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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175394
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】推論装置及び空調システム
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/62 20180101AFI20241211BHJP
   F24F 110/10 20180101ALN20241211BHJP
   F24F 110/20 20180101ALN20241211BHJP
   F24F 120/12 20180101ALN20241211BHJP
【FI】
F24F11/62
F24F110:10
F24F110:20
F24F120:12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093158
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 千尋
(72)【発明者】
【氏名】折戸 真理
【テーマコード(参考)】
3L260
【Fターム(参考)】
3L260BA02
3L260BA75
3L260CA03
3L260CA12
3L260CA13
3L260CA19
3L260EA04
3L260EA22
3L260FB01
(57)【要約】
【課題】ドアの開閉時において部屋内の特にドア付近にいる人の温熱不快感を抑制可能である推論装置等を提供する。
【解決手段】空調装置の制御に使用される、空調装置が設置された部屋のドアの開閉時におけるドアの周囲の温熱環境要素の変化を推論する推論装置は、推論用データを取得するデータ取得部と、推論用データから部屋のドアの開閉時におけるドアの周囲の温熱環境要素の変化を推論するための学習済モデルを用いて、データ取得部が取得した推論用データから部屋のドアの開閉時におけるドアの周囲の温熱環境要素の変化を出力する推論部と、を備える。推論用データは、部屋内の室温及び湿度、並びに、ドアが開くと部屋に通じる空間内の気温を含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調装置の制御に使用される、前記空調装置が設置された部屋のドアの開閉時における前記ドアの周囲の温熱環境要素の変化を推論する推論装置であって、
推論用データを取得するデータ取得部と、
前記推論用データから前記部屋の前記ドアの開閉時における前記ドアの周囲の温熱環境要素の変化を推論するための学習済モデルを用いて、前記データ取得部が取得した前記推論用データから前記部屋の前記ドアの開閉時における前記ドアの周囲の温熱環境要素の変化を出力する推論部と、を備え、
前記推論用データは、前記部屋内の室温及び湿度、並びに、前記ドアが開くと前記部屋に通じる空間内の気温を含み、
前記温熱環境要素は、前記ドアよりも前記部屋側の室温及び湿度を含む推論装置。
【請求項2】
請求項1に記載の推論装置と、
前記部屋内を空調する前記空調装置と、
前記空調装置を制御する制御装置と、
前記ドアの開閉を検知する開閉検知手段と、を備え、
前記制御装置は、前記ドアの開閉時に前記推論装置の推論結果に基づいて前記空調装置を制御する空調システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記ドアの開閉後に、前記ドアの周囲における前記ドアよりも前記部屋側の室温及び湿度が、前記ドアの開閉前の状態に近づくように前記空調装置を制御する請求項2に記載の空調システム。
【請求項4】
前記ドアの周囲における前記ドアよりも前記部屋側の室温及び湿度を検出する温湿度検出手段をさらに備え、
前記制御装置は、前記ドアの開閉時に、前記推論装置の推論結果及び前記温湿度検出手段の検出結果に基づいて前記空調装置を制御する請求項2又は請求項3に記載の空調システム。
【請求項5】
前記部屋における人の入退室を予測する入退室予測手段をさらに備え、
前記制御装置は、前記入退室予測手段により前記部屋における人の入退室が予測された場合に、前記空調装置に予め設定された予備動作を行わせる請求項2又は請求項3に記載の空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、推論装置及び空調システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空調空間の室温測定値と室温目標値とが一致するように空調機をフィードバック制御する空調制御装置において、空調空間に出入りするドアの開閉等外乱事象が発生した場合に外乱事象の指標値を算出し、変換関数を用いて指標値の移動平均値を外乱事象によって発生する室温測定値の変動を相殺するフィードバック制御のゲイン補正量に変換し、制御ゲイン補正量によりフィードバック制御の制御ゲインを補正するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-193324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示されるような技術においては、ドアの開閉により変化が生じたあとで適切な温熱環境となるようにフィードバック制御が行われることとなり、ドア付近の人が外気の流入等による温熱不快を感じることを避けるのが難しい。
【0005】
本開示は、このような課題を解決するためになされたものである。その目的は、ドアの開閉時における部屋内の温熱環境の変動を抑制し、部屋内の特にドア付近にいる人の温熱不快感を抑制可能である推論装置及び空調システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る推論装置は、空調装置の制御に使用される、前記空調装置が設置された部屋のドアの開閉時における前記ドアの周囲の温熱環境要素の変化を推論する推論装置であって、推論用データを取得するデータ取得部と、前記推論用データから前記部屋の前記ドアの開閉時における前記ドアの周囲の温熱環境要素の変化を推論するための学習済モデルを用いて、前記データ取得部が取得した前記推論用データから前記部屋の前記ドアの開閉時における前記ドアの周囲の温熱環境要素の変化を出力する推論部と、を備え、前記推論用データは、前記部屋内の室温及び湿度、並びに、前記ドアが開くと前記部屋に通じる空間内の気温を含み、前記温熱環境要素は、前記ドアよりも前記部屋側の室温及び湿度を含む。
【0007】
本開示に係る空調システムは、上記の推論装置と、前記部屋内を空調する前記空調装置と、前記空調装置を制御する制御装置と、前記ドアの開閉を検知する開閉検知手段と、を備え、前記制御装置は、前記ドアの開閉時に前記推論装置の推論結果に基づいて前記空調装置を制御する。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る推論装置及び空調システムによれば、ドアの開閉時における部屋内の温熱環境の変動を抑制し、部屋内の特にドア付近にいる人の温熱不快感を抑制可能であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る空調システムが設けられる建物の構成を模式的に示す図である。
図2】実施の形態1に係る空調システムが有する空調装置の斜視図である。
図3】実施の形態1に係る空調装置の要部を拡大して示す斜視図である。
図4】実施の形態1に係る空調システムの構成を示すブロック図である。
図5】実施の形態1に係る空調システムの第1推論装置の構成を示すブロック図である。
図6】実施の形態1に係る空調システムの動作例を示すフロー図である。
図7】実施の形態1に係る空調システムの第1学習装置の構成を示すブロック図である。
図8】実施の形態1に係る第1学習装置におけるニューラルネットワークの一例を示す図である。
図9】実施の形態1に係る第1学習装置の処理例を示すブロック図である。
図10】実施の形態1に係る空調システムの第2推論装置の構成を示すブロック図である。
図11】実施の形態1に係る空調システムの第2学習装置の構成を示すブロック図である。
図12】実施の形態1に係る空調システムの動作例を示すフロー図である。
図13】実施の形態1に係る空調システムの制御装置、推論装置等の機能を実現する構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示に係る推論装置及び空調システムを実施するための形態について添付の図面を参照しながら説明する。各図において、同一又は相当する部分には同一の符号を付して、重複する説明は適宜に簡略化又は省略する。以下の説明においては便宜上、図示の状態を基準に各構造の位置関係を表現することがある。なお、本開示は以下の実施の形態に限定されることなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において、各実施の形態の自由な組み合わせ、各実施の形態の任意の構成要素の変形、又は各実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。
【0011】
実施の形態1.
