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  • 特開-車両の動力ユニットの制御方法 図1
  • 特開-車両の動力ユニットの制御方法 図2
  • 特開-車両の動力ユニットの制御方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175293
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】車両の動力ユニットの制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/16 20160101AFI20241211BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20241211BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20241211BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20241211BHJP
   F02D 41/06 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
B60W20/16 ZHV
B60W10/08 900
B60W10/06 900
F02D45/00 368F
F02D41/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092962
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】半田 英之
【テーマコード(参考)】
3D202
3G301
3G384
【Fターム(参考)】
3D202BB09
3D202BB11
3D202CC47
3D202DD21
3D202DD22
3D202DD24
3G301HA18
3G301JA37
3G301KA05
3G301MA01
3G301PA01Z
3G301PD09Z
3G301PE01Z
3G301PF01Z
3G301PF03Z
3G301PF07Z
3G384AA11
3G384AA28
3G384BA09
3G384BA39
3G384CA03
3G384DA15
3G384FA06Z
3G384FA41Z
3G384FA46Z
3G384FA56Z
3G384FA73Z
3G384FA79Z
(57)【要約】
【課題】ハイブリッド車両の動力ユニットにおいて、排気浄化触媒の温度を高めるため、空燃比を周期的に変動させるディザー制御に起因する車体振動を抑制する。
【解決手段】ディザー制御時、空燃比λの変動に対応してエンジンの出力トルクも変動する(変動分tE)。空燃比λの変動周波数が車体の共振領域にあるとき、エンジンの出力トルクに、モータによる補正用の出力トルクtMを加算する。これにより、動力ユニットの出力トルクの変動分tLの周波数を、空燃比の変動周波数より高い値とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと電気モータを備えた車両の動力ユニットの制御方法であって、
触媒温度を高めるために、前記エンジンに供給する混合気の空燃比を能動的に周期的に変化させるディザー制御を実行し、
前記ディザー制御による空燃比の変動周波数が車体の共振領域内となるとき、当該動力ユニットの出力トルクの変動周波数が前記車体の共振領域外となるように前記電気モータの出力トルクを制御する、
動力ユニットの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の動力ユニットの制御方法、特に車体振動を抑制する制御に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、車両を駆動する原動機としてエンジン(1)と電気モータ(モータ/ジェネレータ5)を備えたハイブリッド車両が示されている。このハイブリッド車両においては、エンジン(1)のトルク変動が車体の振動系の共振を励起する場合、電気モータ(5)の出力トルクによってエンジン(1)のトルク変動の少なくとも一部を相殺する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-67216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジンに供給する混合気の空燃比を比較的短い周期で変動させ、排気ガス浄化触媒の温度を早期に上昇させるディザー制御が知られている。一方、ディザー制御を実行するとエンジンの出力トルクの変動が生じ、車体の共振を励起する場合がある。
【0005】
本発明は、ディザー制御時において、車体の振動を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る動力ユニットの制御方法は、エンジンと電気モータを備えた車両の動力ユニットの制御方法であって、触媒温度を高めるために、エンジンに供給する混合気の空燃比を能動的に周期的に変化させるディザー制御を実行し、ディザー制御による空燃比の変動周波数が車体の共振領域内となるとき、当該動力ユニットの出力トルクの変動周波数が車体の共振領域外となるように電気モータの出力トルクを制御する。
【発明の効果】
【0007】
