(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175440
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】静電潜像現像用トナー、画像形成方法
(51)【国際特許分類】
G03G 9/08 20060101AFI20241211BHJP
G03G 9/087 20060101ALI20241211BHJP
G03G 9/097 20060101ALI20241211BHJP
G03G 8/00 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
G03G9/08
G03G9/087 331
G03G9/097 374
G03G9/08 381
G03G8/00
G03G9/097 365
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093231
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野宮 誠
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 奈津紀
(72)【発明者】
【氏名】柴田 幸治
(72)【発明者】
【氏名】長澤 寛
(72)【発明者】
【氏名】大浦 麗仁
(72)【発明者】
【氏名】松原 政治
【テーマコード(参考)】
2H500
【Fターム(参考)】
2H500AA01
2H500AA03
2H500AA08
2H500AA09
2H500BA03
2H500CA06
2H500CA30
2H500CB04
2H500EA39B
2H500EA42C
2H500EA46C
2H500EA52A
2H500EA61C
2H500FA13
(57)【要約】
【課題】汎用のニスを用いたときにも、ニスの塗布性をより高め、耐熱保管性を十分に高めることができ、かつ画像汚れが抑制された画像を連続で形成できる静電潜像現像用トナー、および上記静電潜像現像用トナーを用いた画像形成方法を提供すること。
【解決手段】離型剤と、炭素数16以上35以下の飽和炭化水素化合物と、をトナー母体粒子に含む静電潜像現像用トナーであって、前記飽和炭化水素化合物の含有量は、前記静電潜像現像用トナーの全質量に対して1ppm以上1000ppm以下であり、トナーの断面において、前記トナー母体粒子の表面からの距離が1.0μm未満の領域である第1領域における前記離型剤および前記飽和炭化水素化合物の存在量よりも、前記第1領域以外の領域である第2領域における前記離型剤および前記飽和炭化水素化合物の存在量の方が多い、静電潜像現像用トナー。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
離型剤(炭素数16以上35以下の飽和炭化水素化合物を除く)と、炭素数16以上35以下の飽和炭化水素化合物と、をトナー母体粒子に含む静電潜像現像用トナーであって、
前記飽和炭化水素化合物の含有量は、前記静電潜像現像用トナーの全質量に対して1ppm以上1000ppm以下であり、
前記静電潜像現像用トナーの最大径である長軸の中心を通り、前記長軸と垂直に交わる前記静電潜像現像用トナーの断面において、前記トナー母体粒子の表面からの距離が1.0μm未満の領域である第1領域の面積をS1、前記第1領域以外の領域である第2領域の面積をS2とし、前記第1領域において前記離型剤および前記飽和炭化水素化合物が存在する領域の総面積をW1、前記第2領域において前記離型剤および前記飽和炭化水素化合物が存在する領域の総面積をW2としたとき、式(1)の関係を満たす、
静電潜像現像用トナー。
W1/S1<W2/S2 (1)
【請求項2】
前記トナー母体粒子の体積平均粒径は、3.0μm以上10.0μm以下である、請求項1に記載の静電潜像現像用トナー。
【請求項3】
前記飽和炭化水素化合物の含有量は、前記静電潜像現像用トナーの全質量に対して、200ppm以上800ppm以下である、請求項1に記載の静電潜像現像用トナー。
【請求項4】
前記離型剤は、炭化水素ワックスである、請求項1に記載の静電潜像現像用トナー。
【請求項5】
前記第1領域のうち、前記トナー母体粒子の表面からの距離が0.2μm未満の領域である第3領域の面積をS3とし、前記第3領域において前記離型剤および前記飽和炭化水素化合物が存在する領域の総面積をW3としたとき、式(2)の関係を満たす、
請求項1に記載の静電潜像現像用トナー。
W3/S3≦0.1 (2)
【請求項6】
結着樹脂として、結晶性ポリエステル樹脂を含む、請求項1に記載の静電潜像現像用トナー。
【請求項7】
外添剤としてチタン酸ストロンチウムを含む、請求項1に記載の静電潜像現像用トナー。
【請求項8】
前記トナー母体粒子は、粉砕トナーである、請求項1に記載の静電潜像現像用トナー。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の静電潜像現像用トナーを記録媒体に付着させる工程と、
前記付着させた静電潜像現像用トナーを前記記録媒体に定着させる工程と、
を有する、画像形成方法。
【請求項10】
前記定着させる工程は、前記静電潜像現像用トナーを2段階で前記記録媒体に定着させる工程である、請求項9に記載の画像形成方法。
【請求項11】
前記定着させる工程は、前記静電潜像現像用トナーが付着した記録媒体に、非回転のパッドにより形成された面状のニップ部を通過させて、前記静電潜像現像用トナーを前記記録媒体に定着させる工程である、請求項9に記載の画像形成方法。
【請求項12】
前記静電潜像現像用トナーの定着により形成されたトナー画像の表面にニスを付与して、ニスコートを形成する工程を有する、
請求項9に記載の画像形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電潜像現像用トナー、画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
画像品位や耐久性の向上を目的として、トナーにより形成した画像にニスコートを施すことがある。一方で、ニスコートに用いられるニスは、離型剤としてトナーに含まれるワックスとの親和性が低いため、ニスコートが塗布時にはじかれやすい問題や、コート後の画像とニスとの密着性が低いという問題がある。
【0003】
これらのような問題を解決するため、特許文献1には、特定の重合性化合物を配合したオーバーコート組成物が開示されている。特許文献1では、上記オーバーコート組成物(ニス)を使用することで、ニスのはじきを抑制しつつ密着性を高めることができると記載されている。また、特許文献1には、このニスを用いるときはトナーの離型剤としてイソパラフィンを使用することが好ましいと記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、極性基を有するワックスをトナーの離型剤として用いることで、ワニスのはじきを抑制しつつ密着性を高めることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-078565号公報
【特許文献2】特開2011-191536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のように、ニスのはじきを抑制して塗布性を高める方法が検討されている。しかし、特許文献1は特定のニスの使用を前提とするものであり、これ以外のニスを使用したときには塗布性は向上されない。
【0007】
また、上述のように、特許文献2では、ワニスのはじきを抑制できるとされているが、ニスの塗布性をより十分に高めたいという要望が存在する。
【0008】
また、高温環境下における保管性(耐熱保管性)が十分に高められたトナーへの要望も存在する。
【0009】
さらに、トナーは、画像を連続して形成したときにもカブリや白筋といった画像汚れ生じにくいことが望ましい。
【0010】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、汎用のニスを用いたときにも、ニスの塗布性を十分に高め、耐熱保管性を十分に高めることができ、かつ画像を連続して形成しても画像汚れが生じにくい静電潜像現像用トナー、および上記静電潜像現像用トナーを用いた画像形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、下記[1]~[8]の静電潜像現像用トナーに関する。
[1]離型剤(炭素数16以上35以下の飽和炭化水素化合物を除く)と、炭素数16以上35以下の飽和炭化水素化合物と、をトナー母体粒子に含む静電潜像現像用トナーであって、前記飽和炭化水素化合物の含有量は、前記静電潜像現像用トナーの全質量に対して1ppm以上1000ppm以下であり、前記静電潜像現像用トナーの最大径である長軸の中心を通り、前記長軸と垂直に交わる前記静電潜像現像用トナーの断面において、前記トナー母体粒子の表面からの距離が1.0μm未満の領域である第1領域の面積をS1、前記第1領域以外の領域である第2領域の面積をS2とし、前記第1領域において前記離型剤および前記飽和炭化水素化合物が存在する領域の総面積をW1、前記第2領域において前記離型剤および前記飽和炭化水素化合物が存在する領域の総面積をW2としたとき、式(1)の関係を満たす、静電潜像現像用トナー。
W1/S1<W2/S2 (1)
[2]前記トナー母体粒子の体積平均粒径は、3.0μm以上10.0m以下である、[1]に記載の静電潜像現像用トナー。
[3]前記飽和炭化水素化合物の含有量は、前記静電潜像現像用トナーの全質量に対して、200ppm以上800ppm以下である、[1]または[2]に記載の静電潜像現像用トナー。
[4]前記離型剤は、炭化水素ワックスである、[1]~[3]のいずれかに記載の静電潜像現像用トナー。
[5]前記第1領域のうち、前記静電潜像現像用トナーの表面からの距離が0.2μm未満の領域である第3領域の総面積をS3とし、前記第3領域において前記離型剤および前記飽和炭化水素化合物が存在する領域の面積をW3としたとき、式(2)の関係を満たす、[1]~[4]のいずれかに記載の静電潜像現像用トナー。
W3/S3≦0.1 (2)
[6]結着樹脂として、結晶性ポリエステル樹脂を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の静電潜像現像用トナー。
[7]外添剤としてチタン酸ストロンチウムを含む、[1]~[6]のいずれかに記載の静電潜像現像用トナー。
[8]前記トナー母体粒子は、粉砕トナーである、[1]~[7]のいずれかに記載の静電潜像現像用トナー。
【0012】
また、上記目的を達成するための本発明の別の態様は、下記[9]~[12]の画像形成方法に関する。
[9][1]~[8]のいずれかに記載の静電潜像現像用トナーを記録媒体に付着させる工程と、前記付着させた静電潜像現像用トナーを前記記録媒体に定着させる工程と、を有する、画像形成方法。
[10]前記定着させる工程は、前記静電潜像現像用トナーを2段階で前記記録媒体に定着させる工程である、[9]に記載の画像形成方法。
[11]前記定着させる工程は、前記静電潜像現像用トナーが付着した記録媒体に、非回転のパッドにより形成された面状のニップ部を通過させて、前記静電潜像現像用トナーを前記記録媒体に定着させる工程である、[9]または[10]に記載の画像形成方法。
[12]前記静電潜像現像用トナーの定着により形成されたトナー画像の表面にニスを付与して、ニスコートを形成する工程を有する、[9]~[11]のいずれかに記載の画像形成方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、汎用のニスを用いたときにも、ニスの塗布性をより高め、耐熱保管性を十分に高めることができ、かつ画像を連続して形成しても画像汚れが生じにくい静電潜像現像トナー、および上記静電潜像現像用トナーを用いた画像形成方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、球形化処理を行う球形化処理装置の例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、熱風による表面処理を行う表面処理装置の例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、画像形成装置の一例を示す概略構成図である。
【
図4】
図4は、非回転の加圧パッドにより面状の定着ニップを形成する定着装置の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.静電潜像現像用トナー
本発明の一実施形態は、感光体などの像担持体に形成された静電荷像(静電潜像)を現像するためのトナーに関する。上記トナーは、一成分系の現像剤であってもよいし、トナー母体粒子とキャリア粒子とを有する二成分系の現像剤であってもよい。
【0016】
上記トナーは、トナー母体粒子が、離型剤(炭素数16以上35以下の飽和炭化水素化合物を除く)と、炭素数16以上35以下の飽和炭化水素化合物(以下、単に「C16-35飽和化合物」ともいう。)と、を含む、トナーである。そして、C16-35飽和化合物の含有量は、トナーの全質量(トナーが外添剤を含むときは、外添剤も含めた全質量)に対して1ppm以上1000ppm以下である。なお、上記トナーは、外添剤を含んでいてもよい。
【0017】
本発明者らの知見によれば、トナーが記録媒体に定着されて形成された画像の表面は、結着樹脂や定着時に析出した離型剤、あるいはその他のトナー成分などがまばらに点在した状態となっている。そして、これらの成分の違いにより、画像表面は表面エネルギーが異なる部位が点在した状態となっている。この画像部位間の表面エネルギーの違いにより、画像表面に付与されたニスは均一に濡れ拡がりにくく、そのためニスのはじきが生じてしまうと考えられる。
【0018】
これに対して、本発明者らは、C16-35飽和化合物をトナーに含ませ、C16-35飽和化合物の含有量が上記範囲のとき、ニスのはじきを抑制できることを見出した。
【0019】
上記トナーが含むC16-35飽和化合物は、比較的分子量が小さいのでトナー母体粒子中に微細に分散していると考えられる。そして、この分散したC16-35飽和化合物は、トナーの定着時にトナー母体粒子の表面に少量ずつ析出して当該表面を均一に被覆すると考えられる。また、C16-35飽和化合物は分子量が小さいため溶融時の粘度が低く、離型剤よりも画像の表面側に配向して析出されやすい。この結果、上記トナーが定着して形成された画像は、その表面がC16-35飽和化合物により均一に被覆されて表面エネルギーの分布が均一化される。そのため、上記トナーを用いて画像を形成すると、画像表面にニスが均一に濡れ広がりやすく、ニスのはじきが生じにくくなり、ニスの塗布性が良好になると考えられる。
【0020】
そして、本発明者らの検討の結果、ニスの塗布性が良好になるC16-35飽和化合物の含有量は、トナーの全質量に対して1ppm以上であるとわかった。
【0021】
さらに、本発明者らは、C16-35飽和化合物の量を多くしすぎず、かつC16-35飽和化合物をトナーの内部側により多く存在させることで、高温環境下におけるC16-35飽和化合物の表面への析出を抑制できることを見出した。また、C16-35飽和化合物と類似の構造を有する離型剤も、同様に高温環境下でトナー表面に析出することがある。そのため、C16-35飽和化合物および離型剤をトナーの内部側に偏在させることで、トナーの耐熱保管性を高めることができることがわかった。
