(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175494
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】精紡機の繊維束集束装置
(51)【国際特許分類】
D01H 5/72 20060101AFI20241211BHJP
D01H 5/66 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
D01H5/72
D01H5/66
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093324
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 江平
(72)【発明者】
【氏名】三塚 尚之
【テーマコード(参考)】
4L056
【Fターム(参考)】
4L056AA01
4L056BC01
4L056BC25
4L056BC46
4L056BG16
4L056CA06
4L056CA16
4L056DA28
(57)【要約】
【課題】トップローラが傾いて通気エプロンに押し付けられることを抑制できる精紡機の繊維束集束装置を提供すること。
【解決手段】繊維束集束装置10は、カバー55を備える。カバー55は、巻き掛け面56aよりも吸引管51とは反対側に突出する一対の突条部59を備えるとともに、一対の突条部59の各々は、荷重アーム115が荷重付与位置に至る前に一対のニップトップローラ22の各々が接触するローラ案内面60aを備える。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラフト装置でドラフトされた繊維束を送り出す送出ローラ対よりも下流側に配置されるとともに、荷重アームに回転可能に支持された一対のトップローラを含み、かつ前記トップローラに対向するボトムローラを備える最終送出ローラ対と、
前記最終送出ローラ対よりも上流側でかつ前記送出ローラ対よりも下流側に配置され、前記繊維束を吸引する吸引流を発生させる吸引管と、
前記吸引管の前記トップローラ側に配置されるカバーと、
前記カバーに巻き掛けられ、前記カバーが備える巻き掛け面に摺接する通気エプロンと、を備え、
前記カバーは、前記巻き掛け面よりも前記吸引管とは反対側に突出する一対の突条部を備えるとともに、
前記一対の突条部の各々は、前記荷重アームが荷重付与位置に至る前に前記一対のトップローラの各々が接触するローラ案内面を備えることを特徴とする精紡機の繊維束集束装置。
【請求項2】
前記一対の突条部の各々は、前記通気エプロンの端縁との接触によって前記通気エプロンを案内するエプロン案内面を備える請求項1に記載の精紡機の繊維束集束装置。
【請求項3】
前記カバーにおいて、前記繊維束の移動方向における前記ローラ案内面よりも上流側に取り付けられる気流制御部材を備え、前記一対の突条部は、前記ローラ案内面よりも前記巻き掛け面寄りに位置して、前記気流制御部材を載置する載置面を備える請求項1又は請求項2に記載の精紡機の繊維束集束装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精紡機の繊維束集束装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、繊維束集束装置を備える精紡機が開示されている。特許文献1に開示の精紡機において、ドラフト装置は、フロントトップローラ及びフロントボトムローラによって構成されるフロントローラ対を備える。また、繊維束集束装置は、ニップトップローラ及びニップボトムローラによって構成されるニップローラ対と、吸引パイプと、吸引パイプに巻き掛けられた通気エプロンと、を備える。ニップトップローラは、ニップボトムローラと通気エプロンの両方に押し付けられるように、ニップトップローラを加圧する加圧機構を備える。
【0003】
