(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175453
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】水素センサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20241211BHJP
G01N 27/407 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
G01N27/416 311H
G01N27/407
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093246
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【弁理士】
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】布尾 孝祐
(72)【発明者】
【氏名】見神 祐一
(72)【発明者】
【氏名】黒羽 智宏
【テーマコード(参考)】
2G004
【Fターム(参考)】
2G004BB04
2G004BE10
2G004ZA01
(57)【要約】
【課題】精度が向上した水素センサを提供する。
【解決手段】本開示の水素センサ10は、プロトン伝導体を含む電解質層12と、電解質層12の第一主面12a上に設けられた第一電極層11と、電解質層12の第二主面12b上に設けられ、かつガス拡散性を有する第二電極層13と、第二電極層13の電解質層12側の第一主面13aと反対側の第二主面13bを被覆する被覆層14と、を備える。第二電極層13の厚みは、電解質層12の厚みよりも大きい。被覆層14の空隙率は、第二電極層13の空隙率よりも小さい。第二電極層13の側面13cの少なくとも一部または第二電極層13の第二主面13bの一部は、水素ガスと接触可能な領域を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン伝導体を含む電解質層と、
前記電解質層の第一主面上に設けられた第一電極層と、
前記電解質層の第二主面上に設けられ、かつガス拡散性を有する第二電極層と、
前記第二電極層の前記電解質層側の第一主面と反対側の第二主面を被覆する被覆層と、
を備え、
前記第二電極層の厚みは、前記電解質層の厚みよりも大きく、
前記被覆層の空隙率は、前記第二電極層の空隙率よりも小さく、
前記第二電極層の側面の少なくとも一部または前記第二電極層の前記第二主面の一部は、水素ガスと接触可能な領域を有する、
水素センサ。
【請求項2】
前記第二電極層の電極面積は、前記第一電極層の電極面積よりも大きい、
請求項1に記載の水素センサ。
【請求項3】
前記第二電極層の厚みは、前記第一電極層の厚みよりも大きい、
請求項1に記載の水素センサ。
【請求項4】
前記水素センサは、前記第二電極層の前記側面に接続された導電端子をさらに備える、
請求項1に記載の水素センサ。
【請求項5】
前記被覆層は電気伝導性を有し、
前記水素センサは、前記被覆層に接続された導電端子をさらに備える、
請求項1に記載の水素センサ。
【請求項6】
前記水素センサは、前記第一電極層に接続された導電端子をさらに備え、
前記導電端子は、前記電解質層の前記第一主面に固定されている、
請求項1に記載の水素センサ、
【請求項7】
前記第二電極層は、Niを含むサーメットを含む、
請求項1に記載の水素センサ。
【請求項8】
前記プロトン伝導体は、Baを含む、
請求項1に記載の水素センサ。
【請求項9】
前記プロトン伝導体は、化学式BaZr1-xMxO3-δで表される化合物を含み、
前記化学式において、
Mは、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Y、Sc、In、およびLuからなる群より選ばれる元素を少なくとも一つ含み、
xの値が0<x<1を満たし、かつ
δの値が0≦δ<1.0を満たす、
請求項1に記載の水素センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水素センサに関する。
【背景技術】
【0002】
プロトン伝導体を用いた水素センサとして、限界電流式水素センサが知られている。
【0003】
特許文献1では、プロトン伝導体を用いた水素センサが開示されている。これによると、プロトンと酸化物イオンを伝導するイオン伝導体を含む固体電解質により、高濃度域の水素の測定が可能な水素センサを提供できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の目的は、精度が向上した水素センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の水素センサは、
プロトン伝導体を含む電解質層と、
前記電解質層の第一主面上に設けられた第一電極層と、
前記電解質層の第二主面上に設けられ、かつガス拡散性を有する第二電極層と、
前記第二電極層の前記電解質層側の第一主面と反対側の第二主面を被覆する被覆層と、
を備え、
前記第二電極層の厚みは、前記電解質層の厚みよりも大きく、
前記被覆層の空隙率は、前記第二電極層の空隙率よりも小さく、
