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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175418
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】静電チャック
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20241211BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20241211BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20241211BHJP
   C23C 14/50 20060101ALI20241211BHJP
   C23C 16/458 20060101ALI20241211BHJP
   H02N 13/00 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H01L21/205
H01L21/31 B
C23C14/50 A
C23C16/458
H02N13/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093197
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100121843
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 賢郎
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 拓真
(72)【発明者】
【氏名】上藤 淳平
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 雄基
(72)【発明者】
【氏名】板倉 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】山口 康介
(72)【発明者】
【氏名】白石 純
【テーマコード(参考)】
4K029
4K030
5F045
5F131
【Fターム(参考)】
4K029AA06
4K029AA24
4K029BD01
4K029DA08
4K029DA10
4K029JA01
4K029JA06
4K030CA04
4K030CA12
4K030GA02
4K030KA26
4K030KA46
4K030KA47
4K030LA15
5F045AA03
5F045AF03
5F045EJ03
5F045EM02
5F045EM05
5F045EM07
5F045EM09
5F131AA02
5F131BA04
5F131CA68
5F131DA33
5F131DA42
5F131EA03
5F131EB11
5F131EB14
5F131EB15
5F131EB17
5F131EB18
5F131EB22
5F131EB24
5F131EB54
5F131EB84
(57)【要約】
【課題】離脱応答性の良好な静電チャックを提供する。
【解決手段】静電チャック10は、基板Wが載置される面110を有する誘電体基板100と、誘電体基板100に内蔵された吸着電極130と、誘電体基板100に形成された環状の突起であって、その先端が面110の一部となっているシールリング111と、を備える。面110に対し垂直な方向から見た場合において、シールリング111は、第1部分P1と、第1部分P1とは異なる位置にある第2部分P2と、を有し、第1部分P1のうち、吸着電極130と重なる範囲の占めている割合は、第2部分P2のうち、吸着電極130と重なる範囲が占めている割合よりも小さい。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被吸着物が載置される載置面を有する誘電体基板と、
前記誘電体基板に内蔵された吸着電極と、
前記誘電体基板に形成された環状の突起であって、その先端が前記載置面の一部となっているシールリングと、を備え、
前記載置面に対し垂直な方向から見た場合において、
前記シールリングは、
第1部分と、
前記第1部分とは異なる位置にある第2部分と、を有し、
前記第1部分のうち、前記吸着電極と重なる範囲の占めている割合は、
前記第2部分のうち、前記吸着電極と重なる範囲が占めている割合よりも小さいことを特徴とする静電チャック。
【請求項2】
前記誘電体基板には、前記シールリングの周囲の空間にガスを供給するためのガス穴が形成されており、
前記載置面に対し垂直な方向から見た場合において、
前記第1部分は、前記シールリングのうち前記ガス穴と隣り合う部分であることを特徴とする、請求項1に記載の静電チャック。
【請求項3】
前記載置面に対し垂直な方向から見た場合において、
前記ガス穴は、前記シールリングに沿って並ぶように複数形成されており、
