(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175299
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】位置算出方法
(51)【国際特許分類】
G01S 19/43 20100101AFI20241211BHJP
【FI】
G01S19/43
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092973
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鳴海 智博
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062AA01
5J062AA09
5J062CC07
(57)【要約】
【課題】短期間において測定位置が急激に変化した場合でも算出誤差を小さくできる位置算出方法を提供すること。
【解決手段】全球測位衛星システム1の複数の人工衛星5からの信号を用いて、異なる時刻で少なくとも1つの基準点の3次元空間位置の算出を行う。少なくとも1つの基準点において、4次元座標において、(i)異なる時刻と、それぞれの時刻での3次元空間位置と、で特定される各時刻での基準点の位置と、(ii)異なる時刻のうちの一の時刻と、その一の時刻での3次元空間位置と、で特定される測定点の位置と、の間を直線で結んだ基線を複数構築する。構築した複数の基線に基づいて、4次元座標における、一の時刻での測定点の位置を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全球測位衛星システムを用いて測定点の位置を算出する位置算出方法であって、
前記全球測位衛星システムの複数の衛星からの信号を用いて、異なる時刻で基準点の3次元空間位置の算出を行い、
4次元座標において、(i)前記異なる時刻と、それぞれの時刻での前記3次元空間位置と、で特定される各時刻での前記基準点の位置と、(ii)前記異なる時刻のうちの一の時刻と、その一の時刻での前記3次元空間位置と、で特定される前記測定点の位置と、の間を直線で結んだ基線を複数構築し、
構築した複数の前記基線に基づいて、前記4次元座標における、前記一の時刻での前記測定点の位置を算出する位置算出方法。
【請求項2】
前記複数の基線を用いて4次元座標における互いに異なる環閉合を複数構築し、
複数の前記環閉合における環閉合差に基づいて前記測定点の前記4次元座標における位置を算出する
請求項1に記載の位置算出方法。
【請求項3】
前記複数の基線の夫々で該基線の4次元距離を算出し、
算出した複数の前記4次元距離に基づいて前記測定点の前記4次元座標における位置を算出する
請求項1に記載の位置算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、位置算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、位置算出方法としては、特許文献1に記載されているものがある。この位置算出方法は、GPS(Global Positioning System)を用いて測定点の位置情報を測定する方法であって、少なくとも3箇所の測定点と該測定点上空に空中測定点を設定し、複数のGPS衛星からの信号を用いて測定点および空中測定点の位置情報を算出する。
【0003】
そして、算出した位置情報に基づいて測定点および空中測定点を頂点として3次元の三角網を構成し、測定点および空中測定点の位置情報を網平均計算によって調整する。この算出方法は、測定点上空の空中測定点の位置情報を用いて網平均計算を行うので、地盤変位等の垂直方向の変位を高精度に算出できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
GPS等のGNSS(Global Navigation Satellite System ; 全球測位衛星システム)による位置算出方法においては、測位衛星からの電波に含まれるノイズを取り除くことが重要になる。ノイズとしては、大気の影響、時計の誤差、及び周囲の環境等が考えられる。搬送波位相を用いるPPP(精密単独測位)技術やRTK(Real Time Kinematic:リアルタイムキネマティック)技術を用いると、大気や時計の誤差を効果的に除去できるため、高精度に位置測定を行うことができる。
【0006】
しかし、最も精度の高いRTK技術を用いてもその位置精度はリアルタイムで数センチメートルであるため、ミリメートルレベルの精度が要求される建築やインフラの監視に関して、測定位置を高精度に算出することは容易でない。
