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特開2024-175355橋梁リニューアル方法および支援システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175355
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】橋梁リニューアル方法および支援システム
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20241211BHJP
   E01D 21/00 20060101ALI20241211BHJP
   E01D 24/00 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
E01D22/00 Z
E01D21/00
E01D24/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093077
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】515028827
【氏名又は名称】オフィスケイワン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】日暮 一正
(72)【発明者】
【氏名】三田村 健二
(72)【発明者】
【氏名】保田 敬一
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA13
2D059CC07
2D059GG39
2D059GG61
(57)【要約】
【課題】橋梁のリニューアル工事の工期を短縮することができるリニューアル方法および支援システムを提供する。
【解決手段】支援システム10は、橋軸方向に複数の床版が並設された橋梁のリニューアルを支援するシステムである。支援システム10は、既設橋梁を上空から撮像した既設橋梁の路上点群データと既設橋梁の路下を撮像した既設橋梁の路下点群データとを取得し、路上点群データと路下点群データとを合成して既設橋梁の3Dモデルを作成する。支援システム10は、その3Dモデルに基づいて既設桁の形状を特定し、ハンチ形状シミュレーションにより既設桁の形状に応じたハンチ部の形状が決定された新設床版の設計データを作成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋軸方向に複数の床版が並設された橋梁をリニューアルする橋梁リニューアル方法であって、
前記橋梁のリニューアルを支援する支援システムが、
既設橋梁の路上点群データと前記既設橋梁の路下点群データとを取得し、
前記路上点群データと前記路下点群データとを合成して前記既設橋梁の3Dモデルを作成し、
前記3Dモデルに基づいて既設桁の形状を特定し、ハンチ形状シミュレーションにより前記既設桁の形状に応じてハンチ部の形状が決定された新設床版の設計データを作成する
橋梁リニューアル方法。
【請求項2】
前記支援システムが、前記3Dモデルと割付ルールとに基づく割付シミュレーションにより新設床版の割付を行ったのち、前記割付後の新設床版について前記ハンチ形状シミュレーションを行う
請求項1に記載の橋梁リニューアル方法。
【請求項3】
前記支援システムが、前記既設桁に設けられている干渉物との干渉を回避する切り欠き部を前記ハンチ部に形成することを許容し、前記ハンチ部の厚さであるハンチ厚、および、前記ハンチ部と既設桁との間の調整厚を適正範囲に保持しながら前記調整厚が小さくなるように、前記ハンチ形状シミュレーションを行う
請求項1に記載の橋梁リニューアル方法。
【請求項4】
前記新設床版が、プレキャスト工法により製作されるものであり、
前記支援システムが、前記新設床版の製作に必要な型枠が少なくなるように前記ハンチ形状シミュレーションを行う
請求項1~3のいずれか一項に記載の橋梁リニューアル方法。
【請求項5】
橋軸方向に複数の床版が並設された橋梁のリニューアルを支援する支援システムであって、
既設橋梁の路上点群データと前記既設橋梁の路下点群データとを取得し、
前記路上点群データと前記路下点群データとを合成して前記既設橋梁の3Dモデルを作成し、
前記3Dモデルに基づいて既設桁の形状を特定し、ハンチ形状シミュレーションにより前記既設桁の形状に応じてハンチ部の形状が決定された新設床版の設計データを作成する
支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁リニューアル方法および支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
