(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175505
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】加圧器水位制御方法、加圧器水位制御プログラムおよび加圧器水位制御装置
(51)【国際特許分類】
G21D 3/00 20060101AFI20241211BHJP
G21D 3/04 20060101ALI20241211BHJP
G21D 5/12 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
G21D3/00 Q
G21D3/04 L
G21D5/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093339
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大槻 昇平
(57)【要約】
【課題】充てん流量制御弁の不調時において加圧器の水位の上昇を抑制すること。
【解決手段】加圧器水位制御方法は、原子炉の定常運転時に一次冷却材系に接続された加圧器の水位を取得するステップ(S1)と、加圧器14の水位に基づいて一次冷却材系10からの一次冷却材の抽出流量と一次冷却材の充てん流量から一次冷却材の充てん流量を調整するステップ(S1,S2)と、充てん流量の調整に基づく推定充てん流量と実充てん流量が不整合で(S3)、かつ加圧器14が水位高の場合(S4)、一次冷却材の抽出量を増加するステップ(S5)と、を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉の定常運転時に一次冷却材系に接続された加圧器の水位を取得するステップと、
前記加圧器の水位に基づいて前記一次冷却材系からの一次冷却材の抽出流量と前記一次冷却材の充てん流量から前記一次冷却材の充てん流量を調整するステップと、
前記充てん流量の調整に基づく推定充てん流量と実充てん流量が不整合で、かつ前記加圧器が水位高の場合、前記一次冷却材の抽出量を増加するステップと、
を含む、加圧器水位制御方法。
【請求項2】
前記一次冷却材の抽出量を増加した一定時間後に、前記推定充てん流量と前記実充てん流量が不整合で、かつ前記加圧器が水位高の場合、前記一次冷却材の抽出量をさらに増加するステップをさらに含む、請求項1に記載の加圧器水位制御方法。
【請求項3】
前記一次冷却材を抽出するオリフィスを複数系統配置し、前記一次冷却材の抽出量を増加するステップは、開通する前記オリフィスの系統数を増加する、請求項1に記載の加圧器水位制御方法。
【請求項4】
前記加圧器の水位高は、前記加圧器の所定水位を超えた場合である、請求項1に記載の加圧器水位制御方法。
【請求項5】
前記加圧器の水位高は、前記加圧器の水位が上昇傾向となる場合である、請求項1に記載の加圧器水位制御方法。
【請求項6】
前記推定充てん流量と前記実充てん流量の関係に替えて、前記抽出流量と前記実充てん流量の関係とする、請求項1に記載の加圧器水位制御方法。
【請求項7】
原子炉の定常運転時に一次冷却材系に接続された加圧器の水位を取得するステップと、
前記加圧器の水位に基づいて前記一次冷却材系からの一次冷却材の抽出流量と前記一次冷却材の充てん流量から前記一次冷却材の充てん流量を調整するステップと、
前記充てん流量の調整に基づく推定充てん流量と実充てん流量の整合、および前記加圧器の水位変動を判定するステップと、
前記推定充てん流量と前記実充てん流量が不整合で、かつ前記加圧器が水位高の場合、前記一次冷却材の抽出量を増加するステップと、
をコンピュータに実行させる、
加圧器水位制御プログラム。
【請求項8】
原子炉の一次冷却材系に接続された加圧器の水位を計測する水位計と、一次冷却材の抽出流量を計測する抽出流量計と、前記一次冷却材の充てん流量を計測する充てん流量計と、に接続され、前記一次冷却材系から一次冷却材を抽出する抽出部と、前記一次冷却材系へ一次冷却材を充てんする充てん部と、を制御する加圧器水位制御装置であって、
前記原子炉の定常運転時に前記水位計の水位に基づいて前記抽出流量計の抽出流量と前記充てん流量計の充てん流量から前記充てん部による充てん流量を調整する充てん流量調整部と、
前記充てん流量の調整に基づく推定充てん流量および前記充てん流量計の実充てん流量が不整合で、かつ前記加圧器が水位高の場合、前記抽出部による抽出量を増加する抽出量調整部と、
