(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175400
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】燕窩を含む脾臓肥大化抑制剤
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20241211BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241211BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20241211BHJP
A61K 35/57 20150101ALI20241211BHJP
A23K 20/147 20160101ALI20241211BHJP
【FI】
A23L33/10
A61P43/00 105
A61P37/08
A61K35/57
A23K20/147
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093168
(22)【出願日】2023-06-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 公開A 開催日:令和4年12月4日 集会名:第20回日本機能性食品医用学会総会 公開B 掲載日:令和4年10月 掲載アドレス:http://www.jsmuff.com/soukai2022/?page_id=27 公開C 発行日:令和4年11月15日 刊行物名:機能性食品と薬理栄養、Vol.16、No.3(通巻93号)、第192頁
(71)【出願人】
【識別番号】513266962
【氏名又は名称】株式会社G-Foods貿易
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 睦行
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 剛
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4C087
【Fターム(参考)】
2B150AB10
2B150DA48
4B018LB01
4B018LB08
4B018LB10
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4C087AA01
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4C087CA03
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZB13
4C087ZB21
(57)【要約】
【課題】効果的な脾臓肥大化抑制剤又は食物アレルギー反応抑制剤の提供。
【解決手段】本発明は、燕窩を含む、脾臓肥大化抑制剤、又は食物アレルギー反応抑制剤に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレルギー反応に伴う脾臓肥大化を抑制するための、燕窩を含む、脾臓肥大化抑制剤。
【請求項2】
アレルギー反応が、食物アレルギー反応である、請求項1に記載の脾臓肥大化抑制剤。
【請求項3】
食物アレルギー反応が、鶏卵に対する食物アレルギー反応である、請求項2に記載の脾臓肥大化抑制剤。
【請求項4】
経口投与用の、請求項1に記載の脾臓肥大化抑制剤。
【請求項5】
食物アレルギー反応におけるアレルゲンへの感作を抑制するための、燕窩を含む、食物アレルギー反応抑制剤。
【請求項6】
食物アレルギー反応が、鶏卵に対する食物アレルギー反応である、請求項5に記載の食物アレルギー反応抑制剤。
【請求項7】
経口投与用の、請求項5に記載の食物アレルギー反応抑制剤。
【請求項8】
食物アレルギーを発症するリスクを低減するための、請求項5に記載の食物アレルギー反応抑制剤。
【請求項9】
アレルギー反応に伴う脾臓肥大化を抑制するための、及び/又は食物アレルギー反応におけるアレルゲンへの感作を抑制するための、燕窩を含む飲食品。
【請求項10】
アレルギー反応に伴う脾臓肥大化を抑制するための、及び/又は食物アレルギー反応におけるアレルゲンへの感作を抑制するための、燕窩を含む飼料。
【請求項11】
アレルギー反応に伴う脾臓肥大化を抑制するための、及び/又は食物アレルギー反応におけるアレルゲンへの感作を抑制するための、燕窩を含む医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燕窩を含む、脾臓肥大化抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギーは、GellとCoombsの分類法により大きく4つの型(I~IV型)に分類される。これらのうちI型アレルギーは、免疫グロブリンE(IgE)依存性のアレルギーであり、アレルゲンが体内に侵入してから比較的短時間に症状が現れるため、即時的アレルギーとも称される。
【0003】
I型アレルギー反応は、感作が成立する感作相の反応と、症状が惹起される惹起相の反応からなる。感作相では、体内に侵入したアレルゲンに特異的なIgEが産生され、体中の組織(血管周囲、皮膚、皮下組織、肺、消化管、肝臓、脾臓等)に広く存在する肥満細胞の表面上のIgE受容体に結合し、感作が成立する。惹起相では、感作が成立したアレルゲンが再度体内に侵入し、肥満細胞上のアレルゲン特異的IgEにアレルゲンが結合し、それによってヒスタミンやロイコトリエン等の炎症性メディエーターが肥満細胞から放出され、アレルギー症状が惹起される。
【0004】
食物アレルギーは、一般的にI型アレルギーに分類される。食物アレルギーのアレルゲンは主にタンパク質であり、小麦、大豆、鶏卵、牛乳、甲殻類、果物、そば、魚類、ピーナッツ等の様々な食品に対するアレルギーが報告されている。食物アレルギーの中では特に鶏卵アレルギーの割合が多く、0歳児では食物アレルギー患者の50%以上が鶏卵アレルギーと言われている。
