路面プロファイルをフーリエ変換する。即ち、予測部12は、時系列の路面プロファイル、換言すれば、時間領域の路面変位をフーリエ変換することにより、周波数領域の路面プロファイル、つまり、周波数領域の路面変位に変換する。以下、変換した周波数領域の路面変位を「路面変位の周波数特性」と称呼する。
【0030】
予測部12は、続くステップS105にて、簡易モデル20における実際のばね上及びばね下の周波数特性を計算する。上述したように、簡易モデル20が路面プロファイルによって表される路面Rを走行することを想定した場合、各車輪22が路面Rの凹凸等を通過することにより、ばね上(車体21)及びばね下(車輪22)の挙動として路面変位に対する変位及び加速度が得られる。即ち、この場合は、「路面変位の周波数特性」を含んだばね上及びばね下の周波数特性が得られることになる。
【0031】
ここで、路面Rに対する車輪22の接地性の良否及び車体21における乗り心地の良否を評価する場合、「路面変位の周波数特性」の影響が除外される必要がある。つまり、接地性及び乗り心地の良否の評価においては、ばね上(車体21)及びばね下(車輪22)の各々について実際の、換言すれば、純粋な変位及び加速度の周波数特性が用いられる必要がある。
【0032】
このため、予測部12は、図6に示すように、例えば、実験的に算出可能な路面変位に対するばね上及びばね下の変位の周波数特性(以下、単に「変位/路面変位の周波数特性」と称呼する。)を算出する。又、予測部12は、例えば、実験的に算出可能な路面変位に対するばね上及びばね下の上下方向の加速度の周波数特性(以下、単に「加速度/路面変位の周波数特性」と称呼する。)を計算する。尚、加速度については、変位を二階微分することによっても計算することができる。
【0033】
そして、予測部12は、図6に示すように、計算した「変位/路面変化の周波数特性」と「路面変位の周波数特性」とを乗算する。これにより、予測部12は、路面変位の影響が除外されて実際に簡易モデル20に生じるばね上及びばね下の純粋な変位の周波数特性(以下、単に、「実際の変位の周波数特性」と称呼する。)を計算することができる。
【0034】
同様に、予測部12は、計算した「加速度/路面変位の周波数特性」と「路面変位の周波数特性」とを乗算する(掛け合わせる)。これにより、予測部12は、路面変位の影響が除外されて実際に簡易モデル20に生じるばね上及びばね下の純粋な加速度の周波数特性(以下、単に、「実際の加速度の周波数特性」と称呼する。)を計算することができる。
【0035】
続いて、予測部12は、ステップS106において、接地性及び乗り心地を評価するために、「実際の変位の周波数特性」及び「実際の加速度の周波数特性」について、共振周波数付近のパーシャルオーバーオールを計算する。具体的に、図6の「実際の変位の周波数特性」において太い実線の四角により囲んで示すように、予測部12は、ばね上及びばね下の共振周波数付近に指定した所定の周波数範囲内のパワーの総和であるパーシャルオーバーオールを計算する。
【0036】
同様に、図6の「実際の加速度の周波数特性」において太い実線の四角により囲んで示すように、予測部12は、ばね上及びばね下の共振周波数付近に指定した所定の周波数範囲のパワーの総和であるパーシャルオーバーオールを計算する。そして、予測部12は、計算したばね上及びばね下の変位のパーシャルオーバーオールの値、及び、ばね上及びばね下の加速度のパーシャルオーバーオールの値を変数jと紐づけて、ステップS107の処理を実行する。
【0037】
ステップS107においては、予測部12は、変数jの値が、制御入力候補数Nになったか否かを判定する。即ち、予測部12は、変数jの値が値Nになっていれば、換言すれば、N個全ての制御入力候補について、パーシャルオーバーオールを計算していれば、ステップS107にて「Yes」と判定し、ステップS108の処理を実行する。
【0038】
ステップS108において、予測部12は、ばね上及びばね下の各々についてN個ずつ計算した「変位のパーシャルオーバーオールの値」及び「加速度のパーシャルオーバーオールの値」について、値が小さい順に上位からK個選定する(K<N)。以下、選定したK個の「変位のパーシャルオーバーオールの値」及び「加速度のパーシャルオーバーオールの値」のそれぞれに対する処理を説明する。尚、「変位のパーシャルオーバーオールの値」及び「加速度のパーシャルオーバーオールの値」は、値が小さいほど、接地性及び乗り心地が良好であると評価することができる。
【0039】
