(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175287
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】溶接システムおよび溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/12 20060101AFI20241211BHJP
B23K 9/028 20060101ALI20241211BHJP
B23K 9/00 20060101ALN20241211BHJP
【FI】
B23K9/12 331N
B23K9/028 J
B23K9/00 501B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092950
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】加藤 明
(72)【発明者】
【氏名】神名 正樹
(72)【発明者】
【氏名】西村 仁志
(72)【発明者】
【氏名】川澄 重昌
(72)【発明者】
【氏名】小原 邦彦
【テーマコード(参考)】
4E081
【Fターム(参考)】
4E081BB04
4E081CA07
4E081DA05
4E081EA18
4E081YB03
4E081YB08
(57)【要約】
【課題】狭い空間内の溶接作業を簡易且つ精度良く実行可能な溶接システムおよび溶接方法を提供する。
【解決手段】溶接システム1は、長形のトーチ11と、走行ユニット12と、制御装置20とを備える。走行ユニット12は、トーチ11を、トーチ11の長軸方向に走行させる。制御装置20は、走行ユニット12によりトーチ11を走行させつつ、トーチ11により溶接処理を実行させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長形のトーチと、
前記トーチを、前記トーチの長軸方向に走行させる走行部材と、
前記走行部材により前記トーチを走行させつつ、前記トーチにより溶接処理を実行させる制御装置と、を備える溶接システム。
【請求項2】
前記トーチは、前記トーチの長軸方向と異なる方向に向けて溶接処理を実行する、請求項1に記載の溶接システム。
【請求項3】
前記トーチによる溶接対象部位は線状であり、
前記トーチおよび前記走行部材は、前記トーチが、前記溶接対象部位の線方向に移動するように設置される、請求項1に記載の溶接システム。
【請求項4】
前記トーチは、溶接対象部位を継続して溶接可能な長さを有する、請求項1に記載の溶接システム。
【請求項5】
前記トーチによる溶接対象部位は、第1の柱の下端の辺と第2の柱の上端の辺とが合わさる線状の部位であり、
前記第1の柱および前記第2の柱には、前記溶接対象部位を跨いで固定部材が設置され、
前記トーチおよび前記走行部材は、前記トーチが、前記固定部材と前記溶接対象部位との間に形成される空間を通り、前記溶接対象部位の線方向に移動するように設置される、請求項1に記載の溶接システム。
【請求項6】
前記トーチおよび前記走行部材を溶接対象部材に装着する装着部と、
前記装着部に設置され、前記装着部により装着された前記トーチおよび前記走行部材の位置を調整する位置調整部材と、とさらに備える請求項1に記載の溶接システム。
【請求項7】
長形のトーチと、
前記トーチを、前記トーチの長軸方向に走行させる走行部材とを備えた溶接装置を制御する制御装置が、
前記走行部材により前記トーチを走行させつつ、前記トーチにより溶接処理を実行させる、溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接システムおよび溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超高層建築構造物では多くの場合、柱材として断面四角形状のボックス柱が用いられている。ボックス柱を接合する際は、接合対象の2本のボックス柱を上下方向に並べて、4方向の各面において上下の柱端部を横方向の線状に溶接する。ボックス柱の溶接は熟練した作業員により手作業で行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ボックス柱の溶接を行う際には、上下双方のボックス柱の4方向の各面に、上下のボックス柱間の相互位置を固定する部材であるスプライスが設置される。このスプライスは、ボックス柱の各面の左右方向の中央部に、上下のボックス柱を固定するように設置される。
【0005】
このスプライスは、溶接対象部位を跨いで上下のボックス柱を固定しているため、溶接対象部位の周囲には空間が形成されるが、この空間は狭く、人間の腕が通過可能な大きさを有していない。
【0006】
そのため溶接作業者は、このスプライスがあることにより、ボックス柱の1面において横方向の線状の溶接作業を一度に連続的に行うことができず、スプライスの左側と右側とに分けて溶接作業を行う。このように作業を行うと、線状の溶接部の中央に溶接の継ぎ目が生じ、製造するボックス柱の品質の確保が難しくなるという問題があった。