既設の橋梁をリニューアルするリニューアル工事が行われている。リニューアル工事においては、例えば、特許文献1のように、橋軸方向に並設されている床版が交換される。具体的には、まず、橋梁の周辺に足場を組み立てたのち、その足場を利用して橋梁の測量を行う。そして、測量結果と建設時に作成した竣工図とに基づいて、現在の橋梁と竣工図との違いを把握する。次に、竣工図、現在の橋梁と竣工図との違いや割付ルールに基づいて、設計者が実際に設置する新設床版の割付を行うことで新設床版の設計を行う。設計者の設計に基づいて新設床版が製作されたのち、施工現場へと搬入される。施工現場においては、既設床版を除去して既設桁を露出させたのち、搬入された新設床版が設置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-085172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したリニューアル工事は、例えば高速道路であれば通行止めなどの交通規制をした状態で行われることから、現場周辺の道路において交通が混雑したり、渋滞したりする。そのため、交通規制の期間を含め、橋梁のリニューアル工事の工期短縮が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する橋梁リニューアル方法は、橋軸方向に複数の床版が並設された橋梁をリニューアルする橋梁リニューアル方法であって、前記橋梁のリニューアルを支援する支援システムが、既設橋梁の路上点群データと前記既設橋梁の路下点群データとを取得し、前記路上点群データと前記路下点群データとを合成して前記既設橋梁の3Dモデルを作成し、前記3Dモデルに基づいて既設桁の形状を特定し、ハンチ形状シミュレーションにより前記既設桁の形状に応じてハンチ部の形状が決定された新設床版の設計データを作成する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、橋梁のリニューアル工事の工期を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】橋梁リニューアル方法の一実施形態の流れを示すフローチャートである。
図2】支援システムの一実施形態の概略構成を示す図である。
図3】情報処理装置のハードウェア構成例を示す図である。
図4】設計準備工程の流れを示すフローチャートである。
図5】路上点群データの取得方法の一例を模式的に示す図である。
図6】路下点群データの取得方法の一例を模式的に示す図である。
図7】設計工程の流れを示すフローチャートである。
図8】新設床版割付工程の流れを示すフローチャートである。
図9】割付素案の代表図を模式的に示す図である。
図10】断面形状設計工程の流れを示すフローチャートである。
図11】新設床版を模式的に示すとともに形状ルール登録工程において登録される形状ルールの一部を示す図である。
図12】切り欠き部が形成されたハンチ部の形状を模式的に示す図であって、(a)橋軸方向から見たときのハンチ部の形状を模式的に示す図であり、(b)橋軸直角方向から見たときのハンチ部の形状を模式的に示す図である。
図13】新設床版についてのヒートマップの一例を模式的に示す図である。
図14】出来形シミュレーションの様子を模式的に示す図である。
図15】施工支援システムを用いた現場作業の様子を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1図15を参照して、橋梁リニューアル方法およびその支援システムの一実施形態について説明する。なお、本実施形態においては、リニューアル工事において既設床版を交換する場合について説明する。
【0009】
図1に示すように、既設橋梁の既設床版を交換するリニューアル工事においては、設計準備工程(ステップS101)、設計工程(ステップS102)、床版製作工程(ステップS103)、施工準備工程(ステップS104)、施工工程(ステップS105)が行われる。
【0010】
図2に示すように、リニューアル工事を支援する支援システム10は、設計支援システム20、製作支援システム30、および、施工支援システム40を備えている。設計支援システム20は、リニューアル工事を設計する設計者が利用するシステムである。設計支援システム20は、設計支援装置21を備える。製作支援システム30は、床版といった交換対象を製作する製作者が利用するシステムである。製作支援システム30は、製作支援装置31を備える。施工支援システム40は、リニューアル工事を施工する施工者が利用するシステムである。施工支援システム40は、施工支援装置41を備える。これらの支援装置(21,31,41)は、サーバ100を介して相互通信可能に構成されている。すなわち、各支援装置(21,31,41)は、サーバ100にアップロードされた情報を共有可能に構成されている。
