IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-駆動装置 図1
  • 特開-駆動装置 図2
  • 特開-駆動装置 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175423
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20241211BHJP
【FI】
H02P27/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093205
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山川 隼史
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE49
5H505GG02
5H505GG04
5H505HA05
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ24
5H505JJ25
5H505JJ26
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL41
5H505LL58
(57)【要約】
【課題】モータの相電流のうねりのオフセットにより適切な対処を行なう。
【解決手段】駆動装置は、モータと、モータを駆動するインバータと、インバータに電力ラインを介して接続された蓄電装置と、電力ラインに取り付けられたコンデンサと、モータの相電流に基づいてインバータを制御する制御装置と、を備える。制御装置は、モータの相電流のうねりのオフセット量を検出し、オフセット量に基づいてモータの相電圧を補正する。これにより、モータの相電流のうねりのオフセットにより適切な対処を行なうことができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、前記モータを駆動するインバータと、前記インバータに電力ラインを介して接続された蓄電装置と、前記電力ラインに取り付けられたコンデンサと、前記モータの相電流に基づいて前記インバータを制御する制御装置と、を備える駆動装置であって、
前記制御装置は、前記モータの相電流のうねりのオフセット量を検出し、前記うねりのオフセット量に基づいて前記モータの相電圧を補正する、
駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータと、モータを駆動するためのインバータと、バッテリと、リアクトルおよびコンデンサを有すると共にインバータが接続された第1電力ラインとバッテリが接続された第2電力ラインとに接続された昇圧コンバータとを備える駆動装置において、第1電力ラインの電圧が目標電圧となるようにリアクトルの目標電流を設定すると共にリアクトルの電流が目標電流となるようにゲインを用いて昇圧コンバータを制御する電流制御を実行するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この駆動装置では、モータの回転数に基づくモータの電力変動の周波数が、電流制御を実行したときに昇圧コンバータのリアクトルおよびコンデンサを含む回路に共振が生じる共振周波数帯外の周波数となるようにゲインを設定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-51065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モータと、モータを駆動するインバータと、インバータに電力ラインを介して接続された蓄電装置と、電力ラインに取り付けられたコンデンサと、を備える駆動装置において、モータの動作点などによっては、モータの相電流にうねりのオフセットを生じる場合がある。
【0005】
本開示の駆動装置は、モータの相電流のうねりのオフセットにより適切な対処を行なうことを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の駆動装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本開示の駆動装置は、
モータと、前記モータを駆動するインバータと、前記インバータに電力ラインを介して接続された蓄電装置と、前記電力ラインに取り付けられたコンデンサと、前記モータの相電流に基づいて前記インバータを制御する制御装置と、を備える駆動装置であって、
前記制御装置は、前記モータの相電流のうねりのオフセット量を検出し、前記うねりのオフセット量に基づいて前記モータの相電圧を補正する、
ことを要旨とする。
【0008】