【0007】
また、近年は、溶接作業の作業効率向上を図るべく溶接を自動的に行う装置の開発も試みられているが、上述したようにスプライスにより形成される狭い空間を通って行う溶接を自動化することは困難であった。
【0008】
そこで、本開示は、狭い空間内の溶接作業を簡易且つ精度良く実行可能な溶接システムおよび溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様に係る溶接システムは、長形のトーチと、前記トーチを、前記トーチの長軸方向に走行させる走行部材と、前記走行部材により前記トーチを走行させつつ、前記トーチにより溶接処理を実行させる制御装置と、を備える。
【0010】
前記トーチは、前記トーチの長軸方向と異なる方向に向けて溶接処理を実行してもよい。
【0011】
前記トーチによる溶接対象部位は線状であり、前記トーチおよび前記走行部材は、前記トーチが、前記溶接対象部位の線方向に移動するように設置されてもよい。
【0012】
前記トーチは、溶接対象部位を継続して溶接可能な長さを有していてもよい。
【0013】
前記トーチによる溶接対象部位は、第1の柱の下端の辺と第2の柱の上端の辺とが合わさる線状の部位であり、前記第1の柱および前記第2の柱には、前記溶接対象部位を跨いで固定部材が設置され、前記トーチおよび前記走行部材は、前記トーチが、前記固定部材と前記溶接対象部位との間に形成される空間を通り、前記溶接対象部位の線方向に移動するように設置されてもよい。
【0014】
前記トーチおよび前記走行部材を溶接対象部材に装着する装着部と、
前記装着部に設置され、前記装着部により装着された前記トーチおよび前記走行部材の位置を調整する位置調整部材と、とさらに備えていてもよい。
【0015】
本開示の一態様に係る溶接方法は、長形のトーチと、前記トーチを、前記トーチの長軸方向に走行させる走行部材とを備えた溶接装置を制御する制御装置が、前記走行部材により前記トーチを走行させつつ、前記トーチにより溶接処理を実行させる。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、狭い空間内の溶接作業を簡易且つ精度良く実行可能な溶接システムおよび溶接方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実施形態に係る溶接システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】一実施形態に係る溶接システムが用いる溶接装置の外観斜視図である。
【
図3】一実施形態に係る溶接システムが用いる溶接装置の走行ユニットの内部構造を示す模式図である。
【
図4】一実施形態に係る溶接システムが用いる溶接装置のトーチの内部構造を示す斜視図である。
【
図5】一実施形態に係る溶接システムが用いる溶接装置を溶接対象のボックス柱に装着し、トーチの位置を、シールドノズルが溶接開始位置に対応するように調整した状態を示す正面図である。
【
図6】一実施形態に係る溶接システムが用いる溶接装置を溶接対象のボックス柱に装着し、トーチの位置が左方向に移動した状態を示す図である。
【
図7】一実施形態に係る溶接システムが用いる溶接装置により、溶接処理を実行しているときのトーチと溶接対象のボックス柱とを横から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
溶接装置の一実施形態として、第1の柱であるボックス柱P1と第2の柱であるボックス柱P2とを上下方向に接続させるために溶接する溶接装置について、図面を参照して説明する。
【0019】
図1は、一実施形態に係る溶接装置を用いた溶接システム1の構成を示す全体図である。溶接システム1は、溶接装置10と、制御装置20と、操作ペンダント30と、給電装置40と、冷却水循環機50と、ガス供給装置60、ワイヤ送給機70とを備える。
【0020】
給電装置40は、溶接装置10内に電力を供給する。冷却水循環機50は、溶接装置10内に冷却水を供給して循環させる。ガス供給装置60は、溶接処理で用いるシールドガスを溶接装置10に供給する。ワイヤ送給機70は、溶接処理で用いる溶接ワイヤWを溶接装置10に供給する。
【0021】
図2は、溶接装置10の外観斜視図である。溶接装置10は、トーチ11と、トーチ11を床面に水平な方向に走行させる走行ユニット12と、トーチ11および走行部材としての走行ユニット12を被溶接物に固定する架台13とを有する。
【0022】
図3は、走行ユニット12の内部構造を示す模式図である。走行ユニット12は、回転動作可能なピニオン121と、ピニオン121を回転させるピニオン用モータ122とを有する。
【0023】