図1から図13を参照しながら、本開示の実施の形態1について説明する。図1は係る空調システムが設けられる建物の構成を模式的に示す図である。図2は係る空調システムが有する空調装置の斜視図である。図3は係る空調装置の要部を拡大して示す斜視図である。図4は係る空調システムの構成を示すブロック図である。図5は係る空調システムの第1推論装置の構成を示すブロック図である。図6は係る空調システムの動作例を示すフロー図である。図7は係る空調システムの第1学習装置の構成を示すブロック図である。図8は係る第1学習装置におけるニューラルネットワークの一例を示す図である。図9は係る第1学習装置の処理例を示すブロック図である。図10は空調システムの第2推論装置の構成を示すブロック図である。図11は空調システムの第2学習装置の構成を示すブロック図である。図12は空調システムの動作例を示すフロー図である。図13は空調システムの制御装置、推論装置等の機能を実現する構成の一例を示す図である。
【0012】
この実施の形態に係る空調システムは、図1に示すような建物10内の空気調和を行うものである。図1に示す例では、建物10内には部屋11及び廊下12が設けられている。部屋11には出入口が設けられており、この出入口を介して部屋11と廊下12とが通じている。部屋11の出入口にはドア13が開閉可能に設けられている。ドア13を開くことで、出入口が開かれて部屋11と廊下12とが通じる。ドア13が開かれた状態では、出入口を通じて部屋11内と廊下12との間で空気が自由に行き来できる。廊下12は、ドア13が開くと部屋11に通じる空間の一例である。ドア13が開くと部屋11に通じる空間は、この例に示すような廊下12に限られず、他に例えば、部屋11に隣接する別の部屋であってもよい。
【0013】
この実施の形態に係る空調システムは、空調装置20を備えている。空調装置20は、部屋11内の空気調和を行うことで、部屋11内の主に温熱的環境を制御する機器である。空調装置20は、部屋11に係る部屋の壁面又は天井面に設置される。ここで説明する構成例では、空調装置20が、天井面に2つ設置されている。
【0014】
空調装置20は、部屋11内の空気の温度、湿度等を調節することで部屋11内の空気調和を行う空調手段である。空調装置20は、冷房運転及び暖房運転の一方又は両方を含む空調運転が可能である。また、空調装置20は、除湿運転、加湿運転、送風運転のいずれか1つ以上の運転を可能としてもよい。
【0015】
この実施の形態の空調装置20は、空気調和装置の室内機である。室内機である空調装置20は、冷媒が流れる配管を介して、室外機と接続されている。この配管及び室外機の図示を、本開示では省略している。空気調和装置は、空調運転を実行するために必要な冷凍サイクルを構成する各機器を備えている。冷凍サイクルを構成する機器には、例えば、熱交換器及び圧縮機等が含まれる。
【0016】
図2に示すように、空調装置20は、筐体21を備えている。空調装置20の筐体21は、略直方体形を呈する箱状に形成されている。空調装置20の筐体21の下部には、矩形状又は正方形状の下面パネル22が設けられている。下面パネル22には、吸込口23が形成されている。吸込口23は、外部から筐体21の内部に空気を取り込むための開口である。吸込口23には、図示しないフィルタが搭載されている。図2に示す構成例では、吸込口23は、下面パネル22の中央に配置されている。
【0017】
また、下面パネル22には、吹出口24が形成されている。吹出口24は、筐体21の内部から外部へと空気を排出するための開口である。図示の構成例では、下面パネル22には、4つの吹出口24が形成されている。4つの吹出口24は、図2に示すように、吸込口23の周囲に配置されている。4つの吹出口24は、それぞれ、下面パネル22の各辺に沿って設けられている。
【0018】
図2及び図3に示すように、空調装置20は、上下ルーバー25及び左右ルーバー26を備えている。上下ルーバー25及び左右ルーバー26は、吹出口24のそれぞれに設けられている。上下ルーバー25は、吹出口24から吹き出される空気の上下方向の吹き出し角度を調整するためのものである。左右ルーバー26は、吹出口24から吹き出される空気の左右方向の吹き出し角度を調整するためのものである。
【0019】
上下ルーバー25は、矩形の板状を呈する部材である。上下ルーバー25の一端は、吹出口24の縁部のうちの、下面パネル22の中央側の部分に、回動可能に取り付けられている。この一端を軸にして上下ルーバー25が回動することで、吹出口24から吹き出される空気の上下方向の吹き出し角度が変更される。
【0020】
特に図3に示すように、左右ルーバー26は、矩形の板状を呈する複数枚の部材によって構成されている。この矩形の板状を呈する複数枚の部材は、吹出口24の長手方向に垂直な方向に沿うように配置されている。左右ルーバー26の一端は、吹出口24の縁部の奥側部分に、回動可能に取り付けられている。この一端を軸にして左右ルーバー26が回動することで、吹出口24から吹き出される空気の左右方向の吹き出し角度が変更される。
【0021】
以上のように構成された上下ルーバー25及び左右ルーバー26は、吹出口24から室内に空気が吹き出される方向を変更可能な風向変更手段の一例である。この実施の形態における空調装置20は、上下ルーバー25の向きと左右ルーバー26の向きとの組み合わせを変更することで、様々な方向への送風が可能である。
【0022】
また、上下ルーバー25の向きが最も上向きにされることで、吹出口24は当該上下ルーバー25によって閉塞される。この実施の形態における空調装置20は、複数の吹出口24のうちの一部の吹出口24を上下ルーバー25によって閉塞することで、当該一部の吹出口からの送風を停止することが可能である。
【0023】
筐体21の内部には、吸込口23から吹出口24へと通じる風路が形成されている。吸込口23から吹出口24へと通じる風路内には、熱交換器及び送風ファン27が設置されている。なお、図2及び図3では、送風ファン27の図示を省略している。熱交換器は、風路を流れる空気と冷媒との間での熱交換によって、当該空気を加熱又は冷却する。熱交換器によって空気が加熱されるか冷却されるかは、空調装置20が実行する空調運転の種類に依る。熱交換器は、空気を加熱又は冷却することで、当該空気の温度及び湿度等を調整し、調和空気を生成する。具体的には、暖房運転時には、熱交換器は、空気を加熱する。冷房運転時には、熱交換器は、空気を冷却する。また、送風運転時には、熱交換器を通過した空気は、常温の調和空気として生成される。
【0024】
送風ファン27は、吸込口23から吹出口24へと向かう空気流を筐体21の内部の風路中に生成するためのものである。送風ファン27が動作すると、吸込口23から空気が吸い込まれ、吹出口24から空気が吹き出される。吸込口23から吸い込まれた空気は、空調装置20の筐体21の内部の風路を、熱交換器、送風ファン27の順に通過する。送風ファン27を通過した空気、すなわち調和空気は、吹出口24から吹き出される。暖房運転時には、吹出口24から温風が吹き出される。冷房運転時には、吹出口24から冷風が吹き出される。送風運転時には、吹出口24から常温の風が吹き出される。この際、吹出口24から空気が吹き出される方向は、送風ファン27の風下側に配置された上下ルーバー25及び左右ルーバー26により調整される。空調装置20は、様々な温度の空気を様々な方向へ送風することができる。
