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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175471
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】熱暴走抑制耐火シート
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/658 20140101AFI20241211BHJP
【FI】
H01M10/658
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093273
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】重松 俊広
【テーマコード(参考)】
5H031
【Fターム(参考)】
5H031EE03
5H031HH06
5H031HH08
5H031HH09
5H031KK02
(57)【要約】
【課題】複数のリチウムイオン素電池を備えた電池パックにおいて使用される熱暴走抑制耐火シートであって、ガラス繊維及び無機粒子の脱落を抑制し、荷重下断熱性に優れた熱暴走抑制耐火シートを提供する。
【解決手段】基材と無機粒子層とを有し、該基材がガラス繊維と湿熱接着性バインダー繊維とフィブリル化繊維を含有し、該無機粒子層が無機中空粒子と粘土鉱物を含有することを特徴とする熱暴走抑制耐火シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と無機粒子層とを有し、該基材がガラス繊維と湿熱接着性バインダー繊維とフィブリル化繊維を含有し、該無機粒子層が無機中空粒子と粘土鉱物を含有することを特徴とする熱暴走抑制耐火シート。
【請求項2】
無機粒子層の乾燥塗工量が、熱暴走抑制耐火シートの全質量に対して30質量%以上70質量%以下である、前記請求項1記載の熱暴走抑制耐火シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の素電池を備えた電池パックにおいて、一つの素電池が熱暴走、発火した際に、隣接する素電池の熱暴走を抑制し、延焼を防ぐ熱暴走抑制耐火シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の多様化にともない高容量、高電圧、高出力であって、かつ安全性の高い素電池や複数の素電池を備えた電池パックが求められている。特に、安全性の高い素電池や電池パックを提供するために、素電池や電池パックに、温度の上昇を防ぐためのPTC素子の装備や温度ヒューズ、さらに、素電池の内部圧力を感知して電流を遮断させる保護回路等、種々の保護手段を備える技術が知られている。また、素電池が異常状態(例えば、熱暴走状態)にならないように素電池の充放電を制御する制御回路を電池パックに備える技術も知られている。
【0003】
しかしながら、上述のような保護手段や制御回路を備えていても、素電池が異常な条件下に置かれた場合、種々の原因で素電池は熱暴走を起こすことがある。熱暴走すると、素電池の温度は急激に上昇して300℃以上、場合によっては400℃以上になることもあり、内部から高温の可燃性ガスが噴出する可能性がある。そして、最悪の場合、発火し、素電池を収納している電池パックの筐体が破損や溶融するおそれがある。
【0004】
このような熱暴走を防止する技術として、特許文献1では、ガラス繊維シートの空間にシリカキセロゲルを担持し、繊維シートの外周部を緻密な樹脂層で覆うことによりシリカキセロゲルを固定する断熱シートが開示されている。この断熱シートは、隣接する素電池の温度上昇を遅くする効果があるものの、素電池の耐熱性、耐火性、強度に劣る問題があった。
【0005】
特許文献2では、鉱物系粉体及び難燃剤のうちの少なくとも一方を含有し、100~1000℃で吸熱反応を開始し、それに従って、相変化、膨張、発泡及び硬化からなる群から選択される少なくとも一種の構造変化が起こる熱暴走防止シートが開示されている。この熱暴走防止シートは、不燃性基材として、アルミニウム箔ラミネートガラスクロスを使用しており、鉱物系粉体及び難燃剤を含有する樹脂組成物を一軸押出機に供給し、押出成型して、熱吸熱性材料シートや耐火断熱シートを得て、さらに、得られた熱吸熱性材料シートや耐火断熱シートを組み合わせてプレス加工することで熱暴走防止シートが得られるため、非常に生産性が悪く、コスト高になる問題があった。また、樹脂組成物であるため、素電池が発火した際の耐火性に劣る問題があった。
【0006】
特許文献3では、ガラス繊維及び生体溶解性無機繊維からなる群より選ばれる1種以上の無機繊維を30~95質量%含有し、β型セピオライトを5~40質量%含有する無機繊維シートの製造方法であって、前記無機繊維を含有するスラリーを湿式抄紙して不織布を製造する工程(i)と、前記不織布に対して、β型セピオライトを含有するスラリーを付着させる工程(ii)とを有する、無機繊維シートの製造方法が開示されている。しかしながら、この無機繊維シートは、ハニカム成型体とされた後、焼成されるフィルターの基材に好適に用いられるものであり、不織布自体の湿潤強度が十分でなく、焼成せずに使用した場合の無機繊維シートの耐火性や不燃性に劣る問題があった。
