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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175371
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】可視化試験方法及び可視化試験装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/22 20060101AFI20241211BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
F16H25/22
G01N21/64 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093109
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】布川 公博
(72)【発明者】
【氏名】遠山 護
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 範和
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 弘恒
(72)【発明者】
【氏名】井上 俊治
(72)【発明者】
【氏名】山下 龍城
(72)【発明者】
【氏名】上村 太司
【テーマコード(参考)】
2G043
3J062
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043EA01
2G043HA01
2G043HA09
2G043JA04
2G043KA02
2G043KA03
2G043LA03
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA40
3J062CD12
3J062CD23
(57)【要約】
【課題】蛍光特性を有する潤滑油を用いる機械の挙動を明確に観察する。
【解決手段】潤滑剤を使用している複数列のボール溝を有するボールねじのボールの挙動を観察する可視化試験方法であって、ボールねじの可動部に対して、潤滑剤の励起波長帯域とは異なる波長帯域で励起される蛍光特性を有する蛍光剤を適用して、蛍光剤から蛍光の発光によってボールの挙動を観察する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑剤を使用している複数列のボール溝を有するボールねじのボールの挙動を観察する可視化試験方法であって、
前記ボールねじの可動部に対して、前記潤滑剤の励起波長帯域とは異なる波長帯域で励起される蛍光特性を有する蛍光剤を適用して、前記蛍光剤から蛍光の発光によって前記ボールの挙動を観察することを特徴とする可視化試験方法。
【請求項2】
潤滑剤を使用している複数列のボール溝を有するボールねじのボールの挙動を観察する可視化試験方法であって、
前記ボールねじの可動部に対して、前記潤滑剤の励起波長帯域とは異なる波長帯域で励起される蛍光特性、及び、前記潤滑剤の蛍光波長帯域とは異なる波長帯域で蛍光を発光する蛍光特性、の少なくとも1つを有する蛍光剤を適用して、前記可動部を構成する部材同士が接触しない部分に前記蛍光剤を配置し、前記蛍光剤から蛍光の発光によって前記ボールの挙動を観察することを特徴とする可視化試験方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の可視化試験方法であって、
前記潤滑剤の励起波長帯域とは異なる波長帯域は、400nm以上の波長帯域であることを特徴とする可視化試験方法。
【請求項4】
請求項2に記載の可視化試験方法であって、
前記潤滑剤の蛍光波長帯域とは異なる波長帯域は、450nm以上の波長帯域であることを特徴とする可視化試験方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の可視化試験方法であって、
前記ボールねじは、自動車に用いられることを特徴とする可視化試験方法。
【請求項6】
潤滑剤を使用している複数列のボール溝を有するボールねじのボールの挙動を観察する可視化試験装置であって、
撮像手段を備え、
前記ボールねじの可動部に対して、前記潤滑剤の励起波長帯域とは異なる波長帯域で励起される蛍光特性を有する蛍光剤を適用して、前記蛍光剤から蛍光の発光によって前記ボールの挙動を前記撮像手段によって観察することを特徴とする可視化試験装置。
【請求項7】
潤滑剤を使用している複数列のボール溝を有するボールねじのボールの挙動を観察する可視化試験装置であって、
撮像手段を備え、