それぞれの前記ガス穴と隣り合う位置に前記第1部分があることを特徴とする、請求項2に記載の静電チャック。
【請求項4】
前記載置面に対し垂直な方向から見た場合において、
前記第1部分のうち、前記吸着電極と重なっていない領域は、前記ガス穴を中心とした円形の領域の一部であることを特徴とする、請求項2に記載の静電チャック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は静電チャックに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばCVD装置等の半導体製造装置には、処理の対象となるシリコンウェハ等の基板を吸着し保持するための装置として、静電チャックが設けられる。静電チャックは、吸着電極が設けられた誘電体基板を備える。吸着電極に電圧が印加されると静電力が生じ、誘電体基板上に載置された基板が吸着され保持される。
【0003】
下記特許文献1に記載されているように、誘電体基板のうち基板側の面には、環状の突起であるシールリング(シールバンド)が1つまたは複数形成される。シールリングの内側の空間、すなわち、誘電体基板と基板との間の空間には、処理中における基板の温度調整等を目的として、ヘリウム等の不活性ガスが供給される。不活性ガスは、誘電体基板に形成されたガス穴を通じて上記空間に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2023-34099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが行った実験等によれば、ガス穴とシールリングとの位置関係によっては、静電チャックの吸着力が大きくなり過ぎて、所謂離脱応答性が低下してしまうことがあるという知見が得られている。その原因は、ガス穴から供給された不活性ガスの一部が、その近傍にあるシールリングと基板との間の微小な隙間に入り込み、当該部分における吸着力を局所的に増大させてしまうためと考えられる。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、離脱応答性の良好な静電チャックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る静電チャックは、被吸着物が載置される載置面を有する誘電体基板と、誘電体基板に内蔵された吸着電極と、誘電体基板に形成された環状の突起であって、その先端が載置面の一部となっているシールリングと、を備える。載置面に対し垂直な方向から見た場合において、シールリングは、第1部分と、第1部分とは異なる位置にある第2部分と、を有し、第1部分のうち、吸着電極と重なる範囲の占めている割合は、第2部分のうち、吸着電極と重なる範囲が占めている割合よりも小さい。
【0008】
このような構成の静電チャックでは、上面視におけるシールリングと吸着電極との重なり方が、シールリングの全周に亘り一様とはなっておらず、第1部分における重なり方が第2部分における重なり方に比べて小さくなっている。例えば、ガス穴の近傍となる位置に第1部分が配置されるよう、吸着電極の形状等を設定すれば、上記のような吸着力の局所的な増大を抑制し、静電チャックの離脱応答性を向上させることが可能となる。
【0009】
また、本発明に係る静電チャックでは、誘電体基板には、シールリングの周囲の空間にガスを供給するためのガス穴が形成されており、載置面に対し垂直な方向から見た場合において、第1部分は、シールリングのうちガス穴と隣り合う部分であることも好ましい。
【0010】
シールリングのうちガス穴と隣り合う部分は、不活性ガスの影響により吸着力が局所的に増大しやすい部分だと考えられる。このような部分を第1部分とし、当該部分における吸着力を抑制することで、静電チャックの離脱応答性を向上させることができる。
【0011】
また、本発明に係る静電チャックでは、載置面に対し垂直な方向から見た場合において、ガス穴は、シールリングに沿って並ぶように複数形成されており、それぞれのガス穴と隣り合う位置に第1部分があることも好ましい。
【0012】
シールリングのうち、複数あるガス穴と隣り合う位置のそれぞれを第1部分とし、各位置における吸着力を抑制することで、静電チャックの離脱応答性を向上させることができる。
【0013】
また、本発明に係る静電チャックでは、載置面に対し垂直な方向から見た場合において、第1部分のうち、吸着電極と重なっていない領域は、ガス穴を中心とした円形の領域の一部であることも好ましい。
【0014】
シールリングの一部を、吸着電極との重なりの小さな第1部分とするための具体的な構成としては、例えば、吸着電極の一部に開口又は切り欠きを形成することが考えられる。このとき、第1部分のうち吸着電極と重なっていない領域が、ガス穴を中心とした円形の領域の一部となるよう、上記の開口等を形成すれば、開口等の形成に伴う吸着力の低下を最低限に抑えることができる。つまり、ガス穴の近傍における局所的な吸着力の増大を抑制する一方で、ガス穴から遠い部分の吸着力については維持することができる。これにより、静電チャックの離脱応答性を向上させながらも、静電チャックの全体における吸着力を十分に確保することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、離脱応答性の良好な静電チャックを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係る静電チャックの構成を模式的に示す断面図である。