を含む、加圧器水位制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加圧器水位制御方法、加圧器水位制御プログラムおよび加圧器水位制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
加圧水型原子炉において、加圧器は、一次冷却材系の圧力を一定に保持する。加圧器は、原子炉と蒸気発生器との間に設けられたタンク形状のもので、その内部に液相および気相の境に水位が存在している。加圧水型原子炉は、加圧器の水位を制御することで、一次冷却材の水量を適切に維持し圧力が保持される。例えば、特許文献1および特許文献2には、加圧器の水位を制御する手法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平5-79160号公報
【特許文献2】実用新案登録第2538894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加圧器の内部の一次冷却材は、水質管理などの観点で常時一定量が抽出されており、それを補うように充てんされて一定の水量が保たれる。ここで、加圧器の水量を維持する手法として、抽出流量を常時一定にし、充てん流量を微調整することで加圧器の水位を一定に保つ仕組みがある。このとき、仮に、抽出される流量よりも充てん流量が大きい状態となった状態で、充てん流量を調整している充てん流量制御弁が固着した場合、加圧器の水位を制御する術がなくなるため、加圧器の水位は上昇を続け、最終的には加圧器の水位が高設定値に到達し得る。その結果、原子炉に危険な状態が予測される場合、速やかに制御棒が原子炉内に挿入されて核分裂連鎖反応を緊急停止(原子炉トリップ)することになる。
【0005】
本開示は、上述した課題を解決するものであり、充てん流量制御弁の不調時において加圧器の水位の上昇を抑制することのできる加圧器水位制御方法、加圧器水位制御プログラムおよび加圧器水位制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するために、本開示の一態様に係る加圧器水位制御方法は、原子炉の定常運転時に一次冷却材系に接続された加圧器の水位を取得するステップと、前記加圧器の水位に基づいて前記一次冷却材系からの一次冷却材の抽出流量と前記一次冷却材の充てん流量から前記一次冷却材の充てん流量を調整するステップと、前記充てん流量の調整に基づく推定充てん流量と実充てん流量が不整合で、かつ前記加圧器が水位高の場合、前記一次冷却材の抽出量を増加するステップと、を含む。
【0007】
上述の目的を達成するために、本開示の一態様に係る加圧器水位制御プログラムは、原子炉の定常運転時に一次冷却材系に接続された加圧器の水位を取得するステップと、前記加圧器の水位に基づいて前記一次冷却材系からの一次冷却材の抽出流量と前記一次冷却材の充てん流量から前記一次冷却材の充てん流量を調整するステップと、前記充てん流量の調整に基づく推定充てん流量と実充てん流量の整合、および前記加圧器の水位変動を判定するステップと、前記推定充てん流量と前記実充てん流量が不整合で、かつ前記加圧器が水位高の場合、前記一次冷却材の抽出量を増加するステップと、をコンピュータに実行させる。
【0008】
上述の目的を達成するために、本開示の一態様に係る加圧器水位制御装置は、原子炉の一次冷却材系に接続された加圧器の水位を計測する水位計と、一次冷却材の抽出流量を計測する抽出流量計と、前記一次冷却材の充てん流量を計測する充てん流量計と、に接続され、前記一次冷却材系から一次冷却材を抽出する抽出部と、前記一次冷却材系へ一次冷却材を充てんする充てん部と、を制御する加圧器水位制御装置であって、前記原子炉の定常運転時に前記水位計の水位に基づいて前記抽出流量計の抽出流量と前記充てん流量計の充てん流量から前記充てん部による充てん流量を調整する充てん流量調整部と、前記充てん流量の調整に基づく推定充てん流量および前記充てん流量計の実充てん流量が不整合で、かつ前記加圧器が水位高の場合、前記抽出部による抽出量を増加する抽出量調整部と、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示は、充てん流量制御弁の不調時において加圧器の水位の上昇を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態の加圧器水位制御装置を含む原子炉一次冷却材系の概略構成図である。