図2に戻り、トーチ11は、溶接対象部位を継続して溶接可能な長さ、例えば溶接対象部位の長さより長い長形を有する。トーチ11は、トーチ11の先端方向の一部分を囲う長形の第1筐体111と、トーチ11の他の部分を囲う長形の第2筐体112と、第1筐体111と第2筐体112とを接続させつつ、第1筐体111で囲われる空間と第2筐体112で囲われる空間とを仕切る仕切り部材113とを有する。第1筐体111および第2筐体112は、底面が平面に形成されている。第1筐体111および第2筐体112の上部には、長形のラック114が、第1筐体111、第2筐体112と同軸方向に設置されている。
【0024】
第1筐体111は、第2筐体112との接続端と反対側の先端の下部に、長軸方向に対して垂直な方向に開口したシールドノズル111aを有する。第1筐体111および第2筐体112の外形は、シールドノズル111aが設置された面方向の一部が、長軸方向に高さの低い扁平な形状で形成されている。
【0025】
また、この第1筐体111の先端には、スパッタ受け部材115が設置されている。スパッタ受け部材115は平面形状を有し、溶接作業中に発生するスパッタを上面で受ける。
【0026】
第2筐体112は、第1筐体111との接続端と反対側の端部近傍に、オシレート用モータ116を有する。
【0027】
図4は、トーチ11の第1筐体111および第2筐体112を取り外した状態であり、トーチ11の内部構造を示す図である。第1筐体111内の空間および第2筐体112内の空間には、これら2つの空間にわたって溶接処理部117が設置される。
【0028】
溶接処理部117は、給電パイプ117aと、コンジットライナ117bと、シールドガス供給管117cと、チップボディ117dと、コンタクトチップ117eとを有する。
【0029】
ラック114は、
図3に示すように走行ユニット12内のピニオン121に係合してピニオン-ラック機構を構成し、ピニオン121の回転に応じて長軸方向に移動する。このようにラック114が移動することで、溶接処理部117を含むトーチ11が長軸方向に走行する。
【0030】
給電パイプ117aは給電装置40に接続され、トーチ11内に溶接動作のための電流を流す。コンジットライナ117bは、ワイヤ送給機70から送給される溶接ワイヤWをチップボディ117dまで送るためのチューブである。
【0031】
シールドガス供給管117cは、コンジットライナ117bと同軸に設置され、第1筐体111内の空間に対応する部位に複数の穴117fを有する。シールドガス供給管117cは、ガス供給装置60から供給されるシールドガスを複数の穴117fから第1筐体111内の空間に放出して充満させ、シールドノズル111aから溶接対象に向けて射出させる。
【0032】
チップボディ117dは、コンジットライナ117b内を通った溶接ワイヤWを、コンジットライナ117bの長軸と異なる方向、例えば床面に対して水平な面上で長軸方向に対して例えば70°程度曲がった方向に送出させるように曲率を持たせて形成される。このように形成されることで、トーチ11は、トーチ11の長軸方向と異なる方向に向けて溶接処理を実行する。
【0033】
コンタクトチップ117eは、チップボディ117dから溶接ワイヤWを溶接対象部に射出させる。
【0034】
図2に戻り、架台13は、4個の装着部131、132、133、および134と、位置決め部材135とを有する。装着部131、132、133、および134は、例えばマグネットを用いて構成され、溶接装置10を溶接対象部材に装着させる。装着部131、132、133、および134は、溶接対象部材の形状に応じて、適宜装着角度を調整可能に構成される。装着部134には、溶接装置10を上下方向に微調整するための位置調整部材134aが設置されている。位置決め部材135は、上下方向に移動可能に構成される。
【0035】
図1に戻り、制御装置20は、CPU21を有する。CPU21(制御部または処理部の一例)は、演算装置、メモリ、及び入出力部を備える汎用のコンピュータである。CPU21には、制御装置20の一部として機能させるためのコンピュータプログラム(溶接装置制御用プログラム)がインストールされている。コンピュータプログラムを実行することにより、CPU21は、制御装置20が備える複数の情報処理回路(211、212)として機能する。
【0036】
その他、溶接装置制御用プログラムは、HDD、SSD、USBメモリ、CD、DVD等のコンピュータ読取り可能な記録媒体に記憶できる。コンピュータ読取り可能な記録媒体は、例えば、非一時的な記録媒体である。溶接装置制御用プログラムは、通信ネットワークを介して配信することもできる。
【0037】
なお、以下では、ソフトウェアによって制御装置20が備える複数の情報処理回路(211、212)を実現する例を示す。ただし、以下に示す情報処理を実行するための専用のハードウェアを用意して、情報処理回路(211、212)を構成することも可能である。また、複数の情報処理回路(211、212)を個別のハードウェアにより構成してもよい。
【0038】
CPU21は、溶接動作制御部211と、走行ユニット制御部212とを有する。溶接動作制御部211は、溶接処理の実行指示を受けると、トーチ11内の装置、具体的には、オシレート用モータ116、および溶接処理部117内の機器を制御して溶接処理を実行させる。走行ユニット制御部212は、溶接処理の実行指示を受けると、走行ユニット12内のピニオン用モータ122を制御して、トーチ11を床面に水平な方向に移動させる。
