(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175410
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】車両制御装置、及び車両制御方法
(51)【国際特許分類】
B60W 30/02 20120101AFI20241211BHJP
B60W 30/04 20060101ALI20241211BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20241211BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20241211BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20241211BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20241211BHJP
【FI】
B60W30/02
B60W30/04
B62D5/04
B62D6/00
B62D101:00
B62D113:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093181
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】相原 泰
(72)【発明者】
【氏名】小川 宙哉
(72)【発明者】
【氏名】中村 拓朗
(72)【発明者】
【氏名】河村 拓昌
(72)【発明者】
【氏名】野田 新一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡野 隆宏
【テーマコード(参考)】
3D232
3D241
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC05
3D232DA04
3D232DA24
3D232DA74
3D232DA82
3D232EB04
3D232EC23
3D232GG01
3D241BA16
3D241BA19
3D241BB27
3D241BC04
3D241CC17
3D241CD05
3D241CE04
3D241CE05
3D241DA12Z
3D241DA39Z
3D241DA52Z
3D241DA54Z
3D241DA61Z
3D241DB03Z
3D241DB05Z
3D241DB12Z
3D241DB14Z
3D241DB15Z
3D241DB20Z
3D241DB22Z
3D241DB24Z
3D241DB27Z
3D241DB32Z
3D241DB47Z
3D241DB48Z
3D241DC41Z
3D241DC42Z
3D241DC43Z
3D241DC47Z
3D241DC49Z
3D333CB42
(57)【要約】
【課題】車両の車輪浮き状態が発生した場合においても、ドライバの意図しない舵角の変化を防ぎ、車両挙動の安定性を高めることのできる技術を提供すること。
【解決手段】本開示は、車両を制御する車両制御装置に関する。車両制御装置は、車両の複数の車輪のうちのいずれかが地面に接触していない車輪浮き状態が発生しているか否かを判定する処理と、車輪浮き状態が発生している間、車両の舵角を保持する処理と、を実行するように構成される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を制御する車両制御装置であって、
前記車両の複数の車輪のうちのいずれかが地面に接触していない車輪浮き状態が発生しているか否かを判定する処理と、
前記車輪浮き状態が発生している間、前記車両の舵角を保持する処理と、
を実行するように構成された
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御装置であって、
前記車輪浮き状態が発生した場合、前記舵角を保持する前に、
前記車輪浮き状態が発生する直前の前記車両の姿勢が維持されるように前記舵角を制御する処理を更に実行するように構成された
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両制御装置であって、
前記複数の車輪の車輪速は独立して制御可能であり、
前記車両制御装置は、
前記車両の車速を取得する処理と、
前記車両が走行する路面のスリップ率を取得する処理と、
前記車輪浮き状態が発生した場合、前記車輪浮き状態が解消する前に、前記車速及び前記スリップ率に基づいて目標車輪速を算出し、前記複数の車輪のうち地面に接触していない車輪の前記車輪速が前記目標車輪速となるように制御する処理と
