(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175456
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】亜鉛系めっき鋼板
(51)【国際特許分類】
B32B 15/01 20060101AFI20241211BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20241211BHJP
C23C 2/06 20060101ALI20241211BHJP
C23C 2/26 20060101ALI20241211BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
B32B15/01 C
B32B15/08 N
C23C2/06
C23C2/26
C23C28/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093253
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】柴尾 史生
【テーマコード(参考)】
4F100
4K027
4K044
【Fターム(参考)】
4F100AA02C
4F100AA37D
4F100AB03A
4F100AB18B
4F100AB22B
4F100AB23B
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4K027AA05
4K027AA22
4K027AB05
4K027AB15
4K027AB43
4K027AC52
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4K027AE02
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4K044AA02
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4K044BB04
4K044BC02
4K044BC09
4K044CA11
4K044CA16
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】所定の視認性、黒色度を満たし、スパングル模様を有する、亜鉛系めっき鋼板を提供すること。
【解決手段】鋼板(11)と、前記鋼板(11)の少なくとも一方の表面に位置している亜鉛系めっき層(13)と、前記亜鉛系めっき層(13)の表面に明度が異なるスパングル模様と、前記スパングル模様上に酸化皮膜(14)とを備え、平均L*値が60以下である亜鉛系めっき鋼板(1)。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と、
前記鋼板の少なくとも一方の表面に位置している亜鉛系めっき層と、を有する亜鉛系めっき鋼板であり、
JIS Z 8722に準拠した正反射光を含む条件で、φ10mm~φ30mmにおける面積で測定したL*値の平均が60以下であり、
前記亜鉛系めっき層表面にスパングル模様が存在し、前記スパングル模様上に酸化皮膜が形成されており、前記スパングル模様毎に明度が異なることを特徴とする亜鉛系めっき鋼板。
【請求項2】
前記スパングル模様の基底面の明度が高配向面の明度より大きい、
請求項1に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項3】
前記基底面の面積(SB)と前記高配向面の面積(SH)の比(SH/SB)が1.0~5.0である請求項2に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項4】
前記酸化皮膜において、前記基底面上に形成された酸化皮膜平均厚(TB)と前記高配向面上に形成された酸化皮膜平均厚(TH)の比(TH/TB)が2.0~7.0であることを特徴とする請求項3に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項5】
前記酸化皮膜の表面に皮膜を有し、前記皮膜中にふっ素元素を非含有とすることを特徴とする請求項4に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項6】
前記皮膜の平均厚みが0.1~20μmであることと特徴とする請求項5に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項7】
前記皮膜中に黒色顔料を含有することを特徴とする請求項6に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛系めっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器、建材、及び、自動車をはじめとして、人々の目に触れる物品は、一般的に意匠性が求められる。意匠性を高める方法としては、物品の表面に対して塗装を施したりフィルムを貼り付けたりする方法が一般的であるが、近年、自然志向の欧米を中心に、金属の質感を活かした材料の適用が増加している。金属の質感を活かすという観点からすると、塗装や樹脂被覆は金属の質感を損なうため、物品の素材として、無塗装のままでも耐食性に優れるステンレス鋼材やアルミ材が用いられている。また、ステンレス鋼材やアルミ材の意匠性を向上させるために、バイブレーションと呼ばれる円弧状の細かい凹凸を付与したり、ヘアラインなどが施されたりする。さらにステンレス鋼材やアルミ材の意匠性を高めるため、着色する場合がある。
