(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175448
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】素子基板および液体吐出ヘッドとそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/16 20060101AFI20241211BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20241211BHJP
B81C 1/00 20060101ALI20241211BHJP
B81B 3/00 20060101ALN20241211BHJP
【FI】
B41J2/16 503
B41J2/14 613
B41J2/16 509
B81C1/00
B81B3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】41
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093240
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】永井 正隆
(72)【発明者】
【氏名】石川 哲史
【テーマコード(参考)】
2C057
3C081
【Fターム(参考)】
2C057AF93
2C057AG44
2C057AP25
2C057AP47
2C057BA04
2C057BA14
3C081AA01
3C081BA25
3C081BA30
3C081BA45
3C081BA48
3C081BA55
3C081CA32
3C081DA31
3C081EA35
(57)【要約】
【課題】互いに積層される板状部材の破損を抑え、高い平行度で接合でき、凹部への接着材の浸入が抑えられる素子基板を提供する。
【解決手段】積層構造の素子基板2の板状部材3,4が凹部7を有している。板状部材3の、凹部7の内周縁部から間隔をおいて凹部7を囲む位置に弾性構造体14を設け、板状部材3の、弾性構造体14から見て凹部7と反対側に接着材6を設け、その後、凹部7と弾性構造体14と接着材6とが板状部材3の互いに対向する面に位置するように板状部材3,4を互いに重ね合わせて加圧し、接着材6を、板状部材3,4の間であって弾性構造体14から見て凹部7と反対側の部分で拡げさせ、接着材6を硬化させて1対の板状部材3,4を接合する。板状部材3,4を重ね合わせる段階での弾性構造体14の弾性率Bと、板状部材4の弾性率AとがA>Bの関係である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに接合された少なくとも1対の板状部材を含む積層構造を有する素子基板の製造方法であって、
前記1対の前記板状部材の少なくとも一方が凹部を有しており、
一方の前記板状部材の、前記凹部の内周縁部から間隔をおいて当該凹部を囲む位置にあたる部分に、弾性構造体を設ける工程と、
一方の前記板状部材または他方の前記板状部材の、前記弾性構造体から見て前記凹部と反対側になる部分に接着材を設ける工程と、
前記弾性構造体と前記接着材とを設けた後に、前記凹部と前記弾性構造体と前記接着材とが前記1対の前記板状部材の互いに対向する面に位置するように前記1対の前記板状部材を互いに重ね合わせ、前記1対の前記板状部材を互いに接近させるように加圧することで、前記接着材を、1対の前記板状部材の間であって前記弾性構造体から見て前記凹部の反対側の部分で拡げさせる工程と、
前記接着材を硬化させて前記1対の板状部材を接合する工程と、
を含み、
前記1対の前記板状部材を互いに重ね合わせる段階での前記弾性構造体の弾性率Bと、前記弾性構造体が当接する前記板状部材の弾性率Aとが、A>Bの関係であることを特徴とする、素子基板の製造方法。
【請求項2】
前記凹部と前記弾性構造体と前記接着材とを一方の前記板状部材の同一の面に設ける、請求項1に記載の素子基板の製造方法。
【請求項3】
前記弾性構造体を設ける工程で、前記弾性構造体を前記凹部の内周縁部から1μm以上の間隔をおいて配置する、請求項1または2に記載の素子基板の製造方法。
【請求項4】
前記接着材を設ける工程で、前記接着材を前記弾性構造体から1μm以上の間隔をおいて配置する、請求項1または2に記載の素子基板の製造方法。
【請求項5】
前記1対の前記板状部材を互いに重ね合わせる段階で、前記弾性構造体の弾性率Bと、前記接着材の弾性率Cとが、B>Cの関係である、請求項1または2に記載の素子基板の製造方法。
【請求項6】
前記板状部材の弾性率Aが50GPa以上であり、前記弾性構造体の弾性率Bが100MPa以上50GPa未満であり、前記接着材の弾性率Cが100MPa未満である、請求項5に記載の素子基板の製造方法。
【請求項7】
前記1対の板状部材を接着する工程で、前記弾性構造体を前記接着材と同時に完全に硬化させる、請求項1または2に記載の素子基板の製造方法。
【請求項8】
前記弾性構造体は、前記接着材と同じ材料からなり当該材料が仮硬化したものである、請求項7に記載の素子基板の製造方法。
【請求項9】
前記1対の板状部材を接着する工程で、前記弾性構造体と前記接着材とを一体化させる、請求項8に記載の素子基板の製造方法。
【請求項10】
前記弾性構造体は感光性材料からなる、請求項1または2に記載の素子基板の製造方法。
【請求項11】
前記弾性構造体を設ける工程で、一方の前記板状部材に、前記感光性材料からなるドライフィルムを配置し、前記ドライフィルムの一部を露光することにより弾性率を変化させて前記弾性構造体にする、請求項10に記載の素子基板の製造方法。
【請求項12】
前記1対の前記板状部材を互いに重ね合わせる前の段階の前記弾性構造体の厚さは、完全に硬化した前記接着材の厚さ以上である、請求項1または2に記載の素子基板の製造方法。
【請求項13】
前記1対の前記板状部材を互いに重ね合わせる前の段階の前記弾性構造体は、前記板状部材に当接する面が平坦である、請求項1または2に記載の素子基板の製造方法。
【請求項14】
前記1対の前記板状部材を互いに重ね合わせる前の段階の前記弾性構造体は、前記板状部材に当接する面が凸状の曲面である、請求項1または2に記載の素子基板の製造方法。
【請求項15】
前記1対の前記板状部材を互いに重ね合わせる前の段階の前記弾性構造体は、前記板状部材に当接する面に連続して、前記凹部に近い側よりも前記凹部から遠い側で厚さが薄くなっている傾斜部分を有する、請求項1または2に記載の素子基板の製造方法。
【請求項16】
前記弾性構造体の平面形状の外形は五角形以上の多角形状である、請求項1または2に記載の素子基板の製造方法。
【請求項17】
前記弾性構造体の平面形状の外形は、多角形の各角部から、それぞれ放射状に細長くかつ先細に延びている突出部分を含んでいる、請求項1または2に記載の素子基板の製造方法。
【請求項18】
前記弾性構造体の平面形状の外形は、放射状に延びている突出部分と、互いに隣接する前記突出部分の間にそれぞれ設けられた切り欠き部分と、を含んでいる、請求項1または2に記載の素子基板の製造方法。
【請求項19】
複数の前記凹部の周囲を取り囲むようにそれぞれ形成された複数の前記弾性構造体の平面形状の外形が、互いに対向する位置に設けられて複数の前記弾性構造体の間の間隔を小さくする突出部分をそれぞれ有する、請求項1または2に記載の素子基板の製造方法。
【請求項20】
複数の前記弾性構造体の平面形状の外形が、前記突出部分と、前記突出部分以外の部分に設けられて内側に切れ込む切り欠き部分と、をそれぞれ有する、請求項19に記載の素子基板の製造方法。
【請求項21】
前記弾性構造体の平面形状の外形は、複数の前記凹部の周囲をそれぞれ取り囲む部分と、それらを繋げる接続部分とを有する、請求項1または2に記載の素子基板の製造方法。
【請求項22】
前記弾性構造体の平面形状の外形は、複数の前記凹部からなる凹部群の中心に近い部分が前記中心から離れた部分より、当該弾性構造体が取り囲む前記凹部から突き出している、請求項1または2に記載の素子基板の製造方法。
【請求項23】
前記弾性構造体の平面形状の外形は、複数の前記凹部からなる凹部群を取り囲むとともに、互いに隣接する前記凹部の間に設けられ、前記凹部群の中心に向かって内側に切れ込んだ切り欠き部分を有する、請求項1または2に記載の素子基板の製造方法。
【請求項24】
複数の前記凹部からなる凹部群の中心に位置する前記弾性構造体の平面形状の外形は円形であり、それ以外の前記弾性構造体の平面形状の外形は、前記凹部群の中心に近い部分が前記中心から離れた部分より、当該弾性構造体が取り囲む前記凹部から突き出している、請求項1または2に記載の素子基板の製造方法。
【請求項25】
前記素子基板は、前記凹部に接続されており外部に向かって開口している吐出口と、エネルギー発生素子と、を有し、
請求項1または2に記載の素子基板の製造方法の各工程と、液体を供給する液体供給部材を前記凹部に接続する工程と、電力を供給する電気配線部材を前記エネルギー発生素子に接続する工程と、を含むことを特徴とする、液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項26】
