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特開2024-175451漏洩電力推定方法、アンテナ選択方法、漏洩電力推定装置、及びアンテナ選択装置
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  • 特開-漏洩電力推定方法、アンテナ選択方法、漏洩電力推定装置、及びアンテナ選択装置 図1
  • 特開-漏洩電力推定方法、アンテナ選択方法、漏洩電力推定装置、及びアンテナ選択装置 図2A
  • 特開-漏洩電力推定方法、アンテナ選択方法、漏洩電力推定装置、及びアンテナ選択装置 図2B
  • 特開-漏洩電力推定方法、アンテナ選択方法、漏洩電力推定装置、及びアンテナ選択装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175451
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】漏洩電力推定方法、アンテナ選択方法、漏洩電力推定装置、及びアンテナ選択装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/70 20160101AFI20241211BHJP
   H02J 50/20 20160101ALI20241211BHJP
   H01Q 3/24 20060101ALI20241211BHJP
   G01R 29/08 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
H02J50/70
H02J50/20
H01Q3/24
G01R29/08 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093244
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】田中 勇気
(72)【発明者】
【氏名】五閑 学
(72)【発明者】
【氏名】谷 博之
【テーマコード(参考)】
5J021
【Fターム(参考)】
5J021AA03
5J021AA05
5J021AA12
5J021DA02
5J021DB05
5J021EA04
5J021FA31
5J021FA33
5J021HA06
5J021JA10
(57)【要約】
【課題】送電システムのみの簡易なハードウェア構成で完結し、外部に漏洩する電波の強度を簡易に推定し、無線電力伝送を閉空間で使用することができるか否かの判断を可能とすること。
【解決手段】漏洩電力推定方法は、送電装置が閉空間内で放射した第1の電波の電力及び前記送電装置が前記閉空間から受信した第2の電波の電力を測定するステップと、前記第1の電波の電力及び前記第2の電波の電力に基づいて、漏洩電力を推定するステップと、を含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電装置が閉空間内で放射した第1の電波の電力及び前記送電装置が前記閉空間から受信した第2の電波の電力を測定するステップと、
前記第1の電波の電力及び前記第2の電波の電力に基づいて、漏洩電力を推定するステップと、
を含む漏洩電力推定方法。
【請求項2】
前記漏洩電力に基づいて、前記閉空間内における無線電力伝送の可否を判断するステップをさらに含む請求項1に記載の漏洩電力推定方法。
【請求項3】
前記第1の電波の電力の測定は、方向性結合器により前記第1の電波を放射するアンテナに送信される高周波から分離された高周波の電力を出力電力測定部が測定することにより実行され、前記第2の電波の電力の測定は、前記方向性結合器により前記第2の電波を受信したアンテナから送信された高周波から分離された高周波の電力を出力電力測定部が測定することにより実行される請求項1に記載の漏洩電力推定方法。
【請求項4】
複数のアンテナを有する送電装置が閉空間内で各アンテナが放射した第1の電波の電力及び前記閉空間から各アンテナで受信した第2の電波の電力を測定するステップと、
前記第1の電波の電力及び前記第2の電波の電力に基づいて、各アンテナに対応する漏洩電力を推定するステップと、
各漏洩電力が閾値よりも小さい場合、前記閉空間内に配置された受電装置が各アンテナから受信する第3の電波の電力を推定するステップと、
前記第3の電波の電力に基づいて、前記複数のアンテナの中から送電に使用するアンテナを選択するステップと、
を含むアンテナ選択方法。
【請求項5】
前記送電に使用するアンテナが選択された後、スイッチが、高周波発生部が発生した高周波の出力先を、複数の測定部のうち、前記送電に使用するアンテナに接続された測定部に切り替えるステップをさらに含む請求項4に記載のアンテナ選択方法。
【請求項6】