【0022】
具体的には、C16-35飽和化合物の含有量をトナーの全質量に対して1000ppm以下とし、かつ、トナーの最大径である長軸の中心を通り、上記長軸と垂直に交わるトナーの断面において、トナー母体粒子の表面からの距離が1.0μm未満の領域である第1領域の面積をS1、第1領域以外の領域である第2領域の面積をS2とし、第1領域において離型剤およびC16-35飽和化合物が存在する領域の総面積をW1、第2領域において離型剤およびC16-35飽和化合物が存在する領域の総面積をW2とし、式(1)の関係を満たすとき、トナーの耐熱保管性を高めることができる。
W1/S1<W2/S2 (1)
【0023】
また、上記トナーを用いることで、画像を連続で形成しても画像汚れが生じにくくなる。
【0024】
C16-35飽和化合物は分子量が小さいためトナーの搬送中に生じる衝撃や摩擦によってトナーから離脱し、感光体に付着して画像汚れの原因になる可能性がある。これに対して、C16-35飽和化合物の含有量をトナーの全質量に対して1000ppm以下とし、かつC16-35飽和化合物をトナーの内部側により多く偏在させることで、衝撃や摩擦によるトナーからの離脱が生じにくくなり、画像を連続で形成しても画像汚れが生じにくくなる。
【0025】
以下、上記知見に基づく本発明のトナーについて、より詳細に説明する。
【0026】
1-1.トナー母体粒子
トナー母体粒子は、離型剤と、C16-35飽和化合物とを有する。
【0027】
トナー母体粒子は、体積基準の平均粒子径(体積平均粒径)が3.0μm以上10.0μm以下であることが好ましく、4.0μm以上8.0μm以下であることがより好ましく、4.0μm以上7.0μm以下であることがさらに好ましい。トナー母体粒子の体積基準の平均粒子径を上記範囲にすることで、定着時のトナー母体粒子の表面へのC16-35飽和化合物の移行状態をより適切に制御することができる。粒径をより大きくするほど、トナーの分離性を高めることができる。一方で、粒径をより小さくするほど、C16-35化合物を染み出しやすくして、ニス塗布性を高くすることができる。
【0028】
トナー母体粒子体積平均粒径は、粒度分布測定装置(ベックマン・コールター社製、コールターマルチサイザー3)に、データ処理用ソフトSoftware V3.51を搭載したコンピューターシステムを接続した測定装置を用いて測定することができる。具体的には、0.02gの試料(トナー母体粒子)を、20mLの界面活性剤溶液(トナー母体粒子の分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加してなじませた後、1分間の超音波分散処理を行い、トナー母体粒子の分散液を調製する。この分散液を、サンプルスタンド内の電解液(ベックマン・コールター社製、ISOTONII)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が8%になるまでピペットにて注入する。この濃度にすることにより、再現性のある測定値を得ることができる。そして、測定装置において、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャー径を100μmにし、測定範囲である2~60μmの範囲を256分割して頻度値を算出し、これをもとに体積基準の平均粒子径を算出する。
【0029】
1-1-1.離型剤
離型剤は、定着部材などからのトナーの離型性を高めることができる。本明細書において、以下に説明する離型剤はC16-35飽和化合物には該当しない。そのため、C16-35飽和化合物を離型剤として用いるときは(詳細は後述する)、以下に説明する離型剤を第1離型剤とし、C16-35飽和化合物を第2離型剤とする。以下、本明細書において、単に「離型剤」と称するときは、第1離型剤のことをいう。
【0030】
離型剤は、ワックスであることが好ましい。ワックスである離型剤の例には、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、およびフィッシャートロプシュワックスなどを含む炭化水素ワックス、ジステアリルケトンなどを含むジアルキルケトンワックス、カルナバワックス、モンタンワックス、ベヘン酸ベヘネート、トリメチロールプロパントリベヘネート、ペンタエリスリトールテトラミリステート、ペンタエリスルトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ペンタエリスリトールジアセテートジベヘネート、グリセリントリベヘネート、1,18-オクタデカンジオールジステアレート、トリメリット酸トリステアリル、およびジステアリルマレエートなどを含むエステルワックス、ならびにエチレンジアミンジベヘニルアミド、およびトリメリット酸トリステアリルアミドなどを含むアミドワックスなどが含まれる。
【0031】
これらのうち、C16-35飽和化合物と分子構造が類似しており、C16-35飽和化合物を離型剤に相溶させやすいことから、炭化水素ワックスが好ましい。C16-35飽和化合物が良好に相溶すると、トナー母体粒子でC16-35飽和化合物がより微細かつ均一に分散しやすく、また定着時にはワックスとともにトナー母体粒子から析出しやすいため、ニスの塗布性が高まりやすい。
【0032】
なお、本明細書において、炭化水素ワックスとは、炭素数が36以上76以下の直鎖状または分岐鎖を有してもよい炭化水素化合物を意味する。
【0033】
炭化水素ワックスは、融点が80℃以上95℃以下であることが好ましい。炭化水素ワックスの融点が80℃以上であると、トナー粒子から染み出した炭化水素ワックスがより結晶化しやすくなり、トナーの定着部材からの離型性を高めることができる。炭化水素ワックスの融点が95℃以下であると、定着時にトナー母体粒子から炭化水素ワックスが染み出しやすくなり、離型効果および形成された画像の耐擦過性が高まりやすい。また、炭化水素ワックスの融点が95℃以下であると、定着時にトナー母体粒子が溶融しやすく、トナーの低温定着性を高めやすい。上記観点から、炭化水素ワックスの融点は、80℃以上90℃以下であることがより好ましい。
【0034】
離型剤の含有量は、トナー母体粒子の全質量に対して3質量%以上20質量%以下であることが好ましく、5質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。上記離型剤の含有量が3質量%以上であると、定着部材からのトナーの離型性が十分に高まり、かつ、タッキングをより十分に抑制できる。上記離型剤の含有量が20質量%以下であると、トナー母体粒子に十分な量の結着樹脂を含ませることができるので、画像の定着性が十分に高まる。
【0035】
1-1-2.C16-35飽和化合物
C16-35飽和化合物は、上述した作用により、ニスの塗布性を高める。一方で、C16-35飽和化合物は、所定程度の、定着部材などからのトナーの離型性を高める効果も有する。そのため、上述の離型剤を第1離型剤とし、C16-35飽和化合物を第2離型剤としてトナー母体粒子に含ませてもよい。
【0036】
ニスの塗布性と耐熱保管性とを両立させる観点から、C16-35飽和化合物の含有量は、トナーの全質量(トナー母体粒子および外添剤を含む質量)に対して1ppm以上1000ppm以下であり、200ppm以上800ppm以下であることが好ましく、400ppm以上600ppm以下であることがより好ましい。200ppm以上であるとよりニス塗布性を向上させることができ、800ppm以下であると、より耐熱保管性を高めることができる。
【0037】
C16-35飽和化合物の含有量は、C16-35飽和化合物を溶解する溶媒を用いてトナーからC16-35飽和化合物を分離し、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MC)でこれらの炭素数を有する炭化水素を定性し、ガスクロマトグラフィーの検出器として水素炎イオン化検出器を使用して(GC-FID)これらの炭化水素の量を定量する。なお、トナーから抽出された抽出物には不飽和炭化水素も含まれている可能性があるため、抽出後に、不飽和結合に極性基を付与して、極性差を利用したカラム分離により飽和した炭化水素のみを分離すればよい。
【0038】
また、この際に、複数の内部標準物質を上記溶媒に添加して(溶解させて)、定量およびその前処理が適切に実施されたか否かを判断してもよい。なお、添加する内部標準物質の濃度は、C16-35飽和化合物の量(仮測定などで得られた見込み量)に応じて設定すればよい。
【0039】
内部標準物質は、通常はトナー中に含まれない飽和炭化水素化合物であることが好ましい。たとえば、n-ウンデカンまたはn-トリデカンを用いれば、前処理中の飽和炭化水素化合物の揮発による消失を検知したり、固相抽出やGC-FIDでの分析時に目的とする飽和炭化水素化合物の溶出時間の目安にしたりしやすい。また、ビシクロヘキシルは、C16-35飽和化合物と溶出時間が重複しにくいため、検出精度を高めやすい。
【0040】
トナーからの抽出は、固液抽出法、トナーを溶解ないし膨潤したあと遠心分離により分離する方法、ソックスレー抽出法、高速溶媒抽出法などの、従来公知の方法で行うことができる。これらの方法から、C16-35飽和化合物の予測される炭素数や、結着樹脂などの夾雑成分となる化合物の種類に応じて選択すればよい。
【0041】
抽出に用いる溶媒は特に限定されないが、C16-35飽和化合物の溶解性が高いn-ヘキサンが好ましい。このとき、結着樹脂などの種類に応じて、結着樹脂を膨潤させるためにジクロロメタンおよびエタノールなどの極性溶媒を併用してもよい。
【0042】
抽出物に含まれる不飽和炭化水素への極性基の導入方法も特に限定されず、メタクロロ過安息香酸(mCPBA)によるエポキシ化、ハロゲン化水素の付加、酸触媒による水やアルコールの付加、ヒドロホウ素化後の酸化によるアルコールへの誘導などの方法で行うことができる。これらのうち、反応性および反応の選択性が高いことから、mCPBAによるエポキシ化反応が好ましい。この際、たとえば1H-NMR測定により、二重結合のピークが消失することを確認するなどして、反応が十分に進行したことを確認することができる。なお、飽和炭化水素の種類や不飽和炭化水素の種類などにより、十分な検出精度が確保できる場合には、極性基の付与は省略してもよい。
【0043】
極性差を利用した分離は、固相抽出による方法、オンラインまたはオフラインのGCによる方法など公知の方法により行うことができる。夾雑物が多量に含まれることが予測される場合には、固相抽出により分離を行うことが好ましい。
【0044】
固相抽出による分離を行う際の溶媒は、コンディショニングおよび飽和炭化水素の抽出のいずれにもn-ヘキサンを用いることが好ましい。このときも、予測される夾雑物の種類に応じて、極性溶媒を併用してもよい。C16-35飽和化合物が含まれるフラクションを回収したあとには、溶媒の極性を高めてフラクションを回収し、GC/MSなどによる定性分析により、飽和炭化水素の成分が含まれていないことを確認することが好ましい。
【0045】
固相抽出の固相としては、極性相互作用を使用した順相系の分離に用いられる極性の高い固相を用いることができる。上記固相の例には、シリカゲル、無水硫酸ナトリウムおよび硝酸銀などの極性物質で活性化したシリカゲル、ジオール、シアノプロピル、ケイ酸マグネシウムなど含まれる。これらのうち、硝酸銀で活性化した活性化シリカが好ましい。なお、長鎖のn-アルカンを特異的に保持するため、アルミナは使用しないことが好ましい。
【0046】
固相抽出で抽出した飽和炭化水素を含むフラクションは、エバポレーターによる減圧濃縮や窒素気流による濃縮などの方法で、ガスクロマトグラフィーによる定性および定量を行うのに適正な濃度まで濃縮または希釈することが好ましい。このときの濃縮の条件は、低沸点成分の濃縮による内部標準物質の消失が起こらない条件とすればよい。
固相抽出後のフラクションに対し、たとえば以下の条件でGC-FIDを行い、C16-35飽和化合物の定量をすることができる。
【0047】
(GC条件)
使用機器:島津製作所 GC-2010 Plus
注入量:1μL、飽和炭化水素濃度 500~1000mg/L
ガードカラム:Restek MXT Siltek(10m×0.53mm id)
カラム:Restek MTX-1 (15m×0.25mm id)×0.1μm df)
キャリアガス:ヘリウム
【0048】
なお、C16-35飽和化合物の定量は、上記条件と同等の結果が得られる限りにおいて、上記機器と同等の性能を有する機器、および上記カラムと同等の性能を有するカラムを使用して行ってもよい。
【0049】
このとき、予め、同条件で測定したn-アルカン(炭素原子数:10、16、24、35および50)の溶出時間を測定しておく。また、予め、n-ヘキサンのみを上記装置に注入して、ブランクのクロマトグラムを作成しておく。
【0050】
トナーについて得られたクロマトグラムから、予め溶媒のみで測定して得られたブランクのクロマトグラムを差し引き、ベースラインを求める。このとき、飽和炭化水素化合物に由来するピークの前後の最低点に水平線でベースラインが作成できることが好ましいが、カラムのブリードなどによりブランクのクロマトグラムを差し引いても水平線によるベースラインが作成できない場合には、炭素原子数10の化合物の溶出時間から炭素原子数50の化合物の溶出時間まで、炭素原子数10の化合物および炭素原子数50の化合物のうちシグナル強度が低い方の強度から水平線でベースラインを設定すればよい。
【0051】
そして、クロマトグラムのうち、炭素原子数16と炭素原子数35の溶出時間に相当する位置に垂線を引き、ベースラインより上のクロマトグラムのうち、これらの垂線に囲まれた部分の面積を求める。なお、飽和炭化水素化合物ではないことが確認できたピークは、計算から除外する。この面積から、C16-35飽和化合物の質量を求めることができる。内部標準物質を用いたときは、上記面積と、内部標準として添加した化合物の面積と、の比率から、C16-35飽和化合物の質量を求めればよい。そして、得られたC16-35飽和化合物の質量を、トナーの質量で除算して、トナー中のC16-35飽和化合物の量を求めることができる。
【0052】
1-1-3.結着樹脂
結着樹脂は、トナーを記録媒体に結着させる。結着樹脂は、熱可塑性樹脂であってもよいし熱硬化性樹脂であってもよいが、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0053】
上記熱可塑性樹脂の例には、スチレン樹脂、ビニル樹脂(アクリル樹脂およびスチレン-アクリル樹脂など)、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、オレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、およびエポキシ樹脂などが含まれる。
【0054】
結着樹脂は、非晶性樹脂であってもよいし、結晶性樹脂であってもよい。あるいは、結晶性樹脂と非晶性樹脂とがハイブリッド化された複合樹脂であってもよい。
【0055】
