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  • 特開-気体燃料用インジェクタ 図1
  • 特開-気体燃料用インジェクタ 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175354
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】気体燃料用インジェクタ
(51)【国際特許分類】
   F02M 51/06 20060101AFI20241211BHJP
【FI】
F02M51/06 T
F02M51/06 L
F02M51/06 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093076
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000153122
【氏名又は名称】株式会社ニッキ
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 努
(72)【発明者】
【氏名】會澤 修太郎
【テーマコード(参考)】
3G066
【Fターム(参考)】
3G066AB05
3G066BA36
3G066CC01
3G066CC20
(57)【要約】
【課題】電磁駆動でエンジンの気筒内に気体燃料を直接噴射する常閉式の気体燃料用インジェクタについて、閉弁時の気密性を長期間に亘って確保できるようにする。
【解決手段】本体10と、開閉弁20と、ソレノイド30と、ノズル40と、を備え、エンジンの気筒内に気体燃料を直接噴射する電磁駆動式の気体燃料用インジェクタ1において、前記開閉弁20は、前記本体10および前記ノズル40とは別部品であり、前記ソレノイド30を構成するプランジャ33に固定されて共に軸線方向に往復動する弁体21と、前記弁体21と接触・離隔するシート面23およびその中心部を貫通する弁孔24を有する樹脂製の弁座部材22とからなるものとした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの気筒内に気体燃料を直接噴射する電磁駆動式の気体燃料用インジェクタであって、
内部に燃料通路を形成した筒状の本体と、
前記本体内に配置されて前記燃料通路を開閉する開閉弁と、
前記本体内に配置されて通電時に前記開閉弁を開弁するソレノイドと、
前記開閉弁の下流側である前記本体の先端部に設けられて、先端に形成した噴射孔が前記気筒内に挿入されるノズルと、を備え、
前記開閉弁は、前記本体および前記ノズルとは別部品であり、前記ソレノイドを構成するプランジャに固定されて共に軸線方向に往復動する弁体と、前記弁体と接触・離隔するシート面およびその中心部を貫通する弁孔を有する樹脂製の弁座部材とからなる、ことを特徴とする気体燃料用インジェクタ。
【請求項2】
前記弁座は、前記ノズルには接しない状態で前記本体の先端部に内装されている、ことを特徴とする請求項1記載の気体燃料用インジェクタ。
【請求項3】
前記プランジャは、前記開閉弁の上流側である前記本体の基端側に設けられたスプリングガイドに固定されており、
前記スプリングガイドは、前記プランジャを閉弁方向に付勢する第1コイルばねと、前記プランジャを開弁方向に付勢する第2コイルばねととの間に設置されており、
前記第1コイルばねの付勢力が前記第2コイルばねの付勢力よりも大きく設定されていることで非通電時に前記開閉弁が閉弁されている、ことを特徴とする請求項1記載の気体燃料用インジェクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば水素ガス,LPG,CNGなどの気体燃料により駆動するエンジンが要求する流量の気体燃料を気筒内に直接噴射するための常閉式の気体燃料用インジェクタに関する。
【背景技術】
【0002】
電磁コイルに通電して励磁させることで可動鉄心を吸引して開閉弁を開き、エンジンが要求する流量の燃料を筒内に噴射する電磁駆動式のインジェクタは周知であるが、例えば特表平4-502947号(特許文献1)や特開2018-091290号公報(特許文献2)に記載されているように、ニードルバルブやボールバルブとともに弁構造を形成している弁座部材(シート部材)は、金属素材からなるのが一般的である。
【0003】