【0007】
また、従来の位置算出方法、例えば、複数の地点の夫々において一の時刻の位置情報に基づいて網平均を行う特許文献1に記載の方法では、最も精度の高いRTK技術を用いたとしても、地殻変動等で短期間において測定位置が急激に変化すると、測定位置を高精度に算出することは容易でない。
【0008】
そこで、本開示に係る目的は、測定位置を高精度に算出し易く、短期間において測定位置が急激に変化した場合でも算出誤差を小さくできる位置算出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本開示に係る位置算出方法は、全球測位衛星システムを用いて測定点の位置を算出する位置算出方法であって、前記全球測位衛星システムの複数の衛星からの信号を用いて、異なる時刻で基準点の3次元空間位置の算出を行い、4次元座標において、(i)前記異なる時刻と、それぞれの時刻での前記3次元空間位置と、で特定される各時刻での前記基準点の位置と、(ii)前記異なる時刻のうちの一の時刻と、その一の時刻での前記3次元空間位置と、で特定される前記測定点の位置と、の間を直線で結んだ基線を複数構築し、構築した複数の前記基線に基づいて、前記4次元座標における、前記一の時刻での前記測定点の位置を算出する。
【0010】
本開示によれば、少なくとも1つの基線が異なる2つの時刻における測定情報を含むので、測定点の時間変動による誤差を低減できる。よって、測定位置を高精度に算出し易く、短期間において測定位置が急激に変化した場合でも算出誤差を小さくできる。
【0011】
また、前記複数の基線を用いて4次元座標における互いに異なる環閉合を複数構築し、複数の前記環閉合における環閉合差に基づいて前記測定点の前記4次元座標における位置を算出してもよい。
【0012】
本構成によれば、3次元で確立されている環閉合差に基づく位置算出を測定時刻の情報も含む4次元に拡張することで、測定位置を高精度に算出することができる。
【0013】
また、前記複数の基線の夫々で該基線の4次元距離を算出し、算出した複数の前記4次元距離に基づいて前記測定点の前記4次元座標における位置を算出してもよい。
【0014】
本構成によれば、3次元で確立されている基線の距離に基づく位置算出を測定時刻の情報も含む4次元に拡張することで、測定位置を高精度に算出することができる。
【発明の効果】
【0015】
本開示に係る位置算出方法によれば、測定位置を高精度に算出し易く、短期間において測定位置が急激に変化した場合でも算出誤差を小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本開示の一実施形態における位置測定方法を行う全球測位衛星システムの概略構成図である。
【
図2】位置算出装置の主要構成を示すブロック図である。
【
図3】位置算出装置が測定点の精密な4次元座標を表示して出力するまでの手順を示す図である。
【
図4】位置測定方法を行う従来の全球測位衛星システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本開示に係る実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下において複数の実施形態や変形例などが含まれる場合、それらの特徴部分を適宜、組み合わせて新たな実施形態を構築してもよい。以下で説明される構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素であり、必須の構成要素ではない。
【0018】
図1は、本開示の一実施形態における位置測定方法を行う全球測位衛星システム1の概略構成図である。全球測位衛星システム1は、GNSS、例えば、GPS(Global Positioning System)、QZSS(Quasi-Zenith Satellite System ; 準天頂衛星)、GLONASS(Global Navigation Satellite System)、Galileo等で用いられている4以上の人工衛星5からのGNSS信号を受信する固定局K、上記4以上の人工衛星5からのGNSS信号を受信する測定局A,B、及び位置算出装置Iを備える。位置算出装置Iは、例えば、ネットワークのクラウド上に位置するサーバで構成される。なお、
図1においては、測定局A,Bが、2基しか描かれていないが、後述する網平均計算を行う本実施形態では、測定局は、10基以上存在すると好ましい。また、各測定局の測定も、異なる2以上の時刻で行うのが好ましい。
