(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175509
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】ローエッジVベルト
(51)【国際特許分類】
F16G 5/20 20060101AFI20241211BHJP
F16G 5/06 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
F16G5/20 B
F16G5/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093343
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 秀之
(72)【発明者】
【氏名】田代 英之
(57)【要約】
【課題】 経時的なトランスミッションレシオの変化を小さく、軸荷重を適正な範囲に維持することができるローエッジVベルトを提供する。
【解決手段】 ベルト幅方向の両側にプーリ接触面が構成されたゴム製のVベルト本体と、前記Vベルト本体に埋設された心線と、を備えたローエッジVベルトであって、120℃で測定したベルト幅方向の圧縮弾性率が150MPa以上250MPa以下であり、ベルト側面の90°摩擦係数が1.4以上1.8以下である、ローエッジVベルト。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト幅方向の両側にプーリ接触面が構成されたゴム製のVベルト本体と、
前記Vベルト本体に埋設された心線と、
を備えたローエッジVベルトであって、
120℃で測定したベルト幅方向の圧縮弾性率が150MPa以上250MPa以下であり、
ベルト側面の90°摩擦係数が1.4以上1.8以下である、
ローエッジVベルト。
【請求項2】
ベルト内周側及びベルト外周側のそれぞれに複数のコグを有するダブルコグドVベルトである、請求項1に記載のローエッジVベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローエッジVベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
2輪車、バギー(All Terrain Vehicle:ATV)、スノーモービル等の車両に搭載されるベルト式無段変速機には、伝動ベルトとしてゴム製のローエッジVベルトが用いられている。
例えば、特許文献1には、経時的なトランスミッションレシオの変化を抑えることを目的として、120℃で1時間の熱処理を行ったときの収縮率が1.2%以上2.0%以下である心線を埋設したダブルコグドVベルトが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した変速用のローエッジVベルトは、経時的なトランスミッションレシオの変化を抑えつつ、軸荷重を適正な範囲に維持することが求められている。
特に、バギーやスノーモービルに使用される変速用のローエッジVベルトは、高負荷伝動時において、上述した特性を有することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、経時的なトランスミッションレシオの変化が小さく、軸荷重を適正な範囲に維持することができるローエッジVベルトを提供することを目的とする。
【0006】
(1)本発明のローエッジVベルトは、
ベルト幅方向の両側にプーリ接触面が構成されたゴム製のVベルト本体と、
上記Vベルト本体に埋設された心線と、
を備えたローエッジVベルトであって、
120℃で測定したベルト幅方向の圧縮弾性率が150MPa以上250MPa以下であり、
ベルト側面の90°摩擦係数が1.4以上1.8以下である。
【0007】
上記ローエッジVベルトによれば、経時的なトランスミッションレシオの変化を小さく抑えつつ、軸荷重を適正な範囲に維持することができる。上記ローエッジVベルトは、高負荷伝動時にも経時的なトランスミッションレシオの変化を小さく抑えつつ、軸荷重を適正な範囲に維持することができる。
また、上記ローエッジVベルトは、充分な伝動効率も有し、走行時のベルト温度も上昇しにくい。
従って、上記ローエッジVベルトは、性能バランスが極めて良好なベルトである。
