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特開2024-175335搬送システム、成膜装置、搬送システムの制御方法及び物品の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175335
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】搬送システム、成膜装置、搬送システムの制御方法及び物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/064 20160101AFI20241211BHJP
   H02K 41/02 20060101ALI20241211BHJP
   H02K 41/03 20060101ALI20241211BHJP
   H01L 21/677 20060101ALI20241211BHJP
   B65G 54/02 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
H02P25/064
H02K41/02 C
H02K41/03 A
H01L21/68 A
B65G54/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093039
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】勝浦 公介
【テーマコード(参考)】
3F021
5F131
5H540
5H641
【Fターム(参考)】
3F021AA07
3F021BA02
3F021CA04
3F021DA04
5F131AA02
5F131BA13
5F131CA18
5F131CA32
5F131DA02
5F131DA22
5F131DA42
5F131DB87
5F131EA22
5F131EA23
5H540AA01
5H540BA03
5H540EE05
5H540FA12
5H540FC02
5H641BB06
5H641BB15
5H641BB16
5H641GG02
5H641GG24
5H641GG26
5H641HH03
5H641JA07
(57)【要約】
【課題】可動子及び搬送路が大型化した場合であっても可動子の位置制御において高い応答性能を実現することができる搬送システムを提供する。
【解決手段】搬送システムは、固定子と、第1の方向に沿って移動可能な可動子と、可動子及び固定子のうちの一方に第1の方向に沿って配置された複数の磁石と、他方に複数の磁石と対向可能に第1の方向に沿って配置された複数のコイルと、複数のコイルに接続され、当該複数のコイルに印加する電流を制御して複数の磁石と複数のコイルとの間に働く力を制御する第1の制御部と、複数のコイルに接続され、当該複数のコイルに印加する電流を制御して複数の磁石と複数のコイルとの間に働く力を制御する第2の制御部と、を有し、第1の制御部は、第1の方向と交差する第2の方向における可動子の姿勢を制御可能であり、第2の制御部は、第1の方向における可動子の位置又は姿勢を制御可能である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子と、
第1の方向に沿って移動可能な可動子と、
前記可動子及び前記固定子のうちの一方に第1の方向に沿って配置された複数の磁石と、
前記可動子及び前記固定子のうちの他方に前記複数の磁石と対向可能に前記第1の方向に沿って配置された複数のコイルと、
前記複数のコイルに接続され、当該複数のコイルに印加する電流を制御して前記複数の磁石と前記複数のコイルとの間に働く力を制御する第1の制御部と、
前記複数のコイルに接続され、当該複数のコイルに印加する電流を制御して前記複数の磁石と前記複数のコイルとの間に働く力を制御する第2の制御部と、を有し、
前記第1の制御部は、前記第1の方向と交差する第2の方向における前記可動子の姿勢を制御可能であり、
前記第2の制御部は、前記第1の方向における前記可動子の位置又は姿勢を制御可能である
ことを特徴とする搬送システム。
【請求項2】
前記第2の制御部は、前記第1の方向、前記第1の方向と前記第2の方向とに交差する第3の方向、及び第2の方向に沿った軸の周りの第4の方向における前記可動子の前記位置又は前記姿勢を制御可能であり、
前記第1の制御部は、前記第2の方向、前記第1の方向に沿った軸の周りの第5の方向、及び前記第3の方向に沿った軸の周りの第6の方向における前記可動子の前記姿勢を制御可能である
ことを特徴とする請求項1に記載の搬送システム。
【請求項3】
前記第1の制御部は、前記第1から第6の方向における前記可動子の前記位置又は前記姿勢を制御可能であり、
前記第1の制御部は、前記可動子が前記第1の方向において所定の位置に位置するとき、前記第1から第6の方向のうちの前記第2の方向、前記第5の方向、及び前記第6の方向のみにおける前記可動子の前記姿勢を制御する
ことを特徴とする請求項2に記載の搬送システム。
【請求項4】
前記第1の制御部又は前記第2の制御部に接続され、前記可動子の前記第1の方向における位置を検出する複数の第1の検出部と、
前記第1の制御部又は前記第2の制御部に接続され、前記可動子の前記第3の方向における位置を検出する複数の第2の検出部と、
を有し、
前記第2の制御部に接続された前記第1の検出部及び前記第2の検出部は、前記所定の位置において前記可動子を検出可能に設置されている
ことを特徴とする請求項3に記載の搬送システム。
【請求項5】
前記第2の制御部に接続された前記第1の検出部は、前記第1の制御部に接続された前記第1の検出部よりも位置検出分解能が高く、
前記第2の制御部に接続された前記第2の検出部は、前記第1の制御部に接続された前記第2の検出部よりも位置検出分解能が高い
ことを特徴とする請求項4に記載の搬送システム。
【請求項6】
前記第2の制御部により前記電流が制御される前記コイルの巻き数は、前記第1の制御部により前記電流が制御される前記コイルの巻き数よりも少ない
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の搬送システム。
【請求項7】
前記第2の制御部は、前記第1の制御部よりも高い電圧を前記コイルに印加して前記電流を制御する
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の搬送システム。
【請求項8】
前記第2の制御部は、前記第1の制御部よりも処理速度が高速である
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の搬送システム。
【請求項9】
前記第1の方向は水平方向であり、
前記第2の方向は鉛直方向である
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の搬送システム。
【請求項10】
前記複数の磁石は、前記第1の方向において互いに異なる磁極が交互に並ぶ第1の磁石群と、前記第3の方向において互いに異なる磁極が交互に並ぶ第2の磁石群とを含む
ことを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1項に記載の搬送システム。
【請求項11】
前記可動子は前記複数の磁石を有し、
前記固定子は前記複数のコイルを有する
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の搬送システム。
【請求項12】
前記可動子は、ワークを保持する保持機構を有する
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の搬送システム。
【請求項13】
前記ワークは基板である
ことを特徴とする請求項12に記載の搬送システム。
【請求項14】
固定子と、
前記固定子の第1の方向に沿って移動可能な可動子と、
前記可動子及び前記固定子のうちの一方に第1の方向に沿って配置された複数の磁石と、
前記可動子及び前記固定子のうちの他方に前記複数の磁石と対向可能に前記第1の方向に沿って配置された複数のコイルと、
前記複数のコイルに接続され、当該複数のコイルに印加する電流を制御して前記複数の磁石と前記複数のコイルとの間に働く力を制御する第1の制御部と、
前記複数のコイルに接続され、当該複数のコイルに印加する電流を制御して前記複数の磁石と前記複数のコイルとの間に働く力を制御する第2の制御部と、を有する搬送システムの制御方法であって、
前記第1の制御部が、前記第1の方向と交差する第2の方向における前記可動子の姿勢を制御し、
前記第2の制御部が、前記第1の方向における前記可動子の位置又は姿勢を制御する
ことを特徴とする搬送システムの制御方法。
【請求項15】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載され、前記可動子によりワークを搬送する搬送システムと、
前記ワークに膜を形成するための成膜源と、
を有することを特徴とする成膜装置。
【請求項16】
ワークから物品を製造する物品の製造方法であって、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載された搬送システムを用いて前記可動子により前記ワークを搬送し、
前記可動子により搬送された前記ワークに対して加工を施す
ことを特徴とする物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送システム、成膜装置、搬送システムの制御方法及び物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び特許文献2には、磁気的な支持方式による浮上式搬送装置が記載されている。特許文献1及び特許文献2に記載される磁気浮上型の搬送装置は、可動子の搬送方向に沿って、搬送装置が導入されたチャンバ等の上部には浮上用コイルを、チャンバ等の側面には固定子コイルを一定間隔で並べることで可動子の非接触での搬送を実現している。