【0007】
また、特許文献4では、シリカナノ粒子で構成される第1粒子と、金属酸化物からなる第2粒子に加え、断熱性向上を目的に、断熱シート全質量に対し60質量%以下の無機バルーンを含む組電池用断熱シートが開示されている。しかしながら、必要な断熱性を付与すべく断熱シート全質量に対する無機バルーンの含有率を30質量%以上とした場合には、断熱シートから無機バルーンが脱落する場合や、高荷重条件下で断熱性が低下する場合があり、改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2018/110055号パンフレット
【特許文献2】特開2018-206605号公報
【特許文献3】特開2017-025458号公報
【特許文献4】特開2021-034278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、複数のリチウムイオン素電池を備えた電池パックにおいて、一つの素電池が熱暴走し、発火した際に、隣接するリチウムイオン素電池への延焼を防ぐことが可能な熱暴走抑制耐火シートであって、無機粒子の脱落を抑制し、高荷重条件下での断熱性に優れた熱暴走抑制耐火シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために鋭意研究した結果、下記発明を見出した。
【0011】
(1)基材と無機粒子層とを有し、該基材がガラス繊維と湿熱接着性バインダー繊維とフィブリル化繊維を含有し、該無機粒子層が無機中空粒子と粘土鉱物を含有することを特徴とする熱暴走抑制耐火シート。
(2)無機粒子層の乾燥塗工量が、熱暴走抑制耐火シート全質量に対して30質量%以上70質量%以下である、上記(1)に記載の熱暴走抑制耐火シート。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、複数のリチウムイオン素電池を備えた電池パックにおいて、一つの素電池が熱暴走し、発火した際に、隣接するリチウムイオン素電池への延焼を防ぐことが可能な熱暴走抑制耐火シートであって、ガラス繊維及び無機粒子の脱落を抑制し、高荷重条件下での断熱性に優れた熱暴走抑制耐火シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の熱暴走抑制耐火シート(以下、耐火シートと称する場合がある)は、基材と無機粒子層とを有し、該基材がガラス繊維と湿熱接着性バインダー繊維とフィブリル化繊維を含有し、該無機粒子層が無機中空粒子と粘土鉱物を含有することを特徴とする。
【0014】
本発明の熱暴走抑制耐火シートが有する基材はガラス繊維を含有する。基材がガラス繊維を含有することで、耐火シートの強度が増し、高荷重条件下においても優れた断熱性を維持することができる。本発明におけるガラス繊維としては、例えば、チョップドストランド、グラスウール、グラスフレークが挙げられる。折れ難く、基材の形成能があればいずれのガラス繊維でも良い。ガラス繊維の断面形状としては、円形断面の他、扁平断面があるが、耐火シートの平坦性や強度の観点から扁平断面のガラス繊維を用いることが好ましい。扁平断面のガラス繊維において、扁平断面の長径と短径のそれぞれの寸法は特に限定されず、その断面が長径と短径を有する繊維であれば良いが、長径と短径の比(以下、「長径と短径の比」を「扁平比」と記載する。)が3~5であることが好ましい。これにより耐火シートの平坦性や強度にとりわけ優れ、かつ抄紙の際にピンホールの発生を好適に抑制することができる。
【0015】
扁平断面のガラス繊維の換算繊維径(円相当径)は、5~20μmが好ましく、8~17μmがより好ましく、10~15μmがさらに好ましい。また短径は、3.0~12.0μmが好ましく、3.5~10.0μmがより好ましく、6.0~8.0μmがさらに好ましい。換算繊維径とは、扁平繊維の断面積と同面積を有する円形断面繊維の直径の値を意味する。これにより経済的な紡糸が可能となると共に、無機粒子層形成用塗工液を良好な塗工性にて塗布することができる。
【0016】
円形断面のガラス繊維の繊維径は、1~18μmであることが好ましく、2~13μmであることがより好ましく、3~10μmであることがさらに好ましい。
【0017】
ガラス繊維の繊維長は、1~30mmであることが好ましく、2~20mmであることがより好ましく、3~15mmであることがさらに好ましい。これにより基材の強度や、基材の地合が良好となり、またガラス繊維が絡まった塊やよれの発生を低減する事ができる。
【0018】
ガラス繊維の含有率は、基材を構成する全原料に対して、75~95質量%であることが好ましく、80~93質量%であることがより好ましく、85~93質量%であることがさらに好ましい。これにより、基材強度や耐火性、あるいは不燃性が良好となり、また無機粒子層を良好な塗工性にて塗工する事ができる。
【0019】