前記第二電極層の側面の少なくとも一部または前記第二電極層の前記第二主面の一部は、水素ガスと接触可能な領域を有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示は、精度が向上した水素センサを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態1による水素センサの一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態1による水素センサの一例の断面を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態1による水素センサの動作を示す断面模式図である。
【
図4】
図4は、実施形態2による水素センサの断面図である。
【
図5A】
図5Aは、第二電極層における水素ガスと接触可能な領域が、第二電極層の側面に設けられている場合の拡散距離を示す模式図である。
【
図5B】
図5Bは、第二電極層における水素ガスと接触可能な領域が、第二電極層の第二主面に設けられている場合の拡散距離を示す模式図である。
【
図6】
図6は、実施例による水素センサの電解質層の作製に用いられるプロトン伝導体の作製方法を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、実施例による水素センサを作製する手順を示す。
【
図8】
図8は、実施例による水素センサの各水素濃度における電流-電圧特性を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施例による水素センサの水素濃度に対する電流値を示すグラフである。
【
図10】
図10は、比較例による水素センサの構成を模式的に示す断面図である。
【
図11】
図11は、比較例による水素センサの各水素濃度における電流-電圧特性を示すグラフである。
【
図12】
図12は、比較例による水素センサの水素濃度に対する電流値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態が、図面を参照しながら詳細に説明される。
【0010】
(実施形態1)
図1および2を参照して、実施形態1に係る水素センサの構成を説明する。
図1は、実施形態1による水素センサの一例を模式的に示す斜視図である。
図2は、実施形態1による水素センサの一例の断面を模式的に示す断面図である。
【0011】
図1および2に示すように、水素センサ10は、プロトン伝導体を含む電解質層12、第一電極層11、第二電極層13、および被覆層14を備える。第一電極層11は、電解質層12の第一主面12a上に設けられている。第二電極層13は、電解質層12の第二主面12b上に設けられ、かつガス拡散性を有している。被覆層14は、第二電極層13の電解質層12側の第一主面13aと反対側の第二主面13bを被覆している。このように、水素センサ10は、第一電極層11、電解質層12、第二電極層13、および被覆層14がこの順で積層されることによって構成されている。第二電極層13の厚みは、電解質層12の厚みよりも大きい。被覆層14の空隙率は、第二電極層13の空隙率よりも小さい。第二電極層13の側面13cの少なくとも一部または第二電極層13の第二主面13bの一部は、水素ガスと接触可能な領域を有する。なお、
図1および
図2には、第二電極層13の側面13cの全体が水素ガスと接触可能な領域に相当する構成の例が示されている。
【0012】
実施形態1による水素センサ10は、いわゆる限界電流式の水素センサである。実施形態1による水素センサ10においては、第二電極層13は、電極としての機能と、水素ガスを外部から流入させてセンサ内部に取り込み、水素を電解質層12へ到達させるための拡散孔としての機能との両方を兼ね備えた構成である。水素ガスの第二電極層13への取り込みは、第二電極層13の側面13cの少なくとも一部または第二電極層13の第二主面13bの一部に設けられた、水素ガスと接触可能な領域によって行われる。したがって、第二電極層13が取り込む水素ガスの量は、第二電極層13の側面13cの少なくとも一部または第二電極層13の第二主面13bの一部に設けられた、水素ガスと接触可能な領域の面積によって制御されうる。このような水素ガスと接触可能な領域の設定は、第二電極層13の第二主面13b上に、第二電極層13よりも空隙率の小さい被覆層14が設けられることにより、第二主面13bからの第二電極層13への水素ガスの流入を制限できるため、実現できる。
【0013】
第二電極層13において、上記の水素ガスと接触可能な領域が第二電極層13の側面13cに設けられる場合、当該領域は、例えば第二電極層13の側面13cの少なくとも一部を外部に露出させることによって形成されうる。第二電極層13の側面13c全体が、水素ガスと接触可能な領域であってもよい。第二電極層13において、上記の水素ガスと接触可能な領域が第二電極層13の第二主面13bに設けられる場合、当該領域は、例えば被覆層14の一部に貫通孔を設けることによって形成されうる。この場合、第二電極層13の第二主面13bの一部は、被覆層14に設けられた上記貫通孔を介して外部に露出するので、水素ガスと接触できる。
【0014】
実施形態1による水素センサ10では、第二電極層13が電解質層12よりも厚いため、第二電極層13を支持体として機能させることができる。したがって、電解質層12の厚みを低減することができるため、その結果、内部抵抗を低減して応答電流を向上させることができる。これにより、実施形態1による水素センサ10は、高い精度で水素を検出することができる。
【0015】
以下に、水素センサ10の各構成、さらに水素センサ10による測定メカニズムについて、より詳しく説明する。
【0016】