なお、本明細書において、結晶性樹脂とは、示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimetry:DSC)による測定において、融点が観測される樹脂を意味する。また、非晶性樹脂とは、DSCによる測定において、融点が観測されない樹脂を意味する。また、本明細書において、樹脂に融点が観測されるとは、DSCにおいて、昇温速度10℃/minで測定した際に、吸熱ピークの半値幅が15℃以内であるピークが観測されることを意味する。
【0056】
結着樹脂の例には、スチレン系重合体(スチレン単独重合体、ポリ-p-クロルスチレンおよびポリビニルトルエンなどのスチレン置換体の単独重合体、ならびに、スチレン-p-クロルスチレン共重合体、スチレン-ビニルトルエン共重合体、スチレン-ビニルナフタレン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、およびスチレン-イソプレン共重合体などのスチレン系共重合体など)、ポリ塩化ビニル、フェノール樹脂、(メタ)アクリル樹脂などのビニル樹脂(スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-クロル(メタ)アクリル酸メチル共重合体、スチレン-(メタ)アクリロニトリル共重合体、スチレン-ビニルメチルエーテル共重合体、スチレン-ビニルエチルエーテル共重合体、スチレン-ビニルメチルケトン共重合体、およびスチレン-アクリロニトリル-インデン共重合体なども含む)、ポリ酢酸ビニル、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、ポリビニルブチラール、テルペン樹脂、クマロンインデン樹脂、天然樹脂、変性天然樹脂(天然変性フェノール樹脂および天然樹脂変性マレイン酸樹脂など)、およびその他の石油系樹脂などが含まれる。これらのうち、ニスとの極性が近く、ニスの密着性を向上させやすいことから、ビニル樹脂およびポリエステル樹脂が好ましく、ポリエステル樹脂がより好ましい。
【0057】
なお、本明細書において、(メタ)アクリルはアクリルまたはメタクリルを、(メタ)アクリロニトリルはアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを、(メタ)アクリレートはアクリレートおよびメタクリレートを、それぞれ意味する。
【0058】
ニス塗布性をより高める観点から、結着樹脂は結晶性ポリエステル樹脂を含むことが好ましい。結晶性ポリエステル樹脂がトナーに含まれることで、トナーの溶融粘度を低下させて、C16-35飽和化合物を画像表面により析出させやすくすることができる。これらの理由から、ニス塗布性をより高めることができる。
【0059】
また、結着樹脂が結晶性ポリエステル樹脂を含むと、画像形成装置内でのトナーの搬送中に、C16-35飽和化合物がトナーから離脱しにくくなる。この理由は定かではないが、トナー内で結晶化した結晶性樹脂によりラメラ構造を有するドメインが形成され、C16-35飽和化合物が上記ラメラ構造内に捕捉されやすくなるためであると考えられる。その結果、結着樹脂が結晶性ポリエステル樹脂を含むことで、画像を連続形成しても画像汚れがより生じにくくなる。
【0060】
結晶性ポリエステルは、通常、多価カルボン酸と多価アルコールとを公知の方法によって脱水縮合反応させて得られる。
【0061】
上記多価カルボン酸は、2価以上のカルボン酸であればよく、トリメリット酸やピロメリット酸等の3価以上のカルボン酸であってもよい。これらのうち、結晶性ポリエステルの結晶性を高める観点からは、ジカルボン酸が好ましい。ジカルボン酸の例には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9-ノナンジカルボン酸、1,10-デカンジカルボン酸、1,11-ウンデカンジカルボン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸(ドデカン二酸)、1,13-トリデカンジカルボン酸、1,14-テトラデカンジカルボン酸、1,16-ヘキサデカンジカルボン酸、および1,18-オクタデカンジカルボン酸等の脂肪族カルボン酸、ならびに、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、t-ブチルイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、および4,4’-ビフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸などが含まれる。なお、結晶性ポリエステルは、これらのうち、1種のカルボン酸に由来する構成単位のみを含んでいてもよく、2種以上のカルボン酸に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0062】
これらのうち、結晶性ポリエステルの結晶性を高めやすく、さらにはニス中に含まれ得るジオールジ(メタ)アクリレートと結晶性ポリエステルとの親和性を高めやすいことから、脂肪族カルボン酸が好ましい。上記脂肪族カルボン酸は、炭素数6以上16以下の直鎖状炭化水素基を有することが好ましく、炭素数10以上14以下の直鎖状炭化水素基を有することがより好ましい。なお、脂肪族カルボン酸の炭化水素構造は、一部分岐していてもよい。
【0063】
上記多価アルコールは、2価以上のアルコールであればよく、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、およびソルビトールなどの3価以上のアルコールであってもよい。これらのうち、結晶性ポリエステルの結晶性を高める観点からは、2価のアルコールが好ましい。2価のアルコールの例には、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,13-トリデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,18-オクタデカンジオールおよび1,20-エイコサンジオールなどの脂肪族ジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、3-ヘキセン-1,6-ジオールおよび4-オクテン-1,8-ジオールなどの不飽和二重結合を有するジオール、ならびに、スルホン酸基を有するジオールなどが含まれる。
【0064】
上記観点から、結晶性ポリエステルの含有量は、結着樹脂の全質量に対して5質量%以上20質量%以下であることが好ましく、8質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。
【0065】
トナー母体粒子を十分に軟化させてトナーの低温定着性を高める観点からは、結晶性ポリエステルの融点は50℃以上85℃以下であることが好ましく、60℃以上80℃以下であることがより好ましい。
【0066】
結晶性ポリエステルの融点は、トナーの示差走査熱量計(ダイヤモンドDSC、パーキンエルマー社製)により測定することができる。測定は、昇降速度10℃/minで室温(25℃)から150℃まで昇温し、5分間150℃で等温保持する1回目の昇温過程、冷却速度10℃/minで150℃から0℃まで冷却し、5分間0℃で等温保持する冷却過程、および、昇降速度10℃/minで0℃から150℃まで昇温する2回目の昇温過程をこの順に経る測定条件(昇温・冷却条件)によって行う。上記測定は、トナー3.0mgをアルミニウム製パンに封入し、示差走査熱量計「ダイヤモンドDSC」のサンプルホルダーにセットして行う。リファレンスとして空のアルミニウム製パンを使用する。上記測定において、1回目の昇温過程により得られた吸熱曲線から解析を行い、結晶性樹脂由来の吸熱ピークのトップ温度を結晶性樹脂の融点とする。
【0067】
結晶性ポリエステルの重量平均分子量(Mw)は5000以上50000以下であることが好ましい。結晶性ポリエステルの数平均分子量(Mn)は2000以上10000以下であることが好ましい。結晶性ポリエステルの重量平均分子量(Mw)や数平均分子量(Mn)が当該範囲であると、低温定着性が良好になる。上記重量平均分子量(Mw)は、「HLC-8220」(東ソー社製)およびカラムとして「TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZM-M3連」(東ソー社製)を有するGPC装置と、標準ポリスチレン試料から求められた検量線とを用いて求めることができる。
【0068】
結着樹脂の含有量は、トナー母体粒子の全質量に対して20質量%以上99質量%以下であることが好ましく、30質量%以上95質量%以下であることがより好ましく、40質量%以上90質量%以下であることがさらに好ましい。上記結着樹脂の含有量が20質量%以上であると、形成される画像の強度をより高めることができる。
【0069】
1-1-4.その他の成分
トナー母体粒子は、着色剤および荷電制御剤などを含有してもよい。
【0070】
上記着色剤は、染料でもよいし顔料でもよい。トナーが画像に所定の色調を付与する有色トナーであるとき、トナー母体粒子は、当該有色トナーによって呈されるべき色調に応じた、イエロー、マゼンタ、シアンまたはブラックなどの着色剤を含有すればよい。着色剤は、トナー母体粒子に、一種のみが含まれても、複数種が組み合わせて含まれていてもよい。
【0071】
イエローの着色剤の例には、C.I.ソルベントイエロー19、44、77、79、81、82、93、98、103、104、112、および162などを含むイエロー染料、ならびに、C.I.ピグメントイエロー14、17、74、93、94、138、155、180および185などを含むイエロー顔料が含まれる。
【0072】
マゼンタの着色剤の例には、C.I.ソルベントレッド1、49、52、58、63、111および122などを含むマゼンタ染料、ならびに、C.I.ピグメントレッド5、48:1、53:1、57:1、122、139、144、149、166、177、178および222などのマゼンタ顔料が含まれる。
【0073】
シアンの着色剤の例には、C.I.ソルベントブルー25、36、60、70、93および95などのシアン染料、ならびに、C.I.ピグメントブルー1、7、15、15:3、60、62、66および76などのシアン顔料が含まれる。
【0074】
ブラックの着色剤の例には、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックおよびランプブラックなどを含むカーボンブラック、フェライトおよびマグネタイトなどを含む磁性体、ならびに、鉄・チタン複合酸化物などが含まれる。
【0075】
着色剤の含有量は、トナー母体粒子の全質量に対して、0.5質量%以上20質量%以下であることが好ましく、2質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。なお、トナーがクリアトナーであるときには、トナー母体粒子は、着色剤を実質的に含有しないことが好ましく、トナー母体粒子の全質量に対する着色剤の含有量が0.1質量%以下であることが好ましい。
【0076】
上記荷電制御剤は、トナー母体粒子の帯電性を調整することができる。
【0077】
上記荷電制御剤の例には、ニグロシン染料、ナフテン酸または高級脂肪酸の金属塩、アルコキシル化アミン、第四級アンモニウム塩化合物、アゾ金属錯体、サリチル酸金属塩またはその金属錯体などが含まれる。
【0078】
上記荷電制御剤の含有量は、結着樹脂の全質量に対して0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上5質量%以下がより好ましい。なお、荷電制御剤を過剰に添加するなどの方法でトナーの帯電性を制御しようとすると、トナー母体粒子の他の特性が大きく変化することがある。これに対し、本実施形態では、チタン酸ストロンチウムによりトナーの帯電性を調整することで、他の要求される特性を満たしつつ、トナーの帯電性も所望の程度に調整することができる。
【0079】
1-2.外添剤
トナー母体粒子は、トナーの流動性、帯電性およびクリーニング性を高めるためにトナー母体粒子の表面に後処理剤として添加される外添剤を含んでいてもよい。
【0080】
1-2-1.チタン酸ストロンチウム
外添剤は、チタン酸ストロンチウムの粒子を含むことが好ましい。
【0081】
チタン酸ストロンチウムは、その製造方法または組成により、立方体状または直方体状、不定形、および角が取れた立方体形の、複数の粒子形状のいずれかとなり得る。チタン酸ストロンチウムは、これらのうちいずれの粒子形状を有してもよいが、直方体状であることが好ましい。
【0082】
チタン酸ストロンチウムの粒子の形状は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察によって確認することができる。
【0083】
これらの形状を有するチタン酸ストロンチウムは、トナー母体粒子の表面に面状の露出部を形成する。これにより、トナー母体粒子の表面のうち、ニスの濡れ広がりを阻害しやすい樹脂が占める割合を低下させて、ニスの塗布性を高めることができる。特に、チタン酸ストロンチウムが直方体状であると、トナー母体粒子の表面からの面状の露出部の面積が大きくなりやすく、そのため上述した作用によるニスの塗布性を向上させる効果がより高まりやすい。
【0084】
上記作用を効果的に奏させる観点から、チタン酸ストロンチウムの個数平均一次粒子径は、20nm以上200nm以下であることが好ましく、30nm以上150nm以下であることがより好ましい。上記作用からは、チタン酸ストロンチウムの粒子径はより大きいほうがよいが、粒子径の上限を所定範囲とすることで、露出したチタン酸ストロンチウムによる画像表面の均一性の低下を抑制し、これにより塗布性の低下を抑制することができる。
【0085】
チタン酸ストロンチウムの個数平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により撮像したチタン酸ストロンチウムの画像データを、画像処理解析装置(株式会社ニレコ製、LUZEX AP)を用いて2値化処理し、100個の粒子について測定した水平方向フェレ径の平均値とすることができる。
【0086】
また、チタン酸ストロンチウムの含有量は、トナーの全質量に対して、0.05質量%以上2.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上1.0質量%以下であることがより好ましい。上記チタン酸ストロンチウムの含有量が0.05質量%以上であると、チタン酸ストロンチウムによるニスの塗布性を向上させる効果が得られやすい。上記チタン酸ストロンチウムの含有量が2.0質量部以下であると、画像表面の均一性の低下による塗布性の低下が生じにくい。
【0087】
チタン酸ストロンチウムは、酸化チタン源と酸化ストロンチウム源とを混合し、その後、常圧で加熱(加温)しながらアルカリ水溶液を添加する、常圧加熱反応法により製造することができる。
【0088】
上記酸化チタン源としては、チタン化合物の加水分解物の鉱酸解膠品を用いることができる。酸化チタン源は、硫酸法で得られたSO3含有量が1.0質量%以下(好ましくは0.5質量%以下)のメタチタン酸を、塩酸でpHを0.8以上1.5以下に調整して解膠したものであることが好ましい。
【0089】
