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特開2024-175292樹脂成形システム、運転条件制御方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175292
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】樹脂成形システム、運転条件制御方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   B29C 55/14 20060101AFI20241211BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20241211BHJP
   B29C 48/305 20190101ALI20241211BHJP
   B29C 48/88 20190101ALI20241211BHJP
   B29C 48/92 20190101ALI20241211BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20241211BHJP
【FI】
B29C55/14
B29C48/08
B29C48/305
B29C48/88
B29C48/92
B29L7:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092958
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石黒 亮
(72)【発明者】
【氏名】木村 公一
【テーマコード(参考)】
4F207
4F210
【Fターム(参考)】
4F207AJ08
4F207AM23
4F207AR06
4F207KA01
4F207KA17
4F207KK64
4F207KL84
4F207KM16
4F207KW41
4F210AJ08
4F210AM23
4F210AP20
4F210AQ01
4F210AQ02
4F210AR06
4F210AR20
4F210QA02
4F210QA03
4F210QC06
4F210QD25
4F210QG01
4F210QG18
4F210QL16
4F210QM15
(57)【要約】
【課題】樹脂成形システムの適正な運転条件をユーザの技量に依存することなく安定して設定する。
【解決手段】樹脂成形システム1を構成する複数の装置の少なくとも1つに、樹脂の状態を検出するセンサ部が設けられる。樹脂成形システム1の制御装置8は、センサ部から出力される情報に基づいて、樹脂成形システム1を構成する装置の運転条件を探索し、探索された運転条件を新たな運転条件として設定する。樹脂がどのような状態の場合にどの装置のいずれの運転条件をどのように変更すべきかについては、例えば、ユーザによって設定される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂原料を溶融混練して溶融樹脂を押し出す押出装置と、
前記押し出された溶融樹脂を冷却し樹脂フィルムに成形する冷却装置と、
前記成形された樹脂フィルムを延伸する延伸装置と、
を備える樹脂成形システムであって、
前記延伸された樹脂フィルムの分子結晶の状態または前記延伸されている樹脂フィルムの歪の状態を表す情報を出力するセンサ部と、
前記センサ部からの情報に基づいて、前記延伸装置により延伸される樹脂フィルムの状態が仕様を満たすような前記冷却装置または前記延伸装置の運転条件を探索する探索部と、
前記探索された運転条件を新たな運転条件として設定する設定部と、を備える、
樹脂成形システム。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂成形システムにおいて、
前記押出装置は、前記押し出された溶融樹脂を吐出するTダイが取り付けられ、
前記冷却装置は、前記Tダイから吐出された溶融樹脂を冷却するキャストロールを有し、
前記センサ部は、ヘイズ計を含み、
前記探索部は、前記ヘイズ計からの情報によって検出される前記延伸された樹脂フィルムの透明度が第1の範囲外である場合に、前記溶融樹脂の前記キャストロールを通過する際の分子結晶化度が低くなるような前記冷却装置または前記延伸装置の運転条件を探索する、
樹脂成形システム。
【請求項3】
請求項2に記載の樹脂成形システムにおいて、
前記延伸装置は、縦延伸装置および横延伸装置を含み、
前記探索部は、前記冷却装置の運転条件を構成するキャストロール温度、前記縦延伸装置の運転条件を構成する縦延伸温度、および前記横延伸装置の運転条件を構成する横延伸温度である複数のパラメータのうち少なくとも1つについて、新たなパラメータ値を決定する、
樹脂成形システム。
【請求項4】
請求項3に記載の樹脂成形システムにおいて、
前記探索部は、前記キャストロール温度を下げること、前記縦延伸温度を下げること、および前記横延伸温度を下げることのうち少なくとも1つにより、前記新たなパラメータ値を決定する、
樹脂成形システム。
【請求項5】
請求項3に記載の樹脂成形システムにおいて、
前記探索部は、前記複数のパラメータのうち少なくとも2つについて、設定された優先順位およびパラメータ値の設定可能範囲に基づいて、変更すべきパラメータと該パラメータのパラメータ値とを決定する、
樹脂成形システム。
【請求項6】
請求項1に記載の樹脂成形システムにおいて、
前記押出装置は、前記押し出された溶融樹脂を吐出するTダイが取り付けられ、
前記冷却装置は、前記Tダイから吐出された溶融樹脂を冷却するキャストロールを有し、
前記センサ部は、複屈折計を含み、
前記探索部は、前記複屈折計からの情報によって検出される前記延伸された樹脂フィルムの搬送方向における配向度が第2の範囲外である場合に、前記樹脂フィルムの縦延伸倍率および横延伸倍率の少なくとも一方が変化するような前記延伸装置の運転条件を探索する、
樹脂成形システム。
【請求項7】
請求項6に記載の樹脂成形システムにおいて、
前記延伸装置は、縦延伸装置および横延伸装置を含み、
前記探索部は、前記樹脂フィルムの縦延伸倍率、横延伸倍率、縦延伸温度、および横延伸温度である複数のパラメータのうち少なくとも1つについて、新たなパラメータ値を決定する、
樹脂成形システム。
【請求項8】
請求項7に記載の樹脂成形システムにおいて、
前記探索部は、前記縦延伸倍率を下げること、前記横延伸倍率を下げること、前記縦延伸温度を下げること、および前記横延伸温度を下げることのうち少なくとも1つにより、前記新たなパラメータ値を決定する、
樹脂成形システム。
【請求項9】
請求項7に記載の樹脂成形システムにおいて、
前記探索部は、前記複数のパラメータのうち少なくとも2つについて、設定された優先順位およびパラメータ値の設定可能範囲に基づいて、変更すべきパラメータと該パラメータ値とを決定する、
樹脂成形システム。
【請求項10】
請求項1に記載の樹脂成形システムにおいて、
前記押出装置は、前記押し出された溶融樹脂を吐出するTダイが取り付けられ、
前記冷却装置は、前記Tダイから吐出された溶融樹脂を冷却するキャストロールを有し、
前記延伸装置は、前記樹脂フィルムを該樹脂フィルムの搬送方向に延伸する縦延伸装置と、前記樹脂フィルムを該樹脂フィルムの幅方向に延伸する横延伸装置とを含み、
前記センサ部は、前記横延伸装置により延伸されている樹脂フィルムの幅方向の応力を計測する応力計を含み、
前記探索部は、前記応力計からの情報によって検出される、前記横延伸装置により延伸されている樹脂フィルムの幅方向の応力が第3の範囲外である場合に、前記横延伸装置により延伸されてる樹脂フィルムの幅方向の応力が第3の範囲内となるような前記延伸装置の運転条件を探索する、
樹脂成形システム。
【請求項11】
請求項10に記載の樹脂成形システムにおいて、
前記探索部は、前記横延伸装置における横延伸ゾーン開角度、横延伸温度、熱固定ゾーン長、および熱固定ゾーン閉角度である複数のパラメータのうち少なくとも1つについて、新たなパラメータ値を決定する、
樹脂成形システム。
【請求項12】
請求項11に記載の樹脂成形システムにおいて、
前記探索部は、前記横延伸ゾーン開角度を小さくすること、前記横延伸温度を上げること、熱固定ゾーン長を長くすること、および熱固定ゾーン閉角度を大きくまたは小さくすることのうち少なくとも1つにより、前記新たなパラメータ値を決定する、
樹脂成形システム。
【請求項13】
請求項11に記載の樹脂成形システムにおいて、
前記探索部は、前記複数のパラメータのうち少なくとも2つについて、設定された優先順位およびパラメータ値の設定可能範囲に基づいて、変更すべきパラメータと該パラメータのパラメータ値とを決定する、
樹脂成形システム。
【請求項14】
樹脂原料を溶融混練して溶融樹脂を押し出す押出装置と、
前記押し出された溶融樹脂を冷却し樹脂フィルムに成形する冷却装置と、
前記成形された樹脂フィルムを延伸する延伸装置と、
を備える樹脂成形システムの運転条件制御方法であって、
前記延伸された樹脂フィルムの分子結晶の状態または前記延伸されている樹脂フィルムの歪の状態によって定まる前記樹脂フィルムの状態を検出し、
前記検出された樹脂フィルムの状態に基づいて、前記延伸装置により延伸される樹脂フィルムの状態が仕様を満たすような前記冷却装置または前記延伸装置の運転条件を探索し、
前記探索された運転条件を新たな運転条件として設定する、
運転条件制御方法。
【請求項15】
樹脂原料を溶融混練して溶融樹脂を押し出す押出装置と、
前記押し出された溶融樹脂を冷却し樹脂フィルムに成形する冷却装置と、
前記成形された樹脂フィルムを延伸する延伸装置と、
を備える樹脂成形システムのためのプログラムであって、
コンピュータを、
前記延伸された樹脂フィルムの分子結晶の状態または前記延伸されている樹脂フィルムの歪の状態を表す情報を出力するセンサ部からの情報に基づいて、前記延伸装置により延伸される樹脂フィルムの状態が仕様を満たすような前記冷却装置または前記延伸装置の運転条件を探索する探索部、および、
前記探索された運転条件を新たな運転条件として設定する設定部、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形システム、運転条件制御方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂原料を溶融混練し、溶融樹脂を冷却してフィルム状に成形し、成形されたフィルムを延伸する樹脂成形システムが知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-203508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、樹脂成形システムを用いて樹脂フィルムなどの製品を製造する場合、ユーザが、自身の経験や勘などに基づいて、システムの運転条件を初期設定し、システム稼働後に樹脂の状態を目視で確認し、樹脂が適正な状態となるように運転条件を調整している。
【0005】
しかしながら、樹脂成形システムの運転条件は多岐にわたり複雑である。そのため、ユーザの技量によっては、運転条件を適正に調整し切れず、製品の品質にバラつきが生じることがある。
【0006】