【0008】
(2)上記ローエッジVベルトは、ベルト内周側及びベルト外周側のそれぞれに複数のコグを有するダブルコグドVベルトが好ましい。
ベルト式無段変速機用のダブルコグドVベルトは、経時的なトランスミッションレシオの変化を小さく抑えつつ、軸荷重を適正な範囲に維持することが特に求められるからである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、経時的なトランスミッションレシオの変化が小さく、軸荷重を適正な範囲に維持することができるローエッジVベルトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係るダブルコグドVベルトの一部を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図1のダブルコグドVベルトのベルト長さ方向に沿った断面図である。
【
図3】圧縮弾性率を測定する試験片を説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。
【0012】
図1及び
図2は、本発明の実施形態に係るダブルコグドVベルト10(ローエッジVベルト)を示す。このダブルコグドVベルト10は、例えば、ATVやスノーモービルの変速装置における変速用の動力伝達部材として用いられるローエッジVベルトである。
ダブルコグドVベルト10は、エンドレスの伝動ベルトである。
ダブルコグドVベルト10の長さは、例えば500mm以上1400mm以下である。ダブルコグドVベルト10のベルト最大幅は、例えば15mm以上40mm以下である。ダブルコグドVベルト10のベルト最大厚さは、例えば7.0mm以上18.0mm以下である。
【0013】
ダブルコグドVベルト10は、ベルト本体11と、心線12、及び補強布13を備える。
ベルト本体11はゴム製である。
ベルト本体11のベルト長さ方向に垂直な断面の形状は、ベルト外周側に位置する長方形と、ベルト内周側に位置し、ベルト内周側の底辺が短い台形とを組み合わせた形状である(
図1参照)。
ベルト本体11の両側面は傾斜面を有する。この傾斜面はプーリ接触面となる。
ベルト本体11は、ベルト厚さ方向の中間部の接着ゴム層111と、ベルト内周側の圧縮ゴム層112と、ベルト外周側の伸張ゴム層113との3層で構成されている。
【0014】
心線12は、接着ゴム層111のベルト厚さ方向の中間部に埋設されている。心線12は、周方向に沿ってベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成して延びるように設けられている。
被覆布13は、圧縮ゴム層112のベルト内周側の表面を被覆するように設けられている。
【0015】
圧縮ゴム層112の内周には、ベルト長さ方向に沿って、複数の下コグ形成部112aが一定ピッチで配設されている。下コグ形成部112aは、ベルト長さ方向に沿った断面において、ベルト内周側の輪郭線がサインカーブになるように設けられている。
伸張ゴム層113の外周には、ベルト長さ方向に沿って、複数の上コグ15が一定ピッチで配設されている。上コグ15のベルト長さ方向に沿った断面における断面形状は、略台形である。
【0016】
上コグ15は、例えば、高さHUが2.0mm以上5.0mm以下、幅WUが8.0mm以上10.0mm以下、配設ピッチPUが8.0mm以上10.0mm以下である。
【0017】
接着ゴム層111、圧縮ゴム層112、及び伸張ゴム層113は、ゴム成分に必要に応じて添加剤が配合、混錬された未架橋ゴム組成物の架橋物からなる。
上記ゴム成分としては、例えば、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、水素添加アクリロニトリルゴム(H-NBR)、エチレン-α-オレフィンエラストマー(EPDM、EPRなど)等が挙げられる。
これらのなかでは、クロロプレンゴム(CR)及びエチレン・プロピレン・ジエンターポリマー(EPDM)が好ましい。
【0018】
上記添加剤としては、例えば、補強材、充填剤、老化防止剤、軟化剤、架橋剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、共架橋剤、加工助剤等が挙げられる。