上記酸化ストロンチウム源としては、金属の硝酸塩、塩酸塩などを使用することができる。たとえば、酸化ストロンチウム源としては硝酸ストロンチウムおよび塩化ストロンチウムなどを使用することができる。
【0090】
上記アルカリ水溶液としては、苛性アルカリを使用することができる。水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
【0091】
チタン酸ストロンチウム粒子の粒子径は、酸化チタン源と酸化ストロンチウム源の混合割合、反応初期の酸化チタン源濃度、ならびにアルカリ水溶液を添加するときの温度および添加速度などにより調整することができる。なお、反応過程における炭酸塩の生成を防ぐため、窒素ガス雰囲気下で反応させる等により、反応時の炭酸ガスの混入を防ぐことが好ましい。
【0092】
反応時における酸化チタン源と酸化ストロンチウム源の混合割合は、SrO/TiO2のモル比で、0.90以上1.40以下が好ましく、1.05以上1.20以下がより好ましい。上記範囲であると、未反応の酸化チタンが残存しにくい。反応初期の酸化チタン源の濃度は、TiO2基準で、0.05mol/L以上1.30mol/L以下であることが好ましく、0.08mol/L以上1.00mol/L以下であることがより好ましい。
【0093】
アルカリ水溶液を添加するときの混合物の温度は、60℃以上100℃以下であることが好ましい。
【0094】
アルカリ水溶液の添加速度が遅いほど大きな粒子径のチタン酸ストロンチウム粒子が得られ、添加速度が速いほど小さな粒子径のチタン酸ストロンチウム粒子が得られる。アルカリ水溶液の添加速度は、仕込み原料に対し、0.001当量/h以上1.2当量/h以下であることが好ましく、0.002当量/h以上1.1当量/h以下であることがより好ましい。アルカリ水溶液の添加速度も、得ようとするチタン酸ストロンチウムの粒子径に応じて適宜調整することができる。
【0095】
このようにして得られたチタン酸ストロンチウム粒子は、さらに酸処理することが好ましい。酸化チタン源と酸化ストロンチウム源との混合割合が、SrO/TiO2のモル比で1.0を超えるときなどには、反応終了後に残存した未反応のチタン以外の金属源が空気中の炭酸ガスと反応して、金属炭酸塩などの不純物を生成してしまうことがある。子の不純物により性能低下を抑制するため、アルカリ水溶液を添加した後、未反応の金属源を取り除くための酸処理を行うことが好ましい。
【0096】
酸処理は、塩酸、硝酸および酢酸などを使用して、pH2.5以上7.0以下として行うことが好ましく、pH4.5以上6.0以下として行うことがより好ましい。
【0097】
1-2-2.その他の外添剤
外添剤は、シリカ粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、酸化亜鉛粒子、酸化クロム粒子、酸化セリウム粒子、酸化アンチモン粒子、酸化タングステン粒子、酸化スズ粒子、酸化テルル粒子、酸化マンガン粒子および酸化ホウ素粒子などの、チタン酸ストロンチウム以外の無機材料を主成分とする粒子を含んでいてもよい。これらの無機材料を主成分とする粒子は、必要に応じて、シランカップリング剤やシリコーンオイルなどの表面処理剤によって疎水化処理されていてもよい。これらの粒子径は、チタン酸ストロンチウムと同様の方法で測定される個数平均一次粒子径が20nm以上200nm以下であることが好ましく、30nm以上150nm以下であることがより好ましい。
【0098】
また、外添剤は、スチレンやメチルメタクリレートなどの単独重合体やこれらの共重合体などを含む有機材料を主成分とする粒子を含んでいてもよい。これらの粒子径は、チタン酸ストロンチウムと同様の方法で測定されるピークトップの粒子径が10nm以上1000nm以下であることが好ましい。
【0099】
また、外添剤は、高級脂肪酸の金属塩などの滑剤を含んでいてもよい。上記高級脂肪酸典枝には、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、リノール酸およびリシノール酸などが含まれる。上記金属塩を構成する金属の例には、亜鉛、マンガン、アルミニウム、鉄、銅、マグネシウムおよびカルシウムなどが含まれる。
【0100】
これらの外添剤の含有量は、チタン酸ストロンチウムと合計した外添剤の合計量が、トナー母体粒子の全質量に対して0.05質量%以上5.0質量部%以下となる量であることが好ましい。
【0101】
1-3.離型剤およびC16-35飽和化合物の配置
上述のように、本実施形態では、トナーの最大径である長軸の中心を通り、上記長軸と垂直に交わるトナーの断面において、トナー母体粒子の表面からの距離が1.0μm未満の領域である第1領域の面積をS1、第1領域以外の領域である第2領域の面積をS2とし、第1領域において離型剤およびC16-35飽和化合物が存在する領域の総面積をW1、第2領域において離型剤およびC16-35飽和化合物が存在する領域の総面積をW2としたとき、式(1)の関係を満たす
W1/S1<W2/S2 (1)
【0102】
つまり、本実施形態では、(W1/S1)/(W2/S2)の値は、1.0よりも小さい。離型剤およびC16-35飽和化合物を、よりトナーの内部側に存在させて、トナーの耐熱保管性をより十分に高め、かつ画像を連続形成したときに画像汚れをより生じにくくする観点から、(W1/S1)/(W2/S2)の値は0.60以下であることが好ましく、0.45以下であることがより好ましい。(W1/S1)/(W2/S2)の下限値は特に限定されないが、0.2であることが好ましい。
【0103】
本実施形態では、第1領域のうち、トナー母体粒子の表面からの距離が0.2μm未満の領域である第3領域の面積をS3とし、第3領域において離型剤およびC16-35飽和化合物が存在する領域の総面積をW3としたとき、W3/S3≦0.1であることが好ましい。トナー母体粒子のより表面に近い領域(第3領域)には、ごく少量しか離型剤およびC16-35飽和化合物の量が存在しないため、高温環境下でトナーを保管しても、トナー表面に離型剤およびC16-35飽和化合物が析出する量を十分に低減できる。そのため、トナーの凝集を抑制して耐熱保管性をより十分に高めることができる。また、画像形成装置内で、トナーの搬送中に離脱する離型剤およびC16-35飽和化合物の量を十分に低減して、画像を連続形成しても画像汚れをより生じにくくすることができる。上記観点から、W3/S3≦0.04であることが好ましい。W3/S3の下限値は、特に限定されないが、例えば、0である。
【0104】
上記W1、W2、W3、S1、S2、およびS3は、以下の手順により測定される値である。
【0105】
トナー粒子を、包埋剤を用いて包埋した後、切削機を用いて-100℃の条件下で、トナーの長軸の中心を通り、かつ当該長軸に垂直な断面が形成されるようにトナーを切削し、観察用サンプルを作製する。そして、この観察用サンプルを四酸化ルテニウム雰囲気下となっているデシケーター内に放置し、染色を行う。その後、染色された観察用サンプルの上記断面を走査型透過電子顕微鏡(STEM)により観察する。
【0106】
次に、画像処理解析装置を用いて、トナーの断面の観察画像において、当該断面における最大径である長軸の中心を通り、当該中心における交差角が均等であり、かつ交差角が11.25°になるように断面を横断する直線を16本ひく。これにより、中心からトナー母体粒子の表面まで延びる32本の線分(分割軸)を形成する。
【0107】
次に、上記中心からトナー母体粒子の表面まで延びる分割軸をそれぞれAn(n=1~32)とし、これら分割軸Anにおいて、トナー母体粒子の表面からの距離が1μmとなる点をPAn(n=1~32)とし、各PAnを直線で結ぶ。また、トナー母体粒子の表面からの距離が0.2μmとなる点をPAm(m=1~32)とし、各PAmを直線で結ぶ。そして、各PAnよりもトナー母体粒子の表面側の領域(第1領域)の面積をS1、第1領域内における離型剤および飽和炭化水素化合物(炭素数16以上35以下)が存在する領域の総面積をW1、各PAnよりも上記中心側の内部領域(第2領域)の面積をS2、第2領域内における離型剤および上記飽和炭化水素化合物が存在する領域の総面積をW2とする。また、第1領域のうち、各PAmよりもトナー母体粒子の表面側の領域(第3領域)の面積をS3、第3領域内における離型剤および上記飽和炭化水素化合物が存在する領域の総面積をW3とする。最後に、画像処理解析装置を用いて、各面積W1、W2、W3、S1、S2、およびS3を測定する。
【0108】
なお、上記各面積は、以下の条件に当てはまるトナー粒子20個について測定した値の平均値とする。
【0109】
上記観察用サンプルのトナーの断面積が、別のトナー粒子50個について走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて取得した画像から求めたトナー粒子の投影面積の平均値S50に対して±10%以内の面積であり、かつ、上記16本の断面を横断する直線のうち一番短い直線の長さが2.5μm以上となるトナーを20個選ぶ。
【0110】
1-4.トナー母体粒子およびトナーの製造方法
上記トナー母体粒子は、粉砕法、乳化重合凝集法、乳化凝集法、懸濁重合法および溶解懸濁法などの方法により、公知のトナーと同様に製造することができる。
【0111】
これらのうち、粉砕法、乳化重合凝集法、乳化凝集法および懸濁重合法が好ましく、粉砕法および乳化重合凝集法がより好ましく、粉砕法がさらに好ましい。粉砕法により作製された粉砕トナーのトナー母体粒子は、不定形の粒子であり、粒子全体に微小な凹凸がランダムに多数存在するため、表面積が大きい。そのため、粉砕法により作製されたトナー母体粒子は、その表面からC16-35飽和化合物が析出しやすく、これによりニスの塗布性が高まりやすい。
【0112】
粉砕法では、結着樹脂、離型剤、C16-35飽和化合物およびその他の材料を混合して溶融混錬して得られる固形の樹脂組成物を、所定の粒径になるまで粉砕して、トナー母体粒子を得ることができる。
【0113】
より具体的には、粉砕法では、まず、トナー母体粒子を構成する材料(結着樹脂、離型剤、C16-35飽和化合物、および任意に添加される他の材料)を所定量秤量して配合し、混合する。混合は、ダブルコン・ミキサー、V型ミキサー、ドラム型ミキサー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウタミキサ、メカノハイブリッドなどの混合装置により行うことができる。
【0114】
次に、混合した材料を溶融混練する。溶融混練は、加圧ニーダーおよびバンバリーミキサーのようなバッチ式練り機や、連続式の練り機を使用することができる。連続生産するときは、1軸押出機または2軸押出機を使用することが好ましい。2軸押出機の例には、KTK型2軸押出機(株式会社神戸製鋼所製)、TEM型2軸押出機(東芝機械株式会社製)、PCM混練機(株式会社池貝製)、2軸押出機(株式会社ケイ・シー・ケイ製)、コ・ニーダー(ブス社製)、ニーデックス(日本コークス工業株式会社製)などが含まれる。溶融混練の温度は、100~200℃程度とすることが好ましい。溶融混練により得られた樹脂組成物は、2本ロール等で圧延し、水などによって急冷して固形物とする。
【0115】
次に、溶融混錬および冷却により得られた固形の樹脂組成物を、所望の粒径にまで粉砕する。粉砕は、たとえば、クラッシャー、ハンマーミルおよびフェザーミルなどの粉砕機で粗粉砕した後に、クリプトロンシステム(川崎重工業株式会社製)、スーパーローター(日清エンジニアリング株式会社製)、ターボ・ミル(フロイント・ターボ株式会社製)などの微粉砕機、またはエアージェット方式による微粉砕機などで微粉砕すればよい。
【0116】
その後、必要に応じて粉砕された樹脂組成物を分級する。分級は、慣性分級方式のエルボージェット(日鉄鉱業株式会社製)、遠心力分級方式のターボプレックス(ホソカワミクロン株式会社製)、TSPセパレータ(ホソカワミクロン株式会社製)、およびファカルティ(ホソカワミクロンホソカワミクロン製)などの分級機や篩分機を使用して行うことができる。
このようにして、粉砕法によりトナー母体粒子を作製することができる。
【0117】
(球形化処理)
本実施形態では、上述した方法によって得られたトナー母体粒子に対して、15℃以上55℃以下の環境下で、衝撃力による機械的エネルギーを繰り返し与え、球形化処理を行う。トナー母体粒子に衝撃を与えながら球形化処理を行うことにより、トナー母体粒子の外側(表面側)の離型剤およびC16-35飽和化合物を離脱させやすい。例えば、球形化処理を行う装置内の流路壁面や衝突板にトナー母体粒子を衝突させることで、トナー表面側の離型剤およびC16-35飽和化合物を離脱させ、壁面や衝突板にこれらを付着させながら球形化処理を行うことができる。また、低温で上記処理を行うことで、トナー内部側の離型剤およびC16-35飽和化合物が、溶融してトナーの表面側に析出することを抑制できる。これらの結果、トナー母体粒子の外側(表面側)の離型剤およびC16-35飽和化合物の量をトナーの内部側よりも少なくすることができ、上述した式(1)の関係を満たすトナー母体粒子を製造することができる。
【0118】
このような観点から、上記球形化処理を行う環境温度は、20℃以上50℃以下であることが好ましく、25℃以上40℃以下であることがより好ましく、25℃以上35℃以下であることがさらに好ましい。
【0119】
また、トナー母体粒子に衝撃を与える時間は、1分以上20分以下であることが好ましく、5分以上15分以下であることがより好ましい。5分以上であることで、トナー母体粒子の表面側から、より離型剤およびC16-35飽和化合物を離脱させて、離型剤およびC16-35飽和化合物をトナー内部側により偏在させることができる。15分以下であることで、トナー母体粒子内のC16-35飽和化合物および離型剤の含有量の過度な低下を抑制できる。
【0120】
図1は、球形化処理を行う球形化処理装置100の例を示す模式図である。球形化処理装置1は、原料ホッパー11と、撹拌モーター12と、超音波ノズル13と、衝突板14と、リサイクル用捕集器15と、捕集サイクロン16と、原料入口17とを有する。なお、
図1において、18は圧縮空気、19は排風出口、20はトナー母体粒子を表す。球形化処理装置100では、トナーが流路の壁(特に、衝突板14)へ衝突することにより、トナー母体粒子に対して球形化処理することができる。
【0121】
本実施形態では、上記球形化処理を行ったトナー母体粒子をコア粒子とし、コア粒子表面にシェル用樹脂粒子を被覆させて、2層構造(コア-シェル構造)のトナー母体粒子を作製してもよい。これにより、トナー母体粒子の表面側よりも内部側に存在する離型剤およびC16-35飽和化合物の量の比率をより高くして、W3/S3≦0.1を満たしやすくすることができる。その結果、耐熱保管性をより高めることができ、また、画像を連続形成しても画像汚れをより生じにくくすることができる。なお、上記コア-シェル構造は、シェル層がコア粒子を完全に被覆した構造に限定されず、シェル層がコア粒子を完全に被覆せず、コア粒子が露出している部分を含む構造であってもよい。
【0122】
コア-シェル構造のトナー母体粒子は、水系媒体中で、粉砕法により得られたトナー母体粒子と、シェル用樹脂粒子を分散させた分散液を混合し、これら粒子を分散させた後、凝集剤を添加し、コア粒子となるトナー母体粒子の軟化点以上の温度に加熱して、コア粒子とシェル用樹脂粒子とを融着させて作製することができる。