【0003】
特許文献1に記載の磁気浮上搬送装置では、浮上用のコイルと可動子との間の距離の制御を個々のコイルと可動子との間で完結して行うため、個々の閉ループ制御の応答は速いが、可動子の正確な姿勢を制御することが困難である。
【0004】
一方で、特許文献2に記載の磁気浮上搬送装置では、複数の位置検出手段と複数のコイルとを1つの統合コントローラで制御することで、可動子の姿勢を制御しつつ安定して可動子を非接触状態で搬送することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2017-507870号公報
【特許文献2】特開2021-126012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の搬送装置では、可動子及び搬送路が大型化するにつれて、統合コントローラと通信する位置検出部及びコイル電流制御部が増大化し、データ通信時間が増える結果、可動子の位置制御における応答性能が低下する問題があった。
【0007】
本発明は、可動子及び搬送路が大型化した場合であっても可動子の位置制御において高い応答性能を実現することができる搬送システム及び搬送システムの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一観点によれば、固定子と、第1の方向に沿って移動可能な可動子と、前記可動子及び前記固定子のうちの一方に第1の方向に沿って配置された複数の磁石と、前記可動子及び前記固定子のうちの他方に前記複数の磁石と対向可能に前記第1の方向に沿って配置された複数のコイルと、前記複数のコイルに接続され、当該複数のコイルに印加する電流を制御して前記複数の磁石と前記複数のコイルとの間に働く力を制御する第1の制御部と、前記複数のコイルに接続され、当該複数のコイルに印加する電流を制御して前記複数の磁石と前記複数のコイルとの間に働く力を制御する第2の制御部と、を有し、前記第1の制御部は、前記第1の方向と交差する第2の方向における前記可動子の姿勢を制御可能であり、前記第2の制御部は、前記第1の方向における前記可動子の位置又は姿勢を制御可能である搬送システムが提供される。
【0009】
本発明の他の観点によれば、固定子と、前記固定子の第1の方向に沿って移動可能な可動子と、前記可動子及び前記固定子のうちの一方に第1の方向に沿って配置された複数の磁石と、前記可動子及び前記固定子のうちの他方に前記複数の磁石と対向可能に前記第1の方向に沿って配置された複数のコイルと、前記複数のコイルに接続され、当該複数のコイルに印加する電流を制御して前記複数の磁石と前記複数のコイルとの間に働く力を制御する第1の制御部と、前記複数のコイルに接続され、当該複数のコイルに印加する電流を制御して前記複数の磁石と前記複数のコイルとの間に働く力を制御する第2の制御部と、を有する搬送システムの制御方法であって、前記第1の制御部が、前記第1の方向と交差する第2の方向における前記可動子の姿勢を制御し、前記第2の制御部が、前記第1の方向における前記可動子の位置又は姿勢を制御する搬送システムの制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、可動子及び搬送路が大型化した場合であっても可動子の位置制御において高い応答性能を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態による搬送システムの全体構成を示す概略図である。
図2A】本発明の一実施形態による搬送システムの可動子及び固定子を示す概略図である。
図2B】本発明の一実施形態による搬送システムの可動子及び固定子を示す概略図である。
図2C】本発明の一実施形態による搬送システムの可動子及び固定子を示す概略図である。
図3】本発明の一実施形態による搬送システムの可動子の永久磁石構成を示す概略図である。
図4】本発明の一実施形態による搬送システムを制御する制御システムを示す概略図である。
図5A】本発明の一実施形態による搬送システムのコイル及びセンサの接続構成を示す概略図である。
図5B】本発明の一実施形態による搬送システムのコイル及びセンサの接続構成を示す概略図である。
図5C】本発明の一実施形態による搬送システムのコイル及びセンサの接続構成を示す概略図である。
図6A】本発明の一実施形態による搬送システムにおける可動子の姿勢制御方法を示す概略図である。
図6B】本発明の一実施形態による搬送システムにおける可動子の姿勢制御方法を示す概略図である。
図7A】本発明の一実施形態による搬送システムにおける可動子の位置及び姿勢を制御するための制御ブロックの一例を示す概略図である。
図7B】本発明の一実施形態による搬送システムにおける可動子の位置及び姿勢を制御するための制御ブロックの一例を示す概略図である。
図8】本発明の一実施形態による搬送システムにおける可動子の永久磁石に加わるコイル単位電流当たりの電磁力の関係を示す概略図である。
図9】本発明の一実施形態による搬送システムにおける可動子の位置制御を行う際に可動子の永久磁石に加わる力を示す概略図である。
図10A】本発明の一実施形態による搬送システムにおけるコイルの構成例を示す概略図である。
図10B】本発明の一実施形態による搬送システムにおけるコイルの構成例を示す概略図である。
図10C】本発明の一実施形態による搬送システムにおけるコイルの構成例を示す概略図である。
図10D】本発明の一実施形態による搬送システムにおけるコイルの構成例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[一実施形態]
以下、本発明の一実施形態について図1乃至図9を用いて説明する。
【0013】
まず、本実施形態による搬送システム1の構成について図1乃至図5Cを用いて説明する。図1乃至図3は、本実施形態による可動子101及び固定子201を含む搬送システム1の構成を示す概略図である。なお、図1及び図2Aは、それぞれ可動子101及び固定子201の主要部分を抜き出して示したものである。
【0014】
図1は可動子101を斜め上方から見た図である。図2Aは可動子101及び固定子201を後述のX方向から見た図、図2B図2A中の破線で囲まれた枠部分を拡大した図、図2C図2B中の一点鎖線に沿った断面をA視点から見た図である。図3は、可動子101を後述のZ方向から見た図である。図4は、搬送システム1全体の各制御機器の接続状態を示すシステム構成図である。図5A乃至図5Cは、コイル202及びコイル202に関連する構成を示す概略図である。
【0015】
図1乃至図2Cに示すように、本実施形態による搬送システム1は、キャリア、台車又はスライダを構成する可動子101と、搬送路を構成する固定子201とを有している。また、搬送システム1は、統合コントローラ301と、コイルコントローラ302と、コイルユニットコントローラ303と、センサコントローラ304を有している。さらに、搬送システム1は、高速制御用コントローラ310を有している。なお、図1では、可動子101として2つの可動子101a、101b、固定子201として2つの固定子201a、201bを示している。以後、可動子101、固定子201等の複数存在しうる構成要素について特に区別する必要がない場合には共通の数字のみの符号を用い、必要に応じて数字の符号の後に小文字のアルファベットを付して個々を区別する。
【0016】
本実施形態による搬送システム1は、固定子201のコイル202と可動子101の永久磁石103との間で電磁力を発生させて可動子101を搬送するリニアモータによる搬送システムである。また、本実施形態による搬送システム1は、可動子101を浮上させて非接触で搬送する磁気浮上型の搬送システムである。
【0017】
本実施形態による搬送システム1は、可動子101により搬送されたワークに対して加工を施す工程装置をも有する加工システムの一部を構成している。一般に、工業製品を組み立てるための生産ライン、半導体露光装置等では、搬送システムが用いられている。特に、生産ラインにおける搬送システムは、ファクトリーオートメーション化された生産ライン内又は生産ラインの間の複数のステーションの間で、部品等のワークを搬送する。また、プロセス装置中の搬送システムとして使われる場合もある。本実施形態による搬送システム1は、かかる用途に用いられうるものである。
【0018】
搬送システム1は、例えば、固定子201により可動子101を搬送することにより、可動子101に保持されたワークを、ワークに対して加工作業を施す工程装置に搬送する。工程装置は、特に限定されるものではないが、例えば、ワークである後述のガラス基板102上に成膜を行う蒸着装置、スパッタ装置等の成膜装置である。なお、図1では、2台の固定子201に対して2台の可動子101を示しているが、これらに限定されるものではない。搬送システム1においては、1台又は複数台の可動子101が1台又は複数台の固定子201上を搬送されうる。
【0019】
