(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017540
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】シート状構造体製作方法、剥離剤保持層製作方法およびシート貼付け型湿式剥離方法
(51)【国際特許分類】
B05D 1/28 20060101AFI20240201BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20240201BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20240201BHJP
B05D 3/10 20060101ALI20240201BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20240201BHJP
B32B 5/02 20060101ALN20240201BHJP
【FI】
B05D1/28
B05D3/12 C
B05D7/00 B
B05D7/00 A
B05D3/12 E
B05D3/10 H
B05D7/14 N
B32B5/02
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120253
(22)【出願日】2022-07-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】309017611
【氏名又は名称】株式会社ペイントサービス
(74)【代理人】
【識別番号】100107674
【弁理士】
【氏名又は名称】来栖 和則
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 栄次
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
【Fターム(参考)】
4D075AA04
4D075AA76
4D075AA78
4D075AA81
4D075AA83
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4D075EB51
4D075EC07
4D075EC30
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4D075EC35
4F100AK04A
4F100AK07A
4F100AT00
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4F100DD27B
4F100DG15B
4F100GB90
4F100JL14
(57)【要約】
【課題】剥離剤を保持体に含侵させる技術を最適化することにより、保持体に対する剥離剤の留置性を向上させ、それにより、剥離剤の剥離効率を向上させる。
【解決手段】液状または流動状の剥離剤20が多孔性またはファブリック製の保持体282に含侵保持されて成るシート状構造体270を既存塗膜14の塗膜面に貼り付けることによって湿式剥離を非噴霧式で行う技術であって、剥離剤を発泡状態で保持体に含侵させ、それにより、剥離剤と保持体内の繊維との絡み合い度を増加させて剥離剤の保持体への投錨効果を強化し、その結果、保持体に対する剥離剤の留置性、すなわち、シート状構造体における剥離剤の留置性を向上させる技術が開示されている。
【選択図】
図18
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状または流動状の剥離剤を用いて構造物の表面から既存塗膜を剥離する湿式剥離のために前記既存塗膜の表面である塗膜面に貼り付けられた状態で使用される湿式剥離用シート状構造体であって、
前記剥離剤が多孔性またはファブリック製の保持体に発泡状態で含侵させられて成る剥離剤保持層であって、可撓性および粘着性を有するとともに、第1の片面において前記塗膜面に貼り付けられた状態で使用され、その使用状態において、前記剥離剤を前記塗膜面に間接的に塗布するものと、
その剥離剤保持層の第2の片面であって前記第1の片面とは反対側のものに付着される保護層であって、可撓性および実質的な無通気性を有するとともに、前記剥離剤保持層を実質的に気密にラッピングする機能を有するものと
を含み、
当該シート状構造体は、前記剥離剤保持層と前記保護層とを含む複数の層による層状複合体として構成される湿式剥離用シート状構造体。
【請求項2】
前記剥離剤保持層は、前記剥離剤をエアレス噴霧して複数の液滴に分断して前記保持体に衝突させ、それにより、各液滴を前記保持体内において泡状化し、それにより、前記剥離剤を前記保持体に発泡状態で含侵させることによって製作される請求項1に記載の湿式剥離用シート状構造体。
【請求項3】
さらに、前記剥離剤保持層の前記第1の片面に剥離可能に付着される剥離層であって、可撓性および実質的な無通気性を有するものを含み、
当該シート状構造体は、前記剥離層と前記剥離剤保持層と前記保護層とを含む複数の層による層状複合体として構成され、
当該シート状構造体は、前記剥離層が前記剥離剤保持層から剥離されて露出した前記第1の片面において前記剥離剤保持層が前記塗膜面に貼り付けられた状態で使用される請求項1に記載の湿式剥離用シート状構造体。
【請求項4】
前記保持体は、不織布であり、
その不織布の目付は、100g/m2を超えない請求項1に記載の湿式剥離用シート状構造体。
【請求項5】
前記剥離剤は、界面活性剤を含む請求項1に記載の湿式剥離用シート状構造体。
【請求項6】
液状または流動状の剥離剤を用いて構造物の表面から既存塗膜を剥離する湿式剥離方法であって、
シート状構造体を準備する準備工程であって、そのシート状構造体は、剥離剤保持層と保護層とを含む複数の層による層状複合体として構成されるものと、
前記既存塗膜のうちの少なくとも一部を標的塗膜として、その標的塗膜に前記シート状構造体を、前記剥離剤保持層が第1の片面において前記標的塗膜に接触するように貼り付ける貼付け工程と
を含み、
前記剥離剤保持層は、前記剥離剤が多孔性またはファブリック製の保持体に発泡状態で含侵させられて成り、可撓性および粘着性を有するとともに、前記第1の片面において前記塗膜面に貼り付けられた状態で使用され、その使用状態において、前記剥離剤を前記塗膜面に間接的に塗布し、
前記保護層は、前記剥離剤保持層の第2の片面であって前記第1の片面とは反対側のものに付着され、可撓性および実質的な無通気性を有するとともに、前記剥離剤保持層を実質的に気密にラッピングする機能を有するシート貼付け型湿式剥離方法。
【請求項7】
前記準備工程は、
前記保護層の上に前記保持体を載置し、その保持体に向けて前記剥離剤をエアレス噴霧して複数の液滴に分断して前記保持体に衝突させ、それにより、各液滴を前記保持体内において泡状化し、それにより、前記剥離剤を前記保持体に発泡状態で含侵させ、それにより、前記シート状構造体を製作する含侵工程を含む請求項6に記載のシート貼付け型湿式剥離方法。
【請求項8】
前記準備工程は、さらに、
前記保持体を板状の第1ブランク板から、前記標的塗膜に対応する形状を有するように裁断する第1裁断工程と、
前記保護層を板状の第2ブランク板から、前記保持体に対応する形状を有するように裁断する第2裁断工程と
を含む請求項7に記載のシート貼付け型湿式剥離方法。
【請求項9】
前記貼付け工程は、
前記標的塗膜を、前記剥離剤を直接塗布した場合にその剥離剤に液垂れが発生し易い第1領域と発生し難い第2領域とに区分する区分工程と、
前記第1領域については、前記シート状構成体を貼り付けて前記剥離剤を間接的に塗布する間接塗布法を適用する一方、前記第2領域については、前記剥離剤を直接的に塗布する直接塗布法を適用する適用工程と
を含む請求項6に記載のシート貼付け型湿式剥離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離剤が既存塗膜を剥離する際の剥離効率を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物(家屋、ビル等)、鉄製の骨組み構造を用いて構成される細長い建造物である鉄塔(例えば、送電用鉄塔、通信用鉄塔など)、土木構造物(橋梁等)、船舶、車両(自動車、列車等)、飛行機等の構造物または構造体の表面を塗り替えるために、その表面にすでに被着されている既存塗膜を構造物の表面(素地)から剥離し、その後、新たな塗料を構造物の同じ表面上に塗布する種類の施工が行われる。
【0003】
ここに、既存塗膜を構造物表面から剥離する方法としては、物理的手法と化学的手法とが存在する。
【0004】
物理的手法は、スクレーパなどの手工具、ワイヤーブラシなどの除去具を電動モータを用いて回転させる電動回転工具、同様な除去具をエアモータを用いて回転させるエア回転工具、高圧水噴射機などの剥離機械などを作業者が用いて既存塗膜を構造物から剥離する手法である。
【0005】
これに対し、化学的手法は、薬剤を含む剥離剤を既存塗膜に付着させてその既存塗膜を溶解または膨潤させ、それにより、既存塗膜を構造物から剥離する手法である。この手法は、塗膜剥離剤を用いた湿式による塗膜除去方法すなわち湿式剥離方法とも称される。
【0006】
その湿式剥離方法においては、液状の剥離剤を既存塗膜に付着させる手法として、例えば特許文献1および2に開示されているように、スプレー塗り、ローラー塗りまたは刷毛塗りにより、剥離剤を既存塗膜に直接的に塗布する直接塗布法が存在する。
【0007】
さらに、液状の剥離剤を既存塗膜に付着させる別の手法として、特許文献3および4に開示されているように、液状の剥離剤を不織布などのシート基材に含侵させたものを既存塗膜に対して用い、それにより、噴霧なしで剥離剤を既存塗膜に間接的に塗布する間接塗布法も存在する。
【0008】
具体的には、特許文献3は、剥離剤をシート基体(シート状の保持体)に含侵させて剥離剤保持層を製作し、剥離剤の既存塗膜への直接塗布なしで、剥離剤保持層を既存塗膜に貼り付ける点を開示している。よって、この文献は、剥離剤保持層を、直接的な剥離対象である構造物から独立し、かつ、その構造物に対する直接的な剥離作業とは別に、それに先立って製作する事前製作技術を開示していることになる。
【0009】
また、特許文献4は、剥離剤をシートに含侵させる方法として、含侵前のシートをそれの背後が非透液性層で被覆される状態で既存塗膜に貼り付け、その後、既存塗膜と非透液性層とによってサンドイッチされたシートに剥離剤を注入する方法を開示している。この方法は、剥離剤保持層を、直接的な剥離対象である構造物に依存し、かつ、その構造物に対する直接的な剥離作業の実行中に製作する直接製作技術に属するから、この文献は、事前製作技術を開示していない。
【0010】
間接塗布法すなわちシート貼付け法によれば、剥離剤を既存塗膜に付着させるために剥離剤を既存塗膜に向けて噴霧しないため、剥離剤の飛散が防止され、それにより、無駄な剥離剤の消費が防止されるとともに、環境への悪影響が防止されるという利点や、剥離剤が既存塗膜上に付着した状態でその剥離剤が自重で垂れるいわゆる液垂れ現象が抑制されるとともに、既存塗膜上に付着される剥離剤の層の膜厚が均一化する結果、剥離剤の付着むらないしは偏在が軽減され、局所的な剥離効率(例えば、剥離剤の消費量に対する既存塗膜の剥離量)が均一化されるという利点がある。
【0011】
ところで、既存塗膜に付着された剥離剤のうちの有効成分が揮発性を有する場合には、その有効成分が気化してガスが発生すると、そのガスが剥離剤から外部に放出または放散して剥離剤から有効成分が少なくとも部分的に喪失してしまい、既存塗膜に到達する有効成分の量が減少する可能性がある。この場合には、剥離剤が効果的に既存塗膜に作用せず、剥離剤の剥離効率が低下する。
【0012】
このような不都合を解消ないしは軽減するための手法として、例えば特許文献1-3に開示されているように、既存塗膜上に存在する剥離剤の層を、それの背後から、その剥離剤の有効成分に対して不透過性を有する保護シート(例えば、ポリエチレン製シート、ポリプロピレン製シート)、無通気性のシート、塗装養生用シート、有機フィルム基材などのシートで被覆しまたはラッピングする手法がある。
【0013】
さらに、別の手法として、例えば特許文献2に開示されているように、剥離剤の層にそれの背後から乾燥遅延用の水性組成物を吹き付けてその水性組成物の被膜を乾燥遅延材として剥離剤の層上に形成する手法も存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第6717492号公報
【特許文献2】特開2013-018887号公報
【特許文献3】特許第5226213号公報
【特許文献4】特開2001-269613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者は、剥離剤の剥離性能の向上および剥離作業の高効率化という側面から、上述の従来技術を分析し、その結果、次のような知見を得た。
【0016】
1)間接塗布法を実施するという用途のために剥離剤保持層を事前製作する技術の重要性
【0017】
特許文献3は、剥離剤をシート基体に含侵させる技術に関し、シート基体の材質に関しては開示しているが、剥離剤をシート基体に含侵させる方法すなわち剥離剤保持層の事前製作技術に関しては無言である。
【0018】
また、特許文献4は、剥離剤をシート基体に含侵させる方法として、含侵前のシートをそれの背後が非透液性層で被覆される状態で既存塗膜に貼り付け、その後、既存塗膜と非透液性層とによってサンドイッチされたシートに剥離剤を注入する方法と、含侵前のシートを単独で既存塗膜に貼り付け、その後、その貼付け状態でそのシートに剥離剤を噴霧して塗布する方法とを開示している。
【0019】
しかし、この文献は、前述の事前製作技術に関しては無言であるから、その事前製作技術のためにどのようにして剥離剤保持層を製作するかに関して開示する余地はない。
【0020】
一方、本発明者は、間接塗布法を実施するという用途のために剥離剤保持層を事前製作する技術について鋭意研究し、試行錯誤を繰り返した結果、剥離剤をファブリック製のシート基体に含侵させる場合、剥離剤が例えば、時間継続的に、濃度分布的に、膜厚分布的に良好にシート基体に含侵させられて良好に留置されるという剥離剤留置性を達成したいという要望があるとの知見を得た。
【0021】
さらに、本発明者は、その剥離剤留置性は、剥離剤の粘性などの物性およびシート基体の繊維密度などの物性に対して強い特異性または依存性を示さず、剥離剤とシート基体との複数の組合せの広範囲にわたり、任意の剥離剤と任意のシート基体とが適合性を有するものとしたいという実用上の要望もあるとの知見も得た。
【0022】
さらに、本発明者は、それら要望を同時に満たすためには、剥離剤をシート基体に含侵させる方法を最適化することが重要であるとの知見も得た。
【0023】
そこで、本発明者は、特許文献3および4の存在を知る前に、独自に、間接塗布法を実施するという用途に、剥離剤をシート基体に予め含侵させて成るシートを用いる手法を思い付き、さらに、剥離剤をシート基体に含侵させる方法として、特許文献1に記載された発泡型エアレス噴霧式塗布方法を採用することを思い付いた。
【0024】
そして、本発明者は、その着想の有効性を確認すべく、多孔性またはファブリック製の保持体に剥離剤を発泡型エアレス噴霧式で塗布するという試験を行ったところ、意外なことに、その保持体に剥離剤が予想以上に良好に付着含侵して保持体内に留置されたことを確認した。
【0025】
さらに、本発明者は、そのように剥離剤が発泡状態で保持体に含侵留置されて成る剥離剤保持層が粘着性を有するとともに、剥離剤が発泡状態で保持体に含侵されるために剥離剤保持層がその厚さの割に軽量であるため、その剥離剤保持層を構造物の既存塗膜に良好に、例えば、簡単に予定外にはがれてしまうことなく貼り付けることが可能であることを確認した。
【0026】
すなわち、本発明者は、本人が独自に着想した発泡型エアレス噴霧式塗布方法であって既知のものの未知の属性として、剥離剤を保持体に良好に含侵留置させることができるという属性が存在することを知ったのである。
【0027】
さらに、本発明者は、その未知の属性を利用し、間接塗布法を実施するという用途に発泡型エアレス噴霧式塗布方法を用いることが効果的であることを確認した。
【0028】
2)剥離剤付着法が直接塗布法であるか間接塗布法であるかを問わず、ラッピングシートが剥離剤層に継続的に密着することの重要性
【0029】
上述の従来技術では、例えば、構造物のうちの垂直面、傾斜面または水平下面(水平上面を除くいくつかの表面であって、その上に剥離剤層があると、重力により、その剥離剤層内の材料が下方または斜め下方に流動する傾向を生じさせるもの)を被覆する既存塗膜上に存在する剥離剤層をそれの背後からラッピングシートでラッピングする場合、剥離剤層を下方から支持するラッピングシートがその剥離剤層の重量が原因でその剥離剤層から剥離して撓むことにより、そのラッピングシートが剥離剤層に継続的に密着しない可能性があった。
【0030】
その場合には、ラッピングシートで剥離剤層がラッピングされるにもかかわらず、その剥離剤層からの気化ガスがラッピングシートとの間の隙間から外部に放出されてしまい、剥離剤が効果的に既存塗膜に作用せず、剥離剤の剥離効率が低下することが確認された。
【0031】
また、ラッピングシートが剥離剤層に密着しない場合に、両者間に形成された空間が閉じていると、その空間に剥離剤からの気化ガスとしての有効成分が滞留してしまう。その滞留する気化ガスは、既存塗膜に浸透せず、剥離剤の有効成分のうち、実際に既存塗膜内に浸透する量が減少し、よって、剥離剤が効果的に既存塗膜に作用せず、剥離剤の剥離効率が低下することが確認された。
【0032】
3)剥離剤付着法が直接塗布法であるか間接塗布法であるかを問わず、構造物のうちの突起部回りに剥離剤層およびラッピングシートが密着することの重要性
【0033】
上述の従来技術では、構造物が平面部とその平面部から突出した突起部とを有する場合に、直接塗布法であれば、剥離剤が突起部にくまなく塗布されるが、ラッピングシートが自身の低可撓性のために既存塗膜上の剥離剤層に良好に密着しなかった。この場合には、その剥離剤層からの気化ガスがラッピングシートとの間の隙間から外部に放出されてしまい、剥離剤が効果的に既存塗膜に作用せず、剥離剤の剥離効率が低下することが確認された。
【0034】
これに対し、間接塗布法であると、構造物のうち突起部回りにおいては、角度急変部があるため、剥離剤層すら突起部に密着しなかった。この場合には、その剥離剤層からの気化ガスが突起部との間の隙間から外部に放出されてしまい、剥離剤が効果的に既存塗膜に作用せず、剥離剤の剥離効率が低下することが確認された。
【0035】
本発明者は、上記の説明において明示的に、示唆的にまたは内在的に開示されている(当業者であれば、出願当時の技術常識に照らせば自明である)いくつかの事実および本明細書のうちの他の箇所または図面において明示的に、示唆的にまたは内在的に開示されている(当業者であれば、出願当時の技術常識に照らせば自明である)いくつかの事実を総合的に、具体的には、それら事実を個別にまたは任意の部分集合に分断して着目することにより、いくつかの課題に到達し、その課題としては、例えば、剥離剤の剥離効率を向上させる技術を提供するというものがある。
【0036】
その課題は、例えば、後述の第2または第3の課題と共にまたは単独で、第1の課題、すなわち、既知の発泡型エアレス噴霧式塗布方法の前述の未知の属性を利用して、液状または流動状の剥離剤を保持体に含侵させる技術を最適化することにより、保持体に対する剥離剤の留置性を向上させ、それにより、剥離剤の剥離効率を向上させるというものを含むかもしれない。
【0037】
また、前述の課題は、上述の第1の課題または後述の第3の課題と共にまたは単独で、第2の課題、すなわち、剥離剤付着法が直接塗布法であるか間接塗布法であるかを問わず、剥離剤層からラッピングシートに作用する下向き力にかかわらず、既存塗膜に対する剥離剤層の密着性を向上させ、それにより、剥離剤に剥離効率を向上させるというものを含むかもしれない。
【0038】
また、前述の課題は、上述の第1または第2の課題と共にまたは単独で、第3の課題、すなわち、剥離剤付着法が直接塗布法であるか間接塗布法であるかを問わず、構造物のうちの突起部回りに対する剥離剤層の密着性を向上させ、それにより、剥離剤による既存塗膜の剥離効率を向上させるというものを含むかもしれない。
【課題を解決するための手段】
【0039】
本発明によって下記の各態様が得られる。各態様は、項に区分し、各項には番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、本発明が採用し得る技術的特徴の一部およびそれの組合せの理解を容易にするためであり、本発明が採用し得る技術的特徴およびそれの組合せが以下の態様に限定されると解釈すべきではない。すなわち、下記の態様には記載されていないが本明細書または図面には記載されている技術的特徴を本発明の技術的特徴として適宜抽出して採用することは妨げられないと解釈すべきなのである。
【0040】
さらに、各項を他の項の番号を引用する形式で記載することが必ずしも、各項に記載の技術的特徴を他の項に記載の技術的特徴から分離させて独立させることを妨げることを意味するわけではなく、各項に記載の技術的特徴をその性質に応じて適宜独立させることが可能であると解釈すべきである。
【0041】
ただし、本明細書または図面において、複数の要素(例えば、ハードウエア要素およびソフトウエア要素を含む。)または工程の集まりが一発明として把握されるように記載されているかまたはそのように記載されているに等しい具体的な実施態様が存在する場合に、それら要素または工程は、そのように一発明として把握される具体的な実施態様が存在するとはいえ、必ずしも一体不可分であるわけではなく、それら要素または工程は、出願当時の技術常識に照らし、必要に応じて随時分断され、それらの一部が任意に選択ないしは抽出されて新たな一発明として把握される。このとき、その新たな一発明は、対応する課題であって本明細書または図面に明示的に、示唆的にまたは内在的に開示されている(当業者であれば、出願当時の技術常識に照らせば自明である)ものを解決する手段として把握される。
【0042】
第1の発明
【0043】
液状または流動状の剥離剤が多孔性またはファブリック製の保持体に含侵保持されて成るシート状構造体を既存塗膜の塗膜面に貼り付けることによって湿式剥離を非噴霧式で行う技術であって、剥離剤を発泡状態で保持体に含侵させ、それにより、剥離剤と多孔性保持体内の複数の細孔壁またはファブリック製保持体内の繊維との絡み合い度を増加させて剥離剤の保持体への投錨効果を強化し、その結果、保持体に対する剥離剤の留置性、すなわち、シート状構造体における剥離剤の留置性を向上させる技術
【0044】
(1) 液状または流動状の剥離剤を用いて構造物の表面から既存塗膜を剥離する湿式剥離のために前記既存塗膜の表面である塗膜面に貼り付けられた状態で使用される湿式剥離用シート状構造体であって、
前記剥離剤が多孔性またはファブリック製の保持体に発泡状態で含侵させられて成る剥離剤保持層であって、可撓性および粘着性を有するとともに、第1の片面において前記塗膜面に貼り付けられた状態で使用され、その使用状態において、前記剥離剤を前記塗膜面に間接的に塗布するものと、
その剥離剤保持層の第2の片面であって前記第1の片面とは反対側のものに付着される保護層であって、可撓性および実質的な無通気性を有するとともに、前記剥離剤保持層を実質的に気密にラッピングする機能を有するものと
を含み、
当該シート状構造体は、前記剥離剤保持層と前記保護層とを含む複数の層による層状複合体として構成される湿式剥離用シート状構造体。
【0045】
(2) 前記剥離剤保持層は、前記剥離剤をエアレス噴霧して複数の液滴に分断して前記保持体に衝突させ、それにより、各液滴を前記保持体内において泡状化し、それにより、前記剥離剤を前記保持体に発泡状態で含侵させることによって製作される(1)項に記載の湿式剥離用シート状構造体。
【0046】
(3) さらに、前記剥離剤保持層の前記第1の片面に剥離可能に付着される剥離層であって、可撓性および実質的な無通気性を有するものを含み、
当該シート状構造体は、前記剥離層と前記剥離剤保持層と前記保護層とを含む複数の層による層状複合体として構成され、
当該シート状構造体は、前記剥離層が前記剥離剤保持層から剥離されて露出した前記第1の片面において前記剥離剤保持層が前記塗膜面に貼り付けられた状態で使用される(1)または(2)項に記載の湿式剥離用シート状構造体。
【0047】
(4) 前記保持体は、不織布であり、
その不織布の目付は、100g/m2を超えない(1)ないし(3)項のいずれかに記載の湿式剥離用シート状構造体。
【0048】
(5) 前記剥離剤は、界面活性剤を含む(1)ないし(4)項のいずれかに記載の湿式剥離用シート状構造体。
【0049】
(6) 液状または流動状の剥離剤を用いて構造物の表面から既存塗膜を剥離する湿式剥離方法であって、
シート状構造体を準備する準備工程であって、そのシート状構造体は、剥離剤保持層と保護層とを含む複数の層による層状複合体として構成されるものと、
前記既存塗膜のうちの少なくとも一部を標的塗膜として、その標的塗膜に前記シート状構造体を、前記剥離剤保持層が第1の片面において前記標的塗膜に接触するように貼り付ける貼付け工程と
を含み、
前記剥離剤保持層は、前記剥離剤が多孔性またはファブリック製の保持体に発泡状態で含侵させられて成り、可撓性および粘着性を有するとともに、前記第1の片面において前記塗膜面に貼り付けられた状態で使用され、その使用状態において、前記剥離剤を前記塗膜面に間接的に塗布し、
前記保護層は、前記剥離剤保持層の第2の片面であって前記第1の片面とは反対側のものに付着され、可撓性および実質的な無通気性を有するとともに、前記剥離剤保持層を実質的に気密にラッピングする機能を有するシート貼付け型湿式剥離方法。
【0050】
(7) 前記準備工程は、
前記保護層の上に前記保持体を載置し、その保持体に向けて前記剥離剤をエアレス噴霧して複数の液滴に分断して前記保持体に衝突させ、それにより、各液滴を前記保持体内において泡状化し、それにより、前記剥離剤を前記保持体に発泡状態で含侵させ、それにより、前記シート状構造体を製作する含侵工程を含む(6)項に記載のシート貼付け型湿式剥離方法。
【0051】
(8) 前記準備工程は、さらに、
前記保持体を板状の第1ブランク板から、前記標的塗膜に対応する形状を有するように裁断する第1裁断工程と、
前記保護層を板状の第2ブランク板から、前記保持体に対応する形状を有するように裁断する第2裁断工程と
を含む(6)または(7)項に記載のシート貼付け型湿式剥離方法。
【0052】
(9) 前記貼付け工程は、
前記標的塗膜を、前記剥離剤を直接塗布した場合にその剥離剤に液垂れが発生し易い第1領域と発生し難い第2領域とに区分する区分工程と、
前記第1領域については、前記シート状構成体を貼り付けて前記剥離剤を間接的に塗布する間接塗布法を適用する一方、前記第2領域については、前記剥離剤を直接的に塗布する直接塗布法を適用する適用工程と
を含む(6)ないし(8)項のいずれかに記載のシート貼付け型湿式剥離方法。
【0053】
第2の発明
【0054】
低剛性高可撓性シート体と高剛性低可撓性シート体とを有するラッピング部材を固定化部材を用い、かつ、前記ラッピング部材のうちの少なくとも前記高剛性低可撓性シート体を介して局所的に剥離剤層に押し付けることにより、剥離剤層とラッピング部材とを密着させるとともに、ラッピング部材を効率よく動かないように固定化する技術
【0055】
(1) 構造物のうち概して直線的に延びる表面を被覆する既存塗膜のうちの少なくとも一部を標的塗膜として、その標的塗膜を前記構造物の表面から剥離するために前記標的塗膜の表面上に液状、流動状または泡状の剥離剤より成る剥離剤層が形成された後、その剥離剤層をラッピングして前記剥離剤からそれの有効成分の気化ガスが大気に放出されることを抑制する湿式剥離用ラッピングユニットであって、
前記剥離剤層を少なくとも部分的に、前記標的塗膜の側とは反対側からラッピングするラッピング部材であって、低剛性高可撓性シート体と高剛性低可撓性シート体とを有するものと、
前記ラッピング部材のうちの少なくとも前記高剛性低可撓性シート体をそれの背後から局所的に前記剥離剤層に押し付けて前記ラッピング部材を前記標的塗膜に対して固定化する固定化部材と
を含む湿式剥離用ラッピングユニット。
【0056】
(2) 前記低剛性高可撓性シート体は、無指向性にて可撓性を有する第1のシート体を含み、
前記高剛性低可撓性シート体は、有指向性にて可撓性を有する第2のシート体であって前記第1のシート体を背後から支持するものを含む(1)項に記載の湿式剥離用ラッピングユニット。
【0057】
(3) 前記第2のシート体は、自然状態において板状を成し、一方向には屈曲し難いが他方向には任意の曲げ位置または複数の予定曲げ位置のうち任意のものにおいて屈曲し易いというように一方向においては実質的な自己形状保持性を、他方向においては可撓性を有する(2)項に記載の湿式剥離用ラッピングユニット。
【0058】
(4) 前記ラッピング部材は、前記第1のシート体と前記第2のシート体との連続体として構成され、
前記第1のシート体は、前記ラッピング部材において、前記第2のシート体上に少なくとも部分的に巻き状態および/または折畳み状態で格納される格納状態と、前記第2のシート体から外向きに延びるように展開される展開状態とに選択的に遷移可能である(2)または(3)項に記載の湿式剥離用ラッピングユニット。
【0059】
(5) 前記第2のシート体は、前記第1のシート体の一部を介して前記剥離剤層のうちの第1領域に押し付けられると、その際に作用する外力により、前記剥離剤層の立体形状に追従するように変形させられ、その形状適合状態で前記第1領域に位置決めされる(2)ないし(4)項のいずれかに記載の湿式剥離用ラッピングユニット。
【0060】
(6) 前記第1のシート体は、前記第2のシート体から延び出させられて展開させられ、前記剥離剤層のうちの前記第1領域と第2領域であって前記第1領域を除くものとの双方またはその第2領域の立体形状に追従するように変形させられ、その状態で、前記剥離剤層を少なくとも部分的にラッピングする(5)項に記載の湿式剥離用ラッピングユニット。
【0061】
(7) 前記第2のシート体は、表面において全幅または全長に渡って延びる複数本の筋目を有するプラスチック段ボールシートであって、前記複数本の筋目のうち互いに隣接した2本の筋目間に折れ線が形成可能であるものを含み、
前記ラッピング部材が前記剥離剤層に装着されたとき、前記第1のシート体と第2のシート体との間に不要な気泡が存在しても、前記複数本の筋目が前記第1のシート体との間においてガス抜き穴として作用し、それにより、前記気泡が軽減するかまたは消滅する(2)ないし(6)項のいずれかに記載の湿式剥離用ラッピングユニット。
【0062】
(8) 前記固定化部材は、前記ラッピング部材のうちの前記高剛性低可撓性シート体をそれの背後から、その高剛性低可撓性シート体の剛性を利用して、局所的に前記剥離剤層に押し付ける(1)ないし(7)項のいずれかに記載の湿式剥離用ラッピングユニット。
【0063】
(9) 前記固定化部材は、弾性を有する発泡体であって、前記1または複数の周辺部材のジオメトリーに適合するジオメトリーを有するように製作可能であるものにより構成される(1)ないし(8)項のいずれかに記載の湿式剥離用ラッピングユニット。
【0064】
(10) 前記固定化部材は、前記構造物のうち前記標的塗膜の周辺に位置する1または複数の周辺部材を利用することによって位置決めされる(1)ないし(9)項のいずれかに記載の湿式剥離用ラッピングユニット。
【0065】
(11) 構造物のうち概して直線的に延びる表面を被覆する既存塗膜のうちの少なくとも一部を標的塗膜として、その標的塗膜を前記構造物の表面から剥離するために前記標的塗膜の表面上に液状、流動状または泡状の剥離剤より成る剥離剤層が形成された後、その剥離剤層を別部材でラッピングして前記剥離剤を前記標的塗膜の表面上に一時的に留置するための湿式剥離用ラッピング方法であって、
低剛性高可撓性シート体と高剛性低可撓性シート体とを有するラッピング部材を前記剥離剤層に装着することにより、前記剥離剤層を少なくとも部分的に、前記標的塗膜の側とは反対側からラッピングするラッピング工程と、
固定化部材により、前記ラッピング部材のうちの少なくとも前記高剛性低可撓性シート体をそれの背後から局所的に前記剥離剤層に押し付け、それにより、前記ラッピング部材を前記剥離剤層に固定化する固定化工程と
を含む湿式剥離用ラッピング方法。
【0066】
(12) 前記低剛性高可撓性シート体は、無指向性にて可撓性を有する第1のシート体を含み、
前記高剛性低可撓性シート体は、有指向性にて可撓性を有する第2のシート体であって前記第1のシート体を背後から補強するものとを有するものを含む(11)項に記載の湿式剥離用ラッピング方法。
【0067】
(13) 前記第2のシート体は、自然状態において板状を成し、一方向には屈曲し難いが他方向には任意の曲げ位置または複数の予定曲げ位置のうち任意のものにおいて屈曲し易いというように一方向においては実質的な自己形状保持性を、他方向においては可撓性を有する(12)項に記載の湿式剥離用ラッピング方法。
【0068】
(14) 前記ラッピング部材は、前記第1のシート体と前記第2のシート体との連続体として構成され、
前記第1のシート体は、前記ラッピング部材において、前記第2のシート体上に少なくとも部分的に巻き状態および/または折畳み状態で格納される格納状態と、前記第2のシート体から外向きに延びるように展開される展開状態とに選択的に遷移可能である(12)または(13)項に記載の湿式剥離用ラッピング方法。
【0069】
(15) 前記ラッピング工程は、
前記第2のシート体を前記第1のシート体の一部を介して前記剥離剤層のうちの第1領域に押し付けるとともに、前記第1のシート体を前記剥離剤層の立体形状に追従するように変形させ、その形状適合状態で前記第1のシート体を前記第1領域に対して位置決めしてその第1領域に装着する装着工程を含む(12)ないし(14)項のいずれかに記載の湿式剥離用ラッピング方法。
【0070】
(16) 前記ラッピング工程は、さらに、
前記第2のシート体が前記第1領域に位置決めされた状態において、前記第1のシート体を前記第2のシート体から延び出させて展開するとともに、前記第1のシート体を前記剥離剤層のうちの前記第1領域と第2領域であって前記第1領域を除くものとの双方またはその第2領域の立体形状に追従するように変形させ、それにより、前記剥離剤層を少なくとも部分的にラッピングする展開工程を含む(15)項に記載の湿式剥離用ラッピング方法。
【0071】
(17) 前記固定化工程は、前記固定化部材を前記ラッピング部材のうちの前記高剛性低可撓性シート体の背後から、その高剛性低可撓性シート体の剛性を利用して、局所的に前記剥離剤層に押し付ける工程を含む(11)ないし(16)項のいずれかに記載の湿式剥離用ラッピング方法。
【0072】
(18) 前記固定化工程は、前記構造物のうち前記標的塗膜の周辺に位置する1または複数の周辺部材を利用することによって前記固定化部材を位置決めする工程を含む(11)ないし(17)項のいずれかに記載の湿式剥離用ラッピング方法。
【0073】
(19) 前記剥離剤層は、前記剥離剤が前記標的塗膜の表面にスプレー塗り、ローラー塗りまたは刷毛塗りによって直接的に塗布されることによって形成されるか,または前記剥離剤が多孔性またはファブリック製のシートに含侵させられて成る剥離剤シートが前記標的塗膜の表面に貼り付けられることによって前記剥離剤が前記標的塗膜の表面に間接的に塗布されることによって形成される(11)ないし(18)項のいずれかに記載の湿式剥離用ラッピング方法。
【0074】
第3の発明
【0075】
剥離剤層を構造物の突起部回りにおいて局所的に弾性的に既存塗膜の塗膜面に密着させる湿式剥離用アプリケータ
【0076】
(1) 構造物のうち平面部から突出した突起部の表面を被覆する既存塗膜を標的塗膜として、その標的塗膜が前記構造物の表面から剥離するために前記標的塗膜の表面上に液状、流動状または泡状の剥離剤より成る剥離剤層とそれを背後から実質的に気密にラッピングする保護層とで被覆された後に、それら剥離剤層および保護層を前記突起部回りにおいて前記標的塗膜に環状の弾性体を装着してその標的塗膜を少なくとも局所的に弾性的に密着させるための湿式剥離用アプリケータ。
【0077】
(2) 当該アプリケータは、前記突起部に対し、前記平面部に対して概して垂直な方向に接近・退避するように使用され、
当該アプリケータは、
待機状態において、前記弾性体を伸長状態で保持する待機部と、
作用状態において、前記弾性体を伸長状態で、前記待機部に接続される基端から当該アプリケータの先端まで移動可能に保持するとともに、前記剥離剤層および前記保護層を標的として、前記弾性体を伸張状態に維持しつつ前記標的に向けて発射する発射部と
を含み、
その発射された弾性体は、伸張状態のまま前記標的に到達してその標的を包囲して弾性的に圧迫する(1)項に記載の湿式剥離用アプリケータ。
【0078】
(3) 前記発射部は、軸線を有する丸形または角形の外周面であって前記弾性体が伸長状態で保持されるものを有し、
その外周面は、自身の軸線に対して、前記先端に接近するにつれて先細となる斜面を有し、その斜面は、前記弾性体から径方向に作用する弾性圧縮力のうちの少なくとも一部をその弾性体の推進力に変換する機能を有する(2)項に記載の湿式剥離用アプリケータ。