前記ボールねじの可動部に対して、前記潤滑剤の励起波長帯域とは異なる波長帯域で励起される蛍光特性、及び、前記潤滑剤の蛍光波長帯域とは異なる波長帯域で蛍光を発光する蛍光特性、の少なくとも1つを有する蛍光剤を適用して、前記可動部を構成する部材同士が接触しない部分に前記蛍光剤を配置し、前記蛍光剤から蛍光の発光によって前記ボールの挙動を前記撮像手段によって観察することを特徴とする可視化試験装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の可視化試験装置であって、
前記潤滑剤の励起波長帯域とは異なる波長帯域の光を照射する光源を備えることを特徴とする可視化試験装置。
【請求項9】
請求項6又は7に記載の可視化試験装置であって、
前記潤滑剤の蛍光波長帯域とは異なる波長帯域の少なくとも一部の光を透過し、前記潤滑剤の蛍光波長帯域の少なくとも一部の光を減衰させる光学フィルタを備え、
前記ボールねじと、前記撮像手段と、の間に前記光学フィルタが配置されていることを特徴とする可視化試験装置。
【請求項10】
請求項6又は7に記載の可視化試験装置であって、
前記潤滑剤の励起波長帯域とは異なる波長帯域は、400nm以上の波長帯域であることを特徴とする可視化試験装置。
【請求項11】
請求項7に記載の可視化試験装置であって、
前記潤滑剤の蛍光波長帯域とは異なる波長帯域は、450nm以上の波長帯域であることを特徴とする可視化試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油を使用している可動部を有する機械又は機械要素の挙動を観察するための可視化試験方法及び可視化試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンからの動力を駆動源とした油圧アシスト方式が多く採用されてきたが、電動モータによるアシスト方式へと移行が進められている。電動パワーステアリングは、モータアシストの方式に応じてコラムアシスト、ピニオンアシスト、ラックアシストに大別される。ラックアシスト方式には、モータのアシスト力をボールねじにてシャフト軸力に変換するRack Parallel-Electric Power Steering(以下、RP-EPSと示す)が含まれる。
【0003】
ラックアシスト方式において、ボールねじ内部の実動中でのボール位置とボール挙動(例えばボール間隙間量)を把握する必要がある。そのボール挙動を計測する手法として、ボールねじのナットを石英などの透明体で構成し、透明なナットを介して内部を観察する可視化法が挙げられる。
【0004】
基油、増ちょう剤及び蛍光物質を含む蛍光グリース組成物を転がり軸受に注入し、蛍光グリース組成物に含まれる蛍光物質の発光を観察することでグリース潤滑の挙動を把握する技術が開示されている(特許文献1)。
【0005】
また、蛍光物質を含む油膜に短波長レーザを照射したときに誘起される蛍光強度から油膜厚さを求めるレーザ誘起蛍光法が開示されている(特許文献2)。レーザ誘起蛍光法は、動的追従性に優れ、レーザビームの径に相当する高い空間分解能を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-348589号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「レーザ誘起蛍光法(LIF法)によるピストンの油膜挙動の解析」、豊田中央研究所R&Dレビュー、Vol.28、No.4(1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記従来技術は、油やグリースに蛍光物質を混ぜて、光源から励起光を照射することによって蛍光物質を含む油やグリースにおける蛍光の発光強度から油膜の挙動や油膜の厚さを測定する。しかしながら、上記従来技術は、あくまで蛍光物質を含んだ油やグリースの挙動や厚さを測定するものであって、油やグリースを用いた機械(又は機械部品)の挙動を測定対象とするものではない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの態様は、潤滑剤を使用している複数列のボール溝を有するボールねじのボールの挙動を観察する可視化試験方法であって、前記ボールねじの可動部に対して、前記潤滑剤の励起波長帯域とは異なる波長帯域で励起される蛍光特性を有する蛍光剤を適用して、前記蛍光剤から蛍光の発光によって前記ボールの挙動を観察することを特徴とする可視化試験方法である。
【0010】