ここで、以下の説明において用いる座標軸、方向等を定義する。まず、可動子101の搬送方向である水平方向に沿ってX軸をとり、可動子101の搬送方向をX方向とする。また、X方向と直交する方向である鉛直方向に沿ってZ軸をとり、鉛直方向をZ方向とする。鉛直方向は、重力の方向(mg方向)である。また、X方向及びZ方向に直交する方向に沿ってY軸をとり、X方向及びZ方向に直交する方向をY方向とする。さらに、X軸周りの回転方向をWx方向、Y軸周りの回転方向をWy方向、Z軸周りの回転方向をWz方向とする。また、乗算の記号として“*”を使用する。また、可動子101の中心を原点Ocとし、+Y側をR側、-Y側をL側として記載する。なお、可動子101の搬送方向は必ずしも水平方向である必要はないが、その場合も搬送方向をX方向として同様にY方向及びZ方向を定めることができる。また、X方向、Y方向及びZ方向は、必ずしも互いに直交する方向に限定されるものではなく、互いに交差する方向として定義することもできる。
【0020】
図1中の矢印に示すように、可動子101は、搬送方向であるX方向に沿って移動可能に構成されている。可動子101は、永久磁石103と、Xリニアスケール104と、Yリニアスケール111と、Yターゲット105と、Zターゲット106と、ストッパー107とを有している。可動子101は、上面と、上面の反対側に位置する下面とを有している。
【0021】
永久磁石103は、可動子101の上面において、R側及びL側のそれぞれの端部にX方向に沿って複数取り付けられて設置されている。R側及びL側のそれぞれにおいて磁石群を構成する複数の永久磁石103は、複数のXZ用磁石群と、複数のY用磁石群とを含んでいる。XZ用磁石群は、X方向においてN極とS極との互いに異なる磁極が交互に並ぶように配置された磁石群である。Y用磁石群は、Y方向においてN極とS極との互いに異なる磁極が交互に並ぶように配置された磁石群である。ここで説明したN極及びS極は、各磁石の上面の極性である。図3は、可動子101のL側における永久磁石103の配置を示している。L側において、複数の永久磁石103は、XZ用磁石群103xzaL、103xzbLと、Y用磁石群103yaL、103ybL、103ycLとで構成されている。これらの磁石群は、可動子101の+X側から-X側に向かって、Y用磁石群103yaL、XZ用磁石群103xzaL、Y用磁石群103ybL、XZ用磁石群103xzbL、Y用磁石群103ycLの順に配置されている。可動子101のR側においても、図3に示すL側と同様に複数の永久磁石103が配置されている。すなわち、可動子101のR側においては、図示しないが、Y用磁石群103yaR、XZ用磁石群103xzaR、Y用磁石群103ybR、XZ用磁石群103xzbR、Y用磁石群103ycRが配置されている。R側における各磁石群は、符号の末尾R以外の部分が同じL側における磁石群と同様に構成されている。なお、永久磁石103の設置場所及び設置数は、図1乃至図3に示す場合に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0022】
Xリニアスケール104、Yリニアスケール111、Yターゲット105及びZターゲット106は、可動子101において、それぞれ固定子201に設置されたリニアエンコーダ及びセンサにより読み取り可能な位置に取り付けられて設置されている。ここにいうリニアエンコーダ及びセンサは、後述のXリニアエンコーダ204、高分解能Xリニアエンコーダ210、高分解能Yリニアエンコーダ211、Yセンサ205及びZセンサ206を含む。
【0023】
ストッパー107は、可動子101のY方向を向く両側面からY方向外側に突出するように取り付けられて設置されている。ストッパー107に対しては、後述の衝突防止ローラー207、208がZ方向に上側及び下側から対向するように設置されている。
【0024】
固定子201は、コイル202と、Xリニアエンコーダ204と、高分解能Xリニアエンコーダ210と、高分解能Yリニアエンコーダ211と、Yセンサ205と、Zセンサ206、衝突防止ローラー207、208とを有している。
【0025】
コイル202は、可動子101の上面に設置された永久磁石103にX方向に沿って対向可能なように固定子201にX方向に沿って複数取り付けられて設置されている。具体的には、複数のコイル202は、可動子101の上面におけるR側及びL側それぞれの端部に設置された2つの永久磁石103にZ方向に沿って上方から対向可能なようにX方向に沿って2列に配置されて設置されている。なお、コイル202の設置場所及び設置数は、図1及び図2Aに示す場合に限定されるものではなく、適宜変更することができる。コイル202は、鉄心等のコア2021と、コア2021に巻かれた巻線2022とを有している。
【0026】
固定子201は、電流が印加された各コイル202によりコイル202と永久磁石103との間に電磁力を発生させる。これにより、可動子101は、Z方向に沿って浮上しつつ、X方向に沿って移動する。
【0027】
Xリニアエンコーダ204、高分解能Xリニアエンコーダ210、高分解能Yリニアエンコーダ211、Yセンサ205及びZセンサ206は、可動子101が搬送方向に沿って移動する可動子101の位置及び姿勢を検出する検出部として機能する。
【0028】
Xリニアエンコーダ204は、可動子101に設置されたリニアスケール104を読み取り可能なように固定子201に取り付けられて設置されている。Xリニアエンコーダ204は、リニアスケール104を読み取ることにより可動子101のXリニアエンコーダ204に対する相対的な位置を検出する。
【0029】
Yセンサ205は、可動子101に設置されたYターゲット105との間のY方向の距離を検出可能なように固定子201に取り付けられて設置されている。Zセンサ206は、可動子101に設置されたZターゲット106との間のZ方向の距離を検出可能なように固定子201に取り付けられて設置されている。
【0030】
高分解能Xリニアエンコーダ210は、図2Cに示すように、Xリニアエンコーダ204とX方向に並んで設置され、Xリニアスケール104を読み取り可能なように固定子201に取り付けられて設置されている。高分解能Xリニアエンコーダ210は、後述する可動子101のアライメント動作の際にX方向における所定の位置に位置する可動子101を検出可能に設置されている。
【0031】
高分解能Yリニアエンコーダ211は、図2Bに示すように、Yリニアスケール111を読み取り可能なように固定子201に取り付けられて設置されている。高分解能Yリニアエンコーダ211も、後述する可動子101のアライメント動作の際にX方向における所定の位置に位置する可動子101を検出可能に設置されている。
【0032】
高分解能Xリニアエンコーダ210及び高分解能Yリニアエンコーダ211は、Xリニアエンコーダ204に比べて信号分割数の設定が細かく、位置検出分解能の高いエンコーダとなっている。また、高分解能Yリニアエンコーダ211は、Yセンサ205に比べても位置検出分解能が高くなっている。高分解能Xリニアエンコーダ210及び高分解能Yリニアエンコーダ211は、高速な位置制御を行うアライメント動作時に、可動子101の水平方向の位置及び姿勢を検出する検出部として機能する。なお、本実施形態による搬送システム1では、アライメント動作時に、より高い位置決め精度を実現するためにこれらの位置検出分解能の高いエンコーダを使用しているが、これらに代えてXリニアエンコーダ204と同等のエンコーダを用いてもよい。
【0033】
衝突防止ローラー207、208は、可動子101の各ストッパー107に対してZ方向に上側及び下側から対向するように,X方向に沿って固定子201に取り付けられ設置されている。衝突防止ローラー207は、ストッパー107に上側から対向するよう設置されている。衝突防止ローラー208は、ストッパー107に下側から対向するよう設置されている。衝突防止ローラー207、208は、可動子101のZ方向に位置に応じてストッパー107に接触して可動子101のZ方向の可動範囲を規制する。衝突防止ローラー207、208は、ストッパー107が接触した場合にストッパー107がX方向に転がるように回転可能に構成されている。
【0034】
可動子101は、例えば、その上又は下にワークが取り付けられ又は保持されて搬送されるようになっている。なお、図2Aでは、ワークとしてのガラス基板102が、可動子101の下面に設けられた保持機構108により保持された状態を示している。なお、ワークを可動子101に取り付け又は保持するための機構は、特に限定されるものではないが、機械的なフック、静電チャック等の一般的な取り付け機構、保持機構等を用いることができる。
【0035】
図1及び図2Aには、可動子101に保持されたワークに対して加工を施す工程装置の例として、可動子101に保持された基板であるガラス基板102に対して蒸着を行う蒸着装置7が示されている。蒸着装置7は、固定子201に組み込まれて設置されている。
【0036】
蒸着装置7は、可動子101の下に保持されたガラス基板102に対向可能に設置されたパターンマスク501と、パターンマスク501の下側にパターンマスク501を介してガラス基板102に対向可能に設置された蒸着源701とを有している。蒸着源701は、ガラス基板102に膜を形成するための成膜源である。パターンマスク501は、成膜する膜に形成すべき所定の開口パターンが設けられた例えばマスク箔である。可動子101がX方向に搬送されることにより、可動子101に保持されたガラス基板102がパターンマスク501の上空に浮上した状態で停止する。
【0037】
可動子101がX方向における所定の位置に浮上停止してガラス基板102がパターンマスク501の上空に浮上停止した後、搬送システム1は、可動子101の水平方向の位置及び姿勢を制御して水平方向における可動子101のアライメント動作を実施する。可動子101のアライメント動作により、搬送システム1は、ガラス基板102とパターンマスク501との水平方向の位置合わせを行うアライメント動作を実施する。ここで、水平方向とは、X方向、Y方向及びWz方向を含む。ガラス基板102及びパターンマスク501には、それぞれ不図示のアライメントマークが刻印等により設けられている。搬送システム1は、固定子201上方に設置された不図示のアライメントカメラで撮像することによりアライメント操作量を算出し、水平方向のアライメント動作を行うことができる。ガラス基板102とパターンマスク501とのアライメント精度の要求は数μm程度であり、可動子101単体の位置決め精度についても同等の数μm程度又はそれ以上の精度が要求される。
