(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175462
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】画像処理方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/046 20180101AFI20241211BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20241211BHJP
G06T 7/60 20170101ALI20241211BHJP
G01N 23/18 20180101ALI20241211BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
G01N23/046
G06T7/00 610Z
G06T7/60 300Z
G01N23/18 310
B60C19/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093259
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】中本 智
【テーマコード(参考)】
2G001
3D131
5L096
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA11
2G001CA01
2G001FA03
2G001HA04
2G001HA07
2G001HA14
2G001KA04
2G001KA05
2G001LA05
2G001MA07
3D131LA22
5L096AA03
5L096AA06
5L096BA03
5L096DA01
5L096DA02
5L096EA37
5L096EA43
5L096FA02
5L096FA10
5L096FA54
5L096FA59
5L096FA64
5L096FA66
5L096GA51
5L096JA11
(57)【要約】
【課題】CT画像から主溝断面を抽出するための適切な閾値を設定する方法を提供する。
【解決手段】複数の主溝を含むタイヤの断面をCT装置にて撮影したCT画像を、閾値を使用して二値化する画像処理方法において、前記CT画像を複数の閾値でそれぞれ二値化して複数の二値化画像を作成し、それぞれの前記二値化画像におけるそれぞれの前記主溝の幅である複数の仮主溝幅を求め、それぞれの前記二値化画像について、1つ目の前記主溝の前記仮主溝幅に対する2つ目以降の前記主溝の前記仮主溝幅の比率を求め、2つ目以降のそれぞれの前記主溝について、閾値を変化させても前記比率が不変となる範囲の閾値を、前記CT画像を二値化するための最適な閾値とする、画像処理方法
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の主溝を含むタイヤの断面をCT装置にて撮影したCT画像を、閾値を使用して二値化する画像処理方法において、
前記CT画像を複数の閾値でそれぞれ二値化して複数の二値化画像を作成し、
それぞれの前記二値化画像におけるそれぞれの前記主溝の幅である複数の仮主溝幅を求め、
それぞれの前記二値化画像について、1つ目の前記主溝の前記仮主溝幅に対する2つ目以降の前記主溝の前記仮主溝幅の比率を求め、
2つ目以降のそれぞれの前記主溝について、閾値を変化させても前記比率が不変となる範囲の閾値を、前記CT画像を二値化するための最適な閾値とする、画像処理方法。
【請求項2】
複数の主溝を含むタイヤの断面をCT装置にて撮影したCT画像を、閾値を使用して二値化する画像処理方法において、
前記CT画像を複数の閾値でそれぞれ二値化して複数の二値化画像を作成し、
それぞれの前記二値化画像におけるそれぞれの前記主溝の幅である複数の仮主溝幅を求め、
それぞれの前記主溝について、同じ前記タイヤについての前記二値化画像とは異なる画像から求めた前記主溝の幅である比較主溝幅と、前記仮主溝幅とを比較し、
