特開 2024-175357 ビスコースの製造方法

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】公開特許公報(A)

(11)【公開番号】P2024175357

(43)【公開日】2024-12-18

(54)【発明の名称】ビスコースの製造方法

(51)【国際特許分類】

   C08B 9/00 20060101AFI20241211BHJP

【ＦＩ】

C08B9/00

【審査請求】未請求

【請求項の数】9

【出願形態】ＯＬ

(21)【出願番号】P 2023093081

(22)【出願日】2023-06-06

(71)【出願人】

【識別番号】000115980

【氏名又は名称】レンゴー株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】100145403

【弁理士】

【氏名又は名称】山尾 憲人

(74)【代理人】

【識別番号】100122297

【弁理士】

【氏名又は名称】西下 正石

(72)【発明者】

【氏名】石川 竣平

(72)【発明者】

【氏名】築田 憲明

【テーマコード（参考）】

4C090

【Ｆターム（参考）】

4C090AA05

4C090BA32

4C090CA28

4C090DA28

4C090DA31

(57)【要約】

【課題】温和な温度条件のために操作が簡便で、二硫化炭素の使用量が少ないために安全性が高く、セルロース濃度が高いために高強度のセルロース成形体を得ることができる、実用性に優れたビスコースの製造方法を提供すること。
【解決手段】再生セルロースをアルカリと二硫化炭素と反応させた再生ビスコースに、天然セルロースを原料とするセルロースザンテートを添加することを含むビスコースの製造方法であって、該再生ビスコースは０．５～６質量％のセルロース濃度、５～１２質量％のアルカリ濃度で、セルロースを基準にして１～３０質量％の二硫化炭素を添加し、－１０～３０℃の液温で反応させたものである、ビスコースの製造方法。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】

【請求項1】

再生セルロースをアルカリと二硫化炭素と反応させた再生ビスコースに、天然セルロースを原料とするセルロースザンテートを添加することを含むビスコースの製造方法であって、
該再生ビスコースは０．５～６質量％のセルロース濃度、５～１２質量％のアルカリ濃度で、セルロースを基準にして１～３０質量％の二硫化炭素を添加して、－１０～３０℃の液温で反応させたものである、ビスコースの製造方法。

【請求項2】

前記再生ビスコースは、再生セルロースに水酸化ナトリウム水溶液を加えてそのセルロースをマーセル化すること、及び得られるアルカリセルロースに二硫化炭素を加えて硫化及び溶解させることを含む方法により得られるものである、請求項１に記載のビスコースの製造方法。

【請求項3】

前記セルロースザンテートは、天然セルロースに水酸化ナトリウム水溶液を加えてそのセルロースをマーセル化すること、及び得られるアルカリセルロースに二硫化炭素を加えて硫化することを含む方法により得られるものである、請求項１に記載のビスコースの製造方法。

【請求項4】

前記再生ビスコースは０～２０℃の液温でアルカリセルロースを硫化及び溶解させる、請求項１～３のいずれか一項に記載のビスコースの製造方法。

【請求項5】

前記再生ビスコースは２～４質量％のセルロース濃度を有する、請求項１～３のいずれか一項に記載のビスコースの製造方法。

【請求項6】

前記再生ビスコースは、セルロースを基準にして２５質量％以下の二硫化炭素を加えてアルカリセルロースを硫化及び溶解させたものである、請求項１～３のいずれか一項に記載のビスコースの製造方法。

【請求項7】

前記ビスコースは５質量％以上のセルロース濃度を有する、請求項１～３のいずれか一項に記載のビスコースの製造方法。

【請求項8】

前記ビスコースは、セルロースを基準にして４０質量％以下の二硫化炭素を加えてアルカリセルロースを硫化及び溶解させたものである、請求項１～３のいずれか一項に記載のビスコースの製造方法。

【請求項9】

前記ビスコースは、セルロースを基準にして１～３０質量％の再生セルロース含有量を有する、請求項１～３のいずれか一項に記載のビスコースの製造方法。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、ビスコースの製造方法に関し、特に原料として再生セルロースを使用するビスコースの製造方法に関する。