加圧機構は、バネ部材と、バネ部材に取り付けられたホルダと、を備える。ホルダは、バネ部材の自由端側に取り付けられている。ホルダは、ニップトップローラの回転支軸を支持する。ニップトップローラは、バネ部材の付勢力によって、吸引パイプとニップボトムローラに向かって押し付けられる。ニップトップローラの位置は、吸引パイプに巻き掛けられた通気エプロンとニップボトムローラとの両方に押し付けられる位置に調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、加圧機構に支持されたニップトップローラにおいて、回転支軸の傾き等を原因としてニップトップローラが傾くことがある。このようなニップトップローラの傾きが発生した場合、ニップトップローラが傾いたまま、ニップトップローラがニップボトムローラ及び通気エプロンに向けて押し付けられると、傾いたニップトップローラによって通気エプロンに横ずれが発生する虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するための精紡機の繊維束集束装置は、ドラフト装置でドラフトされた繊維束を送り出す送出ローラ対よりも下流側に配置されるとともに、荷重アームに回転可能に支持された一対のトップローラを含み、かつ前記トップローラに対向するボトムローラを備える最終送出ローラ対と、前記最終送出ローラ対よりも上流側でかつ前記送出ローラ対よりも下流側に配置され、前記繊維束を吸引する吸引流を発生させる吸引管と、前記吸引管の前記トップローラ側に配置されるカバーと、前記カバーに巻き掛けられ、前記カバーが備える巻き掛け面に摺接する通気エプロンと、を備え、前記カバーは、前記巻き掛け面よりも前記吸引管とは反対側に突出する一対の突条部を備えるとともに、前記一対の突条部の各々は、前記荷重アームが荷重付与位置に至る前に前記一対のトップローラの各々が接触するローラ案内面を備えることを要旨とする。
【0007】
これによれば、荷重アームが荷重付与位置に至る前に、一対のトップローラの両方が一対のローラ案内面の各々に接触する。トップローラに傾きが生じていた場合、トップローラの傾きは、ローラ案内面によって矯正される。このため、荷重付与位置において、トップローラが傾いて通気エプロンに押し付けられることを抑制できる。
【0008】
精紡機の繊維束集束装置について、前記一対の突条部の各々は、前記通気エプロンの端縁との接触によって前記通気エプロンを案内するエプロン案内面を備えていてもよい。
これによれば、カバーによって、通気エプロンの横ずれを抑制できる。
【0009】
精紡機の繊維束集束装置について、前記カバーにおいて、前記繊維束の移動方向における前記ローラ案内面よりも上流側に取り付けられる気流制御部材を備え、前記一対の突条部は、前記ローラ案内面よりも前記巻き掛け面寄りに位置して、前記気流制御部材を載置する載置面を備えていてもよい。
【0010】
これによれば、気流制御部材を載置面に載置すると、気流制御部材は、ローラ案内面よりも巻き掛け面寄りに位置する。このため、気流制御部材がカバーに取り付けられても、気流制御部材が、トップローラと干渉することを抑制できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、トップローラが傾いて通気エプロンに押し付けられることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、精紡機の繊維束集束装置を示す模式図である。
【
図3】
図3は、吸引部材及び気流制御部材を示す分解斜視図である。
【
図4】
図4は、吸引部材及び気流制御部材を示す部分平面図である。
【
図6】
図6は、傾いたニップトップローラを模式的に示す平面図である。
【
図7】
図7は、ローラ案内面とニップトップローラの接触時の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、精紡機の繊維束集束装置を具体化した一実施形態を
図1~
図8にしたがって説明する。なお、以下では、「精紡機の繊維束集束装置」を単に「繊維束集束装置」という。
図1に示すように、精紡機100は、ドラフト装置110と、繊維束集束装置10と、加圧機構30と、を備えている。ドラフト装置110は、繊維束Fをドラフトする。
【0014】
<ドラフト装置>
ドラフト装置110は、フロントローラ対111を備えている。フロントローラ対111は、フロントボトムローラ112及びフロントトップローラ113を備える。フロントトップローラ113は、ゴム製の一対のローラであるとともに、フロントボトムローラ112は金属製のローラである。フロントトップローラ113の回転軸113aは、支持部材114に回転可能に支持されている。支持部材114は、荷重アーム115に支持されている。荷重アーム115は、支持部材114を支持するアーム本体115aと、アーム本体115aを操作するための操作部材115bと、を備える。
【0015】
