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特開2024-175526溶接用治具及び溶接用治具を用いた溶接方法
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  • 特開-溶接用治具及び溶接用治具を用いた溶接方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175526
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】溶接用治具及び溶接用治具を用いた溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 37/00 20060101AFI20241211BHJP
   B23K 37/02 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
B23K37/00 A
B23K37/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093371
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】西田 雄一
(57)【要約】
【課題】溶接装置を用いて好適に溶接作業を行うことが可能な溶接用治具を提供する。
【解決手段】溶接用治具1は、第1母材M1及び第2母材M2の隅部M3を溶接する溶接装置Eを補助するための治具である。溶接用治具1は、第1母材M1の表面に載置され、第1母材に沿って延びている第1延出部材10と、第1延出部材に連結され、第2母材M2の表面に支持され、第2母材に沿って延びている第2延出部材20と、第1延出部材に設けられ、第1母材に溶接用治具を取り付けるための取り付け部材40とを備えている。第1延出部材10及び第2延出部材20の連結部分には、これら延出部材の延出方向に沿って開口部30が形成される。溶接用治具1が第1母材M1に取り付けられたとき、開口部30が隅部M3に対向する位置に設けられ、隅部を露出させるように配置される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の母材の表面に第2の母材を溶接する際に用いられ、前記第1の母材及び前記第2の母材の隅部を溶接する溶接装置を補助するための溶接用治具であって、
前記第1の母材の表面に載置され、前記第1の母材に沿って延びている第1延出部材と、
前記第1延出部材に連結され、前記第2の母材の表面に支持され、前記第2の母材に沿って延びている第2延出部材と、
前記第1延出部材に設けられ、前記第1の母材に前記溶接用治具を取り付けるための取り付け部材と、を備え、
前記第1延出部材及び前記第2延出部材の連結部分には、前記第1延出部材及び前記第2延出部材の延出方向に沿って開口部が形成され、
前記溶接用治具が前記第1の母材に取り付けられたとき、前記開口部が前記隅部に対向する位置に設けられ、前記隅部を露出させるように配置されることを特徴とする溶接用治具。
【請求項2】
前記溶接用治具は、前記第1の母材に前記第2の母材を隅肉溶接する際に用いられ、前記第1の母材に沿って走行しながら前記隅部を溶接する前記溶接装置を補助し、
前記第1延出部材が、前記溶接装置を走行させるための走行面を形成することを特徴とする請求項1に記載の溶接用治具。
【請求項3】
前記第1延出部材は、前記第1の母材に沿って長尺に延びており、
前記第2延出部材は、前記第1延出部材の幅方向の端部から、前記第1延出部材の長さ方向及び幅方向とは直交する方向に突出し、前記第1延出部材の延出方向に沿って長尺に延びており、
前記開口部は、前記第1延出部材及び前記第2延出部材の延出方向に沿って長尺に延びていることを特徴とする請求項2に記載の溶接用治具。
【請求項4】
前記取り付け部材は、
前記第1延出部材の厚さ方向において前記第2延出部材側とは反対側に設けられ、前記第1延出部材とは間隔を空けて前記第1延出部材の延出方向に沿って延びており、前記第1の母材を支持する支持部材と、
前記第1延出部材及び前記支持部材それぞれの延出方向の両端部分を連結する一対の連結部材と、を有し、
前記取り付け部材は、前記第1延出部材及び前記支持部材の間に前記第1の母材を挟み込むことで、前記第1の母材に前記溶接用治具を取り付けることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の溶接用治具。
【請求項5】