上記事情により、樹脂成形システムの適正な運転条件をユーザの技量に依存することなく安定して設定することができる技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願において開示される一実施形態である樹脂成形システムは、樹脂原料を溶融混練して溶融樹脂を押し出す押出装置と、前記押し出された溶融樹脂を冷却し樹脂フィルムに成形する冷却装置と、前記成形された樹脂フィルムを延伸する延伸装置と、を備える樹脂成形システムであって、前記延伸された樹脂フィルムの分子結晶の状態または前記延伸されている樹脂フィルムの歪の状態を表す情報を出力するセンサ部と、前記センサ部からの情報に基づいて、前記延伸装置により延伸される樹脂フィルムの状態が仕様を満たすような前記冷却装置または前記延伸装置の運転条件を探索する探索部と、前記探索された運転条件を新たな運転条件として設定する設定部と、を備える、樹脂成形システムである。
【0008】
本願において開示される一実施形態である運転条件制御方法は、樹脂原料を溶融混練して溶融樹脂を押し出す押出装置と、前記押し出された溶融樹脂を冷却し樹脂フィルムに成形する冷却装置と、前記成形された樹脂フィルムを延伸する延伸装置と、を備える樹脂成形システムの運転条件制御方法であって、前記延伸された樹脂フィルムの分子結晶の状態または前記延伸されている樹脂フィルムの歪の状態によって定まる前記樹脂フィルムの状態を検出し、前記検出された樹脂フィルムの状態に基づいて、前記延伸装置により延伸される樹脂フィルムの状態が仕様を満たすような前記冷却装置または前記延伸装置の運転条件を探索し、前記探索された運転条件を新たな運転条件として設定する、運転条件制御方法である。
【0009】
本願において開示される一実施形態であるプログラムは、樹脂原料を溶融混練して溶融樹脂を押し出す押出装置と、前記押し出された溶融樹脂を冷却し樹脂フィルムに成形する冷却装置と、前記成形された樹脂フィルムを延伸する延伸装置と、を備える樹脂成形システムのためのプログラムであって、コンピュータを、前記延伸された樹脂フィルムの分子結晶の状態または前記延伸されている樹脂フィルムの歪の状態を表す情報を出力するセンサ部からの情報に基づいて、前記延伸装置により延伸される樹脂フィルムの状態が仕様を満たすような前記冷却装置または前記延伸装置の運転条件を探索する探索部、および、前記探索された運転条件を新たな運転条件として設定する設定部、として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0010】
本願において開示される一実施形態によれば、樹脂成形システムの適正な運転条件をユーザの技量に依存することなく安定して設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態1に係る樹脂成形システムの構成を概略的に示す図である。
図2】制御装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図3】制御装置の機能ブロック構成の一例を示す図である。
図4】樹脂成形システムによるフィルム製造工程の例を概略的に示す図である。
図5】実施形態1に係る樹脂成形システムにおける処理フローの一例を示す図である。
図6】樹脂成形システムにおける押出装置の運転条件制御に係る要部の構成例を示す図である。
図7】押出装置の運転条件制御処理フローの一例を示す図である。
図8】樹脂成形システムにおける冷却装置の運転条件制御に係る要部の構成例を示す図である。
図9】ネックインを説明するための図である。
図10】レゾナンスを説明するための図である。
図11】冷却装置の要部の構成例を示す図である。
図12】冷却装置の運転条件制御処理フローの一例を示す図である。
図13】樹脂成形システムにおける縦・横延伸装置の運転条件制御に係る要部の構成例を示す図である。
図14】樹脂成形システムにおける縦・横延伸装置の運転条件制御に係る要部の構成例を示す図である。
図15】縦・横延伸装置の運転条件制御処理フローの一例を示す図である。
図16】樹脂成形システムにおける巻取装置の運転条件制御に係る要部の構成例を示す図である。
図17】巻取装置の運転条件制御処理フローの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、発明の実施形態を実施例や図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する構成要素には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は、特に必要な場合を除き省略するものとする。
【0013】
(実施形態1)
〈フィルム製造システムの構成〉
図1は、実施形態1に係る樹脂成形システム1の構成を概略的に示す図である。図1に示すように、樹脂成形システム1は、押出装置2、Tダイ3、冷却装置4、縦延伸装置5、横延伸装置6、巻取装置7、および制御装置8を備えている。なお、冷却装置4は、原半冷却装置、キャスト装置、成形装置などとも呼ばれる。
【0014】
押出装置2は、投入された樹脂原料10を、加熱しながら溶融混練し、得られた溶融樹脂を押し出す。押出装置2は、押出装置運転制御部20cを有している。押出装置運転制御部20cは、制御装置8から受信した制御信号に基づいて、押出装置2の運転を制御する。
【0015】
Tダイ3は、押出装置2に取り付けられ、押出装置2から押し出されてきた溶融樹脂を、スリット状すなわち細長い矩形状の吐出口により膜状に成形して、ほぼ鉛直下向きに吐出する。Tダイ3は、複数種類用意されており、樹脂原料あるいは製造するフィルムの種類等に応じて適したものが選択され、押出装置2に取り付けられる。
【0016】
冷却装置4は、Tダイ3から吐出された膜状の溶融樹脂10aを冷却し、フィルム状に成形する。ここでは、フィルム状に成形された樹脂を樹脂フィルムと呼ぶことにする。冷却装置4は、冷却成形された樹脂フィルム10bを、縦延伸装置5に搬送する。冷却装置4は、冷却装置運転制御部40cおよび冷却装置センサ部40sを有している。冷却装置運転制御部40cは、制御装置8から受信した制御信号に基づいて冷却装置4の運転を制御する。冷却装置センサ部40sは、冷却装置4における溶融樹脂10aおよび樹脂フィルム10bの状態を検出し、検出された状態を表す情報を制御装置8に出力する。
【0017】
縦延伸装置5は、冷却装置4から搬送されてくる樹脂フィルム10cを、樹脂フィルム10cの搬送方向である縦方向xに延伸する。なお、縦方向xに延伸することを縦延伸という。縦延伸装置5は、縦延伸された樹脂フィルム10dを、横延伸装置6に搬送する。縦延伸装置5は、縦延伸装置運転制御部50cを有している。縦延伸装置運転制御部50cは、制御装置8から受信した制御信号に基づいて、縦延伸装置5の運転を制御する。
【0018】
横延伸装置6は、縦延伸装置5から搬送されてくる縦延伸された樹脂フィルム10dを、樹脂フィルム10dの幅方向である横方向yに延伸する。なお、横方向yに延伸することを横延伸という。横延伸装置6は、横延伸された樹脂フィルム10eを巻取装置7に搬送する。横延伸装置6は、横延伸装置運転制御部60cおよび横延伸装置センサ部60sを有している。横延伸装置運転制御部60cは、制御装置8から受信した制御信号に基づいて、横延伸装置6の運転を制御する。横延伸装置センサ部60sは、横延伸装置6における横延伸前あるいは横延伸途中の樹脂フィルム10dおよび横延伸後の樹脂フィルム10eの状態を検出し、検出された状態を表す情報を制御装置8に出力する。
【0019】
巻取装置7は、横延伸装置6から搬送されてくる横延伸された樹脂フィルム10eを、ロール状に巻き取る。巻取装置7は、巻取装置運転制御部70cおよび巻取装置センサ部70sを有している。巻取装置運転制御部70cは、制御装置8から受信した制御信号に基づいて、巻取装置7の運転を制御する。巻取装置センサ部70sは、巻取装置7における樹脂フィルム10eの状態を検出し、その状態を表す情報を制御装置8に出力する。
【0020】
制御装置8は、冷却装置センサ部40s、横延伸装置センサ部60s、および巻取装置センサ部70sから得られた情報に基づいて、押出装置2、冷却装置4、縦延伸装置5、横延伸装置6、および巻取装置7の適正な運転条件を探索する。制御装置8は、探索された運転条件を各装置の運転条件として設定し、設定された運転条件に従って各装置を制御する。
【0021】
操作部91および表示部92は、制御装置8に設けられている。ユーザは、操作部91を操作することにより、各種設定や各種指令などを表す情報を制御装置8に入力することができる。表示部92は、ユーザに向けた各種情報を表示する。操作部91は、例えば、キーボードやマウスなどで構成される。表示部92は、例えば、液晶パネル、有機ELパネルなどで構成される。操作部91および表示部92は、一体的に構成されていてもよく、例えば、タッチパネルであってもよい。
【0022】
図2は、制御装置8のハードウェア構成の一例を示す図である。制御装置8は、例えば、コンピュータにより構成されている。図2に示すように、制御装置8は、通信バス801、プロセッサ802、メモリ803、ストレージ804、およびインタフェース807を有している。
【0023】
プロセッサ802は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processor Unit)、MCU(Micro Controller Unit)などで構成されている。メモリ803は、例えば、半導体記憶装置により構成されている。ストレージ804は、例えば、半導体記憶装置、磁気ディスク記憶装置、光ディスク記憶装置などにより構成されている。
【0024】
プロセッサ802、メモリ803、ストレージ804、およびインタフェース807は、それぞれ、通信バス801に接続されており、通信バス801を介して相互に情報の送受信が可能である。ストレージ804は、各種のプログラム805、各種のデータ806などを格納している。
【0025】
プロセッサ802は、ストレージ804に格納されているプログラム805を読み出してメモリ803に展開し実行することにより、各種の機能ブロックとして機能する。
【0026】
図3は、制御装置8の機能ブロック構成の一例を示す図である。図3に示すように、制御装置8は、機能ブロックとして、運転条件探索部81、運転条件設定部82、および装置制御部83を有している。
【0027】
運転条件探索部81は、冷却装置センサ部40s、横延伸装置センサ部60s、および巻取装置センサ部70sから出力された情報を受け取り、受け取った情報に基づいて各装置の適正な運転条件を探索し、探索された運転条件を運転条件設定部82に出力する。各装置の適正な運転条件とは、各装置における溶融樹脂あるいは樹脂フィルムなどの樹脂の状態が、設定された仕様、すなわち規定条件や規格を満たすような各装置の運転条件のことをいう。
【0028】
運転条件設定部82は、始め、ユーザが入力した情報に基づいて各装置の運転条件を初期設定し、その後、運転条件探索部81により探索された運転条件を、各装置の新たな運転条件として設定する。
【0029】
装置制御部83は、設定された運転条件にしたがって、押出装置2、冷却装置4、縦延伸装置5、横延伸装置6、および巻取装置7が制御されるように、これら各装置の運転制御部20c,40c,50c,60c,70cに制御信号を送る。
【0030】
〈樹脂フィルム製造工程〉