【
図2】
図2は、実施形態の加圧器水位制御装置のブロック図である。
【
図3】
図3は、実施形態の加圧器水位制御装置の制御ブロック図である。
【
図4】
図4は、実施形態の加圧器水位制御方法のフローチャートである。
【
図5】
図5は、実施形態の加圧器水位制御方法による作動タイミングを示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0012】
図1に示すように、原子炉一次冷却材系10において、主に、原子炉11と、蒸気発生器12と、循環ライン13と、を含む。
【0013】
原子炉11は、加圧水型原子炉(PWR:Pressurized Water Reactor)であり、その内部は一次冷却材で満たされる。一次冷却材は、中性子減速材として用いられるホウ素が溶解した軽水である。原子炉11は、その内部に、多数の燃料集合体が収容され、炉心を構成する。原子炉11は、燃料集合体の核分裂によって発生した熱エネルギーで内部の一次冷却材が加熱される。
【0014】
蒸気発生器12は、循環ライン13のホットレグ13Aおよびコールドレグ13Bを介して原子炉11に接続される。蒸気発生器12は、内部に一次冷却材が流通する伝熱管が多数設けられ、当該伝熱管の一端側にホットレグ13Aが接続され、伝熱管の他端側にコールドレグ13Bが接続される。蒸気発生器12は、その内部であって伝熱管の外側に、二次冷却材が送られる。
【0015】
循環ライン13は、上記ホットレグ13Aおよびコールドレグ13Bを有する。循環ライン13は、コールドレグ13Bに一次冷却材ポンプ13Cが設けられる。
【0016】
従って、原子炉一次冷却材系10は、原子炉11と蒸気発生器12とが循環ライン13を介して一次冷却材が循環される。具体的に、原子炉一次冷却材系10は、原子炉11で加熱された一次冷却材が、一次冷却材ポンプ13Cによりホットレグ13Aを介して蒸気発生器12に送られる。また、原子炉一次冷却材系10は、蒸気発生器12に流入した一次冷却材が二次冷却材と非接触で熱交換を行うことにより冷却され、冷却された一次冷却材が一次冷却材ポンプ13Cによりコールドレグ13Bを介して原子炉11に送られる。
【0017】
この原子炉一次冷却材系10は、さらに、加圧器14と、抽出部15と、充てん部16と、を含む。
【0018】
加圧器14は、タンク形状に形成され、ホットレグ13Aに接続される。加圧器14は、ホットレグ13Aを通過する高温の一次冷却材を一部貯留して加圧する。加圧された一次冷却材は、沸騰が抑制されて高温高圧となった状態で、蒸気発生器12に流入する。加圧器14は、水位計14Aが設けられる。水位計14Aは、例えば、加圧器14の内部の一次冷却材の気相と液相の上下の圧力差によって一次冷却材の液相の水位を計測する。
【0019】
抽出部15は、コールドレグ13Bに接続され、一次冷却材の一部を抽出する。抽出部15は、コールドレグ13Bに接続される抽出ライン15Aを有する。抽出部15は、抽出ライン15Aが並列して3つに分けられたそれぞれのラインに開閉弁15Bおよびオリフィス15Cが設けられる。抽出部15は、抽出ライン15Aの3つの分けられる前である上流側(コールドレグ13B側)に抽出流量計15Dが設けられる。従って、抽出部15は、開閉弁15Bが開放されたラインのオリフィス15Cを経てコールドレグ13Bから一次冷却材の一部を抽出する。抽出部15は、各ラインの開閉弁15Bが共に開放されることで、それぞれのラインの各オリフィス15Cを加えて一次冷却材の抽出量が増加する。実施形態の原子炉一次冷却材系10では、抽出部15は、定常運転時(原子炉11の定格運転時)において、3つのラインのうちの1つの開閉弁15Bのみ常時開放されて一次冷却材が一定量抽出される。抽出部15は、抽出ライン15Aを介して抽出される一次冷却材の抽出流量が抽出流量計15Dによって計測される。
【0020】
充てん部16は、コールドレグ13Bに接続され、一次冷却材を充てんする。充てん部16は、コールドレグ13Bに接続される充てんライン16Aを有する。充てんライン16Aは、一次冷却材が貯留される不図示の充てんタンクに接続される。充てん部16は、充てんライン16Aに充てん流量制御弁16Bおよび充てんポンプ16Cが設けられる。充てん部16は、充てんライン16Aにおいて充てん流量制御弁16Bと充てんポンプ16Cの間に充てん流量計16Dが設けられる。従って、充てん部16は、充てん流量制御弁16Bが開放されると共に充てんポンプ16Cが駆動されると充てんライン16Aを介してコールドレグ13Bへ一次冷却材を充てんする。充てん部16は、充てん流量制御弁16Bの開度が調整されることで、コールドレグ13Bへの一次冷却材の充てん流量が調整される。充てん部16は、充てんライン16Aを介して充てんされる一次冷却材の充てん流量が充てん流量計16Dによって計測される。