前記第1延出部材の延出方向の端部分に設けられ、前記第1延出部材の表面に着脱可能に取り付けられるストッパ部材をさらに備え、
前記ストッパ部材は、前記第1延出部材の延出方向において前記開口部よりも外側位置に取り付けられ、
前記溶接装置が前記隅部を溶接しながら前記第1延出部材に沿って走行するときに、前記ストッパ部材が前記溶接装置の走行を規制することを特徴とする請求項2又は3に記載の溶接用治具。
【請求項6】
第1の母材及び第2の母材の隅部を溶接する溶接装置を補助する溶接用治具を用いた溶接方法であって、
前記第1の母材に、第1延出部材と第2延出部材と取り付け部材とを有する前記溶接用治具を取り付ける治具取り付け工程と、
前記溶接用治具の表面に前記溶接装置を設置する装置設置工程と、
前記溶接装置によって前記第1の母材及び前記第2の母材の前記隅部に溶接を行う溶接工程と、を含み、
前記治具取り付け工程では、
前記第1の母材の表面に、前記第1の母材に沿って延びる前記第1延出部材を載置し、
前記第2の母材の表面に、前記第2の母材に沿って延びる前記第2延出部材を支持させ、
前記取り付け部材によって前記第1の母材又は前記第2の母材に前記溶接用治具を固定させ、前記第1延出部材及び前記第2延出部材の間に設けられた開口部によって前記隅部全体を露出させることを特徴とする溶接用治具を用いた溶接方法。
【請求項7】
前記装置設置工程では、前記溶接装置の走行ローラを前記第1延出部材の表面に当接させ、前記溶接装置のガイドローラを前記第2延出部材の表面に当接させ、
前記溶接工程では、前記溶接装置を前記第1延出部材に沿って走行させて、前記溶接装置によって、前記開口部から露出させた前記隅部に溶接を行うことを特徴とする請求項6に記載の溶接用治具を用いた溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接用治具及び溶接用治具を用いた溶接方法に係り、特に、第1の母材の表面に第2の母材を溶接する際に用いられる溶接用治具及び溶接用治具を用いた溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、土木、建築分野等において第1の母材の表面に第2の母材を溶接(隅肉溶接)することが行われている。当該溶接作業は比較的作業負荷の大きい重筋作業であることから、例えば大型ブレースシート等の溶接作業を行う場合には、溶接装置(溶接ロボット)を用いることで半自動化が進められている。
また、溶接装置による溶接作業を好適に行うための補助治具が提案されている(例えば、特許文献1参照。)
【0003】
特許文献1に記載の溶接治具は、隅肉溶接を行う溶接装置を補助するための治具であって、第1の母材の表面に着脱可能に取り付けられ、溶接装置の溶接トーチをガイドさせるものである。
上記溶接治具を用いることで、溶接装置の溶接トーチの手振れを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-26617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、溶接装置を用いて溶接作業(隅肉溶接作業)を行うにあたっては、より好適に作業を行うことが求められていた。
例えば、溶接装置を用いて母材同士の隅部を溶接する場合には、溶接装置によって隅部の長手方向の両端部分が良好に溶接できない場合があり、作業者が別途溶接作業を行う必要があった。
また、長尺な母材同士の隅部を溶接する場合には、溶接装置を走行させながら順次隅部を溶接する必要があるところ、当該隅部の両端部分を良好に溶接できない場合や、溶接装置を安定して走行させることができない場合があった。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、溶接装置を用いて従来よりも好適に溶接作業(隅肉溶接作業)を行うことが可能な溶接用治具及び溶接用治具を用いた溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は、本発明の溶接用治具によれば、第1の母材の表面に第2の母材を溶接する際に用いられ、前記第1の母材及び前記第2の母材の隅部を溶接する溶接装置を補助するための溶接用治具であって、前記第1の母材の表面に載置され、前記第1の母材に沿って延びている第1延出部材と、前記第1延出部材に連結され、前記第2の母材の表面に支持され、前記第2の母材に沿って延びている第2延出部材と、前記第1延出部材に設けられ、前記第1の母材に前記溶接用治具を取り付けるための取り付け部材と、を備え、前記第1延出部材及び前記第2延出部材の連結部分には、前記第1延出部材及び前記第2延出部材の延出方向に沿って開口部が形成され、前記溶接用治具が前記第1の母材に取り付けられたとき、前記開口部が前記隅部に対向する位置に設けられ、前記隅部を露出させるように配置されること、により解決される。
