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特開2024-175445スパー型洋上風力発電設備の建造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175445
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】スパー型洋上風力発電設備の建造方法
(51)【国際特許分類】
   F03D 13/10 20160101AFI20241211BHJP
   F03D 13/25 20160101ALI20241211BHJP
   B63B 35/00 20200101ALI20241211BHJP
   B63B 35/44 20060101ALI20241211BHJP
   B63B 75/00 20200101ALI20241211BHJP
   B63B 27/10 20060101ALI20241211BHJP
   B63B 77/10 20200101ALI20241211BHJP
【FI】
F03D13/10
F03D13/25
B63B35/00 T
B63B35/44 Z
B63B75/00
B63B27/10 Z
B63B77/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093237
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】中原 理揮
【テーマコード(参考)】
3H178
【Fターム(参考)】
3H178AA03
3H178AA26
3H178AA43
3H178BB41
3H178BB77
3H178DD61X
3H178DD68X
(57)【要約】
【課題】大型起重機船を使用せずに或いは大型起重機船の使用を最小限としながら、前記クレーン搭載浮体を用いて、安全かつ効率的にスパー型洋上風力発電設備の建造ができるようにする。
【解決手段】洋上風力発電設備1の浮体4と同じ浮体4に、タワー6を取り付け、タワー6の頂部にクレーン設備3を設けたクレーン搭載浮体2を海上に浮かばせて設置し(第1ステップ)、次に複数の浮体4を海上に浮かばせたならば、これらの浮体4と前記クレーン搭載浮体2とを相互に連結して一体化を図る(第2ステップ)。そして、前記クレーン搭載浮体2のクレーン設備3を用いて、各浮体4の上部にタワー6及びナセル8とブレード9の取付けを行って洋上風力発電設備1を完成させる(第3、4ステップ)。洋上風力発電設備1を完成させたならば、完成させた各洋上風力発電設備1を前記クレーン搭載浮体2から切り離して所定の場所に設置する(第5ステップ)。
【選択図】図17
【特許請求の範囲】
【請求項1】
洋上風力発電設備の浮体と同じ浮体に、タワーを取り付けるとともに、タワーの頂部にクレーン設備を設けたクレーン搭載浮体を海上に浮かばせて設置する第1ステップと、
1又は複数の洋上風力発電設備の浮体を海上に浮かばせるとともに、これらの浮体と前記クレーン搭載浮体とを相互に連結して一体化を図る第2ステップと、
前記クレーン搭載浮体のクレーン設備を用いて、各浮体の上部にタワーを取り付ける第3ステップと、
前記クレーン搭載浮体のクレーン設備を用いて、各タワーの頂部にナセルとブレードの取付けを行って洋上風力発電設備を完成させる第4ステップと、
完成させた各洋上風力発電設備を前記クレーン搭載浮体から切り離して所定の場所に設置する第5ステップとからなることを特徴とするスパー型洋上風力発電設備の建造方法。
【請求項2】
各ステップの任意の時期に、浮体内にバラストを投入又は排出して吃水調整を行う請求項1記載のスパー型洋上風力発電設備の建造方法。
【請求項3】