接着ゴム層111、圧縮ゴム層112、及び伸張ゴム層113は、同一のゴム組成物を用いて形成されていてもよいし、それぞれ異なるゴム組成物を用いて形成されていてもよい。
圧縮ゴム層112及び伸張ゴム層113は、補強材として短繊維を含有していてもよい。短繊維を含有する場合、当該短繊維は、ベルト幅方向に配向していることが好ましい。短繊維をベルト幅方向に配向させることによって、ベルト幅方向の剛性を高めることができる。
【0019】
心線12は、Vベルト本体11の接着ゴム層111の厚さ方向の中間部に埋設されている。心線12は、ベルト幅方向にピッチを有し、螺旋を形成するように設けられている。
心線12のベルト幅方向の外径は、0.7mm以上1.3mm以下が好ましく、0.9mm以上1.1mm以下がより好ましい。
心線12のベルト幅方向の配設ピッチは、1.30mm以下が好ましく、1.25mm以下がより好ましく、1.20mm以下が更に好ましい。
心線12のベルト幅方向の配設ピッチとは、隣接する心線12同士のベルト幅方向の中心間距離である。
【0020】
心線12は、撚糸で構成されている。この撚糸を構成する繊維としては、例えば、ポリエステル繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維等が挙げられる。
【0021】
心線12には、接着処理が施されていることが好ましい。接着処理を施すことで、接着ゴム層111との接着力を向上させることができる。上記接着処理は、成形加工前に施される。
上記接着処理としては、エポキシ化合物又はイソシアネート化合物を含有する下地処理剤に浸漬した後に加熱する接着処理、RFL水溶液に浸漬した後に加熱する接着処理、ゴム糊に浸漬した後に乾燥させる接着処理等が採用できる。これらの接着処理は、1種のみが施されてもよいし、2種以上が組み合わせて施されてもよい。
【0022】
補強布13は、Vベルト本体11の圧縮ゴム層112の内周面を被覆するように設けられている。この補強布13で圧縮ゴム層112の下コグ形成部112aが被覆され、下コグ形成部112aと被覆布13とで下コグ14が構成されている。
下コグ15は、例えば、高さHLが4.0mm以上8.0mm以下、幅WLが8.0mm以上12.0mm以下、及び配設ピッPLが8.0mm以上12.0mm以下である。
【0023】
補強布13の厚さは、例えば0.1mm以上1.0mm以下である。
補強布13は、通常、織布又は編布で構成される。補強布13を構成する繊維材料としては、例えば、脂肪族ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、綿等が挙げられる。
【0024】
補強布13は、圧縮ゴム層112に対する接着性を高める観点から、圧縮ゴム層と接着させる前に、接着処理が施されていることが好ましい。
上記接着処理としては、例えば、エポキシ化合物又はイソシアネート化合物を含有する下地処理剤に浸漬した後に加熱する接着処理、RFL水溶液に浸漬した後に加熱する接着処理、ゴム糊に浸漬した後に乾燥させる接着処理、Vベルト本体11側となる面上に高粘度のゴム糊をコーティングして乾燥させる接着処理等が採用できる。これらの接着処理は、1種のみが施されてもよいし、2種以上が組み合わせて施されてもよい。
【0025】
ダブルコグドVベルト10は、120℃で測定したベルト幅方向の圧縮弾性率が150MPa以上250MPa以下であり、かつベルト側面の90°摩擦係数が1.4以上1.8以下である。
上記圧縮弾性率と、上記摩擦係数とを同時に充足するダブルコグドVベルト10は、低負荷伝動時及び高負荷伝動時を問わず、経時的なトランスミッションレシオの変化を小さくすることができるともに、軸荷重を適正な範囲に維持することができる。また、このダブルコグドVベルト10は、充分な伝動効率も有し、走行時のベルト温度も上昇しにくい。
【0026】
上記圧縮弾性率の測定を120℃で行っている理由は、ATVやスノーモービル等に搭載されるベルト式無段変速機用のベルトとして、ダブルコグドVベルト10を使用した場合には、ダブルコグドVベルト10の温度が120℃程度まで上昇するからである。
【0027】
上記圧縮弾性率が150MPa未満では、ダブルコグドVベルト10が座屈変形する等によって、高負荷伝動時における経時的なトランスミッションレシオの変化が大きくなってしまう。