を更に実行するように構成されたことを特徴とする車両制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の車両制御装置であって、
前記複数の車輪のそれぞれの車輪舵角は、ステアリングモータによって独立に制御され、
前記車両制御装置は、
前記ステアリングモータに流れる電流値及び前記複数の車輪のうちの1つの車輪の前記車輪舵角と、前記1つの車輪の接地荷重との対応関係を示す接地荷重情報を格納する記憶装置を備え、
前記車輪浮き状態が発生しているか否かを判定する処理は、前記複数の車輪のそれぞれについて、
前記電流値を取得することと、
前記車輪舵角を取得することと、
取得した前記電流値及び前記車輪舵角、並びに前記接地荷重情報を用いて、前記複数の車輪の何れかにおいて前記接地荷重が閾値以下の場合に、前記車輪浮き状態が発生していると判定することと
を含む
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項5】
車両を制御する車両制御方法であって、
前記車両の複数の車輪のうちのいずれかが地面に接触していない車輪浮き状態が発生しているか否かを判定することと、
前記車輪浮き状態が発生している間、前記車両の舵角を保持することと、
を含むことを特徴とする車両制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車輪浮きが発生した場合の車両の制御を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、車両の横転有無を判定するロールオーバー判定装置を開示している。ロールオーバー判定装置は、車両の一方の車輪が路面から浮き上がった状態を検出する検出手段を備え、車輪が路面から浮き上がった状態にあるときに、車両の横転挙動を予測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の走行時に、障害物への乗り上げ等によっていずれかの車輪が浮いた車輪浮き状態が発生することがある。車輪浮き状態発生時は、浮いている車輪に対する路面からの抵抗がなくなるため、意図しない舵角の変化が発生しやすくなる。このような意図しない舵角の変化が起こっている状況下で車輪が着地すると、車両姿勢が不安定になる可能性がある。本開示の1つの目的は、車輪浮き状態が発生した場合においても、車両挙動の安定性を高めることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第1の観点は、車両を制御する車両制御装置に関する。
【0006】
第1の観点に係る車両制御装置は、車両の複数の車輪のうちのいずれかが地面に接触していない車輪浮き状態が発生しているか否かを判定する処理と、車輪浮き状態が発生している間、車両の舵角を保持する処理と、を実行するように構成されていることを特徴とする。
【0007】
本開示の第2の観点は、車両を制御する車両制御方法に関する。
【0008】
第2の観点に係る車両制御方法は、車両の複数の車輪のうちのいずれかが地面に接触していない車輪浮き状態が発生しているか否かを判定することと、車輪浮き状態が発生している間、車両の舵角を保持することと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、車輪浮き状態が発生している間、車両の舵角が保持される。舵角が保持されることで、意図しない舵角の変化が発生することを防ぐことができる。こうして、車両挙動の安定性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】車輪浮き状態について説明するための図である。
【
図3】本実施の形態に係る車両制御装置が実行する処理の例を示すフローチャートである。
【
図4】本実施の形態に係る車両制御装置が行うヨー角についての判定において基準となる方向を説明するための図である。
【
図6】応用例における処理の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
添付図面を参照して、本開示の実施の形態を説明する。
【0012】
1.車両制御装置の概要
本実施の形態に係る車両制御装置は、車両を制御する。
図1は、本実施形態に係る車両制御装置10が適用される車両1の構成例を示すブロック図である。
【0013】
