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  • 特開-複数の指袋を備える手袋または靴下 図1
  • 特開-複数の指袋を備える手袋または靴下 図2
  • 特開-複数の指袋を備える手袋または靴下 図3
  • 特開-複数の指袋を備える手袋または靴下 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175525
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】複数の指袋を備える手袋または靴下
(51)【国際特許分類】
   A41D 19/00 20060101AFI20241211BHJP
   A41B 11/00 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
A41D19/00 M
A41B11/00 A
A41B11/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093368
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(72)【発明者】
【氏名】小▲高▼ 憲夫
(72)【発明者】
【氏名】島崎 宜紀
(72)【発明者】
【氏名】由井 学
(72)【発明者】
【氏名】川上 美紀
(72)【発明者】
【氏名】弓場 功雄
【テーマコード(参考)】
3B018
3B033
【Fターム(参考)】
3B018AB08
3B018AC01
3B018AC13
3B018AD01
3B018AD05
3B033AA09
3B033AB08
3B033AB10
3B033AC04
(57)【要約】
【課題】汎用的な横編機で股重ねを用いずに無縫製で編成され、嵌め心地や履き心地が良い複数の指袋を備える手袋または靴下を提供する。
【解決手段】複数の指袋を備える手袋または靴下は、総針組織の手袋または靴下であって、指股部において隣接する指袋同士の編目の重なりによる減らし部に代えて、筒状編成部である胴または/及び指袋自身の側端部編目同士の重ね目で減らし部を配置するようにしている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴および複数の指袋が総針組織による筒状編成部として構成される手袋または靴下において、指股部において隣接する指袋同士の編目の重なりによる減らし部に代えて、前記筒状編成部である胴または/及び指袋自身の側端部編目同士の重ね目で減らし部を配置するようにしたことを特徴とする複数の指袋を備える手袋または靴下。
【請求項2】
前記指袋同士が隣接する指股部において、引返し編成により編幅を徐々に広げる又は徐々に狭める三&#12179;形状の増目部を備えることを特徴とする請求項1に記載の複数の指袋を備える手袋または靴下。
【請求項3】
前記指袋の指先端が指袋の編出し部であり、引返し編成で編幅を減らしながらタック編成でウェール間の編目を繋いでできる台形状の指先成型領域を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の複数の指袋を備える手袋または靴下。
【請求項4】
前記指袋同士が隣接する指股部において、各指袋の一方側の側端に減らし部が配置され、他方側の側端には減らし部が配置されていないことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の複数の指袋を備える手袋または靴下。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横編機を用いて形成される複数の指袋を備える手袋または靴下に関するものである。
【背景技術】
【0002】
横編機では、ニットウェアをはじめ、スカートや帽子、手袋や靴下など、様々なアイテムを編成することができる。従来、手袋や靴下などの特に作業用の製品では、専用機を用いて限定的な製品を安価で大量に生産することが多かったが、現在では汎用的な横編機を用いて、よりファッション性が高く、品質の高い手袋や靴下の生産が望まれている。
【0003】
特許文献1では、手袋の指股において、指袋間の孔が目立たない様に、隣接する指袋で2目程度の編目を重ねる股重ねを行っており、編成には所謂『カミソリ』を用いている。
手袋の品質を高めるには、後述する総針組織で編成することが好ましく、特許文献1での編成条件(股重ね、総針組織、2枚ベッド等)を満たすには、カミソリを用いた編成が必要となる。また、一般的な手袋や靴下の編成では、指袋と胴部の周長差をループ数の差として調整する必要がある。仮に調整をしなければ、胴部が適正な場合には各指袋が小径となり、各指袋が適正な場合には緩い胴部となってしまう。その為、適正な指袋に対して胴部が広過ぎて緩まない様に、各指袋から胴部に向けてループ数を減らすのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭40-25104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、指股部において股重ねを用いずに編成され、嵌め心地や履き心地が良い総針組織による複数の指袋を備える手袋または靴下を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の複数の指袋を備える手袋または靴下は、胴および複数の指袋が総針組織による筒状編成部として構成される手袋または靴下において、指股部において隣接する指袋同士の編目の重なりによる減らし部に代えて、筒状編成部である胴または/及び指袋自身の側端部編目同士の重ね目で減らし部を配置するようにした。なお、説明に用いる『筒状編成部』は、各指袋、4本胴や5本胴等の胴部のことを示し、『側端部』は、筒形状の(外)端部の意である。