【0011】
図3に示すように、各支援装置(21,31,41)の各々は、情報処理装置H10を中心に構成されている。
情報処理装置H10は、通信装置H11、入力装置H12、表示装置H13、記憶装置H14、プロセッサH15を有する。なお、このハードウェア構成は一例であり、他のハードウェアを有していてもよい。
【0012】
通信装置H11は、他の装置との間で通信経路を確立して、データの送受信を実行するインタフェースである。入力装置H12は、操作者からの入力を受け付ける装置であり、例えばマウスやキーボード等である。表示装置H13は、各種情報を表示するディスプレイやタッチパネル等である。記憶装置H14は、各種機能を実行するためのデータや各種プログラムを格納する記憶部である。記憶装置H14の一例としては、ROM、RAM、ハードディスク等がある。
【0013】
プロセッサH15は、記憶装置H14に記憶されるプログラムやデータを用いて、各支援装置における各処理を制御する。プロセッサH15の一例としては、例えばCPUやMPU等がある。このプロセッサH15は、ROM等に記憶されるプログラムをRAMに展開して、各種処理に対応する各種プロセスを実行する。例えば、プロセッサH15は、所定のアプリケーションプログラムが起動された場合、そのプログラムに応じた各処理を実行するプロセスを動作させる。
【0014】
プロセッサH15は、自身が実行するすべての処理についてソフトウェア処理を行うものに限られない。例えば、プロセッサH15は、自身が実行する処理の少なくとも一部についてハードウェア処理を行う専用のハードウェア回路(例えば、特定用途向け集積回路:ASIC)を備えてもよい。すなわち、プロセッサH15は、以下で構成し得る。
【0015】
(1)コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ
(2)各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する1つ以上の専用のハードウェア回路、或いは
(3)それらの組合せ、を含む回路(circuitry)
プロセッサH15は、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0016】
(設計準備工程)
設計準備工程(ステップS101)は、設計支援システム20を利用して行われる。設計準備工程は、既設橋梁を撮像して点群データを取得し、その点群データに基づいて既設橋梁のCIMデータが作成される工程である。既設橋梁の点群データは、既設橋梁を上空から撮像した路上点群データと既設橋梁を下側から撮像した路下点群データとで構成される。既設橋梁の各所には、路上点群データと路下点群データとを合成する際の基準となる標定点が設けられている。
【0017】
図4に示すように、設計準備工程は、路上点群データ取得工程(ステップS201)、路下点群データ取得工程(ステップS202)、および、モデル作成工程(ステップS203)を有している。
【0018】
図5に示すように、路上点群データ取得工程(ステップS201)においては、既設橋梁50の周辺を飛行領域とする無人航空機22に搭載された路上撮像機23を用いて路上点群データが取得される。
【0019】
既設橋梁50の右側部分については、既設橋梁50の右側を飛行する無人航空機22を用いて撮像される。既設橋梁50の左側部分については、既設橋梁50の左側を飛行する無人航空機22を用いて撮像される。路上撮像機23は、無人航空機22が落下しても交通の妨げとならないように、予め定めた既設橋梁50の基準点に対して、斜め45度および斜め60度から撮像されることが好ましい。路上撮像機23は、無人航空機22で既設橋梁50の上空を飛行しながら既設橋梁50を上空から撮像することで路上点群データを取得する。路上点群データは、路上撮像機23が設計支援装置21に接続されることにより、設計支援装置21に入力される。
【0020】
図6に示すように、路下点群データ取得工程(ステップS202)においては、既設桁51に沿って移動する移動ロボット25に搭載された路下撮像機26によって路下点群データが取得される。移動ロボット25は、橋軸直角方向で隣接する一対の既設桁51の下フランジ52に支持されて橋軸方向に移動可能な構成されている。移動ロボット25は、移動機27と架設部材28とを有している。移動機27は、各既設桁51の下フランジ52上を、ウェブ53を挟むように配置されたローラー29が転動することにより、下フランジ52上を橋軸方向に移動する。架設部材28は、既設桁51の下方において移動機27の下端部を連結している。路下撮像機26は、一対の移動機27の中央に配置されるように架設部材28に搭載される。路下撮像機26は、移動ロボット25によって橋軸方向に移動しながら既設橋梁50の路下を撮像することで、その撮像範囲の路下点群データを取得する。路下点群データは、路下撮像機26が設計支援装置21に接続されることにより、設計支援装置21に入力される。こうした路下の撮像を既設橋梁50全体で行うことにより、既設橋梁50全体の路下点群データが取得される。