【0038】
アライメント動作の実施後、パターンマスク501の下側に配置された蒸着源701から蒸着物が放出される。放出される蒸着物は、パターンマスク501越しにガラス基板102に蒸着される。ガラス基板102の蒸着源701の側を向いた面には、蒸着源701による蒸着により金属、酸化物等の蒸着物の薄膜が成膜される。薄膜には、パターンマスク501によるパターンが形成される。このように、可動子101とともにワークが搬送され、搬送されたワークに対して工程装置により加工が施されてワークから物品が製造される。
【0039】
図1は、固定子201aと固定子201bとの間に、例えばゲートバルブ等の構造物100が存在している場所を含む領域を示している。構造物100が存在する場所は、生産ライン内又は生産ラインの間の複数のステーションの間で、連続して電磁石やコイルを配置することができない場所になっている。
【0040】
次に、搬送システム1を制御する制御システム3について図4乃至図5Cを用いて説明する。なお、制御システム3は、搬送システム1の一部を構成しうる。図4は、本実施形態による搬送システム1を制御する制御システム3を示す概略図である。図5Aは、コイルコントローラ302の接続構成を示す概略図である。図5Bは、センサコントローラ304の接続構成を示す概略図である。図5Cは、高速制御用コントローラ310の接続構成を示す概略図である。
【0041】
図4に示すように、制御システム3は、統合コントローラ301と、コイルコントローラ302と、センサコントローラ304と、高速制御用コントローラ310を有している。制御システム3は、可動子101と固定子201とを含む搬送システム1を制御する制御部として機能する。統合コントローラ301には、コイルコントローラ302、センサコントローラ304及び高速制御用コントローラ310が通信可能に接続されている。
【0042】
コイルコントローラ302には、複数のコイルユニットコントローラ303が通信可能に接続されている。コイルコントローラ302及びこれに接続された複数のコイルユニットコントローラ303は、コイル202のそれぞれの列に対応して設けられている。各コイルユニットコントローラ303には、コイル202が接続されている。
【0043】
図5Aに示すように、各コイルユニットコントローラ303には、1個又は複数個のコイル202が接続されている。コイル202には、電流センサ312及び電流コントローラ313が接続されている。電流センサ312は、接続されたコイル202に流れる電流値を検出する。電流コントローラ313は、接続されたコイル202に流れる電流量を制御する。
【0044】
コイルユニットコントローラ303は、コイルコントローラ302から受信した電流指令値に基づき、電流コントローラ313に所望の電流量を指令する。電流コントローラ313は、電流センサ312により検出された電流値を検出してコイル202に対して所望の電流量の電流が流れるように電流量を制御する。
【0045】
図5Bに示すように、センサコントローラ304には、複数のXリニアエンコーダ204、複数のYセンサ205及び複数のZセンサ206が通信可能に接続されている。
【0046】
複数のXリニアエンコーダ204は、可動子101が搬送中もそのうちの1つが必ず1台の可動子101の位置を測定できるような間隔で固定子201に取り付けられている。また、複数のYセンサ205は、そのうちの2つが必ず1台の可動子101のYターゲット105を測定できるような間隔で固定子201に取り付けられている。また、複数のZセンサ206は、その2列のうちの3つが必ず1台の可動子101のZターゲット106を測定できるような間隔でかつ面をなすように固定子201に取り付けられている。
【0047】
統合コントローラ301は、Xリニアエンコーダ204、Yセンサ205及びZセンサ206からの出力に基づき、複数のコイル202に印加する電流指令値を決定して、コイルコントローラ302に送信する。コイルコントローラ302は、統合コントローラ301からの電流指令値に基づき、上述のようにコイルユニットコントローラ303に対して電流値を指令する。これにより、統合コントローラ301は、制御部として機能し、固定子201に沿って可動子101を非接触で搬送するとともに、搬送する可動子101の姿勢を6軸で制御する。
【0048】
また、図5Cに示すように、高速制御用コントローラ310には、コイルユニットコントローラ303を介して1個又は複数個のコイル202が接続されている。さらに、高速制御用コントローラ310には、複数の高分解能Xリニアエンコーダ210と、複数の高分解能Yリニアエンコーダ211が通信可能に接続されている。高速制御用コントローラ310は、統合コントローラ301とは別個独立のコントローラであり、統合コントローラ301よりも処理速度が高速なものであることが好ましい。
【0049】
高速制御用コントローラ310は、可動子101を浮上搬送する場合、統合コントローラ301から送信される電流指令値に基づき、上述したコイルコントローラ302と同様にコイルユニットコントローラ303に対して電流値を指令する。
【0050】
一方、可動子101のアライメント動作を実施する場合、高速制御用コントローラ310は、高分解能Xリニアエンコーダ210及び高分解能Yリニアエンコーダ211からの出力に基づき、複数のコイル202に印加する電流指令値を決定する。高速制御用コントローラ310は、自ら決定した電流指令値に基づき、コイルユニットコントローラ303に対して電流値を指令する。
【0051】
このように、可動子101のアライメント動作を実施する場合、統合コントローラ301との通信を介さずに、高速制御用コントローラ310単体でアライメント動作に関する処理を実行する制御部として機能する。すなわち、この場合、高速制御用コントローラ310は、可動子101の位置及び姿勢の算出からコイル202に対して所望の電流量の電流が流れるようにする電流量の制御までを単体で実行するため、可動子101の高速制御を実現することができる。
【0052】
次に、統合コントローラ301により実行される可動子101の姿勢制御方法について図6A及び図6Bを用いて説明する。図6Aは、本実施形態による搬送システム1における可動子101の浮上搬送時の姿勢制御方法を示す概略図である。図6Bは、本実施形態による搬送システム1における可動子101のアライメント動作時の姿勢制御方法を示す概略図である。図6A及び図6Bは、可動子101の姿勢制御方法の概略について主にそのデータの流れに着目して示している。
【0053】
まず、可動子101の浮上搬送時の姿勢制御方法について図6Aを用いて説明する。浮上搬送時においては、統合コントローラ301が制御部として機能する。すなわち、浮上搬送時において、統合コントローラ301は、以下に説明するように、可動子位置算出関数401、可動子姿勢算出関数402、可動子姿勢制御関数403及びコイル電流算出関数404を用いた処理を実行する制御部として機能する。これにより、統合コントローラ301は、可動子101の姿勢を6軸で制御しつつ、可動子101の搬送を制御する。
【0054】
図6Aに示すように、まず、可動子位置算出関数401は、複数のXリニアエンコーダ204からの測定値及びその取り付け位置の情報から、搬送路を構成する固定子201上にある可動子101の台数及び位置を計算する。これにより、可動子位置算出関数401は、可動子101に関する情報である可動子情報406の可動子位置情報(X)及び台数情報を更新する。可動子位置情報(X)は、固定子201上の可動子101の搬送方向であるX方向における位置を示している。可動子情報406は、例えば図6A中にPOS-1、POS-2、…と示すように固定子201上の可動子101ごとに用意される。
【0055】
次いで、可動子姿勢算出関数402は、可動子位置算出関数401により更新された可動子情報406の可動子位置情報(X)から、各々の可動子101を測定可能なYセンサ205及びZセンサ206を特定する。次いで、可動子姿勢算出関数402は、特定されたYセンサ205及びZセンサ206から出力される値に基づき、各々の可動子101の姿勢に関する情報である姿勢情報(Y,Z,Wx,Wy,Wz)を算出して可動子情報406を更新する。可動子姿勢算出関数402により更新された可動子情報406は、可動子位置情報(X)及び姿勢情報(Y,Z,Wx,Wy,Wz)を含んでいる。
【0056】
次いで、可動子姿勢制御関数403は、可動子位置情報(X)及び姿勢情報(Y,Z,Wx,Wy,Wz)を含む現在の可動子情報406及び姿勢目標値から、各々の可動子101について印加力情報408を算出する。印加力情報408は、各々の可動子101に印加すべき力の大きさに関する情報である。印加力情報408は、後述する印加すべき力Tの力の3軸成分(Tx,Ty,Tz)及びトルクの3軸成分(Twx,Twy,Twz)に関する情報を含んでいる。印加力情報408は、例えば図6A中にTRQ-1、TRQ-2、…と示すように固定子201上の可動子101ごとに用意される。
【0057】
ここで、力の3軸成分であるTx、Ty、Tzは、それぞれ力のX方向成分、Y方向成分及びZ方向成分である。また、トルクの3軸成分であるTwx、Twy、Twzは、それぞれトルクのX軸周り成分、Y軸周り成分及びZ軸周り成分である。本実施形態による搬送システム1は、これら力Tの6軸成分(Tx,Ty,Tz,Twx,Twy,Twz)を制御することにより、可動子101の姿勢を6軸で制御しつつ、可動子101の搬送を制御する。