【0005】
食物アレルギー患者は近年増加傾向にあり、日本では、全人口の1~2%の人々が何らかの食物アレルギーを有していると言われている。食物アレルギーの有病率は特に乳幼児において高く、5~10%であるが、乳幼児の食物アレルギーは成長に伴い耐性を獲得することにより自然に治ることがあるのに対し、大人の食物アレルギーは、耐性を獲得しにくく、原因食品の継続的な除去が必要な場合が多い。
【0006】
食物アレルギーの症状は、皮膚、呼吸器、粘膜、消化器、又は神経等に現れるが、これらの症状が複数の臓器にわたり全身に現れる状態であるアナフィラキシーは生命に危機を与える場合がある。
【0007】
現在、この現代病というべき食物アレルギーに対しては、経口免疫負荷療法等の治療が行われているが、必ずしも満足いく結果は得られていない。また、アレルギー症状を改善する薬剤として抗ヒスタミン薬等が使用されているが、抗ヒスタミン薬は眠気等の副作用を有する。したがって、食物アレルギーをはじめとするアレルギーを抑制することができる物質がさらに求められている。
【0008】
また、食物アレルギー等のアレルギーは、脾臓の肥大化を伴う場合がある。脾臓の肥大化は、胃を圧迫することによる食欲低下、膨満感、腹痛、背部痛等の症状をもたらす場合があるが、これまでに脾臓の肥大化を抑制する作用を有する物質は見つかっていない。したがって、脾臓の肥大化を抑制する物質も必要とされている。
【0009】
一方、燕の巣(漢方では燕窩(えんか)と称される。)は、アマツバメ目アマツバメ科のトリ(通常東南アジアに生息する)が、洞穴(窩)等に唾液腺から分泌する粘膜物質から作る巣であり、古くから薬膳料理の高級食材としてスープやデザートに使用されている。
【0010】
Halimiら(非特許文献1)によると、市販されている燕窩は、水分約16重量%、タンパク質約58重量%、脂質約1重量%、灰分約3重量%、及び炭水化物約22重量%であり、タンパク質を構成し得る主なアミノ酸は、グルタミン酸(9.6重量%)、アスパラギン酸(6.3重量%)、リジン(5.4重量%)及びロイシン(5.3重量%)である。
【0011】
漢方としての燕窩は、中医学書の本草綱目拾遺によると「味甘淡平,大養肺陰,化痰止咳,補而能清,為調理虚損労療之聖薬」と記載されており、補中益気の効能があるとされ、主に疲労回復、肺結核、慢性下痢、胸のつかえ、或いは吐き気等に有効とされている。特許文献1には、例えば、燕窩の酵素分解物が美肌促進作用を有することが記載されている。
【0012】
しかしながら、燕窩の作用は未だ十分に解明されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Nurfatin Mohd Halimi et al., 2014, AIP Conf. Proc., 1614, 476-481
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、効果的な脾臓肥大化抑制剤又は食物アレルギー反応抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、燕窩が、アレルギー反応に伴う脾臓の肥大化及びアレルゲン特異的IgEの産生を抑制することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] アレルギー反応に伴う脾臓肥大化を抑制するための、燕窩を含む、脾臓肥大化抑制剤。
[2] アレルギー反応が、食物アレルギー反応である、[1]に記載の脾臓肥大化抑制剤。
[3] 食物アレルギー反応が、鶏卵に対する食物アレルギー反応である、[2]に記載の脾臓肥大化抑制剤。
[4] 経口投与用の、[1]~[3]のいずれかに記載の脾臓肥大化抑制剤。
[5] 食物アレルギー反応におけるアレルゲンへの感作を抑制するための、燕窩を含む、食物アレルギー反応抑制剤。
[6] 食物アレルギー反応が、鶏卵に対する食物アレルギー反応である、[5]に記載の食物アレルギー反応抑制剤。
[7] 経口投与用の、[5]又は[6]に記載の食物アレルギー反応抑制剤。
[8] 食物アレルギーを発症するリスクを低減するための、[5]~[7]のいずれかに記載の食物アレルギー反応抑制剤。
[9] アレルギー反応に伴う脾臓肥大化を抑制するための、及び/又は食物アレルギー反応におけるアレルゲンへの感作を抑制するための、燕窩を含む飲食品。
[10] アレルギー反応に伴う脾臓肥大化を抑制するための、及び/又は食物アレルギー反応におけるアレルゲンへの感作を抑制するための、燕窩を含む飼料。
[11] アレルギー反応に伴う脾臓肥大化を抑制するための、及び/又は食物アレルギー反応におけるアレルゲンへの感作を抑制するための、燕窩を含む医薬品。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、アレルギー反応に伴う脾臓の肥大化、又は食物アレルギー反応におけるアレルゲンへの感作を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、燕窩を添加していない飼料又は燕窩を添加した飼料を与えて飼育したマウスに生理食塩水又はOVAを投与した場合のマウスの脾臓重量を示すグラフである。
【
図2】
図2は、燕窩を添加していない飼料又は燕窩を添加した飼料を与えて飼育したマウスに生理食塩水又はOVAを投与した場合の血漿総IgE濃度を示すグラフである。
【
図3】
図3は、燕窩を添加していない飼料又は燕窩を添加した飼料を与えて飼育したマウスに生理食塩水又はOVAを投与した場合の血漿OVA特異的IgE濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明は、燕窩のアレルギー反応又はそれに関連する病的状態の抑制用途に関する。本発明は特に、燕窩の脾臓肥大化抑制用途及び食物アレルギー反応抑制用途に関する。
【0022】
