(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175419
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】静電チャック及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20241211BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20241211BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20241211BHJP
C23C 16/458 20060101ALI20241211BHJP
H02N 13/00 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H01L21/205
H01L21/31 B
C23C16/458
H02N13/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093198
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100121843
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 賢郎
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 拓真
(72)【発明者】
【氏名】上藤 淳平
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 雄基
(72)【発明者】
【氏名】板倉 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】山口 康介
(72)【発明者】
【氏名】白石 純
【テーマコード(参考)】
4K030
5F045
5F131
【Fターム(参考)】
4K030GA02
5F045AA03
5F045AF03
5F045EJ03
5F045EM02
5F045EM05
5F045EM07
5F045EM09
5F131AA02
5F131BA04
5F131CA03
5F131DA33
5F131DA42
5F131EA03
5F131EB11
5F131EB14
5F131EB15
5F131EB18
(57)【要約】
【課題】シールリングの幅が全周に亘り均等となっている静電チャック、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】静電チャック10は、基板Wが載置される面110を有する誘電体基板100と、誘電体基板100に形成された環状の突起であって、その先端面が面110の一部となっているシールリング160と、を備える。誘電体基板100は、面110に対し垂直な方向に沿って伸びる内面151と、シールリング160と内面151との間において、シールリング160に沿って環状に伸びる面であって、基板Wには当接しない位置にある平坦面171と、を更に有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被吸着物が載置される載置面を有する誘電体基板と、
前記誘電体基板に形成された環状の突起であって、その先端面が前記載置面の一部となっているシールリングと、を備え、
前記誘電体基板は、
前記載置面に対し垂直な方向に沿って伸びる垂直面と、
前記シールリングと前記垂直面との間において、前記シールリングに沿って環状に伸びる面であって、前記被吸着物には当接しない位置にある平坦面と、を更に有することを特徴とする静電チャック。
【請求項2】
前記誘電体基板には、リフトピンを挿通するためのリフトピン穴が形成されており、
前記垂直面は前記リフトピン穴の内面であり、
前記載置面に対し垂直な方向から見た場合において、
前記シールリングは、前記垂直面よりも外側において、前記垂直面に沿って伸びるように形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の静電チャック。
【請求項3】
前記垂直面は、前記誘電体基板の外側面であり、
前記載置面に対し垂直な方向から見た場合において、
前記シールリングは、前記垂直面よりも内側において、前記垂直面に沿って伸びるように形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の静電チャック。
【請求項4】
前記平坦面と前記垂直面との間には傾斜面が形成されていることを特徴とする、請求項2又は3に記載の静電チャック。
【請求項5】
被吸着物が載置される載置面を有する誘電体基板、を用意する工程と、