操作部材115bは、アーム本体115aに支持されている。操作部材115bを操作することにより、アーム本体115aを荷重付与位置と荷重解放位置の2位置に位置させることができる。つまり、操作部材115bを操作することにより、荷重アーム115を荷重付与位置と荷重解放位置の2位置に位置させることができる。
【0016】
荷重付与位置は、操作部材115bをアーム本体115aに押し当てることで、フロントトップローラ113をフロントボトムローラ112に向けて押し付ける位置である。これにより、フロントボトムローラ112には、フロントトップローラ113から荷重が付与されると同時に、その荷重付与状態に保持される。
【0017】
荷重解放位置は、操作部材115bをアーム本体115aから離れるように回動させることで、フロントトップローラ113をフロントボトムローラ112から上方へ離した位置である。これにより、フロントトップローラ113からフロントボトムローラ112に付与されていた荷重が解放される。
【0018】
ドラフト装置110は、フロントローラ対111よりも繊維束Fの移動方向Xの上流側に、図示しない他のローラ対を備える。そして、ドラフト装置110は、各々のローラ対の周速差を利用して繊維束Fをドラフトする。ドラフト装置110によってドラフトされた繊維束Fは、フロントローラ対111から繊維束集束装置10に向けて送出されて移動方向Xへ移動する。したがって、フロントローラ対111は、ドラフト装置110でドラフトされた繊維束Fを送り出す送出ローラ対である。
【0019】
<繊維束集束装置>
繊維束集束装置10は、繊維束Fの移動方向Xにおいてドラフト装置110の下流側に設けられている。繊維束集束装置10は、ドラフト装置110でドラフトされた繊維束Fを撚り掛けの前に予め集束する。
【0020】
繊維束集束装置10は、最終送出ローラ対12と、ガイド部14と、通気エプロン15と、吸引管51と、カバー55と、気流制御部材70と、を備える。
吸引管51とカバー55は、一体化されて吸引部材50を形成する。
【0021】
<ガイド部、通気エプロン、吸引部材>
図1及び
図2に示すように、通気エプロン15は、ガイド部14及びカバー55に巻き掛けられている。通気エプロン15は、無端状である。通気エプロン15は、適度な通気性を有するメッシュ状の織布によって形成されている。ガイド部14は、通気エプロン15に適度なテンションを付与しつつ通気エプロン15の移動を案内する。吸引管51及びカバー55については、後に説明する。
【0022】
<最終送出ローラ対>
図1に示すように、最終送出ローラ対12は、荷重アーム115に回転可能に支持された一対のニップトップローラ22を含み、かつニップトップローラ22に対向するニップボトムローラ21を備える。一対のニップトップローラ22は、ゴム製のローラであるとともに、ニップボトムローラ21は金属製のローラである。ニップボトムローラ21と一体回転する回転軸21aは、フロントボトムローラ112とは独立して駆動される。
【0023】
荷重アーム115が荷重付与位置にあるとき、一対のニップトップローラ22の各々は、ニップボトムローラ21に対して第1ニップ点N1で押し付けられている。また、一対のニップトップローラ22の各々は、通気エプロン15の巻き掛けられたカバー55に第2ニップ点N2で押し付けられている。このため、第2ニップ点N2においては、カバー55と一対のニップトップローラ22との間に通気エプロン15が挟み込まれている。
【0024】
<加圧機構>
ここで、精紡機100の加圧機構30について説明する。
図1に示すように、加圧機構30は、バネ部材31と、ホルダ32と、を備える。バネ部材31は、所定の形状に曲げられた板バネである。バネ部材31の固定端は、荷重アーム115のアーム本体115aに固定されている。ホルダ32は、バネ部材31の自由端側に取り付けられている。ホルダ32は、ニップトップローラ22の回転軸22aを回転可能に支持する。回転軸22aは、各ニップトップローラ22と同心状に配置されている。また、ホルダ32は、回転軸22aを支持する支持凹部34を備える。支持凹部34は、回転軸22aと係合することにより、回転軸22aを支持する。ホルダ32は、支持凹部34を画定する面と回転軸22aとの間に隙間を空けた状態で回転軸22aを支持している。
【0025】
ホルダ32は、バネ部材31を介してアーム本体115aに支持されている。したがって、ニップトップローラ22の回転軸22aと、フロントトップローラ113の回転軸113aとは、互いに独立してアーム本体115aに支持されている。