本発明に用いるバインダー繊維は湿熱接着性バインダー繊維である。湿熱接着性バインダー繊維とは、湿潤状態において、ある温度で繊維状態から流動、又は容易に変形して接着機能を発現する繊維のことを言う。具体的には、熱水又は水蒸気(例えば、80~120℃程度)で軟化して自己接着、又は他の繊維に接着可能な熱可塑性繊維であり、例えば、ポリビニル系繊維(ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタールなど)、セルロース系繊維(メチルセルロースに代表されるC1-3アルキルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースに代表されるヒドロキシC1-3アルキルセルロース、カルボキシメチルセルロースに代表されるカルボキシC1-3アルキルセルロース、又はその塩など)、変性ビニル系共重合体からなる繊維(スチレン、エチレン、ビニルエーテルなどのビニル系単量体と、マレイン酸などの不飽和カルボン酸、又は、その無水物との共重合体、又はその塩など)などが挙げられる。本発明に用いる湿熱接着性バインダー繊維としては、ポリビニル系繊維が好ましく、ポリビニルアルコール(PVA)繊維がより好ましい。ポリビニルアルコール繊維を用いた場合、基材強度がより高くなり、また、繊維間に皮膜を形成し易く、無機粒子を繊維間に保持し易くなる。
【0020】
本発明に用いる湿熱接着性バインダー繊維としては、架橋性官能基を有する化合物で変性された変性ポリビニルアルコール繊維、および架橋剤を用いて紡糸時又は紡糸後に温和な条件下で架橋を行った架橋ポリビニルアルコール繊維が、低延伸糸に耐熱水特性を付与することが可能となり、より好ましい。
【0021】
架橋性官能基としては、シラノール基、カルボキシル基、メチロール基等が挙げられる。pH等を調整することによって、架橋性官能基を有する化合物で変性されたポリビニルアルコールを架橋させることなく水に溶解し、紡糸して、変性ポリビニルアルコール繊維を得ることができる。紡糸時又は紡糸後に、変性ポリビニルアルコール繊維を架橋させても良い。好適な例としては、シラノール変性ポリビニルアルコールをアルカリ溶液(pH9~13)に溶解し、該溶液を酸性(pH5~6)にすることにより架橋させつつ紡糸し、乾燥後熱処理して得られるシラノール変性ポリビニルアルコール繊維が挙げられる。
【0022】
また、湿熱接着性バインダー繊維として、自己架橋性を有さない未変性ポリビニルアルコールを紡糸後、各種有機系又は無機系架橋剤を付与して架橋せしめる方法によって得られた、架橋ポリビニルアルコール繊維を用いることもできる。無機系架橋剤としては、リン酸、リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、硫酸チタニル等が挙げられる。また、有機系架橋剤として、メチロール系、エポキシ系、イソシアネート系、アルデヒド系等の架橋剤が挙げられる。これらの架橋剤を未変性ポリビニルアルコール紡糸原液に添加して紡糸した後、又は、未変性ポリビニルアルコールを単独で紡糸して架橋剤含有浴を通した後、熱処理することで架橋を進行させることができる。また、これらの方法を併用することも可能である。
【0023】
本発明に用いる湿熱接着性バインダー繊維は上記に限定されるものではないが、シラノール変性ポリビニルアルコール繊維は、ガラス繊維との接着性がさらに高まるため、基材の引張強度をさらに高めることができるため、特に好ましい。
【0024】
湿熱接着性バインダー繊維の繊度は、0.1~5.6デシテックスであることが好ましく、0.4~2.2デシテックスであることがより好ましく、0.5~1.1デシテックスであることがさらに好ましい。この様な範囲とすることで、湿潤状態での強度に優れ、均一な地合の基材を得ることができる。湿熱接着性バインダー繊維の繊維長は、1~15mmであることが好ましく、2~10mmであることがより好ましく、3~5mmであることがさらに好ましい。この様な範囲とすることで、抄造時に抄紙ワイヤーから湿熱接着性バインダー繊維が抜け落ちる事が無く、十分な強度の耐火シートを得る事ができる。
【0025】
湿熱接着性バインダー繊維の含有率は、基材を構成する全原料に対して、3~20質量%であることが好ましく、4~15質量%であることがより好ましく、5~10質量%であることがさらに好ましい。この様な範囲とすることで、強度やガラス繊維の保持性に優れ、基材を湿式抄造法で抄紙する場合においても、ドライヤーからの剥離性に優れた基材を得ることができる。
【0026】
本発明に用いるフィブリル化繊維としては、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリベンゾイミダゾール、ポリ-p-フェニレンベンゾビスチアゾール、ポリ-p-フェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリテトラフルオロエチレン等の耐熱性樹脂からなるフィブリル化繊維が用いられる。これらの中でも、親水性が高く、フィブリル化しやすい全芳香族ポリアミドが好ましい。
【0027】