【0079】
(4) 当該アプリケータは、さらに、それの移動方向に延びる軸線を有する丸形または角形のホルダであって、少なくとも先端部において、前記突起部を収容可能なサイズを有して中空となるとともに、当該ホルダの先端が前記平面部に実質的に突き当たると、前記先端部および/またはそれの内周面が前記剥離剤層および前記保護層に、前記標的塗膜に接近する向きの力を作用させ、それにより、少なくとも前記標的塗膜と前記剥離剤層との間の密着度を向上させるものを含む(2)または(3)項に記載の湿式剥離用アプリケータ。
【0080】
(5) 前記ホルダは、前記待機部としての平行部と、前記発射部としてのテーパ部とを軸方向に連続的に有し、
前記弾性体は、前記ホルダの外周面上をスライドして前記待機状態から前記作用状態に遷移させられる(4)項に記載の湿式剥離用アプリケータ。
【0081】
(6) 前記ホルダは、前記弾性体との間の摩擦力を低下させる摩擦力低下手段を含む(4)または(5)項に記載の湿式剥離用アプリケータ。
【0082】
(7) 前記摩擦力低下手段は、
少なくとも前記平行部のうちの少なくとも一部の外周面に、軸方向またはらせん方向に延びるように形成された縦ビードと、
少なくとも前記テーパ部のうちの少なくとも一部の外周面に、軸方向またはらせん方向に延びるように形成された縦溝または縦スリットと
のうちの少なくとも一つを含む(6)項に記載の湿式剥離用アプリケータ。
【0083】
(8) 前記弾性体は、輪ゴムを含む(1)ないし(7)項のいずれかに記載の湿式剥離用アプリケータ。
【0084】
(9) 前記剥離剤層は、前記剥離剤が前記標的塗膜の表面にスプレー塗り、ローラー塗りまたは刷毛塗りによって直接的に塗布されることによって形成されるか,または前記剥離剤が多孔性またはファブリック製のシートに含侵させられて成る剥離剤シートが前記標的塗膜の表面に貼り付けられることによって前記剥離剤が前記標的塗膜の表面に間接的に塗布されることによって形成される(1)ないし(8)項のいずれかに記載の湿式剥離用アプリケータ。
【0085】
(10) 前記保護層は、前記剥離剤層と一体的に構成されるか、または、前記剥離剤層から独立してラッピングシートとして構成される(1)ないし(9)項のいずれかに記載の湿式剥離用アプリケータ。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【
図1】
図1は、本発明の例示的な第1実施形態に従うエアレス直接塗布型塗膜剥離方法を実施するために使用される例示的なエアレス塗布機を概念的に表す系統図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すエアレス塗布機において選択的に使用される複数種類の剥離剤すなわちリムーバのそれぞれの組成および使用温度を表す表である。
【
図3】
図3は、前記塗膜剥離方法における例示的な準備工程を示す工程図である。
【
図4】
図4は、前記塗膜剥離方法における例示的な施工工程を示す工程図である。
【
図5】
図5は、
図1に示すエアレススプレーガンのうちのノズルから噴射したリムーバの性状の時間的変遷を概念的に表す図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施例によって既存塗膜上に塗布されたリムーバの塗着性の試験結果を比較例と対比して示す図である。
【
図7】
図7(a)は、液状の剥離剤をエアレス塗布するに際して、エアレススプレーガンから噴霧される前の剥離剤の粘度と、噴霧によって当該剥離剤が分断された複数の液滴のそれぞれの粒径(例えば、平均直径)と、エアレススプレーガンによる剥離剤の霧化性との間に成立する一般的な関係を概念的に表すグラフであり、同図(b)は、同じ噴霧環境において、エアレススプレーガンからの剥離剤の噴射圧と、前記各液滴の粒径との間に成立する一般的な関係を概念的に表すグラフである。
【
図8】
図8は、
図4におけるステップS202のラッピング工程を実施する一具体例としてのラッピング工程を示す工程図である。
【
図9】
図9は、
図8に示すラッピング工程を実施するために使用されるラッピング部材を示す図である。
【
図10】
図10(a)は、
図9(a)に示す第2のシート体の一具体例としてのプラスチック段ボールシートを示す部分破断斜視図であり、
図10(b)は、そのプラスチック段ボールシートの一端部を示す端面図であり、
図10(c)は、そのプラスチック段ボールシートが外力によって折り曲げられる様子を説明するための端面図である。
【
図11】
図11(a)は、
図8におけるステップS301を説明するための側面図であり、
図11(b)および(c)は、
図8におけるステップS303を説明するための側面図であり、
図11(d)は、
図8におけるステップS305を説明するための側面図であり、
図11(e)は、
図8におけるステップS306を説明するための側面図である。
【
図12】
図12は、
図11に示す構造物とは別の種類の構造物の表面から既存塗膜を剥離するためにラッピング部材および固定化部材が使用される様子の一例を説明するための側面図および斜視図である。
【
図13】
図13は、
図11および
図12に示す構造物とは別の種類の構造物の表面から既存塗膜を剥離するためにラッピング部材および固定化部材が使用される様子の一例を説明するための側面図である。
【
図14】
図14(a)は、
図8におけるステップS307を実施するために使用される輪ゴムアプリケータの一具体例を示す平面図であり、
図14(b)は、その輪ゴムアプリケータを示す側面図であり、
図14(c)は、その輪ゴムアプリケータのテーパ部を示す横断面図である。
【
図15】
図15は、
図14に示す輪ゴムアプリケータのホルダとは異なるホルダを示す縦断面図である。
【
図16】
図16は、
図8におけるステップS307を時系列的に説明するための側面図である。
【
図17】
図17は、本発明の例示的な第2実施形態に従うエアレス間接塗布型湿式剥離方法の一例を示す工程図である。
【
図18】
図18は、前記エアレス間接塗布型湿式剥離方法を実施するために使用されるシート状構造体としての層状複合体の一例を示す側面図である。
【
図19】
図19は、
図17におけるステップS1-3の裁断工程の一例を説明するための平面図である。
【
図20】
図20は、
図21と共同して、
図17におけるステップS503のうちの輪ゴムでの密着を時系列的に説明するための側面図である。
【
図21】
図21は、
図20と共同して、
図17におけるステップS503のうちの輪ゴムでの密着を時系列的に説明するための側面図である。
【
図22】
図22は、剥離剤を発泡状態で不織布に含侵させる技術の有効性を確認するために行われた対比試験の様子を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0087】
本発明の各実施形態を分類するためのいくつかの視点
【0088】
1.直接塗布か間接塗布(シート貼付け式)か
2.エアスプレー方式かエアレススプレー方式か
3.剥離剤が泡状か非泡状か
4.ラッピングシート(保護層)が剥離剤層と一体か別体か
【0089】
[第1実施形態]
【0090】
以下、本発明の例示的な第1実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0091】
本実施形態の分類
【0092】
1.直接塗布
2.エアレススプレー方式
3.剥離剤が泡状
4.ラッピングシート(保護層)が剥離剤層と別体
【0093】
本発明の例示的な一実施形態は、構造物(または構造物)から既存塗膜を剥離剤(以下、「リムーバ」ともいう。)を用いて剥離する湿式剥離方法に関するものである。具体的には、その湿式剥離方法は、剥離剤を既存塗膜上に発泡型エアレス(無気噴射、無気噴霧)塗布して剥離する発泡型エアレス塗布剥離方法である。
【0094】
この方法は、前述の第2および第3の発明のそれぞれの一具体例である。
【0095】
その発泡型エアレス塗布剥離方法の一例は、高粘度の剥離剤を既存塗膜上に発泡型エアレス塗布して剥離する方法である。
【0096】
ここに、「高粘度」は、例えば、塗料粘度で表現すると、一般的な塗装が可能な粘度限界(例えば、0.1Pa・s(20℃))より高い粘度を意味する。例えば、「高粘度」は、ゲルコート塗料に相当する粘度(3Pa・s(20℃))またはそれより高い粘度を意味する場合や、マヨネーズ(23℃)に相当する粘度(8Pa・s(20℃))またはそれより高い粘度を意味する場合がある。
【0097】
発泡型エアレス塗布剥離方法の別の一例は、高粘度かつ乳化状態の剥離剤を既存塗膜上に発泡型エアレス塗布して剥離する方法である。高粘度かつ乳化状態の剥離剤の一例は、後述のように、
図2に示す第1リムーバである。
【0098】
上述の発泡型エアレス塗布剥離方法(以下、「本剥離方法」という。)は、後に
図4を参照して詳述するように、化学的な剥離工程としての発泡型エアレス塗布工程S201と、物理的な(機械的な)剥離工程としての剥離工程S203とを、それらの順に実施される複数の工程として有する。
【0099】
図1には、上述の発泡型エアレス塗布工程S201を実施するために使用される例示的なエアレス塗布機10が概念的に系統図で表されている。
【0100】
エアレス塗布機10は、構造物12から既存塗膜14を湿式で剥離するために既存塗膜14上に塗布される剥離剤20を保存するタンク30と、エアレス型の圧送ポンプ40(圧送機)と、エアレススプレーガン(以下、単に「スプレーガン」という。)50と、圧送ポンプ40の駆動源としてのエアコンプレッサ60とを有する。スプレーガン50のタイプは、手持ちのハンドガンであっても自動ガンであってもよい。
【0101】
具体的に、エアコンプレッサ60は、後述のプランジャまたはピストンの背後に位置する加圧室76に高圧を作用させ、それにより、それらプランジャまたはピストンの前方に位置する吐出室(吐出されるべき高粘性の剥離剤20がタンク30から送り込まれる部屋)80を加圧するために使用される。
【0102】
スプレーガン50を用いたエアレススプレー方式は、後に
図5を参照して詳述するが、簡単に説明すると、剥離剤20に高圧をかけて液膜を作り、その液膜を大気(静止空気)と衝突させて、剥離剤20を液滴化する方式である。
【0103】
タンク30は、ホース70を介して、圧送ポンプ40の供給口72に接続されている。その供給口72は、圧送ポンプ40の吐出口80に流体的に接続されている。エアコンプレッサ60は、エアホース74を介して、圧送ポンプ40の加圧室76に接続されている。スプレーガン50は、高圧ホース78を介して、圧送ポンプ40の吐出口80に接続されている。エアレス塗布機10において、ホース70は供給ラインを構成し、エアホース74は圧縮エアラインを構成し、高圧ホース78は圧送ラインを構成する。
【0104】
スプレーガン50は、圧縮エアを直接、剥離剤20に接触させることなく、前記プランジャまたはピストンによって剥離剤20自体を加圧してその剥離剤20をノズルから噴射し、それにより、剥離剤20を複数の液滴に分断するように構成される。
【0105】
以上の説明から明らかなように、エアレス塗布機10は圧縮空気を動力源として圧送ポンプ40を駆動するため、エア駆動式に分類され、よって、このエアレス塗布機10に使用されるスプレーガン50は、エア駆動式エアレススプレーガンと称される。
【0106】
これに対し、圧送ポンプ40の駆動方式として、上述のエア駆動式の他に、電動モータを動力源として圧送ポンプ40を駆動する電動式も存在し、この駆動方式が適用されるスプレーガンは電動エアレススプレーガンと称される。この電動エアレススプレーガンは、高圧噴霧に適しているという特徴を有し、これに対し、本実施形態におけるエア駆動式エアレススプレーガン50は、低圧噴霧に適しており、塗着効率を高めるためおよび噴霧された剥離剤20の霧化性を不良化するために有利であるという特徴を有する。
【0107】
<噴霧ファクターの設定>
【0108】
本実施形態においては、噴霧ファクター、すなわち、剥離剤20の粘度と、剥離剤20が前記ノズルから噴射される際の噴射圧(「霧化圧力」)と、前記ノズルの平均口径とのうちの少なくとも一方が、エアレススプレーガン50を用いて剥離剤20が噴霧される際のその剥離剤20の霧化性が不良化されるように設定される。
【0109】
噴霧ファクターを剥離剤20の霧化性が不良化されるように設定する理由は、後に詳述するが、簡単に説明すれば、次のようになる。
【0110】
すなわち、剥離剤20の霧化性が不良化される場合には、噴霧によって剥離剤20が分断されることとなる複数の液滴のそれぞれの平均粒径が、霧化性が良好である場合より大きくなる。一方、平均粒径が大きいほど、各液滴が静止空気中を飛行する際に、各液滴の運動量(=mv)が大きくなり、静止空気を貫通する能力が高くなり、その結果、各液滴の飛行速度が、各液滴が小さい場合より高速化する。その結果、各液滴が既存塗膜14の表面上に衝突する際の衝撃エネルギー(衝突エネルギー)が霧化性が良好である場合より大きくなる。
【0111】
図7(a)には、液状の剥離剤20をエアレス塗布するに際して、エアレススプレーガン50から噴霧される前の剥離剤20の粘度と、噴霧によって剥離剤20が分断された複数の液滴のそれぞれの粒径(例えば、平均直径)と、エアレススプレーガン50による剥離剤20の霧化性との間に成立する一般的な関係がグラフで概念的に表されている。
【0112】
具体的には、粘度が高いほど、粒径が増し、それにより、霧化性が不良化する。一例においては、粒径が50μm以下である領域においては、霧化性が良好であるのに対し、粒径が50μmより大きい領域においては、霧化性が不良であると定義される。
【0113】
さらに、同図(b)には、同じ噴霧環境において、エアレススプレーガン50からの剥離剤20の噴射圧と、前記各液滴の粒径との間に成立する一般的な関係がグラフで概念的に表されている。具体的には、噴射圧が低いほど、粒径が増し、それにより、霧化性が不良化する。上記と同様にして、一例においては、粒径が50μm以下である領域においては、霧化性が良好であるのに対し、粒径が50μmより大きい領域においては、霧化性が不良であると定義される。
【0114】
そして、本実施形態においては、霧化性を不良化するために、剥離剤20の粘度が、0.1Pa・s(20℃)より高い値に設定される。とはいえ、粘度が高いほど望ましいということではなく、上限値が存在する。その上限値は、例えば、16Pa・s(20℃)である。その上限値が必要であるのは、粘度が高すぎると、剥離剤20が全く霧化しない可能性があるからである。
【0115】
さらに、本実施形態においては、霧化性を不良化するために、前記噴射圧が、80kg/cm2を超えない高さに設定される。
【0116】
さらに、本実施形態においては、霧化性を不良化するために、前記ノズルの等価口径(以下、「ノズル径」ともいう。)が、0.4mm以上の値に設定される。等価口径が小さいほど、剥離剤20は霧化し易いのに対し、ノズル径が大きいほど、剥離剤20は液状に維持されて霧化し難いからである。
【0117】
さらに、霧化性を不良化する噴霧条件について敷衍する。
【0118】
スプレーガン50においては、剥離剤20に作用する圧力(例えば、後述の噴射圧)は、通常は、80-200kg/cm2程度であるが、本実施形態においては、後述のように、例えば30-40kg/cm2というように、通常値より低圧である。
【0119】
スプレーガン50は、材料としての剥離剤20をスプレーガン50のノズルから吐出する方式として、ダイヤフラム式、プランジャーを用いたプランジャーポンプ式またはピストンを用いたピストンポンプ式のいずれを採用してもよいが、剥離剤20が高粘度である場合には、プランジャーポンプ式またはピストンポンプ式を採用することが望ましい。
【0120】
また、スプレーガン50は、上述のように、噴射圧が低圧であることから、材料としての剥離剤20をスプレーガン50内の吐出室内に送給する方式として、圧送式(剥離剤20を加圧して押し出す)よりむしろ、重力式(自然落下を利用して剥離剤20を噴射する)または吹上げ式(空気の流れを利用して剥離剤20を吹き上げて噴射する)を採用してもよいが、圧送式を採用してもよい。
【0121】
いずれの方式を採用しても、スプレーガン50は、本体部90と、その本体部90に対して着脱可能に装着されるノズルチップ92とを有するように構成される。本体部90は、作業者によって握られるグリップ94と、作業者によって操作されるトリガ96とを含むように構成される。
【0122】
ノズルチップ92は、剥離剤20が噴射されるノズルを有する。そのノズルの断面形状は、例えば、円形としたり、楕円形としたり、スリット形とすることが可能である。本実施形態においては、ノズルの断面形状が楕円形であり、また、ノズルの等価口径は、0.59mm(0.4-0.8mmの範囲内)である。ここに、「等価口径」は、ノズル開口部の開口領域を、それと同じ面積を有する円状領域に置換した場合のその円状領域の外形の直径を意味する。
【0123】
スプレーガン50からの剥離剤20の吐出量(噴射量ともいい、例えば、ノズルから一定時間当たりに吐出される剥離剤20の重量として定義される)および散布パターンは、ノズルの形状に依存する。
【0124】
本実施形態においては、スプレーガン50の楕円形ノズルからの剥離剤20の目標散布パターンが、例えば、真横(楕円形ノズルの断面形状のうちの長軸に対して直角な方向)から見ると、噴射方向に進むにつれて幅広となる二等辺三角形状(扇形)であり、その三角形においては、例えば、高さ(スプレー距離)が約25cm、底辺の長さ(パターン幅)が約15-約20cmである。
【0125】
さらに、本実施形態においては、上記楕円形ノズルを採用する場合、前記噴射圧が60kg/cm2のとき、噴射量が1490mL/minであり、また、前記噴射圧が30-40kg/cm2のとき、噴射量が750-1000mL/minである。
【0126】
スプレーガン50の特徴
【0127】
スプレーガン50は、空気吹付けに依存せずに、剥離剤20自体に圧力を作用させて強制的にノズルから剥離剤20を噴射させて塗布する。
【0128】
スプレーガン50を用いたエアレススプレー方式によって剥離剤20が液滴化する原理を説明するに、
図5に示すように、まず、剥離剤20が、ノズルから高圧で液膜として噴射される。その液膜の先端部が周辺の静止空気と衝突し、それにより、液膜の先端部の速度が次第に低下する。これに対し、剥離剤20を噴射させる圧力は一定であるため、液膜は波状化する。その波状化した液膜は、静止空気内を進行するにつれて、その静止空気から抵抗を受け、波状化した液膜は、それの進行方向に並んだ複数の部分に分裂する。
【0129】
その後、各分裂した液膜は、進行方向に対して交差する方向に延びるとともに、その延びる方向に凹部と凸部とを繰り返すように、凹凸ひも状化する。
【0130】
その凹凸ひも状部は、その後、自身の延びる方向に並んだ複数の液滴に分断し、それにより、剥離剤20の液滴化が行われることになる。
【0131】
ところで、スプレーガン50は、高圧の剥離剤20を直接噴霧するため、エアスプレーガンに比べて剥離剤20の飛散量が少なく、塗着効率(例えば、噴霧した剥離剤20の全重量Weに対する、その噴霧された剥離剤20のうち、既存塗膜14上に塗着した部分(飛散した部分を除く)の量Wの比率として定義される)が高い。
【0132】
すなわち、スプレーガン50は、空気を使わずに剥離剤20を液滴化して塗布を行うため、剥離剤20が空気中に霧状化して飛散する量が少なく、環境および作業者に対する健康被害が少なく、かつ、剥離剤20の塗布効率(例えば、塗着効率)が高い。
【0133】
さらに、スプレーガン50への剥離剤20の補給を行いながら剥離剤20の塗布を行うことができるため、剥離作業のストリームライン化に向いている。
【0134】
スプレーガン50は、エアスプレーガンに比べて高圧で剥離剤20を既存塗膜14上に塗布できるため、剥離剤20の厚い膜を既存塗膜14上に形成できる。
【0135】
しかし、スプレーガン50は、エアスプレーガンに比べて剥離剤20の噴射量が多いため、既存塗膜14上に塗布された剥離剤20は、追加の対策を講じないと、垂れが発生し易い。
【0136】
そこで、本実施形態においては、既存塗膜14上への剥離剤20の塗着性(固着性、付着性など)を向上させるために、いくつかの対策が追加された。
【0137】
(1)噴射ファクターの最適化による剥離剤20の泡状化
【0138】
エアスプレーガンと対比して説明するに、本発明者の実験により、スプレーガン50からの剥離剤20の噴射圧が高いほど(例えば、エアコンプレッサ60からスプレーガン50に作用する圧力が高いほど)、スプレーガン50からの剥離剤20の噴射速度が高速化するとともに散布パターン(例えば、円錐状)の断面直径(散布直径)が小径化するという事実が判明した。
【0139】
さらに、上述のように、噴射ファクターの最適化、すなわち、剥離剤20の高粘度化、噴射圧の低圧化およびノズル径の大径化の組合せにより、剥離剤20の各液滴の粒径が大径化し、それにより、各液滴が静止空気中を飛行する際の飛行速度が高速化する。
【0140】
このように、本実施形態においては、そのような噴射ファクターの最適化により、エアスプレーガンに代えてエアレススプレーガン50を採用したこととも相まって、各液滴が高速化される。
【0141】
各液滴の高速化により、前述の各液滴が既存塗膜14上に衝突する際の衝撃エネルギーが増加し、各液滴が衝突によって微細化して液滴の総数が増加し、その結果、それら液滴全体としての表面積すなわち静止空気との接触面積が増加する。それにより、それら液滴がより多くの静止空気を巻き込んで泡状化する。その結果、各液滴がより微細化され、それにより、全体として、より多数の泡(エアバブル)が剥離剤20内に形成されることになる。
【0142】
一方、同じ塗膜厚の剥離剤20において、エアバブルの数が多いほど、各エアバブルが軽量化し、各エアバブルが自重によって既存塗膜14上を流れ難くなる。その結果、既存塗膜14上への剥離剤20の塗着性が向上し、それにより、既存塗膜14上における剥離剤20の塗膜厚が厚くなったと推定される。また、剥離剤20の塗膜厚が厚いほど、既存塗膜14への剥離剤20の塗布量(塗着量ともいい、例えば、一定面積(または一定時間)当たりに塗布される剥離剤20の重量として定義される)が増加する。
【0143】
本発明者の実験により、前記噴射圧としては、30-60kg/cm2の範囲または30-40kg/cm2の範囲が望ましいことが判明した。その数値は、スプレーガン50から剥離剤20が散布されるパターンが前述の目標散布パターンとなり、かつ、スプレーガン50から剥離剤20が十分に霧化せずに(微粒子化せずに)既存塗膜14上に到達するように、設定することが望ましい。
【0144】
(2)剥離剤20の高粘度化による追加の効果
【0145】
一般に、高粘度の剥離剤を塗布する場合には、低粘度の剥離剤を用いる場合とは異なり、剥離剤の塗膜に厚さを必要とする場合に、その塗膜において剥離剤が流れて垂れてしまうことが防止される。
【0146】
本発明者の実験により、剥離剤20の粘度が高いほど、既存塗膜14上への剥離剤20の塗着性が向上するという事実が判明した。
【0147】
さらに、本発明者の実験により、剥離剤20の塗料粘度として、約5-約16Pa・s(20℃)という程度の高粘度であることが望ましいことが判明した。
【0148】
(3)剥離剤20の高乳化度
【0149】
本発明者の実験により、剥離剤20の乳化度が高いほど、既存塗膜14との衝突によって剥離剤20に発生する泡の数が増加するとともに泡が微細化し、その結果、既存塗膜14上への剥離剤20の塗着性が向上するという事実が判明した。
【0150】
この知見に従い、剥離剤20は、エマルジョンすなわち水系剥離剤(例えば、
図2における第1リムーバ)が採用された。
【0151】
とはいえ、本発明者の実験により、剥離剤20が非エマルジョンすなわち溶剤系剥離剤(例えば、
図2における第2-第4リムーバ)であっても、剥離剤20の塗膜厚が、従来の塗布方法すなわちエアスプレーガンを用いるか刷毛塗りによる方法の場合より厚くなるという事実が判明した。
【0152】
<剥離剤20の成分構成>
【0153】
剥離剤20は、種類の如何を問わず、主成分と、補助剤と、増粘剤とを含有する。
【0154】
主成分は、既存塗膜14を膨潤させて構造物12の表面から剥がれ易くするために、有機溶剤を含有する。有機溶剤としては、アルコール系高沸点溶剤、エステル系有機溶剤、複素環状有機溶媒などがある。
【0155】
補助剤は、剥離剤20の性質安定化のために存在し、例えば、芳香族炭化水素系溶剤、テルペン類等がある。
【0156】
増粘剤は、剥離剤20を所定の塗付け量で既存塗膜14上に塗布でき、垂れ難くするために存在し、例えば、珪酸塩化合物、有機ベントナイトなどがある。
【0157】
<剥離剤20の組成のバリエーション>
【0158】
図2に示すように、本実施形態においては、スプレーガン50によって既存塗膜14上に塗布することが可能な剥離剤20として、第1-第4リムーバというように、4種類が存在する。
【0159】
それらのうち、第1リムーバは、水系剥離剤(エマルジョン)であるのに対し、第2-第4リムーバは、溶剤系剥離剤(非エマルジョン)である。
【0160】
さらに、第1-第2リムーバは、平均気温が約10℃より高い高温期において、正常な反応性を示し、使用が推奨されるのに対し、第3リムーバは、平均気温が約10℃未満である低温期であっても、正常な反応性を示し、使用が推奨される。
【0161】
第4リムーバは、ジクロロメタンを含有するため、作業者の健康被害を予防するための安全管理対策が必要であるが、他のリムーバより速乾性があり、かつ、強力な剥離力を発揮する。この第4リムーバは、部分補修用として使用することが推奨される。
【0162】
1.溶剤系剥離剤
【0163】
主成分(20-90%)として有機溶剤を含有し、また、補助成分として、補助剤、増粘剤等を含有する。本明細書においては、「%」という単位が、各リムーバの全重量を基準として、各成分の重量の比率を表す重量パーセントを意味する。
【0164】
2.水系剥離剤
【0165】
主成分(30-50%)として有機溶剤を含有し、また、補助成分として、補助剤、増粘剤等と水(35-50%)とを含有する。
【0166】
一般に、水系剥離剤のほうが溶剤系剥離剤より危険有害性が低い。
【0167】
水系剥離剤は、主成分と水とが界面活性剤を用いて乳化されて成るエマルジョンである。ここに、界面活性剤は、剥離剤をエアレス塗布する際に、その剥離剤の発泡化を促進することに寄与する。また、本発明者による試験によれば、いくつかの溶剤系剥離剤をエアレス塗布したが、その剥離剤は発泡しなかったことを確認した。
【0168】
<発泡型エアレス塗布剥離方法>
【0169】
本実施形態に従う発泡型エアレス塗布剥離方法は、
図3に示す準備工程S100と、
図4に示す施工工程S200とを、それらの順に実施されるように有する。
【0170】
<準備工程>
【0171】
図3に示すように、まず、ステップS101において、作業者が、剥離対象である既存塗膜14を調査する。具体的には、既存塗膜14の材質、塗膜厚、表面性状(例えば、表面粗度μmRmax)などの既存塗膜ファクターや、構造物12の構造、形状などの構造物ファクターを調査する。
【0172】
次に、ステップS102において、作業者が、既存塗膜14を剥離するための施工時期を選択する。施工時期が選択されれば、その施工時期における環境の平均気温が予測される。その平均気温は、前述の4種類のリムーバのうちいずれのものが最適であるかを決定するために参照される。
【0173】
続いて、ステップS103において、作業者が、剥離条件を選択する。具体的には、既存塗膜14についての前述の既存塗膜ファクターおよび/または構造物ファクターに基づき、
図2における第1-第4リムーバのうちのいずれかを今回使用する剥離剤20として選択する。このとき、今回使用する剥離剤20は、前述のように、エアレス塗布において剥離剤20の霧化性が不良化するのに適した粘度を有するように選択される。
【0174】
さらに、調査した塗膜厚を含むファクターに応じ、今回の剥離剤20を用いた剥離作業を何回反復するかを決定する。さらに、前述の既存塗膜ファクターおよび/または構造物ファクターに基づき、各回の剥離作業における剥離剤20の目標塗膜厚を決定する。
【0175】
具体的には、既存塗膜ファクターのうち、既存塗膜14の表面粗度(例えば、単位:μmRmax)に応じて、剥離剤20が既存塗膜14の表面上に被着されることによって形成されることとなる塗膜の目標塗膜厚(平均塗膜厚など)を決定する。
【0176】
さらに具体的には、所定の関係に従い、既存塗膜14の表面粗度に応じて剥離剤20の目標塗膜厚を、表面粗度が小さいほど目標塗膜が厚膜化するように決定する。
【0177】
<施工工程>
【0178】
図4に示すように、まず、ステップS201において、作業者が、既存塗膜14に対し、前述の発泡型エアレス塗布方法を実施する。
【0179】
その発泡型エアレス塗布方法は、作業者が、今回の剥離剤20を調製するかまたは調達し、それをタンク30内に投入する準備工程と、作業者が圧送ポンプ40を起動させ、それにより、今回の剥離剤20をタンク30からスプレーガン50にエアレス状態で圧送する圧送工程とを有する。
【0180】
上記発泡型エアレス塗布方法は、さらに、作業者が、スプレーガン50を把持して標的すなわち既存塗膜14に向け、その状態でトリガ96を引き、それにより、スプレーガン50から剥離剤20を複数の液滴に分断して標的に向けて噴射する噴射工程を有する。
【0181】
その噴射工程は、圧縮エアの流れに剥離剤20を接触させてその剥離剤20を霧吹きの原理で霧化する工程を含まず、さらに、剥離剤20をノズル92から噴射する前に剥離剤20を発泡させる工程を含まない。
【0182】
前記発泡型エアレス塗布方法は、さらに、作業者が、前記噴射された剥離剤20を既存塗膜14の表面上に塗布する塗布工程を有する。
【0183】
その塗布工程においては、その塗布に際し、剥離剤20の前記複数の液滴が既存塗膜14の表面に衝突し、それにより、前記複数の液滴がそれぞれ大気中のエアを巻き込んで発泡化し、それにより、剥離剤20が発泡状態で既存塗膜14の表面上に塗布される。
【0184】
一例においては、前記塗布工程が、前記発泡状態にある剥離剤20が平均直径が約0.1mmから約0.5mmまでの範囲内にある複数の泡を有するように、剥離剤20を既存塗膜14の表面上に塗布するように実施される。
【0185】
別の例においては、前記塗布工程が、剥離剤20が既存塗膜14の表面上に被着されることによって形成される塗膜の平均塗膜厚が約1mmであるように、剥離剤20を既存塗膜14の表面上に塗布するように実施される。
【0186】
さらに別の例においては、前記塗布工程が、剥離剤20が既存塗膜14の表面上に被着されることによって形成される塗膜の平均塗膜厚が約2mmから約5mmまでの範囲内にあるように、剥離剤20を既存塗膜14の表面上に塗布するように実施される。
【0187】
いずれの例においても、既存塗膜14が剥離剤20によって膨潤軟化し、構造物12の表面への付着力が低下し、その結果、既存塗膜14は構造物12の表面から浮き上がる。
【0188】
次に、ステップS202において、剥離剤20の塗布完了後に、作業者が、剥離剤20に対して不透過性を有する保護シートで既存塗膜14の表面をラッピングし、それにより、剥離剤20(揮発性を有する場合)から発生した気化ガスが既存塗膜14の表面から大気に放出されることを防止する。前記保護シートは、例えば、柔軟性を有するポリエチレン製シート、ポリプロピレン製シートなどである。
【0189】
本発明者の実験により、前記ラッピングの効果として、既存塗膜14上に塗布された剥離剤20からの蒸気(気化ガス)の放出が防止され、それにより、約90%の蒸気が既存塗膜14内に浸透して剥離作業の効率化が推進されたことが確認された。
【0190】
このラッピングの具体例は、後に
図8-
図16を参照して詳述する。
【0191】
続いて、ステップS203において、その塗布完了から所要時間(例えば、16-48時間)の経過後、作業者が、前記保護シートを既存塗膜14から剥離して除去する。その後、作業者が、剥離剤20によって付着力が低下して構造物12の表面から浮き上がった既存塗膜14を構造物12から物理的に剥離して除去する。
【0192】
既存塗膜14を構造物12から物理的に剥離するために、作業者は、手工具としてのスクレーパを用いてもよい。
【0193】
さらに、その最初の剥離作業後に構造物12の表面上に残存する既存塗膜14の一部である塗膜残渣物を除去するために、電動回転工具としてのワイヤーブラシ(例えば、カップ状ワイヤーブラシ)やエア・グラインダを用いてもよい。
【0194】
この除去作業が作業者にとっての大きな負担となるため、前記電動回転工具は可及的に軽量であること、剥離した塗膜残渣物が飛散しないことなどが重要である。よって、電動回転工具は、小型で、かつ、回転部が通常より低速で回転するものであることが望ましい。
【0195】
さらに、必要に応じ、作業者は、高圧洗浄機を追加的にまたは代替的に用いて既存塗膜14および/または塗膜残渣物を除去してもよい。
【0196】
なお、本実施形態によれば、剥離剤20の目標塗膜厚を実現するために、刷毛やローラーであると、複数回の塗布作業が必要であったところ、目標塗膜厚を一回の塗布作業で実現可能となり、作業効率が向上する。
【0197】
さらに、本実施形態においては、剥離剤20を設置場所(
図1において、エアレス塗布機10のうちスプレーガン50を除く本体部が固定設置されている場所)からインラインで(前記本体部と、作業場所であるスプレーガン50とが、連続した圧送ライン78で互いに接続される状態で)作業場所に送給することが可能となる。
【0198】
具体的には、エアレス塗布機10のうちの本体部(特に、圧送ポンプ40)とスプレーガン50とが、圧力伝達経路と材料供給経路との双方を兼ねるホース(ライン)78で互いに接続される。その結果、エア塗装(吹き付け塗装)の場合とは異なり、本体部(特に、圧送ポンプ40)とスプレーガン50とを、互いに独立した圧力伝達経路と材料供給経路との双方によって互いに接続することが不要となる。
【0199】
それにより、剥離剤20を確実にスプレーガン50に送給することが可能となり、具体的には、剥離剤20が本体部からスプレーガン50に送給される途中で、剥離剤20が予定外に漏れて作業床等にこぼれてその箇所が剥離剤20で汚染されてしまうことがなくなる。
【0200】
<塗着性試験>
【0201】
塗着性試験に使用した剥離剤20の種類
【0202】
塗着性試験に使用した剥離剤20の種類は、
図2に示す第1リムーバ(高粘度エマルジョン)である。その第1リムーバの一具体例は、次のような成分構成を有する。
【0203】
水分: 40-50重量%
アルコール系溶剤:40-50重量%
石油系溶剤: 1- 5重量%
界面活性剤: 1- 5重量%
増粘剤: 1- 5重量%
防錆類: 1重量%未満
ワックス類: 1重量%未満
【0204】
また、その具体例は、次のような性状を有する。
【0205】
外観:白色または淡黄色を呈する粘稠液体
粘度:5-16Pa・s(20℃)
【0206】
実施例
【0207】
試験片としての500×500mmの塗装用鋼板に剥離剤20を260g、スプレーガン50を用いてエアレス塗布し、それにより、試験片において1.0kg/m2の塗布量(塗布密度、散布密度)を実現した。
【0208】
その塗布後、試験片を垂直に吊るし、剥離剤20の垂れ具合を観察するために、5分経過後に試験片を撮影した。その写真を
図6の上部に貼り付けた。
【0209】
比較例
【0210】
試験片としての500×500mmの塗装用鋼板に剥離剤20を260g、刷毛(図示しない)を用いて塗布し、それにより、試験片において、1.0kg/m2の塗布量(塗布密度、散布密度)を実現した。
【0211】
その塗布後、試験片を垂直に吊るし、剥離剤20の垂れ具合を観察するために、5分経過後に試験片を撮影した。その写真を
図6の下部に貼り付けた。
【0212】
対比観察
【0213】
実施例においては、剥離剤20の垂れ(例えば、剥離剤20が流れた痕跡、剥離剤20の落下など、重力に起因する予定外の剥離剤20の挙動)は全く観察できなかった。また、試験片に塗布された剥離剤20の表面は平滑であった。
【0214】
図6の上部の写真から明らかなように、実施例においては、試験片に塗布された剥離剤20が全く試験片から流れ落ちなかったことが確認された。
【0215】
さらに、試験片から垂れずに試験片に被着して固定された剥離剤20の平均塗膜厚(例えば、重ね塗りせずに一回のみ塗布した場合の塗膜厚)が約2mmから約5mmまでの範囲内にあったことも確認された。
【0216】
さらに、試験片上において発泡状態にある剥離剤20が平均直径が約0.1mmから約0.5mmまでの範囲内にある複数の泡を有することも確認された。
【0217】
これに対し、比較例においては、試験片全域に剥離剤20の垂れ(または流れ、フローライン)が観察された。また、試験片に塗布された剥離剤20の表面には、材料流れが生じて筋状の凹凸模様が存在していた。
【0218】
図6の下部の写真から明らかなように、比較例においては、試験片に塗布された剥離剤20の一部が試験片から流れ落ちたことが確認された。
【0219】
