(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175429
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】浮体構造物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B63B 75/00 20200101AFI20241211BHJP
B63B 35/38 20060101ALI20241211BHJP
B63B 35/44 20060101ALI20241211BHJP
B63B 35/00 20200101ALI20241211BHJP
【FI】
B63B75/00
B63B35/38 Z
B63B35/44 Z
B63B35/00 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093219
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】カナデビア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】山岡 稔幸
(72)【発明者】
【氏名】山田 元紘
(57)【要約】
【課題】ブロックと架台との間における異物の噛み込みを抑制する。
【解決手段】浮体構造物の製造方法は、浮体構造物の一部であるブロック(例えば、第1ブロック21)を、水面に浮かんだ状態でフローティングドック61の底部62の鉛直上方に位置させる工程と、フローティングドック61を当該ブロックに対して相対的に上方へと移動させて、当該ブロックをフローティングドック61の底部62の上面に設けられた複数の架台64上に載置する工程と、を備える。また、ブロックを複数の架台64上に載置する工程において、ブロックと一の架台64とが接触するよりも前に、水流形成機構640によってブロックと当該一の架台64との間の空間に向かう水流W1が形成される。これにより、当該ブロックと架台64との間における異物の噛み込みを抑制することができる。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮体構造物の製造方法であって、
a)底部および一対の側壁部を備えるフローティングドックを前記底部の上面が水中に沈んだ状態で配置する工程と、
b)浮体構造物の一部であるブロックを、水面に浮かんだ状態で前記フローティングドックの前記底部の鉛直上方に位置させる工程と、
c)前記フローティングドックを前記ブロックに対して相対的に上方へと移動させて、前記ブロックを前記フローティングドックの前記底部の前記上面に設けられた複数の架台上に載置する工程と、
を備え、
前記c)工程において、前記ブロックと一の架台とが接触するよりも前に、水流形成機構によって前記ブロックと前記一の架台との間の空間に向かう水流が形成される浮体構造物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の浮体構造物の製造方法であって、
前記水流形成機構は、前記一の架台の上面に設けられるとともに上方に向かって水を噴射する噴射口を含む浮体構造物の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の浮体構造物の製造方法であって、
前記水流形成機構による水流の形成は、前記b)工程の終了後に開始される浮体構造物の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の浮体構造物の製造方法であって、
前記c)工程において、前記水流形成機構による水流の形成は、前記ブロックと前記一の架台との間の上下方向の距離が所定の閾値よりも大きい状態で開始され、前記ブロックと前記一の架台との間の上下方向の距離が前記閾値以下になると停止される浮体構造物の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の浮体構造物の製造方法であって、
前記c)工程において、前記ブロックと前記複数の架台とが接触するよりも前に、前記水流形成機構によって前記ブロックと前記複数の架台とのそれぞれの間の空間に向かう水流が形成される浮体構造物の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の浮体構造物の製造方法であって、
前記水流形成機構は、前記複数の架台の上面にそれぞれ設けられるとともに上方に向かって水を噴射する複数の噴射口を含み、
前記複数の噴射口から噴射される水の流速は同じである浮体構造物の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1つに記載の浮体構造物の製造方法であって、
前記b)工程において、前記浮体構造物の他の一部である他のブロックが、水面に浮かんだ状態で前記フローティングドックの前記底部の鉛直上方に位置し、
前記c)工程において、前記他のブロックが前記ブロックに対して位置合わせされた状態で、前記フローティングドックを前記他のブロックに対して相対的に上方へと移動させて、前記他のブロックを前記フローティングドックの前記底部の前記上面に設けられた複数の架台上に載置し、
前記浮体構造物の製造方法は、
d)前記フローティングドックを浮上させて前記ブロックおよび前記他のブロックを水面よりも上方にて支持する工程と、
e)前記フローティングドックの前記底部上において、前記ブロックと前記他のブロックとを接合する工程と、
をさらに備え、
前記c)工程において、前記水流形成機構によって前記ブロックと前記他のブロックとの接合予定部に向かう水流が形成される浮体構造物の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれか1つに記載の浮体構造物の製造方法であって、