互いに接合された少なくとも1対の板状部材を含む積層構造を有する素子基板であって、
前記1対の前記板状部材の少なくとも一方が凹部を有しており、
一方の前記板状部材の、前記凹部の内周縁部から間隔をおいて当該凹部を囲む位置にあたる部分に設けられている弾性構造体と、一方の前記板状部材または他方の前記板状部材の、前記弾性構造体から見て前記凹部と反対側の部分に設けられ前記1対の前記板状部材を接合している接着材と、を有し、
前記1対の前記板状部材は、前記凹部と前記弾性構造体と前記接着材とが前記1対の前記板状部材の互いに対向する面に位置するように互いに重ね合わせられており、
前記弾性構造体の弾性率Bと、前記弾性構造体が当接する前記板状部材の弾性率Aとが、A>Bの関係であることを特徴とする、素子基板。
【請求項27】
前記弾性構造体は前記凹部の内周縁部から1μm以上の間隔をおいて位置している、請求項26に記載の素子基板。
【請求項28】
前記弾性構造体の弾性率Bと、前記接着材の弾性率Cとが、B>Cの関係である、請求項26または27に記載の素子基板。
【請求項29】
前記板状部材の弾性率Aが50GPa以上であり、前記弾性構造体の弾性率Bが100MPa以上50GPa未満であり、前記接着材の弾性率Cが100MPa未満である、請求項28に記載の素子基板。
【請求項30】
前記弾性構造体は、前記接着材と同じ材料からなる、請求項26または27に記載の素子基板。
【請求項31】
前記弾性構造体は感光性材料からなる、請求項26または27に記載の素子基板。
【請求項32】
前記弾性構造体の平面形状の外形は五角形以上の多角形状である、請求項26または27に記載の素子基板。
【請求項33】
前記弾性構造体の平面形状の外形は、多角形の各角部から、それぞれ放射状に細長くかつ先細に延びている突出部分を含んでいる、請求項26または27に記載の素子基板。
【請求項34】
前記弾性構造体の平面形状の外形は、放射状に延びている突出部分と、互いに隣接する前記突出部分の間にそれぞれ設けられた切り欠き部分と、を含んでいる、請求項26または27に記載の素子基板。
【請求項35】
複数の前記凹部の周囲を取り囲むようにそれぞれ形成された複数の前記弾性構造体の平面形状の外形が、互いに対向する位置に設けられて複数の前記弾性構造体の間の間隔を小さくする突出部分をそれぞれ有する、請求項26または27に記載の素子基板。
【請求項36】
複数の前記弾性構造体の平面形状の外形が、前記突出部分と、前記突出部分以外の部分に設けられて内側に切れ込む切り欠き部分と、をそれぞれ有する、請求項35に記載の素子基板。
【請求項37】
前記弾性構造体の平面形状の外形は、複数の前記凹部の周囲をそれぞれ取り囲む部分と、当該部分を繋げる接続部分とを有する、請求項26または27に記載の素子基板。
【請求項38】
前記弾性構造体の平面形状の外形は、複数の前記凹部からなる凹部群の中心に近い部分が前記中心から離れた部分より、当該弾性構造体が取り囲む前記凹部から突き出している、請求項26または27に記載の素子基板。
【請求項39】
前記弾性構造体の平面形状の外形は、複数の前記凹部からなる凹部群を取り囲むとともに、互いに隣接する前記凹部の間に設けられ、前記凹部群の中心に向かって内側に切れ込んだ切り欠き部分を有する、請求項26または27に記載の素子基板。
【請求項40】
複数の前記凹部からなる凹部群の中心に位置する前記弾性構造体の平面形状の外形は円形であり、それ以外の前記弾性構造体の平面形状の外形は、前記凹部群の中心に近い部分が前記中心から離れた部分より、当該弾性構造体が取り囲む前記凹部から突き出している、請求項26または27に記載の素子基板。
【請求項41】
前記素子基板は、前記凹部に接続されており外部に向かって開口している吐出口と、エネルギー発生素子と、を有し、
請求項26または27に記載の素子基板と、前記凹部に接続されており液体を供給する液体供給部材と、前記エネルギー発生素子に接続されており電力を供給する電気配線部材と、を有することを特徴とする、液体吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素子基板および液体吐出ヘッドとそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な液体吐出ヘッドは積層構造の素子基板を有している。一例としては、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術によって圧力室や流路等が形成された複数の板状部材を、接着材を用いて互いに接合させることによって、積層構造の素子基板が形成されている。液体吐出ヘッドの液体吐出の精度は、各板状部材の積層の精度によって左右される。例えば、圧力室が形成された板状部材(基板)と流路および吐出口が形成された板状部材(流路形成部材)との積層の精度が低く、接合用の接着材が流路内に流れ込んでいると、液体の円滑な流れが妨げられ、所望の液滴吐出ができなくなる可能性がある。
【0003】
特許文献1には、接合される板状部材の一方に接着材の逃げ溝と凸部を予め形成しておき、凸部を他方の板状部材に圧接させた状態で両板状部材を接合させる方法が開示されている。この方法によると、接着材の一部が逃げ溝に流れ込むことで、流路内に接着材が浸入することが抑えられる。凸部が両板状部材の間の空間を確保することで、両板状部材の間に位置する接着材の層が過剰に加圧されて薄くなり過ぎてはみ出した接着材が流路に浸入することが抑えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている方法では、剛性を有する一方の板状部材に設けられた凸部が、同等の剛性を有する他方の板状部材に強く突き当てられ、凸部や他方の板状部材が破損する可能性がある。そして、それらの破損により両板状部材の平行度が保てなくなることや、破損部から液体が漏出することなどの問題が生じる可能性がある。仮に、凸部や板状部材の破損を回避するために、凸部が他方の板状部材にほとんど突き当たらない状態で接着材により両板状部材を固定すると、両板状部材の平行度が低下することや、接着材の使用量が多くなることなどの問題が生じる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、互いに積層される板状部材の破損を抑えつつ高い平行度で接合できるとともに、凹部への接着材の浸入が抑えられる素子基板および液体吐出ヘッドとそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の、互いに接合された少なくとも1対の板状部材を含む積層構造を有する素子基板の製造方法では、前記1対の前記板状部材の少なくとも一方が凹部を有しており、一方の前記板状部材の、前記凹部の内周縁部から間隔をおいて当該凹部を囲む位置にあたる部分に、弾性構造体を設ける工程と、一方の前記板状部材または他方の前記板状部材の、前記弾性構造体から見て前記凹部と反対側になる部分に接着材を設ける工程と、前記弾性構造体と前記接着材とを設けた後に、前記凹部と前記弾性構造体と前記接着材とが前記1対の前記板状部材の互いに対向する面に位置するように前記1対の前記板状部材を互いに重ね合わせ、前記1対の前記板状部材を互いに接近させるように加圧することで、前記接着材を、1対の前記板状部材の間であって前記弾性構造体から見て前記凹部の反対側の部分で拡げさせる工程と、前記接着材を硬化させて前記1対の板状部材を接合する工程と、を含み、前記1対の前記板状部材を互いに重ね合わせる段階での前記弾性構造体の弾性率Bと、前記弾性構造体が当接する前記板状部材の弾性率Aとが、A>Bの関係であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、互いに積層される板状部材の破損を抑えつつ高い平行度で接合できるとともに、凹部への接着材の浸入が抑えられる素子基板および液体吐出ヘッドが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1の実施形態の液体吐出ヘッドを模式的に示す側面断面図と、その素子基板の要部を拡大して示す側面断面図および平面断面図である。
【
図2】
図1に示す素子基板の製造方法の一部の工程を示す要部の側面断面図である。
【
図3】第1の実施形態の液体吐出ヘッドの素子基板の一例の要部を拡大して示す側面断面図である。
【
図4】第1の実施形態の液体吐出ヘッドの変形例を模式的に示す側面断面図である。
【
図5】第1の実施形態において用いられる接着材の温度と弾性率の関係を示すグラフである。
【
図6】本発明の第2の実施形態の液体吐出ヘッドの素子基板の要部を拡大して示す平面断面図と、その素子基板の製造方法の一部の工程を示す要部の側面断面図である。
【
図7】本発明の第1~4の実施形態の液体吐出ヘッドの素子基板の要部を拡大して示す平面断面図である。
【
図8】本発明の第5~8の実施形態の液体吐出ヘッドの素子基板の要部を拡大して示す平面断面図である。
【