浮体の建造中に、各浮体の係留索を設置することにより安定性の向上を図る請求項1、2いずれかに記載のスパー型洋上風力発電設備の建造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比較的水深の深い海上に設置されるスパー型洋上風力発電設備の建造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、主として水力、火力及び原子力発電等の発電方式が採用されてきたが、近年は環境や自然エネルギーの有効活用の点から自然風を利用して発電を行う風力発電が注目されている。この風力発電設備には、陸上設置方式と水上(主として海上)設置方式とがあるが、沿岸域から後背に山岳地形をかかえる我が国の場合は、沿岸域に安定した風が見込める平野が少ない状況にある。一方、日本は四方を海で囲まれており、海上は発電に適した風が容易に得られるとともに、設置の制約が少ないなどの利点を有する。そこで、近年は洋上風力発電設備やその施工方法、浮体構造が多く提案されている。
【0003】
前記浮体構造としては、浮体を水面に浮かばせるパージ型浮体、浮体の下部を水面下に沈めて半潜水状態で浮かばせるセミサブ型、棒状の釣り浮きのように起立状態で浮かばせるスパー型などに大別される。
【0004】
本出願人は、前記スパー型浮体に関して、下記特許文献1において、浮体と、係留索と、タワーと、タワーの頂部に設備されるナセル及び複数の風車ブレードとからなる洋上風力発電設備であって、前記浮体は、コンクリート製のプレキャスト筒状体を高さ方向に複数段積み上げ、各プレキャスト筒状体をPC鋼材により緊結し一体化を図った下側コンクリート製浮体構造部(以下、コンクリート製浮体部という。)と、この下側コンクリート浮体構造部の上側に連設された上側鋼製浮体構造部(以下、鋼製浮体部という。)とからなるスパー型浮体構造とした洋上風力発電設備(以下、スパー型洋上風力発電設備という。)を提案した。
【0005】
前記スパー型洋上風力発電設備を海上に設置する場合、波の穏やかな湾内で施工を行うのが望ましいが、浮体の吃水(水面下の部分)が概ね70m以上と深いのに対して、湾内の水深は一般的にこれよりも浅いため、湾内での施工は困難であった。このため、風車の設置に当たっては、下記特許文献2に示されるように、水深の深い湾外で大型起重機船を用いて行うようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5274329号公報
【特許文献2】特開2012-201219号公報
【特許文献3】特開2022-55468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、洋上風力発電設備の施工に必要な大型起重機船は、現時点で日本には数隻しかなく、また自走できないため稼働のためにタグボートなどが3~4隻ほど必要であるため、膨大な傭船コストが掛かるなどの問題があった。仮に、数十基の洋上風力発電設備を施工する場合には、大型起重機船の長期間の拘束が必要になり、この大型起重機船の傭船料コストが更に膨大化するという問題があった。
【0008】
そこで、本出願人は上記特許文献3において、図21に示されるように、海上に設置する洋上風力発電設備の浮体61と同じ浮体61に、タワー62を取り付けるとともに、タワー62の上部にクレーン設備63を設けたクレーン搭載浮体60によって、これから海上に設置する洋上風力発電設備のタワー62に対して風車64(ナセル及びブレード)を搭載する風車搭載方法を提案した。
【0009】
この方法によれば、大型起重機船を傭船することなく、ナセル等の風車設備を搭載することが可能になるが、このクレーン搭載浮体60の場合は、洋上で動揺し易いため安定性が低く、架設に際して設置対象との位置合わせにかなりの精度と労力とが要求されることになる。また、タワー、ナセルやブレードなどの吊荷の盛替えに際して、クレーン搭載浮体側では荷重が急に無くなって上方向に移動しようとし(吃水が小さく)、一方荷重が預けられた浮体側が急に重量が増して沈み込むように下方向に移動しようとするため(吃水が大きく)、吊荷の盛替えに伴う相対的な移動差が生じ易く、安全性に欠ける作業を伴うという問題があった。
【0010】
そこで、本発明の課題は、大型起重機船を使用せずに或いは大型起重機船の使用を最小限としながら、前記クレーン搭載浮体を用いて、安全かつ効率的にスパー型洋上風力発電設備の建造ができるようにする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、洋上風力発電設備の浮体と同じ浮体に、タワーを取り付けるとともに、タワーの頂部にクレーン設備を設けたクレーン搭載浮体を海上に浮かばせて設置する第1ステップと、
