(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175424
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】ボールねじの状態判定装置及び状態判定方法
(51)【国際特許分類】
G01M 13/028 20190101AFI20241211BHJP
【FI】
G01M13/028
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093206
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北内 征士郎
(72)【発明者】
【氏名】橋本 聡志
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AB11
2G024BA12
2G024BA27
2G024CA14
2G024FA04
(57)【要約】
【課題】耐ノイズ性を向上させることができるボールねじの状態判定装置及び状態判定方法を提供すること。
【解決手段】ボールねじの作動時において振動センサ21により取得された振動信号に基づき、ボールねじのナット位置と、当該ナット位置に応じて変化する周波数-振動レベル特性との関係を示す振動情報を生成する振動情報生成部201と、第1期間において取得した振動信号に基づき生成される第1振動情報、及び、第1期間よりも後の第2期間において取得した第2振動情報に基づき、ボールねじの状態判定処理を実行する判定部202と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールねじの作動時において振動センサにより取得された振動信号に基づき、前記ボールねじのナット位置と、当該ナット位置に応じて変化する周波数-振動レベル特性との関係を示す振動情報を生成する振動情報生成部と、
第1期間において取得した振動信号に基づき生成される第1振動情報、及び、前記第1期間よりも後の第2期間において取得した第2振動情報に基づき、前記ボールねじの状態判定処理を実行する判定部と、
を備える、
ボールねじの状態判定装置。
【請求項2】
前記振動情報生成部は、
前記第1期間において取得した複数の第1振動情報の平均化処理を実行する、
請求項1に記載のボールねじの状態判定装置。
【請求項3】
前記振動情報生成部は、
前記第1期間において取得した振動信号の周期的振動成分を除去した第1振動情報を生成する、
請求項1に記載のボールねじの状態判定装置。
【請求項4】
前記振動情報生成部は、
前記第1期間において取得した複数の第1振動情報の平均化処理を実行する、
請求項3に記載のボールねじの状態判定装置。
【請求項5】
前記振動情報生成部は、
前記第2期間において取得した複数の第2振動情報の平均化処理を実行する、
請求項4に記載のボールねじの状態判定装置。
【請求項6】
前記振動情報生成部は、
前記第2期間において取得した振動信号の周期的振動成分を除去した第2振動情報を生成する、
請求項5に記載のボールねじの状態判定装置。
【請求項7】
前記第2振動情報に前記第1振動情報を乗じた第3振動情報を算出する処理部をさらに備える、
請求項1から6の何れか一項に記載のボールねじの状態判定装置。
【請求項8】
前記判定部は、
前記第3振動情報の統計値に基づき、前記ボールねじの損耗度合いを判定する、
請求項7に記載のボールねじの状態判定装置。
【請求項9】
前記第1振動情報に対する前記第2振動情報の一致度を算出する処理部をさらに備える、
請求項1から6の何れか一項に記載のボールねじの状態判定装置。
【請求項10】
前記判定部は、
前記一致度に基づき、前記ボールねじの損耗度合いを判定する、
請求項9に記載のボールねじの状態判定装置。
【請求項11】
第1期間において、ボールねじの作動時に取得された振動信号に基づき、前記ボールねじのナット位置と、当該ナット位置に応じて変化する周波数-振動レベル特性との関係を示す第1振動情報を生成する第1ステップと、
前記第1期間よりも後の第2期間において、前記ボールねじの作動時に取得された振動信号に基づき、前記ボールねじのナット位置と、当該ナット位置に応じて変化する周波数-振動レベル特性との関係を示す第2振動情報を生成する第2ステップと、
前記第1振動情報及び前記第2振動情報に基づき、前記ボールねじの状態判定処理を実行する第3ステップと、
を有する、
ボールねじの状態判定方法。
【請求項12】
前記第1ステップにおいて、
前記第1期間において取得した複数の第1振動情報の平均化処理を実行する、
請求項11に記載のボールねじの状態判定方法。
【請求項13】
前記第1ステップにおいて、
前記第1期間において取得した振動信号の周期的振動成分を除去した第1振動情報を生成する、
請求項11に記載のボールねじの状態判定方法。
【請求項14】
前記第1ステップにおいて、
前記第1期間において取得した複数の第1振動情報の平均化処理を実行する、
請求項13に記載のボールねじの状態判定方法。
【請求項15】
前記第2ステップにおいて、
前記第2期間において取得した複数の第2振動情報の平均化処理を実行する、
請求項14に記載のボールねじの状態判定方法。
【請求項16】
前記第2ステップにおいて、
前記第2期間において取得した振動信号の周期的振動成分を除去した第2振動情報を生成する、
請求項15に記載のボールねじの状態判定方法。
【請求項17】
前記第3ステップにおいて、
前記第2振動情報に前記第1振動情報を乗じた第3振動情報を算出する、
請求項11から16の何れか一項に記載のボールねじの状態判定方法。
【請求項18】
前記第3ステップにおいて、
前記第3振動情報の統計値に基づき、前記ボールねじの損耗度合いを判定する、
請求項17に記載のボールねじの状態判定方法。
【請求項19】
前記第3ステップにおいて、
前記第1振動情報に対する前記第2振動情報の一致度を算出する、
請求項11から16の何れか一項に記載のボールねじの状態判定方法。
【請求項20】
前記第3ステップにおいて、
前記一致度に基づき、前記ボールねじの損耗度合いを判定する、
