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特開2024-175382中性子半導体検出器及び中性子半導体検出器を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175382
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】中性子半導体検出器及び中性子半導体検出器を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   G01T 3/00 20060101AFI20241211BHJP
   H01L 21/308 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
G01T3/00 G
H01L21/308 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093129
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】中野 貴之
【テーマコード(参考)】
2G188
5F043
【Fターム(参考)】
2G188AA03
2G188BB09
2G188CC32
2G188DD05
2G188DD42
2G188DD43
2G188DD44
5F043BB02
5F043BB06
(57)【要約】
【課題】空間分解能を向上させる。
【解決手段】中性子半導体検出器1は、第1電極31と、第1電極31に接するように形成される主面を有し、第1電極31に電気的に接続され、P型半導体である窒化ガリウム(GaN)又はGaNと窒化ボロン(BN)とを混晶させた窒化ボロンガリウム(BGaN)を含むP層32と、P層32において主面に対して逆側の裏面に接するように形成され、真性半導体であるBGaNを含むI層33と、I層33上に形成され、N型半導体であるGaN又は窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)を含むN層34と、N層34に電気的に接続され、N層34上に配列された複数の第2電極35と、を備える。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、
前記第1電極に接するように形成される主面を有し、前記第1電極に電気的に接続され、P型半導体である窒化ガリウム(GaN)又はGaNと窒化ボロン(BN)とを混晶させた窒化ボロンガリウム(BGaN)を含むP層と、
前記P層において前記主面に対して逆側の裏面に接するように形成され、真性半導体であるBGaNを含むI層と、
前記I層上に形成され、N型半導体であるGaN又は窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)を含むN層と、
前記N層に電気的に接続され、前記N層上に配列された複数の第2電極と、を備える、中性子半導体検出器。
【請求項2】
前記P層のキャリア濃度は1×1016cm-3以上1×1020cm-3以下であり、
前記I層のキャリア濃度は0cm-3以上1×1016cm-3以下であり、
前記N層のキャリア濃度は1×1016cm-3以上1×1020cm-3以下である、請求項1に記載の中性子半導体検出器。
【請求項3】
前記N層の厚みは、前記I層の厚みより小さく、
前記N層の厚みは、前記P層の厚みより大きい、請求項1又は請求項2に記載の中性子半導体検出器。
【請求項4】
前記P層、前記I層及び前記N層が積層された方向から見て、前記第1電極が前記P層に接続された領域と重複する前記N層の領域に、複数の前記第2電極が設けられている、請求項1又は請求項2に記載の中性子半導体検出器。
【請求項5】
第1基板の主面に窒化ガリウム(GaN)を含むバッファ層を形成する工程と、
前記バッファ層の主面上に、N型半導体であるGaN又は窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)を含むN層と、GaNと窒化ボロン(BN)とを混晶させた真性半導体の窒化ボロンガリウム(BGaN)を含むI層と、P型半導体であるGaN又はBGaNを含むP層と、をこの順に積層する工程と、
前記P層の主面上に、前記P層に電気的に接続される第1電極を形成する工程と、