本発明の別の態様は、潤滑剤を使用している複数列のボール溝を有するボールねじのボールの挙動を観察する可視化試験方法であって、前記ボールねじの可動部に対して、前記潤滑剤の励起波長帯域とは異なる波長帯域で励起される蛍光特性、及び、前記潤滑剤の蛍光波長帯域とは異なる波長帯域で蛍光を発光する蛍光特性、の少なくとも1つを有する蛍光剤を適用して、前記可動部を構成する部材同士が接触しない部分に前記蛍光剤を配置し、前記蛍光剤から蛍光の発光によって前記ボールの挙動を観察することを特徴とする可視化試験方法である。
【0011】
ここで、前記潤滑剤の励起波長帯域とは異なる波長帯域は、400nm以上の波長帯域であることが好適である。
【0012】
また、前記潤滑剤の蛍光波長帯域とは異なる波長帯域は、450nm以上の波長帯域であることが好適である。
【0013】
また、前記ボールねじは、自動車に用いられることが好適である。
【0014】
本発明の別の態様は、潤滑剤を使用している複数列のボール溝を有するボールねじのボールの挙動を観察する可視化試験装置であって、撮像手段を備え、前記ボールねじの可動部に対して、前記潤滑剤の励起波長帯域とは異なる波長帯域で励起される蛍光特性を有する蛍光剤を適用して、前記蛍光剤から蛍光の発光によって前記ボールの挙動を前記撮像手段によって観察することを特徴とする可視化試験装置である。
【0015】
本発明の別の態様は、潤滑剤を使用している複数列のボール溝を有するボールねじのボールの挙動を観察する可視化試験装置であって、撮像手段を備え、前記ボールねじの可動部に対して、前記潤滑剤の励起波長帯域とは異なる波長帯域で励起される蛍光特性、及び、前記潤滑剤の蛍光波長帯域とは異なる波長帯域で蛍光を発光する蛍光特性、の少なくとも1つを有する蛍光剤を適用して、前記可動部を構成する部材同士が接触しない部分に前記蛍光剤を配置し、前記蛍光剤から蛍光の発光によって前記ボールの挙動を前記撮像手段によって観察することを特徴とする可視化試験装置である。
【0016】
ここで、前記潤滑剤の励起波長帯域とは異なる波長帯域の光を照射する光源を備えることが好適である。
【0017】
また、前記潤滑剤の蛍光波長帯域とは異なる波長帯域の少なくとも一部の光を透過し、前記潤滑剤の蛍光波長帯域の少なくとも一部の光を減衰させる光学フィルタを備え、前記ボールねじと、前記撮像手段と、の間に前記光学フィルタが配置されていることが好適である。
【0018】
また、前記潤滑剤の励起波長帯域とは異なる波長帯域は、400nm以上の波長帯域であることが好適である。
【0019】
また、前記潤滑剤の蛍光波長帯域とは異なる波長帯域は、450nm以上の波長帯域であることが好適である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、蛍光特性を有する潤滑油を用いる機械の挙動を明確に観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】蛍光剤からの蛍光の放出過程を示す図である。
図2】分光蛍光光度計の構成を示す図である。
図3】実機グリースの蛍光の発光特性を示す図である。
図4】蛍光剤の蛍光の発光特性を示す図である。
図5】本発明の実施の形態における可視化試験装置の構成を示す図である。
図6】RP-EPSに用いられるボールねじの構成を示す断面概念図である。
図7】本発明の実施の形態における測定対象物への蛍光物質の塗布状態を示す図である。
図8】本発明の実施の形態における測定対象物の観察条件を示す図である。
図9】本発明の実施の形態における白色光観察の観察例を示す図である。
図10】本発明の実施の形態における蛍光観察の観察例を示す図である。
図11】本発明の実施の形態における蛍光剤の配置の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<グリースの蛍光特性測定>
本発明の実施の形態における可視化試験装置及び可視化試験方法の事前検討として、分光蛍光光度計によるグリースの蛍光特性の測定を行った。
【0023】
図1は、蛍光剤からの蛍光の放出過程を示す。蛍光剤に外部から光を照射すると、光子エネルギーの一部を蛍光剤が吸収し、励起状態へと遷移する。励起された蛍光剤は、安定した基底状態に戻ろうとするときに差分のエネルギーの一部を蛍光として放出する。励起波長と蛍光波長は異なるため、光学フィルタを用いて分光することで蛍光のみを測定することができる。
【0024】
蛍光特性を測定する際には、分光蛍光光度計を用いた。図2は、分光蛍光光度計100の構成を示す。光源10から放出された光は、励起波長選択部を構成する分光器12にて単色光に分光され、当該単色光が試料セル14に入射する。入射光を励起光として試料セルにて生じた蛍光が蛍光波長選択部を構成する分光器16にて単色光となり、当該単色光を検出器18にて検出して蛍光強度を測定する。