前記誘電体基板に、環状の突起であってその先端面が前記載置面の一部となるシールリングと、前記シールリングと隣り合う面であって前記被吸着物には当接しない位置にある平坦面と、を形成する工程と、
前記誘電体基板に、前記載置面に対し垂直な方向に沿って伸びる垂直面を形成する工程と、を含み、
前記垂直面及び前記シールリングの両方の形成が完了した時点において、前記垂直面と前記シールリングとの間には前記平坦面が環状に形成されていることを特徴とする、静電チャックの製造方法。
【請求項6】
前記平坦面と前記垂直面との間に傾斜面を形成する工程、を更に含むことを特徴とする、請求項5に記載の静電チャックの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャック及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばCVD装置等の半導体製造装置には、処理の対象となるシリコンウェハ等の基板を吸着し保持するための装置として、静電チャックが設けられる。静電チャックは、吸着電極が設けられた誘電体基板を備える。吸着電極に電圧が印加されると静電力が生じ、誘電体基板上に載置された基板が吸着され保持される。
【0003】
下記特許文献1に記載されているように、誘電体基板のうち基板側の面には、環状の突起であるシールリング(シールバンド)が1つまたは複数形成される。シールリングの周囲の空間、すなわち、誘電体基板と基板との間の空間には、処理中における基板の温度調整等を目的として、ヘリウム等の不活性ガスが供給される。不活性ガスは、誘電体基板に形成されたガス穴を通じて上記空間に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
環状の突起であるシールリングの幅が、周方向に沿った一部において局所的に狭くなっている場合には、当該部分におけるシール性能が低下して、圧力分布の面内均一性が損なわれてしまう等の問題が生じ得る。このため、シールリングの幅は全周に亘り均等となっていることが好ましい。
【0006】
このため、例えば、誘電体基板の最外周となる位置にシールリングを設ける場合には、上面視における誘電体基板の外側面の中心位置と、上面視におけるシールリングの内側面の中心位置とを、互いに一致させる必要がある。しかしながら、誘電体基板の外側面の加工と、シールリングの形成とは、それぞれ別工程で行われるので、上記の各中心位置を互いに一致させるのは容易ではない。
【0007】
また、誘電体基板のリフトピン穴を外側から囲むようにシールリングを設ける場合にも、上記と同様の問題が生じ得る。この場合、上面視におけるリフトピン穴の中心位置と、上面視におけるシールリングの外側面の中心位置とを、互いに一致させる必要がある。しかしながら、リフトピン穴の加工と、シールリングの形成とは、それぞれ別工程で行われるので、やはり上記の各中心位置を互いに一致させるのは容易ではない。
【0008】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、シールリングの幅が全周に亘り均等となっている静電チャック、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る静電チャックは、被吸着物が載置される載置面を有する誘電体基板と、誘電体基板に形成された環状の突起であって、その先端面が載置面の一部となっているシールリングと、を備える。誘電体基板は、載置面に対し垂直な方向に沿って伸びる垂直面と、シールリングと垂直面との間において、シールリングに沿って環状に伸びる面であって、被吸着物には当接しない位置にある平坦面と、を更に有する。
【0010】
上記の「垂直面」とは、例えばリフトピン穴の内面や誘電体基板の外側面のことであり、上面視において、略同一形状のシールリングがその近傍に配置されるような面のことである。
【0011】
上記構成の静電チャックでは、シールリングと垂直面との間が直接は繋がっておらず、両者の間に環状の平坦面が設けられている。このような構成においては、シールリングの内側面及び外側面のいずれも、垂直面によっては規定されず、垂直面とは無関係にその位置や形状が定まることになる。従って、上面視における垂直面の中心を、シールリングの外側面又は内側面の中心と一致させるような精密な加工を行うことなく、シールリングの幅を全周に亘り容易に均等とすることができる。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係る静電チャックの製造方法は、被吸着物が載置される載置面を有する誘電体基板、を用意する工程と、誘電体基板に、環状の突起であってその先端面が載置面の一部となるシールリングと、シールリングと隣り合う面であって被吸着物には当接しない位置にある平坦面と、を形成する工程と、誘電体基板に、載置面に対し垂直な方向に沿って伸びる垂直面を形成する工程と、を含む。垂直面及びシールリングの両方の形成が完了した時点において、垂直面とシールリングとの間には平坦面が環状に形成されている。