【0123】
次いで、コア粒子とシェル用樹脂粒子とが融着したトナー粒子の分散液から、トナー粒子を固液分離し、固液分離によって得られた、トナーケーキ(ウェット状態にあるトナー粒子をケーキ状に凝集させた集合物)から界面活性剤や凝集剤などの付着物を除去して洗浄する。そして、上記固液分離をした後、洗浄処理されたトナーケーキを乾燥する。
【0124】
シェル用樹脂の種類は、コア粒子中の結着樹脂と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0125】
上記凝集剤の種類は、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属塩や第2族の金属の塩などの金属塩を用いることができる。上記金属塩の例には、ナトリウム、カリウム、リチウムなどの一価の金属塩、カルシウム、マグネシウム、マンガン、銅などの二価の金属塩、鉄、アルミニウムなどの三価の金属塩などが含まれる。具体的な金属塩の例には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン、硫酸アルミニウムなどが含まれる。これら凝集剤は単独でも、または2種以上を組み合わせても用いることができる。
【0126】
固液分離する方法は、特に限定されないが、例として、遠視分離法、ヌッチェなどを使用して行う減圧濾過法、フィルタープレスなどを使用して行う濾過法などが挙げられる。
【0127】
乾燥方法は特に限定されないが、例として、スプレードライヤー、真空凍結乾燥機、減圧乾燥機などが挙げられる。生産安定性の観点から、静置棚乾燥機、移動式乾燥機、流動層乾燥機、回転式乾燥機、攪拌式乾燥機などを使用することが好ましい。
このようにして、コア-シェル構造のトナー母体粒子を作製できる。
【0128】
なお、コア-シェル構造のトナー母体粒子は、コア粒子となる樹脂粒子分散液と、着色剤粒子分散液とを混合し、所定の粒子径となるまで凝集させた後、シェル用樹脂粒子分散液を添加し、さらに凝集剤を添加して作製してもよい。このとき、凝集剤添加後は、各分散液の混合液を加熱し、液温を昇温させた状態で撹拌する。
【0129】
(熱風による表面処理)
本実施形態では、上述した方法によって得られたトナー母体粒子に対して、球形化処理をする前に、熱風による表面処理を行ってもよい。このとき、離型剤およびC16-35飽和化合物をトナー母体粒子の内側に偏在させるため、熱風の温度は、200℃以下とすることが好ましい。熱風の温度の下限値は、特に限定されないが、100℃であることが好ましい。
【0130】
熱風による表面処理の方法は特に限定されず、特開昭59-125743号公報や特開2022-96557号公報に記載された方法などで行うことができる。これらの公報には、熱処理室中で、熱風によりトナー粒子を旋回させながら落下させ、さらに熱処理室の内部に供給した冷風により冷却した後にトナー粒子を回収する、表面処理方法が記載されている。
【0131】
図2は、熱風による表面処理を行う表面処理装置200の例を示す模式図である。ホッパー210から供給されたトナー粒子は、混合室220中で、ノズル230から供給された圧縮空気と混合され、分散気流240として、ディフューザー250から熱処理室260の内部に噴出される。この噴出された分散気流240に、熱風旋回室270に供給されて旋回流とされた熱風が吹き込まれ、これにより分散気流240中のトナー粒子を熱風により旋回させる。旋回により熱処理されたトナー粒子は、冷風供給部280から熱処理室260の側壁に沿って導入された冷却風により冷却され、排出部290から排出されて回収される。
【0132】
なお、乳化重合凝集法によってトナーを作製するときは、結着樹脂粒子分散液に、離型剤およびC16-35飽和化合物を添加し、これらをある程度凝集させた後に、C16-35飽和化合物を含まない追加の結着樹脂粒子分散液をさらに添加して、追加した結着樹脂を凝集粒子の表面に付着させることによって、離型剤およびC16-35飽和化合物をトナー母体粒子の内側に偏在させて、式(1)を満たすトナー母体粒子を製造できる。
【0133】
(外添剤の添加)
以上の工程を経て得られたトナー母体粒子は、そのまま使用してもよいが、必要に応じて、外添剤により外添処理されてもよい。外添剤による外添処理は、トナー母体粒子と外添剤とを所定量配合して、ダブルコン・ミキサー、V型ミキサー、ドラム型ミキサー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウタミキサ、メカノハイブリッド(日本コークス工業株式会社製)、およびノビルタ(ホソカワミクロン株式会社製)等の混合装置により撹拌・混合して、行うことができる。
【0134】
1-5.キャリア
キャリアは、上述したトナー母体粒子と混合して2成分磁性トナーを構成する。上記キャリアは、トナーに含有され得る公知の磁性粒子であればよい。
【0135】
上記磁性粒子の例には、鉄、鋼、ニッケル、コバルト、フェライト、およびマグネタイト、ならびに、これらとアルミニウムおよび鉛などとの合金などの磁性体を含む粒子が含まれる。上記キャリアは、上記磁性体からなる粒子の表面を樹脂などで被覆したコートキャリアであってもよいし、バインダー樹脂中に上記磁性体を分散させた樹脂分散型キャリアであってもよい。上記被覆用の樹脂の例には、オレフィン樹脂、スチレン樹脂、スチレン-アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、およびフッ素樹脂などが含まれる。上記バインダー樹脂の例には、アクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、およびフェノール樹脂などが含まれる。
【0136】
キャリアの平均粒子径は、体積基準の平均粒子径が20μm以上100μm以下であることが好ましく、25μm以上80μm以下であることがより好ましい。上記キャリアの平均粒子径は、湿式分散機を備えたレーザー回折式粒度分布測定装置であるシンパテック(SYMPATEC)社製へロス(HELOS)などにより測定することができる。
【0137】
キャリアの含有量は、トナー母体粒子およびキャリアの合計質量に対して、2質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0138】
2.画像形成方法および画像形成装置
本発明の他の実施形態は、静電潜像をトナーにより現像してトナー像を形成するトナー像形成部と、記録媒体への上記トナー像の転写により、上記トナー像を上記記録媒体に定着させる定着装置と、を有する画像形成装置、ならびに当該画像形成装置を用いた画像形成方法に関する。本実施形態において、上記定着装置は、上述したトナーを上記記録媒体に定着させる。
【0139】
上記画像形成装置は、イエロー、マゼンタ、シアン、およびブラックの4種類のカラー現像装置と、1つの電子写真感光体と、により構成される4サイクル方式の画像形成装置であってもよいし、イエロー、マゼンタ、シアン、およびブラックの4種類のカラー現像装置と、それぞれの色ごとに設けられた4つの電子写真感光体と、により構成されるタンデム方式の画像形成装置であってもよい。
【0140】
図3は、本実施形態に関する画像形成装置1の一例を示す概略構成図である。
図4に示す画像形成装置1は、画像処理部30、画像形成部40、用紙搬送部50、定着装置60および画像読取部70を有する。
【0141】
画像形成部40は、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)の各色トナーによる画像を形成する画像形成ユニット41Y、41M、41Cおよび41Kを有する。これらは、収容されるトナー以外はいずれも同じ構成を有するので、以後、色を表す記号を省略することがある。画像形成部40は、さらに、中間転写ユニット42および二次転写ユニット43を有する。これらは、転写装置に相当する。
【0142】
画像形成ユニット41は、露光装置411、現像装置412、電子写真感光体(像担持体)413、帯電装置414、およびドラムクリーニング装置415を有する。帯電装置414は、例えばコロナ帯電器である。帯電装置414は、帯電ローラーや帯電ブラシ、帯電ブレードなどの接触帯電部材を電子写真感光体413に接触させて帯電させる接触帯電装置であってもよい。露光装置411は、例えば、光源としての半導体レーザーと、形成すべき画像に応じたレーザー光を電子写真感光体413に向けて照射する光偏向装置(ポリゴンモータ)とを含む。電子写真感光体413は、光導電性を有する負帯電型の有機感光体である。電子写真感光体413は、帯電装置414により帯電される。
【0143】
現像装置412は、二成分現像方式の現像装置である。現像装置412は、例えば、二成分現像剤を収容する現像容器と、現像容器の開口部に回転自在に配置されている現像ローラー(磁性ローラー)と、二成分現像剤が連通可能に現像容器内を仕切る隔壁と、現像容器における開口部側の二成分現像剤を現像ローラーに向けて搬送するための搬送ローラーと、現像容器内の二成分現像剤を撹拌するための撹拌ローラーと、を有する。現像容器には、例えば、二成分現像剤が収容されている。
【0144】
中間転写ユニット42は、中間転写ベルト(中間転写体)421、中間転写ベルト421を電子写真感光体413に圧接させる一次転写ローラー422、バックアップローラー423Aを含む複数の支持ローラー423、およびベルトクリーニング装置426を有する。中間転写ベルト421は、複数の支持ローラー423にループ状に張架される。複数の支持ローラー423のうちの少なくとも一つの駆動ローラーが回転することにより、中間転写ベルト421は矢印A方向に一定速度で走行する。
【0145】
ベルトクリーニング装置426は、弾性部材426aを有する。弾性部材426aは、二次転写した後の中間転写ベルト421に当接して、中間転写ベルト421の表面上の付着物を除去する。弾性部材426aは、弾性体で構成されており、クリーニングブレード、ブラシなどが含まれる。
【0146】
二次転写ユニット43は、無端状の二次転写ベルト432、および二次転写ローラー431Aを含む複数の支持ローラー431を有する。二次転写ベルト432は、二次転写ローラー431Aおよび支持ローラー431によってループ状に張架される。
【0147】
定着装置60は、例えば、定着ローラー62と、定着ローラー62の外周面を覆い、用紙S上のトナー画像を構成するトナーを加熱、融解するための無端状の加熱ベルト10と、用紙Sを定着ローラー62および加熱ベルト10に向けて押圧する加圧ローラー63と、を有する。用紙Sは、記録媒体に相当する。
【0148】
画像形成装置1は、さらに、画像読取部70、画像処理部30および用紙搬送部50を有する。画像読取部70は、給紙装置71およびスキャナー72を有する。用紙搬送部50は、給紙部51、排紙部52、および搬送経路部53を有する。給紙部51を構成する三つの給紙トレイユニット51a~51cには、坪量やサイズなどに基づいて識別された用紙S(規格用紙、特殊用紙)が予め設定された種類ごとに収容される。搬送経路部53は、レジストローラー対53aなどの複数の搬送ローラー対を有する。
【0149】
画像形成装置1による画像の形成を説明する。
スキャナー72は、コンタクトガラス上の原稿Dを光学的に走査して読み取る。原稿Dからの反射光がCCDセンサー72aにより読み取られ、入力画像データとなる。入力画像データは、画像処理部30において所定の画像処理が施され、露光装置411に送られる。
【0150】
電子写真感光体413は一定の周速度で回転する。帯電装置414は、電子写真感光体413の表面を一様に負極性に帯電させる。露光装置411では、ポリゴンモータのポリゴンミラーが高速で回転し、各色成分の入力画像データに対応するレーザー光が、電子写真感光体413の軸方向に沿って展開し、当該軸方向に沿って電子写真感光体413の外周面に照射される。こうして電子写真感光体413の表面には、静電潜像が形成される。
【0151】
現像装置412では、現像容器内の二成分現像剤の撹拌、搬送によってトナー母体粒子が帯電し、二成分現像剤は現像ローラーに搬送され、現像ローラーの表面で磁性ブラシを形成する。帯電したトナー母体粒子は、磁性ブラシから電子写真感光体413における静電潜像の部分に静電的に付着する。こうして、電子写真感光体413の表面の静電潜像が可視化され、電子写真感光体413の表面に、静電潜像に応じたトナー画像が形成される。なお、「トナー画像」とは、トナーが画像状に集合した状態を言う。
【0152】
電子写真感光体413の表面のトナー画像は、中間転写ユニット42によって中間転写ベルト421に転写される。転写後に電子写真感光体413の表面に残存する転写残トナーは、電子写真感光体413の表面に摺接されるドラムクリーニングブレードを有するドラムクリーニング装置415によって除去される。
【0153】
一次転写ローラー422によって中間転写ベルト421が電子写真感光体413に圧接することにより、電子写真感光体413と中間転写ベルト421とによって、一次転写ニップが電子写真感光体ごとに形成される。当該一次転写ニップにおいて、各色のトナー画像が中間転写ベルト421に順次重なって転写される。
【0154】
一方、二次転写ローラー431Aは、中間転写ベルト421および二次転写ベルト432を介して、バックアップローラー423Aに圧接される。それにより、中間転写ベルト421と二次転写ベルト432とによって、二次転写ニップが形成される。当該二次転写ニップを用紙Sが通過する。用紙Sは、用紙搬送部50によって二次転写ニップへ搬送される。用紙Sの傾きの補正および搬送のタイミングの調整は、レジストローラー対53aが配設されたレジストローラー部により行われる。
【0155】
二次転写ニップに用紙Sが搬送されると、二次転写ローラー431Aへ転写バイアスが印加される。この転写バイアスの印加によって、中間転写ベルト421に担持されているトナー画像が用紙Sに転写される(静電潜像現像用トナーを記録媒体に付着させる工程)。トナー画像が転写された用紙Sは、二次転写ベルト432によって、定着装置60に向けて搬送される。
【0156】
二次転写後に中間転写ベルト421の表面に残存する転写残トナーなどの付着物は、中間転写ベルト421の表面に摺接されるクリーニングブレードを有するベルトクリーニング装置426によって除去される。このとき、中間転写ベルトとして前述の中間転写体を使用するため、経時的に動摩擦力を低減させることができる。
【0157】
定着装置60は、回転する定着ローラー62と加圧ローラー63とによって加熱ベルト10を挟み込んで、定着ニップを形成し、搬送されてきた用紙Sを定着ニップ部で加熱、加圧する。こうしてトナー画像が用紙Sに定着する(静電潜像現像用トナーを記録媒体に定着させる工程)。トナー像が定着された用紙Sは、排紙ローラー52aを備えた排紙部52により機外に排紙される。
【0158】
本実施形態において、用紙Sへのトナー画像の定着は、2段階で行ってもよい。つまり、画像形成装置1は、異なる2つの定着装置60を有し、これら2つの定着装置60により連続して定着を行ってもよい。つまり、1段階目の定着装置60により加熱されたトナー画像が完全に冷却される前に、2段階目の定着装置60による加熱および加圧を行ってもよい。これにより、トナー画像を十分にかつより長い時間にわたって加熱して、トナー母体粒子からC16-35飽和化合物を十分に析出させてニスの塗布性をより高めることができる。