前記第1の電波の電力の測定は、方向性結合器により前記第1の電波を放射する各アンテナに送信される高周波から分離された高周波の電力を出力電力測定部が測定することにより実行され、前記第2の電波の電力の測定は、前記方向性結合器により前記第2の電波を受信した各アンテナから送信された高周波から分離された高周波の電力を出力電力測定部が測定することにより実行される請求項4に記載のアンテナ選択方法。
【請求項7】
閉空間内で放射した第1の電波の電力を測定する出力電力測定部と、
前記閉空間から受信した第2の電波の電力を測定する受信電力測定部と、
前記第1の電波の電力及び前記第2の電波の電力に基づいて、漏洩電力を推定する電力推定部と、
を備える漏洩電力推定装置。
【請求項8】
前記漏洩電力に基づいて、前記閉空間内における無線電力伝送の可否を判断する判断部をさらに備える請求項7に記載の漏洩電力推定装置。
【請求項9】
閉空間内で各アンテナが放射した第1の電波の電力を測定する出力電力測定部と、

前記閉空間から各アンテナで受信した第2の電波の電力を測定する受信電力測定部と、
前記第1の電波の電力及び前記第2の電波の電力に基づいて、各アンテナに対応する漏洩電力を推定し、各漏洩電力が閾値よりも小さい場合、前記閉空間内に配置された受電装置が各アンテナから受信する第3の電波の電力を推定する電力推定部と、
前記第3の電波の電力に基づいて、送電に使用するアンテナを選択するスイッチと、
を備えるアンテナ選択装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏洩電力推定方法、アンテナ選択方法、漏洩電力推定装置、及びアンテナ選択装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IoT(Internet of Things)化が進む中で、設備においてセンサをはじめとする多数の情報端末を用い、様々な情報を収集することが求められている。これらの情報端末に対する電源の問題を解決するため、マイクロ波を用いて無線で電力を伝送する方法が検討されている。
【0003】
しかし、日本における空間伝送型の無線電力伝送では、電波の強度が壁などで一定以上減衰することが法令上求められている。そのため、空間伝送形の無線電力伝送を用いるためには、壁面での電波の減衰量を測定することが必要である。
【0004】
電波の減衰量を測定する方法として、シールドルームにおいて、その中と外にアンテナを配置し、減衰量を測定するシステムが提案されている(特許文献1)。
【0005】
図8及び図9は、特許文献1に記載されている漏洩電波強度の測定システムを示す図である。
【0006】
特許文献1の測定システムは、シールドルームのシールド性能を評価するためのシステムであり、シールドルームの出入口5に設置されたシールド扉6と、シールド扉6の内側に配置された送信アンテナTX-1~TX-nと、シールド扉6の外側に送信アンテナTX-1~TX-nと対向して配置される受信アンテナRX-1~RX-nと、送信アンテナに接続された送信切替器2と、受信アンテナに接続された受信切替器4と、送信切替器2に接続された送信部1と、受信切替器4に接続された受信部3と、送信部1と受信部3の機能動作を監視制御する監視制御部7とを備える。
【0007】
シールド扉6を開いた状態での電波伝播特性(空間における電波伝播損失)と、シールド扉6を閉めた状態での電波伝播特性(シールド効果)を測定することにより、シールド扉6のシールド性能値、すなわち漏洩する電波の強さを測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007-183211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の漏洩電力を測定するシステムでは、シールド扉部分において透過する電波を測定して、漏洩電力を測定するアルゴリズムとなっているため、電波を送信するアンテナと電波を受信するアンテナを、それぞれ室内と室外に配置する必要があり、かつ特定の位置に配置する必要があるため、簡易な測定が困難である。また、受電装置、及び監視制御装置等が必要であるから、複雑な測定システムが必要となる。
【0010】
このようなことから、法令上求められる外部への漏洩電力の正式な測定を行うことなく、法令を満たすかどうかを簡易的に判断するため、閉空間から漏洩する電波の強度を簡易に推定し、無線電力伝送を閉空間で使用することができるか否かを判断できることが必要である。
【0011】
本開示は、上記課題を解決するもので、送電システムのみの簡易なハードウェア構成で完結し、外部に漏洩する電波の強度を簡易に推定し、無線電力伝送を閉空間で使用することができるか否かの判断を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の一実施例における漏洩電力推定方法は、送電装置が閉空間内で放射した第1の電波の電力及び前記送電装置が前記閉空間から受信した第2の電波の電力を測定するステップと、前記第1の電波の電力及び前記第2の電波の電力に基づいて、漏洩電力を推定するステップと、を含む。