前記浮体構造物は、浮体式の洋上風力発電システムにおいて発電用風車を支持する浮体である浮体構造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮体構造物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、浮体式の洋上風力発電設備が実用化されており、発電容量の増大が求められている。例えば、10MW以上の発電容量を有する洋上風力発電設備では、風車を搭載する浮体構造物が非常に大型になる。このため、当該浮体構造物は、通常の舶用乾式ドックでは、超大型原油タンカー (ULCC)や超大型コンテナ船等の貨物船を建造するためのドックであっても入出渠ができず、海洋構造物建造用の大型ドックで建造する必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1では、小型ドックで製造した複数のブロックを大型ドックに搬送し、大型ドック内で当該複数のブロックを組み立てることにより、大型の浮体構造物を製造する方法が提案されている。当該製造方法によれば、大型ドックにおける工事期間を短縮することができる。ただし、このような海洋構造物建造用の大型ドックの数は少ないため、上述のような大型の浮体構造物の量産化には限界がある。また、新たな大型ドックを建造するためには、広大な敷地と多大な費用が必要になる。
【0004】
一方、特許文献2では、海上に浮かぶフローティングドック上にてケーソンを製造した後、フローティングドックを沈降させることによりケーソンを進水させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-74879号公報
【特許文献2】特開平7-149286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のような大型の浮体構造物をフローティングドック上で製造する場合、浮体構造物を分割した複数のブロックを比較的小型の乾式ドックで製造し、当該複数のブロックをフローティングドック上にて組み立てる方法が考えられる。当該製造方法では、乾式ドックにて製造された複数のブロックは、沈んだ状態のフローティングドックの上方まで洋上を曳航される。そして、フローティングドックを浮上させて、各ブロックをフローティングドックの底面に設けられた架台にて支持して海面よりも上方へと持ち上げる。その後、複数のブロックを互いに接合して大型の浮体構造物が形成される。
【0007】
上記製造方法では、フローティングドックの浮上時に、海中や海面に浮遊している流木や樹脂片等の異物がブロックと架台との間に挟まり、架台に支持されたブロックの位置や姿勢が所望のものからずれるおそれがある。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、ブロックと架台との間における異物の噛み込みを抑制することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の態様1は、浮体構造物の製造方法であって、a)底部および一対の側壁部を備えるフローティングドックを前記底部の上面が水中に沈んだ状態で配置する工程と、b)浮体構造物の一部であるブロックを、水面に浮かんだ状態で前記フローティングドックの前記底部の鉛直上方に位置させる工程と、c)前記フローティングドックを前記ブロックに対して相対的に上方へと移動させて、前記ブロックを前記フローティングドックの前記底部の前記上面に設けられた複数の架台上に載置する工程と、を備える。前記c)工程において、前記ブロックと一の架台とが接触するよりも前に、水流形成機構によって前記ブロックと前記一の架台との間の空間に向かう水流が形成される。
【0010】
本発明の態様2は、態様1の浮体構造物の製造方法であって、前記水流形成機構は、前記一の架台の上面に設けられるとともに上方に向かって水を噴射する噴射口を含む。
【0011】
本発明の態様3は、態様1(態様1または2、であってもよい。)の浮体構造物の製造方法であって、前記水流形成機構による水流の形成は、前記b)工程の終了後に開始される。
【0012】
本発明の態様4は、態様1(態様1ないし3のいずれか1つ、であってもよい。)の浮体構造物の製造方法であって、前記c)工程において、前記水流形成機構による水流の形成は、前記ブロックと前記一の架台との間の上下方向の距離が所定の閾値よりも大きい状態で開始され、前記ブロックと前記一の架台との間の上下方向の距離が前記閾値以下になると停止される。
【0013】
本発明の態様5は、態様1(態様1ないし4のいずれか1つ、であってもよい。)の浮体構造物の製造方法であって、前記c)工程において、前記ブロックと前記複数の架台とが接触するよりも前に、前記水流形成機構によって前記ブロックと前記複数の架台とのそれぞれの間の空間に向かう水流が形成される。
【0014】
本発明の態様6は、態様5の浮体構造物の製造方法であって、前記水流形成機構は、前記複数の架台の上面にそれぞれ設けられるとともに上方に向かって水を噴射する複数の噴射口を含む。前記複数の噴射口から噴射される水の流速は同じである。
【0015】
本発明の態様7は、態様1ないし6のいずれか1つの浮体構造物の製造方法であって、前記b)工程において、前記浮体構造物の他の一部である他のブロックが、水面に浮かんだ状態で前記フローティングドックの前記底部の鉛直上方に位置する。前記c)工程において、前記他のブロックが前記ブロックに対して位置合わせされた状態で、前記フローティングドックを前記他のブロックに対して相対的に上方へと移動させて、前記他のブロックを前記フローティングドックの前記底部の前記上面に設けられた複数の架台上に載置する。前記浮体構造物の製造方法は、d)前記フローティングドックを浮上させて前記ブロックおよび前記他のブロックを水面よりも上方にて支持する工程と、e)前記フローティングドックの前記底部上において、前記ブロックと前記他のブロックとを接合する工程と、をさらに備える。前記c)工程において、前記水流形成機構によって前記ブロックと前記他のブロックとの接合予定部に向かう水流が形成される。
【0016】
本発明の態様8は、態様1ないし6のいずれか1つ(態様1ないし7のいずれか1つ、であってもよい。)の浮体構造物の製造方法であって、前記浮体構造物は、浮体式の洋上風力発電システムにおいて発電用風車を支持する浮体である。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、ブロックと架台との間における異物の噛み込みを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一の実施の形態に係る浮体構造物の斜視図である。
【
図2】第1ブロック、第2ブロックおよび第3ブロックの平面図である。
【
図5】小型ドック内の第1ブロック、第2ブロックおよび第3ブロックを示す平面図である。
【
図10】フローティングドック、並びに、第1ブロック、第2ブロックおよび第3ブロックの平面図である。
【
図11】フローティングドック、並びに、第1ブロック、第2ブロックおよび第3ブロックの正面図である。