前記第1基板及び前記バッファ層を取り除くことにより、前記N層が露出した面を形成する工程と、
前記N層が露出した面に、前記N層に電気的に接続される第2電極を形成する工程と、を有する、中性子半導体検出器を製造する方法。
【請求項6】
前記バッファ層を形成する工程では、前記第1基板としてシリコンを主成分として含む基板を用いる、請求項5に記載の中性子半導体検出器を製造する方法。
【請求項7】
前記N層が露出した面を形成する工程では、ウエットエッチングを用いる、請求項6に記載の中性子半導体検出器を製造する方法。
【請求項8】
前記バッファ層を形成する工程では、前記第1基板として、多結晶窒化アルミニウム(AlN)を主成分として含む層と、前記窒化アルミニウム(AlN)を主成分として含む層の上に形成されたシリコンを主成分として含む層と、を含む複合基板を用いる、請求項5に記載の中性子半導体検出器を製造する方法。
【請求項9】
前記N層が露出した面を形成する工程では、高圧高温水エッチングを用いる、請求項8に記載の中性子半導体検出器を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子半導体検出器及び中性子半導体検出器を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1は、中性子検出器を開示する。特許文献1に記載の中性子検出器は、P型半導体又はN型半導体であるシリコン基板と、シリコン基板上に形成されたシリコン酸化膜と、シリコン酸化膜上に形成されたコンバータ層と、複数の検出部と、検出部に電気的に接続された配線と、を備えている。コンバータ層は、ホウ素(B)を含有することで中性子の入射に応じてα線を生成する。複数の検出部は、N型半導体又はP型半導体を有することでシリコン基板との間でPN接合を形成する。そして、複数の検出部は、コンバータ層により生成されたα線の入射に応じて電子及びホールを生成する。
【0003】
本願発明者らによる特許文献2も、中性子半導体検出器を開示する。この中性子半導体検出器は、サファイア基板上に形成されたP層、I層及びN層を含む積層体を有する。P層の主面には、I層及び第1電極が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-181065号公報
【特許文献2】特開2018-141749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
当該技術分野では、中性子半導体検出器の空間分解能の向上が望まれている。例えば、特許文献2の中性子半導体検出器9(図10(c)参照)は、絶縁体であるサファイア基板91上にP層92、I層93及びN層94を含む積層体がこの順で形成されている。検出器の機能を発揮するためには、最上層のN層94に電極94Eを設けると共に最下層のP層92にも電極92Eを設ける必要がある。最下層のP層92に電極92Eを設けるためには、まず、マスク97などを利用してN層94の一部94a及びI層93の一部93aをエッチングすることによりP層92を露出させる(図10(a)参照)。次に、露出させたP層92に対して電極92Eを設ける必要がある(図10(b)参照)。その後、パッシベーション膜98(図10(c)参照)を設けることにより中性子半導体検出器9が得られる。このエッチングにより形成された溝部は、中性子を検出する機能を奏しない。従って、中性子半導体検出器の空間分解能を向上させることが難しかった。
【0006】
本発明は、空間分解能を向上させることが可能な中性子半導体検出器及び中性子半導体検出器を製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態である中性子半導体検出器は、第1電極と、第1電極に接するように形成される主面を有し、第1電極に電気的に接続され、P型半導体である窒化ガリウム(GaN)又はGaNと窒化ボロン(BN)とを混晶させた窒化ボロンガリウム(BGaN)を含むP層と、P層において主面に対して逆側の裏面に接するように形成され、真性半導体であるBGaNを含むI層と、I層上に形成され、N型半導体であるGaN又は窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)を含むN層と、N層に電気的に接続され、N層上に配列された複数の第2電極と、を備える。