1又は複数の洋上風力発電設備の浮体を海上に浮かばせるとともに、これらの浮体と前記クレーン搭載浮体とを相互に連結して一体化を図る第2ステップと、
前記クレーン搭載浮体のクレーン設備を用いて、各浮体の上部にタワーを取り付ける第3ステップと、
前記クレーン搭載浮体のクレーン設備を用いて、各タワーの頂部にナセルとブレードの取付けを行って洋上風力発電設備を完成させる第4ステップと、
完成させた各洋上風力発電設備を前記クレーン搭載浮体から切り離して所定の場所に設置する第5ステップとからなることを特徴とするスパー型洋上風力発電設備の建造方法が提供される。
【0012】
上記請求項1記載の発明では、海上に設置する洋上風力発電設備の浮体と同じ浮体に、タワーを取り付けるとともに、タワーの頂部にクレーン設備を設けたクレーン搭載浮体を大型起重機船の代わりに使用し、これから海上に設置するスパー型洋上風力発電設備の建造を行うものであるため、大型起重機船の使用は前記クレーン搭載浮体の組立てのみとすることが可能になる。また、前記クレーン搭載浮体の組立ては、例えばクレーン付きSEP台船などによって行う場合は、大型起重機船を使用することなく、スパー型洋上風力発電設備の建造を行うことが可能になる。
【0013】
前記クレーン搭載浮体は、洋上風力発電設備の浮体及びタワーをそのまま用いる構造としているため、製作コストを大型起重機船に比べてかなり安価で済むようになるとともに、荷揚げの揚程も十分に確保することができ、大型のスパー型洋上風力発電設備であっても施工が可能になる。また、前記クレーン搭載浮体は、その後に洋上風況観測タワーとして利用可能であるとともに、メンテナンス(運用および保守点検)にも利用が可能である。
【0014】
本発明では特に、第2ステップにおいて、1又は複数の洋上風力発電設備の浮体を海上に浮かばせるとともに、これらの浮体と前記クレーン搭載浮体とを相互に連結して一体化を図るようにしている。このようにクレーン搭載浮体とこれから建造しようとするスパー型浮体とを相互に連結して一体化することにより、波浪による挙動に相対差が無くなるとともに、浮体毎に生じていた回転変形差も無くなる。更に、吊荷の盛替えに伴う上下方向の相対的な移動差も無くなる。更に付随的効果として、距離を空けて連結されたスパー型浮体の間に波が入り込む際に、消波作用によって浮体の揺れを低減化するダンパー効果がもたらされるようになる。このような種々の効果によって、前記クレーン搭載浮体を用いて、安全かつ効率的にスパー型洋上風力発電設備の建造ができるようになる。
【0015】
具体的な手順は、前記クレーン搭載浮体を海上に浮かばせて設置し(第1ステップ)、次に1又は複数の洋上風力発電設備の浮体を海上に浮かばせたならば、これらの浮体と前記クレーン搭載浮体とを相互に連結して一体化を図る(第2ステップ)。そして、前記クレーン搭載浮体のクレーン設備を用いて、各浮体の上部にタワー及びナセルとブレードの取付けを行って洋上風力発電設備を完成させる(第3、4ステップ)。洋上風力発電設備を完成させたならば、完成させた各洋上風力発電設備を前記クレーン搭載浮体から切り離して所定の場所に設置する(第5ステップ)。
【0016】
請求項2に係る本発明として、各ステップの任意の時期に、浮体内にバラストを投入又は排出して吃水調整を行う請求項1記載のスパー型洋上風力発電設備の建造方法が提供される。
【0017】
上記請求項2記載の発明は、各ステップの任意の時期に、浮体内にバラストを投入又は排出することにより建造注に浮体の安定を図るようにしたものである。
【0018】
請求項3に係る本発明として、浮体の建造中に、各浮体の係留索を設置することにより安定性の向上を図る請求項1、2いずれかに記載のスパー型洋上風力発電設備の建造方法が提供される。
【0019】
上記請求項3記載の発明は、浮体の建造中に、各浮体の係留索を設置することにより安定性の向上を図るようにしたものである。
【発明の効果】
【0020】
以上詳説のとおり本発明によれば、大型起重機船を使用せずに或いは大型起重機船の使用を最小限としながら、前記クレーン搭載浮体を用いて、安全かつ効率的にスパー型洋上風力発電設備の建造ができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】スパー型洋上風力発電設備1の全体側面図である。