【0013】
本開示の一実施例におけるアンテナ選択方法は、複数のアンテナを有する送電装置が閉空間内で各アンテナが放射した第1の電波の電力及び前記閉空間から各アンテナで受信した第2の電波の電力を測定するステップと、前記第1の電波の電力及び前記第2の電波の電力に基づいて、各アンテナに対応する漏洩電力を推定するステップと、各漏洩電力が閾値よりも小さい場合、前記閉空間内に配置された受電装置が各アンテナから受信する第3の電波の電力を推定するステップと、前記第3の電波の電力に基づいて、前記複数のアンテナの中から送電に使用するアンテナを選択するステップと、を含む。
【0014】
本開示の一実施例における漏洩電力推定装置は、閉空間内で放射した第1の電波の電力を測定する出力電力測定部と、前記閉空間から受信した第2の電波の電力を測定する受信電力測定部と、前記第1の電波の電力及び前記第2の電波の電力に基づいて、漏洩電力を推定する電力推定部と、を備える。
【0015】
本開示の一実施例におけるアンテナ選択装置は、閉空間内で各アンテナが放射した第1の電波の電力を測定する出力電力測定部と、前記閉空間から各アンテナで受信した第2の電波の電力を測定する受信電力測定部と、前記第1の電波の電力及び前記第2の電波の電力に基づいて、各アンテナに対応する漏洩電力を推定し、各漏洩電力が閾値よりも小さい場合、前記閉空間内に配置された受電装置が各アンテナから受信する第3の電波の電力を推定する電力推定部と、前記第3の電波の電力に基づいて、送電に使用するアンテナを選択するスイッチと、を備える。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本開示によれば、送電システムのみの簡易なハードウェア構成で完結し、外部に漏洩する電波の強度を簡易に推定でき、無線電力伝送を閉空間で使用することができるか否かの判断が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】閉空間において無線電力伝送の使用の可否を判断するシステムを示す図
図2A】送電装置の回路構成を示す図
図2B】送電装置と測定装置の回路構成を示す図
図3】無線電力伝送の使用の可否を判断する方法を示す図
図4】送電装置から受電装置への効率的な給電を行うシステムを示す図
図5】送電装置の構成を示す図
図6】受電装置に対して効率的な給電を行うために送電装置が行う方法を示す図
図7】各受信器に対して効率的な給電を行うために送電装置が行う方法を示す図
図8】漏洩電波強度の測定システムを示す図
図9】漏洩電波強度の測定システムを示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施の形態1)
以下、実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
<構造>
図1は、閉空間110において無線電力伝送の使用の可否を判断するシステムを示す図である。
【0020】
図1に示すシステムは、閉空間110と、閉空間110内に配置された送電装置120から構成される。閉空間110は、開口部170が存在しても良い。
【0021】
閉空間110は、無線給電を行うことを想定している空間であり、例えば、冷蔵庫、又は電車の車両、金属製ロッカー、高圧受電設備等である。閉空間110は、その大半が金属により構成される。
【0022】
金属は一般に電波を反射するから、閉空間110は、天面、床面、及び壁面などの金属面における電波の反射により、電波のエネルギーを内部に閉じ込める効果が期待できる。また、金属の材質によっては反射時に電波エネルギーの一部が失われる可能性がある。また、閉空間110の内部に誘電体が存在することによりエネルギーの一部が吸収されて失われる可能性がある。
【0023】
送電装置120は、電波により送電する装置である。電波の周波数は、例えば、920MHz帯、2.4GHz帯、5.7GHz帯などのマイクロ波帯であるが、マイクロ波帯以外の周波数の電波を用いることもできる。
【0024】
出力電波130は、送電装置120で生成されて閉空間110に放射された電波である。出力電波130は、例えば、920MHz帯、2.4GHz帯、5.7GHz帯などのマイクロ波であるが、マイクロ波以外の電波を用いることもできる。無線送電を行う閉空間110の環境、送電装置120と受電装置の大きさ、等により、送電に用いる電波の周波数が選択される。
【0025】
送電装置120の外部に放射された電波は、一部は反射電波150として送電装置120により受信され、一部は漏洩電波140として外部に漏洩し、一部は閉空間内損失160として閉空間110内で消失する。閉空間110の金属面などで反射した電波も、最終的には、送電装置120により受信された反射電波150、漏洩電波140、閉空間内損失160のいずれかとなる。