図9】本発明の第9~11の実施形態の液体吐出ヘッドの素子基板の要部を拡大して示す平面断面図である。
【
図10】本発明の第12~14の実施形態の液体吐出ヘッドの素子基板の要部を拡大して示す平面断面図である。
【
図11】本発明の第15の実施形態の液体吐出ヘッドの素子基板の製造方法の一例の、一部の工程を示す要部の側面断面図である。
【
図12】第15の実施形態の液体吐出ヘッドの素子基板の製造方法の他の例の、一部の工程を示す要部の側面断面図である。
【
図13】第15の実施形態の液体吐出ヘッドの素子基板の製造方法のさらに他の例の、一部の工程を示す要部の側面断面図である。
【
図14】第16~17の実施形態の液体吐出ヘッドの素子基板の要部の側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。同一の部材には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
[第1の実施形態]
図1(A)は、本発明の第1の実施形態の液体吐出ヘッド1を模式的に示す側面断面図である。
図1(B)は、液体吐出ヘッド1の主要部分である、少なくとも1対の板状部材からなる積層構造の素子基板2の要部(X部分)を拡大して示す側面断面図であり、
図1(C)は、
図1(A)のY-Y線に沿う平面断面図である。この液体吐出ヘッド1は、インクジェットプリンタ等の液体吐出装置に搭載される。インクジェットプリンタの一例では、往復走査可能なキャリッジ(不図示)に液体吐出ヘッド1が搭載されている。この構成では、後述する液体吐出ヘッド1の吐出口12から記録媒体(不図示)への液体吐出とキャリッジの走査とが交互に繰り返されて、記録媒体に所望の画像や文字や模様が形成される。
【0012】
本実施形態の素子基板2は、少なくとも3つの板状部材(基板3、第1の流路形成部材4、第2の流路形成部材5)が積層された積層構造を有している。これらの板状部材3~5は接着材6によって互いに接合されている。基板3には、一方の面3aから他方の面3bまで貫通する凹部である連通路7が形成されるとともに、一方の面3a側に有底の凹部8aが形成されている。第1の流路形成部材4には、一方の面4a側と他方の面4b側に有底の凹部9,8bがそれぞれ形成されており、さらに一方の面4a側の凹部9の底部に連通して他方の面4bに開口する供給路10が形成されている。他方の面4b側の凹部8bの内部に、エネルギー発生素子の1種である圧電素子(ピエゾ素子)11が配置されている。すなわち、第1の流路形成部材4の、凹部9の底部を構成するとともに凹部8bの底部を構成する部分が薄板状の振動板部4cになっており、この振動板部4cに圧電素子11が取り付けられている。第2の流路形成部材(吐出口形成部材)5には、一方の面5a側に吐出口12が形成されており、他方の面5bに凹部13が形成されている。吐出口12は凹部13の底部に連通するとともに一方の面5aに開口している。基板3の一方の面3aと第1の流路形成部材4の他方の面4bとが接着材6によって接合され、凹部8aと凹部8bとが重なり合って空洞部8が形成されている。供給路10と連通路7とが連通している。さらに、第1の流路形成部材4の一方の面4aと第2の流路形成部材5の他方の面5bとが接着材6によって接合され、この面5bによって凹部9が塞がれて圧力室が形成されている。本明細書では圧力室は凹部9と実質的に同義であるため同じ符号9で表す。
【0013】
本実施形態では、基板3と第1の流路形成部材4との間に接着材6とともに弾性構造体14が設けられている。具体的には、基板3と第1の流路形成部材4との間であって、連通路7に近接する部分に弾性構造体14が設けられている。弾性構造体14は、連通路7の内周縁部から1μm以上の間隔L1(
図1(B)参照)をおいて配置されている。そして、接着材6は、弾性構造体14から見て連通路7と反対側に配置されており、弾性構造体14から見て連通路7と同じ側に接着材6は存在しない。すなわち、接着材6と連通路7との間は、弾性構造体14によって実質的に遮断されている。本実施形態では、連通路7が供給路10よりも大径であるため、連通路7の周囲に弾性構造体14が設けられている。仮に、供給路10が連通路7よりも大径である場合には、供給路10の周囲に弾性構造体14が設けられる。仮に、供給路10と連通路7とが同じ内径である場合には、連通路7および供給路10の周囲に弾性構造体14が設けられる。
【0014】
図1(A)に模式的に示すように、本実施形態の液体吐出ヘッド1では、以上説明した構成の素子基板2に対し、連通路7に液体を供給する液体供給部材15と、圧電素子11に電力を供給する電気配線部材16とが接続されている。この液体吐出ヘッド1では、液体供給部材15から、連通路7および供給路10を介して圧力室9内に液体(例えば液体インク)が供給される。一方、電気配線部材16から圧電素子11に電力が供給されると、圧電素子11が変形する。圧電素子11および振動板部4cが圧力室9内に向かって凸状に変形すると、圧力室9内の液体が加圧され、凹部13を通って吐出口12から外部に液滴として吐出する。吐出口12から吐出した液滴が外部の記録媒体(不図示、例えば記録紙)の所望の位置に付着して、記録媒体に文字や画像や模様等が形成される。圧電素子11および振動板部4cは、空洞部8が存在することによって、圧力室9に向かって凸状または凹状に変形可能である。なお、エネルギー発生素子として圧電素子11の代わりに熱電変換素子を圧力室9に設けることも可能である。その場合、空洞部8を設けなくても構わない。
【0015】
図1に示す液体吐出ヘッド1の素子基板2の製造方法について、
図2を参照して説明する。
図2(A)~2(D)は、本実施形態の素子基板2の製造方法の工程の一部を順番に示す要部の断面図である。まず、
図2(A)に示すように、連通路7および凹部8a(
図1(A)参照)を有する基板(例えばシリコン基板)3の一方の面3aに、連通路7を取り囲む枠状の弾性構造体14を形成する。弾性構造体14は例えば膜厚が5μmであり、連通路7の内周縁部からの間隔L1が1μm以上になるように配置される。それから、基板3の一方の面3aに接着材6を、例えば直描によって塗布する。連通路7の周囲では、接着材6は、弾性構造体14から見て連通路7と反対側になる部分に塗布され、弾性構造体14から見て連通路7と同じ側には塗布されない。接着材6は例えばベンゾシクロブテン(BCB)からなり厚さが7μmの層になるように塗布され、弾性構造体14との間の間隔L2が1μm以上になるように配置される。この状態において、弾性構造体14の弾性率Bは、第1の流路形成部材4の弾性率A(例えば約100GPa以上)よりも低く、接着材6の弾性率Cよりも高い。一例としては、接着材6の弾性率Cは100MPa未満であり、弾性構造体14の弾性率Bは100MPa以上50GPa未満程度である。なお、基板3、第1の流路形成部材4、第2の流路形成部材5は、同じ材料からなるものであってもよく、異なる材料からなるものであってもよい。これらの板状部材3~5は、一般的にシリコン基板等からなる場合が多く、その弾性率は約100GPaである。板状部材3~5は、部分的に無機物、例えばアルミニウムなどから形成されている場合もあり、アルミニウムの弾性率は約70GPaである。概ね板状部材3~5の弾性率は50GPa以上、より好ましくは100GPa以上であるといえる。
【0016】
次に、
図2(B)に示すように、凹部9,8b(
図1(A)参照)および供給路10を有する第1の流路形成部材4の他方の面4bを、基板3の一方の面3aに近づける。第1の流路形成部材4の他方の面4bが基板3の一方の面3a上の接着材6の表面に触れると、接着材6は、
図2(B)の矢印で示すように、弾性構造体14に向かう側とその反対側との両方に拡がる。そして第1の流路形成部材4の他方の面4bを基板3の一方の面3aにさらに近づけると、
図2(C)に示すように、拡がった接着材6は弾性構造体14に当接し、その後は
図2(C)の矢印で示すように、弾性構造体14の反対側に拡がる。すなわち、この構成では、連通路7に向かう方向においては、接着材6の流れが弾性構造体14によって遮断されて、それ以上は拡がらない。一方、弾性構造体14から見て連通路7と反対側に向かう方向には、接着材6はさらに拡がる。その後、
図2(D)に示すように、第1の流路形成部材4の他方の面4bが弾性構造体14に当接すると、第1の流路形成部材4を基板3に接近させる動作を終了する。そして、接着材6を加熱することにより、接着材6を硬化させて、第1の流路形成部材4を基板3に接合する。このようにして素子基板2を製造した後に、
図1(A)に示すように、液体を供給する液体供給部材15を連通路7に接続し、電力を供給する電気配線部材16を圧電素子11に接続して、液体吐出ヘッド1の要部を構成する。
【0017】