図2図1の静電チャックが備える誘電体基板の構成を示す図である。
図3】誘電体基板に内蔵された吸着電極を示す図である。
図4】吸着電極とシールリングとの位置関係等について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら本実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0018】
本実施形態に係る静電チャック10は、例えばCVD成膜装置のような不図示の半導体製造装置の内部において、処理対象となる基板Wを静電力によって吸着し保持するものである。基板Wは「被吸着物」に該当するものであり、例えばシリコンウェハである。静電チャック10は、半導体製造装置以外の装置に用いられてもよい。
【0019】
図1には、基板Wを吸着保持した状態の静電チャック10の構成が、模式的な断面図として示されている。静電チャック10は、誘電体基板100と、ベースプレート200と、接合層300と、を備える。
【0020】
誘電体基板100は、セラミック焼結体からなる略円盤状の部材である。誘電体基板100は、例えば高純度の酸化アルミニウム(Al)を含むが、他の材料を含んでもよい。誘電体基板100におけるセラミックスの純度や種類、添加物等は、半導体製造装置において誘電体基板100に求められる耐プラズマ性等を考慮して、適宜設定することができる。
【0021】
誘電体基板100のうち図1における上方側の面110は、基板Wが載置される「載置面」となっている。また、誘電体基板100のうち図1における下方側の面120は、後述の接合層300を介してベースプレート200に接合される「被接合面」となっている。面110に対し垂直な方向に沿って、面110側から静電チャック10を見た場合の視点のことを、以下では「上面視」のようにも表記する。
【0022】
誘電体基板100の内部には吸着電極130が埋め込まれている。吸着電極130は、例えばタングステン等の金属材料により形成された薄い平板状の層であり、面110に対し平行となるように配置されている。吸着電極130の材料としては、タングステンの他、モリブデン、白金、パラジウム等を用いてもよい。給電路13を介して外部から吸着電極130に電圧が印加されると、面110と基板Wとの間に静電力が生じ、これにより基板Wが吸着保持される。吸着電極130は、本実施形態のように所謂「単極」の電極として1つだけ設けられていてもよいが、所謂「双極」の電極として2つ設けられていてもよい。吸着電極130の具体的な形状については後に説明する。
【0023】
図1においては、給電路13の全体が簡略化して描かれている。給電路13のうち誘電体基板100の内部の部分は、例えば、導電体の充填された細長いビア(穴)として構成されており、その下端には不図示の電極端子が設けられている。給電路13のうち後述のベースプレート200を貫いている部分は、上記の電極端子に一端が接続された導電性の金属部材(例えばバスバー)である。ベースプレート200には、給電路13を挿通するための不図示の貫通穴が形成されている。当該貫通穴の内面と給電路13との間には、例えば円筒状の絶縁部材が設けられていてもよい。
【0024】
図1に示されるように、誘電体基板100と基板Wとの間には空間SPが形成されている。半導体製造装置において成膜等の処理が行われる際には、空間SPには、後述のガス穴140等を介して外部から温度調整用の不活性ガスが供給される。誘電体基板100と基板Wとの間に不活性ガスを介在させることで、両者間の熱抵抗が調整され、これにより基板Wの温度が適温に保たれる。尚、空間SPに供給される温度調整用の不活性ガスとしては、本実施形態ではヘリウムガスが用いられるが、ヘリウムガスとは異なる種類のガスであってもよい。
【0025】
図2は、誘電体基板100を上面視で描いた図である。同図に示されるように、載置面である面110上にはシールリング111やドット112が設けられており、上記の空間SPはこれらの周囲に形成されている。
【0026】
シールリング111は、空間SPを区画する壁として設けられた環状の突起である。シールリング111は複数設けられており、上面視において同心円状に並んでいる。それぞれのシールリング111の先端(図1における上端)は、面110の一部となっており、基板Wに当接する。本実施形態では、計4つのシールリング111が設けられており、これにより空間SPは4つに分けられている。このような構成とすることで、それぞれの空間SPにおけるヘリウムガスの圧力を個別に調整し、処理中における基板Wの表面温度分布を均一に近づけることが可能となる。