【0159】
なお、2段階目の定着は、1段階目の定着の直後に行ってもよいし、たとえば用紙Sを反転させて裏面に別の画像を付着および定着させた後に、再度用紙Sを反転させて表面に2段階目の定着を行ってもよい。このとき、さらに用紙Sを反転させて裏面にも2段目の定着を行うことが好ましい。
【0160】
なお、3段階目以降の定着を行ってもよい。
【0161】
また、定着装置は、非回転の加圧パッドにより定着ニップを形成する構成であってもよい。
【0162】
図4は、非回転の加圧パッドにより面状の定着ニップを形成する定着装置500の概略構成を示す模式図である。定着装置500は、非回転の加圧パッド510と加圧ローラー520とによって、加熱ローラー530およびステアローラー540により張架されている、回転するエンドレスベルトである加熱ベルト550を挟み込んで、定着ニップを形成し、搬送されてきた用紙Sを定着ニップ部で加熱、加圧する。加圧パッド510は、ステンレス製の押圧部材560により加熱ベルトに押圧され、これにより加熱ベルト550を加圧パッド510に押し当てて定着ニップを形成する。
【0163】
加圧パッド510は、液晶ポリマー(LCP)などにより形成された略直方体状のパッド部材であり、加熱ベルト550を直方体の一面で押圧して、綿状の定着ニップを形成する。加圧パッド510と加熱ベルト550の間には、不図示の潤滑シートを介在させて、加熱ベルト550を円滑に回転可能とする。潤滑シートは、たとえば、厚さ100μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)をコーティングしたポリイミドシートとすることができる。また、このポリイミドシートには、1mm間隔で100μmの突起形状を形成して、加熱ベルト550との接触面積を減らして摺動抵抗を低減させてもよい。また、加熱ベルト550の潤滑シートと接する面にシリコーンオイルなどの潤滑剤を塗布して、加熱ベルト550を円滑に回転可能としてもよい。
【0164】
このような構成により面状のニップ部を形成することで、定着時間をより長くすることができる。これにより、トナー画像を十分にかつより長い時間にわたって加熱して、トナー母体粒子からC16-35飽和化合物を十分に析出させ、ニスの塗布性および2段階目の定着装置60からの離型性をより高めることができる。
【0165】
上述したように定着を2段階で行うとき、2つの定着装置をいずれも加圧パッドを有する定着装置としてもよいし、いずれか一方(1段階目の定着装置、または2段階目の定着装置)を、加圧パッドを有する定着装置としてもよい。もちろん、2つの定着装置をいずれも回転する定着ローラーを有する定着装置としてもよい。
【0166】
なお、上述した装置構成および画像形成方法は、本発明を実施するための例示的な形態であり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0167】
3.ニスコートの形成
上述した画像形成方法により形成した画像に、ニスを付与してニスコートを形成してもよい。
【0168】
ニスコートの形成時には、上述の画像形成工程で形成した画像上に、たとえば光重合性化合物を含む光硬化性ニスを塗布し、硬化させてニス層を形成する。なお、光硬化性ニスは、画像全体を覆うように塗布してもよく、画像の一部のみを覆うように塗布してもよい。
【0169】
上記画像上に光硬化性ニスを塗布する方法は、光硬化性ニスを均一に塗布することが可能であれば特に制限されない。その塗布装置の例には、ニスコータ、ロールコータ、フキソソコータ、ロッドコータ、ブレード、ワイヤーバー、エアーナイフ、カーテンコータ、スライドコータ、ドクターナイフ、スクリーンコータ、グラビアコータ(例えば、オフセットグラビアコータ)、スロットコータ、および押出しコータを含む液体フィルムコーティング装置等が含まれる。またこれらは、正転および逆転ロールコーティング、オフセットグラビア、カーテンコーティング、リソグラフコーティング、スクリーンコーティング、およびグラビアコーティング等の周知の方式のものを使用することができる。
【0170】
ここで、上記画像上に塗布する光硬化性ニスは、光重合性化合物(ニス用重合性モノマー)を含んでいればよいが、通常、光重合性化合物と共に、重合開始剤(増感剤)とを含む。
【0171】
光重合性化合物は、モノマーであってもよく、オリゴマーであってもよく、ポリマーであってもよい。ただし、少なくとも直鎖炭化水素構造を有するジオールジ(メタ)アクリレートを含む。光硬化性ニスが、当該ジオールジ(メタ)アクリレートを含むことで、上述のトナー粒子中の結晶性ポリエステルとの親和性が高まり、画像に対する光硬化性ニスの濡れ性が向上し、さらには得られるニス層と画像との密着性が高まる。
【0172】
ここで、直鎖炭化水素構造を有するジオールジ(メタ)アクリレートとは、脂肪族ジオールと2つの(メタ)アクリル酸とを脱水集合して得られるモノマーである。なお、ジオールジ(メタ)アクリレートの炭化水素構造は、一部分岐していてもよい。この場合、ジオール由来の2つの酸素に挟まれた炭化水素鎖を、直鎖炭化水素構造と特定する。
【0173】
ジオールジ(メタ)アクリレートの直鎖炭化水素構造の炭素数は、4以上12以下であることが好ましく、6以上10以下であることがより好ましく、6以上9以下であることがさらに好ましい。ジオールジ(メタ)アクリレートの直鎖炭化水素構造の炭素数が当該範囲であると、光硬化性ニスの粘度が適度な範囲になり、塗布性が良好になりやすい。また、トナー粒子中の結晶性ポリエステルとの親和性も良好になりやすい。
【0174】
ジオールジ(メタ)アクリレートの具体例には、ヘキサンジオールジアクリレート、ノナンジオールジアクリレート、デカンジオールジアクリレート等が含まれ、これらの中でも特にヘキサンジオールジアクリレートが好ましい。
【0175】
上記直鎖炭化水素構造を有するジオールジ(メタ)アクリレートの量は、光重合性化合物の総質量に対して10質量%以上80質量%以下であることが好ましく、20質量%以上65質量%以下であることがより好ましい。ジオールジ(メタ)アクリレートの量が当該範囲であると、画像とニス層との密着性が良好になる。
【0176】
また、ジオールジ(メタ)アクリレート以外の光重合性化合物の例には、アクリル樹脂;ビニル・アクリル系樹脂、多価アルコールのアクリル酸エステル、エポキシ・アクリレート、ウレタン・アクリレート、ポリエステル・アクリレート、ポリエーテル・アクリレート、アクリレート・アルキッド、メラミン・アクリレート等の重合性オリゴマーや重合性ポリマー、トリメチロールプロパン(メタ)アクリレートや、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレートモノマー、およびトリ(メタ)アクリレートモノマー等が含まれる。ジオールジ(メタ)アクリレート以外の光重合性化合物の量や種類は、光硬化性ニスの硬化性や粘度、表面張力等に合わせて適宜選択される。
【0177】
また、重合開始剤(増感剤)の例には、公知のアントラキノン系開始剤、ベンゾフェノン系開始剤、2-エチルアントラキノン系開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系開始剤、アルキルフェノン系光重合開始剤等が含まれる。重合開始剤の量は、光硬化性ニスの総質量に対して、5質量%以上25質量%以下であることが好ましい。重合開始剤の量が当該範囲であると、光硬化性ニスの硬化性が良好になる。
【0178】
さらに、光硬化性ニスは、界面活性剤を含んでいてもよく、その例には、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、シリコーン界面活性剤、およびフルオロ界面活性剤等が含まれる。アニオン界面活性剤の例には、スルホコハク酸塩、ジスルホン酸塩、リン酸エステル、硫酸塩、スルホン酸塩等が含まれる。ノニオン界面活性剤の例には、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、イソプロピルアルコール、アセチレン系ジオール、エトキシル化オクチルフェノール、エトキシル化分岐第二級アルコール、ベルフルオロブタンスルホン酸塩及びアルコキシル化アルコール等を使用することができる。シリコーン界面活性剤の例には、ポリエーテル修飾ポリジメチルシロキサン等が含まれる。フルオロ界面活性剤の例には、エトキシル化ノニルフェノール等が含まれる。光硬化性ニスが界面活性剤を含むと、画像とニス層との密着性が良好になったりする。また、光硬化性ニスの表面張力を調整し、光硬化性ニスの濡れ性を高めることもできる。
【0179】
上記光硬化性ニスの25℃における表面張力は10mN/m以上50mN/m以下であることが好ましく、15mN/m以上45mN/m以下であることがより好ましく、20mN/m以上40mN/m以下であることがさらに好ましい。光硬化性ニスの表面張力が当該範囲であると、画像上に光硬化性ニスが濡れ広がりやすくなる。光硬化性ニスの表面張力は、KYOWA DY300(協和界面化学株式会社製)にてプレート法により測定される。
【0180】
一方、光硬化性ニスの振動式粘度計にて振動子を液につけ、30秒後に測定した、25℃における粘度は100mPa・s以上800mPa・s以下であることが好ましく、150mPa・s以上700mPa・s以下であることがより好ましく、200mPa・s以上600mPa・s以下であることがさらに好ましい。光硬化性ニスの粘度が当該範囲であると、上述の方法により塗布しやすくなる。
【0181】
上記光硬化性ニスの塗布後、光エネルギーを照射し、光硬化性ニスを硬化させる。照射する光エネルギーの種類は、上記重合開始剤の種類等により適宜選択されるが、通常、紫外光、可視光等とすることができる。光エネルギーの光源の例には、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノンランプ、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、蛍光灯、タングステンランプ、LED等が含まれ、その光量や照射時間等は適宜選択される。
【0182】
なお、ニスコートは、上述した光硬化性ニスのほか、溶剤系のニスを塗布して溶剤を乾燥させる方法で形成してもよい。
【実施例0183】
以下において、実施例を参照して本発明を説明する。実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0184】
1.材料の用意
1-1.C16-35飽和化合物
炭素数20、炭素数26、炭素数30、炭素数34の飽和炭化水素(ジーエルサイエンス株式会社製)を質量比で20:30:30:20となるように分取し、80℃で溶融混合した後に、冷却固化して、炭素数16以上35以下の飽和炭化水素化合物を得た。
【0185】
1-2.離型剤
(離型剤1(マイクロクリスタリンワックス))
減圧蒸留残渣油より溶剤晶析、ろ過して得られた融点84℃のマイクロクリスタリンワックスを用意し、平均の炭素数が41となり、かつ炭素数16以上35以下の成分が検出不可になるまで分子蒸留を繰り返して、離型剤としてのマイクロクリスタリンワックスを得た。分子蒸留は、温度240℃、圧力0.2Paにて低分子量成分を除いた後、温度400℃、圧力0.2Paにてその他の成分の除去を行った。炭素数は、GC-MSで定性し、GC-FIDで定量して検出した。得られたマイクロクリスタリンワックスの融点は78℃であった。
【0186】
マイクロクリスタンワックスの融点は、DSCにより測定した。具体的には、試料5mgをアルミニウム製パンに封入し、熱分析装置ダイヤモンドDSC(パーキンエルマー社製)のサンプルホルダーにセットして、1分間100℃で等温保持する昇温過程、冷却速度0.1℃/minで100℃から0℃まで冷却する冷却過程、および上記と同様の昇温過程をこの順に経る測定条件によって行った。2回目の加熱時に得られる吸熱曲線における吸熱ピークのピークトップの温度を融点(Tm)として測定した。
【0187】
(離型剤2(ベヘン酸ベヘニル))
市販のベヘン酸ベヘニルを、離型剤としてのベヘン酸ベヘニルとした。
【0188】
1-3.結着樹脂
(結着樹脂1(ポリエステル樹脂(非晶性)))
・テレフタル酸: 55.6質量部
・ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物(BPA-PO): 28.8質量部
・プロパンジオール: 15.5質量部
・2-エチルヘキサン酸錫(エステル化触媒): 0.50質量部
冷却管、攪拌機、窒素導入管、および、熱電対のついた反応槽に、上記材料を投入した。その後、反応槽内を窒素ガスで置換して、撹拌しながら徐々に昇温し、140℃の温度で撹拌しつつ、3時間かけて上記材料を反応させた。
【0189】
次に、反応槽内の圧力を8.3kPaに下げ、撹拌しながら温度200℃まで昇温し、4時間反応させた。その後、再び反応槽内を5kPa以下に減圧して200℃で3時間反応させて、結着樹脂1を得た。
【0190】
(結着樹脂2(結晶性ポリエステル樹脂))
・アジピン酸: 40.9質量部
・1,5-ペンタンジオール: 59.1質量部
・2-エチルヘキサン酸錫: 0.50質量部
冷却管、攪拌機、窒素導入管、および、熱電対のついた反応槽に上記材料を投入した。その後、反応槽内を窒素ガスで置換して、撹拌しながら徐々に昇温し、140℃の温度で撹拌しつつ、3時間かけて上記材料を反応させた。
【0191】
次に、反応槽内の圧力を8.3kPaに下げ、撹拌しながら温度200℃まで昇温し、1時間反応させることで結着樹脂2を得た。結着樹脂2の融点は、76℃であった。
【0192】
上記融点は、DSCにより測定した。DSCにより測定した。具体的には、試料5mgをアルミニウム製パンに封入し、熱分析装置ダイヤモンドDSC(パーキンエルマー社製)のサンプルホルダーにセットして、1分間100℃で等温保持する昇温過程、冷却速度0.1℃/minで100℃から0℃まで冷却する冷却過程、および上記と同様の昇温過程をこの順に経る測定条件によって行った。2回目の加熱時に得られる吸熱曲線における吸熱ピークのピークトップの温度を融点として測定した。
【0193】
1-4.分散液の調製
(着色剤粒子の分散液)
90.0質量部のn-ドデシル硫酸ナトリウムを1600.0質量部のイオン交換水に投入し、撹拌しながら、この水溶液に420.0質量部の銅フタロシアニン(C.I.Pigment Blue15:3)を徐々に添加した。次いで、撹拌装置(エム・テクニック株式会社製、クレアミックスWモーション CLM-0.8)を用いて分散処理を行い、体積基準のメディアン径が110nmである着色剤微粒子の分散液を調製した。なお、上記メディアン径は、粒度分布測定装置(MICROTRAC UPA-150、HONEYWELL社製)で測定した値である。
【0194】
(シェル用ポリエステル樹脂粒子分散液)
100質量部の結着樹脂1をカッターミル(VM-16、槇野産業株式会社製)で粗粉砕し、粒径500~800μmの粗粉末を調製した。次いで、1質量部の高分子分散剤(商品名:ジョンクリル51、BASF社製)と、1質量部のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを490質量部の脱イオン水に溶解させた水溶液中に、100質量部の上記粗粉末を添加し、粗粉末の水性分散液を調製した。この水性分散液を50MPaの圧力下で、内径0.3mmのノズルに通過させて前処理を行い、上記水性分散液中の粗粉末の粒径を100μm以下に調整した。なお、上記粗粉末の体積平均粒径は、レーザー回折/散乱式粒子径分布(粒度分布)測定装置(LA-960、株式会社堀場製作所製)を用いて測定した値である。