水素センサ10では、第一電極層11は、例えば、Niを含むサーメットを電極材料として含んでいてもよい。ここで、Niを含むサーメットとは、Niとセラミックス材料との混合物である。Niを含むサーメットの例として、Ni-YSZ、Ni-BZYb、およびNi-YSZ-BZYbなどが挙げられる。なお、YSZは、イットリア安定化ジルコニアを表す。BZYbは、イッテルビウムが添加されたジルコン酸バリウムを表す。ジルコン酸バリウムは、例えば、BaZr1-x1Ybx1O3-δ1(ここで、x1は、0<x1<1を満たし、さらにδ1の値は、0<δ1<1を満たす)で表される組成を有する。また、第一電極層11は、金属を含んでいてもよい。金属として、例えば、Pt、Pd、Ir、Ag、Ni、Cuなどが挙げられる。
【0017】
第一電極層11の厚みは、例えば1μm以上かつ50μm以下であってもよい。第一電極層11の厚みを1μmとすることにより、面内の集電を適切に行うことができる。一方、第一電極層11の厚みを50μm以下とすることにより、第一電極層11と電解質層12との界面の剥離を防ぐことができる。したがって、第一電極層11の厚みを上記範囲とすることにより、界面の剥離を防ぎつつ、面内の集電を適切に行うことができる。
【0018】
第一電極層11の電極面積は、例えば1mm2以上かつ100mm2以下であってもよい。第一電極層11の電極面積を上記範囲とすることにより、水素センサ10のサイズを抑えながら、センサの精度を向上することができる。ここで、本明細書において、第一電極層11の電極面積とは、第一電極層11の厚み方向における投影面積のことである。
【0019】
第一電極層11は、ペーストの焼成等の湿式法、スパッタリング法およびパルスレーザ堆積(PLD)法のような物理的気相成長(PVD)法、または化学的気相成長(CVD)法等によって、形成することができる。
【0020】
電解質層12に含まれるプロトン伝導体は、例えばBaを含んでいてもよい。Baを含むプロトン伝導体は、高いプロトン伝導度を有することができる。したがって、この構成によれば、電解質層12にプロトン伝導度の高い材料が使用されることになるため、水素センサ10の内部抵抗を低減することができる。
【0021】
Baを含むプロトン伝導体の例として、化学式BaZr1-xMxO3-δで表される化合物、化学式BaCe1-x2M2x2O3-δ2で表される化合物、および化学式BaCe1-x3-y3Zrx3M3y3O3-δ3で表される化合物等が挙げられる。
【0022】
化学式BaZr1-xMxO3-δにおいて、Mは、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Y、Sc、In、およびLuからなる群より選ばれる元素を少なくとも一つであり、xは0<x<1を満たし、δは、0≦δ<1を満たす。
【0023】
化学式BaCe1-x2M2x2O3-δ2において、M2は、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Y、Sc、In、およびLuからなる群より選ばれる元素を少なくとも一つであり、x2は0<x2<1を満たし、さらにδ2は、0<δ2<0.5を満たす。
【0024】
化学式BaCe1-x3-y3Zrx3M3y3O3-δ3において、M3は、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Y、Sc、In、およびLuからなる群より選ばれる元素を少なくとも一つであり、x3は0<x3<1を満たし、y3は0<y3<1を満たし、さらにδ3は、0<δ3<0.5を満たす。
【0025】
電解質層12に含まれるプロトン伝導体は、化学式BaZr1-xMxO3-δで表される化合物を含んでいてもよい。この構成により、電解質層12にプロトン伝導度の高い材料が使用されることになるため、水素センサ10の内部抵抗を低減することができる。
【0026】
上述のとおり、電解質層12の厚みは、第二電極層13の厚みよりも小さい。電解質層12の厚みは、例えば、1μm以上かつ50μm以下であってもよい。電解質層12の厚みを上記範囲とすることにより、水素センサ10の内部抵抗を抑え、精度を向上させることができる。
【0027】
電解質層12は、例えば、テープキャスト法、スピンコート法、ディップコート法、スパッタ、またはPLDにより作製される。
【0028】
第二電極層13は、外部から水素ガスが流入できる構造を有している。したがって、上述のとおり、第二電極層13は、ガス拡散性を有する構造であることが求められる。ガス拡散性を有する構造は、例えば、多孔体である。
【0029】
第二電極層13の空隙率は、例えば20%以上かつ50%以下であってもよい。第二電極層13がこのような空隙率を有することにより、水素センサ10の強度、および第二電極層13の伝導度を担保することができる。ここで、第二電極層13の空隙率は、顕微鏡観察による2値化法により求めることができる。顕微鏡観察による2値化法により空隙率を求めることが困難である場合は、アルキメデス法または水銀圧入法を用いてもよい。アルキメデス法または水銀圧入法を用いて求められる空隙率は、顕微鏡観察による2値化法によって求められる空隙率と差があまりない(例えば、±5%程度以内の差)。したがって、アルキメデス法または水銀圧入法を使用することも可能である。
【0030】
第二電極層13は、例えば、Niを含むサーメットを電極材料として含んでいてもよい。この構成によれば、第二電極層13に水素をプロトン化する活性の高い金属材料が含まれることになる。そのため、水素センサ10は、内部抵抗を低減することができる。
【0031】