【0025】
分光器12及び分光器16にて励起光や蛍光の波長を分光することによって、特定の波長の励起光に対して特定の波長の蛍光を放出する関係を取得することができる。本実施の形態では、RP-EPSのボールねじ部を潤滑するグリース及び蛍光塗料(GSIクレオス社、品番C171)について蛍光分光特性を測定した。
【0026】
図3は、RP-EPSのボールねじ部を潤滑するグリース(以下、実機グリースと示す)について蛍光分光特性を測定した結果を示す。潤滑油として使用されているグリースでは、励起波長300nmの光を照射した際に蛍光波長354nmにて蛍光強度は最大となった。特に、200nm以上360nm以下の紫外波長域の励起光を照射して励起することにより強い蛍光特性を示すことが判明した。
【0027】
図4は、蛍光塗料(GSIクレオス社、品番C171)について蛍光分光特性を測定した結果を示す。当該蛍光塗料では、励起波長570nmの光を照射した際に蛍光波長607nmで蛍光強度が最大となった。強い蛍光強度が得られる励起光の励起波長域は、紫外波長域~可視波長域に亘って広く、蛍光波長は607nmを中心とした狭い波長域の蛍光特性を示した。
【0028】
実機グリース及び蛍光塗料の蛍光特性によれば、可視光波長域の励起光にて蛍光する蛍光剤を用いて挙動計測を行うことで、実機グリースと蛍光剤の蛍光波長の差が大きくなり、実機グリースからの蛍光と蛍光剤からの蛍光を識別し易くなる。具体的には、実機グリースからの蛍光と蛍光剤からの蛍光を識別するためには以下の2つの条件を満たすことが好適である。
(条件1)実機グリースの蛍光を回避する400nm以上の励起光にて蛍光する蛍光剤
(条件2)実機グリースの蛍光波長域とは異なる450nm以上の波長域にて蛍光する蛍光剤
【0029】
<可視化試験装置の構成>
本発明の実施の形態における可視化試験装置200は、図5に示すように、光源20、光ガイド22、ハーフミラー24、レンズ26、光学フィルタ28、カメラ30及び測定器32を含んで構成される。可視化試験装置200によって、試料202へ励起光を照射し、試料202から放出された蛍光を測定する。
【0030】
光源20から出射した光は光ガイド22を通り、ハーフミラー24での反射によりレンズ26と同軸で試料202を照射する。照射された励起光によって試料202が励起され、試料202から蛍光が放出される。放出された蛍光はレンズ26及びハーフミラー24を透過し、光学フィルタ28を介してカメラ30で試料202の像が撮影される。カメラ30で撮影された画像は、測定器32へ転送される。測定器32は、例えばコンピュータとすることができる。
【0031】
光源20は、潤滑油である実機グリースの蛍光を回避する波長域の光を照射できることが選定条件である。条件1に示したように、実機グリースの蛍光を回避するためには400nm以上の波長域の光を照射する光源20とすることが好適である。光源20として、例えば、ケイエルブイ製LEDフラッシュランプ(LQ-LED180)を適用することができる。なお、観察視野の全体を均一に照射するためにレンズ26と同軸に光を照射するように光源20を配置した。
【0032】
また、レンズ26は、光軸に対して平行な光のみが焦点位置に設置された絞りを通過できるテレセントリックレンズを適用することが好適である。レンズ26をテレセントリックレンズとすることで、試料202とレンズ26との距離が変化してもカメラ30で撮影される画像のサイズが変わらないようにすることができる。したがって、寸法計測等の定量計測を行う際に測定誤差を抑制することができる。レンズ26として、例えば、倍率0.18のモリテックス製テレセントリックレンズ(MML018-110D)を適用することができる。
【0033】
また、光学フィルタ28は、光源20の波長域の光がカメラ30に入射することを抑制するため、光源20が放出する波長域の光をカットする特性を有することが好適である。また、光学フィルタ28は、蛍光剤の蛍光の波長域がカメラ30に入射する前にカットされない特性を有することが好適である。すなわち、条件2に示したように、実機グリースの蛍光波長域とは異なる450nm以上の波長域の光を透過する特性であることが好適である。光学フィルタ28としては、例えば、透過波長域が508nm以上1650nm以下のエドモンド製光学フィルタ(63-976)を適用することができる。光学フィルタ28は、レンズ26とカメラ30の間に配置することが好適である。
【0034】