(1) 脾臓肥大化抑制剤
本発明は、燕窩を含む、脾臓肥大化抑制剤(以下、「本発明の脾臓肥大化抑制剤」とも称する)に関する。本発明の脾臓肥大化抑制剤は、特に、アレルギー反応に伴う脾臓肥大化を抑制するためのものであり得る。
【0023】
本明細書において、「燕窩」とは、アマツバメ目(Apodiformes)アマツバメ科(Apodidae)のトリ(アマツバメ)が唾液腺から分泌する粘膜物質から作る巣(いわゆる「燕の巣」)を意味する。燕窩は好ましくは食用である。食用の燕窩を作るアマツバメ目アマツバメ科のトリとしては、例えば、Aerodramus属のトリ、例えばジャワアナツバメ(Aerodramus fuciphagus)及びオオアナツバメ(Aerodramus maximus)等が挙げられる。
【0024】
燕窩は、天然洞窟で採取されたものであってもよいし、人工的なハウス等における管理養殖によって得られたものであってもよい。燕窩は、巣の全体であってもよく、又は巣の一部であってもよい。
【0025】
燕窩は、例えば、洗浄処理、浸漬処理、羽毛除去処理、成型処理、乾燥処理、破砕処理、若しくは殺菌処理(滅菌処理を含む)、又はこれらの任意の組み合わせを行った燕窩であってもよい。燕窩の洗浄処理、浸漬処理、羽毛除去処理、成型処理、乾燥処理、破砕処理、殺菌処理は、通常の方法により行うことができる。燕窩の洗浄処理は、例えば水で燕窩を洗浄することにより行うことができる。燕窩の浸漬処理は、例えば燕窩を水に浸漬することにより行うことができる。燕窩の成型処理は、例えば、燕窩を金型又は非金属型に入れることにより行うことができる。成型処理の際には、成型用の添加剤を用いてもよい。燕窩の乾燥処理は、天日により乾燥させる方法や乾燥機により乾燥させる方法により行うことができ、例えば凍結乾燥処理、常圧乾燥処理、加熱乾燥処理、又は真空乾燥処理であってもよい。燕窩の破砕処理は、例えば、インパクトクラッシャー、カッターミル、ボールミル、ローラーミル、ジェットミル、ハンマーミル、又はピンミルにより燕窩を粉砕することにより行うことができる。燕窩の殺菌処理は、例えば加熱殺菌処理(例えば煮沸殺菌処理、乾熱殺菌処理)、加圧殺菌処理、過熱蒸気処理、殺菌剤(例えば次亜塩素酸ナトリウム等)による殺菌処理、又は電磁波(例えばγ線、X線、紫外線等)による殺菌処理であってもよい。燕窩は、糖鎖を分解するための処理(例えば酵素処理又は加水分解処理)を行っていない燕窩であってもよい。
【0026】
燕窩は市販されており、例えば株式会社G-Foods貿易から入手することができる。市販の燕窩は通常、採取後に不純物を除去して水で洗浄し、水に浸漬し、羽毛を取り、場合によって成型用の添加剤を加えて成型処理を行い、乾燥処理を行った燕窩である。
【0027】
添加剤を加えていない燕窩は、例えば、水分10~20重量%、タンパク質50~70重量%、脂質0~5重量%、灰分0~10重量%、及び炭水化物15~30重量%を含むもの、例えば、水分13~15重量%、タンパク質59~61重量%、脂質0~2重量%、灰分2~4重量%、及び炭水化物21~23重量%を含むものであり得る。添加剤を加えていない燕窩は、例えば、グルタミン酸3~15重量%、アスパラギン酸0~10重量%、リジン0~10重量%、ロイシン0~10重量%を含むもの、例えば、グルタミン酸4~5重量%、アスパラギン酸5~6重量%、リジン2~3重量%、ロイシン4~5重量%を含むものであり得る。添加剤を加えていない燕窩はまた、糖鎖の形態のN-アセチルノイラミン酸を8~12重量%含み得る。
【0028】
後述の実施例に示すように、燕窩は脾臓肥大化抑制作用、特にアレルギー反応に伴う脾臓肥大化を抑制する作用を有する。そのため、燕窩は、脾臓肥大化抑制剤、特にアレルギー反応に伴う脾臓肥大化を抑制するための脾臓肥大化抑制剤の有効成分として用いることができる。
【0029】
最近の研究では、食物アレルギーの発生時、脾臓において前駆細胞から肥満細胞への分化及び肥満細胞の著しい増殖が起こることが示唆されている(Shota Toyoshima et al., 2017, International Immunology, Vol. 29, No. 1, pp. 31-45)。したがって、理論に縛られないが、燕窩は、脾臓における肥満細胞の増殖を抑制することによって上述の脾臓肥大化抑制作用を示すと考えられる。
【0030】
本明細書において、「脾臓」は、リンパ球の産生、老化した赤血球の破壊と除去、白血球及び血小板等の血液成分の貯蔵、乳幼児期の血球産生といった機能を有する臓器である。脾臓は、抗原特異的T細胞応答及びB細胞による抗体産生が起こる組織の1つであり、脾臓での免疫応答はアレルギーの発症にも重要な役割を果たすことが知られている。
【0031】
本明細書において、「脾臓肥大化」は、脾臓重量又は脾臓体積の増大を意味する。脾臓肥大化は、アレルギー反応に伴う脾臓肥大化、例えばアレルギー反応による脾臓肥大化であってもよい。脾臓肥大化は、正常時(例えばアレルギー反応が生じていない時)の脾臓重量又は脾臓体積に対する脾臓重量又は脾臓体積の増大であり得る。
【0032】
本明細書において「アレルギー」とは、特定の抗原に対する免疫系の異常な反応に基づく全身的又は局所的な障害を意味する。本明細書において「アレルギー反応」とは、特定の抗原に対する免疫系の異常な反応を意味する。
【0033】
本明細書において、「アレルゲン」とは、アレルギーの原因となる抗原を意味する。アレルゲンは、例えば、経口、経粘膜、経気道、経皮、経静脈等の経路により体内に侵入するアレルゲンであり得る。アレルゲンはタンパク質であってもよい。アレルゲンは、例えば、ほこり、カビ、ダニ、花粉、食物、ハチ毒等に含まれるアレルゲンであり得るが、好ましくは、食物に含まれるアレルゲン(即ち、食物アレルゲン)であり得る。食物アレルゲンとしては、例えば、小麦、大豆、鶏卵、牛乳、甲殻類、果物、そば、魚類、ピーナッツ等の食物に含まれるタンパク質、例えば、プロラミン(例えば、グリアジン等)、グルテニン、卵白アルブミン(例えば、ニワトリ卵白アルブミン等)、オボムコイド、オボトランスフェリン、リゾチーム、カゼイン、βラクトグロブリン、トロポミオシン、PR-10(Pathogenesis-related protein-10)、プロフィリン、バルブアルブミン等が挙げられる。