【0021】
実施形態の加圧器水位制御装置1は、上述した原子炉一次冷却材系10に設けられる。加圧器水位制御装置1は、コンピュータであり、
図2に示すように、記憶部2と、充てん流量調整部3と、抽出量調整部4と、を含む。
【0022】
記憶部2は、充てん流量調整部3や抽出量調整部4の演算内容やプログラムなどの各種情報を記憶するメモリであり、例えば、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)のような主記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)などの外部記憶装置とのうち、少なくとも1つ含む。
【0023】
充てん流量調整部3は、演算装置であり、例えばCPU(Central Processing Unit)などの演算回路を含む。充てん流量調整部3は、
図3に示すように、第一PI演算部3Aおよび第二PI演算部3Bを含む。充てん流量調整部3は、記憶部2からプログラム(ソフトウェア)を読み出して実行することで、第一PI演算部3Aおよび第二PI演算部3Bを実現して、それらの処理を実行する。なお、充てん流量調整部3は、1つのCPUによって処理を実行してもよいし、複数のCPUを備えて、それらの複数のCPUで、処理を実行してもよい。また、充てん流量調整部3は、第一PI演算部3Aおよび第二PI演算部3Bを、ハードウェア回路で実現してもよい。また、記憶部2が保存する充てん流量調整部3用のプログラムは、加圧器水位制御装置1が読み取り可能な記録媒体に記憶されていてもよい。
【0024】
充てん流量調整部3は、水位計14Aで計測される加圧器14の水位を取得する。充てん流量調整部3は、抽出流量計15Dによって計測される抽出部15の抽出流量を取得する。充てん流量調整部3は、充てん流量計16Dによって計測される充てん部16の充てん流量を取得する。また、充てん流量調整部3は、充てん部16の充てん流量制御弁16Bの開度を調整する。
【0025】
抽出量調整部4は、演算装置であり、例えばCPUなどの演算回路を含む。抽出量調整部4は、
図3に示すように、判定部4Aを含む。抽出量調整部4は、記憶部2からプログラム(ソフトウェア)を読み出して実行することで、判定部4Aを実現して、それらの処理を実行する。なお、抽出量調整部4は、1つのCPUによって処理を実行してもよいし、複数のCPUを備えて、それらの複数のCPUで、処理を実行してもよい。また、抽出量調整部4は、判定部4Aを、ハードウェア回路で実現してもよい。また、記憶部2が保存する抽出量調整部4用のプログラムは、加圧器水位制御装置1が読み取り可能な記録媒体に記憶されていてもよい。
【0026】
抽出量調整部4は、水位計14Aで計測される加圧器14の水位を取得する。抽出量調整部4は、充てん流量計16Dによって計測される充てん部16の充てん流量(実充てん流量)を取得する。抽出量調整部4は、充てん流量調整部3で調整した充てん流量制御弁16Bの開度に基づく推定充てん流量を取得する。なお、抽出量調整部4は、推定充てん流量に替えて抽出流量計15Dによって計測される抽出部15の抽出流量を取得してもよい。また、抽出量調整部4は、抽出部15の開閉弁15Bを開放することで一次冷却材の抽出量を増加する。
【0027】
加圧器水位制御装置1の動作である加圧器水位制御方法について
図3から
図5を参照して説明する。
【0028】
図3および
図4に示すように、加圧器水位制御装置1は、原子炉11の定常運転時に、加圧器14の水位、充てん部16の充てん流量、抽出部15の抽出流量を取得する(ステップS1)。なお、原子炉11の定常運転時において、加圧器14の水位は、50%から60%である。
【0029】
加圧器水位制御装置1は、充てん流量調整部3において、充てん流量制御弁16Bの開度を設定する(ステップS2)。ステップS2では、充てん流量調整部3は、