第二電極層13は、例えば、第一電極層11の厚みよりも大きい。この構成によれば、第二電極層13の厚みが大きいことで第二電極層13に水素ガスの十分な拡散経路を設けることができる。したがって、水素センサ10は、水素のセンシング精度を向上させることができる。
【0032】
第二電極層13の厚みは、例えば50μm以上かつ1000μm以下であってもよい。第二電極層13の厚みを上記範囲とすることにより、水素センサ10の強度、および第二電極層13の伝導度を担保することができる。
【0033】
第二電極層13の電極面積は、第一電極層11の電極面積よりも大きくてもよい。ここで、本明細書において、第二電極層13の電極面積とは、第二電極層13の厚み方向における投影面積のことである。この構成によれば、第二電極層13の電極面積が大きいことで第二電極層13に水素ガスの十分な拡散経路を設けることができる。したがって、水素センサ10は、水素のセンシング精度が向上する。
【0034】
第二電極層13の電極面積は、例えば50mm2以上かつ500mm2以下であってもよい。第二電極層13の電極面積を上記範囲とすることにより、水素ガスの十分な拡散経路を設けることができる。
【0035】
第二電極層13は、例えば、テープキャスト法、押出成形法、または粉末成形法等により作製される。
【0036】
被覆層14は、例えば、セラミックスを含んでいてもよく、金属材料を含んでいてもよい。被覆層14の材料は、電解質層12の材料と熱膨張係数が近いものが望ましい。これにより、例えば、電解質層12、厚みが大きい第二電極層13、および被覆層14を一括で焼成して水素センサ10を作製する場合であっても、第二電極層13に割れ等の破損が生じにくく、厚みの大きい第二電極層13を作製できる。
【0037】
水素センサ10への水素ガスの流入は、第二電極層13の側面の少なくとも一部または第二電極層13の第二主面13bの一部に設けられた、水素ガスとの接触可能な領域から行われる。したがって、被覆層14のガス透過性は、第二電極層13のガス透過性よりも小さくなるように構成される。すなわち、被覆層14は、第二電極層13よりも小さい空隙率を有するように構成される。被覆層14は多孔体であってもよいし、緻密体であってもよい。
【0038】
被覆層14の空隙率を求める方法は、上述の第二電極層13の空隙率を求める方法と同じである。
【0039】
第二電極層13における水素ガスと接触可能な領域が第二電極層13の第二主面13bに設けられる場合、例えば被覆層14の一部に貫通孔が設けられる。この貫通孔により、第二電極層13の第二主面13bの一部は上記貫通孔を介して外部に露出し、外部の水素ガスと接触できる。この場合、被覆層14に設けられる貫通孔の面積によって、水素センサ10の内部に流入する水素ガスの量を制限することができる。
【0040】
図2に示すように、水素センサ10は、外部電源21により第一電極層11と第二電極層13の間に電圧が印加され、生じる電流量を電流計22により検出される。外部電源21と各電極層とは、電線23を通じて互いに接続されうる。このとき、電線23は、例えば、導電端子15を介して第一電極層11に接続される。また、電線23は、例えば、第二電極層13の側面に接続された導電端子16を介して第二電極層13に接続されうる。この構成により、水素センサ10は、電流を精度よく外部に取り出すことができる。
【0041】
電線23は、第一電極層11の導電端子15が、第一電極層11が接する電解質層12の表面(すなわち、第一主面12a)に固定されていてもよい。この構成により、端子部分の耐久性が向上する。第一電極層11の導電端子15の電解質層12の第一主面12aに対する固定は、例えば、
図2に示すように固定材31によって行われてもよい。固定材31には、たとえば、セラミックスを含んでいてもよい。セラミックスの例としては、アルミナボンド、ガラスなどが挙げられる。
【0042】
次に、
図3を参照しながら、水素センサ10における水素濃度の測定メカニズムについて説明する。
図3は、実施形態1による水素センサ10の動作を示す断面模式図である。
【0043】
水素センサ10は、いわゆる限界電流式のセンサであり、第一電極層11と第二電極層13の間に一定電圧が印加された状態での電流値を測定して、被測定ガスの水素濃度の検出が行われる。
【0044】
まず、第一電極層11と第二電極層13の間に電源21を通じて電圧がかけられる。このとき、電解質層12と第二電極層13の界面付近で、水素がプロトン化する。プロトンは電解質層12を通り、第一電極層11と電解質層12との界面付近で再度、水素となり、系外に排出される。
【0045】
上記の反応が進むと、第二電極層13の中の水素濃度が低下し、第二電極層13の側面を通って、系外から水素が流入する。第二電極層13での水素流入量が制限される場合、水素ガス拡散律速状態となり、流入する水素の量は一定となる。この時、流入する水素の量は、系外の水素濃度に依存することが知られている。
【0046】
一方で、水素センサ10に流れる電流量は、プロトンが流れる量に依存し、流入する水素の量に依存する。すなわち、水素センサ10に流れる電流量を読み取ることで、系外の水素濃度を測定することができ、下記の式(1)で計算される。
【0047】
【0048】