【0019】
全球測位衛星システム1は、4以上の人工衛星5、固定局K、測定局A,B、及び位置算出装置Iを用いて、RTK技術によって測定局A,Bの存在位置を特定する。RTKを用いれば、各測定において、測定局A,Bの存在位置を数センチメートルの誤差の範囲内で高精度に特定できる。固定局Kは、地上に設置される。固定局Kは、4以上の人工衛星5から4以上のGNSS信号を受信し、4以上のGNSS信号を位置算出装置Iに送信する。また、測定局A,Bも、4以上の人工衛星5からGNSS信号を受信し、受信した4以上のGNSS信号を位置算出装置Iに送信する。
【0020】
本実施形態では、位置算出装置Iは、少なくとも1基の測定局A,Bから、異なる時刻におけるGNSS信号を受信する。本実施形態では、位置算出装置Iは、各測定局A,Bから、異なる時刻にGNSS信号を受信し、各測定局A,BからGNSS信号を受信した時刻と同時刻に固定局KからGNSS信号を受信する。
図1においては、測定局A,B、固定局K、及び位置算出装置Iに関し、縦軸が3次元のX,Y,Z座標を表し、横軸が時間軸を表している。そして、測定を行った4次元時空座標上での、測定局A,B、固定局K、及び位置算出装置Iの位置が示されている。測定局A,B、固定局K、及び位置算出装置Iの右下の添字は、測定を行った時刻を示している。添時が異なる時刻は、異なる時刻である。
【0021】
図2は、位置算出装置Iの主要構成を示すブロック図である。
図2に示すように、位置算出装置Iは、受信部6、表示部7、出力部8、入力部9、及び制御装置10を備える。受信部6は、公知の無線受信装置で構成されてもよく、位置算出装置Iがネットワークを介して信号を受信する場合には、外部装置からネットワークを介してデータを受信するためのインターフェースで構成される。
【0022】
表示部7は、液晶パネルや有機ELパネル等で構成され、例えば、以下で説明する算出した各観測における測定局A,Bの4次元時空点を表示する。出力部8は、プリンタで構成され、算出した各観測における測定局A,Bの4次元時空点の情報を打ち出す。位置算出装置Iは、表示部7、又は出力部8を有さなくてもよい。入力部9は、データの入力に用いられ、例えば、キーボード及びマウスで構成される。
【0023】
制御装置10は、コンピュータ、例えば、マイクロコンピュータによって好適に構成され、制御部11と、記憶部12を含む。制御部11、すなわち、プロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)を含む。また、記憶部12は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、eMMC(embedded Multi Media Card)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を含む。CPUは、記憶部12に予め記憶されたプログラム等を読み出して実行する。ROM(Read Only Memory)等の不揮発性メモリは、制御プログラムや所定の閾値等を予め記憶する。RAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリは、読み出したプログラムや処理データを一時的に記憶する。
【0024】
制御部11は、4次元位置算出部11a、環閉合構築部11b、及び網平均計算部11cを備える。4次元位置算出部11aは、各測定局A(又はB)の測定において測定局A(又はB)が出力した4以上のGNSS信号とその測定と同時刻に固定局Kが出力した4以上のGNSS信号とに基づいて各測定に対応する4次元座標の存在位置を算出する。
【0025】
一つの測定に関し、位置算出装置Iは、所定時間継続して8以上のGNSS信号に基づく情報を受信する。4次元位置算出部11aは、所定時間における測定局A(又はB)の3次元空間での平均の測定位置を算出する。上記所定時間は、測定局A(又はB)の存在位置に起因して変動し、例えば、数分、数時間、又は複数日に設定することができる。
【0026】
4次元位置算出部11aは、各測定を行った時刻を特定する。各測定を行った時刻は、上記所定時間内のいずれの時刻でもよい。本実施形態では、4次元位置算出部11aは、各測定に関して、8以上のGNSS信号を受信している期間の中央の時刻を、測定を行った時刻と特定する。これにより、各測定に関し、4次元時空座標における存在位置が特定される。
【0027】