請求項19に記載のボールねじの状態判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじの状態判定装置及び状態判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ボールねじなどの転がり直動装置において、転動体の移動に伴う軌道面の変形や転動体の摩耗による予圧低下が生じた場合、振動強度が低下し作動状態の検査精度が低下することが記載されている。従来、特定の周波数帯域の振動信号の振動値を監視して、ボールねじに付与された予圧の低下を検出する技術が開示されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-198398号公報
【特許文献2】国際公開第2020/090479号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2では、10Hzから10kHzまでの低周波数帯域における振動信号の振動値を監視することが記載されている。しかしながら、10Hzから10kHzまでの低周波数帯域は、ボールねじが用いられる生産現場等で生じるノイズ成分の影響を排除し難く、適用が困難である。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、耐ノイズ性を向上させることができるボールねじの状態判定装置及び状態判定方法を提供すること、を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明の一態様に係るボールねじの状態判定装置は、ボールねじの作動時において振動センサにより取得された振動信号に基づき、前記ボールねじのナット位置と、当該ナット位置に応じて変化する周波数-振動レベル特性との関係を示す振動情報を生成する振動情報生成部と、第1期間において取得した振動信号に基づき生成される第1振動情報、及び、前記第1期間よりも後の第2期間において取得した第2振動情報に基づき、前記ボールねじの状態判定処理を実行する判定部と、を備える。
【0007】
上記構成では、ボールねじの状態判定を実施する第2期間において取得された振動信号に基づき生成された第2振動情報に対し、正常に予圧が付与された状態であるものとして想定される第1期間において取得した振動信号に基づき生成した第1振動情報を適用することにより、耐ノイズ性を向上することができる。
【0008】
ボールねじの状態判定装置の望ましい態様として、前記振動情報生成部は、前記第1期間において取得した複数の第1振動情報の平均化処理を実行することが好ましい。
【0009】
これにより、非定常連続スペクトルが除去された第1振動情報が得られる。
【0010】
ボールねじの状態判定装置の望ましい態様として、前記振動情報生成部は、前記第1期間において取得した振動信号の周期的振動成分を除去した第1振動情報を生成することが好ましい。
【0011】
これにより、離散スペクトルが除去された第1振動情報が得られる。
【0012】
ボールねじの状態判定装置の望ましい態様として、前記振動情報生成部は、前記第1期間において取得した複数の第1振動情報の平均化処理を実行することが好ましい。
【0013】
これにより、非定常連続スペクトルが除去された第1振動情報が得られる。
【0014】
ボールねじの状態判定装置の望ましい態様として、前記振動情報生成部は、前記第2期間において取得した複数の第2振動情報の平均化処理を実行することが好ましい。
【0015】
これにより、非定常連続スペクトルが除去された第2振動情報が得られる。
【0016】
ボールねじの状態判定装置の望ましい態様として、前記振動情報生成部は、前記第2期間において取得した振動信号の周期的振動成分を除去した第2振動情報を生成することが好ましい。
【0017】
これにより、離散スペクトルが除去された第2振動情報が得られる。
【0018】
ボールねじの状態判定装置の望ましい態様として、前記第2振動情報に前記第1振動情報を乗じた第3振動情報を算出する処理部をさらに備えることが好ましい。
【0019】
これにより、第1振動情報と第2振動情報との間で互いに無相関なノイズ成分が相対的に低下した第3振動情報が得られる。
【0020】
ボールねじの状態判定装置の望ましい態様として、前記判定部は、前記第3振動情報の統計値に基づき、前記ボールねじの損耗度合いを判定することが好ましい。
【0021】
これにより、耐ノイズ性を向上することができ、ボールねじの損耗度合いの判定精度を高めることができる。
【0022】
ボールねじの状態判定装置の望ましい態様として、前記第1振動情報に対する前記第2振動情報の一致度を算出する処理部をさらに備えることが好ましい。
【0023】
また、ボールねじの状態判定装置の望ましい態様として、前記判定部は、前記一致度に基づき、前記ボールねじの損耗度合いを判定することが好ましい。
【0024】
これにより、耐ノイズ性を向上することができ、ボールねじの損耗度合いの判定精度を高めることができる。
【0025】
本発明の一態様に係るボールねじの状態判定方法は、第1期間において、ボールねじの作動時に取得された振動信号に基づき、前記ボールねじのナット位置と、当該ナット位置に応じて変化する周波数-振動レベル特性との関係を示す第1振動情報を生成する第1ステップと、前記第1期間よりも後の第2期間において、前記ボールねじの作動時に取得された振動信号に基づき、前記ボールねじのナット位置と、当該ナット位置に応じて変化する周波数-振動レベル特性との関係を示す第2振動情報を生成する第2ステップと、前記第1振動情報及び前記第2振動情報に基づき、前記ボールねじの状態判定処理を実行する第3ステップと、を有する。
【0026】
上記構成では、ボールねじの状態判定を実施する第2期間において取得された振動信号に基づき生成された第2振動情報に対し、正常に予圧が付与された状態であるものとして想定される第1期間において取得した振動信号に基づき生成した第1振動情報を適用することにより、耐ノイズ性を向上することができる。
【0027】
ボールねじの状態判定方法の望ましい態様として、前記第1ステップにおいて、前記第1期間において取得した複数の第1振動情報の平均化処理を実行することが好ましい。
【0028】
これにより、非定常連続スペクトルが除去された第1振動情報が得られる。
【0029】
ボールねじの状態判定方法の望ましい態様として、前記第1ステップにおいて、前記第1期間において取得した振動信号の周期的振動成分を除去した第1振動情報を生成することが好ましい。
【0030】
これにより、離散スペクトルが除去された第1振動情報が得られる。
【0031】
ボールねじの状態判定方法の望ましい態様として、前記第1ステップにおいて、前記第1期間において取得した複数の第1振動情報の平均化処理を実行することが好ましい。