本発明におけるフィブリル化繊維の変法濾水度は、好ましくは40ml以上であり、より好ましくは50ml以上700ml以下であり、さらに好ましくは100ml以上600ml以下であり、特に好ましくは300ml以上450ml以下である。この様な範囲とすることで、ガラス繊維との絡み合いにより湿潤強度や無機粒子層形成用塗工液の保持性に優れた基材が得られるため好ましい。
【0028】
本発明において変法濾水度とは、ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度を0.1%にした以外はJIS P8121-2:2012に準拠して測定した値のことである。
【0029】
本発明のフィブリル化繊維において、質量加重平均繊維長は、0.02mm以上1.50mm以下であることが好ましい。また、長さ加重平均繊維長は、0.02mm以上1.00mm以下であることが好ましい。この様な範囲とすることで、繊維の離解性や分散均一性に優れ、繊維脱落の発生が抑制された基材を得ることができる。
【0030】
フィブリル化繊維が、上記の質量加重平均繊維長と長さ加重平均繊維長を有する場合、基材に含まれるフィブリル化繊維の含有率が少ない場合でも、フィブリル化繊維間やフィブリル化繊維とガラス繊維との間において、繊維による緻密なネットワーク構造が形成され、湿潤強度が高く、無機粒子層形成用塗工液の浸透性や液保持性を高めることができる基材が得られやすくなる。
【0031】
フィブリル化繊維の平均繊維幅は、0.5μm以上40.0μm以下が好ましく、3.0μm以上35.0μm以下がより好ましく、5.0μm以上30.0μm以下がさらに好ましい。この様な範囲とすることで、フィブリル化繊維とガラス繊維が適度に絡み合い、湿潤強度に優れた基材が得られる。
【0032】
本発明において、フィブリル化繊維の質量加重平均繊維長、長さ加重平均繊維長及び平均繊維幅は、「JIS P 8226-2:2011、パルプ-光学自動分析法による繊維長測定方法 第2部:非偏光法」に基づき、OpTest Equipment Inc.社製ファイバークオリティーアナライザー(FQA-360)を使用して測定した値である。
【0033】
フィブリル化繊維は、繊維状、パルプ状等の原料樹脂をリファイナー、ビーター、ミル、摩砕装置、高速の回転刃によりせん断力を与える回転式ホモジナイザー、高速の回転する円筒の内刃と固定された外刃との間でせん断力を生じる二重円筒式の高速ホモジナイザー、超音波による衝撃で微細化する超音波破砕器、原料樹脂の懸濁液に少なくとも20MPaの圧力差を与えて小径のオリフィスを通過させて高速度とし、これを衝突させて急減速することにより、原料樹脂にせん断力、切断力を加える高圧ホモジナイザー等を用いて処理することによって得ることができる。
【0034】
本発明において、基材に含まれる全繊維成分に対して、フィブリル化繊維の含有率は2質量%以上10質量%以下であることが好ましく、3質量%以上9質量%以下であることがより好ましく、3.5質量%以上8質量%以下であることがさらに好ましく、3.5質量%以上7質量%以下であることが特に好ましい。この様な範囲とすることで、フィブリル化繊維とガラス繊維の絡み合いにより湿潤強度に優れると同時に、基材内部に適度な空隙が形成され、無機粒子層形成用塗工液の浸透性や保持性に優れた基材が得られる。その結果、無機粒子の含有量が向上し、耐火性に優れる耐火シートを得ることができる。
【0035】
本発明において基材は、ガラス繊維、湿熱接着性バインダー繊維、フィブリル化繊維に加えて、必要に応じて、性能を阻害しない範囲で、各種繊維を含有することができる。その結果、さらに空隙部を増やすことができ、無機粒子の保持性や熱暴走抑制耐火シートの強度を向上させることもできる。このような繊維としては、レーヨン、キュプラ、リヨセル繊維等の再生繊維;アセテート、トリアセテート、プロミックス等の半合成繊維;ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリアクリル系、ビニロン系、ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル系、ベンゾエート系、ポリクラール、フェノール樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、尿素樹脂、アニリン樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、これらの誘導体等の合成樹脂繊維;金属繊維、炭素繊維、アルミナ、シリカ、セラミックス、岩石繊維等の無機繊維を加えることができる。
【0036】
合成樹脂繊維は、単一の樹脂からなる繊維(単繊維)であっても良いし、2種以上の樹脂からなる複合繊維であっても良い。複合繊維としては、芯鞘型、偏芯型、サイドバイサイド型、海島型、オレンジ型、多重バイメタル型が挙げられる。また、本発明の耐火シートに含まれることができる上記各種繊維は、1種でも良いし、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0037】