図4は、樹脂成形システム1によるフィルム製造工程の例を概略的に示す図である。ここで、図4を参照しながら樹脂成形システム1による樹脂フィルムの製造工程の例を簡単に説明する。図4に示すように、まず、押出装置2に、樹脂材料(ペレット)および添加剤などからなる樹脂原料10が投入され供給される。押出装置2は、供給された樹脂原料10を、溶融混練してTダイ3に押し込む。押出装置2からTダイ3の間には、ギアポンプGPが取り付けられる。ギアポンプGPは、押出装置2で溶融させた樹脂原料10をTダイ3より安定した状態で吐出させる。Tダイ3は、押出装置2により溶融混練して押し込まれた溶融樹脂を吐出口から吐出する(S1)。Tダイ3から吐出された溶融樹脂10aは、冷却装置4において冷却され、樹脂フィルム10bに成形される(S2)。
【0031】
冷却装置4から搬送される樹脂フィルム10cは、縦延伸装置5において縦延伸される(S3)。縦延伸された樹脂フィルム10dは、横延伸装置6において横延伸される(S4)。横延伸された樹脂フィルム10eは、巻取装置7により巻き取られる(S5)。
【0032】
なお、図1および図4に示す例では、冷却成形された樹脂フィルム10cを縦延伸した後に横延伸しているが、延伸方法はこれに限定されない。例えば、横延伸した後に縦延伸したり、縦延伸と横延伸とを同時に行ったり、縦延伸と横延伸をそれぞれ複数回行ったりしてもよい。
【0033】
また、樹脂フィルム10b~10eは、フィルム状に成形された樹脂を意味しており、厳密な基準に基づいた呼称を意味しない。樹脂は、いわゆるプラスチック材料を主原料としたものを想定しているが、プラスチック材料の熱劣化耐性、強度特性、導電性、摺動性などを向上する目的でガラス繊維や炭素繊維などのフィラーを添加してもよく、特定の材料や特定の配合で規定されるものではない。
【0034】
〈樹脂成形システムにおける処理フロー〉
図5は、実施形態1に係る樹脂成形システム1における処理フローの一例を示す図である。
【0035】
ステップS11では、樹脂成形システム1の運転条件の初期設定が行われる。具体的には、ユーザが、操作部91を操作して、押出装置2、冷却装置4、縦延伸装置5、横延伸装置6、および巻取装置7の運転条件を表す情報を、制御装置8に入力する。運転条件設定部82は、入力された情報に基づいて、上記各装置の運転条件を設定する。
【0036】
ステップS12では、樹脂成形システム1の運転が開始される。具体的には、装置制御部83が、設定された運転条件にしたがって、押出装置2、冷却装置4、縦延伸装置5、横延伸装置6、および巻取装置7が運転を開始するよう、各装置の運転制御部に制御信号を送信する。各装置の運転制御部は、受信した制御信号に基づいて、設定された運転条件にて各装置の運転を開始する。
【0037】
ステップS13~S16の処理は、並行して、あるいは、予め設定された任意の順番で行われる。ステップS13では、押出装置2の運転条件の制御が開始される。ステップS14では、冷却装置4の運転条件の制御が開始される。ステップS15では、縦延伸装置5および横延伸装置6の運転条件の制御が開始される。ステップS16では、巻取装置7の運転条件の制御が開始される。
【0038】
より具体的には、運転条件探索部81が、冷却装置センサ部40s、横延伸装置センサ部60s、および巻取装置センサ部70sから出力される情報に基づいて、各装置のより適正な運転条件を探索する。運転条件設定部82は、探索された運転条件を、各装置の新たな運転条件として設定する。装置制御部83は、各装置が新たなに設定された運転条件に従って運転するように、各装置の運転制御部に制御信号を送信する。各装置の運転条件の制御の詳細については後述する。
【0039】
ステップS17では、樹脂成形を継続するか否かが判定される。具体的には、装置制御部83が、樹脂成形システム1におけるエラー信号の発信の有無、運転停止の指令入力の有無などに基づいて、樹脂成形を継続するか否かを判定する。この判定において、樹脂成形を継続すると判定された場合(S17:Yes)には、処理ステップがステップS17に戻され、樹脂成形が継続される。一方、樹脂成形を継続しないと判定された場合(S17:No)には、処理ステップがステップS18に進められる。
【0040】
ステップS18では、樹脂成形システム1の運転停止が行われる。具体的には、装置制御部83が、各装置の運転制御部に制御信号を送信して各装置の運転を停止させる。
【0041】
〈押出装置の運転条件制御〉
図6は、樹脂成形システムにおける押出装置の運転条件制御に係る要部の構成例を示す図である。
【0042】
図6に示すように、冷却装置4は、第一キャストロール(冷却ロール)41、第二キャストロール(冷却ロール)42、エアノズル(エアナイフ)43、搬送ロール44~47、光源(センサ部)48、およびゲルカウンタ(センサ部)49を有している。光源48およびゲルカウンタ49は、冷却装置センサ部40sの一部である。第一キャストロール41は、Tダイ3の吐出口3aの下方に配置されており、第二キャストロール42は、第一キャストロール41から縦方向xの下流寄りの斜め上方に配置されている。搬送ロール44は、第二キャストロール42のさらに下流側の斜め下方に配置されている。搬送ロール45,46は、搬送ロール44の下流側の斜め上方に水平に並んで配置されている。そして、搬送ロール47は、搬送ロール46の下流側の斜め下方に配置されている。なお、冷却装置4の全体の配置、第一および第二キャストロール41,42、搬送ロール45~46の配置は、押出装置2の運転条件制御を行うための一例であり、特に限定されるものではない。
【0043】
第一キャストロール41の温度である第一キャストロール温度RT1は、設定された温度で保持さるように制御される。また、第一キャストロール41は、設定された回転速度で回転するように制御される。第二キャストロール42,搬送ロール44~47は、これらの一部または全部が、それぞれ設定された回転速度で回転し、設定された温度を保持するように制御される。
【0044】
押出装置2から押し出されTダイ3の吐出口3aからほぼ鉛直下向きに吐出された溶融樹脂10aは、第一キャストロール41の表面に触れて冷却されるとともに、エアノズル43による送風BLを受けて冷却され、フィルム状に成形される。溶融樹脂10aが冷却され成形されて得られた樹脂フィルム10bは、第一キャストロール41の下側を通り、第二キャストロール42の上側の表面に触れて搬送される。第二キャストロール42により搬送される樹脂フィルム10bは、搬送ロール44の下側を通り、搬送ロール45,46の上側を通り、さらに搬送ロール47の下側を通るように導かれ、縦延伸装置5へと搬送される。
【0045】
第二キャストロール42により搬送される樹脂フィルム10bが透明であるか非透明であるかにより、ゲルカウンタ49のカメラの仕様が異なる。例えば、樹脂フィルム10bが透明である場合は、ゲルカウンタ49は、透過法によりゲルカウントを行う。搬送ロール45と搬送ロール46との間の領域において、樹脂フィルム10bの下方には、光源48が配置されており、樹脂フィルム10bの上方には、ゲルカウンタ49が配置されている。光源48は、樹脂フィルム10bに向けて発光する。ゲルカウンタ49は、光源48から発せられ樹脂フィルム10bを透過した光によって形成される樹脂フィルム10bの像を撮像する。ゲルカウンタ49は、樹脂フィルム10bが搬送されている間、撮像を複数回に亘って繰り返す。一方、樹脂フィルム10bが非透明である場合は、光源48をゲルカウンタ49の横方向に配置して、光源48からの光を樹脂フィルム10bで反射させる。ゲルカウンタ49は、その反射光に基づいてゲルカウントを行う(反射法)。それ以外の搬送ロール44~47と、第一および第二キャストロール41,42の位置は、透過法の場合と変わらない。そのため、透過法と反射法のどちらでもゲルカウントを行うことができるように、光源を樹脂フィルム10bの下部、およびゲルカウンタ49の横方向の2か所に設けてもよい。
【0046】
ゲルカウンタ49は、撮像によって得られた画像を解析し、樹脂フィルム10bに含まれる異物を検出し、検出された異物に係る出力情報GD1を制御装置8に出力する。ここで、異物は、樹脂原料10の溶け残りであるゲル、樹脂の厚みや色が周辺と異なっているスポットなどを含む。ゲルカウンタ49から出力される出力情報GD1には、樹脂フィルム10bの撮像領域における異物の数、個々の異物のサイズ、個々の異物の色などを表す情報が含まれる。
【0047】
なお、ゲルカウンタ49の撮像領域の面積は、ゲルカウンタ49の設置状況や設定などから求められる。したがって、撮像領域における異物の数は、単位面積当たりの異物の数に変換することができる。異物のサイズは、例えば、異物の最大幅、平均半径、面積などで表される。異物の色は、例えば、光の三原色である赤、緑、青の成分比、色温度などで表される。
【0048】
上記したような樹脂フィルム10bにおける異物の存在は、樹脂フィルムの品質を低下させるので、低減されるべきものである。また、本発明者らの知見によれば、異物の出現状況と押出装置2の運転条件との間には、相関が認められる。そこで、制御装置8が有する運転条件探索部81は、ゲルカウンタ49からの出力情報GD1に基づいて、異物が低減され、設定された仕様すなわち規定条件を満たすような押出装置2の運転条件を探索する。
【0049】
押出装置2は、投入された樹脂原料10をシリンダ内に導いてシリンダ内部で熱し、シリンダ内でスクリュを回転させることにより、樹脂原料10を溶融混練し、得られた溶融樹脂10aをTダイ3に押し出して吐出口3aから吐出させる。よって、押出装置2の運転条件を構成する複数のパラメータは、例えば、シリンダ温度ST、スクリュ回転速度SN、樹脂押出速度PV、シリンダ先端(ギアポンプ上流側)圧力Pgt、ギアポンプ下流側圧力Pgb、Tダイ上流側圧力Pdなどを含む。シリンダ温度とは、シリンダ内部の温度である。スクリュ回転速度とは、単位時間当たりのスクリュの回転数である。樹脂押出速度とは、単位時間当たりの溶融樹脂の押出量である。なお、スクリュは、一軸タイプであってもよいし、多軸タイプであってもよい。ギアポンプ上流側圧力すなわちシリンダ先端圧力Pgtは、押出装置2のサージング、吐出ムラによる変動を示す。また、ギアポンプ下流側圧力Pgbは、押出装置2のサージングや吐出ムラによる圧力変動の影響をギアポンプでカットすることにより、Tダイ3から安定した厚みのシート(膜状の溶融樹脂)を作成するためのパラメータである。運転条件探索部81は、これら複数のパラメータのうち少なくとも1つについて、新たなパラメータを決定する。
【0050】
これより、押出装置2の運転条件制御処理について説明する。
【0051】
図7は、押出装置の運転条件制御処理フローの一例を示す図である。図7に示すように、ステップS21では、ゲルカウンタ49からの出力情報が取得される。具体的には、運転条件探索部81が、ゲルカウンタ49から出力情報GD1を取得する。
【0052】
ステップS22では、樹脂フィルム内に異物があるかないかが判定される。具体的には、運転条件探索部81が、ゲルカウンタ49の出力情報GD1に基づいて、樹脂フィルム10b内に異物があるかないかを判定する。ここで、異物があると判定された場合(S22:Yes)には、処理ステップはステップS23に進められる。一方、異物がないと判定された場合(S22:No)には、処理ステップはステップS28に進められる。
【0053】
ステップS23では、異物に着色があるか否かが判定される。具体的には、運転条件探索部81が、ゲルカウンタ49の出力情報GD1に基づいて、検出された異物のうち少なくとも1つについて、異物の色が樹脂の本来の色あるいは異物の周辺の色と比較して一定レベル以上異なっている場合に、異物に着色があると判定する。ここで、異物に着色があると判定された場合(S23:Yes)には、処理ステップはステップS24に進められる。