【0026】
漏洩電波140は、閉空間110の開口部170から閉空間110の外部に漏洩した電波である。漏洩電波140は閉空間110の内部に戻ることがないため、電波エネルギーの損失となる。
【0027】
反射電波150は、閉空間110の天井、床面、壁面などで反射した電波を送電装置120が受信した電波である。送電装置120により受信された反射電波150は、電波エネルギーの損失が少ないほど大きくなる。
【0028】
閉空間内損失160は、閉空間110において生じる電波エネルギーの損失である。閉空間内損失160は、金属面における反射や、誘電体が存在することなどにより生じる。
【0029】
例えば、閉空間110が冷蔵庫であれば冷蔵庫内の食品、閉空間110が電車の車両であれば電車の乗客、金属製ロッカーであれば内部に保管された物品、高圧受電設備でれば電線被覆等により電波が吸収されるので、閉空間内損失160が生じる。閉空間内損失160を正確に把握することは困難であるが、電磁界解析の結果、適用する環境での測定結果、同様の環境における測定結果、又は統計的なデータ等により推定することができる。
【0030】
開口部170は、閉空間110において壁面が金属で構成されない部分であり、扉と金属面の隙間、樹脂、窓ガラス等である。開口部170における電波の反射レベルは金属における反射レベルよりも低くなるため、一部は反射して閉空間110に留まるが、一部は漏洩電波140として外部に漏洩する。
【0031】
図2Aは、送電装置120の回路構成を示す図である。図2Bは、送電装置120と測定装置280の回路構成を示す図である。
【0032】
送電装置120は、高周波発生部210、方向性結合器220、出力電力測定部230、受信電力測定部240、アンテナ250、漏洩電力推定部260、及び判断部270を備える。出力電力測定部230、受信電力測定部240、漏洩電力推定部260、及び判断部270は、1つの制御部により構成されてもよい。
【0033】
また、図2Bに示すように、出力電力測定部230、受信電力測定部240、漏洩電力推定部260、及び判断部270が、送電装置120の外部の測定装置280に設けられてもよい。
【0034】
高周波発生部210は、送電するための高周波を生成する。高周波の周波数は、900MHz帯、2.45GHz帯、5.8GHz帯などのマイクロ波帯であるが、これらに限定されず、マイクロ波帯以外の周波数を用いることもできる。
【0035】
方向性結合器220は、高周波発生部210が生成した高周波をアンテナ250に送信する際に、高周波の一部を分離して出力電力測定部230に送信する。また、方向性結合器220は、アンテナ250が受信した反射電波150の一部を分離して受信電力測定部240に送信する。
【0036】
出力電力測定部230は、方向性結合器220から送信された高周波の電力を測定して、アンテナ250から送信された電波の電力を求める。
【0037】
受信電力測定部240は、方向性結合器220から受信した電波の電力を測定して、アンテナ250が受信した反射電波150の電力を求める。
【0038】
アンテナ250は、方向性結合器220が送信した電波を送電装置120の外部に出力電波130として放射する。また、反射電波150を受信する。
【0039】
漏洩電力推定部260は、出力電力測定部230が測定した出力電力、受信電力測定部240が測定した受信電力、及び予め推定された閉空間内損失160に基づいて、漏洩電力を推定する。この漏洩電力の推定方法については後に詳しく説明する。
【0040】
判断部270は、推定した漏洩電力に基づいて、閉空間110において無線給電を実施することが可能か否か判断する。
【0041】
図3は、無線電力伝送の使用の可否を判断する方法を示す図である。漏洩電力の推定は、送電装置120で実施される。
【0042】
まず、送電装置120の電源がオンにされる(ステップS301)。そして、アンテナ250が、出力電波130を放射し(ステップS302)、反射電波150を受信する(ステップS303)。
【0043】
続いて、出力電力測定部230が、出力電波130の電力を測定し、受信電力測定部240が、アンテナ250が受信した反射電波150の電力を測定する(ステップS304)。
【0044】
方向性結合器220に入力された高周波の電力と、方向性結合器220により分離される高周波の電力との間の関係は決まっているため、出力電力測定部230及び受信電力測定部240はそれぞれ、入力された高周波の電力を測定した結果から、出力電波130及び反射電波150の電力を算出することができる。
【0045】
次に、漏洩電力推定部260は、以下の式により漏洩電力を推定する(ステップS305)。
P_leak = P_out - P_ref - P_loss
【0046】
ここで、P_leakは漏洩電力、P_outは出力電波130の電力、P_refは送電装置120により受信された反射電波150の電力、P_lossは閉空間内損失160である。