【0008】
この中性子半導体検出器は、P層に設けられた第1電極と、N層に配列された複数の第2電極と、を備えている。第1電極は、P層がI層と接する裏面とは逆側であるP層の主面に設けられている。この構成によると、第1電極を設けるために、N層及びI層をエッチングしてP層の主面を露出させる工程が不要である。その結果、中性子を検出する機能を奏しない溝部が形成されない。従って、中性子半導体検出器は、空間分解能を向上することができる。
【0009】
上記の中性子半導体検出器において、P層のキャリア濃度は1×1016cm-3以上1×1020cm-3以下であり、I層のキャリア濃度は0cm-3以上1×1016cm-3以下であり、N層のキャリア濃度は1×1016cm-3以上1×1020cm-3以下であってもよい。この構成によれば、中性子を良好に検出することができる。
【0010】
上記の中性子半導体検出器において、N層の厚みは、I層の厚みより小さく、N層の厚みは、P層の厚みより大きくてもよい。この構成によっても、中性子を良好に検出することができる。
【0011】
上記の中性子半導体検出器は、P層、I層及びN層が積層された方向から見て、第1電極がP層に接続された領域と重複するN層の領域に、複数の第2電極が設けられてもよい。この構成によれば、マルチアレイ構造である中性子半導体検出器を得ることができる。
【0012】
本発明の別の形態である中性子半導体検出器を製造する方法は、第1基板の主面に窒化ガリウム(GaN)を含むバッファ層を形成する工程と、バッファ層の主面上に、N型半導体であるGaN又は窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)を含むN層と、GaNと窒化ボロン(BN)とを混晶させた真性半導体の窒化ボロンガリウム(BGaN)を含むI層と、P型半導体であるGaN又はBGaNを含むP層と、をこの順に積層する工程と、P層の主面上に、P層に電気的に接続される第1電極を形成する工程と、第1基板及びバッファ層を取り除くことにより、N層が露出した面を形成する工程と、N層が露出した面に、N層に電気的に接続される第2電極を形成する工程と、を有する。
【0013】
この中性子半導体検出器を製造する方法は、N層、I層及びP層を形成した後に、P層の主面に第1電極を形成する。そして、第1基板及びバッファ層を取り除いたのちに、N層が露出した面に第2電極を形成する。つまり、第1電極を設けるために、N層及びI層をエッチングしてP層の主面を露出させる工程が不要である。その結果、中性子を検出する機能を奏しない溝部が形成されない。従って、中性子半導体検出器を製造する方法は、空間分解能を向上した中性子半導体検出器を得ることができる。
【0014】
上記の中性子半導体検出器を製造する方法において、バッファ層を形成する工程では、第1基板としてシリコンを主成分として含む基板を用いてもよい。そして、上記の中性子半導体検出器を製造する方法において、N層が露出した面を形成する工程では、ウエットエッチングを用いてもよい。この工程によっても、第1基板を容易に取り除くことができる。
【0015】
上記の中性子半導体検出器を製造する方法において、バッファ層を形成する工程では、第1基板として、多結晶窒化アルミニウム(AlN)を主成分として含む層と、窒化アルミニウム(AlN)を主成分として含む層の上に形成されたシリコンを主成分として含む層と、を含む複合基板を用いてもよい。そして、上記の中性子半導体検出器を製造する方法において、N層が露出した面を形成する工程では、高圧高温水エッチングを用いてもよい。この工程によっても、第1基板を容易に取り除くことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、空間分解能を向上させることが可能な中性子半導体検出器及び中性子半導体検出器を製造する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施形態の中性子半導体検出器を示す断面図である。
図2図2は、図1の中性子半導体検出器を示す斜視図である。
図3図3は、図1の中性子半導体検出器のI層における中性子を検出する原理を説明するための模式図である。
図4図4は、図1の中性子半導体検出器における第1電極と第2電極とに注目する平面図である。
図5図5は、図1の中性子半導体検出器を製造する方法の主要な工程を示すフローチャートである。