【背景技術】

【0002】

セロファン、レーヨン及びビーズ等のセルロース製品を製造する際には端材及び規格外品などの副産物が発生する。一方、セルロースは熱可塑性を有さず、汎用の溶媒に溶解しないために、原料としてセルロース製品を使用し、ビスコース等のセルロース溶液を調製して再利用するには、煩雑な作業工程及び高いコストが必要になる。

【0003】

特許文献１には、セルロースとしてのリンターを銅アンモニア液に溶解し、希硫酸で再生した繊維を低温のアルカリ水溶液に浸漬してアルカリセルロースとし（マーセル化）、続いて低温に保ちながら二硫化炭素を添加することでセルロースをセルロースザンテートに変換してアルカリ水溶液に溶解し、成形に適したビスコースを得る方法が記載されている。

【0004】

特許文献２には、２６～２８℃という高温環境下で、乳化剤を含む水酸化ナトリウム水溶液に二硫化炭素を添加し、次いで、セロファンやレーヨンなどの再生セルローススクラップを溶解させることでスクラップビスコースを調製すること、及びこれを通常の木材パルプ等から調製したビスコースと混合して、セルロース成形体を製造するためのビスコースを得ることが記載されている。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0005】

【特許文献1】特開昭６１－２５２２４３号公報

【特許文献2】米国特許第４，１４５，５３３号

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0006】

セルロースは高温環境下では溶解性が低いため、特許文献１の方法では、反応混合物を低温に維持して溶解する手段が採られている。しかしながら、アルカリセルロースの状態では、低温になるほど膨潤が著しくなって分散液が増粘し、流動性が低下して撹拌不良や冷却効率の低下等が起きる。かかる場合、アルカリセルロースと二硫化炭素との反応を進行させるためにはセルロース濃度を低下させるしかなく、そうした低セルロース濃度のビスコースでは強度物性の低い成形体しか得られず、実用性に劣るという問題がある。

【0007】

一方、特許文献２の方法では、スクラップビスコースのセルロース濃度は３～５質量％と低く、またセロファンなどのセルロース成形体を製造する工業用ビスコース（セルロース濃度：約１０質量％、アルカリ濃度：約６質量％）とは、アルカリ濃度や粘度の差が大きいため、均一に混合するのに時間がかかり、利用し難い。また、スクラップビスコースはセルロース質量当たり少なくとも３８質量％の二硫化炭素を添加する必要があり、二硫化炭素は人体に有毒であるため、安全性が低いという問題がある。

【0008】

本発明は前記課題を解決するものであり、その目的とするところは、温和な温度条件のために操作が簡便で、二硫化炭素の使用量が少ないために安全性が高く、セルロース濃度が高いために高強度のセルロース成形体を得ることができる、実用性に優れたビスコースの製造方法を提供することにある。

【課題を解決するための手段】

【0009】

本発明は以下の態様を提供する。
［態様１］再生セルロースをアルカリと二硫化炭素と反応させた再生ビスコースに、天然セルロースを原料とするセルロースザンテートを添加することを含むビスコースの製造方法であって、
該再生ビスコースは０．５～６質量％のセルロース濃度、５～１２質量％のアルカリ濃度で、セルロースを基準にして１～３０質量％の二硫化炭素を添加して、－１０～３０℃の液温で反応させたものである、ビスコースの製造方法。

【0010】

［態様２］前記再生ビスコースは、再生セルロースに水酸化ナトリウム水溶液を加えてそのセルロースをマーセル化すること、及び得られるアルカリセルロースに二硫化炭素を加えて硫化及び溶解させることを含む方法により得られるものである、態様１のビスコースの製造方法。

【0011】

［態様３］前記セルロースザンテートは、天然セルロースに水酸化ナトリウム水溶液を加えてそのセルロースをマーセル化すること、及び得られるアルカリセルロースに二硫化炭素を加えて硫化することを含む方法により得られるものである、態様１又は２のビスコースの製造方法。