なお、4次元時空座標における時刻に関連する1次元の座標の次元(dimension)を、空間に関する3次元の座標の次元(dimension)に一致させるため、例えば、各測定における基準時間からの経過時間T(秒)に1(メートル/秒)を掛けて距離(メートル)の次元に変換する。更に、そのように求めた距離に、定数Cを掛ける。定数は、例えば、次のように算出することができる。
【0028】
先ず、最も速く測定を行った基準時刻を0とし、各測定において、その基準時刻からの経過時間(秒)を測定時刻とする。次に、複数の測定局(
図1では、測定局が2基しか描かれていないが、測定局は、10基以上あると好ましい)における全ての2点間の距離の平均を算出する。この算出は、次のように行うことができる。先ず、各地点において、異なる時刻で測定を行った場合、全ての時刻における3次元空間座標の平均存在位置を求める。これを、各測定局で行う。ある測定局において一の時刻のみで測定を行った場合には、その測定における3次元空間座標の位置を、その測定局の3次元空間座標の位置とする。
【0029】
次に、複数の測定局における全ての2点間の距離の平均を算出する。この算出は、上述のように算出した各測定局の3次元空間での平均存在位置に基づいて、異なる全ての測定局の2点間距離の平均を求めることで行う。測定局が、N基存在する場合、NC2=N・(N-1)/(2×1)個の異なる距離の平均L(メートル)を求めることになる。
【0030】
最後に、測定における最大時間、すなわち、最も後に行った測定における基準時間からの経過時間Tmax×1(メートル)を特定し、Tmax×C=Lになるように、無次元の定数Cを決定する。この定数Cは、全ての測定における時刻に関する1次元の値に掛けられる。なお、経過時間Tmax(秒)の値は、先程の単位の決定方法に基づき1が掛けられて距離(メートル)の次元になっている。
【0031】
このようにすれば、4次元座標のうちで時刻に関連する1次元の値(メートル)の次元になっている)が、空間に関する3次元の値(メートル)と同程度になるように調整することができ、4次元座標における時刻に関する1次元の値が、空間に関する3次元の値とかけ離れた値となることを防止できる。
【0032】
この算出により、各測定局の各測定における4次元座標位置が算出できる。この算出は、4次元位置算出部11aによって行われる。なお、4次元座標のうちで時刻に関連する1次元の値の算出方法は、以上説明した方法に限らない。例えば、上述の方法では、異なる全ての測定局の2点間距離の平均を利用したが、その平均の代わりに、複数の測定局の2点間距離のうちの最大距離を利用してもよい。4次元座標における時刻に関する1次元の値は、如何なる換算方法で距離(メートル)に換算してもよい。
【0033】
4次元位置算出部11aが算出した各測定局の各測定における4次元座標の値は、記憶部12に一旦記憶される。環閉合構築部11bは、次の算出で、三角網を選択的に構築する。先ず、環閉合構築部11bは、入力部9からの情報に基づいて、各測定局A,Bの各測定(同じ測定局の測定でも、異なる時刻における測定は、互いに異なる測定である)における複数の4次元座標位置のうちで精密に4次元座標位置を算出する一の測定(一の時刻の測定)における4次元座標位置を特定する。ここで、この4次元座標位置は、3次元で定義される一の測定点における一の時刻での4次元座標位置である。また、上記3次元の測定点とは異なる3次元の測定箇所は、基準点を構成する。
【0034】
次に、環閉合構築部11bは、上記測定点における4次元座標位置を精密に求めることができる複数の4次元三角網を選択的に構築する。ここで、4次元三角網の特定に必要な複数の4次元座標位置は、上記測定点に関して測定を行った全ての時刻において暫定的に算出した1以上の4次元座標位置と、1以上の全ての基準点の夫々に関して測定を行った全ての時刻において暫定的に算出した1以上の4次元座標位置、の和で構成される複数の4次元座標位置の集合に含まれる。また、4次元三角網の特定に必要な複数の4次元座標位置は、測定点における上記一の時刻での4次元座標位置を含む。
【0035】
ここで、少なくとも一の基準点に関し、2以上の異なる時刻で測定が行われ、当該基準点の当該2以上の異なる時刻に関する2以上の4次元座標位置が、4次元三角網の特定に必要な複数の4次元座標位置に含まれるようにする。このようにすることで、3次元で定義される一の測定点における一の時刻での4次元座標位置をより高精度に算出できる。なお、三角網とは、測定点を三角形の頂点として互いに直線で結ぶことによって構成される4次元座標における複数の三角形の集合体である。
【0036】