図2】浮体4の縦断面図である。
図3】プレキャスト筒状体15を示す、(A)は縦断面図、(B)は平面図(B-B線矢視図)、(C)は底面図(C-C線矢視図)である。
図4】プレキャスト筒状体15同士の緊結要領図(A)(B)である。
図5】下側コンクリート製浮体構造部4Aと上側鋼製浮体構造部4Bとの境界部を示す縦断面図である。
図6】本発明に係るクレーン搭載浮体2を示す全体側面図である。
図7】スパー型洋上風力発電設備1の建造手順(その1)である。
図8】スパー型洋上風力発電設備1の建造手順(その2)である。
図9】スパー型洋上風力発電設備1の建造手順(その3)である。
図10】スパー型洋上風力発電設備1の建造手順(その4)である。
図11】スパー型洋上風力発電設備1の建造手順(その5)である。
図12】スパー型洋上風力発電設備1の建造手順(その6)である。
図13】スパー型洋上風力発電設備1の建造手順(その7)である。
図14】スパー型洋上風力発電設備1の建造手順(その8)である。
図15】スパー型洋上風力発電設備1の建造手順(その9)である。
図16】スパー型洋上風力発電設備1の建造手順(その10)である。
図17】スパー型洋上風力発電設備1の建造手順(その11)である。
図18】スパー型洋上風力発電設備1の建造手順(その12)である。
図19】スパー型洋上風力発電設備1の建造手順(その13)である。
図20】ナセル8及びブレード9、9…の一括施工要領を示す図である。
図21】特許文献3に係るクレーン搭載浮体60による風車64の搭載要領図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0023】
〔スパー型浮体式洋上風力発電設備1〕
先ず最初に、本発明が適用されるスパー型洋上風力発電設備1について、図1図5に基づいて詳述する。
【0024】
前記スパー型洋上風力発電設備1は、詳細には図1に示されるように、スパー型の筒状形状の浮体4と、係留索5と、タワー6と、タワー6の頂部に設備されるナセル8及び複数のブレード9,9…からなる風車7とから構成されるものである。
【0025】
前記浮体4は、図2に示されるように、コンクリート製のプレキャスト筒状体15、15…を高さ方向に複数段積み上げ、各プレキャスト筒状体15、15…をPC鋼材19により緊結し一体化を図ったコンクリート製浮体部4Aと、このコンクリート浮体部4Aの上側に連設された鋼製浮体部4Bとからなる。
【0026】
前記浮体4の中空部内には、水、砂利、細骨材又は粗骨材、金属粒などのバラスト材が投入又は排出可能とされ、浮力(吃水)が調整可能とされる。バラスト材の投入/排出は、本出願人が先に、特開2012-201217号公報において提案した流体輸送方法を採用することによって可能である。
【0027】
前記コンクリート浮体部4Aは、コンクリート製のプレキャスト筒状体15、15…で構成されている。前記プレキャスト筒状体15は、図3に示されるように、軸方向に同一断面とされる円形筒状のプレキャスト部材であり、それぞれが同一の型枠を用いて製作されるか、遠心成形により製造された中空プレキャスト部材が用いられる。
【0028】
壁面内には鉄筋20の他、周方向に適宜の間隔でPC鋼材19を挿通するためのシース21、21…が埋設されている。このシース21、21…の下端部にはPC鋼材19同士を連結するためのカップラーを挿入可能とするためにシース拡径部21aが形成されているとともに、上部には定着用アンカープレートを嵌設するための箱抜き部22が形成されている。また、上面には吊り金具23が複数設けられている。
【0029】
プレキャスト筒状体15同士の緊結は、図4(A)に示されるように、下段側のプレキャスト筒状体15から上方に延長されたPC鋼材19、19…をシース21、21…に挿通させながらプレキャスト筒状体12,12を積み重ねたならば、アンカープレート24を箱抜き部22に嵌設し、ナット部材25によりPC鋼材19に張力を導入し一体化を図る。また、グラウト注入孔27からグラウト材をシース21内に注入する。なお、前記アンカープレート24に形成された孔24aはグラウト注入確認孔であり、該確認孔からグラウト材が吐出されたことをもってグラウト材の充填を終了する。