【0034】
本明細書において、アレルギー反応は、例えば、食物アレルゲンに対するアレルギー反応(食物アレルギー反応)、例えば、鶏卵に対する食物アレルギー反応であってもよい。アレルギー反応は、例えば、ニワトリ卵白アルブミン等の卵白アルブミンに対する食物アレルギー反応であってもよい。
【0035】
後述の実施例に示すように、脾臓肥大化抑制効果は、例えば、脾臓重量を指標として判定することができる。例えば、被験物質(燕窩又は本発明の脾臓肥大化抑制剤)を添加した又は添加していない飼料の摂取下でマウスを約3週間飼育した後、アレルゲン(例えば卵白アルブミン)を含む又は含まない生理食塩水をマウスに腹腔内投与する。その後約2週間後にマウスを解剖して脾臓重量を測定する。(以下、被験物質を摂取せずアレルゲンを投与されなかったマウスを「被験物質非摂取アレルゲン非投与マウス」、被験物質を摂取せずアレルゲンを投与されたマウスを「被験物質非摂取アレルゲン投与マウス」、被験物質を摂取しアレルゲンを投与されなかったマウスを「被験物質摂取アレルゲン非投与マウス」、被験物質を摂取しアレルゲンを投与されたマウスを「被験物質摂取アレルゲン投与マウス」と称する場合もある。)Newman-Keusの多重比較による統計解析の結果、被験物質非摂取アレルゲン非投与マウスの脾臓重量に対し被験物質非摂取アレルゲン投与マウスの脾臓重量が有意に増加しているが、被験物質摂取アレルゲン非投与マウスの脾臓重量に対し被験物質摂取アレルゲン投与マウスの脾臓重量が有意に増加していない場合には、被験物質は脾臓肥大化抑制効果(特にアレルギー反応に伴う脾臓肥大化を抑制する効果)を有すると判定できる。
【0036】
脾臓の肥大化は、胃を圧迫することによる食欲低下、膨満感、腹痛、背部痛等の症状をもたらし得る。したがって、本発明の脾臓肥大化抑制剤は、例えば、脾臓の肥大化によりもたらされる症状(胃を圧迫することによる食欲低下、膨満感、腹痛、背部痛等)の発症の予防又は軽減のために使用し得る。
【0037】
また、脾臓の肥大化が進行すると、脾臓への血液供給が不足し、十分な血液が供給されなくなった部分が損傷を受け、出血や壊死を起こすことがあるが、これは脾臓の機能低下、ひいては細菌又はウイルス感染に対する防御能力の低下をもたらし得る。したがって、本発明の脾臓肥大化抑制剤はまた、脾臓の肥大化によりもたらされる脾臓の機能低下の予防又は軽減のために使用し得る。
【0038】
本発明の脾臓肥大化抑制剤はまた、添加剤(例えば、担体(固体や液体担体など)、賦形剤、希釈剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑走剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、甘味剤、着色剤、乳化剤、界面活性剤、可溶化剤、懸濁化剤、保存剤、緩衝剤、pH調整剤)等をさらに含んでもよい。添加剤としては、例えば、二酸化チタン、ラクトース、マンニトール、デキストリン、食物繊維、タルク、ゼラチン、澱粉、セルロース及びその誘導体、砂糖、アスコルビン酸、クエン酸、ポリエチレングリコール、グリセリン、動物及び植物油脂等が挙げられる。本発明の脾臓肥大化抑制剤は、燕窩に加え、他の薬理活性を有する薬理成分を含んでもよい。本発明の脾臓肥大化抑制剤は、組成物であってもよい。
【0039】
本発明の脾臓肥大化抑制剤は、任意の投与経路で投与すればよいが、例えば、経口的に投与することができる。好ましい実施形態では、本発明の脾臓肥大化抑制剤は、経口投与用であり得る。
【0040】
本発明の脾臓肥大化抑制剤の投与の対象(被験体)としては、ヒト、家畜(ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等)、愛玩動物(イヌ、ネコ、ウサギ等)、実験動物(マウス、ラット、サル等)等を含む任意の哺乳動物を挙げることができるが、好ましくはヒトである。本発明において、対象は、幼体であってもよく、成体であってもよい。対象はまた、オスであってもよく、メスであってもよい。対象は、食物アレルギーを発症するリスクが高い対象であってもよい。食物アレルギーを発症するリスクが高い対象としては、例えば、食物アレルギーの遺伝的又は環境的素因を有する対象、アレルギーの既往歴を有する対象等が挙げられる。
【0041】
本発明の脾臓肥大化抑制剤は、その投与経路や対象の年齢、体重、症状等の種々の要因を考慮して、その投与量または摂取量を適宜設定することができる。
【0042】
本発明の脾臓肥大化抑制剤は、有効量の燕窩を含み得る。本発明の脾臓肥大化抑制剤は、例えば、燕窩を0.01重量%~99.99重量%、例えば、0.1重量%~90重量%、0.1重量%~50重量%、0.1重量%~10重量%、0.1重量%~5重量%、又は0.5重量%~5重量%含み得る。
【0043】
本発明の脾臓肥大化抑制剤は、単回投与してもよく、数時間~数か月の間隔で複数回投与してもよい。
【0044】
(2) 食物アレルギー反応抑制剤
上述の通り、燕窩は、アレルギー反応に伴う脾臓における肥満細胞の増殖を抑制することができると考えられる。また、後述の実施例に示すように、燕窩は、アレルゲン特異的IgEの産生を抑制することもできる。
【0045】
このような燕窩の作用(脾臓における肥満細胞の増殖の抑制や、アレルゲン特異的IgEの産生の抑制)は、肥満細胞が関与するIgE依存性のI型アレルギー反応である食物アレルギー反応の抑制をもたらすため、燕窩は食物アレルギー反応抑制剤の有効成分としても使用し得る。したがって、本発明は、燕窩を含む、食物アレルギー反応抑制剤(以下、「本発明の食物アレルギー反応抑制剤」とも称する。)をも提供する。
【0046】