上記構成により、溶接装置を用いて従来よりも好適に溶接作業を行うことが可能な溶接用治具を実現することができる。
詳しく述べると、上記溶接用治具は、第1の母材に沿って延びる第1延出部材と、第2の母材に沿って延びる第2延出部材と、これら延出部材の連結部分に形成され、これら延出部材に沿って延びる開口部と、を備えている。そのため、溶接装置が、開口部から露出させた隅部を目掛けて好適に溶接することができる。また、隅部よりも開口部を大きく形成することで、隅部の両端部分を好適に溶接することが可能となる。
また、溶接用治具は、第1の母材に取り付け部材によって取り付けられる。そのため、溶接用治具を安定して固定することができる。そうすることで、例えば溶接用治具の第1延出部材の平面に沿って溶接装置を好適に走行させることが可能となる。
【0008】
このとき、前記溶接用治具は、前記第1の母材に前記第2の母材を隅肉溶接する際に用いられ、前記隅部を溶接しながら前記第1の母材に沿って走行する前記溶接装置を補助し、前記第1延出部材が、前記溶接装置を走行させるための走行面を形成すると良い。
上記構成により、第1延出部材の走行面に沿って溶接装置を走行させて、溶接装置によって開口部から露出させた隅部を良好に溶接できる。特に、上記構成であれば、長尺な母材同士を隅肉溶接する場合であっても、溶接装置を良好に動作させることができる。
【0009】
このとき、前記第1延出部材は、前記第1の母材に沿って長尺に延びており、前記第2延出部材は、前記第1延出部材の幅方向の端部から、前記第1延出部材の長さ方向及び幅方向とは直交する方向に突出し、前記第1延出部材の延出方向に沿って長尺に延びており、前記開口部は、前記第1延出部材及び前記第2延出部材の延出方向に沿って長尺に延びていると良い。
上記構成により、長尺な母材同士を隅肉溶接する場合であっても、溶接装置を走行させて、溶接装置によって開口部から露出させた隅部を効率良く溶接できる。
特に、開口部が、第1延出部材及び第2延出部材の延出方向に沿って長尺に延びているため、当該開口部を利用して隅部を全体的に溶接することが可能となる。
【0010】
このとき、前記取り付け部材は、前記第1延出部材の厚さ方向において前記第2延出部材側とは反対側に設けられ、前記第1延出部材とは間隔を空けて前記第1延出部材の延出方向に沿って延びており、前記第1の母材を支持する支持部材と、前記第1延出部材及び前記支持部材それぞれの延出方向の両端部分を連結する一対の連結部材と、を有し、前記取り付け部材は、前記第1延出部材及び前記支持部材の間に前記第1の母材を挟み込むことで、前記第1の母材に前記溶接用治具を取り付けると良い。
上記構成により、第1の母材に溶接用治具をより安定して固定することができる。また、第1延出部材と、第2延出部材と、第3延出部材とを一体化させることで、第1の母材に対し溶接用治具を容易に取り付け、取り外しできる。
【0011】
このとき、前記第1延出部材の延出方向の端部分に設けられ、前記第1延出部材の表面に着脱可能に取り付けられるストッパ部材をさらに備え、前記ストッパ部材は、前記第1延出部材の延出方向において前記開口部よりも外側位置に取り付けられ、前記溶接装置が前記隅部を溶接しながら前記第1延出部材に沿って走行するときに、前記ストッパ部材が前記溶接装置の走行を規制すると良い。
上記のようにストッパ部材を備えることで、溶接装置が第1延出部材の表面に沿って走行しながら隅部(隅部の始端から終端まで)を溶接し、当該溶接を終えた後にはストッパ部材が溶接装置を停止させることができる。また、溶接装置の走行範囲を規定することができ、溶接装置が意図せず落下してしまうことも防止できる。
【0012】
また前記課題は、本発明の溶接用治具を用いた溶接方法によれば、第1の母材及び第2の母材の隅部を溶接する溶接装置を補助する溶接用治具を用いた溶接方法であって、前記第1の母材に、第1延出部材と第2延出部材と取り付け部材とを有する前記溶接用治具を取り付ける治具取り付け工程と、前記溶接用治具の表面に前記溶接装置を設置する装置設置工程と、前記溶接装置によって前記第1の母材及び前記第2の母材の前記隅部に溶接を行う溶接工程と、を含み、前記治具取り付け工程では、前記第1の母材の表面に、前記第1の母材に沿って延びる前記第1延出部材を載置し、前記第2の母材の表面に、前記第2の母材に沿って延びる前記第2延出部材を支持させ、前記取り付け部材によって前記第1の母材又は前記第2の母材に前記溶接用治具を固定させ、前記第1延出部材及び前記第2延出部材の間に設けられた開口部によって前記隅部全体を露出させること、により解決される。