図6図6(a)は、図5に示す成長基板を準備する工程を示す断面図である。図6(b)は、図5に示すバッファ層を形成する工程を示す断面図である。図6(c)は、図5に示すN層、I層及びP層を形成する工程を示す断面図である。
図7図7(a)は、図5に示す第1電極を形成する工程を示す断面図である。図7(b)は、図5に示す支持基板を貼り合わせる工程を示す断面図である。図7(c)は、図5に示すN層を露出させる工程を示す断面図である。
図8図8(a)は、図5に示す反転させる工程を示す断面図である。図8(b)は、図5に示す第2電極を形成する工程を示す断面図である。
図9図9は、変形例の中性子半導体検出器を製造する方法において、N層を露出させる工程を示す断面図である。
図10図10(a)は、比較例の中性子半導体検出器を製造するときに実施するエッチング工程を示す断面図である。図10(b)は、比較例の中性子半導体検出器を製造するときに実施する電極をP層に形成する工程を示す断面図である。図10(c)は、比較例の中性子半導体検出器を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
図1は、本実施形態の中性子半導体検出器1を示す断面図である。図2は、図1の中性子半導体検出器1の斜視図である。図1及び図2に示すように、中性子半導体検出器1は、支持基板2と、積層体3と、信号読取部4と、を有する。中性子半導体検出器1は、中性子nの入射位置を特定可能である。中性子半導体検出器1は、検出する中性子nとホウ素(B)との中性子捕獲反応(10B(n、α)Li反応:図1中のR1)によりα線aとLiイオン粒子bを生成する。そして、中性子半導体検出器1は、α線aとLiイオン粒子による窒化ガリウム(GaN)の励起(図1中のR2)に応じて生成される電子e及びホールhを検出する。その結果、中性子半導体検出器1は、中性子nを検出することができる。中性子捕獲反応(10B(n、α)Li反応)とは、Bの原子核が中性子nを捕獲すると共にα線aとLiイオン粒子bを放出する反応である(図3参照)。
【0020】
支持基板2は、平面視において、例えば長方形状を呈している。支持基板2は、支持基板主面2aを含む。支持基板主面2aには、基板接続電極21と、基板出力電極22と、が設けられている。基板接続電極21は、配線23によって基板出力電極22に接続されている。基板接続電極21には、積層体3が配置されている。基板出力電極22には、信号読取部4が接続されている。
【0021】
積層体3は、第1電極31と、P層32と、I層33と、N層34と、第2電極35と、を有する。積層体3において、第1電極31、P層32、I層33、及びN層34のそれぞれは、一つずつ設けられている。第1電極31、P層32、I層33、及びN層34は、この順に積層されている。
【0022】
第1電極31は、支持基板2の基板接続電極21に接続されている。第1電極31は、一例としてAu/Ni電極が挙げられる。第1電極31の厚みは、一例として200nm以上300nm以下である。第1電極31は、P層32に対していわゆるオーミック接触を形成している。第1電極31は、P層32に接するNi層と、Ni層に接するAu層と、を有する。Ni層は、コンタクト層として機能する。Au層は、Ni層の酸化を防止する機能を奏する。なお、第1電極31の構成は、上記の構成に限定されず、P層32に対してオーミック接触を形成できる構成を採用してよい。
【0023】
第1電極31は、P層主面32aのほぼ全面に渡って形成されている。第1電極31は、一つの電極層であり、第2電極35のように複数のパッドに分割されていない。単一の第1電極31がP層主面32aと接続された領域を第1接続領域A1(図4参照)と称する。
【0024】
P層32は、P層主面32aと、P層裏面32bとを有する。P層主面32aは、第1電極31に接する。P層裏面32bは、I層33に接する。
【0025】
P層32は、P型半導体のGaNを含む。P層32は、例えばマグネシウムをドーパントとして含む。P層32のキャリア(ホール)濃度は、例えば1×1016cm-3以上1×1020cm-3以下の範囲であってもよい。P層32はGaNに限らず、I層33上に作成が可能なP型半導体結晶であればよい。例えばGaNと窒化ボロン(BN)とを混晶させた窒化ボロンガリウム(BGaN)などにマグネシウムを同様のキャリア濃度でドーピングしたものが容易に形成可能である。P層32は、第1電極31に接する。P層32は、平面視において、第1電極31の外縁と一致してもよいし、一致しなくてもよい。