【0021】
モデル作成工程(ステップS203)においては、設計支援装置21においては、モデル生成処理が実行される。モデル生成処理において、設計支援装置21は、各データに含まれている標定点に基づいて路上点群データと路下点群データとを合成し、既設橋梁50を再現する3DモデルデータであるCIM(Construction Information Modeling)データを作成する。このCIMデータは、既設桁51について、新設床版のハンチ部と干渉する可能性のある干渉物を含んだ形状が特定されているものである。
【0022】
このように、既設橋梁50のCIMデータを作成可能な路上点群データと路下点群テータとが上述した方法で取得されることにより、既設橋梁50に通じる道路を規制することなく既設橋梁50の測量を行うことができる。なお、路上点群データ取得工程(ステップS201)と路下点群データ取得工程(ステップS202)は、並行して行われてもよいし、路下点群データ取得工程(ステップS202)が先行して行われてもよい。
【0023】
(設計工程)
設計工程(ステップS102)は、設計支援システム20を利用して行われる。設計工程は、CIMデータに基づいて、既設桁51に設置する新設床版を設計する工程である。なお、新設床版は、PCa(Precast Concrate)工法によって製作される。
【0024】
図7に示すように、設計工程においては、新設床版割付工程(ステップS301)と断面形状設計工程(ステップS302)とが行われたのち、それらの結果に基づく新設床版の設計データが作成される設計データ作成工程(ステップS303)が行われる。
【0025】
(新設床版割付工程)
図8に示すように、新設床版割付工程(ステップS301)においては、まず、割付ルール設定工程が行われる(ステップS401)。割付ルール設定工程において、設計者は、設計支援装置21を操作して各種情報を入力する。設計者は、基本的に、新設床版の種類が少なくなるように、すなわち形状違いの新設床版が少なくなるように割付ルールを設定する。また、設計者は、新設床版が設置される全体の範囲、使用材料や鉄筋の配置、橋軸方向における新設床版の標準ピッチといった基本設計事項のほか、新設床版のハンチ部と干渉する可能性のある干渉物の位置や新設床版の継ぎ手部分の非配置領域などを割付ルールとして設定する。
【0026】
次に、割付シミュレーション(ステップS402)が行われる。割付シミュレーションにおいては、設計支援装置21により新設床版の割付に関するシミュレーションが実行される。割付シミュレーションは、設計者が設計支援装置21に対して所定の開始操作を行うことにより開始される。
【0027】
割付シミュレーションにおいて、設計支援装置21は、CIMデータと割付ルールとに基づくシミュレーションを行うことにより、既設桁51に設置する新設床版の割付を行う。そして、設計支援装置21は、割付シミュレーションの結果である割付素案を示す割付素案データを作成する。割付素案データは、既設桁51とともに、既設桁51に対して新設床版が設置された状態の上面図を表示可能なデータである。また、割付素案データは、既設桁51に設けられた添接板など、新設床版のハンチ部と干渉する可能性のある干渉物の位置を含むデータである。
【0028】
図9に示すように、設計支援装置21の表示装置H13には、既設桁51に対して新設床版55が設置された状態の上面図が割付素案として表示される。また、新設床版55が形状ごとに色分けして表示される。なお、図9においては、新設床版55として、形状の異なる新設床版55a,55b,55c,55dが割り付けられており、その色の違いをドットの違いで示している。
【0029】
割付シミュレーションが終了すると、チェック工程が行われる(ステップS403)。チェック工程において、設計者は、割付素案のチェックを行う。割付素案のチェックにおいて、設計者は、割付素案データに基づいて、割付素案に不都合点の有無を確認する(ステップS404)。具体的には、設計者は、隣接床版同士の鉄筋干渉、床版と干渉物との位置関係、床版と壁高欄の固定金物との位置関係などを確認する。
【0030】
不都合点がある場合(ステップS404:NO)、設計者は、割付ルールを修正して設定したのち(ステップS401)、設計支援装置21に再び割付シミュレーションを実行させる(ステップS402)。一方、不都合点がない場合(ステップS404:YES)、新設床版割付工程が終了する。