上記式(1)において、Iは電流値、Fはファラデー定数、Dは拡散係数、Sは第二電極層13のガス流入面積、Lは第二電極層13内の拡散距離、Cは系外の水素濃度を表す。実施形態1による水素センサ10において、第二電極層13のガス流入面積は、第二電極層13の側面の少なくとも一部または第二電極層13の第二主面13bの一部に設けられた、水素ガスと接触可能な領域の面積に相当する。第二電極層13内の拡散距離は、第二電極層13の側面13cの少なくとも一部または第二電極層13の第二主面13bの一部に設けられた、水素ガスと接触可能な領域から、第二電極層13と電解質層12との界面において反応(水素がプロトン化する反応)が生じる領域に至るまでの距離に相当する。ここで、第二電極層13と電解質層12との界面において反応(水素がプロトン化する反応)が生じる領域とは、第一電極層11、電解質層12、及び第二電極層13の積層方向に沿って、第一電極層11を第二電極層13と電解質層12との界面に投影することによって形成される、第一電極層11の投影領域である。
【0049】
図5Aは、第二電極層13における水素ガスと接触可能な領域が第二電極層13の側面に設けられている場合の拡散距離を示す模式図である。また、
図5Bは、第二電極層13における水素ガスと接触可能な領域が、第二電極層13の第二主面13bに設けられている場合の拡散距離を示す模式図である。
図5Aにおいて、第二電極層13の側面13cに設けられた、水素ガスと接触可能な領域は、符号131で示されている。また、
図5Aにおいて、第二電極層13と電解質層12との界面において反応(水素がプロトン化する反応)が生じる領域である、第一電極層11、電解質層12、及び第二電極層13の積層方向に沿って、第一電極層11を第二電極層13と電解質層12との界面に投影することによって形成される第一電極層11の投影領域は、符号132で示されている。この場合、領域131から第一電極層11の投影領域132に至るまでの最短距離Lが拡散距離となる。なお、第二電極層13の側面13c全体が水素ガスと接触可能な領域として設定される場合は、側面13cの第二電極層13の厚さ方向における中央の位置から投影領域132までの最短距離を拡散距離とする。
図5Bにおいて、第二電極層13の第二主面13bに設けられた、水素ガスと接触可能な領域は、符号133で示されている。また、
図5Bにおいて、第二電極層13と電解質層12との界面において反応(水素がプロトン化する反応)が生じる領域である、第一電極層11、電解質層12、及び第二電極層13の積層方向に沿って、第一電極層11を第二電極層13と電解質層12との界面に投影することによって形成される第一電極層11の投影領域は、符号134で示されている。この場合、領域133から第一電極層11の投影領域134に至るまでの最短距離Lが拡散距離となる。
【0050】
なお、
図1に示されている水素センサ10の形状は板状である。しかし、第一電極層11、電解質層12、第二電極層13、および被覆層14が上記の順で積層された構成であるかぎりにおいては、水素センサ10の形状は限定されない。水素センサ10は、例えば円筒形状であってもよい。その場合、円筒の内周側から外周側に向かって、第一電極層11、電解質層12、第二電極層13、および被覆層14がこの順で、または逆の順で積層されていればよい。水素センサ10が円筒形状である場合、各層の側面とは、円筒の端面に相当する。また、各層の主面とは、各層が形成する円筒の側面に相当する。
【0051】
(実施形態2)
図4を参照して本開示の実施形態2による水素センサの構成について説明する。
図4は、実施形態2による水素センサ40の断面図である。
【0052】
実施形態2による水素センサ40は、実施形態1による水素センサ10とは、電線23が、被覆層14に接続される点で相違する。すなわち、水素センサ40において、被覆層14は電気伝導性を有し、水素センサ40は、被覆層14に接続された導電端子41をさらに備える。被覆層14が電気伝導性を有することによって、第二電極層13の側面13cに接続せずとも、電極間に電圧を印加し、電流を精度よく外部に取り出すことができる。
【0053】
[他の実施形態]
(付記)
以上の実施形態の記載により、下記の技術が開示される。
【0054】
(技術1)
プロトン伝導体を含む電解質層と、
前記電解質層の第一主面上に設けられた第一電極層と、
前記電解質層の第二主面上に設けられ、かつガス拡散性を有する第二電極層と、
前記第二電極層の前記電解質層側の第一主面と反対側の第二主面を被覆する被覆層と、
を備え、
前記第二電極層の厚みは、前記電解質層の厚みよりも大きく、
前記被覆層の空隙率は、前記第二電極層の空隙率よりも小さく、
前記第二電極層の側面の少なくとも一部または前記第二電極層の前記第二主面の一部は、水素ガスと接触可能な領域を有する、
水素センサ。
【0055】
この構成により、技術1による水素センサは、電解質層の厚みを低減できるため、内部抵抗を低減して応答電流を向上させることができる。したがって、技術1によれば、精度が向上した水素センサを提供することができる。
【0056】
(技術2)
前記第二電極層の電極面積は、前記第一電極層の電極面積よりも大きい、
技術1に記載の水素センサ。
【0057】
技術2による水素センサによれば、第二電極層の電極面積が大きいことで第二電極層に水素ガスの十分な拡散経路を設けることができるため、水素のセンシング精度が向上する。
【0058】
(技術3)
前記第二電極層の厚みは、前記第一電極層の厚みよりも大きい、
技術1または2に記載の水素センサ。
【0059】
技術3による水素センサによれば、第二電極層の厚みが大きいことで第二電極層に水素ガスの十分な拡散経路を設けることができるため、水素のセンシング精度が向上する。
【0060】
(技術4)
前記水素センサは、前記第二電極層の前記側面に接続された導電端子をさらに備える、