【
図12】フローティングドック、並びに、第1ブロック、第2ブロックおよび第3ブロックの正面図である。
【
図13】第1ブロック近傍を拡大して示す正面図である。
【
図14】第1ブロックと第2ブロックとの接合予定部近傍を拡大して示す図である。
【
図15】フローティングドック、並びに、第1ブロック、第2ブロックおよび第3ブロックの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、本発明の一の実施の形態に係る浮体構造物の製造方法について説明する。以下では、
図1に斜視図にて示す浮体構造物1を例として、その製造方法を説明する。浮体構造物1は、浮体式の洋上風力発電システムにおいて、水面(すなわち、海面)に浮いた状態で発電用風車を下方から支持する大型浮体である。
【0020】
図1に例示する浮体構造物1は、ロワーハル型の半潜水型(セミサブ型)の浮体である。浮体構造物1は、4本のコラム11と、ロワーハル12とを備える。4本のコラム11はロワーハル12上に立設している。4本のコラム11のうち1本のコラム11は、平面視における浮体構造物1の略中央に位置し、他の3本のコラム11は、当該1本のコラム11の周囲に配置される。当該3本のコラム11は、例えば略同形状である。中央のコラム11は、当該3本のコラム11と略同形状であってもよく、異なる形状を有していてもよい。
【0021】
各コラム11は、ロワーハル12から上方に向かって上下方向に略平行に略直線状に延びて海面を貫通する略柱状の部材である。換言すれば、浮体構造物1の喫水は、各コラム11の上端と下端との間に位置する。
図1に示す例では、各コラム11は、略円柱状の部材である。コラム11の形状は、四角柱状等、様々に変更されてよい。上述の発電用風車(図示省略)の支柱(タワーとも呼ばれる。)は、例えば、中央のコラム11の上端部に立設される。
【0022】
ロワーハル12は、4本のコラム11の下部に接続される部材である。ロワーハル12は、その略全体が水中(すなわち、海中)に配置され、浮力により自重およびコラム11等の重量を支持する。ロワーハル12の内部には、図示省略のバラストタンクが設けられており、当該バラストタンク内部の水量が調節されることにより、海中におけるロワーハル12の上下方向の位置(すなわち、コラム11の海面からの突出高さ)やロワーハル12の姿勢等が調節される。
【0023】
図1に示す例では、ロワーハル12は、ハル中央部122と、3つのハル部121とを備える。3つのハル部121は、中央のコラム11の下端部から略水平に放射状に延びる。3つのハル部121は、略同形状であり、中央のコラム11の中心軸を中心とする周方向(以下、単に「周方向」とも呼ぶ。)において略等角度間隔に配置される。各ハル部121は、中央のコラム11の中心軸を中心とする径方向(以下、単に「径方向」とも呼ぶ。)に略平行に略直線状に延びる略柱状の部位である。
【0024】
図1に示す例では、各ハル部121は、略四角柱状の部位である。各ハル部121の長手方向(すなわち、径方向)に垂直な断面の形状は略四角形であり、例えば、長手方向の略全長に亘って略同じである。各ハル部121の形状は、円柱状等、様々に変更されてよい。ハル中央部122は、中央のコラム11の下端部に接続され、3つのハル部121の径方向内端部を接続する。中央のコラム11を除く3つのコラム11は、3つのハル部121の径方向外端部(すなわち、先端部)に接続される。
【0025】
図1に示す例では、浮体構造物1の上下方向の高さ(以下、単に「高さ」ともいう。)は、約30m~40mである。また、ロワーハル12の高さは約5m~10mであり、各コラム11の高さは約25m~30mである。コラム11の直径は、約10m~20mである。中央のコラム11上に取り付けられる発電用風車は、例えば、発電容量が15MW級の風車である。ロワーハル12のハル部121の幅方向(すなわち、上手方向および上記長手方向に垂直な方向)の幅は約12m~20mであり、長手方向の長さ(すなわち、ハル部121の径方向外端から中央のコラム11の外側面までの径方向における最短距離)は約40m~60mである。なお、浮体構造物1の大きさおよび形状は様々に変更されてよい。
【0026】
図1中において中央のコラム11から右側に延びる1つのハル部121の長手方向および幅方向をそれぞれ、浮体構造物1の長手方向および幅方向とすると、浮体構造物1の長手方向の長さは約100mであり、幅方向の幅(すなわち、コラム11の左側に位置する2つのハル部121の径方向外端間の最短距離)は約100mである。浮体構造物1の各部位の長さ、幅および高さは、様々に変更されてよい。
【0027】
浮体構造物1が製造される際には、大まかには、浮体構造物1の一部となる予定の複数のブロックが乾式の小型ドックにて製造され、当該複数のブロックが水上輸送(すなわち、海上輸送)されて1つのフローティングドックに搬入される。そして、当該フローティングドックにおいて、複数のブロックが接合されて(すなわち、組み立てられて)浮体構造物1が製造される。これにより、超大型の乾ドックや広大な陸上ヤードを準備することなく、浮体構造物1の製造を効率良く行うことができる。
【0028】
後述する製造方法の具体例では、
図2(平面図)に示すように、浮体構造物1は、3つのブロック21~23に分割された状態で製造される。そして、
図3(平面図)に示すように、3つのブロック21~23が互いに接合されることにより浮体構造物1となる。ブロック21は、ハル中央部122と、1つのハル部121と、ハル中央部122およびハル部121の径方向外端部にそれぞれ接続された2つのコラム11と、を備える。ブロック22,23はそれぞれ、1つのハル部121と、当該ハル部121の径方向外端部に接続された1つのコラム11と、を備える。以下の説明では、便宜上、ブロック21~23をそれぞれ、「第1ブロック21」、「第2ブロック22」および「第3ブロック23」と呼ぶ。
【0029】
なお、浮体構造物1の分割態様は、
図2に示す例には限定されず、様々に変更されてよい。例えば、第1ブロック21と第2ブロック22との接合部は、ハル中央部122とハル部121との境界に設けられる必要はなく、ハル部121の長手方向の中央部等に設けられてもよい。第1ブロック21と第3ブロック23との接合部についても同様である。また、ハル中央部122は、第1ブロック21に代えて、第2ブロック22または第3ブロック23に含まれてもよい。浮体構造物1を構成するブロック数は3つである必要はなく、2つまたは4つ以上であってもよい。