なお付言するに、本発明者は、本実施形態の効果を確認するために、建築物としての鉄塔であって、形状が複雑であるために剥離剤が拡布し難い表面を有するものについて、本実施形態に従う発泡型(発泡促進型)エアレス塗布剥離方法を用いて実際に剥離作業を行った。その結果、剥離作業の確実化、すなわち、例えば、隅々まで既存塗膜が剥離されることと、効率化、すなわち、剥離作業の時間が短縮されることとが確認できた。
【0220】
さらに付言するに、本実施形態に関する前述の説明においては、剥離剤20が泡状化する現象が、スプレーガン50から噴射された剥離剤20が静止空気中を飛行する行程においては、静止空気との衝突によって剥離剤20から分裂した複数の液滴がエアバブル化せず、既存塗膜14と衝突したときにはじめて複数の液滴がエアバブル化して剥離剤20が既存塗膜14上で泡状化する態様として説明された。
【0221】
しかし、剥離剤20の複数の液滴が静止空気中を飛行する行程において、それら液滴のうちの少なくとも一部が静止空気との衝突によってエアバブル化する態様で本発明が実施される可能性を排除しない。
【0222】
<ラッピングの具体例>
【0223】
ここで、前述のラッピングの具体例を
図8-
図16を参照して詳述する。
【0224】
本実施形態においては、そのラッピングを実施するためにラッピングユニット98(
図11(d)参照)が使用される。
【0225】
まず、そのラッピングユニット98を概略的に説明する。
【0226】
そのラッピングユニット98は、構造物12(
図11に示す例においては、アングル材)のうち概して直線的に延びる表面(同図に示す例においては、前記アングル材の6つの側面)を被覆する既存塗膜14のうちの少なくとも一部を標的塗膜(同図に示す例においては、前記アングル材の全側面)として、その標的塗膜を構造物12の表面から剥離するために標的塗膜の表面上に液状、流動状または泡状の剥離剤20より成る剥離剤層99が形成された後、その剥離剤層99をラッピングして剥離剤20からそれの有効成分の気化ガスが大気に放出されることを抑制するように構成される。
【0227】
具体的には、
図11に例示するように、そのラッピングユニット98は、剥離剤層99を少なくとも部分的に、標的塗膜の側とは反対側からラッピングするラッピング部材100であって、低剛性高可撓性シート体(
図9に示す例においては、第1のシート体104、例えば、同図(b)に示す無通気性軟質フィルム)と高剛性低可撓性シート体(
図9に示す例においては、第2のシート体102、例えば、同図(a)に示すプラスチック段ボールシート110)とを有するものを備えている。
【0228】
一例においては、前記低剛性高可撓性シート体が、標的塗膜の全周を被覆する一方、前記高剛性低可撓性シート体が、標的塗膜の一部を、前記低剛性高可撓性シート体との重なり部を有するように被覆し、それにより、標的塗膜の一部に、前記低剛性高可撓性シート体と前記高剛性低可撓性シート体との重なり部(層状体)が構成される。この例においては、前記高剛性低可撓性シート体が標的塗膜の全周を被覆する。
【0229】
別の例においては、前記低剛性高可撓性シート体が、標的塗膜の一部を被覆する一方、前記高剛性低可撓性シート体が、標的塗膜の残りの部分を被覆し、それにより、標的塗膜の全周が、前記低剛性高可撓性シート体と前記高剛性低可撓性シート体との共同によって被覆される。この例においては、前記高剛性低可撓性シート体が単独で標的塗膜の全周を被覆するわけではない。
【0230】
このラッピングユニット98は、さらに、ラッピング部材100のうちの少なくとも前記高剛性低可撓性シート体をそれの背後から局所的に剥離剤層99に押し付けてラッピング部材100を標的塗膜に対して固定化する固定化部材120を備えている。
【0231】
一例においては、固定化部材120が、
図18(c)に例示するように、構造物12のうち標的塗膜の周辺に位置する1または複数の周辺部材101(
図18(c)に示す例を参照。)を利用することによって標的塗膜に対して位置決めされる。
【0232】
別の例においては、固定化部材120が、
図11(d)に例示するように、周辺部材101を利用することなく、包囲(または拘束)ストリング、包囲(または拘束)ストラップ、例えば、粘着テープ124(
図11(e)参照。)などによって固定化部材120を標的塗膜に拘束することにより、標的塗膜に対して位置決めされる。
図11(e)に示す例においては、粘着テープ124の幅が、例えば、標的塗膜の幅より狭く、かつ、固定化部材120の幅と同等かまたはそれより広くなるように選択される。
【0233】
一例においては、前記低剛性高可撓性シート体が、無指向性にて可撓性を有する第1のシート体を含む。これに対し、前記高剛性低可撓性シート体は、有指向性にて可撓性を有する第2のシート体であって前記第1のシート体を背後から支持するものを含む。
【0234】
一例においては、前記第2のシート体が、自然状態において板状を成し、一方向には屈曲し難いが他方向には任意の曲げ位置または複数の予定曲げ位置のうち任意のものにおいて屈曲し易いというように一方向においては実質的な自己形状保持性を、他方向においては可撓性を有する。
【0235】
一例においては、ラッピング部材100が、前記第1のシート体と前記第2のシート体との連続体として構成される。ここに、前記第1のシート体は、ラッピング部材100において、前記第2のシート体上に少なくとも部分的に巻き状態および/または折畳み状態で格納される格納状態と、前記第2のシート体から外向きに延びるように展開される展開状態とに選択的に遷移可能である。
【0236】
一例においては、前記第2のシート体が、前記第1のシート体の一部を介して剥離剤層99のうちの第1領域(
図11(c)に示す例を参照。)に押し付けられると、その際に作用する外力により、剥離剤層99の立体形状に追従するように変形させられ、その形状適合状態で前記第1領域に位置決めされる。
【0237】
一例においては、前記第1のシート体が、前記第2のシート体から延び出させられて展開させられ、剥離剤層99のうちの前記第1領域と第2領域であって前記第1領域を除くもの(
図11(c)に示す例を参照。)との双方またはその第2領域の立体形状に追従するように変形させられ、その状態で、剥離剤層99を少なくとも部分的にラッピングする。
【0238】
一例においては、前記第2のシート体が、表面において全幅または全長に渡って延びる複数本の筋目(
図10(b)参照。)を有するプラスチック段ボールシート110であって、前記複数本の筋目のうち互いに隣接した2本の筋目間に折れ線が形成可能であるものを含む。
【0239】
この例においては、ラッピング部材100が剥離剤層99に装着されたとき、前記第1のシート体と第2のシート体との間に不要な気泡が存在しても、前記複数本の筋目が前記第1のシート体との間においてガス抜き穴として作用し、それにより、前記気泡が軽減するかまたは消滅する。
【0240】
一例においては、固定化部材120(
図11(d)参照。)が、ラッピング部材100のうちの前記高剛性低可撓性シート体をそれの背後から、その高剛性低可撓性シート体の剛性を利用して、局所的に剥離剤層99に押し付ける。
【0241】
一例においては、固定化部材120が、弾性を有する発泡体(例えば、発泡スチロール)であって、前記1または複数の周辺部材101のジオメトリーに適合するジオメトリーを有するように製作可能であるものにより構成される。
【0242】
一般に、発泡スチロールは、成形性(例えば、狙いの形状の製作し易さ)が高く、カッタによる切断、サンダーによる切削などにより、目標形状を容易にかつ高精度で達成することが可能である。
【0243】
この例においては、その発泡スチロールが弾性を有すると、その発泡スチロール製の固定化部材120が、与えられた周辺ジオメトリー(例えば、
図11(d)に示す例においては、ラッピング部材100のジオメトリー、
図18(c)に示す例においては、周辺部材101間のジオメトリーなど)であって変更不能であるものに対して形状寸法誤差を有しても、その誤差を自身の弾性変形によって弾性限度内において吸収可能である。
【0244】
よって、その内在する誤差吸収能力とも相まって、発泡スチロールという材料は、固定化材料120の機能を実現するのに好都合である。
【0245】
<ラッピング部材100を、低剛性高可撓性シート体のみで構成するのではなく、部分的に高剛性低可撓性シート体を用いるように構成した理由>
【0246】
ラッピング部材100を低剛性高可撓性シート体のみで構成すれば、そのシート体は、標的塗膜の形状に対する追従性が高いため、標的塗膜の全体に密着させることが可能である。
【0247】
しかし、標的塗膜上に塗布されて堆積されている剥離剤20の重量をその低剛性高可撓性シート体のみで受ける場合には、剥離剤20の重量が低剛性高可撓性シート体と標的塗膜との間の密着力(粘着力)より大きいと、そのシート体が標的塗膜から予定外に剥離して撓んでしまう可能性がある。そうすると、そのシート体と標的塗膜との間に予定外に隙間が発生する可能性があり、そうすると、剥離剤20から揮発性の有効成分がその隙間を経由して外部に放散されてしまう可能性がある。
【0248】
これに対し、ラッピング部材100を低剛性高可撓性シート体に加えて高剛性低可撓性シート体をも用いるように構成すれば、その高剛性低可撓性シート体は、固定化部材120から局所的な力をそのシート体の全体で、標的塗膜を押し付ける力に変換するため、そのシート体と標的塗膜との間の密着力が高くなり、剥離剤20の重量に打ち勝つことが可能となり、高剛性低可撓性シート体との密着領域については、予定外の隙間が発生せずに済む。
【0249】
そこで、本実施形態においては、低剛性高可撓性シート体の高い形状追従性と、高剛性低可撓性シート体の高い密着性とを同時に享受すべく、ラッピング部材100が、低剛性高可撓性シート体のみで構成するのではなく、部分的に高剛性低可撓性シート体を用いるように構成されている。
【0250】
次に、ラッピングユニット98を具体的に説明する。
【0251】
図9は、ラッピング部材100の一具体例を示す図である。
【0252】
具体的には、同図(a)は、そのラッピング部材100の一部を構成する第2のシート体102の一具体例を示す斜視図である。その第2のシート体102は、例えば無通気性軟質シート、例えば、ポリエチレン製シートまたはポリプロピレン製シートとして構成される。その第2のシート体102は、例えば、既存塗膜14の剥離状況を外部から監視できるように透明であってもよいが、不透明であっても半透明であってもよい。
【0253】
同図(b)は、ラッピング部材100の残りの部分を構成する第1のシート体104の一具体例を示す斜視図である。一例においては、その第1のシート体104が、第2のシート体102との一時的結合のための結合部として粘着部106を1または複数有しており、一例においては、同図に示すように、その粘着部106が第2のシート体102の両端部にそれぞれ配置されている。
【0254】
同図(c)は、ラッピング部材100の一具体例として第1および第2のシート体104および102の連続体を示す斜視図と、その連続体において、第1のシート体104が折り畳み式または巻き式で第2のシート体102に格納される様子の一例を示す側面図とである。第1および第2のシート体104および102の連続体、すなわち、それら2部材が直列接続されたものは、それら2部材の組立体の一例である。
【0255】
一例においては、同図に示すように、第1のシート体104が、第2のシート体102の片面を全体的に被覆するように、その第2のシート体102に格納され、または、初期状態、退避状態もしくは非使用状態として配置される。
【0256】
図10(a)は、
図9(a)に示す第2のシート体102の一具体例としてのプラスチック段ボールシート(以下、「プラ段(またはプラダン)」と略称する。)110を示す部分破断斜視図である。
図10(b)は、そのプラ段110の一端部を示す端面図である。同図(c)は、そのプラ段110が外力によって折り曲げられる様子を説明するための端面図である。
【0257】
同図(a)に示すように、プラ段110は、厚さ方向に互いに対向する一対のライナー(板表面)112,112と、それらライナー112,112を互いに連結する複数のリブ(中空部分の柱)114とを有する。
【0258】
それらリブ114は、互いに等間隔な隙間を隔てて平行に延びるため、プラ段110は、内部に中空構造(例えば、ハーモニカ状)を有する。その中空構造においては、各ライナー112の表面と複数本のリブ114の一側辺との複数本の連結線として複数の筋目が存在し、作業者は、互いに隣接する筋目間に折れ線が形成される(複数の予定曲げ位置のうちの任意のものが選択される)ようにプラ段110を折り曲げることが可能である。
【0259】
プラ段110は、よく知られているように、素材が安価であるうえに、成形性が高く、任意の形状への加工作業が容易である材料の一つである。
【0260】
プラ段110は、よく知られているように、各筋目においてその周辺部より凹んでいるため、各筋目に沿って溝が形成されている。その溝が、前述のガス抜き穴として機能することになる。
【0261】
本実施形態においては、ラッピング部材100が第1および第2のシート体104および102の連続体として構成されている。よって、標的塗膜の剥離作業が終了し、ラッピング部材100を構造物12から撤去する際に、ラッピング部材100が連続体であるため、剥離剤20および剥離した塗膜が付着した面を内側にして巻き込むようにラッピング部材100を巻き付けると、ラッピング部材100と剥離剤20および剥離した塗膜とを一緒に回収することが可能となり、回収作業が容易となる。
【0262】
さらに、ラッピング部材100のうち、第2のシート体102は、
図11に例示するように、剥離剤20と接触しないから、ラッピング部材100の回収後、その第2のシート体すなわちプラ段110はそのままでも再利用可能である。
【0263】
以上のように構成されるラッピングユニット98を用いることにより、
図8に工程図で示すように、
図4におけるラッピング工程S202が実施される。
【0264】
そのラッピング工程S202は、概略的に説明するに、
(a)ラッピング部材100を剥離剤層99に装着することにより、剥離剤層99を少なくとも部分的に、標的塗膜の側とは反対側からラッピングするラッピング工程WRAPと、
(b)固定化部材120により、ラッピング部材100のうちの少なくとも第2のシート体102をそれの背後から局所的に剥離剤層99に押し付け、それにより、ラッピング部材100を剥離剤層99に固定化する固定化工程SCRと
を含むように構成される。
【0265】
ここで、
図8に示すラッピング工程S202を
図11を参照しつつ具体的に説明する。
【0266】
まず、ステップS301において、
図11(a)に例示するように、作業者がエアレス塗布機10を用いることにより、構造物12の標的塗膜上に剥離剤層99が形成される。
【0267】
次に、ステップS302において、作業者により、ラッピング部材100が準備される。ラッピング部材100は、例えば、
図9に示すように、第1のシート体104と第2のシート体102とが直列に連結された連続体として形成される。
【0268】
このとき、第2のシート体102としてのプラ段110は、それが装着されるべき相手側部材、例えば、構造物12のうち標的塗膜が存在する部分の形状に合致するように、自身の外形形状に関して調整されるとともに、その部分の表面の角度(例えば
図11(b)参照。)に合致するように、自身の折り曲げ位置および角度に関して調整される。例えば、プラ段110は、作業者により、いずれかの筋目に沿って、目標の角度で折り曲げられる。
【0269】
続いて、ステップS303において、作業者により、ラッピング部材100が標的塗膜に装着される。これが、ラッピング工程WRAPの一例である。同図(c)に例示するように、標的塗膜の全体に第1領域と第2領域との連続体が割り当てられる。
【0270】
そのラッピング工程WRAPは、同図(b)に例示するように、ラッピング部材100を、第1のシート体104が標的塗膜のうちの第1領域(同図(c)参照。)上に、第2のシート体102がその第1のシート体104上にそれぞれ重なるように、標的塗膜に装着する装着工程を有する。このとき、第1のシート体104は、完全なまたは不完全な格納状態にある。
【0271】
この例においては、第1領域が、水平上面と垂直面とを有し、その垂直面上においては、塗布された剥離剤が流動し易いから、その剥離剤層99が、相対的に剛体である第2のシート体102と、後述の固定化部材120との共同によって補強される。
【0272】
そのラッピング工程WRAPは、さらに、同図(c)に例示するように、第1のシート体104のうち格納されていた部分を、第2領域を被覆するように展開する展開工程を有する。図示の例においては、第1のシート体104が標的塗膜を全周(第1領域と第2領域との双方)にわたって巻き付けられる。このとき、展開状態にある第1のシート体104は、それの他端に位置する粘着部106において、自身の別の部分に固定化される。これにより、第1のシート体104が標的塗膜に固定化される。
【0273】
第2のシート体102は、第1のシート体104のうち第1領域に位置すべき部分をその第1領域に圧着によって係留する。よって、その第1領域は、第1のシート体104にとっては、標的塗膜に対する係留部である。
【0274】
その係留部を起点として、第1のシート体104のうち残りの部分、すなわち、第2領域に位置すべき部分が展開されて標的塗膜に巻き付けられ、それにより、その標的塗膜に装着される。よって、その第2領域は、第1のシート体104にとっては、標的塗膜に対する巻付け部である。
【0275】
その後、ステップS304において、作業者により、同図(d)に例示する形状を有するように、固定化部材120が準備される。
【0276】
この固定化部材120の形状およびサイズは、それが装着される相手方部材(例えば、
図11に示す例においては、構造物12のうち標的塗膜が存在する部分であり、また、
図18(c)に示す例においては、周辺部材120)の形状およびサイズに適合するように選択される。固定化部材120は、例えば、板状の発泡スチロールであるから、ラッピング部材100の表面に対し、例えば
図9(a)に二点鎖線で例示するように、細長い形状の接触面で局所的に接触することになる。
【0277】
このとき、板状の固定化部材120は、ラッピング部材100に対し、固定化部材120の延びる向きがラッピング部材100のうちのプラ段110の筋目方向に対して理想的には直角となり、少なくとも交差するように突き当たるように相対的に配置される(例えば
図9(a)参照。)。それにより、プラ段110が第1のシート板104と固定化部材120との間において実質的に折れ曲がることなく剛体(例えば、一面に沿って延びる1枚の平板または折れ曲がった1枚の平板など)として挙動することが可能であるように、両者間に介在させられる。
【0278】
続いて、ステップS305において、作業者により、
図11(d)に例示するように、固定化部材120が、相対的に剛体である第2のシート体102の露出面に局所的に突き当てられ、それにより、固定化部材120がその第2のシート体102を介して、相対的に軟体である第1のシート体104が剥離剤層99に押し付けられるように、ラッピング部材100に装着される。
【0279】
ここで、それら部材間の力学を分析するに、それぞれの部材間の形状上の差異から、第1のシート体104は、第2のシート体102に広い面積で接触するのに対し、固定化部材120は、第2のシート体102に狭い面積で接触する。
【0280】
しかし、第2のシート体102は、第1のシート体104より高い剛性を有するため、固定化部材120が第2のシート体102に局所的にしか接触しなくても、固定化部材120から第2のシート体102に局所的に入力された外力がその第2のシート体102にの全体に拡散し、その第2のシート体102のうち第1のシート体104と接触する表面全体に面圧が発生するように伝播する。その結果、第2のシート体102は、第1のシート体104のうち第1領域に位置する部分を実質的に全面的に押し付けることが可能である。よって、固定化部材120は、第2のシート体102に対し、局所的突き当て固定化機能を有する。
【0281】
よって、固定化部材120が全体としては板状を成すものであっても、軟体である第1のシート体104のうち第1領域に位置する部分を剥離剤層99に広域的に(例えば、実質的に全面的に)押し付けることが可能となる。その押付けにより、第1のシート体104の前記係留部が形成される。その結果、剥離剤層99と第1のシート体104のうち第1領域に位置する部分との密着度が向上する。
【0282】
このとき、第1のシート体104のうち第1領域に位置する部分と第2のシート体102との間に隙間が生じ、そこに、不要な気泡が閉じ込められてしまう可能性がある。そのような不要な気泡は、上述の、固定化部材120による、第2のシート体102を介した、第1のシート体104の強固な押し付けを阻害する。
【0283】
しかし、第2のシート体102は、例えばプラ段110として構成されているため、表面において全幅または全長に渡って延びる複数本の筋目(
図10参照。)を有する。よって、ラッピング部材100が剥離剤層99に装着されたとき、第1のシート体104のうち第1領域に位置する部分と第2のシート体102との間に不要な気泡が存在しても、前記複数本の筋目が第1のシート体102のうち第1領域に位置する部分との間においてガス抜き穴として作用し、それにより、前記気泡が軽減するかまたは消滅する。
【0284】
その後、ステップS306において、作業者により、
図11(e)に例示するように、固定化部材120とラッピング部材100とに、連続した粘着テープ124が巻き付けて粘着されて固定化され、それにより、固定化部材120がラッピング部材100に対して固定化される。その結果、固定化部材120により、ラッピング部材100が剥離剤層99に押し付けられる。
【0285】
このとき、剥離剤層99と、第1のシート体104のうち第1領域に位置する部分Aとが密着し、その部分Aと第2のシート体102とが密着し、さらに、第2のシート体102と、第1のシート体104のうち、その第2のシート体102の背後に位置する部分Bとが密着する。
【0286】
本実施形態においては、ラッピング部材100において、第1のシート体104と第2のシート体102とが連続体として構成されているが、不連続体として構成されてもよい。
【0287】
その不連続体を採用する一例においては、まず、第1のシート体104が、第2のシート体102から独立して、標的塗膜の全周に巻き付けられる。次に、第2のシート体102が、その巻き状態にある第1のシート体104の一部にその背後から押し付けられ、それにより、その一部の第1のシート体104が前記係留部として機能するようになる。
【0288】
図12(a)は、
図11に示す構造物12(L字状断面で真っ直ぐに延びるアングル部材)とは別の種類の構造物150の表面から既存塗膜14を剥離するためにラッピング部材100および固定化部材120が使用される様子の一例を説明するための側面図である。また、同図(b)は、その構造物150の一部についてラッピング部材100および固定化部材120が使用される様子の一例を説明するための斜視図である。
【0289】
その構造物150は、例えば、鉄塔のうちのプラットトラス構造部(例えば概して円錐台形を成す骨組み構造物)の一部として使用され、構成要素として、例えば、概して水平に延びる板状体152と、その板状体152の下面に固定された水平部材としての構造材154とを有している。その構造材154は、H鋼であり、H字状断面で真っ直ぐに水平に延びている。この例においては、板状体152の下面に、構造材154の上フランジの上面が溶接、ボルト締結などによって結合されている。
【0290】
この例においては、構造材154の表面のうち露出する部分上の既存塗膜14が標的塗膜とされている。
【0291】
この例においては、第1のシート体104(例えば、連続した1枚)が、構造材154の第1片面側の一対の第2のシート体102,102と、構造材154の第2片面側の一対の第2のシート体102,102とによってそれぞれ係留され、さらに、同じ第1のシート体104が、それぞれの係留点から標的塗膜に沿って延び、それにより、標的塗膜の全体を被覆している。第1のシート体104は、構造材154のウェブ両面および上下フランジのそれぞれの両面を連続的に被覆している。
【0292】
この例においては、構造材154の第1片面側(例えば、図において右側)の一対の第2のシート体102,102が、それらに共通の第1の固定化部材120によって固定化され、同様にして、構造材154の第2片面側(例えば、図において左側)の一対の第2のシート体102,102が、それらに共通の第2の固定化部材120によって固定化されている。各固定化部材120は、両端部においてそれぞれ、対応する第2のシート体102の内側コーナー部にフィットする形状を外側コーナー部を有する。
【0293】
この例においては、相対的に剛体である第2のシート体102が、構造材154のうちの水平下面と垂直面とに押し当てられ、それにより、剥離剤層99の流動および第1のシート体104の撓みが抑制される。
【0294】
図13は、
図11および
図12に示す構造物12,150とは別の種類の構造物170の表面から既存塗膜を剥離するためにラッピング部材100および固定化部材120が使用される様子の一例を説明するための側面図である。
【0295】
その構造物170は、例えば、鉄塔のうちのプラットトラス構造部(例えば概して円錐台形を成す骨組み構造物)の床部として使用され、構成要素として、例えば、概して水平に延びる床部材172と、その床部材172の下面に固定された水平部材としての複数の構造材174,176とを有している。
【0296】
各構造材174は、前述のものと同様なアングル部材(山形鋼、等辺山形鋼、アングル鋼)であり、また、各構造材176は、前述のものと同様なH鋼である。この例においては、床部材172の下面に、各構造材174の上側辺部の上面と、各構造材176の上フランジの上面とが溶接、ボルト締結などによって結合されている。
【0297】
この例においては、床部材172の下面のうち露出する部分の上の既存塗膜14と、各構造材174の表面のうち露出する部分の上の既存塗膜14と、各構造材176の表面のうち露出する部分の上の既存塗膜14とが互いに連続して標的塗膜を構成している。
【0298】
この例においては、複数の構造材174,176が、図において最も左側のH鋼A,それの右隣りのアングル鋼B,それの右隣りのアングル鋼Cおよび最も右側のH鋼Dという順序で水平方向に並んでいる。
【0299】
第1のシート体104(例えば、連続した1枚)が、H鋼Aの第1片面側の一対の第2のシート体102,102と、同じH鋼Aの第2片面側の一対の第2のシート体102,102とによってそれぞれ係留され、さらに、同じ第1のシート体104が、それぞれの係留点から標的塗膜に沿って延び、それにより、標的塗膜の全体を被覆している。第1のシート体104は、H鋼AおよびH鋼Dのそれぞれのウェブ両面ならびに下フランジの下面および両側面を連続的に被覆している。
【0300】
この例においては、H鋼Dに剛体の第2のシート体102が装着されていないが、装着されてもよいのはもちろんである。
【0301】
H鋼Aのラッピング
【0302】
この例においては、H鋼Aの第1片面側の一対の第2のシート体102,102が、それらに共通の第1の固定化部材120(SM1)によって固定化され、同様にして、H鋼Aの第2片面側の一対の第2のシート体102,102が、それらに共通の第2の固定化部材120(SM2)によって固定化されている。各固定化部材120は、両端部においてそれぞれ、対応する第2のシート体102の内側コーナー部にフィットする形状を外側コーナー部を有する。
【0303】
この例においては、相対的に剛体である第2のシート体102が、H鋼Aのうちの水平下面と垂直面とに押し当てられ、それにより、剥離剤層99の流動および第1のシート体104の撓みが抑制される。
【0304】
H鋼Dのラッピング
【0305】
この例においては、H鋼Dの第1片面側の一対の第1のシート体104,104(または一対の第2のシート体102,102)が、それらに共通の第3の固定化部材120(SM3)によって固定化され、同様にして、H鋼Dの第2片面側の一対の第1のシート体104,104(または一対の第2のシート体102,102)が、それらに共通の第4の固定化部材120(SM4)によって固定化されている。
【0306】
各固定化部材120は、両端部においてそれぞれ、対応する相手側部材(剛体である第2のシート体102、構造物170など)のコーナー部にフィットする形状をコーナー部を有する。
【0307】
第1区間のラッピング
【0308】
この例においては、標的塗膜のうちH鋼Aからアングル鋼Bまでの第1区間のラッピングが、剥離剤層99が第1のシート体104で被覆され、それが第2のシート体102で被覆され、それが固定化部材120によって固定化されることによって行われる。第2のシート体102も固定化部材120も、それぞれが装着される相手側部材の形状にフィットした形状を有する。この第1区間においては、第2のシート体102が、床部材172の下面に押し付けられる。
【0309】
この例においては、相対的に剛体である第2のシート体102が、床部材172のうちの水平下面に押し当てられ、それにより、剥離剤層99の流動および第1のシート体104の撓みが抑制される。
【0310】
第2区間のラッピング
【0311】
この例においては、標的塗膜のうちアングル鋼Bからアングル鋼Cまでの第2区間のラッピングが、剥離剤層99が第1のシート体104で被覆され、それが第2のシート体102で被覆され、それが固定化部材120によって固定化されることによって行われる。第2のシート体102も固定化部材120も、それぞれが装着される相手側部材の形状にフィットした形状を有する。この第2区間においては、第2のシート体102が、床部材172の下面と、アングル鋼Bの上側辺部の下面および下側辺部の右側面(垂直面)とに押し付けられる。
【0312】
この例においては、相対的に剛体である第2のシート体102が、構造物170のうちの水平下面と垂直面とに押し当てられ、それにより、剥離剤層99の流動および第1のシート体104の撓みが抑制される。
【0313】
第3区間のラッピング
【0314】
この例においては、標的塗膜のうちアングル鋼CからH鋼Dまでの第3区間のラッピングが、剥離剤層99が第1のシート体104で被覆され、それが第2のシート体102で被覆され、それが固定化部材120によって固定化されることによって行われる。第2のシート体102も固定化部材120も、それぞれが装着される相手側部材の形状にフィットした形状を有する。この第3区間においては、第2のシート体102が、床部材172の下面と、アングル鋼Cの上側辺部の下面および下側辺部の右側面(垂直面)とに押し付けられる。
【0315】
この例においては、相対的に剛体である第2のシート体102が、構造物170のうちの水平下面と垂直面とに押し当てられ、それにより、剥離剤層99の流動および第1のシート体104の撓みが抑制される。
【0316】
<輪ゴムアプリケータを用いる局所密着化工程>
【0317】
図8の工程図に戻ると、続いて、ステップS307において、後に
図14-
図16を参照して詳述するように、作業者が、輪ゴムが発射可能に搭載されたアプリケータを用いることにより、剥離剤層99およびそれの背後に位置する保護層130(
図16参照。)を構造物12の突起部182回りにおいて標的塗膜に局所的に弾性的に密着させる。これは、剥離剤層99および保護層130を一緒に構造物12の突起部182回りにおいて標的塗膜に局所的に密着させる局所密着化工程の一例である。
【0318】
ここに、保護層130の一例は、
図16に例示するように、剥離剤層99から独立した保護シート(別体型ラッピングシートなど)または保護層であり、それの一例は、ラッピング部材100である。また、保護層130の別の例は、
図20に例示するように、剥離剤層99と一体化された保護層300(一体型ラッピングシートなど)である。
【0319】
また、突起部182の一例は、同図に例示するように、平面部184(例えば、複数枚の板部材の重ね合わせ)に装着された締結具であり、その締結具は、例えば、ナット、ボルトの頭部またはボルトのうちナットから突出した部分などであり、それらの例は、概して中心線を有しそれに沿って筒状に延びる部材である。
【0320】
図14(a)は、
図8におけるステップS307を実施するために使用される輪ゴムアプリケータ(以下、単に「アプリケータ」ともいう。)180の一具体例を示す平面図であり、
図14(b)は、そのアプリケータ180を示す側面図である。
【0321】
アプリケータ180は、
図16に例示するように、剥離剤層99および保護層130を突起部182回りにおいて標的塗膜に環状の弾性体を装着してその標的塗膜を少なくとも局所的に弾性的に密着させるように構成される。
【0322】
アプリケータ180は、
図16に例示するように、構造物12のうちの突起部182に対し、平面部184に対して概して垂直な方向に接近・退避するように使用される。
【0323】
このアプリケータ180は、待機状態において、前記弾性体を伸長状態(自然状態から伸長した弾性引張状態)で保持する待機部と、作用状態において、前記弾性体を伸長状態で、前記待機部に接続される基端191から当該アプリケータ180の先端192まで移動可能に保持するとともに、剥離剤層99および保護層130を標的として、前記弾性体を伸張状態に維持しつつ前記標的に向けて発射する発射部とを含む。その発射された弾性体は、伸張状態のまま前記標的に到達してその標的を包囲して弾性的に圧迫する。
【0324】
一例においては、前記発射部が、軸線を有する丸形または角形の外周面であって前記弾性体が伸長状態で保持されるものを有する。その外周面は、自身の軸線に対して、先端192に接近するにつれて先細となる斜面を有し、その斜面は、前記弾性体から径方向に作用する弾性圧縮力のうちの少なくとも一部をその弾性体の推進力に変換する機能を有する。
【0325】
一例においては、アプリケータ180が、さらに、それの移動方向に延びる軸線を有する丸形または角形のホルダ188を有する。そのホルダ188は、少なくとも先端部190において、突起部182を収容可能なサイズを有して中空となるとともに、当該ホルダ188の先端192が平面部184に実質的に突き当たると、先端部190および/またはそれの内周面が剥離剤層99および保護層130に、標的塗膜に接近する向きの力を作用させ、それにより、少なくとも標的塗膜と剥離剤層99との間の密着度を向上させる。
【0326】
ホルダ188は、前記待機部としての平行部194と、前記発射部としてのテーパ部196とを軸方向に連続的に有する。
図14(c)は、そのテーパ部196を示す横断面図である。このホルダ188は、硬質または軟質の合成樹脂製であってもよいし、金属製であってもよい。
【0327】
このホルダ188は、突起部182におけるラッピング状況を外部から観察可能にするために、少なくとも一部の領域において透過性を有する材料で構成されてもよい。また、その外部観察機能は、その透過性材料の選択に代わるかまたはそれに加えて、ホルダ188をそれの全長にわたって中空構造とするという対策が採用されてもよい。
【0328】
図16(b)に示すように、アプリケータ180に1または複数本の輪ゴム198が搭載される。各輪ゴム198は、前記弾性体の一例を構成する。
図14(b)に示すように、各輪ゴム198は、ホルダ188の外周面上をスライドして前記待機状態から前記作用状態に遷移させられる。
【0329】
テーパ部196の外周面は、自身の軸線に対して、先端192に接近するにつれて先細となる斜面を有する。その斜面には、輪ゴム198から径方向に弾性圧縮力が作用する。
【0330】
その圧縮力は、前記斜面の効果として、先端192に向かう表面力という第1分力と、抗力という第2分力とに分解される。前記表面力は、輪ゴム198に対し、その輪ゴム198を先端192に向かわせる推進力として作用する。一方、前記抗力は、輪ゴム198に対し、その輪ゴム198が移動しようとする向きとは逆向きに作用する摩擦力すなわち摩擦抵抗力を生起する原因力として作用する。
【0331】
したがって、テーパ部196上にある輪ゴム198が自力でまたは他力で前記斜面に沿って先端192に向かい、やがて発射するために、輪ゴム198の自然長、弾性係数、表面形状および表面摩擦係数を含む複数の特性値と、テーパ部196の直径、斜面角度、表面形状および表面摩擦係数を含む複数の特性値とを含む複数の特性値が予め選択されることになる。
【0332】
具体的には、例えば、テーパ部196内に遷移した輪ゴム198が自力で発射することを実現するためには、前記推進力が前記摩擦力に打ち勝つように前記複数の特性値を選択することが望ましい。また、テーパ部196内に遷移した輪ゴム198が作業者によって人力で発射される場合には、前記斜面があるため、それがない場合より小さい力で作業者が輪ゴム198を引っ張るか押し出せば足りる。
【0333】
ホルダ188は、さらに、自身の表面と各輪ゴム198の表面との間の摩擦力を低下させるいくつかの摩擦力低下手段を含む。
【0334】
具体的には、ホルダ188においては、少なくとも平行部194のうちの少なくとも一部の外周面、例えば、その外周面の全体に、軸方向またはらせん方向に延びるように形成された縦ビード200が存在する。
【0335】