【0027】
尚、上面視における各シールリング111の形状は、本実施形態のように円形であってもよいが、円形とは異なる形状であってもよい。例えば、基板Wに形成されたノッチやオリフラと対応する部分において、シールリング111の一部が直線状となっていてもよい。
【0028】
図1図2において符号「116」が付されている部分は、空間SPの底面である。以下では、当該部分のことを「底面116」とも称する。シールリング111は、次に述べるドット112と共に、面110の一部を底面116の位置まで掘り下げた結果として形成されている。
【0029】
ドット112は、底面116から突出する円形の突起である。図2に示されるように、ドット112は複数設けられており、誘電体基板100の載置面において略均等に分散配置されている。それぞれのドット112の上端は、面110の一部となっており、基板Wに当接する。このようなドット112を複数設けておくことで、基板Wの撓みが抑制される。
【0030】
空間SPの底面116には、溝113が形成されている。溝113は、底面116から更に面120側へと後退させるように形成された溝である。溝113は、ガス穴140から供給されるヘリウムガスを、空間SP内に素早く拡散させ、空間SP内の圧力分布を短時間のうちに略均一とすることを目的として形成されている。
【0031】
誘電体基板100には、面120から面110側に向かって垂直に伸びるガス穴140が形成されている。ガス穴140は、シールリング111の周囲の空間SPにガスを供給するための穴である。図1図2に示されるように、ガス穴140のうち面110側の端部は、溝113の底面において開口している。誘電体基板100において、ガス穴140は複数形成されており、これらが溝113に沿って並んでいる。本実施形態では、4つに区分された空間SPのそれぞれに対して、ガス穴140が複数個ずつ繋がっている。
【0032】
尚、図2においては図示の便宜上、ガス穴140の直径が溝113の幅よりも大きくなっているように描かれているが、実際のガス穴140は、その全体が溝113の内側に収まっている。図4に示されるように、本実施形態では、ガス穴140が溝113の内側に収まるよう、ガス穴140の位置において溝113の幅が局所的に大きくなっている。
【0033】
図1に示されるように、ガス穴140のうち面120側の部分は、面110側の部分に比べて拡径されており、その内側には通気プラグ145が配置されている。通気プラグ145は、例えばアルミナにより形成された多孔質体であり、全体が通気性を有している。このような通気プラグ145をガス穴140の内側に配置することで、ガス穴140におけるガスの流れを確保しながらも、ガス穴140を通じた経路での絶縁破壊の発生を抑制することができる。
【0034】
図2において符号「115」が付されているのは、半導体製造装置に設けられた不図示のリフトピンが挿通される穴である。当該穴のことを、以下では「リフトピン穴115」とも称する。リフトピン穴115は計3つ形成されており、これらが120度等配となるように配置されている。リフトピン穴115を通じて上下に移動するリフトピンにより、誘電体基板100の面110に対する基板Wの着脱が行われる。リフトピン穴115の周囲には、リフトピン穴115と空間SPとの間を隔てるためのシール面が形成されていてもよい。
【0035】
ベースプレート200は、誘電体基板100を支持する略円盤状の部材である。ベースプレート200は、例えばアルミニウムのような金属材料により形成されている。ベースプレート200のうち、図1における上方側の面210は、接合層300を介して誘電体基板100に接合される「被接合面」となっている。
【0036】
図1に示されるように、ベースプレート200には、面210から、その反対側の面220側に向かって垂直に伸びるガス穴240が形成されている。ガス穴240は、上面視において誘電体基板100のガス穴140と重なる位置、のそれぞれに形成されており、接合層300に設けられた貫通穴310を介してガス穴140に連通されている。ガス穴240は、誘電体基板100のガス穴140と共に、空間SPに向けてヘリウムガスを供給するための経路の一部となっている。
【0037】
図1に示されるように、ガス穴240のうち面210側の部分は、面220側の部分に比べて拡径されており、その内側には通気プラグ245が配置されている。通気プラグ245は、例えばアルミナにより形成された多孔質体であり、全体が通気性を有している。このような通気プラグ245をガス穴240の内側に配置することで、ガス穴240におけるガスの流れを確保しながらも、ガス穴240を通じた経路での絶縁破壊の発生を抑制することができる。
【0038】
尚、ガス穴240は、本実施形態のように全体が直線状に伸びるように形成されていてもよいが、面220に向かう途中で屈曲するように形成されていてもよい。また、面210側の複数のガス穴240を、ベースプレート200の内部において少数の流路に集約した上で、当該流路を面220側まで伸ばすような構成としてもよい。
