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  • 特開-顔の皮膚内部組織の評価方法 図1
  • 特開-顔の皮膚内部組織の評価方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175439
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】顔の皮膚内部組織の評価方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20241211BHJP
【FI】
A61B5/055 380
A61B5/055 390
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093230
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 恵太
(72)【発明者】
【氏名】池内 正剛
(72)【発明者】
【氏名】松浦 正憲
(72)【発明者】
【氏名】笠松 慎也
(72)【発明者】
【氏名】高野 圭
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AA13
4C096AA18
4C096AC01
4C096AD14
4C096DC19
4C096DC23
4C096DC24
4C096FC20
(57)【要約】
【課題】顔の皮膚内部組織を簡便に評価する方法の提供。
【解決手段】被験体の頬圧を指標として、当該被験体の咬筋細胞外脂肪量、咬筋断面積、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比から選ばれる少なくとも1種の皮膚内部組織情報を評価することを含む、顔の皮膚内部組織の評価方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体の頬圧を指標として、当該被験体の咬筋細胞外脂肪量、咬筋断面積、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比から選ばれる少なくとも1種の皮膚内部組織情報を評価することを含む、顔の皮膚内部組織の評価方法。
【請求項2】
前記咬筋量又は頬骨筋量が咬筋又は頬骨筋の最大厚さであり、頬の皮下脂肪量が頬の皮下脂肪の断面積である、請求項1記載の評価方法。
【請求項3】
前記頬圧が舌圧測定器を用いて測定される請求項1又は2記載の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔の皮膚内部組織の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、表皮、真皮、皮下組織の3層に分けられ、さらに下層には筋肉組織が存在する。顔面の筋肉組織は表情の変化や咀嚼動作等を担うことが知られている。近年、皮下組織や筋肉組織といった顔の皮膚内部組織が老化に伴う頬のたるみ等の皮膚形状に影響を与え得ることが明らかになってきており(非特許文献1)、様々な機能を担う顔の皮膚内部組織を評価する方法が求められている。
【0003】
これまでに、顔面の筋肉の評価方法として、舌で口腔内のバルーンを押圧することによる舌骨筋の評価方法(非特許文献2)や、プローブを口に加えた状態で唇を密閉することによる口輪筋の評価方法(非特許文献1)が行われている。しかしながら、その他の顔面の筋肉、例えば咬筋や頬骨筋を評価するためには、超音波やMRI(Magnetic Resonance Imaging:核磁気共鳴画像法)等の大掛かりな装置を用いた測定が必要なため、皮膚内部組織を簡便に評価する方法が望まれる。
【0004】
一方、頬圧とは頬を歯牙方向に押し付ける力である。頬の内側と歯の側面の間に挟んだバルーンを押圧することによる頬圧の評価が行われている(非特許文献3)。
しかしながら、頬圧と顔の内部組織との詳細な機能や構造との関連については未だ明らかになっていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T Ezure, et al., Skin Res Technol. 2009 Aug;15(3):299-305
【非特許文献2】PM Palmer, et al., J Speech Lang Hear Res. 2008 Aug;51(4):828-35
【非特許文献3】小児歯科学雑誌, 2017 1;55(1);1-10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、顔の皮膚内部組織を簡便に評価する方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、頬圧が特定の皮膚内部組織情報と相関し、頬圧を指標として顔の皮膚内部組織の評価が可能であることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の1)に係るものである。
