(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175438
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】頬のたるみの評価方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/107 20060101AFI20241211BHJP
【FI】
A61B5/107 800
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093229
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 恵太
(72)【発明者】
【氏名】池内 正剛
(72)【発明者】
【氏名】松浦 正憲
(72)【発明者】
【氏名】笠松 慎也
(72)【発明者】
【氏名】高野 圭
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VB22
4C038VC05
(57)【要約】
【課題】頬のたるみを客観的により精度高く評価する方法の提供。
【解決手段】被験体の咬筋細胞外脂肪量、頬圧、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比から選ばれる少なくとも1種の皮膚内部組織情報を指標として、当該被験体の頬たるみの程度を評価することを含む、頬のたるみの評価方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体の咬筋細胞外脂肪量、頬圧、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比から選ばれる少なくとも1種の皮膚内部組織情報を指標として、当該被験体の頬たるみの程度を評価することを含む、頬のたるみの評価方法。
【請求項2】
以下の(1)、(2)及び(3)の工程を含む、被験物質又は被験処理の頬のたるみ改善効果の評価方法。
(1)被験体に被験物質又は被験処理を適用する工程
(2)前記被験体の咬筋細胞外脂肪量、頬圧、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比から選ばれる少なくとも1種の皮膚内部組織情報を取得する工程
(3)(2)で取得した皮膚内部組織情報に基づいて、前記被験物質又は被験処理の頬たるみ改善効果を評価する工程
【請求項3】
以下の(1)、(2)及び(4)の工程を含む、頬のたるみを改善する剤又は処理の評価又は選択方法。
(1)被験体に被験物質又は被験処理を適用する工程
(2)前記被験体の咬筋細胞外脂肪量、頬圧、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比から選ばれる少なくとも1種の皮膚内部組織情報を取得する工程
(4)(2)で取得した皮膚内部組織情報に基づいて、咬筋細胞外脂肪量を減少、頬圧を増加、咬筋最大厚に対する頬の皮下脂肪断面積の比を減少、又は頬骨筋最大厚に対する頬の皮下脂肪断面積の比を減少させる被験物質又は被験処理を、頬たるみを改善する剤又は処理として評価又は選択する工程
【請求項4】
咬筋量又は頬骨筋量が咬筋又は頬骨筋の最大厚さであり、頬の皮下脂肪量が頬の皮下脂肪の断面積である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記頬圧が舌圧測定器を用いて測定される最大頬圧である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記咬筋細胞外脂肪量、咬筋量、頬骨筋量及び頬の皮下脂肪量が核磁気共鳴画像法(MRI)装置を用いて測定される請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頬のたるみの評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
老化に伴い顔、特に頬の皮膚に生じるたるみは典型的な肌悩みとして知られている。頬のたるみを改善するための化粧料や施術等の開発を行うためにはそのたるみの程度を評価する方法が求められる。従来、頬のたるみの程度の評価方法として、0~5の6段階からなる基準写真を参考とした専門家による判定(非特許文献1)や、三次元形状顔画像による施術前後での頬体積変化量の計測(特許文献1)が行われている。
【0003】
皮膚は、表皮、真皮、皮下組織の3層に分けられ、さらに下層には筋肉組織が存在する。近年、皮下組織や筋肉組織が皮膚形状に影響を与え得ることが明らかとなってきている(非特許文献2)。例えば、筋肉や神経への電気刺激により顔面筋の筋収縮を起こし、リフトアップ効果を期待する機器や(特許文献2、3)、マウスピースを口にくわえて口輪筋を鍛えるトレーニング機器等が開発されている(特許文献4)。