【0003】
バイブレーションやヘアライン加工したステンレス鋼材やアルミ材はユーザーとの距離が50cm未満の距離で視認性が高い。そのためユーザーとの距離が比較的近い用途(例えば、電気機器筐体)に多用される。一方、ユーザーとの距離が50cm以上となる場合には視認が困難となる。そのため、この様な用途(例えば、内装建材や外装建材)に使用されるケースは少ない。
【0004】
ユーザーとの距離が50cm以上である用途には、後めっき鋼材が多用されている。後めっき鋼材は溶融亜鉛めっき浴に成形加工後の鋼材を浸漬した後、引き上げ、冷却して作製する。後めっき材の表面にはスパングル模様が形成される。このスパングル模様は前述のバイブレーションやヘアラインと比較して模様サイズが大きく、ユーザーとの距離が離れていても視認しやすい。また、鋼材に対して防食機能を有する亜鉛層が形成されるため、耐久性にも優れている。
【0005】
後めっき材を内装建材や外装建材に使用する場合、ユーザーが眩しいと感じないように防眩性が求められる。また、周囲環境との調和を目的に黒色意匠が求められる場合がある。このような用途については、後めっき鋼材にりん酸亜鉛処理を施して黒色化した材料が使用されている。
一般的に、りん酸亜鉛処理は、加工後の鋼材と塗膜の密着性を向上させるために使用されている。また、内装建材や外装建材など、ユーザーとの距離が離れている用途にも使用されている。
【0006】
一方、近年の省CO2化ニーズにより、これら材料の軽量化ニーズが高まっている。後めっき鋼材は、めっき時の熱が原因で鋼材にひずみが生じる。そのため適用可能な板厚下限があり、一般的には鋼板の板厚を1.6mm以上とする必要がある。意匠性付与が目的であれば板厚は薄くても良い、という用途に対しても上記理由により板厚1.6mmの後めっき鋼材が使用されてきた。また、鋼材のCO2排出量はエネルギーや炭素を大量に使用する上工程(製銑、製鋼、鋳造)がほとんどを占める。そのため鋼材重量に概ね比例してCO2排出量が増大する。このように、内装建材や外装建材に使用される後めっき鋼材の板厚低減ニーズがある。
【0007】
板厚が薄い鋼材表面に亜鉛系めっき層を形成する方法として、連続ラインで亜鉛めっき鋼板を製造する技術が広く用いられている。
また、連続ラインで亜鉛めっき層にスパングル模様を付与する技術として、亜鉛めっき浴に鉛やアンチモンを添加した溶融亜鉛めっき鋼板に関する技術(以下の特許文献1を参照)が提案されている。
【0008】
亜鉛めっきにりん酸亜鉛処理を施すことで黒色化する技術として、りん酸塩を含む溶液をスプレー噴霧しめっき層表面にりん酸亜鉛皮膜を形成する技術(以下の特許文献2を参照)が提案されている。
特許文献3~5には亜鉛めっき鋼板表面を連続ラインに黒色を含む着色樹脂皮膜を被覆する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】日本国特開平8-74018号公報
【特許文献2】日本国特開昭62-50478号公報
【特許文献3】日本国登録実用新案第3192959号公報
【特許文献4】日本国特開2006-124824号公報
【特許文献5】日本国特表2013-536901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
スパングル模様を有するめっき鋼板に、上記特許文献3~特許文献5で提案されているような、黒色の有機樹脂を被覆する技術を適用すると、黒色塗膜によりスパングル模様が隠蔽されるため、スパングル模様と黒色外観を両立することが困難であった。
【0011】
また、上記特許文献2で示されているように黒色外観を呈するには、りん酸亜鉛処理液中にニッケルを含有する必要がある。このような処理を亜鉛めっき鋼板に適用すると耐食性が低下する。また、黒色有機樹脂を被覆する技術と同様にスパングル模様が隠蔽されて視認性が低下するという課題を有していた。
【0012】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、所定の視認性、黒色度を満たし、スパングル模様を有する、亜鉛系めっき鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
課題を解決するための手段は、以下の態様を含む。
<1>本発明の一実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板は、鋼板と、前記鋼板の少なくとも一方の表面に位置している亜鉛系めっき層と、を有する亜鉛系めっき鋼板であり、JIS Z 8722に準拠した正反射光を含む条件で、φ10mm~φ30mmにおける面積で測定したL*値の平均が60以下であり、前記亜鉛系めっき層表面にスパングル模様が存在し、前記スパングル模様上に酸化皮膜が形成されており、前記スパングル模様毎に明度が異なることを特徴とする亜鉛系めっき鋼板。
<2>上記<1>に記載の亜鉛系めっき鋼板は、前記スパングル模様の基底面の明度が高配向面の明度より大きくてよい。
<3>上記<2>に記載の亜鉛系めっき鋼板は、前記基底面の面積(SB)と前記高配向面の面積(SH)の比(SH/SB)が1.0~5.0であってよい。