1)被験体の頬圧を指標として、当該被験体の咬筋細胞外脂肪量、咬筋断面積、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比から選ばれる少なくとも1種の皮膚内部組織情報を評価することを含む、顔の皮膚内部組織の評価方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、頬圧を指標とすることで、顔の皮膚内部組織を簡便に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】核磁気共鳴画像法(MRI)装置を用いて取得した左右の口角を通る位置における横断像(口角横断像)を示す。
図2】核磁気共鳴画像法(MRI)装置を用いて取得した硬口蓋を通る位置における横断像(硬口蓋横断像)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書中で引用された全ての特許文献、非特許文献、及びその他の刊行物は、その全体が本明細書中において参考として援用される。
【0012】
本発明の顔の皮膚内部組織の評価方法は、被験体の頬圧を指標として、当該被験体の咬筋細胞外脂肪量、咬筋断面積、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比から選ばれる少なくとも1種の皮膚内部組織情報を評価することを含む。
【0013】
本明細書において、頬圧は、頬を歯牙方向に押し付けるの力の指標であり、頬圧の値は、最大値(最大圧力)又はその平均値とすることが好ましい。頬圧は、例えば、舌圧測定器(例えば、JMS舌圧測定装置TPM-02;株式会社JMS社製)を用いて後記実施例に記載の方法により測定される最大圧を指標値とすることができる。
【0014】
咬筋細胞外脂肪(咬筋EMCL)は、咬筋の筋繊維間に蓄積する脂肪であり、咬筋細胞外脂肪量は、例えば、核磁気共鳴画像法(MRI)装置を用い、プロトンのシグナル強度から算出することができる。
【0015】
咬筋は、食物等を噛み切る際に使用される筋肉である。咬筋量は、咬筋の筋線維の横断面積である咬筋断面積の他、例えば、咬筋の厚さ、咬筋の体積等を指標値とすることができる。なかでも、咬筋の最大厚さを指標値とすることが好ましい。咬筋量に係る前記指標値は、例えば、核磁気共鳴画像法(MRI)装置を用い、頭部の正中矢状断像、冠状断像及び横断像を取得し、得られたMRI画像を画像処理ソフト(Image J fiji)を用いて、口角を基準とした横断像及び任意数の近傍横断像から咬筋の大きさを解析することで定量できる。
【0016】
頬筋は、口角を上に引き上げる際に使用される筋肉である。頬筋量は、頬筋の筋線維の横断面積である頬筋断面積の他、例えば、頬筋の厚さ、頬筋の体積等を指標値とすることができる。なかでも、頬筋の最大厚さを指標値とすることが好ましい。頬筋量に係る前記指標値は、例えば、核磁気共鳴画像法(MRI)装置を用い、頭部の正中矢状断像、冠状断像及び横断像を取得し、得られたMRI画像を画像処理ソフト(Image J fiji)を用いて、口角を基準とした横断像及び任意数の近傍横断像から頬筋の大きさを解析することで定量できる。
【0017】
頬骨筋は、口角を上外側に引っ張る筋肉で、大頬骨筋と小頬骨筋からなる。頬骨筋量は、例えば、頬骨筋の厚さ、頬骨筋の断面積、頬骨筋の体積等を指標値とすることができ、頬骨筋の最大厚さを指標値とすることが好ましい。頬骨筋量に係る前記指標値は、核磁気共鳴画像法(MRI)装置を用い、頭部の正中矢状断像、冠状断像及び横断像を取得し、得られたMRI画像を画像処理ソフト(Image J fiji)を用いて、硬口蓋を基準とした横断像及び任意数の近傍横断像から頬骨筋の大きさを解析することで定量できる。
【0018】
頬の皮下脂肪量は、頬の皮下脂肪の厚さ、皮下脂肪の断面積、皮下脂肪の体積等を指標値とすることができる。なかでも、頬の皮下脂肪断面積を指標値とすることが好ましい。当該頬の部位としては、頬全体、頬上部、フェイスライン部等が挙げられるが、好ましくはフェイスライン部である。頬の皮下脂肪量に係る前記指標値は、核磁気共鳴画像法(MRI)装置を用い、頭部の正中矢状断像、冠状断像及び横断像を取得し、得られたMRI画像を画像処理ソフト(Image J fiji)を用いて、口角を基準とした横断像及び任意数の近傍横断像または硬口蓋を基準とした横断像及び任意数の近傍横断像から皮下脂肪の大きさを解析することで定量できる。
【0019】
被験体は、ヒト又は非ヒト動物が挙げられる。非ヒト動物としては、類人猿、その他霊長類等の非ヒト哺乳動物等が挙げられる。なかでも、好ましくはヒトである。
【0020】
本明細書において、「評価」は、検出、検査、測定又は判定等の用語で言い換えることもできる。なお、「評価」、「検出」、「検査」、「測定」又は「判定」は、美容等の非治療的な目的で行われるものであり、治療を目的とした医師による診断を含むものではない。
【0021】
後記実施例に示すように、頬圧と、顔の皮膚内部組織情報、具体的には咬筋細胞外脂肪量、咬筋断面積、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比との間に有意な相関が認められた。頬圧と咬筋断面積は正に相関する。他方、頬圧と咬筋細胞外脂肪量、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比は負に相関する。
