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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175323
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】脂肪細胞の成長抑制剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20241211BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
C12N5/077
C12N1/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093018
(22)【出願日】2023-06-06
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.WINDOWS XP
(71)【出願人】
【識別番号】596161031
【氏名又は名称】株式会社渡辺オイスター研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100082658
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 儀一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 貢
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BD27
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】本発明は、DHMBAを含む培養が試験管内で3T3-L1前駆脂肪細胞の成長を抑制し、細胞数の減少につながり、脂肪細胞の分化過程においては、DHMBAの存在下で培養するとインスリンシグナル伝達に関連する多様なシグナル伝達プロセスの調節を介して、3T3-L1前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化の過程における脂肪生成が抑制される、DHMBAを用いた肥満に関係する脂肪生成の有用な治療ツールを提供するものである。
【解決手段】本発明は3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol(DHMBA)を有効成分とした3T3-L1前駆脂肪細胞成長の抑制作用を有することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol(DHMBA)を有効成分とした3T3-L1前駆脂肪細胞成長の抑制作用を有する、
ことを特徴とする脂肪細胞の成長抑制剤。
【請求項2】
3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol(DHMBA)を有効成分とした脂肪細胞における脂質蓄積の抑制作用を有する、
ことを特徴とする 脂肪細胞における脂質蓄積の抑制剤。
【請求項3】
3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol(DHMBA)を有効成分とした脂肪細胞生成の抑制作用を有する、
ことを特徴とする脂肪細胞の生成抑制剤。
【請求項4】
3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol(DHMBA)を有効成分とした脂肪細胞の有するシグナル伝達経路の調節作用を備えた、
ことを特徴とする脂肪細胞が有するシグナル伝達経路の調節剤。
【請求項5】
3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol(DHMBA)を有効成分とした脂肪細胞における脂肪生成のシグナル伝達プロセスに関連するタンパク質レベルを低下させる低下作用を有する、
ことを特徴とする脂肪細胞における脂肪生成のシグナル伝達プロセスに関連するタンパク質レベルを低下させる低下促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪細胞の成長抑制剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脂肪組織における脂肪細胞の増大は、2型糖尿病、高脂血症、高血圧、心血管疾患、および癌を含む無秩序な病態生理的状態をもたらす。フェノール系抗酸化物質である3,5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(以下、DHMBAとも称する)は、細胞内のラジカルスカベンジングとして酸化ストレスを制御することができる。しかしながら、疾病の病態の改善ならび修復における役割は充分に解明されていない。
この発明は、試験管内でのマウス3T3-L1脂肪細胞における脂肪生成に対するDHMBAの調節効果を究明したものである。3T3-L1前駆脂肪細胞は、10%ウシ胎児血清を含むDMEM培養液中で培養した。培養液にDHMBAを添加すると、脂肪細胞への細胞分化因子を含まない培養液で培養された3T3-L1前駆脂肪細胞の増殖が抑制された。
【0003】
興味深いことに、3T3-L1前駆脂肪細胞がインスリンを含む分化誘導因子を含む培養液で培養された場合、DHMBAは脂肪生成の分化過程において、細胞数に影響を与えなかった。
3T3-L1前駆脂肪細胞をDHMBA(1、10、または100μM)を含有する培養液で培養すると、脂肪細胞の脂質蓄積が抑制され、さらに、3T3-L1脂肪細胞の脂肪生成が阻害された。
【0004】
脂肪生成に対するDHMBAの強い抑制効果は、インスリン添加した培養の後期段階で見られた。脂肪生成は、インスリンシグナル伝達経路に関連する経路の阻害剤であるワートマニン、PD98059、またはBay 11-7082の存在によって阻害された。特に、脂肪生成に対するDHMBAの抑制効果は、これらの阻害剤の存在下においても発現された。
さらに、その発現メカニズムとして、DHMBAが、前駆脂肪細胞の分化に関連するPPARγおよびC/EBPαのレベルと、インスリンシグナル伝達経路に関与するPI3キナーゼ100α、Akt、MAPK、リン酸化MAPK、およびmTORのレベルを低下させたことに関連した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-132753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、DHMBAが、多様なシグナル伝達経路の調節を介して、脂肪生成を抑制し、肥満予防と治療のための新しい戦略を提供するものである。
【0007】
一般に、肥満は高カロリー食品の摂取による過剰なエネルギーによって引き起こされ、脂肪細胞においては脂肪酸を介してトリグリセリドが蓄積される。
脂肪組織における脂肪細胞の増加は、その組織から分泌されるホルモンおよびサイトカインのレベルの異常な上昇をもたらし、2型糖尿病、高脂血症、高血圧、心血管疾患、および癌などの病的状態を引き起こす。現在、肥満はさまざまな病気の危険因子として認識されている。したがって、脂肪組織は、病態生理的恒常性を維持する上で、重要な役割を果たしている。
【0008】