しかしながら、皮膚内部組織の詳細な機能や構造と頬のたるみ程度との関連については未だ明らかになっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-113527号公報
【特許文献2】特開2020-127748号公報
【特許文献3】特開2023-47994号公報
【特許文献4】特開2020-116306号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Tsukahara K, et al., Int J Cosmet Sci 2000: 22: 247-258
【非特許文献2】T Ezure, et al., Skin Res Technol. 2009 Aug;15(3):299-305
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、頬のたるみを客観的により精度高く評価する方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、特定の皮膚内部組織情報が頬のたるみの程度と相関し、当該皮膚内部組織情報を指標として頬のたるみの評価が可能であることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の1)~3)に係るものである。
1)被験体の咬筋細胞外脂肪量、頬圧、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比から選ばれる少なくとも1種の皮膚内部組織情報を指標として、当該被験体の頬たるみの程度を評価することを含む、頬のたるみの評価方法。
2)以下の(1)、(2)及び(3)の工程を含む、被験物質又は被験処理の頬のたるみ改善効果の評価方法。
(1)被験体に被験物質又は被験処理を適用する工程
(2)前記被験体の咬筋細胞外脂肪量、頬圧、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比から選ばれる少なくとも1種の皮膚内部組織情報を取得する工程
(3)(2)で取得した皮膚内部組織情報に基づいて、前記被験物質又は被験処理の頬たるみ改善効果を評価する工程
3)以下の(1)、(2)及び(4)の工程を含む、頬のたるみを改善する剤又は処理の評価又は選択方法。
(1)被験体に被験物質又は被験処理を適用する工程
(2)前記被験体の咬筋細胞外脂肪量、頬圧、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比から選ばれる少なくとも1種の皮膚内部組織情報を取得する工程
(4)(2)で取得した皮膚内部組織情報に基づいて、咬筋細胞外脂肪量を減少、頬圧を増加、咬筋最大厚に対する頬の皮下脂肪断面積の比を減少、又は頬骨筋最大厚に対する頬の皮下脂肪断面積の比を減少させる被験物質又は被験処理を、頬たるみを改善する剤又は処理として評価又は選択する工程
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特定の皮膚内部組織情報を指標とすることで、被験者の頬のたるみを客観的に精度よく評価することができる。また、皮膚内部組織情報の変化に基づいて、被験物質や被験処理の有効性を正しく把握でき、有用な頬のたるみを改善する剤又は処理を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】核磁気共鳴画像法(MRI)装置を用いて取得した左右の口角を通る位置における横断像(口角横断像)を示す。
【
図2】核磁気共鳴画像法(MRI)装置を用いて取得した硬口蓋を通る位置における横断像(硬口蓋横断像)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書中で引用された全ての特許文献、非特許文献、及びその他の刊行物は、その全体が本明細書中において参考として援用される。
【0012】
本明細書において、「頬のたるみ」とはハリの低下等に伴って生じる重力により頬の皮膚形態が下垂した状態を意味する。
頬のたるみの「改善」は、頬のたるみの状態の好転、悪化の防止、抑制もしくは遅延、あるいは頬のたるみの状態の進行の逆転、防止、抑制もしくは遅延をいう。
頬のたるみの改善程度は、頬下部の経時的な体積変化量で表すことができる。例えば、3D画像撮影解析装置(例えば、VECTRA(登録商標) face;Canfield Scientific社製)を用いて、座位にて顔の正面左右斜め45度方向から撮影、作成した三次元形状顔画像の頬中央部から下部(約15cm2)の領域における経時的な体積変化量で表すことができる。本発明において、頬のたるみ改善効果は、好ましくは当該頬下部領域の体積の減少に対応する頬のたるみ改善効果である。