技術1から3のいずれか一項に記載の水素センサ。
【0061】
導電性を有する第二電極層に導電端子が接続されているため、技術4による水素センサは、電流を精度よく外部に取り出すことができる。
【0062】
(技術5)
前記被覆層は電気伝導性を有し、
前記水素センサは、前記被覆層に接続された導電端子をさらに備える、
技術1から3のいずれか一項に記載の水素センサ。
【0063】
導電性を有する被覆層に導電端子が接続されているため、技術5による水素センサは、電流を精度よく外部に取り出すことができる。
【0064】
(技術6)
前記水素センサは、前記第一電極層に接続された導電端子をさらに備え、
前記導電端子は、前記電解質層の前記第一主面に固定されている、
技術1から5のいずれか一項に記載の水素センサ。
【0065】
第一電極層に接続された導電端子が電解質層に固定されているため、技術6による水素センサは、端子部分の耐久性を向上させることができる。
【0066】
(技術7)
前記第二電極層は、Niを含むサーメットを含む、
技術1から6のいずれか一項に記載の水素センサ。
【0067】
第二電極層に水素をプロトン化する活性の高い金属材料が含まれるため、技術7による水素センサは、内部抵抗を低減することができる。
【0068】
(技術8)
前記プロトン伝導体は、Baを含む、
技術1から7のいずれか一項に記載の水素センサ。
【0069】
技術8による水素センサによれば、電解質層にプロトン伝導度の高い材料が使用される。したがって、技術8による水素センサは、内部抵抗を低減することができる。
【0070】
(技術9)
前記プロトン伝導体は、化学式BaZr1-xMxO3-δで表される化合物を含み、
前記化学式において、
Mは、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Y、Sc、In、およびLuからなる群より選ばれる元素を少なくとも一つ含み、
xの値が0<x<1を満たし、かつ
δの値が0≦δ<1を満たす、
技術1から8のいずれか一項に9記載の水素センサ。
【0071】
技術9による水素センサによれば、電解質層にプロトン伝導度の高い材料が使用される。したがって、技術9による水素センサは、内部抵抗を低減することができる。
【実施例0072】
以下、本開示が、以下の実施例および比較例を参照しながらより詳細に説明される。以下に説明されるように、実施例において、プロトン伝導体および、それを用いた水素センサが作製された。そして水素センサの特性が評価された。
【0073】
[実施例]
<プロトン伝導体の作製>
図6は、実施例による水素センサの電解質層の作製に用いられるプロトン伝導体の作製方法を示すフローチャートである。
図6を参照しながら、電解質層の作製に用いられるプロトン伝導体としての電解質粉末の作製について説明する。
【0074】
プロトン伝導体の出発原料として、以下の材料が用意された。
Ba(NO3)2(関東化学株式会社製) 0.097mol
ZrO(NO3)2・2H2O(関東化学株式会社製) 0.08mol
Yb(NO3)3・αH2O(2<α<6、株式会社高純度化学研究所製) 0.02mol
【0075】
上記の出発原料を蒸留水1000mLに添加して溶解させて混合液を得て、当該混合液を攪拌した(S51)。
【0076】
次に、混合液に、クエン酸一水和物(関東化学株式会社製)0.3molおよびエチレンジアミン四酢酸(関東化学株式会社製)0.3molを加えた(S52)。以下、「エチレンジアミン四酢酸」は、「EDTA」と呼ばれる。
【0077】
次に、pHメーター(株式会社堀場製作所製)を用いて混合液のpHを測定しながら、アンモニア水(28重量%、関東化学株式会社製)を混合液に添加して、混合液のpHを7に調整した(S53)。
【0078】
次いで、90℃の温度で、混合液を攪拌した(S54)。
【0079】
ホットスターラーを用いて、混合液の温度を95℃から240℃まで上げて、溶媒(すなわち、水)を蒸発させた(S55)。このようにして、水を混合液から除去し、固形物を得た。
【0080】
得られた固形物が乳鉢内で粉砕された後、約400℃の温度で脱脂された(S56)。このようにして、粉末を得た。
【0081】
油圧ポンプ(エナパック株式会社製)および30ミリメートルの直径を有する粉末成形金型を用いて、得られた粉末が円柱状にプレスされた。このようにして、円柱状の成形物を得た。その後、得られた円形状の成形物は、900℃で10時間、大気雰囲気下、仮焼成された(S57)。このようにして、仮焼成された粉末を得た。
【0082】
仮焼成された粉末は、粉砕された(S58)。次いで、粉砕された粉末は、ジルコニア製ボールとともに、プラスチック製容器に移された。
【0083】
そして、プラスチック製容器に、エタノール(関東化学株式会社製)100gを加えた。このようにして得られた混合液は、ボールミルにより4日間、粉砕された(S59)。
【0084】
ボールミルによる粉砕後、ランプを用いて混合液を乾燥し、混合液からエタノールを除去した(S60)。このようにして、粉末を得た。
【0085】
得られた粉末は、1200℃で5時間、大気雰囲気下、本焼成された(S61)。
【0086】
このようにして、化学式:Ba0.97Zr0.8Yb0.2O3-δ(δは酸素欠損量、0≦δ<1.0)で表される電解質粉末が調製された。
【0087】
<水素センサの作製>
図7は、実施例による水素センサを作製する手順を示す。
【0088】
(水素センサに用いる電解質層用グリーンシートの作製)
図7を参照しながら、電解質層用グリーンシートの作製について説明する。