【0195】
得られた粗粉末の分散液を130℃に加熱し、圧力を150MPaまで加圧した状態で、耐圧性配管から上記耐圧性配管の出口に取り付けられた耐圧ノズルに供給した。なお、上記耐圧ノズルは、孔径0.143mmの液体流過孔2本がノズルの長手方向においてほぼ平行になるように形成された長さ0.5cmの耐圧性多重ノズルである。
【0196】
ノズル入口における上記分散液の温度は130℃、背圧は210MPaであり、ノズル出口における分散液の温度は170℃、背圧は42MPaであった。耐圧ノズルから排出される水性スラリー(分散液)を、耐圧ノズルの出口に接続される蛇管冷却機に導入して冷却した。上記冷却機出口での上記分散液の温度は20℃、背圧は1MPaであった。冷却機出口から排出される分散液を、冷却機出口に接続される多段減圧装置に導入し、減圧を行った。なお、多段減圧装置は、内径の異なる5個の金属製パイプ状部材をリング状シールで連結してなるものである。また、5個の金属製パイプ状部材の内径は0.5mmから1mmまで段階的に変更したものである。多段減圧装置から排出された分散液は、体積平均粒径が45nm以上155nm以下のシェル用ポリエステル樹脂微粒子の分散液であった。
【0197】
(マイクロクリスタリンワックスおよび飽和炭化水素化合物の分散液)
離型剤1(マイクロクリスタリンワックス): 60.000質量部
炭素数16以上35以下の飽和化合物: 0.278質量部
イオン性界面活性剤(ネオゲン RK、第一工業製薬株式会社製): 5.00質量部
イオン交換水: 237.000質量部
上記材料を混合した溶液を95℃に加熱し、ホモジナイザー(ウルトラタックスT50、IKA社製)を用いて十分に分散した後、圧力式ホモジナイザー(G5-8,7B、株式会社エスエムテー製)を用いて分散処理することにより、離型剤および上記C16-35飽和化合物の固形分濃度が20質量%の分散液を調製した。この分散液中の粒子の体積平均粒径は、240nmであった。上記体積平均粒径は、粒度分布測定装置(MICROTRAC UPA-150、HONEYWELL社製)で測定した値である。
【0198】
(非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液)
ビスフェノールAプロピレンオキシド付加物(BPA-PO): 285.7質量部
テレフタル酸: 66.9質量部
フマル酸: 47.4質量部
上記原料モノマーを、窒素導入管、脱水管、撹拌器及び熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱した状態で溶解させた。
【0199】
次いで、得られた溶液に、エステル化触媒としてTi(OBu)4を0.4質量部投入
し、235℃まで昇温、常圧下(101.3kPa)にて5時間、さらに減圧下(8kP
a)にて1時間反応を行った。その後、得られた反応液を200℃まで冷却したのち、減圧下(20kPa)にて反応を行った後、脱溶剤を行い、非晶性ポリエステル樹脂を得た。上記非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移温度Tgは61℃であり、分子量(Mw)は19000であった。
【0200】
なお、上記非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用いて、温度の昇降速度を10℃/min、昇温範囲を0℃から150℃までとする昇温・冷却条件によって測定された値である。具体的には、以下の手順で測定した値である。
【0201】
測定試料(樹脂)3.0mgをアルミニウム製パンに封入し、「ダイヤモンドDSC」のサンプルホルダーにセットした。リファレンスは空のアルミニウム製パンを使用した。そして、昇温速度10℃/分で0℃から150℃まで昇温する第1昇温過程、冷却速度10℃/分で150℃から0℃まで冷却する冷却過程、および昇温速度10℃/分で0℃から150℃まで昇温する第2昇温過程をこの順に経る測定条件(昇温・冷却条件)によってDSC曲線を得た。この測定によって得られたDSC曲線に基づいて、その第2昇温過程における第1の吸熱ピークの立ち上がり前のベースラインの延長線と、第1のピークの立ち上がり部分からピーク頂点までの間で最大傾斜を示す接線を引き、その交点をガラス転移温度(Tg)とした。
【0202】
また、上記非晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、「HLC-8220」(東ソー社製)およびカラムとして「TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZM-M3連」(東ソー社製)を有するGPC装置と、標準ポリスチレン試料から求められた検量線とを用いて求めた値である。
【0203】
100質量部の上記非晶性ポリエステル樹脂を、400質量部の酢酸エチル(関東化学株式会社製)に溶解し、得られた溶液を、あらかじめ作製した638質量部のラウリル硫酸ナトリウム溶液(0.26質量%濃度)と混合し、撹拌しながら超音波ホモジナイザー(US-150T、株式会社日本精機製作所製)でV-LEVEL 300μAで30分間超音波分散した。次いで、40℃に加温した状態でダイヤフラム真空ポンプ(V-700、BUCHI社製)を使用し、減圧下で3時間撹拌しながら酢酸エチルを完全に除去した。
【0204】
これにより、固形分量が13.5質量%の非晶性ポリエステル樹脂粒子の分散液を得た。この分散液に含まれる粒子の体積基準のメディアン径(粒度分布測定装置(MICROTRAC UPA-150、HONEYWELL社製)で測定)は、190nmであった。
【0205】
(結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液)
テトラデカン二酸: 271質量部
1,6-ヘキサンジオール: 118質量部
上記の原料モノマーを、窒素導入管、脱水管、撹拌器および熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた。
【0206】
次いで、エステル化触媒として0.8質量部のTi(OBu)4を上記溶液に投入し、235℃まで昇温し、常圧下(101.3kPa)にて5時間、さらに減圧下(8k
Pa)にて1時間反応を行い、結晶性ポリエステルを得た。得られた結晶性ポリエステルの融点Tmは75℃であった。
【0207】
200質量部の上記結晶性ポリエステルを200質量部の酢酸エチルに溶解し、この溶液を撹拌した。撹拌中の溶液に、800質量部のイオン交換水にポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムを濃度が1質量%になるよう溶解させた水溶液を滴下した。得られた溶液を減圧下、酢酸エチルを除去した後、アンモニアを添加してpHが8.5になるように調整した。その後、固形分濃度を30質量%に調整した。
【0208】
これにより、結晶性ポリエステル樹脂粒子が分散された分散液を調製した。この分散液に含まれる粒子の体積基準のメディアン径(粒度分布測定装置(MICROTRAC UPA-150、HONEYWELL社製)で測定)は、205nmであった。なお、上記分散工程は、結晶性ポリエステル樹脂が溶解する温度で行った。
【0209】
2.トナー母体粒子の作製
(トナー母体粒子A)
結着樹脂1(ポリエステル樹脂(非晶性)): 100.0質量部
離型剤1(マイクロクリスタリンワックス): 5.00質量部
炭素数16以上35以下の飽和炭化水素化合物: 0.000111質量部
銅フタロシアニン(C.I.Pigment Blue15:3):6.00質量部
ヘンシェルミキサー(三井鉱山株式会社製、FM-75型)に上記材料を投入して、回転数20s-1、回転時間5minの条件で混合した。その後、温度150℃に設定した二軸混練機(株式会社池貝製、PCM-30型)を用いて、これらを混練した。得られた混練物を冷却し、ハンマーミルにより1mm以下に粗粉砕し、粗砕物を得た。得られた粗砕物を、機械式粉砕機(ターボ工業株式会社製、T-250)により微粉砕した。さらに、分球装置(ホソカワミクロン株式会社製、ファカルティF-300)を用い、分級ローター回転数を130s-1、分散ローター回転数を120s-1として分級を行った。
【0210】
分級を経た粒子を、
図1に示す球形化処理装置により球形化処理した。このとき、気相中において、温度35℃に加熱しながら、上記粒子に衝撃力を5分間付与し続けて球形化処理を行った。これにより、トナー母体粒子Aを得た。得られたトナー母体粒子Aの体積平均粒径(ベックマン・コールター社製、コールターマルチサイザー3を用いて測定)は、6.2μmであった。
【0211】
(トナー母体粒子B)
炭素数16以上35以下の飽和炭化水素化合物の量を0.0555質量部に変更した以外は、トナー母体粒子Aと同様にしてトナー母体粒子Bを作製した。トナー母体粒子Bの体積平均粒径(ベックマン・コールター社製、コールターマルチサイザー3を用いて測定)は6.0μmであった。
【0212】
(トナー母体粒子C)
用いる離型剤を、離型剤2に変更した以外は、トナー母体粒子Bと同様にしてトナー母体粒子Cを作製した。トナー母体粒子Cの体積平均粒径(ベックマン・コールター社製、コールターマルチサイザー3を用いて測定)は6.0μmであった。
【0213】
(トナー母体粒子D)
球形化処理を行う際、気相中の温度を30℃、衝撃を与える時間を10分に変更した以外は、トナー母体粒子Bと同様にしてトナー母体粒子Dを作製した。トナー母体粒子Dの体積平均粒径(ベックマン・コールター社製、コールターマルチサイザー3を用いて測定)は5.9μmであった。
【0214】
(トナー母体粒子E)
1質量部のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを500質量部の脱イオン水に溶解させた水溶液中に、100質量部のトナー母体粒子Bと、10質量部のシェル用ポリエステル樹脂粒子分散液とを混合し、水性スラリーを調製した。タービン翼を用いて上記水性スラリーを撹拌しながら、水性スラリーに硫酸マグネシウム水溶液(濃度0.1重量%)を少量ずつ滴下した。その後、この混合液を1時間攪拌したところ、コア粒子であるトナー母体粒子Bの表面へポリエステル樹脂(非晶性)微粒子の凝集が観察された。この凝集粒子を含む水性スラリーを81℃の温度下で2時間攪拌し、トナー母体粒子Eが分散された水性スラリーを得た。上記水性スラリーから濾過によって単離したトナー母体粒子を純水(導電率0.5μS/cm)で3回洗浄した後、真空乾燥機によって乾燥し、トナー母体粒子Eを得た。トナー母体粒子Eの体積平均粒径(ベックマン・コールター社製、コールターマルチサイザー3を用いて測定)は6.3μmであった。
【0215】
(トナー母体粒子F)
用いる材料を下記材料に変更した以外は、トナー母体粒子Aと同様にしてトナー母体粒子Fを作製した。
結着樹脂1(ポリエステル樹脂(非晶性)): 90.0質量部
結着樹脂2(結晶性ポリエステル樹脂): 10.0質量部
離型剤1(マイクロクリスタリンワックス): 5.00質量部
炭素数16以上35以下の飽和炭化水素化合物: 0.0555質量部
銅フタロシアニン(C.I.Pigment Blue15:3):6.00質量部
トナー母体粒子Fの体積平均粒径(ベックマン・コールター社製、コールターマルチサイザー3を用いて測定)は6.0μmであった。
【0216】
(トナー母体粒子G)
炭素数16以上35以下の飽和炭化水素化合物の量を0.1107質量部に変更した以外は、トナー母体粒子Aと同様にしてトナー母体粒子Gを作製した。トナー母体粒子Gの体積平均粒径(ベックマン・コールター社製、コールターマルチサイザー3を用いて測定)は6.0μmであった。
【0217】
(トナー母体粒子H)
分級を経た粒子を、球形化処理する前に、
図2で示す表面処理装置により熱処理した以外は、トナー母体粒子Bと同様にしてトナー母体粒子Hを作製した。このとき、熱処理室の温度を180℃とし、熱処理時間は60秒とした。トナー母体粒子Hの体積平均粒径(ベックマン・コールター社製、コールターマルチサイザー3を用いて測定)は6.1μmであった。
【0218】
(トナー母体粒子I)
トナー母体粒子Eの作製において、コア粒子として、トナー母体粒子Bの代わりにトナー母体粒子Fを用いて、トナー母体粒子Iを作製した。トナー母体粒子Iの体積平均粒径(ベックマン・コールター社製、コールターマルチサイザー3を用いて測定)は6.3μmであった。
【0219】
(トナー母体粒子J)
撹拌装置、温度センサーおよび冷却管を取り付けた反応容器に、250質量部(固形分換算)の非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液と、1000質量部のイオン交換水とを投入した後、5モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を添加して溶液のpHを10に調整した。
【0220】
次いで、得られた分散液に、23質量部(固形分換算)の着色剤粒子の分散液を投入した後、43質量部(固形分換算)のマイクロクリスタリンワックスおよび飽和炭化水素化合物の分散液を添加して撹拌した。撹拌中に、この溶液に、60質量部の塩化マグネシウムを60質量部のイオン交換水に溶解させた水溶液を、30℃において10分間かけて添加した。その後、3分間放置した後に昇温を開始し、液温を60分間かけて80℃まで昇温させた。
【0221】
液温が80℃に到達した時点で、80質量部(固形分換算)の非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液と500質量部のラウリル硫酸ナトリウム溶液(0.26質量%濃度)とを事前に混合した分散液(分散液Aとする)を反応容器内に滴下し、液温80℃を保持したまま樹脂粒子の成長反応を継続させた。
【0222】
樹脂粒子の体積基準のメディアン径(ベックマン・コールター社製、コールターマルチサイザー3を用いて測定)が6.4μmになった時、190質量部の塩化ナトリウムを760質量部のイオン交換水に溶解させた水溶液を上記反応容器中の分散液に添加して粒子成長を停止させた。
【0223】
さらに、昇温を行い、液温が90℃の状態にして撹拌することにより、粒子の融着を進行させた。そして、上記分散液を固液分離し、脱水したトナーケーキをイオン交換水に再分散させ固液分離する操作を3回繰り返して洗浄したのち、40℃で24時間乾燥させることにより、トナー母体粒子Jを得た。トナー母体粒子Jの体積平均粒径(ベックマン・コールター社製、コールターマルチサイザー3を用いて測定)は6.2μmであった。
【0224】
(トナー母体粒子K)
トナー母体粒子Jの作製において、分散液Aの滴下タイミングを液温80℃に到達した時点ではなく、液温80℃で粒子成長を進めて、樹脂粒子の体積基準のメディアン径が5.9μmになった時点で滴下するように変更して、トナー母体粒子Kを作製した。トナー母体粒子Kの体積平均粒径(ベックマン・コールター社製、コールターマルチサイザー3を用いて測定)は6.2μmであった。