<4>上記<2>または<3>に記載の亜鉛系めっき鋼板は、前記酸化皮膜において、基底面上に形成された酸化皮膜平均厚(TB)と高配向面上に形成された酸化皮膜平均厚(TH)の比(TH/TB)が2.0~7.0であってよい。
<5>上記<1>~<4>のいずれか1つに記載の亜鉛系めっき鋼板は、前記亜鉛系めっき層の表面に皮膜を有し、前記皮膜中にふっ素元素を非含有であってよい。
<6>上記<1>~<5>のいずれか1つに記載の亜鉛系めっき鋼板は、前記皮膜の平均厚が0.1~20μmであってよい。
<7>上記または<1>~<6>のいずれか1つに記載の亜鉛系めっき鋼板は、前記皮膜中に黒色顔料を有してよい。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明によれば、所定の黒色度および視認性を満たし、スパングル模様を有する亜鉛系めっき鋼板を提供することが可能となる。また、めっき鋼板の黒色度を制御することにより、防眩性を向上させることもできる。さらに、亜鉛めっき鋼板の厚さは制限されないので、1.6mm以下または未満の厚さでもよく、省CO2に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】本実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板の構造の一例を模式的に示した説明図である。
【
図1B】本実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板の構造の一例を模式的に示した説明図である。
【
図2A】スパングル模様毎の明度の違いの一例を模式的に示した説明図である。(酸化皮膜層を形成する前)
【
図2B】スパングル模様毎の明度の違いの一例を模式的に示した説明図である。(酸化皮膜層を形成した後)
【
図3】本実施形態に関わるスパングル模様の写真である(酸化皮膜を形成した後)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
化学組成の各元素の含有量の「%」表示は、「質量%」を意味する。
「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
「~」の前後に記載される数値に「超」または「未満」が付されている場合の数値範囲は、これら数値を下限値または上限値として含まない範囲を意味する。
「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0017】
本発明の一実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板は、
鋼板と、前記鋼板の少なくとも一方の表面に位置している亜鉛系めっき層を有する亜鉛系めっき鋼板であり、
JIS Z 8722に準拠した正反射光を含む条件で測定した明度をφ10mm~φ30mmにおける面積で測定したL*値の平均が60以下であり、
前記亜鉛系めっき層表面にスパングル模様が存在し、前記スパングル模様上に酸化皮膜が形成されており、前記スパングル模様毎に明度が異なる。
【0018】
本実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板は、上記構成により、所定の黒色度、視認性を満たし、スパングル模様を有する。
本実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板は、次の知見により、見出された。
【0019】
従来技術では、亜鉛系めっき層上に設ける有機樹脂被覆層に黒色顔料を添加し、有機樹脂被覆層中の黒色顔料濃度および膜厚を調整することで、亜鉛系めっき鋼板に、黒色外観を付与している。この場合、黒色度とスパングル模様の視認性はトレードオフの関係である。黒色度を高くすると有機樹脂被覆層の隠ぺい性が増すため、めっき層表面に形成したスパングル模様の視認性が低下する。
【0020】
そこで、本発明者は、黒色度とスパングル模様の視認性を両立させるための方法ついて鋭意検討した。その結果、スパングル模様毎のコントラストが強調され、スパングル模様の視認性が向上すること、結果として全体的な黒色度と視認性を高いレベルで両立できることを知見した。
【0021】
さらに具体的には、本発明者は、スパングル模様毎の明度を制御するための方法を鋭意検討した。亜鉛系めっき層表層に形成する酸化皮膜の厚みが大きくなると明度が減少すること、スパングル模様の結晶方位である基底面、高配向面によって酸化皮膜の成長速度が異なることを見出した。
【0022】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について、さらに詳細に説明する。
【0023】
(亜鉛系めっき鋼板の全体構成について)
以下では、まず、
図1A及び
図1Bを参照しながら、本発明の一実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板の全体構成について詳細に説明する。
図1A及び
図1Bは、本実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板の構造の一例を模式的に示した説明図である。
【0024】
本実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板1は、
図1Aに模式的に示したように、基材である鋼板11と、鋼板11の一方の表面に位置する亜鉛系めっき層13と、さらにその表面に酸化皮膜14を少なくとも有している。
また、