【0031】
(断面形状設計工程)
断面形状設計工程(ステップS302)は、干渉物とハンチ部との干渉を回避するように各新設床版の断面形状が設計される工程である。
【0032】
図10に示すように、断面形状設計工程においては、まず、形状ルール登録工程が行われる(ステップS501)。形状ルール登録工程において、設計者は、設計支援装置21を操作し、ハンチ部を含めた各新設床版の断面形状についての基本設計事項を形状ルールとして登録する。
【0033】
例えば、図11に示すように、設計者は、各新設床版55の形状ルールとして、床版厚さts、勾配i、計画高H、ハンチ部58の底面幅W1や斜面幅W2を登録する。また、設計者は、ハンチ厚thの適正範囲を示す最大ハンチ厚および最小ハンチ厚、既設桁51の上フランジ54とハンチ部58の底面との間の調整厚tmの適正範囲を示す最大調整厚および最小調整厚を登録する。調整厚tmは、既設桁51の上フランジ54と新設床版55とを一体化するシールスポンジとモルタルとが配設される部分の厚さである。また、干渉物として添接板61が固定金物62によって既設桁51に固定されている場合、過去のデータなどに基づいて固定金物62の高さを登録する。また、設計者は、添接板61や固定金物62などの干渉物との干渉を回避する際に必要となる回避幅を登録する。
【0034】
次に、間詰幅入力工程(ステップS502)が行われる。間詰幅入力工程において、設計者は、設計支援装置21を操作し、隣接する新設床版55の間の間詰幅を入力する。
次に、ハンチ形状シミュレーションが行われる(ステップS503)。ハンチ形状シミュレーションは、設計者が設計支援装置21に対して所定の開始操作を行うことにより開始される。ハンチ形状シミュレーションにおいて、設計支援装置21は、割付素案データ、形状ルール、および、間詰幅に基づいて、形状の異なる各新設床版55について、添接板61および固定金物62との干渉が回避可能となるハンチ部58の形状を選定する。
また、ハンチ形状シミュレーションにおいて、設計支援装置21は、新設床版をPCa工法で製作する際に必要となる型枠が少なくなるようにハンチ部58の形状を選定する。例えば、図9に示すように新設床版55として複数の新設床版55aが割り付けられた場合、それら複数の新設床版55aが1つの型枠で製作可能となるようにハンチ部58の形状を選定する。
【0035】
より具体的には、設計支援装置21は、下記の条件(a)(b)(c)のもとでハンチ部58の形状を選定する。
(a)ハンチ厚thおよび調整厚tmを適正範囲に保持すること。
(b)調整厚tmをなるべく小さくすること。
(c)添接板61および固定金物62にハンチ部58が干渉する可能性がある新設床版55については、ハンチ部58に切り欠き部を設けてもよいこと。
【0036】
図12(a)および図12(b)に示すように、切り欠き部59は、添接板61および固定金物62との干渉を回避するためにハンチ部58に形成される。切り欠き部59は、添接板61および固定金物62と干渉する可能性のない新設床版(ベース床版)をベースに形成される。切り欠き部59は、製作後のベース床版の一部を削り取ることにより形成されてもよいし、ベース床版を製作する型枠内に鉄板などの切り欠き形成材が配設されることにより形成されてもよい。
【0037】
ハンチ形状シミュレーションの結果、ハンチ部58に切り欠き部59を設けても条件(a)を満たす形状を設計支援装置21が選定できなかった場合(ステップS504:NO)、設計者は、嵩上げした計画高Hを各新設床版55の形状ルールとして登録したのち(ステップS505)、設計支援装置21に再びハンチ形状シミュレーションを行わせる。一方、上記条件(a)を満たす形状が選定できた場合(ステップS504:YES)、設計支援装置21は、新設床版55の形状を示す形状データを作成する形状データ作成工程(ステップS506)を行う。この形状データは、新設床版55のベース床版を示す3Dモデルデータのほか、切り欠き部59を有する新設床版55を示す3Dモデルデータを含むデータである。
【0038】
設計データ作成工程(ステップS303)において、設計支援装置21は、設計データを作成する。設計データは、割付素案データおよび形状データに基づいて作成される。設計データは、各新設床版の3Dモデルデータに加えて、各新設床版の識別情報、設置位置を示す設計座標、使用材料、鉄筋の配置、および、設置位置の確認時などに使用する基準マークの形状や位置などが規定されたデータである。設計データが作成されると、設計支援装置21は、設計者の共有操作に基づいて、設計データをサーバ100にアップロードする。サーバ100は、設計データのアップロードを製作支援装置31に通知する。