本発明の食物アレルギー反応抑制剤において、「燕窩」、「食物アレルギー反応」との用語の意味は、「(1) 脾臓肥大化抑制剤」に記載した通りである。本発明の食物アレルギー反応抑制剤において、食物アレルギー反応は、特に限定されないが、例えば、鶏卵に対する食物アレルギー反応であってもよい。食物アレルギー反応はまた、ニワトリ卵白アルブミン等の卵白アルブミンに対する食物アレルギー反応であってもよい。本発明の食物アレルギー反応抑制剤において、食物アレルギー反応は、特にI型アレルギー反応、即ち即時型食物アレルギー反応である。
【0047】
本明細書において、「I型アレルギー」とは、GellとCoombsの分類法によりI型に分類されるアレルギーを意味する。I型アレルギーは、IgE依存性のアレルギーであり、アレルゲンが体内に侵入してから比較的短時間(1時間未満)に症状が現れるため、即時型アレルギーとも称される。I型アレルギーの症状は、皮膚、呼吸器、粘膜、消化器、又は神経等に現れ得る。I型アレルギーの症状は、典型的には以下の通りである。
皮膚症状:かゆみ、じんましん、むくみ、発赤、湿疹等
呼吸器症状:くしゃみ、鼻水、鼻づまり、咳、息苦しさ、喘鳴等
粘膜症状:目の充血又は腫れ、涙、かゆみ、口の中、唇、又は舌の違和感又は腫れ等
消化器症状:下痢、吐き気・嘔吐、血便等
神経症状:頭痛、元気がなくなる、意識もうろうとなる等
【0048】
I型アレルギー反応は、感作が成立する感作相の反応と、症状が惹起される惹起相の反応からなる。感作相の反応は、アレルゲンの体内への侵入からアレルゲンへの感作の成立までの一連の反応、具体的には、樹状細胞によるアレルゲンの取り込みと取り込んだアレルゲンのT細胞への提示、活性化したT細胞とB細胞の相互作用、B細胞の形質細胞への分化、アレルゲン特異的IgEの産生、アレルゲン特異的IgEの肥満細胞表面上のIgE受容体への結合(即ち、アレルゲンへの感作の成立)等を包含する。惹起相の反応は、感作が成立したアレルゲンの体内への侵入から症状の惹起までの一連の反応、具体的には、肥満細胞上のアレルゲン特異的IgEへのアレルゲンの結合、肥満細胞からのヒスタミンやロイコトリエン等の炎症性メディエーターの放出、アレルギー症状の発症等を包含する。
【0049】
アレルゲン特異的IgEの産生を抑制する本発明の食物アレルギー反応抑制剤は、特に、食物アレルギー反応におけるアレルゲンへの感作を抑制するために使用し得る。本発明の食物アレルギー反応抑制剤において、「アレルゲン」との用語の意味は、「(1) 脾臓肥大化抑制剤」に記載した通りである。本明細書において、「食物アレルギー反応におけるアレルゲンへの感作」とは、アレルゲン特異的IgEが産生され、肥満細胞表面上のIgE受容体に結合している状態を意味する。
【0050】
本明細書において、「食物アレルギー反応抑制」は、食物アレルギー反応を抑制することを意味し、食物アレルギー反応の感作相及び/又は惹起相の反応を抑制することを包含する。
【0051】
後述の実施例に示すように、食物アレルギー反応抑制効果は、例えば、血漿IgE濃度を指標として判定することができる。例えば、被験物質(燕窩又は本発明の食物アレルギー反応抑制剤)を添加した又は添加していない飼料の摂取下でマウスを約3週間飼育した後、アレルゲン(例えば卵白アルブミン)を含む又は含まない生理食塩水をマウスに腹腔内投与する。約2週間後にマウスを解剖して血漿アレルゲン特異的IgE濃度を測定する。t検定による統計解析の結果、被験物質非摂取アレルゲン非投与マウスの血漿アレルゲン特異的IgE濃度に対し被験物質非摂取アレルゲン投与マウスの血漿アレルゲン特異的IgE濃度が有意に増加しているが、被験物質摂取アレルゲン非投与マウスの血漿アレルゲン特異的IgE濃度に対し被験物質摂取アレルゲン投与マウスの血漿アレルゲン特異的IgE濃度が有意に増加していない場合には、被験物質は食物アレルギー反応抑制効果を有すると判定できる。
【0052】
本発明の食物アレルギー反応抑制剤は、例えば、脾臓における肥満細胞の増殖、及び/又はアレルゲン特異的IgEの産生を抑制することによって、食物アレルギー反応におけるアレルゲンへの感作を抑制するためのものであり得る。
【0053】
本発明の食物アレルギー反応抑制剤は、燕窩に加え、他の薬理活性を有する薬理成分を含んでもよい。本発明の食物アレルギー反応抑制剤はまた、添加剤(例えば、担体(固体や液体担体など)、賦形剤、希釈剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑走剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、甘味剤、着色剤、乳化剤、界面活性剤、可溶化剤、懸濁化剤、保存剤、緩衝剤、pH調整剤)等をさらに含んでもよい。添加剤としては、例えば、二酸化チタン、ラクトース、マンニトール、デキストリン、食物繊維、タルク、ゼラチン、澱粉、セルロース及びその誘導体、砂糖、アスコルビン酸、クエン酸、ポリエチレングリコール、グリセリン、動物及び植物油脂等が挙げられる。本発明の食物アレルギー反応抑制剤は、組成物であり得る。
【0054】
本発明の食物アレルギー反応抑制剤の投与の経路、投与の対象、投与量又は摂取量は、本発明の脾臓肥大化抑制剤と同様である。本発明の食物アレルギー反応抑制剤は、例えば、経口投与用であり得る。
【0055】
本発明の食物アレルギー反応抑制剤は、有効量の燕窩を含み得る。本発明の食物アレルギー反応抑制剤は、例えば、燕窩を0.01重量%~99.99重量%、例えば、0.1重量%~90重量%、0.1重量%~50重量%、0.1重量%~10重量%、0.1重量%~5重量%、又は0.5重量%~5重量%含み得る。
【0056】
本発明の食物アレルギー反応抑制剤は、単回投与してもよく、数時間~数か月の間隔で複数回投与してもよい。
【0057】