【0026】
操作部材115bによって荷重アーム115が荷重付与位置に配置されると、一対のニップトップローラ22の各々は、ニップボトムローラ21に向けて押し付けられる。このとき、支持凹部34での回転軸22aの移動により、繊維束Fの移動方向Xに沿った各ニップトップローラ22の移動が許容される。そして、一対のニップトップローラ22によってニップボトムローラ21に荷重が付与されるとともに、荷重付与状態に保持される。したがって、荷重アーム115が荷重付与位置に配置されると、一対のニップトップローラ22も荷重付与位置に配置される。
【0027】
このとき、支持凹部34内で回転軸22aが移動することにより、一対のニップトップローラ22の位置は、ニップボトムローラ21及び通気エプロン15の両方に押し付けられる位置に自動的に調整される。このため、荷重付与位置にあるとき、一対のニップトップローラ22の移動方向Xへの動きが抑制されるとともに、一対のニップトップローラ22の位置が一定に維持される。
【0028】
一方、操作部材115bによって荷重アーム115が荷重解放位置に配置されると、一対のニップトップローラ22からニップボトムローラ21に付与されていた荷重が解放される。したがって、荷重アーム115が荷重解放位置に配置されると、一対のニップトップローラ22も荷重解放位置に配置される。
【0029】
<吸引部材>
吸引部材50は、吸引管51と、複数のカバー55と、を備える。
<吸引管>
吸引管51は、筒状である。吸引管51は、例えば、アルミニウムの押出成形によって形成されている。吸引管51は、繊維束Fの移動方向Xにおいてフロントローラ対111よりも下流側に配置されている。吸引管51は、図示しない吸引源に接続されている。
【0030】
図2、
図3及び
図4に示すように、吸引管51は、第1管構成部51a、第2管構成部51b、及び第3管構成部51cを備える。第1管構成部51aは、ほぼ平坦に延びる。第2管構成部51bは、繊維束Fの移動方向Xにおける第1管構成部51aの上流側端部から連続している。第2管構成部51bは、内側に凹むように湾曲している。第3管構成部51cは、繊維束Fの移動方向Xにおける第1管構成部51aの下流側端部から連続している。第3管構成部51cは、内側に凹むように湾曲している。
【0031】
吸引管51には、複数の吸引部52が形成されている。複数の吸引部52は、吸引管51の延在方向において間隔を空けて配置されている。各吸引部52は、第1管構成部51aを板厚方向に貫通している。吸引部52は、吸引管51の内部と外部とを連通する。
【0032】
<カバー>
各カバー55は、耐摩耗性の高い材料製である。耐摩耗性の高い材料としては、セラミックスやステンレスが挙げられる。カバー55の耐摩耗性は、吸引管51よりも高い。各カバー55は、吸引管51に対して接着によって取り付けられている。複数のカバー55は、吸引管51の延在方向において間隔を空けて並んでいる。
【0033】
各カバー55は、吸引管51における吸引部52の形成された位置に対応して吸引管51に取り付けられている。よって、各カバー55は、吸引管51に対する通気エプロン15の巻き掛け位置に対応して吸引管51に取り付けられている。そして、カバー55は、吸引管51のニップトップローラ22側に配置されている。カバー55は、吸引管51と通気エプロン15との間に位置している。
【0034】
カバー55は、巻き掛け面56aと接合面56bとを備える。繊維束Fの移動方向Xにおいて、巻き掛け面56aは、カバー55の上流端から下流側に向けて接合面56bから徐々に離れた後、下流端に向けて接合面56bに徐々に近付いていく。このため、カバー55は、繊維束Fの移動方向Xにおける中間付近で膨らむように厚さを持つ。
【0035】
巻き掛け面56aは、通気エプロン15の巻き掛けられる面である。巻き掛け面56aは、通気エプロン15を円滑に送るために緩やかに湾曲する面である。通気エプロン15は、巻き掛け面56aに対して摺接する。接合面56bは、第1管構成部51aの外面に沿うように平坦に形成されている。そして、接合面56bは、第1管構成部51aの外面に接着されている。第1管構成部51aの外面も平面であるため、吸引管51とカバー55は、平面同士の接着によって隙間なく一体化されている。
【0036】
カバー55は、第1係合部57と、第2係合部58と、一対の突条部59と、を備える。