ディザー制御時において、空燃比の変動に応じて変動するエンジンの出力トルクに、電気モータの所定の出力トルクを加えることで、動力ユニットの総出力トルクの変動周波数を共振領域から外すことができ、車体の振動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態の車両の動力ユニットおよびその制御系の要部を示す図である。
図2】車体の振動特性を示す図である。
図3】ディザー制御時の車体振動抑制制御を説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。図1は、代表的なハイブリッド車10の要部構成、およびハイブリッド車10の動力ユニット12の制御系を示す図である。動力ユニット12は、車両駆動用の原動機としてガソリンエンジン14と電気モータ16を含む。以下、ガソリンエンジン14をエンジン14と、電気モータ16をモータ16と記す。モータ16は、変速機18と一体化されている。また、モータ16は発電機としても機能する。エンジン14の吸気系は、吸気量を調整するスロットル弁20と、吸気をエンジン14の各気筒に導く吸気マニホルド22を含む。吸気系には、吸気量を検出する吸気量センサ24、吸気に対して燃料を供給する燃料噴射弁26が備わる。エンジン14の排気系は、排気マニホルドを含む排気管28と、排気管28の途中に配置された排気浄化のための触媒装置30を含む。さらに、触媒装置30の直前にフロント空燃比センサ32、直後にリヤ空燃比センサ34が配置されている。触媒装置30には、内部の温度を検出する触媒温度センサ36が設けられている。または、触媒の温度を推定する制御機能を有する。
【0010】
動力ユニット12の制御装置38には、前出の吸気量センサ24、フロント空燃比センサ32、リヤ空燃比センサ34、触媒温度センサ36に加え、車速センサ40、アクセルセンサ42、変速比センサ44、エンジン回転速度センサ46の出力が入力される.車速センサ40は、車輪または最終減速機のギヤの回転速度に基づき車両の速度を検出する。アクセルセンサ42は、運転者のアクセルペダル48の操作量を検出する。アクセルペダル48の操作量から、運転者の加速要求を把握する。変速比センサ44は、変速機18の変速比を検出する。有段の変速機であれば、選択されたギヤ段を検出することで変速比が検出できる。無段変速機、例えばベルト式の無段変速機であれば、ベルトを挟むプーリのストロークに基づき変速比を検出することができる。エンジン回転速度センサ46は、エンジン14の回転要素、例えばクランクシャフトの回転速度を検出する。制御装置38は、これらのセンサの出力から車両の走行状況および運転者の加速要求などを把握し、これに応じて動力ユニット12の制御を行う。具体的には、制御装置38は、スロットル弁20の開度、燃料噴射弁26からの燃料噴射量を制御してエンジン14を制御し、変速機18の変速比を制御し、さらにモータ16に電力を供給するモータ駆動部50を介してモータ16を制御する。
【0011】
エンジン14の吸気の空燃比は、理論空燃比に制御される。通常時、つまり触媒が活性化しているときには、フロント空燃比センサ32により空燃比を検出し、検出値を燃料噴射量にフィードバックし、空燃比を理論空燃比に制御する。すなわち、理論空燃比を含む制御範囲を設定し、検出された空燃比が制御範囲からリッチ側(燃料過剰側)に逸脱したら燃料噴射量を減少させ、リーン側(燃料希薄側)に逸脱したら燃料噴射量を増加する。したがって、通常時においては、空燃比のリッチからリーンへの、またリーンからリッチへの切換のタイミングは、排気の状態から受動的に定まる。
【0012】
空燃比のリッチ/リーンの切換を短い周期、例えば数十m秒で能動的に繰り返すと、触媒の温度が上昇することが知られている。この空燃比を短い周期で繰り返す制御を「ディザー制御」と記す。ディザー制御において、空燃比の変動周波数を高くすると触媒温度の上昇が早まるが、一方排気の浄化率は低下する傾向がある。よって、触媒の温度、要求される排気の浄化率に応じて、ディザー制御における空燃比の変動周波数を変更することが望ましい。
【0013】
ディザー制御により空燃比が変動すると空燃比の変動に伴ってエンジン14の出力トルクが変動する。エンジン14の出力トルクの変動周波数が車体の共振周波数に近接すると、車体振動が悪化する。図2は、加振周波数に対する車体の伝達感度を示す図である。図中の共振点近傍の周波数の範囲Rに加振周波数が入ると、車体の振動が大きくなる。以下、範囲Rを共振領域Rと記す。ディザー制御による出力トルクの変動周波数が、図中にAで示すように共振領域Rにあると、車体振動が悪化する。空燃比変動周波数が共振領域Rに入らないように、これを定めると、所望の触媒温度または排気浄化率を得られない場合がある。したがって、そのとき必要な触媒温度および排気浄化率から空燃比変動周波数を定め、この周波数が共振領域Rに入る場合には、他の手法により車体への加振周波数を変更することが望まれる。
【0014】
このハイブリッド車10においては、ディザー制御中に、エンジン14の出力トルクにモータ16の出力トルクを加えることにより、車体に対する加振周波数が共振領域Rに入らないように動力ユニット12を制御する。
【0015】
ディザー制御は、触媒温度を高める必要があるときに実行される。例えば、触媒温度を検出し、これが低いときディザー制御を実行する。また、触媒温度が低いと推定されるとき、または低くなると推定されるとき、ディザー制御を実行する。例えば、エンジン14の出力要求が低い、エンジン14の回転速度が低いなどの車両の走行状況に基づき、触媒温度が低いこと、または低くなることを推定する。触媒温度が所定温度以上になるか、触媒温度が低くなる状況が解消した場合、ディザー制御を終了する。