図1Bに示したように、本実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板1は、酸化皮膜14の表面側に皮膜15を更に有していることが好ましい。特に、皮膜15を有すると、加工性、及び、耐食性が向上できる観点で好ましい。
【0025】
本実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板1は、酸化皮膜層14を形成する前は
図2Aに模式的に示したように、スパングル模様毎に明度の違いは認められない。
酸化皮膜層14を形成した後には、
図2Bに模式的に示したように、スパングル模様毎に明度が変化する。
【0026】
<鋼板(基材)について>
本実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板の基材である鋼板11は、特に限定されるものではなく、亜鉛系めっき鋼板に求められる機械的強度(例えば、引張強度等)等に応じて、公知の各種の鋼材(軟鋼、普通鋼、高張力鋼など)を適宜利用することが可能である。鋼板の厚さは特に限定されるものではなく、適宜選択可能である。例示的に、板厚は0.2~3.2mmであってもよい。CO2排出量を低下する観点からは、板厚は薄いほど好ましい。そのため、板厚は、1.6mm以下または未満の厚さでもよく、好ましくは0.8mm以下または未満であってもよい。
【0027】
<亜鉛系めっき層について>
鋼板11の少なくとも一方の表面には、亜鉛系めっき層13が形成されている。
亜鉛系めっき層13において、以下で詳述するような、酸化皮膜14が形成されている。
【0028】
[亜鉛系めっき層の種別及び組成について]
亜鉛系めっき層13としては、亜鉛系めっき層(亜鉛めっき層、亜鉛合金めっき層)を使用する。なお、以下、亜鉛系めっき層は、符号13を付して説明する場合がある。
【0029】
亜鉛系めっき層13のめっき金属に関して、説明する。亜鉛系めっき以外のめっきは、犠牲防食性に劣るために、使用にあたって切断端面が不可避的に露出する用途には適さない。また、めっき層中の亜鉛濃度が低くなり過ぎると犠牲防食能を喪失する。また、めっき層中の亜鉛濃度が低くなりすぎるとスパングル模様が小さくなる。これらの理由から、亜鉛合金めっきは、めっき層の全質量に対して、亜鉛を95質量%以上含有することが好ましい。
【0030】
具体的には、亜鉛系めっき層13におけるZn濃度は、めっき層の全質量に対して、好ましくは前述のように95質量%以上であり、より好ましくは98質量%以上である。
【0031】
亜鉛系めっき層は、例えば、亜鉛と、PbまたはSbから選ばれるいずれか1つ以上の元素と、残部が合計で5質量%未満の不純物で構成されてもよい。
【0032】
ここで、不純物とは、亜鉛系溶融めっき成分として意識的に添加したものではなく、原料中に混入しているか、或いは、製造工程において混入するものであり、Al、Mg、Si、Ti、Fe、B、S、N、C、Nb、Cd、Ca、Y、La、Ce、Sr、O、F、Cl、Zr、Ag、W、H等を挙げることができる。これら不純物が、全めっきの質量に対して合計で5質量%程度存在しても、めっきによって得られる効果は損なわれることはない。
なお、意図的に添加した合金元素と、不純物として混入した元素とは、亜鉛系めっき層13中の濃度により判別できる。すなわち、例えば、意図的に添加した場合における元素の合計含有量の下限値が5質量%であるため、合計含有量が5質量%未満であれば不純物として判別できる。
ここで、亜鉛系めっき層は、Pb、Sbからなる元素群から選択される少なくともいずれかの添加元素とZn及び不純物からなる残部と、を含有してもよい。添加元素PbまたはSbのめっき層中における濃度は合計で0.01~0.1質量%の範囲内で含有することで、スパングル模様の形成と耐食性を両立しやすくなる。
【0033】
上記のような亜鉛系めっき層13の組成については、以下の方法で分析する。すなわち、板厚方向に沿った断面方向から電子プローブマイクロアナライザー(Electron Probe Micro Analyzer:EPMA)で分析し、めっき層の平均組成を求める。
【0034】
[亜鉛系めっき層13の平均付着量について]
亜鉛系めっき層13の平均付着量は、40g/m2超150g/m2以下であることが好ましい。亜鉛系めっき層13の平均付着量が40g/m2以下の場合、溶融めっき後の付着量制御のためのガスワイピング時のガス圧力を大きくする必要があり、均一なめっき付着量が得られない場合がある。一方、亜鉛系めっき層13の平均付着量が150g/m2を超える場合には、通板速度を下げる必要があり、生産性が低下するため、好ましくない。
そのため、亜鉛系めっき層13の平均付着量の下限値は、より好ましくは45g/m2以上であり、更に好ましくは50g/m2以上である。また、亜鉛系めっき層13の平均付着量の上限値は、より好ましくは120g/m2以下であり、更に好ましくは90g/m2以下である。
【0035】
[スパングル模様について]
本実施態様では、亜鉛系めっき層13表面にスパングル模様が存在し、前記スパングル模様毎に明度が異なっている。スパングル模様は、スパングル模様はめっき金属の結晶方位の違いによって生じるものであり、溶融めっき層が凝固する際に形成される。従って、亜鉛系めっき鋼板1は、溶融めっき法を利用して製造する。一般に、亜鉛の基底面[0001]は光沢を呈し、高配向面
、
は黒色を呈し、