網平均計算部11cは、環閉合構築部11bが構築した複数の4次元三角網に基づいて網平均計算を行う。網平均計算とは、三角形の頂点の位置を角条件や辺条件といった制約条件の下で最小二乗法を行うことによって位置データを確定する計算方法である。3次元の網平均計算については、例えば「最小二乗法の理論とその応用」(田島稔他著、東洋書店)等に詳述されている。網平均計算部11cは、4次元の網平均計算を行う。4次元の網平均計算は、3次元を4次元に拡張するだけで、3次元の網平均計算と全く同様に行うことができる。この網平均計算によって、上記測定点の上記一の測定における精密な4次元座標を算出することができる。
【0037】
なお、3次元から4次元への拡張は、3次元の計算の際に、A点の座標を(a1,a2,a3)とし、B点の座標を(b1,b2,b3)としたときに、((a1-b1)2+(a2-b2)2+(a3-b3)2)1/2として計算した、A点とB点の間の距離の計算式を、4次元のときに、A点の座標を(a0,a1,a2,a3)とし、B点の座標を(b0,b1,b2,b3)として、((a0-b0)2+(a1-b1)2+(a2-b2)2+(a3-b3)2)1/2に変更するだけで行うことができる。
【0038】
図3は、位置算出装置Iが測定点の精密な4次元座標を表示して出力するまでの手順を示す図である。
図3を参照して、位置算出装置Iは、先ず、ステップS1で各測定局A,B及び固定局KからGNSS信号を受信し、ステップS2で各測定局の各測定における4次元座標位置を算出する。続いて、位置算出装置Iは、ステップS3で、入力部9からの情報に基づいて、精密に算出する一の4次元座標位置、すなわち、3次元で定義される一の測定点における一の時刻での4次元座標位置を特定する。その後、位置算出装置Iは、ステップS4で、一の測定(測定点の一の時刻での測定)における測定点の4次元座標位置を精密に求めるため、複数の4次元三角網を構築する。続いて、位置算出装置Iは、ステップS5で、4次元の網平均計算を行うことで上記測定点の精密な4次元座標位置を算出する。最後に、ステップS6で、算出した測定点の精密な4次元座標位置が、表示部7に表示されると共に、出力部8によって出力される。
【0039】
次に本開示に係る位置算出方法の作用効果について説明する。
図4は、位置測定方法を行う従来の全球測位衛星システム101の概略構成図である。
図4を参照して、全球測位衛星システム101は、4以上の人工衛星5、固定局K′、測定局A′,B′、及び位置算出装置I′を用いて、RTK技術によって3次元座標上の測定局A′,B′の存在位置を高精度に特定する。
【0040】
しかし、複数の測定局A′,B′の夫々において時刻情報を考慮せずに位置情報のみに基づいて測定局A′,B′の存在位置を特定する従来の位置測定方法では、精度が高いRTK技術を用いたとしても、地殻変動等で短期間において測定位置が急激に変化すると、測定位置を高精度に算出することが困難になる。
【0041】
これに対し、本開示に係る位置算出方法では、全球測位衛星システム1を用いて測定点の位置を算出する。また、全球測位衛星システム1の複数の人工衛星5からの信号を用いて、異なる時刻で少なくとも1つの基準点の3次元空間位置の算出を行う。また、少なくとも1つの基準点において、4次元座標において、(i)異なる時刻と、それぞれの時刻での3次元空間位置と、で特定される各時刻での基準点の位置と、(ii)異なる時刻のうちの一の時刻と、その一の時刻での3次元空間位置と、で特定される測定点の位置と、の間を直線で結んだ基線を複数構築する。そして、構築した複数の基線に基づいて、4次元座標における、一の時刻での測定点の位置を算出する。
【0042】
したがって、少なくとも1つの基線が異なる2つの時刻における測定情報を含むので、測定点の時間変動による誤差を低減できる。よって、測定位置を高精度に算出し易く、短期間において測定位置が急激に変化した場合でも算出誤差を小さくできる。
【0043】
なお、本開示に係る位置算出方法では、全球測位衛星システム1の複数の人工衛星5からのGNSS信号を用いて、少なくとも第1時刻を含む1以上の時刻において、1以上の基準点の3次元空間位置を算出すると共に、上記第1時刻と異なる第2時刻で測定点の3次元空間位置を算出してもよい。また、上記時刻に基づく1次元位置と、対応する時刻における1以上の基準点の3次元空間位置と、で特定される4次元座標における1以上の基準点の位置と、第2時刻に基づく1次元位置と、その第2時刻における測定点の3次元空間位置とで特定される4次元座標における測定点の位置とを、特定してもよい。そして、4次元座標において、1以上の基準点の位置と測定点の位置との間を直線で結んで構成される1以上の基線に基づいて、4次元座標における測定点の位置を高精度に算出してもよい。