【0089】
電解質層用グリーンシートを得るためにセラミックススラリーを調製した。
【0090】
以下の材料を混合して、電解質セラミックススラリーが調製された(S100)。
Ba0.97Zr0.8Yb0.2O3-δの電解質材料 50g
ポリビニルブチラール(積水化学工業株式会社製) 5g
ブチルベンジルフタレート(関東化学株式会社製) 1.25g
混合溶媒 40g
【0091】
混合溶媒は、酢酸ブチル(関東化学株式会社製)20gおよび1-ブタノール(関東化学株式会社製)20gから構成されていた。このようにして、電解質層用セラミックススラリーを調製した。
【0092】
次に、約50μmの厚さを有するポリエチレンテレフタレートフィルムからなる支持シート上に、ドクターブレード法により、電解質膜用セラミックススラリーからなる膜を形成した(S101)。得られたスラリーからなる膜を80℃の温度で加熱して、溶媒を蒸発させた。このようにして、電解質層用グリーンシートが作製された。電解質層用グリーンシートは、約21μmの厚みを有していた。
【0093】
(水素センサに用いる第二電極層用グリーンシートの作製)
図7を参照しながら、第二電極層用グリーンシートの作製について説明する。
【0094】
第二電極層用グリーンシートを得るためにセラミックススラリーを調製した。
【0095】
以下の材料を混合して、第二電極用セラミックススラリーが調製された(S200)。
Ba0.97Zr0.8Yb0.2O3-δの電解質材料 10g
ポリビニルブチラール(積水化学工業株式会社製) 5g
ブチルベンジルフタレート(関東化学株式会社製) 1.25g
NiO(住友金属鉱山株式会社製)40g
混合溶媒 40g
【0096】
混合溶媒は、酢酸ブチル(関東化学株式会社製)20gおよび1-ブタノール(関東化学株式会社製)20gから構成されていた。このようにして、第二電極層用セラミックススラリーを調製した。
【0097】
次に、約50μmの厚さを有するポリエチレンテレフタレートフィルムからなる支持シート上に、ドクターブレード法により、第二電極用セラミックススラリーからなる膜を形成した(S201)。得られたスラリーからなる膜を80℃の温度で加熱して、溶媒を蒸発させた。このようにして、第二電極層用グリーンシートが作製された。第二電極層用グリーンシートは、約30μmの厚みを有していた。
【0098】
(水素センサに用いる被覆層用グリーンシートの作製)
被覆層用グリーンシートは、電解質層用グリーンシートと同様の方法で作製された(S300およびS301)。
【0099】
(グリーンシートの積層および積層体の作製)
電解質層用グリーンシートをカットして、カットされた1枚の電解質層用グリーンシートを得た(S102)。次いで、カットされた1枚の電解質層用グリーンシートからポリエチレンテレフタレートフィルムをはがした。カットされた1枚の電解質層用グリーンシートは、140mm×140mmのサイズを有していた。
【0100】
第二電極層用グリーンシートをカットして、カットされた1枚の第二電極層用グリーンシートを得た(S202)。カットされた1枚の第二電極層用グリーンシートは、140mm×140mmのサイズを有していた。
【0101】
カットされた複数の第二電極層用グリーンシートが積層され、積層体を得た。得られた積層体は、約700μmの厚さを有していた。
【0102】
その後、積層体をホットプレスした。ホットプレスは、85℃、13MPaの条件下、実施された。このようにして、第二電極層が作製された。
【0103】
被覆層用グリーンシートをカットして、カットされた1枚の被覆層用グリーンシートを得た(S302)。次いで、カットされた1枚の被覆層用グリーンシートからポリエチレンテレフタレートフィルムをはがした。カットされた1枚の被覆層用グリーンシートは、140mm×140mmのサイズを有していた。
【0104】
さらに、第二電極層の第1主面上に1枚の電解質層用グリーンシートを積層し、第2主面上に1枚の被覆層用グリーンシートを積層して、積層体を得た(S400)。そして、得られた積層体をホットプレスした。
【0105】
ホットプレスは、80℃、13MPaの条件下、実施された。このようにして成形体を得た。
【0106】
得られた成形体を、さらに50MPaの圧力でプレス(三庄インダストリー株式会社製)して、グリーンシート積層体が得られた(S401)。
【0107】
グリーンシート積層体をΦ25mmの大きさにカットし(S402)、サンプルを得た(S403)。
【0108】
最後に、カットされた積層体を1400℃で2時間、大気雰囲気下で、焼成した。このようにして、実施例によるハーフセルが作製された。
【0109】
(第一電極層の形成)
さらに、得られたハーフセルに、第一電極層が設けられた。
【0110】
NiO-Ba0.97Zr0.8Yb0.2O3-δペースト(日新化成製)を、ハーフセルの電解質層上に、スクリーン印刷法で塗布した。塗布されたNiO-Ba0.97Zr0.8Yb0.2O3-δペーストは、10mmの直径を有していた。このようにして、水素センサの前駆体を得た(S404)。
【0111】
そして、水素センサの前駆体を1400℃で2時間、大気雰囲気下で、焼成した。このようにして実施例による水素センサが作製された(S405)。
【0112】
<第二電極層および被覆層の空隙率の評価>