は灰色を呈する。このような結晶方位の違いにより、明度の差が生じて、スパングル模様を視覚的に認識することができる。
本実施態様において、スパングル模様毎に明度が異なるかはめっき鋼板1を写真撮影し、画像処理ソフトによりスパングル模様の明度データを比較する。隣り合うスパングル模様の明度を10組測定する。8組以上で明度差が認められた場合に「明度差あり」と判断する。明度差の有無は画像処理ソフトにおける明度を比較し、明度差が5%以上の場合に「明度差あり」と判断する。画像処理ソフトにはAdobe社のPhotoshop(登録商標)(バージョン24.4.1)を用いる。
【0036】
<酸化皮膜について>
亜鉛系めっき層13の表面には、
図1Aに模式的に示したように、酸化皮膜14が存在する。亜鉛系めっき鋼板は、このような酸化皮膜14を有することにより、めっき鋼板1の黒色度が向上し、また、スパングル模様毎の明度の異なりが大きくなりスパングル模様の視認性が向上する。
【0037】
酸化皮膜14の平均厚みは、0.01μm以上0.5μm以下であることが好ましい。酸化皮膜14の平均厚みが0.01μm未満となる場合、めっき鋼板1に十分な黒色度(とそれに応じた防眩性)が得られない場合がある。一方、酸化皮膜14の平均厚みが0.5μm超の場合は加工により酸化皮膜14に亀裂が生じ、加工密着性が低下する場合がある。
したがって、酸化皮膜14の平均厚みの下限値は、0.03μmであることがより好ましく、0.10μmであることが更に好ましい。酸化皮膜14の平均厚みの上限値は0.30μmであることが好ましく、更に好ましくは0.20μmである。
【0038】
酸化皮膜14の厚みは、スパングル模様を形成する亜鉛系めっき層の結晶方位および処理時間により決定される。前述のとおり、酸化皮膜14の厚みが大きくなると明度が減少する。これによりめっき鋼板1は全体的黒色度が変化に(増加)する。さらに、スパングル模様の結晶方位である基底面、高配向面によって酸化皮膜14の成長速度が異なる。つまり、スパングル模様の結晶方位が異なると、形成される酸化皮膜の厚みが変化するため、スパングル模様毎のコントラスト(の差異)が高まる。このコントラストが高まることにより離れた位置からもスパングル模様が視認しやすくなる。なお、スパングルはスパングル内にシダ状や羽毛状の結晶とその隙間の結晶が混在しても良い。スパングルがこの様な複雑な構造である場合、同一スパングル内においても結晶方位の異なる構造が生じる。その結果、スパングル内の明度パターンが複雑化し、深みのある意匠を形成する。
【0039】
亜鉛の結晶方位ごとに酸化皮膜の成長しやすさを調査した結果、亜鉛の基底面上では酸化皮膜が成長しにくく、亜鉛の高配向面上では酸化皮膜が成長しやすいことがわかった。換言すると、基底面上では黒色になりにくく、高配向面では黒色になりやすい。これにより、スパングル模様の基底面の明度が高配向面の明度より大きくしてもよい。この理由については以下のとおり考察した。亜鉛の基底面[0001]は最稠密面であり亜鉛原子1つが酸素原子1つと再結合するには6本のZn-Zn結合を切断する必要がある。一方、亜鉛の高配向面(例えば、
、
)では亜鉛原子1つが酸素原子1つと再結合するのに切断すべきZn-Zn結合は6よりも小さくなる。そのため、高配向面で優先的に酸化皮膜が成長する。
【0040】
亜鉛の基底面と高配向面が一定の比率で存在する場合に、コントラストが高く、スパングル模様の視認性が向上する。基底面の面積(SB)と高配向面の面積(SH)の比(SH/SB)が1.0~5.0であることが好ましい。さらに好ましくはSH/SBが1.5~4.0である。
【0041】
亜鉛系めっき層13の表面に形成される酸化皮膜14の膜厚は、亜鉛めっきの配向により異なっていてもよい。酸化皮膜の厚みが異なることにより、スパングル模様毎のコントラスト(の差異)が高まり、スパングル模様の視認性が向上する。亜鉛の基底面上に形成された酸化皮膜平均厚(TB)と、亜鉛の高配向面上に形成された酸化皮膜平均厚(TH)の比(TH/TB)は2.0~7.0であることが好ましい。更に好ましくは3.0~6.0である。
【0042】
亜鉛の基底面積(SB)と高配向面積(SH)は、次のとおり測定する。
亜鉛系めっき鋼板1を表面からFE-SEMとEBSDを組み合わせて分析することで調べることができる。EBSDにより、亜鉛の配向が色分けして出力される。画像処理により基底面と高配向面の面積をそれぞれ求めることができる。ここで、基底面積は[0001]面の面積であり、高配向面は
面および
面の面積の合計とする。
【0043】
酸化皮膜の平均厚みは、次の通り測定する。
亜鉛系めっき鋼板から、板厚方向に沿って切断した試料を採取する。そして、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を搭載した透過型電子顕微鏡(TEM-EDS)により、めっき層及び酸化皮膜の断面(板厚方向に沿った断面)を観察し、酸素元素をマッピングする。次に、表面からめっき層方向に存在する酸素濃度が20質量%以上の領域を酸化皮膜として定義し、酸化皮膜の厚みを複数個所測定する。そして、複数個所測定した酸化皮膜の厚みの平均値を算出する。具体的には、「平均」とは、鋼板の長手方向に対して直交する方向に任意の位置で5mmの長さを切り出して断面試料を作製し、100μm間隔で20点測定した平均を意味する。酸化皮膜において、基底面上に形成された酸化皮膜平均厚(TB)と前記高配向面上に形成された酸化皮膜平均厚(TH)は、上述のEBSDにより基底面と高配向面を識別し、それぞれでの平均厚みを算出する。