【0039】
ベースプレート200の内部には、冷媒を流すための冷媒流路250が形成されている。半導体製造装置において成膜等の処理が行われる際には、外部から冷媒が冷媒流路250に供給され、これによりベースプレート200が冷却される。処理中において基板Wで生じた熱は、空間SPのヘリウムガス、誘電体基板100、及びベースプレート200を介して冷媒へと伝えられ、冷媒と共に外部へと排出される。
【0040】
ベースプレート200のうち、上面視においてリフトピン穴115と重なる位置のそれぞれには、リフトピンを通すための不図示の貫通穴が形成されている。
【0041】
ベースプレート200の表面には絶縁膜が形成されていてもよい。絶縁膜は、ベースプレート200の表面のうち、少なくとも面210の全体を含む範囲に形成されることが好ましい。絶縁膜としては、例えば、溶射により形成されたアルミナの膜を用いることができる。ベースプレート200の表面を絶縁膜で覆っておくことにより、ベースプレート200の絶縁耐圧を高めることができる。
【0042】
接合層300は、誘電体基板100とベースプレート200との間に設けられた層であって、両者を接合している。接合層300は、絶縁性の材料からなる接着材を硬化させたものである。本実施形態では、上記接着剤としてシリコーン接着剤を用いている。ただし、接合層300は、他の種類の接着剤を硬化させたものであってもよい。いずれの場合であっても、誘電体基板100とベースプレート200との間の熱抵抗が小さくなるように、接合層300の材料としては、可能な限り熱伝導率が高い材料を用いるのが好ましい。
【0043】
吸着電極130の構成について説明する。図3には、誘電体基板100の内部に埋め込まれた吸着電極130の全体が上面視で示されている。同図に示されるように、吸着電極130の外形状は略円形となっており、内側には複数の開口131、132が形成されている。
【0044】
開口131は、上面視においてガス穴140と対応する位置のそれぞれに形成された円形の開口である。上面視においては、開口131の中心とガス穴140の中心とが互いに一致している。開口131の直径はガス穴140の直径よりも大きい。開口132は、上面視においてリフトピン穴115と対応する位置のそれぞれに形成された円形の開口である。上面視においては、開口132の中心とリフトピン穴115の中心とが互いに一致している。開口132の直径はリフトピン穴115の直径よりも大きい。吸着電極130に開口131、132を形成しておくことで、ガス穴140やリフトピン穴115の内面において、吸着電極130が露出してしまうことが防止されている。
【0045】
図4は、図2に示される誘電体基板100の一部を拡大して描いた図である。図4においてハッチングが付されている領域は、誘電体基板100に埋め込まれた吸着電極130を表している。
【0046】
誘電体基板100に形成された複数のシールリング111のうち、図1図4において符号「111A」が付されているシールリング111のことを、以下では「シールリング111A」とも称する。また、誘電体基板100に形成された複数の環状の溝113のうち、図1図4において符号「113A」が付されている溝113のことを、以下では「溝113A」とも称する。
【0047】
溝113Aは、上面視において、シールリング111Aに対し外側から近接する位置に形成されている。このため、溝113Aに沿って並ぶよう形成されたガス穴140の位置も、シールリング111Aに対し近接する位置となっている。
【0048】
シールリング111Aのうち、図4において点線DL1で囲まれている部分のことを、以下では「第1部分P1」とも称する。また、シールリング111Aのうち、図4において点線DL2で囲まれている部分のことを、以下では「第2部分P2」とも称する。
【0049】
点線DL1及び点線DL2の形状は互いに同じであり、位置のみにおいて互いに異なっている。第1部分P1は、溝113A内に形成されたガス穴140の一つ、と隣り合う部分である。尚、ここでいう「隣り合う部分」とは、ガス穴140の中心から、誘電体基板100の中心に向かう方向(つまり径方向)に沿って隣り合っている部分のことである。第2部分P2は、上記の第1部分P1とは異なる位置にある部分であって、溝113A内に形成されたガス穴140とは隣り合っていない部分のことである。
【0050】
図4に示されるように、本実施形態の第2部分P2は、上面視においてその全体が吸着電極130と重なっている。一方、本実施形態の第1部分P1は、上面視において開口131の一部と重なっている。その結果、第1部分P1は、上面視においてその一部のみが吸着電極130と重なっている。
【0051】