この態様においては、縦ビード200が輪ゴム198をホルダ188の外周面から持ち上げて両者間に隙間を形成する。その隙間のおかげで、輪ゴム198の一部がホルダ188から浮上し、その部分を指で掴めば、輪ゴム198を捕捉することが可能となる。その隙間のおかげで、作業者は、輪ゴム198を指で掴んで軸方向に移動させることが容易となる。
【0336】
さらに、その隙間のおかげで、輪ゴム198とホルダ188の外周面との間の接触面積が減少し、ひいては、両者間の摩擦力が低下する。よって、縦ビード200は、第1の摩擦力低下手段としても機能する。
【0337】
さらに、ホルダ188においては、少なくともテーパ部196のうちの少なくとも一部の外周面、例えば、その外周面の全体に、に、軸方向またはらせん方向に延びるように形成された縦溝または縦スリット、例えば、側面視において軸方向に直線的に延びる縦溝202が第2の摩擦力低下手段として機能するように、一体的にまたは別部品として存在する。
【0338】
この態様においては、縦溝202の底面と輪ゴム198の外周面との間に隙間が形成される。その隙間のおかげで、両者間の接触面積が減少し、ひいては、両者間の摩擦力が低下する。その縦溝202の本数は、
図14に示す例においては、4本であるが、これより多い本数としたり、少ない本数とすることが可能である。
【0339】
また、各縦溝202において、溝幅はそれの長さ方向において不変であってもよいし、可変であってもよく、例えば、先端192に接近するにつれて拡大または減少する溝幅であってもよい。
【0340】
図15は、
図14に示すアプリケータ180のホルダ188とは異なるホルダ210を示す縦断面図である。このホルダ210においては、テーパ部196が、同一直径で真っ直ぐに延びる円筒内周面を有しており、これに対し、ホルダ188においては、テーパ部196が、テーパ円筒外周面より小径のテーパ円筒内周面を有している。
【0341】
図16は、
図8におけるステップS307を時系列的に説明するための側面図である。
【0342】
具体的には、
図16(a)は、構造物12のうちの突起部182回りに剥離剤20が直接塗布されて剥離剤層99が形成された後にその剥離剤層99がそれの背後から別体型の保護層130(別体型ラッピングシートの一例)でラッピングされる様子の一例を示す側面図である。この例においては、その時点においては、剥離剤層99は突起部182に密着しているが、保護層130は突起部182の外形形状に十分には追従しておらず、剥離剤層99との間に隙間が残っている。
【0343】
同図(b)は、アプリケータ180であって輪ゴム198が待機させられたものが突起部182に正面から接近させられる様子の一例を示す側面図である。
【0344】
同図(c)は、アプリケータ180がそれの先端192において平面部184に突き当たるかまたはその直前のタイミングで、アプリケータ180の先端部190の先端191によって保護層130が平面部184に押し付けられ、それに伴い、先端191によって保護層130が突起部182回りにおいて(特に、突起部182にうち、同図においてナットから突出したボルトの先端部など)その突起部182に引き込まれて接近または接触させられるとともに、アプリケータ180から輪ゴム198が発射されてその輪ゴム198が保護層130を突起部182回りに弾性的に包囲して圧迫し、その状態で留置される様子の一例を示す側面図である。
【0345】
ここに、「アプリケータ180から輪ゴム198が発射され」という文言は、輪ゴム198がアプリケータ180の先端192から離脱した後に、その後の移動経路の如何を問わず、突起部182に着地すれば足りることを意味し、輪ゴム198がアプリケータ180の先端192から前方に飛行する行程が存在することを必ずしも意味しない。
【0346】
よって、前記文言は、輪ゴム198がアプリケータ180の先端192から前方に離脱した直後に、その輪ゴム198がほぼ定位置においてほぼ瞬間的に弾性的に縮径し、その結果、突起部182の外周面に着地してそれを包囲する態様を含む。その包囲状態において輪ゴム198が弾性圧縮力を突起部182に付与できるように、輪ゴム198の内径は、それの自然状態において、突起部182の外径より小さくなるように選択される。
【0347】
一例においては、作業者が、いずれかの輪ゴム198(複数本の輪ゴム198が同時に待機している場合には、それら輪ゴム198のうち先端192に最も近いもの)を手で平行部194からテーパ部196にスライドさせ、その後、その輪ゴム198が自力で、または他力(作業者の力または動力源の力)を用いてテーパ部196上を前進し、やがて先端192から離脱する。
【0348】
輪ゴム198を動力源(例えば、モータ、ソレノイド)の力を用いて発射させる態様においては、例えば、作業者が動力源(例えば、電源およびモータ)を制御することにより、その動力源によって動作させられる可動部材(例えば、直線往復運動、回転往復運動を行う部材)であってアプリケータ180に装着されたものを、それの係合部位において、待機位置にある輪ゴム198に接触しない待機位置と、その輪ゴム198にそれの背後から接触して前方に押し出す発射位置とに切り換えることが可能である。前記可動部材は、例えば、少なくとも前記係合部位がテーパ部196の表面から露出するようにアプリケータ180に配置される。
【0349】
一例においては、テーパ部196すなわち発射部が、それのテーパ角または頂角が不変とされるが、別の例においては、その発射部が、開閉式の傘の骨組み構造と同様な構造を有して、収納状態すなわち収縮状態と展開状態すなわち拡張状態とに切り換わり、それにより、当該発射部の頂角が可変であるように構成される。
【0350】
具体的には、例えば、前記発射部が、その頂角が小さい拡張状態(例えば、頂角がゼロである平行筒状)と、その頂角が大きい収縮状態(例えば、テーパ状)とに切り換わるように構成される。この例においては、前記発射部は、待機状態においては拡張状態を取り、発射状態においては収縮状態を取るように作業者によって操作される。
【0351】
一例においては、作業者がアプリケータ180のような道具を用いて輪ゴム198を突起部182に弾性圧縮状態で巻き付けるが、別の例においては、作業者が手で直に輪ゴム198を突起部182に弾性圧縮状態で巻き付ける。
【0352】
[第2実施形態]
【0353】
以下、本発明の例示的な第2実施形態に従う湿式剥離用シート状構造体およびエアレス間接塗布型湿式剥離方法を図面に基づいて詳細に説明する。
【0354】
本実施形態の分類
【0355】
1.間接塗布(シート貼付け式)
2.エアレススプレー方式
3.剥離剤が泡状
4.ラッピングシート(保護層)が剥離剤層と一体
【0356】
上述の湿式剥離用シート状構造体およびエアレス間接塗布型湿式剥離方法は、前述の第1および第3の発明のそれぞれの一具体例である。
【0357】
図17は、上述のエアレス間接塗布型湿式剥離方法の一例を示す工程図である。
【0358】
図18(a)は、このエアレス間接塗布型湿式剥離方法を実施するために使用されるシート状構造体270としての層状複合体の一例であって剥離剤保持層280が一体型のラッピングシートとしての保護層300と使用に先立って作業者によって剥離される剥離層310とによってサンドイッチされた構造を有するものを示す側面図である。
【0359】
同図(b)は、層状複合体270から剥離層310が剥離される様子を示す側面図である。
【0360】
同図(c)は、その層状複合体270が、それの露出面において、構造物12の既存塗膜14のうちの標的塗膜に装着されるとともに、構造物12のうちの周辺部材101と固定化部材120とを用いて層状複合体270が標的塗膜に対して固定化される様子の一例を示す側面図である。
【0361】
概略的に説明するに、層状複合体270は、液状または流動状の剥離剤20を用いて構造物12の表面から既存塗膜14を剥離する湿式剥離のために既存塗膜14の表面である塗膜面に貼り付けられた状態で使用されるシート状構造体である。
【0362】
この層状複合体270は、前記液状または流動状の剥離剤20が発泡状態で多孔性またはファブリック製の保持体(例えば、シート状の保持体)282に含侵させられてその保持体282内に保持される剥離剤保持層280であって、可撓性および粘着性を有するものを含む。
【0363】
保持体282の材料として、例えば、不織布(例えば、長繊維不織布、短繊維不織布など)、フェルト、立毛編織物、起毛編織物などの繊維集合体(ファブリック)と、スポンジ(例えば、連続気泡スポンジ、独立気泡スポンジなど)、ウレタンなどの多孔質材料と、その他、同様なものとがある。
【0364】
本実施形態においては、一例として、保持体282の材質として不織布が使用される。その不織布は、例えば、繊維間に微小な間隙を無数に有する構造を有するファブリックとして定義される。その不織布の繊維の材質として、例えば、ポリプロピレンが使用される。
【0365】
また、不織布の目付(単位面積当たりの重量)は、例えば、約20-約2000g/m2の範囲から選択される。
【0366】
ところで、不織布の目付量が多いほど、同じ容積の剥離剤20の塊内に存在する繊維の本数すなわち繊維密度が増加するため、剥離剤20が不織布の繊維に絡み付く程度が増加して不織布に対する剥離剤20の塗着性が増加すると推測される。
【0367】
しかし、繊維密度が高いほど、剥離剤保持層280が前記塗膜面に付着するときに、剥離剤20が直に前記塗膜面に付着する面積が減少し、剥離剤20が前記塗膜面に付着する付着力が低下すると推測される。
【0368】
要するに、不織布の目付量と剥離剤20の塗着性との間には、不織布の目付量が多いほど剥離剤20の塗着性が向上する効果向上領域(例えば、概略的な線形領域、比例領域)と、不織布の目付量を増やしても剥離剤20の塗着性が向上しない飽和領域とがあり、その飽和領域においては、不織布への剥離剤20の塗布量がその不織布が剥離剤20を保持する能力との関係において過剰となると、不織布における剥離剤20の留置性が低下して剥離剤保持層280において剥離剤20の液垂れが発生し易くなると推測される。よって、剥離剤保持層280における剥離剤20の留置性確保という観点から、使用に適した不織布の目付量に上限値が存在する場合があると推測される。
【0369】
ところで、剥離剤保持層280を用いた塗膜剥離作業が終了すると、その剥離剤保持層280は廃棄物となる。一方、一般に、廃棄物が軽いほど、資源としての不織布の有効利用が促進されるとともに塗膜剥離業者および他の関連業者において廃棄物処理負担が軽減される。よって、資源保護、廃棄物減量および業者負担軽減という観点から、不織布の目付量が少ないほど有利である。
【0370】
このような事情を背景に、不織布の目付は、例えば、約100g/m2を超えないように選択される。また、不織布の目付は、例えば、約70-約90g/m2の範囲から選択される。
【0371】
以上説明した層状複合体270は、剥離剤保持層280が第1の片面において前記塗膜面に貼り付けられた状態で使用され、その使用状態において、剥離剤20を前記塗膜面に間接的に塗布する。
【0372】
このとき、剥離剤20は、無通気性の保護層300と、無通気性の剥離層310(セパレータ)とによって両面からサンドイッチされているため、剥離剤20は、それの有効成分(揮発成分)が外部に放出されずに剥離剤20内に留置される。
【0373】
保護層300は、剥離剤保持層280の第2の片面であって前記第1の片面とは反対側のものに付着され、可撓性および実質的な無通気性を有する。この保護層300は、剥離剤保持層280を実質的に気密にラッピングする機能を有する。
【0374】
剥離層310は、剥離剤保持層280の前記第1の片面に剥離可能に付着され、可撓性および実質的な無通気性を有する。この層状複合体270は、剥離層310が剥離剤保持層280から剥離されて露出した前記第1の片面において剥離剤保持層280が前記塗膜面に貼り付けられた状態で使用される。
【0375】
よって、この層状複合体270は、保護層300、剥離剤保持層280および剥離層310がそれらの順に並んで成る複数の層として構成される。
【0376】
層状複合体270が標的塗膜に貼り付けられる前の段階においては、保護層300および剥離層310の共同により、剥離剤20が乾燥せず、湿潤状態に維持される。また、層状複合体270が剥離層310なしで標的塗膜に貼り付けられた状態においては、保護層300により、剥離剤20が乾燥せず、湿潤状態に維持される。
【0377】
一例においては、この層状複合体270が、約1mm程度の厚さ寸法を有する。この例においては、例えば、保護層300が約10-約100μm程度の厚さ寸法を有し、また、剥離層310が約10-約100μm程度の厚さ寸法を有する。
【0378】
一例においては、保護層300の材質が、柔軟性を有するポリエチレン製シートまたはポリプロピレン製シートである。また、剥離層310の材質が、柔軟性を有するポリエチレン製シートまたはポリプロピレン製シートである。
【0379】
剥離剤保持層280を製作するために、前述の第1実施形態における塗布条件(噴霧条件を含む。)と同じかまたはそれに準じた塗布条件で、剥離剤20がエアレススプレーガン50を用いて発泡された状態で保持体282に塗布されて含侵させられる。
【0380】
これに代えて、剥離剤保持層280は、剥離剤20がそれにエアバブルが注入されて発泡された状態で保持体282に適用されて含侵させられることにより、製作されてもよい。
【0381】
<剥離剤20の物性の測定結果>
【0382】
1.粘性(粘り強さを表す指標)
【0383】
剥離剤20の物性として、粘度は、株式会社トキメック製のB8H型回転粘度計を用い、20℃で、かつ、ローターNo.5またはNo.6を20rpmで3分間回転させて測定した。
【0384】
そのときの測定値は11.48Pa・s(約11-約12Pa・s)であった。剥離剤20については、粘度の測定値が大きいほど、粘り強いことを表す。ここに、剥離剤20については、粘り強いほど、液垂れが発生し難い。
【0385】
また、剥離剤20の物性として、TI値(チクソトロピー)は、5rpmで3分間回転させたときの粘度測定値を、50rpmで3分間回転させたときの粘度測定値で割り算した値として測定した。
【0386】
そのときの粘度測定値は、6.2(約5.5-約6.5)であった。剥離剤20については、TI値の測定値が大きいほど、粘り強いことを表す。ここに、剥離剤20については、粘り強いほど、液垂れが発生し難い。
【0387】
なお、TI(チクソトロピーインデックス)値(揺変指数、揺変係数など)は、塗装業界では、構造粘性を示す特性値としてよく利用されている。
【0388】
2.コンシステンシー(流れ易さを表す指標)
【0389】
剥離剤20の物性として、コンシステンシーは、CSC SCIENTIFIC社製のボストウィック・コンシストメーター(ボストウィック型粘度計)(設定した時間内に、被測定物が細長い容器内を自重で水平方向に流れて広がる距離(流出距離)を測定する)を用い、25℃で、5分間、30分間および60分間で剥離剤20が流れた距離を測定した。
【0390】
そのときの距離測定値は、5分間で8.5cm(約8-約9cm)、30分間で9.0cm(約8.5-約9.5cm)、そして、60分間で9.0cm(約8.5-約9.5cm)であった。剥離剤20については、前記距離の測定値が小さいほど、流れ難いことを表す。ここに、剥離剤20については、流れ難いほど、液垂れが発生し難い。
【0391】
それら測定値(流れ距離の時間的推移を表す。)により、剥離剤20は、30分経過後は流動性を示しておらず、静止していた(重力以外の外力がなければ形態を保持しするがその外力があれば変形するというように半固形化していた)ことが確認された。
【0392】
3.pH値
【0393】
剥離剤20の一例については、pH値が8.6として測定された。この数値は、その剥離剤20が酸性を示さず、むしろアルカリ性を示すと評価されるが、その数値が「7」に十分に近いことから、中性を示すと評価されることが可能である。よって、この剥離剤20は、水系中性剥離剤に分類することが可能である。
【0394】
<剥離剤20を発泡状態で不織布に含侵させる技術の有効性を確認するための対比試験>
【0395】
1.実施例
【0396】
不織布として、「W-7636 業務用換気扇交換用長尺フィルター 幅60cm×30m巻(ブランド:カースル 製品型番:667697 ポリプロピレン繊維」という市販品が存在する。この市販品の目付は、約86g/m2であった。
【0397】
試験用保持体282として、上述の不織布が600×600mmのサイズを有するように準備された。さらに、試験用保護層300として、試験用保持体282より少し大きい形状の保護層300であってポリエチレン製のものが準備された。その試験用保護層300の板厚は約10μであった。
【0398】
試験用保持体282が試験用保護層300の上に載置され、試験用保持体282を標的として、剥離剤20がエアレススプレーガン50を用いて所定の噴射距離でエアレス塗布された。それにより、剥離層310なしの層状複合体270であって1.0kg/m2の塗布量を有するものが実施例として製作された。この実施例としての層状複合体270の厚さは約1mmであった。
【0399】
図22において、最も左側に示すように、この層状複合体270は、液垂れの状況を観察するために、剥離剤保持層280が表層、保護層300が裏層となる向きで、長方形状のベニヤ板の一表面上に、それの中央位置において、そのベニヤ板の表面とこの層状複合体270の表面とが実質的に同一面となるように貼り付けられた。
【0400】
さらに、同図に示すように、そのベニヤ板は垂直に吊るされ、このとき、この層状複合体270は、それの全体形状である四角形の上辺と下辺とが水平に延びる姿勢であった。
【0401】
この垂直姿勢でこの層状複合体270を放置すると、60分が経過してもこの層状複合体270の表面に液垂れが発生しなかった。また、16時間が経過してもこの層状複合体270の表面に液垂れが発生しなかった。
【0402】
2.比較例
【0403】
比較例においては、上述の実施例と同じ塗布面積および同じ塗布量のもと、剥離剤20とは異なる剥離剤の前記不織布への塗布がエアレススプレーガン50ではなく、ローラー塗りによって行われた。この比較例においては、前記剥離剤が非発泡状態で前記不織布に塗布された。
【0404】
同図において、中央および最も右側に示すように、上述の実施例と同様にして、この比較例としての層状複合体270が中央に貼り付けられた状態でベニヤ板が垂直に吊るされた。
【0405】
この垂直姿勢でこの層状複合体270を放置すると、その直後からこの層状複合体270の表面に液垂れが発生しはじめた。また、60分経過後には、この層状複合体270の表面に著しい液垂れ現象が観察された。
【0406】
具体的には、同図において、中央および最も右側に示すように、この層状複合体270内の剥離剤が前記ベニヤ板のうちその層状複合体270の枠外の領域を、その層状複合体270の下辺を超え、かつ、数cm以上の長さで流下したことが観察された。
【0407】
3.比較結果
【0408】
よって、剥離剤の液垂れ性、不織布への定着性および保持性に関し、上述の実施例の方が比較例より顕著に優れていることが確認された。
【0409】
<剥離剤20を保持体282にエアレス噴霧方式でかつ発泡状態で塗布して含侵させることのいくつかの利点>
【0410】
第1の利点
【0411】
本実施形態においては、剥離剤20が保持体282に向かってエアレス噴霧方式で塗布されるため、エアスプレー方式で塗布される場合のように剥離剤20が広範囲に飛散せずに済み、その結果、剥離剤20が無駄に消費されずに済む。
【0412】
よって、本実施形態によれば、剥離剤20に関する経済性が改善されるとともに剥離効率が向上するという利点が得られる。
【0413】
第2の利点
【0414】
本実施形態においては、剥離剤20が保持体282に向かってエアレスで狭い標的範囲内に塗布されるため、エアスプレー方式で塗布される場合のように剥離剤20が広い標的範囲に拡大せずに済み、その結果、剥離剤20の噴射位置および噴射量を安定的に精度よく管理できる。
【0415】
一方、保持体282に塗布される剥離剤20の量については、液垂れ防止という観点から、かつ、標的塗膜の塗膜厚(剥離剤20によって剥離されるべき塗膜厚)にも依存するが、例えば、1m2当たり約500-約1,000gの剥離剤20の塗布が適当であるから、その数値範囲より、保持体282に塗布された剥離剤20の量が過剰であると、保持体282を垂直姿勢にしたときに、剥離剤20に液垂れが発生する可能性がある。
【0416】
これに対し、本実施形態によれば、剥離剤20の噴射位置および噴射量を精度よく管理できるから、ムース泡状(多数の細かい気泡を含んだ泡状のムースであり、これは、気泡を含まない点で、ペースト状ではない)の発泡現象により、剥離剤20が保持体282に安定して定着し、剥離剤20の単位面積当たりの塗布量が均一化するとともに剥離剤20の塗布むらおよび液垂れが防止される。
【0417】
よって、本実施形態によれば、剥離剤20の液垂れを容易に防止できるという利点が得られる。
【0418】
第3の利点
【0419】
ところで、エアスプレー方式および電動エアレススプレー方式で剥離剤20が保持体282に塗布される場合には、剥離剤20のミストが高圧で保持体282に射出され、保持体282に対する塗着効率が低下するとともに、剥離剤20のミストにより作業環境が汚染されて健康被害につながるおそれがある。
【0420】
これに対し、本実施形態においては、剥離剤20が保持体282に向かって低圧で塗布される。よって、本実施形態によれば、剥離剤20がミスト状に飛散しないため、周辺環境が汚染され難くなり、そのミスト状の剥離剤20による作業員および作業環境への悪影響が著しく軽減される。
【0421】
さらに、本実施形態によれば、剥離剤20のミストが高圧で保持体282に射出されることはないから、保持体282を作業台上においていちいち治具を用いて位置決めしなくても、剥離剤20の低圧での塗布中に保持体282の位置がずれずに済む。
【0422】
その結果、本実施形態によれば、剥離剤20を塗布する作業が容易になるという利点が得られる。
【0423】
第4の利点
【0424】
剥離剤20は保持体282内に留置される状態において、保持体282が標的塗膜に押し付けられると、そのときに作用する外力により剥離剤20が保持体282内を局所的に流動することがあったとしても、全体としては、留置されたことが確認された。これは、保持体282を構成する複数本の繊維のそれぞれの表面に剥離剤20がしっかり絡み合っていることを意味し、その強固な絡み合いも、剥離剤20が発泡化されたことに起因すると推測される。
【0425】
第5の利点
【0426】
本実施形態においては、剥離剤20が保持体282に良好に含侵させられて成る剥離剤保護層280の背後に乾燥防止層としての保護層300が一体型ラッピングシートとして被覆されて層状複合体270(1枚のシート)として一体化させられる。
【0427】
そして、本実施形態によれば、その層状複合体270を標的塗膜に貼り付けるだけで、剥離剤20が標的塗膜に間接的に塗布されることと、その塗布された剥離剤20の乾燥が防止されることとの双方が一気に実現される。
【0428】
本発明者による試験の結果、本実施形態によれば、保持体282への剥離剤20の塗布作業およびその剥離剤20の乾燥揮発防止のためのラッピング作業がより容易になり、剥離剤20の剥離効率が向上するとともに、標的被膜に対する塗布および剥離剤20に対するラッピングが最適化されるため、剥離剤20が標的塗膜に安定的に密着して剥離剤20の剥離効果が持続し、その剥離効果が向上することが確認された。
【0429】
第6の利点
【0430】
剥離剤20の発泡は、剥離剤20にエアバブルを注入することによってではなく、第1実施形態と同様に、剥離剤20をエアレス噴霧し、剛体面(図示しないが、例えば、作業台など)上に支持されている保持体282に衝突させ、その衝突によって剥離剤20が保持体28内の空間内で発泡化する。
【0431】
具体的には、第1実施形態と同様に、剥離剤20がエアレススプレーガン50を用いたエアレス噴霧によって複数の液滴に分断され、その後、各液滴が保持体282、具体的には、保持体282内の繊維(前述の「内部組織」の一例。保持体282が多孔質材料製である場合には、例えば細孔壁が該当する。)と衝突して微細化し、それにより、剥離剤20の液滴の総数が増加する。
【0432】
その結果、それら液滴全体としての表面積すなわち静止空気との接触面積が増加する。それにより、それら液滴が、保持体282内の繊維間隙間内で泡状化して多数の泡(エアバブル)に転化し、やがて、剥離剤20は多数の泡の集まりとして保持体282内に投錨されて閉じ込められることになる。
【0433】
このように、剥離剤20の液滴が保持体282の内部で発泡化する場合には、その保持体282の表面に存在する各細孔の開口面積より大きいエアバブルが保持体282の内部に存在し得るのに対し、剥離剤20の液滴が保持体282の外部で発泡化する場合には、その保持体282の表面に存在する各細孔の開口面積より大きいエアバブルが保持体282の内部に進入できないから、当然に、内部に存在し得ない。
【0434】
よって、剥離剤20の液滴が保持体282の内部で発泡化する場合には、剥離剤20の液滴が保持体282の外部で発泡化する場合より、剥離剤20が保持体282の内部組織に投錨または係留され、それにより、剥離剤20がより強固に保持体282内に閉じ込められて留置されると推測される。
【0435】
第7の利点
【0436】
上述のように、本実施形態においては、剥離剤20が保持体282内に、その剥離剤20の物性に依存して留置されるという要因より、その剥離剤20の発泡構造すなわち多数のエアバブルの集まりという構造自体に依存して留置されるという要因が強いと推測される。
【0437】
よって、本実施形態によれば、剥離剤20の留置性が、その剥離剤20の粘性などの物性および保持体282の繊維密度などの物性に対して強い特異性または依存性を示さずに済み、その結果、剥離剤20と保持体282との複数の組合せの広範囲にわたり、任意の剥離剤20と任意の保持体282とが適合性を有することになると推測される。
【0438】
したがって、本実施形態によれば、剥離剤20と保持体282との組合せを選択する際の自由度が向上し、作業者は、剥離剤留置性という事情より他の事情を優先させて、剥離剤20と保持体282との組合せを選択することが可能となると推測される。
【0439】
<剥離剤20の発泡し易さに影響を及ぼす要因>
【0440】
剥離剤20は、前述のように、界面活性剤を含有している。比較例として、本発明者は、界面活性剤を含有していない他社の剥離剤をエアレス噴霧したところ、その剥離剤は発泡しなかったことを確認した。よって、剥離剤20発泡度(発泡し易さを表す指標)に影響を及ぼす要因として、界面活性剤が存在することが確認された。
【0441】
図17は、本実施形態に従うエアレス間接塗布型湿式剥離方法の一例を示す工程図である。
【0442】
まず、ステップS501において、準備工程が実行される。
【0443】
この準備工程S501は、概略的に説明するに、剥離剤保持層280と、保護層300と、剥離層310とより成る層状複合体270(「湿式剥離用シート状構造体」の一例)を準備する工程である。
【0444】
剥離剤保持層280は、それ自身、粘着性を有するから、それの両面にそれぞれ保護層300および剥離層310が剥離可能に粘着し、それら3つの層の積層により、層状複合体270が可撓性を有するものとして製作される。
【0445】
この準備工程S501は、具体的には、4つの工程を有している。
【0446】
ステップS1-1は、決定工程であり、これは、作業者が、既存塗膜のうちの少なくとも一部を標的塗膜として決定する工程である。
【0447】
後続するステップS1-2は、目標設定工程であり、これは、作業者が、保持体282の目標平面視形状を、前記決定された標的塗膜の平面視形状に適合するように設定する工程である。
【0448】
後続するステップS1-3は、裁断工程であり、これは、作業者が、
図19に例示するように、前記決定された目標平面視形状と実質的に一致する形状を有するように保持体282をカッタなどの切断具を用いて板状のブランク材290から裁断する工程である。そのブランク材290は、保持体282と材質および板厚が同じものである。
【0449】
後続するステップS1-4は、含侵工程である。
【0450】
この工程は、
(1)作業者が、保持体282の裁断と同様にして、保持体282と実質的に同じまたはそれより大きい(例えば、保持体282との寸法比で約10%または約20%を超えない範囲で保持体282より大きい)形状を有するように板状の第2ブランク板(保護層300と材質および板厚が同じブランク板)から保護層300を裁断する工程と、
(2)作業者が、作業台上に保護層300を平面展開状態で載置する工程と、
(3)作業者が、その保護層300の上に保持体282を位置合わせして載置する工程と、
(4)作業者が、保持体282を標的にして、剥離剤20をエアレススプレーガン50を用いてエアレス噴霧して複数の液滴に分断して保持体282に衝突させ、それにより、各液滴を保持体282内において泡状化し、それにより、剥離剤20が保持体282に発泡状態で含侵させられてその保持体282内に保持される剥離剤保持層280を製作する工程と、
(5)作業者が、それら剥離剤保持層280と保護層300との積層体に剥離層310を剥離剤保持層280の面において重ね合わせることにより、層状複合体270を製作する工程と
を有する。
【0451】
ここに、剥離層310は、保持体282と同じ形状を有するように裁断したり、保持体282より小さくはない形状であって、その保持体282の形状の如何を問わず、同一の形状を有するものとして裁断することが可能である。
【0452】
さらに、剥離層310は、層状複合体270を製作するに当たり不可欠なものではなく、標的塗膜への貼付け前の段階において剥離剤保持層280の乾燥(有効成分の放散・喪失)を懸念することが不要である場合には、保護層300上に剥離剤保持層280を形成した後にその剥離剤保持層280上に剥離層310を被覆することは不要である。
【0453】
この準備工程S501の実行後、ステップS502において、貼付け工程が実行される。
【0454】
この工程は、
(1)作業者が、
図18(b)に例示するように、剥離層310を層状複合体270から剥離する工程と、
(2)作業者が、同図(c)に例示するように、剥離剤保持層280のうち、剥離層310の剥離によって露出した面(前述の第1の片面)において標的塗膜に接触するように、層状複合体270を標的塗膜に貼り付け、それにより、剥離剤20を標的塗膜に間接的に塗布する工程と
を有する。
【0455】
この準備工程S501は、
図8の工程図においては、S301およびS302に対応する。
【0456】
この貼付け工程S502の実行後、ステップS503において、
図18(c)に例示するように、固定化工程が実行される。
【0457】
この工程は、
(1)作業者が、構造物12のうち標的塗膜の周辺に位置する1または複数の周辺部材101を利用することによって固定化部材120を位置決めし、その固定化部材120により、剥離剤保持層280および保護層300をそれらの背後から標的塗膜に押し付け、それにより、剥離剤保持層280を標的塗膜に固定化する工程(前述の第1実施形態と同様に、低剛性高可撓性シート体としての保護層300を、別部材としての高剛性低可撓性シート体(例えば、前述のプラ段110)を介して、局所押付け式(例えば、前述の突き当たり式)の固定化部材(例えば、固定化部材120)によって背後から押し付けて保護層200の全面を剥離剤保持層280の全面に実質的に均一な面圧のもとに押し付けてもよい。)と、
(2)作業者が、
図11(e)に例示するように、粘着テープ124を用いて固定化部材120を構造物12に固定化する工程と、
(3)作業者が、
図20および
図21に例示するように、アプリケータ180を用いることにより、剥離剤保持層280およびそれの背後に位置する保護層300を構造物12の突起部182回りにおいて標的塗膜に局所的に弾性的に密着させる工程と
を有する。
【0458】
この固定化工程S503は、
図8の工程図においては、S304-S307に対応する。
【0459】
この固定化工程S503の実行後、ステップS504において、静置工程が実行される。
【0460】
この工程は、作業者が、剥離剤保持層280および保護層300を、
図18(c)に例示する状態で、剥離剤保持層280内の剥離剤20が標的塗膜に浸透してその標的塗膜が目標の膨潤軟化状態に達するまで静置する工程である。
【0461】
この静置工程S504の実行後、ステップS505において、除去工程が実行される。
【0462】
この工程は、作業者が、まず、粘着テープ124を構造物12から除去し、次に、固定化部材120を剥離剤保持層280から除去し、続いて、剥離剤保持層280および保護層300を構造物12から除去する工程である。
【0463】
図20は、
図21と共同して、
図17におけるステップS503のうちの輪ゴム198での局所密着化を時系列的に説明するための側面図である。
【0464】
具体的には、
図20(a)は、突起部182と平面部184とを有する構造物12のうちのその突起部182回りに層状複合体260が装着されることによって剥離剤20が間接塗布されると同時にラッピングシートとしての保護層300が付着される様子の一例を示す側面図である。
【0465】
同図(b)は、アプリケータ180であって輪ゴム198が待機させられたものが突起部182に正面から接近させられる様子の一例を示す側面図である。
【0466】
同図(c)は、アプリケータ180が平面部184に突き当たるかまたはその直前のタイミングで、アプリケータ180の先端部190の先端192によって層状複合体270が平面部184に押し付けられ、それに伴い、先端192によって層状複合体270が突起部182回りにおいて(特に、突起部182にうち、同図においてナットから突出したボルトの先端部など)引き込まれて突起部182に接近または接触させられるとともに、アプリケータ180において輪ゴム198が待機位置から発射位置に向かって前進する様子の一例を示す側面図である。
【0467】
図21(d)は、アプリケータ180から輪ゴム198が発射されてその輪ゴム198が層状複合体270を突起部182回りに弾性的に包囲して圧迫する様子の一例を示す側面図である。同図において、最下端に位置する輪ゴム198は、先端部190の先端192にちょうど位置し、アプリケータ180から発射直前の状態にある。
【0468】
同図(e)は、アプリケータ180が、輪ゴム198を突起部182回りに留置したまま、その突起部182から退避する様子の一例を示す側面図である。
【0469】
一例においては、上述の間接塗布法が既存塗膜14の全域について一律に適用される。別の例においては、複数種類の剥離剤付着方式が適材適所で選択される。
【0470】
後者の例においては、具体的には、例えば、既存塗膜14が、剥離剤20を直接塗布した場合にその剥離剤20に液垂れが発生し易い第1領域R1(例えば、突起部182、角度急変部、下向き面、垂直面、傾斜面、曲率半径が基準値より小さい曲面部など)と発生し難い第2領域R2(例えば、平面部184、水平上面、曲率半径が前記基準値以上である曲面部など)とに区分される。
【0471】
さらに、第1領域R1については間接塗布法が、第2領域R2については前述の直接塗布法が適用されるというように、2種類の剥離剤付着方式が適材適所で選択される。これは、複数種類の剥離剤付着方式が併用される併用式である。
【0472】
前述のいくつかの実施形態または実施例についての詳細な事項は、特許請求の範囲の解説を目的として与えられたものであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。本発明についての少ない数の具体例しか上記の説明において文章によって詳細に説明されていないが、当業者であれば、前述の新規な教示事項および本発明の利点から実質的に逸脱することなく、それら具体例において多くの変形例が存在することが容易に理解される。例えば、一具体例に関連して説明された複数の特徴は、全体的にであるか部分的にであるかを問わず、本発明についての他の任意の具体例に合体されてもよい。
【0473】
したがって、すべてのこの種の変形例は、本発明の範囲内に包含されるように意図されており、本発明の範囲は、後続する特許請求の範囲およびそれに対するすべての均等物において定義される。さらに、多くの具体例がいくつかの具体例、特に前述の望ましい具体例の利点のすべてを達成するわけではないものとして想定されており、特定の利点が存在しないことが必ずしも、該当する具体例が本発明の範囲内に存在しないことを意味しない。様々な変更を本発明の範囲から逸脱することなく前述の範囲内において行うことが可能であるから、発明の詳細な説明の欄に含まれるすべての事項は、特許請求の範囲の解説を行うものとして、かつ、限定を行うという意味ではないものとして解釈される。
【手続補正書】
【提出日】2022-10-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状または流動状の剥離剤を用いて構造物の表面から既存塗膜を剥離する湿式剥離のために前記既存塗膜の表面である塗膜面に貼り付けられた状態で使用されるシート状構造体を製作する方法であって、
前記シート状構造体は、
前記剥離剤が多孔性またはファブリック製の保持体に発泡状態で含浸させられて成る剥離剤保持層であって、可撓性および粘着性を有するとともに、第1の片面において前記塗膜面に貼り付けられた状態で使用され、その使用状態において、前記剥離剤を前記塗膜面に間接的に塗布するものと、