脂肪組織は、骨髄間葉系幹細胞からの前駆脂肪細胞の分化によって形成される脂肪細胞で構成されている。脂肪生成は、脂肪細胞の形成と脂質の蓄積における重要なプロセスである。このプロセスを調節する主な転写因子は、CCAAT/エンハンサー結合タンパク質アルファ(C/EBPα)、ペルオキシソーム増殖活性化受容体ガンマ(PPARγ)、ステロール応答エレメント結合タンパク質-1c(SREBP-1c)をよび脂肪酸結合タンパク(FABP4)が知られている。C/EBPαとPPARγは、前駆細胞から成熟脂肪細胞への分化に不可欠である。PPARγは、C/EBP発現を欠く細胞における脂肪生成の促進に関与している。SREBPは脂肪生成の補助的調節因子であり、脂質代謝の調節において、重要な役割を果たしている。これらの転写因子は、脂肪生成中の脂肪酸とトリグリセリドの合成を調節している。さらに、インスリンシグナル伝達経路に関連するマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)およびプロテインキナーゼB(AKT)は、脂肪細胞の脂肪生成を活性化することが知られている。
【0009】
新しいフェノール系抗酸化物質である3,5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(DHMBA)は、太平洋のカキ(Crassostrea Gigas)から、最初に発見された。DHMBAには、いくつかの細胞でのラジカル捕捉として酸化ストレスを防ぐ二特性がある。DHMBAは、抗酸化物質として細胞機能の調節において、栄養的重要な役割を果たしている可能性がある。最近、DHMBAは、多様なシグナル伝達経路を標的とすることで、転移性前立腺癌細胞の増殖を抑制することが実証され、DHMBAによる前立腺癌治療の新しい戦略が提起された。
さらに、DHMBAの薬理学的効果を解明することは、さまざまな疾患の予防と治療に重要である。
【0010】
この発明は、DHMBAが試験管内で3T3-L1前駆脂肪細胞の脂肪生成を調節するかどうかを解明するために行われた。ここでは、DHMBAを含む培養が、試験管内で、3T3-L1前駆脂肪細胞の成長を抑制し、細胞数の減少につながることが明らかにされた。このような効果は、脂肪細胞の分化過程においては、引き起こされなかった。この細胞分化過程において、DHMBAの存在下で培養すると、インスリンシグナル伝達に関連する多様なシグナル伝達プロセスの調節を介して、3T3-L1前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化の過程における脂肪生成が抑制されることが見出された。この発明は、DHMBAを用いた、肥満に関係する脂肪生成の有用な治療ツールを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol(DHMBA)を有効成分とした3T3-L1前駆脂肪細胞成長の抑制作用を有する、
ことを特徴とする脂肪細胞の成長抑制剤であり、
または、
3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol(DHMBA)を有効成分とした脂肪細胞における脂質蓄積の抑制作用を有する、
ことを特徴とする 脂肪細胞における脂質蓄積の抑制剤であり、
または、
3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol(DHMBA)を有効成分とした 脂肪細胞生成の抑制作用を有する、
ことを特徴とする脂肪細胞の生成抑制剤であり、
または、
3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol(DHMBA)を有効成分とした脂肪細胞の有するシグナル伝達経路の調節作用を備えた、
ことを特徴とする脂肪細胞が有するシグナル伝達経路の調節剤であり、
または、
3,5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol(DHMBA)を有効成分とした脂肪細胞における脂肪生成のシグナル伝達プロセスに関連するタンパク質レベルを低下させる低下作用を有する、
ことを特徴とする脂肪細胞における脂肪生成のシグナル伝達プロセスに関連するタンパク質レベルを低下させる低下促進剤である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、DHMBAが、多様なシグナル伝達経路の調節を介して、脂肪生成を抑制し、肥満予防と治療のための新しい戦略を提供出来るとの効果を奏する。
すなわち、DHMBAを含む培養が、3T3-L1前駆脂肪細胞の成長を抑制し、細胞数の減少につながることを明らかにされたのである。また、細胞分化過程において、DHMBAの存在下で培養すると、インスリンシグナル伝達に関連する多様なシグナル伝達プロセスの調節を介して、3T3-L1前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化の過程における脂肪生成が抑制されることが見出された。
よって、本発明は、DHMBAを用いた、肥満に関係する脂肪生成の有用な治療ツールを提供できるとの効果も奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】3,5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(DHMBA)の化学構造である。DHMBAの分子式はC8H10O4で、分子量は170.164である。
図2】3T3-L1マウス胚線維芽細胞(前駆脂肪細胞)の細胞増殖または細胞死に及ぼす海洋因子3,5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(DHMBA)の作用を説明する説明図である。図2Aは細胞(24ウェルプレートのウェルあたり1x105細胞/ml)を、10%ウシ子牛血清(BCS)および1%P/Sを含むDMEM培養液中で、DHMBA(10μM)存在下で、1、2、3、4、または5日間培養した説明図である。図2Bは、DHMBAの濃度増加に伴う細胞増殖に及ぼす効果を調べるために、細胞(24ウェルプレートのウェルあたり1x105細胞/ml)を媒介液(最終濃度として1%エタノール)またはDHMBA(最終濃度0.1、1、10、100、または1000μM)の存在下で、3日間培養した説明図である。図2Cは、細胞死に対するDHMBAの影響を調べるために、細胞(24ウェルプレートのウェルあたり1x105細胞/ml)を3日間培養し、サブコンフルエントに達した後に、DHMBA(最終濃度0.1、1、10、100、または1000μM)を添加して48時間追加培養した説明図である。培養後、ディッシュに付着した細胞数を計数した。 データは、異なる細胞調製物を使用して、細胞培養プレートの8つのウェルから得られた値の平均±SD(標準偏差)として表示した。尚、DHMBAを含まない対照群(灰色のバー)と比較してp<0.001で有意差が有った。有意差検定は一元配置分散分析、Tukey-Kramer事後検定によった。