【0013】
このような静電チャックの製造方法によれば、垂直面及びシールリングの両方の形成が完了した時点において、両者の間には環状の平坦面が形成された状態となっている。このため、上面視における垂直面の中心を、シールリングの外側面又は内側面の中心と一致させるような精密な加工を行うことなく、シールリングの幅を全周に亘り容易に均等とすることができる。このような効果は、垂直面及びシールリングのどちらを先に形成する場合であっても同様に奏される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シールリングの幅が全周に亘り均等となっている静電チャック、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係る静電チャックの構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図1の静電チャックが備える誘電体基板の構成を示す図である。
【
図3】誘電体基板のうち、リフトピン穴及びその近傍の構成を示す斜視図である。
【
図4】誘電体基板のうち、リフトピン穴及びその近傍の構成を示す斜視図である。
【
図5】誘電体基板のうち、リフトピン穴及びその近傍の構成を上面視で示す図である。
【
図6】
図1の静電チャックの製造方法について説明するための図である。
【
図7】誘電体基板のうち、最外周部分の構成を示す断面図である。
【
図8】
図1の静電チャックの製造方法について説明するための図である。
【
図9】比較例に係る静電チャックの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら本実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0017】
本実施形態に係る静電チャック10は、例えばCVD成膜装置のような不図示の半導体製造装置の内部において、処理対象となる基板Wを静電力によって吸着し保持するものである。基板Wは「被吸着物」に該当するものであり、例えばシリコンウェハである。静電チャック10は、半導体製造装置以外の装置に用いられてもよい。
【0018】
図1には、基板Wを吸着保持した状態の静電チャック10の構成が、模式的な断面図として示されている。静電チャック10は、誘電体基板100と、ベースプレート200と、接合層300と、を備える。
【0019】
誘電体基板100は、セラミック焼結体からなる略円盤状の部材である。誘電体基板100は、例えば高純度の酸化アルミニウム(Al2O3)を含むが、他の材料を含んでもよい。誘電体基板100におけるセラミックスの純度や種類、添加物等は、半導体製造装置において誘電体基板100に求められる耐プラズマ性等を考慮して、適宜設定することができる。
【0020】
誘電体基板100のうち
図1における上方側の面110は、基板Wが載置される「載置面」となっている。また、誘電体基板100のうち
図1における下方側の面120は、後述の接合層300を介してベースプレート200に接合される「被接合面」となっている。面110に対し垂直な方向に沿って、面110側から静電チャック10を見た場合の視点のことを、以下では「上面視」のようにも表記する。
【0021】
誘電体基板100の内部には吸着電極130が埋め込まれている。吸着電極130は、例えばタングステン等の金属材料により形成された薄い平板状の層であり、面110に対し平行となるように配置されている。吸着電極130の材料としては、タングステンの他、モリブデン、白金、パラジウム等を用いてもよい。給電路13を介して外部から吸着電極130に電圧が印加されると、面110と基板Wとの間に静電力が生じ、これにより基板Wが吸着保持される。吸着電極130は、本実施形態のように所謂「単極」の電極として1つだけ設けられていてもよいが、所謂「双極」の電極として2つ設けられていてもよい。
【0022】
図1においては、給電路13の全体が簡略化して描かれている。給電路13のうち誘電体基板100の内部の部分は、例えば、導電体の充填された細長いビア(穴)として構成されており、その下端には不図示の電極端子が設けられている。給電路13のうち後述のベースプレート200を貫いている部分は、上記の電極端子に一端が接続された導電性の金属部材(例えばバスバー)である。ベースプレート200には、給電路13を挿通するための不図示の貫通穴が形成されている。当該貫通穴の内面と給電路13との間には、例えば円筒状の絶縁部材が設けられていてもよい。
【0023】
図1に示されるように、誘電体基板100と基板Wとの間には空間SPが形成されている。半導体製造装置において成膜等の処理が行われる際には、空間SPには、後述のガス穴140等を介して外部から温度調整用の不活性ガスが供給される。誘電体基板100と基板Wとの間に不活性ガスを介在させることで、両者間の熱抵抗が調整され、これにより基板Wの温度が適温に保たれる。尚、空間SPに供給される温度調整用の不活性ガスとしては、本実施形態ではヘリウムガスが用いられるが、ヘリウムガスとは異なる種類のガスであってもよい。