本開示の駆動装置では、モータの相電流のうねりのオフセット量を検出し、検出したうねりのオフセット量に基づいてモータの相電圧を補正する。これにより、モータの相電流のうねりのオフセットにより適切な対処を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の駆動装置を搭載する電気自動車20の概略構成図である。
図2】ECU50により実行される処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
図3】U相の相電流Iuの様子の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態の駆動装置を搭載する電気自動車20の概略構成図である。図示するように、本実施形態の電気自動車20は、モータ32と、インバータ34と、蓄電装置としてのバッテリ36と、電子制御ユニット(以下、「ECU」という)50とを備える。
【0011】
モータ32は、三相交流電動機として構成されており、回転子コアに永久磁石が埋め込まれた回転子と、固定子コアに三相コイルが巻回された固定子とを備える。モータ32の回転子は、駆動輪22a,22bにデファレンシャルギヤ24を介して連結された駆動軸26に接続されている。
【0012】
インバータ34は、モータ32の駆動に用いられると共にバッテリ36と共に電力ライン38に接続されている。インバータ34は、6つのスイッチング素子としてのトランジスタT11~T16と、6つのトランジスタT11~T16にそれぞれ並列に接続された6つのダイオードD11~D16とを備える。トランジスタT11~T16は、それぞれ、電力ライン38の正極側ラインと負極側ラインとに対してソース側とシンク側になるように2個ずつペアで配置されている。トランジスタT11~T16の対となるトランジスタの接続点の各々は、モータ32の三相(U相、V相、W相)コイルの各々に接続されている。したがって、インバータ34に電圧が作用しているときに、ECU50によって、対となるトランジスタT11~T16のオン時間の割合が調節されることにより、三相コイルに回転磁界が形成され、モータ32が回転駆動される。電力ライン38には、平滑用のコンデンサ39が取り付けられている。
【0013】
バッテリ36は、例えば定格電圧が数百V程度のリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池として構成されており、上述したように、インバータ34と共に電力ライン38に接続されている。
【0014】
ECU50は、マイクロコンピュータを備えており、マイクロコンピュータは、CPUやROM、RAM、フラッシュメモリ、入出力ポート、通信ポートを有する。ECU50は、各種センサからの信号を入力ポートを介して入力している。例えば、ECU50は、モータ32の回転子の回転位置を検出する回転位置センサ(例えば、レゾルバ)32aからの回転位置θmや、モータ32のV相、W相の電流を検出する電流センサ32u,32v,32wからの相電流Iu,Iv,Iwを入力している。バッテリ36の端子間に取り付けられた電圧センサ36aからの電圧Vbや、バッテリ36の出力端子に取り付けられた電流センサ36bからの電流Ib、コンデンサ39の端子間に取り付けられた電圧センサ39aからのコンデンサ39の電圧(電力ライン38の電圧)VHも入力している。スタートスイッチ60からのスタート信号や、シフトレバー61の操作位置を検出するシフトセンサ62からのシフトポジションSP、アクセルペダル63の踏込量を検出するアクセルペダルポジションセンサ64からのアクセル開度Acc、ブレーキペダル65の踏込量を検出するブレーキペダルポジションセンサ66からのブレーキペダルポジションBP、車速センサ67からの車速Vも入力している。
【0015】
ECU50は、各種制御信号を出力ポートを介して出力している。例えば、ECU50は、インバータ34の複数のスイッチング素子への制御信号を出力している。ECU50は、回転位置センサ32aからのモータ32の回転子の回転位置θmに基づいてモータ32の電気角θeや回転数Nmを演算している。
【0016】
こうして構成された本実施形態の電気自動車20では、ECU50は、アクセル開度Accおよび車速Vに基づいて走行に要求される(駆動軸26に要求される)要求トルクTd*を設定し、設定した要求トルクTd*をモータ32のトルク指令Tm*に設定し、モータ32がトルク指令Tm*で駆動されるようにインバータ34の複数のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。
【0017】