図3】3T3-L1マウス前駆脂肪細胞の細胞分化過程における細胞数に対する海洋因子3,5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(DHMBA)の作用を説明する説明図である。図3Aは、細胞の培養過程を示している。図3Bは、細胞(24ウェルプレートのウェルあたり1x105細胞/ml)を、10%BCSおよび1%P/Sを含むDMEMで3日間培養した後、細胞分化誘導因子0.5mM IBMX、1μMデキサメタゾン、およびインシュリン(10μg/ml)を含むDMEM培養液中に交換し、媒介液(最終濃度として1%エタノール)またはDHMBA(1または10μM)を添加して、2日間培養した説明図である。図3Cは、さらに2日間培養後(分化誘導培養の2日後)、IBMXおよびデキサメタゾンを含まないインスリン(100μg/ml)のみを含む培養液に置換し、DHMBA(最終濃度1または10μM)を添加して、細胞をさらに2日間培養した説明図である。 それぞれの培養後、ディッシュに付着した細胞数を数えた。データは、異なる細胞調製物を使用して合計2つの複製プレートの8つのウェルから得られた値の平均±SDとして表示した。有意差検定は一元配置分散分析、Tukey-Kramer事後検定によった。
図4】3T3-L1マウス前駆脂肪細胞の脂肪蓄積に対する海洋因子3,5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(DHMBA)の作用を説明する説明図である。 3T3-L1前駆脂肪細胞(24ウェルプレートのウェルあたり5x104細胞/ml)を、10%BCSおよび1%P/Sを含むDMEM培養液で3日間培養した。そのサブコンフルエンスに達した細胞を用いて、細胞分化開始の0日目において、10%ウシ胎児血清(FBS)、1%P/S、0.5mM IBMX、1μMデキサメタゾン、インスリン(10μg/ml)を含む分化因子含有培養液に置換して、さらに2日間培養した。その細胞分化誘導培養の2日後に、さらに脂肪生成を増進させるために、新鮮な脂肪形成増進因子の10%FBSおよびインスリン(10μg/ml)を含む培養液(DMEM)に交換し、細胞をさらに2日間培養した。3T3-L1細胞の脂肪生成に対するDHMBAの効果を定量するために、分化培養0日目と2日後に、分化培養液に媒介液(最終濃度として1%エタノール)またはDHMBA(最終濃度0.1、1、10、または100μM)を含有した。細胞培養後、24ウェルプレートに付着した細胞をPBSで2回穏やかに洗浄し、PBSに溶解した4%ホルムアルデヒドで30分間固定した。その後、固定した細胞をPBSで3回洗浄し、オイルレッドO溶液(イソプロパノール中1.5%オイルレッドO)を添加して60分間染色した。図4Aは、染色後、染色された脂肪蓄積細胞の画像を顕微鏡で観察し、撮影した説明図である。図4Bは、脂質(トリグリセリド)含有量を定量化するために、オイルレッド染色した細胞をイソプロパノールで抽出し、分光光度計(μQuant、Bio-Tek Instruments)を用いて、各ウェルの吸光度を510nmで測定した説明図である。データは、異なる細胞調製物を使用して、合計2つの複製プレートの8つのウェルから得られた値の平均±SDとして表示した。なお、DHMBAを含まない対照群(灰色のバー)と比較してp<0.001で有意差が有った。有意差検定は一元配置分散分析、Tukey-Kramer事後検定によった。
図5】3T3-L1マウス前駆脂肪細胞の分化に伴った脂肪生成に対する海洋因子 3,5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(DHMBA)の作用を説明する説明図である。3T3-L1前駆脂肪細胞(96ウェルプレートのウェルあたり1x104細胞/ml)を、10%BCSおよび1%P/Sを含むDMEM培養液中で、サブコンフルエントに達する3日間培養した。図5Aは、サブコンフルエンス後(分化培養の0日目)に、10%ウシ胎児血清(FBS)、1%P/S、0.5mM IBMX、1μMデキサメタゾン、およびインスリンを含む分化誘導因子含有DMEM培養液に置換し、媒介液(最終濃度として1%エタノール)またはDHMBA(最終濃度0.1、1、10、または100μM)を添加し、その2日後に、新鮮な10%FBSおよびインスリン(10μg/ml)を含む培養液(DMEM)に交換し、媒介液(最終濃度として1%エタノール)またはDHMBA(最終濃度0.1、1、10、または100μM)を添加して、さらに2日間培養した説明図である。図5Bは、サブコンフルエンス後(分化培養の0日目)、細胞を10%ウシ胎児血清(FBS)、1%P/S、0.5mM IBMX、1μMデキサメタゾン、インスリン(10μg/ml)、DHMBA(0.1、1、10、または100μM)含有培養液に置換し、細胞をさらに2日間培養した。分化誘導培養の2日後に、新鮮な10%FBS及びインスリン(10μg/ml)を含む培養液(DHMBA含有しない)に置換し、細胞をさらに2日間培養した説明図である。図5Cは、サブコンフルエンス後(分化培養の0日目)に、細胞を10%ウシ胎児血清(FBS)、1%P/S、0.5mM IBMX、1μMデキサメタゾン、およびインスリン(10μg/ml)を含む分化誘導因子含有培養液で2日間培養した。さらに、分化誘導培養の2日後に、新鮮な10%FBS、インスリン(10μg/ml)、DHMBA(0.1、1、10、または100μM)含有培養液に置換し、細胞をさらに2日間培養した説明図である。細胞培養後、市販のAdipoRedアッセイ試薬(Lonza、Walkersville、MD、USA)を使用して、細胞内の脂質形成量を測定した。蛍光は、96ウェルプレートリーダーで485nmの励起と570nmの発光で測定した。データは、異なる細胞調製物を使用して、合計2つの複製プレートの8つのウェルから得られた値の平均±SDとして表示した。尚、DHMBAを含まない対照群(灰色のバー)と比較してp<0.001で有意差が有った。有意差検定は一元配置分散分析、Tukey-Kramer事後検定によった。
図6】3T3-L1マウス前駆脂肪細胞の脂肪生成に対するシグナル伝達経路のさまざまな阻害剤の存在下での海洋因子 3,5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(DHMBA)の作用を説明する説明図である。3T3-L1前駆脂肪細胞(96ウェルプレートのウェルあたり1x104細胞/ml)を、10%BCSおよび1%P/Sを含むDMEM培養液で、サブコンフルエントに達する3日間培養した。サブコンフルエンス後の細胞分化の培養開始(分化誘導培養の0日目)時に、細胞を10%FBS、1%P/S、0.5mM IBMX、1μMデキサメタゾン、インスリン(10μg/ml)を含むDMEM培養液に変えて、2日間追加培養した。その分化誘導培養の2日後に、ゲニステイン(1または10μM)(図6A)、ワートマニン(10または100nM)(図6B)、PD98059(1または10μM)(図6C)、またはBay 11-7082(1または10nM)(図6D)を含む新鮮な培養液に交換し、媒介液(最終濃度の1%エタノール)またはDHMBA(最終濃度1または10μM)を添加して、さらに細胞を2日間培養した。細胞培養後、細胞内の脂質トリグリセリド形成量を、AdipoRedアッセイ試薬(Lonza、Walkersville、MD、USA)を用いて測定した。蛍光は、96ウェルプレートリーダーで485nmの励起と570nmの発光で測定した。 データは、異なる細胞調製物を使用して、合計2つの複製プレートの8つのウェルから得られた値の平均±SDとして表示した。尚、DHMBAを含まない対照群(灰色のバー)と比較してp<0.001で有意差が有った。有意差検定は一元配置分散分析、Tukey-Kramer事後検定によった。