【0024】
図2は、誘電体基板100を上面視で描いた図である。同図に示されるように、載置面である面110には、シールリング111やドット112が設けられており、上記の空間SPはこれらの周囲に形成されている。尚、誘電体基板100の面110には、上記の他にシールリング160(
図3等を参照)も設けられているのであるが、これについては後に説明する。
【0025】
シールリング111は、空間SPを区画する壁として設けられた環状の突起である。シールリング111は複数設けられており、上面視において同心円状に並んでいる。それぞれのシールリング111の先端(
図1における上端)は、面110の一部となっており、全周に亘り基板Wに当接する。本実施形態では、計4つのシールリング111が設けられており、これにより空間SPは4つに分けられている。このような構成とすることで、それぞれの空間SPにおけるヘリウムガスの圧力を個別に調整し、処理中における基板Wの表面温度分布を均一に近づけることが可能となる。
【0026】
尚、上面視における各シールリング111の形状は、本実施形態のように円形であってもよいが、円形とは異なる形状であってもよい。例えば、基板Wに形成されたノッチやオリフラと対応する部分において、シールリング111の一部が直線状となっていてもよい。
【0027】
図1や
図2において符号「116」が付されている部分は、空間SPの底面である。以下では、当該部分のことを「底面116」とも称する。シールリング111は、次に述べるドット112や後述のシールリング160と共に、面110の一部を底面116の位置まで掘り下げた結果として形成されている。底面116は面110に対して平行である。
【0028】
ドット112は、底面116から突出する円形の突起である。
図2に示されるように、ドット112は複数設けられており、誘電体基板100の載置面において略均等に分散配置されている。それぞれのドット112の上端は、面110の一部となっており、基板Wに当接する。このようなドット112を複数設けておくことで、基板Wの撓みが抑制される。
【0029】
空間SPの底面116には、溝113が形成されている。溝113は、底面116から更に面120側へと後退させるように形成された溝である。溝113は、ガス穴140から供給されるヘリウムガスを、空間SP内に素早く拡散させ、空間SP内の圧力分布を短時間のうちに略均一とすることを目的として形成されている。
【0030】
誘電体基板100には、面120から面110側に向かって垂直に伸びるガス穴140が形成されている。ガス穴140は、空間SPにガスを供給するための穴である。
図1や
図2に示されるように、ガス穴140のうち面110側の端部は、溝113の底面において開口している。誘電体基板100において、ガス穴140は複数形成されており、これらが溝113に沿って並んでいる。本実施形態では、4つに区分された空間SPのそれぞれに対して、ガス穴140が複数個ずつ繋がっている。
【0031】
尚、
図2においては図示の便宜上、ガス穴140の直径が溝113の幅よりも大きくなっているように描かれているが、実際のガス穴140は、その全体が溝113の内側に収まっている。
図4に示されるように、本実施形態では、ガス穴140が溝113の内側に収まるよう、ガス穴140の位置において溝113の幅が局所的に大きくなっている。
【0032】
図1及び
図2において符号「150」が付されているのは、半導体製造装置に設けられた不図示のリフトピンが挿通される穴である。当該穴のことを、以下では「リフトピン穴150」とも称する。リフトピン穴150は計3つ形成されており、これらが120度等配となるように配置されている。それぞれのリフトピン穴150は、面110に対し垂直な方向に沿って直線状に伸びるように形成されている。リフトピン穴150を通じて上下に移動するリフトピンにより、誘電体基板100の面110に対する基板Wの着脱が行われる。
【0033】
ベースプレート200は、誘電体基板100を支持する略円盤状の部材である。ベースプレート200は、例えばアルミニウムのような金属材料により形成されている。ベースプレート200のうち、
図1における上方側の面210は、接合層300を介して誘電体基板100に接合される「被接合面」となっている。
【0034】
図1に示されるように、ベースプレート200には、面210から、その反対側の面220側に向かって垂直に伸びるガス穴240が形成されている。ガス穴240は、上面視において誘電体基板100のガス穴140と重なる位置、のそれぞれに形成されており、接合層300に設けられた貫通穴を介してガス穴140に連通されている。ガス穴240は、誘電体基板100のガス穴140と共に、空間SPに向けてヘリウムガスを供給するための経路の一部となっている。