ここで、インバータ34は、パルス幅変調(PWM)制御により制御される。PWM制御では、ECU50は、最初に、モータ32のトルク指令Tm*に基づいてdq軸座標系におけるd軸、q軸の電流指令Id*,Iq*を設定する。続いて、モータ32の電気角θeを用いてU相、V相、W相の相電流Iu,Iv,Iwをd軸、q軸の電流Id,Iqに座標変換(3相-2相変換)する。そして、d軸、q軸の電流指令Id*,Iq*と電流Id,Iqとの差分が打ち消されるようにd軸、q軸の電圧指令Vd*,Vq*を演算し、モータ32の電気角θeを用いてd軸、q軸の電圧指令Vd*,Vq*を各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に座標変換(2相-3相変換)する。さらに、各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vwと搬送波(三角波)電圧との比較によりトランジスタT11~T16のPWM信号を生成し、生成したPWM信号を用いてトランジスタT11~T16のスイッチング制御を行なう。
【0018】
次に、本実施形態の電気自動車20の動作、特に、U相の電圧指令Vu*を補正する処理について説明する。図2は、ECU50により実行される処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。本ルーチンは、繰り返し実行される。
【0019】
図2の処理ルーチンが実行されると、ECU50は、最初に、U相の相電流Iuのうねりのオフセット量Iuofを検出する(ステップS100)。図3は、U相の相電流Iuの様子の一例を示す説明図である。モータ32の動作点(トルク、回転数)などによっては、バッテリ36からコンデンサ39までの回路の周波数特性とコンデンサ39の電圧変動との関係により、図示するように、モータ32の各相の相電流のうねりのオフセットが発生する場合がある。ステップS100の処理では、U相の相電流Iuの1周期の移動平均として演算した値Iuav(図3中、破線参照)をオフセット量Iuofとして検出する。
【0020】
続いて、U相の相電圧のオフセット量Vuofを設定する(ステップS110)。そして、モータ32の電気角θeを用いてd軸、q軸の電圧指令Vd*,Vq*から座標変換(2相-3相変換)して得られた各相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*のうちU相の電圧指令Vu*にオフセット量Vuofを加えてU相の電圧指令Vu*を補正(再設定)して(ステップS120)、本ルーチンを終了する。ここで、ステップS110の処理では、U相の相電流Iuのうねりのオフセット量Iuofに負の係数を乗じた値をオフセット量Vuofとして設定する。こうしたステップS100~S120の処理により、モータの相電流Iu,Iv,Iwのうねりのオフセットにより適切な対処を行なうことができる。なお、発明者らは、U相、V相、W相のうちの少なくとも1相の電圧指令(本実施形態ではU相の電圧指令Vu*)をこのように補正することによって各相の相電流Iu,Iv,Iwのうねりのオフセット量を小さくすることができることを、実験や解析により確認した。これは、1相の電圧指令を補正することにより、バッテリ36からコンデンサ39までの回路の周波数特性とコンデンサ39の電圧変動との関係が変化するためであると考えられる。
【0021】
以上説明した本実施形態の電気自動車20が搭載する駆動装置では、モータ32の相電流Iuのうねりのオフセット量Iuofを検出し、検出したオフセット量Iuofに基づいてモータ32のU相の電圧指令Vu*を補正する。これにより、モータの相電流Iu,Iv,Iwのうねりのオフセットにより適切な対処を行なうことができる。
【0022】
上述した実施形態では、U相の相電流Iuのうねりのオフセット量Iuofに基づいてU相の電圧指令Vu*を補正するものとした。しかし、これに代えて、V相の相電流Ivのうねりのオフセット量Ivofに基づいてV相の電圧指令Vv*を補正するものとしてもよいし、W相の相電流Iwのうねりのオフセット量Iwofに基づいてW相の電圧指令Vw*を補正するものとしてもよい。また、U相、V相、W相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*のうちの1つだけを補正するのに代えて、少なくとも2つを補正するものとしてもよい。
【0023】
上述した実施形態では、図2の処理ルーチンのステップS100の処理において、U相の相電流Iuの1周期の移動平均として演算した値IuavをU相の相電流Iuのうねりのオフセット量Iuofとして検出するものとした。しかし、これに代えて、相電流Iuにバンドパスフィルタを用いたフィルタ処理を施して中心部分を抽出した値をオフセット量Iuofとして検出するものとしてもよい。また、相電流Iuにフーリエ変換を施して中心部分を抽出した値をオフセット量Iuofとして検出するものとしてもよい。さらに、コンデンサ39の電圧(電力ライン38の電圧)VHの変動およびバッテリ36の電流Ibの変動に基づいて推定した値をオフセット量Iuofとして検出するものとしてもよい。
【0024】