この結果は、頬圧を指標として、咬筋細胞外脂肪量、咬筋断面積、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比の評価が可能であることを示す。
前記皮膚内部組織情報のうち、例えば咬筋断面積は食物の咀嚼力と関連することから(人間工学, 39巻(2003)1号)、頬圧に基づく咬筋断面積の評価は、食物の咀嚼力の評価に利用することができる。
また、顔の皮膚内部組織情報と頬のたるみの程度との関連について検討したところ、咬筋細胞外脂肪量、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比と、頬のたるみの程度との間に有意な正相関が認められた。斯かる皮膚内部組織の詳細な機能や構造と頬のたるみ程度との関連性は、これまでに明らかにされていない。
従って、頬圧に基づく咬筋細胞外脂肪量、咬筋断面積、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比から選ばれる少なくとも1種の皮膚内部組織情報の評価は、皮膚内部組織が担う顔の機能や皮膚内部組織が影響する頬のたるみ等の皮膚形状の状態、変化等を効率よく把握することができる。
【0022】
本発明において、顔の皮膚内部組織の評価は、上述したように、頬圧と咬筋断面積は正に相関することから、頬圧が大きい程、咬筋断面積は大きいと判断することができる。
他方、頬圧が小さい程、咬筋断面積は小さいと判断することができる。
また、頬圧と咬筋細胞外脂肪量、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比は負に相関することから、頬圧が大きい程、咬筋細胞外脂肪量は少ない、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比は小さいと判断することができる。
他方、頬圧が小さい程、咬筋細胞外脂肪量は多い、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比は大きいと判断することができる。
頬圧の値は、咬筋断面積、咬筋細胞外脂肪量、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比の相対的な推定値として利用することができる。または、予め頬圧の値と、咬筋断面積、咬筋細胞外脂肪量、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比との回帰式を求めておき、その回帰式を用いて頬圧の値から咬筋断面積、咬筋細胞外脂肪量、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比の推定値を算出してもよい。
【0023】
また、被験体における頬圧の値を異なる時期に取得し、取得した頬圧の値を比較することで、被験体の皮膚内部組織についての情報、具体的には咬筋断面積、咬筋細胞外脂肪量、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比の経時的な増減を評価することができる。前記したように、頬圧と咬筋断面積は正に相関し、頬圧と咬筋細胞外脂肪量、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比は負に相関する。
【0024】
従って、頬圧が初期値と比較して大きくなった場合、咬筋断面積は増加したと評価され、咬筋細胞外脂肪量、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比は減少したと評価される。
逆に、頬圧が初期値と比較して小さくなった場合、咬筋断面積は減少したと評価され、咬筋細胞外脂肪量、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比は増加したと評価される。
【0025】
頬圧が、初期の値に対して好ましくは110%以上、より好ましくは115%以上、さらに好ましくは120%以上であれば、当該値は初期値より大きいと判断され得、初期値に対して好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下、さらに好ましくは85%以下であれば、当該値は初期値より小さいと判断され得る。あるいは、測定した頬圧の値と初期値との差異は、例えば両者が統計学的に有意に異なるか否かによって判断することができる。
【0026】
前記したように、咬筋断面積は食物の咀嚼力と関連することが知られていることから、経時的な頬圧の変化を確認することで、食物の咀嚼力の変化を評価することも可能である。
また後述の参考例で示すように、咬筋細胞外脂肪量、咬筋量に対する頬の皮下脂肪量の比、及び頬骨筋量に対する頬の皮下脂肪量の比などの皮膚内部組織情報が頬のたるみと正相関することから、経時的な頬圧の変化を確認することで、頬のたるみの変化を評価することも可能である。
【実施例0027】
実施例1 頬圧と皮膚内部組織情報の関連性
(1)対象
健康な37歳から56歳までの男性16名を被験者とした。
【0028】
(2)MRI測定
MRI(Magnetic Resonance Imaging:核磁気共鳴画像法)装置(Skyla 3.0T、Siemens社製)を用いて頭部の横断像として、左右の口角を通る位置における横断像(以下、口角横断像、図1)及び硬口蓋を通る位置における横断像(以下、硬口蓋横断像、図2)を取得した。得られたMRI画像は画像処理ソフト (Image J fiji)を用いて、下記の方法で各部位の計測を行った。