【0025】
この実施の形態に係る空調システムは、温湿度センサ30を備えている。ここで説明する構成例では、温湿度センサ30として、第1温湿度センサ31、第2温湿度センサ32、第3温湿度センサ33及び第4温湿度センサ34の4つが設けられている。ただし、温湿度センサ30の数は4つに限られず、1つ以上の温湿度センサ30が設けられていればよい。また、温湿度センサ30が設けられていなくともよい。
【0026】
第1温湿度センサ31は、部屋11内の室温及び湿度を検出するセンサである。第2温湿度センサ32は、ドア13の周囲における部屋11側の室温及び湿度を検出するセンサである。第3温湿度センサ33は、廊下12内の気温及び湿度を検出するセンサである。第4温湿度センサ34は、屋外すなわち建物10の外の気温及び湿度を検出するセンサである。なお、第3温湿度センサ33は、廊下12内の気温のみを検出してもよい。また、第4温湿度センサ34は、屋外の気温のみを検出してもよい。
【0027】
ここで説明する構成例では、空調装置20の筐体21の下面部に表面温度センサ35が設けられている。表面温度センサ35は、部屋11内の被検出体の表面温度を非接触で検出するセンサである。表面温度センサ35は、部屋11内の被検出体の表面温度を周期的に検出する。表面温度センサ35は、例えば、図示しない複数のサーモパイルを有する赤外線センサを備えた構成でもよい。表面温度センサ35は、この赤外線センサを回転駆動することで温度検出範囲を走査し、赤外線センサの出力を用いて温度検出範囲の熱画像データを生成してもよい。温度検出範囲内の被検出体には、例えば、人体、床面、及び、壁面等が含まれ得る。表面温度センサ35を用いることにより、部屋11内における人の有無を判定することができるとともに、部屋11内に人が存在する場合には人の位置の特定及び人の体の表面温度の検出が可能となる。
【0028】
表面温度センサ35は、サーモパイルに代えて、SOI(Silicon on Insulator)ダイオード方式の非冷却赤外線イメージセンサを備えていてもよい。SOIダイオード方式の場合、センサ部にシリコンダイオードを使用しているため、シリコン半導体ラインのみで製造可能であり、生産コストが安いというメリットがある。
【0029】
表面温度センサ35は、このような構成により、前述した対象範囲内を走査して当該範囲内の表面温度分布を非接触で取得する。表面温度センサ35の検出結果、すなわち、表面温度センサにより取得した表面温度分布データを、後述する制御装置100等で処理することで、例えば背景との温度差から、室内における人を含む熱源の有無及びその位置、人体の表面皮膚温度、人の身体の部位(肌の露出部と非露出部、頭部等)等を検出することができる。
【0030】
また、表面温度センサ35の検出結果に基づいて、室内の人の体感温度も得ることができる。この場合、肌を露出している人体ほど体感温度を検出しやすい。さらに、表面温度センサにより取得した表面温度分布データを、制御装置100等で処理することで、部屋11内にいる人数も検出できる。さらに、部屋11内の人数の変化から、部屋11への人の入退出も検知できる。
【0031】
次に、図4も参照しながら、この実施の形態に係る空調システムの構成について説明を続ける。この実施の形態に係る空調システムは、空調装置20に加えて、情報取得装置40、第1予測装置50、ドア開閉検知装置70及び制御装置100をさらに備えている。情報取得装置40は、第1予測装置50及びドア開閉検知装置70と通信可能である。第1予測装置50は制御装置100と通信可能である。制御装置100は、空調装置20と通信可能である。ドア開閉検知装置70は、第1予測装置50及び制御装置100と通信可能である。これらの装置間における通信は、有線方式であっても無線方式であってもよい。
【0032】
情報取得装置40は、空調システムの動作に必要な各種情報を情報源から取得する。図示の構成例では、情報源として温湿度センサ30及び表面温度センサ35等の各種センサ類、並びに、外部サーバ及び外部システム等がある。情報取得装置40は、温湿度センサ30及び表面温度センサ35のそれぞれと通信可能である。情報取得装置40と温湿度センサ30及び表面温度センサ35との通信は、有線方式であっても無線方式であってもよい。情報取得装置40は、これらの温湿度センサ30及び表面温度センサ35の検出データを取得する。
【0033】
情報取得装置40は、例えば、外部システムである入退室管理システムから、ドア13の開閉情報を取得する。入退室管理システムは、建物10の部屋11等への人の入退室を管理するシステムである。入退室管理システムは、例えば、常時はドア13を電気錠により施錠し、部屋11内に入ろうとする人の認証を行う。そして、認証に成功した場合に、入退室管理システムは、電気錠を解錠する。情報取得装置40は、入退室管理システムでなく、ドア13に設けられたドア開閉センサの検出結果をドア13の開閉情報として取得してもよい。
【0034】
ドア開閉検知装置70は、情報取得装置40が取得したドア13の開閉情報に基づいて、ドア13の開閉を検知する。ドア開閉検知装置70は、ドア13の開閉を検知する開閉検知手段の一例である。
【0035】
第1予測装置50は、情報取得装置40が取得した情報に基づいて、ドア13の開閉時におけるドア13の周囲の温熱環境要素の変化を予測する。本開示においては、ドア13の開閉時におけるドア13の周囲の温熱環境要素の変化のことを、短くして「ドア開閉時温熱環境変化」ともいう。第1予測装置50は、例えば図5に示すような第1推論装置51を有している。第1推論装置51は、ドア開閉時温熱環境変化を推論するものである。第1推論装置51が、ドア13の開閉時におけるその変化を推論する温熱環境要素には、少なくとも、ドア13よりも部屋11側の室温及び湿度が含まれている。温熱環境要素には、さらに、ドア13よりも部屋11側の輻射熱、気流等が含まれていてもよい。
【0036】
第1推論装置51は、第1推論用データ取得部52及び第1推論部53を備えている。第1推論装置51には、第1推論用データが入力される。第1推論用データ取得部52は、第1推論装置51に入力された第1推論用データを取得する。第1推論装置51に入力される第1推論用データには、部屋11内の室温及び湿度、並びに、廊下12内すなわちドア13が開くと部屋11に通じる空間内の気温が少なくとも含まれている。第1推論用データの部屋11内の室温及び湿度は、情報取得装置40により取得された、第1温湿度センサ31の検出データが使用される。第1推論用データの廊下12内の気温は、情報取得装置40により取得された、第3温湿度センサ33の検出データが使用される。