上記のように、治具取り付け工程では、開口部によって隅部全体を露出させるように溶接用治具を取り付けることで、溶接装置が隅部の始端部から終端部まで溶接することができる。
【0013】
このとき、前記装置設置工程では、前記溶接装置の走行ローラを前記第1延出部材の表面に当接させ、前記溶接装置のガイドローラを前記第2延出部材の表面に当接させ、前記溶接工程では、前記溶接装置を前記第1延出部材に沿って走行させて、前記溶接装置によって、前記開口部から露出させた前記隅部に溶接を行うと良い。
上記のように、装置設置工程では、溶接装置の走行ローラを第1延出部材の表面に当接させ、溶接装置のガイドローラを第2延出部材の表面に当接させることで、溶接装置を安定して走行させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の溶接用治具及び溶接用治具を用いた溶接方法によれば、溶接装置を用いて従来よりも好適に溶接作業(隅肉溶接作業)を行うことが可能となる。
また、長尺な母材同士を隅肉溶接する場合であっても、溶接装置を走行させて、溶接装置によって開口部から露出させた隅部を効率良く溶接することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態の溶接用治具、溶接装置、第1母材、第2母材の斜視図である。
図2】仮溶接された第1母材及び第2母材に、溶接用治具を固定する様子を示した図である。
図3】溶接用治具に溶接装置を設置する様子を示した図である。
図4】溶接用治具を用いて溶接装置が溶接する様子を示した図である
図5】溶接用治具の斜視図である。
図6】別の角度から見た溶接用治具の斜視図である。
図7】溶接用治具を用いた溶接方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態について図1図7を参照して説明する。
本実施形態は、母材同士を溶接(隅肉溶接)する際に用いられ、溶接装置を走行させて隅部(コーナー部)を効率良く溶接させることを可能とする「溶接用治具」に関するものである。
また、「溶接用治具を用いた溶接方法」に関するものである。
【0017】
本実施形態の溶接用治具1は、図1図4に示すように、第1母材M1の表面に第2母材M2を溶接する際に用いられ、第1母材M1及び第2母材M2の隅部M3を溶接する溶接装置Eを補助するための治具である。
具体的には、溶接用治具1は、第1母材M1に沿って走行しながら隅部M3を溶接する溶接装置Eを補助する治具である。
以下、母材M1、M2、溶接装置Eについて先に説明する。
【0018】
母材M1、M2は、図1図4に示すように、溶接対象(具体的には隅肉溶接対象)となる部材であって、本実施形態では、第1母材M1に対し第2母材M2を垂直に配置して隅部M3の溶接接合を行う(T継ぎ手で溶接を行う)。なお、第1母材M1に対し第2母材M2を仮付け溶接(点溶接)した状態で溶接作業を行う。
なお、溶接用治具1は、隅肉溶接以外の溶接作業にも適宜用いることが可能である。
【0019】
第1母材M1に第2母材M2を溶接する一例としては、ブレースシート(第1母材)にリブ等(第2母材)を溶接する場合や、梁(第1母材)にガセットプレートやスチフナ等(第2母材)を溶接する場合が想定される。なお、溶接対象となる母材について特に限定されるものではない。
【0020】
溶接装置Eは、図3図4に示すように、隅肉溶接装置とも称される溶接ロボットであって、具体的には駆動式の溶接走行台車である。
溶接装置Eは、吸引用電磁石を内蔵した装置本体E1と、溶接(アーク溶接)するための溶接トーチE2と、装置本体E1を走行させる走行ローラE3と、装置本体E1の走行をサポートするガイドローラE4と、操作部E5と、装置本体E1を停止させる停止スイッチE6と、を備えている。
【0021】
装置本体E1は、吸引用電磁石を利用して溶接用治具1(第1延出部材10)の表面に着脱可能に設置される。
溶接トーチE2は、装置本体E1に取り付けられ、不図示の溶接電源と接続されている。溶接トーチE2のノズルは、装置本体E1から溶接対象部位に向かって延びており、溶接装置Eは、ユーザ操作に基づいて溶接対象部位をアーク溶接することができる。
【0022】