図3に示すように、加圧器14の水位と、予め設定されて記憶部2に記憶された目標水位との差分をとって、第一PI演算部3Aにて積分制御を行う。また、ステップS2では、充てん流量調整部3は、充てん流量と抽出流量の差分をとって第二PI演算部3Bにて積分制御を行う。これにより、充てん流量調整部3は、充てん流量制御弁16Bの開度を設定する。
【0030】
加圧器水位制御装置1は、抽出量調整部4の判定部4Aにおいて、抽出量を制御する(ステップS3からステップS9)。
【0031】
ステップS3では、判定部4Aは、推定充てん流量(抽出部15の実抽出流量)と実充てん流量を比較した結果、これらの流量が不整合であるかを判断する。推定充てん流量は、充てん流量調整部3で設定された充てん流量制御弁16Bの開度によって推定される充てん流量である。実充てん流量は、充てん流量計16Dによって計測される充てん流量である。判定部4Aは、比較結果が、例えば、予め設定して記憶部2に記憶された各流量の差分の範囲を超えて実充てん流量が多い場合に不整合と判断する。この場合は、充てん流量制御弁16Bの動作に不具合があり設定開度を超えた開度となっていることが考えられる。一方、判定部4Aは、比較結果が、例えば、予め設定して記憶部2に記憶された各流量の差分の範囲内である場合は整合と判断する。ステップS3において不整合と判断した場合(ステップS3:Yes)、ステップS4に進む。一方、ステップS3において整合と判断した場合(ステップS3:No)、ステップS1に戻る。
【0032】
ステップS4では、判定部4Aは、加圧器14の水位が水位高であるかを判断する。水位高とは、取得した水位が所定水位を超えた場合(例えば、65%)をいう。所定水位は、予め設定して記憶部2に記憶されている。また、水位高とは、水位が上昇傾向となる場合をいう。上昇傾向は、所定時間における水位の上昇率が予め設定して記憶部2に記憶されている上昇率を超えていることをいう。ステップS4において水位高と判断した場合(ステップS4:Yes)、ステップS5に進む。一方、ステップS4において水位高ではないと判断した場合(ステップS4:No)、ステップS1に戻る。
【0033】
ステップS5では、判定部4Aは、ステップS3およびステップS4の判断に基づき、抽出量を増加する。実施形態の加圧器水位制御装置1では、抽出量調整部4は、抽出部15で閉鎖されている残りの2つの開閉弁15Bのうちの1つを開放することで一次冷却材の抽出量を増加する。
【0034】
ステップS6では、判定部4Aは、ステップS5の処理後、所定時間経過しているかを判断する。所定時間は、例えば、5分から10分であり
図5に記号Tで示す。ステップS6において所定時間経過した場合(ステップS6:Yes)、ステップS7に進む。一方、ステップS6において所定時間経過していない場合(ステップS6:No)、ステップS6を繰り返す。
【0035】
ステップS7では、判定部4Aは、ステップS5の処理後、ステップS3と同様に、不整合であるかを判断する。ステップS7において不整合と判断した場合(ステップS7:Yes)、ステップS8に進む。一方、ステップS7において整合と判断した場合(ステップS7:No)、本制御を終了する。
【0036】
ステップS8では、判定部4Aは、ステップS4と同様に、水位高であるかを判断する。ステップS8において水位高と判断した場合(ステップS8:Yes)、ステップS9に進む。一方、ステップS8において水位高ではないと判断した場合(ステップS8:No)、本制御を終了する。
【0037】
ステップS9では、判定部4Aは、ステップS7およびステップS8の判断に基づき、抽出量を増加する。実施形態の加圧器水位制御装置1では、抽出量調整部4は、抽出部15で閉鎖されている残りの2つの開閉弁15Bのうちのもう1つを開放することで一次冷却材の抽出量を増加する。ステップS9の処理後、本制御を終了する、またはステップS1から再開する。なお、ステップS9の処理後、加圧器14の水位が下降傾向にある場合、残りの2つの開閉弁15Bのうちのもう1つを閉鎖してもよい。
【0038】
上述した加圧器水位制御装置1の動作において、ステップS5の処理を行わない場合、例えば、
図5において実線Aで示すように、加圧器14の水位が上昇し始めてから後の時間T0において原子炉トリップに至る水位まで上昇してしまう。これに対し、実施形態の加圧器水位制御装置1(加圧器水位制御方法、加圧器水位制御プログラム)では、ステップS5において抽出部15で閉鎖されている残りの2つの開閉弁15Bのうちの1つを開放することで、例えば、