【0037】
第1予測装置50は、第1学習済モデル記憶部81をさらに備えている。第1学習済モデル記憶部81には、第1学習済モデルが記憶されている。第1学習済モデル記憶部81に記憶される第1学習済モデルは、第1推論用データからドア開閉時温熱環境変化を推論するためのものである。学習済モデル記憶部90に記憶される学習済モデルは、例えば、後述する第1学習装置210により生成される。
【0038】
第1推論装置51の第1推論部53は、第1学習済モデル記憶部81に記憶されている第1学習済モデルを用いて、第1推論用データ取得部52が取得した第1推論用データすなわち部屋11内の室温及び湿度並びに廊下12内の気温から、ドア開閉時温熱環境変化を推論する。第1推論部53は、第1推論用データ取得部52が取得した入力データを、第1学習済モデルに入力することで、入力データから推論されるドア開閉時温熱環境変化を出力することができる。
【0039】
このようにして、第1推論部53は、入力データからドア開閉時温熱環境変化を推論するための第1学習済モデルを用いて、第1推論用データ取得部52が取得した入力データからドア開閉時温熱環境変化を出力する。そして、第1予測装置50は、第1推論部53による出力を、ドア開閉時温熱環境変化の予測として出力する。
【0040】
制御装置100は、空調装置20の動作を制御する。より詳しくは、制御装置100は、例えば、空調装置20の上下ルーバー、左右ルーバー26、送風ファン27、圧縮機28等の動作を制御することで、空調装置20の動作を制御する。
【0041】
制御装置100は、制御内容決定部111及び制御部112を備えている。この実施の形態に係る空調システムにおいては、ドア開閉検知装置70によりドア13の開閉が検知された場合に、制御内容決定部111は、第1予測装置50から出力された、ドア開閉時温熱環境変化の予測に基づいて、空調装置20の制御内容を決定する。そして、制御部112は、制御内容決定部111で決定された制御内容に従って、空調装置20の動作を制御する。すなわち、制御装置100は、ドア13の開閉時に第1推論装置51の推論結果に基づいて空調装置20を制御する。
【0042】
より詳しくは、ドア開閉検知装置70によりドア13の開閉が検知された場合に、制御内容決定部111は、第1予測装置50によるドア開閉時温熱環境変化の予測に基づいて、ドア13の開閉時におけるドア13の周囲の温熱環境要素すなわち少なくとも温度及び湿度の変化を相殺するように、空調装置20の制御内容を決定する。すなわち、制御内容決定部111は、ドア13の開閉後に、ドア13の周囲におけるドア13よりも部屋11側の室温及び湿度が、ドア13の開閉前の状態に近づくように、空調装置20の制御内容を決定する。
【0043】
例えば、夏季に空調装置20が冷房運転中であり、ドア13の開閉により廊下12の暖かい空気が部屋11内に流入し、部屋11内のドア13の周囲の室温及び湿度が上昇することを第1予測装置50が予測した場合、制御内容決定部111は、空調装置20から冷たく乾燥した空気を部屋11内のドア13側へと送風するように制御内容を決定する。また、冬季に空調装置20が暖房運転中であり、ドア13の開閉により廊下12の冷たい空気が部屋11内に流入し、部屋11内のドア13の周囲の室温が低下することを第1予測装置50が予測した場合、制御内容決定部111は、空調装置20から暖かい空気を部屋11内のドア13側へと送風するように制御内容を決定する。あるいは、梅雨又は秋雨の時季に空調装置20が除湿運転中であり、ドア13の開閉により廊下12の湿った空気が部屋11内に流入し、部屋11内のドア13の周囲の湿度が上昇することを第1予測装置50が予測した場合、制御内容決定部111は、空調装置20から乾燥した空気を部屋11内のドア13側へと送風するように制御内容を決定する。
【0044】
次に、以上のように構成された空調システムの動作例について、図6のフロー図を参照しながら説明する。まず、ステップS11において、第1推論装置51の第1推論用データ取得部52は、前述した第1推論用データを取得する。続くステップS12において、第1推論装置51の第1推論部53は、ステップS11で取得した入力データすなわち第1推論用データを第1学習済モデル記憶部81に記憶されている第1学習済モデルに入力する。さらに続くステップS13において、第1推論部53は、ステップS12で第1学習済モデルに入力データを入力して得られた推論結果である、ドア開閉時温熱環境変化のデータを出力する。
【0045】
ステップS13で第1推論部53から出力されたデータは、制御装置100に入力される。ステップS13の後、制御装置100は次にステップS14の処理を行う。ステップS14においては、制御装置100は、ドア13の開閉後に、ドア13の周囲におけるドア13よりも部屋11側の室温及び湿度が、ドア13の開閉前の状態に近づくように空調装置20を制御する。ステップS14の処理が完了すれば、一連の動作は終了となる。このようにして、制御装置100は、ドア13の開閉後に、ドア13の周囲におけるドア13よりも部屋11側の室温及び湿度が、ドア13の開閉前の状態に近づくように空調装置20を制御する。
【0046】
以上のように構成された第1推論装置51によれば、ドア13の開閉時における部屋11内の温熱環境の変化を推論できる。そして、第1推論装置51を備えた空調システムによれば、第1推論装置51の推論結果に基づいて、ドア13の開閉時に部屋11内の温熱環境が実際に変化する前、あるいは、変化した直後に、今後に起こり得る温熱環境の変化を相殺するように空調装置20を制御できる。このため、ドア13の開閉時における部屋11内の温熱環境の変動を抑制し、部屋内の特にドア付近にいる人の温熱不快感を抑制可能である。
【0047】
なお、空調装置20から部屋11内のドア13側へ送風する際、例えば、表面温度センサ35により部屋11内のドア13側にいる人が検出されている場合、当該ドア13側の人に向けて空調装置20から送風してもよい。このようにすることで、ドア13側にいる人が、ドア13の開閉による温度、湿度の変化により温熱的不快を感じることを抑制できる。あるいは、空調装置20から当該ドア13側の人に向けずにドア13に直接向けて送風してもよい。このようにすることで、ドア13側にいる人が風によるいわゆる「吹かれ感」によるストレスを受けることなく、ドア13の周囲の温熱環境変化を抑えることができる。
【0048】
また、制御装置100は、第1予測装置50の予測結果だけでなく、第2温湿度センサ32により検出された、ドア13の周囲における部屋11側の室温及び湿度にも基づいて、空調装置20の制御を行ってもよい。第2温湿度センサ32は、ドア13の周囲におけるドア13よりも部屋11側の室温及び湿度を検出する温湿度検出手段である。この場合、ドア開閉検知装置70によりドア13の開閉が検知された場合に、制御内容決定部111は、第1予測装置50から出力されたドア開閉時温熱環境変化の予測と、第2温湿度センサ32により検出された、ドア13の周囲における部屋11側の室温及び湿度とに基づいて、空調装置20の制御内容を決定する。そして、制御部112は、制御内容決定部111で決定された制御内容に従って、空調装置20の動作を制御する。すなわち、制御装置100は、ドア13の開閉時に第1推論装置51の推論結果及び温湿度検出手段の検出結果に基づいて空調装置20を制御する。このようにすることで、ドア13の周囲におけるドア13よりも部屋11側の室温及び湿度が第1予測装置50の予測結果とずれた場合であっても、空調装置20を適切に制御できる。