【0026】
I層33は、I層主面33aと、I層裏面33bとを有する。I層主面33aは、P層32のP層裏面32bに接する。I層裏面33bは、N層34に接する。
【0027】
I層33は、GaNとBとを混晶させた真性半導体のBGaNを含んでいる。ここで、「混晶させる」とは、III族窒化物であるGaNに、同じくIII族窒化物のBNを取り込ませることを意味している。また、ここでの「真性半導体」とは、I層33のキャリア濃度がP層32及びN層34のキャリア濃度よりも低いことを意味する。より具体的には、I層33のキャリア濃度は、例えば0cm-3以上1×1016cm-3以下である。なお、I層33のキャリア濃度は、I層33を空乏化することができる値であればよい。
【0028】
N層34は、N層主面34aと、N層裏面34bとを有する。N層主面34aは、I層裏面33bに接する。N層裏面34bには、複数の第2電極35が設けられる。N層34は、N型半導体のGaNを含んでいる。N層34のキャリア(電子)濃度は、例えば1×1016cm-3以上1×1020cm-3以下である。N層34は、I層33に接触したN型半導体結晶であればよい。例えば、GaNと窒化アルミニウム(AlN)との混晶である窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)にシリコンをドーピングしたN型AlGaNなどが利用可能である。
【0029】
ここで、P層32、I層33及びN層34の厚みについて説明する。これらの半導体層の厚みを例示すると、P層32の厚みは100nm以上1μm以下であり、I層33の厚みは5μm以上20μm以下であり、N層34の厚みは2μm以上10μm以下であってもよい。仮に、N層34を基準とした場合には、N層34の厚みは、I層33の厚みより小さい。N層34の厚みは、P層の厚みより大きい。さらに、N層34の厚みは、第1電極31の厚みと同程度であるとも言える。
【0030】
第2電極35は、N層34に電気的に接続されるように、N層34上に形成されている。第2電極35は、N層34上に複数配列されている。図2には、49個の第2電極35が図示されている。より具体的には、各第2電極35は、平面視において、例えば正方形状を呈し、N層34上に互いに離間して7行7列のマトリックス状に(すなわち、格子点の位置に)配列されている。なお、第2電極35は、7行7列のマトリックス状に配列されていなくてもよく、これとは行数及び列数の少なくとも一方が異なるマトリックス状に配列されていてもよい。また、第2電極35は、マトリックス状に配列されていなくてもよく、例えばハニカム状に配列されていてもよい。第2電極35としては、一例としてAl電極が挙げられるが、これに限定されない。第2電極35は、N層34上にオーミック接触を形成することができる電極であればよい。
【0031】
複数の第2電極35がN層裏面34bと接続された領域を第2接続領域A2(図4参照)と称する。そして、第2接続領域A2は、第1接続領域A1に重複する。
【0032】
図1に示すように、信号読取部4は、電源41と、信号読取回路42と、を有する。また、信号読取部4は、電線43と、グラウンド(接地)44と、を有する。電線43は、積層体3、電源41、及び信号読取回路42を電気的に直列に接続する。グラウンド(接地)44は、電線43において積層体3と電源41との間に電気的に接続されている。
【0033】
電源41は、直流可変電源である。電源41は、第1電極31が正極となり、第2電極35が負極となるように、積層体3に対して電圧を印加する。すなわち、電源41は、第1電極31と第2電極35との間にP層32、I層33、及びN層34により構成されたダイオード構造に対するバイアス電圧を印加する。
【0034】
信号読取回路42は、第1電極31と第2電極35との間の電気信号を読み取る回路である。信号読取回路42は、電線43を介して、第1電極31及び各第2電極35に電気的に接続されている。信号読取回路42の具体的な回路構成は、特定の回路構成に限定されない。例えば、信号読取回路42は、各第2電極35に流れ込んだ電荷を順に読み出す構成であってもよく、或いは、信号読取回路42は、各第2電極35に対応する複数の回路が並列に設けられ、各回路に対応する第2電極35に流れ込んだ電荷を当該回路がそれぞれ読み出す構成であってもよい。