走行ローラE3は、装置本体E1の下端部に取り付けられ、溶接用治具1(第1延出部材10)の表面に沿って装置本体E1を水平走行させるものである。
ガイドローラE4は、装置本体E1の前方部に取り付けられ、溶接用治具1(第2延出部材20)の表面に当接し、装置本体E1の走行をガイドするものである。
操作部E5は、装置本体E1の上部に取り付けられ、停止スイッチE6は、装置本体E1の左側方部及び右側方部に取り付けられている。
溶接装置Eは、主として左右方向に水平走行する。そして、停止スイッチE6が押されると、溶接装置Eは水平走行を自動停止する。
【0023】
溶接用治具1は、図1図6に示すように、第1母材M1の表面に載置される長尺な第1延出部材10と、第1延出部材10に連結され、第2母材M2の表面に支持される長尺な第2延出部材20と、第1延出部材10に設けられ、第1母材M1に溶接用治具1を取り付けるための取り付け部材40と、第1延出部材10の長尺方向の両端部分にそれぞれ設けられるストッパ部材50と、を備えている。
第1延出部材10及び第2延出部材20の連結部分には、第1延出部材10及び第2延出部材20の長尺方向に沿って開口部30(開口穴)が形成されている。
【0024】
第1延出部材10は、例えば長尺な鋼板であって、第1母材M1の表面に載置され、第1母材M1に沿って長尺に延びている。
第1延出部材10は、第1母材M1よりも長くなるように形成され、第1延出部材10の長尺方向の両端部が、それぞれ第1母材M1の長尺方向の両端部よりも外側に位置するように構成されている。
第1延出部材10の表面は、溶接装置E(走行ローラE3)を走行させるための走行面を形成している。
【0025】
第2延出部材20は、例えば長尺な鋼板であって、第1延出部材10の幅方向の端部から、第1延出部材10の長さ方向及び幅方向とは直交する方向(上方向)に突出し、第1延出部材10の長さ方向に沿って長尺に延びている。
第2延出部材20は、第1延出部材10と一体(一体的)になっており、第1延出部材10と第2延出部材20とで断面略L字形状の部材を形成している。具体的には、一枚の長尺な鋼板を折り曲げることで第1延出部材10及び第2延出部材20が形成される。
第2延出部材20は、第2母材M2よりも長くなるように形成され、第2延出部材20の長尺方向の両端部が、それぞれ第2母材M2の長尺方向の両端部よりも外側に位置するように構成されている。
第2延出部材20の表面は、溶接装置EのガイドローラE4を走行させるためのガイド走行面を形成している。
【0026】
第1延出部材10、第2延出部材20は、薄板(例えば5mm以下の鋼板)であると好ましい。そうすることで、例えば厚板を採用する場合と比較して、第1母材M1及び第2母材M2の隅部M3(溶接対象位置)と、溶接トーチE2との距離を短くし、隅部M3に溶接トーチE2をより近づけることができる。その結果、溶接装置E(溶接トーチE2)の位置及び角度を調製し易くなる。また、溶接の仕上がりをより良好にできる。
【0027】
開口部30は、溶接用治具1が第1母材M1及び第2母材M2に取り付けられたときに、溶接対象となる隅部M3を露出させるための開口穴(開口スリット)である。
つまりは、開口部30は、隅部M3に対向する位置に設けられ、隅部M3を露出させるように配置される。
開口部30は、第1延出部材10及び第2延出部材20の長さ方向に沿って長尺に延びている。具体的には、開口部30は、隅部M3よりも長くなるように形成され、開口部30の長尺方向の両端部が、それぞれ隅部M3の長尺方向の両端部よりも外側に位置するように構成されている。
【0028】
開口部30は、第1延出部材10の端部(連結端部)と、第2延出部材20の端部(連結端部)とに亘って(跨って)形成されており、溶接用治具1の側面視において略L字形状の開口穴となっている。
開口部30は、第1延出部材10、第2延出部材20それぞれの長さ方向の中央部分に形成され、それぞれの両端部には達しない位置まで延びている。
言い換えれば、開口部30は、図3図4に示すように、第1延出部材10の表面に取り付けられる一対のストッパ部材50よりも内側(中央側)に配置されている。また、開口部30は、取り付け部材40の一対の連結部材42、43よりも内側(中央側)に配置されている。
そうすることで、長尺な開口部30を利用して、溶接装置Eが隅部M3全体を好適に溶接することができる。また、溶接用治具1の剛性を極力確保し、溶接用治具1(第1延出部材10、第2延出部材20)の表面に沿って溶接装置Eを安定して走行させることができる。
【0029】