図7】脂肪細胞における脂肪生成のシグナル伝達に関連するさまざまなタンパク質のレベルに及ぼす海洋因子3,5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(DHMBA)の作用を説明する説明図である。 3T3-L1前駆脂肪細胞(1x106細胞/100mmディッシュ、10ml培養液)を、10%BCSおよび1%P/Sを含むDMEM培養液で、サブコンフルエントに達する3日間培養した。その細胞分化誘導の開始(分化誘導0日目)時において、10%FBS、1%P/S、0.5mM IBMX、1μMデキサメタゾンを含むDMEM培養液に交換し、細胞を2日間追加培養した。その2日後に、培養液を10%FBSおよびインスリン(10μg/ml)、DHMBA(最終濃度10μM)を含有するDMEM培養液に交換し、さらに細胞を2日間培養した。培養後、細胞溶解物を調製した。その遠心分離上清のタンパク質サンプルを、レーンあたり40マイクログラムのタンパク質サンプルをウエスタンブロット分析に使用した。図7Aに、代表的なデータを表示した。図7Bは、バンドはコントロール(DHMBAなし)の倍数として表示した。データは、異なる細胞調製物を使用して、合計4枚のフィルムから得られた平均値±SDとして表示した。尚、対照群と比較してp<0.01で有意差が有った。有意差検定は一元配置分散分析、Tukey-Kramer事後検定によった。
図8】3,5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(DHMBA)が3T3-L1脂肪細胞の脂肪生成を阻害するメカニズムを説明する説明図である。DHMBAは、前駆脂肪細胞の分化過程に関連する転写因子であるPPARγおよびC/EBPαのレベルを減少させた。また、DHMBAは、インスリンシグナル伝達に関連する脂肪生成の促進を促進する過程に関与する、PI3K、Akt、MAPK、リン酸化-MAPK、およびmTORのレベルを低下させた。さらに、DHMBAは、NF-κBシグナル伝達経路によって調節される脂肪生成も抑制することが示唆された。このように、DHMBAは、脂肪細胞の多様なシグナル伝達経路を調節することにより、抗脂肪生成効果を発現する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(本発明の実験材料および実験方法)
試薬
4.5g/Lグルコース、L-グルタミン、ピルビン酸ナトリウムを含むダルベッコ改変イーグル培養液(DMEM)および抗生物質(100μg/mLペニシリンと100μg/mLストレプトマイシン;P/S)は、Corning(Mediatech, Inc. Manassas, VA, USA)から入手した。抗生物質はDMEM中に1%含有した。ウシ胎児血清(FBS)は、Thermo Scientific HyClone(ローガン、ユタ州)から入手した。ウシ子ウシ血清(BCS)、デキサメタゾン、3-イソブチル-1-メチルキサンチン(IBMX)、ワートマニン、Bay 11-7082、およびその他すべての試薬は、Sigma-Aldrich(ミズーリ州セントルイス)から購入した。
【0015】
3,5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(DHMBA)
抗酸化物質の特性を示す新規の両親媒性フェノール化合物である3,5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(DHMBA)は、パシフィック カキ (Crassostrea Gigas)から分離された。本発明では、合成されたDHMBAを使用した。DHMBAの構造を図1に示した。合成されたDHMBAの純度は100%であった。DHMBAは100%エタノールに溶解し、使用時まで-20℃で保存した。
【0016】
3T3-L1前駆脂肪細胞
3T3-L1マウス胚線維芽細胞(前駆脂肪細胞)は、American Type Culture Collection(Rockville, MD, USA)から入手した。細胞は、10%BCSおよび1%P/Sを含むDMEMで、37℃で5%CO2および95%空気下で維持した。細胞は、70~80%のコンフルエンスに達するまで培養し、培養液を隔日で交換した。細胞は3日ごとに継代培養した。
【0017】
細胞増殖と細胞死のアッセイ
細胞増殖の進行を測定するために、3T3-L1前駆脂肪細胞(ウェルあたり1x105/ml)を、媒介液(最終濃度1%エタノール)またはDHMBA(10μM)を含む培養液中で、37oCで5%CO2および95%空気下で、1、2、3、または4日間培養した。さらに、細胞増殖を測定する実験において、3T3-L1前駆脂肪細胞(24ウェルプレートのウェルあたり1x105/ml)を、媒介液(最終濃度として1%エタノール)またはDHMBA(0.1、1、10、100、または1000μM)を含む培養液中で3日間培養した。
細胞死を測定する実験では、3T3-L1前駆脂肪細胞(24ウェルプレートのウェルあたり1x105/ml)を、10%BCSおよび1%P/Sを含むDMEM培養液中で、3日間培養した。このサブコンフルエンスに達した細胞を、媒介液(最終濃度として1%エタノール)またはDHMBA(0.1、1、10、100、または1000μM)の存在下で、さらに48時間培養し[15、18]、細胞数の変動を調べた。
培養後、Ca2+/Mg2+を含まないPBS(Thermo Fisher Scientific、米国マサチューセッツ州ウォルサム)中に0.05%トリプシンとEDTAを含有した無菌溶液(ウェルあたり0.1ml)を加え、2分間インキュベートすることにより、付着した細胞を各ウェルから分離し、その後、10%FBSを含むDMEM0.9mlを各ウェルに加え、細胞懸濁液を調整した[15,17,18]。生細胞の数を測定するために、懸濁細胞を含む培地(0.1ml)を0.1mlの0.5%トリパンブルー染色溶液と混合した。生細胞は、セルカウンター(Line Seiki H-102P、東京、日本)を使用して、血球計算盤(Sigma-Aldrich、ミズーリ州セントルイス)を用いて、顕微鏡(Olympus MTV-3)でカウントされた。各測定において、2回のカウントを平均した。細胞数は培養プレートのウェルあたりの数として示した。
【0018】
3T3-L1前駆脂肪細胞の分化と脂肪蓄積のアッセイ
3T3-L1前駆脂肪細胞の分化に対するDHMBAの影響を解明するために、3T3-L1前駆脂肪細胞(24ウェルプレートのウェルあたり5x104細胞/ml)を、10%ウシ子牛血清(BCS)中で培養し、サブコンフルエントに達する3日間培養した。サブコンフルエントに達した後(day 0)、細胞を10%FBS、1%P/S、0.5mM IBMX、1μMデキサメタゾン、およびインスリン(10μg/ml)を含むDMEMの分化誘導培養液に変え、さらに2日間培養した。その2日後に脂肪生成を増進するために、新鮮な分化培養液の10%FBSおよびインスリン(10μg/ml)を含むDMEMに交換し、さらに2日間培養した。
最初に、細胞数に対するDHMBAの効果を定量するために、分化の開始培養の0日目または2日後に、分化誘導培養液に媒介液(最終濃度として1%エタノール)またはDHMBA(1または10μM)を添加した。分化培養の0~2日後または2~4日間の培養後、前のセクションで説明したように、培養ディッシュに付着した細胞の数を計測した。