予測部12は、N個の「ばね上の変位のパーシャルオーバーオールの値」、及び、N個の「ばね下の変位のパーシャルオーバーオールの値」について、各々小さい順にK個選定する。そして、予測部12は、順位付けしたK個の「ばね上の変位のパーシャルオーバーオールの値」の各々に対応する制御入力、及び、順位付けしたK個の「ばね下の変位のパーシャルオーバーオールの値」の各々に対応する制御入力を特定の「制御入力候補」として選定する。
【0040】
又、予測部12は、選定したK個の特定の「制御入力候補」について、各々に対応する「ばね上の変位のパーシャルオーバーオールの値」、及び、「ばね下の変位のパーシャルオーバーオールの値」が小さい順に順位を付ける。これにより、予測部12は、ばね上及びばね下の変位に関して、選定した特定の「制御入力候補」に順位付けすることができる。
【0041】
又、予測部12は、N個の「ばね上の加速度のパーシャルオーバーオールの値」、及び、N個の「ばね下の加速度のパーシャルオーバーオールの値」について、各々小さい順にK個選定する。そして、予測部12は、順位付けしたK個の「ばね上の加速度のパーシャルオーバーオールの値」の各々に対応する制御入力、及び、順位付けしたK個の「ばね下の加速度のパーシャルオーバーオールの値」の各々に対応する制御入力を特定の「制御入力候補」として選定する。
【0042】
又、予測部12は、選定したK個の特定の「制御入力候補」について、各々に対応する「ばね上の加速度のパーシャルオーバーオールの値」、及び、「ばね下の加速度のパーシャルオーバーオールの値」が小さい順に順位を付ける。これにより、予測部12は、ばね上及びばね下の加速度に関して、選定した特定の「制御入力候補」に順位付けすることができる。
【0043】
ここで、一般に、車両M(簡易モデル20も含む)については、ばね下である車輪2(車輪22)の共振周波数付近の変位が小さいほど、接地性が良いと評価することができる。又、一般に、車両M(簡易モデル20も含む)については、ばね上である車体1(車体21)の共振周波数付近の加速度が小さいほど、乗り心地が良いと評価することができる。従って、予測部12は、前記ステップS106において、ばね上の変位に関する選定及び順位付け、及び、ばね下の加速度に関する選定及び順位付けを省略できる。
【0044】
一方、予測部12は、前記ステップS107にて、変数jの値が値Nでなければ、「No」と判定して、ステップS109の処理を実行する。ステップS109においては、予測部12は、変数jを「1」だけインクリメントする。そして、予測部12は、「j+1」番目の制御入力候補を用いて前記ステップS102以降の各ステップ処理を実行する。
【0045】
予測部12は、前記ステップS108にてN個の「制御入力候補」からK個の特定の「制御入力候補」を選定すると共に順位付けすると、ステップS110にて「制御入力候補選定ルーチン」の実行を終了する。そして、予測部12は、再び、「制御入力決定プログラム」の前記ステップS12に戻り、ステップS13以降の各ステップ処理を実行する。
【0046】
予測部12は、「制御入力決定プログラム」のステップS13にて、選定したK個の特定の「制御入力候補」を区別するための変数iの値を「1」に設定する(i=1,2,…,K)。そして、予測部12は、ステップS14の処理を実行する。
【0047】
ステップS14においては、予測部12は、車両Mの挙動を表現する詳細モデルを用いて車両Mの三次元車両運動を予測する。三次元車両運動を予測するに当たり、予測部12は、K個の「制御入力候補」について、順位上位からi番目の「制御入力候補」を取得する。
【0048】
そして、予測部12は、取得したi番目の「制御入力候補」、例えば、前輪側転舵角δfや、後輪側転舵角δr、車速V等を状態変数として用いて、車両Mに発生するロール挙動や、ピッチ挙動、ヒーブ(バウンシング)挙動、ヨー挙動等の三次元車両運動を予測する。尚、三次元車両運動の予測については、例えば、三次元運動方程式や特性方程式を用いた予測(シミュレーション)等の周知の計算方法を採用することができるため、説明を省略する。
【0049】
続いて、予測部12は、ステップS15において、予測した三次元車両運動に基づいて、車両の運動挙動や車両の走行挙動等を含む車両の挙動の所定状態を評価する。ここで、車両の挙動の所定状態としては、車両Mがオフロードを走行する際に転倒する状態を例示することができる。
【0050】
この場合、予測部12は、転倒が生じる可能性を表す転倒リスクの大きさを評価する。尚、転倒リスクの大きさについては、例えば、車両の重心位置における重力及び慣性力の合力が向く方向と地面との交点として表されるゼロモーメントポイント(ZMP)と任意に設定された支持多角形を形成する辺との位置関係(ZMPと辺との距離等)に基づいて評価する。
【0051】
