(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175475
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】放射線施設として用いられる建築物、及び放射線施設として用いられる建築物の施工方法
(51)【国際特許分類】
G21F 3/00 20060101AFI20241211BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20241211BHJP
E04B 1/92 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
G21F3/00 L
E04H9/02 321Z
E04B1/92
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093280
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】能任 琢真
(72)【発明者】
【氏名】原 憲治
(72)【発明者】
【氏名】小迫 和明
(72)【発明者】
【氏名】竹下 隼人
【テーマコード(参考)】
2E001
2E139
【Fターム(参考)】
2E001DH05
2E001FA03
2E001FA11
2E001FA41
2E139AA01
2E139AA23
2E139AC19
2E139AC26
2E139BD22
(57)【要約】
【課題】放射線遮蔽性能の低下を抑制できる、放射線施設として用いられる建築物を提供すること。
【解決手段】放射線施設として用いられる建築物は、壁に沿って延び、一端が室内に向かって開口している第1部分と、一端が前記第1部分と屈曲部を介して繋がり、他端が室外に向かって開口している第2部分と、を有する、壁と床とを分離するスリットを備える、ことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁に沿って延び、一端が室内に向かって開口している第1部分と、一端が前記第1部分と屈曲部を介して繋がり、他端が室外に向かって開口している第2部分と、を有する、壁と床とを分離するスリットを備える、
ことを特徴とする放射線施設として用いられる建築物。
【請求項2】
前記第1部分は、一方の面が室内に対向する壁面と一続きとなっている
ことを特徴とする請求項1に記載の放射線施設として用いられる建築物。
【請求項3】
前記第2部分は、水平に延びる水平部を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の放射線施設として用いられる建築物。
【請求項4】
前記第2部分は、室内側から室外側に向かって鉛直上方に傾斜する傾斜部を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の放射線施設として用いられる建築物。
【請求項5】
前記スリットは、放射線遮蔽体が配されている
ことを特徴とする請求項1に記載の放射線施設として用いられる建築物。
【請求項6】
床スラブを打設し、
前記床スラブ上に水平方向に第1部材を配置した状態で、前記第1部材の上に垂直に壁を打設し、
前記壁の室内側の壁面に沿うように、一端が前記第1部材に繋がり、他端が上方に向かって延びる第2部材を配置した状態で、前記床スラブの前記室内部分を嵩上げする
ことを特徴とする、放射線施設として用いられる建築物の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線施設として用いられる建築物、及び放射線施設として用いられる建築物の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、耐震壁を設けることによって部材に応力が集中することを防ぐために構造スリットを設けることがある(例えば、特許文献1を参照)。強力な放射線を用いた治療を行う部屋(リニアック室等)は、放射線遮蔽のために四周を分厚いコンクリート壁(例えば、厚さt=1400mm等の壁)で囲う必要があるが、この壁にも当然、応力集中が生じることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の応力集中を緩和するため、リニアック室と同一階の外周部に耐震壁を設ける、リニアック室周りの部材の耐力を上げる、又はリニアック室と周囲の架構との縁を切るといった対策が施されることがある。しかし、純S造と比べて施工時間が長くなるという問題があった。
【0005】