その剥離剤保持層の第2の片面であって前記第1の片面とは反対側のものに付着される保護層であって、可撓性および実質的な無通気性を有するとともに、前記剥離剤保持層を実質的に気密にラッピングする機能を有するものと
を含み、
前記シート状構造体は、前記剥離剤保持層と前記保護層とを含む複数の層による層状複合体として構成され、
当該方法は、
エアレススプレーガンを用いて前記剥離剤を80kg/cm
2
を超えない噴射圧でエアレス噴射して複数の液滴に分断して前記保持体に衝突させ、それにより、各液滴を前記保持体内において泡状化し、それにより、前記剥離剤を前記保持体に発泡状態で含浸させ、それにより、前記シート状構造体を製作する製作工程を含み、
前記剥離剤は、前記エアレススプレーガンからの噴射前に、0.1Pa・s(20℃)より高い粘度を有するシート状構造体製作方法。
【請求項2】
液状または流動状の剥離剤が多孔性またはファブリック製であるシート状の保持体に含浸させられて成る剥離剤保持層を製作する方法であって、
エアレススプレーガンを用いて前記剥離剤を80kg/cm
2
を超えない噴射圧でエアレス噴射して複数の液滴に分断して前記保持体に衝突させ、それにより、各液滴を前記保持体内において泡状化し、それにより、前記剥離剤を前記保持体に発泡状態で含浸させ、それにより、前記剥離剤保持層を製作する製作工程を含み、
前記剥離剤は、前記エアレススプレーガンからの噴射前に、0.1Pa・s(20℃)より高い粘度を有する剥離剤保持層製作方法。
【請求項3】
さらに、前記剥離剤保持層の前記第1の片面に剥離可能に付着される剥離層であって、可撓性および実質的な無通気性を有するものを含み、
前記シート状構造体は、前記剥離層と前記剥離剤保持層と前記保護層とを含む複数の層による層状複合体として構成され、
前記シート状構造体は、前記剥離層が前記剥離剤保持層から剥離されて露出した前記第1の片面において前記剥離剤保持層が前記塗膜面に貼り付けられた状態で使用される請求項1に記載のシート状構造体製作方法。
【請求項4】
前記保持体は、不織布であり、
その不織布の目付は、100g/m2を超えない請求項1に記載のシート状構造体製作方法。
【請求項5】
前記剥離剤は、界面活性剤を含む請求項1に記載のシート状構造体製作方法。
【請求項6】
液状または流動状の剥離剤を用いて構造物の表面から既存塗膜を剥離する湿式剥離方法であって、
シート状構造体を準備する準備工程であって、そのシート状構造体は、剥離剤保持層と保護層とを含む複数の層による層状複合体として構成されるものと、
前記既存塗膜のうちの少なくとも一部を標的塗膜として、その標的塗膜に前記シート状構造体を、前記剥離剤保持層が第1の片面において前記標的塗膜の塗膜面に接触するように貼り付ける貼付け工程と
を含み、
前記剥離剤保持層は、前記剥離剤が多孔性またはファブリック製の保持体に発泡状態で含浸させられて成り、可撓性および粘着性を有するとともに、前記第1の片面において前記塗膜面に貼り付けられた状態で使用され、その使用状態において、前記剥離剤を前記塗膜面に間接的に塗布し、
前記保護層は、前記剥離剤保持層の第2の片面であって前記第1の片面とは反対側のものに付着され、可撓性および実質的な無通気性を有するとともに、前記剥離剤保持層を実質的に気密にラッピングする機能を有しており、
前記準備工程は、エアレススプレーガンを用いて前記剥離剤を80kg/cm
2
を超えない噴射圧でエアレス噴射して複数の液滴に分断して前記保持体に衝突させ、それにより、各液滴を前記保持体内において泡状化し、それにより、前記剥離剤を前記保持体に発泡状態で含浸させる含浸工程を含み、
前記剥離剤は、前記エアレススプレーガンからの噴射前に、0.1Pa・s(20℃)より高い粘度を有するシート貼付け型湿式剥離方法。
【請求項7】
前記噴射圧は、30-40kg/cm
2
の範囲内の高さに設定される請求項6に記載のシート貼付け型湿式剥離方法。
【請求項8】
前記準備工程は、さらに、
前記保持体を板状の第1ブランク板から、前記標的塗膜に対応する形状を有するように裁断する第1裁断工程と、
前記保護層を板状の第2ブランク板から、前記保持体に対応する形状を有するように裁断する第2裁断工程と
を含む請求項7に記載のシート貼付け型湿式剥離方法。
【請求項9】
前記貼付け工程は、
前記標的塗膜を、前記剥離剤を直接塗布した場合にその剥離剤に液垂れが発生し易い第1領域と発生し難い第2領域とに区分する区分工程と、
前記第1領域については、前記シート状構成体を貼り付けて前記剥離剤を間接的に塗布する間接塗布法を適用する一方、前記第2領域については、前記剥離剤を直接的に塗布する直接塗布法を適用する適用工程と
を含む請求項6に記載のシート貼付け型湿式剥離方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離剤が既存塗膜を剥離する際の剥離効率を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物(家屋、ビル等)、鉄製の骨組み構造を用いて構成される細長い建造物である鉄塔(例えば、送電用鉄塔、通信用鉄塔など)、土木構造物(橋梁等)、船舶、車両(自動車、列車等)、飛行機等の構造物または構造体の表面を塗り替えるために、その表面にすでに被着されている既存塗膜を構造物の表面(素地)から剥離し、その後、新たな塗料を構造物の同じ表面上に塗布する種類の施工が行われる。
【0003】
ここに、既存塗膜を構造物表面から剥離する方法としては、物理的手法と化学的手法とが存在する。
【0004】
物理的手法は、スクレーパなどの手工具、ワイヤーブラシなどの除去具を電動モータを用いて回転させる電動回転工具、同様な除去具をエアモータを用いて回転させるエア回転工具、高圧水噴射機などの剥離機械などを作業者が用いて既存塗膜を構造物から剥離する手法である。
【0005】
これに対し、化学的手法は、薬剤を含む剥離剤を既存塗膜に付着させてその既存塗膜を溶解または膨潤させ、それにより、既存塗膜を構造物から剥離する手法である。この手法は、塗膜剥離剤を用いた湿式による塗膜除去方法すなわち湿式剥離方法とも称される。
【0006】
その湿式剥離方法においては、液状の剥離剤を既存塗膜に付着させる手法として、例えば特許文献1および2に開示されているように、スプレー塗り、ローラー塗りまたは刷毛塗りにより、剥離剤を既存塗膜に直接的に塗布する直接塗布法が存在する。
【0007】
さらに、液状の剥離剤を既存塗膜に付着させる別の手法として、特許文献3および4に開示されているように、液状の剥離剤を不織布などのシート基材に含浸させたものを既存塗膜に対して用い、それにより、噴霧なしで剥離剤を既存塗膜に間接的に塗布する間接塗布法も存在する。
【0008】
具体的には、特許文献3は、剥離剤をシート基体(シート状の保持体)に含浸させて剥離剤保持層を製作し、剥離剤の既存塗膜への直接塗布なしで、剥離剤保持層を既存塗膜に貼り付ける点を開示している。よって、この文献は、剥離剤保持層を、直接的な剥離対象である構造物から独立し、かつ、その構造物に対する直接的な剥離作業とは別に、それに先立って製作する事前製作技術を開示していることになる。
【0009】
また、特許文献4は、剥離剤をシートに含浸させる方法として、含侵前のシートをそれの背後が非透液性層で被覆される状態で既存塗膜に貼り付け、その後、既存塗膜と非透液性層とによってサンドイッチされたシートに剥離剤を注入する方法を開示している。この方法は、剥離剤保持層を、直接的な剥離対象である構造物に依存し、かつ、その構造物に対する直接的な剥離作業の実行中に製作する直接製作技術に属するから、この文献は、事前製作技術を開示していない。
【0010】
間接塗布法すなわちシート貼付け法によれば、剥離剤を既存塗膜に付着させるために剥離剤を既存塗膜に向けて噴霧しないため、剥離剤の飛散が防止され、それにより、無駄な剥離剤の消費が防止されるとともに、環境への悪影響が防止されるという利点や、剥離剤が既存塗膜上に付着した状態でその剥離剤が自重で垂れるいわゆる液垂れ現象が抑制されるとともに、既存塗膜上に付着される剥離剤の層の膜厚が均一化する結果、剥離剤の付着むらないしは偏在が軽減され、局所的な剥離効率(例えば、剥離剤の消費量に対する既存塗膜の剥離量)が均一化されるという利点がある。
【0011】
ところで、既存塗膜に付着された剥離剤のうちの有効成分が揮発性を有する場合には、その有効成分が気化してガスが発生すると、そのガスが剥離剤から外部に放出または放散して剥離剤から有効成分が少なくとも部分的に喪失してしまい、既存塗膜に到達する有効成分の量が減少する可能性がある。この場合には、剥離剤が効果的に既存塗膜に作用せず、剥離剤の剥離効率が低下する。
【0012】
このような不都合を解消ないしは軽減するための手法として、例えば特許文献1-3に開示されているように、既存塗膜上に存在する剥離剤の層を、それの背後から、その剥離剤の有効成分に対して不透過性を有する保護シート(例えば、ポリエチレン製シート、ポリプロピレン製シート)、無通気性のシート、塗装養生用シート、有機フィルム基材などのシートで被覆しまたはラッピングする手法がある。
【0013】
さらに、別の手法として、例えば特許文献2に開示されているように、剥離剤の層にそれの背後から乾燥遅延用の水性組成物を吹き付けてその水性組成物の被膜を乾燥遅延材として剥離剤の層上に形成する手法も存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第6717492号公報
【特許文献2】特開2013-018887号公報
【特許文献3】特許第5226213号公報
【特許文献4】特開2001-269613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者は、剥離剤の剥離性能の向上および剥離作業の高効率化という側面から、上述の従来技術を分析し、その結果、次のような知見を得た。
【0016】
1)間接塗布法を実施するという用途のために剥離剤保持層を事前製作する技術の重要性
【0017】
特許文献3は、剥離剤をシート基体に含浸させる技術に関し、シート基体の材質に関しては開示しているが、剥離剤をシート基体に含浸させる方法すなわち剥離剤保持層の事前製作技術に関しては無言である。
【0018】
また、特許文献4は、剥離剤をシート基体に含浸させる方法として、含浸前のシートをそれの背後が非透液性層で被覆される状態で既存塗膜に貼り付け、その後、既存塗膜と非透液性層とによってサンドイッチされたシートに剥離剤を注入する方法と、含浸前のシートを単独で既存塗膜に貼り付け、その後、その貼付け状態でそのシートに剥離剤を噴霧して塗布する方法とを開示している。
【0019】
しかし、この文献は、前述の事前製作技術に関しては無言であるから、その事前製作技術のためにどのようにして剥離剤保持層を製作するかに関して開示する余地はない。
【0020】
一方、本発明者は、間接塗布法を実施するという用途のために剥離剤保持層を事前製作する技術について鋭意研究し、試行錯誤を繰り返した結果、剥離剤をファブリック製のシート基体に含浸させる場合、剥離剤が例えば、時間継続的に、濃度分布的に、膜厚分布的に良好にシート基体に含浸させられて良好に留置されるという剥離剤留置性を達成したいという要望があるとの知見を得た。
【0021】
さらに、本発明者は、その剥離剤留置性は、剥離剤の粘性などの物性およびシート基体の繊維密度などの物性に対して強い特異性または依存性を示さず、剥離剤とシート基体との複数の組合せの広範囲にわたり、任意の剥離剤と任意のシート基体とが適合性を有するものとしたいという実用上の要望もあるとの知見も得た。
【0022】
さらに、本発明者は、それら要望を同時に満たすためには、剥離剤をシート基体に含浸させる方法を最適化することが重要であるとの知見も得た。
【0023】
そこで、本発明者は、特許文献3および4の存在を知る前に、独自に、間接塗布法を実施するという用途に、剥離剤をシート基体に予め含浸させて成るシートを用いる手法を思い付き、さらに、剥離剤をシート基体に含浸させる方法として、特許文献1に記載された発泡型エアレス噴霧式塗布方法を採用することを思い付いた。
【0024】
そして、本発明者は、その着想の有効性を確認すべく、多孔性またはファブリック製の保持体に剥離剤を発泡型エアレス噴霧式で塗布するという試験を行ったところ、意外なことに、その保持体に剥離剤が予想以上に良好に付着含浸して保持体内に留置されたことを確認した。
【0025】
さらに、本発明者は、そのように剥離剤が発泡状態で保持体に含浸留置されて成る剥離剤保持層が粘着性を有するとともに、剥離剤が発泡状態で保持体に含浸されるために剥離剤保持層がその厚さの割に軽量であるため、その剥離剤保持層を構造物の既存塗膜に良好に、例えば、簡単に予定外にはがれてしまうことなく貼り付けることが可能であることを確認した。
【0026】
すなわち、本発明者は、本人が独自に着想した発泡型エアレス噴霧式塗布方法であって既知のものの未知の属性として、剥離剤を保持体に良好に含浸留置させることができるという属性が存在することを知ったのである。
【0027】
さらに、本発明者は、その未知の属性を利用し、間接塗布法を実施するという用途に発泡型エアレス噴霧式塗布方法を用いることが効果的であることを確認した。
【0028】
2)剥離剤付着法が直接塗布法であるか間接塗布法であるかを問わず、ラッピングシートが剥離剤層に継続的に密着することの重要性
【0029】
上述の従来技術では、例えば、構造物のうちの垂直面、傾斜面または水平下面(水平上面を除くいくつかの表面であって、その上に剥離剤層があると、重力により、その剥離剤層内の材料が下方または斜め下方に流動する傾向を生じさせるもの)を被覆する既存塗膜上に存在する剥離剤層をそれの背後からラッピングシートでラッピングする場合、剥離剤層を下方から支持するラッピングシートがその剥離剤層の重量が原因でその剥離剤層から剥離して撓むことにより、そのラッピングシートが剥離剤層に継続的に密着しない可能性があった。
【0030】
その場合には、ラッピングシートで剥離剤層がラッピングされるにもかかわらず、その剥離剤層からの気化ガスがラッピングシートとの間の隙間から外部に放出されてしまい、剥離剤が効果的に既存塗膜に作用せず、剥離剤の剥離効率が低下することが確認された。
【0031】
また、ラッピングシートが剥離剤層に密着しない場合に、両者間に形成された空間が閉じていると、その空間に剥離剤からの気化ガスとしての有効成分が滞留してしまう。その滞留する気化ガスは、既存塗膜に浸透せず、剥離剤の有効成分のうち、実際に既存塗膜内に浸透する量が減少し、よって、剥離剤が効果的に既存塗膜に作用せず、剥離剤の剥離効率が低下することが確認された。
【0032】
3)剥離剤付着法が直接塗布法であるか間接塗布法であるかを問わず、構造物のうちの突起部回りに剥離剤層およびラッピングシートが密着することの重要性
【0033】
上述の従来技術では、構造物が平面部とその平面部から突出した突起部とを有する場合に、直接塗布法であれば、剥離剤が突起部にくまなく塗布されるが、ラッピングシートが自身の低可撓性のために既存塗膜上の剥離剤層に良好に密着しなかった。この場合には、その剥離剤層からの気化ガスがラッピングシートとの間の隙間から外部に放出されてしまい、剥離剤が効果的に既存塗膜に作用せず、剥離剤の剥離効率が低下することが確認された。
【0034】
これに対し、間接塗布法であると、構造物のうち突起部回りにおいては、角度急変部があるため、剥離剤層すら突起部に密着しなかった。この場合には、その剥離剤層からの気化ガスが突起部との間の隙間から外部に放出されてしまい、剥離剤が効果的に既存塗膜に作用せず、剥離剤の剥離効率が低下することが確認された。
【0035】
本発明者は、上記の説明において明示的に、示唆的にまたは内在的に開示されている(当業者であれば、出願当時の技術常識に照らせば自明である)いくつかの事実および本明細書のうちの他の箇所または図面において明示的に、示唆的にまたは内在的に開示されている(当業者であれば、出願当時の技術常識に照らせば自明である)いくつかの事実を総合的に、具体的には、それら事実を個別にまたは任意の部分集合に分断して着目することにより、いくつかの課題に到達し、その課題としては、例えば、剥離剤の剥離効率を向上させる技術を提供するというものがある。
【0036】
その課題は、例えば、後述の第2または第3の課題と共にまたは単独で、第1の課題、すなわち、既知の発泡型エアレス噴霧式塗布方法の前述の未知の属性を利用して、液状または流動状の剥離剤を保持体に含浸させる技術を最適化することにより、保持体に対する剥離剤の留置性を向上させ、それにより、剥離剤の剥離効率を向上させるというものを含むかもしれない。
【0037】
また、前述の課題は、上述の第1の課題または後述の第3の課題と共にまたは単独で、第2の課題、すなわち、剥離剤付着法が直接塗布法であるか間接塗布法であるかを問わず、剥離剤層からラッピングシートに作用する下向き力にかかわらず、既存塗膜に対する剥離剤層の密着性を向上させ、それにより、剥離剤に剥離効率を向上させるというものを含むかもしれない。
【0038】
また、前述の課題は、上述の第1または第2の課題と共にまたは単独で、第3の課題、すなわち、剥離剤付着法が直接塗布法であるか間接塗布法であるかを問わず、構造物のうちの突起部回りに対する剥離剤層の密着性を向上させ、それにより、剥離剤による既存塗膜の剥離効率を向上させるというものを含むかもしれない。
【課題を解決するための手段】
【0039】
本発明によって下記の各態様が得られる。各態様は、項に区分し、各項には番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、本発明が採用し得る技術的特徴の一部およびそれの組合せの理解を容易にするためであり、本発明が採用し得る技術的特徴およびそれの組合せが以下の態様に限定されると解釈すべきではない。すなわち、下記の態様には記載されていないが本明細書または図面には記載されている技術的特徴を本発明の技術的特徴として適宜抽出して採用することは妨げられないと解釈すべきなのである。
【0040】
さらに、各項を他の項の番号を引用する形式で記載することが必ずしも、各項に記載の技術的特徴を他の項に記載の技術的特徴から分離させて独立させることを妨げることを意味するわけではなく、各項に記載の技術的特徴をその性質に応じて適宜独立させることが可能であると解釈すべきである。
【0041】
ただし、本明細書または図面において、複数の要素(例えば、ハードウエア要素およびソフトウエア要素を含む。)または工程の集まりが一発明として把握されるように記載されているかまたはそのように記載されているに等しい具体的な実施態様が存在する場合に、それら要素または工程は、そのように一発明として把握される具体的な実施態様が存在するとはいえ、必ずしも一体不可分であるわけではなく、それら要素または工程は、出願当時の技術常識に照らし、必要に応じて随時分断され、それらの一部が任意に選択ないしは抽出されて新たな一発明として把握される。このとき、その新たな一発明は、対応する課題であって本明細書または図面に明示的に、示唆的にまたは内在的に開示されている(当業者であれば、出願当時の技術常識に照らせば自明である)ものを解決する手段として把握される。
【0042】
第1の発明
【0043】
液状または流動状の剥離剤が多孔性またはファブリック製の保持体に含浸保持されて成るシート状構造体を既存塗膜の塗膜面に貼り付けることによって湿式剥離を非噴霧式で行う技術であって、剥離剤を発泡状態で保持体に含浸させ、それにより、剥離剤と多孔性保持体内の複数の細孔壁またはファブリック製保持体内の繊維との絡み合い度を増加させて剥離剤の保持体への投錨効果を強化し、その結果、保持体に対する剥離剤の留置性、すなわち、シート状構造体における剥離剤の留置性を向上させる技術
【0044】
(1) 液状または流動状の剥離剤を用いて構造物の表面から既存塗膜を剥離する湿式剥離のために前記既存塗膜の表面である塗膜面に貼り付けられた状態で使用される湿式剥離用シート状構造体であって、
前記剥離剤が多孔性またはファブリック製の保持体に発泡状態で含浸させられて成る剥離剤保持層であって、可撓性および粘着性を有するとともに、第1の片面において前記塗膜面に貼り付けられた状態で使用され、その使用状態において、前記剥離剤を前記塗膜面に間接的に塗布するものと、
その剥離剤保持層の第2の片面であって前記第1の片面とは反対側のものに付着される保護層であって、可撓性および実質的な無通気性を有するとともに、前記剥離剤保持層を実質的に気密にラッピングする機能を有するものと
を含み、
当該シート状構造体は、前記剥離剤保持層と前記保護層とを含む複数の層による層状複合体として構成される湿式剥離用シート状構造体。
【0045】
(2) 前記剥離剤保持層は、前記剥離剤をエアレス噴霧して複数の液滴に分断して前記保持体に衝突させ、それにより、各液滴を前記保持体内において泡状化し、それにより、前記剥離剤を前記保持体に発泡状態で含浸させることによって製作される(1)項に記載の湿式剥離用シート状構造体。
【0046】
(3) さらに、前記剥離剤保持層の前記第1の片面に剥離可能に付着される剥離層であって、可撓性および実質的な無通気性を有するものを含み、
当該シート状構造体は、前記剥離層と前記剥離剤保持層と前記保護層とを含む複数の層による層状複合体として構成され、
当該シート状構造体は、前記剥離層が前記剥離剤保持層から剥離されて露出した前記第1の片面において前記剥離剤保持層が前記塗膜面に貼り付けられた状態で使用される(1)または(2)項に記載の湿式剥離用シート状構造体。
【0047】
(4) 前記保持体は、不織布であり、
その不織布の目付は、100g/m2を超えない(1)ないし(3)項のいずれかに記載の湿式剥離用シート状構造体。
【0048】
(5) 前記剥離剤は、界面活性剤を含む(1)ないし(4)項のいずれかに記載の湿式剥離用シート状構造体。
【0049】
(6) 液状または流動状の剥離剤を用いて構造物の表面から既存塗膜を剥離する湿式剥離方法であって、
シート状構造体を準備する準備工程であって、そのシート状構造体は、剥離剤保持層と保護層とを含む複数の層による層状複合体として構成されるものと、
前記既存塗膜のうちの少なくとも一部を標的塗膜として、その標的塗膜に前記シート状構造体を、前記剥離剤保持層が第1の片面において前記標的塗膜に接触するように貼り付ける貼付け工程と
を含み、
前記剥離剤保持層は、前記剥離剤が多孔性またはファブリック製の保持体に発泡状態で含浸させられて成り、可撓性および粘着性を有するとともに、前記第1の片面において前記塗膜面に貼り付けられた状態で使用され、その使用状態において、前記剥離剤を前記塗膜面に間接的に塗布し、
前記保護層は、前記剥離剤保持層の第2の片面であって前記第1の片面とは反対側のものに付着され、可撓性および実質的な無通気性を有するとともに、前記剥離剤保持層を実質的に気密にラッピングする機能を有するシート貼付け型湿式剥離方法。
【0050】
(7) 前記準備工程は、
前記保護層の上に前記保持体を載置し、その保持体に向けて前記剥離剤をエアレス噴霧して複数の液滴に分断して前記保持体に衝突させ、それにより、各液滴を前記保持体内において泡状化し、それにより、前記剥離剤を前記保持体に発泡状態で含浸させ、それにより、前記シート状構造体を製作する含浸工程を含む(6)項に記載のシート貼付け型湿式剥離方法。
【0051】
(8) 前記準備工程は、さらに、
前記保持体を板状の第1ブランク板から、前記標的塗膜に対応する形状を有するように裁断する第1裁断工程と、
前記保護層を板状の第2ブランク板から、前記保持体に対応する形状を有するように裁断する第2裁断工程と
を含む(6)または(7)項に記載のシート貼付け型湿式剥離方法。
【0052】
(9) 前記貼付け工程は、
前記標的塗膜を、前記剥離剤を直接塗布した場合にその剥離剤に液垂れが発生し易い第1領域と発生し難い第2領域とに区分する区分工程と、
前記第1領域については、前記シート状構成体を貼り付けて前記剥離剤を間接的に塗布する間接塗布法を適用する一方、前記第2領域については、前記剥離剤を直接的に塗布する直接塗布法を適用する適用工程と
を含む(6)ないし(8)項のいずれかに記載のシート貼付け型湿式剥離方法。
(10) 液状または流動状の剥離剤を用いて構造物の表面から既存塗膜を剥離する湿式剥離のために前記既存塗膜の表面である塗膜面に貼り付けられた状態で使用されるシート状構造体を製作する方法であって、
前記シート状構造体は、
前記剥離剤が多孔性またはファブリック製の保持体に発泡状態で含浸させられて成る剥離剤保持層であって、可撓性および粘着性を有するとともに、第1の片面において前記塗膜面に貼り付けられた状態で使用され、その使用状態において、前記剥離剤を前記塗膜面に間接的に塗布するものと、
その剥離剤保持層の第2の片面であって前記第1の片面とは反対側のものに付着される保護層であって、可撓性および実質的な無通気性を有するとともに、前記剥離剤保持層を実質的に気密にラッピングする機能を有するものと
を含み、
前記シート状構造体は、前記剥離剤保持層と前記保護層とを含む複数の層による層状複合体として構成され、
当該方法は、
エアレススプレーガンを用いて前記剥離剤を80kg/cm
2
を超えない噴射圧でエアレス噴射して複数の液滴に分断して前記保持体に衝突させ、それにより、各液滴を前記保持体内において泡状化し、それにより、前記剥離剤を前記保持体に発泡状態で含浸させ、それにより、前記シート状構造体を製作する製作工程を含み、
前記剥離剤は、前記エアレススプレーガンからの噴射前に、0.1Pa・s(20℃)より高い粘度を有するシート状構造体製作方法。
(11) 液状または流動状の剥離剤が多孔性またはファブリック製であるシート状の保持体に含浸させられて成る剥離剤保持層を製作する方法であって、
エアレススプレーガンを用いて前記剥離剤を80kg/cm
2
を超えない噴射圧でエアレス噴射して複数の液滴に分断して前記保持体に衝突させ、それにより、各液滴を前記保持体内において泡状化し、それにより、前記剥離剤を前記保持体に発泡状態で含浸させ、それにより、前記剥離剤保持層を製作する製作工程を含み、
前記剥離剤は、前記エアレススプレーガンからの噴射前に、0.1Pa・s(20℃)より高い粘度を有する剥離剤保持層製作方法。
(12) 液状または流動状の剥離剤を用いて構造物の表面から既存塗膜を剥離する湿式剥離方法であって、
シート状構造体を準備する準備工程であって、そのシート状構造体は、剥離剤保持層と保護層とを含む複数の層による層状複合体として構成されるものと、
前記既存塗膜のうちの少なくとも一部を標的塗膜として、その標的塗膜に前記シート状構造体を、前記剥離剤保持層が第1の片面において前記標的塗膜の塗膜面に接触するように貼り付ける貼付け工程と
を含み、
前記剥離剤保持層は、前記剥離剤が多孔性またはファブリック製の保持体に発泡状態で含浸させられて成り、可撓性および粘着性を有するとともに、前記第1の片面において前記塗膜面に貼り付けられた状態で使用され、その使用状態において、前記剥離剤を前記塗膜面に間接的に塗布し、
前記保護層は、前記剥離剤保持層の第2の片面であって前記第1の片面とは反対側のものに付着され、可撓性および実質的な無通気性を有するとともに、前記剥離剤保持層を実質的に気密にラッピングする機能を有しており、
前記準備工程は、エアレススプレーガンを用いて前記剥離剤を80kg/cm
2
を超えない噴射圧でエアレス噴射して複数の液滴に分断して前記保持体に衝突させ、それにより、各液滴を前記保持体内において泡状化し、それにより、前記剥離剤を前記保持体に発泡状態で含浸させる含浸工程を含み、
前記剥離剤は、前記エアレススプレーガンからの噴射前に、0.1Pa・s(20℃)より高い粘度を有するシート貼付け型湿式剥離方法。
【0053】
第2の発明
【0054】
低剛性高可撓性シート体と高剛性低可撓性シート体とを有するラッピング部材を固定化部材を用い、かつ、前記ラッピング部材のうちの少なくとも前記高剛性低可撓性シート体を介して局所的に剥離剤層に押し付けることにより、剥離剤層とラッピング部材とを密着させるとともに、ラッピング部材を効率よく動かないように固定化する技術
【0055】
(1) 構造物のうち概して直線的に延びる表面を被覆する既存塗膜のうちの少なくとも一部を標的塗膜として、その標的塗膜を前記構造物の表面から剥離するために前記標的塗膜の表面上に液状、流動状または泡状の剥離剤より成る剥離剤層が形成された後、その剥離剤層をラッピングして前記剥離剤からそれの有効成分の気化ガスが大気に放出されることを抑制する湿式剥離用ラッピングユニットであって、
前記剥離剤層を少なくとも部分的に、前記標的塗膜の側とは反対側からラッピングするラッピング部材であって、低剛性高可撓性シート体と高剛性低可撓性シート体とを有するものと、
前記ラッピング部材のうちの少なくとも前記高剛性低可撓性シート体をそれの背後から局所的に前記剥離剤層に押し付けて前記ラッピング部材を前記標的塗膜に対して固定化する固定化部材と
を含む湿式剥離用ラッピングユニット。
【0056】
(2) 前記低剛性高可撓性シート体は、無指向性にて可撓性を有する第1のシート体を含み、
前記高剛性低可撓性シート体は、有指向性にて可撓性を有する第2のシート体であって前記第1のシート体を背後から支持するものを含む(1)項に記載の湿式剥離用ラッピングユニット。
【0057】
(3) 前記第2のシート体は、自然状態において板状を成し、一方向には屈曲し難いが他方向には任意の曲げ位置または複数の予定曲げ位置のうち任意のものにおいて屈曲し易いというように一方向においては実質的な自己形状保持性を、他方向においては可撓性を有する(2)項に記載の湿式剥離用ラッピングユニット。
【0058】
(4) 前記ラッピング部材は、前記第1のシート体と前記第2のシート体との連続体として構成され、
前記第1のシート体は、前記ラッピング部材において、前記第2のシート体上に少なくとも部分的に巻き状態および/または折畳み状態で格納される格納状態と、前記第2のシート体から外向きに延びるように展開される展開状態とに選択的に遷移可能である(2)または(3)項に記載の湿式剥離用ラッピングユニット。
【0059】
(5) 前記第2のシート体は、前記第1のシート体の一部を介して前記剥離剤層のうちの第1領域に押し付けられると、その際に作用する外力により、前記剥離剤層の立体形状に追従するように変形させられ、その形状適合状態で前記第1領域に位置決めされる(2)ないし(4)項のいずれかに記載の湿式剥離用ラッピングユニット。
【0060】
(6) 前記第1のシート体は、前記第2のシート体から延び出させられて展開させられ、前記剥離剤層のうちの前記第1領域と第2領域であって前記第1領域を除くものとの双方またはその第2領域の立体形状に追従するように変形させられ、その状態で、前記剥離剤層を少なくとも部分的にラッピングする(5)項に記載の湿式剥離用ラッピングユニット。
【0061】
(7) 前記第2のシート体は、表面において全幅または全長に渡って延びる複数本の筋目を有するプラスチック段ボールシートであって、前記複数本の筋目のうち互いに隣接した2本の筋目間に折れ線が形成可能であるものを含み、
前記ラッピング部材が前記剥離剤層に装着されたとき、前記第1のシート体と第2のシート体との間に不要な気泡が存在しても、前記複数本の筋目が前記第1のシート体との間においてガス抜き穴として作用し、それにより、前記気泡が軽減するかまたは消滅する(2)ないし(6)項のいずれかに記載の湿式剥離用ラッピングユニット。
【0062】
(8) 前記固定化部材は、前記ラッピング部材のうちの前記高剛性低可撓性シート体をそれの背後から、その高剛性低可撓性シート体の剛性を利用して、局所的に前記剥離剤層に押し付ける(1)ないし(7)項のいずれかに記載の湿式剥離用ラッピングユニット。
【0063】
(9) 前記固定化部材は、弾性を有する発泡体であって、前記1または複数の周辺部材のジオメトリーに適合するジオメトリーを有するように製作可能であるものにより構成される(1)ないし(8)項のいずれかに記載の湿式剥離用ラッピングユニット。
【0064】
(10) 前記固定化部材は、前記構造物のうち前記標的塗膜の周辺に位置する1または複数の周辺部材を利用することによって位置決めされる(1)ないし(9)項のいずれかに記載の湿式剥離用ラッピングユニット。
【0065】
(11) 構造物のうち概して直線的に延びる表面を被覆する既存塗膜のうちの少なくとも一部を標的塗膜として、その標的塗膜を前記構造物の表面から剥離するために前記標的塗膜の表面上に液状、流動状または泡状の剥離剤より成る剥離剤層が形成された後、その剥離剤層を別部材でラッピングして前記剥離剤を前記標的塗膜の表面上に一時的に留置するための湿式剥離用ラッピング方法であって、
低剛性高可撓性シート体と高剛性低可撓性シート体とを有するラッピング部材を前記剥離剤層に装着することにより、前記剥離剤層を少なくとも部分的に、前記標的塗膜の側とは反対側からラッピングするラッピング工程と、
固定化部材により、前記ラッピング部材のうちの少なくとも前記高剛性低可撓性シート体をそれの背後から局所的に前記剥離剤層に押し付け、それにより、前記ラッピング部材を前記剥離剤層に固定化する固定化工程と
を含む湿式剥離用ラッピング方法。
【0066】
(12) 前記低剛性高可撓性シート体は、無指向性にて可撓性を有する第1のシート体を含み、
前記高剛性低可撓性シート体は、有指向性にて可撓性を有する第2のシート体であって前記第1のシート体を背後から補強するものとを有するものを含む(11)項に記載の湿式剥離用ラッピング方法。
【0067】
(13) 前記第2のシート体は、自然状態において板状を成し、一方向には屈曲し難いが他方向には任意の曲げ位置または複数の予定曲げ位置のうち任意のものにおいて屈曲し易いというように一方向においては実質的な自己形状保持性を、他方向においては可撓性を有する(12)項に記載の湿式剥離用ラッピング方法。
【0068】
(14) 前記ラッピング部材は、前記第1のシート体と前記第2のシート体との連続体として構成され、
前記第1のシート体は、前記ラッピング部材において、前記第2のシート体上に少なくとも部分的に巻き状態および/または折畳み状態で格納される格納状態と、前記第2のシート体から外向きに延びるように展開される展開状態とに選択的に遷移可能である(12)または(13)項に記載の湿式剥離用ラッピング方法。
【0069】
(15) 前記ラッピング工程は、
前記第2のシート体を前記第1のシート体の一部を介して前記剥離剤層のうちの第1領域に押し付けるとともに、前記第1のシート体を前記剥離剤層の立体形状に追従するように変形させ、その形状適合状態で前記第1のシート体を前記第1領域に対して位置決めしてその第1領域に装着する装着工程を含む(12)ないし(14)項のいずれかに記載の湿式剥離用ラッピング方法。
【0070】
(16) 前記ラッピング工程は、さらに、
前記第2のシート体が前記第1領域に位置決めされた状態において、前記第1のシート体を前記第2のシート体から延び出させて展開するとともに、前記第1のシート体を前記剥離剤層のうちの前記第1領域と第2領域であって前記第1領域を除くものとの双方またはその第2領域の立体形状に追従するように変形させ、それにより、前記剥離剤層を少なくとも部分的にラッピングする展開工程を含む(15)項に記載の湿式剥離用ラッピング方法。
【0071】
(17) 前記固定化工程は、前記固定化部材を前記ラッピング部材のうちの前記高剛性低可撓性シート体の背後から、その高剛性低可撓性シート体の剛性を利用して、局所的に前記剥離剤層に押し付ける工程を含む(11)ないし(16)項のいずれかに記載の湿式剥離用ラッピング方法。
【0072】
(18) 前記固定化工程は、前記構造物のうち前記標的塗膜の周辺に位置する1または複数の周辺部材を利用することによって前記固定化部材を位置決めする工程を含む(11)ないし(17)項のいずれかに記載の湿式剥離用ラッピング方法。
【0073】
(19) 前記剥離剤層は、前記剥離剤が前記標的塗膜の表面にスプレー塗り、ローラー塗りまたは刷毛塗りによって直接的に塗布されることによって形成されるか,または前記剥離剤が多孔性またはファブリック製のシートに含浸させられて成る剥離剤シートが前記標的塗膜の表面に貼り付けられることによって前記剥離剤が前記標的塗膜の表面に間接的に塗布されることによって形成される(11)ないし(18)項のいずれかに記載の湿式剥離用ラッピング方法。
【0074】
第3の発明
【0075】
剥離剤層を構造物の突起部回りにおいて局所的に弾性的に既存塗膜の塗膜面に密着させる湿式剥離用アプリケータ
【0076】
(1) 構造物のうち平面部から突出した突起部の表面を被覆する既存塗膜を標的塗膜として、その標的塗膜が前記構造物の表面から剥離するために前記標的塗膜の表面上に液状、流動状または泡状の剥離剤より成る剥離剤層とそれを背後から実質的に気密にラッピングする保護層とで被覆された後に、それら剥離剤層および保護層を前記突起部回りにおいて前記標的塗膜に環状の弾性体を装着してその標的塗膜を少なくとも局所的に弾性的に密着させるための湿式剥離用アプリケータ。
【0077】
(2) 当該アプリケータは、前記突起部に対し、前記平面部に対して概して垂直な方向に接近・退避するように使用され、
当該アプリケータは、
待機状態において、前記弾性体を伸長状態で保持する待機部と、
作用状態において、前記弾性体を伸長状態で、前記待機部に接続される基端から当該アプリケータの先端まで移動可能に保持するとともに、前記剥離剤層および前記保護層を標的として、前記弾性体を伸張状態に維持しつつ前記標的に向けて発射する発射部と