車両1は、車両制御装置10、センサ類20、及びアクチュエータ30を備える。車両制御装置10は、センサ類20及びアクチュエータ30と互いに情報を通信することができるように構成されている。例えば、車両制御装置10は、これらの装置とワイヤーハーネス等で構成された車載ネットワークで接続している。
【0014】
センサ類20は、IMU(Inertial measurement unit:慣性計測装置)21、車載カメラ22、舵角センサ23、及び車輪速センサ24を含む。IMU21は、3軸の角速度及び加速度を検出するセンサである。これにより、車両1の姿勢角(ヨー角、ロール角、及びピッチ角)、進行方向、及び車速を取得することができる。車載カメラ22は、例えば、車両1の前方を撮像する前方カメラや、車両1の車輪を撮像する足元カメラを含む。足元カメラは車両1の床下に搭載され、車輪が地面と接地する接地部分を撮像範囲に含む。足元カメラは、例えば車輪の故障を検出する目的で車両1に搭載される。舵角センサ23は、車両1の舵角を検出する。車輪速センサ24は、車両1の複数の車輪のそれぞれの車輪速を検出する。センサ類20はその他に、サスペンションストロークを検出するセンサを含んでもよい。
【0015】
アクチュエータ30は、例えば、車輪を制御するステアリングモータを含む。
【0016】
車両制御装置10は、少なくとも1つのプロセッサ11(以下、単にプロセッサ11と呼ぶ)、及びプロセッサ11に結合された少なくとも1つの記憶装置12(以下、単に記憶装置12と呼ぶ)を備える。プロセッサ11は、車両制御装置10による処理に必要な各種の演算を行う。記憶装置12には、プロセッサ11で実行可能な少なくとも1つのプログラムとそれに関連する種々のデータとが記憶されている。記憶装置12に格納されたプログラムがプロセッサ11で実行されることにより、車両制御装置10による各種の処理が実現される。車両制御装置10は、1又は複数のECU(Electronic Control Unit)を含んでもよい。
【0017】
車両1が走行する際、車輪浮き状態が発生することがある。車輪浮き状態は、車両1の複数の車輪のうちのいずれかが地面に接触していない状態であり、車両1が地面の凸部や障害物に乗り上げること等によって発生する。特に、車両1が未舗装路や不整地路を走行している場合は、車両1が障害物等に乗り上げる頻度は大きくなりやすく、車輪浮き状態も発生しやすくなる。
【0018】
図2は、車輪浮き状態が発生したときの車両1の様子を模式的に表した図である。
図2の(A)は、車両1を横から見た様子を、
図2の(B)は、車両1を上から見た様子を表している。
【0019】
T1時点では、車輪浮き状態はまだ発生しておらず、車両1は直進方向に向かって走行している。T2時点においては、車両1が障害物に乗り上げたことが原因で、前輪が地面から離れて浮いた状態となっている。この状態が車輪浮き状態である。障害物を乗り越えた後は、前輪が再び地面に接地し、T3時点で車輪浮き状態は解消している。
【0020】
ここで、車輪浮き状態が発生している間は、ドライバが意図しない車両1の舵角の変化が発生しやすくなる。これは、車輪浮き状態が発生している間は、車輪の転舵角の変化に対する路面の抵抗がなくなるため、接地時と比較してステアリング操作の負荷が軽くなることによる。このために、ドライバが必要以上に大きくステアリングを操作してしまい、結果、車両1を意図しない方向へ操舵してしまいやすくなる。また、抵抗がないために操舵の感覚を掴みにくくなること等によっても、ドライバが車両1を意図しない方向へ操舵してしまいやすくなる。
【0021】
図2のT2時点においても、ドライバが意図していなかった車両1の舵角の変化が発生してしまっている。そのために、T3で前輪が着地したときに、車両1の急操舵を引き起こす恐れがある。また、意図しない舵角の変化が発生したことによって、T3では車両1のヨー角についても、ドライバが意図していた方向、すなわち直進方向とは異なる方向を向いてしまっている。このことによっても、T3における車両挙動は不安定となる恐れがある。
【0022】
本実施の形態に係る車両制御装置10は、このような事態を防ぐため、車輪浮き状態が発生している間、車両1の舵角を保持する。車両1の舵角が保持されることによって、車輪浮き状態の発生によりドライバが意図しない舵角の変化が引き起こされ、車両挙動が不安定となることを防ぐことができる。
【0023】
図3は、車両制御装置10が実行する処理、より具体的にはプロセッサ11が実行する処理を示すフローチャートである。
図3に示すフローチャートは、例えば、車両1の動作開始とともに開始し、所定の周期毎に繰り返し実行される。
【0024】