【0058】
次いで、コイル電流算出関数404は、印加力情報408及び可動子情報406に基づき、各コイル202に印加する電流指令値409を決定する。
【0059】
こうして、統合コントローラ301は、可動子位置算出関数401、可動子姿勢算出関数402、可動子姿勢制御関数403及びコイル電流算出関数404を用いた処理を実行することにより、電流指令値409を決定する。統合コントローラ301は、決定した電流指令値409をコイルコントローラ302に送信する。
以上のようにして、可動子101の浮上搬送時において、統合コントローラ301は、X方向、Y方向、Z方向、Wx方向、Wy方向、及びWz方向における可動子101の位置及び姿勢を制御する。
【0060】
次に、可動子101アライメント動作時の姿勢制御方法について図6Bを用いて説明する。アライメント動作時においては、統合コントローラ301及び高速制御用コントローラ310の両コントローラが制御部として機能する。すなわち、アライメント動作時において、統合コントローラ301は、以下に説明するように、可動子姿勢算出関数402、可動子姿勢制御関数403及びコイル電流算出関数404を用いた処理を実行する制御部として機能する。一方、高速制御用コントローラ310は、統合コントローラ301とは別に、可動子位置算出関数411、可動子姿勢算出関数412、可動子姿勢制御関数413及びコイル電流算出関数414を用いた処理を実行する制御部として機能する。これにより、アライメント動作時において、統合コントローラ301は可動子101の鉛直方向の姿勢をZ軸、Wx軸及びWy軸の3軸で制御する一方、高速制御用コントローラ310は可動子101の水平方向の姿勢をX軸、Y軸及びWz軸の3軸で制御する。これにより、可動子101の浮上状態を維持しつつ、水平方向において可動子101の高速な位置制御が可能となり、その結果、アライメント動作において高精度な位置決めを実現することができる。
【0061】
まず、高速制御用コントローラ310において、可動子位置算出関数411は、高分解能Xリニアエンコーダ210からの測定値及びその取り付け位置の情報から、搬送路を構成する固定子201上にある可動子101の台数及び位置を計算する。これにより、可動子位置算出関数411は、可動子101に関する情報である可動子情報416の可動子位置情報(X)情報を更新する。
【0062】
次いで、可動子姿勢算出関数412は、可動子位置算出関数411で更新された可動子情報416の可動子位置情報(X)並びに複数の高分解能Yリニアエンコーダ211の測定値及びその取付位置の情報から可動子101の姿勢情報(Y,Wz)を算出する。そして、可動子姿勢算出関数412は、算出結果に基づき可動子情報416を更新する。可動子姿勢算出関数412により更新された可動子情報416は、可動子位置情報(X)及び姿勢情報(Y,Wz)を含んでいる。高速制御用コントローラ310は、可動子姿勢算出関数412により更新された可動子情報416を統合コントローラ301に通知する。
【0063】
次いで、可動子姿勢制御関数413は、可動子位置情報(X)及び姿勢情報(Y,Wz)を含む現在の可動子情報416及び姿勢目標値から、可動子101について印加力情報418を算出する。ただし、このとき印加力情報418として算出されるのは、水平方向の力及びトルク(Tx,Ty,Twz)であり、印加力情報418における垂直方向の力及びトルク(Tz,Twx,Twy)としては0が代入される。
【0064】
次いで、コイル電流算出関数414は、印加力情報418及び可動子情報416に基づき、電流指令値409の中の、高速制御用コントローラ310に接続された各コイル202に印加する電流指令値4092のみを決定する。
【0065】
一方で、統合コントローラ301は、まず、高速制御用コントローラ310の可動子姿勢算出関数412により更新された可動子情報416の通知を受けて、可動子情報406を更新する。
【0066】
次いで、可動子姿勢算出関数402は、更新された可動子情報406の可動子位置情報(X)から、可動子101を測定可能なZセンサ206を特定する。次いで、可動子姿勢算出関数402は、特定されたZセンサ206から出力される値に基づき、可動子101の垂直方向の姿勢に関する情報である姿勢情報(Z,Wx,Wy)を算出して可動子情報406を更新する。可動子姿勢算出関数402により更新された可動子情報406は、可動子位置情報(X)及び姿勢情報(Y,Z,Wx,Wy,Wz)を含んでいる。
【0067】
次いで、可動子姿勢制御関数403は、可動子位置情報(X)及び姿勢情報(Y,Z,Wx,Wy,Wz)を含む現在の可動子情報406及び姿勢目標値から、可動子101について印加力情報408を算出する。ただし、このとき印加力情報408として算出されるのは、垂直方向の力及びトルク(Tz,Twx,Twy)であり、印加力情報408における垂直方向の力及びトルク(Tx,Ty,Twz)としては0が代入される。
【0068】
次いで、コイル電流算出関数404は、印加力情報408及び可動子情報406に基づき、各コイル202に印加する電流指令値409を決定する。
【0069】
こうして、統合コントローラ301及び高速制御用コントローラ310は、鉛直方向における可動子101の姿勢制御と、水平方向における可動子101の姿勢制御とを分割して実行することができる。すなわち、統合コントローラ301は、可動子101のアライメント動作時において、6軸の方向のうちのZ方向、Wx方向及びWy方向のみにおける可動子101の姿勢を制御する。一方、高速制御用コントローラ310は、可動子101のアライメント動作時において、X方向、Y方向及びWz方向における可動子101の位置及び姿勢を制御する。
【0070】
可動子101の位置及び姿勢の制御についてさらに図7A及び図7Bを用いて詳細に説明する。図7Aは、浮上搬送時において可動子101の位置及び姿勢を制御するための制御ブロックの一例を示す概略図である。図7Bは、アライメント動作時において可動子101の位置及び姿勢を制御するための制御ブロックの一例を示す概略図である。
【0071】
図7A及び図7Bにおいて、Pは、可動子101の位置及び姿勢であり、(X,Y,Z,Wx,Wy,Wz)を成分とする。refは、(X,Y,Z,Wx,Wy,Wz)の目標値である。errは、目標値refと位置及び姿勢Pとの間の偏差である。Tqは力及びトルクであり、(Tx,Ty,Tz,Twx,Twy,Twz)を成分とする。Iはコイル電流値であり、各コイル202の指標をjとしたときにj番目のコイルに印加される電流値I(j)を成分とする。ただし、jは、コイル202の設置数Nを2以上の整数として1≦j≦Nを満たす整数である。Fは、可動子101に加わる電磁力であり、(Fx,Fy,Fz,Fwx,Fwy,Fwz)を成分とする。
【0072】
図7Aに示す浮上搬送時において、可動子姿勢制御関数403は、偏差errの大きさ、偏差errの変化、偏差errの積算値等から目標値refを実現するために可動子101に印加すべき力Tを算出する。コイル電流算出関数404は、印加すべき力T並びに位置及び姿勢Pに基づき、可動子101に力Tを印加するためにコイル202に印加すべきコイル電流Iを算出する。こうして算出されたコイル電流Iがコイル202に印加されることにより、力Fが可動子101に作用して位置及び姿勢Pが目標値refに近づく。
【0073】
図7Bに示すアライメント動作時において、可動子姿勢制御関数403は、鉛直方向の成分(Z,Wx,Wy)の偏差errの大きさ、偏差errの変化、偏差errの積算値等から目標値refを実現するために可動子101に印加すべき力Tを算出する。その際、可動子姿勢制御関数403は、印加すべき力Tにおける成分(Tz,Twx,Twy)のみ算出し、成分(Tx,Ty,Twz)を0とする。また、可動子姿勢制御関数413は、水平方向の成分(X,Y,Wz)の偏差errの大きさ、偏差errの変化、偏差errの積算値等から目標値refを実現するために可動子101に印加すべき力Tを算出する。その際、可動子姿勢制御関数413は、印加すべき力Tにおける成分(Tx,Ty,Twz)のみ算出し、成分(Tz,Twx,Twy)を0とする。コイル電流算出関数404、414は、印加すべき力T並びに位置及び姿勢Pに基づき、可動子101に力Tを印加するためにコイル202に印加すべきコイル電流Iを算出する。こうして算出されたコイル電流Iがコイル202に印加されることにより、力Fが可動子101に作用して位置及び姿勢Pが目標値refに近づく。
【0074】
このように制御ブロックを構成することにより、可動子101の位置及び姿勢Pを所望の目標値refに制御することが可能になる。
【0075】
次に、統合コントローラ301及び高速制御用コントローラ310が、それぞれ垂直方向及び水平方向の力を独立して算出して両方向の力を可動子101に印加する方法について図8及び図9を用いて説明する。図8は、可動子101の永久磁石103に加わるコイル単位電流当たりの電磁力の関係を示す概略図である。図9は、可動子101の位置制御を行う際に可動子101の永久磁石103に加わる力を示す概略図である。
【0076】