【0047】
閉空間内損失160は、シミュレーション、又は同様の環境における測定結果により予め推定しておく。閉空間110内に動体(例えば、電車の乗客)が存在する場合、閉空間内損失160は、その動体の移動が閉空間内損失160に影響を与えると考えられる時間より十分長い一定時間のシミュレーション、又は似た環境での測定結果の平均値などにより推定することができる。
【0048】
その後、判断部270は、漏洩電力が予め決められた閾値未満か否かを判断する(ステップS306)。閾値は、閉空間内損失160の推定の誤差と、一定の安全率を考慮した値として定められる。
【0049】
漏洩電力が閾値未満でない場合(ステップS306,No)、判断部270は、電波を出力することは不可、すなわち、当該閉空間においては無線給電を使用することはできないと判断する(ステップS307)。
【0050】
漏洩電力が閾値未満である場合(ステップS306,Yes)、判断部270は、電波を出力することは可、すなわち、当該閉空間においては無線給電を使用することができると判断する(ステップS308)。
【0051】
日本の法令においては、漏洩電力は、920MHz帯、2.4GHz帯、5.7GHz帯の周波数帯について、それぞれ-10dB、-14dB、-16dBと定められている。
【0052】
本実施形態の手法を用いることで、閉空間110へ送電装置120を配置するだけで容易に漏洩電力の推定を行い、無線電力伝送による無線給電の可否を判断することができる。
【0053】
(実施の形態2)
図4は、送電装置420から受電装置480への効率的な給電を行うシステムを示す図である。説明しない事項は、実施の形態1と同様である。
【0054】
図4に示すシステムは、閉空間110と、閉空間110内に配置された送電装置420及び受電装置480から構成される。閉空間110には、開口部170が存在しても良い。図4は、送電装置420が、複数のアンテナを有している例を示している。受電装置480は1つでも複数でもよい。
【0055】
受電装置480は、送電装置420から放射された出力電波130の内、受電装置480に到達した電波を受電して電力を取り出すことが可能である。受電する電波の周波数は、送電装置420が送電する電波の周波数と同一にする必要がある。
【0056】
電波は、例えば、920MHz帯、2.4GHz帯、5.7GHz帯などのマイクロ波帯の電波であるが、マイクロ波帯以外の周波数の電波を用いることもできる。
【0057】
図5は、送電装置420の構成を示す図である。説明しない事項は、実施の形態1と同様である。
【0058】
送電装置420は、高周波発生部210、スイッチ520、制御部530、測定部540、アンテナ550を有する。図5に示すアンテナ550は、複数のアンテナ250で構成されるダイバーシティアンテナであり、測定部540は各アンテナ250に対応して1つずつ設けられている。なお、アンテナ250の数より多い測定部540が設けられてもよい。
【0059】
測定部540は、方向性結合器220、出力電力測定部230、及び受信電力測定部240を有する。送電装置420とダイバーシティアンテナ550の間は回路や同軸ケーブル等で接続されるが、接続方法は限定されない。
【0060】
スイッチ520は、高周波発生部210が発生した高周波を伝送する測定部540を選択する。スイッチ520は、少なくとも各測定部540に対応した出力を有する。
【0061】
制御部530は、スイッチ520が出力を選択するための制御信号を送信する。制御部530は、測定部540又は受電装置480からフィードバックされた情報等に基づいて、受電装置480全体の受電電力が最大又は最適となるアンテナ250を選択し、無線電力伝送としての効率を最大化又は最適化する。本処理の具体的な内容については後の詳しく説明する。
【0062】
制御部530は、電力推定部560及び判断部570を有する。
【0063】
電力推定部560は、出力電力測定部230が測定した出力電力、受信電力測定部240が測定した受信電力、及び予め推定された閉空間内損失160に基づいて、漏洩電力を推定する。
【0064】
また、電力推定部560は、出力電力測定部230が測定した出力電力、受信電力測定部240が測定した受信電力、及び予め推定された閉空間内損失160、及び上記漏洩電力に基づいて、各受電装置480が受信している電力の合計を推定する。
【0065】
判断部570は、推定した漏洩電力に基づいて、閉空間110において無線給電を実施することが可能か否か判断する。
【0066】
測定部540は、方向性結合器220、出力電力測定部230、及び受信電力測定部240を有する。測定部540は各アンテナ250に対応して設けられている。なお、アンテナ250の数より多い測定部540が設けられてもよい。
【0067】
また、送電装置420の外部の測定装置が、出力電力測定部230、受信電力測定部240、及び制御部530を有していてもよい。