リニアック室の壁に構造スリットを設けることができれば応力集中の問題を解決することができる。しかしながら、従来のスリット材はポリエチレン等であり、放射線を遮蔽する能力が低いため、構造スリットを設けると放射線の遮蔽性能が低下するという課題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、放射線遮蔽性能の低下を抑制できる、放射線施設として用いられる建築物、及び放射線施設として用いられる建築物の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る放射線施設として用いられる建築物は、壁に沿って延び、一端が室内に向かって開口している第1部分と、一端が前記第1部分と屈曲部を介して繋がり、他端が室外に向かって開口している第2部分と、を有する、壁と床とを分離するスリットを備える、ことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の一態様に係る放射線施設として用いられる建築物は、前記第1部分は、一方の面が室内に対向する壁面と一続きとなっていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の一態様に係る放射線施設として用いられる建築物は、前記第2部分は、水平に延びる水平部を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一態様に係る放射線施設として用いられる建築物は、前記第2部分は、室内側から室外側に向かって鉛直上方に傾斜する傾斜部を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の一態様に係る放射線施設として用いられる建築物は、前記スリットは、放射線遮蔽体が配されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の一態様に係る放射線施設として用いられる建築物の施工方法は、床スラブを打設し、前記床スラブ上に水平方向に第1部材を配置した状態で、前記第1部材の上に垂直に壁を打設し、前記壁の室内側の壁面に沿うように、一端が前記第1部材に繋がり、他端が上方に向かって延びる第2部材を配置した状態で、前記床スラブの前記室内部分を嵩上げすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、放射線遮蔽性能の低下を抑制できる、放射線施設として用いられる建築物、及び放射線施設として用いられる建築物の施工方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】
図2は、水平構造スリットの内部を放射線が散乱する様子を表す図である。
【
図3】
図3は、変形例1に係る水平構造スリットを表す図である。
【
図4】
図4は、変形例2に係る水平構造スリットを表す図である。
【
図5】
図5は、変形例3に係る水平構造スリットを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照して本発明に係る放射線施設として用いられる建築物、及び放射線施設として用いられる建築物の施工方法の実施の形態を説明する。なお、これらの実施の形態により本発明が限定されるものではない。本発明は、放射線施設として用いられる建築物、及び放射線施設として用いられる建築物の施工方法一般に適用することができる。
【0016】
また、図面の記載において、同一又は対応する要素には適宜同一の符号を付している。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0017】
(実施の形態)
〔水平構造スリットの構成〕
図1は、水平構造スリットを表す図である。
図1に示すように、水平構造スリット1は、壁3と床スラブ2との間に設けられた水平方向に延びる間隙であり、水平方向に床スラブ2と壁3とを分離することにより、応力集中を防止する。また、水平構造スリット1は、放射線を放射する線源を収容する部屋(リニアック室等)に設けられている。
【0018】
水平構造スリット1は、室外から室内に至り、水平部1a1と、傾斜部1cと、水平部1a2と、鉛直部1bと、を順次、備える。水平構造スリット1は、壁3と床スラブ2との間を空隙とするだけでなく、ポリエチレン等の放射線遮蔽体をスリットに配してもよい。水平部1a1,1a2、鉛直部1b、及び傾斜部1cに同一の材料を配した構成としてもよいが、異なる材料を配した構成としてもよい。
【0019】
水平部1a1,1a2は、水平方向に延在する。水平部1a1は、一端が室外に向かって開口している。
【0020】
傾斜部1cは、一端が水平部1a1に、他端が水平部1a2に繋がり、水平方向に延在する水平部1a1,1a2に対して交差、より具体的には室内側から室外側に向かって鉛直上方に傾斜している。つまり、水平部1a1と傾斜部1cは、また傾斜部1cと水平部1a2とは、それぞれ屈曲部を介して、つまり折れ曲がるようにして繋がっている。
【0021】
そして、鉛直部1bは、一端が水平部1a2に繋がり、他端が室内に向かって開口している。つまり、水平部1a2と鉛直部1bは、屈曲部を介して、つまり折れ曲がるようにして繋がっている。本実施例では、壁3が鉛直方向に延びる構成としたため、鉛直部1bも鉛直方向に延びる構成としたが、鉛直部1bは、壁3に沿って延びていればよく、本実施例では鉛直部1bを構成する一方の面が壁3の室内に対向する壁面と一続きとなっている。
【0022】
床スラブ2、壁3、及び嵩上げ床4は、鉄筋コンクリート製である。
【0023】
壁3は、床スラブ2の上に垂直に設けられている。壁3は、放射線を遮蔽するため、例えば、厚さが1400mm以上とされている。
【0024】
嵩上げ床4は、床スラブ2の室内部分を鉛直部1bの長さの分だけ嵩上げする。
【0025】
図2は、水平構造スリットの内部を線源から放射された放射線が散乱する様子を表す図である。
図2に示すように、水平構造スリット1は、室内に開口する鉛直部1bを備えることにより、鉛直部1bに入射する放射線は、鉛直方向へ延在する壁3に沿ったものとなる。このように、線源から放射された放射線の水平構造スリット1への入射を抑制し、放射線遮蔽性能の低下を抑制することができる。