ステップS110で、車両制御装置10は、車両1の姿勢角(ヨー角、ロール角、及びピッチ角)についての情報をIMU21から取得する。取得された姿勢角についての情報は、記憶装置12によって一時的に記憶される。
【0025】
ステップS120で、車両制御装置10は、車輪浮き状態が発生しているか否かを判定する。車両制御装置10による車輪浮き状態の検出方法については、第2章で説明する。車輪浮き状態が検出されている場合(ステップS120;Yes)、処理はステップS130に進む。一方、車輪浮き状態が発生していない場合(ステップS120;No)、今回処理は終了する。
【0026】
ステップS130で、車両制御装置10は、車輪浮き状態が発生する直前の車両1の姿勢角と、車輪浮き状態が発生した後、すなわち現在の車両1の姿勢角とを比較する。ステップS130において、車両制御装置10は、車輪浮き状態が発生する直前の車両1の姿勢角を記憶装置12から取得する。また、車両制御装置10は、現在の車両1の姿勢角をIMU21から取得する。
【0027】
ステップS140で、車両制御装置10は、ステップS130で取得された車両1の姿勢角のうちのヨー角についての判定を行う。車両制御装置10は、基準となる方向に対するヨー角が、車輪浮き状態が発生する直前と車輪浮き状態が発生した後とで変化しているか否かを判定する。ヨー角の変化がない場合、もしくは変化が閾値以内の場合(ステップS140;Yes)、処理はステップS160に進む。一方、ヨー角が閾値以上変化している場合(ステップS140;No)、処理はステップS150に進む。
【0028】
ここで、基準となる方向は、ドライバが意図する車両1の進行方向である。すなわち、基準となる方向は、車輪浮き状態が発生する前においては車両1の実際の進行方向である。車輪浮き状態発生後においては、基準となる方向は、車両1が車輪浮き状態が発生する直前までの動きと同じ動きを続けた場合の進行方向である。例えば、
図4の(A)のように車輪浮き状態が発生する直前まで車両1が直進していた場合は、直進方向が基準となる方向である。あるいは、
図4の(B)のように車輪浮き状態発生時に車両1が旋回中であった場合は、旋回方向が基準となる方向である。
【0029】
再び
図3を参照する。ステップS150で、車両制御装置10は、車輪浮きが発生する直前の車両1の姿勢が維持されるように舵角を制御する。つまり、車輪浮きの発生に伴って車両1の姿勢(ヨー角)が閾値以上変化している場合、車両制御装置10は、車輪浮きの発生前の車両1の姿勢(ヨー角)に戻すように舵角を制御する。例えば、
図4の(A)のように車両1が直進していた場合は、車両制御装置10は、車輪が地面に着地した後も車両1が直進方向を向くように舵角を制御する。あるいは、
図4の(B)のように車両1が旋回していた場合には、車両制御装置10は、車輪が地面に着地した後も車両1の旋回方向に対する姿勢が維持されるように舵角を制御する。ステップS150の後、処理はステップS160に進む。
【0030】
ステップS160で、車両制御装置10は、車両1の舵角を保持する。舵角の保持は、ステアリングの操舵角が変化しないように保持することであってもよいし、車輪の転舵角が変化しないように保持することであってもよい。
【0031】
ステップS170で、車両制御装置10は、車輪浮き状態が解消しているか否かを判定する。ステップS170においては、ステップS120と同様に、第2章で説明する車輪浮き状態の検出方法を用いて判定が行われる。車輪浮き状態が解消している場合(ステップS170;Yes)、処理はステップS180に進む。一方、車輪浮き状態が継続している場合(ステップS170;No)、処理はステップS160に戻る。
【0032】
ステップS180で、車両制御装置10は、車両1の舵角の保持を解除する。舵角の保持が解除されると、通常の走行時と同じようにドライバが車両1を操舵することが可能な状態となる。舵角の保持が解除されると、今回処理は終了する。
【0033】
このように、車両制御装置10によれば、車輪浮き状態の発生時には、車両1の舵角が保持される。これによって、ドライバが意図しない方向に車両1が操舵されてしまうことを防ぎ、着地後の車両1の挙動が不安定となることを抑制することができる。また、舵角の保持は車輪浮き状態が解消されたときには解除されるため、ドライバの操作を妨げることもない。
【0034】
また、ステップS150においては、車輪浮き状態が発生する直前の姿勢を維持するような舵角の制御が行われる。これにより、舵角を保持する前の時点でドライバの意図しない車両1のヨー角の変化が発生していたとしても、着地後の車両1の急な姿勢の変化を抑制することができる。こうして、車両1をより安全な状態で着地させることができる。