本実施形態によると、前述したように、接着材6の連通路7に向かう方向の流れは弾性構造体14によって遮断されるため、連通路7の内周縁部から間隔L1未満の範囲に接着材6が進入する可能性は低い。本実施形態の間隔L1は1μm以上であるため、少なくとも連通路7の内周縁部から1μm未満の範囲に接着材6は存在せず、接着材6が、凹部である連通路7の内部に入り込む可能性は低い。従って、液体の流路内に接着材6が入り込んで液体の円滑な流れが妨げられ所望の液滴吐出ができなくなる可能性が低下する。このように接着材6の連通路7に向かう方向の流れを遮断する弾性構造体14に、第1の流路形成部材4の他方の面4bが当接する。仮に、弾性構造体14の代わりに第1の流路形成部材4と同等以上の剛性を有する構造体が設けられていると、互いに当接する第1の流路形成部材4の他方の面4bと構造体のいずれか一方または両方が損傷する可能性がある。それに対し、本実施形態では、第1の流路形成部材4よりも弾性率が低く剛性が低い弾性構造体14が設けられている。従って、第1の流路形成部材4との当接時に弾性構造体14が変形し、第1の流路形成部材4および弾性構造体14が破損する可能性が低下する。ただし、弾性構造体14は、接着材6の流れを遮断するとともに基板3と第1の流路形成部材4との間の間隔をある程度維持できる程度に、過剰な変形はしないような剛性を有する。具体的には、弾性構造体14は100MPa以上50GPa未満程度の弾性率Bを有することが好ましい。
【0018】
弾性構造体14から見て連通路7と反対側には実質的に全面に亘って接着材6が拡がっているため、弾性構造体14が接着力を有していなくても、接着材6によって基板3と第1の流路形成部材4とがしっかりと接合される。ただし、弾性構造体14が接着力を有していると、基板3と第1の流路形成部材4との接合強度をさらに高めることができる。その場合、弾性構造体14として、接着材6と同じ材料(例えばベンゾシクロブテン(BCB))を仮硬化させたものを用いることもできる。一例としては、未硬化状態で弾性率が100MPa未満である接着材を、弾性率が100MPa以上50GPa未満程度になるまで仮硬化して、弾性構造体14として用いることができる。仮硬化処理は、接着材を完全に硬化させる温度よりも低温で加熱して(例えば100℃で15分加熱して)、一定の弾性を有する状態にすることであり、基板3への塗布前に行っても塗布後に行ってもよいが、接着材6を形成する前に行う。仮硬化した接着材である弾性構造体14もある程度の粘性を有しており、未硬化で塗布された接着材6と同時に完全に硬化されることにより、接着材6のみならず弾性構造体14の接着力も作用して、基板3と第1の流路形成部材4との接合強度がより高くなる。従って、弾性構造体14の面積を大きくしても、基板3と第1の流路形成部材4との接合の信頼性が低くなる可能性は低い。仮硬化した接着材である弾性構造体14と、未硬化の接着材6とを加熱して(例えば200℃で1時間加熱して)完全に硬化させると、
図3に模式的に示すように弾性構造体14と接着材6が区別不能に一体化する。
【0019】
図2には
図1(A)のX部分のみを示しているが、それ以外の部分においても、
図4に示す変形例のように、様々な凹部(
図1(A)に示す連通路7、凹部8a,8b,9,13、供給路10等)の周囲に弾性構造体14を設けてもよい。弾性構造体14および接着材6を設ける位置や、基板3、第1の流路形成部材4、第2の流路形成部材5を互いに接合する工程等については、
図2を参照して前述した位置や工程等と同様であってよい。また、図示しないが、基板3の一方の面3aや第1の流路形成部材4の一方の面4aや他方の面4b等に、はみ出した余剰の接着材6を収容するための逃げ溝を設けてもよい。逃げ溝を設けると、接着材6が凹部(連通路7、凹部8a,8b,9,13、供給路10)の内部に入り込むことをより確実に抑制できるが、逃げ溝を設けることは必須ではない。
【0020】
前述した通り、本実施形態では、第1の流路形成部材4を基板3に重ね合わせる時点で、第1の流路形成部材4の弾性率Aと、弾性構造体14の弾性率Bと、接着材6の弾性率Cとが、A>B>Cの関係を満たしている。仮に、弾性構造体14の弾性率Bが第1の流路形成部材4の弾性率A以上(B≧A)であると、第1の流路形成部材4の弾性構造体14と当接した部分が破損したり、弾性構造体14が欠けたりする可能性がある。そのため、本実施形態では、弾性構造体14の弾性率Bが第1の流路形成部材4の弾性率A未満(A>B)であり、弾性構造体14が弾性変形することによって、弾性構造体14および第1の流路形成部材4の破損が抑制できる。仮に弾性構造体14の弾性率Bが接着材6の弾性率C以下(B≦C)であると、第1の流路形成部材4を基板3に重ね合わせた時に、弾性構造体14が形状を維持できず、凹部(連通路7、凹部8a,8b,9,13、供給路10)内に入り込む可能性がある。そのため、本実施形態では、弾性構造体14の弾性率Bが接着材6の弾性率Cより大きい(B>C)。それにより、第1の流路形成部材4を基板3に重ね合わせた時に、弾性構造体14が形状を維持して、凹部(連通路7、凹部8a,8b,9,13、供給路10)の内部に入り込むことが抑制できる。さらに、弾性構造体14が接着材6の流れを遮断して、接着材6が凹部(連通路7、凹部8a,8b,9,13、供給路10)の内部に入り込むことも抑制できる。しかも、弾性構造体14が各板状部材(基板3、第1の流路形成部材4、第2の流路形成部材5)の間隔を維持して、接着材6の厚さが薄くなり過ぎることを抑えるため、接着材6の過剰なはみ出しが抑えられるとともに、板状部材3~5の平行度が保てる。従って、前述したように、本実施形態では、第1の流路形成部材4の弾性率Aと、弾性構造体14の弾性率Bと、接着材6の弾性率Cとが、A>B>Cの関係を満たしている。これらの弾性率A,B,Cは、第1の流路形成部材4を基板3に重ね合わせる時点、少なくとも接着材6が硬化する前の段階での弾性率である。
【0021】
弾性構造体14として、接着材6と同じ材料を仮硬化させたものを用いる場合には、前述した関係を満たす弾性率Bは、接着材が仮硬化した状態での弾性率である。接着材の温度と弾性率の関係の一例を
図5に示している。接着材は常温では低い弾性率Cを示すが、ある程度加熱すると弾性率が大きくなり(例えば100℃まで加熱すると弾性率がBになる)、さらに加熱すると完全に硬化する(例えば200℃まで加熱すると弾性率がDになる)。弾性率が低いということは、材料が柔らかく応力が加わると変形することである。基板3の一方の面3aに弾性構造体14を形成することは、弾性率がCである未硬化の接着材を塗布した後に、100℃程度まで加熱して仮硬化させることにより行える。このように仮硬化されて弾性率がBになった接着材が、弾性構造体14として機能する。その後に、弾性率がCである未硬化の接着材6を塗布し、この接着材6は仮硬化させない。基板3の一方の面3aを第1の流路形成部材4の他方の面4bに重ね合わせた後に、仮硬化された接着材からなる弾性構造体14と未硬化の接着材6とを同時に200℃程度まで加熱して完全に硬化させる。それにより、
図3に示すように弾性構造体14と接着材6とが一体化し、それらの弾性率はいずれもDになる。これらの弾性率B~Dは、D>B>Cの関係を満たし、一例として弾性率Cは100MPa未満、弾性率Bは100MPa以上50GPa未満、弾性率Dは50GPa以上である。接着材6とは異なる材料からなる弾性構造体14を用いる場合にも、
図5に示されている温度-弾性率の特性と同様な特性を有する材料を用いて弾性構造体14を設けることが好ましい。そして、その弾性構造体14の、第1の流路形成部材4を基板3に重ね合わせる時点での弾性率B(例えば100MPa以上50GPa未満)は、未硬化の接着材6の弾性率Cよりも大きい。この弾性構造体14は、加熱されると接着材6と同様に硬化するものであって、接着材6と同様に高い接着力を持つことが好ましい。ただし、完成状態においても、弾性構造体14が、第1の流路形成部材4の弾性率Aよりも小さく未硬化の接着材6の弾性率Cよりも大きい弾性率Bを維持している構成にすることも可能である。
【0022】
[第2の実施形態]
図6(A)は、本発明の第2の実施形態の液体吐出ヘッド1の素子基板2の要部(X部分)を拡大して示す平面断面図である。
図6(A)には、第1の流路形成部材4は図示されていないが、供給路10は想像線(2点鎖線)で示されている。
図6(B)~6(E)は、本実施形態の素子基板2の製造方法の工程の一部を順番に示す要部の断面図である。本実施形態の弾性構造体14は五角形以上の多角形状、具体的には八角形状の平面形状を有しており、第1の実施形態の弾性構造体14よりも平面形状の面積が大きく外周の総長さが長い。このように外周の総長さが長い弾性構造体14は、接着材6の流れを遮断する効果が大きいため、比較的粘度が低く流動性が高い接着材6が用いられる場合に特に有利である。
【0023】
本実施形態においても、
図6(B)に示すように、連通路7および凹部8a(
図1(A)参照)を有する基板3の一方の面3aに、連通路7を取り囲む枠状の弾性構造体14を形成する。弾性構造体14と連通路7の内周縁部との間の間隔L1は1μm以上である。そして、基板3の一方の面3aに接着材6を塗布する。この接着材6は、比較的粘度が低く流動性が高いものであってよい。連通路7の周囲では、接着材6は、弾性構造体14から見て連通路7と反対側に塗布し、弾性構造体14から見て連通路7と同じ側には塗布しない。接着材6と弾性構造体14との間の間隔L2は1μm以上である。本実施形態でも、第1の流路形成部材4の弾性率Aと、弾性構造体14の弾性率Bと、接着材6の弾性率Cとが、A>B>Cの関係を満たしている。