3T3-L1脂肪細胞の脂質含有量に対するDHMBAの効果を解明するためのさらなる実験では、分化誘導培養の0日目から4日後まで、分化誘導培養液に 媒介液(最終濃度として1%エタノール)またはDHMBA(0.1、1、10、または100μM)を含有し培養した。細胞培養後の脂質含有量(トリグリセリド)を定量するために、24ウェルプレート内の細胞をPBSで2回穏やかに洗浄し、PBS中に溶解した4%ホルムアルデヒドで30分間固定した。続いて、固定した細胞をPBSで3回洗浄し、オイルレッドO溶液(100%イソプロパノール中に1.5%オイルレッドOを溶解したもの)で室温において60分間染色した[16]。染色後、染色液を除去し、PBSで洗浄した。染色された脂質(トリグリセリド)滴の画像を観察し、顕微鏡(40倍)で撮影した(Olympus IX71; Olympus Corporation, Tokyo, Japan)。さらに、脂質含有量を定量化するために、オイルレッド染色をイソプロパノールで抽出した。100%イソプロパノール(300μl)を各ウェルに加え、30分間振とうし、溶出した。溶出液を用いて、分光光度計(μQuant、Bio-Tek Instruments)にて、吸光度を510nmで測定した。
【0019】
3T3-L1脂肪細胞における脂肪生成のアッセイ
3T3-L1前駆脂肪細胞(96ウェルプレートのウェルあたり104細胞/0.2ml)を、10%BCSおよび1%P/Sを含むDMEMで、サブコンフルエンスに達する、3日間培養した。サブコンフルエンス後(0日目)において、10%FBS、1%P/S、0.5mM IBMX、および1μMデキサメタゾンを含む分化誘導培養液において、媒介液(最終濃度として1%エタノール)またはDHMBA(0.1、1、10、または100μM)を含有させて培養した。その2日後に、培養液を10%FBSおよびDHMBAを含まないインスリン(10μg/ml)を含むDMEM培養液に交換し、次いで細胞をさらに2日間培養した。
別の実験では、分化誘導培養の0日目に細胞をDHMBAを含まない分化培養液で培養した。その2日後に、媒体液(最終濃度として1%エタノール)またはDHMBA(0.1、1、10、または100μM)のいずれかを含む、10%FBSおよびインスリン(10μg/ml)を含むDMEM培養液に交換し、その後、細胞をさらに2日間培養した。
さらに他の実験では、細胞内シグナル伝達因子の関与を検索するために、分化培養の2日後に、培養液を10%FBSおよびインシュリン(10μg/ml)を含むDMEMと媒介液(1%エタノール)またはDHMBA(1または10μM)を含む培養液に置き換えた。細胞は、ゲニステイン(1または10μM)、ワートマニン(10または100nM)、PD98059(1または10μM)、またはBay 11-7082(1または10nM)などのシグナル伝達阻害因子を含む培養液で、さらに2日間培養した。 細胞培養後、細胞内の脂質(トリグリセリド)形成量は、AdipoRedアッセイ試薬を使用して、定量した(Lonza、Walkersville、MD、USA)[19-21]。96ウェルプレートリーダー(μQuant、Bio-Tek Instruments)を用いて、485nmの励起と570nmの発光で、その蛍光を測定した。
【0020】
ウェスタンブロッティング
3T3-L1前駆脂肪細胞(1x106細胞/100mmディッシュを用いて、培養液10ml中)を、10%BCSおよび1%P/Sを含むDMEM中で、サブコンフルエントに達する3日間培養した。その後、10%FBS、1%P/S、0.5mM IBMX、1μMデキサメタゾンを含むDMEM分化培養液で、細胞を2日間培養した。その後に、培養液を10%FBSおよびインスリン(10μg/ml)を含み、DHMBA(10μM)を含むまたは含まないDMEM培養液に交換し、次いで細胞をさらに2日間培養した。培養後、培養ディッシュを冷PBS(10ml)で3回洗浄して、浮遊細胞および死細胞を排除し、付着している細胞を、プロテアーゼおよびプロテインホスファターゼ阻害剤(Roche Diagnostics、インディアナポリス、インディアナ州、米国)を含む細胞溶解液を用いて細胞をかきとった。次に、その細胞溶解物を17,000xg、4℃で10分間遠心分離した。上清中のタンパク質の濃度は、Bio-Rad Protein Assay Dye(Bio-Rad Laboratories、Inc.、Hercules、CA、USA)を使用して、ウシ血清アルブミンを標準として用いて、定量した。その抽出タンパク試料は使用時まで-80℃で保存した。
以前の発明で示したように、レーンあたり 40 マイクログラムの上清タンパク質のサンプルを、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(12%SDS-PAGE) で分離し、PVDFメンブレンに転写した。PPARγ(C26H12)(カタログ番号2435、ウサギ抗体)、C/EBPα(カタログ番号2295、ウサギ)、ホスホイノシチド3-キナーゼp110α(PI3K;カタログ番号4255)、Akt(カタログ番号9272、ウサギ抗体)、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK;カタログ番号4695、ウサギ抗体)、リン酸化-MAPK(カタログ番号 4695) 4370、ウサギ抗体)、ラパマイシンの機械的標的(mTOR、カタログ番号4517、マウス抗体)、NF-κB p65(カタログ番号3034、ウサギ抗体)、β-アクチン(カタログ番号3700、ウサギ抗体)などの標的タンパク質の特異抗体は、Cell Signaling Technology(米国マサチューセッツ州ダンバーズ)から入手した。PVDFメンブレンを免疫ブロットするために、上記タンパク質抗体を用いて、4℃で一晩インキュベートした。
インキュベーション後、PVDFメンブレンを西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体(Santa Cruz Biotechnology、Inc.、マウスsc-2005またはウサギsc-2305;1:1,000希釈)中で室温で60分間インキュベートした。PVDFメンブレンに転写されたタンパク質バンドは、X線フィルム上で化学発光基質(カタログ番号34577、Thermo Scientific、ロックフォード、イリノイ州、米国)を使用して検出した。データは、4つの独立した実験を行い、それのフィルムを用いて、Epson Perfection 1660フォトスキャナーでスキャンし、Image J2ソフトウェア(国立衛生発明所、ベセスダ、メリーランド州、米国)を使用して、バンドを定量化した。
【0021】
統計分析
統計的有意性は、Windows XP用のGraphPad InStatバージョン3(GraphPad Software Inc. La Jolla, CA)を使用して測定した。データは、平均値±標準偏差(SD)として表示した。多重比較は、パラメトリック データの検定後のTukey-Kramer多重比較による一元配置分散分析(ANOVA)によって行った。危険値<.05のp値は、統計的に有意であると見なした。
【0022】
(実験結果)
(3T3-L1前駆脂肪細胞の増殖に対するDHMBAの効果)
まず、DHMBAが3T3-L1前駆脂肪細胞の成長に影響を与えるかどうかを調べた(図2)。