【0049】
空調システムが複数の空調装置20を有する場合、複数の空調装置20を互いに独立して制御してもよい。例えば、部屋11内にドア13に近い空調装置20と、ドア13から遠い空調装置20とがある場合、ドア13開閉時における第1予測装置50の予測結果に基づく制御を、ドア13に近い空調装置20のみについて行い、ドア13から遠い空調装置20については通常通りの制御としてもよい。
【0050】
空調システムは、第1予測装置50により、ドア13開閉による温熱環境変化が予め設定された基準よりも大きくなることを示す予測がなされた場合、部屋11内の人にドア13から離れた場所への移動等を促す報知を行ってもよい。この報知は、例えば、空調装置20のリモコン、部屋11内の人が所持するスマートフォン、スマートウォッチ、部屋11内に設置されたスマートスピーカー、スマートテレビ等を用いて行うことが考えられる。
【0051】
この実施の形態に係る空調システムは、図7に示すような第1学習装置210をさらに備えてもよい。第1学習装置210は、ドア開閉時温熱環境変化を学習するものである。第1学習装置210が、ドア13の開閉時におけるその変化を学習する温熱環境要素には、少なくとも、ドア13よりも部屋11側の室温及び湿度が含まれている。次に、図7を参照しながら、第1学習装置210の構成について説明する。同図に示すように、第1学習装置210は、第1学習用データ取得部211及び第1モデル生成部212を備えている。
【0052】
第1学習用データ取得部211は、第1学習用データを取得する。第1学習用データには、部屋11内の室温及び湿度並びに廊下12内の気温と、ドア開閉時温熱環境変化とが含まれている。第1学習用データは、部屋11内の室温及び湿度並びに廊下12内の気温と、ドア開閉時温熱環境変化とを互いに関連付けたデータである。
【0053】
第1モデル生成部212は、部屋11内の室温及び湿度並びに廊下12内の気温と、ドア開閉時温熱環境変化との組み合わせに基づいて作成された前述の学習用データから、ドア開閉時温熱環境変化を学習する。すなわち、第1モデル生成部212は、第1学習用データ取得部211が取得した学習用データを用いて、部屋11内の室温及び湿度並びに廊下12内の気温から、ドア開閉時温熱環境変化を推論する第1学習済モデルを生成する。
【0054】
第1モデル生成部212が用いる学習アルゴリズムは、教師あり学習等の公知のアルゴリズムを用いることができる。一例として、ニューラルネットワークを適用した場合について説明する。第1モデル生成部212は、例えば、ニューラルネットワークモデルに従って、いわゆる教師あり学習により、ドア開閉時温熱環境変化を学習する。ここで、教師あり学習とは、入力と結果(ラベル)のデータの組を学習装置80に与えることで、それらの学習用データにある特徴を学習し、入力から結果を推論する手法をいう。
【0055】
ニューラルネットワークは、複数のニューロンからなる入力層、複数のニューロンからなる中間層(隠れ層)、及び、複数のニューロンからなる出力層で構成される。中間層は、1層又は2層以上でもよい。例えば、図8に示すような3層のニューラルネットワークであれば、複数の入力が入力層(X1-X3)に入力されると、その値に重みW1(w11-w16)を掛けて中間層(Y1-Y2)に入力され、その結果にさらに重みW2(w21-w26)を掛けて出力層(Z1-Z3)から出力される。この出力結果は、重みW1とW2の値によって変わる。
【0056】
本開示において、ニューラルネットワークは、第1学習用データ取得部211によって取得された部屋11内の室温及び湿度並びに廊下12内の気温とドア開閉時温熱環境変化との組み合わせに基づいて作成された前述の第1学習用データに基づいて、いわゆる教師あり学習により、ドア開閉時温熱環境変化を学習する。すなわち、ニューラルネットワークは、部屋11内の室温及び湿度並びに廊下12内の気温を入力層に入力して出力層から出力された結果が、ドア開閉時温熱環境変化に近くなるように重みW1とW2を調整することで学習する。
【0057】
第1モデル生成部212は、以上のような学習を実行することで第1学習済モデルを生成し、出力する。第1学習済モデル記憶部81は、第1モデル生成部212から出力された第1学習済モデルを記憶する。第1学習済モデル記憶部81は、前述したように、例えば、第1予測装置50に設けられてもよい。また、第1学習済モデル記憶部81を第1学習装置210に設けてもよい。なお、第1学習装置210で用いられる学習アルゴリズムとしては、特徴量そのものの抽出を学習する、深層学習(Deep Learning)を用いることもでき、他の公知の方法でもよい。
【0058】
次に、以上のように構成された第1学習装置210の動作例について、図9のフロー図を参照しながら説明する。まず、ステップS21において、第1学習用データ取得部211は、第1学習用データを取得する。なお、第1学習用データに含まれる部屋11内の室温及び湿度並びに廊下12内の気温と、ドア開閉時温熱環境変化のデータを同時に取得するものとしたが、これらのデータを関連づけて入力できればよく、部屋11内の室温及び湿度並びに廊下12内の気温とドア開閉時温熱環境変化のデータとをそれぞれ別のタイミングで取得してもよい。
【0059】
ステップS21の後、第1学習装置210は次にステップS22の処理を行う。ステップS22においては、第1モデル生成部212は、ステップS21で取得された第1学習用データを用いて、いわゆる教師あり学習により、ドア開閉時温熱環境変化を学習し、第1学習済モデルを生成する。続くステップS23において、第1学習済モデル記憶部81は、ステップS22で生成された第1学習済モデルを記憶する。ステップS23の処理が完了すれば、一連の動作は終了となる。
【0060】
なお、第1モデル生成部212は、外部から第1学習済モデルを取得して用いてもよい。また、第1モデル生成部212は、複数の空調装置20に対して作成される第1学習用データに従って、ドア開閉時温熱環境変化を学習するようにしてもよい。なお、第1モデル生成部212は、同一のエリアで使用される複数の空調装置20から第1学習用データを取得してもよいし、異なるエリアで独立して動作する複数の空調装置20から収集される第1学習用データを利用してドア開閉時温熱環境変化を学習してもよい。また、第1学習用データを収集する空調装置20を途中で対象に追加したり、対象から除去したりすることも可能である。さらに、ある空調装置20に関してドア開閉時温熱環境変化を学習した第1学習装置210を、これとは別の空調装置20に適用し、当該別の空調装置20に関してドア開閉時温熱環境変化を再学習して更新するようにしてもよい。