また、カメラ30は、一般的なカラーカメラではなく、測定する波長範囲に感度を有するモノクロカメラを用いることが好適である。一般的なカラーカメラでは、ベイヤー配列方式が採用されている。ベイヤー配列方式では、例えば、赤(R)-緑(G)と緑(G)-青(B)のカラーフィルタが並んだ列を交互に配置した構成とされる。各画素は赤(R)、緑(G)、青(B)のうち1つの色情報しか持たず、色情報の無い画素においては周辺の画素の画素値を補間することによってカラー画像を再現している。可視化試験装置200では、対象の蛍光剤の蛍光の波長域は限定されており、カラーカメラを使用する必要はなく、モノクロカメラとすればよい。カメラ30は、例えば、高画素(500万画素以上)であり、露光時間、フレームレート、ゲイン及びトリガーの制御が可能なJAI製モノクロカメラ(GOX-5103-USB)とすることができる。
【0035】
なお、モノクロカメラは、カラーカメラに比べて画像のデータ容量が1/3程度であることから、複数のカメラ30によって同時に試料202の複数の箇所を撮影できるようにしてもよい。
【0036】
<可視化試験装置による測定例>
可視化試験装置200によって、RP-EPSに用いられるボールねじの内部におけるボールの挙動について測定した例を示す。ボールねじは、回転運動を直線運動に変換する機械要素である。ボールねじでは、相対回転するナットとシャフトと間に多数のボールを介在させることで摩擦抵抗を低くすることで高い機械効率での動作を可能としている。
【0037】
図6は、RP-EPS用のボールねじ部300の主要部の構成を示す断面模式図である。ボールねじ部300では、外周に螺旋状の溝が設けられたシャフト46とナット42との間に多数のボール48が設けられている。ナット42の外周は転がり軸受44に挿入されており、軸受44の外輪はハウジング部40に固定されている。そのため、ナット42は軸方向の移動自由度を持たず回転運動のみ可能であり、ナット42の回転によりシャフト46を軸方向に直線移動させることができる。これにより、操舵を行う際の軸力の一部をナット42の回転により担うことができる。
【0038】
ボールねじ部300を観察する際には、ハウジング部40等の観察に不要な部材を除き、ナット42を透明なアクリル又は石英で構成し、ナット42とシャフト46との間に配置されているボール48の挙動を可視化試験装置200によって観察した。また、ボールねじ部300において可動部を構成する部材同士が接触しない部分に蛍光剤を配置した。すなわち、図7に示すように、シャフト46に設けられた溝に沿って溝の底部に蛍光剤Xを塗布することで、ボール48に蛍光剤Xが接触しない状態で観察を行った。蛍光剤Xは、市販蛍光塗料のGSIクレオス社製、品番C171とした。
【0039】
ボールねじ部300の観察範囲は、ナット全域を観察可能な33.0mm×40.9mm以上とした。なお、今回はカメラ30のみ3CMOSカラーカメラ(AP-3200T-USB)へと変更した。図8は、カメラ30の撮影条件を示す。撮影した画像データはコンピュータへと転送され、収録ソフト(日本NI製LabVIEW、ドライバソフトにはVision Acquisition Softwareを使用)にてバイナリデータの保存を行った。
【0040】
図9は、図8に示した白色光観察の条件下においてボールねじ部300を観察した結果を示す。図10は、図8に示した蛍光観察の条件下においてボールねじ部300を観察した結果を示す。
【0041】
図9に示すように、ボールねじ部300のナット42部分の全域を観察することができた。また、観察領域においてボールねじ部300は実機グリースで潤滑されており、ボールの中心部近傍に実機グリースのメニスカス(液面の屈曲)が観察された。
【0042】
これに対して、図10に示す蛍光観察では、実機グリースの蛍光の影響は小さく、蛍光剤の発光のみを明瞭に観察できた。観察された蛍光の長さによって、ボールねじ部300内部の隣り合うボール間の距離を計測できた。
【0043】
なお、蛍光剤は、観察対象物において可動部を構成する部材同士が接触しない部分に配置することが好適である。ボールねじ部300の場合、例えば図11(a)に示すように、シャフト46に設けられた溝の底部に凹部46aを設けて、凹部46aに蛍光剤Xを配置してもよい。また、例えば図11(b)に示すように、シャフト46に設ける溝をゴシックアーチ形状とし、シャフト46の溝の底部とボール48の間の形成された隙間46bに蛍光剤Xを配置してもよい。また、例えば図11(c)に示すように、通常はシャフト46に設けられる溝の曲率がボール48の曲率よりも大きいことを利用して、シャフト46の溝の底部以外の部分とボール48との間の隙間に蛍光剤Xを配置してもよい。また、例えば図11(d)に示すように、シャフト46の溝に蛍光剤Xを配置するための凹部46cを設けてもよい。凹部46cは、シャフト46及びボール48に生ずる応力の影響を受け難い可動部を構成する部材同士が接触しない位置に設けることが好適である。