を含み、
その発射された弾性体は、伸張状態のまま前記標的に到達してその標的を包囲して弾性的に圧迫する(1)項に記載の湿式剥離用アプリケータ。
【0078】
(3) 前記発射部は、軸線を有する丸形または角形の外周面であって前記弾性体が伸長状態で保持されるものを有し、
その外周面は、自身の軸線に対して、前記先端に接近するにつれて先細となる斜面を有し、その斜面は、前記弾性体から径方向に作用する弾性圧縮力のうちの少なくとも一部をその弾性体の推進力に変換する機能を有する(2)項に記載の湿式剥離用アプリケータ。
【0079】
(4) 当該アプリケータは、さらに、それの移動方向に延びる軸線を有する丸形または角形のホルダであって、少なくとも先端部において、前記突起部を収容可能なサイズを有して中空となるとともに、当該ホルダの先端が前記平面部に実質的に突き当たると、前記先端部および/またはそれの内周面が前記剥離剤層および前記保護層に、前記標的塗膜に接近する向きの力を作用させ、それにより、少なくとも前記標的塗膜と前記剥離剤層との間の密着度を向上させるものを含む(2)または(3)項に記載の湿式剥離用アプリケータ。
【0080】
(5) 前記ホルダは、前記待機部としての平行部と、前記発射部としてのテーパ部とを軸方向に連続的に有し、
前記弾性体は、前記ホルダの外周面上をスライドして前記待機状態から前記作用状態に遷移させられる(4)項に記載の湿式剥離用アプリケータ。
【0081】
(6) 前記ホルダは、前記弾性体との間の摩擦力を低下させる摩擦力低下手段を含む(4)または(5)項に記載の湿式剥離用アプリケータ。
【0082】
(7) 前記摩擦力低下手段は、
少なくとも前記平行部のうちの少なくとも一部の外周面に、軸方向またはらせん方向に延びるように形成された縦ビードと、
少なくとも前記テーパ部のうちの少なくとも一部の外周面に、軸方向またはらせん方向に延びるように形成された縦溝または縦スリットと
のうちの少なくとも一つを含む(6)項に記載の湿式剥離用アプリケータ。
【0083】
(8) 前記弾性体は、輪ゴムを含む(1)ないし(7)項のいずれかに記載の湿式剥離用アプリケータ。
【0084】
(9) 前記剥離剤層は、前記剥離剤が前記標的塗膜の表面にスプレー塗り、ローラー塗りまたは刷毛塗りによって直接的に塗布されることによって形成されるか,または前記剥離剤が多孔性またはファブリック製のシートに含浸させられて成る剥離剤シートが前記標的塗膜の表面に貼り付けられることによって前記剥離剤が前記標的塗膜の表面に間接的に塗布されることによって形成される(1)ないし(8)項のいずれかに記載の湿式剥離用アプリケータ。
【0085】
(10) 前記保護層は、前記剥離剤層と一体的に構成されるか、または、前記剥離剤層から独立してラッピングシートとして構成される(1)ないし(9)項のいずれかに記載の湿式剥離用アプリケータ。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【
図1】
図1は、本発明の例示的な第1実施形態に従うエアレス直接塗布型塗膜剥離方法を実施するために使用される例示的なエアレス塗布機を概念的に表す系統図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すエアレス塗布機において選択的に使用される複数種類の剥離剤すなわちリムーバのそれぞれの組成および使用温度を表す表である。
【
図3】
図3は、前記塗膜剥離方法における例示的な準備工程を示す工程図である。
【
図4】
図4は、前記塗膜剥離方法における例示的な施工工程を示す工程図である。
【
図5】
図5は、
図1に示すエアレススプレーガンのうちのノズルから噴射したリムーバの性状の時間的変遷を概念的に表す図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施例によって既存塗膜上に塗布されたリムーバの塗着性の試験結果を比較例と対比して示す図である。
【
図7】
図7(a)は、液状の剥離剤をエアレス塗布するに際して、エアレススプレーガンから噴霧される前の剥離剤の粘度と、噴霧によって当該剥離剤が分断された複数の液滴のそれぞれの粒径(例えば、平均直径)と、エアレススプレーガンによる剥離剤の霧化性との間に成立する一般的な関係を概念的に表すグラフであり、同図(b)は、同じ噴霧環境において、エアレススプレーガンからの剥離剤の噴射圧と、前記各液滴の粒径との間に成立する一般的な関係を概念的に表すグラフである。
【
図8】
図8は、
図4におけるステップS202のラッピング工程を実施する一具体例としてのラッピング工程を示す工程図である。
【
図9】
図9は、
図8に示すラッピング工程を実施するために使用されるラッピング部材を示す図である。
【
図10】
図10(a)は、
図9(a)に示す第2のシート体の一具体例としてのプラスチック段ボールシートを示す部分破断斜視図であり、
図10(b)は、そのプラスチック段ボールシートの一端部を示す端面図であり、
図10(c)は、そのプラスチック段ボールシートが外力によって折り曲げられる様子を説明するための端面図である。
【
図11】
図11(a)は、
図8におけるステップS301を説明するための側面図であり、
図11(b)および(c)は、
図8におけるステップS303を説明するための側面図であり、
図11(d)は、
図8におけるステップS305を説明するための側面図であり、
図11(e)は、
図8におけるステップS306を説明するための側面図である。
【
図12】
図12は、
図11に示す構造物とは別の種類の構造物の表面から既存塗膜を剥離するためにラッピング部材および固定化部材が使用される様子の一例を説明するための側面図および斜視図である。
【
図13】
図13は、
図11および
図12に示す構造物とは別の種類の構造物の表面から既存塗膜を剥離するためにラッピング部材および固定化部材が使用される様子の一例を説明するための側面図である。
【
図14】
図14(a)は、
図8におけるステップS307を実施するために使用される輪ゴムアプリケータの一具体例を示す平面図であり、
図14(b)は、その輪ゴムアプリケータを示す側面図であり、
図14(c)は、その輪ゴムアプリケータのテーパ部を示す横断面図である。
【
図15】
図15は、
図14に示す輪ゴムアプリケータのホルダとは異なるホルダを示す縦断面図である。
【
図16】
図16は、
図8におけるステップS307を時系列的に説明するための側面図である。
【
図17】
図17は、本発明の例示的な第2実施形態に従うエアレス間接塗布型湿式剥離方法の一例を示す工程図である。
【
図18】
図18は、前記エアレス間接塗布型湿式剥離方法を実施するために使用されるシート状構造体としての層状複合体の一例を示す側面図である。
【
図19】
図19は、
図17におけるステップS1-3の裁断工程の一例を説明するための平面図である。
【
図20】
図20は、
図21と共同して、
図17におけるステップS503のうちの輪ゴムでの密着を時系列的に説明するための側面図である。
【
図21】
図21は、
図20と共同して、
図17におけるステップS503のうちの輪ゴムでの密着を時系列的に説明するための側面図である。
【
図22】
図22は、剥離剤を発泡状態で不織布に
含浸させる技術の有効性を確認するために行われた対比試験の様子を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0087】
本発明の各実施形態を分類するためのいくつかの視点
【0088】
1.直接塗布か間接塗布(シート貼付け式)か
2.エアスプレー方式かエアレススプレー方式か
3.剥離剤が泡状か非泡状か
4.ラッピングシート(保護層)が剥離剤層と一体か別体か
【0089】
[第1実施形態]
【0090】
以下、本発明の例示的な第1実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0091】
本実施形態の分類
【0092】
1.直接塗布
2.エアレススプレー方式
3.剥離剤が泡状
4.ラッピングシート(保護層)が剥離剤層と別体
【0093】
本発明の例示的な一実施形態は、構造物(または構造物)から既存塗膜を剥離剤(以下、「リムーバ」ともいう。)を用いて剥離する湿式剥離方法に関するものである。具体的には、その湿式剥離方法は、剥離剤を既存塗膜上に発泡型エアレス(無気噴射、無気噴霧)塗布して剥離する発泡型エアレス塗布剥離方法である。
【0094】
この方法は、前述の第2および第3の発明のそれぞれの一具体例である。
【0095】
その発泡型エアレス塗布剥離方法の一例は、高粘度の剥離剤を既存塗膜上に発泡型エアレス塗布して剥離する方法である。
【0096】
ここに、「高粘度」は、例えば、塗料粘度で表現すると、一般的な塗装が可能な粘度限界(例えば、0.1Pa・s(20℃))より高い粘度を意味する。例えば、「高粘度」は、ゲルコート塗料に相当する粘度(3Pa・s(20℃))またはそれより高い粘度を意味する場合や、マヨネーズ(23℃)に相当する粘度(8Pa・s(20℃))またはそれより高い粘度を意味する場合がある。
【0097】
発泡型エアレス塗布剥離方法の別の一例は、高粘度かつ乳化状態の剥離剤を既存塗膜上に発泡型エアレス塗布して剥離する方法である。高粘度かつ乳化状態の剥離剤の一例は、後述のように、
図2に示す第1リムーバである。
【0098】
上述の発泡型エアレス塗布剥離方法(以下、「本剥離方法」という。)は、後に
図4を参照して詳述するように、化学的な剥離工程としての発泡型エアレス塗布工程S201と、物理的な(機械的な)剥離工程としての剥離工程S203とを、それらの順に実施される複数の工程として有する。
【0099】
図1には、上述の発泡型エアレス塗布工程S201を実施するために使用される例示的なエアレス塗布機10が概念的に系統図で表されている。
【0100】
エアレス塗布機10は、構造物12から既存塗膜14を湿式で剥離するために既存塗膜14上に塗布される剥離剤20を保存するタンク30と、エアレス型の圧送ポンプ40(圧送機)と、エアレススプレーガン(以下、単に「スプレーガン」という。)50と、圧送ポンプ40の駆動源としてのエアコンプレッサ60とを有する。スプレーガン50のタイプは、手持ちのハンドガンであっても自動ガンであってもよい。
【0101】
具体的に、エアコンプレッサ60は、後述のプランジャまたはピストンの背後に位置する加圧室76に高圧を作用させ、それにより、それらプランジャまたはピストンの前方に位置する吐出室(吐出されるべき高粘性の剥離剤20がタンク30から送り込まれる部屋)80を加圧するために使用される。
【0102】
スプレーガン50を用いたエアレススプレー方式は、後に
図5を参照して詳述するが、簡単に説明すると、剥離剤20に高圧をかけて液膜を作り、その液膜を大気(静止空気)と衝突させて、剥離剤20を液滴化する方式である。
【0103】
タンク30は、ホース70を介して、圧送ポンプ40の供給口72に接続されている。その供給口72は、圧送ポンプ40の吐出口80に流体的に接続されている。エアコンプレッサ60は、エアホース74を介して、圧送ポンプ40の加圧室76に接続されている。スプレーガン50は、高圧ホース78を介して、圧送ポンプ40の吐出口80に接続されている。エアレス塗布機10において、ホース70は供給ラインを構成し、エアホース74は圧縮エアラインを構成し、高圧ホース78は圧送ラインを構成する。
【0104】
スプレーガン50は、圧縮エアを直接、剥離剤20に接触させることなく、前記プランジャまたはピストンによって剥離剤20自体を加圧してその剥離剤20をノズルから噴射し、それにより、剥離剤20を複数の液滴に分断するように構成される。
【0105】
以上の説明から明らかなように、エアレス塗布機10は圧縮空気を動力源として圧送ポンプ40を駆動するため、エア駆動式に分類され、よって、このエアレス塗布機10に使用されるスプレーガン50は、エア駆動式エアレススプレーガンと称される。
【0106】
これに対し、圧送ポンプ40の駆動方式として、上述のエア駆動式の他に、電動モータを動力源として圧送ポンプ40を駆動する電動式も存在し、この駆動方式が適用されるスプレーガンは電動エアレススプレーガンと称される。この電動エアレススプレーガンは、高圧噴霧に適しているという特徴を有し、これに対し、本実施形態におけるエア駆動式エアレススプレーガン50は、低圧噴霧に適しており、塗着効率を高めるためおよび噴霧された剥離剤20の霧化性を不良化するために有利であるという特徴を有する。
【0107】
<噴霧ファクターの設定>
【0108】
本実施形態においては、噴霧ファクター、すなわち、剥離剤20の粘度と、剥離剤20が前記ノズルから噴射される際の噴射圧(「霧化圧力」)と、前記ノズルの平均口径とのうちの少なくとも一方が、エアレススプレーガン50を用いて剥離剤20が噴霧される際のその剥離剤20の霧化性が不良化されるように設定される。
【0109】
噴霧ファクターを剥離剤20の霧化性が不良化されるように設定する理由は、後に詳述するが、簡単に説明すれば、次のようになる。
【0110】
すなわち、剥離剤20の霧化性が不良化される場合には、噴霧によって剥離剤20が分断されることとなる複数の液滴のそれぞれの平均粒径が、霧化性が良好である場合より大きくなる。一方、平均粒径が大きいほど、各液滴が静止空気中を飛行する際に、各液滴の運動量(=mv)が大きくなり、静止空気を貫通する能力が高くなり、その結果、各液滴の飛行速度が、各液滴が小さい場合より高速化する。その結果、各液滴が既存塗膜14の表面上に衝突する際の衝撃エネルギー(衝突エネルギー)が霧化性が良好である場合より大きくなる。
【0111】
図7(a)には、液状の剥離剤20をエアレス塗布するに際して、エアレススプレーガン50から噴霧される前の剥離剤20の粘度と、噴霧によって剥離剤20が分断された複数の液滴のそれぞれの粒径(例えば、平均直径)と、エアレススプレーガン50による剥離剤20の霧化性との間に成立する一般的な関係がグラフで概念的に表されている。
【0112】
具体的には、粘度が高いほど、粒径が増し、それにより、霧化性が不良化する。一例においては、粒径が50μm以下である領域においては、霧化性が良好であるのに対し、粒径が50μmより大きい領域においては、霧化性が不良であると定義される。
【0113】
さらに、同図(b)には、同じ噴霧環境において、エアレススプレーガン50からの剥離剤20の噴射圧と、前記各液滴の粒径との間に成立する一般的な関係がグラフで概念的に表されている。具体的には、噴射圧が低いほど、粒径が増し、それにより、霧化性が不良化する。上記と同様にして、一例においては、粒径が50μm以下である領域においては、霧化性が良好であるのに対し、粒径が50μmより大きい領域においては、霧化性が不良であると定義される。
【0114】
そして、本実施形態においては、霧化性を不良化するために、剥離剤20の粘度が、0.1Pa・s(20℃)より高い値に設定される。とはいえ、粘度が高いほど望ましいということではなく、上限値が存在する。その上限値は、例えば、16Pa・s(20℃)である。その上限値が必要であるのは、粘度が高すぎると、剥離剤20が全く霧化しない可能性があるからである。
【0115】
さらに、本実施形態においては、霧化性を不良化するために、前記噴射圧が、80kg/cm2を超えない高さに設定される。
【0116】
さらに、本実施形態においては、霧化性を不良化するために、前記ノズルの等価口径(以下、「ノズル径」ともいう。)が、0.4mm以上の値に設定される。等価口径が小さいほど、剥離剤20は霧化し易いのに対し、ノズル径が大きいほど、剥離剤20は液状に維持されて霧化し難いからである。
【0117】
さらに、霧化性を不良化する噴霧条件について敷衍する。
【0118】
スプレーガン50においては、剥離剤20に作用する圧力(例えば、後述の噴射圧)は、通常は、80-200kg/cm2程度であるが、本実施形態においては、後述のように、例えば30-40kg/cm2というように、通常値より低圧である。
【0119】
スプレーガン50は、材料としての剥離剤20をスプレーガン50のノズルから吐出する方式として、ダイヤフラム式、プランジャーを用いたプランジャーポンプ式またはピストンを用いたピストンポンプ式のいずれを採用してもよいが、剥離剤20が高粘度である場合には、プランジャーポンプ式またはピストンポンプ式を採用することが望ましい。
【0120】
また、スプレーガン50は、上述のように、噴射圧が低圧であることから、材料としての剥離剤20をスプレーガン50内の吐出室内に送給する方式として、圧送式(剥離剤20を加圧して押し出す)よりむしろ、重力式(自然落下を利用して剥離剤20を噴射する)または吹上げ式(空気の流れを利用して剥離剤20を吹き上げて噴射する)を採用してもよいが、圧送式を採用してもよい。
【0121】
いずれの方式を採用しても、スプレーガン50は、本体部90と、その本体部90に対して着脱可能に装着されるノズルチップ92とを有するように構成される。本体部90は、作業者によって握られるグリップ94と、作業者によって操作されるトリガ96とを含むように構成される。
【0122】
ノズルチップ92は、剥離剤20が噴射されるノズルを有する。そのノズルの断面形状は、例えば、円形としたり、楕円形としたり、スリット形とすることが可能である。本実施形態においては、ノズルの断面形状が楕円形であり、また、ノズルの等価口径は、0.59mm(0.4-0.8mmの範囲内)である。ここに、「等価口径」は、ノズル開口部の開口領域を、それと同じ面積を有する円状領域に置換した場合のその円状領域の外形の直径を意味する。
【0123】
スプレーガン50からの剥離剤20の吐出量(噴射量ともいい、例えば、ノズルから一定時間当たりに吐出される剥離剤20の重量として定義される)および散布パターンは、ノズルの形状に依存する。
【0124】
本実施形態においては、スプレーガン50の楕円形ノズルからの剥離剤20の目標散布パターンが、例えば、真横(楕円形ノズルの断面形状のうちの長軸に対して直角な方向)から見ると、噴射方向に進むにつれて幅広となる二等辺三角形状(扇形)であり、その三角形においては、例えば、高さ(スプレー距離)が約25cm、底辺の長さ(パターン幅)が約15-約20cmである。
【0125】
さらに、本実施形態においては、上記楕円形ノズルを採用する場合、前記噴射圧が60kg/cm2のとき、噴射量が1490mL/minであり、また、前記噴射圧が30-40kg/cm2のとき、噴射量が750-1000mL/minである。
【0126】
スプレーガン50の特徴
【0127】
スプレーガン50は、空気吹付けに依存せずに、剥離剤20自体に圧力を作用させて強制的にノズルから剥離剤20を噴射させて塗布する。
【0128】
スプレーガン50を用いたエアレススプレー方式によって剥離剤20が液滴化する原理を説明するに、
図5に示すように、まず、剥離剤20が、ノズルから高圧で液膜として噴射される。その液膜の先端部が周辺の静止空気と衝突し、それにより、液膜の先端部の速度が次第に低下する。これに対し、剥離剤20を噴射させる圧力は一定であるため、液膜は波状化する。その波状化した液膜は、静止空気内を進行するにつれて、その静止空気から抵抗を受け、波状化した液膜は、それの進行方向に並んだ複数の部分に分裂する。
【0129】
その後、各分裂した液膜は、進行方向に対して交差する方向に延びるとともに、その延びる方向に凹部と凸部とを繰り返すように、凹凸ひも状化する。
【0130】
その凹凸ひも状部は、その後、自身の延びる方向に並んだ複数の液滴に分断し、それにより、剥離剤20の液滴化が行われることになる。
【0131】
ところで、スプレーガン50は、高圧の剥離剤20を直接噴霧するため、エアスプレーガンに比べて剥離剤20の飛散量が少なく、塗着効率(例えば、噴霧した剥離剤20の全重量Weに対する、その噴霧された剥離剤20のうち、既存塗膜14上に塗着した部分(飛散した部分を除く)の量Wの比率として定義される)が高い。
【0132】
すなわち、スプレーガン50は、空気を使わずに剥離剤20を液滴化して塗布を行うため、剥離剤20が空気中に霧状化して飛散する量が少なく、環境および作業者に対する健康被害が少なく、かつ、剥離剤20の塗布効率(例えば、塗着効率)が高い。
【0133】
さらに、スプレーガン50への剥離剤20の補給を行いながら剥離剤20の塗布を行うことができるため、剥離作業のストリームライン化に向いている。
【0134】
スプレーガン50は、エアスプレーガンに比べて高圧で剥離剤20を既存塗膜14上に塗布できるため、剥離剤20の厚い膜を既存塗膜14上に形成できる。
【0135】
しかし、スプレーガン50は、エアスプレーガンに比べて剥離剤20の噴射量が多いため、既存塗膜14上に塗布された剥離剤20は、追加の対策を講じないと、垂れが発生し易い。
【0136】
そこで、本実施形態においては、既存塗膜14上への剥離剤20の塗着性(固着性、付着性など)を向上させるために、いくつかの対策が追加された。
【0137】
(1)噴射ファクターの最適化による剥離剤20の泡状化
【0138】
エアスプレーガンと対比して説明するに、本発明者の実験により、スプレーガン50からの剥離剤20の噴射圧が高いほど(例えば、エアコンプレッサ60からスプレーガン50に作用する圧力が高いほど)、スプレーガン50からの剥離剤20の噴射速度が高速化するとともに散布パターン(例えば、円錐状)の断面直径(散布直径)が小径化するという事実が判明した。
【0139】
さらに、上述のように、噴射ファクターの最適化、すなわち、剥離剤20の高粘度化、噴射圧の低圧化およびノズル径の大径化の組合せにより、剥離剤20の各液滴の粒径が大径化し、それにより、各液滴が静止空気中を飛行する際の飛行速度が高速化する。
【0140】
このように、本実施形態においては、そのような噴射ファクターの最適化により、エアスプレーガンに代えてエアレススプレーガン50を採用したこととも相まって、各液滴が高速化される。
【0141】
各液滴の高速化により、前述の各液滴が既存塗膜14上に衝突する際の衝撃エネルギーが増加し、各液滴が衝突によって微細化して液滴の総数が増加し、その結果、それら液滴全体としての表面積すなわち静止空気との接触面積が増加する。それにより、それら液滴がより多くの静止空気を巻き込んで泡状化する。その結果、各液滴がより微細化され、それにより、全体として、より多数の泡(エアバブル)が剥離剤20内に形成されることになる。
【0142】
一方、同じ塗膜厚の剥離剤20において、エアバブルの数が多いほど、各エアバブルが軽量化し、各エアバブルが自重によって既存塗膜14上を流れ難くなる。その結果、既存塗膜14上への剥離剤20の塗着性が向上し、それにより、既存塗膜14上における剥離剤20の塗膜厚が厚くなったと推定される。また、剥離剤20の塗膜厚が厚いほど、既存塗膜14への剥離剤20の塗布量(塗着量ともいい、例えば、一定面積(または一定時間)当たりに塗布される剥離剤20の重量として定義される)が増加する。
【0143】
本発明者の実験により、前記噴射圧としては、30-60kg/cm2の範囲または30-40kg/cm2の範囲が望ましいことが判明した。その数値は、スプレーガン50から剥離剤20が散布されるパターンが前述の目標散布パターンとなり、かつ、スプレーガン50から剥離剤20が十分に霧化せずに(微粒子化せずに)既存塗膜14上に到達するように、設定することが望ましい。
【0144】
(2)剥離剤20の高粘度化による追加の効果
【0145】
一般に、高粘度の剥離剤を塗布する場合には、低粘度の剥離剤を用いる場合とは異なり、剥離剤の塗膜に厚さを必要とする場合に、その塗膜において剥離剤が流れて垂れてしまうことが防止される。
【0146】
本発明者の実験により、剥離剤20の粘度が高いほど、既存塗膜14上への剥離剤20の塗着性が向上するという事実が判明した。
【0147】
さらに、本発明者の実験により、剥離剤20の塗料粘度として、約5-約16Pa・s(20℃)という程度の高粘度であることが望ましいことが判明した。
【0148】
(3)剥離剤20の高乳化度
【0149】
本発明者の実験により、剥離剤20の乳化度が高いほど、既存塗膜14との衝突によって剥離剤20に発生する泡の数が増加するとともに泡が微細化し、その結果、既存塗膜14上への剥離剤20の塗着性が向上するという事実が判明した。
【0150】
この知見に従い、剥離剤20は、エマルジョンすなわち水系剥離剤(例えば、
図2における第1リムーバ)が採用された。
【0151】
とはいえ、本発明者の実験により、剥離剤20が非エマルジョンすなわち溶剤系剥離剤(例えば、
図2における第2-第4リムーバ)であっても、剥離剤20の塗膜厚が、従来の塗布方法すなわちエアスプレーガンを用いるか刷毛塗りによる方法の場合より厚くなるという事実が判明した。
【0152】
<剥離剤20の成分構成>
【0153】
剥離剤20は、種類の如何を問わず、主成分と、補助剤と、増粘剤とを含有する。
【0154】
主成分は、既存塗膜14を膨潤させて構造物12の表面から剥がれ易くするために、有機溶剤を含有する。有機溶剤としては、アルコール系高沸点溶剤、エステル系有機溶剤、複素環状有機溶媒などがある。
【0155】
補助剤は、剥離剤20の性質安定化のために存在し、例えば、芳香族炭化水素系溶剤、テルペン類等がある。
【0156】
増粘剤は、剥離剤20を所定の塗付け量で既存塗膜14上に塗布でき、垂れ難くするために存在し、例えば、珪酸塩化合物、有機ベントナイトなどがある。
【0157】
<剥離剤20の組成のバリエーション>
【0158】
図2に示すように、本実施形態においては、スプレーガン50によって既存塗膜14上に塗布することが可能な剥離剤20として、第1-第4リムーバというように、4種類が存在する。
【0159】
それらのうち、第1リムーバは、水系剥離剤(エマルジョン)であるのに対し、第2-第4リムーバは、溶剤系剥離剤(非エマルジョン)である。
【0160】
さらに、第1-第2リムーバは、平均気温が約10℃より高い高温期において、正常な反応性を示し、使用が推奨されるのに対し、第3リムーバは、平均気温が約10℃未満である低温期であっても、正常な反応性を示し、使用が推奨される。
【0161】
第4リムーバは、ジクロロメタンを含有するため、作業者の健康被害を予防するための安全管理対策が必要であるが、他のリムーバより速乾性があり、かつ、強力な剥離力を発揮する。この第4リムーバは、部分補修用として使用することが推奨される。
【0162】
1.溶剤系剥離剤
【0163】
主成分(20-90%)として有機溶剤を含有し、また、補助成分として、補助剤、増粘剤等を含有する。本明細書においては、「%」という単位が、各リムーバの全重量を基準として、各成分の重量の比率を表す重量パーセントを意味する。
【0164】
2.水系剥離剤
【0165】
主成分(30-50%)として有機溶剤を含有し、また、補助成分として、補助剤、増粘剤等と水(35-50%)とを含有する。
【0166】
一般に、水系剥離剤のほうが溶剤系剥離剤より危険有害性が低い。
【0167】
水系剥離剤は、主成分と水とが界面活性剤を用いて乳化されて成るエマルジョンである。ここに、界面活性剤は、剥離剤をエアレス塗布する際に、その剥離剤の発泡化を促進することに寄与する。また、本発明者による試験によれば、いくつかの溶剤系剥離剤をエアレス塗布したが、その剥離剤は発泡しなかったことを確認した。
【0168】
<発泡型エアレス塗布剥離方法>
【0169】
本実施形態に従う発泡型エアレス塗布剥離方法は、
図3に示す準備工程S100と、
図4に示す施工工程S200とを、それらの順に実施されるように有する。
【0170】
<準備工程>
【0171】
図3に示すように、まず、ステップS101において、作業者が、剥離対象である既存塗膜14を調査する。具体的には、既存塗膜14の材質、塗膜厚、表面性状(例えば、表面粗度μmRmax)などの既存塗膜ファクターや、構造物12の構造、形状などの構造物ファクターを調査する。
【0172】
次に、ステップS102において、作業者が、既存塗膜14を剥離するための施工時期を選択する。施工時期が選択されれば、その施工時期における環境の平均気温が予測される。その平均気温は、前述の4種類のリムーバのうちいずれのものが最適であるかを決定するために参照される。
【0173】
続いて、ステップS103において、作業者が、剥離条件を選択する。具体的には、既存塗膜14についての前述の既存塗膜ファクターおよび/または構造物ファクターに基づき、
図2における第1-第4リムーバのうちのいずれかを今回使用する剥離剤20として選択する。このとき、今回使用する剥離剤20は、前述のように、エアレス塗布において剥離剤20の霧化性が不良化するのに適した粘度を有するように選択される。
【0174】
さらに、調査した塗膜厚を含むファクターに応じ、今回の剥離剤20を用いた剥離作業を何回反復するかを決定する。さらに、前述の既存塗膜ファクターおよび/または構造物ファクターに基づき、各回の剥離作業における剥離剤20の目標塗膜厚を決定する。
【0175】
具体的には、既存塗膜ファクターのうち、既存塗膜14の表面粗度(例えば、単位:μmRmax)に応じて、剥離剤20が既存塗膜14の表面上に被着されることによって形成されることとなる塗膜の目標塗膜厚(平均塗膜厚など)を決定する。
【0176】
さらに具体的には、所定の関係に従い、既存塗膜14の表面粗度に応じて剥離剤20の目標塗膜厚を、表面粗度が小さいほど目標塗膜が厚膜化するように決定する。
【0177】
<施工工程>
【0178】
図4に示すように、まず、ステップS201において、作業者が、既存塗膜14に対し、前述の発泡型エアレス塗布方法を実施する。
【0179】
その発泡型エアレス塗布方法は、作業者が、今回の剥離剤20を調製するかまたは調達し、それをタンク30内に投入する準備工程と、作業者が圧送ポンプ40を起動させ、それにより、今回の剥離剤20をタンク30からスプレーガン50にエアレス状態で圧送する圧送工程とを有する。
【0180】
上記発泡型エアレス塗布方法は、さらに、作業者が、スプレーガン50を把持して標的すなわち既存塗膜14に向け、その状態でトリガ96を引き、それにより、スプレーガン50から剥離剤20を複数の液滴に分断して標的に向けて噴射する噴射工程を有する。
【0181】
その噴射工程は、圧縮エアの流れに剥離剤20を接触させてその剥離剤20を霧吹きの原理で霧化する工程を含まず、さらに、剥離剤20をノズル92から噴射する前に剥離剤20を発泡させる工程を含まない。
【0182】
前記発泡型エアレス塗布方法は、さらに、作業者が、前記噴射された剥離剤20を既存塗膜14の表面上に塗布する塗布工程を有する。
【0183】
その塗布工程においては、その塗布に際し、剥離剤20の前記複数の液滴が既存塗膜14の表面に衝突し、それにより、前記複数の液滴がそれぞれ大気中のエアを巻き込んで発泡化し、それにより、剥離剤20が発泡状態で既存塗膜14の表面上に塗布される。
【0184】
一例においては、前記塗布工程が、前記発泡状態にある剥離剤20が平均直径が約0.1mmから約0.5mmまでの範囲内にある複数の泡を有するように、剥離剤20を既存塗膜14の表面上に塗布するように実施される。
【0185】
別の例においては、前記塗布工程が、剥離剤20が既存塗膜14の表面上に被着されることによって形成される塗膜の平均塗膜厚が約1mmであるように、剥離剤20を既存塗膜14の表面上に塗布するように実施される。
【0186】
さらに別の例においては、前記塗布工程が、剥離剤20が既存塗膜14の表面上に被着されることによって形成される塗膜の平均塗膜厚が約2mmから約5mmまでの範囲内にあるように、剥離剤20を既存塗膜14の表面上に塗布するように実施される。
【0187】
いずれの例においても、既存塗膜14が剥離剤20によって膨潤軟化し、構造物12の表面への付着力が低下し、その結果、既存塗膜14は構造物12の表面から浮き上がる。
【0188】
次に、ステップS202において、剥離剤20の塗布完了後に、作業者が、剥離剤20に対して不透過性を有する保護シートで既存塗膜14の表面をラッピングし、それにより、剥離剤20(揮発性を有する場合)から発生した気化ガスが既存塗膜14の表面から大気に放出されることを防止する。前記保護シートは、例えば、柔軟性を有するポリエチレン製シート、ポリプロピレン製シートなどである。
【0189】
本発明者の実験により、前記ラッピングの効果として、既存塗膜14上に塗布された剥離剤20からの蒸気(気化ガス)の放出が防止され、それにより、約90%の蒸気が既存塗膜14内に浸透して剥離作業の効率化が推進されたことが確認された。
【0190】
このラッピングの具体例は、後に
図8-
図16を参照して詳述する。
【0191】
続いて、ステップS203において、その塗布完了から所要時間(例えば、16-48時間)の経過後、作業者が、前記保護シートを既存塗膜14から剥離して除去する。その後、作業者が、剥離剤20によって付着力が低下して構造物12の表面から浮き上がった既存塗膜14を構造物12から物理的に剥離して除去する。
【0192】
既存塗膜14を構造物12から物理的に剥離するために、作業者は、手工具としてのスクレーパを用いてもよい。
【0193】
さらに、その最初の剥離作業後に構造物12の表面上に残存する既存塗膜14の一部である塗膜残渣物を除去するために、電動回転工具としてのワイヤーブラシ(例えば、カップ状ワイヤーブラシ)やエア・グラインダを用いてもよい。
【0194】
この除去作業が作業者にとっての大きな負担となるため、前記電動回転工具は可及的に軽量であること、剥離した塗膜残渣物が飛散しないことなどが重要である。よって、電動回転工具は、小型で、かつ、回転部が通常より低速で回転するものであることが望ましい。
【0195】
さらに、必要に応じ、作業者は、高圧洗浄機を追加的にまたは代替的に用いて既存塗膜14および/または塗膜残渣物を除去してもよい。
【0196】
なお、本実施形態によれば、剥離剤20の目標塗膜厚を実現するために、刷毛やローラーであると、複数回の塗布作業が必要であったところ、目標塗膜厚を一回の塗布作業で実現可能となり、作業効率が向上する。
【0197】
さらに、本実施形態においては、剥離剤20を設置場所(
図1において、エアレス塗布機10のうちスプレーガン50を除く本体部が固定設置されている場所)からインラインで(前記本体部と、作業場所であるスプレーガン50とが、連続した圧送ライン78で互いに接続される状態で)作業場所に送給することが可能となる。
【0198】
具体的には、エアレス塗布機10のうちの本体部(特に、圧送ポンプ40)とスプレーガン50とが、圧力伝達経路と材料供給経路との双方を兼ねるホース(ライン)78で互いに接続される。その結果、エア塗装(吹き付け塗装)の場合とは異なり、本体部(特に、圧送ポンプ40)とスプレーガン50とを、互いに独立した圧力伝達経路と材料供給経路との双方によって互いに接続することが不要となる。
【0199】
それにより、剥離剤20を確実にスプレーガン50に送給することが可能となり、具体的には、剥離剤20が本体部からスプレーガン50に送給される途中で、剥離剤20が予定外に漏れて作業床等にこぼれてその箇所が剥離剤20で汚染されてしまうことがなくなる。
【0200】
<塗着性試験>
【0201】
塗着性試験に使用した剥離剤20の種類
【0202】
塗着性試験に使用した剥離剤20の種類は、
図2に示す第1リムーバ(高粘度エマルジョン)である。その第1リムーバの一具体例は、次のような成分構成を有する。
【0203】
水分: 40-50重量%
アルコール系溶剤:40-50重量%
石油系溶剤: 1- 5重量%
界面活性剤: 1- 5重量%
増粘剤: 1- 5重量%
防錆類: 1重量%未満
ワックス類: 1重量%未満
【0204】
また、その具体例は、次のような性状を有する。
【0205】
外観:白色または淡黄色を呈する粘稠液体
粘度:5-16Pa・s(20℃)
【0206】
実施例
【0207】
試験片としての500×500mmの塗装用鋼板に剥離剤20を260g、スプレーガン50を用いてエアレス塗布し、それにより、試験片において1.0kg/m2の塗布量(塗布密度、散布密度)を実現した。
【0208】
その塗布後、試験片を垂直に吊るし、剥離剤20の垂れ具合を観察するために、5分経過後に試験片を撮影した。その写真を
図6の上部に貼り付けた。
【0209】
比較例
【0210】
試験片としての500×500mmの塗装用鋼板に剥離剤20を260g、刷毛(図示しない)を用いて塗布し、それにより、試験片において、1.0kg/m2の塗布量(塗布密度、散布密度)を実現した。
【0211】
その塗布後、試験片を垂直に吊るし、剥離剤20の垂れ具合を観察するために、5分経過後に試験片を撮影した。その写真を
図6の下部に貼り付けた。
【0212】
対比観察
【0213】
実施例においては、剥離剤20の垂れ(例えば、剥離剤20が流れた痕跡、剥離剤20の落下など、重力に起因する予定外の剥離剤20の挙動)は全く観察できなかった。また、試験片に塗布された剥離剤20の表面は平滑であった。
【0214】
図6の上部の写真から明らかなように、実施例においては、試験片に塗布された剥離剤20が全く試験片から流れ落ちなかったことが確認された。
【0215】
さらに、試験片から垂れずに試験片に被着して固定された剥離剤20の平均塗膜厚(例えば、重ね塗りせずに一回のみ塗布した場合の塗膜厚)が約2mmから約5mmまでの範囲内にあったことも確認された。
【0216】
さらに、試験片上において発泡状態にある剥離剤20が平均直径が約0.1mmから約0.5mmまでの範囲内にある複数の泡を有することも確認された。
【0217】