本発明において、基材の厚みは、0.25mm以上であることが好ましく、0.35mm以上であることがより好ましく、0.50mm以上であることがさらに好ましい。また基材の厚みは、2.00mm以下であることが好ましく、1.50mm以下であることがより好ましく、1.20mm以下であることがさらに好ましい。基材の厚みを上記の範囲とした場合において、本発明における基材では、抄紙工程や塗工工程で必要な引張強度を維持できるため、基材の抄造性も含め、各工程での作業性が良好なものとなる。
【0038】
本発明における基材の密度は、0.07g/cm以上であることが好ましく、0.10g/cm以上であることがより好ましい。また、0.50g/cm以下であることが好ましく、0.40g/cm以下であることがより好ましい。この様な範囲とすることで基材に十分な引張強度を付与する事が可能となり、基材の取り扱いが容易となり、また塗工時において無機粒子層を安定した塗工量で塗布できるため好ましい。
【0039】
本発明における基材は、湿式抄造法(抄紙法)によって製造される湿式不織布であることが好ましい。湿式抄造法は繊維を水に分散して均一な抄紙スラリーとし、この抄紙スラリーを抄紙機で抄いて湿式不織布を製造する。抄紙機としては、円網抄紙機、長網抄紙機、傾斜型抄紙機、傾斜短網抄紙機、およびこれらの複合機が挙げられる。また、複数のヘッドボックスを有し、ワイヤー上で湿紙を重ね合わせる抄紙機にて製造することができる。抄紙スラリーには、繊維原料の他に、必要に応じて、分散剤、紙力増強剤、増粘剤、無機填料、有機填料、消泡剤などを適宜添加することができる。抄紙スラリーの固形分濃度は、0.001~1.0質量%程度であることが好ましい。この抄紙スラリーを、さらに所定濃度に希釈してから抄造し、湿紙ウェブを得る。ついで、抄造された湿紙ウェブは、プレスロールなどでニップし、ついで、ヤンキードライヤーを使用し、湿熱接着性バインダー繊維を溶融させて、強度を発現させる。ヤンキードライヤーにて乾燥することにより、乾燥された表面は平坦となり、表面の凹凸が少ない面を形成できる。その他、補助乾燥として、熱風乾燥機、加熱ロール、赤外線ヒーターなどの加熱装置を併用しても問題無い。この時の乾燥温度としては、湿紙ウェブの水分が十分に除去でき、湿熱接着性バインダー繊維により強度を発現できる温度とすることが好ましい。
【0040】
本発明において、無機粒子層は、無機中空粒子と粘土鉱物を含有している層である。この無機粒子層が、基材に含有される繊維の表面全体を被覆しており、また、基材の空隙に充填されていることによって、耐火シートの耐火性と不燃性の効果が得られる。
【0041】
無機中空粒子は、無機材料により構成される外殻部と、該外殻部に取り囲まれた中空部を有する粒子である。粒子内部が中空構造となっていることで熱伝導率が低く、耐火シートの断熱性能の向上に寄与する。中空無機粒子の具体例としては、ガラスバルーン、シリカバルーン、セラミックバルーン、シラスバルーン、フライアッシュバルーン等が挙げられるが、粒度分布の均一性、及び入手のし易さの点より、ガラスバルーンまたはセラミックバルーンを用いることが好ましい。
【0042】
無機中空粒子の粒子径は、1μm以上200μm以下であることが好ましく、2μm以上150μm以下であることがより好ましく、5μm以上100μm以下であることがさらに好ましい。粒子径が200μmを超えると、耐火シート形成後の表面性が悪くなる場合や、無機中空粒子の密度が小さいために塗工液中で分離しやすく塗液安定性に劣る場合がある。一方、粒子径が1μm未満の場合、無機中空粒子の空隙率が小さくなり、断熱効果が低下する場合がある。なお、無機中空粒子の粒子径は、無機中空粒子を水で希釈し、撹拌機で分散し、これをレーザー散乱タイプの粒度測定機(マイクロトラック社製、商品名:MT3000)によって測定し、得られた中心粒子径(D50、体積平均)を示す。
【0043】
本発明において、無機粒子層は粘土鉱物を含有する。無機粒子層が粘土鉱物を含有することで、耐火シートの耐火性が向上し、耐火シートからの無機中空粒子の脱落が抑制され、圧縮強度が増すことで荷重下においても断熱性を維持することができる。
【0044】
本発明の粘土鉱物としては、鉱物学的分類上の粘土鉱物に属するもので、カオリン、蛇紋石、ハロイサイト、パイロフィライト、タルク、雲母、スメクタイト、ベントナイト、クロライト等の層状粘土鉱物、セピオライト、パリゴルスカイト等の繊維状粘土鉱物、アロフェン、イモゴライト等の非晶質粘土鉱物が用いられる。中でも、高温下における耐熱工程シートからの繊維脱落抑制の点から、層状粘土鉱物あるいは繊維状粘土鉱物が好ましく、カオリン、ベントナイト、セピオライトがより好ましく、セピオライトが特に好ましい。上記粘土鉱物は、単独で使用しても良いし、2種以上組み合わせて使用しても良い。
【0045】
本発明において、粘土鉱物の粒子径は、0.08μm以上50.0μm以下であることが好ましく、0.30μm以上40.0μm以下であることがより好ましい。0.40μm以上30.0μm以下であることがさらに好ましい。この範囲とすることで耐火シートとして用いたときに粉落ちや無機中空粒子の脱落が低減され、また塗工液の粘度が上昇することなく安定した塗工が可能となる。なお、粘土鉱物の粒子径は、粘土鉱物を水で希釈し、撹拌機で分散し、これをレーザー散乱タイプの粒度測定機(マイクロトラック社製、商品名:MT3000)によって測定し、得られた中心粒子径(D50、体積平均)を示す。