【0012】

［態様４］前記再生ビスコースは０～２０℃の液温でアルカリセルロースを硫化及び溶解させる、態様１～３のいずれかのビスコースの製造方法。

【0013】

［態様５］前記再生ビスコースは２～４質量％のセルロース濃度を有する、態様１～４のいずれかのビスコースの製造方法。

【0014】

［態様６］前記再生ビスコースは、セルロースを基準にして２５質量％以下の二硫化炭素を加えてアルカリセルロースを硫化及び溶解させたものである、態様１～５のいずれかのビスコースの製造方法。

【0015】

［態様７］前記ビスコースは５質量％以上のセルロース濃度を有する、態様１～６のいずれかのビスコースの製造方法。

【0016】

［態様８］前記ビスコースは、セルロースを基準にして４０質量％以下の二硫化炭素を加えてアルカリセルロースを硫化及び溶解させたものである、態様１～７のいずれかのビスコースの製造方法。

【0017】

［態様９］前記ビスコースは、セルロースを基準にして１～３０質量％の再生セルロース含有量を有する、態様１～８のいずれかのビスコースの製造方法。

【発明の効果】

【0018】

本発明によれば、温和な温度条件のために操作が簡便で、二硫化炭素の使用量が少ないために安全性が高く、セルロース濃度が高いために高強度のセルロース成形体を得ることができる、実用性に優れたビスコースの製造方法が提供される。

【発明を実施するための形態】

【0019】

以下、本発明の一実施形態について詳細に説明するが、本発明の範囲はここで説明する一実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができる。また、特定のパラメータについて、複数の上限値及び下限値が記載されている場合、これらの上限値及び下限値の内、任意の上限値と下限値とを組合せて好適な数値範囲とすることができる。

【0020】

本発明のビスコースの製造方法は、原料として再生セルロースを使用して再生ビスコースを製造し、これに天然セルロースを原料とするセルロースザンテートを添加及び溶解することを含むものである。

【0021】

＜再生ビスコースの製造＞
まず、中間材料として使用する再生ビスコースを製造する方法を説明する。

【0022】

原料として使用する再生セルロースは、主に天然セルロースを従来公知のビスコース法や銅アンモニア法により液化した後に、所定の形状に凝固して成形したセルロースをいう。再生セルロースには、セルロース成形物、セルロース成形物を裁断等して製造されたセルロース製品、セルロース成形物を製造する際の副産物等が含まれる。再生セルロースの具体例としては、セロファン、レーヨン及びビーズ等のセルロース成形物を製品化する際に発生する端材、規格外品、不良品、及びセルロース製品の廃棄物等が挙げられる。さらに、天然セルロースの代わりに、再生セルロースを原料として再利用することもできる。

【0023】

再生セルロースの原料に用いられる天然セルロースとしては、特に限定されず、例えば、木材、綿、わら、竹、ケナフなどのバイオマス由来や古紙、紙粉などの紙由来のパルプが挙げられる。また、その製造方法も特に限定されず、機械的方法、化学的方法、あるいはその中間で二つを組み合せた方法でもよい。パルプの品位としては、製紙用パルプの他に、主として薬品に溶解して使用されて人造繊維、セロファンなどの原料となる、化学的に精製された溶解パルプが好ましい。

【0024】

再生セルロースは、アルカリ水溶液に接触させて反応させ、これに含まれるセルロースをアルカリセルロースに変換する。この工程は、一般にマーセル化と呼ばれる。マーセル化によってセルロースは膨潤し、アルカリセルロースを硫化する際の反応効率が向上する。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等の強アルカリ化合物を使用することができる。

【0025】

使用するアルカリ水溶液のアルカリ濃度は、原料として用いた再生セルロースの水分に応じて調節されるが、得られる再生ビスコース中のアルカリ濃度として５～１２質量％、好ましくは６～１１質量％、より好ましくは７～１０質量％となるように調節する。