【0013】
「評価」は、検出、検査、測定又は判定等の用語で言い換えることもできる。なお、「評価」、「検出」、「検査」、「測定」又は「判定」は、美容等の非治療的な目的で行われるものであり、治療を目的とした医師による診断を含むものではない。
【0014】
咬筋細胞外脂肪(咬筋EMCL)は、咬筋の筋繊維間に蓄積する脂肪であり、咬筋細胞外脂肪量は、例えば、核磁気共鳴画像法(MRI)装置を用い、プロトンのシグナル強度から算出することができる。
【0015】
頬圧は、顔面筋の力の指標であり、頬圧の値は、最大値(最大圧力)又はその平均値とすることが好ましい。頬圧は、例えば、舌圧測定器(例えば、JMS舌圧測定装置TPM-02;株式会社JMS社製)を用いて後記実施例に記載の方法により測定される最大圧を指標値とすることができる。
【0016】
咬筋量は、例えば、咬筋の厚さ、咬筋の断面積、咬筋の体積等を指標値とすることができる。なかでも、咬筋の最大厚さを指標値とすることが好ましい。咬筋量に係る前記指標値は、例えば、核磁気共鳴画像法(MRI)装置を用い、頭部の正中矢状断像、冠状断像及び横断像を取得し、得られたMRI画像を画像処理ソフト (Image J fiji) を用いて、口角を基準とした横断像及び任意数の近傍横断像から咬筋の大きさを解析することで定量できる。
【0017】
頬筋量は、例えば、頬筋の厚さ、頬筋の断面積、頬筋の体積等を指標値とすることができる。なかでも、頬筋の最大厚さを指標値とすることが好ましい。頬筋量に係る前記指標値は、例えば、核磁気共鳴画像法(MRI)装置を用い、頭部の正中矢状断像、冠状断像及び横断像を取得し、得られたMRI画像を画像処理ソフト (Image J fiji) を用いて、口角を基準とした横断像及び任意数の近傍横断像から頬筋の大きさを解析することで定量できる。
【0018】
頬骨筋量は、例えば、頬骨筋の厚さ、頬骨筋の断面積、頬骨筋の体積等を指標値とすることができ、頬骨筋の最大厚さを指標値とすることが好ましい。頬骨筋量に係る前記指標値は、核磁気共鳴画像法(MRI)装置を用い、頭部の正中矢状断像、冠状断像及び横断像を取得し、得られたMRI画像を画像処理ソフト (Image J fiji) を用いて、硬口蓋を基準とした横断像及び任意数の近傍横断像から頬骨筋の大きさを解析することで定量できる。
【0019】
頬の皮下脂肪量は、頬の皮下脂肪の厚さ、皮下脂肪の断面積、皮下脂肪の体積等を指標値とすることができる。なかでも、頬の皮下脂肪断面積を指標値とすることが好ましい。当該頬の部位としては、頬全体、頬上部、フェイスライン部等が挙げられるが、好ましくはフェイスライン部である。頬の皮下脂肪量に係る前記指標値は、核磁気共鳴画像法(MRI)装置を用い、頭部の正中矢状断像、冠状断像及び横断像を取得し、得られたMRI画像を画像処理ソフト (Image J fiji) を用いて、口角を基準とした横断像及び任意数の近傍横断像または硬口蓋を基準とした横断像及び任意数の近傍横断像から皮下脂肪の大きさを解析することで定量できる。
【0020】
後記実施例に示すように、頬のたるみの程度と、皮膚の内部組織情報、具体的には咬筋細胞外脂肪量、頬圧、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比との間に有意な相関が認められた。頬のたるみの程度と咬筋細胞外脂肪量、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比は正に相関する。他方、頬のたるみの程度と頬圧は負に相関する。
また、筋肉または脂肪組織への作用が報告されている(Y Sakai, et al., Jpn J Rehabil Med 2017;54:776-780、Pragyanshu Khare, et al., Front Pharmacol. 2018; 9: 1244)炭酸ガス及びメントールを、頬に2か月間連続で就寝中に適用したところ、適用前に比べて咬筋細胞外脂肪量の減少、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比の減少、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比の減少が認められた。さらにこれらの皮膚内部組織情報の変化と同時に頬下部の体積も減少しており、すなわち頬のたるみの改善効果が認められた。