【0054】
一方、運転条件探索部81が、検出された異物のうちすべてについて、異物の色が樹脂の本来の色あるいは異物の周辺の色と比較して一定レベル以上異なっていない場合、すなわち色の差異が一定レベル未満である場合に、異物に着色がないと判定する。異物に着色がないと判定された場合(S23:No)には、処理ステップはステップS25に進められる。
【0055】
ステップS24では、押出装置の適正な運転条件が探索される(探索A)。具体的には、運転条件探索部81は、ゲルカウンタ49の出力情報GD1に基づいて、樹脂温度が低くなるような押出装置2の運転条件を探索する。このような探索を行う理由は、異物に着色がある場合は、樹脂温度が高過ぎて樹脂の一部が焼けて変色していると考えられるからである。
【0056】
運転条件探索部81は、例えば、次に示すような、押出装置2の運転条件を構成する複数のパラメータについての変更候補(A1)~(A4)の中から、少なくとも1つを選択する。そして、運転条件探索部81は、選択された変更候補に基づいて、押出装置2の運転条件を構成する複数のパラメータのうち少なくとも1つについて、新たなパラメータ値を決定し、決定された新たなパラメータ値を探索結果として出力する。
【0057】
(A1)スクリュ回転速度SNを下げる。
(A2)シリンダ温度STを下げる。
(A3)樹脂押出速度PVを下げる。
(A4)シリンダ先端圧力Pgtを下げる。
【0058】
なお、運転条件探索部81は、これら複数のパラメータのうち少なくとも2つについて、設定された優先順位、パラメータ値の設定可能範囲、決定シーケンスもしくは決定アルゴリズムなどに基づいて、変更すべき少なくとも1つのパラメータとそのパラメータ値とを決定する。設定可能範囲とは、運転条件を構成するパラメータについて、設定できるパラメータ値の範囲、許容されるパラメータ値の変化量もしくは変化割合を規定するものである。決定シーケンスもしくは決定アルゴリズムとは、樹脂がどのような状態の場合にどの装置のいずれの運転条件すなわちパラメータをどのように変更すべきか、を規定するものである。
【0059】
これら複数のパラメータについての優先順位や、各種パラメータのパラメータ値の設定可能範囲、決定シーケンスもしくは決定アルゴリズムなどについては、樹脂成形関係者の総合的な知見、過去の実績、蓄積されたノウハウなどに基づいて予め設定されてもよいし、ユーザによって任意に設定されてもよい。
【0060】
また、運転条件探索部81は、例えば、人工知能を用いて変更すべきパラメータの種類とそのパラメータ値を決定してもよい。この人工知能は、例えば、上記した変更候補(A1)~(A3)に挙げた各種パラメータのうち少なくとも2つについて、パラメータの優先順位、パラメータ値の設定可能範囲、決定シーケンスもしくは決定アルゴリズムなどが設定されたものであってよい。また、この人工知能は、例えば、変更候補(A1)~(A4)に挙げた各種パラメータのうち少なくとも1つについて、パラメータ値の変化と樹脂フィルムに含まれる異物の状態の変化との関係に基づき学習が行われたものであってよい。
【0061】
ステップS24における押出装置の運転条件の探索Aが終了すると、処理ステップはステップS27に進められる。
【0062】
ステップS25では、異物のサイズまたは異物の数が規定値以上であるか否かが判定される。具体的には、運転条件探索部81が、ゲルカウンタ49の出力情報GD1に基づいて、検出された異物の中で、設定された規定サイズ(第1のサイズ)Z1以上のサイズを有する異物が少なくとも1つ存在するか、あるいは、撮像領域あるいは単位面積あたりに検出された異物の数が、設定された規定数(第1の数)N1以上である場合に、異物のサイズまたは数が規定値以上であると判定する。ここで、異物のサイズまたは数が規定値以上であると判定された場合(S25:Yes)には、処理ステップはステップS26に進められる。
【0063】
一方、運転条件探索部81は、検出された異物のうち規定サイズZ1以上のサイズを有する異物が1つも存在せず、かつ、検出された異物の数が規定数N1未満である場合に、異物のサイズまたは数が規定値以上でないと判定する。異物のサイズまたは数が規定値以上でないと判定された場合(S25:No)には、処理ステップはステップS28に進められる。
【0064】
ステップS26では、押出装置の適正な運転条件が探索される(探索B)。具体的には、運転条件探索部81は、ゲルカウンタ49の出力情報GD1に基づいて、樹脂温度が高くなるような押出装置2の運転条件を探索する。このような探索を行う理由は、異物に着色が無く、かつ、異物のサイズまたは数が規定値以上である場合は、樹脂温度が低過ぎて樹脂原料の溶け残りがあると考えられるからである。
【0065】
運転条件探索部81は、例えば、次に示すような、押出装置2の運転条件を構成する複数のパラメータについての変更候補(B1)~(B4)の中から、少なくとも1つを選択する。そして、運転条件探索部81は、選択された変更候補に基づいて、押出装置2の運転条件を構成する複数のパラメータのうち少なくとも1つについて、新たなパラメータ値を決定し、決定された新たなパラメータ値を探索結果として出力する。
【0066】
(B1)スクリュ回転速度SNを上げる。
(B2)シリンダ温度STを上げる。
(B3)樹脂押出速度PVを上げる。
(B4)シリンダ先端圧力Pgtを上げる。
【0067】
なお、運転条件探索部81は、これら複数のパラメータのうち少なくとも2つについて、設定された優先順位、パラメータ値の設定可能範囲、決定シーケンスもしくは決定アルゴリズムなどに基づいて、変更すべき少なくとも1つのパラメータとそのパラメータ値とを決定する。
【0068】
これら複数のパラメータについての優先順位や、各種パラメータのパラメータ値の設定可能範囲、決定シーケンスもしくは決定アルゴリズムなどについては、樹脂成形関係者の総合的な知見、過去の実績、蓄積されたノウハウなどに基づいて予め設定されてもよいし、ユーザによって任意に設定されてもよい。
【0069】
また、運転条件探索部81は、例えば、人工知能を用いて変更すべきパラメータの種類とそのパラメータ値を決定してもよい。この人工知能は、例えば、上記した変更候補(B1)~(B4)に挙げた各種パラメータのうち少なくとも2つについて、パラメータの優先順位、パラメータ値の設定可能範囲、決定シーケンスもしくは決定アルゴリズムなどが設定されたものであってよい。また、この人工知能は、例えば、変更候補(B1)~(B4)に挙げた各種パラメータのうち少なくとも1つについて、パラメータ値の変化と樹脂フィルムに含まれる異物の状態の変化との関係に基づき学習が行われたものであってよい。
【0070】
ステップS26における押出装置2の運転条件の探索Bが終了すると、処理ステップはステップS27に進められる。
【0071】
ステップS27では、探索された運転条件が設定される。具体的には、運転条件設定部82が、押出装置2の運転条件を、探索された新たな運転条件に変更し設定し直す。装置制御部83は、押出装置2が、設定された新たな運転条件に従って運転されるように、押出装置運転制御部20cに制御信号を送信する。
【0072】
ステップS28では、押出装置の運転条件の制御を継続するか否かが判定される。具体的には、装置制御部83が、樹脂成形システム1におけるエラー信号の発信の有無、製造停止の指令入力の有無などに基づいて、押出装置2の運転条件の制御を継続するか否かを判定する。この判定において、制御を継続すると判定された場合(S28:Yes)には、処理ステップがS21に戻され、制御が継続される。一方、制御を継続しないと判定された場合(S28:No)には、制御処理は終了となる。
【0073】
〈冷却装置の運転条件制御〉
図8は、樹脂成形システムにおける冷却装置の運転条件制御に係る要部の構成例を示す図である。
【0074】
図8に示すように、冷却装置4は、第一キャストロール41、第二キャストロール42、エアノズル43、搬送ロール44~47を有している。また、冷却装置4は、第一キャストロール41の高さ調整を可能にする高さ調整機構402、搬送ロール44~47を支持する支持部403、高さ調整機構402および支持部403を支持する支持台401を有している。また、冷却装置4は、第二キャストロール42の高さ調整を可能にする高さ調整機構407を有している。支持台401は、縦方向xにスライド可能に構成されている。冷却装置4は、さらに、第1カメラ(第1のセンサ)404、第2カメラ(第1のセンサ)405、およびサーモグラフィ(第2のセンサ)406を有している。これらのカメラは、例えば、半導体イメージセンサが搭載され、映像または画像を高速に撮像可能なものである。第1カメラ404、第2カメラ405、およびサーモグラフィ406は、冷却装置センサ部40sの一部である。
【0075】
第1カメラ404は、Tダイ3の吐出口3aと、吐出口3aから吐出された溶融樹脂10aが接触する第一キャストロール41の表面との間の領域において、溶融樹脂10aを撮像し、得られた画像情報である第1画像情報PD1を制御装置8に出力する。第2カメラ405は、第一キャストロール41およびエアノズル43により冷却され成形された樹脂フィルム10bを撮像し、得られた画像情報である第2画像情報PD2を制御装置8に出力する。サーモグラフィ406は、第一キャストロール41の表面で冷却されている溶融樹脂10a、すなわち第一キャストロール41通過時の溶融樹脂10aの表面温度を測定し、測定された温度を表す情報である樹脂温度情報ED1を制御装置8に出力する。
【0076】
第1カメラ404および第2カメラ405は、溶融樹脂10aが冷却成形された樹脂フィルム10bが搬送されている間、撮像を繰り返す。また、サーモグラフィ406は、樹脂フィルム10bが搬送されている間、温度測定を繰り返す。なお、サーモグラフィ406は、第一キャストロール41の表面で冷却されている溶融樹脂10aの表面温度を測定するデバイスの一例であり、これに限定されない。すなわち、サーモグラフィ406に代えて、例えば、赤外線カメラや非接触型温度計などを用いてもよい。
【0077】
第1画像情報PD1は、Tダイ3と第一キャストロール41との間における溶融樹脂10aの幅の変化を表す情報が含まれる。すなわち、第1画像情報PD1によれば、いわゆるネックインと呼ばれる現象を認識することが可能である。ここで、ネックインについて簡単に説明する。
【0078】
図9は、ネックインを説明するための図である。図9に示すように、ネックインとは、Tダイ3の吐出口3aより吐出されてから第一キャストロール41に触れるまでの溶融樹脂10aの幅が、吐出口3aの幅であるダイス幅DWより徐々に狭くなり縮小する現象のことをいう。ここで、溶融樹脂10aが第一キャストロール41に触れる時点での溶融樹脂10aの幅を樹脂幅FW1と定義する。溶融樹脂10aの幅の変化の仕方が左右対称であると仮定すると、ダイス幅DW-樹脂幅FW1=ネックイン縮小幅(縮小幅)NW×2が成り立つ。
【0079】
第2画像情報PD2は、Tダイ3と第一キャストロール41との間における溶融樹脂10aの幅の変化または変動を表す情報、あるいは、第一キャストロール41と第二キャストロール42との間における樹脂フィルム10bの幅の変化あるいは変動を表す情報が含まれる。すなわち、第2画像情報PD2によれば、いわゆるドローレゾナンスあるいは単にレゾナンスと呼ばれる現象を認識することが可能である。ここで、レゾナンスについて簡単に説明する。
【0080】