又、車両の挙動の所定状態としては、車両Mがオフロードを走行する際に横滑りする状態を例示することができる。この場合、予測部12は、横滑りが生じる可能性を表す横滑りリスクの大きさを評価する。尚、横滑りリスクの大きさについては、例えば、車両Mの旋回走行時において予測されるタイヤせん断方向の力の大きさと摩擦円の大きさとの関係に基づいて評価する。
【0052】
更に、車両の挙動の所定状態としては、車両Mが自動運転等によって目標走行経路を走行する状態を例示することができる。この場合、予測部12は、目標走行経路と、例えば制御入力に基づいて予測される車両Mの走行予測経路と、の差を表す経路ずれリスクの大きさを評価する。尚、経路ずれリスクについては、目標走行経路と走行予測経路との離間距離や経路長の差によって評価する。
【0053】
尚、本実施形態において、予測部12は、車両の挙動の所定状態として、転倒リスク、横滑りリスク及び経路ずれリスクの各々を評価する場合を例示する。しかしながら、必要に応じて、予測部12が車両の挙動の所定状態として評価する項目は、増減したり適宜変更したりすることが可能であることは言うまでもない。
【0054】
例えば、予測部12は、車両の挙動の所定状態として、転倒リスクのみを評価したり、横滑りリスクのみを評価したり、経路ずれリスクのみを評価したりすることができる。或いは、予測部12は、車両の挙動の所定状態として、転倒リスク及び横滑りリスクを評価したり、転倒リスク及び経路ずれリスクを評価したり、横滑りリスク及び経路ずれリスクを評価したりすることができる。
【0055】
更には、予測部12は、車両の挙動の所定状態として、例示した転倒リスク等以外のリスクや評価項目について評価することも勿論可能である。この場合、予測部12は、例えば、轍を走行する際に車両Mのヒーブ(バウンシング)挙動や車両Mのヨー挙動等の発生リスクを評価項目として例示することができる。
【0056】
続くステップS16においては、予測部12は、リスク評価結果に基づいて、例えば、車両Mがオフロード走行する際に、車両Mに転倒及び横滑りが発生するか否かを判定する。或いは、予測部12は、例えば、車両Mがオンロード走行する際に、車両Mに経路ずれが発生するか否かを判定する。即ち、予測部12は、予測した車両Mの挙動が所定状態に至るか否かを判定する。
【0057】
具体的に、予測部12は、転倒が発生するか否かを判定する場合、ZMPが支持多角形の内部に位置し続ければ車両Mが転倒しないため、「No」と判定してステップS17の処理を実行する。或いは、予測部12は、横滑りが発生するか否かを判定する場合、タイヤせん断方向の力の大きさが摩擦円を超えていなければ車両Mが横滑りしないため、「No」と判定してステップS17の処理を実行する。
【0058】
更には、予測部12は、車両Mに経路ずれが発生するか否かを判定する場合、目標走行経路と走行予測経路との離間距離や経路長の差が所定距離未満であれば車両Mが経路ずれしていないため、「No」と判定してステップS17の処理を実行する。即ち、予測部12は、ステップS16にて、車両Mの挙動が所定状態に至らない場合に限り、「No」と判定してステップS17の処理を実行する。
【0059】
前記ステップS16にて「No」と判定した場合、換言すれば、車両Mの挙動が所定状態に至らない場合、予測部12は、ステップS17において、転倒リスク等を生じないi番目の特定の「制御入力候補」を最終的に「制御入力」として決定する。ここで、予測部12は、上述したように、K個の特定の「制御入力候補」に付けられた順位上位、即ち、接地性及び乗り心地が良好な順に「制御入力候補」を用いて三次元車両運動を予測している。このため、前記ステップS16における「No」判定に続いてステップS18にて決定される制御入力は、車両Mにおいて接地性及び乗り心地が良好であり、且つ、車両Mの挙動が所定状態に至らない(リスクを生じない)制御入力となる。
【0060】
一方、ステップS16において、予測部12は、車両Mに転倒が発生するか否かを判定する場合、ZMPが支持多角形の外部に位置する場合は車両Mが転倒するため、「Yes」と判定してステップS18の処理を実行する。又は、予測部12は、車両Mに横滑りが発生するか否かを判定する場合、タイヤせん断方向の力の大きさが摩擦円を超えていれば横滑りが発生するため、「Yes」と判定してステップS18の処理を実行する。
【0061】
又は、予測部12は、車両Mに経路ずれが発生するか否かを判定する場合、目標走行経路と走行予測経路との離間距離や経路長の差が所定距離以上であれば車両Mが経路ずれしているため、「Yes」と判定してステップS18の処理を実行する。即ち、予測部12は、ステップS16にて、車両Mの挙動が所定状態に至る場合に、「No」と判定してステップS18の処理を実行する。
【0062】