第1係合部57は、繊維束Fの移動方向Xにおけるカバー55の上流側端部から連続している。第1係合部57は、吸引管51の第1管構成部51aと第2管構成部51bとの接続部分の形状に倣うように屈曲されている。第2係合部58は、繊維束Fの移動方向Xにおけるカバー55の下流側端部から連続している。第2係合部58は、吸引管51の第1管構成部51aと第3管構成部51cとの接続部分の形状に倣うように屈曲されている。
【0037】
カバー55は、第1係合部57を、吸引管51の第1管構成部51aと第2管構成部51bとの接続部分に係合するとともに、第2係合部58を、吸引管51の第1管構成部51aと第3管構成部51cとの接続部分に係合させている。また、上記のようにカバー55の接合面56bは、吸引管51の第1管構成部51aの外面に接着によって接合されている。これにより、カバー55は、吸引管51に一体化されるとともに、カバー55と吸引管51とによって吸引部材50が形成されている。
【0038】
<突条部>
カバー55において、吸引管51の延在方向と一致する方向を幅方向とする。カバー55は、幅方向の両端側に突条部59を備える。一対の突条部59は、巻き掛け面56aよりも吸引管51とは反対側に突出する。
【0039】
カバー55の幅方向の両端面には、一対の突条部59の外側面が位置している。そして、カバー55の幅方向における一対の外側面間の距離は、各ニップトップローラ22の軸方向への寸法より若干小さい。このため、一対の突条部59の各々には、各ニップトップローラ22の周面が接触するようになっている。
【0040】
各突条部59は、巻き掛け面56aから外方へ突出している。各突条部59は、繊維束Fの移動方向Xに長手が延びるとともに、幅方向に幅を有する細長形状である。各突条部59は、繊維束Fの移動方向Xにおける巻き掛け面56aの上流端と下流端との間に設けられているとともに、一対の突条部59は、巻き掛け面56aを幅方向に挟む位置に設けられている。
【0041】
一対の突条部59の各々は、通気エプロン15の端縁との接触によって当該通気エプロン15を案内するエプロン案内面59aを備える。エプロン案内面59aは、各突条部59の幅方向の両端面のうち、巻き掛け面56a寄りの側面に設けられている。一対のエプロン案内面59a同士の間隔は、通気エプロン15の幅方向への寸法より若干大きい。また、エプロン案内面59aは、各突条部59の長手方向全体に亘って設けられている。各エプロン案内面59aは、巻き掛け面56aに対して直交する面である。さらに、エプロン案内面59aの高さ寸法は、通気エプロン15の厚さ寸法より大きい。
【0042】
巻き掛け面56aに巻き掛けられた通気エプロン15は、エプロン案内面59aに沿って移動可能である。通気エプロン15の幅方向の端縁とエプロン案内面59aとの接触により、通気エプロン15の横ずれが抑制されるように通気エプロン15が案内される。
【0043】
各突条部59は、巻き掛け面56aからの突出方向の先端に、ローラ案内面60aと載置面60bとを備える。載置面60bは、突条部59の先端面のうち、繊維束Fの移動方向Xにおける上流端から下流端の手前までの部分に設けられている。載置面60bは、繊維束Fの移動方向Xに長手の延びる長四角形状である。カバー55を幅方向に見て、載置面60bは、繊維束Fの移動方向Xの上流端からローラ案内面60aに至るまで緩やかに湾曲するように延びる。載置面60bは、繊維束Fの移動方向Xにおけるローラ案内面60aよりも上流側に設けられている。
【0044】
ローラ案内面60aは、突条部59の先端面のうち、載置面60b以外の面である。ローラ案内面60aは、載置面60bよりも巻き掛け面56aから離れた位置にあるため、ローラ案内面60aは、載置面60bよりも高い位置にある。載置面60bとローラ案内面60aとの高さ寸法の差は、後述する気流制御部材70をローラ案内面60aより低い位置に配置可能とする値に設定されている。
【0045】
ローラ案内面60aは、繊維束Fの移動方向Xにおける突条部59の下流側に設けられている。詳細には、ローラ案内面60aは、巻き掛け面56aでの、繊維束Fの移動方向Xの中央位置よりも下流側に設けられている。カバー55を幅方向に見て、ローラ案内面60aは、当該ローラ案内面60aにおける上流端から下流端に向けて下り傾斜している。
【0046】
巻き掛け面56aは、カバー55の厚さ方向における接合面56bの反対面である。また、接合面56bは、吸引管51に接合されている。したがって、ローラ案内面60aは、巻き掛け面56aよりも吸引管51とは反対側に位置している。
【0047】