【0030】
上述の小型ドックは、原油タンカー やコンテナ船等の貨物船を建造するための乾式ドックであり、例えば、75m以下の幅(すなわち、ゲート幅)を有する通常の舶用ドックである。小型ドックは、例えば、乾式ドックまたは船台等である。また、フローティングドックは、浮体構造物1よりも大きい幅(例えば、75m超)を有する。上述のように、
図1に例示する浮体構造物1の幅は約100mであるため、浮体構造物1の小型ドックへの入渠および小型ドックからの出渠は不能である。なお、浮体構造物1の長さも約100mであるため、仮に浮体構造物1の向きを変更したとしても、小型ドックへの浮体構造物1の入出渠は不能である。
【0031】
次に、浮体構造物1の製造方法の流れについて、
図4等を参照しつつ具体的に説明する。浮体構造物1が製造される際には、まず、
図5(平面図)に示すように、それぞれが浮体構造物1の一部である第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23が、ゲート711が閉鎖されて排水された状態(すなわち、ドライな状態)の小型ドック71において製造される(ステップS11)。
図5では、図の理解を容易にするために、小型ドック71のゲート711の外側に存在する水(すなわち、海水)に平行斜線を付す。上述のように、小型ドック71は、浮体構造物1の入出渠が可能な幅(以下、「建造可能幅」とも呼ぶ。)未満の幅を有する。小型ドック71の幅は、例えば75m以下である。なお、
図5に示す例では、第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23は、1つの小型ドック71において製造されるが、複数の小型ドックにおいて別々に製造されてもよい。
【0032】
第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23の製造が終了すると、小型ドック71に対する注水が行われ、第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23が浮上する。第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23は、タグボート等を利用して、開放されたゲート711を通過して小型ドック71から順次出渠される。海上には、フローティングドックが予め配置されており(ステップS12)、第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23は、海面に浮かんだ状態でフローティングドックへと曳航される。
【0033】
なお、第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23の海上輸送は、海面に浮かんだ状態での曳航には限定されず、他の様々な方法により行われてもよい。例えば、第1ブロック21は、自航可能な台船に積載されて海上輸送されてもよく、非自航台船に積載された状態でタグボートにより曳航されてもよい。第2ブロック22および第3ブロック23についても同様である。
【0034】
図6は、フローティングドック61を示す正面図である。
図7は、フローティングドック61を示す平面図である。フローティングドック61は、底部62と、一対の側壁部63とを備える。底部62は、上下方向に対して略垂直に広がる略直方体状の部位である。平面視における底部62の形状は、例えば略矩形である。一対の側壁部63は、底部62から上方に向かって立設するとともに、
図6中の左右方向(以下、単に「左右方向」とも呼ぶ。)に対して略垂直に広がる略直方体状の部位である。側面視における各側壁部63の形状は、例えば略矩形である。一対の側壁部63の形状は、例えば略同じである。一対の側壁部63は、底部62上において、底部62の左右方向の両側縁に沿って設けられる。
図6に示すように、底部62および一対の側壁部63の正面視における形状は略矩形であり、底部62および一対の側壁部63は、
図6中の紙面に垂直な方向(以下、「前後方向」とも呼ぶ。)に延びる。
【0035】
フローティングドック61の左右方向の長さは約140m~160mであり、前後方向の長さは約120m~140mである。また、一対の側壁部63の左右方向の内側面間の距離(すなわち、一対の側壁部63間の幅)は、上述の建造可能幅以上であり、例えば100mよりも大きい。底部62の上下方向の高さは約3m~6mであり、各側壁部63の上下方向の高さは約10m~15mである。
【0036】
図6に示す状態では、フローティングドック61は、底部62の上面621が海中に沈んだ状態(すなわち、海面91よりも下方に位置する状態)で、水底(すなわち、海底)に接地することなく海上に浮かんでいる。当該状態は、フローティングドック61の内部に設けられているバラストタンク(図示省略)に注水されることにより実現される。一対の側壁部63は、海面91を貫通している。換言すれば、一対の側壁部63の上部は、海面91よりも上方に位置している。なお、フローティングドック61は、海底に接地していてもよい。
【0037】
フローティングドック61の底部62の上面621には、複数の架台(盤木とも呼ばれる。)64が所定の位置に固定されている。複数の架台64はそれぞれ、後述するように、第1ブロック21、第2ブロック22または第3ブロック23に下方から接触して支持するブロック支持部である。なお、複数の架台64の配置は適宜変更されてよい。
【0038】
図8は、1つの架台64を拡大して示す斜視図である。
図8に例示する架台64は、略直方体状の部材であり、例えば金属により形成される。架台64の上側の端面(以下、「上面641」とも呼ぶ。)は、平面視において略長方形である。架台64の上面641の長辺は約18m~22mであり、短辺は約1m~3mである。架台64に支持されるブロック(例えば、第1ブロック21)は、当該ブロックのハル部121の幅方向が架台64の上記長辺に略平行となるように、架台64上に配置される。架台64の上下方向の高さは約1m~2mである。なお、架台64の材質、大きさおよび形状は、適宜変更されてよい。
【0039】
架台64の上面641には、例えば、複数のシューパッド642が設けられている。
図8に示す例では、複数のシューパッド642は、互いに離間しつつ架台64の上面641の長辺に略平行に配列される。複数のシューパッド642は、架台64に支持されるブロック(例えば、第1ブロック21)の底面に直接的に接触する。シューパッド642は、例えば、平面視において略矩形状の略平板状部材である。シューパッド642の材質は、例えば樹脂である。なお、シューパッド642の形状、材質および配置等は、適宜変更されてよい。