本発明の食物アレルギー反応抑制剤は、食物アレルギー反応の初期段階であるアレルゲンへの感作を抑制することができることから、食物アレルギーを発症するリスクを低減するため、又は食物アレルギーの発症を予防するために使用することができる。例えば、本発明の食物アレルギー反応抑制剤は、食物アレルギーを有していない対象において、食物アレルギーを発症するリスクを低減するために、又は食物アレルギーの発症を予防するために使用することができる。本発明の食物アレルギー反応抑制剤はまた、あるアレルゲンに対する食物アレルギーを有している対象において、別のアレルゲンに対する食物アレルギーを発症するリスクを低減するために、又は別のアレルゲンに対する食物アレルギーの発症を予防するために使用することもできる。
【0058】
一実施形態では、本発明の食物アレルギー反応抑制剤は、食物アレルギー反応を抑制し、かつ脾臓肥大化を抑制するためのものであり得る。一実施形態では、本発明の食物アレルギー反応抑制剤は、食物アレルギー反応におけるアレルゲンへの感作を抑制し、かつアレルギー反応に伴う脾臓肥大化を抑制するためのものであり得る。
【0059】
(3) 飲食品
燕窩、本発明の脾臓肥大化抑制剤、又は本発明の食物アレルギー反応抑制剤は、飲食品に添加することができる。したがって、本発明は、脾臓肥大化を抑制するための、及び/又は食物アレルギー反応を抑制するための、燕窩、本発明の脾臓肥大化抑制剤、又は本発明の食物アレルギー反応抑制剤を含む飲食品(以下、「本発明の飲食品」とも称する。)をも提供する。
【0060】
燕窩、本発明の脾臓肥大化抑制剤、又は本発明の食物アレルギー反応抑制剤を含む本発明の飲食品は、上述の本発明の脾臓肥大化抑制剤又は本発明の食物アレルギー反応抑制剤と同じ用途に使用することができる。本発明の飲食品は、例えば、アレルギー反応に伴う脾臓肥大化を抑制するための、及び/又は食物アレルギー反応におけるアレルゲンへの感作を抑制するためのものであり得る。本発明の飲食品において、アレルギー反応は、食物アレルギー反応、例えば鶏卵に対する食物アレルギー反応であってもよい。アレルギー反応はまた、例えば、ニワトリ卵白アルブミン等の卵白アルブミンに対する食物アレルギー反応であってもよい。
【0061】
本発明の飲食品は、有効量の燕窩を含み得る。本発明の飲食品は、例えば、燕窩を0.01重量%~99.99重量%、例えば、0.1重量%~90重量%、0.1重量%~50重量%、0.1重量%~10重量%、0.1重量%~5重量%、又は0.5重量%~5重量%含み得る。
【0062】
本発明の飲食品は、飲食品の製造で許容される添加剤(食品添加物;例えば、担体(固体や液体担体など)、賦形剤、希釈剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑走剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、甘味剤、着色剤、乳化剤、界面活性剤、可溶化剤、懸濁化剤、保存剤、緩衝剤、pH調整剤)等をさらに含んでもよい。
【0063】
本発明の飲食品は、加工食品、惣菜、菓子、調味料、飲料等、例えば、ゼリー、プリン、グミ、ガム、飴、果汁飲料、発酵乳、お茶、炭酸飲料の任意の形態であってもよい。本発明の飲食品は、好ましくは、機能性食品であってもよい。
【0064】
本発明において「機能性食品」とは、生体に所定の機能性を付与できる食品をいい、例えば、特定保健用食品(条件付きトクホ[特定保健用食品]を含む)、機能性表示食品、栄養機能食品を含む保健機能食品、特別用途食品、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント(例えば、錠剤、被覆錠、糖衣錠、カプセル、液剤等の各種の剤形のもの)、美容食品(例えば、ダイエット食品)等の、健康食品の全般を包含している。また、本発明において「機能性食品」は、コーデックス(FAO/WHO合同食品規格委員会)の食品規格に基づく健康強調表示(Health claim)が適用される健康食品を包含している。
【0065】
本発明の飲食品は、固体、液体、混合物、懸濁液、ペースト、ゲル、粉末、顆粒、カプセル等の任意の形態に調製されたものであってよい。また、本発明の飲食品は、当業者が利用可能である任意の適切な方法によって、燕窩、本発明の脾臓肥大化抑制剤、又は本発明の食物アレルギー反応抑制剤を含ませればよい。具体的には、本発明の飲食品は、燕窩、本発明の脾臓肥大化抑制剤、又は本発明の食物アレルギー反応抑制剤をカプセルに封入してもよいし、燕窩、本発明の脾臓肥大化抑制剤、又は本発明の食物アレルギー反応抑制剤を可食フィルムや食用コーティング剤などで包み込んでもよいし、燕窩、本発明の脾臓肥大化抑制剤、又は本発明の食物アレルギー反応抑制剤に適切な賦形剤等を配合(添加)した後に、錠剤等の任意の形態に成形してもよい。本発明の飲食品は、燕窩、本発明の脾臓肥大化抑制剤、又は本発明の食物アレルギー反応抑制剤と他の食品原料とを含む組成物を加工することにより製造してもよい。そして、本発明の飲食品は、例えば、各種の食品(飲料、流動食、病者用食品、栄養食品、冷凍食品、加工食品、その他の市販食品等)に燕窩、本発明の脾臓肥大化抑制剤、又は本発明の食物アレルギー反応抑制剤を配合(添加)することによって製造することもできる。
【0066】
本発明の飲食品は、その投与の対象(被験体)を上述した本発明の脾臓肥大化抑制剤又は食物アレルギー反応抑制剤の投与の対象(被験体)と同様に設定することができるが、本発明の飲食品の投与の対象は、特にヒトである。
【0067】
(4) 飼料
燕窩、本発明の脾臓肥大化抑制剤、又は本発明の食物アレルギー反応抑制剤は、飼料に添加することができる。したがって、本発明は、脾臓肥大化を抑制するための、及び/又は食物アレルギー反応を抑制するための、燕窩、本発明の脾臓肥大化抑制剤、又は本発明の食物アレルギー反応抑制剤を含む飼料(以下、「本発明の飼料」とも称する。)をも提供する。
【0068】