【0044】
また、上記複数の基線を用いて4次元座標における互いに異なる環閉合を複数構築してもよい。そして、複数の環閉合における環閉合差に基づいて測定点の4次元座標における位置を算出してもよい。本構成によれば、3次元で確立されている環閉合差に基づく位置算出を測定時刻の情報も含む4次元に拡張することで、測定位置を高精度に算出することができる。
【0045】
なお、上記環閉合差を算出する際、1以上の基準点に関して、異なる4次元座標位置を結んで構成される第2基線を複数構成する(例えば、基準点が8以上であれば、第2基線を複数構成することができる)。ここで、第2基線は、測定点に無関係の基線である。そして、1以上の基線と、複数の第2基線と、を用いて4次元座標における互いに異なる環閉合を複数構築し、複数の環閉合における環閉合差に基づいて4次元座標における前記測定点の位置を高精度に算出する。なお、環閉合は、4次元三角網に限らず、4次元多角形網であればよい。
【0046】
なお、本開示は、上記実施形態およびその変形例に限定されるものではなく、本願の特許請求の範囲に記載された事項およびその均等な範囲において種々の改良や変更が可能である。
【0047】
測定局の3次元座標を高精度に算出する方法として、RTK技術と、環閉合差を考慮した最小二乗法等を用いる技術との組み合わせの他、RTK技術で測定局の3次元座標位置を高精度に求めた上で、各測定局の各時刻において計測された擬似距離を用いて、最小二乗法、カルマンフィルタ、又は因子グラフ最適化等で測定局の3次元座標を高精度に算出する方法が知られている。
【0048】
よって、4次元においても、3次元と同様な方法で、擬似距離を用いて、最小二乗法、カルマンフィルタ、又は因子グラフ最適化等で測定局の3次元座標を高精度に算出することができる。すなわち、複数の基線の夫々で該基線の4次元距離を算出し、算出した複数の4次元距離に基づいて測定点の4次元座標における位置を算出してもよい。本構成によれば、3次元で確立されている基線の距離に基づく位置算出を測定時刻の情報も含む4次元に拡張することで、測定位置を高精度に算出することができる。
【0049】
より詳細に説明すると、測定位置を高精度に算出する場合、測定点の4次元座標位置は、全球測位衛星システムの複数の衛星からの信号を用いて、少なくとも第1時刻を含む1以上の時刻において、1以上の基準点の3次元空間位置を算出すると共に、第1時刻と異なる第2時刻で測定点の3次元空間位置を算出してもよい。また、時刻に基づく1次元位置と、対応する時刻における1以上の基準点の3次元空間位置と、で特定される4次元座標における1以上の基準点の位置と、第2時刻に基づく1次元位置と、その第2時刻における測定点の3次元空間位置とで特定される4次元座標における測定点の位置とを、特定してもよい。そして、4次元座標において、1以上の基準点の位置と測定点の位置との間を直線で結んで構成される1以上の基線の4次元距離(上記3次元距離である擬似距離を単に4次元距離に拡張したものに対応)に基づいて4次元座標における測定点の位置を補正してもよい。
【0050】
本構成によれば、3次元座標における測定局の精密な算出に用いられている、最小二乗法、カルマンフィルタ、又は因子グラフ最適化等を用いて、3次元座標における測定局の算出を、単に4次元座標に拡張するだけで、測定局の特定時刻における4次元座標位置を高精度に算出することができる。
【0051】
なお、上記実施形態では、RTK技術を用いて測定点の一の時刻での4次元座標位置を高精度に算出する方法について説明した。しかし、RTK技術の代わりにPPP技術を用いて測定点の一の時刻での4次元座標位置を高精度に算出してもよい。また、自動車などの移動体の測位については、IMU(Inertial Measurement Unit)やドップラーシフトのデータも統合して解析することでより精度が向上する。IMUは、加速度センサを積んでいる。IMU技術では、初速を特定するだけで、加速度を積分することにより、速度を特定することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 全球測位衛星システム、 5 人工衛星、 6 受信部、 7 表示部、 8 出力部、 9 入力部、 10 制御装置、 11 制御部、 11a 4次元位置算出部、 11b 環閉合構築部、 11c 網平均計算部、 12 記憶部、 A,B 測定局、 I 位置算出装置、 K 固定局。