咬筋最大厚:口角横断像にて左右の咬筋最大厚(図1中のA及びBの白線の長さ)を計測した。
咬筋断面積:口角横断像にて左右の咬筋断面積(図1中のC及びDの白線で囲まれた領域の面積)を計測した。
頬筋最大厚:口角横断像にて左右の頬筋最大厚(図1中のE及びFの白線の長さ)を計測した。
皮下脂肪断面積:口角横断像にて下顎枝より前部の領域において左右のバッカルファット等を除いた第1層目のみの皮下脂肪断面積(図1中のG及びHの白線で囲まれた領域の面積)を計測した。
頬骨筋最大厚:硬口蓋横断像にて左右の頬骨筋最大厚(図2中のI及びJの白線の長さ)を計測した。
【0029】
(3)咬筋細胞外脂肪(咬筋EMCL)量測定
MRI装置を用いて頭部の正中矢状断像、冠状断像及び横断像を取得した。取得画像を参照し、5mm x 5mm x 20mmの関心領域を左右の咬筋2か所に設定し、1H-MRS(Magnetic Resonance Spectroscopy)を実施した。得られたスペクトルデータからスペクトル解析ソフトLCModel(Stephen Provencher社製)を用いて、関心領域における組織水の信号強度に対するEMCLの信号強度の比を算出し咬筋EMCLを定量した。
【0030】
(4)頬圧測定
JMS舌圧測定器TPM-02(株式会社JMS社製)を用いて測定した。具体的には、座位にて第一大臼歯頬側歯面と頬粘膜の間にバルーンを挟み、5秒間最大の力でバルーンを潰すように指示し、5秒間中にバルーンに加わった最大圧を最大頬圧とした。測定は左右それぞれ3回ずつ実施し、3回の平均値を測定値とした。
【0031】
(5)検定
統計解析はSPSS ソフトウェアを用いて実施した。いくつかの皮膚内部組織情報が年齢と強く相関しており、疑似相関の可能性を除するために、年齢を制御変数とした偏相関解析により相関係数及び有意性を解析した。
【0032】
(6)結果
結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
偏相関解析によって左右別に全被験者の最大頬圧と皮膚内部組織情報との関係を解析した。表1に示すように、最大頬圧と咬筋EMCL量との間に負の相関関係、最大頬圧と咬筋断面積との間に強い正の相関関係が認められた。また、最大頬圧と咬筋最大厚、頬筋最大厚、頬骨筋最大厚及び皮下脂肪断面積との間の相関関係と比較して、最大頬圧と咬筋最大厚に対する皮下脂肪断面積の比及び頬骨筋最大厚に対する皮下脂肪断面積の比との間にはより強い負の相関関係が認められた。一方で、最大頬圧と頬筋最大厚に対する皮下脂肪断面積の比との間には強い相関関係は認められなかった。これらの結果から、最大頬圧を指標として咬筋断面積、咬筋EMCL量、咬筋最大厚に対する皮下脂肪断面積の比及び頬骨筋最大厚に対する皮下脂肪断面積の比を評価できると考えられる。
【0035】
参考例1 頬のたるみの程度と皮膚内部組織情報の関連性
(1)対象
健康な37歳から56歳までの男性16名を被験者とした。
【0036】
(2)頬のたるみの写真評価
顔の真正面を基準(0度)として、左右斜め45度の角度から顔面を写真撮影し、たるみグレード基準(Tsukahara K, et al., Int J Cosmet Sci 2000: 22: 247-258)に準拠し、左右の頬たるみを6段階でスコア評価し、判定員2名のコンセンサススコアを採用した。
【0037】
(3)MRI測定、(4)咬筋細胞外脂肪(咬筋EMCL)量測定
実施例1と同様に行なった。
【0038】
(5)検定
統計解析は SPSS ソフトウェアを用いて実施した。たるみ程度及びいくつかの内部組織情報が年齢と強く相関しており、疑似相関の可能性を除するために、年齢を制御変数とした偏相関解析により相関係数及び有意性を解析した。
【0039】
(6)結果
結果を表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
偏相関解析によって左右別に全被験者のたるみスコアで示される頬のたるみ程度と皮膚内部組織情報との関係を解析した。表2に示すように、たるみ程度と咬筋EMCL量との間に強い正の相関関係が認められた。また、たるみ程度と咬筋最大厚、頬筋最大厚、頬骨筋最大厚及び皮下脂肪断面積との間の相関関係と比較して、たるみ程度と咬筋最大厚に対する皮下脂肪断面積の比及び頬骨筋最大厚に対する皮下脂肪断面積の比との間にはより強い正の相関関係が認められた。一方で、たるみ程度と頬筋最大厚に対する皮下脂肪断面積の比との間には強い相関関係は認められなかった。これらの結果から、咬筋EMCL量を指標とした頬のたるみ程度を評価できると考えられる。さらに、皮下脂肪断面積または各筋肉単体の最大厚と比較して、咬筋最大厚に対する皮下脂肪断面積の比及び頬骨筋最大厚に対する皮下脂肪断面積の比を指標とすることでより精度良く頬のたるみ程度を評価できると考えられる。実施例1の結果と併せて、最大頬圧から評価可能な咬筋EMCL量、咬筋最大厚に対する皮下脂肪断面積の比及び頬骨筋最大厚に対する皮下脂肪断面積の比についての情報を介することで、頬のたるみ程度を推定することができると考えられる。
図1
図2