【0035】
[中性子半導体検出器の動作]
図3は、図1の中性子半導体検出器のI層33における中性子検出の原理を説明するための模式図である。図1及び図3に示すように、中性子nが中性子半導体検出器1のI層33の有感層(空乏層)に入射すると、当該中性子nの一部と、I層33に含有され、他の元素と比較して中性子nの質量減弱係数の大きいボロン(B)と、の間で中性子捕獲反応(10B(n、α)Li反応:図1及び図3中のR1)が起こる。これにより、あらゆる方向(特に限定されない方向)にα線aが生成されると共に、α線aと反対方向にLiイオン粒子bが生成する。また、様々な場所において即発γ線gが放出される。
【0036】
生成されたα線aとLiイオン粒子bは、同じI層33に含有されるGaNを励起(図1及び図3中のR2)して電子e及びホールhを生成する。つまり、生成されたα線aとLiイオン粒子bは、その進行する方向によらず、GaNを励起して電子e及びホールhを生成する。一方、γ線のGaNに対する透過性が高いことから、生成されたγ線gは、I層33を透過して外部へと進行する。
【0037】
ここで、図1に示すように、電源41により第1電極31と第2電極35との間にP層32、I層33、及びN層34に対するバイアス電圧が印加されると、ホールhがP層32を通過して第1電極31に到達し、電子eがN層34を通過して第2電極35に到達する。一般に、ホールhがP層32を通過する抵抗よりも電子eがN層34を通過する抵抗の方が小さい。このため、電子eは、I層33からN層34を通過して第2電極35に到達するまでP層32、I層33、及びN層34の積層方向Dに沿って直線的に進行する。これにより、電子eのうち、N層34上に配列された複数の第2電極35のそれぞれの直下において生成された電子eは、その直上に位置する当該第2電極35に到達する。図1においては、複数の第2電極35のうちの第2電極35aの直下において生成された電子eが当該第2電極35aに到達し、第2電極35bの直下において生成された電子eが当該第2電極35bに到達することが示されている。
【0038】
また、信号読取回路42により、第2電極35に到達した電子eの数に対応する信号が第2電極35ごとに自動的に検出される。なお、複数の第2電極35のうち、いずれの第2電極35に電子eが到達するかについては、I層33における中性子nの入射位置に依存している。このため、各第2電極35に到達した電子eの数に対応する信号を第2電極35ごとに検出することにより、I層33における中性子nの入射位置に関する情報についても併せて取得することができる。
【0039】
[中性子半導体検出器を製造する方法]
図5に示すフローチャート、図6図7及び図8に示す工程図を参照しながら、中性子半導体検出器1を製造する方法について説明する。
【0040】
まず、成長基板60(第1基板)を準備する(S1:図6(a))。成長基板60として、例えば主面60aの面方位が(111)であるシリコン基板を用いてよい。
【0041】
次に、成長基板60の主面60aに窒化ガリウム(GaN)を含むバッファ層61を形成する(S2:図6(b))。バッファ層61は、成長基板60上に形成された層である。バッファ層61は、平面視において、バッファ層61の外縁が成長基板60の外縁と一致するように(すなわち、例えば長方形状に)形成されている。バッファ層61は、成長基板60上に低温で成長させることにより形成される。
【0042】
次に、バッファ層61の主面61a上にN層34、I層33及びP層32を形成する(S3:図6(c))。まず、バッファ層61の主面61aにN層34を成長する。続いて、N層34のN層主面34a上にI層33を成長する。続いて、I層33のI層主面33a上にP層32を成長する。
【0043】
次に、P層32のP層主面32a上に、P層32に電気的に接続される第1電極31を形成する(S4:図7(a))。
【0044】
次に、支持基板2を貼り合わせる(S5:図7(b))。その結果、第1中間形成物36を得る。
【0045】