【0024】
図6(C)に示すように、第1の流路形成部材4を移動させてその他方の面4bが基板3の一方の面3a上の接着材6の表面に当接すると、粘度が低く流動性が高い接着材6は、第1の実施形態よりも早いタイミングで弾性構造体14に当接する。接着材6は、矢印で示すように、弾性構造体14の反対側に拡がる。
図6(D)に示すように、第1の流路形成部材4を基板3にさらに近接させると、引き続き接着材6が弾性構造体14の反対側に拡がる。
図6(E)に示すように、第1の流路形成部材4の他方の面4bが弾性構造体14に当接すると、第1の流路形成部材4の移動を停止し、接着材6を硬化させて、第1の流路形成部材4を基板3に接合する。このように、接着材6の粘度が低く流動性が高くても、その接着材6の連通路7側への流れを弾性構造体14が遮断することにより、接着材6が連通路7の内部に入り込むことが抑制できる。
【0025】
[第3~4の実施形態]
図7(A)~7(D)は、本発明の第1~4の実施形態の要部の平面断面図(
図1(A)のY-Y線に相当する位置で切断した断面図)である。見易くするために、
図7および後述する
図8~10では接着材6と第1の流路形成部材4を省略し、供給路10は想像線(2点鎖線)で示している。弾性構造体14は接着材6の流れに対する抵抗体となるため、接着材6は、塗布された後に、弾性構造体14の存在しない方向、すなわち連通路7とは反対の方向へ流れ易い。このような接着材6の流れ易い方向を、接着材6の流れのベクトルとして
図7~10に矢印で示している。第1の実施形態では、
図1(C),7(A)に模式的に示すように、弾性構造体14が、外形が正方形の平面形状を有しており、接着材6を塗布して第1の流路形成部材4と基板3とを接近させる際には、接着材6は主に矢印で示す4方向に向かって拡がる。第2の実施形態では、
図6(A),7(B)に模式的に示すように、弾性構造体14が、外形が正八角形である平面形状を有し、接着材6を塗布して第1の流路形成部材4と基板3とを接近させる際には、接着材6は主に矢印で示す8方向に向かって拡がる。従って、接着材6を、より広範囲に精度良く拡げさせることができる。なお、第1~2の実施形態および以下に説明する第3~17の実施形態のいずれにおいても、弾性構造体14と連通路7の内周縁部との間の間隔L1は1μm以上であり、接着材6の塗布位置は、弾性構造体14からの間隔L2が1μm以上であることが好ましい。そして、第1の流路形成部材4の弾性率Aと、弾性構造体14の弾性率Bと、接着材6の弾性率Cとが、A>B>Cの関係を満たしていることが好ましい。また、接着材6と同様な接着材を仮硬化させたものを弾性構造体14として用いてもよい。
【0026】
第3の実施形態では、
図7(C)に模式的に示すように、弾性構造体14の平面形状の外形が、
図7(A)に示す弾性構造体14の平面形状と同様な正方形の4つの角部から、それぞれ放射状に細長くかつ先細に延びている突出部分14aを含んでいる。この弾性構造体14の4つの突出部分14aは、連通路7の周囲の接着材6が塗布される部分を、4つの領域に分断している。この弾性構造体14によると、第1の実施形態と同様に、接着材6は、矢印に示す4方向に拡がり、各方向に向かう接着材6の流れは互いにほとんど干渉しない。従って、例えば、各領域における接着材6の塗布量にばらつきがあったとしても、接着材6の拡がりのむらを抑えることができる。
【0027】
第4の実施形態では、
図7(D)に模式的に示すように、弾性構造体14の平面形状の外形が、放射状に延びている突出部分14aと、上下左右の四個所で、互いに隣接する前記突出部分の間に位置する三角形の凹状の切り欠き部分14bと、を含んでいる。言い替えると、弾性構造体14の平面形状の外形が、連通路7の平面形状の正方形から45度回転した大面積の正方形の4つの角部から内側に切れ込んで、三角形状の切り欠き部分14bが4つ形成された形状である。この構成によると、斜め方向(連通路7の平面形状の正方形の4つの角部から放射状に延びる方向)よりも、上下左右方向において接着材6の流れ易さが大きい。従って、接着材6を基板3の外周側に向かって円滑に流れさせつつ、その他の方向においても接着材6を効率よく行きわたらせることができる。なお、弾性構造体14の形状を工夫して、接着材6の流れを制御しつつ、弾性構造体14の平面形状の大面積化を抑えることで、接着材6の存在する面積を大きくして、基板3と第1の流路形成部材4との接着強度を高くすることができる。
【0028】
[第5~8の実施形態]
図8(A)~8(D)は、本発明の第5~8の実施形態の液体吐出ヘッド1の素子基板2の要部の平面断面図(
図1(A)のY-Y線に相当する位置で切断した断面図)である。
図8(A)に示す第5の実施形態は、第1の実施形態に類似した構成であるが、連通路7、供給路10、弾性構造体14の平面形状がいずれも正方形ではなく相似の長方形である。本実施形態では、隣接する2つの連通路7の周囲を取り囲むように、平面形状の外形が長方形である枠状の弾性構造体14がそれぞれ形成されている。この構成においても、接着材6は、塗布された後に、弾性構造体14の存在しない方向、すなわち連通路7とは反対の方向へ流れ易く、接着材6を基板3の外周側に向かって円滑に流れる。
【0029】
第6の実施形態では、
図8(B)に模式的に示すように、弾性構造体14の平面形状の外形が、
図8(A)に示す弾性構造体14の平面形状と同様な長方形から三角形状に突出している突出部分14aを有する。突出部分14aは、隣接する2つの連通路7の周囲を取り囲む弾性構造体14の、互いに対向する位置に設けられて、2つの弾性構造体14の間の間隔を小さくしている。この構成によると、接着材6が滞留しやすいと考えられる2つの連通路7の間の領域に、余剰の接着材6が流れてくることが抑制できる。さらに、この領域の周辺では、接着材6が特に流れ易い(流れのベクトルが大きい)ため、接着材6を円滑に連通路7から遠ざかるように流れさせることができる。
【0030】
第7の実施形態では、
図8(C)に模式的に示すように、弾性構造体14の平面形状の外形が、連通路7の平面形状の長方形から45度回転した頂点位置を有する菱形状である。言い替えると、弾性構造体14の平面形状の外形が、
図8(A)に示す弾性構造体14の平面形状と同様な長方形の各辺にそれぞれ三角形状の突出部分14aを有する。そして、隣接する2つの連通路7の周囲を取り囲む弾性構造体14の、互いに対向する位置に設けられた三角形状の突出部分14aは、先端同士が接触している。この構成によると、2つの連通路7の間の領域に、余剰の接着材6が流れてくることをより確実に抑制できる。また、基板3の角部に向かって接着材6が流れ易くし(接着材6の流れのベクトルを生じさせ)、接着材6を円滑に連通路7から遠ざかるように流れさせることができる。
【0031】
第8の実施形態でも、
図8(D)に模式的に示すように、弾性構造体14の平面形状の外形が、
図8(A)に示す弾性構造体14の平面形状と同様な長方形から三角形状に突出している突出部分14aを有する。突出部分14aは、隣接する2つの連通路7の周囲を取り囲む弾性構造体14の、互いに対向する位置に設けられて、2つの弾性構造体14の間の間隔を小さくしている。そして、弾性構造体14の平面形状の、突出部分以外の部分には、大面積の長方形の各辺から内側に切れ込む三角形状の切り欠き部分14bがそれぞれ形成されている。この構成によると、第6の実施形態と同様に、2つの連通路7の間の領域に余剰の接着材6が流れてくることが抑制できる。また、三角形状の切り欠き部分14bが接着材6の流れの方向をある程度規定するため、接着材6の流れを安定して所望の方向に向けることができる。多数の素子基板2を製造した場合に、各素子基板における接着材6の流れの状態を実質的に等しくすることが可能であり、素子基板2の製造の繰り返し精度が良好である。
【0032】
[第9~11の実施形態]
図9(A)~9(C)は、本発明の第9~11の実施形態の液体吐出ヘッド1の素子基板2の要部の平面断面図(
図1(A)のY-Y線に相当する位置で切断した断面図)である。
図9(A)に示す第9の実施形態は、第1の実施形態に類似した構成である。本実施形態では、2×2のマトリックス状に近接して並べられた4つの連通路7の周囲をそれぞれ取り囲むように、平面形状の外形が正方形である枠状の4つの弾性構造体14が形成されている。この構成においても、接着材6は、塗布された後に、弾性構造体14の存在しない方向、すなわち連通路7とは反対の方向へ流れ易く、接着材6を基板3の外周側に向かって円滑に流れる。
【0033】
第10の実施形態では、