上述した実施形態では、図2の処理ルーチンのステップS110の処理において、U相の相電流Iuのうねりのオフセット量Iuofに負の係数を乗じた値をU相の相電圧のオフセット量Vuofとして設定するものとした。しかし、これに代えて、オフセット量Iuofを値0とするためのフィードバック制御(PI制御またはPID制御)により演算した値をオフセット量Vuofとして設定するものとしてもよい。また、オフセット量Iuofとオフセット量Vuofとの関係として実験や解析、機械学習などにより予め定められたマップにオフセット量Iuofを適用してオフセット量Vuofを導出して設定するものとしてもよい。
【0025】
上述した実施形態では、インバータ34をPWM制御により制御する場合について説明した。しかし、インバータ34を矩形波制御により制御する場合に適用するものとしてもよい。矩形波制御では、ECU50は、最初に、モータ32の電気角θeを用いてU相、V相、W相の相電流Iu,Iv,Iwをd軸、q軸の電流Id,Iqに座標変換(3相-2相変換)し、得られたd軸、q軸の電流Id,Iqに基づいてモータ32の推定トルクTmesを求める。続いて、モータ32のトルク指令Tm*と推定トルクTmesとの差分が打ち消されるように電圧位相指令φp*を設定し、設定した電圧位相指令φp*とモータ32の電気角θeとに基づいてトランジスタT11~T16の矩形波信号を生成し、生成した矩形波信号を用いてトランジスタT11~T16のスイッチング制御を行なう。この矩形波制御において、U相の相電流Iuのうねりのオフセット量Iuofに基づいて、U相(トランジスタT11,T14)のスイッチング(オンオフの切替)のタイミングを補正してもよいのである。これにより、モータの相電圧が補正される。同様に、V相の相電流Ivのうねりのオフセット量Ivofに基づいてV相(トランジスタT12,T15)のスイッチングのタイミングを補正するものとしてもよいし、W相の相電流Iwのうねりのオフセット量Iwofに基づいてW相(トランジスタT13,T16)のスイッチングのタイミングを補正するものとしてもよい。また、U相、V相、W相のスイッチングのタイミングの1つだけを補正するのに代えて、少なくとも2つを補正するものとしてもよい。
【0026】
上述した実施形態では、インバータ34とバッテリ36とが電力ライン38を介して接続されている構成とした。しかし、電力ライン38におけるインバータ34とバッテリ36との間に昇圧コンバータを設けるものとしてもよい。
【0027】
上述した実施形態では、モータ32は、三相交流電動機として構成されるものとした。しかし、三相以外の多相交流電動機として構成されるものとしてもよい。
【0028】
上述した実施形態では、蓄電装置として、バッテリ36を用いるものとした。しかし、これに代えて、キャパシタを用いるものとしてもよい。
【0029】
上述した実施形態では、モータ32とインバータ34とバッテリ36とを備える電気自動車20の構成とした。しかし、これに代えて、モータとインバータとバッテリとに加えてエンジンを備えるハイブリッド車の構成としてもよいし、モータとインバータとバッテリとに加えて燃料電池を備える燃料電池車の構成としてもよい。
【0030】
実施形態の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施形態では、モータ32が「モータ」に相当し、インバータ34が「インバータ」に相当し、バッテリ36が「蓄電装置」に相当し、コンデンサ39が「コンデンサ」に相当し、ECU50が「制御装置」に相当する。
【0031】
なお、実施形態の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施形態が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施形態は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0032】
以上、本開示を実施するための実施形態について説明したが、本開示はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本開示は、駆動装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0034】
20 電気自動車、22a,22b 駆動輪、24 デファレンシャルギヤ、26 駆動軸、32 モータ、32a 回転位置センサ、32u,32v,32w 電流センサ、34 インバータ、36 バッテリ、36a 電圧センサ、36b 電流センサ、38 電力ライン、39 コンデンサ、39a 電圧センサ、50 ECU、60 スタートスイッチ、61 シフトレバー、62 シフトセンサ、63 アクセルペダル、64 アクセルペダルポジションセンサ、65 ブレーキペダル、66 ブレーキペダルポジションセンサ、67 車速センサ、D11~D16 ダイオード、T11~T16 トランジスタ。
図1
図2
図3