【0032】
これにより、非定常連続スペクトルが除去された第1振動情報が得られる。
【0033】
ボールねじの状態判定方法の望ましい態様として、前記第2ステップにおいて、前記第2期間において取得した複数の第2振動情報の平均化処理を実行することが好ましい。
【0034】
これにより、非定常連続スペクトルが除去された第2振動情報が得られる。
【0035】
ボールねじの状態判定方法の望ましい態様として、前記第2ステップにおいて、前記第2期間において取得した振動信号の周期的振動成分を除去した第2振動情報を生成することが好ましい。
【0036】
これにより、離散スペクトルが除去された第2振動情報が得られる。
【0037】
ボールねじの状態判定方法の望ましい態様として、前記第3ステップにおいて、前記第2振動情報に前記第1振動情報を乗じた第3振動情報を算出することが好ましい。
【0038】
これにより、第1振動情報と第2振動情報との間で互いに無相関なノイズ成分が相対的に低下した第3振動情報が得られる。
【0039】
ボールねじの状態判定方法の望ましい態様として、前記第3ステップにおいて、前記第3振動情報の統計値に基づき、前記ボールねじの損耗度合いを判定することが好ましい。
【0040】
これにより、耐ノイズ性を向上することができ、ボールねじの損耗度合いの判定精度を高めることができる。
【0041】
ボールねじの状態判定方法の望ましい態様として、前記第3ステップにおいて、前記第1振動情報に対する前記第2振動情報の一致度を算出することが好ましい。
【0042】
また、ボールねじの状態判定方法の望ましい態様として、前記第3ステップにおいて、前記一致度に基づき、前記ボールねじの損耗度合いを判定することが好ましい。
【0043】
これにより、耐ノイズ性を向上することができ、ボールねじの損耗度合いの判定精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、耐ノイズ性を向上させることができるボールねじの状態判定装置及び状態判定方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】
図1は、ボールねじの状態判定システムの概略構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るボールねじの状態判定装置の一例を示すブロック図である。
【
図3A】
図3Aは、振動情報生成部により生成される振動情報の一例を示す概念図である。
【
図3B】
図3Bは、振動情報生成部により生成される振動情報の一例を示す概念図である。
【
図4】
図4は、実施形態1に係る第1振動情報取得処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、実施形態1に係る第2振動情報取得処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、実施形態1に係る状態判定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、実施形態1の変形例に係る状態判定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図8A】
図8Aは、振動情報生成部により生成される振動情報の一例を示す概念図である。
【
図8B】
図8Bは、振動情報生成部により生成される振動情報の一例を示す概念図である。
【
図9】
図9は、実施形態2に係る第1振動情報取得処理の一例を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、実施形態2に係る第1振動情報取得処理により生成される第1振動情報の一例を示す概念図である。
【
図11】
図11は、実施形態3に係る第1振動情報取得処理の一例を示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、実施形態3に係る第1振動情報取得処理により生成される第1振動情報の一例を示す概念図である。
【
図13】
図13は、実施形態3の変形例に係る第1振動情報取得処理の一例を示すフローチャートである。
【
図14】
図14は、実施形態3の変形例に係る第1振動情報取得処理により生成される第1振動情報の一例を示す概念図である。
【
図15】
図15は、実施形態4に係る第2振動情報取得処理の一例を示すフローチャートである。
【
図16】
図16は、実施形態4の変形例に係る第2振動情報取得処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、発明を実施するための形態(以下、実施形態という)につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の実施形態により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0047】
図1は、ボールねじの状態判定システムの概略構成の一例を示す図である。ボールねじ1は、ねじ軸11と、このねじ軸11に対して複数の転動体(不図示)を介してスライド移動可能に外嵌するナット12とを有している。
【0048】
ねじ軸11の両端は、軸受13,14によって回転自在にそれぞれ支持され、ねじ軸11の一端側(
図1中右側)は、駆動用のモータ15の出力軸に連結されている。ナット12は、ねじ軸11の回転に伴い、
図1に示すA端とB端との間で、ねじ軸11の軸方向(
図1に示す矢示方向)に直動する。
【0049】
本開示において、実施形態に係るボールねじ1の状態判定装置2は、ボールねじ1の作動中において取得される振動信号に基づき、ボールねじ1の状態判定を行う。状態判定装置2は、実施形態に係るボールねじ1の状態判定を行う際に、駆動制御装置3に対してモータ15の駆動制御指令及び回転制御指令を出力する。駆動制御装置3は、状態判定装置2からの制御指令に基づいて、モータ15を駆動してボールねじ1を作動させ、ねじ軸11の全域に亘ってナット12を移動させる。駆動制御装置3は、モータ15の回転速度、言い換えると、ボールねじ1のねじ軸11の回転速度を状態判定装置2に出力する。
【0050】
図2は、実施形態に係るボールねじの状態判定装置の一例を示すブロック図である。