しかし、このように金属素材で製作された弁座部材のシート面は、金属製の弁体と密着することによりバルブ内外の気密状態を確保しているところ、金属同士の接触であるために密着性が低いことに加え、経年使用により変形を生じて閉弁時の気密性の低下を招いて、気体燃料の漏出を招きやすくなるという耐久性の問題を有している。
【0004】
そこで、金属製の弁座部材を、所定レベルの弾性変形能を有して密着性に優れた樹脂素材で作成することで弁構造の気密性を高めることも考えられる。ところが、エンジンの気筒内に燃料を直接噴射する方式の特許文献1に記載されているようなインジェクタの場合、燃料噴射孔付近に弁座部材のシート面を有している関係で、その部分が燃料の燃焼による熱負荷を直接的に受けてしまうため、樹脂素材からなる弁座部材(シート面)の耐久性を確保することが困難となりやすい。対策として、例えばポンプを備えて高圧の油圧をシート部に印加することでシールをする方法があるが、ポンプの費用が掛かり高価なシステムとなる。
【0005】
また、特許文献2に記載されているようなインジェクタは、気筒内に開口した燃料噴射孔とシート面との間にある程度の距離を有しており、特許文献1のものと比べてシート面部分に対する熱負荷が小さいようにも見える。しかしながら、シート面を有した弁座部材自体がエンジンの気筒内に挿入された状態で露出していることから、弁座部材が樹脂製である場合には、これが広い面積で熱負荷を受けることになるため、弁座部材全体に劣化・変形を招いて閉弁時の密着性を確保することが困難となってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平4-502947号公報
【特許文献2】特開2018-091290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような問題を解決しようとするものであり、電磁駆動でエンジンの気筒内に気体燃料を直接噴射する常閉式の気体燃料用インジェクタについて、閉弁時の気密性を長期間に亘って確保できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明は、エンジンの気筒内に気体燃料を直接噴射する電磁駆動式の気体燃料用インジェクタであって、
内部に燃料通路を形成した筒状の本体と、前記本体内に配置されて前記燃料通路を開閉する開閉弁と、前記本体内に配置されて通電時に前記開閉弁を開弁するソレノイドと、前記開閉弁の下流側である前記本体の先端部に設けられて、先端に形成した噴射孔が前記気筒内に挿入されるノズルと、を備え、
前記開閉弁は、前記本体および前記ノズルとは別部品であり、前記ソレノイドを構成するプランジャに固定されて共に軸線方向に往復動する弁体と、前記弁体と接触・離隔するシート面およびその中心部を貫通する弁孔を有する樹脂製の弁座部材とからなる、ことを特徴とする。
【0009】
このように、弁座部材を樹脂製にしたことで、樹脂による弾性変形能で弁体との密着性を高めながらその塑性変形を最小限に抑えて閉弁時の気密性を確保しやすいものとなり、且つ、弁孔の下流側に燃料噴射孔を先端に有したノズルを弁座部材とは別部品として設け、その先端側をエンジンの気筒内に挿入した状態でインジェクタが装着される構成としたことで、合成樹脂製の弁座と燃料噴射孔との間に所定の距離を設けながらエンジンの気筒内から弁座部材に伝わる熱負荷を低減することができ、閉弁時の気密性を長期間に亘って確保しやすいものとなる。
【0010】
本発明において、前記弁座部材は、前記ノズルには接しない状態で前記本体の先端部に内装されている、ことを特徴としたものとすれば、エンジンの気筒内で高温になるノズルから伝導される熱負荷を樹脂製の弁座部材が受けにくいものとなる。
【0011】
本発明において、前記プランジャは、前記開閉弁の上流側である前記本体の基端側に設けられたスプリングガイドに固定されており、前記スプリングガイドは、前記プランジャを閉弁方向に付勢する第1コイルばねと、前記プランジャを開弁方向に付勢する第2コイルばねとの間に設置されており、前記第1コイルばねの付勢力が前記第2コイルばねの付勢力よりも大きく設定されている場合、セット長にセットされて戻しばねとして作用する前記第1コイルばねにばらつきがあり一定の荷重にセットできなかったとしても、前記第2コイルばねによってばらついた分の荷重を補正することが可能となるため、前記ソレノイドを精度良く安定して構成することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、閉弁時の気密性を長期間に亘って確保可能な樹脂製の弁座部材を用いた気体燃料用インジェクタを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明である気体燃料用インジェクタの実施の形態における閉弁状態を示す縦断面図。