全ての前記主溝について、前記比較主溝幅と前記仮主溝幅との誤差が所定範囲になるときの前記二値化画像の閾値を、前記CT画像を二値化するための最適な閾値とする、画像処理方法。
【請求項3】
前記二値化画像から、前記タイヤの有するそれぞれの前記主溝についての個別主溝画像を抜き出し、
前記個別主溝画像が、1つの前記主溝と、前記主溝が形成されたトレッドと、前記主溝及び前記トレッドより下の模擬路面とを含み、
前記個別主溝画像において、前記主溝が黒、前記トレッド及び前記模擬路面が白であり、
色が黒で、前記個別主溝画像の一番左下と一番右下の点からそれぞれ最短距離になる点を基準点とし、2つの前記基準点の距離を前記仮主溝幅とする、請求項1又は2に記載の画像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CT装置でタイヤ断面を撮影したCT画像に基づき、タイヤについて評価を行うことが知られている。CT画像では、タイヤ断面が明るく写り、タイヤ周辺領域が暗く写る。特許文献1に記載のように、このようなCT画像からタイヤ断面だけを抽出することが行われている。特許文献1には、タイヤ断面を抽出するために、タイヤ断面の領域を手動又は自動で指定することが記載されている。
【0003】
CT画像からタイヤ断面を自動的に抽出する方法として、所定の輝度を閾値として設定し、その閾値よりも輝度が大きい領域を抽出する方法が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように閾値を利用してタイヤ断面を抽出する方法では、閾値の値次第で抽出される領域が変化するため、適切な閾値を設定することが重要である。しかし、従来、適切な閾値の設定方法が確立されていなかったため、人が適当に閾値を設定することが多かった。そのため、CT画像からタイヤ断面を正確に抽出できているとは言えなかった。
【0006】
ところで、出願人は、CT画像からタイヤの溝断面を抽出して溝について評価することを検討している。しかし、溝断面の抽出においても、タイヤ断面の抽出のときと同様の問題がある。
【0007】
そこで本発明は、CT画像から溝断面を抽出するための適切な閾値を設定する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
【0009】
[1]複数の主溝を含むタイヤの断面をCT装置にて撮影したCT画像を、閾値を使用して二値化する画像処理方法において、前記CT画像を複数の閾値でそれぞれ二値化して複数の二値化画像を作成し、それぞれの前記二値化画像におけるそれぞれの前記主溝の幅である複数の仮主溝幅を求め、それぞれの前記二値化画像について、1つ目の前記主溝の前記仮主溝幅に対する2つ目以降の前記主溝の前記仮主溝幅の比率を求め、2つ目以降のそれぞれの前記主溝について、閾値を変化させても前記比率が不変となる範囲の閾値を、前記CT画像を二値化するための最適な閾値とする、画像処理方法。
【0010】
[2]複数の主溝を含むタイヤの断面をCT装置にて撮影したCT画像を、閾値を使用して二値化する画像処理方法において、前記CT画像を複数の閾値でそれぞれ二値化して複数の二値化画像を作成し、それぞれの前記二値化画像におけるそれぞれの前記主溝の幅である複数の仮主溝幅を求め、それぞれの前記主溝について、同じ前記タイヤについての前記二値化画像とは異なる画像から求めた前記主溝の幅である比較主溝幅と、前記仮主溝幅とを比較し、全ての前記主溝について、前記比較主溝幅と前記仮主溝幅との誤差が所定範囲になるときの前記二値化画像の閾値を、前記CT画像を二値化するための最適な閾値とする、画像処理方法。
【0011】
[3]前記二値化画像から、前記タイヤの有するそれぞれの前記主溝についての個別主溝画像を抜き出し、前記個別主溝画像が、1つの前記主溝と、前記主溝が形成されたトレッドと、前記主溝及び前記トレッドより下の模擬路面とを含み、前記個別主溝画像において、前記主溝が黒、前記トレッド及び前記模擬路面が白であり、色が黒で、前記個別主溝画像の一番左下と一番右下の点からそれぞれ最短距離になる点を基準点とし、2つの前記基準点の距離を前記仮主溝幅とする、[1]又は[2]に記載の画像処理方法。