図8の上段に示す図は、可動子101が所定の位置及び姿勢Pにあるときのコイル202と永久磁石103との位置関係を示す概略図である。図8の下段に示すグラフは、図8の上段に示す各コイル202に対して単位電流を印加した際にコイル202と永久磁石103との間に発生して永久磁石103に加わる電磁力であるq軸方向、d軸方向及びY方向の力の大きさを示したものである。ここで、q軸及びd軸とは、それぞれ一般的に同期式モータ制御で用いられるベクトル制御におけるq軸及びd軸と同様である。本実施形態で用いる座標系においては、q軸方向がX方向、d軸方向がZ方向となる。図8中、実線及び黒丸プロットで示すグラフがq軸方向の力Eq(j)、二重線及び二重丸プロットで示すグラフがd軸方向の力Ed(j)、破線及び白丸プロットで示すグラフがY方向の力Ey(j)である。jは上述した各コイル202の指標である。また、Eq1及び-Eq2はEq(j)がとりうる所定値、Ed1及びEd2はEd(j)がとりうる所定値、Ey1はEy(j)がとりうる所定の値である。Eq(j)、Ed(j)及びEy(j)の大きさは、各コイル202と可動子101の永久磁石103との相対的な位置に応じて変化するため、可動子位置情報(X)の位置に応じて随時更新される。
【0077】
まず、統合コントローラ301による各コイル202の電流指令値の算出方法について以下に示す行列演算で説明する。
【0078】
可動子101に対して各方向に印加される力成分及びトルク成分(Tax,Tay,Taz,Tawx,Tawy,Tawz)は、それぞれ次式(1a)~(1f)により表される。ここで、Tax、Tay、Tazは、それぞれ力のX方向成分、Y方向成分及びZ方向成分である。トルクの3軸成分であるTawx、Tawy、Tawzは、それぞれトルクのX軸周り成分、Y軸周り成分及びZ軸周り成分である。I(j)は、j番目のコイル202に印加される電流量である。Y(j)は、可動子101の重心位置Ocから各コイル202までのY方向の距離である。X(j)は、可動子101の重心位置Ocからの各コイル202までのX方向の距離である。記号Σは、指標jを1からコイル202の設置数Nまで変化させた場合の総和を意味する。
【0079】
【数1】
【0080】
ここで、トルク寄与行列Maを定義する。トルク寄与行列Maは、1~j番目のコイル202の各々に対して単位電流を印加した場合の各力成分及びトルク成分(Tax,Tay,Taz,Tawx,Tawy,Tawz)への寄与の大きさを示す行列である。このように、統合コントローラ301は、各コイル202に印加される単位電流による各力成分及びトルク成分に対する寄与に関する情報を示すトルク寄与行列Maを用いて、各コイル202に印加される電流値を決定する。
【0081】
トルク寄与行列Maは、6行N列の行列である。トルク寄与行列Maでは、その1行目をX方向、2行目をY方向、3行目をZ方向、4行目をWx方向、5行目をWy方向、6行目をWz方向に対応させる。すると、トルク寄与行列Mの1行j列から6行j列までのj列の各要素Ma(1,j)、Ma(2,j)、Ma(3,j)、Ma(4,j)、Ma(5,j)及びMa(6,j)は、それぞれ次式(2a)~(2f)により表される。なお、トルク寄与行列Maの各行は、互いに線形独立である。
【0082】
Ma(1,j)=Eq(j) …式(2a)
Ma(2,j)=Ey(j) …式(2b)
Ma(3,j)=Ed(j) …式(2c)
Ma(4,j)=Ed(j)*Y(j) …式(2d)
Ma(5,j)=-Ed(j)*X(j) …式(2e)
Ma(6,j)=Eq(j)*Y(j) …式(2f)
【0083】
また、本実施形態では、コイル電流ベクトルIsaとして、1~N番目のコイル202に印加する電流量I(1)~I(N)を要素とする列ベクトルを導入する。コイル電流ベクトルIsaは、次式(3)により表されるN行1列の列ベクトルである。ここで、Trは転置行列を意味している。
Isa=Tr(I(1),I(2),…,I(j),…,I(N)) …式(3)
【0084】
次に、トルクベクトルTqaを次式(4)により定義する。
Tqa=Tr(Tax,Tay,Tawx,Tawy,Tawz) …式(4)
【0085】
すると、次式(5)が得られる。
Tqa=Ma*Isa …(5)
【0086】
ここで、疑電流ベクトルKaを導入する。疑電流ベクトルKaは、6行1列の列ベクトルであり、Tr(Ma)をトルク寄与行列Maの転置行列とすれば、次式(6)を満足するベクトルである。
Tr(Ma)*Ka=Isa …式(6)
【0087】
式(5)は、式(6)を用いて次式(7)に変形することができる。
Tqa=Ma*Tr(Ma)*Ka …式(7)
【0088】
式(7)において、Ma*Tr(Ma)は、6行N列の行列とN行6列の行列との積であるから6行6列の正方行列となる。また、トルク寄与行列Maの各行は、互いに線形独立である。したがって、Ma*Tr(Ma)は、逆行列を常に得ることができる。そのため、式(7)は、次式(8)に変形することができる。
Ka=Inv(Ma*Tr(Ma))*Tqa …式(8)
【0089】
式(6)及び式(8)から、最終的に次式(9)で表されるコイル電流ベクトルIsaを得る。こうして、コイル電流ベクトルIsaを一意に求めることができる。統合コントローラ301は、コイル電流ベクトルIsaを計算することにより、各コイル202に印加する電流を決定することができる。
Tr(Ma)*Inv(Ma*Tr(Ma))*Tqa=Isa …式(9)
【0090】
以上のとおり、本実施形態によれば、可動子101に対して6軸の力成分及びトルク成(Tax,Tay,Taz,Tawx,Tawy,Tawz)を独立して印加することができる。これにより、可動子101の姿勢を維持しつつ安定した搬送を実現することができる。
【0091】
また、上述したように、アライメント動作時では、Tax=0、Tay=0、Tawz=0とする。このため、アライメント動作時におけるトルクベクトルTqaは、次式(10)で示す3行1列の列ベクトルとすることができる。
Tqa=Tr(Taz,Tawx,Tawy) …式(10)
【0092】
さらに、トルク寄与行列Maの各行は互いに線形独立である。このため、アライメント動作時におけるトルク寄与行列Maは、式(10)に合わせて式(2c)、(2d)及び(2e)で表される要素をそれぞれ1行j列から3行j列までのj列の要素とする3行N列の行列とすることができる。こうして、アライメント動作時においても、式(9)によりコイル電流ベクトルIsaを一意に求めることができる。
【0093】
統合コントローラ301は、上述のようにしてコイル電流ベクトルIsaを算出することにより、アライメント動作時以外の動作時及びアライメント動作時において各コイル202に印加する電流を決定することができる。アライメント動作時以外の動作時は、浮上搬送時を含む。
【0094】
次に、アライメント動作時における高速制御用コントローラ310による各コイル202の電流指令値の算出方法について以下に示す行列演算で説明する。
【0095】
可動子101に対して各方向に印加される力成分及びトルク成分(Tbx,Tby,Tbz,Tbwx,Tbwy,Tbwz)は、それぞれ次式(11a)~(11f)により表される。ここで、Tbx、Tby、Tbzは、それぞれ力のX方向成分、Y方向成分及びZ方向成分である。トルクの3軸成分であるTbwx、Tbwy、Tbwzは、それぞれトルクのX軸周り成分、Y軸周り成分及びZ軸周り成分である。
【0096】
【数2】
【0097】
ここで、統合コントローラ301による演算の場合と同様にトルク寄与行列Mb及び疑電流ベクトルKbを導入した計算を実行して、次式(12)により、コイル202に印加する電流を示すコイル電流ベクトルIsbを得ることができる。トルク寄与行列Mb、疑電流ベクトルKb及びコイル電流ベクトルIsbは、それぞれトルク寄与行列Ma、疑電流ベクトルKa及びコイル電流ベクトルIsaと同様に考えることができる。
Tr(Mb)*Inv(Mb*Tr(Mb))*Tqb=Isb …式(12)
【0098】
上述したように、高速制御用コントローラ310は、Tbz=0、Tbwx=0、Tbwy=0とする。このため、トルクベクトルTqbは、次式(13)で示す3行1列の列ベクトルとすることができる。
Tqb=Tr(Tbx,Tby,Tbwz) …式(13)
【0099】
さらに、統合コントローラ301による演算の場合と同様に、トルク寄与行列Mbの各行は互いに線形独立である。このため、トルク寄与行列Mbは、式(13)に合わせて3行N列の行列とすることができる。ただし、トルク寄与行列Mbは、式(2a)、(2b)及び(2f)で表される要素に相当する要素をそれぞれ1行j列から3行j列までのj列の要素とする3行N列の行列である。こうして、式(12)によりコイル電流ベクトルIsbを一意に求めることができる。
【0100】
上述した統合コントローラ301で算出したコイル電流ベクトルIsaと、高速制御用コントローラ310で算出したコイル電流ベクトルIsbとは互いに独立している。そのため、各々で算出したコイル電流ベクトルIsa、Isbの各要素を加算することで、鉛直方向における3軸成分(Tz,Twx,Twy)と水平方向における3軸成分(Tx,Ty,Twz)を分離しつつ、可動子101の6軸制御が可能となる。
【0101】
なお、上記説明では、統合コントローラ301によるアライメント動作時のコイル電流ベクトルIsaの算出に際して、トルクベクトルTqaを3行1列、トルク寄与行列Maを3行N列としたが、これに限定されるものではない。Tqaの要素にTaz=0、Tawx=0、Tawy=0を代入し、トルクベクトルTqaを6行1列、トルク寄与行列Maを6行N列としたままコイル電流ベクトルIsaを算出してもよい。
【0102】
また、上記説明では、高速制御用コントローラ310によるアライメント動作時のコイル電流ベクトルIsbの算出に際して、トルクベクトルTqbを3行1列、トルク寄与行列Mbを3行N列としたが、これに限定されるものではない。Tqbの要素にTbz=0、Tbwx=0、Tbwy=0を代入し、トルクベクトルTqbを6行1列、トルク寄与行列Mbを6行N列としたままコイル電流ベクトルIsbを算出してもよい。