図2は、3T3-L1マウス胚線維芽細胞(前駆脂肪細胞)の細胞増殖または細胞死に及ぼす海洋因子3,5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(DHMBA)の作用を説明する説明図である。図2Aは細胞(24ウェルプレートのウェルあたり1x105細胞/ml)を、10%ウシ子牛血清(BCS)および1%P/Sを含むDMEM培養液中で、DHMBA(10μM)存在下で、1、2、3、4、または5日間培養した説明図である。図2Bは、DHMBAの濃度増加に伴う細胞増殖に及ぼす効果を調べるために、細胞(24ウェルプレートのウェルあたり1x105細胞/ml)を媒介液(最終濃度として1%エタノール)またはDHMBA(最終濃度0.1、1、10、100、または1000μM)の存在下で、3日間培養した説明図である。図2Cは、細胞死に対するDHMBAの影響を調べるために、細胞(24ウェルプレートのウェルあたり1x105細胞/ml)を3日間培養し、サブコンフルエントに達した後に、DHMBA(最終濃度0.1、1、10、100、または1000μM)を添加して48時間追加培養した説明図である。培養後、ディッシュに付着した細胞数を計数した。データは、異なる細胞調製物を使用して、細胞培養プレートの8つのウェルから得られた値の平均±SD(標準偏差)として表示した。尚、DHMBAを含まない対照群(灰色のバー)と比較してp<0.001で有意差が有った。有意差検定は一元配置分散分析、Tukey-Kramer事後検定によった。
【0023】
細胞(24ウェルプレートのウェルあたり105細胞/ml)を、媒介液(最終濃度として1%エタノール)またはDHMBA(10μM)の存在下で1、2、3、4、および5日間培養した。細胞の増殖は、DHMBAと共に3~5日間培養することにより抑制された。したがって、DHMBAは試験管内で3T3-L1前駆脂肪細胞の成長を抑制することが判明した(図2A)。
次に、細胞を媒介液または濃度を増加させたDHMBA(0.1、1、10、100、または1000μM)を加えた培養液の存在下で3日間培養した。細胞増殖は、1~1000μM DHMBAの範囲の濃度で抑制された(図2B)。
さらに、3T3-L1前駆脂肪細胞の細胞死に対するDHMBAの効果を調べるために、細胞を10%FBSおよび1%P/Sを含むDMEMで3日間培養し、サブコンフルエントに達した後、細胞を10%FBSおよび1%P/Sを含有培養液中に、DHMBA(0.1、1、10、100、または1000μM)を含有して、さらに2日間培養した(図2C)。細胞数は、DHMBA(1000μM)の存在によって減少した。これは、DHMBAの濃度が高いほど細胞死が引き起こされることを示した。
【0024】
(3T3-L1前駆脂肪細胞の分化過程に伴う細胞増殖に対するDHMBAの効果)
次に、3T3-L1前駆脂肪細胞の分化過程における細胞増殖に対するDHMBAの影響を調べた(図3)。
図3は、3T3-L1マウス前駆脂肪細胞の細胞分化過程における細胞数に対する海洋因子 3,5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(DHMBA)の作用を説明する説明図である。図3Aは、細胞の培養過程を示している。図3Bは、細胞(24ウェルプレートのウェルあたり1x105細胞/ml)を、10%BCSおよび1%P/Sを含むDMEMで3日間培養した後、細胞分化誘導因子0.5mM IBMX、1μMデキサメタゾン、およびインシュリン(10μg/ml)を含むDMEM培養液中に交換し、媒介液(最終濃度として1%エタノール)またはDHMBA(1または10μM)を添加して、2日間培養した説明図である。図3Cは、さらに2日間培養後(分化誘導培養の2日後)、IBMXおよびデキサメタゾンを含まないインスリン(100μg/ml)のみを含む培養液に置換し、DHMBA(最終濃度1または10μM)を添加して、細胞をさらに2日間培養した説明図である。
【0025】
それぞれの培養後、ディッシュに付着した細胞数を数えた。データは、異なる細胞調製物を使用して合計2つの複製プレートの8つのウェルから得られた値の平均±SDとして表示した。有意差検定は一元配置分散分析、Tukey-Kramer事後検定によった。
3日間の培養で、サブコンフルエンスに達した細胞(0日目)を、10%FBS、1%P/S、0.5mM IBMX、1μMデキサメタゾン、およびインスリン(10μg/ml)の分化誘導因子を含むDMEM培養溶液中で、DHMBA(1または10μM)を含有してさらに2日間培養した(図3A)。細胞数は、DHMBAの存在によって変動されなかった(図3B)。さらに、脂肪形成が増進される2日後に、DHMBA(1または10μM)を含むまたは含まない培養液にインスリン(10μg/ml)含有DMEM培養液に交換し、細胞をさらに2日間培養した。細胞数は、DHMBAの存在によって変動されなかった(図3C)。これらの結果は、脂肪形成の分化過程において、DHMBAを添加しても細胞数に影響を与ないことが判明された。
【0026】
(DHMBAは3T3-L1脂肪細胞の脂質蓄積を阻害する)
図4は、3T3-L1マウス前駆脂肪細胞の脂肪蓄積に対する海洋因子3,5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(DHMBA)の作用を説明する説明図である。
3T3-L1前駆脂肪細胞(24ウェルプレートのウェルあたり5x104細胞/ml)を、10%BCSおよび1%P/Sを含むDMEM培養液で3日間培養した。そのサブコンフルエンスに達した細胞を用いて、細胞分化開始の0日目において、10%ウシ胎児血清(FBS)、1%P/S、0.5mM IBMX、1μMデキサメタゾン、インスリン(10μg/ml)を含む分化因子含有培養液に置換して、さらに2日間培養した。その細胞分化誘導培養の2日後に、さらに脂肪生成を増進させるために、新鮮な脂肪形成増進因子の10%FBSおよびインスリン(10μg/ml)を含む培養液(DMEM)に交換し、細胞をさらに2日間培養した。3T3-L1細胞の脂肪生成に対するDHMBAの効果を定量するために、分化培養0日目と2日後に、分化培養液に媒介液(最終濃度として1%エタノール)またはDHMBA(最終濃度0.1、1、10、または100μM)を含有した。細胞培養後、24ウェルプレートに付着した細胞をPBSで2回穏やかに洗浄し、PBSに溶解した4%ホルムアルデヒドで30分間固定した。その後、固定した細胞をPBSで3回洗浄し、オイルレッドO溶液(イソプロパノール中1.5%オイルレッドO)を添加して60分間染色した。図4Aは、染色後、染色された脂肪蓄積細胞の画像を顕微鏡で観察し、撮影した説明図である。図4Bは、脂質(トリグリセリド)含有量を定量化するために、オイルレッド染色した細胞をイソプロパノールで抽出し、分光光度計(μQuant、Bio-Tek Instruments)を用いて、各ウェルの吸光度を510nmで測定した説明図である。データは、異なる細胞調製物を使用して、合計2つの複製プレートの8つのウェルから得られた値の平均±SDとして表示した。なお、DHMBAを含まない対照群(灰色のバー)と比較してp<0.001で有意差が有った。有意差検定は一元配置分散分析、Tukey-Kramer事後検定によった。
【0027】