図9(B)に模式的に示すように、4つの連通路7の周囲をそれぞれ取り囲む弾性構造体14が、4つの連通路7が構成する2×2のマトリックス状の連通路群(凹部群)の中心において繋がって一体化している。すなわち、各連通路7を囲む弾性構造体14の一部がマトリックス状の連通路群の中心に向かって延出して接続部分14cを構成することによって、一体化した大型の弾性構造体14が構成されている。言い替えると、弾性構造体14の平面形状が、4つの連通路7の平面形状を包含する大面積の正方形の各辺から内側に切れ込んだ略三角形状の切り欠き部分14bが4つ形成された形状である。この構成によると、接着材6が滞留しやすいと考えられる各連通路7の間の領域に、余剰の接着材6が流れてくることが抑制できる。また、上下左右の4個所に位置する各切り欠き部分14bにおいて、接着材6の流れ易さが大きい(接着材6の流れのベクトルが大きい)ため、接着材6を円滑に連通路7から遠ざかるように流れさせることができる。
【0034】
第11の実施形態では、
図9(C)に模式的に示すように、第9の実施形態と同様に2×2のマトリックス状に近接して並べられた4つの連通路7の周囲をそれぞれ取り囲むように、枠状の4つの弾性構造体14が形成されている。各弾性構造体14の平面形状の外形は、変形した略四角形状であり、4つの連通路7が構成する2×2のマトリックス状の連通路群(凹部群)の中心に近接する角部が大面積の拡張部分14dである。拡張部分14dに隣接する2つの角部14e,14fは、連通路7の平面形状の正方形の角部から基板3の外周側にずらした位置にある。そして、拡張部分14dから隣接する角部14e,14fまで主になだらかな斜辺で繋がるとともに、拡張部分14dの反対側の角部(マトリックス状の連通路群の中心から遠い角部)14gから角部14e,14fまで主になだらかな斜辺で繋がっている。弾性構造体14は、4つの連通路7が構成する2×2のマトリックス状の連通路群の中心に近い部分(拡張部分14d側)が大きく、その反対側(角部14g側)が小さい平面形状を有している。すなわち、弾性構造体14は、マトリックス状の連通路群の中心に近い部分が、その中心から離れた部分より、連通路7から突き出している。このような弾性構造体14の平面形状により、マトリックス状の連通路群の中心から外側に向かう上下左右の4方向において、接着材6が特に流れやすい(接着材6の流れのベクトルが大きい)。また、マトリックス状の連通路群の外周部においては、連通路群の四隅部に向かう接着材6の流れが生じる。従って、連通路群の中心から外側に向かう上下左右の4方向の接着材6の流れと、連通路群の四隅部に向かう接着材6の流れとが干渉しにくく、より効率的かつ安定的に基板3の全体に接着材6を行きわたらせることができる。
【0035】
[第12~14の実施形態]
図10(A)~10(C)は、本発明の第12~14の実施形態の液体吐出ヘッド1の素子基板2の要部の平面断面図(
図1(A)のY-Y線に相当する位置で切断した断面図)である。
図10(A)に示す第12の実施形態は、第1の実施形態に類似した構成である。本実施形態では、3×3のマトリックス状に近接して並べられた9つの連通路7の周囲をそれぞれ取り囲むように、平面形状の外形が正方形である枠状の9つの弾性構造体14が形成されている。この構成においても、接着材6は、塗布された後に、弾性構造体14の存在しない方向、すなわち連通路7とは反対の方向へ流れ易く、接着材6を基板3の外周側に向かって円滑に流れる。
【0036】
第13の実施形態では、
図10(B)に模式的に示すように、9つの連通路7の周囲をそれぞれ取り囲む弾性構造体14が、9つの連通路7が構成する3×3のマトリックス状の連通路群(凹部群)の中心側において繋がって一体化している。すなわち、各連通路7を囲む弾性構造体14の一部が、隣接する弾性構造体14に向かって延出して接続部分14cを構成することによって、一体化した大型の弾性構造体14が構成されている。言い替えると、弾性構造体14の平面形状が、9つの連通路7の平面形状を包含する大面積の正方形の各辺から、隣接する連通路7同士の間の間隔に向かって内側に切れ込んだ切り欠き部分14bが8つ形成された形状である。図面上下方向に延びる切り欠き部分14bは、図面左右方向に延びる切り欠き部分14bよりも大きい。この構成によると、接着材6が滞留しやすいと考えられる各連通路7の間の領域に、余剰の接着材6が流れてくることが抑制できる。また、上下左右の4個所に位置する各切り欠き部分14bにおいて、接着材6の流れ易さが大きい(接着材6の流れのベクトルが大きい)ため、接着材6を円滑に連通路7から遠ざかるように流れさせることができる。また、マトリックス状の連通路群の外側においても、流抵抗差によって接着材6を的確に連通路7の反対側に拡げることができる。
【0037】
第14の実施形態では、
図10(C)に模式的に示すように、第12の実施形態と同様に3×3のマトリックス状に近接して並べられた9つの連通路7の周囲をそれぞれ取り囲むように、枠状の9つの弾性構造体14が形成されている。3×3のマトリックス状の連通路群(凹部群)の中心に位置する連通路7を囲む弾性構造体14の平面形状は円形である。3×3のマトリックス状の連通路群の四隅部に位置する連通路7を囲む弾性構造体14の平面形状は、第11の実施形態の弾性構造体14の平面形状と類似した形状である。この弾性構造体14の外形は、変形した略四角形状であり、連通路群の中心に近接する角部が大面積の拡張部分14dである。拡張部分14dに隣接する2つの角部14e,14fは、連通路7の平面形状の正方形の角部から基板3の外周側にずらした位置にある。そして、拡張部分14dから隣接する角部14e,14fまで主になだらかな斜辺で繋がるとともに、拡張部分14dの反対側の角部(連通路群の中心から遠い角部)14gから角部14e,14fまで主になだらかな斜辺で繋がっている。弾性構造体14は、概ね拡張部分14d側が大きく、その反対側の角部14g側が小さい平面形状を有している。3×3のマトリックス状の連通路群の外周の各辺の中央に位置する弾性構造体14の平面形状は略台形である。この略台形の弾性構造体14の平面形状は、連通路群の外周側が短い上底であり、連通路群の中央側は長い下底であるが中央側に向かって凸状の曲線になっている。弾性構造体14の平面形状の、連通路群の外周側端部は半楕円形状である。従って、弾性構造体14は、9つの連通路7が構成する3×3のマトリックス状の連通路群(凹部群)の中心に近い部分が大きく、その反対側が小さい平面形状を有している。すなわち、連通路群の中心に位置する弾性構造体14の平面形状の外形は円形であり、それ以外の弾性構造体14の平面形状の外形は、連通路群の中心に近い部分がその中心から離れた部分より、連通路7から突き出している。このような平面形状を有する弾性構造体14が設けられていることにより、連通路群の中心から外側に向かう上下左右の4方向において、接着材6が特に流れやすい(接着材6の流れのベクトルが大きい)。また、連通路群の外周部においては、連通路群の四隅部に向かう接着材6の流れが生じる。従って、連通路群の中心から外側に向かう上下左右の4方向の接着材6の流れと、連通路群の四隅部に向かう接着材6の流れとが干渉しにくく、より効率的かつ安定的に基板3の全体に接着材6を行きわたらせることができる。
【0038】
[第15の実施形態]
図11(A)~11(E)は、本発明の第15の実施形態の液体吐出ヘッド1の素子基板2の製造方法の工程の一部を順番に示す要部の断面図である。前述した第1~14の実施形態では、基板3を貫通する凹部である連通路7が、第1の流路形成部材4に設けられた供給路10よりも大径である構成である。これに対し、第15の実施形態の連通路7は、一端が基板3の一方の面3aに開口し、基板3の厚さ方向の中間部で屈曲して基板の板面と平行に延びている。基板3の一方の面3aにおける連通路7の開口部の内径は、第1の流路形成部材4に設けられた供給路10の内径と等しい。この構成においても、連通路7および供給路10を取り囲む枠状の弾性構造体14が形成されている。
【0039】
本実施形態の素子基板2の製造方法の一例は、第1の実施形態の素子基板2の製造方法と同じである。すなわち、
図11(A)に示すように、基板3の一方の面3aに弾性構造体14を、連通路7の内周縁部からの間隔L1が1μm以上になるように配置する。それから、
図11(B)に示すように、基板3の一方の面3aに接着材6を塗布する。連通路7の周囲では、接着材6は、弾性構造体14から見て連通路7と反対側になる部分に塗布し、弾性構造体14から見て連通路7と同じ側には塗布しない。接着材6は、弾性構造体14との間の間隔L2が1μm以上になるように配置する。そして、
図11(C)に示すように、第1の流路形成部材4の他方の面4bを、基板3の一方の面3aに重ね合わせ、接着材6を硬化させて、第1の流路形成部材4を基板3に接合する。仮に、接着材6と同じ材料を仮硬化させたものを弾性構造体14として用いる場合には、接着材6を硬化させる際に、仮硬化した接着材である弾性構造体14も完全に硬化する。それにより、
図11(D)に示すように、弾性構造体14と接着材6が区別不能に一体化する。
【0040】
図12(A)~12(D)は、本実施形態の液体吐出ヘッド1の素子基板2の製造方法の他の例の工程の一部を順番に示す要部の断面図である。本例では、
図12(A)に示すように、基板3の一方の面3aに弾性構造体14を、連通路7の内周縁部からの間隔L1が1μm以上になるように配置する。一方、