【発明の効果】
【0012】
上記の実施形態によれば、CT画像からタイヤ断面を抽出するための適切な閾値を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図4】それぞれの閾値のときの、1つ目の主溝の仮主溝幅に対する、2~4つ目の主溝の仮主溝幅の比率を示す表。
【
図5】二値化画像から抜き出された個別主溝画像。(a)は一番左の主溝を含む個別主溝画像。(b)は左から2つ目の主溝を含む個別主溝画像。(c)は左から3つ目の主溝を含む個別主溝画像。(d)は左から4つ目の主溝を含む個別主溝画像。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施形態について図面に基づき説明する。なお、以下で説明する実施形態は一例に過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更されたものについては、本発明の範囲に含まれるものとする。
【0015】
本実施形態は、X線を使用して空気入りタイヤ(以下「タイヤ」とする)の断面のCT画像を撮影するCT(Computed Tomography)装置と、CT装置で撮影されたタイヤ断面のCT画像の処理を行う画像処理装置とにより実行される。
【0016】
CT装置は、タイヤ周方向の任意の位置におけるタイヤ断面のCT画像を撮影する。CT装置が撮影するタイヤ断面は、タイヤ外周面に対する垂線とタイヤ回転軸とを通る平面上にある。CT装置は、タイヤの載る模擬路面と、模擬路面上のタイヤに負荷をかける負荷装置と、模擬路面上のタイヤの断面を撮影する撮影機材とを含んでいる。負荷装置等の少なくとも一部は金属からなる。
【0017】
CT画像においては、X線が吸収されやすい部分ほど明るく写り、X線が透過されやすい部分ほど暗く写る。そのため、CT画像には、タイヤ断面及び模擬路面が明るく写り、何もない場所が暗く写る。また、CT画像には、負荷装置の一部も比較的明るい部分となって写り込む。CT装置によれば、タイヤを切断することなく、タイヤ断面の画像を取得することができる。
【0018】
評価装置は、処理装置、記憶装置、入力装置及び表示装置を含むコンピュータにより実現される。記憶装置として、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)等が設けられている。記憶装置には、本実施形態を実行するためのプログラム、CT装置で撮影されたタイヤ断面のCT画像、後述する画像処理に関するデータ等が記憶される。処理装置はCPU(Central Processing Unit)等で構成されている。処理装置は、ROM等に記憶されているプログラムをRAM上に読み出して実行することにより、本実施形態の方法を実行する。入力装置は、例えばマウス及びキーボードであり、評価装置の利用者(以下「利用者」とする)からの入力を受け付ける。表示装置は、例えばディスプレイであり、入力装置により入力するための入力画面、タイヤ断面のCT画像、画像処理に関するデータ、画像処理結果等を表示する。
【0019】
本実施形態において、まず、利用者は、CT装置でタイヤ断面を撮影する。具体的には、利用者は、模擬路面の上にタイヤを載せ、負荷装置を使用して模擬路面上のタイヤに負荷をかけ、その状態のタイヤ断面を撮影機材で撮影する。本実施形態においては、タイヤと模擬路面との接触部分を含むタイヤ断面が撮影されたものとする。
【0020】
撮影されたCT画像には、
図1に示すように、タイヤ1、模擬路面2、リム3、リム3のスポーク4が写っている。また、CT画像には、タイヤ1のトレッドに形成された複数の主溝5が写っている。これらの主溝5は、明るい部分であるタイヤ1と模擬路面2との間で、暗く写っている。
【0021】
次に、利用者は、CT画像を評価装置に読み込む。評価装置は、読み込んだCT画像に対して、
図2に示す画像処理を行う。
【0022】
まず、評価装置に読み込まれたCT画像は、グレースケールの画像に変換される(