3T3-L1脂肪細胞の脂質蓄積に対するDHMBAの効果を解明するために、分化誘導因子含有培養液をもっての細胞培養の0日目と2日後に、媒体培養液 (最終濃度として1%エタノール)またはDHMBA(0.1、1、10、または100μM)を含有して培養した。その培養後に、細胞中に蓄積した脂肪(トリグリセライド)を、オイルレッドO染色したところ、DHMBAで培養すると、3T3-L1脂肪細胞の脂質蓄積が減少することが判明した(図4A)。さらに、細胞内の脂質含有量を測定すると、その減少が確認された(図4B)。これらの結果は、DHMBAは、脂肪細胞における脂質の蓄積を抑制することを示唆した。
【0028】
(DHMBAは3T3-L1脂肪細胞の脂肪生成を抑制)
3T3-L1脂肪細胞の脂肪生成がDHMBAで培養することによって変化するかどうかを調べた(図5)。
図5は、3T3-L1マウス前駆脂肪細胞の分化に伴った脂肪生成に対する海洋因子3,5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(DHMBA)の作用を説明する説明図である。3T3-L1前駆脂肪細胞(96ウェルプレートのウェルあたり1x104細胞/ml)を、10%BCSおよび1%P/Sを含む DMEM培養液中で、サブコンフルエントに達する3日間培養した。図5Aは、サブコンフルエンス後(分化培養の0日目)に、10%ウシ胎児血清(FBS)、1%P/S、0.5mM IBMX、1μMデキサメタゾン、およびインスリンを含む分化誘導因子含有DMEM培養液に置換し、媒介液(最終濃度として1%エタノール)またはDHMBA(最終濃度0.1、1、10、または100μM)を添加し、その2日後に、新鮮な10%FBSおよびインスリン(10μg/ml)を含む培養液(DMEM)に交換し、媒介液(最終濃度として1%エタノール)またはDHMBA(最終濃度0.1、1、10、または100μM)を添加して、さらに2日間培養した説明図である。図5Bは、サブコンフルエンス後(分化培養の0日目)、細胞を10%ウシ胎児血清(FBS)、1%P/S、0.5mM IBMX、1μMデキサメタゾン、インスリン(10μg/ml)、DHMBA(0.1、1、10、または100μM)含有培養液に置換し、細胞をさらに2日間培養した。分化誘導培養の2日後に、新鮮な10%FBS及びインスリン(10μg/ml)を含む培養液(DHMBA含有しない)に置換し、細胞をさらに2日間培養した説明図である。図5Cは、サブコンフルエンス後(分化培養の0日目)に、細胞を10%ウシ胎児血清(FBS)、1%P/S、0.5mM IBMX、1μMデキサメタゾン、およびインスリン(10μg/ml)を含む 分化誘導因子含有培養液で2日間培養した。さらに、分化誘導培養の2日後に、新鮮な10%FBS、インスリン(10μg/ml)、DHMBA(0.1、1、10、または100μM)含有培養液に置換し、細胞をさらに2日間培養した説明図である。細胞培養後、市販のAdipoRedアッセイ試薬(Lonza、Walkersville、MD、USA)を使用して、細胞内の脂質形成量を測定した。蛍光は、96ウェルプレートリーダーで485nmの励起と570nmの発光で測定した。データは、異なる細胞調製物を使用して、合計 2つの複製プレートの8つのウェルから得られた値の平均±SDとして表示した。尚、DHMBAを含まない対照群(灰色のバー)と比較してp<0.001で有意差が有った。有意差検定は一元配置分散分析、Tukey-Kramer事後検定によった。
【0029】
細胞を10%BCSおよび1%P/Sを含むDMEMで3日間培養し、細胞がサブコンフルエントに達した時点で、細胞をDHMBA(0.1、1、10、または100μM)の存在下で4日間培養した(分化後0から4日)(図5A)。DHMBA(1、10、または100μM)で培養すると、3T3-L1脂肪細胞の脂肪生成が抑制された(図5A)。このような抑制は、DHMBA(1、10、または100μM)の存在下で、分化後0~2日後または2~4日後の培養でも、観察された(図5BおよびC)。特に、DHMBA含有培養液で培養した3T3-L1脂肪細胞における脂肪生成の阻害は、分化の後期段階(2~4後)で顕著であった(図5C)。これらの結果は、DHMBAが、3T3-L1脂肪細胞におけるインスリンシグナル伝達に関連する脂肪生成を増進するプロセスを強く制御することを示した。
【0030】
(細胞内シグナル伝達経路の阻害剤とともに培養した3T3-L1脂肪細胞における脂肪生成に対するDHMBAの作用)
DHMBAが3T3-L1脂肪細胞の脂肪生成を抑制するメカニズムを理解するために、細胞内シグナル伝達因子の関与を調べた(図6)。
図6は、3T3-L1マウス前駆脂肪細胞の脂肪生成に対するシグナル伝達経路のさまざまな阻害剤の存在下での海洋因子3,5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(DHMBA)の作用を説明する説明図である。3T3-L1前脂肪細胞(96ウェルプレートのウェルあたり1x104細胞/ml)を、10%BCSおよび1%P/Sを含むDMEM培養液で、サブコンフルエントに達する3日間培養した。サブコンフルエンス後の細胞分化の培養開始(分化誘導培養の0日目)時に、細胞を10%FBS、1%P/S、0.5mM IBMX、1μMデキサメタゾン、インスリン(10μg/ml)を含むDMEM培養液に変えて、2日間追加培養した。その分化誘導培養の2日後に、ゲニステイン(1または10μM)(図6A)、ワートマニン(10または100nM)(図6B)、PD98059(1または10μM)(図6C)、またはBay 11-7082(1または10nM)(図6D)を含む新鮮な培養液に交換し、媒介液(最終濃度の1%エタノール)たはDHMBA(最終濃度1または10μM)を添加して、さらに細胞を2日間培養した。細胞培養後、細胞内の脂質トリグリセリド形成量を、AdipoRedアッセイ試薬(Lonza、Walkersville、MD、USA)を用いて測定した。蛍光は、96ウェルプレートリーダーで485nmの励起と570nmの発光で測定した。データは、異なる細胞調製物を使用して、合計2つの複製プレートの8つのウェルから得られた値の平均±SDとして表示した。尚、DHMBAを含まない対照群(灰色のバー)と比較してp<0.001で有意差が有った。有意差検定は一元配置分散分析、Tukey-Kramer事後検定によった。
【0031】
細胞分化の2日後に、ゲニステイン(1または10μM)、ワートマニン(10または100nM)、PD98059(1または10μM)、またはBay 11-7082(1または10nM)を添加して、2日間培養した。脂質生成は、ゲニステインの存在によって変化しなかった(図6A)が、ゲニステインの存在下で、DHMBA(1または10μM)は脂肪生成を阻害した(図6A)。特に、脂肪生成は、インスリンのシグナル伝達に関連している、ワートマニン(10または100nM)(図6B)、PD98059(1または10μM)(図6C)、または、NF-κBのシグナル伝達阻害剤Bay 11-7082(1または10nM)(図6D)との培養によって阻害された。これらの阻害は、DHMBA(1または10μM)の存在によってさらに増強され、DHMBAがインスリンおよびNF-κBシグナル伝達を含む多様な経路を阻害することにより、脂肪生成を抑制することを示唆した。
【0032】
(脂肪生成のシグナル伝達プロセスに関連するタンパク質レベルに対する DHMBAの作用)
さらに、DHMBAの脂肪細胞における脂肪形成の抑制効果の作用メカニズムを理解するために、脂肪生成に関与する重要なタンパク質のレベルがDHMBAによって調節されるかどうかを調べた(図7AおよびB)。