【0026】

マーセル化に供する再生セルロースの量は、得られる再生ビスコース中の再生セルロース濃度が０．５～６質量％、好ましくは１～５質量％、より好ましくは２～４質量％となるように調節する。再生ビスコース中のアルカリ濃度及びセルロース濃度を前記範囲に調節することで、再生ビスコース中の再生セルロースの溶解性が向上する。

【0027】

本明細書でいう再生ビスコース中のセルロースの溶解性は、再生ビスコースを目視観察して、粒子やゲルが浮遊したり、沈殿したりしていないことで判断する。再生ビスコースに不溶物が含まれていないか、含まれていたとしてもセルロース成形体の性能に影響しない程度に少量である場合は「溶解性に優れる」と表現し、再生ビスコースに含まれている不溶物が、セルロース成形体の性能に悪影響を与える程度に多量である場合は「溶解性に劣る」と表現する。

【0028】

次いで、アルカリ水溶液と再生セルロースとを混合及び撹拌する。混合及び撹拌は、撹拌装置を使用して行うことができる。撹拌装置は撹拌槽を有し、撹拌槽の周囲に温度調節することが可能な温度調節ジャケットを有するものが好ましい。反応温度を精度よく調節するため、マーセル化において、反応中は撹拌槽内全体をかき混ぜることで再生セルロースをアルカリ水溶液に混合した分散液の温度を均一化することがさらに好ましい。

【0029】

再生セルロースのマーセル化は、０～３０℃、好ましくは５～２５℃、より好ましくは１０～２０℃の温度にて行う。マーセル化時の温度が０℃未満であると液温を低温に維持するために手間及びエネルギーを要し、３０℃を超えると硫化に適した温度に冷却するために、手間及び時間を要することになる。マーセル化の反応時間は、通常５分～２時間、好ましくは１０分～１．５時間、より好ましくは２０分～１時間の範囲である。

【0030】

再生セルロースのマーセル化で生成したアルカリセルロースは、二硫化炭素に接触させて反応させ、セルロースザンテート（以下、再生セルロースザンテートということがある。）に変換する。この工程は、一般に硫化と呼ばれる。硫化は、マーセル化後のアルカリセルロース分散液に、二硫化炭素を加えて混合及び撹拌することで行うことができる。また、再生セルロースとアルカリ水溶液と二硫化炭素を一度に混合して、マーセル化と硫化及び溶解を同時に行うこともできる。

【0031】

再生セルロースとアルカリ水溶液と二硫化炭素とを含む混合物について、セルロース濃度及びアルカリ化合物の濃度は、新たに調整する必要のない限り、マーセル化の後に添加される二硫化炭素で希釈された値となる。前記混合物における二硫化炭素添加量はセルロースの質量に対して１～３０質量％、好ましくは５～２９質量％、より好ましくは１０～２８質量％に調節する。二硫化炭素添加量が１質量％未満であるとアルカリセルロースとの反応が不十分となり、３０質量％を超えると二硫化炭素との副反応が増加したり、未反応の二硫化炭素が残存したりして安全性が低下するおそれがある。

【0032】

このときの混合及び撹拌は、撹拌装置を使用して行うことができる。撹拌装置は撹拌槽を有し、混合物の温度を均一化するために、撹拌槽の周囲に温度調節することが可能な温度調節ジャケットを有するものが好ましい。さらに、撹拌槽内全体をかき混ぜるため、混合物の粘度等に応じて、ディスパ翼、プロペラ翼、アンカー翼、パドル翼、リボン翼、スクリュー翼などを備えた撹拌装置を使用することができる。

【0033】

アルカリセルロースの硫化及び溶解は、－１０～３０℃、好ましくは－５～２５℃、より好ましくは０～２０℃、更に好ましくは１０～２０℃の温度にて行う。硫化時の温度が－１０℃未満であると液温を低温に維持するために手間及びエネルギーを要し、３０℃を超えると、セルロースの溶解性が低下する。このとき、１０℃以上の温度とすると、特別な冷却手段を必要としないために好ましい。