図12(B)に示すように、第1の流路形成部材4の他方の面4bに接着材6を塗布する。第1の流路形成部材4を基板3に重ね合わせた時に、連通路7の周囲では、接着材6は弾性構造体14から見て連通路7と反対側になる部分に位置して連通路7と同じ側には位置せず、弾性構造体14との間の間隔L2が1μm以上になるように配置する。そして、
図12(C)に示すように、第1の流路形成部材4の他方の面4bを、基板3の一方の面3aに重ね合わせ、接着材6を硬化させて、第1の流路形成部材4を基板3に接合する。仮に、接着材6と同じ材料を仮硬化させたものを弾性構造体14として用いる場合には、接着材6を硬化させる際に、仮硬化した接着材である弾性構造体14も完全に硬化する。それにより、
図12(D)に示すように、弾性構造体14と接着材6が区別不能に一体化する。
【0041】
図13(A)~13(E)は、本実施形態の液体吐出ヘッド1の素子基板2の製造方法のさらに他の例の工程の一部を順番に示す要部の断面図である。本例では、
図13(A)に示すように、感光性材料からなりドライフィルム状に形成された接着材6(便宜上「接着材ドライフィルム6」と言う)を、基板3の一方の面3aにラミネーター等を用いて貼り付ける。次に、
図13(B)に示すように、接着材ドライフィルム6の、連通路7の周囲に位置する部分を部分的に仮硬化させる。具体的には、露光マスク17の開口部17aを介して露光用の光18を接着材ドライフィルム6に照射して露光し、その露光部分の弾性率を変化させて仮硬化させる。接着材ドライフィルム6の仮硬化した部分は、所望の弾性を有しており弾性構造体14として機能する。弾性構造体14として機能する部分を、連通路7の内周縁部からの間隔L1が1μm以上になるように設けるため、接着材ドライフィルム6に露光用の光18を照射する位置を適宜に決定する。そして、その照射位置に対応する開口部17aを有する露光マスク17を用いる。次に、
図13(C)に示すように、接着材ドライフィルム6を介して、第1の流路形成部材4の他方の面4bを、基板3の一方の面3aに重ね合わせる。そして、
図13(D)に示すように、現像工程を行って、接着材ドライフィルム6の余分な部分、具体的には連通路7の周囲であって弾性構造体14に囲まれた部分を除去する。それから、接着材ドライフィルム6を硬化させて第1の流路形成部材4を基板3に接合する。このとき、既に仮硬化している弾性構造体14として機能する部分もその他の部分と同様に硬化して、
図13(E)に示すようにそれらが区別不能に一体化する。なお、第1~14の実施形態のように、基板3を貫通する凹部である連通路7が、第1の流路形成部材4の供給路10よりも大径である構成においても、
図11~13に示す本実施形態の製造方法のいずれかを実施して素子基板を製造することができる。
【0042】
[第16~17の実施形態]
図14(A)~14(B)は、本発明の第16~17の実施形態の液体吐出ヘッド1の素子基板2の要部の側面断面図である。
図1~13に示す第1~15の実施形態では、弾性構造体14の、第1の流路形成部材4の他方の面4bに接する面(上面)が平坦である。そのため、基板3と第1の流路形成部材4とを接合する際に、弾性構造体14を第1の流路形成部材4の他方の面にしっかりと接合させて、安定的に接着させることができる。一方、
図14(A)に示す第16の実施形態では、弾性構造体14の、第1の流路形成部材4の他方の面4bに接する面(上面)が凸状の曲面14hである。それにより、基板3と第1の流路形成部材4とを接合する際に、第1の流路形成部材4の他方の面4bの、弾性構造体14に当接する部分の損傷をより確実に抑えることができる。また、
図14(B)に示す第17の実施形態では、弾性構造体14の、第1の流路形成部材4の他方の面4bに接する面(上面)に連続して、連通路7に近い側よりも遠い側の方が他方の面4bから離れるような傾斜面14iが設けられている。すなわち、弾性構造体14の、第1の流路形成部材4の他方の面4bに接する面(上面)に連続して、連通路7に近い側よりも遠い側で厚さが薄くなっている傾斜部分を有する。それにより、弾性構造体14と接着材6とが接触する部分の周辺に空洞等が発生することを抑制できる。このような傾斜面は、感光性材料からなる接着材6に対してグラデーションマスクを用いて露光し、その後に現像および仮硬化を行うことで形成可能である。第1~14の実施形態のように基板3を貫通する凹部である連通路7が第1の流路形成部材4の供給路10よりも大径である構成でも、
図14(A)~14(B)に示す実施形態の弾性構造体14のいずれかと同様な形状の弾性構造体14を設けることができる。
【0043】
[作用効果]
以上説明した通り、本発明によれば、互いに接合される複数の板状部材(例えば基板3と第1の流路形成部材4)の凹部(例えば連通路7)の内周縁部から間隔(例えば1μm以上)をおいた位置に、弾性構造体14が設けられている。これらの板状部材を接合する際には、弾性構造体14が、対向する板状部材(例えば第1の流路形成部材4)に当接する。仮に板状部材を接合する際の圧力が適正であれば、弾性構造体14が変形することなく、板状部材同士を良好に接合できる。そして、仮に板状部材を接合する際の圧力が高かったとしても、弾性構造体14が弾性変形しながら圧力を吸収することができるため、対向する板状部材の破損等を抑えて、板状部材同士を高い平行度で接合することができる。すなわち、弾性構造体14が存在することで、板状部材同士の間の間隔を一定に保つことができる。弾性構造体14よりも弾性率が低く柔らかい接着材6は、板状部材同士の間の間隔が一定に保たれることにより、過剰に潰れることはない。従って、板状部材同士の間に位置する接着材6を適正な厚さ(例えば5μm)に維持することができる。その結果、板状部材の凹部に接着材6が入り込むことを抑えることができる。弾性構造体14としては、接着材6と同じ材料(例えばベンゾシクロブテン)を、前述した位置に形成して仮硬化させて弾性率を上げたものを用いることができる。その場合、接着材6と弾性構造体14とが一体化した1つの接着材層になるため、その後の熱影響等による接着材6と弾性構造体14との乖離やボイドの発生等を抑制することができる。また、弾性構造体14が当接する板状部材の弾性率Aと、弾性構造体14の弾性率Bと、接着材6の弾性率Cとが、A>B>Cの関係になるように選択された、接着材6とは異なる材料を用いて弾性構造体14を形成することができる。この材料は、接着材6と類似した材料であってよく、弾性構造体14と接着材6とはいずれも、完全に硬化することにより高い接着力を発揮する部材であることが好ましい。なお、これらの弾性率A,B,Cは、板状部材同士に重ね合わせる時点での弾性率である。
【0044】
弾性構造体14が、接着性を有する材料からなる場合、仮硬化状態でも板状部材に貼り付く程度の粘性は有しているため、板状部材同士を位置精度良く重ね合わせてその状態を維持しやすい。さらに、接着材6と同時に弾性構造体14を完全に硬化させることにより、接着材6が板状部材に接する部分と、弾性構造体14が板状部材に接する部分とが、いずれも同等の接着力を有する。従って、弾性構造体14の平面形状を大きくして板状部材同士を高い平行度で接合する信頼性を高めることにより、接着材3が板状部材に接する部分の面積が相対的に減少したとしても、板状部材同士の接合の信頼性が低下することはない。
【0045】
本発明の実施形態の開示は、以下の方法および構成を含む。
(方法1)
互いに接合された少なくとも1対の板状部材を含む積層構造を有する素子基板の製造方法であって、
前記1対の前記板状部材の少なくとも一方が凹部を有しており、
一方の前記板状部材の、前記凹部の内周縁部から間隔をおいて当該凹部を囲む位置にあたる部分に、弾性構造体を設ける工程と、
一方の前記板状部材または他方の前記板状部材の、前記弾性構造体から見て前記凹部と反対側になる部分に接着材を設ける工程と、
前記弾性構造体と前記接着材とを設けた後に、前記凹部と前記弾性構造体と前記接着材とが前記1対の前記板状部材の互いに対向する面に位置するように前記1対の前記板状部材を互いに重ね合わせ、前記1対の前記板状部材を互いに接近させるように加圧することで、前記接着材を、1対の前記板状部材の間であって前記弾性構造体から見て前記凹部の反対側の部分で拡げさせる工程と、
前記接着材を硬化させて前記1対の板状部材を接合する工程と、
を含み、
前記1対の前記板状部材を互いに重ね合わせる段階での前記弾性構造体の弾性率Bと、前記弾性構造体が当接する前記板状部材の弾性率Aとが、A>Bの関係であることを特徴とする、素子基板の製造方法。
(方法2)
前記凹部と前記弾性構造体と前記接着材とを一方の前記板状部材の同一の面に設ける、方法1に記載の素子基板の製造方法。
(方法3)
前記弾性構造体を設ける工程で、前記弾性構造体を前記凹部の内周縁部から1μm以上の間隔をおいて配置する、方法1または2に記載の素子基板の製造方法。
(方法4)
前記接着材を設ける工程で、前記接着材を前記弾性構造体から1μm以上の間隔をおいて配置する、方法1から3のいずれか1項に記載の素子基板の製造方法。