図10は、レゾナンスを説明するための図である。図10に示すように、レゾナンスとは、Tダイ3の吐出口3aから吐出された溶融樹脂10aの両端の厚みが周期的に変動し、溶融樹脂10aまたは樹脂フィルム10bの幅が周期的に変動する現象のことをいう。ここで、溶融樹脂10aまたは樹脂フィルム10bの最も長い幅を樹脂最長幅FW2と定義し、最も短かい幅を樹脂最短幅FW3と定義する。溶融樹脂10aまたは樹脂フィルム10bの幅の変動の仕方が左右対称であると仮定すると、樹脂最長幅FW2-樹脂最短幅FW3=レゾナンス変動幅(変動幅)RW×2が成り立つ。
【0081】
溶融樹脂10aのネックイン縮小幅NW、および、溶融樹脂10aもしくは樹脂フィルム10bのレゾナンス変動幅RWは、それぞれ、設定された仕様を満たす、すなわち設定された規定範囲内に収まるべきものである。また、第一キャストロール41の表面に位置する溶融樹脂10aの温度も、設定された仕様を満たす、すなわち設定された規定範囲内に収まるべきものである。また、本発明者らの知見によれば、ネックインの状況、レゾナンスの状況、および樹脂温度の状況と、冷却装置4の運転条件との間には、相関が認められる。
【0082】
そこで、制御装置8が有する運転条件探索部81は、第1画像情報PD1、第2画像情報PD2、および樹脂温度情報ED1に基づいて、溶融樹脂10aのネックイン縮小幅NW、樹脂フィルム10bのレゾナンス変動幅RW、および第一キャストロール41通過時の溶融樹脂10aの温度が、それぞれ、設定された規定範囲内に収まるような冷却装置4の運転条件を探索する。ここで、冷却装置4の要部の構成例と運転条件の具体例とについて説明する。
【0083】
図11は、冷却装置の要部の構成例を示す図である。図11に示すように、第一キャストロール41は、高さ調整機構402と機械的に接続されており、高さ調整機構402は、モータなどの駆動装置により駆動される。本例では、この駆動装置は、冷却装置運転制御部40cに含まれている。第一キャストロール41は、高さ調整機構402の駆動装置を制御することにより、矢印V1で示すように高さの調整が可能である。また、Tダイ3の位置は固定されているものとする。
【0084】
ここで、Tダイ3と第一キャストロール41との間の高さ方向zにおける距離をエアギャップ(第1の距離)AGと定義する。すると、第一キャストロール41の高さを調整することにより、エアギャップAGが調整可能である。また、第一キャストロール41自体の温度を第一キャストロール温度RT1と定義し、第一キャストロール41の回転速度を第一キャストロール回転速度RN1と定義する。すると、第一キャストロール41の運転条件である温度および回転速度の設定を変更することにより、第一キャストロール温度RT1および第一キャストロール回転速度RN1が調整可能である。第二キャストロール42自体の温度を第二キャストロール温度RT2と定義し、第二キャストロール42の回転速度を第二キャストロール回転速度RN2と定義する。第二キャストロール回転速度RN2は第一キャストロール回転速度RN1と同期制御してもよいし、第一キャストロールと第二キャストロール間の速度差で縦方向(搬送方向)に延伸してもよい。第二キャストロール42の運転条件である温度および回転速度の設定を変更することにより、第二キャストロール温度RT2および第二キャストロール回転速度RN2が調整可能である。
【0085】
エアノズル43は、xy平面内において、第一キャストロール41の回転軸41aを中心とした円の円弧K1に沿って配置を変更することができるように構成されている。ここで、xy平面内において、回転軸41aを通る鉛直方向の直線と、回転軸41aとエアノズル43の基準位置とを通る直線とで成す鋭角度をエアノズル配置角度θと定義する。エアノズル43は、エアノズル配置角度θを変更することができる角度変更機構と機械的に接続されており、角度変更機構は、モータなどの駆動装置により駆動される。本例では、この駆動装置は、冷却装置運転制御部40cに含まれている。
【0086】
エアノズル配置角度θは、角度変更機構の駆動装置を制御することにより、調整が可能である。エアノズル配置角度θを小さくすると、エアノズル43は溶融樹脂10aの上流側に移動し、エアノズル43からの送風先の位置は溶融樹脂10aの上流側に移動する。逆に、エアノズル配置角度θを大きくすると、エアノズル43は溶融樹脂10aの下流側に移動し、エアノズル43からの送風先の位置は溶融樹脂10aの下流側に移動する。
【0087】
また、エアノズル43は、xy平面内において、回転軸41aを中心とした半径方向に沿って配置を変更することができるように構成されている。ここで、xy平面内において、エアノズル43と第一キャストロール41の表面上の溶融樹脂10aとの間の距離をエアノズル樹脂間距離(第2の距離)ADと定義する。エアノズル43は、エアノズル樹脂間距離ADを変更することができる距離変更機構と機械的に接続されており、距離変更機構は、モータなどの駆動装置により駆動される。本例では、この駆動装置は、冷却装置運転制御部40cに含まれている。エアノズル樹脂間距離ADは、距離変更機構の駆動装置を制御することにより、調整が可能である。
【0088】
冷却装置4の運転条件を構成する複数のパラメータは、例えば、第一キャストロール回転速度RN1、エアノズル配置角度θ、エアノズル樹脂間距離AD、エアギャップAG、第一キャストロール温度RT1、第二キャストロール回転速度RN2、第二キャストロール温度RT2などを含む。運転条件探索部81は、これら複数のパラメータのうち少なくとも1つについて、新たなパラメータ値を決定する。
【0089】
これより、冷却装置4の運転条件制御処理について説明する。
【0090】
図12は、冷却装置の運転条件制御処理フローの一例を示す図である。図12に示すように、ステップS31では、第1および第2カメラからの出力情報が取得される。具体的には、運転条件探索部81が、第1カメラ404から第1画像情報PD1を取得し、第2カメラ405から第2画像情報PD2を取得する。
【0091】
ステップS32では、溶融樹脂または樹脂フィルムのレゾナンスがあるか否かが判定される。具体的には、運転条件探索部81が、第1画像情報PD1または第2画像情報PD2を解析して、溶融樹脂10aまたは樹脂フィルム10bのレゾナンス変動幅RWを特定する。特定されたレゾナンス変動幅RWが、設定された規定幅(第1の幅)W1以上である場合には、運転条件探索部81は、レゾナンスがあると判定する。レゾナンスがあると判定された場合(S32:Yes)には、処理ステップはステップS33に進められる。一方、特定されたレゾナンス変動幅RWが、設定された規定幅W1未満である場合には、運転条件探索部81は、レゾナンスはないと判定する。レゾナンスはないと判定された場合(S32:No)には、処理ステップはステップS34に進められる。
【0092】
ステップS33では、冷却装置のより適正な運転条件が探索される(探索C)。具体的には、運転条件探索部81は、ドラフト比が低くなるような冷却装置4の運転条件を探索する。ドラフト比とは、Tダイ吐出口の速度Vsとロールによるフィルムの引取速度Vrの比であり、Vr/Vsで表される。上記のように、ドラフト比が低くなるような探索を行う理由は、レゾナンスがあると判定されるような場合は、ドラフト比が高過ぎると考えられるからである。
【0093】
運転条件探索部81は、例えば、次に示すような、冷却装置4の運転条件を構成する複数のパラメータについての変更候補(C1)~(C6)の中から、少なくとも一つを選択する。そして、運転条件探索部81は、選択された変更候補に基づいて、冷却装置4の運転条件を構成する複数のパラメータのうち少なくとも1つについて、新たなパラメータ値を決定し、決定された新たなパラメータ値を探索結果として出力する。
【0094】
(C1)第一キャストロール回転速度RN1および第二キャストロール回転速度RN2を下げる。
(C2)エアノズル配置角度θを小さくする(送風先の位置を上流側に移動させる)。
(C3)エアギャップAGを大きくする、または小さくする。
(C4)エアノズル樹脂間距離ADを短くする。
(C5)第一キャストロール温度RT1を上げる、または下げる。
(C6)押出装置2による溶融樹脂の押出量を上げる(Tダイ3からの溶融樹脂の吐出速度を早くする)。
【0095】
なお、運転条件探索部81は、これら複数のパラメータのうち少なくとも2つについて、設定された優先順位、パラメータ値の設定可能範囲、決定シーケンスもしくは決定アルゴリズムなどに基づいて、変更すべき少なくとも1つのパラメータとそのパラメータ値とを決定する。
【0096】
これら複数のパラメータについての優先順位や、パラメータ値の設定可能範囲、決定シーケンスもしくは決定アルゴリズムなどについては、樹脂成形関係者の総合的な知見、過去の実績、蓄積されたノウハウなどに基づいて予め設定されてもよいし、ユーザによって任意に設定されてもよい。
【0097】
また、運転条件探索部81は、例えば、人工知能を用いて変更すべきパラメータの種類とそのパラメータ値を決定してもよい。この人工知能は、例えば、上記した変更候補(C1)~(C6)に挙げた複数のパラメータのうち少なくとも2つについて、優先順位、パラメータ値の設定可能範囲、決定シーケンスもしくは決定アルゴリズムなどが設定されたものであってよい。また、この人工知能は、例えば、変更候補(C1)~(C6)に挙げた各種パラメータのうち少なくとも1つについて、パラメータ値の変化と樹脂フィルムにおけるレゾナンスの状態の変化との関係に基づき学習が行われたものであってよい。
【0098】
ステップS33における冷却装置4の運転条件の探索Cが終了すると、処理ステップはステップS39に進められる。
【0099】
ステップS34では、溶融樹脂のネックインがあるか否かが判定される。具体的には、運転条件探索部81が、第1画像情報PD1を解析して、溶融樹脂10aのネックイン縮小幅NWを特定し、特定されたネックイン縮小幅NWが、設定された規定幅W2以上である場合には、ネックインがあると判定する。一方、特定されたネックイン縮小幅NWが、設定された規定幅W2未満である場合には、運転条件探索部81は、ネックインはないと判定する。ネックインがあると判定された場合(S34:Yes)には、処理ステップはステップS35に進められる。ネックインはないと判定された場合(S34:No)には、処理ステップはステップS36に進められる。
【0100】
ステップS35では、冷却装置の適正な運転条件が探索される(探索D)。具体的には、運転条件探索部81は、エアノズル43の送風による冷却状況が変化するような冷却装置4の運転条件を探索する。このような探索を行う理由は、ネックインがあると判定された場合は、エアノズル43の送風による冷却状況が適正でないと考えられるからである。冷却装置4の運転条件を構成する複数のパラメータは、例えば、第一キャストロール回転速度RN1、第二キャストロール回転速度RN2、エアノズル配置角度θ、エアギャップAG、エアノズル樹脂間距離AD、第一キャストロール温度RT1、第二キャストロール温度RT2などが含む。
【0101】
運転条件探索部81は、例えば、次に示すような、冷却装置4の運転条件を構成する複数のパラメータについての変更候補の中から、少なくとも一つを選択する。そして、運転条件探索部81は、選択された変更候補に基づいて、冷却装置4の運転条件を構成する複数のパラメータのうち少なくとも1つについて、新たなパラメータ値を決定し、決定された新たなパラメータ値を探索結果として出力する。
【0102】