【0034】

硫化及び溶解の反応時間は、沈殿率が所望する値に到達、完結する様に設定され、通常２分～１５時間、好ましくは５分～１０時間、より好ましくは１０分～８時間、更に好ましくは３０分～５時間の範囲である。

【0035】

＜ビスコースの製造＞
次いで、このようにして得られた再生ビスコースを中間材料として使用して、セルロース成形体を製造するためのビスコースを製造する方法を説明する。

【0036】

前記ビスコースは、再生ビスコースに天然セルロースを原料とするセルロースザンテートを添加し、溶解させることで製造する。このセルロースザンテート（以下、天然セルロースザンテート ということがある。）は、天然セルロースをマーセル化及び硫化したものを使用する。そうすることで、温和な温度条件下でも、セルロース濃度が高いビスコースを得ることができる。

【0037】

天然セルロースとしては、再生セルロースの原料と同様に、例えば、木材、綿、わら、竹、ケナフなどのバイオマス由来や古紙、紙粉などの紙由来のパルプなどを使用することができる。また、その製造方法も特に限定されず、機械的方法、化学的方法、あるいはその中間で二つを組み合せた方法でもよい。パルプの品位としては、製紙用パルプの他に、主として薬品に溶解して使用されて人造繊維、セロファンなどの原料となる、化学的に精製された溶解パルプが好ましい。

【0038】

天然セルロースをマーセル化し、硫化した天然セルロースザンテートは、セルロース、アルカリ、二硫化炭素及び水を含む反応混合物である。セルロースザンテートの性状は、溶液である必要はなく、不溶物を含む分散物又は固形物であってよい。

【0039】

天然セルロースザンテートは、好ましくは、２０～４５質量％のセルロース濃度を有する。天然セルロースザンテートのセルロース濃度が２０質量％未満であると、アルカリとの副反応が増加し、４５質量％を超えると、硫化反応が不均一となって、得られるビスコース中のセルロースの溶解性が低下する。天然セルロースザンテートのセルロース濃度は、より好ましくは２５～４０質量％であり、更に好ましくは３０～３６質量％である。

【0040】

天然セルロースザンテートは、好ましくは、セルロースを基準にして５～４０質量％の二硫化炭素を添加して反応させたものである。天然セルロースザンテート中の二硫化炭素添加量が５質量％未満であると、得られるビスコースの溶解性が低下し、４０質量％を超えると、二硫化炭素との副反応が増加したり、未反応の二硫化炭素が残存したりして安全性が低下するおそれがある。天然セルロースザンテート中の二硫化炭素添加量は、より好ましくは１０～３８質量％であり、更に好ましくは１５～３６質量％である。

【0041】

天然セルロースザンテートは、好ましくは、６～２２質量％のアルカリ濃度を有する。天然セルロースザンテートのアルカリ濃度が６質量％未満であると、原料である天然セルロースの結晶構造が変化し難く、溶解性が低下し、２２質量％を超えると、遊離アルカリとの副反応が増加して、やはりセルロースの溶解性が低下する。天然セルロースザンテートのアルカリ濃度は、より好ましくは８～２０質量％であり、更に好ましくは１０～１８質量％である。

【0042】

再生ビスコースに対する天然セルロースザンテートの添加量は、所望の物性を有するビスコースが得られる量に調節する。このとき、ビスコース中のセルロース濃度やアルカリ濃度を調節するために、水やアルカリ水溶液を加えても良い。再生ビスコースに天然セルロースザンテートを添加した後、又は添加しながら、混合物を攪拌することで、天然セルロースザンテートを溶解させる。

【0043】

天然セルロースザンテートの溶解は、０～４０℃、好ましくは５～３５℃、より好ましくは１０～３０℃の温度にて行う。攪拌時の温度が０℃未満であると温度を制御するために手間とコストを要し、４０℃を超えると、セルロースの溶解性が低下する。このとき、１０℃以上の温度とすると、特別な冷却手段を必要としないために好ましい。