【0044】
酸化皮膜14は、例えば、Znを主体とする酸化物または水酸化物で構成される。ただし、Zn以外の合金元素に起因する酸化物又は水酸化物が含まれていてもよい。
具体的な、Znを主体とする酸化物または水酸化物としては、例えば、ZnO、ZnO1-×、Zn(OH)2等が例示される。(ここで、Xは1未満の正の数である。)
酸化皮膜14の形成方法としては、めっき層13に酸化物を形成する方法を選択すれば良く、酸性水溶液を噴霧し反応させる方法、水蒸気雰囲気で加熱する方法等が例示される。
【0045】
[皮膜について]
酸化皮膜14の表面には、
図1Bに模式的に示したように、皮膜15を備えることが好ましい。皮膜15により、めっき鋼板1に所望の性能を付加することができる。 皮膜15は、透光性(透過性)を有するものであってもよい。ここで、皮膜15が透光性(透過性)を有するとは、表面に形成した皮膜15を通して、酸化皮膜14が目視で観察できることを意味する。なお、本明細書において、「透光性」及び「透過性」は同様の意味で用いられる。
【0046】
皮膜15の形成に用いられる樹脂は、十分な透明性、耐薬品性、耐食性、加工性、耐疵付性などを備えるものが好ましい。このような樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、メラミンアルキッド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂等が利用可能である。なお、皮膜15を被覆する方法については、特に限定されるものではなく、既知の方法を用いることができる。
【0047】
皮膜15に所望の性能を付加するために、透明度及び外観を損なわない範囲、かつ、本発明で規定される範囲を逸脱しない範囲で、種々の添加剤を有機樹脂被覆層15に含有させてもよい。皮膜15に付加する性能としては、例えば、耐食性、摺動性、耐疵付き性、導電性、色調などが挙げられる。例えば耐食性であれば、防錆剤やインヒビターなどを含有させてもよく、摺動性や耐疵付き性であれば、ワックスやビーズなどを含有させてもよく、導電性であれば、導電剤などを含有させてもよく、色調であれば、顔料や染料などの公知の着色剤を含有させてもよい。
【0048】
なお、本実施形態に係る皮膜15に対して、顔料や染料などの公知の着色剤を含有させる場合、スパングル模様が視認できる程度に着色剤を含有させても良い。
着色剤としては、べんがら、アルミ、マイカ、カーボンブラック、酸化チタン、コバルトブルー等が例示できる。着色剤は黒色顔料であってもよく、カーボンブラック、チタンブラック等が例示できる。カーボンブラックの種類は、特に制限はなく、例えば、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等、公知のカーボンブラックを使用しても良い。
着色剤の含有量は、皮膜(有機樹脂被覆層)15に対して1~10質量%が好ましく、2~5質量%がより好ましい。着色剤の含有量が大きすぎると皮膜の隠ぺい性が高くなり、スパングル模様の視認性が低下するため好ましくない。隠ぺい性は着色剤種類、皮膜中濃度、皮膜厚により異なるため、着色剤濃度は実験的に決定する。
また、皮膜15にはふっ素化合物を含有しないことが好ましい。皮膜15中にふっ素化合物が存在すると亜鉛系めっき層13と皮膜15の密着性が強固となり、酸化皮膜14の形成が阻害されることがあり、黒色化に時間を要するためである。実質的には、ふっ素化合物の含有量は皮膜15に対して0.8質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0049】
[皮膜の厚みについて]
皮膜15の平均厚みは、20μm以下であることが好ましい。皮膜15の平均厚みが20μmを超えると、光が皮膜15内を通る距離が長くなることによって反射光が減少し、金属光沢感が低下する可能性が高くなる。また、加工に伴う樹脂の変形によって、亜鉛系めっき層13の表面のテクスチャと、皮膜15の表面の形状とのずれが、発生しやすくなる。以上の理由により、皮膜15の平均厚みは、20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
【0050】
一方、耐食性の観点から、皮膜15の厚みが、0.1μm以上であり、かつ、皮膜15の平均厚みが、1.0μm以上であることが好ましい。厚さは、TEM-EDSによる断面観察で求め、厚みに応じてTEM-EDSの測定倍率を変えて測定する。ここで、「平均厚み」とは、鋼板の長手方向に対して直交する方向に任意の位置で5mmの長さを切り出して断面試料を作製し、100μm間隔で20点測定した平均を意味する。
【0051】
以上、本実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板1の全体構成について、詳細に説明した。なお、
図1A及び
図1Bでは、鋼板11の一方の表面に亜鉛系めっき層13及び酸化皮膜14、皮膜15が形成される場合について図示しているが、鋼板11の互いに表裏をなす二つの表面上に亜鉛系めっき層13及び皮膜15が形成されてもよい。
【0052】
(亜鉛系めっき鋼板の表面の黒色度について)
本実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板1の表面の黒色度は、L*値で60以下である。より好ましくは50以下であり、40以下であることが更に好ましい。