【0007】
好ましくは、指袋同士が隣接する指股部において、引返し編成により編幅を徐々に広げる又は徐々に狭める三角形状の増目部を備えるようにした。
【0008】
好ましくは、指袋の指先端が指袋の編出し部であり、引返し編成で編幅を減らしながらタック編成でウェール間の編目を繋いでできる台形状の指先成型領域を備えるようにした。
【0009】
好ましくは、指袋同士が隣接する指股部において、各指袋の一方側の側端に減らし部が配置され、他方側の側端には減らし部が配置されていないようにした。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、複数の指袋を備える手袋または靴下について、指股部においては股重ねがなく、指部と胴部の目数バランスが取れて指袋の圧迫や胴部の緩みもなく、嵌め心地や履き心地が良い。
【0011】
また本発明では、三角形状の増目部を備えることで、指間に余裕ができており、指を挿入して動かす際にもフィット感が感じられる。
【0012】
また本発明では、指袋の先端が編出し部であり、指先部分にタック編目等の引っ掛かりや凹凸がなく、自然な指先形状とすることができる。
【0013】
また本発明では、指袋の筒径を狭めることで、指袋がずれ難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の5本指の手袋(右手の掌側)の簡易図である。
図2図2は、本発明の5本胴部の一部(図1のX-X線上)の減らし処理を示した工程図である。
図3図3は、本発明の2つの指袋の指股部近傍を示した簡略図で、(a)は編成した編地の状態を示し、(b)は指先より編成する際の指袋と増目部の編成イメージを示す。
図4図4は、本発明の指袋の指先の概略図で編成の手順を下方から時系列で示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の5本指手袋1(右手の掌側)の簡易図であり、本実施形態で説明を行う各ポイントを付記した図である。なお、この手袋1は、横編機を用いて無縫製で編成されており、各指袋2と胴部3(4本胴部3A、5本胴部3B)との目数のバランスが取れる様に5本胴の胴部3Bとなる筒状編成部の側端部(減らし部4)で減らし処理を行っている。更に手袋1は、指袋2の指元の一端側の側端部(減らし部4)でも減らし処理を行っている。何れの場合にも、減らし処理は、筒状編成部の側端部で行なわれ、装着時には目立ち難い位置に配置している。その為、減らし処理の重ね目等、不要な模様は、編地の目立つ箇所に発現しない。
【0016】
図1は、図面下方に指先側、上方に手首側の配置で5本指手袋1を示している。手袋1は、指先の編出し部5から編成が始まり、手首部6で終了する編成で得られる。従来の手袋1では、小指の指袋2から人差し指まで順次各指袋2を編成し、4本胴部3A、親指袋2、5本胴部3Bと続き、手首部6に弾性糸を用いてタック編成を行ってリブ組織風に仕上げる。しかしながら、本発明の5本指手袋1では、指袋2での減らし処理を行う為、人差し指から小指に向けて指袋2を逆順で編成する。詳細は後述するが、本発明の手袋1が『総針組織』で形成しているからである。
【0017】
図1では、手袋1の製品品質を高める為、指先には指先成型領域7の形成を、点線で囲む指股部8には増目部9の形成を、そして指袋2にも減らし処理等の編成を行っている。なお、減らし処理については、一点鎖線の楕円でそのエリアを簡易的に示し、筒状編成部の側端部に形成する減らし部4を黒い矩形で示す。以下、本発明の上記各部を含めた実施形態を、図2,3,4を用いて説明する。
【0018】
本実施形態は2枚ベッド横編機を用いた例で説明する。横編機は、多数の編針が配置された前針床FBと後針床BBを有し、基本的には編成時、1本置きの編針を使用する『針抜き組織』ではなく、全ての編針に編目を係止する『総針組織』で編成する。つまり、使用できる編針に大きな制限が掛かるが、編成された編目は詰み、出来た製品の品質は高く、識別も可能である。また本実施形態では、各指袋2を編成にするにあたり、股重ねではなく、指袋2を隣接する位置に配置して接合し、増目部9を形成することで、例えば手を嵌めた際にも高いフィット感が得られる。
【0019】
図2は、本発明の5本胴部3Bの一部(図1のX-X線上)の減らし処理を示した工程図である。減らし処理は、筒状編地の側端部で行うことで、『総針組織』を可能としている。
図に示す符号は、各図に共通し、直接の説明がない場合にも位置関係を示すために図示する場合もある。図で示す『S+数字』は編成の各工程を示し、●は新たな編目を、○は旧編目を、2重の○は重ね目を、黒点は編針を示す。なお、欄外のA~T は前針床FBの編針の位置を、a~t は後針床BBの編針の位置を示す。▽は給糸口10を示し、左右に向いた矢印は給糸口10の移動を示す。また、針床間における矢印は編目の移動を示す。なお、図2は実際の編地の一部の編成を示したものであるが、目数は減らしている。
【0020】