一方、上記圧縮弾性率が250MPaを超えると、軸荷重が大きくなりすぎて軸への負担(軸を支持するベアリングへの負担)が高くなり過ぎたり、ベルト本体が硬くなりすぎて屈曲時の発熱量が大きくなり過ぎたりすることがある。また、ベルト本体にセパレーションやクラックが発生しやすくなる可能性が高い。
上記圧縮弾性率は、200MPa以上250MPa以下が好ましい。
【0028】
上記90°摩擦係数が1.4未満では、高負荷伝動時における経時的なトランスミッションレシオの変化が大きくなってしまう。また、軸荷重が悪化してしまう。一方、90°摩擦係数が1.8を超えると、ベルト温度が上昇しやすく、ベルト伝動効率が低下しやすい。
上記90°摩擦係数は、より好ましくは1.4以上1.6以下である。
【0029】
上記軸荷重とは、駆動軸と従動軸との間をダブルコグドVベルトで橋渡ししたときに生じる荷重である。
上記軸荷重が高いことは、ベルト張力が高いことを意味する。軸荷重が高すぎると、軸への負荷が高くなりすぎる。また、ベルト温度が上昇しやすくなり、ベルトのセパレーションが生じる可能性が高まる。
一方、軸荷重が低すぎるとベルト張力が低く、プーリとベルトとの間でスリップが生じやすくなる。その結果、レシオ変化の増加やスリップによる発熱の増加が生じる。
上記軸荷重は、ロードセルを用いて検出される。
【0030】
上記圧縮弾性率は、以下の方法で測定する。
図3は、圧縮弾性率を測定する試験片を説明する図である。
図4は、圧縮弾性率の測定方法を説明する図である。
まず、ダブルコグドVベルトから、カッターを用いて、
図4に示すような試験片TPを切り出す。
試験片TPの寸法は、長さ×幅×厚さを、下コグ4個分×ベルト最大厚さ×ベルト最小幅の40%とする。
ここで、試験片TPの長さとは、ダブルコグドVベルトのベルト長さ方向の寸法をいう。試験片TPの幅とは、ダブルコグドVベルトのベルト厚さ方向の寸法をいう。また、試験片TPの厚さとは、ダブルコグドVベルトのベルト幅方向の寸法をいう。
また、試験片TPは、試験片TP全体で厚さ寸法が一定になるように、ダブルコグドVベルトの両側の側面を切り落としている。試験片TPの2つの側面31は平行になっている。
【0031】
圧縮弾性率の測定は、疲労・耐久試験機を用いて行う。疲労・耐久試験機としては、島津製作所社製、サーボパルサを用いることができる。
上記疲労・耐久試験機は、試験片TPを挟持するための2枚の平板を備えている。2枚の平板は、
図4に示されるように、試験片TPを載置する下板41と、軸43に固定され、上下動可能な上板42とで構成されている。下板41及び上板42のそれぞれの試験片TPとの接触面は、試験片TPの下面全体又は上面全体と接触可能なサイズを有している。上記圧縮弾性率の測定は、2枚の平板41、42間に試験片TPを挟みこみ、上板42を上下動させることで、試験片TPの上面全体に荷重を掛けて行う。
試験条件は、下記の条件とする。
荷重範囲:-1000±500N
周波数:20Hz
温度:120℃
回数:3000回
圧縮弾性率は、100サイクル目の値を取得し、更に、100サイクル毎に3000サイクル目まで値を取得し、取得された30個の値の平均値を算出し、得られた平均値を圧縮弾性率の測定値とする。
【0032】
上記90°摩擦係数は、以下の方法で測定する。
図5は、ダブルコグドVベルト10の摩擦係数の測定方法を説明する図である。
まず、ダブルコグドVベルト10の1箇所をベルト幅方向に沿って切断することでベルトを切り開く。次に、ダブルコグドVベルト10の一端をロードセルなどの荷重検出器21にワイヤー22を介して接続する。そして、ダブルコグドVベルト10を、ベルトに対応する形状の溝を有するプーリ23に巻き掛け、ダブルコグドVベルト10の他端にワイヤー25を介して重錘24を吊り下げ、ダブルコグドVベルト10に下向きの荷重を与える。そして、プーリ23を反時計方向に所定速度で回転させ、下記の計算式によりダブルコグドVベルト10のベルト側面の90°摩擦係数μを測定する。
【0033】
μ=(1/α)×ln(T1/T2)
式中、T1は、荷重検出器21による測定された張力(N)、T2は、ベルトの他端に取り付けられた重錘24による張力(N)、αは、ベルトとプーリの接触角(rad)、である。
【0034】
この90°摩擦係数の測定において、プーリ23としては、ステンレス製(S45C)で、プーリ径が96mmのプーリを使用する。