次に、N層34を露出させる(S6:図7(c))。具体的には、第1中間形成物36から成長基板60及びバッファ層61を取り除く。取り除く処理には、ウエットエッチングを用いてよい。例えば、エッチング液として、フッ化水素:硝酸:酢酸=1:1:1が例示できる。当該エッチング液を用いて30分程度のエッチング処理を実行する。このエッチング(S6)により、成長基板60が除去される。ここで、この工程(S6)では、N層34がわずかにエッチングされてもよい。このようなエッチングによれば、N層34が露出した面(N層裏面34b)を確実に形成することができる。エッチング処理の結果、P層32、I層33、及びN層34を含む第2中間形成物37(自立基板)を得る。
【0046】
次に、第2中間形成物37を反転する(S7:図8(a))。
【0047】
次に、N層34が露出した面(N層裏面34b)に、N層34に電気的に接続される第2電極35を形成する(S8:図8(b))。
【0048】
上述した工程S1~S8を実行した結果、中性子半導体検出器1を得ることができる。
【0049】
<作用効果>
本願発明者らによる特許文献2(特開2018-141749号公報)に記載の中性半導体検出器は、真性半導体の窒化ボロンガリウム(BGaN)を含むI層を備えている。そして、特開2018-141749号公報に記載の中性半導体検出器は、中性子の入射位置を特定可能としつつ、中性子の検出効率を向上できる。
【0050】
しかし、この構造を有する中性子半導体検出器の製造については、いくつかの課題が有った。まず、第1に、図10(c)に示すように、中性子半導体検出器9は、サファイア基板91を用いている。そのため、サファイア基板91を剥離した後に、裏面電極を形成する工程に非常に時間を要すると共にコストも要する。従って、マルチピクセルアレイ構造を作成することが難しい。中性子半導体検出器が高い空間分解能を有するためには、垂直な凸構造であるメサを形成するためのエッチングによって形成される溝を含まない構造が望ましい。つまり、裏面電極形成が有用である。次に、第2に、十分な膜厚のI層93を形成する場合に、高段差のリフトオフプロセス技術の確立が必要である。
【0051】
本願発明者らは、上述の課題を鑑み、本願発明を想到するに至った。
【0052】
中性子半導体検出器1は、第1電極31と、第1電極31に接するように形成される主面を有し、第1電極31に電気的に接続され、P型半導体である窒化ガリウム(GaN)又はGaNと窒化ボロン(BN)とを混晶させた窒化ボロンガリウム(BGaN)を含むP層32と、P層32において主面に対して逆側の裏面に接するように形成され、真性半導体であるBGaNを含むI層33と、I層33上に形成され、N型半導体であるGaN又は窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)を含むN層34と、N層34に電気的に接続され、N層34上に配列された複数の第2電極35と、を備える。
【0053】
この中性子半導体検出器1は、P層32に設けられた第1電極31と、N層34に配列された複数の第2電極35と、を備えている。第1電極31は、P層32がI層33と接する裏面とは逆側であるP層32の主面に設けられている。この構成によると、第1電極31を設けるために、N層34及びI層33をエッチングしてP層32の主面を露出させる工程が不要である。その結果、中性子を検出する機能を奏しない溝部が形成されない。従って、中性子半導体検出器1は、空間分解能を向上することができる。
【0054】
要するに、中性子半導体検出器1は、積層体3を成長させる基板としてエッチングが可能なシリコン製の基板を用いる。その結果、成長基板6を容易に剥離することができるので、裏面電極を簡易な工程によって配置することができる。従って、BGaNを含むI層33を備えるマルチピクセルアレイ構造の中性子半導体検出器1を得ることができる。
【0055】
P層32のキャリア濃度は1×1016cm-3以上1×1020cm-3以下である。I層33のキャリア濃度は0cm-3以上1×1016cm-3以下である。N層34のキャリア濃度は1×1016cm-3以上1×1020cm-3以下である。この構成によれば、中性子を良好に検出することができる。
【0056】
中性子半導体検出器1において、N層34の厚みは、I層33の厚みより小さく、N層34の厚みは、P層32の厚みより大きい。この構成によっても、中性子を良好に検出することができる。
【0057】