【0068】
ダイバーシティアンテナ550は、複数のアンテナ250を備える。各アンテナ250から放射される出力電波130が、異なる経路を通って複数の受電装置480に届くよう、複数のアンテナ250によりダイバーシティ効果が得られる構成とする。
【0069】
例えば、ダイバーシティ効果は、垂直偏波と水平偏波を用いる偏波ダイバーシティ、1/4λ以上の距離を離隔して配置する位置ダイバーシティ、又は、時間をずらして送信する時間ダイバーシティなどである。このような構成とすることで、各受電装置480が最も強い電波を受信するときのアンテナ250を選択することができる。
【0070】
なお、各アンテナは、離れた位置にあってもよい。また、複数のアンテナ250を用いる代わりに、移動可能な1つのアンテナ250を用いることとしてもよい。
【0071】
図6は、受電装置480に対して効率的な給電を行うために送電装置420が行う方法を示す図である。説明しない事項は、実施の形態1と同様である。
【0072】
まず、送電装置420の電源がオンにされる(ステップS601)。そして、スイッチ520が、ダイバーシティアンテナ550から1つのアンテナ250を選択する(ステップS602)。
【0073】
続いて、選択されたアンテナ250が、出力電波130を放射し(ステップS603)、反射電波150を受信する(ステップS604)。
【0074】
その後、出力電力測定部230が、出力電波130の電力を測定し、受信電力測定部240が、反射電波150の電力を測定する(ステップS605)。
【0075】
方向性結合器220に入力された高周波の電力と、方向性結合器220により分離される高周波の電力との間の関係は決まっているため、出力電力測定部230及び受信電力測定部240はそれぞれ、入力された高周波の電力を測定した結果から、出力電波130及び反射電波150の電力を算出することができる。
【0076】
次に、電力推定部560は、以下の式により漏洩電力を推定する(ステップS606)。
P_leak = P_out - P_ref - P_loss
【0077】
ここで、P_leakは漏洩電力、P_outは出力電波130の電力、P_refは送電装置420により受信された反射電波150の電力、P_lossは閉空間内損失160である。漏洩電力の推定には、実施の形態1と同じ方法を用いることができる。
【0078】
閉空間内損失160は、シミュレーション、又は同様の環境における測定結果により予め推定しておく。閉空間110内に動体(例えば、電車の乗客)が存在する場合、閉空間内損失160は、その動体の移動が閉空間内損失160に影響を与えると考えられる時間より十分長い一定時間のシミュレーション、又は似た環境での測定結果の平均値などにより推定することができる。
【0079】
その後、判断部570は、漏洩電力が予め決められた閾値未満か否かを判断する(ステップS607)。閾値は、閉空間内損失160の推定の誤差と、一定の安全率を考慮した値として定められる。
【0080】
漏洩電力が閾値未満でない場合(ステップS607,No)、判断部570は、電波を出力することは不可と判断する(ステップS608)。
【0081】
漏洩電力が閾値未満である場合(ステップS607,Yes)、判断部570は、全てのアンテナ250について電力測定をしているか否かを判断する(ステップS609)。
【0082】
全てのアンテナ250について電力測定をしていない場合(ステップS609,No)、ステップS602に戻り、スイッチ520が、次のアンテナ250を選択する。
【0083】
全てのアンテナ250について電力測定をした場合(ステップS609,Yes)、閉空間101内部に全ての受電装置480が配置される(ステップS610)。
【0084】
その後、スイッチ520は、ダイバーシティアンテナ550から1つのアンテナ250を選択する(ステップS611)。
【0085】
続いて、選択されたアンテナ250が、出力電波130を放射し(ステップS612)、反射電波150を受信する(ステップS613)。
【0086】
その後、出力電力測定部230が、出力電波130の電力を測定し、受信電力測定部240が、反射電波150の電力を測定する(ステップS614)。
【0087】
次に、電力推定部560は、以下の式により、各受電装置480が受信している電力の合計を推定する(ステップS615)。
P_Rxtotal
= P_out - P_ref - P_loss - P_leak
【0088】
ここで、P_Rxtotalは各受電装置480が受信している電波の電力の合計、P_outは出力電波130の電力、P_refは反射電波150の電力、P_lossは閉空間内損失160、P_leakは漏洩電力である。
【0089】
そして、判断部570は、全てのアンテナ250について電力測定をしているか否かを判断する(ステップS616)。