【0061】
この実施の形態に係る空調システムは、図4に示すように、第2予測装置60をさらに備えてもよい。第2予測装置60は、情報取得装置40及び制御装置100と通信可能である。これらの装置間における通信は、有線方式であっても無線方式であってもよい。
【0062】
第2予測装置60は、情報取得装置40が取得した情報に基づいて、建物10全体における温熱環境要素の変化を予測する。本開示においては、建物10全体の温熱環境要素の変化のことを、短くして「建物温熱環境変化」ともいう。第2予測装置60は、例えば図10に示すような第2推論装置61を有している。第2推論装置61は、建物温熱環境変化を推論するものである。第2推論装置61がその変化を推論する温熱環境要素には、少なくとも部屋11内の室温及び湿度が含まれている。第2推論装置61がその変化を推論する温熱環境要素に、さらに、部屋11内の輻射熱、気流、廊下12内の気温等が含まれていてもよい。
【0063】
第2推論装置61は、第2推論用データ取得部62及び第2推論部63を備えている。第2推論装置61には、第2推論用データが入力される。第2推論用データ取得部62は、第2推論装置61に入力された第2推論用データを取得する。第2推論装置61に入力される第2推論用データには、気象情報、部屋11内の室温及び湿度、並びに、廊下12内すなわちドア13が開くと部屋11に通じる空間内の気温が少なくとも含まれている。この場合、情報取得装置40は、外部サーバから例えばインターネット等の通信回線を介して気象情報を取得する。情報取得装置40が取得する気象情報には、例えば、建物10がある地域の気象予報、日の出日の入り時刻、太陽南中高度等が含まれる。なお、第2推論用データの部屋11内の室温及び湿度は、情報取得装置40により取得された、第1温湿度センサ31の検出データが使用される。第2推論用データの廊下12内の気温は、情報取得装置40により取得された、第3温湿度センサ33の検出データが使用される。
【0064】
なお、第2推論用データには、第4温湿度センサ34により検出された建物10の外の気温が含まれていてもよい。また、第2推論用データには、部屋11の換気状態が含まれていてもよい。この場合、情報取得装置40は、外部システムである換気システムから部屋11の換気状態を取得する。部屋11の換気状態には、換気装置の動作状態、部屋11の窓の開閉状態等が含まれ得る。
【0065】
第2予測装置60は、第2学習済モデル記憶部82をさらに備えている。第2学習済モデル記憶部82には、第2学習済モデルが記憶されている。第2学習済モデル記憶部82に記憶される第2学習済モデルは、第2推論用データから建物温熱環境変化を推論するためのものである。学習済モデル記憶部90に記憶される学習済モデルは、例えば、後述する第2学習装置220により生成される。
【0066】
第2推論装置61の第2推論部63は、第2学習済モデル記憶部82に記憶されている第2学習済モデルを用いて、第2推論用データ取得部62が取得した第2推論用データすなわち気象情報、部屋11内の室温及び湿度並びに廊下12内の気温から、建物温熱環境変化を推論する。第2推論部63は、第2推論用データ取得部62が取得した入力データを、第2学習済モデルに入力することで、入力データから推論される建物温熱環境変化を出力することができる。
【0067】
このようにして、第2推論部63は、入力データから建物温熱環境変化を推論するための第2学習済モデルを用いて、第2推論用データ取得部62が取得した入力データから建物温熱環境変化を出力する。そして、第2予測装置60は、第2推論部63による出力を、建物温熱環境変化の予測として出力する。
【0068】
この場合、制御装置100は、第1予測装置50の予測結果だけでなく、第2予測装置60の予測結果にも基づいて、空調装置20の制御を行う。すなわち、ドア開閉検知装置70によりドア13の開閉が検知された場合に、制御内容決定部111は、第1予測装置50から出力されたドア開閉時温熱環境変化の予測と、第2予測装置60から出力された建物温熱環境変化の予測とに基づいて、空調装置20の制御内容を決定する。そして、制御部112は、制御内容決定部111で決定された制御内容に従って、空調装置20の動作を制御する。すなわち、制御装置100は、ドア13の開閉時に第1推論装置51の推論結果及び第2推論装置61の推論結果に基づいて空調装置20を制御する。
【0069】
このような第2推論装置61を備えた空調システムによれば、第2推論装置61により、建物10の外部の気象情報等を加味して部屋11内を含む建物10内の温熱環境変化を推論し、部屋11内を含む建物10内の温熱環境が変化する前に、第2推論装置61による推論結果に応じた空調装置20の制御を行うことができる。したがって、ドア13の開閉時における部屋11内の温熱環境の変動をより効果的に抑制し、部屋内の特にドア付近にいる人の温熱不快感を抑制可能である。
【0070】
この実施の形態に係る空調システムは、図11に示すような第2学習装置220をさらに備えてもよい。第2学習装置220は、建物温熱環境変化を学習するものである。第2学習装置220がその変化を学習する温熱環境要素には、少なくとも、部屋11内の室温及び湿度が含まれている。次に、図11を参照しながら、第2学習装置220の構成について説明する。同図に示すように、第2学習装置220は、第2学習用データ取得部221及び第2モデル生成部222を備えている。
【0071】
第2学習用データ取得部221は、第2学習用データを取得する。第2学習用データには、気象情報、部屋11内の室温及び湿度並びに廊下12内の気温と、建物温熱環境変化とが含まれている。第2学習用データは、気象情報、部屋11内の室温及び湿度並びに廊下12内の気温と、建物温熱環境変化とを互いに関連付けたデータである。
【0072】
第2モデル生成部222は、気象情報、部屋11内の室温及び湿度並びに廊下12内の気温と、建物温熱環境変化との組み合わせに基づいて作成された前述の学習用データから、建物温熱環境変化を学習する。すなわち、第2モデル生成部222は、第2学習用データ取得部221が取得した学習用データを用いて、気象情報、部屋11内の室温及び湿度並びに廊下12内の気温から、建物温熱環境変化を推論する第2学習済モデルを生成する。
【0073】
第2モデル生成部222が用いる学習アルゴリズムは、教師あり学習等の公知のアルゴリズムを用いることができる。一例として、ニューラルネットワークを適用した場合について説明する。第2モデル生成部222は、例えば、ニューラルネットワークモデルに従って、いわゆる教師あり学習により、建物温熱環境変化を学習する。
【0074】
ニューラルネットワークは、複数のニューロンからなる入力層、複数のニューロンからなる中間層(隠れ層)、及び、複数のニューロンからなる出力層で構成される。中間層は、1層又は2層以上でもよい。ニューラルネットワークは、例えば、図8に示すような3層のものでもよい。