図2のS1)。変換により、CT画像が、黒を0、白を255とする0から255までの256階調の画像になる。以下の説明において、階調を表す数値のことを輝度とする。輝度が大きいほど白に近く、輝度が小さいほど黒に近い。
【0023】
グレースケールに変換されたCT画像は、画像を構成する多数の画素それぞれの座標と輝度のデータを含んでいる。CT画像のサイズは、限定されないが、例えば縦横とも1000画素以上である。具体例としては、縦1200画素、横1800画素である。
【0024】
次に、CT画像のトリミングが実行される(
図2のS2)。トリミングにより、主溝5から離れた部分が除去される。トリミング後に取得されるトリミング画像には、タイヤ1のトレッドと模擬路面2とが写っている。タイヤ1が上に、模擬路面2が下に写っている。また、トリミング画像には、タイヤ1のトレッドに形成された全ての主溝5が写っている。これらの主溝5は、溝底が上で開口端が下になる向きで写っており、その開口端が主溝5の下にある模擬路面2で塞がれた形で写っている。
【0025】
次に、トリミング画像の二値化処理が実行される(
図2のS3)。
図3に、二値化処理後の画像である二値化画像を示す。二値化処理により、輝度が閾値より大きい画素は白の画素に変換される。また、輝度が閾値より小さい画素は黒の画素に変換される。これにより、トリミング画像において元々輝度の大きかったタイヤ1及び模擬路面2が白くなり、何もない部分が黒くなった二値化画像が取得される。二値化画像において、主溝5は黒くなっている。
【0026】
二値化処理は、複数の閾値を使用して実行される。複数の閾値は、30~100を含む範囲内で設定され、例えば
図4に示すように20~120の範囲内で設定される。複数の閾値は、一定の輝度間隔で設定され、例えば
図4に示すように5間隔で設定される。設定された閾値の数だけ二値化画像が取得される。それぞれの二値化画像は、白くなっている部分及び黒くなっている部分が少しずつ異なる。
【0027】
次に、二値化画像から、全ての主溝5の部分が、別々に抜き出される(
図2のS4)。
図3のように1つの二値化画像に4つの主溝5が現われている場合、
図5(a)~(d)のように4つの主溝5の部分がそれぞれ抜き出される。閾値の異なる全ての二値化画像のそれぞれから、このように全ての主溝5の部分が別々に抜き出される。このように抜き出されたそれぞれの画像を「個別主溝画像」とする。
【0028】
個別主溝画像では、主溝5が黒い部分として中央に写り、タイヤ1及び模擬路面2が白い部分として主溝5の周囲に写っている。主溝5は、溝底を上に、開口端を下にして写っている。また、トレッドが上、模擬路面2が下となっている。
【0029】
次に、それぞれの個別主溝画像において、2つの基準点が設定される(
図2のS5)。2つの基準点は主溝5の左右の内壁面とタイヤ接地面(トレッドのブロックやリブの表面)との交点に設定される。
【0030】
2つの基準点の設定方法を
図5(a)に基づき説明すると、まず、個別主溝画像の一番左下の点(画素)と一番右下の点(画素)が、それぞれ始点P1として特定される。次に、それぞれの始点P1から、個別主溝画像のそれぞれの画素までの距離が計算される。そして、色が黒で、それぞれの始点P1からの距離が最も短い画素が、それぞれ基準点P2として設定される。つまり、黒い画素のうち、左下の始点P1からの距離が最も短い画素が左側の基準点P2、右下の始点P1からの距離が最も短い画素が右側の基準点P2として、設定される。
【0031】
なお、色が黒で、同じ始点からの距離が最も短い画素が複数存在する場合は、所定の規則に従いそれら複数の画素のうち1つが基準点となる。例えば、左下の始点からの距離が最も短い画素が複数存在する場合は、それらの中で一番左側の画素が基準点として設定され、右下の始点からの距離が最も短い画素が複数存在する場合は、それらの中で一番右側の画素が基準点として設定される。
【0032】
次に、2つの基準点の座標に基づき、それら基準点間の距離が計算される。2つの基準点間の距離は、その基準点が設定された個別主溝画像における主溝5の幅である。主溝5の幅とは、厳密には、主溝5の開口端(模擬路面2により塞がれる端)における幅のことである。このようにして求まる、個別主溝画像における主溝5の幅を、仮主溝幅とする(