【0044】

硫化及び溶解の終了後に得られる本発明のビスコースは、５～１５質量％のセルロース濃度を有する。ビスコース中のセルロース濃度が５質量％未満であると、これから形成されるセロファンなどのセルロース成形体の強度が不十分になるおそれがあり、１５質量％を超えると、得られるビスコース中のセルロースの溶解性が低下する。ビスコース中のセルロース濃度は、好ましくは６～１４質量％であり、より好ましくは７～１２質量％である。

【0045】

本発明のビスコースは、セルロースを基準にして１～３０質量％の再生セルロース含有量を有する。ビスコース中のセルロース成分に含まれる前記再生セルロース含有量が１質量％未満であると、環境負荷の軽減効果が不十分になり、３０質量％を超えると、再生ビスコース中のセルロース濃度が低いため、ビスコース中のセルロース濃度を高くすることができず、セルロース成形体の強度が不十分になるおそれがある。ビスコース中のセルロース成分に含まれる前記再生セルロース含有量は、好ましくは３～２５質量％であり、より好ましくは５～２０質量％である。

【0046】

本発明のビスコースは、セルロースを基準にして１～４０質量％の二硫化炭素を添加して反応させたものである。ビスコース中の前記二硫化炭素添加量が１質量％未満であると、得られるビスコース中のセルロースの溶解性が低下し、４０質量％を超えると、二硫化炭素の揮発量が増大して安全性が低下する。ビスコース中の前記二硫化炭素添加量は、好ましくは５～３８質量％であり、より好ましくは１０～３６質量％である。

【0047】

本発明のビスコースは、好ましくは、４～１５質量％のアルカリ濃度を有する。ビスコース中のアルカリ濃度が４質量％未満であったり、１５質量％を超えたりすると、セルロースの溶解性が低下する。ビスコース中のアルカリ濃度は、好ましくは４．５～１４質量％であり、より好ましくは５～１２質量％である。

【0048】

本発明のビスコース中のセルロースの溶解性としては、５質量％以下、好ましくは２質量％以下、より好ましくは１質量％以下の沈殿率を示す。かかる沈殿率が低いと、ビスコース中でセルロースの溶解性が優れたものであることを意味している。沈殿率の計算方法を以下に示す。即ち、
沈殿率＝｛沈殿物の質量／（ビスコースの質量）｝×１００

【0049】

本発明のビスコースは、塩溶液、硫酸や塩酸等の希酸、有機溶媒等に投入すると容易に凝固し、酸で再生することによりセロファン、レーヨン及びビーズ等の成形物を得ることができる。また、凝固に希酸を使用した場合は、凝固と再生が同時に進行する。

【実施例0050】

以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。

【0051】

＜製造例１～４＞
原料の配合量を調節すること以外は以下に説明する方法に従って、セルロース濃度、アルカリ濃度、二硫化炭素添加量及び製造温度が異なる再生ビスコースを４種類製造した。

【0052】

（再生ビスコースの製造）
再生セルロース試料として、セロファン（レンゴー（株）製「ＰＴ ＃３００」（商品名））を機械粉砕して直径１ｍｍΦの丸網を通過させ、付着している柔軟剤（グリセリン）を清水で水洗して除去することで湿潤品（セルロース分：４３質量％）を調製した。

【0053】

所定濃度となるように、再生セルロース試料、２８質量％水酸化ナトリウム水溶液及び水を撹拌装置の撹拌槽に投入して混合し、分散液を調製した。この分散液を撹拌しながら、表１の製造温度にてマーセル化を行った。得られたアルカリセルロースの分散液に二硫化炭素を加えて撹拌して、表１の製造温度及び反応時間にて硫化及び溶解を行った。これにより、以下の特性を有する再生ビスコースを得た。得られた再生ビスコースを目視観察して、粒子やゲルが浮遊したり、沈殿したりしていないことを確認した。