操作部材115bの操作によって荷重アーム115を荷重付与位置に移動させる途中、つまり、荷重アーム115が荷重付与位置に至る前に、一対のニップトップローラ22の両方は、一対のローラ案内面60aの各々に接触する。したがって、一対の突条部59の各々は、荷重アーム115が荷重付与位置に至る前に一対のニップトップローラ22の各々が接触するローラ案内面60aを備える。
【0048】
図2に示すように、カバー55には、吸引スリット61が形成されている。吸引スリット61は、カバー55を厚さ方向に貫通している。吸引スリット61は、巻き掛け面56aと接合面56bとを連通するように、カバー55を厚さ方向に貫通する。吸引スリット61の形状は、精紡機100で精紡する糸の種類や紡出条件によって異なるため、カバー55には、吸引スリット61の形状に応じた複数種類が設けられている。
【0049】
したがって、吸引部材50は、糸の種類や、紡出条件に応じた吸引スリット61となるようにカバー55が選択されて吸引管51に取り付けられている。カバー55の吸引スリット61と、吸引管51の吸引部52とは連通している。そして、吸引部材50の吸引孔54は、吸引スリット61と吸引部52とから形成されている。吸引孔54は、吸引部材50の内部と外部とを連通する。図示しない吸引源によって吸引管51の内部が吸引されると、吸引部材50の外部から吸引孔54に向けた吸引流が発生する。この吸引流によって、繊維束Fが通気エプロン15を介して巻き掛け面56aに吸着される。そして、吸引管51は、最終送出ローラ対12よりも上流側でかつフロントローラ対111よりも下流側に配置されるとともに、繊維束Fを吸引する吸引流を発生させる。
【0050】
図3に示すように、カバー55には、取付凹部62が形成されている。取付凹部62は、カバー55の幅方向の両端面から凹むように形成されている。各取付凹部62は、繊維束Fの移動方向Xにおいて、ローラ案内面60aよりも上流側に位置している。
【0051】
<気流制御部材>
図2、
図3及び
図4に示すように、気流制御部材70は、被覆板71と、被覆板71から延出する一対の取付片72と、を備える。被覆板71は、巻き掛け面56aの一部分及び一対の載置面60bを覆う。被覆板71は、一対の載置面60bに架け渡される部分と、一対のローラ案内面60aの間に配置される部分と、を備える。被覆板71の板厚は、ローラ案内面60aと載置面60bの高さ寸法の差よりも小さい。このため、被覆板71を載置面60bに載置させると、被覆板71は、ローラ案内面60aよりも低い位置に配置される。一対の取付片72は、先端部に、係合突部72aを備える。
【0052】
気流制御部材70は、被覆板71を一対の載置面60bに載置させるとともに、各係合突部72aを取付凹部62に係合させることでカバー55に取り付けられる。したがって、繊維束集束装置10は、カバー55において、繊維束Fの移動方向Xにおけるローラ案内面60aよりも上流側に取り付けられる気流制御部材70を備える。そして、一対の突条部59は、ローラ案内面60aよりも巻き掛け面56a寄りに位置して、気流制御部材70を載置する載置面60bを備える。一対の載置面60bに載置された被覆板71は、巻き掛け面56aから離間している。また、被覆板71は、吸引孔54の一部を覆っている。さらに、被覆板71は、巻き掛け面56a上での通気エプロン15を覆っている。
【0053】
<繊維束集束装置の動作及び作用>
作業者は、操作部材115bを操作して荷重アーム115を荷重解放位置から荷重付与位置に向けて移動させる。すると、アーム本体115aと共に一対のニップトップローラ22が、ニップボトムローラ21に向けて移動する。
【0054】
ここで、支持凹部34に支持された回転軸22aが、アーム本体115aの長手方向に対して傾いている場合がある。この場合、一対のニップトップローラ22も、アーム本体115aの長手方向に対して傾いている。
【0055】
図6の2点鎖線に示すように、一対のニップトップローラ22の傾いた状態で、操作部材115bの操作によって荷重アーム115を荷重付与位置に位置させる途中、一対のニップトップローラ22の両方は、
図7に示すように、通気エプロン15に接触する前に、一対のローラ案内面60aの各々に接触する。そして、操作部材115bの操作によって、荷重アーム115を荷重付与位置に位置させるべく、さらに操作部材115bを操作すると、一対のニップトップローラ22の両方は、一対のローラ案内面60aの各々に押し付けられる。
【0056】