ここで、シールリング111の特定部分(例えば第1部分P1等)について、当該部分のうち、上面視において吸着電極130と重なる範囲が占めている割合のことを、以下では「電極割合」と定義する。例えば「第1部分P1の電極割合」とは、図4の第1部分P1の全体のうち、吸着電極130と重なる範囲の占めている割合のことであり、本実施形態では100%よりも小さな値となる。同様に、「第2部分P2の電極割合」とは、図4の第2部分P2の全体のうち、吸着電極130と重なる範囲の占めている割合のことであり、本実施形態では100%となる。このように、本実施形態では、第1部分P1の電極割合が、第2部分P2の電極割合よりも小さくなるように、吸着電極130の形状や位置が設定されている。
【0052】
このような構成としたことの利点について説明する。本発明者らは、ガス穴140やシールリング111の配置において異なる複数形状の静電チャック10について実験を行ったところ、ガス穴140とシールリング111との位置関係によっては、静電チャック10の吸着力が大きくなり過ぎて、所謂離脱応答性が低下してしまうことがあるという知見を得た。その原因は、ガス穴140から供給された不活性ガスの一部が、その近傍にあるシールリング111と基板Wとの間の微小な隙間に入り込み、当該隙間の比誘電率を上昇させ、その結果として当該部分における吸着力を局所的に増大させてしまうためと考えられる。
【0053】
そこで、本実施形態に係る静電チャック10では、ガス穴140と隣り合う第1部分P1、すなわち、ガスの侵入によって局所的に吸着力が増大しやすい部分である第1部分P1の電極割合を、第2部分P2の電極割合よりも小さくしている。これにより、第1部分P1における吸着力は低減されるので、第1部分P1における局所的な吸着力の増大を抑制することができる。その結果、静電チャック10の離脱応答性を向上させることができる。第1部分P1における電極割合は、離脱応答性を実験等により確認しながら、例えば開口131の直径等によって適宜調整すればよい。
【0054】
尚、以上のような第1部分P1は、シールリング111Aのうち、溝113A内に形成された複数のガス穴140と隣り合う位置のそれぞれに設けられている。シールリング111Aのうち、溝113A内に形成された複数のガス穴140と隣り合う位置の全てではなく一部のみを、電極割合の小さな第1部分P1としてもよい。
【0055】
第2部分P2の電極割合は、第1部分P1の電極割合よりも大きくなっているのであれば、本実施形態のような100%でなくてもよい。
【0056】
図4に示されるように、第1部分P1のうち、上面視において吸着電極130と重なっていない領域は、ガス穴140を中心とした円形の領域(具体的には開口131)の一部となっている。このような構成とすることで、開口131等の形成に伴う吸着力の低下を最低限に抑えることができる。つまり、ガス穴140の近傍における局所的な吸着力の増大を抑制する一方で、ガス穴140から遠い部分の吸着力については維持することができる。これにより、静電チャック10の離脱応答性を向上させながらも、静電チャック10の全体における吸着力を十分に確保することができる。
【0057】
第1部分P1における電極割合を小さくするための具体的な方法としては、本実施形態のように吸着電極130に対し円形の開口131を形成することであってもよいが、吸着電極130に対し円弧状の切り欠きを形成することであってもよい。
【0058】
以上に述べた第1部分P1や第2部分P2は、シールリング111A以外の他のシールリング111について採用してもよい。例えば、図2に示されるシールリング111Bは、その内側にある溝113Bと近接する位置にある。このため、シールリング111Bのうち、溝113B内に形成された複数のガス穴140と隣り合う位置のそれぞれが、吸着割合の小さな第1部分P1となるように、吸着電極130の形状等を調整してもよい。
【0059】
同様に、図2に示されるシールリング111Cは、その内側にある溝113Cと近接する位置にある。このため、シールリング111Cのうち、溝113C内に形成された複数のガス穴140と隣り合う位置のそれぞれが、吸着割合の小さな第1部分P1となるように、吸着電極130の形状等を調整してもよい。
【0060】
尚、本実施形態では、シールリング111のうち上面視においてガス穴140と隣り合う部分を、吸着割合の小さな第1部分P1としたが、第1部分P1及び第2部分P2の選定方法は、上記のような方法に限定されない。隙間に対するガスの侵入以外の原因で、シールリング111Aの吸着力が局所的に増大する場合には、当該部分を吸着割合の小さな第1部分P1とし、その他の部分を第2部分P2とすれば、吸着力の局所的な増大を抑制することができる。
【0061】
第1部分P1及び第2部分P2の形状は、図4に例示される形状に限られず、任意の形状とすることができる。いずれの場合であっても、第1部分P1及び第2部分P2を互いに同一な形状とした上で、それぞれの電極割合を算出し比較すればよい。
【0062】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0063】
10:静電チャック
100:誘電体基板
110:面
111:シールリング
130:吸着電極
140:ガス穴
P1:第1部分
P2:第2部分
W:基板
図1
図2
図3
図4