プーリ23のダブルコグドVベルト10と接する面の面粗度Raは、0.2μm以上0.6μmとする。上記面粗度Raは、JIS B0601(2013)に規定された算術平均粗さである。
重錘24による張力は、39.2Nとする。
プーリ23の回転速度は、41rpmとする。
90°摩擦係数の測定時間は30秒間とし、プーリ23の回転開始5秒後から30秒後までに記録された最高値を摩擦係数の測定値とする。
測定時の雰囲気温度は20~25℃とする。
【0035】
上述した圧縮弾性率及び90°摩擦係数によるローエッジVベルトの特定は、ゴム組成物の構成や心線の構成によるローエッジVベルトの特定に比べて、経時的なトランスミッションレシオの変化が小さく、軸荷重を適正な範囲に維持することができるローエッジVベルトの特定として好適である。ローエッジVベルトが、完成品の構成に基づいて特定されるからである。
【0036】
本発明の実施形態に係るダブルコグドVベルト10によれば、経時的なトランスミッションレシオの変化を小さくするとともに、軸荷重を適正な範囲に維持することができる。
また、上記ダブルコグドVベルト10は、充分な伝動効率も有し、走行時のベルト温度も上昇しにくい。
従って、上記ダブルコグドVベルト10は、性能バランスが極めて良好なベルトである。
【0037】
本発明の実施形態に係るダブルコグドVベルト10は、公知の方法によって製造することができる。
【0038】
上記実施形態では、圧縮ゴム層112の内周面のみが補強布13で被覆された構成としたが、本発明の実施形態に係るダブルコグドVベルトはこれに限定されるものではない。
本発明の実施形態に係るダブルコグドVベルトは、伸張ゴム層113の外周面のみが補強布で被覆された構成であってもよい。また、圧縮ゴム層112の内周面及び伸張ゴム層113の外周面のいずれもが補強布で被覆された構成であってもよい。さらには、圧縮ゴム層112の内周面及び伸張ゴム層113の外周面のいずれもが補強布で被覆されていない構成であってもよい。
【0039】
上記実施形態ではダブルコグドVベルトを説明したが、本発明の実施形態に係るローエッジVベルトはこれに限定されるものではなく、シングルコグドVベルトであってもよく、また、コグを有さないローエッジVベルトであってもよい。
【実施例0040】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
(ダブルコグドVベルト)
以下の実施例1~5及び比較例1~5のダブルコグドVベルトを作製した。
【0042】
<実施例1~5>
上記実施形態と同様の構成のダブルコグドVベルトを製造した。
接着ゴム層、圧縮ゴム層、及び伸張ゴム層を形成するゴム組成物としては、同一のゴム組成物を使用した。
実施例1~5で使用したゴム組成物の構成は表1に示す。
心線としては、RFL処理及びゴム糊処理を施したパラ系アラミド繊維の撚糸で構成した。
被覆布としては、RFL処理及びゴム糊処理を施したアラミド繊維の織布で構成した。
【0043】
実施例1~5のダブルコグドVベルトは、ベルト長さが1100mm、ベルト最大幅が32mm、ベルト最大厚さが16.5mm、両側のプーリ接触面を構成する傾斜面のなす角度が28°であった。
接着ゴム層、圧縮ゴム層、及び伸張ゴム層は、クロロプレンゴム(CR)又はエチレン・プロピレン・ジエンターポリマー(EPDM)をゴム成分とするゴム組成物で形成した。圧縮ゴム層及び伸張ゴム層を形成するゴム組成物には、ベルト幅方向に配向するようにアラミド短繊維を含有させた。
下コグは、高さHLが7.0mm、幅WLが11.0mm、配設ピッチPLが11.0mmであった。上コグは、高さHUが4.0mm、幅WUが9.0mm、配設PUピッチが9.0mmであった。
心線のベルト幅方向の外径は1.0mmであった。心線の配設ピッチは1.2mmであった。
ベルト両側のプーリ接触面の形成には、バフ研磨又はカットのいずれかで行った。
【0044】
【0045】
<比較例1~5>
接着ゴム層、圧縮ゴム層、及び伸張ゴム層を形成するためのゴム組成物を変更した以外は、実施例と同様にしてダブルコグドVベルトを製造した。
比較例1~5で使用したゴム組成物の構成は表2に示す。
【0046】
【0047】
(物性評価)