【0030】
次に、図4(B)に示されるように、PC鋼材19の突出部に対してカップラー26を螺合し、上段側のPC鋼材19、19…を連結したならば、上段となるプレキャスト筒状体15のシース21、21…に前記PC鋼材19、19…を挿通させながら積み重ね、前記要領によりPC鋼材19の定着を図る手順を順次繰り返すことにより高さ方向に積み上げられる。この際、下段側のプレキャスト筒状体15と上段側のプレキャスト筒状体15との接合面には止水性確保及び合わせ面の接合のためにエポキシ樹脂系などの接着剤28やシール材が塗布される。
【0031】
前記鋼製浮体部4Bは、相対的には下段側に位置する鋼製筒状体17と、相対的に上段側に位置する鋼製筒状体18とで構成されている。下段側の鋼製筒状体17は、下側部分はプレキャスト筒状体15と同一の外径寸法とされ、図5に示されるように、プレキャスト筒状体15に対して、ボルト又は溶接等(図示例はボルト締結)によって連結される。鋼製筒状体17の上部は漸次直径を窄めた截頭円錐台形状を成している。
【0032】
上段側の鋼製筒状体18は、前記下段側の鋼製筒状体17の上部外径に連続する外径寸法とされる筒状体とされ、下段側の鋼製筒状体17に対してボルト又は溶接等(図示例はボルト締結)によって連結される。これら鋼製筒状体17,18は、所定重量毎に分割した各鋼製リング10、10…によって構成され、各鋼製リング10、10…は周方向に溶接されることにより一体化されている。
【0033】
一方、前記タワー6は、鋼材、コンクリート又はPRC(プレストレスト鉄筋コンクリート)から構成されるものが使用されるが、好ましいのは総重量が小さくなるように鋼材によって製作されたものを用いるのが望ましい。タワー6の外径と前記上段側鋼製筒状体18の外径とはほぼ一致しており、外形状は段差等が無く上下方向に連続している。図示例では、上段側鋼製筒状体18の上部に梯子13が設けられ、タワー6と上段側鋼製筒状体18とのほぼ境界部に周方向に歩廊足場14が設けられている。
【0034】
前記係留索5の浮体4への係留点Pは、図1に示されるように、海面下であってかつ浮体4の重心Gよりも高い位置に設定してある。従って、船舶が係留索5に接触するのを防止できるようになる。また、浮体4の倒れ過ぎを抑えるように係留点Pに浮体4の重心Gを中心とする抵抗モーメントを発生させるため、タワー6の傾動姿勢状態を適性に保持し得るようになる。
【0035】
一方、前記ナセル8は、風車7の回転を電気に変換する発電機やブレード9の角度を自動的に変えることができる制御器などが搭載された装置である。
【0036】
〔スパー型洋上風力発電設備1の建造方法〕
次に、スパー型洋上風力発電設備1の建造方法について説明を行う。
【0037】
<第1ステップ>
先ず最初の第1ステップでは、図6に示されるように、洋上風力発電設備1の浮体4と同じ浮体4に、タワー6を取り付けるとともに、タワー6の頂部にクレーン設備3を設けたクレーン搭載浮体2を海上に浮かばせて設置する。
【0038】
本建造方法で使用するクレーンは、洋上風力発電設備1の浮体4にタワー6を取り付けたものを基体とし、これにクレーン設備3を取り付けることによりクレーン搭載浮体2とし、これを大型起重機船の代替として用いるようにしている。前記クレーン設備3としては、図示例のように、一般的にタワークレーンとして用いられているクレーンをそのまま用いることが望ましい。
【0039】
前記クレーン搭載浮体2によれば、洋上風力発電設備1の浮体4及びタワー6と同じものをそのまま用いる構造としているため、製作コストを大型起重機船に比べてかなり安価で済むようになる。また、洋上風力発電設備1の規模に拘わらず、荷揚げの揚程も十分に確保することができる。さらに、前記クレーン搭載浮体2と、これから海上に設置する洋上風力発電設備1の浮体4とは同じ構造であり、波に対する揺動特性が同じである。
【0040】
前記クレーン搭載浮体2の建造方法について具体的に詳述すると、先ず岸壁ヤードにおいて浮体4を完成させる。その浮体建造方法としては、本出願人が提案した特開2018-173011号公報に係る方法を好適に採用することができる。
【0041】