【0090】
全てのアンテナ250について電力測定をしていない場合(ステップS616,No)、ステップS611に戻り、スイッチ520は、次のアンテナ250を選択する。ダイバーシティアンテナ550が、移動可能な1本のアンテナ250で構成されている場合は、アンテナの位置が変更される。
【0091】
全てのアンテナ250について電力測定した場合(ステップS616,Yes)、スイッチ520は、各受電装置480が受信している電波の電力の合計が最大となるアンテナ250を、無線給電に使用するアンテナとして選択する(ステップS617)。
【0092】
また、空間内に動体が存在するなど伝搬環境に変化がある場合、一定時間毎に測定を行い、アンテナ250を選択しなおしても良い。
【0093】
ダイバーシティアンテナ550が移動可能な1本のアンテナ250で構成されている場合は、ステップS617においてアンテナ250を選択する代わりに、判断部570が、アンテナの位置を決定する。
【0094】
<変形例>
実施の形態2では、各受電装置480が受信している電力の合計が最大になるアンテナを選択することとしたが、複数のアンテナ250のうち受信電力が最大になるアンテナを受電装置480ごとに選択してもよい。以下に、この場合の処理について説明する。
【0095】
図7は、受電装置480に対して効率的な給電を行うために送電装置420が行う方法を示す図である。
【0096】
図7において、ステップS601からステップS609までの処理は、図6に示したステップS601からステップS609までの処理と同じである。
【0097】
ステップS609の処理の後、閉空間110内に1つの受電装置480が設置される(ステップS710)。
【0098】
その後、スイッチ520は、ダイバーシティアンテナ550から1つのアンテナ250を選択する(ステップS611)。
【0099】
続いて、選択されたアンテナ250が、出力電波130を放射し(ステップS612)、反射電波150を受信する(ステップS613)。
【0100】
その後、出力電力測定部230が、出力電波130の電力を測定し、受信電力測定部240が、反射電波150の電力を測定する(ステップS614)。
【0101】
次に、電力推定部560は、以下の式により、受電装置480が受信している電力を推定する(ステップS715)。
P_Rx
= P_out - P_ref - P_loss - P_leak
【0102】
ここで、P_Rxは受電装置480で受信している電波の電力、P_outは出力電波130の電力、P_refは反射電波150の電力、P_lossは閉空間内損失160、P_leakは漏洩電力である。
【0103】
そして、判断部570は、全てのアンテナ250について電力測定をしているか否かを判断する(ステップS616)。
【0104】
全てのアンテナ250について電力測定をしていない場合(ステップS616,No)、ステップS611に戻り、スイッチ520は、次のアンテナ250を選択する。ダイバーシティアンテナ550が、移動可能な1本のアンテナ250で構成されている場合は、アンテナの位置が変更される。
【0105】
全てのアンテナ250について電力測定をした場合(ステップS616,Yes)、送電装置420の記憶部(図示せず)は、ステップS710で設置した受電装置480の受信電力が最大となるアンテナの情報を最適アンテナの情報として記憶する(ステップS717)。
【0106】
その後、判断部570は、全ての受電装置480を配置したか否かを判断する(ステップS718)。
【0107】
全ての受電装置480が配置されていない場合(ステップS718,No)、S710に戻り、今までの受電装置480に代わって、別の受電装置480が新たな位置に配置される。なお、受電装置480が順番に配置される代わりに、すべての受電装置480が配置された後で、受電装置480を順番に動作させてもよい。
【0108】
全ての受電装置480が配置された場合(ステップS718,Yes)、判断部570は、ステップS717で記憶された情報に基づいて、複数のアンテナ250のうち受信電力が最大になるアンテナ250を受電装置480ごとに特定する。
【0109】
そして、スイッチ520は、受電装置480の受信電力が最大となるアンテナ250を、その受電装置480に電力を送信するアンテナ250として受電装置480毎に選択する(ステップS719)。
【0110】
この場合、電力を送信対象となる受電装置480は、順番に選択されてもよいし、受電装置480から受信したバッテリ残量に基づいて選択されてもよい。アンテナ550が移動可能な1本のアンテナ250で構成されている場合、ステップS719において、判断部570は、アンテナ250を特定する代わりに、アンテナの位置を特定する。
【0111】
本開示により、閉空間110内に送電装置120、420を配置するだけで容易に漏洩電力の推定を行うことができる。更に、適切なアンテナ250を選択することで、複数の受電装置480全体に対する給電効率を向上させることが可能となる。