これに対し、比較例においては、試験片全域に剥離剤20の垂れ(または流れ、フローライン)が観察された。また、試験片に塗布された剥離剤20の表面には、材料流れが生じて筋状の凹凸模様が存在していた。
【0218】
図6の下部の写真から明らかなように、比較例においては、試験片に塗布された剥離剤20の一部が試験片から流れ落ちたことが確認された。
【0219】
なお付言するに、本発明者は、本実施形態の効果を確認するために、建築物としての鉄塔であって、形状が複雑であるために剥離剤が拡布し難い表面を有するものについて、本実施形態に従う発泡型(発泡促進型)エアレス塗布剥離方法を用いて実際に剥離作業を行った。その結果、剥離作業の確実化、すなわち、例えば、隅々まで既存塗膜が剥離されることと、効率化、すなわち、剥離作業の時間が短縮されることとが確認できた。
【0220】
さらに付言するに、本実施形態に関する前述の説明においては、剥離剤20が泡状化する現象が、スプレーガン50から噴射された剥離剤20が静止空気中を飛行する行程においては、静止空気との衝突によって剥離剤20から分裂した複数の液滴がエアバブル化せず、既存塗膜14と衝突したときにはじめて複数の液滴がエアバブル化して剥離剤20が既存塗膜14上で泡状化する態様として説明された。
【0221】
しかし、剥離剤20の複数の液滴が静止空気中を飛行する行程において、それら液滴のうちの少なくとも一部が静止空気との衝突によってエアバブル化する態様で本発明が実施される可能性を排除しない。
【0222】
<ラッピングの具体例>
【0223】
ここで、前述のラッピングの具体例を
図8-
図16を参照して詳述する。
【0224】
本実施形態においては、そのラッピングを実施するためにラッピングユニット98(
図11(d)参照)が使用される。
【0225】
まず、そのラッピングユニット98を概略的に説明する。
【0226】
そのラッピングユニット98は、構造物12(
図11に示す例においては、アングル材)のうち概して直線的に延びる表面(同図に示す例においては、前記アングル材の6つの側面)を被覆する既存塗膜14のうちの少なくとも一部を標的塗膜(同図に示す例においては、前記アングル材の全側面)として、その標的塗膜を構造物12の表面から剥離するために標的塗膜の表面上に液状、流動状または泡状の剥離剤20より成る剥離剤層99が形成された後、その剥離剤層99をラッピングして剥離剤20からそれの有効成分の気化ガスが大気に放出されることを抑制するように構成される。
【0227】
具体的には、
図11に例示するように、そのラッピングユニット98は、剥離剤層99を少なくとも部分的に、標的塗膜の側とは反対側からラッピングするラッピング部材100であって、低剛性高可撓性シート体(
図9に示す例においては、第1のシート体104、例えば、同図(b)に示す無通気性軟質フィルム)と高剛性低可撓性シート体(
図9に示す例においては、第2のシート体102、例えば、同図(a)に示すプラスチック段ボールシート110)とを有するものを備えている。
【0228】
一例においては、前記低剛性高可撓性シート体が、標的塗膜の全周を被覆する一方、前記高剛性低可撓性シート体が、標的塗膜の一部を、前記低剛性高可撓性シート体との重なり部を有するように被覆し、それにより、標的塗膜の一部に、前記低剛性高可撓性シート体と前記高剛性低可撓性シート体との重なり部(層状体)が構成される。この例においては、前記高剛性低可撓性シート体が標的塗膜の全周を被覆する。
【0229】
別の例においては、前記低剛性高可撓性シート体が、標的塗膜の一部を被覆する一方、前記高剛性低可撓性シート体が、標的塗膜の残りの部分を被覆し、それにより、標的塗膜の全周が、前記低剛性高可撓性シート体と前記高剛性低可撓性シート体との共同によって被覆される。この例においては、前記高剛性低可撓性シート体が単独で標的塗膜の全周を被覆するわけではない。
【0230】
このラッピングユニット98は、さらに、ラッピング部材100のうちの少なくとも前記高剛性低可撓性シート体をそれの背後から局所的に剥離剤層99に押し付けてラッピング部材100を標的塗膜に対して固定化する固定化部材120を備えている。
【0231】
一例においては、固定化部材120が、
図18(c)に例示するように、構造物12のうち標的塗膜の周辺に位置する1または複数の周辺部材101(
図18(c)に示す例を参照。)を利用することによって標的塗膜に対して位置決めされる。
【0232】
別の例においては、固定化部材120が、
図11(d)に例示するように、周辺部材101を利用することなく、包囲(または拘束)ストリング、包囲(または拘束)ストラップ、例えば、粘着テープ124(
図11(e)参照。)などによって固定化部材120を標的塗膜に拘束することにより、標的塗膜に対して位置決めされる。
図11(e)に示す例においては、粘着テープ124の幅が、例えば、標的塗膜の幅より狭く、かつ、固定化部材120の幅と同等かまたはそれより広くなるように選択される。
【0233】
一例においては、前記低剛性高可撓性シート体が、無指向性にて可撓性を有する第1のシート体を含む。これに対し、前記高剛性低可撓性シート体は、有指向性にて可撓性を有する第2のシート体であって前記第1のシート体を背後から支持するものを含む。
【0234】
一例においては、前記第2のシート体が、自然状態において板状を成し、一方向には屈曲し難いが他方向には任意の曲げ位置または複数の予定曲げ位置のうち任意のものにおいて屈曲し易いというように一方向においては実質的な自己形状保持性を、他方向においては可撓性を有する。
【0235】
一例においては、ラッピング部材100が、前記第1のシート体と前記第2のシート体との連続体として構成される。ここに、前記第1のシート体は、ラッピング部材100において、前記第2のシート体上に少なくとも部分的に巻き状態および/または折畳み状態で格納される格納状態と、前記第2のシート体から外向きに延びるように展開される展開状態とに選択的に遷移可能である。
【0236】
一例においては、前記第2のシート体が、前記第1のシート体の一部を介して剥離剤層99のうちの第1領域(
図11(c)に示す例を参照。)に押し付けられると、その際に作用する外力により、剥離剤層99の立体形状に追従するように変形させられ、その形状適合状態で前記第1領域に位置決めされる。
【0237】
一例においては、前記第1のシート体が、前記第2のシート体から延び出させられて展開させられ、剥離剤層99のうちの前記第1領域と第2領域であって前記第1領域を除くもの(
図11(c)に示す例を参照。)との双方またはその第2領域の立体形状に追従するように変形させられ、その状態で、剥離剤層99を少なくとも部分的にラッピングする。
【0238】
一例においては、前記第2のシート体が、表面において全幅または全長に渡って延びる複数本の筋目(
図10(b)参照。)を有するプラスチック段ボールシート110であって、前記複数本の筋目のうち互いに隣接した2本の筋目間に折れ線が形成可能であるものを含む。
【0239】
この例においては、ラッピング部材100が剥離剤層99に装着されたとき、前記第1のシート体と第2のシート体との間に不要な気泡が存在しても、前記複数本の筋目が前記第1のシート体との間においてガス抜き穴として作用し、それにより、前記気泡が軽減するかまたは消滅する。
【0240】
一例においては、固定化部材120(
図11(d)参照。)が、ラッピング部材100のうちの前記高剛性低可撓性シート体をそれの背後から、その高剛性低可撓性シート体の剛性を利用して、局所的に剥離剤層99に押し付ける。
【0241】
一例においては、固定化部材120が、弾性を有する発泡体(例えば、発泡スチロール)であって、前記1または複数の周辺部材101のジオメトリーに適合するジオメトリーを有するように製作可能であるものにより構成される。
【0242】
一般に、発泡スチロールは、成形性(例えば、狙いの形状の製作し易さ)が高く、カッタによる切断、サンダーによる切削などにより、目標形状を容易にかつ高精度で達成することが可能である。
【0243】
この例においては、その発泡スチロールが弾性を有すると、その発泡スチロール製の固定化部材120が、与えられた周辺ジオメトリー(例えば、
図11(d)に示す例においては、ラッピング部材100のジオメトリー、
図18(c)に示す例においては、周辺部材101間のジオメトリーなど)であって変更不能であるものに対して形状寸法誤差を有しても、その誤差を自身の弾性変形によって弾性限度内において吸収可能である。
【0244】
よって、その内在する誤差吸収能力とも相まって、発泡スチロールという材料は、固定化材料120の機能を実現するのに好都合である。
【0245】
<ラッピング部材100を、低剛性高可撓性シート体のみで構成するのではなく、部分的に高剛性低可撓性シート体を用いるように構成した理由>
【0246】
ラッピング部材100を低剛性高可撓性シート体のみで構成すれば、そのシート体は、標的塗膜の形状に対する追従性が高いため、標的塗膜の全体に密着させることが可能である。
【0247】
しかし、標的塗膜上に塗布されて堆積されている剥離剤20の重量をその低剛性高可撓性シート体のみで受ける場合には、剥離剤20の重量が低剛性高可撓性シート体と標的塗膜との間の密着力(粘着力)より大きいと、そのシート体が標的塗膜から予定外に剥離して撓んでしまう可能性がある。そうすると、そのシート体と標的塗膜との間に予定外に隙間が発生する可能性があり、そうすると、剥離剤20から揮発性の有効成分がその隙間を経由して外部に放散されてしまう可能性がある。
【0248】
これに対し、ラッピング部材100を低剛性高可撓性シート体に加えて高剛性低可撓性シート体をも用いるように構成すれば、その高剛性低可撓性シート体は、固定化部材120から局所的な力をそのシート体の全体で、標的塗膜を押し付ける力に変換するため、そのシート体と標的塗膜との間の密着力が高くなり、剥離剤20の重量に打ち勝つことが可能となり、高剛性低可撓性シート体との密着領域については、予定外の隙間が発生せずに済む。
【0249】
そこで、本実施形態においては、低剛性高可撓性シート体の高い形状追従性と、高剛性低可撓性シート体の高い密着性とを同時に享受すべく、ラッピング部材100が、低剛性高可撓性シート体のみで構成するのではなく、部分的に高剛性低可撓性シート体を用いるように構成されている。
【0250】
次に、ラッピングユニット98を具体的に説明する。
【0251】
図9は、ラッピング部材100の一具体例を示す図である。
【0252】
具体的には、同図(a)は、そのラッピング部材100の一部を構成する第2のシート体102の一具体例を示す斜視図である。その第2のシート体102は、例えば無通気性軟質シート、例えば、ポリエチレン製シートまたはポリプロピレン製シートとして構成される。その第2のシート体102は、例えば、既存塗膜14の剥離状況を外部から監視できるように透明であってもよいが、不透明であっても半透明であってもよい。
【0253】
同図(b)は、ラッピング部材100の残りの部分を構成する第1のシート体104の一具体例を示す斜視図である。一例においては、その第1のシート体104が、第2のシート体102との一時的結合のための結合部として粘着部106を1または複数有しており、一例においては、同図に示すように、その粘着部106が第2のシート体102の両端部にそれぞれ配置されている。
【0254】
同図(c)は、ラッピング部材100の一具体例として第1および第2のシート体104および102の連続体を示す斜視図と、その連続体において、第1のシート体104が折り畳み式または巻き式で第2のシート体102に格納される様子の一例を示す側面図とである。第1および第2のシート体104および102の連続体、すなわち、それら2部材が直列接続されたものは、それら2部材の組立体の一例である。
【0255】
一例においては、同図に示すように、第1のシート体104が、第2のシート体102の片面を全体的に被覆するように、その第2のシート体102に格納され、または、初期状態、退避状態もしくは非使用状態として配置される。
【0256】
図10(a)は、
図9(a)に示す第2のシート体102の一具体例としてのプラスチック段ボールシート(以下、「プラ段(またはプラダン)」と略称する。)110を示す部分破断斜視図である。
図10(b)は、そのプラ段110の一端部を示す端面図である。同図(c)は、そのプラ段110が外力によって折り曲げられる様子を説明するための端面図である。
【0257】
同図(a)に示すように、プラ段110は、厚さ方向に互いに対向する一対のライナー(板表面)112,112と、それらライナー112,112を互いに連結する複数のリブ(中空部分の柱)114とを有する。
【0258】
それらリブ114は、互いに等間隔な隙間を隔てて平行に延びるため、プラ段110は、内部に中空構造(例えば、ハーモニカ状)を有する。その中空構造においては、各ライナー112の表面と複数本のリブ114の一側辺との複数本の連結線として複数の筋目が存在し、作業者は、互いに隣接する筋目間に折れ線が形成される(複数の予定曲げ位置のうちの任意のものが選択される)ようにプラ段110を折り曲げることが可能である。
【0259】
プラ段110は、よく知られているように、素材が安価であるうえに、成形性が高く、任意の形状への加工作業が容易である材料の一つである。
【0260】
プラ段110は、よく知られているように、各筋目においてその周辺部より凹んでいるため、各筋目に沿って溝が形成されている。その溝が、前述のガス抜き穴として機能することになる。
【0261】
本実施形態においては、ラッピング部材100が第1および第2のシート体104および102の連続体として構成されている。よって、標的塗膜の剥離作業が終了し、ラッピング部材100を構造物12から撤去する際に、ラッピング部材100が連続体であるため、剥離剤20および剥離した塗膜が付着した面を内側にして巻き込むようにラッピング部材100を巻き付けると、ラッピング部材100と剥離剤20および剥離した塗膜とを一緒に回収することが可能となり、回収作業が容易となる。
【0262】
さらに、ラッピング部材100のうち、第2のシート体102は、
図11に例示するように、剥離剤20と接触しないから、ラッピング部材100の回収後、その第2のシート体すなわちプラ段110はそのままでも再利用可能である。
【0263】
以上のように構成されるラッピングユニット98を用いることにより、
図8に工程図で示すように、
図4におけるラッピング工程S202が実施される。
【0264】
そのラッピング工程S202は、概略的に説明するに、
(a)ラッピング部材100を剥離剤層99に装着することにより、剥離剤層99を少なくとも部分的に、標的塗膜の側とは反対側からラッピングするラッピング工程WRAPと、
(b)固定化部材120により、ラッピング部材100のうちの少なくとも第2のシート体102をそれの背後から局所的に剥離剤層99に押し付け、それにより、ラッピング部材100を剥離剤層99に固定化する固定化工程SCRと
を含むように構成される。
【0265】
ここで、
図8に示すラッピング工程S202を
図11を参照しつつ具体的に説明する。
【0266】
まず、ステップS301において、
図11(a)に例示するように、作業者がエアレス塗布機10を用いることにより、構造物12の標的塗膜上に剥離剤層99が形成される。
【0267】
次に、ステップS302において、作業者により、ラッピング部材100が準備される。ラッピング部材100は、例えば、
図9に示すように、第1のシート体104と第2のシート体102とが直列に連結された連続体として形成される。
【0268】
このとき、第2のシート体102としてのプラ段110は、それが装着されるべき相手側部材、例えば、構造物12のうち標的塗膜が存在する部分の形状に合致するように、自身の外形形状に関して調整されるとともに、その部分の表面の角度(例えば
図11(b)参照。)に合致するように、自身の折り曲げ位置および角度に関して調整される。例えば、プラ段110は、作業者により、いずれかの筋目に沿って、目標の角度で折り曲げられる。
【0269】
続いて、ステップS303において、作業者により、ラッピング部材100が標的塗膜に装着される。これが、ラッピング工程WRAPの一例である。同図(c)に例示するように、標的塗膜の全体に第1領域と第2領域との連続体が割り当てられる。
【0270】
そのラッピング工程WRAPは、同図(b)に例示するように、ラッピング部材100を、第1のシート体104が標的塗膜のうちの第1領域(同図(c)参照。)上に、第2のシート体102がその第1のシート体104上にそれぞれ重なるように、標的塗膜に装着する装着工程を有する。このとき、第1のシート体104は、完全なまたは不完全な格納状態にある。
【0271】
この例においては、第1領域が、水平上面と垂直面とを有し、その垂直面上においては、塗布された剥離剤が流動し易いから、その剥離剤層99が、相対的に剛体である第2のシート体102と、後述の固定化部材120との共同によって補強される。
【0272】
そのラッピング工程WRAPは、さらに、同図(c)に例示するように、第1のシート体104のうち格納されていた部分を、第2領域を被覆するように展開する展開工程を有する。図示の例においては、第1のシート体104が標的塗膜を全周(第1領域と第2領域との双方)にわたって巻き付けられる。このとき、展開状態にある第1のシート体104は、それの他端に位置する粘着部106において、自身の別の部分に固定化される。これにより、第1のシート体104が標的塗膜に固定化される。
【0273】
第2のシート体102は、第1のシート体104のうち第1領域に位置すべき部分をその第1領域に圧着によって係留する。よって、その第1領域は、第1のシート体104にとっては、標的塗膜に対する係留部である。
【0274】
その係留部を起点として、第1のシート体104のうち残りの部分、すなわち、第2領域に位置すべき部分が展開されて標的塗膜に巻き付けられ、それにより、その標的塗膜に装着される。よって、その第2領域は、第1のシート体104にとっては、標的塗膜に対する巻付け部である。
【0275】
その後、ステップS304において、作業者により、同図(d)に例示する形状を有するように、固定化部材120が準備される。
【0276】
この固定化部材120の形状およびサイズは、それが装着される相手方部材(例えば、
図11に示す例においては、構造物12のうち標的塗膜が存在する部分であり、また、
図18(c)に示す例においては、周辺部材120)の形状およびサイズに適合するように選択される。固定化部材120は、例えば、板状の発泡スチロールであるから、ラッピング部材100の表面に対し、例えば
図9(a)に二点鎖線で例示するように、細長い形状の接触面で局所的に接触することになる。
【0277】
このとき、板状の固定化部材120は、ラッピング部材100に対し、固定化部材120の延びる向きがラッピング部材100のうちのプラ段110の筋目方向に対して理想的には直角となり、少なくとも交差するように突き当たるように相対的に配置される(例えば
図9(a)参照。)。それにより、プラ段110が第1のシート板104と固定化部材120との間において実質的に折れ曲がることなく剛体(例えば、一面に沿って延びる1枚の平板または折れ曲がった1枚の平板など)として挙動することが可能であるように、両者間に介在させられる。
【0278】
続いて、ステップS305において、作業者により、
図11(d)に例示するように、固定化部材120が、相対的に剛体である第2のシート体102の露出面に局所的に突き当てられ、それにより、固定化部材120がその第2のシート体102を介して、相対的に軟体である第1のシート体104が剥離剤層99に押し付けられるように、ラッピング部材100に装着される。
【0279】
ここで、それら部材間の力学を分析するに、それぞれの部材間の形状上の差異から、第1のシート体104は、第2のシート体102に広い面積で接触するのに対し、固定化部材120は、第2のシート体102に狭い面積で接触する。
【0280】
しかし、第2のシート体102は、第1のシート体104より高い剛性を有するため、固定化部材120が第2のシート体102に局所的にしか接触しなくても、固定化部材120から第2のシート体102に局所的に入力された外力がその第2のシート体102にの全体に拡散し、その第2のシート体102のうち第1のシート体104と接触する表面全体に面圧が発生するように伝播する。その結果、第2のシート体102は、第1のシート体104のうち第1領域に位置する部分を実質的に全面的に押し付けることが可能である。よって、固定化部材120は、第2のシート体102に対し、局所的突き当て固定化機能を有する。
【0281】
よって、固定化部材120が全体としては板状を成すものであっても、軟体である第1のシート体104のうち第1領域に位置する部分を剥離剤層99に広域的に(例えば、実質的に全面的に)押し付けることが可能となる。その押付けにより、第1のシート体104の前記係留部が形成される。その結果、剥離剤層99と第1のシート体104のうち第1領域に位置する部分との密着度が向上する。
【0282】
このとき、第1のシート体104のうち第1領域に位置する部分と第2のシート体102との間に隙間が生じ、そこに、不要な気泡が閉じ込められてしまう可能性がある。そのような不要な気泡は、上述の、固定化部材120による、第2のシート体102を介した、第1のシート体104の強固な押し付けを阻害する。
【0283】
しかし、第2のシート体102は、例えばプラ段110として構成されているため、表面において全幅または全長に渡って延びる複数本の筋目(
図10参照。)を有する。よって、ラッピング部材100が剥離剤層99に装着されたとき、第1のシート体104のうち第1領域に位置する部分と第2のシート体102との間に不要な気泡が存在しても、前記複数本の筋目が第1のシート体102のうち第1領域に位置する部分との間においてガス抜き穴として作用し、それにより、前記気泡が軽減するかまたは消滅する。
【0284】
その後、ステップS306において、作業者により、
図11(e)に例示するように、固定化部材120とラッピング部材100とに、連続した粘着テープ124が巻き付けて粘着されて固定化され、それにより、固定化部材120がラッピング部材100に対して固定化される。その結果、固定化部材120により、ラッピング部材100が剥離剤層99に押し付けられる。
【0285】
このとき、剥離剤層99と、第1のシート体104のうち第1領域に位置する部分Aとが密着し、その部分Aと第2のシート体102とが密着し、さらに、第2のシート体102と、第1のシート体104のうち、その第2のシート体102の背後に位置する部分Bとが密着する。
【0286】
本実施形態においては、ラッピング部材100において、第1のシート体104と第2のシート体102とが連続体として構成されているが、不連続体として構成されてもよい。
【0287】
その不連続体を採用する一例においては、まず、第1のシート体104が、第2のシート体102から独立して、標的塗膜の全周に巻き付けられる。次に、第2のシート体102が、その巻き状態にある第1のシート体104の一部にその背後から押し付けられ、それにより、その一部の第1のシート体104が前記係留部として機能するようになる。
【0288】
図12(a)は、
図11に示す構造物12(L字状断面で真っ直ぐに延びるアングル部材)とは別の種類の構造物150の表面から既存塗膜14を剥離するためにラッピング部材100および固定化部材120が使用される様子の一例を説明するための側面図である。また、同図(b)は、その構造物150の一部についてラッピング部材100および固定化部材120が使用される様子の一例を説明するための斜視図である。
【0289】
その構造物150は、例えば、鉄塔のうちのプラットトラス構造部(例えば概して円錐台形を成す骨組み構造物)の一部として使用され、構成要素として、例えば、概して水平に延びる板状体152と、その板状体152の下面に固定された水平部材としての構造材154とを有している。その構造材154は、H鋼であり、H字状断面で真っ直ぐに水平に延びている。この例においては、板状体152の下面に、構造材154の上フランジの上面が溶接、ボルト締結などによって結合されている。
【0290】
この例においては、構造材154の表面のうち露出する部分上の既存塗膜14が標的塗膜とされている。
【0291】
この例においては、第1のシート体104(例えば、連続した1枚)が、構造材154の第1片面側の一対の第2のシート体102,102と、構造材154の第2片面側の一対の第2のシート体102,102とによってそれぞれ係留され、さらに、同じ第1のシート体104が、それぞれの係留点から標的塗膜に沿って延び、それにより、標的塗膜の全体を被覆している。第1のシート体104は、構造材154のウェブ両面および上下フランジのそれぞれの両面を連続的に被覆している。
【0292】
この例においては、構造材154の第1片面側(例えば、図において右側)の一対の第2のシート体102,102が、それらに共通の第1の固定化部材120によって固定化され、同様にして、構造材154の第2片面側(例えば、図において左側)の一対の第2のシート体102,102が、それらに共通の第2の固定化部材120によって固定化されている。各固定化部材120は、両端部においてそれぞれ、対応する第2のシート体102の内側コーナー部にフィットする形状を外側コーナー部を有する。
【0293】
この例においては、相対的に剛体である第2のシート体102が、構造材154のうちの水平下面と垂直面とに押し当てられ、それにより、剥離剤層99の流動および第1のシート体104の撓みが抑制される。
【0294】
図13は、
図11および
図12に示す構造物12,150とは別の種類の構造物170の表面から既存塗膜を剥離するためにラッピング部材100および固定化部材120が使用される様子の一例を説明するための側面図である。
【0295】
その構造物170は、例えば、鉄塔のうちのプラットトラス構造部(例えば概して円錐台形を成す骨組み構造物)の床部として使用され、構成要素として、例えば、概して水平に延びる床部材172と、その床部材172の下面に固定された水平部材としての複数の構造材174,176とを有している。
【0296】
各構造材174は、前述のものと同様なアングル部材(山形鋼、等辺山形鋼、アングル鋼)であり、また、各構造材176は、前述のものと同様なH鋼である。この例においては、床部材172の下面に、各構造材174の上側辺部の上面と、各構造材176の上フランジの上面とが溶接、ボルト締結などによって結合されている。
【0297】
この例においては、床部材172の下面のうち露出する部分の上の既存塗膜14と、各構造材174の表面のうち露出する部分の上の既存塗膜14と、各構造材176の表面のうち露出する部分の上の既存塗膜14とが互いに連続して標的塗膜を構成している。
【0298】
この例においては、複数の構造材174,176が、図において最も左側のH鋼A,それの右隣りのアングル鋼B,それの右隣りのアングル鋼Cおよび最も右側のH鋼Dという順序で水平方向に並んでいる。
【0299】
第1のシート体104(例えば、連続した1枚)が、H鋼Aの第1片面側の一対の第2のシート体102,102と、同じH鋼Aの第2片面側の一対の第2のシート体102,102とによってそれぞれ係留され、さらに、同じ第1のシート体104が、それぞれの係留点から標的塗膜に沿って延び、それにより、標的塗膜の全体を被覆している。第1のシート体104は、H鋼AおよびH鋼Dのそれぞれのウェブ両面ならびに下フランジの下面および両側面を連続的に被覆している。
【0300】
この例においては、H鋼Dに剛体の第2のシート体102が装着されていないが、装着されてもよいのはもちろんである。
【0301】
H鋼Aのラッピング
【0302】
この例においては、H鋼Aの第1片面側の一対の第2のシート体102,102が、それらに共通の第1の固定化部材120(SM1)によって固定化され、同様にして、H鋼Aの第2片面側の一対の第2のシート体102,102が、それらに共通の第2の固定化部材120(SM2)によって固定化されている。各固定化部材120は、両端部においてそれぞれ、対応する第2のシート体102の内側コーナー部にフィットする形状を外側コーナー部を有する。
【0303】
この例においては、相対的に剛体である第2のシート体102が、H鋼Aのうちの水平下面と垂直面とに押し当てられ、それにより、剥離剤層99の流動および第1のシート体104の撓みが抑制される。
【0304】
H鋼Dのラッピング
【0305】
この例においては、H鋼Dの第1片面側の一対の第1のシート体104,104(または一対の第2のシート体102,102)が、それらに共通の第3の固定化部材120(SM3)によって固定化され、同様にして、H鋼Dの第2片面側の一対の第1のシート体104,104(または一対の第2のシート体102,102)が、それらに共通の第4の固定化部材120(SM4)によって固定化されている。
【0306】
各固定化部材120は、両端部においてそれぞれ、対応する相手側部材(剛体である第2のシート体102、構造物170など)のコーナー部にフィットする形状をコーナー部を有する。
【0307】
第1区間のラッピング
【0308】
この例においては、標的塗膜のうちH鋼Aからアングル鋼Bまでの第1区間のラッピングが、剥離剤層99が第1のシート体104で被覆され、それが第2のシート体102で被覆され、それが固定化部材120によって固定化されることによって行われる。第2のシート体102も固定化部材120も、それぞれが装着される相手側部材の形状にフィットした形状を有する。この第1区間においては、第2のシート体102が、床部材172の下面に押し付けられる。
【0309】
この例においては、相対的に剛体である第2のシート体102が、床部材172のうちの水平下面に押し当てられ、それにより、剥離剤層99の流動および第1のシート体104の撓みが抑制される。
【0310】
第2区間のラッピング
【0311】
この例においては、標的塗膜のうちアングル鋼Bからアングル鋼Cまでの第2区間のラッピングが、剥離剤層99が第1のシート体104で被覆され、それが第2のシート体102で被覆され、それが固定化部材120によって固定化されることによって行われる。第2のシート体102も固定化部材120も、それぞれが装着される相手側部材の形状にフィットした形状を有する。この第2区間においては、第2のシート体102が、床部材172の下面と、アングル鋼Bの上側辺部の下面および下側辺部の右側面(垂直面)とに押し付けられる。
【0312】
この例においては、相対的に剛体である第2のシート体102が、構造物170のうちの水平下面と垂直面とに押し当てられ、それにより、剥離剤層99の流動および第1のシート体104の撓みが抑制される。
【0313】
第3区間のラッピング
【0314】
この例においては、標的塗膜のうちアングル鋼CからH鋼Dまでの第3区間のラッピングが、剥離剤層99が第1のシート体104で被覆され、それが第2のシート体102で被覆され、それが固定化部材120によって固定化されることによって行われる。第2のシート体102も固定化部材120も、それぞれが装着される相手側部材の形状にフィットした形状を有する。この第3区間においては、第2のシート体102が、床部材172の下面と、アングル鋼Cの上側辺部の下面および下側辺部の右側面(垂直面)とに押し付けられる。
【0315】
この例においては、相対的に剛体である第2のシート体102が、構造物170のうちの水平下面と垂直面とに押し当てられ、それにより、剥離剤層99の流動および第1のシート体104の撓みが抑制される。
【0316】
<輪ゴムアプリケータを用いる局所密着化工程>
【0317】
図8の工程図に戻ると、続いて、ステップS307において、後に
図14-
図16を参照して詳述するように、作業者が、輪ゴムが発射可能に搭載されたアプリケータを用いることにより、剥離剤層99およびそれの背後に位置する保護層130(
図16参照。)を構造物12の突起部182回りにおいて標的塗膜に局所的に弾性的に密着させる。これは、剥離剤層99および保護層130を一緒に構造物12の突起部182回りにおいて標的塗膜に局所的に密着させる局所密着化工程の一例である。
【0318】
ここに、保護層130の一例は、
図16に例示するように、剥離剤層99から独立した保護シート(別体型ラッピングシートなど)または保護層であり、それの一例は、ラッピング部材100である。また、保護層130の別の例は、
図20に例示するように、剥離剤層99と一体化された保護層300(一体型ラッピングシートなど)である。
【0319】
また、突起部182の一例は、同図に例示するように、平面部184(例えば、複数枚の板部材の重ね合わせ)に装着された締結具であり、その締結具は、例えば、ナット、ボルトの頭部またはボルトのうちナットから突出した部分などであり、それらの例は、概して中心線を有しそれに沿って筒状に延びる部材である。
【0320】
図14(a)は、
図8におけるステップS307を実施するために使用される輪ゴムアプリケータ(以下、単に「アプリケータ」ともいう。)180の一具体例を示す平面図であり、
図14(b)は、そのアプリケータ180を示す側面図である。
【0321】
アプリケータ180は、
図16に例示するように、剥離剤層99および保護層130を突起部182回りにおいて標的塗膜に環状の弾性体を装着してその標的塗膜を少なくとも局所的に弾性的に密着させるように構成される。
【0322】
アプリケータ180は、
図16に例示するように、構造物12のうちの突起部182に対し、平面部184に対して概して垂直な方向に接近・退避するように使用される。
【0323】
このアプリケータ180は、待機状態において、前記弾性体を伸長状態(自然状態から伸長した弾性引張状態)で保持する待機部と、作用状態において、前記弾性体を伸長状態で、前記待機部に接続される基端191から当該アプリケータ180の先端192まで移動可能に保持するとともに、剥離剤層99および保護層130を標的として、前記弾性体を伸張状態に維持しつつ前記標的に向けて発射する発射部とを含む。その発射された弾性体は、伸張状態のまま前記標的に到達してその標的を包囲して弾性的に圧迫する。
【0324】
一例においては、前記発射部が、軸線を有する丸形または角形の外周面であって前記弾性体が伸長状態で保持されるものを有する。その外周面は、自身の軸線に対して、先端192に接近するにつれて先細となる斜面を有し、その斜面は、前記弾性体から径方向に作用する弾性圧縮力のうちの少なくとも一部をその弾性体の推進力に変換する機能を有する。
【0325】
一例においては、アプリケータ180が、さらに、それの移動方向に延びる軸線を有する丸形または角形のホルダ188を有する。そのホルダ188は、少なくとも先端部190において、突起部182を収容可能なサイズを有して中空となるとともに、当該ホルダ188の先端192が平面部184に実質的に突き当たると、先端部190および/またはそれの内周面が剥離剤層99および保護層130に、標的塗膜に接近する向きの力を作用させ、それにより、少なくとも標的塗膜と剥離剤層99との間の密着度を向上させる。
【0326】
ホルダ188は、前記待機部としての平行部194と、前記発射部としてのテーパ部196とを軸方向に連続的に有する。
図14(c)は、そのテーパ部196を示す横断面図である。このホルダ188は、硬質または軟質の合成樹脂製であってもよいし、金属製であってもよい。
【0327】
このホルダ188は、突起部182におけるラッピング状況を外部から観察可能にするために、少なくとも一部の領域において透過性を有する材料で構成されてもよい。また、その外部観察機能は、その透過性材料の選択に代わるかまたはそれに加えて、ホルダ188をそれの全長にわたって中空構造とするという対策が採用されてもよい。
【0328】
図16(b)に示すように、アプリケータ180に1または複数本の輪ゴム198が搭載される。各輪ゴム198は、前記弾性体の一例を構成する。
図14(b)に示すように、各輪ゴム198は、ホルダ188の外周面上をスライドして前記待機状態から前記作用状態に遷移させられる。
【0329】
テーパ部196の外周面は、自身の軸線に対して、先端192に接近するにつれて先細となる斜面を有する。その斜面には、輪ゴム198から径方向に弾性圧縮力が作用する。
【0330】
その圧縮力は、前記斜面の効果として、先端192に向かう表面力という第1分力と、抗力という第2分力とに分解される。前記表面力は、輪ゴム198に対し、その輪ゴム198を先端192に向かわせる推進力として作用する。一方、前記抗力は、輪ゴム198に対し、その輪ゴム198が移動しようとする向きとは逆向きに作用する摩擦力すなわち摩擦抵抗力を生起する原因力として作用する。
【0331】
したがって、テーパ部196上にある輪ゴム198が自力でまたは他力で前記斜面に沿って先端192に向かい、やがて発射するために、輪ゴム198の自然長、弾性係数、表面形状および表面摩擦係数を含む複数の特性値と、テーパ部196の直径、斜面角度、表面形状および表面摩擦係数を含む複数の特性値とを含む複数の特性値が予め選択されることになる。
【0332】
具体的には、例えば、テーパ部196内に遷移した輪ゴム198が自力で発射することを実現するためには、前記推進力が前記摩擦力に打ち勝つように前記複数の特性値を選択することが望ましい。また、テーパ部196内に遷移した輪ゴム198が作業者によって人力で発射される場合には、前記斜面があるため、それがない場合より小さい力で作業者が輪ゴム198を引っ張るか押し出せば足りる。