【0054】

【表1】

【0055】

＜実施例１＞
溶解パルプを原料とした老成後のアルカリセルロース（工業用、セルロース：３３．５質量％、ＮａＯＨ：１５質量％）を準備した。これにセルロース質量当たり２４質量％の二硫化炭素を加えて４時間硫化し、天然セルロースザンテート（セルロース：３１質量％、ＮａＯＨ：１４質量％）を調製した。

【0056】

製造例３で調製したセルロース濃度：３．５質量％の再生ビスコース２２２部に、水４８５部と、溶解パルプから調製した天然セルロースザンテート２９３部とを加え、２０℃で１０時間撹拌し、天然セルロースザンテートを再生ビスコースに溶解して、ビスコース（セルロース：９．６質量％、ＮａＯＨ：６質量％）１０００部を得た。配合された再生セルロースの量は、セルロース成分を基準にして８質量％である。

【0057】

＜実施例２＞
製造例４で調製したセルロース濃度：５質量％の再生ビスコース２９２部に、水４４５部と、実施例１の天然セルロースザンテート（セルロース：３１質量％、ＮａＯＨ：１４質量％）２６３部とを加え、２０℃で１０時間撹拌し、天然セルロースザンテートを再生ビスコースに溶解して、ビスコース（セルロース：９．６質量％、ＮａＯＨ：６．１質量％）１０００部を得た。配合された再生セルロースの量は、セルロースを基準にして１５質量％である。

【0058】

実施例１及び２で得られたビスコースについて、粘度及びセルロース濃度を測定し、セルロースの溶解性は沈殿率から評価した。

【0059】

（粘度）
ビスコースの粘度を、Ｂ型粘度計（Ｎｏ．５ローター×２０ｒｐｍ）を使用して２０℃で測定した。

【0060】

（溶解性）
ビスコースを、６質量％水酸化ナトリウム水溶液でセルロース濃度が５質量％となるように希釈し、２５℃で高速冷却遠心機（ベックマン・コールター社製、Ａｖａｎｔｉ ＪＸＮ－２６）を用いて遠心分離（２５，０００Ｇ×１ｈｒ）を行った。上澄みをデカンテーションして遠沈管底部に残った沈殿の質量を測定し、前記計算方法に従って沈殿率を算出した。溶解性の評価基準は以下の通りにした。

【0061】

○（優）沈殿率：０～１質量％
△（良）沈殿率：２～５質量％
×（劣）沈殿率：６質量％以上

【0062】

（セルロース濃度）
ビスコースを、予め秤量したガラス板上にベーカー式アプリケーター（テスター産業(株)製、ＳＡ－２０１）を使って薄く広げてから質量を測定し、ビスコースの質量を計算した。その後、７０℃の定温乾燥機内に４０分間静置し、ガラス板毎、１０質量％塩化アンモニウム水溶液に３０分間浸漬して、凝固したビスコースをガラス板から剥離した。それを蒸留水で水洗後、１０５℃の熱風乾燥機で乾燥して質量を測定し、次式からビスコースのセルロース濃度を算出した。
セルロース濃度＝｛乾燥後の質量／（ビスコースの質量）｝×１００

【0063】

測定の結果、ビスコースの物性は以下の通りであった。

【0064】

【表2】

【0065】

実施例１で得られたビスコースを使用して厚さ２１μｍのセロファンを製造したところ、成形には問題なく、フィルム物性としての引張強度は市販のセロファンと同等（３．６ｋｇｆ／１５ｍｍ）のものが得られた。

【0066】

温和な温度条件下で、再生セルロースに水酸化ナトリウム水溶液を加えてマーセル化した後、硫化と溶解を行って、比較的セルロース濃度の低い再生ビスコースを調製し、それに木材を原料とする溶解パルプから調製した天然セルロースザンテートを溶解することで、１０質量％近いセルロース濃度で成形体の製造に適したビスコースを製造できることが明らかになった。また、この製造時の二硫化炭素の添加量も比較的低い実用的なレベルに抑えることができた。