【0112】
以上、図面を参照しながら実施の形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかである。そのような変更例又は修正例についても、本開示の技術的範囲に属するものと了解される。また、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において、実施の形態における各構成要素は任意に組み合わされてよい。
【0113】
(1)本開示の一実施例における漏洩電力推定方法は、送電装置が閉空間内で放射した第1の電波の電力及び前記送電装置が前記閉空間から受信した第2の電波の電力を測定するステップと、前記第1の電波の電力及び前記第2の電波の電力に基づいて、漏洩電力を推定するステップと、を含む。
【0114】
(2)(1)の漏洩電力推定方法は、前記漏洩電力に基づいて、前記閉空間内における無線電力伝送の可否を判断するステップをさらに含む。
【0115】
(3)(1)の漏洩電力推定方法において、前記第1の電波の電力の測定は、方向性結合器により前記第1の電波を放射するアンテナに送信される高周波から分離された高周波の電力を出力電力測定部が測定することにより実行され、前記第2の電波の電力の測定は、前記方向性結合器により前記第2の電波を受信したアンテナから送信された高周波から分離された高周波の電力を出力電力測定部が測定することにより実行される。
【0116】
(4)本開示の一実施例におけるアンテナ選択方法は、複数のアンテナを有する送電装置が閉空間内で各アンテナが放射した第1の電波の電力及び前記閉空間から各アンテナで受信した第2の電波の電力を測定するステップと、前記第1の電波の電力及び前記第2の電波の電力に基づいて、各アンテナに対応する漏洩電力を推定するステップと、各漏洩電力が閾値よりも小さい場合、前記閉空間内に配置された受電装置が各アンテナから受信する第3の電波の電力を推定するステップと、前記第3の電波の電力に基づいて、前記複数のアンテナの中から送電に使用するアンテナを選択するステップと、を含む。
【0117】
(5)(4)のアンテナ選択方法は、前記送電に使用するアンテナが選択された後、スイッチが、高周波発生部が発生した高周波の出力先を、複数の測定部のうち、前記送電に使用するアンテナに接続された測定部に切り替えるステップをさらに含む。
【0118】
(6)(4)のアンテナ選択方法において、前記第1の電波の電力の測定は、方向性結合器により前記第1の電波を放射する各アンテナに送信される高周波から分離された高周波の電力を出力電力測定部が測定することにより実行され、前記第2の電波の電力の測定は、前記方向性結合器により前記第2の電波を受信した各アンテナから送信された高周波から分離された高周波の電力を出力電力測定部が測定することにより実行される。
【0119】
(7)本開示の一実施例における漏洩電力推定装置は、閉空間内で放射した第1の電波の電力を測定する出力電力測定部と、前記閉空間から受信した第2の電波の電力を測定する受信電力測定部と、前記第1の電波の電力及び前記第2の電波の電力に基づいて、漏洩電力を推定する電力推定部と、を備える。
【0120】
(8)(7)の漏洩電力推定装置は、前記漏洩電力に基づいて、前記閉空間内における無線電力伝送の可否を判断する判断部をさらに備える。
【0121】
(9)本開示の一実施例におけるアンテナ選択装置は、閉空間内で各アンテナが放射した第1の電波の電力を測定する出力電力測定部と、前記閉空間から各アンテナで受信した第2の電波の電力を測定する受信電力測定部と、前記第1の電波の電力及び前記第2の電波の電力に基づいて、各アンテナに対応する漏洩電力を推定し、各漏洩電力が閾値よりも小さい場合、前記閉空間内に配置された受電装置が各アンテナから受信する第3の電波の電力を推定する電力推定部と、前記第3の電波の電力に基づいて、送電に使用するアンテナを選択するスイッチと、を備える。
【産業上の利用可能性】
【0122】
閉空間内で無線電力伝送を行うことができるか否を判定することにより、閉空間内に配置されたIoTセンサや電子デバイスをはじめとする様々な機器への電源供給に活用することができる。
【符号の説明】
【0123】
110 閉空間
120 送電装置
130 出力電波
140 漏洩電波
150 反射電波
160 閉空間内損失
170 開口部
210 高周波発生部
220 方向性結合器
230 出力電力測定部
240 受信電力測定部
250 アンテナ
260 漏洩電力推定部
270、570 判断部
280 測定装置
420 送電装置
480 受電装置
520 スイッチ
530 制御部
540 測定部
550 ダイバーシティアンテナ
560 電力推定部
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9