(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017548
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】車両用マフラー
(51)【国際特許分類】
F01N 1/08 20060101AFI20240201BHJP
F01N 13/00 20100101ALI20240201BHJP
【FI】
F01N1/08 K
F01N13/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120265
(22)【出願日】2022-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000157083
【氏名又は名称】トヨタ自動車東日本株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川鍋 祐介
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健太
(72)【発明者】
【氏名】浅野 將嗣
(72)【発明者】
【氏名】杉本 剛志
【テーマコード(参考)】
3G004
【Fターム(参考)】
3G004AA01
3G004DA08
3G004DA23
3G004EA03
(57)【要約】
【課題】自身の前方に設置された機器への、車両後突時における衝突荷重の伝搬を従来よりも抑制可能とする。
【解決手段】車両用マフラーは、ケーシング22及びセパレータ30を備える。ケーシング22は中空構造であって車幅方向を長手方向として延設される。セパレータ30はケーシング22内に設置される。このセパレータ30は、ケーシング22内の空間を車幅方向に複数の部屋に分けるために、車両前後方向に延設される仕切り板である。ケーシング22は車両前方部分が車両後方部分よりも低位置にある前傾姿勢である。さらにセパレータ30の最下部は車幅方向に貫通するように切り欠かれる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向を長手方向として延設された中空構造のケーシングと、
前記ケーシング内に設置され、前記ケーシング内の空間を車幅方向に並ぶ複数の部屋に分けるために、車両前後方向に延設される仕切り板であるセパレータと、
を備え、
前記ケーシングは車両前方部分が車両後方部分よりも低位置にある前傾姿勢であって、
前記セパレータの最下部は車幅方向に貫通するように切り欠かれた、
車両用マフラー。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用マフラーであって、
前記ケーシングの前方には車両機器が近接配置され、
前記車両機器の後端には、前記ケーシングに向かって突出される突起部が設けられ、
前記セパレータは、前記突起部とは車幅方向位置でずれるように配置された、
車両用マフラー。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用マフラーであって、
前記ケーシング内には、車幅方向に延設されるインレットパイプ及びアウトレットパイプが設けられ、
前記突起部と車両前後方向に対向する領域において、前記インレットパイプ及び前記アウトレットパイプの径方向中心点が、前記ケーシングの車両前後方向中心以後に位置するように、前記インレットパイプ及び前記アウトレットパイプが前記ケーシング内に設けられ、
前記セパレータの前記最下部は、前記ケーシングの車両前後方向中心よりも前方に配置された、
車両用マフラー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、車両の排気用消音器である、マフラーが開示される。
【背景技術】
【0002】
車体底部には排気系機器が設置される。例えば車両前方の内燃機関からエキゾーストマニホールドが車体下方かつ後方に延設される。エキゾーストマニホールドの下流端はセンターパイプが接続される。さらにセンターパイプの下流端に、消音器であるマフラーが接続される。
【0003】
例えば特許文献1では、マフラーケーシングの底に溜まった水をアウトレットパイプから外部に排出させるため、インレットパイプから分岐するバイパス管が設けられる。バイパス管はインレットパイプから下方に延設され、ケーシング底部周辺で終端する。その終端開口はアウトレットパイプの上流端開口に向けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両底部に設置される機器のレイアウトの都合で、マフラーとその前方に設置される機器との離隔距離が近接する場合がある。そのような近接配置において車両後突時に、マフラーがその前方の機器に衝突する場合がある。