図2に示すS0は、手袋1の胴部(X-X線上)の減らし処理前の状態を示し、給糸口10を用いてBBの編針aから編針sに、更にFBの編針Sから編針Aに向けて、5本胴部3Bを編成した状態である。S1では、図面右方端での減らし処理を行う。なお、図示はしないが、目移しで編目を移動する際には、適宜針床のラッキングを行う。具体的には、FBの編針Sに係止する編目をBBの編針tに目移しを行い、BBの空針tに一旦退避させる。その後、BBの編針rと編針sに係止する編目を、FBの編針Sと編針Tにそれぞれ目移しする。その結果、BBの編針rと編針sは空針となった状態となる。なお、『総針組織』で形成する為にこれらの空針を設ける編成が必要であり、その空針の形成は、筒状編成部の一方側の側端部で行うのが好ましい。例えば図1でも示した様に、連続する指袋2の編成では、新たな指袋2を設ける方向側に空針を設け、減らし部4を形成する。
【0021】
S2では、FBの編針Sに係止している編目をBBの編針qに目移しして重ね目を形成し、編針Tに係止している編目をBBの編針rに目移しする。更には、BBの編針tに係止している編目をFBの編針Sに目移して元位置に戻している。S3では、FBの編針Rと編針Sに係止する編目をBBの編針sと編針tに目移しする。S4では、BBの編針sと編針tに係止している夫々の編目をFBの編針Qと編針Rに目移しする。編針Qでは、重ね目ができ、S2の編成と合わせて、FB,BBの各編目が1目減っている。
【0022】
S5では、S0と同様に、給糸口10を用いてBBの編針aから編針rに、更にFBの編針Rから編針Aに向けて5本胴部3Bを編成する。なお、本実施形態では、重ね目が右端より2目めに形成されているが右端の1目めの編目でも良く、その場合には編成工程を減らすことができる。例えば、使用する編糸に突っ張り感等がある場合は2目めに重ね目を形成し、収まりが良い編糸の場合には1目めに重ね目を設ければ良い。重ね目が集中することで強度アップも図れる。また、3目め以上になると、空針を確保しながらの編成となって編成効率が下がる為、減らし処理は、1目め又は2目めで処理を行うのが好ましい。
【0023】
図3は、本発明の2つの指袋2の指股部8近傍を示した簡略図で、(a)は編成した編地の状態で、(b)は指先より編成する際の指袋2と増目部9の編成イメージを示している。なお、矢印は編成方向を示し、指先に示す■は、後述するタック編目11を示す。(a)では、編出し部5から編成をスタートした隣接する2つの指袋2に対し、編幅を徐々に広げて三角形状となる増目部9を形成して指袋2間にマチを設けることで、指袋2の向きを変えて指股部8周辺に広がりを持たせてフィット感を高めている。(b)では、2つの指袋2を隣接させ、そのままの状態、もしくはニット編成で2つを接合した状態で増目部9を形成する。つまり、指袋2間の指股部8では股重ねは使用せず、隣接する指袋2との接合箇所に三角形状の増目部9を形成する。
【0024】
図3(b)では、単独の編成となる左右の引返し編成の位置を変化させることで、三角形状の増目部9を形成している。増目部9では、引返し編成の際に、端部でタック編成を行ない、タック編目4でウェール間の編目を繋ぐことで孔開きが回避できる。また、増目部9は手前側と奥側に2つ示しているが、編成順は限定する必要はなく、1つの給糸口を用いて1箇所ずつ形成しても良く、2つの給糸口を用いて2箇所を並行して形成しても良く、更には何れか一方のみの形成でも良い。なお、本実施形態では、編幅を徐々に広げる三角形状であるが、徐々に狭める三角形状でも良い。指股部8の余裕は何れの形状でも得ることが可能であるが、徐々に広げる三角形状の方が指股部8の収まりが良く好ましい。
【0025】
図4は、本発明の指袋2の指先の概略図で編成の手順を下方から時系列で示した図である。本実施形態では、編出し部5として、指先の全編幅に合わせてFBとBBの針床でジグザグ状に編成して指袋2を編出し、続けて指先の手の甲側を編成し、更に指先の掌側を編成して指先成型領域7で指先形状を整えた後に、周回編成を行って指袋2を形成している。図で示す様に、指先の形状を整える編成は台形状の指先成型領域7(F・B)の編成となっており、公知の指先編成とは上下逆転した形状である。この形状により、指先の丸みを付ける際のタック編目11が従来の様に指先に配置されず、そのため指先に引っ掛かりや凹凸がなく、自然な指先形状と合わせて嵌め心地感や履き心地感の向上が図れる。
【0026】
また、図1の指袋2の指元に記載している様に、指袋2の減らし処理は、右側端部で行っている。指袋2の筒径が狭められる為、装着時に抜け難くなり、フィット感が高まる。本実施形態では、小指側の5本胴部3Bでの減らし処理を行ったが、4本胴部3Aや親指側の5本胴部3Bの側端部で減らし処理を行っても良い。使用するデザインや編糸の特性により、バランスを取るための減らし処理を分散して形状を整え、減らし処理の箇所を目立ち難くすればよい。結果的には、製品として目立ち難い箇所になっている。
なお、本実施形態では、胴部3の5本胴3Bの一端側及び指袋2の一端側で減らし処理を行っているが、特に限定はなく、胴部3の4本胴部3Aのみや5本胴部3Bの両端側で行っても良いし、それらを組合わせても良い。更に指袋2のみで行っても良い。つまり、指股部において隣接する指袋同士の編目の重なりによる減らし部に代えて、筒状編成部である胴または/及び指袋自身の側端部編目同士の重ね目で減らし部を配置している。
【符号の説明】
【0027】
1 手袋 2 指袋 3 胴部 4 減らし部 5 編出し部
6 手首部 7 指先成型領域 8 指股部 9 増目部 10 給糸口
11 タック編目
図1
図2
図3
図4