図2のS6)。仮主溝幅は、複数の個別主溝画像のそれぞれにおいて求まる。それぞれの二値化画像のそれぞれの個別主溝画像において求まった複数の仮主溝幅のデータは、二値化処理のときの閾値の順に並べられる。
【0033】
次に、それぞれの二値化画像において、1つ目の主溝5の仮主溝幅に対する2つ目以降の主溝5の仮主溝幅の比率が計算される(
図2のS7)。本実施形態では、二値化画像における一番左の主溝5が基準とされる。そして、基準となる主溝5の仮主溝幅に対する、左から2つ目、3つ目及び4つ目の主溝5のそれぞれの仮主溝幅の比率が、計算される。この計算が、全ての二値化画像の主溝5について実行される。そして、計算された比率について、閾値の順に並べた表が作成される。そのような表を
図4に示す。この表では、閾値が小さい場合の計算結果から順に、計算結果が並んでいる。
【0034】
この表において、1つ目の主溝5は基準となるので、比率は100%となっている。2つ目以降の主溝5については、同じ二値化画像における1つ目の主溝5の仮主溝幅に対するそれぞれの仮主溝幅の比率が載っている。
【0035】
次に、2つ目以降の全ての主溝5のそれぞれについて、閾値を変化させても比率が不変となるような閾値の範囲が特定される。そして、その特定された範囲で最も小さい閾値が、CT画像を二値化するための最適な閾値として選択される(
図2のS8)。
【0036】
図4の表に基づき説明すると、まず、閾値を変化させたときに、2つ目の主溝5の比率が連続して同じ値となる(つまり比率が不変となる)閾値の範囲が特定される。ここで、複数の比率の間に若干の(例えば0.5%以内の)誤差があっても、それらの比率は同じ値として扱われる。
図4の表において、閾値を変化させたときに、2つ目の主溝5の比率が連続して同じ値となる(つまり比率が不変となる)範囲の欄がグレーになっている。
【0037】
次に、2つ目の主溝5の比率が連続して同じ値となる範囲において、3つ目の主溝5の比率も連続して同じ値となる閾値の範囲が特定される。そのような範囲の欄が、
図4の表においてグレーになっている。
【0038】
次に、3つ目の主溝5の比率が連続して同じ値となる範囲において、4つ目の主溝5の比率が連続して同じ値となる閾値の範囲が特定される。そのような範囲の欄が、
図4の表においてグレーになっている。
【0039】
このようにして、2つ目以降のそれぞれの主溝5について、閾値を変化させても比率が不変となる範囲の閾値が特定される。
図4の表において、そのような閾値は85と90の2つである。そして、それらの中で値の最も小さい閾値である85が、CT画像を二値化するための最適な閾値として選択される。小さい方の閾値が選択される理由は、主溝5の近くに位置するベルトの輝度が大きく、二値化処理のときの閾値が大きいほどノイズを拾いやすくなるためである。
【0040】
このようにして選択された最適な閾値を使用してCT画像が二値化され、その二値化画像に基づきタイヤの評価が実行される。タイヤの評価として、例えば、タイヤの主溝に関わる評価が実行される。
【0041】
タイヤの主溝に関わる評価として、タイヤが有するそれぞれの主溝の断面積の評価が挙げられる。主溝の断面積は、二値化画像における主溝の画素数に、1画素当たりの実際の面積を乗じることにより、求めることができる。
【0042】
また、このようにして求まる主溝の断面積から、タイヤの排水性能や、主溝で発生する気柱管共鳴音のレベルについて、評価することができる。
【0043】
また、タイヤの主溝に関わる評価として、主溝の断面形状を利用した評価が挙げられる。例えば、タイヤが無負荷のときと荷重が負荷されたときとの主溝の断面形状の変化から、トレッドに形成されたブロックの潰れ方を評価することができる。また、タイヤに上から荷重が負荷されたときと横力が負荷されたときとの主溝の断面形状の変化から、横力が負荷されたことによるブロックの倒れ込みについて評価することができる。
【0044】