【0046】
本発明において、無機粒子層に含まれる粘土鉱物の含有率は、無機中空粒子と粘土鉱物の総量に対して、2質量%以上80質量%以下であることが好ましく、5質量%以上50質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上30質量%以下であることがさらに好ましい。粘土鉱物の含有率が2質量%未満の場合、耐火シートの耐火性が十分に得られない場合や無機中空粒子が基材から脱落し易くなる場合がある。また、粘土鉱物の含有率が80質量%を超える場合、耐火シート形成後の断熱性が低下する場合や、耐火シートの柔軟性が損なわれる場合がある。
【0047】
無機粒子層形成用塗工液を調製するための媒体としては、無機中空粒子や粘土鉱物を均一に分散できるものであれば特に限定されない。例えば、トルエンに代表される芳香族炭化水素類、テトラヒドロフランに代表されるエーテル類、メチルエチルケトンに代表されるケトン類、イソプロピルアルコールに代表されるアルコール類、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、水等を必要に応じて用いることができる。また、使用する媒体は、基材を膨張させない媒体又は基材を溶解しない媒体が好ましい。
【0048】
無機粒子層の塗工量(乾燥塗工量)は、耐火シート全体に対して30質量%以上70質量%以下であることが好ましく、33質量%以上67質量%以下であることがより好ましい。耐火シート全体に対する無機粒子層の塗工量が30質量%以上であれば、耐火シートに火炎を当てた場合でも、耐火シートの溶融や損傷がほとんど見られない。一方、無機粒子層の含有率が高いほど、耐火シートの厚みが増加し、耐火性、不燃性や断熱性は高くなるが、無機粒子層の含有率が70質量%以下の場合、粉落や耐火シートの柔軟性が損なわれる事がなく好ましい。
【0049】
無機粒子層を形成するために、無機粒子層形成用塗工液を基材に塗工する装置としては、各種の塗工装置を用いることができる。例えば、2ロールサイズプレス、ゲートロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、リップコーター、ブレードコーター、カーテンコーター、エアーナイフコーター、ロッドコーター、キスタッチコーター、ディップコーター等の含浸又は塗工装置による各種コーターを用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0050】
本発明において、無機粒子層には、前記無機中空粒子及び粘土鉱物の他に、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロースナトリウム等の各種分散剤、塗工液の液安定性を増すため、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリエチレンオキサイド等の各種増粘剤、各種保水剤、各種の濡れ剤、防腐剤、消泡剤等の各種添加剤を、必要に応じて添加することもできる。一般に、媒体として有機溶剤を使用した非水系塗工液は表面張力が低く、媒体として水を用いた水系塗工液の表面張力は高い。本発明の基材は、塗工液の受理性が高いため、非水系塗工液も水系塗工液も、両方共に問題無く塗工することができるが、本発明において、無機粒子の分散均一性の観点から媒体として水のみを用いた水系塗工液を使用することが好ましい。
【実施例0051】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例において百分率(%)及び部は、断りの無い限り全て質量基準である。また、塗工量は絶乾塗工量である。
【0052】
実施例1
<基材1の作製>
扁平断面のガラス繊維(商品名:ECS13I-33-FGF、日本電気硝子株式会社製、長径28μm、短径7μm、円相当径14μm、繊維長13mm)90部、湿熱接着性バインダー繊維であるシラノール変性PVA繊維(商品名:SPG056-11、株式会社クラレ製、繊度0.6デシテックス、繊維長3mm)5部、全芳香族ポリアミド繊維のパルプ化物を、高圧ホモジナイザーを用いて変法濾水度350mlまでフィブリル化させたフィブリル化繊維(質量加重平均繊維長0.94mm、長さ加重平均繊維長0.56mm、平均繊維幅22μm)5部を、パルパーにより水中に分散し、濃度0.5%の均一な抄紙スラリーを調成し、円網抄紙機を用いて湿紙ウェブを得た後、プレスロールでニップし、次いで表面温度140℃のヤンキードライヤーによって乾燥し、坪量150g/m、厚み0.6mm、密度0.25g/cmの基材1を得た。
【0053】
<無機粒子層形成用塗工液1の調製>
セピオライト(商品名:ミルコンSP-2、昭和KDE株式会社製、粒子径15μm)20部と水溶性アクリル酸系分散剤(商品名:アロン(登録商標)T-50、東亜合成株式会社製)1.0部を水中に混合し十分撹拌し、セピオライト分散液を調製した。ついで、ガラスバルーン(商品名:SPHERICEL(登録商標)110P8、ポッターズ・バロティーニ株式会社製、粒子径12μm)80部と、前記したセピオライト分散液21部を混合、撹拌し、水で濃度を調整して、固形分濃度25%の無機粒子層形成用塗工液1を調製した。