【0039】
このようにして設計データが作成されることにより、設計工程に要する時間を大幅に短縮することができる。また、サーバ100に設計データがアップロードされることにより、設計者と製作者との間で設計データの共有が可能となる。
【0040】
(床版製作工程)
床版製作工程(ステップS103)は、製作支援システム30を利用して行われる。床版製作工程は、設計データに基づいて新設床版が製作される工程である。
【0041】
製作者は、進捗状況や使用材料などといった各新設床版の製作情報を製作支援装置31に入力する。製作支援装置31は、入力された製作情報をサーバ100にアップロードする。また、製作現場には、製作過程を撮像可能なカメラ32(図1参照)が設置されていてもよい。このカメラ32は、製作支援装置31に接続されている。製作支援装置31は、カメラ32が撮像した撮像データをサーバ100に随時アップロードする。これにより、設計支援装置21を用いてサーバ100にアクセスすることにより、設計者が製作情報や製作現場の現在の状況を把握することができる。
【0042】
製作者は、3Dスキャナなどの計測器33(図1参照)を用いて、完成後の各新設床版を三次元計測する。製作者は、計測対象となった新設床版の識別情報と三次元計測の結果を示す実測データとを製作支援装置31に入力する。製作支援装置31は、識別情報に対して、実測データに基づく新設床版の3Dモデルのほか、設計データに基づく形状と実測データに基づく形状とを比較した結果を示す出来形誤差などを関連付けた品質記録データを作成する。品質記録データは、出来形誤差をヒートマップ表示可能なデータである。製作支援装置31は、作成した品質記録データをサーバ100にアップロードする。サーバ100は、品質記録データのアップロードを設計支援装置21に通知する。なお、完成した各新設床版には、所定位置に識別情報が表記される。
【0043】
(施工準備工程)
施工準備工程(ステップS104)は、設計支援システム20を利用して行われる。
施工準備工程において、設計者は、設計支援装置21を用いてサーバ100にアクセスすることにより、品質記録データに基づいて、施工現場に搬入される新設床版の品質を確認する。
【0044】
図13に示すように、設計支援装置21は、品質記録データに基づいて、新設床版55をヒートマップ表示する。この表示に基づいて、設計者は、各新設床版55の出来形誤差や規格値からの逸脱などを事前確認する。
【0045】
新設床版の出来形誤差がヒートマップ表示されることにより、各新設床版の特異点を設計者が容易に把握することができる。また、設計者は、出来形誤差が大きい新設床版が多い場合などに、新設床版の製作情報のほか、カメラ32の撮像画像などで作業内容を確認することで、製作者に対して品質改善指導などを行う。
【0046】
図14に示すように、品質確認後、設計支援装置21は、各新設床版の品質記録データを用いた出来形シミュレーションを行う。出来形シミュレーションにおいて、設計支援装置21は、品質記録データに基づく新設床版55の3Dモデルを既設桁51上に順番に設置する。設計者は、出来形シミュレーションの結果に基づいて、道路付帯物等との干渉や設置時の累積誤差、隣接する新設床版55との相関誤差、隣接構造物との干渉などを確認する。また、設計者は、設計支援装置21を用いて、出来形シミュレーションの結果に基づいて新設床版の設計座標を修正する施工前修正シミュレーションを行うことで設計データを更新する。
【0047】
このように、品質記録データに基づく出来形シミュレーションを行うことによって、出来形誤差に起因した施工時の不具合を事前に回避することができる。また、新設床版の品質が事前に把握できることにより、製作者に対して設計者が品質改善指導などを行うことができる。
【0048】
(施工工程)
施工工程(ステップS105)は、施工者が実際に新設床版を順番に設置していく工程である。施工者は、クレーンなどの揚重装置で新設床版を揚重して、各新設床版を各々の設置位置に順番に設置する。施工者は、施工支援システム40を用いて、揚重中の新設床版の位置を確認しながら新設床版を設置する。なお、施工者とは、新設床版の設置作業に関わる者のことをいう。
【0049】
図15に示すように、施工支援システム40は、施工支援装置41と撮像機42とを備えている。施工支援装置41と撮像機42は、相互通信可能に構成されている。施工支援装置41は、施工者が携帯可能な携帯機であることが好ましく、少なくとも施工者が携帯可能な表示装置H13を備えていることが好ましい。
【0050】