【0006】
マフラーは基本的に空洞の部材であるが、マフラー内の空洞を複数の部屋(膨張室)に分けるために、マフラー内にセパレータが設けられる場合がある。例えばマフラーが車幅方向に延設される、いわゆるタイコ型の構造である場合に、セパレータによりマフラー内の空間が、車幅方向に並ぶ複数の膨張室に分割される。このときセパレータは車幅方向軸に垂直且つ車両前後方向に延設される。
【0007】
車両後突時にマフラーが前方の機器に衝突したときに、セパレータが突っ張ることでマフラーの座屈進行が抑制される。マフラーの座屈による衝撃吸収が抑制される結果、マフラー前方の機器に入力される荷重が増加するおそれがある。
【0008】
そこで本明細書で開示される車両用マフラーは、自身の前方に設置された機器への、車両後突時における衝突荷重の伝搬を従来よりも抑制可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書では、車両用マフラーが開示される。このマフラーは、ケーシング及びセパレータを備える。ケーシングは中空構造であって車幅方向を長手方向として延設される。セパレータはケーシング内に設置される。このセパレータは、ケーシング内の空間を車幅方向に並ぶ複数の部屋に分けるために、車両前後方向に延設される仕切り板である。ケーシングは車両前方部分が車両後方部分よりも低位置にある前傾姿勢である。さらにセパレータの最下部は車幅方向に貫通するように切り欠かれる。
【0010】
上記構成によれば、セパレータの最下端が切り欠かれることで、ケーシング内に溜まった水がケーシング内の各部屋を自由に移動可能となる。これにより、溜まった水は水蒸気になったり水のままアウトレットパイプから排出され易くなる。さらにケーシングを前傾姿勢とすることで、セパレータの最下端にある切欠きがケーシング前方に配置可能となる。ケーシングの前方にセパレータの切欠きが設けられることで、車両後突時には切欠きが脆弱部として機能して、セパレータの前方部分が破断可能となる。
【0011】
また上記構成において、ケーシングの前方には車両機器が近接配置されてよい。また、車両機器の後端には、ケーシングに向かって突出される突起部が設けられる。この場合、セパレータは、突起部とは車幅方向位置でずれるように配置される。
【0012】
上記構成によれば、車両後突時にセパレータと突起部との衝突が回避可能となる。
【0013】
また上記構成において、ケーシング内には、車幅方向に延設されるインレットパイプ及びアウトレットパイプが設けられてよい。この場合、突起部と車両前後方向に対向する領域において、インレットパイプ及びアウトレットパイプの径方向中心点が、ケーシングの車両前後方向中心以後に位置するように、インレットパイプ及びアウトレットパイプがケーシング内に設けられる。さらに、セパレータの最下部は、ケーシングの車両前後方向中心よりも前方に配置される。
【0014】
上記構成によれば、インレットパイプ及びアウトレットパイプがケーシングの後方部分に寄せられることで、ケーシングの前方部分を他部材が配置されない空洞部分とすることが出来る。これにより、ケーシングの前方部分が潰れ変形し易くなる。
【発明の効果】
【0015】
本明細書に開示される車両用マフラーによれば、自身の前方に設置された機器への、車両後突時における衝突荷重の伝搬が従来よりも抑制可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態に係る車両用マフラーを搭載した車両を例示する側面図である。
【
図2】本実施形態に係る車両用マフラーとその前方の車両機器である電動駆動モジュールとを例示する平面図である。
【
図3】本実施形態に係る車両用マフラーの側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて本実施形態に係る車両用マフラーが説明される。なお
図1-
図3において、車体前後方向が記号FRで表される軸で示され、車幅方向が記号RWで表される軸で示され、車高方向が記号UPで表される軸で示される。車体前後軸FRは車体前方方向を正方向とする。車幅軸RWは右幅方向を正方向とする。また車高軸UPは上方向を正方向とする。これら3軸は互いに直交する。
【0018】
本実施形態に係るマフラーは、内燃機関(図示せず)が搭載された車両に設けられる。例えば
図1を参照して、車両10の前方部分に図示しない内燃機関が設けられる。内燃機関は例えば多気筒の排気ポートを備える。