(D1)第一キャストロール回転速度RN1および第二キャストロール回転速度RN2を下げる。
(D2)エアノズル配置角度θを小さくする(送風先位置を上流側に移動させる)。
(D3)エアギャップAGを小さくする。
(D4)エアノズル樹脂間距離ADを短くする。
(D5)第一キャストロール温度RT1を下げる。
【0103】
なお、運転条件探索部81は、これら複数のパラメータのうち少なくとも2つについて、設定された優先順位、パラメータ値の設定可能範囲、決定シーケンスもしくは決定アルゴリズムなどに基づいて、変更すべき少なくとも1つのパラメータとそのパラメータ値とを決定する。
【0104】
これら複数のパラメータについての優先順位や、パラメータ値の設定可能範囲、決定シーケンスもしくは決定アルゴリズムなどについては、樹脂成形関係者の総合的な知見、過去の実績、蓄積されたノウハウなどに基づいて予め設定されてもよいし、ユーザによって任意に設定されてもよい。
【0105】
また、運転条件探索部81は、例えば、人工知能を用いて変更すべきパラメータの種類とそのパラメータ値を決定してもよい。この人工知能は、例えば、上記した変更候補(D1)~(D5)に挙げた複数のパラメータのうち少なくとも2つについて、優先順位や、パラメータ値の設定可能範囲、決定シーケンスもしくは決定アルゴリズムなどが設定されたものであってよい。この人工知能は、例えば、変更候補(D1)~(D5)に挙げた各種パラメータのうち少なくとも1つについて、パラメータ値の変化と樹脂フィルムにおけるネックインの状態の変化との関係に基づき学習が行われたものであってよい。
【0106】
ステップS35における冷却装置4の運転条件の探索Dが終了すると、処理ステップはステップS39に進められる。
【0107】
ステップS36では、サーモグラフィからの出力情報が取得される。具体的には、運転条件探索部81が、サーモグラフィ406から樹脂温度情報ED1を取得する。
【0108】
ステップS37では、樹脂フィルム10bの第一キャストロール通過時の温度は規定範囲内であるか否かが判定される。具体的には、運転条件探索部81が、樹脂温度情報ED1を解析して、溶融樹脂10aの第一キャストロール41通過時の樹脂温度PTを特定する。特定された樹脂温度PTが、設定された規定温度範囲(温度範囲)TR1内である場合には、運転条件探索部81は、溶融樹脂10aの第一キャストロール通過時の温度は規定範囲内であると判定する。一方、特定された樹脂温度PTが、設定された規定温度範囲TR1外である場合には、運転条件探索部81は、溶融樹脂10aの第一キャストロール通過時の温度は規定範囲外であると判定する。溶融樹脂10aの第一キャストロール通過時の温度が規定範囲内であると判定された場合(S37:Yes)には、処理ステップはステップS40に進められる。溶融樹脂10aの第一キャストロール通過時の温度が規定範囲外であると判定された場合(S37:No)には、処理ステップはステップS38に進められる。
【0109】
ステップS38では、冷却装置の適正な運転条件が探索される(探索E)。具体的には、運転条件探索部81は、第一キャストロール温度RT1が変化し規定温度範囲TR1内に入るような冷却装置4の運転条件を探索する。このような探索を行う理由は、溶融樹脂10aの第一キャストロール通過時の温度が規定範囲外である場合には、第一キャストロール温度RT1そのものが適正でないと考えられるからである。第一キャストロール温度RT1を変更する場合は、第二キャストロール温度RT2も同じ温度に変更する。
【0110】
運転条件探索部81は、例えば、次に示すような、冷却装置4の運転条件を構成するパラメータの変更候補(E1)に基づいて、冷却装置4の運転条件を構成するパラメータの新たなパラメータ値を決定し、決定された新たなパラメータ値を探索結果として出力する。
【0111】
(E1)第一キャストロール温度RT1および第二キャストロール温度RT2を同じ温度に上げる、または下げる。
【0112】
なお、パラメータの変更候補(E1)の項目についてどの程度の変化量もしくは変化割合を許容するかなどについては、樹脂成形関係者の総合的な知見、過去の実績、蓄積されたノウハウなどに基づいて予め設定されてもよいし、ユーザによって任意に設定されてもよい。
【0113】
また、運転条件探索部81は、例えば、人工知能を用いてパラメータ値を決定してもよい。この人工知能は、例えば、変更候補(E1)に挙げたパラメータのパラメータ値の変化と溶融樹脂10aのキャストロール通過時の温度の変化との関係に基づき学習が行われたものであってよい。
【0114】
ステップS38における冷却装置4の運転条件の探索Eが終了すると、処理ステップはステップS39に進められる。
【0115】
ステップS39では、探索された運転条件が設定される。具体的には、運転条件設定部82が、冷却装置4の運転条件を、探索された運転条件に変更し設定し直す。装置制御部83は、冷却装置4が、設定された新たな運転条件に従って運転されるように、冷却装置運転制御部40cに制御信号を送信する。
【0116】
ステップS40では、冷却装置の運転条件の制御を継続するか否かが判定される。具体的には、装置制御部83が、樹脂成形システム1におけるエラー信号の発信の有無、製造停止の指令入力の有無などに基づいて、冷却装置4の運転条件の制御を継続するか否かを判定する。この判定において、制御を継続すると判定された場合(S40:Yes)には、処理ステップがS31に戻され、制御が継続される。一方、制御を継続しないと判定された場合(S40:No)には、制御処理は終了となる。
【0117】
〈縦・横延伸装置の運転条件制御〉
図13および図14は、樹脂成形システムにおける縦・横延伸装置の運転条件制御に係る要部の構成例を示す図である。図13は、主に縦延伸装置の構成例を示しており、図14は、主に横延伸装置の構成例を示している。
【0118】
図13に示すように、縦延伸装置5は、予熱ロール501~504、延伸ロール505~507、冷却ロール509~511を有している。これらのロールは、樹脂フィルム10cの搬送方向すなわち縦方向xにおける上流側から下流側に向かって、順番に配置されている。冷却装置4から送られてきた樹脂フィルム10cは、予熱ロール501~503で予熱された後、ガイドロールを通り、延伸ロール505~507で縦延伸される。縦延伸後の樹脂フィルム10dは、冷却ロール509~511を通り、横延伸装置6に搬送される。
【0119】
図13の例では、樹脂フィルム10cは、また、予熱ロール501~503、延伸ロール505~507、冷却ロール509~511は、モータなどの駆動装置により回転駆動される。この駆動装置は、縦延伸装置運転制御部50cに含まれている。また、上記の予熱ロール、延伸ロール、冷却ロールの間に張力を制御するためのニップロールを設けてもよい。
【0120】
制御装置8の装置制御部83は、この駆動装置を、設定された運転条件に従って制御する。延伸ロール505は、回転速度MV1で回転するように制御され、延伸ロール506は、回転速度MV1より速い回転速度MV2で回転するように制御され、延伸ロール507は、回転速度MV2より速い回転速度MV3で回転するように制御される。この回転速度MV1とMV2、回転速度MV2とMV3との差により、樹脂フィルム10cには縦方向xに張力が働き、樹脂フィルム10cは縦延伸される。樹脂フィルム10cの縦延伸倍率DDxは、回転速度MV1と回転速度MV3の設定により定まる。
【0121】
図14に示すように、横延伸装置6は、複数のレール61、複数のオーブン62、複数のテンタークリップ63、応力センサ部64、複屈折計65、およびヘイズ計66を有している。なお、応力センサ部64、複屈折計65、およびヘイズ計66は、横延伸装置センサ部60sの一部である。
【0122】
横延伸装置6における樹脂フィルム10dの横延伸に用いられる領域は、縦方向xに並ぶ複数の分割エリア69により構成される。1つの分割エリア69には、横方向yを左右方向とした場合における左右対称な一対のレール61と、1つのオーブン62とが割り当てられる。横延伸に用いられる領域は、縦方向xすなわち搬送方向に並ぶ3つのゾーンによって構成される。これら3つのゾーンは、それぞれ、上流側から、予熱ゾーン6a、横延伸ゾーン6b、および熱固定ゾーン6cである。それぞれのゾーンは、複数の隣接する分割エリア69により構成される。すなわち、各ゾーンの縦方向xにおけるゾーン長は、分割エリア69の割り当てる数によって変更することができる。
【0123】
各分割エリア69における一対のレール61は、それぞれ、レール間幅LWと縦方向xに対するレール角度とが分割エリア69ごとに独立して変更できるように構成されている。ただし、隣接する分割エリア69同士において、右側のレール61の端部同士と左側のレール61の端部同士とは、横方向yの位置がずれないように構成されまたは制御される。また、各分割エリア69におけるオーブン62は、それぞれ、対応する分割エリア69の保温温度が、分割エリア69ごとに独立して設定できるように構成されている。したがって、ゾーンごとに温度を別けて保持することが可能である。
【0124】
このような構成により、各ゾーンにおける平行なレール61の横方向yの間隔、予熱ゾーン6aの縦方向xの長さ、横延伸ゾーン6bの縦方向xの長さ、横延伸ゾーン6bのレール61の開角度、熱固定ゾーン6cの縦方向xの長さ、熱固定ゾーン6cのレール61の閉角度などを、任意に設定したり調整あるいは制御したりすることが可能である。
【0125】
なお、ここでは、予熱ゾーン6aの縦方向xの長さのことを、予熱ゾーン長ZLaと定義する。また、横延伸ゾーン6bの縦方向xの長さのことを、横延伸ゾーン長ZLbと定義し、横延伸ゾーン6bのレール61の開角度のことを、横延伸ゾーン開角度αと定義する。また、熱固定ゾーン6cの縦方向xの長さのことを、熱固定ゾーン長ZLcと定義し、熱固定ゾーン6cのレール61の閉角度のことを、熱固定ゾーン閉角度βと定義する。
【0126】
予熱ゾーン6aでは、樹脂フィルム10cが横延伸ゾーン6bに到達する前に段階的に温度が上昇されるように予熱ゾーン6aに属する分割エリア69の各オーブン62の設定温度が制御される。同様に、横延伸ゾーン6bでは、当該ゾーンが樹脂フィルム10dの横延伸に適した温度で保温されるように、横延伸ゾーン6bに属する分割エリア69の各オーブン62の設定温度が制御される。また、熱固定ゾーン6cでは、当該ゾーンが樹脂フィルム10dの熱固定に適した温度で保温されるように、熱固定ゾーン6cに属する分割エリア69の各オーブン62の設定温度が制御される。
【0127】
なお、ここでは、予熱ゾーン6aの温度のことを、予熱温度ZTaと定義する。また、横延伸ゾーン6bの温度のことを、横延伸温度ZTbと定義し、熱固定ゾーン6cの温度のことを、熱固定温度ZTcと定義する。
【0128】
複数のテンタークリップ63は、予熱ゾーン6aから熱固定ゾーン6cに亘り複数のレール61で形成される2本のレールラインに沿って、上流側から下流側へ走行し、再び予熱ゾーン6aのレール61の上流側に戻るように構成されている。テンタークリップ63は、樹脂フィルム10dの横方向yにおける端部を把持する把持部を有している。テンタークリップ63は、縦延伸装置5から搬送されきた樹脂フィルム10dの横方向yにおける両端部を把持部で把持した状態で、レールラインに沿って走行する。テンタークリップ63は、熱固定ゾーン6cの縦方向xにおける最下流付近に達した時点で、樹脂フィルム10dの両端部を把持部から解放する。
【0129】