【0039】
操作ペンダント30は、制御装置20に有線または無線で通信可能に構成され、入力部31を有する。入力部31は、利用者により溶接処理を実行する操作が行われると、溶接処理の実行指示を生成して溶接動作制御部211および走行ユニット制御部212に送信する。
【0040】
図5は、上下方向に並べた溶接対象のボックス柱P1およびP2に、溶接装置10を設置した状態を正面から見た図である。ボックス柱P2は、本体部P2aと、本体部P2aの上端に、本体部P2aの外側に向かって凸状に形成された上端部材P2bとを有する。
【0041】
ボックス柱P1およびP2の4方向の各面の左右方向の中央部には、ボックス柱P1-P2間の相対位置を固定するための固定部材であるスプライスSP1、SP2、SP3、およびSP4が設置されている。
図5において、スプライスSP4はボックス柱P1およびP2で隠れた位置にあり、図示していない。
【0042】
スプライスSP1、SP2、SP3、およびSP4は、ボックス柱P1の端部とP2の端部とが合わさる溶接対象部位Cを跨いでボックス柱P1の所定位置およびP2の所定位置に設置されている。これにより、スプライスSP1、SP2、SP3、およびSP4と溶接対象部位Cとの間、つまり溶接対象部位Cの周囲には空間Dが形成される。空間Dは、人間の腕等が通過可能でなく、トーチ11が長軸方向に通過可能な大きさを有している。
【0043】
作業者は、いずれかのスプライス、例えばスプライスSP2の空間Dをトーチ11が通過可能な高さであるときに、位置決め部材135がボックス柱P2の上端部材P2b上に対応する高さになるように、位置決め部材135の高さを調整する。
【0044】
作業者が、溶接装置10の設置位置を決定する際の処理について説明する。作業者は、走行ユニット12が駆動したときに、第1筐体111および第2筐体112の底面が上端部材P2b上を滑りながらトーチ11が空間D内を通過するように、溶接装置10の設置位置を決定する。第1筐体111および第2筐体112の底面は平面に形成されており、これらが上端部材P2b上を滑るようにトーチ11を設置することで、長形のトーチ11が撓むことを防止し、安定して移動させることができる。
【0045】
本実施形態において、ボックス柱P1およびP2の1面内における溶接対象部位Cは、ボックス柱P1の下端の辺とボックス柱P2の上端の辺とが合わさる線状の部位である。以下、この線状の部位を、溶接線C1と記載する。作業者は、トーチ11の長軸方向が溶接線C1の線方向に合い、シールドノズル111aが溶接線C1に沿って移動するように、溶接装置10の設置位置を決定する。
【0046】
作業者は、高さを調整した位置決め部材135をボックス柱P2の上端部材P2bに掛け、装着部131および132を上部のボックス柱P1の2方向の面にそれぞれ装着するとともに、装着部133および134を下部のボックス柱P2の2方向の面にそれぞれ装着することで、決定した位置に溶接装置10を設置する。このように装着部131、132、133、134と、位置決め部材135とを用いることで、安定した状態でボックス柱P1、P2に溶接装置10を設置することができる。
【0047】
このとき、作業者は、シールドノズル111aが溶接線C1の溶接開始位置に対応するように、トーチ11の位置を調整する。
【0048】
このように溶接装置10をボックス柱P1およびP2に設置した状態で、作業者が操作ペンダント30の入力部31で溶接処理の実行を指示する操作を行う。入力部31は、作業者の操作に応じて溶接処理の実行指示を生成して、溶接動作制御部211および走行ユニット制御部212に送信する。
【0049】
溶接処理の実行指示を受けた溶接動作制御部211は、トーチ11の溶接処理部117内の機器を制御して溶接処理を実行させる。また、溶接処理の実行指示を受けた走行ユニット制御部212は、走行ユニット12内のピニオン用モータ122を制御して、トーチ11を床面に水平な方向に移動させる。
【0050】
このように溶接動作制御部211および走行ユニット制御部212で処理が行われることにより、走行ユニット12によりトーチ11が走行しつつ、トーチ11の溶接処理部117により溶接処理が実行される。
図6は、トーチ11が
図5の状態から左方向に移動した状態を示す図である。
【0051】
溶接処理部117では、半自動溶接手法により、溶接ワイヤWに電流が流れることでワイヤが送給されてアーク放電され、溶接ワイヤW自体が消耗しながら溶接金属になることで、溶接処理が実行される。
【0052】
トーチ11は、溶接線C1よりも長い長形を有しているため、1回の溶接動作実行により、溶接線C1全体を継続して溶接することができる。これにより、溶接線内に継ぎ目が生じず、高品質のボックス柱を製造することができ、またアークタイム率を向上させることができる。
【0053】