【0040】
架台64の上面641には、複数の噴射口643が設けられる。
図8に示す例では、複数の噴射口643は、隣接する各2つのシューパッド642の間に配置される。各噴射口643の平面視における形状は、例えば略円形である。各噴射口643は、図示省略の流路を介して、架台64の外部に設けられた配管644に接続されており、当該配管644を介してポンプ645に接続されている。ポンプ645は、フローティングドック61の底部62に配置されてもよく、フローティングドック61の側壁部63に配置されてもよい。
【0041】
例えば、フローティングドック61が
図6に示す位置に位置する状態では、各架台64の全体が海中に位置する。この状態でポンプ645が駆動されると、ポンプ645から配管644に海水が供給され、上記流路(図示省略)を介して複数の噴射口643へと当該海水が導かれる。そして、海中に位置している架台64の上面641において、当該海水が複数の噴射口643から上方に向かって噴射する。これにより、架台64の上面641から上方に向かう水流が形成される。複数の噴射口643から噴射される海水の流速は、例えば略同じである。なお、噴射口643からの海水の噴射方向は、鉛直上方であってもよく、斜め上方であってもよい。
【0042】
フローティングドック61では、例えば、第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23に接触する複数の架台64の全てに、
図8に示すものと同様の複数の噴射口643が設けられる。また、フローティングドック61では、
図8に示すものと略同様の他のポンプ645が設けられ、
図8に示す架台64とは異なる他の架台64の噴射口643が、当該他のポンプ645に接続される。なお、各ポンプ645には、2つ以上の架台64の噴射口643が接続されてよい。このように、フローティングドック61では、上述のポンプ645や複数の架台64のそれぞれにおいて海水を噴射する複数の噴射口643等を含む水流形成機構640が設けられる。
【0043】
架台64では、噴射口643の配置および平面視における形状等は、様々に変更されてよい。例えば、噴射口643は、隣接するシューパッド642間の間隙に加えて、または、当該間隙に代えて、シューパッド642の上面(すなわち、平面視においてシューパッド642と重なる位置)に設けられてもよい。また、架台64では、シューパッド642は必ずしも設けられる必要はなく、第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23は、架台64の上面641に直接的に接触してもよい。
【0044】
あるいは、
図9に示す架台64のように、噴射口643に加えて、架台64の上面641の長辺近傍に、斜め上方に向けて海水を噴射する複数の噴射口643aが設けられてもよい。噴射口643aから噴射される海水は、例えば、上方に向かうに従って、平面視における上記長辺に垂直かつ上面641から離れる方向へと向かう。これにより、架台64の上面641から斜め上方に向かう水流が形成される。複数の噴射口643aから噴射される海水の流速は、例えば略同じである。複数の噴射口643aも、水流形成機構640に含まれる。
図9に示す架台64は、例えば、第1ブロック21と第2ブロック22との接合予定部近傍、および、第1ブロック21と第3ブロック23との接合予定部近傍に配置される。
【0045】
フローティングドック61へと曳航された第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23は、タグボート等を用いて、一対の側壁部63の間へと配置される。これにより、第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23は、
図10(平面図)および
図11(正面図)に示すように、海面91に浮かんだ状態でフローティングドック61の底部62の鉛直上方に位置する(ステップS13)。
図10および
図11に示す状態では、第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23は、フローティングドック61の底部62(具体的には、底部62の上面621に設けられた複数の架台64)とは接触していない。
【0046】
第1ブロック21と第2ブロック22とは、互いに接合可能なように相対位置が調整されている(すなわち、位置合わせされている)。また、第1ブロック21と第3ブロック23とも、互いに接合可能なように相対位置が調整されている(すなわち、位置合わせされている)。位置合わせ後の第1ブロック21と第2ブロック22、および、位置合わせ後の第1ブロック21と第3ブロック23は、例えば、架設ピース等(図示省略)を用いて仮接合されることにより相対位置が維持される。なお、
図10および
図11では、第1ブロック21と第2ブロック22との間、および、第1ブロック21と第3ブロック23との間に、実際よりも大きい間隙を描いている(後述する
図12、
図14および
図15においても同様)。
【0047】
次に、フローティングドック61の上記バラストタンクからの排水が行われ、フローティングドック61が
図11に示す状態から浮上する。これにより、フローティングドック61が、第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23に対して相対的に上方へと移動する。そして、
図12(正面図)に示すように、フローティングドック61の底部62上に設けられた複数の架台64の上面641が、第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23のそれぞれの底面に接触し、第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23が、複数の架台64上に載置される(ステップS14)。
【0048】
ステップS14では、第1ブロック21と、第1ブロック21を支持する予定の複数の架台64とが接触するよりも前に、