図2に示すように、実施形態に係るボールねじ1の状態判定装置2は、振動情報生成部201と、判定部202と、記憶部203と、処理部204と、を備える。状態判定装置2には、ボールねじ1の作動中において振動センサ21により取得された振動信号が入力される。
【0051】
振動センサ21は、例えば、
図1に示すボールねじ1のナット12に設置される。本開示において、振動センサ21は、加速度ピックアップ等の加速度センサが例示される。振動センサ21による加速度検出方向は、ねじ軸11の軸方向(
図1に示す矢示方向)であっても良いし、ねじ軸11の軸方向に直交する方向であっても良い。また、振動センサ21の設置箇所は、ボールねじ1の作動時における振動を検知可能な位置であれば良く、ナット12に限定されない。さらに、振動センサ21は、加速度センサに限定されない。振動センサ21は、例えば、変位センサや、マイクロフォン等の音圧センサであっても良い。
【0052】
振動情報生成部201は、振動センサ21により検出された振動信号に基づき、前記ボールねじのナット位置と、当該ナット位置に応じて変化する周波数-振動レベル特性との関係を示す振動情報を生成する。
図3A及び
図3Bは、振動情報生成部により生成される振動情報の一例を示す概念図である。
図3A及び
図3Bにおいて、横軸はナット12の位置(以下、単に「ナット位置」とも称する)Pを示し、縦軸は周波数fを示している。本開示において、振動情報の周波数範囲は、例えば10Hzから10kHzまでの間の所定範囲内とされる。
【0053】
ボールねじ1の作動中において取得される振動信号の周波数スペクトルは、ナット位置に応じて固有振動数が変化する。
図3A及び
図3Bでは、ナット位置N-A間の主固有モードにおける1次固有振動数に対応する周波数f1、ナット位置N-A間の主固有モードにおける2次固有振動数に対応する周波数f2、ナット位置N-B間の主固有モードにおける1次固有振動数に対応する周波数f1’、ナット位置N-B間の主固有モードにおける2次固有振動数に対応する周波数f2’を例示している。
【0054】
振動情報生成部201によって生成される振動情報に基づき、ボールねじ1の損耗度合いを把握することができる。
【0055】
周波数スペクトルの大きさで定義される周波数ごとの振動レベルは、ボールねじ1に付与された予圧の大きさに応じて変化する。具体的に、
図3Aは、例えば、ボールねじ1の製造直後において、正常に予圧が付与された状態で取得された振動情報を例示している。これに対し、
図3Bは、転動体の移動に伴う軌道面の変形や転動体の摩耗によってボールねじ1の予圧低下が生じた状態で取得された振動情報を例示している。
【0056】
図3A及び
図3Bでは、周波数スペクトルの大きさで定義される周波数ごとの振動レベルの大きさを、振動情報に表れる稜線、言い換えると、各固有振動数に対応する周波数変化を示す線の太さで表している。また、
図3A及び
図3Bでは、各固有振動とは無相関に振動情報に表れるノイズ成分の量及び大きさをハッチングの濃さで表している。
図3Bに示す振動情報は、
図3Aに示す振動情報に対し、相対的に、各固有振動の振動レベルが小さく、各固有振動とは無相関のノイズ成分の振動レベルが大きい例を示している。
【0057】
正常に予圧が付与された状態では、各固有振動の振動レベルが高く、各固有振動数に対応する周波数変化が鮮明に表れる(
図3A参照)。
【0058】
一方、ボールねじ1の予圧低下が進行すると、各固有振動の振動レベルと各固有振動とは無相関に表れるノイズ成分との差異が小さくなり、各固有振動数に対応する周波数変化が薄れる(
図3B参照)。このような各固有振動の振動レベルが低下した振動情報をボールねじ1の損耗度合いの判定に用いると判定精度が低下する。
【0059】
本開示において、ボールねじ1の状態判定装置2は、予め正常に予圧が付与された状態で取得した第1振動情報と、状態判定を行う際に取得した第2振動情報とを用いて、ボールねじ1の損耗度合いを判定する。
【0060】
具体的に、ボールねじ1の状態判定装置2は、まず、正常に予圧が付与された状態であるものとして想定し得る第1期間において第1振動情報を取得し(第1振動情報取得処理)、ボールねじ1の状態判定を実施する第2期間において第2振動情報を取得する(第2振動情報取得処理)。そして、状態判定装置2は、第1期間において取得された第1振動情報と、第2期間において取得された第2振動情報を用いて、ボールねじ1の損耗度合いを判定する(状態判定処理)。
【0061】
なお、本開示では、ボールねじ1の運用に伴う損傷や摩耗による状態変化を判定対象としている。第1振動情報を取得する第1期間としては、正常に予圧が付与された状態が維持されていることが想定される期間としては、ボールねじ1の運用開始から、当該ボールねじ1の運用期間として想定される期間の1/10程度が経過するまでの期間とされる。具体的には、例えば、1年ごとにボールねじ1を交換する運用では1ヶ月程度、10年ごとにボールねじ1を交換する運用では1年程度とされることが好ましい。
【0062】
以下、耐ノイズ性を向上させ、ボールねじ1の損耗度合いの判定精度を高めることを可能とする具体的な処理について説明する。
【0063】
(実施形態1)
図4は、実施形態1に係る第1振動情報取得処理の一例を示すフローチャートである。
【0064】
状態判定装置2は、正常に予圧が付与された状態であるものとして想定される第1期間においてボールねじ1を作動させ、第1振動情報を取得する。具体的に、状態判定装置2は、
図1に示すボールねじ1の状態判定システムにおいて、駆動制御装置3に対してモータ15の駆動制御指令及び回転制御指令を出力する。駆動制御装置3は、状態判定装置2からの制御指令に基づいて、モータ15を駆動してボールねじ1を作動させる。
【0065】
図4に示す実施形態1に係る第1振動情報取得処理において、振動情報生成部201は、AD変換処理部(不図示)によりデジタルデータ化された振動信号を取得し(ステップS110)、取得した振動信号に基づき、ボールねじ1のナット位置と周波数ごとの振動レベルとの関係を示す第1振動情報を生成する(ステップS120)。
【0066】
振動情報生成部201は、ステップS120において生成した第1振動情報を記憶部203に格納し(ステップS130)、第1振動情報取得処理を終了する。
【0067】
図5は、実施形態1に係る第2振動情報取得処理の一例を示すフローチャートである。
【0068】
状態判定装置2は、まず、第1振動情報を生成した第1期間の後のボールねじ1の状態判定を実施する第2期間においてボールねじ1を作動させ、第2振動情報を取得する。具体的に、状態判定装置2は、