(方法5)
前記1対の前記板状部材を互いに重ね合わせる段階で、前記弾性構造体の弾性率Bと、前記接着材の弾性率Cとが、B>Cの関係である、方法1から4のいずれか1項に記載の素子基板の製造方法。
(方法6)
前記板状部材の弾性率Aが50GPa以上であり、前記弾性構造体の弾性率Bが100MPa以上50GPa未満であり、前記接着材の弾性率Cが100MPa未満である、方法5に記載の素子基板の製造方法。
(方法7)
前記1対の板状部材を接着する工程で、前記弾性構造体を前記接着材と同時に完全に硬化させる、方法1から6のいずれか1項に記載の素子基板の製造方法。
(方法8)
前記弾性構造体は、前記接着材と同じ材料からなり当該材料が仮硬化したものである、方法7に記載の素子基板の製造方法。
(方法9)
前記1対の板状部材を接着する工程で、前記弾性構造体と前記接着材とを一体化させる、方法8に記載の素子基板の製造方法。
(方法10)
前記弾性構造体は感光性材料からなる、方法1から9のいずれか1項に記載の素子基板の製造方法。
(方法11)
前記弾性構造体を設ける工程で、一方の前記板状部材に、前記感光性材料からなるドライフィルムを配置し、前記ドライフィルムの一部を露光することにより弾性率を変化させて前記弾性構造体にする、方法10に記載の素子基板の製造方法。
(方法12)
前記1対の前記板状部材を互いに重ね合わせる前の段階の前記弾性構造体の厚さは、完全に硬化した前記接着材の厚さ以上である、方法1から11のいずれか1項に記載の素子基板の製造方法。
(方法13)
前記1対の前記板状部材を互いに重ね合わせる前の段階の前記弾性構造体は、前記板状部材に当接する面が平坦である、方法1から12のいずれか1項に記載の素子基板の製造方法。
(方法14)
前記1対の前記板状部材を互いに重ね合わせる前の段階の前記弾性構造体は、前記板状部材に当接する面が凸状の曲面である、方法1から12のいずれか1項に記載の素子基板の製造方法。
(方法15)
前記1対の前記板状部材を互いに重ね合わせる前の段階の前記弾性構造体は、前記板状部材に当接する面に連続して、前記凹部に近い側よりも前記凹部から遠い側で厚さが薄くなっている傾斜部分を有する、方法1から12のいずれか1項に記載の素子基板の製造方法。
(方法16)
前記弾性構造体の平面形状の外形は五角形以上の多角形状である、方法1から15のいずれか1項に記載の素子基板の製造方法。
(方法17)
前記弾性構造体の平面形状の外形は、多角形の各角部から、それぞれ放射状に細長くかつ先細に延びている突出部分を含んでいる、方法1から15のいずれか1項に記載の素子基板の製造方法。
(方法18)
前記弾性構造体の平面形状の外形は、放射状に延びている突出部分と、互いに隣接する前記突出部分の間にそれぞれ設けられた切り欠き部分と、を含んでいる、方法1から15のいずれか1項に記載の素子基板の製造方法。
(方法19)
複数の前記凹部の周囲を取り囲むようにそれぞれ形成された複数の前記弾性構造体の平面形状の外形が、互いに対向する位置に設けられて複数の前記弾性構造体の間の間隔を小さくする突出部分をそれぞれ有する、方法1から15のいずれか1項に記載の素子基板の製造方法。
(方法20)
複数の前記弾性構造体の平面形状の外形が、前記突出部分と、前記突出部分以外の部分に設けられて内側に切れ込む切り欠き部分と、をそれぞれ有する、方法19に記載の素子基板の製造方法。
(方法21)
前記弾性構造体の平面形状の外形は、複数の前記凹部の周囲をそれぞれ取り囲む部分と、それらを繋げる接続部分とを有する、方法1から15のいずれか1項に記載の素子基板の製造方法。
(方法22)
前記弾性構造体の平面形状の外形は、複数の前記凹部からなる凹部群の中心に近い部分が前記中心から離れた部分より、当該弾性構造体が取り囲む前記凹部から突き出している、方法1から15のいずれか1項に記載の素子基板の製造方法。
(方法23)
前記弾性構造体の平面形状の外形は、複数の前記凹部からなる凹部群を取り囲むとともに、互いに隣接する前記凹部の間に設けられ、前記凹部群の中心に向かって内側に切れ込んだ切り欠き部分を有する、方法1から15のいずれか1項に記載の素子基板の製造方法。
(方法24)
複数の前記凹部からなる凹部群の中心に位置する前記弾性構造体の平面形状の外形は円形であり、それ以外の前記弾性構造体の平面形状の外形は、前記凹部群の中心に近い部分が前記中心から離れた部分より、当該弾性構造体が取り囲む前記凹部から突き出している、方法1から15のいずれか1項に記載の素子基板の製造方法。
(方法25)
前記素子基板は、前記凹部に接続されており外部に向かって開口している吐出口と、エネルギー発生素子と、を有し、
方法1から24のいずれか1項に記載の素子基板の製造方法の各工程と、液体を供給する液体供給部材を前記凹部に接続する工程と、電力を供給する電気配線部材を前記エネルギー発生素子に接続する工程と、を含むことを特徴とする、液体吐出ヘッドの製造方法。
(装置1)
互いに接合された少なくとも1対の板状部材を含む積層構造を有する素子基板であって、
前記1対の前記板状部材の少なくとも一方が凹部を有しており、
一方の前記板状部材の、前記凹部の内周縁部から間隔をおいて当該凹部を囲む位置にあたる部分に設けられている弾性構造体と、一方の前記板状部材または他方の前記板状部材の、前記弾性構造体から見て前記凹部と反対側の部分に設けられ前記1対の前記板状部材を接合している接着材と、を有し、
前記1対の前記板状部材は、前記凹部と前記弾性構造体と前記接着材とが前記1対の前記板状部材の互いに対向する面に位置するように互いに重ね合わせられており、
前記弾性構造体の弾性率Bと、前記弾性構造体が当接する前記板状部材の弾性率Aとが、A>Bの関係であることを特徴とする、素子基板。
(装置2)
前記弾性構造体は前記凹部の内周縁部から1μm以上の間隔をおいて位置している、装置1に記載の素子基板。
(装置3)
前記弾性構造体の弾性率Bと、前記接着材の弾性率Cとが、B>Cの関係である、装置1または2に記載の素子基板。
(装置4)
前記板状部材の弾性率Aが50GPa以上であり、前記弾性構造体の弾性率Bが100MPa以上50GPa未満であり、前記接着材の弾性率Cが100MPa未満である、装置3に記載の素子基板。
(装置5)
前記弾性構造体は、前記接着材と同じ材料からなる、装置1から4のいずれか1項に記載の素子基板。
(装置6)
前記弾性構造体は感光性材料からなる、装置1から5のいずれか1項に記載の素子基板。
(装置7)
前記弾性構造体の平面形状の外形は五角形以上の多角形状である、装置1から6のいずれか1項に記載の素子基板。
(装置8)
前記弾性構造体の平面形状の外形は、多角形の各角部から、それぞれ放射状に細長くかつ先細に延びている突出部分を含んでいる、装置1から6のいずれか1項に記載の素子基板。
(装置9)
前記弾性構造体の平面形状の外形は、放射状に延びている突出部分と、互いに隣接する前記突出部分の間にそれぞれ設けられた切り欠き部分と、を含んでいる、装置1から6のいずれか1項に記載の素子基板。
(装置10)
複数の前記凹部の周囲を取り囲むようにそれぞれ形成された複数の前記弾性構造体の平面形状の外形が、互いに対向する位置に設けられて複数の前記弾性構造体の間の間隔を小さくする突出部分をそれぞれ有する、装置1から6のいずれか1項に記載の素子基板。
(装置11)
複数の前記弾性構造体の平面形状の外形が、前記突出部分と、前記突出部分以外の部分に設けられて内側に切れ込む切り欠き部分と、をそれぞれ有する、装置10に記載の素子基板。
(装置12)
前記弾性構造体の平面形状の外形は、複数の前記凹部の周囲をそれぞれ取り囲む部分と、当該部分を繋げる接続部分とを有する、装置1から6のいずれか1項に記載の素子基板。
(装置13)
前記弾性構造体の平面形状の外形は、複数の前記凹部からなる凹部群の中心に近い部分が前記中心から離れた部分より、当該弾性構造体が取り囲む前記凹部から突き出している、装置1から6のいずれか1項に記載の素子基板。
(装置14)
前記弾性構造体の平面形状の外形は、複数の前記凹部からなる凹部群を取り囲むとともに、互いに隣接する前記凹部の間に設けられ、前記凹部群の中心に向かって内側に切れ込んだ切り欠き部分を有する、装置1から6のいずれか1項に記載の素子基板。
(装置15)
複数の前記凹部からなる凹部群の中心に位置する前記弾性構造体の平面形状の外形は円形であり、それ以外の前記弾性構造体の平面形状の外形は、前記凹部群の中心に近い部分が前記中心から離れた部分より、当該弾性構造体が取り囲む前記凹部から突き出している、装置1から6のいずれか1項に記載の素子基板。
(装置16)
前記素子基板は、前記凹部に接続されており外部に向かって開口している吐出口と、エネルギー発生素子と、を有し、
装置1から15のいずれか1項に記載の素子基板と、前記凹部に接続されており液体を供給する液体供給部材と、前記エネルギー発生素子に接続されており電力を供給する電気配線部材と、を有することを特徴とする、液体吐出ヘッド。
【符号の説明】
【0046】
2 素子基板
3 基板(板状部材)
4 第1の流路形成部材(板状部材)
6 接着材
7 連通路(凹部)
14 弾性構造体