図13(拡大正面図)中に示すように、水流形成機構640によって第1ブロック21と当該複数の架台64とのそれぞれの間の空間に向かう水流W1が形成される。具体的には、フローティングドック61の底部62上の各架台64において、複数の噴射口643から上方に向けて海水が噴射され、架台64の上面641と第1ブロック21の底面との間の空間に、架台64の上面641から第1ブロック21の底面へと向かう水流W1が形成される。これにより、当該空間に浮遊する異物(例えば、流木や樹脂片等)が、当該水流W1によって押し流され、架台64の上面641と第1ブロック21の底面との間から排除される。その結果、第1ブロック21の底面が架台64の上面641と接触する際に、第1ブロック21と架台64との間に当該異物を噛み込むことが抑制される。
【0049】
第2ブロック22についても同様に、第2ブロック22と、第2ブロック22を支持する予定の複数の架台64とが接触するよりも前に、水流形成機構640によって第2ブロック22と当該複数の架台64とのそれぞれの間の空間に向かう水流が形成される。第3ブロック23についても同様に、第3ブロック23と、第3ブロック23を支持する予定の複数の架台64とが接触するよりも前に、水流形成機構640によって第3ブロック23と当該複数の架台64とのそれぞれの間の空間に向かう水流が形成される。これにより、上記と同様に、第2ブロック22と架台64との間における異物の噛み込み、および、第3ブロック23と架台64との間における異物の噛み込みが抑制される。
【0050】
第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23を支持する予定の複数の架台64では、例えば、一の架台64の複数の噴射口643から噴射される海水の流速が、他の架台64の複数の噴射口643から噴射される海水の流速と略同じである。これにより、複数の架台64のそれぞれについて、第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23と架台64とのそれぞれの間における異物の噛み込みをおよそ均等に抑制することができる。
【0051】
また、
図9に示す噴射口643aを有する架台64は、
図14(拡大図)に示すように、第1ブロック21と第2ブロック22との接合予定部近傍において、第1ブロック21および/または第2ブロック22の鉛直下方に配置される。そして、架台64の上面641において前後方向の端部近傍に設けられた複数の噴射口643aから、第1ブロック21と第2ブロック22との接合予定部(すなわち、第1ブロック21の第2ブロック22側の端部、および、第2ブロック22の第1ブロック21側の端部)に向けて海水が斜め上方に噴射されることにより、第1ブロック21と第2ブロック22との接合予定部に向かう水流W2が形成される。これにより、当該接合予定部近傍に浮遊する異物(例えば、流木や樹脂片等)が、当該水流W2によって押し流され、第1ブロック21と第2ブロック22との間から排除される。その結果、第1ブロック21および第2ブロック22が複数の架台64上に載置される際に、第1ブロック21と第2ブロック22との間に当該異物を噛み込むことが抑制される。なお、
図14に示す例では、架台64の噴射口643からも海水が噴射され、上述の水流W1が形成される。
【0052】
図9に示す架台64は、第1ブロック21と第3ブロック23との接合予定部近傍にも配置される。そして、複数の噴射口643aから、第1ブロック21と第3ブロック23との接合予定部に向けて海水が斜め上方に噴射されることにより、第1ブロック21と第3ブロック23との接合予定部に向かう水流が形成される。これにより、上記と略同様に、第1ブロック21および第3ブロック23が複数の架台64上に載置される際に、第1ブロック21と第3ブロック23との間に異物を噛み込むことが抑制される。
【0053】
架台64からの海水の噴射(すなわち、水流W1,W2の形成)は、例えば、ステップS13において第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23が一対の側壁部63の間に移動され、複数の架台64の上方における所定の位置に配置された後に行われる。これにより、架台64からの海水の噴射により生じた水流によって、一対の側壁部63の間における第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23の移動および配置が阻害される可能性を排除することができる。
【0054】
また、架台64からの海水の噴射(すなわち、水流W1,W2の形成)は、例えば、第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23が複数の架台64と接触するよりも前に停止される。例えば、第1ブロック21を支持する予定の架台64からの海水の噴射は、当該架台64と第1ブロック21との間の上下方向の距離(すなわち、架台64の上面641と第1ブロック21の底面との間の上下方向の距離)が、所定の閾値(例えば、10cm~50cm)よりも大きい状態で開始され、上記距離が当該閾値以下になると停止される。第2ブロック22を支持する予定の架台64、および、第3ブロック23を支持する予定の架台64からの海水の噴射についても略同様である。これにより、フローティングドック61の浮上によって架台64に近づいた第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23の位置が、水流W1,W2によってずれることを抑制することができる。
【0055】
フローティングドック61の浮上は、第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23と複数の架台64の接触後も継続され、
図15(正面図)に示すように、フローティングドック61の底部62の上面621が海面91よりも上方に位置する状態で停止される。フローティングドック61の底部62上の海水は、フローティングドック61の前端および後端から流出し、底部62の上面621上から海水が排除される。これにより、フローティングドック61の底部62上がドライ状態となり、第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23が海面91よりも上方にて支持される(ステップS15)。その後、フローティングドック61の底部62上において第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23の接合(すなわち、本接合)や塗装等の作業が行われ、浮体構造物1が製造される(ステップS16)。
【0056】