図1に示すボールねじ1の状態判定システムにおいて、駆動制御装置3に対してモータ15の駆動制御指令及び回転制御指令を出力する。駆動制御装置3は、状態判定装置2からの制御指令に基づいて、モータ15を駆動してボールねじ1を作動させる。
【0069】
第2振動情報取得処理は、例えば、ボールねじ1の起動時に実行される態様であっても良いし、例えば、所定時刻あるいは所定時間経過ごとに実行される態様であっても良い。
【0070】
図5に示す実施形態1に係る第2振動情報取得処理において、振動情報生成部201は、AD変換処理部(不図示)によりデジタルデータ化された振動信号を取得し(ステップS210)、取得した振動信号に基づき、ボールねじ1のナット位置と周波数ごとの振動レベルとの関係を示す第2振動情報を生成する(ステップS220)。
【0071】
振動情報生成部201は、ステップS220において生成した第2振動情報を記憶部203に格納し(ステップS230)、第2振動情報取得処理を終了する。
【0072】
続いて、状態判定装置2は、第1振動情報取得処理(
図4参照)により生成した第1振動情報、及び、第2振動情報取得処理(
図5参照)により生成した第2振動情報を用いて、ボールねじ1の状態判定処理を実行する。
図6は、実施形態1に係る状態判定処理の一例を示すフローチャートである。
【0073】
図6に示す実施形態1に係る状態判定処理において、処理部204は、まず、記憶部203に格納された第1振動情報及び第2振動情報を読み出す(ステップS301)。
【0074】
第1振動情報及び第2振動情報は、
図3A及び
図3Bに示すように、ボールねじ1のナット位置(P)と周波数(f)とで定義された座標(P,f)ごとの振動値V(P,f)を保持した情報である。正常に予圧が付与された状態であるものとして想定される第1期間において取得された振動信号に基づき生成された第1振動情報は、例えば、
図3Aに示すように、各固有振動数における振動レベルが高く、各固有振動数に対応する周波数変化が鮮明に表れている。これに対し、ボールねじ1の状態判定を実施する第2期間において取得された振動信号に基づき生成された第2振動情報は、例えば、
図3Bに示すように、各固有振動数における振動レベルが低下し、各固有振動数に対応する振動レベルと各固有振動数とは無相関に表れるノイズ成分との差異が小さくなっていることが想定される。
【0075】
本開示において、状態判定装置2は、上述したように、第1期間において取得された第1振動情報と、第2期間において取得された第2振動情報を用いて、ボールねじ1の損耗度合いを判定する。
【0076】
具体的に、実施形態1において、処理部204は、第2振動情報に対して第1振動情報を適用した第3振動情報を生成し(ステップS302)、判定部202に出力する。より具体的に、処理部204は、第2振動情報に第1振動情報を乗じて第3振動情報を算出する。
【0077】
より詳細には、処理部204は、第1振動情報と第2振動情報との間でそれぞれ対応する座標の振動値を掛け合わせ、第3振動情報における各座標の振動値とする。第3振動情報の座標(P,f)における振動値V3(P,f)は、第1振動情報の座標(P,f)における振動値をV1(P,f)、第2振動情報の座標(P,f)における振動値をV2(P,f)として、下記(1)式で表せる。
【0078】
V3(P,f)=V2(P,f)×V1(P,f)・・・(1)
【0079】
これにより、各固有振動成分の振動値に対し、第1振動情報と第2振動情報との間で互いに無相関なノイズ成分が相対的に低下した第3振動情報が得られる。
【0080】
判定部202は、処理部204により生成された第3振動情報を用いて、ボールねじ1の損耗度合いを判定する。
【0081】
具体的に、実施形態1において、判定部202は、処理部204により生成された第3振動情報に対して統計値算出処理を実行する(ステップS303)。より詳細には、例えば、第3振動情報の各座標における振動値の実効値Vrmsを算出する。
【0082】
判定部202は、ステップS303において算出した統計値に対して閾値判定処理を実行して、ボールねじ1の状態判定を行う。具体的に、判定部202は、例えば、ステップS303において算出した実効値Vrmsが予め保持している閾値Vth以上であるか否かを判定する(ステップS304)。閾値Vthは、ボールねじ1が正常であると想定される実効値の下限値としてシミュレーションにより設定される。
【0083】
実効値Vrms統計値が閾値Vth以上である場合(Vrms≧Vth、ステップS304;Yes)、判定部202は、ボールねじ1が正常であるものとして判定し(ステップS305)、当該判定結果を出力して(ステップS307)、状態判定処理を終了する。
【0084】
実効値Vrms統計値が閾値Vthを下回っている場合(Vrms<Vth、ステップS304;No)、判定部202は、ボールねじ1に異常が発生したものとして判定し(ステップS306)、当該判定結果を出力して(ステップS307)、状態判定処理を終了する。
【0085】
上述した実施形態1に係る処理では、正常に予圧が付与された状態であるものとして想定される第1期間において取得した振動信号に基づき生成した第1振動情報を保持し、ボールねじ1の状態判定を実施する第2期間において取得された振動信号に基づき生成された第2振動情報に対して第1振動情報を適用した第3振動情報を生成する。より具体的に、処理部204は、第2振動情報に第1振動情報を乗じて第3振動情報を算出する。そして、生成した第3振動情報に対して統計値算出処理を実行し、算出した統計値(例えば、実効値)をボールねじ1の損耗度合いを示す情報としている。これにより、耐ノイズ性を向上することができ、ボールねじ1の損耗度合いの判定精度を高めることができる。
【0086】
(変形例)
図7は、実施形態1の変形例に係る状態判定処理の一例を示すフローチャートである。なお、実施形態1の変形例に係る第1振動情報取得処理及び第2振動情報取得処理は、上述した実施形態1と同様であるので、ここでの詳細な説明は省略する。また、ここでは、実施形態1とは異なる処理について詳細に説明し、実施形態1と同様の処理については詳細な説明を省略する場合がある。
【0087】
実施形態1の変形例に係る状態判定処理において、処理部204は、
図6に示す第3振動情報生成処理(ステップS302)及び統計値算出処理(ステップS303)に代えて、ステップS301において読み出した第1振動情報及び第2振動情報の一致度Sの算出処理を実行する(ステップS303a)。