【0016】
ディザー制御における空燃比の変動周波数は、そのときの車両の走行状況により決定される。エンジン14が低回転軽負荷で運転している場合には、排気ガスの温度が低下する。よって、このときには触媒温度の上昇を優先して空燃比の変動周波数を高く設定することができる。
【0017】
次に、ディザー制御による空燃比の変動周波数が、車体の共振領域R内となる場合には、モータ16の出力トルクを変動させて動力ユニット12の出力トルクの変動周波数が共振領域R外となるようにする。車体の共振周波数は、車両の状況、例えば変速機18の変速比によって変化するので、そのときの共振周波数に基づき共振領域Rを設定する。ディザー制御が終了した時点でモータ16の出力トルクの変動制御を終了する。また、ディザー制御による空燃比の変動周波数が、車体の共振領域R外となったらモータ16の出力トルクの変動制御を終了する。
【0018】
図3は、ディザー制御における出力トルクの制御の説明図である。最上段には、空燃比のリッチ状態の継続時間およびリーン状態の継続時間を計測するための継続時間カウンタのカウント値Cが示されている。継続時間のカウント値Cは、空燃比がリーンからリッチに、またはリッチからリーンになった時点で0となり、その後時間の経過に比例してカウント値Cが増加する。よって、カウント値Cは、図示されるように、リーン期間、リッチ期間のそれぞれにおいて、0から上限値CUまで右肩上がりに増加する。カウント値の上限値CUは、設定された空燃比の変動周波数に基づき定められる。
【0019】
上から2段目には、ディザー制御における空燃比の制御目標値λが示されている。空燃比の制御目標値λは、燃料が理論空燃比に対して希薄(リーン)である所定値λ1と、燃料が過剰(リッチ)である所定値λ2を周期的に繰り返す。空燃比λは、カウント値Cが上限値CUに達するまで、リーン(λ1)またはリッチ(λ2)の状態が維持され、カウント値が上限値CUに達すると、リーン(λ1)がリッチ(λ2)に、またはリッチ(λ2)がリーン(λ1)に変更される。
【0020】
3段目には、エンジン14の出力トルクの変動分tEが示されている。エンジン14の出力トルクTEは、空燃比がリーン(λ1)のときtELだけ減少し(TE-tEL)、リッチ(λ2)のときtELだけ増加する(TE+tEL)。
【0021】
4段目には、ディザー制御に起因する車体振動を抑制するためのモータ16の出力トルクの変動分tMが示されている。この変動する出力トルクを補正用出力トルクtMと記す。補正用出力トルクtMは、動力ユニットの総出力トルクTの変動分tの振幅がエンジン出力の変動分tEの振幅と同じになるように、かつ周波数が、エンジン出力トルクの変動分tEの周波数の2倍となるように定められる。具体的には、補正用出力トルクtMは、エンジン出力トルクの変動分tEの値(±tEL)の2倍の値(±tML(=±tEL×2))と0を採る。また、補正用出力トルクtMは、空燃比のリッチまたはリーンの継続時間の半分の時間で値が変化する。つまり、補正用出力トルクtMは、継続時間のカウント値Cが上限値CUとなった時点に加え、上限値CUの半分の値(CU/2)となった時点で変化する。具体的には、補正用出力トルクtMは、空燃比がリーン(λ1)の期間の前半では0に制御され(tM=0)、後半ではtMLに制御される(tM=tML=tEL×2)。また、空燃比がリッチ(λ2)の期間の前半では、-tMLに制御され(tM=-tML=-tE×2)、後半では0に制御される(tM=0)。
【0022】
5段目には、動力ユニット12の総出力トルクの変動分tが示されている。これは、3段目に示すエンジン出力トルクの変動分tEと、4段目に示すモータ16の補正用出力トルクtMとの和となる。総出力トルクの変動分tは、振幅がtLとなり、周波数がディザー制御による空燃比λの変動周波数の2倍となる。これにより、図2に示すように、車体への加振周波数を、ディザー制御による加振周波数Aの2倍の周波数Bとすることができ、共振領域R外とすることができる。
【0023】
ディザー制御による空燃比の変動周波数と車体共振周波数の一方または双方は、制御を簡単にするために、固定値としてもよい。
【0024】
また、上述の実施形態では、動力ユニットの出力トルクの変動周波数が、空燃比の変動周波数の2倍になるよう補正用出力トルクを制御した。すなわち、空燃比のリッチおよびリーンの継続期間を2分割し、分割された期間ごとにモータによる補正用出力トルクの値を変化させて、動力ユニットの出力トルクの変動周波数を変更した。しかし、リッチおよびリーンの継続期間の分割数を3以上とし、出力トルクの変動周波数をより高い周波数とすることもできる。
【0025】
本発明に係る他の態様について記す。エンジンと電気モータを備えた車両の動力ユニットの制御装置は、触媒温度を高めるディザー制御の実行を判断し、ディザー制御の空燃比の変動周波数を取得し、空燃比の変動周波数が車体の共振領域にある場合には、動力ユニットの出力トルクの変動周波数が車体の共振領域から外れるように電気モータの出力トルクを変動させるよう構成されている。
【符号の説明】
【0026】
10 ハイブリッド車、12 動力ユニット、14 エンジン、16 (電気)モータ、18 変速機、26 燃料噴射弁、30 触媒装置、32 フロント空燃費センサ、34 リヤ空燃費センサ、36 触媒温度センサ、38 制御装置、40 車速センサ、42 アクセルセンサ、44 変速比センサ、46 エンジン回転速度センサ。
図1
図2
図3