このようなテンタークリップ63の動作により、樹脂フィルム10dは、予熱ゾーン6aで予熱され、横延伸ゾーン6bで横延伸され、熱固定ゾーン6cで熱固定される。樹脂フィルム10dの横延伸倍率DDyは、予熱ゾーン6aにおけるレール61の横方向yの間隔と横延伸ゾーン6bにおけるレール61の横方向yの間隔との比の設定により定まる。
【0130】
応力センサ部64は、複数の応力センサ(応力計)64aを含んでいる。応力センサ64aは、複数のテンタークリップ63の各々に1つずつ設置されている。応力センサ64aは、テンタークリップ63の把持部で把持している樹脂フィルム10dに掛かる応力を計測し、計測された応力に応じた応力情報を出力する。応力センサ部64は、複数のテンタークリップ63のうち樹脂フィルム10dを把持部で把持しているものに対応する応力センサ64aからの応力情報CF1,…CFi,…,CFn(以下、これらをまとめて応力情報CFで表す)を、制御装置8に出力する。
【0131】
応力センサ部64から出力される応力情報CFには、樹脂フィルム10cにおける縦方向xの各位置にて生じている横方向yの引張応力である応力FWjを表す情報が含まれる。制御装置8は、応力センサ部64から出力された応力情報CFを解析することにより、縦方向xにおける複数の位置jでの樹脂フィルム10dの横方向yに掛かる応力FWjを特定する。
【0132】
複屈折計65は、熱固定ゾーン6cの縦方向xにおける最下流付近に配置されている。複屈折計65は、横延伸され熱固定された樹脂フィルム10eの光の複屈折性を表す複屈折性情報QL1を制御装置8に出力する。複屈折計65が出力する複屈折性情報QL1には、樹脂フィルム10eを構成する樹脂の高分子鎖の繊維軸方向に対する配向度、すなわち分子結晶の配向度を表す情報が含まれている。制御装置8は、複屈折計65から出力された複屈折性情報QL1を解析することにより、樹脂フィルム10eの配向度DRを特定する。
【0133】
ヘイズ計66は、熱固定ゾーン6cの縦方向xにおける最下流付近に配置されている。ヘイズ計66は、横延伸され熱固定された樹脂フィルム10eの光透過率を表す光透過率情報CL1を制御装置8に出力する。制御装置8はヘイズ計66から出力された光透過率情報CL1を解析することにより、樹脂フィルム10eの透明度TPを特定する。
【0134】
これより、縦・横延伸装置の運転条件制御処理について説明する。
【0135】
図15は、縦・横延伸装置の運転条件制御処理フローの一例を示す図である。図15に示すように、ステップS41では、ヘイズ計66からの出力情報が取得される。具体的には、運転条件探索部81が、ヘイズ計66から光透過率情報CL1を取得する。
【0136】
ステップS42では、樹脂フィルムの透明度が規格外であるか否かが判定される。具体的には、運転条件探索部81が、光透過率情報CL1を解析して、樹脂フィルム10eの透明度TPを特定する。特定された透明度TPが、設定された規定範囲(第1の範囲)TPR外である場合には、運転条件探索部81は、樹脂フィルム10eの透明度は規格外であると判定する。樹脂フィルム10eの透明度が規格外であると判定された場合(S42:Yes)には、処理ステップはステップS43に進められる。一方、特定された透明度TPが、設定された規定範囲TPR内である場合には、運転条件探索部81は、樹脂フィルム10eの透明度は規格外ではない(規格内である)と判定する。樹脂フィルム10eの透明度が規格外ではないと判定された場合には、処理ステップはステップS44に進められる。
【0137】
ステップS43では、縦・横延伸装置の適正な運転条件が探索される(探索F)。具体的には、運転条件探索部81は、樹脂のキャストロール通過時の分子結晶化度が低くなるような、あるいはそれと同等の効果が得られるような、縦延伸装置5および横延伸装置6の運転条件を探索する。このような探索を行う理由は、樹脂フィルム10eの透明度が規格外である場合は、樹脂のキャストロール通過時の分子結晶化度が高過ぎると考えられるからである。
【0138】
運転条件探索部81は、例えば、次に示すような、冷却装置4、縦延伸装置5、および横延伸装置の運転条件を構成する複数のパラメータについての変更候補(F1)~(F3)の中から、少なくとも1つを選択する。そして、運転条件探索部81は、選択された変更候補に基づいて、冷却装置4、縦延伸装置5、および横延伸装置6の運転条件を構成する複数のパラメータのうち少なくとも1つについて、新たなパラメータ値を決定し、決定された新たなパラメータ値を探索結果として出力する。
【0139】
(F1)縦延伸温度ZTx:下げる
(F2)横延伸温度ZTb:下げる
((F3)キャストロール温度RT:下げる)
【0140】
ここで、変更候補(F1)に挙げた縦延伸温度ZTxとは、樹脂フィルム10cを縦延伸する際の樹脂フィルム温度あるいは環境温度のことをいう。したがって、縦延伸温度ZTxは、例えば、縦延伸装置5におけるロールの温度であってもよい。また、変更候補(F2)に挙げた横延伸温度ZTbとは、樹脂フィルム10dを横延伸する際の樹脂フィルム温度あるいは環境温度のことをいう。したがって、横延伸温度ZTbは、例えば、横延伸装置6における横延伸ゾーン6bのオーブン62による保温温度であってもよい。変更候補(F3)に挙げたキャストロール温度RTは、縦・横延伸装置の運転条件ではなく、冷却装置4の運転条件に係るものであるが、樹脂のキャストロール通過時の分子結晶化度を低くする効果が大きいと考えられており、ここでは変更候補の一つとして含めてある。
【0141】
なお、運転条件探索部81は、これら複数のパラメータのうち少なくとも2つについて、設定された優先順位、パラメータ値の設定可能範囲、決定シーケンスもしくは決定アルゴリズムなどに基づいて、変更すべき少なくとも1つのパラメータとそのパラメータ値とを決定する。
【0142】
これら複数のパラメータについての優先順位や、各種パラメータのパラメータ値の設定可能範囲、決定シーケンスもしくは決定アルゴリズムなどについては、樹脂成形関係者の総合的な知見、過去の実績、蓄積されたノウハウなどに基づいて予め設定されてもよいし、ユーザによって任意に設定されてもよい。
【0143】
また、運転条件探索部81は、例えば、人工知能を用いて変更すべきパラメータの種類とそのパラメータ値を決定してもよい。この人工知能は、例えば、上記した変更候補(F1)~(F3)に挙げた各種パラメータのうち少なくとも2つについて、優先順位や、パラメータ値の設定可能範囲、決定シーケンスもしくは決定アルゴリズムなどが設定されたものであってよい。また、この人工知能は、例えば、変更候補(F1)~(F3)に挙げた各種パラメータのうち少なくとも1つについて、パラメータ値の変化と樹脂のキャストロール通過時の分子結晶化状態の変化との関係に基づき学習が行われたものであってよい。
【0144】
ステップS43における縦・横延伸装置5,6(冷却装置4を含む場合もある)の運転条件の探索Fが終了すると、処理ステップはステップS50に進められる。
【0145】
ステップS44では、複屈折計65からの出力情報が取得される。具体的には、運転条件探索部81が、複屈折計65から複屈折性情報QL1を取得する。
【0146】
ステップS45では、樹脂フィルムの配向度が規格外であるか否かが判定される。具体的には、運転条件探索部81が、複屈折性情報QL1を解析して、樹脂フィルム10eの分子結晶の配向度を特定する。特定された配向度DRが、設定された規定範囲(第2の範囲)DRR外である場合には、運転条件探索部81は、樹脂フィルム10eの配向度が規格外であると判定する。配向度が規格囲外であると判定された場合(S45:Yes)には、処理ステップはステップS46に進められる。一方、特定された配向度DRが、設定された規定範囲DRR内である場合には、運転条件探索部81は、配向度は規格外ではない(規格内である)と判定する。配向度が規格外ではないと判定された場合(S45:No)には、処理ステップはステップS47に進められる。
【0147】
ステップS46では、縦・横延伸装置の適正な運転条件が探索される(探索G)。具体的には、運転条件探索部81は、縦延伸倍率DDxおよび横延伸倍率DDyの少なくとも一方が変化して、これら縦・横延伸倍率のバランスが良くなるような縦延伸装置5および横延伸装置6の運転条件を探索する。このような探索を行う理由は、樹脂フィルム10eの分子結晶の配向度が規格外である場合には、縦延伸倍率DDxと横延伸倍率DDyとのバランスが悪いと考えられるからである。
【0148】
運転条件探索部81は、例えば、次に示すような、縦・横延伸装置5,6の運転条件を構成する複数のパラメータについての変更候補(G1)~(G4)の中から、少なくとも1つを選択する。そして、運転条件探索部81は、選択された変更候補に基づいて、縦・横延伸装置5,6の運転条件を構成する複数のパラメータのうち少なくとも1つについて、新たなパラメータ値を決定し、決定された新たなパラメータ値を探索結果として出力する。
【0149】
(G1)縦延伸倍率DDx:下げる
(G2)横延伸倍率DDy:上げる
(G3)縦延伸温度ZTx:上げる
(G4)横延伸温度ZTb:下げる
【0150】
なお、運転条件探索部81は、これら複数のパラメータのうち少なくとも2つについて、設定された優先順位、パラメータ値の設定可能範囲、決定シーケンスもしくは決定アルゴリズムなどに基づいて、変更すべき少なくとも1つのパラメータとそのパラメータ値とを決定する。
【0151】
これら複数のパラメータについての優先順位や、パラメータ値の設定可能範囲、決定シーケンスもしくは決定アルゴリズムなどについては、樹脂成形関係者の総合的な知見、過去の実績、蓄積されたノウハウなどに基づいて予め設定されてもよいし、ユーザによって任意に設定されてもよい。
【0152】
また、運転条件探索部81は、例えば、人工知能を用いて変更すべきパラメータの種類とそのパラメータ値を決定してもよい。この人工知能は、例えば、上記した変更候補(G1)~(G4)に挙げた複数のパラメータのうち少なくとも2つについて、優先順位や、パラメータ値の設定可能範囲、決定シーケンスもしくは決定アルゴリズムなどが設定されたものであってよい。また、この人工知能は、例えば、変更候補(G1)~(G4)に挙げた各種パラメータのうち少なくとも1つについて、パラメータ値の変化と樹脂フィルムにおける分子結晶の配向度の状態の変化との関係に基づき学習が行われたものであってよい。
【0153】
ステップS46における縦・横延伸装置5,6の運転条件の探索が終了すると、処理ステップはステップS50に進められる。
【0154】
ステップS47では、応力センサ部64からの出力情報が取得される。具体的には、運転条件探索部81が、応力センサ部64から応力情報CFを取得する。
【0155】
ステップS48では、樹脂フィルムの幅方向の歪が規格外であるか否かが判定される。具体的には、運転条件探索部81が、応力情報CFを解析して、樹脂フィルム10dの横延伸時の幅方向すなわち横方向yにおける歪の程度すなわち応力を特定する。特定された応力FWjの代表値(例えば、極値、最大値、平均値など)が、設定された規定範囲(第3の範囲)FWR外である場合に、運転条件探索部81は、樹脂フィルムの横方向yの歪が規格外であると判定する。樹脂フィルムの歪が規格外であると判定された場合(S48:Yes)には、処理ステップはステップS49に進められる。
【0156】