図5において一点鎖線Bで示すように、加圧器14の水位の上昇が遅れるため、実線Aに対して原子炉トリップに至る水位に至るまで時間T0から時間T1の余裕が得られる。さらに、実施形態の加圧器水位制御装置1(加圧器水位制御方法、加圧器水位制御プログラム)では、ステップS9において抽出部15で閉鎖されている残りの2つの開閉弁15Bのうちのもう1つを開放することで、例えば、
図5において二点鎖線Cで示すように、加圧器14の水位の上昇がさらに遅れるため、実線Aに対して原子炉トリップに至る水位に至るまでさらに延長された時間T0から時間T2の余裕が得られる。
【0039】
このように、上述した実施形態の加圧器水位制御方法は、原子炉11の定常運転時に一次冷却材系10に接続された加圧器14の水位を取得するステップと、加圧器14の水位に基づいて一次冷却材系10からの一次冷却材の抽出流量と一次冷却材の充てん流量から一次冷却材の充てん流量を調整するステップと、充てん流量の調整に基づく推定充てん流量と実充てん流量が不整合で、かつ加圧器14が水位高の場合、一次冷却材の抽出量を増加するステップと、を含む。
【0040】
この加圧器水位制御方法によれば、充てん流量の調整に基づく推定充てん流量と実充てん流量が不整合であることと、加圧器14が水位高であることで、充てん流量制御弁16Bに不具合があることを判断でき、一次冷却材の抽出量を増加する対応を行うことで、加圧器14の水位上昇を抑制できる。この結果、実施形態の加圧器水位制御方法は、不必要な原子炉トリップを回避して運転継続能力を強化でき、または、原子炉トリップ到達時間を稼ぐことで、原子炉トリップ時の発電の電力系統への影響を最小化できる。
【0041】
また、実施形態の加圧器水位制御方法では、一次冷却材の抽出量を増加した一定時間後に、推定充てん流量と実充てん流量が不整合で、かつ加圧器が水位高の場合、一次冷却材の抽出量をさらに増加するステップをさらに含む。
【0042】
この加圧器水位制御方法によれば、原子炉トリップに至るまでに充てん流量制御弁16Bを補修する時間にさらに余裕を得ることができる。特に、実施形態の加圧器水位制御方法は、抽出量の増加を段階的に行うことで、抽出量を増加した一次冷却材系の下流の系統に生じ得る影響を抑えることができる。
【0043】
また、実施形態の加圧器水位制御方法では、一次冷却材を抽出するオリフィスを複数系統配置し、一次冷却材の抽出量を増加するステップは、開通するオリフィスの系統数を増加する。
【0044】
この加圧器水位制御方法によれば、オリフィスは、一定の流量であるため、抽出流量を安定して増加させることができる。また、一次冷却材を抽出する複数系統のオリフィスは、一般的に加圧水型原子炉の一次冷却材系に設けられている場合があり、当該設備を利用することができる。
【0045】
また、実施形態の加圧器水位制御方法では、加圧器14の水位高は、加圧器14の所定水位を超えた場合で判断できる。
【0046】
また、実施形態の加圧器水位制御方法では、加圧器14の水位高は、加圧器14の水位が上昇傾向となる場合で判断できる。
【0047】
また、実施形態の加圧器水位制御方法では、推定充てん流量と実充てん流量の関係に替えて、抽出流量と前記実充てん流量の関係とすることもできる。
【0048】
実施形態の加圧器水位制御プログラムは、原子炉11の定常運転時に一次冷却材系10に接続された加圧器14の水位を取得するステップと、加圧器14の水位に基づいて一次冷却材系10からの一次冷却材の抽出流量と一次冷却材の充てん流量から一次冷却材の充てん流量を調整するステップと、充てん流量の調整に基づく推定充てん流量と実充てん流量が不整合で、かつ加圧器14が水位高の場合、一次冷却材の抽出量を増加するステップと、をコンピュータに実行させる。
【0049】
この加圧器水位制御プログラムによれば、充てん流量の調整に基づく推定充てん流量と実充てん流量が不整合であることと、加圧器14が水位高であることで、充てん流量制御弁16Bに不具合があることを判断でき、一次冷却材の抽出量を増加する対応を行うことで、加圧器14の水位上昇を抑制できる。この結果、実施形態の加圧器水位制御プログラムは、不必要な原子炉トリップを回避して運転継続能力を強化でき、または、原子炉トリップ到達時間を稼ぐことで、原子炉トリップ時の発電の電力系統への影響を最小化できる。
【0050】