これらの結果より、咬筋細胞外脂肪量、頬圧、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比を指標として、頬のたるみの程度の評価、頬のたるみ改善効果の評価、頬のたるみを改善する剤や処理方法の探索が可能である。
【0021】
本発明の頬のたるみの評価方法は、被験体の咬筋細胞外脂肪量、頬圧、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比から選ばれる少なくとも1種の皮膚内部組織情報を指標として、当該被験体の頬のたるみの程度を評価することを含む。
【0022】
本発明において、被験体は、ヒト又は非ヒト動物が挙げられる。非ヒト動物としては、類人猿、その他霊長類等の非ヒト哺乳動物等が挙げられる。なかでも、好ましくはヒトである。
【0023】
頬のたるみの程度の評価は、上述したように、頬のたるみの程度と咬筋細胞外脂肪量、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比は正に相関することから、咬筋細胞外脂肪量が多い程、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比が大きい程、また頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比が大きい程、頬のたるみの程度は大きいと判断することができる。
他方、咬筋細胞外脂肪量が少ない程、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比が小さい程、また頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比が小さい程、頬のたるみの程度は小さいと判断することができる。
また、頬のたるみの程度と頬圧は負に相関することから、頬圧が小さい程、頬のたるみの程度は大きいと判断することができる。
他方、頬圧が大きい程、頬のたるみの程度は小さいと判断することができる。
【0024】
頬のたるみの程度の評価は、被験体から得られた本発明の特定皮膚内部組織情報を、予め設定した基準値と比較することにより行ってもよい。該基準値は、頬のたるみの程度と該皮膚内部組織情報との関係に基づき決定することができる。例えば任意の集団を、従来公知の頬のたるみ評価方法に基いて、頬のたるみ程度が異なる2以上の複数の群に分ける。頬のたるみ程度が異なるそれぞれの群における皮膚内部組織情報の統計値、例えば平均値を参考に、それぞれの群への属否を判断する基準値を決定することができる。3群以上に群分けする場合は、群分けの数に応じて複数の基準値を設定する(例えば、3群なら2つの基準値、4群なら3つの基準値)。そして、被験体から得られた本発明の特定皮膚内部組織情報を設定された基準値と比較して、該被験体が頬たるみの程度の異なる複数の群のうち、いずれの群に属するかを判定することで、頬のたるみの程度を評価することができる。
基準値の設定に用いられる群分けの例としては、たるみ程度が小さい群(軽度たるみ群)とたるみ程度が大きい群(重度たるみ群)の2群分け、たるみ程度が小さい群(軽度たるみ群)とたるみ程度がやや大きい群(中等度たるみ群)とたるみ程度が大きい群(重度たるみ群)の3群分け等が挙げられる。4群以上への群分けの例としては、前記非特許文献1に記載されたグレード基準に準拠した6段階スコア評価による6群への群分けが挙げられる。
該基準値は、性別、人種、年齢・年代毎に設定してもよい。なお、2種以上の皮膚内部組織情報を用いる場合、それぞれの皮膚内部組織情報について基準値を設定することが好ましい。
【0025】
別の実施形態として、被験体における皮膚内部組織情報を異なる時期に取得し、取得した皮膚内部組織情報を比較することで、該被験体の頬のたるみ程度の変化(例えばたるみの改善又はたるみの悪化)を評価することができる。
例えば、皮膚内部組織情報として咬筋細胞外脂肪量、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比のいずれかを用いる場合、咬筋細胞外脂肪量、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比が初期と比較して多く又は大きくなった場合、頬のたるみの程度は悪化したと評価される。
他方、咬筋細胞外脂肪量、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比が初期と比較して少なく又は小さくなった場合、頬のたるみの程度は改善したと評価される。