実施例1による第二電極層および被覆層の空隙率は、走査型電子顕微鏡(SEM)によって分析された。分析のために用いたSEMは、JSM7900F(日本電子社製)であった。3kVの加速電圧で、第二電極層および被覆層の断面のSEM画像を取得した。SEM画像において空隙の箇所を画像解析により求めて、その面積割合を算出した。算出されたSEM画像における第二電極層および被覆層の空隙の面積割合を、それぞれ、第二電極層および被覆層の空隙率とみなした。
【0113】
測定の結果、第二電極層の空隙率は30%であり、被覆層の空隙率は0%であった。すなわち、実施例の水素センサでは、被覆層の空隙率<第二電極層の空隙率の構成を満たしていた。
【0114】
<水素センサの特性評価>
実施例による水素センサを用いて、水素とアルゴンを供給し、各水素濃度での電流-電圧特性を評価した。
【0115】
石英管の中に水素センサを設置し、電気炉で石英管を加熱した。アルゴンを50sccmで供給しながら、水素センサ付近の温度が700℃になるまで昇温した。700℃で水素ガスを50sccmに切り替え、12時間NiOの還元を行った。
【0116】
次に、センサの温度が500℃になるまで降温し、500℃で1時間保持した。その後、流通ガスを所定の水素濃度になるように、水素ガスとアルゴンガスの供給流量を設定し、1時間安置した後、ポテンショガルバノスタットを用いて、電流-電圧特性を評価した。電流-電圧特性の評価には、電極間の電圧が0Vから2Vまで0.1V刻みで測定し、各電圧での保持時間を30秒とした。
【0117】
各水素濃度での電流-電圧特性として、
図8に示す結果が得られた。
図8は、実施例による水素センサの各水素濃度における電流-電圧特性を示すグラフである。
【0118】
図8に示された結果において、1Vのときの電流値を水素濃度に対してプロットしたグラフが
図9であった。すなわち、
図9は、実施例による水素センサの水素濃度に対する電流値を示すグラフである。
図9に示すように、実施例に係る水素センサは、水素濃度と電流が比例関係にあり、電流値から水素濃度を測定することが可能であることがわかった。さらに、特許文献1に示すセンサの電流値よりも、おおよそ100倍程度向上しており、水素センサの精度が向上できることがわかった。
【0119】
[比較例]
<プロトン伝導体の作製>
比較例では、実施例と同様の方法で、Ba0.97Zr0.8Yb0.2O3-δ(δは酸素欠損量、0≦δ<1.0)の電解質粉末が、プロトン伝導体として調製された。
【0120】
<電解質ペレットの作製>
得られた電解質粉末を円柱状に成形した後、、冷間静水圧プレスによりプレス圧200MPaでペレットに成型し、1750℃で24時間焼成して、焼結体を得た。そして、得られた焼結体を10mm×10mm×1mmのサイズに加工し、表面を3μm砥粒のラッピングフィルムシートで表面を研磨することで電解質ペレットを得た。
【0121】
<水素センサの作製>
得られた電解質ペレットの両面にPtペースト(田中貴金属製)をスクリーン印刷により塗布した。850℃で2時間焼成することで、Pt電極層を電解質ペレットに焼き付けた。
【0122】
電極を焼き付けたペレットの片面における周縁部にガラスペースト(日本電気硝子製)をスクリーン印刷により塗布した。さらに、ペレットと同サイズのフォルステライト板(東ソーニッケミ製)の片面の周縁部にも同等に、同ガラスペーストをスクリーン印刷により塗布した。なお、ガラスペーストは、完成した水素センサにおいて水素ガスの拡散孔が設けられる部分を避けて、スクリーン印刷された。これらを600℃で10分間焼成することで、ガラスペーストに含まれるバインダの脱バインダ処理を行った。得られた電解質ペレットとフォルステイト板とを、ガラス塗布面を互いに対向させて貼り合わせた後、800℃で1時間焼成することで、水素センサを得た。なお、比較例の水素センサには、電極層が設けられた電解質ペレットとフォルステイト板との間に、ガラスペーストによって形成されたガラス層が配置された。このガラス層には、上述のとおりガラスペーストをスクリーン印刷する際に印刷されなかった部分に相当する箇所に、貫通孔が形成された。この貫通孔を水素ガスの拡散孔とした。なお、
図10は、比較例による水素センサの構成を模式的に示す断面図である。比較例による水素センサ100は、電解質ペレット101と、電解質ペレット101の両面上にそれぞれ設けられた電極層102と、電解質ペレット101と対向して配置されたフォルステイト板103と、電解質ペレット101とフォルステイト板103との間の周縁部に設けられたガラス層104とを備えていた。フォルステイト板103とガラス層104とによって、電解質ペレット101のフォルステイト板103と対向する面に設けられた電極層102が蔽われていた。ガラス層104に貫通孔105が形成されて、この貫通孔105を水素センサ100の内部に水素ガスを流入させるための拡散孔とした。
【0123】
以上のとおり、比較例の水素センサは、特許文献1に開示されている限界電流式の水素センサと同様の構成を有していた。
【0124】
(水素センサの特性評価)
比較例による水素センサについて、実施例と同様の方法で特性評価を行った。
図11は、比較例による水素センサの各水素濃度における電流-電圧特性を示すグラフである。
図12に示された結果において、1Vのときの電流値を水素濃度に対してプロットしたグラフが
図12であった。すなわち、
図12は、比較例による水素センサの水素濃度に対する電流値を示すグラフである。
【0125】
実施例の水素センサと比較すると、比較例の水素センサにおいて得られる電流は、実施例の水素センサの1/100程度であった。すなわち、実施例の水素センサは、従来の水素センサよりも電流値が100倍程度向上するので、水素センサの精度が向上できることがわかった。