一方、特定された応力FWjの代表値が、設定された規定範囲FWR内である場合に、運転条件探索部81は、樹脂フィルムの横方向yの歪が規格外ではないと判定する。樹脂フィルムの歪が規格外でないと判定された場合(S48:No)には、処理ステップはステップS51に進められる。
【0157】
ステップS49では、縦・横延伸装置の適正な運転条件が探索される(探索H)。具体的には、運転条件探索部81は、縦・横延伸装置5,6の運転条件のバランスが適正となるような運転条件を探索する。このような探索を行う理由は、樹脂フィルムの横方向yの歪が規格外である場合は、縦・横延伸装置5,6の運転条件のバランスが不適正であると考えられるからである。
【0158】
運転条件探索部81は、例えば、次に示すような、縦・横延伸装置5,6の運転条件を構成する複数のパラメータについての変更候補(H1)~(H4)の中から少なくとも1つを選択する。そして、運転条件探索部81は、選択された変更候補に基づいて、縦・横延伸装置5,6の運転条件を構成する複数のパラメータのうち少なくとも1つについて、新たなパラメータ値を決定し、決定された新たなパラメータ値を探索結果として出力する。
【0159】
(H1)横延伸ゾーン開角度α:大きくまたは小さくする
(H2)縦・横延伸温度ZTx,ZTb:上げる
(H3)熱固定ゾーン長ZLc:長くする
(H4)熱固定ゾーン閉角度β:大きくまたは小さくする
【0160】
なお、運転条件探索部81は、これら複数のパラメータのうち少なくとも2つについて、設定された優先順位、パラメータ値の設定可能範囲、決定シーケンスもしくは決定アルゴリズムなどに基づいて、変更すべき少なくとも1つのパラメータとそのパラメータ値とを決定する。
【0161】
これら複数のパラメータについての優先順位や、パラメータ値の設定可能範囲、決定シーケンスもしくは決定アルゴリズムなどについては、樹脂成形関係者の総合的な知見、過去の実績、蓄積されたノウハウなどに基づいて予め設定されてもよいし、ユーザによって任意に設定されてもよい。
【0162】
また、運転条件探索部81は、例えば、人工知能を用いて変更すべきパラメータの種類とそのパラメータ値を決定してもよい。この人工知能は、例えば、上記した変更候補(H1)~(H4)に挙げた複数のパラメータのうち少なくとも2つについて、優先順位や、パラメータ値の設定可能範囲、決定シーケンスもしくは決定アルゴリズムなどが設定されたものであってよい。また、この人工知能は、例えば、変更候補(H1)~(H4)に挙げた各種パラメータのうち少なくとも1つについて、パラメータ値の変化と樹脂フィルムの幅方向における歪すなわち応力の状態の変化との関係に基づき学習が行われたものであってよい。
【0163】
ステップS49における縦・横延伸装置5,6の運転条件の探索Hが終了すると、処理ステップはステップS50に進められる。
【0164】
ステップS50では、探索された運転条件が設定される。具体的には、運転条件設定部82が、探索された運転条件を、縦延伸装置5あるいは横延伸装置6(冷却装置4を含む場合がある)の新たな運転条件として設定する。装置制御部83は、新たに設定された運転条件に従って各装置を制御する。
【0165】
ステップS51では、縦・横延伸装置の運転条件の制御を継続するか否かが判定される。具体的には、装置制御部83が、樹脂成形システム1におけるエラー信号の発信の有無、製造停止の指令入力の有無などに基づいて、縦延伸装置5および横延伸装置6の運転条件の制御を継続するか否かを判定する。この判定において、制御を継続すると判定された場合(S51:Yes)には、処理ステップがS41に戻され、制御が継続される。一方、制御を継続しないと判定された場合(S51:No)には、制御処理は終了となる。
【0166】
〈巻取装置の運転条件制御〉
図16は、樹脂成形システムにおける巻取装置の運転条件制御に係る要部の構成例を示す図である。
【0167】
図16に示すように、巻取装置7は、巻取ロール71、および非接触型応力センサ72を有している。非接触型応力センサ72は、例えば、赤外線カメラを用いた熱弾性応力測定技術により、樹脂フィルム10eに生じている張力、すなわち縦方向xの応力を表す応力情報RR1を生成し、制御装置8に出力する。なお、非接触型応力センサ72は、巻取装置センサ部70sの一部である。
【0168】
巻取ロール71は、延伸され熱固定された樹脂フィルム10eを巻き取るためのロールである。巻取ロール71は、樹脂フィルム10eを巻き取るように駆動装置によりトルクFT1にて回転駆動される。
【0169】
図17は、巻取装置の運転条件制御処理フローの一例を示す図である。図17に示すように、ステップS61では、非接触型応力センサ72からの応力情報RR1が取得される。具体的には、運転条件探索部81が、非接触型応力センサ72から応力情報RR1を取得する。
【0170】
ステップS62では、巻取力が規格外であるか否かが判定される。具体的には、運転条件探索部81が、応力情報RR1を解析して、樹脂フィルム10eの縦方向xの応力を特定する。特定された応力FXが、設定された規定範囲FXR外である場合には、運転条件探索部81は、巻取装置7による巻取力が規格外であると判定する。巻取力が規格外であると判定された場合(S62:Yes)には、処理ステップはステップS63に進められる。一方、特定された応力FXが、設定された規定範囲FXR内である場合には、運転条件探索部81は、巻取装置7による巻取力が規格外ではないと判定する。巻取力が規格外でないと判定された場合(S62:No)には、処理ステップはステップS65に進められる。
【0171】
ステップS63では、巻取装置の適正な運転条件が探索される(探索J)。具体的には、運転条件探索部81は、応力FXが規定範囲FXR内となるような巻取装置7の運転条件を探索する。このような探索を行う理由は、応力FXが規定範囲FXR外である場合には、巻取力すなわち巻取トルクTQそのものが適正でないと考えられるからである。ここで、巻取トルクTQは、巻取ロール71を回転駆動する際に巻取ロール71に生じさせるトルクのことをいう。本例では、巻取ロール71を回転駆動する駆動装置は、巻取装置運転制御部70cに含まれている。
【0172】
運転条件探索部81は、例えば、次に示すような、巻取装置7の運転条件を構成するパラメータの変更候補(J1)に基づいて、巻取装置7の運転条件を構成するパラメータの新たなパラメータ値を決定し、決定された新たなパラメータ値を探索結果として出力する。
【0173】
(J1)巻取トルクTQ:大きくする、または、小さくする
【0174】
なお、パラメータの変更候補(J1)の項目についてどの程度の変化量もしくは変化割合を許容するかなどについては、樹脂成形関係者の総合的な知見、過去の実績、蓄積されたノウハウなどに基づいて予め設定されてもよいし、ユーザによって任意に設定されてもよい。
【0175】
また、運転条件探索部81は、例えば、人工知能を用いてパラメータ値を決定してもよい。この人工知能は、例えば、変更候補(J1)に挙げたパラメータのパラメータ値の変化と巻取力の変化との関係に基づいて学習が行われたものであってよい。
【0176】
ステップS63における巻取装置7の運転条件の探索が終了すると、処理ステップはステップS64に進められる。
【0177】
ステップS64では、探索された運転条件が設定される。具体的には、運転条件設定部82が、探索された運転条件を、巻取装置7の新たな運転条件として設定する。装置制御部83は、新たに設定された運転条件に従って巻取装置7が運転されるように、巻取装置運転制御部70cに制御信号を送信する。
【0178】
ステップS65では、巻取装置の運転条件の制御を継続するか否かが判定される。具体的には、装置制御部83が、樹脂成形システム1におけるエラー信号の発信の有無、製造停止の指令入力の有無などに基づいて、巻取装置7の運転条件の制御を継続するか否かを判定する。この判定において、制御を継続すると判定された場合(S65:Yes)には、処理ステップがS61に戻され、制御が継続される。一方、制御を継続しないと判定された場合(S65:No)には、制御処理は終了となる。
【0179】
このように、実施形態1に係る樹脂成形システム1は、樹脂成形システム1を構成する複数の装置の少なくとも一つに、樹脂の状態を検出するセンサ部が設けられる。樹脂成形システム1の制御装置8は、このセンサ部の出力情報に基づいて、樹脂成形システム1を構成する装置の適正な運転条件を探索し、探索された運転条件を新たな運転条件として設定する。このような運転条件の探索は、例えば、樹脂の状態が予め設定された規定条件を満たすまで繰り返される。樹脂がどのような状態の場合にどの装置のいずれの運転条件をどのように変更すべきかについては、例えば、樹脂樹脂成形関係者の知見、過去の実績、蓄積されたノウハウなどに基づいて設定される。
【0180】
よって、実施形態1に係る樹脂成形システム1によれば、樹脂成形システムの適正な運転条件をユーザの技量に依存することなく安定して設定することができる。
【0181】
また、実施形態1に係る樹脂成形システム1によれば、適正な運転条件を自動で探索し設定するので、適正な運転条件を設定するまでに要する時間の短縮化を期待することができる。
【0182】
(実施形態2)
上述した樹脂成形システム1における運転条件制御方法は、本願発明の一実施形態である。本実施形態の運転条件制御方法によれば、実施形態1と同様の効果を奏する。
【0183】
(実施形態3)
また、コンピュータを上記制御装置の各機能ブロックとして機能させるためのプログラムは、本願発明の一実施形態である。さらに、このようなプログラムを記憶する非一時的な有体のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体もまた、本願発明の一実施形態である。本実施形態のプログラムあるいは記憶媒体によれば、実施形態1と同様の効果を奏する。
【0184】
以上、本発明の各種実施形態について説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。また、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。さらに文中や図中に含まれる数値やメッセージ等もあくまで一例であり、異なるものを用いても本発明の効果を損なうものではない。
【0185】
また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の少なくとも1つの構成要素、機能等は、MPU、CPU等のプロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。また、ソフトウェアにより実現される機能の範囲は限定されるものでなく、ハードウェアとソフトウェアを併用してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【符号の説明】
【0186】
1…樹脂成形システム
2…押出装置
3…Tダイ
4…冷却装置
5…縦延伸装置
6…横延伸装置
7…巻取装置
8…制御装置
10…樹脂原料
10a…溶融樹脂
10b,10c,10d,10e…樹脂フィルム
20c…押出装置運転制御部
40c…冷却装置運転制御部
40s…冷却装置センサ部
50c…縦延伸装置運転制御部
60c…横延伸装置運転制御部
60s…横延伸装置センサ部
70c…巻取装置運転制御部
70s…巻取装置センサ部
81…運転条件探索部
82…運転条件設定部
83…装置制御部
91…操作部
92…表示部
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