施工工程において、施工者は、新設床版55の設置位置が撮像範囲に含まれるように撮像機42を設置する。撮像機42の設置後、施工者は、その撮像機42の位置を示す撮像座標を施工支援装置41に入力する。また、施工者は、設計データに基づいて、これから設置する新設床版55の識別情報を施工支援装置41に入力する。
【0051】
撮像座標や識別情報を入力した施工者は、揚重中の新設床版55が設置位置付近まで運ばれると、撮像機42による撮像を開始する。撮像機42は、撮像した画像データを施工支援装置41に随時送信する。
【0052】
施工支援装置41は、撮像機42が送信した画像データを画像処理することにより、その画像データに含まれる新設床版55の基準マーク60に基づいて、撮像機42に対する新設床版55の相対座標を取得する。そして、施工支援装置41は、その相対座標と撮像座標とに基づいて新設床版55の現在位置座標を取得したのち、設計座標と現在位置座標とを含む画像を表示装置H13に表示する。図15の表示装置H13には、設計座標と現在位置座標とを含む画像の表示例を示している。施工支援装置41は、設計座標を中心とした水平座標系に現在位置座標を示す画像を表示する。施工者は、こうした画像に基づいて新設床版55の位置調整を行い、新設床版55を設置する。
【0053】
新設床版55の設置後、施工者によって設置完了入力が行われると、施工支援装置41は、その新設床版55が実際に設置された位置を示す設置座標を設計支援システム20に送信する。設計支援装置21は、新設床版55の設置座標を設置座標データとしてサーバ100に保存する。
【0054】
設置座標データが保存されると、設計支援装置21は、設置座標データと設計データとに基づいて、次回以降に設置される新設床版55の設計座標を修正する施工時修正シミュレーションを行う。施工者は、修正後の設計座標に基づいて、次回以降の新設床版55の設置を行う。このようにして新設床版55が順番に設置される。
【0055】
全ての新設床版55が設置されて、設計者によって完了入力が行われると、設計データに対して各新設床版55の品質記録データや設置座標データなどを加えた施工データが作成される。施工データは、工事完了時に工事発注者へ提出され、橋梁の維持管理に活用される。
【0056】
本実施形態の作用および効果について説明する。
(1)上記実施形態によれば、無人航空機22を用いて取得された路上点群データと移動ロボット25を用いて取得された路下点群データとに基づいて、既設橋梁50を再現可能なCIMデータが作成される。これにより、既設橋梁50に通じる道路を規制することなく既設橋梁50の測量を行うことができる。また、新設床版55のハンチ部58の形状は、設計支援装置21が行うハンチ形状シミュレーションにより決定される。これにより、ハンチ部58の設計に要する時間が短縮されるとともに、設置位置に合わせて各新設床版55のハンチ部58の形状が決定されることで実際の施工時に不具合が生じにくくなる。その結果、リニューアル工事の工期を短縮することができる。
【0057】
(2)上記実施形態によれば、CIMデータに基づく割付シミュレーションによって、既設桁51に新設床版55が割り付けられる。これにより、新設床版55の設計に要する時間が短縮されるため、リニューアル工事の工期を短縮することができる。また、ハンチ形状シミュレーションにおいては、その割り付けられた新設床版55を製作する際に必要とされる型枠が少なくなるように新設床版55のハンチ部58が設計される。これにより、新設床版の製作コストを低減することができる。
【0058】
(3)ハンチ形状シミュレーションにおいては、ハンチ厚および調整厚が適正範囲に保持されることを条件に、干渉物との干渉を回避する切り欠き部59の形成が許容される。これにより、新設床版55を製作する際に必要とされる型枠を効果的に少なくすることができる。その結果、新設床版の製作コストのさらなる低減を実現することができる。
【0059】
(4)上記実施形態によれば、製作者が製作した新設床版55の出来形誤差を設計者が事前に把握することができる。その結果、実際の施工時に出来形誤差に起因した不具合が生じにくくなることから、リニューアル工事の工期を短縮することができる。
【0060】
(5)また、設計支援装置21において新設床版55の出来形誤差がヒートマップ表示されることで、各新設床版55の特異点を設計者が容易に把握することができる。これにより、出来形誤差に対する対処法を検討する時間を短縮することができる。
【0061】
(6)上記実施形態においては、CIMデータと実測データとに基づいて、既設桁51に新設床版55を設置する出来形シミュレーションが行われる。これにより、道路付帯物との干渉や設置時の累積誤差、隣接部材との相関誤差、隣接構造物との干渉等を高い信頼度のもとで確認することができる。また、設置困難な新設床版55については、施工前に作り直すこともできる。その結果、実際の施工時に出来形誤差に起因した不具合がさらに生じにくくなる。