【0035】
尚、ガス穴240は、本実施形態のように全体が直線状に伸びるように形成されていてもよいが、面220に向かう途中で屈曲するように形成されていてもよい。また、面210側の複数のガス穴240を、ベースプレート200の内部において少数の流路に集約した上で、当該流路を面220側まで伸ばすような構成としてもよい。
【0036】
ベースプレート200の内部には、冷媒を流すための冷媒流路260が形成されている。半導体製造装置において成膜等の処理が行われる際には、外部から冷媒が冷媒流路260に供給され、これによりベースプレート200が冷却される。処理中において基板Wで生じた熱は、空間SPのヘリウムガス、誘電体基板100、及びベースプレート200を介して冷媒へと伝えられ、冷媒と共に外部へと排出される。
【0037】
ベースプレート200のうち、上面視においてリフトピン穴150と重なる位置のそれぞれには、リフトピンを通すためのリフトピン穴250が形成されている。リフトピン穴250もリフトピン穴150と同様に、面110に対し垂直な方向に沿って直線状に伸びるように形成されており、接合層300に設けられた貫通穴を介してリフトピン穴150に連通されている。
【0038】
ベースプレート200の表面には絶縁膜が形成されていてもよい。絶縁膜は、ベースプレート200の表面のうち、少なくとも面210の全体を含む範囲に形成されることが好ましい。絶縁膜としては、例えば、溶射により形成されたアルミナの膜を用いることができる。ベースプレート200の表面を絶縁膜で覆っておくことにより、ベースプレート200の絶縁耐圧を高めることができる。
【0039】
接合層300は、誘電体基板100とベースプレート200との間に設けられた層であって、両者を接合している。接合層300は、絶縁性の材料からなる接着材を硬化させたものである。本実施形態では、上記接着剤としてシリコーン接着剤を用いている。ただし、接合層300は、他の種類の接着剤を硬化させたものであってもよい。いずれの場合であっても、誘電体基板100とベースプレート200との間の熱抵抗が小さくなるように、接合層300の材料としては、可能な限り熱伝導率が高い材料を用いるのが好ましい。
【0040】
誘電体基板100のうち、リフトピン穴150の近傍部分の具体的な構成について、
図3乃至5を参照しながら説明する。
図3には、誘電体基板100のうち、リフトピン穴150の面110側の端部及びその近傍部分の構成が斜視図として示されている。
図4には、リフトピン穴150の中心軸を含む面に沿って誘電体基板100を切断した場合における、リフトピン穴150の面110側の端部及びその近傍部分の構成が斜視図として示されている。
図5には、リフトピン穴150及びその近傍部分の構成が上面視で示されている。
【0041】
図5等に示されるように、リフトピン穴150の周囲にはシールリング160が設けられている。シールリング160は、先に述べたシールリング111と同様に、誘電体基板100の面110側に形成された環状の突起である。シールリング160の先端(
図1における上端)は、面110の一部となっており、基板Wに当接する。
【0042】
上面視において、シールリング160の形状は円形であり、その内側面及び外側面のそれぞれの中心は、いずれもリフトピン穴150の中心に一致している。換言すれば、シールリング160は、リフトピン穴150を外側から囲むよう上面視で円形に伸びている突起であり、その幅は全周に亘り均等となっている。
【0043】
面110に基板Wが吸着された状態においては、シールリング160によって、リフトピン穴150の内部空間と空間SPとの間が隔てられる。このため、リフトピン穴150の内部の圧力を、空間SPの圧力とは異なる圧力となるよう調整することが可能となっている。例えば、リフトピン穴150の内部の圧力を、空間SPの圧力よりも低圧とし、絶縁破壊の発生を防止し得る程度の低圧域に維持することができる。また、リフトピン穴150の内部の圧力を、空間SPの圧力よりも高圧とすることで、基板Wのうちリフトピン穴150の直上部分を、その周囲と同程度の温度となるよう冷却するようなこともできる。
【0044】
図3等において符号「151」が付されているのは、リフトピン穴150の内面である。以下では、当該内面のことを「内面151」とも称する。内面151は、載置面である面110に対し垂直な方向に沿って伸びる面であり、本実施形態における「垂直面」の1つに該当する。上面視において、シールリング160は、垂直面である内面151の外側において、内面151に沿って円形に伸びるように形成された突起となっている。
【0045】
本実施形態の内面151は、シールリング160の上端面(面110)に対して直接繋がってはいない。