中性子半導体検出器1は、P層32、I層33及びN層34が積層された方向から見て、第1電極31がP層32に接続された領域A1と重複するN層34の領域A2に、複数の第2電極35が設けられる。この構成によれば、マルチアレイ構造である中性子半導体検出器1を得ることができる。
【0058】
中性子半導体検出器を製造する方法は、成長基板60の主面に窒化ガリウム(GaN)を含むバッファ層61を形成する工程S2と、バッファ層61の主面上に、N型半導体であるGaN又は窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)を含むN層34と、GaNと窒化ボロン(BN)とを混晶させた真性半導体の窒化ボロンガリウム(BGaN)を含むI層33と、P型半導体であるGaN又はBGaNを含むP層32と、をこの順に積層する工程S3と、P層32の主面上に、P層32に電気的に接続される第1電極31を形成する工程S4と、成長基板60及びバッファ層61を取り除くことにより、N層34が露出した面(N層主面34a)を形成する工程S6と、N層34が露出した面(N層主面34a)に、N層34に電気的に接続される第2電極35を形成する工程S8と、を有する。
【0059】
中性子半導体検出器1を製造する方法は、N層34、I層33及びP層32を形成(S3)した後に、P層32の主面に第1電極31を形成する(S4)。そして、成長基板60及びバッファ層61を取り除いた(S6)後に、N層34が露出した面に第2電極35を形成する(S8)。つまり、第1電極31を設けるために、N層34及びI層33をエッチングしてP層32の主面を露出させる工程が不要である。その結果、中性子を検出する機能を奏しない溝部が形成されない。従って、この方法は、空間分解能を向上した中性子半導体検出器1を得ることができる。
【0060】
中性子半導体検出器1を製造する方法において、成長基板60としてシリコンを主成分として含む基板を用いる。そして、N層34が露出した面(N層裏面34b)を形成する工程S6では、ウエットエッチングを用いる。この工程S6によっても、成長基板60を容易に取り除くことができる。
【0061】
<変形例>
本発明の中性子半導体検出器1及び中性子半導体検出器1を製造する方法は、前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0062】
例えば、変形例の中性子半導体検出器では、図9に示すように、成長基板7としていわゆるQST基板(Qromis Substrate Technology)を用いてもよい。QST基板は、多結晶の窒化アルミニウム(AlN)を主成分として含む層71と、窒化アルミニウム(AlN)を主成分として含む層の上に形成されたシリコンを主成分として含む層72と、を含む複合基板である。QST基板の熱膨張係数は、GaN-on-Si構造の基板の熱膨張係数よりも、GaN基板の熱膨張係数に近い。その結果、絶縁耐性を1800V以上に高めることができる。シリコンを主成分として含む材料として、シリコン(Si)、窒化シリコン(SiN)及び酸化シリコン(SiO2)が例示できる。そして、シリコンを主成分として含む層72の上に、実施形態と同様に窒化ガリウム(GaN)を含むバッファ層73を形成する。
【0063】
変形例の中性子半導体検出器を製造する方法では、成長基板7としてQST基板を用いた場合、N層を露出させる工程では、高圧高温水エッチングを用いてもよい。これらのエッチング手法によれば、窒化アルミニウム(AlN)を主成分として含む層71はエッチングされないものの、シリコンを主成分として含む層72がエッチングされる。その結果、窒化アルミニウム(AlN)を主成分として含む層71を取り除くことができる。
【0064】
特に、高圧高温水エッチングを用いた場合、本願発明者らは、N層34が露出した面を形成する工程S6を1週間程度継続することによって、成長基板7を除去できることを確認している。この工程S6によっても、成長基板7を容易に取り除くことができる。
【符号の説明】
【0065】
1…中性子半導体検出器、2…支持基板、3…積層体、31…第1電極、32…P層、33…I層、34…N層、35,35a,35b…第2電極、4…信号読取部、41…電源、42…信号読取回路、43…電線、44…グラウンド(接地)、6,7…成長基板、61,73…バッファ層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10