【0054】
<熱暴走抑制耐火シートの作製>
上記の基材1を、無機粒子層形成用塗工液1に含浸し、隙間調整機能(コッター)を有した2ロールサイズプレスにて、複数回の含浸処理を行い、絶乾塗工量150g/m、総坪量300g/m、耐火シート全体に対する無機粒子層の乾燥塗工量が50%の熱暴走抑制耐火シートを作製した。
【0055】
実施例2
無機粒子層の絶乾塗工量を150g/mから90g/mに変更した以外は、実施例1と同様な方法で、総坪量240g/m、耐火シート全体に対する無機粒子層の乾燥塗工量が38%の熱暴走抑制耐火シートを作製した。
【0056】
実施例3
無機粒子層の絶乾塗工量を150g/mから75g/mに変更した以外は、実施例1と同様な方法で、総坪量225g/m、耐火シート全体に対する無機粒子層の乾燥塗工量が33%の熱暴走抑制耐火シートを作製した。
【0057】
実施例4
無機粒子層の絶乾塗工量を150g/mから300g/mに変更した以外は、実施例1と同様な方法で、総坪量450g/m、耐火シート全体に対する無機粒子層の乾燥塗工量が67%の熱暴走抑制耐火シートを作製した。
【0058】
実施例5
無機粒子層の絶乾塗工量を150g/mから250g/mに変更した以外は、実施例1と同様な方法で、総坪量400g/m、耐火シート全体に対する無機粒子層の乾燥塗工量が63%の熱暴走抑制耐火シートを作製した。
【0059】
実施例6
無機粒子層形成用塗工液1の代わりに、下記の無機粒子層形成用塗工液2を用いた以外は、実施例1と同様な方法で、総坪量300g/m、耐火シート全体に対する無機粒子層の乾燥塗工量が50%の熱暴走抑制耐火シートを作製した。
【0060】
<無機粒子層形成用塗工液2の調製>
セピオライト(商品名:ミルコンSP-2、昭和KDE株式会社製)40部と水溶性アクリル酸系分散剤(商品名:アロンT-50、東亜合成株式会社製)2.0部を水中に混合し十分撹拌し、セピオライト分散液を調製した。ついで、ガラスバルーン(商品名:SPHERICEL 110P8、ポッターズ・バロティーニ株式会社製、粒子径12μm)60部とセピオライト分散液を混合、撹拌し、水で濃度を調整して、固形分濃度25%の無機粒子層形成用塗工液2を調製した。
【0061】
実施例7
無機粒子層形成用塗工液1の代わりに、下記の無機粒子層形成用塗工液3を用いた以外は、実施例1と同様な方法で、総坪量300g/m、耐火シート全体に対する無機粒子層の乾燥塗工量が50%の熱暴走抑制耐火シートを作製した。
【0062】
<無機粒子層形成用塗工液3の調製>
セピオライト(商品名:ミルコンSP-2、昭和KDE株式会社製)60部と水溶性アクリル酸系分散剤(商品名:アロンT-50、東亜合成株式会社製)3.0部を水中に混合し十分撹拌し、セピオライト分散液を調製した。ついで、ガラスバルーン(商品名:SPHERICEL 110P8、ポッターズ・バロティーニ株式会社製、粒子径12μm)40部とセピオライト分散液を混合、撹拌し、水で濃度を調整して、固形分濃度25%の無機粒子層形成用塗工液3を調製した。
【0063】
実施例8
無機粒子層形成用塗工液1の代わりに、下記の無機粒子層形成用塗工液4を用いた以外は、実施例1と同様な方法で、総坪量300g/m、耐火シート全体に対する無機粒子層の乾燥塗工量が50%の熱暴走抑制耐火シートを作製した。
【0064】
<無機粒子層形成用塗工液4の調製>
セピオライト(商品名:ミルコンSP-2、昭和KDE株式会社製)20部と水溶性アクリル酸系分散剤(商品名:アロンT-50、東亜合成株式会社製)1.0部を水中に混合し十分撹拌し、セピオライト分散液を調製した。ついで、セラミックバルーン(商品名:CMC-15L、ポッターズ・バロティーニ株式会社製、粒子径40μm)80部とセピオライト分散液を混合、撹拌し、水で濃度を調整して、固形分濃度25%の無機粒子層形成用塗工液4を調製した。
【0065】
実施例9
無機粒子層形成用塗工液1の代わりに、下記の無機粒子層形成用塗工液5を用いた以外は、実施例1と同様な方法で、総坪量300g/m、耐火シート全体に対する無機粒子層の乾燥塗工量が50%の熱暴走抑制耐火シートを作製した。
【0066】
<無機粒子層形成用塗工液5の調製>
カオリン(商品名:ASP(登録商標) NC X-1、BASF CORPORATION製)20部と水溶性アクリル酸系分散剤(商品名:アロンT-50、東亜合成株式会社製)1.0部を水中に混合し十分撹拌し、カオリン分散液を調製した。ついで、ガラスバルーン(商品名:SPHERICEL 110P8、ポッターズ・バロティーニ株式会社製、粒子径12μm)80部とカオリン分散液を混合、撹拌し、水で濃度を調整して、固形分濃度25%の無機粒子層形成用塗工液5を調製した。
【0067】
実施例10
無機粒子層形成用塗工液1の代わりに、下記の無機粒子層形成用塗工液6を用いた以外は、実施例1と同様な方法で、総坪量300g/m、耐火シート全体に対する無機粒子層の乾燥塗工量が50%の熱暴走抑制耐火シートを作製した。