【0333】
ホルダ188は、さらに、自身の表面と各輪ゴム198の表面との間の摩擦力を低下させるいくつかの摩擦力低下手段を含む。
【0334】
具体的には、ホルダ188においては、少なくとも平行部194のうちの少なくとも一部の外周面、例えば、その外周面の全体に、軸方向またはらせん方向に延びるように形成された縦ビード200が存在する。
【0335】
この態様においては、縦ビード200が輪ゴム198をホルダ188の外周面から持ち上げて両者間に隙間を形成する。その隙間のおかげで、輪ゴム198の一部がホルダ188から浮上し、その部分を指で掴めば、輪ゴム198を捕捉することが可能となる。その隙間のおかげで、作業者は、輪ゴム198を指で掴んで軸方向に移動させることが容易となる。
【0336】
さらに、その隙間のおかげで、輪ゴム198とホルダ188の外周面との間の接触面積が減少し、ひいては、両者間の摩擦力が低下する。よって、縦ビード200は、第1の摩擦力低下手段としても機能する。
【0337】
さらに、ホルダ188においては、少なくともテーパ部196のうちの少なくとも一部の外周面、例えば、その外周面の全体に、に、軸方向またはらせん方向に延びるように形成された縦溝または縦スリット、例えば、側面視において軸方向に直線的に延びる縦溝202が第2の摩擦力低下手段として機能するように、一体的にまたは別部品として存在する。
【0338】
この態様においては、縦溝202の底面と輪ゴム198の外周面との間に隙間が形成される。その隙間のおかげで、両者間の接触面積が減少し、ひいては、両者間の摩擦力が低下する。その縦溝202の本数は、
図14に示す例においては、4本であるが、これより多い本数としたり、少ない本数とすることが可能である。
【0339】
また、各縦溝202において、溝幅はそれの長さ方向において不変であってもよいし、可変であってもよく、例えば、先端192に接近するにつれて拡大または減少する溝幅であってもよい。
【0340】
図15は、
図14に示すアプリケータ180のホルダ188とは異なるホルダ210を示す縦断面図である。このホルダ210においては、テーパ部196が、同一直径で真っ直ぐに延びる円筒内周面を有しており、これに対し、ホルダ188においては、テーパ部196が、テーパ円筒外周面より小径のテーパ円筒内周面を有している。
【0341】
図16は、
図8におけるステップS307を時系列的に説明するための側面図である。
【0342】
具体的には、
図16(a)は、構造物12のうちの突起部182回りに剥離剤20が直接塗布されて剥離剤層99が形成された後にその剥離剤層99がそれの背後から別体型の保護層130(別体型ラッピングシートの一例)でラッピングされる様子の一例を示す側面図である。この例においては、その時点においては、剥離剤層99は突起部182に密着しているが、保護層130は突起部182の外形形状に十分には追従しておらず、剥離剤層99との間に隙間が残っている。
【0343】
同図(b)は、アプリケータ180であって輪ゴム198が待機させられたものが突起部182に正面から接近させられる様子の一例を示す側面図である。
【0344】
同図(c)は、アプリケータ180がそれの先端192において平面部184に突き当たるかまたはその直前のタイミングで、アプリケータ180の先端部190の先端191によって保護層130が平面部184に押し付けられ、それに伴い、先端191によって保護層130が突起部182回りにおいて(特に、突起部182にうち、同図においてナットから突出したボルトの先端部など)その突起部182に引き込まれて接近または接触させられるとともに、アプリケータ180から輪ゴム198が発射されてその輪ゴム198が保護層130を突起部182回りに弾性的に包囲して圧迫し、その状態で留置される様子の一例を示す側面図である。
【0345】
ここに、「アプリケータ180から輪ゴム198が発射され」という文言は、輪ゴム198がアプリケータ180の先端192から離脱した後に、その後の移動経路の如何を問わず、突起部182に着地すれば足りることを意味し、輪ゴム198がアプリケータ180の先端192から前方に飛行する行程が存在することを必ずしも意味しない。
【0346】
よって、前記文言は、輪ゴム198がアプリケータ180の先端192から前方に離脱した直後に、その輪ゴム198がほぼ定位置においてほぼ瞬間的に弾性的に縮径し、その結果、突起部182の外周面に着地してそれを包囲する態様を含む。その包囲状態において輪ゴム198が弾性圧縮力を突起部182に付与できるように、輪ゴム198の内径は、それの自然状態において、突起部182の外径より小さくなるように選択される。
【0347】
一例においては、作業者が、いずれかの輪ゴム198(複数本の輪ゴム198が同時に待機している場合には、それら輪ゴム198のうち先端192に最も近いもの)を手で平行部194からテーパ部196にスライドさせ、その後、その輪ゴム198が自力で、または他力(作業者の力または動力源の力)を用いてテーパ部196上を前進し、やがて先端192から離脱する。
【0348】
輪ゴム198を動力源(例えば、モータ、ソレノイド)の力を用いて発射させる態様においては、例えば、作業者が動力源(例えば、電源およびモータ)を制御することにより、その動力源によって動作させられる可動部材(例えば、直線往復運動、回転往復運動を行う部材)であってアプリケータ180に装着されたものを、それの係合部位において、待機位置にある輪ゴム198に接触しない待機位置と、その輪ゴム198にそれの背後から接触して前方に押し出す発射位置とに切り換えることが可能である。前記可動部材は、例えば、少なくとも前記係合部位がテーパ部196の表面から露出するようにアプリケータ180に配置される。
【0349】
一例においては、テーパ部196すなわち発射部が、それのテーパ角または頂角が不変とされるが、別の例においては、その発射部が、開閉式の傘の骨組み構造と同様な構造を有して、収納状態すなわち収縮状態と展開状態すなわち拡張状態とに切り換わり、それにより、当該発射部の頂角が可変であるように構成される。
【0350】
具体的には、例えば、前記発射部が、その頂角が小さい拡張状態(例えば、頂角がゼロである平行筒状)と、その頂角が大きい収縮状態(例えば、テーパ状)とに切り換わるように構成される。この例においては、前記発射部は、待機状態においては拡張状態を取り、発射状態においては収縮状態を取るように作業者によって操作される。
【0351】
一例においては、作業者がアプリケータ180のような道具を用いて輪ゴム198を突起部182に弾性圧縮状態で巻き付けるが、別の例においては、作業者が手で直に輪ゴム198を突起部182に弾性圧縮状態で巻き付ける。
【0352】
[第2実施形態]
【0353】
以下、本発明の例示的な第2実施形態に従う湿式剥離用シート状構造体およびエアレス間接塗布型湿式剥離方法を図面に基づいて詳細に説明する。
【0354】
本実施形態の分類
【0355】
1.間接塗布(シート貼付け式)
2.エアレススプレー方式
3.剥離剤が泡状
4.ラッピングシート(保護層)が剥離剤層と一体
【0356】
上述の湿式剥離用シート状構造体およびエアレス間接塗布型湿式剥離方法は、前述の第1および第3の発明のそれぞれの一具体例である。
【0357】
図17は、上述のエアレス間接塗布型湿式剥離方法の一例を示す工程図である。
【0358】
図18(a)は、このエアレス間接塗布型湿式剥離方法を実施するために使用されるシート状構造体270としての層状複合体の一例であって剥離剤保持層280が一体型のラッピングシートとしての保護層300と使用に先立って作業者によって剥離される剥離層310とによってサンドイッチされた構造を有するものを示す側面図である。
【0359】
同図(b)は、層状複合体270から剥離層310が剥離される様子を示す側面図である。
【0360】
同図(c)は、その層状複合体270が、それの露出面において、構造物12の既存塗膜14のうちの標的塗膜に装着されるとともに、構造物12のうちの周辺部材101と固定化部材120とを用いて層状複合体270が標的塗膜に対して固定化される様子の一例を示す側面図である。
【0361】
概略的に説明するに、層状複合体270は、液状または流動状の剥離剤20を用いて構造物12の表面から既存塗膜14を剥離する湿式剥離のために既存塗膜14の表面である塗膜面に貼り付けられた状態で使用されるシート状構造体である。
【0362】
この層状複合体270は、前記液状または流動状の剥離剤20が発泡状態で多孔性またはファブリック製の保持体(例えば、シート状の保持体)282に含浸させられてその保持体282内に保持される剥離剤保持層280であって、可撓性および粘着性を有するものを含む。
【0363】
保持体282の材料として、例えば、不織布(例えば、長繊維不織布、短繊維不織布など)、フェルト、立毛編織物、起毛編織物などの繊維集合体(ファブリック)と、スポンジ(例えば、連続気泡スポンジ、独立気泡スポンジなど)、ウレタンなどの多孔質材料と、その他、同様なものとがある。
【0364】
本実施形態においては、一例として、保持体282の材質として不織布が使用される。その不織布は、例えば、繊維間に微小な間隙を無数に有する構造を有するファブリックとして定義される。その不織布の繊維の材質として、例えば、ポリプロピレンが使用される。
【0365】
また、不織布の目付(単位面積当たりの重量)は、例えば、約20-約2000g/m2の範囲から選択される。
【0366】
ところで、不織布の目付量が多いほど、同じ容積の剥離剤20の塊内に存在する繊維の本数すなわち繊維密度が増加するため、剥離剤20が不織布の繊維に絡み付く程度が増加して不織布に対する剥離剤20の塗着性が増加すると推測される。
【0367】
しかし、繊維密度が高いほど、剥離剤保持層280が前記塗膜面に付着するときに、剥離剤20が直に前記塗膜面に付着する面積が減少し、剥離剤20が前記塗膜面に付着する付着力が低下すると推測される。
【0368】
要するに、不織布の目付量と剥離剤20の塗着性との間には、不織布の目付量が多いほど剥離剤20の塗着性が向上する効果向上領域(例えば、概略的な線形領域、比例領域)と、不織布の目付量を増やしても剥離剤20の塗着性が向上しない飽和領域とがあり、その飽和領域においては、不織布への剥離剤20の塗布量がその不織布が剥離剤20を保持する能力との関係において過剰となると、不織布における剥離剤20の留置性が低下して剥離剤保持層280において剥離剤20の液垂れが発生し易くなると推測される。よって、剥離剤保持層280における剥離剤20の留置性確保という観点から、使用に適した不織布の目付量に上限値が存在する場合があると推測される。
【0369】
ところで、剥離剤保持層280を用いた塗膜剥離作業が終了すると、その剥離剤保持層280は廃棄物となる。一方、一般に、廃棄物が軽いほど、資源としての不織布の有効利用が促進されるとともに塗膜剥離業者および他の関連業者において廃棄物処理負担が軽減される。よって、資源保護、廃棄物減量および業者負担軽減という観点から、不織布の目付量が少ないほど有利である。
【0370】
このような事情を背景に、不織布の目付は、例えば、約100g/m2を超えないように選択される。また、不織布の目付は、例えば、約70-約90g/m2の範囲から選択される。
【0371】
以上説明した層状複合体270は、剥離剤保持層280が第1の片面において前記塗膜面に貼り付けられた状態で使用され、その使用状態において、剥離剤20を前記塗膜面に間接的に塗布する。
【0372】
このとき、剥離剤20は、無通気性の保護層300と、無通気性の剥離層310(セパレータ)とによって両面からサンドイッチされているため、剥離剤20は、それの有効成分(揮発成分)が外部に放出されずに剥離剤20内に留置される。
【0373】
保護層300は、剥離剤保持層280の第2の片面であって前記第1の片面とは反対側のものに付着され、可撓性および実質的な無通気性を有する。この保護層300は、剥離剤保持層280を実質的に気密にラッピングする機能を有する。
【0374】
剥離層310は、剥離剤保持層280の前記第1の片面に剥離可能に付着され、可撓性および実質的な無通気性を有する。この層状複合体270は、剥離層310が剥離剤保持層280から剥離されて露出した前記第1の片面において剥離剤保持層280が前記塗膜面に貼り付けられた状態で使用される。
【0375】
よって、この層状複合体270は、保護層300、剥離剤保持層280および剥離層310がそれらの順に並んで成る複数の層として構成される。
【0376】
層状複合体270が標的塗膜に貼り付けられる前の段階においては、保護層300および剥離層310の共同により、剥離剤20が乾燥せず、湿潤状態に維持される。また、層状複合体270が剥離層310なしで標的塗膜に貼り付けられた状態においては、保護層300により、剥離剤20が乾燥せず、湿潤状態に維持される。
【0377】
一例においては、この層状複合体270が、約1mm程度の厚さ寸法を有する。この例においては、例えば、保護層300が約10-約100μm程度の厚さ寸法を有し、また、剥離層310が約10-約100μm程度の厚さ寸法を有する。
【0378】
一例においては、保護層300の材質が、柔軟性を有するポリエチレン製シートまたはポリプロピレン製シートである。また、剥離層310の材質が、柔軟性を有するポリエチレン製シートまたはポリプロピレン製シートである。
【0379】
剥離剤保持層280を製作するために、前述の第1実施形態における塗布条件(噴霧条件を含む。)と同じかまたはそれに準じた塗布条件で、剥離剤20がエアレススプレーガン50を用いて発泡された状態で保持体282に塗布されて含浸させられる。
【0380】
これに代えて、剥離剤保持層280は、剥離剤20がそれにエアバブルが注入されて発泡された状態で保持体282に適用されて含浸させられることにより、製作されてもよい。
【0381】
<剥離剤20の物性の測定結果>
【0382】
1.粘性(粘り強さを表す指標)
【0383】
剥離剤20の物性として、粘度は、株式会社トキメック製のB8H型回転粘度計を用い、20℃で、かつ、ローターNo.5またはNo.6を20rpmで3分間回転させて測定した。
【0384】
そのときの測定値は11.48Pa・s(約11-約12Pa・s)であった。剥離剤20については、粘度の測定値が大きいほど、粘り強いことを表す。ここに、剥離剤20については、粘り強いほど、液垂れが発生し難い。
【0385】
また、剥離剤20の物性として、TI値(チクソトロピー)は、5rpmで3分間回転させたときの粘度測定値を、50rpmで3分間回転させたときの粘度測定値で割り算した値として測定した。
【0386】
そのときの粘度測定値は、6.2(約5.5-約6.5)であった。剥離剤20については、TI値の測定値が大きいほど、粘り強いことを表す。ここに、剥離剤20については、粘り強いほど、液垂れが発生し難い。
【0387】
なお、TI(チクソトロピーインデックス)値(揺変指数、揺変係数など)は、塗装業界では、構造粘性を示す特性値としてよく利用されている。
【0388】
2.コンシステンシー(流れ易さを表す指標)
【0389】
剥離剤20の物性として、コンシステンシーは、CSC SCIENTIFIC社製のボストウィック・コンシストメーター(ボストウィック型粘度計)(設定した時間内に、被測定物が細長い容器内を自重で水平方向に流れて広がる距離(流出距離)を測定する)を用い、25℃で、5分間、30分間および60分間で剥離剤20が流れた距離を測定した。
【0390】
そのときの距離測定値は、5分間で8.5cm(約8-約9cm)、30分間で9.0cm(約8.5-約9.5cm)、そして、60分間で9.0cm(約8.5-約9.5cm)であった。剥離剤20については、前記距離の測定値が小さいほど、流れ難いことを表す。ここに、剥離剤20については、流れ難いほど、液垂れが発生し難い。
【0391】
それら測定値(流れ距離の時間的推移を表す。)により、剥離剤20は、30分経過後は流動性を示しておらず、静止していた(重力以外の外力がなければ形態を保持するがその外力があれば変形するというように半固形化していた)ことが確認された。
【0392】
3.pH値
【0393】
剥離剤20の一例については、pH値が8.6として測定された。この数値は、その剥離剤20が酸性を示さず、むしろアルカリ性を示すと評価されるが、その数値が「7」に十分に近いことから、中性を示すと評価されることが可能である。よって、この剥離剤20は、水系中性剥離剤に分類することが可能である。
【0394】
<剥離剤20を発泡状態で不織布に含浸させる技術の有効性を確認するための対比試験>
【0395】
1.実施例
【0396】
不織布として、「W-7636 業務用換気扇交換用長尺フィルター 幅60cm×30m巻(ブランド:カースル 製品型番:667697 ポリプロピレン繊維」という市販品が存在する。この市販品の目付は、約86g/m2であった。
【0397】
試験用保持体282として、上述の不織布が600×600mmのサイズを有するように準備された。さらに、試験用保護層300として、試験用保持体282より少し大きい形状の保護層300であってポリエチレン製のものが準備された。その試験用保護層300の板厚は約10μであった。
【0398】
試験用保持体282が試験用保護層300の上に載置され、試験用保持体282を標的として、剥離剤20がエアレススプレーガン50を用いて所定の噴射距離でエアレス塗布された。それにより、剥離層310なしの層状複合体270であって1.0kg/m2の塗布量を有するものが実施例として製作された。この実施例としての層状複合体270の厚さは約1mmであった。
【0399】
図22において、最も左側に示すように、この層状複合体270は、液垂れの状況を観察するために、剥離剤保持層280が表層、保護層300が裏層となる向きで、長方形状のベニヤ板の一表面上に、それの中央位置において、そのベニヤ板の表面とこの層状複合体270の表面とが実質的に同一面となるように貼り付けられた。
【0400】
さらに、同図に示すように、そのベニヤ板は垂直に吊るされ、このとき、この層状複合体270は、それの全体形状である四角形の上辺と下辺とが水平に延びる姿勢であった。
【0401】
この垂直姿勢でこの層状複合体270を放置すると、60分が経過してもこの層状複合体270の表面に液垂れが発生しなかった。また、16時間が経過してもこの層状複合体270の表面に液垂れが発生しなかった。
【0402】
2.比較例
【0403】
比較例においては、上述の実施例と同じ塗布面積および同じ塗布量のもと、剥離剤20とは異なる剥離剤の前記不織布への塗布がエアレススプレーガン50ではなく、ローラー塗りによって行われた。この比較例においては、前記剥離剤が非発泡状態で前記不織布に塗布された。
【0404】
同図において、中央および最も右側に示すように、上述の実施例と同様にして、この比較例としての層状複合体270が中央に貼り付けられた状態でベニヤ板が垂直に吊るされた。
【0405】
この垂直姿勢でこの層状複合体270を放置すると、その直後からこの層状複合体270の表面に液垂れが発生しはじめた。また、60分経過後には、この層状複合体270の表面に著しい液垂れ現象が観察された。
【0406】
具体的には、同図において、中央および最も右側に示すように、この層状複合体270内の剥離剤が前記ベニヤ板のうちその層状複合体270の枠外の領域を、その層状複合体270の下辺を超え、かつ、数cm以上の長さで流下したことが観察された。
【0407】
3.比較結果
【0408】
よって、剥離剤の液垂れ性、不織布への定着性および保持性に関し、上述の実施例の方が比較例より顕著に優れていることが確認された。
【0409】
<剥離剤20を保持体282にエアレス噴霧方式でかつ発泡状態で塗布して含浸させることのいくつかの利点>
【0410】
第1の利点
【0411】
本実施形態においては、剥離剤20が保持体282に向かってエアレス噴霧方式で塗布されるため、エアスプレー方式で塗布される場合のように剥離剤20が広範囲に飛散せずに済み、その結果、剥離剤20が無駄に消費されずに済む。
【0412】
よって、本実施形態によれば、剥離剤20に関する経済性が改善されるとともに剥離効率が向上するという利点が得られる。
【0413】
第2の利点
【0414】
本実施形態においては、剥離剤20が保持体282に向かってエアレスで狭い標的範囲内に塗布されるため、エアスプレー方式で塗布される場合のように剥離剤20が広い標的範囲に拡大せずに済み、その結果、剥離剤20の噴射位置および噴射量を安定的に精度よく管理できる。
【0415】
一方、保持体282に塗布される剥離剤20の量については、液垂れ防止という観点から、かつ、標的塗膜の塗膜厚(剥離剤20によって剥離されるべき塗膜厚)にも依存するが、例えば、1m2当たり約500-約1,000gの剥離剤20の塗布が適当であるから、その数値範囲より、保持体282に塗布された剥離剤20の量が過剰であると、保持体282を垂直姿勢にしたときに、剥離剤20に液垂れが発生する可能性がある。
【0416】
これに対し、本実施形態によれば、剥離剤20の噴射位置および噴射量を精度よく管理できるから、ムース泡状(多数の細かい気泡を含んだ泡状のムースであり、これは、気泡を含まない点で、ペースト状ではない)の発泡現象により、剥離剤20が保持体282に安定して定着し、剥離剤20の単位面積当たりの塗布量が均一化するとともに剥離剤20の塗布むらおよび液垂れが防止される。
【0417】
よって、本実施形態によれば、剥離剤20の液垂れを容易に防止できるという利点が得られる。
【0418】
第3の利点
【0419】
ところで、エアスプレー方式および電動エアレススプレー方式で剥離剤20が保持体282に塗布される場合には、剥離剤20のミストが高圧で保持体282に射出され、保持体282に対する塗着効率が低下するとともに、剥離剤20のミストにより作業環境が汚染されて健康被害につながるおそれがある。
【0420】
これに対し、本実施形態においては、剥離剤20が保持体282に向かって低圧で塗布される。よって、本実施形態によれば、剥離剤20がミスト状に飛散しないため、周辺環境が汚染され難くなり、そのミスト状の剥離剤20による作業員および作業環境への悪影響が著しく軽減される。
【0421】
さらに、本実施形態によれば、剥離剤20のミストが高圧で保持体282に射出されることはないから、保持体282を作業台上においていちいち治具を用いて位置決めしなくても、剥離剤20の低圧での塗布中に保持体282の位置がずれずに済む。
【0422】
その結果、本実施形態によれば、剥離剤20を塗布する作業が容易になるという利点が得られる。
【0423】
第4の利点
【0424】
剥離剤20は保持体282内に留置される状態において、保持体282が標的塗膜に押し付けられると、そのときに作用する外力により剥離剤20が保持体282内を局所的に流動することがあったとしても、全体としては、留置されたことが確認された。これは、保持体282を構成する複数本の繊維のそれぞれの表面に剥離剤20がしっかり絡み合っていることを意味し、その強固な絡み合いも、剥離剤20が発泡化されたことに起因すると推測される。
【0425】
第5の利点
【0426】
本実施形態においては、剥離剤20が保持体282に良好に含浸させられて成る剥離剤保護層280の背後に乾燥防止層としての保護層300が一体型ラッピングシートとして被覆されて層状複合体270(1枚のシート)として一体化させられる。
【0427】
そして、本実施形態によれば、その層状複合体270を標的塗膜に貼り付けるだけで、剥離剤20が標的塗膜に間接的に塗布されることと、その塗布された剥離剤20の乾燥が防止されることとの双方が一気に実現される。
【0428】
本発明者による試験の結果、本実施形態によれば、保持体282への剥離剤20の塗布作業およびその剥離剤20の乾燥揮発防止のためのラッピング作業がより容易になり、剥離剤20の剥離効率が向上するとともに、標的被膜に対する塗布および剥離剤20に対するラッピングが最適化されるため、剥離剤20が標的塗膜に安定的に密着して剥離剤20の剥離効果が持続し、その剥離効果が向上することが確認された。
【0429】
第6の利点
【0430】
剥離剤20の発泡は、剥離剤20にエアバブルを注入することによってではなく、第1実施形態と同様に、剥離剤20をエアレス噴霧し、剛体面(図示しないが、例えば、作業台など)上に支持されている保持体282に衝突させ、その衝突によって剥離剤20が保持体28内の空間内で発泡化する。
【0431】
具体的には、第1実施形態と同様に、剥離剤20がエアレススプレーガン50を用いたエアレス噴霧によって複数の液滴に分断され、その後、各液滴が保持体282、具体的には、保持体282内の繊維(前述の「内部組織」の一例。保持体282が多孔質材料製である場合には、例えば細孔壁が該当する。)と衝突して微細化し、それにより、剥離剤20の液滴の総数が増加する。
【0432】
その結果、それら液滴全体としての表面積すなわち静止空気との接触面積が増加する。それにより、それら液滴が、保持体282内の繊維間隙間内で泡状化して多数の泡(エアバブル)に転化し、やがて、剥離剤20は多数の泡の集まりとして保持体282内に投錨されて閉じ込められることになる。
【0433】
このように、剥離剤20の液滴が保持体282の内部で発泡化する場合には、その保持体282の表面に存在する各細孔の開口面積より大きいエアバブルが保持体282の内部に存在し得るのに対し、剥離剤20の液滴が保持体282の外部で発泡化する場合には、その保持体282の表面に存在する各細孔の開口面積より大きいエアバブルが保持体282の内部に進入できないから、当然に、内部に存在し得ない。
【0434】
よって、剥離剤20の液滴が保持体282の内部で発泡化する場合には、剥離剤20の液滴が保持体282の外部で発泡化する場合より、剥離剤20が保持体282の内部組織に投錨または係留され、それにより、剥離剤20がより強固に保持体282内に閉じ込められて留置されると推測される。
【0435】
第7の利点
【0436】
上述のように、本実施形態においては、剥離剤20が保持体282内に、その剥離剤20の物性に依存して留置されるという要因より、その剥離剤20の発泡構造すなわち多数のエアバブルの集まりという構造自体に依存して留置されるという要因が強いと推測される。
【0437】
よって、本実施形態によれば、剥離剤20の留置性が、その剥離剤20の粘性などの物性および保持体282の繊維密度などの物性に対して強い特異性または依存性を示さずに済み、その結果、剥離剤20と保持体282との複数の組合せの広範囲にわたり、任意の剥離剤20と任意の保持体282とが適合性を有することになると推測される。
【0438】
したがって、本実施形態によれば、剥離剤20と保持体282との組合せを選択する際の自由度が向上し、作業者は、剥離剤留置性という事情より他の事情を優先させて、剥離剤20と保持体282との組合せを選択することが可能となると推測される。
【0439】
<剥離剤20の発泡し易さに影響を及ぼす要因>
【0440】
剥離剤20は、前述のように、界面活性剤を含有している。比較例として、本発明者は、界面活性剤を含有していない他社の剥離剤をエアレス噴霧したところ、その剥離剤は発泡しなかったことを確認した。よって、剥離剤20発泡度(発泡し易さを表す指標)に影響を及ぼす要因として、界面活性剤が存在することが確認された。
【0441】
図17は、本実施形態に従うエアレス間接塗布型湿式剥離方法の一例を示す工程図である。
【0442】
まず、ステップS501において、準備工程が実行される。
【0443】
この準備工程S501は、概略的に説明するに、剥離剤保持層280と、保護層300と、剥離層310とより成る層状複合体270(「湿式剥離用シート状構造体」の一例)を準備する工程である。
【0444】
剥離剤保持層280は、それ自身、粘着性を有するから、それの両面にそれぞれ保護層300および剥離層310が剥離可能に粘着し、それら3つの層の積層により、層状複合体270が可撓性を有するものとして製作される。
【0445】
この準備工程S501は、具体的には、4つの工程を有している。
【0446】
ステップS1-1は、決定工程であり、これは、作業者が、既存塗膜のうちの少なくとも一部を標的塗膜として決定する工程である。
【0447】
後続するステップS1-2は、目標設定工程であり、これは、作業者が、保持体282の目標平面視形状を、前記決定された標的塗膜の平面視形状に適合するように設定する工程である。
【0448】
後続するステップS1-3は、裁断工程であり、これは、作業者が、
図19に例示するように、前記決定された目標平面視形状と実質的に一致する形状を有するように保持体282をカッタなどの切断具を用いて板状のブランク材290から裁断する工程である。そのブランク材290は、保持体282と材質および板厚が同じものである。
【0449】
後続するステップS1-4は、含浸工程である。
【0450】
この工程は、
(1)作業者が、保持体282の裁断と同様にして、保持体282と実質的に同じまたはそれより大きい(例えば、保持体282との寸法比で約10%または約20%を超えない範囲で保持体282より大きい)形状を有するように板状の第2ブランク板(保護層300と材質および板厚が同じブランク板)から保護層300を裁断する工程と、
(2)作業者が、作業台上に保護層300を平面展開状態で載置する工程と、
(3)作業者が、その保護層300の上に保持体282を位置合わせして載置する工程と、
(4)作業者が、保持体282を標的にして、剥離剤20をエアレススプレーガン50を用いてエアレス噴霧して複数の液滴に分断して保持体282に衝突させ、それにより、各液滴を保持体282内において泡状化し、それにより、剥離剤20が保持体282に発泡状態で含浸させられてその保持体282内に保持される剥離剤保持層280を製作する工程と、
(5)作業者が、それら剥離剤保持層280と保護層300との積層体に剥離層310を剥離剤保持層280の面において重ね合わせることにより、層状複合体270を製作する工程と
を有する。
【0451】
ここに、剥離層310は、保持体282と同じ形状を有するように裁断したり、保持体282より小さくはない形状であって、その保持体282の形状の如何を問わず、同一の形状を有するものとして裁断することが可能である。
【0452】
さらに、剥離層310は、層状複合体270を製作するに当たり不可欠なものではなく、標的塗膜への貼付け前の段階において剥離剤保持層280の乾燥(有効成分の放散・喪失)を懸念することが不要である場合には、保護層300上に剥離剤保持層280を形成した後にその剥離剤保持層280上に剥離層310を被覆することは不要である。
【0453】
この準備工程S501の実行後、ステップS502において、貼付け工程が実行される。
【0454】
この工程は、
(1)作業者が、
図18(b)に例示するように、剥離層310を層状複合体270から剥離する工程と、
(2)作業者が、同図(c)に例示するように、剥離剤保持層280のうち、剥離層310の剥離によって露出した面(前述の第1の片面)において標的塗膜に接触するように、層状複合体270を標的塗膜に貼り付け、それにより、剥離剤20を標的塗膜に間接的に塗布する工程と
を有する。
【0455】
この準備工程S501は、
図8の工程図においては、S301およびS302に対応する。
【0456】
この貼付け工程S502の実行後、ステップS503において、
図18(c)に例示するように、固定化工程が実行される。
【0457】
この工程は、
(1)作業者が、構造物12のうち標的塗膜の周辺に位置する1または複数の周辺部材101を利用することによって固定化部材120を位置決めし、その固定化部材120により、剥離剤保持層280および保護層300をそれらの背後から標的塗膜に押し付け、それにより、剥離剤保持層280を標的塗膜に固定化する工程(前述の第1実施形態と同様に、低剛性高可撓性シート体としての保護層300を、別部材としての高剛性低可撓性シート体(例えば、前述のプラ段110)を介して、局所押付け式(例えば、前述の突き当たり式)の固定化部材(例えば、固定化部材120)によって背後から押し付けて保護層200の全面を剥離剤保持層280の全面に実質的に均一な面圧のもとに押し付けてもよい。)と、
(2)作業者が、
図11(e)に例示するように、粘着テープ124を用いて固定化部材120を構造物12に固定化する工程と、
(3)作業者が、
図20および
図21に例示するように、アプリケータ180を用いることにより、剥離剤保持層280およびそれの背後に位置する保護層300を構造物12の突起部182回りにおいて標的塗膜に局所的に弾性的に密着させる工程と
を有する。
【0458】
この固定化工程S503は、
図8の工程図においては、S304-S307に対応する。
【0459】
この固定化工程S503の実行後、ステップS504において、静置工程が実行される。
【0460】
この工程は、作業者が、剥離剤保持層280および保護層300を、
図18(c)に例示する状態で、剥離剤保持層280内の剥離剤20が標的塗膜に浸透してその標的塗膜が目標の膨潤軟化状態に達するまで静置する工程である。
【0461】
この静置工程S504の実行後、ステップS505において、除去工程が実行される。
【0462】
この工程は、作業者が、まず、粘着テープ124を構造物12から除去し、次に、固定化部材120を剥離剤保持層280から除去し、続いて、剥離剤保持層280および保護層300を構造物12から除去する工程である。
【0463】
図20は、
図21と共同して、
図17におけるステップS503のうちの輪ゴム198での局所密着化を時系列的に説明するための側面図である。
【0464】
具体的には、
図20(a)は、突起部182と平面部184とを有する構造物12のうちのその突起部182回りに層状複合体260が装着されることによって剥離剤20が間接塗布されると同時にラッピングシートとしての保護層300が付着される様子の一例を示す側面図である。
【0465】
同図(b)は、アプリケータ180であって輪ゴム198が待機させられたものが突起部182に正面から接近させられる様子の一例を示す側面図である。
【0466】
同図(c)は、アプリケータ180が平面部184に突き当たるかまたはその直前のタイミングで、アプリケータ180の先端部190の先端192によって層状複合体270が平面部184に押し付けられ、それに伴い、先端192によって層状複合体270が突起部182回りにおいて(特に、突起部182のうち、同図においてナットから突出したボルトの先端部など)引き込まれて突起部182に接近または接触させられるとともに、アプリケータ180において輪ゴム198が待機位置から発射位置に向かって前進する様子の一例を示す側面図である。
【0467】
図21(d)は、アプリケータ180から輪ゴム198が発射されてその輪ゴム198が層状複合体270を突起部182回りに弾性的に包囲して圧迫する様子の一例を示す側面図である。同図において、最下端に位置する輪ゴム198は、先端部190の先端192にちょうど位置し、アプリケータ180から発射直前の状態にある。
【0468】
同図(e)は、アプリケータ180が、輪ゴム198を突起部182回りに留置したまま、その突起部182から退避する様子の一例を示す側面図である。
【0469】
一例においては、上述の間接塗布法が既存塗膜14の全域について一律に適用される。別の例においては、複数種類の剥離剤付着方式が適材適所で選択される。
【0470】
後者の例においては、具体的には、例えば、既存塗膜14が、剥離剤20を直接塗布した場合にその剥離剤20に液垂れが発生し易い第1領域R1(例えば、突起部182、角度急変部、下向き面、垂直面、傾斜面、曲率半径が基準値より小さい曲面部など)と発生し難い第2領域R2(例えば、平面部184、水平上面、曲率半径が前記基準値以上である曲面部など)とに区分される。
【0471】
さらに、第1領域R1については間接塗布法が、第2領域R2については前述の直接塗布法が適用されるというように、2種類の剥離剤付着方式が適材適所で選択される。これは、複数種類の剥離剤付着方式が併用される併用式である。
【0472】
前述のいくつかの実施形態または実施例についての詳細な事項は、特許請求の範囲の解説を目的として与えられたものであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。本発明についての少ない数の具体例しか上記の説明において文章によって詳細に説明されていないが、当業者であれば、前述の新規な教示事項および本発明の利点から実質的に逸脱することなく、それら具体例において多くの変形例が存在することが容易に理解される。例えば、一具体例に関連して説明された複数の特徴は、全体的にであるか部分的にであるかを問わず、本発明についての他の任意の具体例に合体されてもよい。
【0473】
したがって、すべてのこの種の変形例は、本発明の範囲内に包含されるように意図されており、本発明の範囲は、後続する特許請求の範囲およびそれに対するすべての均等物において定義される。さらに、多くの具体例がいくつかの具体例、特に前述の望ましい具体例の利点のすべてを達成するわけではないものとして想定されており、特定の利点が存在しないことが必ずしも、該当する具体例が本発明の範囲内に存在しないことを意味しない。様々な変更を本発明の範囲から逸脱することなく前述の範囲内において行うことが可能であるから、発明の詳細な説明の欄に含まれるすべての事項は、特許請求の範囲の解説を行うものとして、かつ、限定を行うという意味ではないものとして解釈される。