ここで、L*値は、CIE1976L*a*b*表色系におけるL*値を意味する。そして、L*値は、亜鉛系めっき鋼板1の表面のφ10mm~φ30mmにおける面積について、反射分光濃度計で測定する。任意の20点で測定し、その平均を求める。
L*値の測定は、JIS Z8781-4(2013)に準じて行う。L*値の測定装置には正反射光を含むSCI方式と正反射光を含まないSCE方式がある。いずれも黒色度を表すが、本発明においてはSCI方式で測定した。
【0053】
(亜鉛系めっき鋼板の製造方法について)
続いて、以上説明したような本実施形態に係る亜鉛系めっき鋼板(亜鉛系めっき層13を有するめっき鋼板)の製造方法について、簡単に説明する。
【0054】
<製造方法>
以下では、まず、
図1A及び
図1Bに示したような構造を有する亜鉛系めっき鋼板1の製造方法の典型例について、簡単に説明する。
かかる場合には、まず、表面粗さの調整された鋼板11を焼鈍し、鋼板温度を400~550℃とした状態で溶融めっきの中に浸漬し、引き上げる。めっき付着量は引き揚げ時に窒素ガスでワイピングし調整する。
【0055】
亜鉛系めっき層13の形成方法としては、既知の溶融めっき法を用いることができる。例えば、溶融亜鉛めっき浴の種類としては、Zn以外の元素の合計が5質量%未満のものを用いることができ、例えば、Znおよび0.2質量%のAlおよび0.02質量%のSbを含有するめっき浴が用いられる。
【0056】
なお、上記溶融めっき浴の組成、温度、ガスワイピング流速、めっき付着量等は、所望のめっき組成となるように適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。
【0057】
次に、亜鉛系めっき層13の表面に、酸化皮膜14を形成する。その方法は大別して2種類ある。酸性水溶液を亜鉛系めっき層13と接触させる方法、および皮膜15を形成した後に高温高湿雰囲気に保持することで亜鉛系めっき層13と皮膜15に間に酸化皮膜14を形成する方法である。以下に、それぞれについて詳細に記載する。
【0058】
(酸化皮膜形成方法―1)
酸化皮膜14の形成方法として、酸性水溶液を亜鉛系めっき層と接触させる方法が挙げられる。酸性の水溶液は公知のものを使用することができ、例えば、硝酸塩とりん酸を混合した水溶液が挙げられる。平均厚みは酸性水溶液の条件(濃度、温度、適用量及び浸漬時間等)を適宜調整することで調整可能である。
酸化皮膜14の具体的な形成方法の一例を以下に説明する。酸性水溶液(硝酸ナトリウム120g/L、リン酸45g/L:pH0.6、30℃)をスプレー噴霧して亜鉛系めっき層13の表面に酸化皮膜14(具体的には、Znを主体とした酸化皮膜)を形成した。酸化皮膜の厚みは酸性水溶液の温度およびスプレー噴霧時間により調整した。酸化皮膜の厚さは、TEM-EDSによる断面観察で求め、厚みに応じてTEM-EDSの測定倍率を変えて測定した。
【0059】
(酸化皮膜形成方法―2)
上記皮膜15を形成した後に高温高湿雰囲気に保持することで亜鉛系めっき層13と皮膜15に間に酸化皮膜14を形成することができる。温度、湿度が高いほど酸化皮膜14の成長が促進される。そのため可能な範囲で温度、湿度を高くすると処理時間を短縮できる。
酸化皮膜14の具体的な形成方法の一例を以下に説明する。温度130℃、相対湿度95%の雰囲気に24時間保持すると酸化皮膜が形成される。水蒸気は皮膜15を透過して亜鉛系めっき表面と接触し酸化皮膜14を形成する。なお、亜鉛系めっき鋼板がコイルの様に密着した状態では水蒸気とめっき層の反応が阻害されるため好ましくない。コイルの場合は巻取り張力を弱め、亜鉛系めっき鋼板同士が密着しない様にすると良い。もしくは切板状に加工した状態で高温高湿雰囲気に保持すると良い。酸化皮膜の厚さは、TEM-EDSによる断面観察で求め、厚みに応じてTEM-EDSの測定倍率を変えて測定した。
【0060】
次に、酸化皮膜形成方法―1の場合、酸化皮膜14の表面に、必要に応じて、皮膜15を被覆してもよい。皮膜15の形成に使用する塗料は、上述した塗料を使用できる。なお、上述のとおり酸化皮膜14を形成してから皮膜15を形成しても良いし、酸化皮膜形成方法―2により、皮膜15を形成してから酸化皮膜を形成しても良い。皮膜15を形成後に酸化皮膜14を形成する場合、酸性水溶液により皮膜15が損傷する場合があるため、水蒸気雰囲気に保持する方法が好ましい。また、皮膜15にはふっ素化合物を含有しないことが好ましい。塗料中にふっ素化合物が存在すると亜鉛系めっき層13と皮膜の密着性が強固となり、酸化が阻害されるため黒色化に時間を要するためである。
【0061】
なお、皮膜15を被覆する方法については、特に限定されるものではなく、既知の方法を用いることができる。例えば、上記のような粘度に調整された塗料を使用し、吹き付け法やロールコーター法やカーテンコーター法やダイコーター法や浸漬引き上げ法で塗布した後に、自然乾燥又は焼付け乾燥されて形成することができる。なお、乾燥温度及び乾燥時間、並びに、焼付け温度及び焼付け時間は、形成する皮膜15が所望の性能を備えるように、適宜決定すればよい。
【0062】
皮膜15の具体的な形成方法の一例を以下に説明する。
上記の亜鉛系めっき鋼板に対し、処理液を塗布・乾燥することで皮膜を形成した。