図2図1に示した実施の形態における開弁状態を示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態を説明する。なお、本明細書において、気体燃料とは例えばLPG,CNG,LNG,水素ガスなどの気体状態でエンジンに供給して燃焼させる燃料のことをいう。
【0015】
図1は本発明である気体燃料用インジェクタの実施の形態における閉弁時の状態を示す縦断面図、図2は気体燃料用インジェクタの開弁時の状態を示す縦断面図である。
【0016】
気体燃料用インジェクタ1は、燃料通路11を形成した筒状の本体10の内部に、前記燃料通路11を開閉する開閉弁20と、通電時に前記開閉弁20を開弁するソレノイド30とを備えているとともに、前記本体10の先端部12において先端41に燃料噴射孔42を形成したノズル40を備えており、所定圧力に減圧・調整した気体燃料をエンジンが要求する流量で供給するための装置である。
【0017】
使用時には、前記ソレノイド30の電磁コイル31に通電してこれを励磁させることで、固定鉄心32がプランジャ33を吸引して、前記開閉弁20を開弁させ、前記燃料噴射孔42からエンジンの気筒内に直接気体燃料を噴射する、電磁駆動式のインジェクタである。
【0018】
前記本体10は、燃料導入口14を有する筒状のインレットボディ13と、弁座部材保持部16を有する筒状のアウトレットボディ15と、からなり、金属などの磁性体により形成されている。また、前記インレットボディ13と前記アウトレットボディ15の内側に、Oリング18,19と組み合わせて使用される位置決めおよびシールのためのカラー部材17を有する。
【0019】
前記開閉弁20は、前記本体10および前記ノズル40とは別部品で形成されており、前記プランジャ33に固定されて共に軸線方向に往復動する弁体21と、前記弁座部材保持部16に保持され、前記弁体21と接触・離隔するシート面23およびその中心部を貫通する弁孔24を有する樹脂製の弁座部材22と、からなる。また、前記弁座部材22の前記弁孔24の中間には、前記弁孔24の両端よりも小径である、流量計量用の絞り部25が形成されている。
【0020】
前記ソレノイド30は、電磁コイル31と、前記電磁コイル31の内方に位置する固定鉄芯32と、前記固定鉄芯32に対向して設けられたプランジャ33(可動鉄芯)と、スプリングガイド34と、第1コイルばね35と、第2コイルばね36と、からなり、前記ソレノイド30を構成する全ての部品は同軸に配置されている。
【0021】
前記固定鉄芯32は、磁性体である前記アウトレットボディ15の一部である円筒状ボス部分により構成されている。
【0022】
前記プランジャ33は、前記開閉弁20の上流側である前記本体10の基端側に設けられた前記スプリングガイド34に固定されており、前記スプリングガイド34は、前記プランジャ33を閉弁方向(図1における上方向)に付勢する前記第1コイルばね35と、前記プランジャ33を開弁方向(図1における下方向)に付勢する第2コイルばね36との間に設置されており、前記第1コイルばね35の付勢力が前記第2コイルばね36の付勢力よりも大きく設定されていることで非通電時に前記開閉弁20が閉弁されている、いわゆる常閉式のインジェクタである。
【0023】
次に、前記ソレノイド30の動作について説明する。前記電磁コイル31に電気的に接続されたコネクタ50を介して前記電磁コイル31に電流が供給されると(通電時)、前記固定鉄芯32が磁界を発生して、前記固定鉄芯32に前記プランジャ33が吸引される。
【0024】
前記電磁コイル31への電流供給が停止すると(非通電時)、前記固定鉄心32の磁界が消失して前記固定鉄芯32への前記プランジャ33の吸引が解除され、前記プランジャ33に固定された前記スプリングガイド34が前記第1コイルばね35の付勢力によって閉弁方向に移動し、前記プランジャ33の移動に伴い前記弁体21が閉弁方向に移動して、前記弁体21と前記シート面23が密着して閉弁する。
【0025】