取り付け部材40は、図2図3図5図6に示すように、第1母材M1に溶接用治具1を着脱可能に取り付ける部材であって、第1母材M1を挟み込むことで第1母材M1に溶接用治具1を固定するものである。
具体的には、取り付け部材40は、第1延出部材10の厚さ方向において第2延出部材20側とは反対側に設けられ、第1延出部材10とは間隔を空けて配置され、第1母材M1を支持する支持部材41と、第1延出部材10及び支持部材41それぞれの延出方向の両端部分を連結する一対の連結部材42、43と、を有している。
【0030】
支持部材41は、例えば長尺な鋼板であって、第1延出部材10に対向し、第1延出部材10の長さ方向に沿って長尺に延びている。
一対の第1連結部材42は、第1延出部材10の裏面に連結され、第1延出部材10から支持部材41側に向かって突出している。
一対の第2連結部材43は、支持部材41の表面に連結され、支持部材41から第1延出部材10に向かって突出している。
第1連結部材42と第2連結部材43が合わさった状態で連結ボルト44が固定されることで、第1延出部材10に取り付け部材40が一体的に取り付けられる。
【0031】
図6に示すように、支持部材41の裏面には、支持部材41の長さ方向に間隔を空けて複数の固定ボルト45が取り付けられてる。
固定ボルト45を利用することで、第1延出部材10及び支持部材41の間に挟み込まれた第1母材M1を締め付けることができ、第1母材M1に溶接用治具1を強固に組み付けることができる。
なお、第1母材M1の厚さが比較的薄い場合には、第1延出部材10及び支持部材41の間に支持板を挟ませることで、第1母材M1を簡易に挟み込むことができる。
【0032】
ストッパ部材50は、図3図4に示すように、箱形状のストッパであって、第1延出部材10の長さ方向の両端部分にそれぞれ設けられ、第1延出部材10の表面に着脱可能に取り付けられている。
ストッパ部材50は、溶接装置Eが隅部M3を溶接しながら第1延出部材10に沿って走行するときに、所定位置で溶接装置Eの走行を規制するものである。
具体的には、ストッパ部材50は、吸引用電磁石を内蔵したストッパ本体51と、作業者が把持することが可能な把持部52と、電磁石の磁性をオン/オフするための操作部53と、を有している。
なお、ストッパ部材50は、第1延出部材10の一端部のみに取り付けられても良い。
【0033】
ストッパ部材50は、第1延出部材10の長さ方向において開口部30よりも外側位置に取り付けられている。
そうすることで、溶接装置Eが第1延出部材10の一端部から他端部まで走行しながら隅部(隅部の始端から終端まで)を溶接することができ、当該溶接を終えた後には溶接装置Eを上記他端部で停止させることができる。すなわち、溶接装置Eの走行範囲を規定することができ、溶接装置Eが意図せず落下することを防止できる。
【0034】
上記溶接用治具1であれば、長尺な母材同士を隅肉溶接する場合であっても、溶接装置Eを走行させて、開口部30から露出させた隅部を効率良く溶接することができる。
【0035】
<溶接用治具を用いた溶接方法>
次に、溶接用治具1を用いた溶接方法について図2図4図7に基づいて説明する。具体的には、第1母材M1及び第2母材M2に溶接用治具1を固定させ、溶接用治具1(第1延出部材10)に沿って溶接装置Eを走行させながら、隅部M3を溶接する溶接方法について説明する。
当該溶接方法は、「治具取り付け工程」と、「装置設置工程」と、「溶接工程」と、「取り外し工程」と、を少なくとも含むものである。
なお、溶接作業にあたって、上記以外の作業工程については説明を省略する。
【0036】
「治具取り付け工程」では、図2に示すように、作業者が、第1母材M1及び第2母材M2に対し溶接用治具1を取り付ける(ステップ1(S1))。
具体的には、作業者は、第1母材M1に対し第1母材M1の側方から溶接用治具1を取り付ける。このとき、第1母材M1を第1延出部材10、支持部材41及び左右の連結部材42、43によって挟み込む。挟み込んだ後に、固定ボルト45を締め付けて第1母材M1に固定ボルト45を押し当てる。
第1母材M1に溶接用治具1を組み付けたときには、第1延出部材10が第1母材M1に当接し、第2延出部材20が第2母材M2に当接する。また、開口部30が隅部M3に対向し、隅部M3を露出させるように配置される。
【0037】
「装置設置工程」では、図3に示すように、作業者が、溶接用治具1の表面に溶接装置Eを設置する(ステップ2)。
具体的には、作業者は、溶接装置Eの走行ローラE3を第1延出部材10の表面に当接させ、ガイドローラE4を第2延出部材20の表面に当接させる。装置本体E1に内蔵された吸引用電磁石の磁性をオンにすることで、溶接装置Eは第1延出部材の表面に吸着する。