図5等に示されるように、上面視において内面151とシールリング160との間となる位置には、平坦面171が設けられている。平坦面171は、シールリング160の内周側に沿って環状に伸びる面となっており、内面151とシールリング160との間を全周に亘り隔てている。
【0046】
図3や
図4に示されるように、平坦面171は、シールリング160の上端面(面110)に対し平行な面であって、底面116と同じ高さ位置にある面となっている。ここでいう「同じ高さ位置」とは、面120からの距離が同じであることを意味する。平坦面171が底面116と同じ高さ位置にあるので、面110に吸着されている状態の基板Wが、平坦面171に当接することは無い。平坦面171の高さ位置は、被吸着物である基板Wには当接しない位置、ということもできる。
【0047】
図5に示されるように、平坦面171が設けられていることにより、上面視におけるシールリング160の内側面は、リフトピン穴150の内面151とは異なる位置にある。仮に、上面視におけるリフトピン穴150の位置が僅かにずれたとしても、当該ずれは平坦面171によって吸収されるので、シールリング160の形状には影響を及ぼさない。換言すれば、上面視におけるリフトピン穴150の位置が僅かにずれたとしても、シールリング160の幅が局所的に狭くなったり広くなったりすることは無い。
【0048】
仮に、シールリングの160の幅が局所的に狭くなっている場合には、当該部分におけるシール性能が低下して、圧力分布の面内均一性が損なわれてしまう等の問題が生じ得る。シールリングの160の幅が局所的に広くなっている場合も同様である。そこで、本実施形態では上記のように、内面151とシールリング160との間に平坦面171を設けることによって、シールリングの160の幅を全周に亘り均等とし、上記のような問題の発生を防止している。
【0049】
図4等に示されるように、平坦面171と内面151との間には傾斜面181が形成されている。傾斜面181は、平坦面171側から内面151側に行くに従って面120側(
図4の下方側)に向かうよう、平坦面171等に対して傾斜した面となっている。
図5に示されるように、傾斜面181は、上面視において内面151を全周に亘り囲むよう形成されている。傾斜面181を形成しておくことで、平坦面171と内面151との間のコーナー部分で欠損が生じてしまうこと等が防止される。
【0050】
傾斜面181の形状は、本実施形態では、
図4の断面における稜線が直線状となるような形状であるが、これとは異なる形状であってもよい。
【0051】
図6を参照しながら、静電チャック10の製造方法のうち、リフトピン穴150やシールリング160を形成する方法について説明する。
【0052】
先ず、
図6(A)に示されるように誘電体基板100が用意される。この時点における誘電体基板100には、内部に不図示の吸着電極130が形成されている。一方、シールリング111、160やドット112等の凹凸については未だ形成されていない。載置面である面110は、この時点ではその全体が平坦な面となっている。面110は、載置面に求められる表面粗さとなるように、予め全体に研磨が施されている。
【0053】
続いて、
図6(B)に示されるように、誘電体基板100にリフトピン穴150が形成される。つまり、誘電体基板100に、面110に対し垂直な方向に沿って伸びる垂直面、である内面151が形成される。この時点では、リフトピン穴150の内面151は、上端において面110に繋がっている。誘電体基板100には、リフトピン穴150と同様に、
図6において不図示のガス穴140も形成される。
【0054】
続いて、
図6(C)に示されるように、面110の一部を例えばサンドブラスト加工により掘り下げることで、シールリング160が形成される。掘り下げられた部分の全体は底面116となる。このとき、
図6においては不図示のドット112やシールリング111も同時に形成される。サンドブラスト加工に先立ち、面110のうち残すべき部分(つまり、シールリング160、111、ドット112となる部分)には、予めマスキングが施される。
【0055】
面110のうち、シールリング160として残る部分と内面151との間の環状部分は、マスキングが施されず、サンドブラスト加工の対象となる。このため、当該部分も掘り下げられ、底面116となる。シールリング160と内面151との間にできた底面116は、先に述べた平坦面171となる。このように、
図6(C)の状態とするための上記工程は、シールリング160と、それに隣り合う平坦面171と、の両方を同時に形成する工程となっている。
【0056】
尚、本実施形態のように誘電体基板100に溝113が設けられる場合には、上記のようなシールリング160や平坦面171を形成するよりも前に、面110に対しサンドブラスト加工によって溝113のみを先に形成しておけばよい。
【0057】
以上の例では、
図6(B)のように内面151を形成する工程が先に行われた後で、