すると、各ローラ案内面60aに沿って各ニップトップローラ22が回転することにより、一対のニップトップローラ22は、繊維束Fの移動方向Xにおける下流側に向けて移動するように案内される。このとき、支持凹部34の隙間によって回転軸22aの変位が許容される。そして、一対のローラ案内面60aの各々にニップトップローラ22が押し当てられると、各ニップトップローラ22の傾きが矯正される。したがって、一対のローラ案内面60aの各々は、荷重付与位置に至る前の一対のニップトップローラ22の傾きを矯正しながら荷重付与位置に一対のニップトップローラ22を案内する。
【0057】
そして、
図8に示すように、一対のニップトップローラ22の傾きが抑制された状態で、一対のニップトップローラ22の各々は、ニップボトムローラ21に向けて押し付けられるとともに、通気エプロン15を介してカバー55に向けて押し付けられる。
【0058】
精紡機100が駆動されると、繊維束Fは、フロントローラ対111から繊維束集束装置10へ送り出される。繊維束集束装置10に送り出された繊維束Fは、吸引部材50の吸引孔54、カバー55と被覆板71との間の隙間、及び通気エプロン15を介して、吸引部材50に接続された吸引源から吸引力を受ける。これにより、繊維束Fは、通気エプロン15の表面に吸着される。そして、繊維束集束装置10に送り出された繊維束Fは、吸引部材50の巻き掛け面56aを通気エプロン15と共に移動して搬送される。通気エプロン15によって搬送された繊維束Fは、最終送出ローラ対12にニップされるとともに、最終送出ローラ対12によってさらに、繊維束Fの移動方向Xの下流側へと搬送される。
【0059】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)荷重アーム115が荷重付与位置に至る前に、一対のニップトップローラ22の両方が、一対のローラ案内面60aの各々に接触する。そして、一対のニップトップローラ22が傾いてローラ案内面60aに接触していても、荷重アーム115を荷重付与位置に位置させると、一対のニップトップローラ22の傾きは、ローラ案内面60aによって矯正される。このため、一対のニップトップローラ22が傾いたまま通気エプロン15に押し付けられることを抑制できる。その結果、一対のニップトップローラ22の傾きを原因として、通気エプロン15に横ずれが発生することを抑制できる。その結果、通気エプロン15の摺接が円滑になるため、横ずれを原因とした紡出の不具合などを抑制できる。
【0060】
(2)ローラ案内面60aを備えるカバー55は、セラミックス製であるため、巻き掛け面56aの摩耗の進行を抑えることができる。このため、巻き掛け面56aの摩耗の進行を原因とした通気エプロン15の横ずれや蛇行を抑制できる。その結果、通気エプロン15による繊維束Fの搬送を精度良く行うことができる。
【0061】
(3)エプロン案内面59aにより、通気エプロン15の横ずれが抑制される。そして、エプロン案内面59aは、カバー55に一体形成されているため、例えば、通気エプロン15の横ずれ抑制のための構成を、カバー55及び吸引管51とは別部材として設ける場合と比べると、繊維束集束装置10の製造コストを低減できる。
【0062】
(4)一対のニップトップローラ22からニップボトムローラ21に対し、全荷重は付与しないが、荷重を付与する位置として、半荷重付与位置がある。この半荷重付与位置であっても、ローラ案内面60aによって一対のニップトップローラ22の傾きを矯正できる。このため、半荷重付与位置においても、一対のニップトップローラ22が通気エプロン15やニップボトムローラ21に接触することを抑制して、繊維束Fが不正に送り出されることを抑制できる。その結果、繊維束Fがニップボトムローラ21に巻き付いてしまったり、繊維束Fの堆積によって部品が損傷したりすることを抑制できる。
【0063】
(5)カバー55は、吸引管51と別部材である。このため、カバー55の吸引スリット61の形状を複数種類設定することで、カバー55の取り換えによって、吸引部材50の吸引孔54の形状を変更できる。例えば、吸引管そのものに吸引孔を形成した吸引部材では、糸の種類や紡出条件を変更する場合は、繊維束集束装置10の全体を変更する必要がある。しかし、吸引部材50は、カバー55を変更するだけで、糸の種類や紡出条件の変更に対応できるため、糸の種類や紡出条件の変更に容易に対応できる。
【0064】