【0075】
本開示において、ニューラルネットワークは、第2学習用データ取得部221によって取得された気象情報、部屋11内の室温及び湿度並びに廊下12内の気温と建物温熱環境変化との組み合わせに基づいて作成された前述の第2学習用データに基づいて、いわゆる教師あり学習により、建物温熱環境変化を学習する。すなわち、ニューラルネットワークは、気象情報、部屋11内の室温及び湿度並びに廊下12内の気温を入力層に入力して出力層から出力された結果が、建物温熱環境変化に近くなるように重みW1とW2を調整することで学習する。
【0076】
第2モデル生成部222は、以上のような学習を実行することで第2学習済モデルを生成し、出力する。第2学習済モデル記憶部82は、第2モデル生成部222から出力された第2学習済モデルを記憶する。第2学習済モデル記憶部82は、前述したように、例えば、第2予測装置60に設けられてもよい。また、第2学習済モデル記憶部82を第2学習装置220に設けてもよい。なお、第2学習装置220で用いられる学習アルゴリズムとしては、特徴量そのものの抽出を学習する、深層学習(Deep Learning)を用いることもでき、他の公知の方法でもよい。
【0077】
以上のように構成された第2学習装置220の動作例は、前述した第1学習装置の動作例すなわち図9に示すものとほぼ同様である。このため、第2学習装置220の動作例についての詳細説明は省略する。
【0078】
なお、第2モデル生成部222は、外部から第2学習済モデルを取得して用いてもよい。また、第2モデル生成部222は、複数の空調装置20に対して作成される第2学習用データに従って、建物温熱環境変化を学習するようにしてもよい。なお、第2モデル生成部222は、同一のエリアで使用される複数の空調装置20から第2学習用データを取得してもよいし、異なるエリアで独立して動作する複数の空調装置20から収集される第2学習用データを利用して建物温熱環境変化を学習してもよい。また、第2学習用データを収集する空調装置20を途中で対象に追加したり、対象から除去したりすることも可能である。さらに、ある空調装置20に関して建物温熱環境変化を学習した第2学習装置220を、これとは別の空調装置20に適用し、当該別の空調装置20に関して建物温熱環境変化を再学習して更新するようにしてもよい。
【0079】
この実施の形態に係る空調システムにおいては、部屋11における人の入退室予測を行い、入退室予測結果に応じて空調装置20に予備動作を行わせるよう制御してもよい。空調装置20の予備動作とは、部屋11における人の入退室に予め備えて入退室より前に建物10の温熱的環境を整えるための動作である。予備動作の内容は予め設定されている。空調装置20の予備動作として具体的に例えば、空調装置20の吹出口24をドア13上方の天井に設け、当該吹出口24から空気を排出することで、エアカーテンを形成しておくことが挙げられる。このようにすることで、人の入退室時にドア13が開閉された際における部屋11からの空気の流出入を抑制でき、部屋11内の温熱環境変化を少なくできる。また、空調装置20の予備動作として、他に例えば、空調装置20からドア13に温調された風を吹き付け、ドア13を加熱又は冷却しておくことも挙げられる。この場合、冷房運転時にはドア13を冷却し、暖房運転時時にはドア13を加熱する。
【0080】
部屋11における人の入退室予測を行う手段として、空調システムは図示しない第3予測装置をさらに備えてもよい。また、制御装置100により、部屋11における人の入退室予測を行ってもよい。例えば、入退室予測手段として第3予測装置を備える場合、第3予測装置は、建物10への入館情報、建物10のエレベーター稼働状況等を利用して、部屋11への入室予測を行う。また、第3予測装置は、表面温度センサ35による部屋11内の人の検出結果、部屋11内を撮影するカメラの映像、人が所持するスマートフォン、スマートウォッチ等のGPS(Global Positioning System)機能、部屋11内の人を検出するドップラーセンサーによる検出結果等を利用して、部屋11からの体質予測を行う。あるいは、第3予測装置は、人の行動スケジュール又は部屋の利用スケジュールの管理を行う外部サーバから取得したスケジュール情報等に基づいて、部屋11における人の入退室予測を行ってもよい。第3予測装置は、前述した第1予測装置50及び第2予測装置60と同様、機械学習を利用した推論装置を用いて、部屋11における人の入退室予測を行ってもよい。なお、これらの入退室予測に用いる情報は、情報取得装置40により取得してもよい。
【0081】
このようにすることで、部屋11における人の入退室が予測される際には、空調装置20に予備動作を行わせておくことができ、部屋11への人の出入りの多い時間帯等でもドア13の開閉による温熱環境の変化を小さくすることが可能である。なお、空調システムは、例えば複数人がドア13を通過する等、影響が大きいドア13の開閉が予想される場合は、ドア13の開く量を調整してもよい。
【0082】
次に、図12のフロー図を参照しながら、入退室予測に基づく空調装置20の予備動作を行う場合の空調システムの動作例について説明する。まず、ステップS31において、情報取得装置40は、部屋11における人の入退室予測に用いる情報を収集する。そして、続くステップS32において、空調システムの例えば第3予測装置は、ステップS31で取得した情報を用いて、部屋11における人の入退室予測を行う。そして、部屋11で入退室が予測された場合、制御装置100は次にステップS33の処理を行う。ステップS33においては、制御装置100は、空調装置20に前述した予備動作を行わせる。続く、ステップS34において、情報取得装置40は、ドア13の開閉情報を収集する。そして、ステップS35において、ドア開閉検知装置70は、ステップS34で取得した情報を用いて、ドア13の開閉が検知されたか否かを判定する。ドア13の開閉が検知されない場合、処理はステップS34に戻る。一方、ドア13の開閉が検知された場合、処理はステップS36に進む。
【0083】
ステップS36においては、第1予測装置50は、ドア開閉時温熱環境変化を予測する。また、第2予測装置60は、建物温熱環境変化を予測する。そして、制御装置100は、これらの予測結果に基づいて空調装置20を制御する。ステップS36の後、空調システムはステップS37の処理を行う。ステップS37においては、情報取得装置40は、第2温湿度センサ32により検出された、ドア13の周囲における部屋11側の室温及び湿度を収集する。そして、続くステップS38において、制御装置100は、ステップS37で取得した温湿度が、目標とする温湿度、例えばドア13が開かれる前の温湿度等になっているか否かを判定する。目標とする温湿度になっていなければ、処理はステップS36に戻る一方、目標とする温湿度になっていれば、一連の処理は終了となる。
【0084】