咬筋細胞外脂肪量、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比が、初期の値に対して好ましくは110%以上、より好ましくは115%以上、さらに好ましくは120%以上であれば、当該値は初期値より多い又は大きいと判断され得、初期の値に対して好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下、さらに好ましくは85%以下であれば、当該値は初期値より少ない又は小さいと判断され得る。あるいは、斯かる皮膚内部組織情報と初期値との差異は、例えば両者が統計学的に有意に異なるか否かによって判断することもできる。
【0026】
皮膚内部組織情報として頬圧を用いる場合、頬圧が初期と比較して小さくなった場合、頬のたるみの程度は悪化したと評価される。
他方、頬圧が初期と比較して大きくなった場合、頬のたるみの程度は改善したと評価される。
頬圧が、初期の値に対して好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下、さらに好ましくは85%以下であれば、当該値は初期値より小さいと判断され得、初期の値に対して好ましくは110%以上、より好ましくは115%以上、さらに好ましくは120%以上であれば、当該値は初期値より大きいと判断され得る。あるいは、斯かる皮膚内部組織情報と初期値との差異は、例えば両者が統計学的に有意に異なるか否かによって判断することもできる。
【0027】
頬のたるみの程度を評価する指標となる皮膚内部組織情報は、被験体の咬筋細胞外脂肪量、頬圧、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比から選ばれる少なくとも1種であるが、これらのうち、精度向上の観点から、好ましくは2種以上、より好ましくは3種以上、さらに好ましくは4種の組み合わせを用いる。
【0028】
本発明の被験物質又は被験処理の頬のたるみ改善効果の評価方法は、以下の(1)、(2)及び(3)の工程を含む。
(1)被験体に被験物質又は被験処理を適用する工程
(2)前記被験体の咬筋細胞外脂肪量、頬圧、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比から選ばれる少なくとも1種の皮膚内部組織情報を取得する工程
(3)(2)で取得した皮膚内部組織情報に基づいて、前記被験物質又は被験処理の頬たるみ改善効果を評価する工程
また、本発明の頬のたるみを改善する剤又は処理の評価又は選択方法は、以下の(1)、(2)及び(4)の工程を含む。
(1)被験体に被験物質又は被験処理を適用する工程
(2)前記被験体の咬筋細胞外脂肪量、頬圧、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比から選ばれる少なくとも1種の皮膚内部組織情報を取得する工程
(4)(2)で取得した皮膚内部組織情報に基づいて、咬筋細胞外脂肪量を減少、頬圧を増加、咬筋最大厚に対する頬の皮下脂肪断面積の比を減少、又は頬骨筋最大厚に対する頬の皮下脂肪断面積の比を減少させる被験物質又は被験処理を、頬たるみを改善する剤又は処理として評価又は選択する工程
【0029】
前記被験物質としては、特に制限されず、例えば、動植物、海洋生物、微生物等及びその抽出物;それらに由来する天然成分;合成化合物;並びにそれらの混合物及び組成物等が挙げられる。
被験体に被験物質を適用する手段としては、当該分野で公知の手段であればよく、例えば、当該被験物質の被験体への局所的投与(例えば、滴下、塗布、噴霧、パッチ、注射等)、全身投与(例えば、経口投与)等が挙げられる。
【0030】
前記被験処理としては、被験体の局所又は全身への近赤外光等の光照射、温熱刺激等の物理的処理が挙げられる。
【0031】
被験物質又は被験処理の濃度、適用量は、被験物質又は被験処理の形態、化学的性質、細胞毒性等に基づいて適宜設定すればよい。例えば、天然成分では抽出物中に含まれる乾燥固形分として0.00001~5.0質量%、合成化合物では0.01~10.0質量%である。
【0032】
被験物質又は被験処理の被験体への適用時間についても、適宜設定すればよい。例えば、被験物質又は被験処理を1回適用した後、任意のタイミングで解析を行う。連用では被験物質又は被験処理を1日1~3回適用する。連用期間の長さは、1日以上から5年以下が好ましく、1週間以上から1年以下がより好ましく、2週間以上から6カ月以下がさらに好ましい。
なお、被験体の具体的構成は、上記において説明したとおりである。
【0033】
工程(2)において、取得する皮膚内部組織情報は、被験体の咬筋細胞外脂肪量、頬圧、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比から選ばれる少なくとも1種であるが、これらのうち、精度向上の観点から、好ましくは2種以上、より好ましくは3種以上、さらに好ましくは4種の組み合わせである。
【0034】