【0088】
具体的に、処理部204は、例えば、SSD(Sum of Squared Difference)やSAD(Sum of Absolute Difference)等のテンプレートマッチング(template matching)手法を用いて、第1振動情報及び第2振動情報の一致度Sを算出する。より詳細には、第1振動情報をテンプレート画像、第2振動情報をサーチ画像として、第1振動情報に対する第2振動情報の一致度(類似度)を算出する。なお、テンプレートマッチング手法としてSSDやSADを用いた場合、ステップS303aにおいて処理部204により算出される値(一致度S)が小さいほど、第1振動情報に対する第2振動情報の一致度(類似度)が高いとされ、ステップS303aにおいて処理部204により算出される値(一致度S)が大きいほど、第1振動情報に対する第2振動情報の一致度(類似度)が低いとされる。
【0089】
実施形態1の変形例に係る状態判定処理において、判定部202は、処理部204により算出された一致度Sを用いて、ボールねじ1の損耗度合いを判定する。
【0090】
具体的に、実施形態1の変形例において、判定部202は、処理部204により算出された一致度Sに対して閾値判定処理を実行して、ボールねじ1の状態判定を行う。
【0091】
図8A及び
図8Bは、振動情報生成部により生成される振動情報の一例を示す概念図である。
【0092】
図8Aでは、正常に予圧が付与された状態であるものとして想定し得る第1期間において取得した第1振動情報に対して、処理部204により算出された一致度Sが閾値Sth以下である場合の第2振動情報を例示している。
図8Bでは、正常に予圧が付与された状態であるものとして想定し得る第1期間において取得した第1振動情報に対して、処理部204により算出された一致度Sが閾値Sthを超えている場合の第2振動情報を例示している。閾値Sthは、ボールねじ1が正常であると想定される一致度の上限値としてシミュレーションにより設定される。
【0093】
上述したように、振動情報には、各固有振動に対応する振動スペクトルに加えて、各固有振動とは無相関の振動スペクトルが含まれている。以下、各固有振動に対応する振動スペクトルを「定常連続スペクトル」とも称する。また、
図8A及び
図8Bに示す破線上に表れる振動スペクトル成分を「非定常連続スペクトル」とも称する。また、
図8A及び
図8Bにおいて離散的に表れる点状の振動スペクトル成分を「離散スペクトル」とも称する。一般に、非定常連続スペクトルは、ボールねじ1の損耗度合いとは無関係に表れる振動成分である。離散スペクトルは、ボールねじ1の駆動に伴って生じる周期的振動成分に加え、生産現場等で生じる機械的なノイズ成分を含む。
【0094】
ボールねじ1の予圧低下が進行してボールねじ1の損耗に起因する振動スペクトルが増加し、ステップS303aにおいて処理部204により算出される一致度Sが大きくなる。
【0095】
具体的に、実施形態1の変形例において、判定部202は、例えば、ステップS303aにおいて算出した一致度Sが予め保持している閾値Sth以下であるか否かを判定する(ステップS304a)。
【0096】
一致度Sが閾値Sth以下である場合(S≦Sth、ステップS304a;Yes)、判定部202は、ボールねじ1が正常であるものとして判定し(ステップS305)、当該判定結果を出力して(ステップS307)、状態判定処理を終了する。
【0097】
一致度Sが閾値Sthを上回っている場合(S>Sth、ステップS304a;No)、判定部202は、ボールねじ1に異常が発生したものとして判定し(ステップS306)、当該判定結果を出力して(ステップS307)、状態判定処理を終了する。
【0098】
なお、上述した実施形態1の変形例では、テンプレートマッチング手法としてSSDやSADを例示したがこれに限定されない。例えば、正規化相互相関(NCC:Normalized Cross-Correlation、ZNCC:Zero-mean Normalized Cross-Correlation)等により一致度を算出する態様であっても良い。なお、テンプレートマッチング手法としてNCCやZNCCを用いた場合、数値が1に近いほど一致度(類似度)が高いとされる。判定部202における判定処理としては、ステップS303aにおける処理部204のテンプレートマッチング手法に応じて最適な判定手法を採用すれば良い。
【0099】
上述した実施形態1の変形例に係る処理では、ボールねじ1の損耗度合いを示す情報として、第1振動情報に対する第2振動情報の一致度(類似度)を採用している。この実施形態1の変形例においても、実施形態1と同様に耐ノイズ性を向上することができ、ボールねじ1の損耗度合いの判定精度を高めることができる。
【0100】
(実施形態2)
図9は、実施形態2に係る第1振動情報取得処理の一例を示すフローチャートである。なお、実施形態2に係る第2振動情報取得処理及び状態判定処理は、上述した実施形態1と同様であるので、ここでの詳細な説明は省略する。具体的に、実施形態2では、実施形態1において説明した
図6に示す状態判定処理(第1振動情報と第2振動情報とを掛け合わせた第3振動情報の統計値を用いてボールねじ1の損耗度合いを判定する処理)を採用する態様であっても良いし、
図7に示す状態判定処理(第1振動情報に対する第2振動情報の一致度(類似度)を用いてボールねじ1の損耗度合いを判定する処理)を採用する態様であっても良い。また、ここでは、実施形態1とは異なる処理について詳細に説明し、実施形態1と同様の処理については詳細な説明を省略する場合がある。
【0101】
図9に示す実施形態2に係る第1振動情報取得処理において、振動情報生成部201は、ステップS110において取得した振動信号のノイズ成分除去処理を実行する(ステップS111)。
【0102】
具体的に、振動情報生成部201は、ステップS111において、例えば、ケプストラムプリホワイトニング(CPW:Cepstrum Pre-Whitening)処理や、CPWを含むケプストラム編集法(CEP処理:Cepstrum Editing Process)を用いて、振動信号の周期的振動成分をノイズ成分として除去する。
【0103】
そして、振動情報生成部201は、ノイズ成分除去後の振動信号に基づき、第1振動情報を生成し(ステップS120a)、当該第1振動情報を記憶部203に格納して(ステップS130)、第1振動情報取得処理を終了する。