【0026】
さらに、水平構造スリット1が傾斜部1cを備えることにより、放射線が室内側から室外側に漏洩するには、4回以上の散乱回数を必要とする。すなわち、水平構造スリット1が放射線の漏洩を防止する迷路として機能するため、放射線の遮蔽性能を向上させることができる。
【0027】
〔水平構造スリットの施工方法〕
まず、床スラブ2をフロアラインFLより低い位置までコンクリート打設する(ステップS1)。その後、床スラブ2上に水平方向に放射線遮蔽体である第1部材(水平部1a1,1a2及び鉛直部1b)を配置する(ステップS2)。その後、配置した第1部材の上に垂直に壁3をコンクリート打設する(ステップS3)。そして、壁3の室内側の壁面に沿うように、一端が第1部材に繋がり、他端が上方に向かって延びる、放射線遮蔽体である第2部材(鉛直部1b)を配置する(ステップS4)。最後に、床スラブ2の室内部分を第2部材の高さまで嵩上げする嵩上げ床4をフロアラインFLの位置までコンクリート打設により形成する(ステップS5)。
【0028】
以上説明した水平構造スリットの施工方法によれば、ステップS1により床スラブ2をコンクリート打設した後に、ステップS5により嵩上げ床4を形成する工程と、リニアック室のベースフレームやターンテーブルの埋設、ケーブルピットの作成等のために床を嵩上げする工程と、を同時に施工することができる。その結果、ステップS4により第2部材を配設する工程以外に追加される工程がないため、施工時間が長くなることを抑制することができる。
【0029】
(変形例1)
図3は、変形例1に係る水平構造スリットを表す図である。水平構造スリットは、一端が室内に向かって開口し、床スラブ2と隔てられる壁3に沿って延びる鉛直部を有するものであればよい。
図3に示すように、水平構造スリット1Aは、室内側から室外側に向かって上方に延び、一端が室外に向かって開口している傾斜部1Aaと、壁3に沿って延び、一端が傾斜部1Aaに繋がり、他端が室内に向かって開口している鉛直部1Abと、を備える構成としてもよい。
【0030】
水平構造スリット1Aが鉛直部1Abを備えることにより、線源から放射された放射線のうち、鉛直部1Abに入射する線量を少なくすることができる。このように、線源から放射された放射線の水平構造スリット1Aへの入射を抑制し、放射線遮蔽性能の低下を抑制することができる。
【0031】
さらに、水平構造スリット1Aが傾斜部1Aaを備え、鉛直部1Abと屈曲部を介して繋がった構造としているため、放射線が室内側から室外側に漏洩するには、2回以上の散乱が必要となる。すなわち、水平構造スリット1が放射線の漏洩を防止する迷路として機能するため、放射線の遮蔽性能を向上させることができる。
【0032】
(変形例2)
図4は、変形例2に係る水平構造スリットを表す図である。
図4に示すように、水平構造スリット1Bは、室内側から室外側に向かって上方に延び、一端が室外に向かって開口している傾斜部1Bcと、一端が傾斜部1Bcに繋がり、水平に延びる水平部1Baと、壁3に沿って延び、一端が水平部1Baに繋がり、他端が室内に向かって開口している鉛直部1Bbと、を備える。
【0033】
水平構造スリット1Bが鉛直部1Bbを備えることにより、線源から放射された放射線のうち、鉛直部1Bbに入射する線量を少なくすることができる。このように、線源から放射された放射線の水平構造スリット1Bへの入射を抑制し、放射線遮蔽性能の低下を抑制することができる。
【0034】
さらに、水平構造スリット1Bが傾斜部1Bcを備え、水平部1Baと屈曲部を介して繋がった構造としているため、放射線が室内側から室外側に漏洩するには、3回以上の散乱が必要となる。すなわち、水平構造スリット1が放射線の漏洩を防止する迷路として機能するため、放射線の遮蔽性能を向上させることができる。
【0035】
(変形例3)
図5は、変形例3に係る水平構造スリットを表す図である。
図5に示すように、水平構造スリット1Cは、一端が室外に向かって開口し、水平に延びる水平部1Caと、壁3に沿って延び、一端が水平部1Caに繋がり、他端が室内に向かって開口している鉛直部1Cbと、を備える。
【0036】
水平構造スリット1Cが鉛直部1Cbを備えることにより、線源から放射された放射線のうち、鉛直部1Cbに入射する線量を少なくすることができる。このように、線源から放射された放射線の水平構造スリット1Cへの入射を抑制し、放射線遮蔽性能の低下を抑制することができる。
【0037】
また、水平構造スリット1Cが傾斜部を有しないが、放射線が室内側から室外側に漏洩するには、2回以上の散乱が必要となる。すなわち、水平構造スリット1が放射線の漏洩を防止する迷路として機能するため、放射線の遮蔽性能を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上のように、本発明に係る放射線施設として用いられる建築物、及び放射線施設として用いられる建築物の施工方法は、放射線施設として用いられる建築物を施工する際に有用である。
【符号の説明】
【0039】
1、1A、1B、1C 水平構造スリット
1a1、1a2、1Ba、1Ca 水平部
1b、1Ab、1Bb、1Cb 鉛直部
1c、1Aa、1Bc 傾斜部
2 床スラブ
3 壁
4 嵩上げ床