燕窩、本発明の脾臓肥大化抑制剤、又は本発明の食物アレルギー反応抑制剤を含む本発明の飼料は、上述の本発明の脾臓肥大化抑制剤又は本発明の食物アレルギー反応抑制剤と同じ用途に使用することができる。本発明の飼料は、例えば、アレルギー反応に伴う脾臓肥大化を抑制するための、及び/又は食物アレルギー反応におけるアレルゲンへの感作を抑制するためのものであり得る。本発明の飼料において、アレルギー反応は、食物アレルギー反応、例えば鶏卵に対する食物アレルギー反応であってもよい。アレルギー反応はまた、例えば、ニワトリ卵白アルブミン等の卵白アルブミンに対する食物アレルギー反応であってもよい。
【0069】
本発明の飼料は、有効量の燕窩を含み得る。本発明の飼料は、例えば、燕窩を0.01重量%~99.99重量%、例えば、0.1重量%~90重量%、0.1重量%~50重量%、0.1重量%~10重量%、0.1重量%~5重量%、又は0.5重量%~5重量%含み得る。
【0070】
本発明の飼料は、飼料の製造で許容される添加剤(飼料添加物;例えば、担体(固体や液体担体など)、賦形剤、希釈剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑走剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、甘味剤、着色剤、乳化剤、界面活性剤、可溶化剤、懸濁化剤、保存剤、緩衝剤、pH調整剤)等をさらに含んでもよい。
【0071】
本発明の飼料は、固体、液体、混合物、懸濁液、ペースト、ゲル、粉末、顆粒、カプセル等の任意の形態に調製されたものであってよい。また、本発明の飼料は、当業者が利用可能である任意の適切な方法によって、燕窩、本発明の脾臓肥大化抑制剤、又は本発明の食物アレルギー反応抑制剤を含ませればよい。本発明の飼料は、例えば、上述の本発明の飲食品の製造方法と同様の方法により製造することができる。
【0072】
本発明の飼料の投与の対象(被験体)としては、家畜(ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等)、愛玩動物(イヌ、ネコ、ウサギ等)、実験動物(マウス、ラット、サル等)等を含む任意の非ヒト哺乳動物を挙げることができる。本発明において、対象は、幼体であってもよく、成体であってもよい。対象はまた、オスであってもよく、メスであってもよい。対象は、食物アレルギーを発症するリスクが高い対象であってもよい。食物アレルギーを発症するリスクが高い対象としては、例えば、食物アレルギーの遺伝的又は環境的素因を有する対象、アレルギーの既往歴を有する対象等が挙げられる。
【0073】
(5) 医薬品
燕窩、本発明の脾臓肥大化抑制剤、又は本発明の食物アレルギー反応抑制剤は、医薬品に添加することができる。したがって、本発明は、脾臓肥大化を抑制するための、及び/又は食物アレルギー反応を抑制するための、燕窩、本発明の脾臓肥大化抑制剤、又は本発明の食物アレルギー反応抑制剤を含む医薬品(以下、「本発明の医薬品」とも称する。)をも提供する。
【0074】
燕窩、本発明の脾臓肥大化抑制剤、又は本発明の食物アレルギー反応抑制剤を含む本発明の医薬品は、上述の本発明の脾臓肥大化抑制剤又は本発明の食物アレルギー反応抑制剤と同じ用途に使用することができる。本発明の医薬品は、例えば、アレルギー反応に伴う脾臓肥大化を抑制するための、及び/又は食物アレルギー反応におけるアレルゲンへの感作を抑制するためのものであり得る。本発明の医薬品において、アレルギー反応は、食物アレルギー反応、例えば鶏卵に対する食物アレルギー反応であってもよい。アレルギー反応はまた、例えば、ニワトリ卵白アルブミン等の卵白アルブミンに対する食物アレルギー反応であってもよい。
【0075】
本発明の医薬品は、有効量の燕窩を含み得る。本発明の医薬品は、例えば、燕窩を0.01重量%~99.99重量%、例えば、0.1重量%~90重量%、0.1重量%~50重量%、0.1重量%~10重量%、0.1重量%~5重量%、又は0.5重量%~5重量%含み得る。
【0076】
本発明の医薬品は、製薬上で許容される添加剤(医薬品添加物;例えば、担体(固体や液体担体など)、賦形剤、希釈剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑走剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、甘味剤、着色剤、乳化剤、界面活性剤、可溶化剤、懸濁化剤、保存剤、緩衝剤、pH調整剤)等をさらに含んでもよい。このとき、添加剤等は、製剤の剤形に応じて適宜選択することができる。
【0077】
本発明の医薬品は、錠剤、顆粒剤、散剤、粉末剤、丸剤、カプセル剤等の固形製剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤等の液体製剤、ジェル剤、エアロゾル剤等の任意の剤形に製剤化されたものであってよい。なお、医薬品を液体製剤として用いる場合には、それを使用する直前に、例えば、生理食塩水で再構成することを意図した乾燥物として製剤化することもできる。また、本発明の医薬品は、燕窩の配合量を適宜設定することができ、剤形、添加剤、対象の疾患の重症度等によって、その配合量を変更することができる。本発明の医薬品の好ましい投与経路としては、以下に限定されないが、経口投与が挙げられる。本発明の医薬品は、例えば、経口投与用であり得る。
【0078】
本発明の医薬品は、その投与の対象(被験体)を上述した本発明の脾臓肥大化抑制剤又は食物アレルギー反応抑制剤の投与の対象(被験体)と同様に設定することができる。
【0079】
(6) 脾臓肥大化抑制方法
本発明はまた、燕窩、本発明の脾臓肥大化抑制剤、飲食品、飼料、又は医薬品を対象に投与することを含む、対象において脾臓肥大化を抑制するための方法(以下、「本発明の脾臓肥大化抑制方法」とも称する。)を提供する。本発明の脾臓肥大化抑制方法は、例えば、アレルギー反応に伴う脾臓肥大化を抑制するためのものであり得る。
【0080】
本発明の脾臓肥大化抑制方法において、アレルギー反応は、食物アレルギー反応、例えば鶏卵に対する食物アレルギー反応であってもよい。アレルギー反応はまた、例えば、ニワトリ卵白アルブミン等の卵白アルブミンに対する食物アレルギー反応であってもよい。