次いで、工程(3)では、(2)で取得した皮膚内部組織情報に基づいて、前記被験物質又は被験処理の頬たるみ改善効果を評価する。
斯かる評価は、例えば、被験物質又は被験処理の適用前後で、又は被験物質又は被験処理の適用群と非適用群若しくは対照物質又は対照処理の適用群とを比較することによって行われる。あるいは、評価は、種々の濃度、適用量の被験物質又は被験処理間で測定結果を比較することによって行われる。
皮膚内部組織情報が咬筋細胞外脂肪量、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比の場合、例えば、被験物質又は被験処理の適用群において、咬筋細胞外脂肪量、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比が、被験物質又は被験処理の適用前、被験物質又は被験処理非適用群又は対照物質又は対照処理の適用群と比べて少ない又は小さいとき、当該被験物質又は被験処理は、頬のたるみ改善効果を有すると評価される。この場合、被験物質又は被験処理の適用前、被験物質又は被験処理非適用群又は対照物質又は対照処理の適用群に対して、被験物質又は被験処理の適用群における値が統計学的に有意に少ない又は小さいか否かによって判断することができる。あるいは、被験物質又は被験処理の適用前、被験物質又は被験処理非適用群又は対照物質又は対照処理の適用群における値を100%としたときに、被験物質又は被験処理の適用群における値が一定以下、例えば、90%以下、好ましくは85%以下、より好ましくは80%以下であるか否かによって判断することもできる。
他方、被験物質又は被験処理の適用群において、咬筋細胞外脂肪量、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比が、被験物質又は被験処理の適用前、被験物質又は被験処理非適用群又は対照物質又は対照処理の適用群と比べて同等かそれよりも多い又は大きいとき、当該被験物質又は被験処理は、頬のたるみ改善効果を有さないと評価される。
【0035】
皮膚内部組織情報が頬圧の場合、例えば、被験物質又は被験処理の適用群において、頬圧が、被験物質又は被験処理の適用前、被験物質又は被験処理非適用群又は対照物質又は対照処理の適用群と比べて大きいとき、当該被験物質又は被験処理は、頬のたるみ改善効果を有すると評価される。この場合、被験物質又は被験処理の適用前、被験物質又は被験処理非適用群又は対照物質又は対照処理の適用群に対して、被験物質又は被験処理の適用群における値が統計学的に有意に大きいか否かによって判断することができる。あるいは、被験物質又は被験処理の適用前、被験物質又は被験処理非適用群又は対照物質又は対照処理の適用群における値を100%としたときに、被験物質又は被験処理の適用群における値が一定以上、例えば、好ましくは110%以上、より好ましくは120%以上、さらに好ましくは130%以上であるか否かによって判断することができる。
他方、被験物質又は被験処理の適用群において、頬圧が、被験物質又は被験処理の適用前、被験物質又は被験処理非適用群又は対照物質又は対照処理の適用群と比べて同等かそれよりも小さいとき、当該被験物質又は被験処理は、頬のたるみ改善効果を有さないと評価される。
【0036】
そして、工程(4)では、上述のように、被験物質又は被験処理について頬のたるみ改善効果を有すると評価された場合、すなわち、咬筋細胞外脂肪量を減少、頬圧を増加、咬筋最大厚に対する頬の皮下脂肪断面積の比を減少、又は頬骨筋最大厚に対する頬の皮下脂肪断面積の比を減少させる場合、当該被験物質又は被験処理を頬のたるみを改善する剤又は処理として評価又は選択することができる。
【0037】
斯くして得られた頬たるみを改善する剤又は処理は、頬のたるみ改善のために、化粧品、医薬部外品、医薬品等として利用することができる。
【実施例0038】
実施例1 頬のたるみの程度と皮膚内部組織情報の関連性
(1)対象
健康な37歳から56歳までの男性16名を被験者とした。
【0039】
(2)頬のたるみの写真評価
顔の真正面を基準(0度)として、左右斜め45度の角度から顔面を写真撮影し、非特許文献1に記載されたたるみグレード基準に準拠し、左右の頬たるみを6段階でスコア評価し、判定員2名のコンセンサススコアを採用した。
【0040】
(3)MRI測定
MRI(Magnetic Resonance Imaging:核磁気共鳴画像法)装置(Skyla 3.0T、Siemens社製)を用いて頭部の横断像として、左右の口角を通る位置における横断像(以下、口角横断像、
図1)及び硬口蓋を通る位置における横断像(以下、硬口蓋横断像、
図2)を取得した。得られたMRI画像は画像処理ソフト(Image J fiji)を用いて、下記の方法で各部位の計測を行った。