(6)カバー55は、巻き掛け面56aを備える一方で、平坦な接合面56bを備える。このため、吸引管51の第1管構成部51aの外面に接合面56bを接合したときの、第1管構成部51aとカバー55との間の隙間の発生を抑制できる。したがって、カバー55を吸引管51と別部材としながらも、吸引管51とカバー55との境界での吸引流の発生を抑制できるため、境界での風綿の堆積を抑制できる。
【0065】
(7)カバー55は、吸引管51の第1管構成部51aに比べて厚い。そして、そのカバー55の厚さ方向を貫通するように吸引部52が形成されている。したがって、カバー55において、気流の流れる方向への距離を確保できるため、吸引部52における吸引流を安定した整流にできる。その結果、吸引部52を含む吸引孔54を介して通気エプロン15に繊維束Fを好適に吸着できる。
【0066】
(8)気流制御部材70は、吸引孔54の開口する巻き掛け面56aから離間しつつ吸引孔54を覆う。この気流制御部材70により、吸引孔54に向かう気流の流路断面積を絞るため、同じ流量の吸引流であっても、気流制御部材70の無い場合に比べて気流の流速を速めることができる。その結果、同じ流量の吸引流であっても、繊維束Fを通気エプロン15に好適に吸着できる。
【0067】
(9)気流制御部材70は、カバー55に取り付けるための取付片72を備える。また、カバー55は、幅方向の両側面に取付凹部62を備える。そして、取付凹部62に対する取付片72の係合により、気流制御部材70はカバー55に取り付けられる。そして、取付凹部62及び取付片72は、巻き掛け面56aよりも幅方向の外側に設けられる。このため、気流制御部材70をカバー55に取り付けるための構成が、通気エプロン15の走行の障害になったり、風綿の堆積の原因になることを抑制できる。
【0068】
(10)気流制御部材70をカバー55に取り付けるための取付凹部62は、ローラ案内面60aよりも、繊維束Fの移動方向Xにおける上流側に位置している。また、気流制御部材70は、ローラ案内面60aよりも巻き掛け面56a寄りに位置している。このため、気流制御部材70をカバー55に取り付けても、気流制御部材70がニップトップローラ22に干渉することがない。よって、加圧されるニップトップローラ22によって気流制御部材70が損傷することを抑制できる。
【0069】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
○気流制御部材70はカバー55に取り付けられていなくてもよい。
【0070】
○吸引部材50において、気流制御部材70の取り付けられた箇所と、取り付けられていない箇所とが並存してもよい。
○ローラ案内面60aと載置面60bは同じ高さに位置していてもよい。
【0071】
○突条部59は、載置面60bを備えておらず、ローラ案内面60aだけを備えていてもよい。この場合、エプロン案内面59aは、ローラ案内面60aを形成した突条部59の側面に形成される。
【0072】
○一対のニップトップローラ22の各々を一対のローラ案内面60aの各々に接触させることができれば、突条部59は、通気エプロン15の幅方向への寸法より大幅に大きくてもよい。この場合、カバー55は、エプロン案内面59aを備えない。
【0073】
○精紡機100は、フロントローラ対111よりも繊維束Fの移動方向Xの下流側にデリベリローラ対を備えていてもよい。この場合、デリベリローラ対が送出ローラ対となるとともに、そのデリベリローラ対より下流側に繊維束集束装置10が設置される。
【0074】
○カバー55は、吸引管51よりも耐摩耗性が低くてもよい。
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
(イ)前記気流制御部材は、前記巻き掛け面を覆う被覆板と、当該被覆板から前記カバーに向けて延出する取付片と、を備え、前記カバーの幅方向の両端面には取付凹部が形成されており、前記取付片には、前記取付凹部に係合する係合突部が形成されている。
【0075】
(ロ)前記吸引管は、前記カバーと接着されており、前記吸引管と前記カバーとは平面同士で接着されている。
【符号の説明】
【0076】
F…繊維束、10…繊維束集束装置、12…最終送出ローラ対、15…通気エプロン、21…ニップボトムローラ、22…ニップトップローラ、51…吸引管、55…カバー、56a…巻き掛け面、59…突条部、59a…エプロン案内面、60a…ローラ案内面、60b…載置面、70…気流制御部材、110…ドラフト装置、111…送出ローラ対としてのフロントローラ対、115…荷重アーム。