【0104】
図10は、実施形態2に係る第1振動情報取得処理により生成される第1振動情報の一例を示す概念図である。正常に予圧が付与された状態であるものとして想定される第1期間において取得した第1振動情報に対してノイズ成分除去処理(ステップS111)を実行することにより、
図10に示すように、
図8A及び
図8Bにおいて説明した離散スペクトルが除去された第1振動情報が得られる。これにより、実施形態1よりも耐ノイズ性を向上することができ、ボールねじ1の損耗度合いの判定精度を高めることができる。
【0105】
(実施形態3)
図11は、実施形態3に係る第1振動情報取得処理の一例を示すフローチャートである。なお、実施形態3に係る第2振動情報取得処理及び状態判定処理は、上述した実施形態1と同様であるので、ここでの詳細な説明は省略する。具体的に、実施形態3では、実施形態1において説明した
図6に示す状態判定処理(第1振動情報と第2振動情報とを掛け合わせた第3振動情報の統計値を用いてボールねじ1の損耗度合いを判定する処理)を採用する態様であっても良いし、
図7に示す状態判定処理(第1振動情報に対する第2振動情報の一致度(類似度)を用いてボールねじ1の損耗度合いを判定する処理)を採用する態様であっても良い。また、ここでは、実施形態1とは異なる処理について詳細に説明し、実施形態1と同様の処理については詳細な説明を省略する場合がある。
【0106】
図11に示す実施形態3に係る第1振動情報取得処理において、状態判定装置2は、正常に予圧が付与された状態であるものとして想定される第1期間において、複数の第1振動情報を取得する。具体的に、状態判定装置2は、第1振動情報の取得回数nをリセットし(n=0、ステップS101)、第1振動情報の取得回数nをカウントアップして(n=n+1、ステップS102)、ボールねじ1を作動させ、第1振動情報を取得する。実施形態3において、第1振動情報は、ボールねじ1の運用期間として想定される期間の1/10程度が経過するまでの第1期間において10回以上取得される(N≧10)。
【0107】
振動情報生成部201は、AD変換処理部(不図示)によりデジタルデータ化された振動信号を取得し(ステップS110)、取得した振動信号に基づき、ボールねじ1のナット位置と周波数ごとの振動レベルとの関係を示す第1振動情報を生成する(ステップS120)。
【0108】
続いて、振動情報生成部201は、ステップS120において生成した第1振動情報の規格化処理を実行する(ステップS123)。
【0109】
具体的に、振動情報生成部201は、ステップS120において生成した第1振動情報の標準化(Standardization)処理を実行する。より詳細に、振動情報生成部201は、第1振動情報の平均を「0」、標準偏差(あるいは分散)を「1」にスケーリングする。
【0110】
あるいは、振動情報生成部201は、標準化(Standardization)処理に代えて、ステップS120において生成した第1振動情報の正規化(Normalization)処理を実行する態様であっても良い。より詳細に、振動情報生成部201は、第1振動情報の最小を「-1」(あるいは「0」)、最大を「1」にスケーリングする態様であっても良い。
【0111】
そして、振動情報生成部201は、規格化後の第1振動信号を記憶部203に格納し(ステップS130a)、第1振動情報の取得回数nがNであるか否かを判定する(n=N、ステップS131)。第1振動情報の取得回数nがN未満である場合(n<N、ステップS131;No)、ステップS102に戻り、第1振動情報の取得回数nをカウントアップして(n=n+1、ステップS102)、ステップS110以降の処理を繰り返し実行する。
【0112】
ステップS110以降の処理は、例えば、ボールねじ1の起動時に実行される態様であっても良いし、例えば、所定時刻あるいは所定時間経過ごとに実行される態様であっても良い。ステップS110以降の処理の実行間隔は、第1振動情報の取得期間として定義された第1期間内において、ステップS131を満たし得るように設定されることが望ましい。あるいは、ステップS131を満たす前に第1期間を経過した場合、第1振動情報の取得回数nがNとなるまで、第1期間が延長されることが望ましい。
【0113】
N個の第1振動情報を取得後、振動情報生成部201は、記憶部203に格納されたN個の第1振動情報を読み出し(ステップS132)、読み出したN個の第1振動情報の平均化処理を実行する(ステップS133)。より詳細に、振動情報生成部201は、N個の第1振動情報間でそれぞれ対応する座標の振動値の平均値を算出する。
【0114】
図12は、実施形態3に係る第1振動情報取得処理により生成される第1振動情報の一例を示す概念図である。正常に予圧が付与された状態であるものとして想定される第1期間において取得した複数の第1振動情報をそれぞれ規格化し、さらに、規格化した複数の第1振動情報の平均化処理を実行することにより、
図12に示すように、
図8A及び
図8Bにおいて説明した非定常連続スペクトルが除去された第1振動情報が得られる。これにより、実施形態1よりも耐ノイズ性を向上することができ、ボールねじ1の損耗度合いの判定精度を高めることができる。
【0115】
(変形例)
図13は、実施形態3の変形例に係る第1振動情報取得処理の一例を示すフローチャートである。
図14は、実施形態3の変形例に係る第1振動情報取得処理により生成される第1振動情報の一例を示す概念図である。なお、実施形態3の変形例に係る第2振動情報取得処理及び状態判定処理は、上述した実施形態3と同様であるので、ここでの詳細な説明は省略する。また、ここでは、実施形態3とは異なる処理について詳細に説明し、実施形態3と同様の処理については詳細な説明を省略する場合がある。
【0116】
実施形態3の変形例に係る第1振動情報取得処理では、上述した実施形態3に係る第1振動情報取得処理に対し、実施形態2のノイズ成分除去処理(ステップS111)を組み合わせた態様としている。これにより、
図14に示すように、
図8A及び
図8Bにおいて説明した離散スペクトル及び非定常連続スペクトルが除去された第1振動情報が得られる。これにより、実施形態2や実施形態3よりもさらに耐ノイズ性を向上することができ、ボールねじ1の損耗度合いの判定精度を高めることができる。
【0117】
(実施形態4)