【0103】
また、上記説明では、コイル電流ベクトルIsa、IsbをともにN行1列の列ベクトルとしてそれぞれ統合コントローラ301及び高速制御用コントローラ310により算出したが、これに限定されるものではない。コイル電流ベクトルIsa、Isbは、それぞれ統合コントローラ301及び高速制御用コントローラ310に接続されているコイル202に限定して要素数を絞ってもよい。
【0104】
以下、可動子101と各コイル202との位置関係が図8に示す場合の具体的な演算例について説明する。
【0105】
まず、各コイル202の指標jは、図8中にCoilIndexで示すように1~7、8~13、14~20の番号を指定している。j=1~7及びj=14~20のコイル202は、コイルコントローラ302に接続されている。一方、j=8~13のコイル202は、高速制御用コントローラ310に接続されている。つまり、j=1~7及びj=14~20のコイル202は、統合コントローラ301で算出した鉛直方向の力成分及びトルク成分に基づいて電流指令値が決定される。一方、j=8~13のコイル202は、高速制御用コントローラ310で算出した水平方向の力成分及びトルク成分に基づいて電流指令値が決定される。図8及び図9では、j=1~7及びj=14~20のコイル202に対応する領域A301と、j=8~13のコイル202に対応する領域A310を示している。
【0106】
図9は、図8に示す状態において、可動子101の各磁石群にかかる電磁力を示す概略図である。図9中、破線枠で示した箇所は、図8に示すj=8~13のコイル202による電磁力が作用するエリアである。なお、図9には、可動子101のL側における磁石群を示している。
【0107】
まず、統合コントローラ301で算出した力成分及びトルク成分に関する情報である力及びトルク情報を(Tax,Tay,Taz,Tawx,Tawy,Tawz)として説明する。
【0108】
力及びトルク情報(Tax,Tay,Taz,Tawx,Tawy,Tawz)は、次式(14a)~(14g)で表される。説明を簡単にするため、可動子101のR側及びL側のうちのL側のみの磁石群に作用する力成分及びトルク成分だけを扱う。Widthは、可動子101の重心位置Ocから複数のコイル202が並んだコイル列までのY方向の距離である。X(j)は、可動子101の重心位置Ocを基準とする各コイル202のX方向における相対位置である。
【0109】
【数3】
【0110】
図8に示すグラフより、次式(15a)~(15g)が成立する。
【数4】
【0111】
したがって、式(14a)~(14f)は、それぞれ次式(16a)~式(16f)となる。
【数5】
【0112】
ここで、仮に次式(17a)~(17e)が成立するとする。
【数6】
【0113】
式(17a)~(17e)を式(16a)~(16f)に代入すると、次式(18a)~(18f)を得る。
【0114】
【数7】
【0115】
式(18a)~(18f)を見ると、水平方向の力成分及びトルク成分である(Tax,Tay,Tawz)が0になっていることが分かる。さらに、鉛直方向の力成分及びトルク成分である(Tz,Twx,Twy)は、水平方向の力及びトルク成分とは独立して、I1、I2及びI3を操作することにより3軸で制御可能であることが分かる。
【0116】
次に、高速制御用コントローラ310で算出した力成分及びトルク成分に関する情報である力及びトルク情報を(Tbx,Tby,Tbz,Tbwx,Tbwy,Tbwz)として説明する。
【0117】
力及びトルク情報(Tbx,Tby,Tbz,Tbwx,Tbwy,Tbwz)は、次式(19a)~(19f)で表される。説明を簡単にするため、可動子101のR側及びL側のうちのL側のみの磁石群に作用する力成分及びトルク成分だけを扱う。
【数8】
【0118】
図8に示すグラフより、次式(20a)~(20g)が成立する。
【数9】
【0119】
したがって、式(19a)~(19f)は、それぞれ次式(21a)~(21f)となる。
【数10】
【0120】
ここで、仮に次式(22a)~(22c)が成立するとする。なお、次式(22a)~(22c)におけるI1、I2及びI3は、式(17c)~(17e)におけるI1、I2及びI3とはそれぞれ別個のものである。
【0121】
【数11】
【0122】
式(22a)~(22c)を式(21a)~(21f)に代入すると、次式(23a)~(23f)を得る。
【0123】
【数12】
【0124】
式(23a)~(23f)を見ると、鉛直方向の力成分及びトルク成分である(Tbz,Tbwx,Tbwy)が0になっていることが分かる。さらに、水平方向の力成分及びトルク成分である(Tx,Ty,Twz)は、鉛直方向の力及びトルク成分とは独立して、I1、I2及びI3を操作することにより3軸で制御可能であることが分かる。
【0125】
したがって、統合コントローラ301及び高速制御用コントローラ310は、それぞれ垂直方向と水平方向の力を互いに独立して算出し、それぞれ算出した力を可動子101に印加することができる。図9に示すように、可動子101のL側における各磁石群にかかる電磁力は、Z方向のFzfL、X方向のFxbL、Y方向のFycL、X方向のFxbL、Z方向のFzbLとなる。また、可動子101のR側における各磁石群にかかる電磁力は、図示しないが、L側と対応して、Z方向のFzfR、X方向のFxbR、Y方向のFycR、X方向のFxbR、Z方向のFzbRとなる。統合コントローラ301は、これに接続されたコイル202に印加する電流を制御することによりFzfL、FzbL、FzfR、FzbRを磁石群に印加して、可動子101の鉛直方向の姿勢(Z,Wx,Wy)を制御する。高速制御用コントローラ310は、これに接続されたコイル202に印加する電流を制御することによりFxbL、FycL、FxbL、FxbR、FycR、FxbRを磁石群に印加して、可動子101の水平方向の位置及び姿勢(X,Y,Wz)を制御する。
【0126】
このように、本実施形態では、統合コントローラ301とは別個独立の高速制御用コントローラ310が可動子101の水平方向の位置及び姿勢を制御することができる。したがって、可動子101及び固定子201による搬送路が大型化した場合であっても、統合コントローラ301と通信するコイルコントローラ302、センサコントローラ304等の増大化を抑制し、データ通信時間の増加を低減することができる。したがって、本実施形態によれば、可動子101及び搬送路が大型化した場合であっても可動子101の位置制御において高い応答性能を実現することができる。
【0127】
特に、搬送システム1が用いられる蒸着装置7等の成膜装置においては、ガラス基板102とパターンマスク501との水平方向の位置決め精度に対する要求は厳しく、水平方向の位置制御の応答性の低下は製品品質に直結する課題であった。本実施形態によれば、可動子101の姿勢を制御しつつ安定して可動子101を非接触状態で搬送することができるだけでなく、可動子101及び搬送路が大型化しても水平方向の位置制御の応答性能を維持しつつ、高い位置決め精度を実現することができる。
【0128】
[変形実施形態]
本発明は、上記実施形態に限らず種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態では、可動子101に永久磁石103、固定子201にコイル202を配置したムービングマグネット型のリニアモータにより搬送システム1を構成した場合について説明したが、これに限定されるものではない。搬送システム1は、固定子201に永久磁石103、可動子101にコイル202を配置したムービングコイル型のリニアモータにより構成することもできる。すなわち、可動子101及び固定子201のうちの一方に永久磁石103を設置し、可動子101及び固定子201のうちの他方にコイル202を設置して搬送システム1を構成することができる。
【0129】
また、上記実施形態では、コイル202はすべて同じ構成としているが、これに限定されるものではない。アライメント動作時において制御の応答性能をさらに高めるため、高速制御用コントローラ310に接続されたコイル202については、コイルコントローラ302に接続されたコイル202とは異なる構成としてもよい。搬送システム1におけるコイル202の構成例について図10A乃至図10Dを用いて説明する。
図10A乃至図10Dは、コイル202の構成例を示す概略図である。
【0130】
図10Aは、上記実施形態で説明したコイル202がすべて同じ構成になっている場合を示している。図10Aに示すように、コイルコントローラ302に接続されたコイル202と、高速制御用コントローラ310に接続されたコイル202とは互いに同一の構成になっている。高速制御用コントローラ310に接続されたコイル202は、以下のように構成することもできる。
【0131】
図10Bは、高速制御用コントローラ310に接続されたコイル202として、コイルコントローラ302に接続されたコイル202よりも巻き線の巻き数の少ないコイル202′を用いた場合を示している。図10Bに示すように、巻き線の巻き数の少ないコイル202′を用いることもできる。このように高速制御用コントローラ310に接続されたコイル202′の巻き数を少なくすることで、コイル202′において電流立ち上がりの時定数が小さくなり、高速制御用コントローラ310による制御の応答性能が向上する。その結果、アライメント動作時において、高速制御用コントローラ310により制御する可動子101の水平方向の位置及び姿勢(X,Y,Wz)の位置決め精度を向上することができる。
【0132】