図7は、脂肪細胞における脂肪生成のシグナル伝達に関連するさまざまなタンパク質のレベルに及ぼす海洋因子3,5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(DHMBA)の作用を説明する説明図である。
3T3-L1前駆脂肪細胞(1x106細胞/100mmディッシュ、10ml培養液)を、10%BCSおよび1%P/S含むDMEM培養液で、サブコンフルエントに達する3日間培養した。その細胞分化誘導の開始(分化誘導0日目)時において、10%FBS、1%P/S、0.5mM IBMX、1μMデキサメタゾンを含むDMEM培養液に交換し、細胞を2日間追加培養した。その2日後に、培養液を10%FBSおよびインスリン(10μg/ml)、DHMBA(最終濃度10μM)を含有するDMEM培養液に交換し、さらに細胞を2日間培養した。培養後、細胞溶解物を調製した。その遠心分離上清のタンパク質サンプルを、レーンあたり40マイクログラムのタンパク質サンプルをウエスタンブロット分析に使用した。図7Aに、代表的なデータを表示した。図7Bは、バンドはコントロール(DHMBAなし)の倍数として表示した。データは、異なる細胞調製物を使用して、合計4枚のフィルムから得られた平均値±SDとして表示した。尚、対照群と比較してp<0.01で有意差が有った。有意差検定は一元配置分散分析、Tukey-Kramer事後検定によった。
【0033】
DHMBA(10μM)の添加によって細胞培養すると、前駆脂肪細胞の分化に関連する転写因子であるPPARγおよびC/EBPαのレベルを低下させた。また、DHMBAは、脂質生成の促進におけるインスリンシグナル伝達経路に関与しているPI3キナーゼ100α、Akt、MAPK、リン酸化MAPK、およびmTORのレベルの低下も引き起こした。さらに、DHMBAは、転写因子であるNF-κB p65のレベルを減少させた。したがって、DHMBAで培養すると、脂肪生成に関連する多種なタンパク質分子のレベルが低下することが判明した。
【0034】
(考察)
脂肪組織は、骨髄間葉系幹細胞から前駆脂肪細胞への分化によって形成される脂肪細胞で構成されている。脂肪組織は、2型糖尿病、高脂血症、高血圧、心血管疾患、がんなどの病態生理的恒常性を維持する上で重要な役割を果たしている。
DHMBAは、細胞内のラジカル捕捉として抗酸化ストレスを有することが証明されている。さらに、本発明において、脂肪生成に対するDHMBAの効果を究明した。この発明において、DHMBA含有培養液中で、3T3-L1前駆脂肪細胞を培養すると、その細胞成長が抑制されることが見出された。さらに、DHMBAは、試験管内での細胞成長に対する抑制効果の発現に依存しないで、前駆脂肪細胞の分化過程における脂肪生成を制御することが判明した。この発明は、DHMBAが、脂肪細胞の成長の抑制ならびに脂肪生成の抑制効果があるという新たな見解を提起した。
【0035】
脂肪細胞のDHMBA存在下での培養は、3T3-L1脂肪細胞のインスリンシグナル伝達に関連する脂肪生成の増進を阻害した。このDHMBAの脂肪形成抑制効果は、3T3-L1前駆脂肪細胞の分化過程の初期段階と比較して、分化の後期段階で強く発現した。初期段階の培養は、分化誘導因子のIBMX、デキサメタゾン、およびインスリンを含む培養液中で行なわれたが、後期段階の培養にはインスリンのみが含まれていた。特に、DHMBAは後期段階で脂肪生成を強く阻害した。インスリンは、成熟脂肪細胞における脂肪生成および脂質蓄積において強い増進効果を発揮する。したがって、DHMBAは、脂肪生成がインスリンによって増強されるプロセスを強く制御しているものと考えられた。
【0036】
肥満におけるシグナル伝達経路のメカニズムは複雑である。脂肪細胞のDHMBA存在下での培養が脂肪生成を抑制するメカニズムを解明するために、インスリンシグナル伝達経路に関連する、脂肪細胞をチロシンキナーゼの阻害剤であるゲニステイン、PI3K/Aktシグナル伝達経路の阻害剤であるワートマニン、ERK/MAPキナーゼの阻害剤であるPD98059、およびNF-κBの阻害剤であるBay 11-7089の存在下で培養したところ、これらの阻害剤の存在下においても、DHMBAの脂肪生成抑制効果は発揮された。この結果は、DHMBAが、インスリンシグナル伝達に関連する多様なシグナル伝達プロセスを抑制することにより、3T3-L1脂肪細胞の脂肪生成を強く阻害することを示唆した。
【0037】
さらに、DHMBAが脂肪細胞の脂肪形成を抑制するメカニズムを明らかにするための実験を試みた。脂肪細胞のDHMBA添加をもっての培養は、前駆脂肪細胞の分化プロセスに関連する転写因子であるPPARγおよびC/EBPαのレベルを減少させることがわかった。これらの結果は、DHMBAが前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化過程を阻害するという見解を支持した。さらに、脂肪細胞のDHMBA添加をもっての培養は、インスリンシグナル伝達に関連する脂肪生成の増進過程に関与している分子のPI3K、Akt、MAPK、phosphor-MAPK、およびmTORのレベルを低下した。mTOR経路の活性化は、3T3-L1前駆脂肪細胞の分化を促進する。これらの結果は、DHMBAが、インスリンによって増強される脂肪生成のプロセスを調節することをさらに支持した。さらに、DHMBAは脂肪細胞のNF-κB p65のレベルを低下させた。脂質生成は、NF-κBシグナル伝達の阻害剤であるBay 11-7089の存在によって抑制された。さらに、DHMBAをもっての培養は、Bay 11-7089の存在下における脂肪生成を阻害した。これらの知見は、脂肪細胞のDHMBA添加をもっての培養はNF-κBシグナル伝達経路を調節する脂肪生成過程においても抑制することを示唆した。
【0038】
図8は、3,5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(DHMBA)が3T3-L1脂肪細胞の脂肪生成を阻害するメカニズムを説明する説明図である。
DHMBAは、前駆脂肪細胞の分化過程に関連する転写因子であるPPARγおよびC/EBPαのレベルを減少させた。また、DHMBAは、インスリンシグナル伝達に関連する脂肪生成の促進を促進する過程に関与する、PI3K、Akt、MAPK、リン酸化-MAPK、およびmTORのレベルを低下させた。さらに、DHMBAは、NF-κBシグナル伝達経路によって調節される脂肪生成も抑制することが示唆された。このように、DHMBAは、脂肪細胞の多様なシグナル伝達経路を調節することにより、抗脂肪生成効果を発現する。
図8に要約されているように、DHMBAは、脂肪細胞の多様なシグナル伝達経路を調節することにより、抗脂肪生成効果を発揮するものと考察された。
【0039】
結論として、DHMBAは、細胞内でラジカルスカベンジングとして抗酸化ストレスを発現することが知られているが、さらに、本発明において、試験管内でマウス3T3-L1脂肪細胞のインスリンシグナル伝達に関連する脂肪生成増進の抑制効果を発揮するという新知見が見出された。DHMBAの効果は、インスリンシグナル伝達に関与する多様な経路を介して発現されるものと考察された。DHMBAのサプリメントとしての補給は、脂肪細胞の脂肪生成を阻害することにより、肥満の予防と治療に役割を果たす可能性がある。
図1
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図8