以上のように、本実施形態の方法では、CT画像を複数の閾値でそれぞれ二値化した複数の二値化画像が作成され、それぞれの二値化画像におけるそれぞれの主溝5の幅である仮主溝幅が求められる。さらに、それぞれの二値化画像について、1つ目の主溝5の仮主溝幅に対する2つ目以降の主溝5の仮主溝幅の比率が計算される。そして、2つ目以降の全ての主溝5について、閾値を変化させても前記比率が不変となる範囲の閾値が、CT画像を二値化するための最適な閾値として選択される。
【0045】
最適値に近い閾値の範囲では、閾値が少し変化しても、得られる二値化画像に大きな変化はなく、それぞれの主溝5の仮主溝幅にも大きな変化はない。そして、本実施形態の上記の方法によれば、閾値が少し変化してもそれぞれの主溝5の仮主溝幅に大きな変化がないような閾値の領域の中から、最適な閾値を特定することになる。そのため、本実施形態の方法によれば、CT画像から主溝5の部分等を抽出するための適切な閾値を設定することができる。
【0046】
ここで、上記の通り、仮主溝幅は2つの基準点(二値化画像における、主溝5の左右の内壁面とタイヤ接地面との交点)の座標から計算される。これらの基準点の特定方法は、二値化画像から主溝5の個別主溝画像(1つの主溝5と、トレッドと、主溝5及びトレッドより下の模擬路面2とを含み、主溝5が黒、トレッド及び模擬路面2が白となった画像)を抜き出し、個別主溝画像において色が黒かつ個別主溝画像の一番左下と一番右下の点からそれぞれ最短距離になる点を基準点とする方法である。この方法により、容易に基準点を特定することができる。
【0047】
また、主溝幅を利用して最適な閾値が特定されるため、その最適な閾値を使用して二値化された二値化画像に基づけば、特に主溝5の部分を高い精度で抽出することができ、タイヤの主溝について精度の高い評価を行うことができる。
【0048】
また、本実施形態では、CT装置が負荷装置や模擬路面を備えており、模擬路面上のタイヤに負荷装置で負荷をかけた状態で、撮影機材がCT画像を撮影することができる。このように負荷装置を使用する場合、CT画像に金属部分が写り込むためCT画像にノイズが多くなり、二値化のための閾値を決定することが難しくなる。しかし、本実施形態によれば、負荷装置を使用する場合でも、CT画像から主溝5の部分等を抽出するために適切な閾値を設定することができる。
【0049】
また、本実施形態では、1枚のCT画像を基にして二値化処理のための最適な閾値を設定することができる。そのため、設定した閾値が最適か否か判断するための別の指標がなくても、最適な閾値を設定することができる。例えば、主溝の正確な断面積があらかじめわかっている場合は、その正確な断面積を指標として、二値化処理のための閾値として設定したものが正しいか確認することができる。しかし、本実施形態では、そのような指標がなくても、二値化処理のための最適な閾値を設定することができる。
【0050】
以上の実施形態に対して様々な変更を行うことができる。以下で説明する変更例のいずれか1つを上記実施形態に適用しても良いし、いずれか2つ以上を組み合わせて上記実施形態に適用しても良い。組み合わせは自在に行うことができる。
【0051】
<変更例1>
図2のS1~S6にて求まった仮主溝幅を利用して、別の方法で、二値化処理のための最適な閾値を特定することもできる。
【0052】
その方法では、まず、仮主溝幅を求めたタイヤと同じタイヤについて、二値化画像とは別の画像が取得される。次に、その取得された画像から、その画像におけるそれぞれの主溝の幅である比較主溝幅が求められる。
【0053】
例えば、CT装置に付随している画像処理ソフト、又は他の画像処理ソフトを使用する等して、グレースケール変換前又は変換後のCT画像(いずれにしても二値化前の画像)におけるそれぞれの主溝の開口端(模擬路面により塞がれる端)での幅が、利用者の目で測定位置を決定したうえで測定される。測定は、利用者の手により、又は、ソフトの機能を使用して実行される。そして、測定された幅が、比較主溝幅として採用される。なお、CT画像がぼやけていて、主溝幅の測定位置を自動的に決定すると、かえって測定位置が不正確になる場合がある。そのような場合はこの方法が良い。