実施例及び比較例で製造したダブルコグドVベルトについて、上述した方法で、120℃におけるベルト幅方向の圧縮弾性率と、ベルト側面の90°摩擦係数とを測定した。結果を表3に示した。
なお、圧縮弾性率の測定において、試験片TPの寸法は、長さ45mm×厚さ10mm×幅16.5mmとした(
図3参照)。
また、プーリベルト10と接する面の面粗度Raは、0.2μmとした。
【0048】
下記(1)~(4)の評価を行った。下記のベルト走行試験において、駆動軸トルクを80N・mに設定した走行試験は、高負荷伝動時の走行試験である。
(性能評価)
【0049】
(1)レシオ変化率
実施例1~5及び比較例1~5のそれぞれのダブルコグドVベルトを、巻き掛け径が可変である駆動プーリ及び従動プーリに巻き掛けた。駆動プーリを2500rpmで回転させてベルト走行させ、ベルト走行開始直後の入力回転数(N1)及び出力回転数(N2)と、駆動軸トルクを80N・mにした時の入力回転数(N1’)及び出力回転数(N2’)とを測定した。下記の計算式に基づいてトランスミッションレシオの変化率(レシオ変化率)を算出した。結果を表3に示した。
【0050】
【0051】
(2)軸荷重(N)
ベルト走行時の軸荷重をロードセルを用いて検出した。
ここでは、(1)レシオ変化率の評価と同条件でベルトを走行させ、駆動軸トルクを80N・mにし、その10秒後から30秒間軸荷重を検出し、その平均値を結果値とした。なお、データのサンプリングは200ミリ秒間隔で行った。
【0052】
(3)ベルト温度(℃)
(1)レシオ変化率の評価において、非接触型温度計を用いてベルト走行中のベルト温度を測定した。駆動軸トルク80N・mを30秒間維持したときのベルト温度の平均値を結果値とした。結果を表3に示した。
【0053】
(4)伝動効率(%)
実施例1~5及び比較例1~5のそれぞれのダブルコグドVベルトを、巻き掛け径が可変である駆動プーリ及び従動プーリに巻き掛けた。駆動軸トルクを80N・mとして駆動プーリを2500rpmで回転させてベルト走行させた。駆動プーリ及び従動プーリへの巻き掛け径が同一のときの入力回転数(N1)、入力トルク(Tr1)、出力回転数(N2)及び出力トルク(Tr2)を測定した。下記の計算式に基づいて伝動効率を算出した。結果を表3に示した。
【0054】
【0055】
(性能評価結果)
下記(1)~(4)の評価結果について、下記の基準で点数化した。結果を表3に示した。この点数化では、点数が大きいほど高性能である。
【0056】
(1)レシオ変化率
1点:8以上
2点:6以上8未満
3点:6未満
【0057】
(2)軸荷重
1点:2500N未満、又は4000N以上
2点:2500N以上3000N未満、又は3500N以上4000N未満
3点:3000N以上3500N未満
【0058】
(3)ベルト温度
1点:60℃以上
2点:53℃以上60℃未満
3点:53℃未満
ベルト温度は、60℃以上になると、伝達効率の低下や耐久性の低下に大きく影響すると考えられる。
【0059】
(4)伝動効率
1点:90%未満
2点:90%以上92%未満
3点:92%以上
【0060】
その後、各評価項目のスコアに基づき、下記の計算式で総合スコアを算出した。結果を表3に示した。
総合スコア=(1)レシオ変化率のスコア×2+(2)軸荷重のスコア×2+(3)ベルト温度のスコア+(4)伝動効率のスコア
【0061】
本発明は、経時的なトランスミッションレシオの変化を小さく、軸荷重を適正な範囲に維持することができるローエッジVベルトを提供することを目的としている。この観点から、総合スコアの算出では、レシオ変化率及び軸荷重を、ベルト温度及び伝動効率よりも加重評価した。
【0062】
【0063】
表3に示した結果から明らかな通り、実施例1~5のダブルコグドVベルトは、(1)レシオ変化率、及び(2)軸荷重の一方又は両方のスコアが最高点の3点であり、総合スコアが14点以上であった。
一方、比較例1~5のダブルコグドVベルトは、総合スコアが13点以下であった。
これらのことから、本発明の実施形態に係るローエッジVベルトは、高負荷伝動時であっても経時的なトランスミッションレシオの変化を小さく、軸荷重を適正な範囲に維持することができ、更には、ベルト温度の上昇を抑制でき、充分な伝動効率を確保できる点で、性能バランスの良い、優れたローエッジVベルトであることが明らかとなった。