【0019】
この排気ポートにエキゾーストマニホールド(図示せず)の上流端が接続される。エキゾーストマニホールドの下流端にはセンターパイプ12の上流端が接続される。センターパイプ12の下流端に、消音器であるマフラー20の上流端が接続される。さらにマフラー20の下流端にテールパイプ14の上流端が接続される。テールパイプ14から車両10の後方に排気ガスが排出される。
【0020】
センターパイプ12、マフラー20、及びテールパイプ14は車体の底部に設けられる。例えばセンターパイプ12、マフラー20、及びテールパイプ14は車室のフロアパネルより下方に設置される。
【0021】
図1及び
図2を参照して、マフラー20(及びケーシング22)の前方には、車両機器である電動駆動モジュール50が近接配置される。電動駆動モジュール50は、例えば回転電機、インバータ、及びトランスアクスルが一体化された(モジュール化された)機器である。電動駆動モジュール50は、リアタイア55の駆動シャフト51に接続され当該シャフトを駆動可能となっている。
【0022】
図2の平面図には、車両中心線C0が示される。車両中心線C0は、車両10の車幅方向中心を通り前後方向に延設される。車両中心線C0を参照して、電動駆動モジュール50は、例えば車両10の車幅方向中心に配置される。
【0023】
電動駆動モジュール50の後端には、マフラー20のケーシング22に向かって突設される突起部52が設けられる。突起部52は例えば締結用のフランジであってよい。例えば突起部52の車幅方向両端には、その厚さ方向に貫通する締結孔54,54が穿孔される。この締結孔54,54と、図示しないブラケットの下端に設けられた締結孔とが位置合わせされボルト・ナット締結される。さらにブラケットの上端が、車室床面に設けられた骨格部材であるフロアクロス(図示せず)に締結される。このようにブラケットを介して電動駆動モジュール50がフロアクロスに支持される。
【0024】
マフラー20は例えば図示しないマフラーハンガーを介して車体に支持される。マフラーハンガーは例えばゴム等の樹脂部材から構成される。マフラー20は排気脈動によって振動する場合があるが、マフラーハンガーを介して車体に取り付けられることで、マフラー20から車体への振動伝達が抑制される。
【0025】
図2の車両中心線C0を参照して、マフラー20は車両10の車幅方向中心に配置される。マフラー20は例えば多段膨張型であってよく、ケーシング22の内部が車幅方向に並ぶ複数の部屋、すなわち膨張室22C,22D,22Eに分けられる。
【0026】
マフラー20は、ケーシング22、インレットパイプ24、アウトレットパイプ26、及びセパレータ30,30を備える。これらの部材は例えばステンレス等の金属板金から構成される。
【0027】
ケーシング22は側面視(
図1参照)楕円形状であって、平面視(
図2参照)矩形の、楕円柱形状に構成される。ケーシング22は車幅方向を長手方向として延設される。ケーシング22の内部は中空となっている。
【0028】
また
図1に例示されるように、ケーシング22は車両前方部分が車両後方部分よりも低位置にある前傾姿勢となるように、マフラーハンガーに吊り支持される。例えば
図3を参照して、ケーシング22の中心線C2(側面視線対称軸線)は、鉛直軸線(UP軸線)に対して2.5°以上7.5°以下の範囲となるように、ケーシング22の姿勢が定められる。このような構造とすることで、ケーシング22内部では前方部分に水が溜まりやすくなる。
【0029】
またケーシング22が前傾姿勢を採ることで、車両後突時には、マフラー20が前方斜め下に押し込まれる。例えばマフラー20が前方の電動駆動モジュール50に衝突して潰れ変形する過程でマフラー20を電動駆動モジュール50の下方に滑りこませることが可能となる。その結果、電動駆動モジュール50への衝撃を緩和できる。
【0030】
図2を参照して、マフラー20周りの配管はいわゆる横入れ横出し構造となっている。すなわち、車幅方向中心に配置された電動駆動モジュール50及びマフラー20の脇、つまり車幅方向外側から車両前後方向にセンターパイプ12が延設される。センターパイプ12の下流端部は車幅方向内側に屈曲され、マフラー20のケーシング22の側面22Aからインレットパイプ24の上流端に接続される。
【0031】
インレットパイプ24はケーシング22内に設けられ、車幅方向に延設される。なおインレットパイプ24の下流端開口は、膨張室22E内に露出される。インレットパイプ24の下流端部24Aは車両前方に向けて屈曲されてもよい。
【0032】