図6(C)のようにシールリング160及び平坦面171を形成する工程が行われる。しかしながら、この順序は逆になっていてもよい。つまり、シールリング160及び平坦面171を形成する工程が先に行われた後に、内面151を形成する工程が行われてもよい。いずれにしても、内面151及びシールリング160の両方の形成が完了した時点においては、内面151とシールリング160との間には平坦面171が環状に形成された状態となっている。
【0058】
シールリング160等の形成が完了した後は、
図6(D)に示されるように、平坦面171と内面151との間に傾斜面181を形成する。傾斜面181は、平坦面171と内面151との間のコーナー部分に対し、例えば傘砥石等を用いた面取り加工を施すことにより形成すればよい。
【0059】
シールリング160の内側に平坦面171を設けたことの効果を示すために、
図9の比較例の構成について説明する。この比較例では、内面151とシールリング160との間に平坦面171が設けられていない。この比較例では、
図9(B)に示されるように、内面151とシールリング160との間が、傾斜面181のみを介して繋がっている。尚、
図9(A)に示されるのは、サンドブラスト加工によってシールリング160が形成された直後の状態、すなわち、傾斜面181が形成されるよりも前の状態である。
【0060】
図9(A)に示されるように、この比較例では、シールリング160が形成された直後において、内面151がシールリング160の上端面(面110)に対して直接繋がっている。このため、例えばサンドブラスト加工においてマスキングの位置ずれなどが生じると、上面視において、内面151の中心とシールリング160の外側面の中心とが互いに一致しなくなる。その結果、シールリング160の幅は全周に亘り均等とはならず、一部において幅の狭い部分が生じてしまうこととなる。このようなシールリング160の幅の不均等は、
図9(B)のように傾斜面181が形成された以降においても残ってしまう。
【0061】
また、
図9(A)の時点において、仮に、内面151の中心とシールリング160の外側面の中心とが互いに一致したとしても、その後に傾斜面181を形成する際において、加工誤差等に伴いシールリング160の幅が局所的に狭くなってしまうことは生じ得る。
【0062】
これに対し、本実施形態では、シールリング160の形成時におけるマスキングの位置ズレや、傾斜面181の形成時の加工誤差等が生じたとしても、これらは平坦面171によって吸収されるので、その外側にあるシールリング160の形状には影響を及ぼさない。従って、本実施形態では、上面視における内面151の中心を、シールリング160の外側面の中心と一致させる等の精密な加工を行うことなく、シールリング160の幅を全周に亘り容易に均等とすることができる。
【0063】
尚、本実施形態では、上記のようなシールリング160近傍における形状の工夫を、最外周にあるシールリング111の近傍に対しても適用している。当該シールリング111のことを、以下では特に「シールリング111A」とも称する。
【0064】
図7には、誘電体基板100のうち、シールリング111A及びその近傍の構成が、模式的な断面図として示されている。同図において符号「101」が付されているのは、誘電体基板100の外側面である。当該外側面のことを、以下では「外側面101」とも称する。外側面101は、面110に対し垂直な方向に沿って伸びる面であり、先に述べた内面151と共に、本実施形態における「垂直面」の1つに該当する。
【0065】
上面視において、シールリング111Aの形状は円形であり、その内側面及び外側面のそれぞれの中心は、いずれも外側面101の中心に一致している。ただし、シールリング111Aの外側面の直径は、外側面101の直径よりも小さい。つまり、シールリング111Aは、垂直面である外側面101よりも内側において、外側面101に沿って円形に伸びるように形成された突起となっている。
【0066】
外側面101は、シールリング111Aの上端面(面110)に対して直接繋がってはいない。
図2に示されるように、上面視において外側面101とシールリング111Aとの間となる位置には、平坦面172が設けられている。平坦面172は、シールリング111Aの外周側に沿って環状に伸びる面となっており、外側面101とシールリング111Aとの間を全周に亘り隔てている。
【0067】
図7に示されるように、平坦面172は、シールリング111Aの上端面(面110)に対し平行な面であって、底面116と同じ高さ位置にある面となっている。平坦面171が底面116と同じ高さ位置にあるので、面110に吸着されている状態の基板Wが、平坦面172に当接することは無い。平坦面172の高さ位置は、被吸着物である基板Wには当接しない位置、ということもできる。
【0068】