図10Cは、高速制御用コントローラ310に接続されたコイルユニットコントローラ303として、印加電圧が高いコイルユニットコントローラ303′を用いた場合を示している。この場合、コイルユニットコントローラ303′は、コイルコントローラ302に接続されたコイルユニットコントローラ303よりもコイル202に印加する電圧が高くなっている。図10Cに示すように、印加電圧が高いコイルユニットコントローラ303′を用いることもできる。これにより、高速制御用コントローラ310は、統合コントローラ301よりも高い電圧をコイル202に印加することができる。このようにコイルユニットコントローラ303′の印加電圧を高くすることにより、これに接続されたコイル202において電流立ち上がりの時定数が小さくなり、高速制御用コントローラ310による制御の応答性能が向上する。その結果、アライメント動作時において、高速制御用コントローラ310により制御する可動子101の水平方向の位置及び姿勢(X,Y,Wz)の位置決め精度が向上する。なお、図10B及び以下に説明する図10Dに示す場合においても、図10Cに示す場合と同様に印加電圧が高いコイルユニットコントローラ303′を用いることができる。
【0133】
図10Dは、コイルコントローラ302及び高速制御用コントローラ310に接続されたコイル202に接続されたコイル202として、それぞれコイル202″の巻き線が分割された部分が接続された場合を示している。この場合、コイル202″の巻き線が不均等に分割され、巻き線の分割部分のうち、巻き線の巻き数が多い部分がコイルコントローラ302に接続され、巻き線の巻き数が少ない部分が高速制御用コントローラ310に接続されている。図10Dに示すように、高速制御用コントローラ310にコイル202″のうちの巻き線の巻き数が少ない部分を接続することもできる。このように高速制御用コントローラ310にコイル202″の巻き線の巻き数が少ない部分を接続することにより、その巻き数の少ない部分において電流立ち上がりの時定数が小さくなり、高速制御用コントローラ310による制御の応答性能が向上する。なお、この場合、浮上搬送時とアライメント動作時とでコイル202″のうちの分割された巻き線に流す電流を切り替えるように、統合コントローラ301、コイルコントローラ302、高速制御用コントローラ310等が構成される。具体的には、浮上搬送時には、コイルコントローラ302に接続された巻き線に電流を流す。一方、アライメント動作時には、高速制御用コントローラ310に接続された巻き線に電流を流す。その結果、アライメント動作時において、高速制御用コントローラ310により制御する可動子101の水平方向の位置及び姿勢(X,Y,Wz)の位置決め精度が向上する。
【0134】
また、本発明による搬送システムは、電子機器等の物品を製造する製造システムにおいて、物品となるワークに対して各作業工程を実施する工作機械等の各工程装置の作業領域にワークを可動子とともに搬送する搬送システムとして利用することができる。作業工程を実施する工程装置は、上述した蒸着装置のほか、ワークに対して部品の組み付けを実施する装置、塗装を実施する装置等、あらゆる装置であってよい。また、製造される物品も特定のものに限定されるものではなく、あらゆる部品であってよい。このように、本発明による搬送システムを用いてワークを作業領域に搬送し、作業領域に搬送されたワークに対して作業工程を実施して物品を製造することができる。
【0135】
本実施形態の開示は、以下の構成及び方法を含む。
(構成1)
固定子と、
第1の方向に沿って移動可能な可動子と、
前記可動子及び前記固定子のうちの一方に第1の方向に沿って配置された複数の磁石と、
前記可動子及び前記固定子のうちの他方に前記複数の磁石と対向可能に前記第1の方向に沿って配置された複数のコイルと、
前記複数のコイルに接続され、当該複数のコイルに印加する電流を制御して前記複数の磁石と前記複数のコイルとの間に働く力を制御する第1の制御部と、
前記複数のコイルに接続され、当該複数のコイルに印加する電流を制御して前記複数の磁石と前記複数のコイルとの間に働く力を制御する第2の制御部と、を有し、
前記第1の制御部は、前記第1の方向と交差する第2の方向における前記可動子の姿勢を制御可能であり、
前記第2の制御部は、前記第1の方向における前記可動子の位置又は姿勢を制御可能である
ことを特徴とする搬送システム。
(構成2)
前記第2の制御部は、前記第1の方向、前記第1の方向と前記第2の方向とに交差する第3の方向、及び第2の方向に沿った軸の周りの第4の方向における前記可動子の前記位置又は前記姿勢を制御可能であり、
前記第1の制御部は、前記第2の方向、前記第1の方向に沿った軸の周りの第5の方向、及び前記第3の方向に沿った軸の周りの第6の方向における前記可動子の前記姿勢を制御可能である
ことを特徴とする構成1に記載の搬送システム。
(構成3)
前記第1の制御部は、前記第1から第6の方向における前記可動子の前記位置又は前記姿勢を制御可能であり、
前記第1の制御部は、前記可動子が前記第1の方向において所定の位置に位置するとき、前記第1から第6の方向のうちの前記第2の方向、前記第5の方向、及び前記第6の方向のみにおける前記可動子の前記姿勢を制御する
ことを特徴とする構成2に記載の搬送システム。
(構成4)
前記第1の制御部又は前記第2の制御部に接続され、前記可動子の前記第1の方向における位置を検出する複数の第1の検出部と、
前記第1の制御部又は前記第2の制御部に接続され、前記可動子の前記第3の方向における位置を検出する複数の第2の検出部と、
を有し、
前記第2の制御部に接続された前記第1の検出部及び前記第2の検出部は、前記所定の位置において前記可動子を検出可能に設置されている
ことを特徴とする構成3に記載の搬送システム。
(構成5)
前記第2の制御部に接続された前記第1の検出部は、前記第1の制御部に接続された前記第1の検出部よりも位置検出分解能が高く、
前記第2の制御部に接続された前記第2の検出部は、前記第1の制御部に接続された前記第2の検出部よりも位置検出分解能が高い
ことを特徴とする構成4に記載の搬送システム。
(構成6)
前記第2の制御部により前記電流が制御される前記コイルの巻き数は、前記第1の制御部により前記電流が制御される前記コイルの巻き数よりも少ない
ことを特徴とする構成1乃至5のいずれか1項に記載の搬送システム。
(構成7)
前記第2の制御部は、前記第1の制御部よりも高い電圧を前記コイルに印加して前記電流を制御する
ことを特徴とする構成1乃至6のいずれか1項に記載の搬送システム。
(構成8)
前記第2の制御部は、前記第1の制御部よりも処理速度が高速である
ことを特徴とする構成1乃至7のいずれか1項に記載の搬送システム。
(構成9)
前記第1の方向は水平方向であり、
前記第2の方向は鉛直方向である
ことを特徴とする構成1乃至8のいずれか1項に記載の搬送システム。
(構成10)
前記複数の磁石は、前記第1の方向において互いに異なる磁極が交互に並ぶ第1の磁石群と、前記第3の方向において互いに異なる磁極が交互に並ぶ第2の磁石群とを含む
ことを特徴とする構成2乃至9のいずれか1項に記載の搬送システム。
(構成11)
前記可動子は前記複数の磁石を有し、
前記固定子は前記複数のコイルを有する
ことを特徴とする構成1乃至10のいずれか1項に記載の搬送システム。
(構成12)
前記可動子は、ワークを保持する保持機構を有する
ことを特徴とする構成1乃至11のいずれか1項に記載の搬送システム。
(構成13)
前記ワークは基板である
ことを特徴とする構成12に記載の搬送システム。
(方法1)
固定子と、
前記固定子の第1の方向に沿って移動可能な可動子と、
前記可動子及び前記固定子のうちの一方に第1の方向に沿って配置された複数の磁石と、
前記可動子及び前記固定子のうちの他方に前記複数の磁石と対向可能に前記第1の方向に沿って配置された複数のコイルと、
前記複数のコイルに接続され、当該複数のコイルに印加する電流を制御して前記複数の磁石と前記複数のコイルとの間に働く力を制御する第1の制御部と、
前記複数のコイルに接続され、当該複数のコイルに印加する電流を制御して前記複数の磁石と前記複数のコイルとの間に働く力を制御する第2の制御部と、を有する搬送システムの制御方法であって、
前記第1の制御部が、前記第1の方向と交差する第2の方向における前記可動子の姿勢を制御し、
前記第2の制御部が、前記第1の方向における前記可動子の位置又は姿勢を制御する
ことを特徴とする搬送システムの制御方法。
(構成14)
構成1乃至13のいずれか1項に記載され、前記可動子によりワークを搬送する搬送システムと、
前記ワークに膜を形成するための成膜源と、
を有することを特徴とする成膜装置。
(方法2)
ワークから物品を製造する物品の製造方法であって、
構成1乃至13のいずれか1項に記載された搬送システムを用いて前記可動子により前記ワークを搬送し、
前記可動子により搬送された前記ワークに対して加工を施す
ことを特徴とする物品の製造方法。
【符号の説明】
【0136】
1 搬送システム
3 制御システム
7 蒸着装置
100 構造物
101 可動子
102 ガラス基板
103 永久磁石
104 Xリニアスケール
105 Yターゲット
106 Zターゲット
107 ストッパー
111 Yリニアスケール
201 固定子
202 コイル
204 Xリニアエンコーダ
205 Yセンサ
206 Zセンサ
207 上側衝突防止ローラー
208 下側衝突防止ローラー
210 高分解能Xリニアエンコーダ
210 高分解能Yリニアエンコーダ
301 統合コントローラ
302 コイルコントローラ
303 コイルユニットコントローラ
304 センサコントローラ
310 高速制御用コントローラ
501 パターンマスク
701 蒸着源
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図10D