その浮体建造方法は、図7に示されるように、岸壁ヤードに、鋼製リング連結ヤードAと、コンクリートリング製作ヤードBと、コンクリートリング連結ヤードCとを画成して設ける。
【0042】
前記鋼製リング連結ヤードAには、第1橋形クレーン50を一定方向に走行自在に設けるとともに、第1橋形クレーン走行方向に適宜の間隔で回転機能付架台52、52…を設置し、かつ第1橋形クレーン走行方向に移動可能な移動式テント56を設ける。前記コンクリートリング製作ヤードBには、移動式テント57を設けるとともに、コンクリートリングの製造設備一式を設備する。前記コンクリートリング連結ヤードCには、第2橋形クレーン55を一定方向に走行自在に設けるとともに、第2橋形クレーン走行方向に移動可能な移動式テント58を設ける。
【0043】
そして、鋼製リング51、51…を前記第1橋形クレーン50を用いて、順に前記回転機能付架台52、52…上に設置するとともに、必要に応じて移動式テント56で周囲を覆った状態とし、鋼製リング51、51…を軸芯回りに回転させながら周方向に溶接を行って連結し、鋼製浮体部53Bを完成させる第1工程と、前記鋼製浮体部53Bを前記コンクリートリング連結ヤードCに移動し所定位置に設置したならば、前記コンクリートリング製作ヤードBで製作されたコンクリートリング54を順にコンクリートリング連結ヤードCに運び、必要に応じて移動式テント58で周囲を覆った状態とし、前記第2橋形クレーン55を用いコンクリートリング54を前記鋼製浮体部53Bに連設するとともに、PC鋼材により緊結し一体化を図ることにより前記浮体53を完成させる第2工程とからなる浮体式洋上風力発電設備の浮体建造方法である。このような方法で浮体4を完成させたならば、図8に示されるように、岸壁において、半潜水型スパッド台船38に対して、横向き状態のまま移動させて積み込みを行う(ロールオン)。
【0044】
次に、図9に示されるように、曳航船32によって半潜水型スパッド台船38を曳航して、スパー型洋上風力発電設備1の建造場所まで運搬したならば、図10に示されるように、半潜水型スパッド台船38を半潜水状態とすることにより浮体4を海上に進水・浮上させる(ロールオフ)。そして、バラスト水を注水することにより立て起こしを行い、縦向き状態とする。
【0045】
その後は、図11に示されるように、好ましくは浮体4に対して安定のために仮係留索33、33…を設けた状態とし、大型起重機船40を用いて、浮体4の上部にタワー6を取り付けるとともに、タワー6の頂部にクレーン設備3を搭載してクレーン搭載浮体2を完成させる。なお、前記大型起重機船40に代えて、クレーン付きSEP台船などを用いてクレーン搭載浮体2の組立てを行うようにしてもよい。
【0046】
<第2ステップ>
第2ステップでは、1又は複数の洋上風力発電設備の浮体4、図示例では2基の浮体4、4を海上に浮かばせるとともに、これらの浮体4、4と前記クレーン搭載浮体2とを相互に連結して一体化を図るようにする。
【0047】
具体的には、図12及び図13に示されるように、曳航船32によって浮体4を積み込んだ半潜水型スパッド台船38を曳航して、スパー型洋上風力発電設備1の建造場所まで運搬したならば、浮体4を海上に進水・浮上させ、バラスト水を注水することにより立て起こしを行い、縦向き状態とする。そして、浮体4をクレーン搭載浮体2に近接させるように移動し、浮体4と前記クレーン搭載浮体2とを相互に連結して一体化を図るようにする。この作業を浮体4の数だけ繰り返して 図14に示されるように、前記クレーン搭載浮体2とこれから建造しようとするすべての浮体4、4とを相互に連結して一体化する。図示例では、平面視で三角形の1つの頂点部にクレーン搭載浮体2を位置決めし、残る三角形の2つの頂点部にこれから建造しようとする浮体4、4を位置決めした状態でこれらの浮体4、4…を連結部材41によって相互に連結し、一体化を図るようにしている。このようにクレーン搭載浮体2とこれから建造しようとする浮体4、4とを相互に連結して一体化することにより、波浪による挙動に相対差が無くなるとともに、浮体毎に生じていた回転変形差も無くなる。更に、吊荷の盛替えに伴う上下方向の相対的な移動差も無くなる。更に付随的効果として、距離を空けて連結された浮体4、4…の間に波が入り込む際に、消波作用によって浮体4の揺れを低減化するダンパー効果がもたらされるようになる。このような種々の効果によって、クレーン搭載浮体2を用いて、安全かつ効率的にスパー型洋上風力発電設備1の建造が行えるようになる。