なお、ステップS14では、第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23のそれぞれのバラストタンクに注水が行われて第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23が沈降することにより、フローティングドック61が第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23に対して相対的に上方へと移動してもよい。この場合、第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23は、例えば、仮接合された状態で一体的に沈降し、複数の架台64上に載置される。
【0057】
あるいは、ステップS14では、第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23は、仮接合されていない状態で順次沈降してもよい。例えば、まず、第1ブロック21を沈降させて複数の架台64上に載置する。続いて、第2ブロック22を、平面視における位置を調整しつつ沈降させ、第1ブロック21に対して位置合わせされた状態で複数の架台64上に載置する。さらに、第3ブロック23を、平面視における位置を調整しつつ沈降させ、第1ブロック21に対して位置合わせされた状態で複数の架台64上に載置する。この場合、第3ブロック23の一対の側壁部63の間への搬入は、第1ブロック21および第2ブロック22の架台64上への載置が完了した後に行われてもよい。第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23のそれぞれの沈降時には、上述のように、架台64の複数の噴射口643から海水が噴射されることにより、第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23と架台64との間の異物の噛み込みが抑制される。また、第2ブロック22の沈降時には、架台64の複数の噴射口643aから海水が噴射されることにより、第1ブロック21と第2ブロック22との間の異物の噛み込みが抑制される。第3ブロック23の沈降時にも、架台64の複数の噴射口643aから海水が噴射されることにより、第1ブロック21と第3ブロック23との間の異物の噛み込みが抑制される。
【0058】
第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23が複数の架台64上に載置されると、フローティングドック61を浮上させ、第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23を海面よりも上方にて支持する(ステップS15)。そして、上記と略同様に、フローティングドック61の底部62上において第1ブロック21、第2ブロック22および第3ブロック23の接合(すなわち、本接合)や塗装等の作業が行われ、浮体構造物1が製造される(ステップS16)。
【0059】
以上に説明したように、浮体構造物1の製造方法は、底部62および一対の側壁部63を備えるフローティングドック61を、底部62の上面621が水中に沈んだ状態で配置する工程(ステップS12)と、浮体構造物1の一部であるブロック(上記例では、第1ブロック21、第2ブロック22または第3ブロック23)を、水面91(海面91)に浮かんだ状態でフローティングドック61の底部62の鉛直上方に位置させる工程(ステップS13)と、フローティングドック61を当該ブロックに対して相対的に上方へと移動させて、当該ブロックをフローティングドック61の底部62の上面621に設けられた複数の架台64上に載置する工程(ステップS14)と、を備える。また、ステップS14において、上記ブロックと一の架台64とが接触するよりも前に、水流形成機構640によって当該ブロックと当該一の架台64との間の空間に向かう水流W1が形成される。これにより、上述のように、当該ブロックと架台64との間における異物の噛み込みを抑制することができる。
【0060】
上述のように、水流形成機構640は、上記一の架台64の上面641に設けられるとともに上方に向かって水を噴射する噴射口643,643aを含むことが好ましい。このように、上記ブロックと架台64との間の空間近傍に噴射口643を設けることにより、当該空間に向かう水流W1を好適に形成することができる。また、接合される予定の2つのブロック(上記例では、第1ブロック21および第2ブロック22、または、第1ブロック21および第3ブロック23)の接合予定部近傍に噴射口643aを設けることにより、当該接合予定部に向かう水流W2を好適に形成することができる。
【0061】
上述のように、水流形成機構640による水流W1,W2の形成は、ステップS13の終了後に開始されることが好ましい。このように、ブロック(上記例では、第1ブロック21、第2ブロック22または第3ブロック23)が複数の架台64の上方における所定の位置に配置されるまで、水流W1,W2の形成が開始されないようにすることにより、当該所定の位置へのブロックの移動および配置が水流W1,W2によって阻害されることを防止することができる。
【0062】
上述のように、ステップS14において、水流形成機構640による水流W1,W2の形成は、ブロック(上記例では、第1ブロック21、第2ブロック22または第3ブロック23)と一の架台64との間の上下方向の距離が所定の閾値よりも大きい状態で開始され、当該ブロックと当該一の架台64との間の上下方向の距離が当該閾値以下になると停止されることが好ましい。これにより、当該一の架台64に近づいた当該ブロックの位置が、水流W1,W2によってずれることを抑制することができる。
【0063】
上述のように、ステップS14において、ブロック(上記例では、第1ブロック21、第2ブロック22または第3ブロック23)と複数の架台64とが接触するよりも前に、水流形成機構640によって当該ブロックと複数の架台64とのそれぞれの間の空間に向かう水流W1が形成されることが好ましい。これにより、複数の架台64のそれぞれについて、上記ブロックと架台64との間における異物の噛み込みを抑制することができる。
【0064】
上述のように、水流形成機構640は、複数の架台64の上面641にそれぞれ設けられるとともに上方に向かって水を噴射する複数の噴射口643を含み、当該複数の噴射口643から噴射される水の流速は同じであることが好ましい。これにより、複数の架台64のそれぞれについて、上記ブロックと架台64との間における異物の噛み込みを均等に抑制することができる。