平坦面172が設けられていることにより、上面視におけるシールリング111Aの外側面は、外側面101とは異なる位置にある。仮に、上面視におけるシールリング111Aの位置が僅かにずれたとしても、当該ずれは平坦面171によって吸収されるので、シールリング111Aの形状には影響を及ぼさない。換言すれば、上面視におけるシールリング111Aの位置が僅かにずれたとしても、シールリング111Aの幅が局所的に狭くなったり広くなったりすることは無い。
【0069】
仮に、シールリングの111Aの幅が局所的に狭くなっている場合には、当該部分におけるシール性能が低下して、圧力分布の面内均一性が損なわれてしまう等の問題が生じ得る。シールリングの111Aの幅が局所的に広くなっている場合も同様である。そこで、本実施形態では上記のように、外側面101とシールリング111Aとの間に平坦面172を設けることによって、シールリングの111Aの幅を全周に亘り均等とし、上記のような問題の発生を防止している。
【0070】
図7に示されるように、平坦面172と外側面101との間には傾斜面182が形成されている。傾斜面182は、平坦面172側から外側面101側に行くに従って面120側(
図7の下方側)に向かうよう、平坦面172等に対して傾斜した面となっている。傾斜面182は、上面視において平坦面172を全周に亘り囲むよう形成されている。傾斜面182を形成しておくことで、平坦面172と外側面101との間のコーナー部分で欠損が生じてしまうこと等が防止される。
【0071】
傾斜面182の形状は、本実施形態では、
図7の断面における稜線が直線状となるような形状であるが、これとは異なる形状であってもよい。
【0072】
図8を参照しながら、静電チャック10の製造方法のうち、シールリング11A等を形成する方法について説明する。
【0073】
先ず、
図8(A)に示されるように誘電体基板100が用意される。この工程は、
図6(A)を参照しながら説明した工程と同じものである。このとき、誘電体基板100には、面110の平面度や粗さを調整するための加工が施されるが、必要に応じ、外側面101の形状(例えば上面視における真円度等)を調整するための加工が施される。
【0074】
その後、
図8(B)に示されるように、面110の一部を例えばサンドブラスト加工により掘り下げることで、シールリング111Aが形成される。掘り下げられた部分の全体は底面116となる。この工程は、
図6(C)を参照しながら説明した工程と同時に行われるものである。
【0075】
面110のうち、シールリング111Aとして残る部分と外側面101との間の環状部分は、マスキングが施されず、サンドブラスト加工の対象となる。このため、当該部分も掘り下げられ、底面116となる。シールリング111Aと外側面101との間にできた底面116は、先に述べた平坦面172となる。このように、
図8(B)の状態とするための上記工程は、シールリング111Aと、それに隣り合う平坦面172と、の両方を同時に形成する工程となっている。
【0076】
以上の例では、
図8(A)のように外側面101を形成する工程が先に行われた後で、
図8(B)のようにシールリング111A及び平坦面172を形成する工程が行われる。しかしながら、この順序は逆になっていてもよい。つまり、シールリング111A及び平坦面172を形成する工程が先に行われた後に、外側面101を形成する工程が行われてもよい。いずれにしても、外側面101及びシールリング111Aの両方の形成が完了した時点においては、外側面101とシールリング111Aとの間には平坦面172が環状に形成された状態となっている。
【0077】
シールリング111A等の形成が完了した後は、
図8(C)に示されるように、平坦面172と外側面101との間に傾斜面182を形成する。傾斜面182は、平坦面172と外側面101との間のコーナー部分に対し、例えば傘砥石等を用いた面取り加工を施すことにより形成すればよい。
【0078】
シールリング111Aの外側に平坦面172を設けたことの効果は、シールリング160の内側に平坦面171を設けたことの効果と概ね同じである。本実施形態では、シールリング111Aの形成時におけるマスキングの位置ズレや、傾斜面182の形成時の加工誤差等が生じたとしても、これらは平坦面172によって吸収されるので、その内側にあるシールリング111Aの形状には影響を及ぼさない。従って、本実施形態では、上面視における平坦面172の中心と、シールリング111Aの内側面の中心と一致させる等の精密な加工を行うことなく、シールリング111Aの幅を全周に亘り容易に均等とすることができる。
【0079】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0080】
10:静電チャック
100:誘電体基板
101:外側面
110:面
111A,160:シールリング
150:リフトピン穴
151:内面
171,172:平坦面
181,182:傾斜面
W:基板