【0081】
本発明の脾臓肥大化抑制方法では、燕窩、本発明の脾臓肥大化抑制剤、飲食品、飼料、又は医薬品の投与の経路、投与の対象、投与量は、本発明の脾臓肥大化抑制剤、飲食品、飼料、又は医薬品に関して述べた通りである。本発明の脾臓肥大化抑制方法では、燕窩、本発明の脾臓肥大化抑制剤、飲食品、飼料、又は医薬品は、例えば、経口投与される。
【0082】
本発明の脾臓肥大化抑制方法では、燕窩、本発明の脾臓肥大化抑制剤、飲食品、飼料、又は医薬品は、単回投与してもよく、数時間~数か月の間隔で複数回投与してもよい。
【0083】
(7) 食物アレルギー反応抑制方法
本発明はまた、燕窩、本発明の食物アレルギー反応抑制剤、飲食品、飼料、又は医薬品を対象に投与することを含む、対象において食物アレルギー反応を抑制するための方法(以下、「本発明の食物アレルギー反応抑制方法」とも称する。)を提供する。本発明の食物アレルギー反応抑制方法は、例えば、食物アレルギー反応におけるアレルゲンへの感作を抑制するためのものであり得る。本発明のアレルギー反応抑制剤において、食物アレルギー反応は、例えば鶏卵に対するI型の食物アレルギー反応であってもよい。食物アレルギー反応はまた、例えば、ニワトリ卵白アルブミン等の卵白アルブミンに対する食物アレルギー反応であってもよい。本発明の食物アレルギー反応抑制方法は、アレルゲン特異的IgEの産生を抑制することによって、食物アレルギー反応におけるアレルゲンへの感作を抑制するためのものであってもよい。
【0084】
本発明の食物アレルギー反応抑制方法では、燕窩、本発明の食物アレルギー反応抑制剤、飲食品、飼料、又は医薬品の投与の経路、投与の対象、投与量は、本発明の食物アレルギー反応抑制剤、飲食品、飼料、又は医薬品に関して述べた通りである。本発明の食物アレルギー反応抑制方法では、燕窩、本発明の食物アレルギー反応抑制剤、飲食品、飼料、又は医薬品は、例えば、経口投与される。
【0085】
本発明の食物アレルギー反応抑制方法では、燕窩、本発明の食物アレルギー反応抑制剤、飲食品、飼料、又は医薬品は、単回投与してもよく、数時間~数か月の間隔で複数回投与してもよい。
【実施例0086】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0087】
<燕窩による脾臓肥大化抑制効果及びアレルギー反応抑制効果>
卵白アレルギーモデルマウスを用いて、燕窩による脾臓肥大化抑制効果及びアレルギー反応抑制効果を調べた。
【0088】
具体的には、6週齢の雄性Balb/cマウス(日本チャールス・リバー株式会社)を1週間予備飼育した後、1重量%の燕窩を含む飼料を与える群と燕窩を含まない飼料を与える群に分け、3週間飼育した(n=12)。飼料としては、市販の固形飼料(CRF-1;オリエンタル酵母工業株式会社)を用いた。燕窩としては、市販の燕窩(株式会社G-Foods貿易)をカッターミル粉砕し、過熱蒸気滅菌することにより得られた100%燕窩粉末を用いた。飼料は自由摂取により与えた。3週間の飼育期間中、週1回24時間分の糞を採取し、糞中のIgA濃度を測定した。
【0089】
3週間の飼育期間後、各群をさらに鶏卵由来卵白アルブミン(OVA)(アレルゲン)を投与する群と生理食塩水を投与する群の2群に分け、前者にはOVA 20μgを添加した生理食塩水 200μLを、後者にはOVAを添加していない生理食塩水 200μLを腹腔内投与した(n=6)。2週間後、マウスの体重を測定した後、マウスを解剖し、各臓器(肝臓、脾臓、腎臓、及び白色脂肪組織)の重量と血漿中の総IgE濃度及びOVA特異的IgE濃度を測定した。また、解剖直前の糞中のIgA濃度を測定した。
【0090】
体重及び各臓器の重量の測定結果を以下の表1及び
図1に示す。
【0091】
Newman-Keusの多重比較による統計解析の結果、燕窩を与えなかったマウスでは、OVA投与により脾臓重量が有意に増加した。それに対し、燕窩を与えたマウスでは、このようなOVA投与による脾臓重量の有意な増加が見られなかった。これらの結果及び後述の
図2及び3から、燕窩の摂取は、アレルギー反応に伴う脾臓の肥大化を抑制することが示された。
【0092】
最近の研究では、食物アレルギーの発生時、脾臓において前駆細胞から肥満細胞への分化及び肥満細胞の著しい増殖が起こることが示唆されている(Shota Toyoshima et al., 2017, International Immunology, Vol. 29, No. 1, pp. 31-45)。そのため、上記の脾臓の肥大化は、肥満細胞の増殖によるものであり、燕窩はこのような肥満細胞の増殖を抑制したと考えられる。
【0093】
【0094】
血漿中の総IgE濃度の測定結果を
図2に示す。血漿総IgE濃度は、燕窩を与えなかったマウスにおいてOVA投与により増大したが、燕窩を与えたマウスではその増加が抑制されていた(
図2)。
【0095】
血漿中のOVA特異的IgE濃度の測定結果を
図3に示す。t検定の結果、血漿OVA特異的IgE濃度は、燕窩を与えなかったマウスではOVA投与により有意に増大したが、燕窩を与えたマウスではこのようなOVA投与による有意な増加は見られなかった(
図3)。また、燕窩を与えたマウスにOVAを投与した場合の血漿OVA特異的IgE濃度は、燕窩を与えなかったマウスにOVAを投与した場合の血漿OVA特異的IgE濃度に比べ、有意に低下していた。これらの結果は、燕窩の摂取によって、食物アレルギー反応の初期段階であるアレルゲンへの感作が抑制され、食物アレルギーを発症するリスクが低減されることを示している。
【0096】
なお、摂餌量及び運動量については、上記の4つの群の間に相違は見られなかった。
【0097】
また、OVA投与前の糞中のIgA濃度には各群間で有意な差が見られなかった。解剖直前の糞中のIgA濃度についても、各群間で大きな相違は見られなかった。