【0054】
他に、タイヤのフットプリントを実験的に取得し、フットプリントに現われた主溝の幅を比較主溝幅として採用する方法や、有限要素モデル等を使用した接地解析を実行してタイヤ画像を取得し、そこから算出された主溝の幅を比較主溝幅として採用する方法もある。
【0055】
いずれの方法の場合も、1つの主溝に対して1つの比較主溝幅が求まる。
【0056】
次に、同じ主溝について、比較主溝幅と、異なる複数の閾値のときのそれぞれの仮主溝幅とが比較される。この比較は、全ての主溝について実行される。つまり、一番左の主溝について、比較主溝幅と、それぞれの閾値のときの仮主溝幅とが順に比較され、左から2つ目以降の主溝についてもそれぞれ同様に比較される。
【0057】
なお、比較のために必要な場合は、比較主溝幅と仮主溝幅のスケールを一致させる計算がなされる。例えば、比較主溝幅と仮主溝幅のうち、一方が実際のタイヤにおける数値で表され、他方が実際のタイヤと異なる画像上の数値で表されている場合、その他方の数値が実際のタイヤにおける数値に変換される。
【0058】
そして、全ての主溝について、比較主溝幅と仮主溝幅との誤差が所定の許容範囲になるときの、その仮主溝幅を算出した二値化画像の閾値(そのような閾値が複数あるときは、それらのうち最小の閾値)が、CT画像を二値化するための最適な閾値として選択される。ここで、誤差の許容範囲は、例えば、比較主溝幅の5%以内である。
【0059】
この方法によれば、CT画像から主溝の部分を抽出するための適切な閾値を設定することができる。
【0060】
<変更例2>
個別主溝画像において、模擬路面が上でタイヤが下に写り、主溝の開口端が上になっている場合がある。その場合、
図2のS5において2つの基準点を設定するために、上記実施形態と異なる方法が実行される。
【0061】
具体的には、まず、個別主溝画像の一番左上の点(画素)と一番右上の点(画素)が、それぞれ始点として特定される。次に、それぞれの始点から、個別主溝画像のそれぞれの画素までの距離が計算される。そして、色が黒で、それぞれの始点からの距離が最も短い画素が、それぞれ基準点として設定される。つまり、黒い画素のうち、左上の始点からの距離が最も短い画素が左側の基準点、右上の始点からの距離が最も短い画素が右側の基準点として、設定される。
【0062】
<変更例3>
図2のS1~S2のフローの後、S3~S8のフローが2回実行され、1回目に大体適した閾値が特定され、2回目に最適な閾値が特定されても良い。
【0063】
具体的には、1回目のフローにおいて、S3の二値化処理のときに大きな輝度間隔(例えば輝度にして10間隔)で複数の閾値が設定され、それらの閾値を使用してそれぞれ二値化処理が実行される。その後、S4~S8のフローが実行され、S8において大体適した閾値が特定される。
【0064】
次に、2回目のフローにおいて、S3の二値化処理のステップのときに、先に特定された大体適した閾値の周辺の所定範囲の輝度の中で、小さな輝度間隔で複数の閾値が設定される。例えば、先に特定された大体適した閾値を中心とする、輝度にして10の範囲で、輝度にして1間隔で10個の閾値が設定される。そして、それら10個の閾値を使用してそれぞれ二値化処理が実行される。その後、S4~S8のフローが実行され、S8において最適な閾値が特定される。
【0065】
この方法によれば、少ない工数で精度良く最適な閾値を特定することができる。
【0066】
最適な閾値の精度を上げるため、
図2のS3~S8のフローが3回以上実行されても良い。
【0067】
<変更例4>
CT画像には、主溝以外の溝、例えば、主溝よりも幅が狭くタイヤ周方向に延びる溝、主溝よりも幅が狭くタイヤ周方向に対して傾斜して延びる溝、サイプ等が現れる場合がある。
【0068】
そのような場合に、
図2のステップS8において選択された最適な閾値を使用してCT画像が二値化され、その二値化画像に基づき主溝以外の溝について評価がなされても良い。
【符号の説明】
【0069】
1…タイヤ、2…模擬路面、3…リム、4…スポーク、5…主溝