【0065】
上記例では、ステップS13において、浮体構造物の他の一部である他のブロック(上記例では、第1ブロック21、第2ブロック22または第3ブロック23)が、水面に浮かんだ状態でフローティングドック61の底部62の鉛直上方に位置する。また、ステップS14において、当該他のブロック(例えば、第2ブロック22)が上述のブロック(例えば、第1ブロック21)に対して位置合わせされた状態で、フローティングドック61を当該他のブロックに対して相対的に上方へと移動させて、当該他のブロックをフローティングドック61の底部62に設けられた複数の架台64上に載置する。そして、浮体構造物1の製造方法は、フローティングドック61を浮上させて上述のブロックおよび他のブロックを水面91よりも上方にて支持する工程(ステップS15)と、フローティングドック61の底部62上において、上述のブロックと他のブロックとを接合する工程(ステップS16)と、をさらに備える。当該浮体構造物1の製造方法では、ステップS14において、水流形成機構640によって上述のブロックと他のブロックとの接合予定部に向かう水流W2が形成されることが好ましい。これにより、上述のブロックと他のブロックとの接合予定部における異物の噛み込みを均等に抑制することができる。
【0066】
浮体構造物1は、浮体式の洋上風力発電システムにおいて発電用風車を支持する浮体であることが好ましい。このような浮体構造物1は非常に大型になるため、ブロックと架台64とを接触させる際に、潜水作業員によって上記異物の噛み込み監視を行うことが容易ではない。また、ブロックと架台64との間に異物が挟まれた場合、当該異物を除去することも容易ではない。これに対し、上述の浮体構造物1の製造方法では、ブロックと架台64との間における異物の噛み込みを抑制することができるため、当該製造方法は、上述の発電用風車を支持する浮体を製造する場合に特に適している。
【0067】
上述の浮体構造物1の製造方法では、様々な変更が可能である。
【0068】
例えば、水流形成機構640による水流W1,W2の形成は、ブロックと架台64との間の上下方向の距離が上記閾値以下になっても必ずしも停止される必要はなく、当該ブロックと架台64とが接触するまで継続されてもよい。
【0069】
また、水流形成機構640による水流W1,W2の形成は、必ずしもステップS13の終了後に開始される必要はなく、第1ブロック21、第2ブロック22および/または第3ブロック23の一対の側壁部63の間における移動中に開始されてもよい。あるいは、第1ブロック21、第2ブロック22および/または第3ブロック23のフローティングドック61への到着前に開始されてもよい。
【0070】
上述の架台64では、複数の噴射口643から噴射される水の流速は、上述のように同じであってもよく、異なっていてもよい。また、複数の噴射口643aから噴射される水の流速も、上述のように同じであってもよく、異なっていてもよい。例えば、一の架台64の複数の噴射口643のうち、ハル部121の幅方向中央部と対向する噴射口643から噴射される水の流速が、ハル部121の幅方向端部と対向する噴射口643から噴射される水の流速よりも大きくされてもよい。これにより、ハル部121の幅方向中央部と当該一の架台64との間に異物が存在する場合、当該異物を好適に除去することができる。
【0071】
複数の架台64の噴射口643から噴射される水の流速は、必ずしも略同じである必要はなく、異なっていてもよい。例えば、ハル中央部122を支持する予定の架台64の噴射口643から噴射される水の流速は、ハル部121を支持する予定の架台64の噴射口643から噴射される水の流速よりも大きくてもよい。
【0072】
水流形成機構640による水流W1の形成は、必ずしも、ブロックと複数の架台64とのそれぞれの間の空間に対して行われる必要はなく、当該複数の架台64のうち一部の架台64とブロックとの間の空間に対してのみ行われてもよい。
【0073】
水流形成機構640による水流W1の形成は、必ずしも複数のブロックのそれぞれについて行われる必要はなく、複数のブロックのうち一のブロックと架台64との間の空間に対してのみ行われてもよい。
【0074】
水流形成機構640による水流W1,W2の形成は、必ずしも、架台64に設けられた噴射口643,643aからの水の噴射によるものには限定されず、様々な構成により実現されてよい。例えば、フローティングドック61の一方の側壁部63から、ブロックと架台64との間の空間、および/または、2つのブロックの接合予定部の間の空間に向けて、略水平に水が噴射されることにより、当該空間に向かって略水平に流れる水流が形成されてもよい。あるいは、フローティングドック61の底部62の上面621から水が噴射されることにより、ブロックと架台64との間の空間、および/または、2つのブロックの接合予定部の間の空間に向けて、水が噴射されてもよい。なお、水流形成機構640により形成される水流は、潮汐、潮流、ブロックの曳航時に生じる引き波等とは異なり、フローティングドック61に設けられた上述のような様々な構成により、異物噛み込み抑制を目的として意図的に形成されたものである。
【0075】
浮体構造物1の形状や構造等は、
図1に例示するものには限定されず、様々に変更されてよい。例えば、コラム11は、ロワーハル12の中央のみに設けられてもよい。あるいは、コラム11は、各ハル部121の径方向外端部のみに設けられてもよい。この場合、発電用風車は、複数のコラム11のうちいずれかのコラム11の上端部に立設される。また、浮体構造物1は、ロワーハルを有しない半潜水型(セミサブ型)の浮体構造物であってもよい。浮体構造物1は、半潜水型以外の形式(例えば、バージ型、TLP型、スパー型等)の浮体構造物であってもよい。
【0076】
浮体構造物1は、洋上風力発電システム以外の用途に利用されてもよい。
【0077】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0078】
1 浮体構造物
21 第1ブロック
22 第2ブロック
23 第3ブロック
61 フローティングドック
62 (フローティングドックの)底部
63 側壁部
64 架台
91 海面
621 (フローティングドックの底部の)上面
640 水流形成機構
641 (架台の)上面
643,643a 噴射口
S11~S16 ステップ
W1,W2 水流