実施形態の加圧器水位制御装置は、原子炉11の一次冷却材系10に接続された加圧器14の水位を計測する水位計14Aと、一次冷却材の抽出流量を計測する抽出流量計15Dと、一次冷却材の充てん流量を計測する充てん流量計16Dと、に接続され、一次冷却材系10から一次冷却材を抽出する抽出部15と、一次冷却材系10へ一次冷却材を充てんする充てん部16と、を制御する加圧器水位制御装置1であって、原子炉11の定常運転時に水位計14Aの水位に基づいて抽出流量計15Dの抽出流量と充てん流量計16Dの充てん流量から充てん部16による充てん流量を調整する充てん流量調整部3と、充てん流量の調整に基づく推定充てん流量および充てん流量計16Dの実充てん流量が不整合で、かつ加圧器14が水位高の場合、抽出部15による抽出量を増加する抽出量調整部4と、を含む。
【0051】
この加圧器水位制御装置によれば、充てん流量の調整に基づく推定充てん流量と実充てん流量が不整合であることと、加圧器14が水位高であることで、充てん流量制御弁16Bに不具合があることを判断でき、一次冷却材の抽出量を増加する対応を行うことで、加圧器14の水位上昇を抑制できる。この結果、実施形態の加圧器水位制御装置は、不必要な原子炉トリップを回避して運転継続能力を強化でき、または、原子炉トリップ到達時間を稼ぐことで、原子炉トリップ時の発電の電力系統への影響を最小化できる。
【0052】
本開示は、以下の発明を含む。
[発明1]
原子炉の定常運転時に一次冷却材系に接続された加圧器の水位を取得するステップと、
前記加圧器の水位に基づいて前記一次冷却材系からの一次冷却材の抽出流量と前記一次冷却材の充てん流量から前記一次冷却材の充てん流量を調整するステップと、
前記充てん流量の調整に基づく推定充てん流量と実充てん流量が不整合で、かつ前記加圧器が水位高の場合、前記一次冷却材の抽出量を増加するステップと、
を含む、加圧器水位制御方法。
[発明2]
前記一次冷却材の抽出量を増加した一定時間後に、前記推定充てん流量と前記実充てん流量が不整合で、かつ前記加圧器が水位高の場合、前記一次冷却材の抽出量をさらに増加するステップをさらに含む、発明1に記載の加圧器水位制御方法。
[発明3]
前記一次冷却材を抽出するオリフィスを複数系統配置し、前記一次冷却材の抽出量を増加するステップは、開通する前記オリフィスの系統数を増加する、発明1または2に記載の加圧器水位制御方法。
[発明4]
前記加圧器の水位高は、前記加圧器の所定水位を超えた場合である、発明1から3のいずれか1つに記載の加圧器水位制御方法。
[発明5]
前記加圧器の水位高は、前記加圧器の水位が上昇傾向となる場合である、発明1から3のいずれか1つに記載の加圧器水位制御方法。
[発明6]
前記推定充てん流量と前記実充てん流量の関係に替えて、前記抽出流量と前記実充てん流量の関係とする、発明1から5のいずれか1つに記載の加圧器水位制御方法。
[発明7]
原子炉の定常運転時に一次冷却材系に接続された加圧器の水位を取得するステップと、
前記加圧器の水位に基づいて前記一次冷却材系からの一次冷却材の抽出流量と前記一次冷却材の充てん流量から前記一次冷却材の充てん流量を調整するステップと、
前記充てん流量の調整に基づく推定充てん流量と実充てん流量の整合、および前記加圧器の水位変動を判定するステップと、
前記推定充てん流量と前記実充てん流量が不整合で、かつ前記加圧器が水位高の場合、前記一次冷却材の抽出量を増加するステップと、
をコンピュータに実行させる、
加圧器水位制御プログラム。
[発明8]
原子炉の一次冷却材系に接続された加圧器の水位を計測する水位計と、一次冷却材の抽出流量を計測する抽出流量計と、前記一次冷却材の充てん流量を計測する充てん流量計と、に接続され、前記一次冷却材系から一次冷却材を抽出する抽出部と、前記一次冷却材系へ一次冷却材を充てんする充てん部と、を制御する加圧器水位制御装置であって、
前記原子炉の定常運転時に前記水位計の水位に基づいて前記抽出流量計の抽出流量と前記充てん流量計の充てん流量から前記充てん部による充てん流量を調整する充てん流量調整部と、
前記充てん流量の調整に基づく推定充てん流量および前記充てん流量計の実充てん流量が不整合で、かつ前記加圧器が水位高の場合、前記抽出部による抽出量を増加する抽出量調整部と、
を含む、加圧器水位制御装置。
【符号の説明】
【0053】
1 加圧器水位制御装置
3 充てん流量調整部
4 抽出量調整部
10 一次冷却材系
11 原子炉
14 加圧器
14A 水位計
15 抽出部
15C オリフィス
15D 抽出流量計
16 充てん部
16D 充てん流量計