【0048】
<第3ステップ>
第3ステップでは、前記クレーン搭載浮体2のクレーン設備3を用いて、各浮体4、4の上部にタワー6を取り付けるようにする。
【0049】
具体的には図15に示されるように、タワー6を積載した積込台船39を曳航船32によって曳航して建造場所まで運んだならば、前記クレーン搭載浮体2のクレーン設備3を用いて、浮体4の上部側にタワー6を取り付けるようにする。すべての浮体4に対して、タワー6を取付け終えたならば、図16に示されるように、浮体4の安定性向上を図るために、タワー6、6…の頂部同士を連結部材42、42…によって相互に連結するようにしてもよい。
【0050】
<第4ステップ>
第4ステップでは、前記クレーン搭載浮体2のクレーン設備3を用いて、各タワー6の頂部にナセル8とブレード9、9…の取付けを行ってスパー型洋上風力発電設備1を完成させるようにする。
【0051】
具体的には、ナセル8、8やブレード9、9…を積載した積込台船39を曳航船32によって曳航して建造場所まで運んだならば、前記クレーン搭載浮体2のクレーン設備3を用いて、タワー6の頂部にナセル8の取付けを行い、次いでナセル8に対してブレード9、9…を取り付けて、スパー型洋上風力発電設備1を完成させるようにする。
【0052】
<第5ステップ>
第5ステップでは、完成させた各スパー型洋上風力発電設備1を前記クレーン搭載浮体2から切り離して所定の設置場所に設置する。
【0053】
具体的には、図19に示されるように、完成させた洋上風力発電設備1、1をクレーン搭載浮体2から切り離して別々にする。そして、図1に示されるように、浮体4に梯子13及び歩廊足場14などの浮体設備を設けるとともに、各スパー型洋上風力発電設備1を所定の設置場所まで移動し、係留索5、5…を取り付けて固定を図るようにする。
【0054】
〔他の形態例〕
(1)上記形態例では、浮体構造として、本出願人が既に実施した、コンクリート製のプレキャスト筒状体15、15…を高さ方向に複数段積み上げ、各プレキャスト筒状体15、15…をPC鋼材19により緊結し一体化を図った下側コンクリート製浮体構造部4Aと、この下側コンクリート浮体構造部4Aの上側に連設された上側鋼製浮体構造部4Bとからなる構造のものを示したが、全体がコンクリート製浮体構造の浮体であっても良いし、全体が鋼製浮体構造の浮体であってもよい。
【0055】
(2)上記形態例では、前記クレーン搭載浮体2とこれから建造しようとする2基の浮体4、4とを相互に連結して一体化するようにしたが、前記クレーン搭載浮体2と一体的に連結する浮体4の数は、1基としてもよいし、3基以上としてもよい。適切な連結浮体数は概ね2~4基である。
【0056】
(3)上記形態例では、第4ステップにおいて、ナセル8とブレード9、9…とを別々に取り付けるようにしたが、図20に示されるように、積込台船39に架台43を設け、ナセル8に3本のブレード9、9…を備えた状態の風車7を予め組み立てておき、これを一括として1回の作業でスパー型洋上風力発電設備1に搭載するようにしてもよい。
【0057】
(4)本発明では、海上に設置する洋上風力発電設備1の浮体4と同じ浮体4に、タワー6を取り付けるとともに、タワー6の頂部にクレーン設備3を設けてクレーン搭載浮体2とするものであるが、この場合、洋上風力発電設備1の浮体4と同じ浮体4の定義は完全に同一であることが望ましいが、完全同一だけを意味しない。基本的に同構造で同規模であれば微細な構造部分は異なっていても同一の範疇に属するものとする。
【符号の説明】
【0058】
1…スパー型浮体式洋上風力発電設備、2…クレーン搭載浮体、3…クレーン設備、4…浮体、4A…下側コンクリート製浮体構造部、4B…上側鋼製浮体構造部、5…係留索、6…タワー、7…風車、8…ナセル、9…ブレード、15…プレキャスト筒状体、17・18…鋼製筒状体、19…PC鋼棒、32…曳航船、38…半潜水型スパッド台船、39…積込台船、41・42…連結部材
図1
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