【0225】
(トナー母体粒子L)
トナー母体粒子Kの作製において、最初に投入する分散液を、250質量部(固形分換算)の非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液から、220質量部(固形分換算)の非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液と、30質量部(固形分換算)の結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液との混合液に変更して、トナー母体粒子Lを作製した。トナー母体粒子Lの体積平均粒径(ベックマン・コールター社製、コールターマルチサイザー3を用いて測定)は6.2μmであった。
【0226】
(トナー母体粒子M)
炭素数16以上35以下の飽和炭化水素化合物の量を0.02775質量部に変更した以外は、トナー母体粒子Aと同様にしてトナー母体粒子Mを作製した。トナー母体粒子Mの体積平均粒径(ベックマン・コールター社製、コールターマルチサイザー3を用いて測定)は6.1μmであった。
【0227】
(トナー母体粒子N)
炭素数16以上35以下の飽和炭化水素化合物の量を0.06438質量部に変更した以外は、トナー母体粒子Aと同様にしてトナー母体粒子Nを作製した。トナー母体粒子Nの体積平均粒径(ベックマン・コールター社製、コールターマルチサイザー3を用いて測定)は6.1μmであった。
【0228】
(トナー母体粒子O)
炭素数16以上35以下の飽和炭化水素化合物の量を0.08658質量部に変更した以外は、トナー母体粒子Aと同様にしてトナー母体粒子Oを作製した。トナー母体粒子Oの体積平均粒径(ベックマン・コールター社製、コールターマルチサイザー3を用いて測定)は6.0μmであった。
【0229】
(トナー母体粒子P)
トナー母体粒子Aの作製において、炭素数16以上35以下の飽和炭化水素化合物の量を0.000056質量部に変更した以外は、トナー母体粒子Aと同様にしてトナー母体粒子Pを作製した。トナー母体粒子Pの体積平均粒径(ベックマン・コールター社製、コールターマルチサイザー3を用いて測定)は6.1μmであった。
【0230】
(トナー母体粒子Q)
トナー母体粒子Bの作製において、球形化処理の代わりに、
図2で示す表面処理装置による熱処理をした以外は、トナー母体粒子Bと同様にしてトナー母体粒子Qを作製した。このとき、熱処理室の温度を280℃とし、熱処理時間は60秒とした。トナー母体粒子Qの体積平均粒径(ベックマン・コールター社製、コールターマルチサイザー3を用いて測定)は6.0μmであった。
【0231】
(トナー母体粒子R)
トナー母体粒子Aの作製において、炭素数16以上35以下の飽和炭化水素化合物の量を0.1134質量部に変更した以外は、トナー母体粒子Aと同様にしてトナー母体粒子Rを作製した。トナー母体粒子Rの体積平均粒径(ベックマン・コールター社製、コールターマルチサイザー3を用いて測定)は6.1μmであった。
【0232】
3.トナーの作製
(トナー1~6、8~10、12~20)
100質量部のトナー母体粒子Aと、ヘキサメチルジシラザンで疎水化処理した1.0質量部の疎水性シリカ微粒子(BET比表面積:200m2/g)と、イソブチルトリメトキシシランで表面処理した1.0質量部の酸化チタン微粒子(BET比表面積:80m2/g)とを、ヘンシェルミキサー(三井三池化工機株式会社製、FM-75型)により、回転数30s-1、回転時間10minで混合して、トナー1を得た。
【0233】
用いたトナー母体粒子を表1、2に示したトナー母体粒子に変更した以外は、トナー1と同様にしてトナー2~6、8~10、12~20を得た。
【0234】
(トナー7、11)
100質量部のトナー母体粒子Bと、ヘキサメチルジシラザンで疎水化処理した1.0質量部の疎水性シリカ微粒子(BET比表面積:200m2/g)と、イソブチルトリメトキシシランで表面処理した1.0質量部の酸化チタン微粒子(BET比表面積:80m2/g)と、0.5質量部のチタン酸ストロンチウム(体積平均粒径50nm)とを、ヘンシェルミキサー(三井三池化工機株式会社製、FM-75型)により、回転数30s-1、回転時間10minで混合して、トナー7を得た。
【0235】
用いたトナー母体粒子をトナー母体粒子Iに変更した以外は、トナー7と同様にしてトナー11を得た。
【0236】
4.C16-35飽和化合物の量の測定
n-ヘキサンを用いた固液抽出により、それぞれのトナーから炭化水素化合物を抽出した。このとき、内部標準としてヒシクロヘキシルを添加した。その後、常法により、メタクロロ過安息香酸(mCPBA)による不飽和炭化水素のエポキシ化を行い、硝酸銀シリカゲルを固相とした固相抽出により、飽和した炭化水素化合物を精製抽出し、以下の条件でGC-FIDを行い、C16-35飽和化合物を定量した。
【0237】
(GC条件)
使用機器:島津製作所 GC-2010 Plus
注入量:1μL、飽和炭化水素濃度 500~1000mg/L
ガードカラム:Restek MXT Siltek(10m×0.53mm id)
カラム:Restek MTX-1 (15m×0.25mm id)×0.1μm df)
キャリアガス:ヘリウム
【0238】
予め、同条件で測定したn-アルカン(炭素原子数:10、16、24、35および50)の溶出時間を測定した。また、予め、n-ヘキサンのみを上記装置に注入して、ブランクのクロマトグラムを作成した。
【0239】
それぞれのトナーから得られたクロマトグラムから、ブランクのクロマトグラムを差し引いたところ、飽和炭化水素化合物に由来するピークの前後に、安定した水平な直線であるベースラインを作成することができた。炭素原子数16と炭素原子数35に垂線を引き、ベースラインより上のクロマトグラムのうち、これらの垂線に囲まれた部分の面積を求めた。なお、飽和炭化水素化合物ではないことが確認できたピークは、計算から除外した。この面積と、内部標準として添加したビシクロヘキシルの面積と、の比率から、炭素原子数16以上35以下の飽和炭化水素化合物の質量を求めた。この質量を、トナーの質量で除算して、トナー中のC16-35飽和化合物の量を求めた。
【0240】
5.離型剤および飽和炭化水素化合物の配置の測定
トナー1~トナー13をビスフェノールA型液状エポキシ樹脂と硬化剤を用いて包埋した後、切削用サンプルを作製した。次に、ダイヤモンドナイフを用いた切削機(LEICAウルトラミクロトーム、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて-100℃の下、切削サンプルを、トナーの長軸の中心を通り、かつ当該長軸に垂直な断面が形成されるように切削し、観察用サンプルを作製した。さらに、この観察用サンプルを四酸化ルテニウム雰囲気下となっているデシケーター内に放置し、染色を行った。染色の判断は、同時に放置したテープの染色具合により判断した。そして、染色された観察用サンプルの上記断面を走査型透過電子顕微鏡(STEM)により観察し、染色の濃淡により、トナー断面における離型剤および飽和炭化水素化合物が存在する領域(棒状または塊状の白いコントラスト部分)を視認できることを確認した。
【0241】
画像処理解析装置(LUZEX AP、株式会社ニレコ製)を用いて、トナーの断面の観察画像において、当該断面における最大径である長軸の中心を通り、当該中心における交差角が均等であり、かつ交差角が11.25°になるように断面を横断する直線を16本ひいた。これにより、中心からトナーの表面まで延びる32本の線分(分割軸)を形成した。
【0242】
次に、上記中心からトナーの表面まで延びる分割軸をそれぞれAn(n=1~32)とした。分割軸Anにおいて、トナーの表面からの距離が1μmとなる点をPAn(n=1~32)とし、各PAnを直線で結んだ。また、トナーの表面からの距離が0.2μmとなる点をPAmとし、各PAmを直線で結んだ。各PAnよりもトナー表面側の領域(第1領域)の面積をS1、上記表面側の領域内における離型剤および飽和炭化水素化合物(炭素数16以上35以下)が存在する領域の面積をW1、各PAnよりも上記中心側の内部領域(第2領域)の面積をS2、上記内部領域内における離型剤および上記飽和炭化水素化合物が存在する領域の面積をW2とした。また、第1領域のうち、各PAmよりもトナー表面側の領域(第3領域)の面積をS3とし、第3領域内における離型剤および飽和炭化水素化合物(炭素数16以上35以下)が存在する領域の面積をW3とした。
【0243】
画像処理ソフト(WinROOF、三谷商事株式会社製)を用いて、各面積S1、W1、S2、W2、S3、およびW3を測定した。
【0244】
なお、上記各面積は、以下の条件に当てはまるトナー粒子20個について測定した値の平均値である。
【0245】
上記観察用サンプルのトナーの断面積が、別のトナー粒子50個について走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて取得した画像から求めたトナー粒子の投影面積の平均値S50に対して±10%以内の面積であり、かつ、上記16本の断面を横断する直線のうち一番短い直線の長さが2.5μm以上となるトナーを20個選んだ。
【0246】
6.評価
(画像の作製)
実施例1~17については、複合機(bizhub PRESS C1070、コニカミノルタ株式会社製、(「bizhub PRESS」は同社の登録商標)を、トナー付着量を自由に設定できるように改造したもの)に、トナー1~トナー20を順次装填した。
【0247】
実施例18については、トナー画像の定着を2段階で行う複合機(コニカミノルタ株式会社製、bizhub PRESS) C8000)にトナー2を装填した。
【0248】
実施例19については、複合機(コニカミノルタ株式会社製、bizhub PRESS C1070)の、定着前に画像を採取できるように改造した改造機を用いて未定着画像を採取し、複合機(キヤノン株式会社製、imagePRESS V1000)の定着器(非回転の加圧パッドにより定着ニップを形成した定着器)を取り出して単体で駆動できるように改造したものにトナー2を装填した。
【0249】
6-1.ニス塗布性
(画像の作成)
各複合機を用いて評価紙(王子製紙株式会社製、POD-157グロスコート紙)に、付着量8.0g/m2のベタ画像を、通常の定着条件にて、出力した。
【0250】
(ニスの塗布)
作製した画像に、ニス(T&K株式会社製、UV VECTA コートニス PC-3KW2)を、バーコーターにより厚さ5μmになるように塗布した。その後、高圧水銀灯により画像面の積算光量が120~130mJ/cm2となるように紫外線を照射し、ニスを硬化させてニス層を形成した。なお、使用したニスは、エチレン性二重結合を含む重合性官能基を有するニス用重合性モノマーおよび光重合開始剤(ラジカル重合開始剤)を含むニスである。
【0251】
(塗布性の評価)
得られた画像のニス層の表面を目視で観察し、ニスが明らかにはじかれているかどうかを確認し、はじかれていない場合には10cm×10cmの範囲のピンホール数をカウントした。これらの結果に基づき、下記評価基準によりニス塗布性を評価した。
A:10cm×10cmの範囲で確認されたピンホールが0個であった
B:10cm×10cmの範囲で確認されたピンホールが1個以上2個以下であった
C:10cm×10cmの範囲で確認されたピンホールが3個以上4個以下であった
D:10cm×10cmの範囲で確認されたピンホールが5個以上6個以下であった
E:10cm×10cmの範囲で確認されたピンホールが7個以上8個以下であった
F:10cm×10cmの範囲で確認されたピンホールが9個以上10個以下であった
G:10cm×10cmの範囲でピンホールが11個以上確認された、またはニスがはじかれた
【0252】
6-2.耐熱保管性
各トナー0.5gを内径21mm、容量10mlのガラス瓶に入れ、蓋を閉めた。このガラス瓶を、タップデンサー(KYT-2000、株式会社セイシン企業製)を用いて室温にて600回振とうした後、蓋を取った状態で60℃、35%RHの環境下に2時間放置した。次いで、トナーを48メッシュ(目開き350μm)の篩上に、トナーの凝集物を解砕しないように注意しながらのせて、パウダーテスター(ホソカワミクロン株式会社製)にセットし、押さえバー、ノブナットで固定した。そして、パウダーテスターについて、送り幅1mmの振動強度に調整し、10秒間振動を加えた後、篩上の残存したトナー量を測定した。篩上の残存したトナー量に基づき、下記式によりトナー凝集率を算出した。
(トナー凝集率[%])=(篩上の残存トナー質量[g])/0.5[g]×100)
【0253】
上述の35%RH環境下での放置温度を、54℃~62℃の範囲で、2℃ずつ変化させて、同様の方法でトナー凝集率を算出した。上記凝集率が50%未満となる放置温度のうち、最も上記凝集率が50%に近くなる放置温度と、上記凝集率が50%超となる放置温度のうち、最も上記凝集率が50%に近くなる放置温度とに基づく内挿から、凝集率が50%となる放置温度(50%凝集温度)を求めた。この50%凝集温度を用いて、以下の基準に沿って、耐熱保管性を評価した。
A:50%凝集温度が62℃以上
B:50%凝集温度が60℃以上62℃未満
C:50%凝集温度が58℃以上60℃未満
D:50%凝集温度が56℃以上58℃未満
E:50%凝集温度が54℃以上56℃未満
F:50%凝集温度が54℃未満
【0254】
6-3.画像不良
複合機(bizhub(登録商標)C754」、コニカミノルタ株式会社製)(「bizhub」は同社の登録商標)に、トナー1~トナー17を順次装填した。この複合機を用い、高温高湿環境下(温度33℃、相対湿度80%)において、連続プリントを行い、耐刷性を評価した。具体的には、シアン単色で印字率5%相当の文字チャートを連続印刷し、100000枚印字毎にハーフトーン画像を出力した。出力した画像を観察し、画像汚れ(カブリ)や白筋が発生していないかを確認し、画像汚れ(カブリ)や白筋の発生が認められた時点の枚数を測定した。そして、そして、下記評価基準により耐熱保管性を評価し、◎、○を合格とした。
◎:1000000枚画像を形成しても、カブリや白筋が発生しなかった
○:画像形成枚数が700000枚以上1000000枚未満で、カブリや白筋が発生した
×:画像形成枚数が700000枚未満で、カブリや白筋が発生した
【0255】
表1、2に、各トナーに作製に用いたトナー母体粒子の種類、製法、C16-35飽和化合物の量、離型剤等(離型剤およびC16-35飽和炭化水素化合物)の配置((W1/S1)/(W2/S2)およびW3/S3)、離型剤の種類、結晶性ポリエステル樹脂の有無、チタン酸ストロンチウムの有無、および各評価結果を示した。
【0256】
【0257】
【0258】
実施例1~19では、C16-35飽和化合物の量がトナー全質量に対して、1ppm以上1000ppm以下であるため、ニス塗布性を高め、画像不良が抑制された画像を連続して形成できた。また、これらの実施例では、C16-35飽和化合物が上記含有量であり、かつ上述の式(1)を満たすため、耐熱保管性が良好であった。
本発明によれば、トナーにより形成した画像にニスコートを施したときの、ニスの塗布性を高めることができる。また、耐熱保管性を十分に高め、画像を連続形成しても画像汚れを抑制できるため、ニスコートを施さないときにも本発明は有用である。