アウトレットパイプ26はインレットパイプ24と平行に、ケーシング22内で延設される。アウトレットパイプ26の上流端開口は、膨張室22Eに配置される。アウトレットパイプ26は車幅方向に延設され、下流端はケーシング22の側面22Aからテールパイプ14の上流端に接続される。インレットパイプ24及びアウトレットパイプ26は、例えばパンチングパイプから構成される。
【0033】
図2,
図3には、マフラー20(及びケーシング22)の、車両前後方向中心線C1,C2が示される。車両前後方向中心線C1は平面視における中心線であり、車両前後方向中心線C2は側面視における中心線である。言い換えると、中心線C2は、ケーシング22を側面視したときに線対称の軸となる。また
図3は、車両中心線C0の位置における、マフラー20のUP-FR断面図である。
【0034】
中心線C1,C2を参照して、電動駆動モジュール50の突起部52と車両前後方向に対向する領域において、径方向中心点P1,P2が中心線C1,C2以後に配置されるように、インレットパイプ24及びアウトレットパイプ26が位置決めされる
【0035】
なお、インレットパイプ24の下流端部24Aは中心線C2よりも前方に配置される。これを踏まえて、下流端部24Aと電動駆動モジュール50の突起部52とは、車幅方向位置がずれるようにそれぞれ位置決めされる。
【0036】
少なくとも電動駆動モジュール50の突起部52と対向する領域において、インレットパイプ24及びアウトレットパイプ26が後方に寄せられたことで、当該領域ではケーシング22の前方部分は、セパレータ30を除く他部材が配置されない空洞部にできる。これにより車両後突時における、セパレータ30の座屈変形及びケーシング22の前方部分の潰れ変形に当たり、インレットパイプ24及びアウトレットパイプ26の干渉が抑制される。
【0037】
図2、
図3を参照して、ケーシング22内の空間を、車幅方向に並ぶ複数の部屋(膨張室22C-22E)に分ける仕切り板として、セパレータ30が設けられる。例えばセパレータ30は車幅方向軸(RW軸)に垂直且つ車両前後方向に延設される。
【0038】
またセパレータ30は、ケーシング22の補強部材としての機能も備える。例えばセパレータ30はその周縁部がケーシング22の内周面と溶接等により接合される。
【0039】
例えばケーシング22内には、一対のセパレータ30,30が設置される。これらのセパレータ30,30はいずれも、電動駆動モジュール50の突起部52とは車幅方向位置でずれるように位置決めされる。このような位置決めにより、車両後突時におけるセパレータ30と突起部52との衝突が回避可能となる。
【0040】
図3を参照して、セパレータ30には、インレットパイプ24及びアウトレットパイプ26を挿通させる挿入孔32,34が厚さ方向に穿孔される。
【0041】
加えて、セパレータ30の最下部には、車幅方向に(言い換えると厚さ方向に)貫通するようにして切欠き36が穿孔される。ここで、ケーシング22が前傾姿勢を採り、かつ、ケーシング22が側面視で楕円形状であることから、切欠き36が設けられるセパレータ30の最下部は、ケーシング22の前方部分に設けられる。
【0042】
切欠き36は、セパレータ30の縁辺を切り欠くことで形成される。この切欠き36は、ケーシング22の底に溜まった水の流路となる。例えば膨張室22C,22D(
図2参照)の底に溜まった水は、切欠き36を介して膨張室22Eに集められる。膨張室22Eに集められた水はアウトレットパイプ26からマフラー20の外部に排出される。
【0043】
セパレータ30の前方部分に設けられた切欠き36は、車両後突時には脆弱部として機能する。例えばケーシング22の前端部分が電動駆動モジュール50に衝突すると、セパレータ30は切欠き36を起点に座屈変形する。ケーシング22にとって補強部材であるセパレータ30の前方部分が座屈変形することでケーシング22の前方部分も潰れ変形する。このような変形により衝撃荷重が吸収される。
【0044】
なお、セパレータ30には、追加の脆弱部が設けられてよい。例えばセパレータ30には、切欠き36の上方に追加の切欠き38が穿孔される。さらセパレータ30には、切欠き36,38の間に貫通孔33が穿孔される。加えてセパレータ30には、その後方部分にも貫通孔37が穿孔される。
【符号の説明】
【0045】
10 車両、12 センターパイプ、14 テールパイプ、20 マフラー、22 ケーシング、22A ケーシングの側面、22C-22E 膨張室、24 インレットパイプ、26 アウトレットパイプ、30 セパレータ、36 切欠き、50 電動駆動モジュール(車両機器)、52 突起部。