【0035】
なお、車両制御装置10が行う処理において、ステップS140及びステップS150の処理は必須ではない。つまり、車両制御装置10は、車輪浮き状態が発生している間、ヨー角の比較結果に基づいた舵角の制御を行うことなく舵角を保持してもよい。ステップS140及びステップS150の処理が行われない場合であっても、少なくとも舵角が保持されている間はドライバの意図しない車両1の操舵を防ぐことができるため、車両挙動が不安定になることを抑制する効果は得られる。
【0036】
2.車輪浮き状態の検出方法
車輪浮き状態の検出方法について、具体例を挙げて説明する。以下に説明する検出方法のうち、いずれか1つが採用されてもよいし、複数が組み合わされて用いられてもよい。
【0037】
1つ目の例は、車両1の複数の車輪のそれぞれが、ステアリングモータによって独立して制御される場合の例である。車両制御装置10は、ステアリングモータの舵角と電流値からそれぞれの車輪の接地荷重を求めることで、車輪が地面に接触しているか否かを判定する。
【0038】
車両制御装置10は、ステアリングモータに流れる電流値を取得する。例えば、ステアリングモータには電流計が取り付けられ、車両制御装置10は電流計から電流値を取得する。また、車両制御装置10は、それぞれの車輪の車輪舵角を取得する。それぞれの車輪の車輪舵角は、例えば、舵角センサ23によって取得される。この場合、舵角センサ23は、それぞれの車輪を制御するステアリングモータに備えられていて良い。
【0039】
車両制御装置10は、「接地荷重情報」に基づいて、取得した電流値及び車輪舵角から、それぞれの車輪の接地荷重を算出する。接地荷重情報は、1つの車輪に関して、ステアリングモータに流れる電流値及び車輪舵角と、接地荷重との対応関係を示す情報である。
図5には、接地荷重情報の例が示されている。電流値の大きさは、ステアリングモータが車輪に与える操舵力の大きさを意味する。接地荷重が小さいときには、路面からの抵抗が小さくなるため、電流値に対する車輪舵角の変化は大きくなる。そのため、電流値、車輪舵角、及び接地荷重の関係を設置荷重情報として求めておくことができる。接地荷重情報は、予め取得され、記憶装置12に格納される。
【0040】
算出された接地荷重が0より大きければ車輪が地面に接触していることを示し、接地荷重が0以下であれば地面に接触していないことを示す。地面に接触していない車輪が1つ以上存在すれば、車輪浮き状態が発生していると判定される。
【0041】
2つ目の方法では、車載カメラ22の足元カメラが撮像する画像を解析することにより、車輪浮き状態が検出される。
【0042】
車輪浮き状態が発生すると、車輪が地面に接地しているときとは、車輪の形状や車輪が作り出す影の位置が変化する。例えば、車輪が地面に接地しているときは、車輪の接地部分は、車体の荷重がかかることでひずむため、車輪が接地していないときと比較して横幅が大きくなる。また、車輪が地面と接しているときと接していないときでは、車輪に対する影の位置が変化する。すなわち、車輪が地面と接触しているときは、画像内において車輪が作る影が占める領域は、車輪と接している、あるいは車輪に隠れているため検出されない。それに対し、車輪が地面から離れると、画像内において車輪の影が占める領域は、車輪と離れた位置に検出される。2つ目の方法では、カメラが撮像する画像の画像解析によってこれらの変化が検出されると、車輪浮き状態が発生したと判断される。
【0043】
3つ目の方法では、足元カメラが撮像する画像とセンサ類20が検出するサスペンションストロークについての情報を組み合わせることで、車輪浮き状態が検出される。
【0044】
車両制御装置10は、次のような演算を行う。まず、車両制御装置10は、足元カメラが撮像する画像を取得し、車輪が地面と接地する接地点を画像から検出する。また、車両制御装置10は、サスペンションストロークの値から、車輪と足元カメラの現在の位置関係を算出し、算出した位置関係に基づいて、足元カメラが撮像する画像内における接地点の位置を推測する。そして、推測した接地点の位置と実際に検出された接地点の位置を比較し、これらが一致していなければ車輪が地面に接触していないと判断する。地面に接触していない車輪が1つ以上存在すれば、車輪浮き状態が発生していると判定される。
【0045】
4つ目の方法では、車輪の空転によって、車輪浮き状態が検出される。
【0046】