ステップS18においては、予測部12は、変数iの値が選定した特定の「制御入力候補」の数Kとなっているか否かを判定する。そして、予測部12は、変数iの値が値Kになっている場合、「Yes」と判定してステップS19の処理を実行する。
【0063】
ステップS19においては、予測部12は、K個の特定の「制御入力候補」を用いた車両Mの三次元車両運動を予測した結果として、転倒リスクや横滑りリスク、経路ずれリスクが発生する可能性があるため、転倒リスクや、横滑りリスク、経路ずれリスクの評価値が最小となる制御入力を採択する。つまり、予測部12は、転倒リスク等が発生する可能性が最も低い「制御入力候補」、即ち、車両Mの挙動が所定状態に最も至りにくい「制御入力候補」を採択すると、ステップS17を実行する。
【0064】
前記ステップS16にて「Yes」判定した場合、予測部12は、ステップS17において、車両Mの挙動が所定状態に最も至りにくい「制御入力候補」を最終的に「制御入力」として決定する。この場合、予測部12は、上述したように、K個の「制御入力候補」の全ての制御入力を用いて三次元車両運動を予測している。
【0065】
このため、前記ステップS19にて採択されステップS17にて決定される制御入力は、「制御入力候補」に付された順位が下位の場合もあり得る。従って、決定された制御入力は、接地性及び乗り心地が若干悪化する場合があるものの、車両Mの挙動が所定状態に最も至りにくい制御入力となる。
【0066】
一方、予測部12は、前記ステップS18にて、変数iが「制御入力候補」の数Kでなければ、「No」と判定してステップS20の処理を実行する。ステップS20においては、予測部12は、変数iを「1」だけインクリメントする。そして、予測部12は、「i+1」番目、換言すれば、前回のプログラム実行時に用いた「制御入力候補」よりも順位下位の「制御入力候補」を用いて、前記ステップS14以降の各ステップ処理を実行する。
【0067】
そして、予測部12は、前記ステップS17にて、最終的に制御入力を決定すると、ステップS21において「制御入力決定プログラム」の実行を一旦終了する。そして、予測部12は、所定の時間が経過する毎に、或いは、実行が必要な状況において、再び、前記ステップS10にて制御入力決定プログラムの実行を開始する。
【0068】
ここで、最終的に決定された制御入力は、例えば、前輪側転舵装置や後輪側転舵装置、或いは、エンジン制御装置やモータ制御装置等の各装置に車両制御装置10から出力される。従って、各装置は、取得した制御入力に従って対応する機器の作動を制御する。これにより、車両Mは、予測部12が予測した三次元車両運動に一致するように、即ち、リスク等の発生が抑制されて挙動が所定状態に至らないように走行することができる。
【0069】
以上の説明からも理解できるように、車両制御装置10は、路面情報取得部11と、予測部12と、を含んで構成される。路面情報取得部11は、車両Mの進行方向前方の路面Rの状態を表す路面情報Irを取得する。予測部12は、車両Mの制御に関連して入力可能な制御入力を用いて車両Mの挙動を予測する。そして、車両制御装置10は、予測部12が、制御入力になり得る複数の制御入力候補の各々を車両Mの挙動を表現可能な簡易モデル20に適用して、それぞれの簡易モデル20が路面情報Irによって表される路面Rを走行したと仮定した場合における簡易モデル20の車輪22の走行軌跡を予測し、各々の制御入力候補に対応する走行軌跡に沿ったそれぞれの路面Rの路面プロファイルを取得し、路面プロファイルに起因して変化する車輪22の路面Rに対する接地性及び簡易モデル20における乗り心地の良好な制御入力候補を、複数の制御入力候補のうちから抽出して選定する。
【0070】
これによれば、予測部12は、車両Mの簡易モデル20を用いて路面プロファイルを取得して予め接地性及び乗り心地を評価することにより、制御入力候補を絞り込むことができる。そして、予測部12は、絞り込んだ特定の制御入力候補を、詳細モデルに適用して車両Mの挙動(三次元車両運動)を計算して予測することができる。従って、例えば、全ての制御入力を用いて全ての車両Mの挙動(三次元車両運動)を計算する場合に比べて、制御入力の数を絞ることによって計算の負荷を低減することができる。
【符号の説明】
【0071】
M…車両、1…車体、2…車輪、3…サスペンション装置、4…センサ群、10…車両制御装置、11…路面情報取得部、12…予測部、20…簡易モデル、21…車体、22…車輪、23…サスペンション装置、R…路面、Rt…走行軌跡、Ir…路面情報
図1
図2
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図4
図5
図6