咬筋最大厚:口角横断像にて左右の咬筋最大厚(
図1中のA及びBの白線の長さ)を計測した。
頬筋最大厚:口角横断像にて左右の頬筋最大厚(
図1中のC及びDの白線の長さ)を計測した。
皮下脂肪断面積:口角横断像にて下顎枝より前部の領域において左右のバッカルファット等を除いた第1層目のみの皮下脂肪断面積(
図1中のE及びFの白線で囲まれた領域の面積)を計測した。
頬骨筋最大厚:硬口蓋横断像にて左右の頬骨筋最大厚(
図2中のG及びHの白線の長さ)を計測した。
【0041】
(4)咬筋細胞外脂肪(咬筋EMCL)量測定
MRI装置を用いて頭部の正中矢状断像、冠状断像及び横断像を取得した。取得画像を参照し、5mm x 5mm x 20mmの関心領域を左右の咬筋2か所に設定し、1H-MRS(Magnetic Resonance Spectroscopy)を実施した。得られたスペクトルデータからスペクトル解析ソフトLCModel(Stephen Provencher社製)を用いて、関心領域における組織水の信号強度に対するEMCLの信号強度の比を算出し咬筋EMCLを定量した。
【0042】
(5)頬圧測定
JMS舌圧測定器TPM-02(株式会社JMS社製)を用いて測定した。具体的には、座位にて第一大臼歯頬側歯面と頬粘膜の間にバルーンを挟み、5秒間最大の力でバルーンを潰すように指示し、5秒間中にバルーンに加わった最大圧を最大頬圧とした。測定は左右それぞれ3回ずつ実施し、3回の平均値を測定値とした。
【0043】
(6)検定
統計解析は SPSS ソフトウェアを用いて実施した。たるみ程度及びいくつかの内部組織情報が年齢と強く相関しており、疑似相関の可能性を除するために、年齢を制御変数とした偏相関解析により相関係数及び有意性を解析した。
【0044】
(7)結果
結果を表1に示す。
【0045】
【0046】
偏相関解析によって左右別に全被験者のたるみスコアで示される頬のたるみの程度と皮膚内部組織情報との関係を解析した。表1に示すように、たるみ程度と咬筋EMCL量との間に強い正の相関関係、たるみ程度と最大頬圧との間に強い負の相関関係が認められた。また、たるみ程度と咬筋最大厚、頬筋最大厚、頬骨筋最大厚及び皮下脂肪断面積との間の相関関係と比較して、たるみ程度と咬筋最大厚に対する皮下脂肪断面積の比、及び頬骨筋最大厚に対する皮下脂肪断面積の比との間にはより強い正の相関関係が認められた。一方で、たるみ程度と頬筋最大厚に対する皮下脂肪断面積の比との間には強い相関関係は認められなかった。これらの結果から、咬筋EMCL量及び最大頬圧を指標として頬のたるみ程度を評価できると考えられる。さらに、皮下脂肪断面積または各筋肉単体の最大厚と比較して、咬筋最大厚に対する皮下脂肪断面積の比及び頬骨筋最大厚に対する皮下脂肪断面積の比を指標とすることで、より精度良く頬のたるみ程度を評価できると考えられる。
【0047】
実施例2 炭酸冷感シート連用による頬のたるみ改善と皮膚内部組織の変化
(1)ゲルシート連用
健康な41歳から59歳までの男性7名を被験者とした。炭酸ガス及びメントールを配合したゲルシート(水溶性高分子をゲル化させた貼付剤)を、片側の頬に就寝中に貼付して2カ月間連用し、頬のたるみ及び皮膚内部組織に及ぼす効果について調べた。
【0048】
(2)頬下部体積変化解析
頬たるみの改善程度の評価として、頬下部の体積変化を定量した。具体的には、VECTRA face(Canfield Scientific社製)を用いて、座位にて試験対象者の正面左右斜め45度方向からの全顔写真を撮影した。得られた画像より、解析ソフト(Mirror Vectra M3、Canfield Scientific社製)を用いて三次元顔画像を作成し、頬中央部から下部(約15cm2)の体積変化(連用前を基準)を算出した。
【0049】
(3)皮膚内部組織情報の変化解析
実施例1記載の方法に準じて、連用前と連用後における試験対象者の咬筋最大厚、皮下脂肪断面積、頬骨筋最大厚及び咬筋EMCL量を計測し、咬筋EMCL量、咬筋最大厚に対する皮下脂肪断面積の比、及び頬骨筋最大厚に対する皮下脂肪断面積の比の変化(連用前を基準)を算出した。
【0050】
(4)結果
結果を表2に示す。
【0051】
【0052】
表2に示すように、炭酸ガス及びメントールを配合したゲルシートを2か月間連用後、7名の平均で咬筋EMCL量、咬筋最大厚に対する皮下脂肪断面積の比、及び頬骨筋最大厚に対する皮下脂肪断面積の比は減少した。さらに同被験者7名の平均で頬体積も減少、すなわち頬のたるみが改善した。これらのことから、咬筋EMCL量、最大頬圧、咬筋最大厚に対する皮下脂肪断面積の比、及び頬骨筋最大厚に対する皮下脂肪断面積の比を指標とすることで頬のたるみ改善程度を評価できると考えられる。