処理液作製方法の一例を以下に説明する。すなわち、ウレタン系樹脂(第一工業製薬社製、スーパーフレックス170)と、メラミン樹脂(オルネクスジャパン社製、サイメル327)とを、固形分質量比が85:15となるように混合した。一部水準では、着色顔料として黒色顔料(トーヨーカラー社製、EMF Black HK-3)を塗膜中質量濃度が2mass%となる様に添加した。更に、得られた混合物を水で希釈して、種々の濃度を有する処理液を準備した。
以下に処理液の塗布、加熱条件の一例を記載する。前記処理液を、バーコーターで鋼板表面に塗布した。この際、乾燥膜厚が所望の厚みとなるように調整した。塗装した鋼板を熱風炉により加熱した。鋼板の到達温度は210℃とし、加熱後は、水をスプレー噴霧することで冷却した。
【実施例0063】
次に本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0064】
各亜鉛めっき鋼板の鋼板(基材)としてJIS G 3141(2017)に規定されているSPCCを用いた。これらの鋼板について、表2に示す条件で、連続溶融亜鉛系めっき処理および酸化皮膜形成を実施した。また、表1に示す条件で処理液を用意し、表2に示す条件で酸化皮膜の表面に皮膜を形成した。得られた有機樹脂被覆めっき鋼板を用いて、各性能について測定し、評価を行った。その結果も表2に示す。
【0065】
【0066】
【0067】
作製した鋼板サンプルの黒色度(L*値)を既述の方法に従って測定した。以下の基準で評価した。得られた結果を、以下の表2にまとめて示した。評点3以上を合格とした。
(評価基準)
5:L*値が40以下
4:L*値が40超、50以下
3:L*値が50超、60以下
2:L*値が60超、65以下
1:L*値が65超
【0068】
次に、スパングル模様毎に明度が異なるかは作製したサンプルを写真撮影し、画像処理ソフトによりスパングル模様の明度データを比較した。隣り合うスパングル模様の明度を10組測定した。8組以上で明度差が認められた場合に「明度差あり」と判断した。明度差の有無は画像処理ソフトにおける明度を比較し、明度差が5%以上の場合に「明度差あり」と判断した。画像処理ソフトにはAdobe社のPhotoshop(登録商標)(バージョン24.4.1)を用いた。
【0069】
次に、作製した鋼板サンプルについてスパングル模様の目立ちやすさを評価した。鋼板サンプルを垂直に設置し、距離を変えて観察し、目視でスパングル模様の目立ちやすさを以下の基準で評価した。観察者の視力は1.2または1.5とした。10人の試験者による視認性評価結果の平均値により判定した。得られた結果を、以下の表2にまとめて示した。評点3以上を合格とした。なお、平均値は、小数点第1位を四捨五入して、整数にして合否判定をした。
【0070】
(評価基準)
5:1mの距離からスパングル模様を視認できる
4:70cm以上、1m未満の距離からスパングル模様を視認できる
3:50cm以上、70cm未満の距離からスパングル模様を視認できる
2:30cm以上、50cm未満の距離からスパングル模様を視認できる
1:30cmの距離からスパングル模様を視認できない
【0071】
得られた亜鉛系めっき鋼板の耐食性は、以下の方法により評価した。
すなわち、得られたそれぞれの亜鉛系電気めっき鋼板から、幅70mm×長さ150mmの試験片を作製した。エッジ及び裏面をテープシールして、塩水噴霧試験(JIS Z 2371)を行った。そして、72時間後の非シール部分の白錆発生面積率を目視で観察し、以下の評価基準で評価した。白錆発生面積率とは、観察部位の面積に対する白錆発生部位の面積の百分率である。得られた結果を、以下の表2にまとめて示した。
【0072】
(評価基準)
5:白錆発生率10%未満
4:白錆発生率10%以上25%未満
3:白錆発生率25%以上50%未満
2:白錆発生率50%以上75%未満
1:白錆発生率75%以上
【0073】
また、得られた亜鉛系めっき鋼板の加工密着性(皮膜との密着性)については、以下の方法により評価した。
すなわち、得られたそれぞれの亜鉛系めっき鋼板から、幅50mm×長さ50mmの試験片を作製した。得られた試験片に対して180°の折り曲げ加工を施した後、折り曲げ部の外側に対してテープ剥離試験を実施した。テープ剥離部の外観を拡大率10倍のルーペで観察し、下記の評価基準で評価した。折り曲げ加工は、20℃の雰囲気中において、0.8mmのスペーサーを間に挟んで実施した。得られた結果を、以下の表2にまとめて示した。
【0074】
(評価基準)
5:皮膜に剥離が認められない
4:極一部の皮膜に剥離が認められる(剥離面積≦2%)
3:一部の皮膜に剥離が認められる(2%<剥離面積≦10%)
2:皮膜に剥離が認められる(10%<剥離面積≦20%)
1:皮膜に剥離が認められる(剥離面積>20%)
【0075】
No.2の比較材はスパングル模様が発生しなかった。これは、めっき層におけるZn濃度が低かったためと考えられる。また、No.22の比較材においては、酸化皮膜を形成していないため十分な視認性が得られなかった。
【0076】
これとは対照的に、本発明の実施例に係る溶融亜鉛めっき鋼板は、黒色度(L*値)が60以下で、かつスパングル模様毎の明度差が認められたことから、所定の黒色度と視認性を満たすことがわかる。
【0077】
さらに、上記表2から明らかなように、本発明の実施例に係る亜鉛系めっき鋼板は板厚が1.6mm未満であっても良好な黒色外観を備え、更に視認性に優れていることがわかる。
【0078】
なお、上記の全ての亜鉛系めっき鋼板において、めっき層の組成は、断面方向からEPMAで分析することで確認した。