【0062】
(7)上記実施形態においては、施工支援システム40の表示装置H13に表示された設計座標と現在位置座標とに基づいて新設床版55が設置される。これにより、新設床版55の設置に要する時間が短縮されるとともに新設床版55を高い位置精度のもとで設置することができる。また、位置計測などのために、施工者が、揚重中の新設床版55に近づく必要もないため、施工者の安全も確保することができる。
【0063】
(8)上記実施形態によれば、設置済みの新設床版55の設置座標に基づいて、これから設置する新設床版55の設計座標の座標管理を行うことができる。その結果、実際の施工時にさらに不具合が生じにくくなる。
【0064】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態においては、橋梁リニューアル方法および支援システムについて、床版のリニューアルを用いて説明した。これに限らず、橋梁リニューアル方法および支援システムは、例えば床版の端部に沿うように設置される壁高欄など、リニューアルの対象となるリニューアル対象部材に適用してもよい。
【0065】
・上記実施形態において、新設床版55の設置位置の調整は、撮像機42を用いた方法に限られない。例えば、施工者の目視などに基づいて行われてもよい。
・上記実施形態においては、出来形シミュレーションを行ったうえで新設床版55を設置した。これに限らず、出来形シミュレーションを行うことなく新設床版55を設置してもよい。
【0066】
・上記実施形態においては、実測データに基づいて、新設床版55をヒートマップ表示した。これに限らず、実測データは、新設床版55の形状が把握できるものであればよく、必ずしもヒートマップ表示させる必要はない。
【0067】
・上記実施形態において、設置位置ごとに各新設床版55のハンチ形状シミュレーションを行ってもよい。
・上記実施形態において、設計支援装置21は、ハンチ部58に切り欠き部59が形成されることを許容してハンチ形状シミュレーションを行った。これに限らず、設計支援装置21は、ハンチ部58に切り欠き部59が形成されることを許容することなくハンチ形状シミュレーションを行ってもよい。
【0068】
・上記実施形態において、設計支援装置21は、割付シミュレーションを行ったのち、割付後の新設床版についてハンチ形状シミュレーションを行った。これに限らず、設計支援装置21は、例えば、設計者が割り付けた新設床版についてハンチ形状シミュレーションを行ってもよい。
【0069】
・上記実施形態においては、無人航空機22に搭載した路上撮像機23を用いて路上点群データを取得した。これに限らず、路上点群データは、例えば、既設橋梁50近辺に設置されて既設橋梁50の路上を撮像可能な撮像機を用いて取得されてもよい。また、路上点群データは、無人航空機22に搭載したレーザー計測器を用いて取得されてもよいし、既設橋梁50付近に設置されたレーザー計測器を用いて取得されてもよい。さらに、路上点群データは、撮像機による撮像結果とレーザー計測器による計測結果とに基づいて取得されてもよい。
【0070】
・上記実施形態においては、移動ロボット25に搭載した路下撮像機26を用いて路下点群データを取得した。これに限らず、路下点群データは、例えば、無人航空機に搭載した撮像機を用いて取得されてもよい。また、路下点群データは、無人航空機に搭載したレーザー計測器を用いて取得されてもよいし、既設橋梁50付近に設置されたレーザー計測器を用いて取得されてもよい。さらに、路下点群データは、撮像機による撮像結果とレーザー計測器による計測結果とに基づいて取得されてもよい。
【0071】
・上記実施形態においては、ハンチ部58と干渉する可能性のある干渉物として添接板61および固定金物62を例示した。これに限らず、干渉物は、ハンチ部58と干渉する可能性があるものであればよく、例えば排水桝などであってもよい。
【符号の説明】
【0072】
10…支援システム、20…設計支援システム、21…設計支援装置、22…無人航空機、23…路上撮像機、25…移動ロボット、26…路下撮像機、27…移動機、28…架設部材、29…ローラー、30…製作支援システム、31…製作支援装置、32…カメラ、33…計測器、40…施工支援システム、41…施工支援装置、42…撮像機、50…既設橋梁、51…既設桁、52…下フランジ、53…ウェブ、55…新設床版、58…ハンチ部、59…切り欠き部、60…基準マーク、61…添接板、62…固定金物、100…サーバ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
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