【0068】
<無機粒子層形成用塗工液6の調製>
ベントナイト(商品名:クニピア(登録商標)G、クニミネ工業株式会社製)20部を水中に混合し十分撹拌し、ベントナイト分散液を調製した。ついで、ガラスバルーン(商品名:SPHERICEL 110P8、ポッターズ・バロティーニ株式会社製、粒子径12μm)80部とベントナイト分散液を混合、撹拌し、水で濃度を調整して、固形分濃度15%の無機粒子層形成用塗工液6を調製した。
【0069】
比較例1
無機粒子層形成用塗工液1の代わりに、下記の無機粒子層形成用塗工液7を用いた以外は、実施例1と同様な方法で、総坪量300g/m、耐火シート全体に対する無機粒子層の乾燥塗工量が50%の熱暴走抑制耐火シートを作製した。
【0070】
<無機粒子層形成用塗工液7の調製>
ガラスバルーン(商品名:SPHERICEL 110P8、ポッターズ・バロティーニ株式会社製、粒子径12μm)100部を水中に混合し十分撹拌し、水で濃度を調整して、固形分濃度25%の無機粒子層形成用塗工液7を調製した。
【0071】
比較例2
無機粒子層形成用塗工液1の代わりに、下記の無機粒子層形成用塗工液8を用いた以外は、実施例1と同様な方法で、総坪量300g/m、耐火シート全体に対する無機粒子層の乾燥塗工量が50%の熱暴走抑制耐火シートを作製した。
【0072】
<無機粒子層形成用塗工液8の調製>
ガラスバルーン(商品名:SPHERICEL 110P8、ポッターズ・バロティーニ株式会社製、粒子径12μm)60部を水中に混合、撹拌し、ガラスバルーン分散液を調製した。ついで、塩化ビニル系エマルジョン(商品名:ビニブラン(登録商標)278、固形分濃度43%、日信化学工業株式会社製)とガラスバルーン分散液を混合、撹拌し、水で濃度を調整して、固形分濃度25%の無機粒子層形成用塗工液8を調製した。
【0073】
比較例3
基材1の代わりに、下記の基材2を用いた以外は、実施例1と同様な方法で、総坪量300g/m、耐火シート全体に対する無機粒子層の乾燥塗工量が50%の熱暴走抑制耐火シートを作製した。
【0074】
<基材2の作製>
扁平断面のガラス繊維(商品名:ECS13I-33-FGF、日本電気硝子株式会社製、長径28μm、短径7μm、円相当径14μm、繊維長13mm)90部、湿熱接着性バインダー繊維であるシラノール変性PVA繊維(商品名:SPG056-11、株式会社クラレ製、繊度0.6デシテックス、繊維長3mm)10部を、パルパーにより水中に分散し、濃度0.5%の均一な抄紙スラリーを調成し、円網抄紙機を用いて湿紙ウェブを得た後、プレスロールでニップし、次いで表面温度140℃のヤンキードライヤーによって乾燥し、坪量150g/m、厚み0.50mm、密度0.30g/cmの基材2を得た。
【0075】
比較例4
基材1の代わりに、下記の基材3を用いた以外は、実施例1と同様な方法で、総坪量300g/m、耐火シート全体に対する無機粒子層の乾燥塗工量が50%の熱暴走抑制耐火シートを作製した。
【0076】
<基材3の作製>
扁平断面のガラス繊維(商品名:ECS13I-33-FGF、日本電気硝子株式会社製、長径28μm、短径7μm、円相当径14μm、繊維長13mm)90部、全芳香族ポリアミド繊維のパルプ化物を、高圧ホモジナイザーを用いて変法濾水度350mlまでフィブリル化させたフィブリル化繊維10部を、パルパーにより水中に分散し、濃度0.5%の均一な抄紙スラリーを調成し、円網抄紙機を用いて湿紙ウェブを得た後、プレスロールでニップし、次いで表面温度140℃のヤンキードライヤーによって乾燥し、坪量150g/m、厚み0.6mm、密度0.25g/cmの基材3を得た。
【0077】
実施例及び比較例の壁紙裏打ち用耐火シートについて、下記の評価を行い、結果を表1に示した。
【0078】
<ガラス繊維及び無機粒子の脱落>
各耐火シートについて、長辺が流れ方向になるように、流れ方向200mm×幅方向100mmのサンプル片を5枚切り出し、そのサンプル片の表面に25mm幅のセロハンテープを流れ方向に100mm貼り付け、その上から3kgの円柱金属ロールを1往復転がし、セロハンテープを剥がして、セロハンテープの様子を目視で観察し、次の基準で評価した。
【0079】
○:セロハンテープにガラス繊維や無機粒子がほとんど付いていない。
△:セロハンテープにガラス繊維や無機粒子が薄く付いている。
×:セロハンテープにガラス繊維や無機粒子がしっかり付いている。
【0080】
<荷重下での断熱性>
各耐火シートを0.3mm厚のアルミ板及び熱電対で挟み、500℃に設定したホットプレート上で4kPaの荷重下にて加熱処理を行い、10分後の耐火シート上面と下面温度差より断熱性を評価した。
【0081】
◎ :上面と下面の温度差85℃以上。
○ :上面と下面の温度差80℃以上85℃未満。
○△:上面と下面の温度差75℃以上80℃未満。
△ :上面と下面の温度差70℃以上75℃未満。
× :上面と下面の温度差70℃未満。
【0082】
【表1】
【0083】
表1の結果から、本発明の熱暴走抑制耐火シートは、ガラス繊維及び無機粒子の脱落が抑制され、荷重下での断熱性に優れることがわかる。