図7は、溶接処理を実行しているときのトーチ11と、ボックス柱P1およびP2とを横から見た図である。トーチ11の第1筐体111および第2筐体112の外形は、シールドノズル111aが設置された面方向の一部が、長軸方向に高さの低い扁平な形状で形成されている。そのため、シールドノズル111aがボックス柱P1の端部とボックス柱P2の上端部材P2bとの隙間に入り込み、シールドノズル111aを溶接対象部位Cに近づけることができる。シールドノズル111aを溶接対象部位Cに近づけることで、シールドガスが適切に溶接対象部位Cに当たり、高い精度で溶接処理を行うことができる。
【0054】
また作業者は、操作ペンダント30の入力部31で1回の操作を行うのみで上記の溶接動作を確実に実行させることができるため、操作が簡易であり熟練者であることを必要としない。
【0055】
溶接処理中には、冷却水が冷却水循環機50からトーチ11内に供給され、給電パイプ117aの中をトーチ11先端に向かって流れ、チップボディ117dを経由してコンジットライナ117b内を通り、排水される。このように冷却水が循環することにより、溶接処理中に高温になるトーチ11内を冷却することができる。また、給電パイプ117aとコンジットライナ117bとを別系統で構成することで、トーチ11内で水流を流通させる経路を適切に構成することができる。
【0056】
また、溶接装置10では、溶接処理中に発生するスパッタを、トーチ11の第1筐体111の先端に設置されたスパッタ受け部材115が受けるため、ボックス柱P2の上端部材P2b上にスパッタが付着しない。これにより、溶接処理中に発生したスパッタが上端部材P2bに付着して、トーチ11の第1筐体111および第2筐体112の底面が上端部材P2b上を滑って移動する際の障害物となることを防止することができる。
【0057】
また溶接処理中にオシレート操作を実行する際には、オシレート用モータ116が、給電パイプ117aを、長軸方向を軸にして旋回させる。このように給電パイプ117aを旋回させることで、溶接ワイヤWの先端が上下に動作してオシレート操作が実行される。
【0058】
オシレート操作に用いる給電パイプ117aを、トーチ11内で溶接部位に近い側に、溶接ワイヤWを通すコンジットライナ117bと別軸で設けることで、オシレート操作の幅を広げることが可能になる。
【0059】
また上述した溶接処理において、移動したシールドノズル111aが溶接線Cの最終端に到達したときにトーチ11の移動を停止させると、最終端付近の溶接部位の厚みが薄くなる。これに対応し、本実施形態の溶接処理では、シールドノズル111aが溶接線Cの最終端に到達した後、オシレート操作により10mm程度戻るように溶接処理を行う。このように溶接処理を行うことで、溶接線C内の高さが均一になるように調整することができる。
【0060】
上述した実施形態においては、溶接システム1が、スプライスが設置されたボックス柱の溶接を行う場合について説明したが、これには限定されず、トーチ11が通過可能な空間を有する箇所であれば、溶接システム1による溶接処理の対象とすることができる。
【0061】
例えば、長形の金属板を、長手方向を軸として筒状に丸めて管を形成する場合に、溶接システム1を適用することができる。この場合、金属板を筒状に丸めて形成された内部の空間にトーチ11を挿入するように溶接装置10を設置し、金属板の長辺同士が合わさった線を溶接線として溶接処理を行う。このとき、トーチ11の長さが金属板の長辺よりも長ければ、1回の溶接処理で全溶接線を溶接することができる。
【0062】
いくつかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正又は変形をすることが可能である。上記の実施形態のすべての構成要素、及び請求の範囲に記載されたすべての特徴は、それらが互いに矛盾しない限り、個々に抜き出して組み合わせてもよい。
【0063】
本開示は、例えば持続可能な開発目標(SDGs)の目標7「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」に貢献することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 溶接システム
10 溶接装置
11 トーチ
12 走行ユニット
13 架台
20 制御装置
30 操作ペンダント
31 入力部
40 給電装置
50 冷却水循環機
60 ガス供給装置
70 ワイヤ送給機
111 第1筐体
111a シールドノズル
112 第2筐体
113 仕切り部材
114 ラック
115 スパッタ受け部材
116 オシレート用モータ
117 溶接処理部
117a 給電パイプ
117b コンジットライナ
117c シールドガス供給管
117d チップボディ
117e コンタクトチップ
117f 穴
121 ピニオン
122 ピニオン用モータ
131、132、133、134 装着部
134a 位置調整部材
135 位置決め部材
211 溶接動作制御部
212 走行ユニット制御部