車輪の空転は、例えば次のように検出される。車両制御装置10は、車輪速センサ24から各車輪の車輪速を取得する。また、IMU21から車両1の車速を検出する。そして、車輪速と車速が閾値以上異なる車輪があった場合、当該車輪は地面に接触しておらず、空転していると判断する。地面に接触していない車輪が1つ以上存在すれば、車輪浮き状態が発生していると判定される。
【0047】
なお、検出方法は上記に限定されるものではないが、上記の例は次のような点で効果的である。仮に、車輪が地面に接触しているか否かを把握するために専用のセンサを搭載したとすると、ばね下重量が大きくなることで走行性能が低下したり、コストが増大したりする可能性がある。上記のように既存のセンサ等を用いた検出を行うことで、走行性能やコスト面において有利である。
【0048】
3.応用例
車両1の複数の車輪が独立して制御される場合を考える。この場合、車輪浮き状態が発生したときには、車両制御装置10は、更に次のような車輪の制御を行ってもよい。
【0049】
図6は、車輪の制御を行うために車両制御装置10が実行する処理の例を示すフローチャートである。
【0050】
ステップS210で、車両制御装置10は、車輪浮き状態が発生しているか否かを判定する。ステップS210の判定は、第2章で説明した検出方法を用いて行うことができる。車輪浮き状態が検出されている場合(ステップS210;Yes)、処理はステップS220に進む。一方、車輪浮き状態が発生していない場合(ステップS210;No)、今回処理は終了する。
【0051】
ステップS220で、車両制御装置10は車両1の車速を取得する。車速は、IMU21から得ることができる。
【0052】
ステップS230で、車両制御装置10は、車両1の前方の路面のスリップ率を取得する。車両制御装置10は、例えば、前方カメラが車両1の前方の路面を撮像して得られる画像を解析することで、路面のスリップ率を推定することができる。
【0053】
ステップS240で、車両制御装置10は、ステップS230で取得したスリップ率、及びステップS220で取得した車速に基づいて、目標車輪速を算出する。目標車輪速は、車輪が地面に着地した時の車輪の制御を考慮して算出される。例えば、砂地のようにスリップ率が大きくなるような路面の場合は、着地時に車輪がスリップすることを見越して、路面のスリップ率が小さい場合よりも目標車輪速が高くなるように算出される。
【0054】
ステップS250で、車両制御装置10は、地面に接触していない車輪の車輪速を、目標車輪速となるように制御する。車輪速の制御が行われると、今回処理は終了する。
【0055】
車輪浮き状態が発生した場合、路面からの抵抗がなくなるために、車輪速が車速に連動した速度よりも高くなる可能性がある。このような場合にそのまま車輪が着地すると、路面と車輪との間で引っ掛かりが発生し、駆動システムに過大入力が発生する恐れがある。上述の制御によれば、このような過大入力を抑制することができる。
【0056】
また、車両制御装置10は、
図3のステップS140及びステップS150に代えて、次のような車輪舵角の制御を行ってもよい。まず、車両制御装置10は、IMU21から車両1の進行方向を取得する。そして、浮いている車輪の車輪舵角を車両1の進行方向に合わせるように、車輪舵角を制御する。
【0057】
車輪浮き状態が発生した場合、舵角が保持される前に、浮いている車輪が車両1の進行方向とは異なる方向に曲がってしまう可能性がある。このような場合にそのまま車輪が着地すると、ステアリングシステムに過大入力が発生する恐れがある。上述の制御によれば、このような過大入力を抑制することができる。
【0058】
4.その他の例
その他の例として、車両1の車輪は履帯であってもよい。車輪が履帯の場合についても、車両制御装置10は、車輪の場合と同様に履帯浮き状態を検出し、舵角の保持等の制御を行うことができる。履帯の一部が地面から離れた場合に履帯浮き状態と判断され、舵角の保持が行われる。
【0059】
また、車両1は自動運転車両であってもよい。車両1が自動運転車両であり、自動運転中に車輪浮き状態が発生した場合も同様に、車両制御装置10は、車輪浮き状態が検出されたら舵角を保持する制御を行う。この場合は、上記の説明におけるドライバの操作を自動運転システムによる制御と読み替えればよい。車輪浮き状態が発生している間は車両制御装置10による舵角の制御が自動運転による舵角の制御に優先されて舵角の保持が行われ、車輪浮き状態が解消すると自動運転システムによる操舵が可能な状態となる。
【符号の説明】
【0060】
1 車両
10 車両制御装置
11 プロセッサ
12 記憶装置
20 センサ類
21 IMU
22 車載カメラ
23 舵角センサ
24 車輪速センサ
30 アクチュエータ