図15は、実施形態4に係る第2振動情報取得処理の一例を示すフローチャートである。なお、実施形態4に係る第1振動情報取得処理及び状態判定処理は、実施形態3と同様であるので、ここでの詳細な説明は省略する。具体的に、実施形態4では、実施形態1において説明した
図6に示す状態判定処理(第1振動情報と第2振動情報とを掛け合わせた第3振動情報の統計値を用いてボールねじ1の損耗度合いを判定する処理)を採用する態様であっても良いし、
図7に示す状態判定処理(第1振動情報に対する第2振動情報の一致度(類似度)を用いてボールねじ1の損耗度合いを判定する処理)を採用する態様であっても良い。また、ここでは、実施形態3とは異なる処理について詳細に説明し、実施形態3と同様の処理については詳細な説明を省略する場合がある。
【0118】
図15に示す実施形態4に係る第2振動情報取得処理において、状態判定装置2は、第1振動情報を生成した第1期間の後のボールねじ1の状態判定を実施する第2期間においてボールねじ1を作動させ、複数の第2振動情報を取得する。具体的に、状態判定装置2は、第2振動情報の取得回数mをリセットし(m=0、ステップS201)、第2振動情報の取得回数mをカウントアップして(m=m+1、ステップS202)、第2振動情報を取得する。第2期間における第2振動情報の取得回数Mは、例えば、第1振動情報の取得回数Nと同様とされる。具体的に、第2振動情報は、例えば、第2期間において10回以上取得される(M≧10)。
【0119】
振動情報生成部201は、AD変換処理部(不図示)によりデジタルデータ化された振動信号を取得し(ステップS210)、取得した振動信号に基づき、ボールねじ1のナット位置と周波数ごとの振動レベルとの関係を示す第2振動情報を生成する(ステップS220)。
【0120】
続いて、振動情報生成部201は、ステップS220において生成した第2振動情報の規格化処理を実行する(ステップS223)。
【0121】
具体的に、振動情報生成部201は、ステップS220において生成した第2振動情報の標準化(Standardization)処理を実行する。より詳細に、振動情報生成部201は、第2振動情報の平均を「0」、標準偏差(あるいは分散)を「1」にスケーリングする。
【0122】
あるいは、振動情報生成部201は、標準化(Standardization)処理に代えて、ステップS220において生成した第1振動情報の正規化(Normalization)処理を実行する態様であっても良い。より詳細に、振動情報生成部201は、第2振動情報の最小を「-1」(あるいは「0」)、最大を「1」にスケーリングする態様であっても良い。
【0123】
実施形態4に係る第2振動情報取得処理における第2振動情報の規格化処理手法は、第1振動情報の規格化処理手法と同一であることが望ましい。具体的に、例えば、第1振動情報取得処理(
図11又は
図13のステップS123)において第1振動情報の標準化処理を実行する態様である場合、第2振動情報取得処理(ステップS223)においても同様に、第2振動情報の標準化処理を実行する態様であることが望ましい。あるいは、例えば、第1振動情報取得処理(
図11又は
図13のステップS123)において第1振動情報の正規化処理を実行する態様である場合、第2振動情報取得処理(ステップS223)においても同様に、第2振動情報の正規化処理を実行する態様であることが望ましい。
【0124】
そして、振動情報生成部201は、規格化後の第2振動信号を記憶部203に格納し(ステップS230a)、第2振動情報の取得回数mがMであるか否かを判定する(m=M、ステップS231)。第2振動情報の取得回数mがM未満である場合(m<M、ステップS231;No)、ステップS202に戻り、第2振動情報の取得回数mをカウントアップして(m=m+1、ステップS202)、ステップS210以降の処理を繰り返し実行する。
【0125】
M個の第2振動情報を取得後、振動情報生成部201は、記憶部203に格納されたM個の第2振動情報を読み出し(ステップS232)、読み出したM個の第2振動情報の平均化処理を実行する(ステップS233)。より詳細に、振動情報生成部201は、M個の第2振動情報間でそれぞれ対応する座標の振動値の平均値を算出する。
【0126】
上述した実施形態4に係る処理では、複数回取得した複数の第2振動情報をそれぞれ規格化し、さらに、規格化した複数の第2振動情報の平均化処理を実行することにより、第1振動情報と同様に、
図8A及び
図8Bにおいて説明した非定常連続スペクトルが除去された高精度な第2振動情報が得られる。これにより、実施形態3よりも耐ノイズ性を向上することができ、ボールねじ1の損耗度合いの判定精度をさらに高めることができる。
【0127】
(変形例)
図16は、実施形態4の変形例に係る第2振動情報取得処理の一例を示すフローチャートである。なお、実施形態4の変形例に係る第1振動情報取得処理及び状態判定処理は、上述した実施形態4と同様であるので、ここでの詳細な説明は省略する。また、ここでは、実施形態4に係る第2振動情報取得処理とは異なる処理について詳細に説明し、実施形態4と同様の処理については詳細な説明を省略する場合がある。
【0128】
実施形態4の変形例に係る第2振動情報取得処理では、上述した実施形態4に係る第2振動情報取得処理に対し、実施形態2の第1振動情報に対するノイズ成分除去処理(ステップS111)と同様のノイズ成分除去処理(ステップS211)を組み合わせた態様としている。これにより、実施形態3の変形例に係る第1振動情報取得処理によって得られる第1振動情報と同様に、
図8A及び
図8Bにおいて説明した離散スペクトル及び非定常連続スペクトルが除去され、より高精度な第2振動情報が得られる。これにより、実施形態4よりもさらに耐ノイズ性を向上することができ、ボールねじ1の損耗度合いの判定精度をさらに高めることができる。
【0129】
このように、本開示の各実施形態及びその変形例に係るボールねじ1の状態判定装置2及び状態判定方法によれば、耐ノイズ性を向上させ、ボールねじ1の損耗度合いの判定精度を高めることができる。
【0130】
なお、振動情報として、例えば、所定値以上の振動値を「1」とし、所定値未満の振動値を「0」とした2値情報を用いる態様であっても良い。
【符号の説明】
【0131】
1 ボールねじ
2 状態判定装置
3 駆動制御装置
11 ねじ軸
12 ナット
13,14 軸受
15 モータ
21 振動センサ
201 振動情報生成部
202 判定部
203 記憶部
204 処理部