【0044】
以上のように、本実施の形態によれば、ボールねじの内部のボールの位置を観察することができ、ボールねじを回転させた状態におけるねじ内部のボール間の距離等の機械的な挙動を観察できる。すなわち、ボールによって陰影される蛍光剤から放出された蛍光を観察することでボールの位置を特定できる。特に、ノイズ源となる蛍光特性を有する潤滑剤(実機グリース)が存在しても、潤滑剤に対して蛍光物質の発光帯域を変えることで、ボールのすき間からの蛍光と潤滑剤の蛍光を明瞭に区別できる。
【0045】
[本願発明の構成]
[構成1]
潤滑剤を使用している複数列のボール溝を有するボールねじのボールの挙動を観察する可視化試験方法であって、
前記ボールねじの可動部に対して、前記潤滑剤の励起波長帯域とは異なる波長帯域で励起される蛍光特性を有する蛍光剤を適用して、前記蛍光剤から蛍光の発光によって前記ボールの挙動を観察することを特徴とする可視化試験方法。
[構成2]
潤滑剤を使用している複数列のボール溝を有するボールねじのボールの挙動を観察する可視化試験方法であって、
前記ボールねじの可動部に対して、前記潤滑剤の励起波長帯域とは異なる波長帯域で励起される蛍光特性、及び、前記潤滑剤の蛍光波長帯域とは異なる波長帯域で蛍光を発光する蛍光特性、の少なくとも1つを有する蛍光剤を適用して、前記可動部を構成する部材同士が接触しない部分に前記蛍光剤を配置し、前記蛍光剤から蛍光の発光によって前記ボールの挙動を観察することを特徴とする可視化試験方法。
[構成3]
構成1又は2に記載の可視化試験方法であって、
前記潤滑剤の励起波長帯域とは異なる波長帯域は、400nm以上の波長帯域であることを特徴とする可視化試験方法。
[構成4]
構成2に記載の可視化試験方法であって、
前記潤滑剤の蛍光波長帯域とは異なる波長帯域は、450nm以上の波長帯域であることを特徴とする可視化試験方法。
[構成5]
構成1~4のいずれか1項に記載の可視化試験方法であって、
前記ボールねじは、自動車に用いられることを特徴とする可視化試験方法。
[構成6]
潤滑剤を使用している複数列のボール溝を有するボールねじのボールの挙動を観察する可視化試験装置であって、
撮像手段を備え、
前記ボールねじの可動部に対して、前記潤滑剤の励起波長帯域とは異なる波長帯域で励起される蛍光特性を有する蛍光剤を適用して、前記蛍光剤から蛍光の発光によって前記ボールの挙動を前記撮像手段によって観察することを特徴とする可視化試験装置。
[構成7]
潤滑剤を使用している複数列のボール溝を有するボールねじのボールの挙動を観察する可視化試験装置であって、
撮像手段を備え、
前記ボールねじの可動部に対して、前記潤滑剤の励起波長帯域とは異なる波長帯域で励起される蛍光特性、及び、前記潤滑剤の蛍光波長帯域とは異なる波長帯域で蛍光を発光する蛍光特性、の少なくとも1つを有する蛍光剤を適用して、前記可動部を構成する部材同士が接触しない部分に前記蛍光剤を配置し、前記蛍光剤から蛍光の発光によって前記ボールの挙動を前記撮像手段によって観察することを特徴とする可視化試験装置。
[構成8]
構成6又は7に記載の可視化試験装置であって、
前記潤滑剤の励起波長帯域とは異なる波長帯域の光を照射する光源を備えることを特徴とする可視化試験装置。
[構成9]
構成6~8のいずれか1項に記載の可視化試験装置であって、
前記潤滑剤の蛍光波長帯域とは異なる波長帯域の少なくとも一部の光を透過し、前記潤滑剤の蛍光波長帯域の少なくとも一部の光を減衰させる光学フィルタを備え、
前記ボールねじと、前記撮像手段と、の間に前記光学フィルタが配置されていることを特徴とする可視化試験装置。
[構成10]
構成6~9のいずれか1項に記載の可視化試験装置であって、
前記潤滑剤の励起波長帯域とは異なる波長帯域は、400nm以上の波長帯域であることを特徴とする可視化試験装置。
[構成11]
構成7に記載の可視化試験装置であって、
前記潤滑剤の蛍光波長帯域とは異なる波長帯域は、450nm以上の波長帯域であることを特徴とする可視化試験装置。
【符号の説明】
【0046】
10 光源、12 分光器、14 試料セル、16 分光器、18 検出器、20 光源、22 光ガイド、24 ハーフミラー、26 レンズ、28 光学フィルタ、30 カメラ、32 測定器、40 ハウジング部、42 ナット、44 軸受、46 シャフト、46a 凹部、46b 隙間、46c 凹部、48 ボール、100 分光蛍光光度計、200 可視化試験装置、202 試料、300 ねじ部。
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