このとき、前記スプリングガイド34を挟んで配置された前記第1コイルばね35と前記第2コイルばね36を用いることで、セット長にセットされて戻しばねとして作用する前記第1コイルばね35にばらつきがあり一定の荷重にセットできなかったとしても、前記第2コイルばね36によってばらついた分の荷重を補正することが可能となるため、前記ソレノイド30を精度良く安定して構成することができる。
【0026】
このように、前記ソレノイド30の開弁動作により、前記インレットボディ13の前記燃料導入口14から導入された気体燃料は、前記燃料通路11を通り、前記スプリングガイド34に形成された通孔341、前記プランジャ33に形成された通孔331を介して、開弁した前記弁孔24を通過しながら、前記ノズル40の先端41に開口した前記燃料噴射孔42からエンジンの気筒内に直接噴射される。
【0027】
上述したように、従来の気体燃料用インジェクタにおいては、開閉弁を構成している弁座部材と弁体は、金属同士の面接触であるため接触部分の密着性が高くないことに加え、経年使用によりその接触部分に塑性変形を招きやすく耐久性に難点があるため、閉弁時にインジェクタ内外の気密性を確保しにくくなってしまうという問題を有している。
【0028】
そこで、本発明の気体燃料用インジェクタ1では、前記弁座部材20の前記シート面23中央に開口した前記弁孔24を介して気体燃料をエンジンの気筒内に直接噴射する電磁駆動式の気体燃料用インジェクタ1において、前記弁座部材20を樹脂製のものとして、金属製の前記弁体31と樹脂製の前記シート面23とが接触・離隔する組合せにするとともに、前記弁孔24の下流側に、前記弁座部材5とは別部品で先端41に前記燃料噴射孔42が開口した前記ノズル40を設けたものとして、前記ノズル40の先端41側をエンジンの気筒内に挿入するように装着されるという構成を採用したものである。
【0029】
このように、前記シート面23を有する前記弁座部材20の素材として、金属よりも弾性変形能に優れた樹脂を採用したことにより、その弾性変形能により前記弁体21との間の密着性を高めながら、弁構造の接触部分における前記シート面23と前記弁体21の双方の塑性変形を最小限に抑えることができ、閉弁時の高い気密性を長期間に亘って確保しやすいものとしている。
【0030】
また、本発明において、前記アウトレットボディ15の先端部に、前記燃料噴射孔42を有した前記ノズル40を前記弁座部材20とは別部品として設け、前記ノズル40の先端41側をエンジンの気筒内に挿入するように装着される構成を採用するとともに、前記ノズル40は、前記燃料噴射孔42を形成した先端41と、前記アウトレットボディ15の先端部12に接する基端43との間に大きく距離を開けたことで、耐熱性の低い樹脂製の前記弁座部材20及び前記シート面23と前記燃料噴射孔42との間に所定の距離を設けながら、高温になるエンジンの気筒内から伝わる熱により前記弁座部材20が受ける負荷レベルを大きく低減することができ、前記弁座部材20の熱変性・劣化を最小限に抑えて、閉弁時の気密性を一層長期間に亘って確保可能なものとした。
【0031】
さらに、本実施の形態においては、前記弁座部材20が前記ノズル40とは接しない状態で、前記本体10の前記アウトレットボディ15に形成された凹部である前記弁座部材保持部16に内装されている点も特徴を有する。即ち、エンジンの気筒内に挿入されて高温に曝される前記ノズル40は耐熱性に優れた金属で作成することが好ましいところ、熱伝導率の高い金属製の前記ノズル40を介した熱が、樹脂製の前記弁座部材20に対して直接的に伝わりにくい構造を採用している。
【0032】
以上、述べたように、電磁駆動でエンジンの気筒内に気体燃料を直接噴射する常閉式の気体燃料用インジェクタについて、本発明により、閉弁時の気密性を長期間に亘って確保できるようになった。
【符号の説明】
【0033】
1 気体燃料用インジェクタ、10 本体、11 燃料通路、12 先端部、13 インレットボディ、14 燃料導入口、15 アウトレットボディ、16 弁座部材保持部、17 カラー部材、18,19 Oリング、20 開閉弁、21 弁体、22 弁座部材、23 シート面、24 弁孔、25 絞り部、30 ソレノイド、31 電磁コイル、32 固定鉄芯、33 プランジャ、34 スプリングガイド、35 第1コイルばね、36 第2コイルばね、40 ノズル、41 先端、42 燃料噴射孔、43 基端、50 コネクタ、331,341 通孔、C 気筒、E エンジン
図1
図2