図13は、この実施の形態における第1予測装置50、第2予測装置60、制御装置100、第1学習装置210及び第2学習装置220のそれぞれの機能を実現する構成の一例を示す図である。第1予測装置50、第2予測装置60、制御装置100、第1学習装置210及び第2学習装置220のそれぞれの機能は、例えば、処理回路により実現される。処理回路は、プロセッサ101及びメモリ102を備えていてもよい。処理回路は、専用ハードウェア103であってもよい。処理回路の一部が専用ハードウェア103として形成され、かつ、当該処理回路はさらにプロセッサ101及びメモリ102を備えていてもよい。同図に示す例においては、処理回路の一部は専用ハードウェア103として形成されている。また、同図に示す例において、処理回路は、プロセッサ101及びメモリ102をさらに備えている。
【0085】
一部が少なくとも1つの専用ハードウェア103である処理回路には、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、又はこれらを組み合わせたものが該当する。処理回路が少なくとも1つのプロセッサ101及び少なくとも1つのメモリ102を備える場合、第1予測装置50、第2予測装置60、制御装置100、第1学習装置210及び第2学習装置220のそれぞれの機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又はソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。
【0086】
ソフトウェア及びファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ102に格納される。プロセッサ101は、メモリ102に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各部の機能を実現する。プロセッサ101は、CPU(Central Processing Unit)、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータあるいはDSPともいう。メモリ102には、例えば、RAM、ROM、フラッシュメモリー、EPROM及びEEPROM等の不揮発性又は揮発性の半導体メモリ、又は磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク及びDVD等が該当する。
【0087】
このようにして、第1予測装置50、第2予測装置60、制御装置100、第1学習装置210及び第2学習装置220のそれぞれの処理回路は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、又はこれらの組み合わせによって、第1予測装置50、第2予測装置60、制御装置100、第1学習装置210及び第2学習装置220のそれぞれの各機能を実現することができる。第1予測装置50、第2予測装置60、制御装置100、第1学習装置210及び第2学習装置220のそれぞれの処理回路が少なくともプロセッサ101及びメモリ102を備える場合、第1予測装置50、第2予測装置60、制御装置100、第1学習装置210及び第2学習装置220のそれぞれにおいてメモリ102に記憶されたプログラムをプロセッサ101が実行し、第1予測装置50、第2予測装置60、制御装置100、第1学習装置210及び第2学習装置220のそれぞれのハードウェアとソフトウェアとが協働することによって、第1予測装置50、第2予測装置60、制御装置100、第1学習装置210及び第2学習装置220のそれぞれが備える各部の機能が実現される。
【0088】
なお、本開示においては、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態を任意に組み合わせてもよい。以下に、本開示の諸態様の例を付記としてまとめて記載する。
(付記1)
空調装置の制御に使用される、前記空調装置が設置された部屋のドアの開閉時における前記ドアの周囲の温熱環境要素の変化を推論する推論装置であって、
推論用データを取得するデータ取得部と、
前記推論用データから前記部屋の前記ドアの開閉時における前記ドアの周囲の温熱環境要素の変化を推論するための学習済モデルを用いて、前記データ取得部が取得した前記推論用データから前記部屋の前記ドアの開閉時における前記ドアの周囲の温熱環境要素の変化を出力する推論部と、を備え、
前記推論用データは、前記部屋内の室温及び湿度、並びに、前記ドアが開くと前記部屋に通じる空間内の気温を含み、
前記温熱環境要素は、前記ドアよりも前記部屋側の室温及び湿度を含む推論装置。
(付記2)
付記1に記載の推論装置と、
前記部屋内を空調する前記空調装置と、
前記空調装置を制御する制御装置と、
前記ドアの開閉を検知する開閉検知手段と、を備え、
前記制御装置は、前記ドアの開閉時に前記推論装置の推論結果に基づいて前記空調装置を制御する空調システム。
(付記3)
前記制御装置は、前記ドアの開閉後に、前記ドアの周囲における前記ドアよりも前記部屋側の室温及び湿度が、前記ドアの開閉前の状態に近づくように前記空調装置を制御する付記2に記載の空調システム。
(付記4)
前記ドアの周囲における前記ドアよりも前記部屋側の室温及び湿度を検出する温湿度検出手段をさらに備え、
前記制御装置は、前記ドアの開閉時に、前記推論装置の推論結果及び前記温湿度検出手段の検出結果に基づいて前記空調装置を制御する付記2又は付記3に記載の空調システム。
(付記5)
前記部屋における人の入退室を予測する入退室予測手段をさらに備え、
前記制御装置は、前記入退室予測手段により前記部屋における人の入退室が予測された場合に、前記空調装置に予め設定された予備動作を行わせる付記2から付記4のいずれか一項に記載の空調システム。
【符号の説明】
【0089】
10 建物
11 部屋
12 廊下
13 ドア
20 空調装置
21 筐体
22 下面パネル
23 吸込口
24 吹出口
25 上下ルーバー
26 左右ルーバー
27 送風ファン
28 圧縮機
30 温湿度センサ
31 第1温湿度センサ
32 第2温湿度センサ
33 第3温湿度センサ
34 第4温湿度センサ
35 表面温度センサ
40 情報取得装置
50 第1予測装置
51 第1推論装置
52 第1推論用データ取得部
53 第1推論部
60 第2予測装置
61 第2推論装置
62 第2推論用データ取得部
63 第2推論部
70 ドア開閉検知装置
81 第1学習済モデル記憶部
82 第2学習済モデル記憶部
100 制御装置
101 プロセッサ
102 メモリ
103 専用ハードウェア
111 制御内容決定部
112 制御部
210 第1学習装置
211 第1学習用データ取得部
212 第1モデル生成部
220 第2学習装置
221 第2学習用データ取得部
222 第2モデル生成部
図1
図2
図3
図4
図5
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図13