【0038】
「溶接工程」では、図4に示すように、作業者が、溶接装置Eによって第1母材M1及び第2母材M2の隅部M3に溶接を行う(ステップ3)。
具体的には、作業者は、溶接装置Eを第1延出部材10に沿って走行させて、溶接装置Eによって、開口部30から露出した隅部M3に溶接を行う。
溶接装置Eは、隅部M3の始端部から終端部まで走行しながら溶接を行う。詳しく述べると、溶接装置Eは、第1延出部材10の一端部に設置され、第1延出部材の他端部に設けられたストッパ部材50の位置まで走行する。溶接装置E(停止スイッチE6)がストッパ部材50に当接すると、溶接装置Eは走行を停止する。
【0039】
「取り外し工程」では、作業者が、まず溶接用治具1から溶接装置Eを取り外し、その後、第1母材M1及び第2母材M2から溶接用治具1を取り外す(ステップ4)。
上記ステップ1~ステップ4を経て本溶接工程を終了する。
【0040】
<その他の実施形態>
上記実施形態では、図1に示すように、溶接用治具1が、長尺な第1延出部材10、第2延出部材20、取り付け部材40を備えているが、特に限定されず変更可能である。
例えば、溶接用治具1が、その長さ方向に伸縮可能(減張可能)な構成としても良い。つまりは、溶接用治具1が、水平方向にスライドさせて縮小させた「収容状態」と、伸長させた「展開状態」とに切り替え可能な構成としても良い。
または、溶接用治具1が一体物でなくても良く、分割可能な構成としても良い。溶接用治具1が分割可能な場合には、第1母材M1の長さ方向に着脱可能なものであると良い。
または、溶接用治具1が、複数の構成部品から構成されても良い。具体的には、第1母材M1及び第2母材M2の一端部に支持される「第1治具(1A)」と、第1母材M1及び第2母材M2の他端部に支持される「第2治具(1B)」と、第1治具、第2治具をそれぞれ固定させる「取り付け部材40」とを備えていると良い。第1治具、第2治具それぞれの「第1延出部材10」及び「第2延出部材20」の連結部分には、隅部M3の一部を露出させる「開口部30」が切り欠き形成されていると良い。
【0041】
上記実施形態では、図2図3に示すように、取り付け部材40が、支持部材41と、連結部材42、43と、連結ボルト44と、固定ボルト45とを有し、第1母材M1を挟み込む構成としているが、特に限定されず変更可能である。
例えば、取り付け部材40が、単にクランプ部材(ワンタッチで着脱可能なクランプ部材)等のようなものであっても良い。
なお、取り付け部材40は、第1母材M1、第2母材M2を挟み込む構成としても良い。そうすることで、第1母材M1及び第2母材M2に対し溶接用治具1をより強固に組み付けることができる。あるいは、取り付け部材40は、第1母材M1の代わりに、第2母材M2を挟み込む構成としても良い。
【0042】
上記実施形態では、図4に示すように、溶接用治具1(第1延出部材10)が、溶接装置Eを走行させる走行面を形成しているが、特に限定されず変更可能である。
例えば、溶接装置Eが、第1母材M1の表面を走行するものであっても良いし、第2母材M2の表面を走行するものであっても良い。
なお、一般に第1母材M1、第2母材M2の表面には複数の穴(固定用穴)が形成されているため、第1延出部材10の表面を走行面とすることで、溶接装置Eが平面を安定して走行することができる。
【0043】
上記実施形態では、主として本発明に係る溶接用治具及び溶接用治具を用いた溶接方法に関して説明した。
ただし、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
特に、上記の実施形態にて説明したものは、あくまで一例に過ぎず本発明を限定するものではない。
【符号の説明】
【0044】
1 溶接用治具
10 第1延出部材(鋼板)
20 第2延出部材(鋼板)
30 開口部(開口穴、開口スリット)
40 取り付け部材
41 支持部材(支持板)
42 第1連結部材(連結板)
43 第2連結部材(連結板)
44 連結ボルト
45 固定ボルト
50 ストッパ部材
51 ストッパ本体
52 把持部
53 操作部
E 溶接装置
E1 装置本体
E2 溶接トーチ
E3 走行ローラ
E4 ガイドローラ
E5 操作部
E6 停止スイッチ
M1 第1母材(第1の母材)
M2 第2母材(第2の母材)
M3 隅部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7