(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175528
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】誘電体磁器組成物および積層セラミック電子部品
(51)【国際特許分類】
C04B 35/468 20060101AFI20241211BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
C04B35/468 200
H01G4/30 512
H01G4/30 515
H01G4/30 201K
H01G4/30 201L
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093377
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】三澤 一輝
(72)【発明者】
【氏名】波多野 桂一
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AE02
5E001AE03
5E001AE04
5E082AA01
5E082AB03
5E082BC35
5E082EE04
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082GG10
5E082PP03
5E082PP09
(57)【要約】
【課題】 焼成温度による静電容量の変化を抑制し、かつ広い焼成雰囲気で絶縁性が高い誘電体磁器組成物および積層セラミック電子部品を提供する。
【解決手段】 誘電体磁器組成物は、一般式ABO
3で表されるペロブスカイト構造を有し、コア部と、前記コア部を覆い、希土類元素およびマンガンを含むシェル部と、を有する第1結晶粒子と、チタン酸バリウムカルシウムを主成分とし、チタンに対するバリウムとカルシウム合計の元素比率が0.70以下である第2結晶粒子と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有し、コア部と、前記コア部を覆い、希土類元素およびマンガンを含むシェル部と、を有する第1結晶粒子と、
チタン酸バリウムカルシウムを主成分とし、チタンに対するバリウムとカルシウム合計の元素比率が0.70以下である第2結晶粒子と、を有する誘電体磁器組成物。
【請求項2】
前記希土類元素は、ガドリニウムである、請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
チタンに対するバリウムとカルシウム合計の元素比率が0.926以上0.995以下であり、チタンに対するガドリニウムの元素比率が0.005以上0.05以下であり、チタンに対するマンガンの元素比率が0.002以上0.05以下である、請求項2に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項4】
チタンに対して元素比率が0.002以上0.05以下のケイ素と、チタンに対して元素比率が0.00以上0.05以下のマグネシウムと、をさらに有する請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項5】
前記シェル部における希土類元素の元素濃度は、前記コア部における希土類元素の元素濃度より大きく、
前記シェル部におけるマンガンの元素濃度は、前記コア部におけるマンガンの元素濃度より大きい、請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項6】
前記第1結晶粒子の最大粒径は、2μm以下である、請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項7】
前記第2結晶粒子において、チタンに対するバリウムとカルシウム合計の元素比率が0.16以上である、請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項8】
前記第2結晶粒子は、BaTi4O9、BaTi5O11、BaTi6O13、Ba4Ti11O26、Ba4Ti12O27、Ba4Ti13O30、またはBa6Ti17O40から選ばれる少なくとも1つである、請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項9】
前記第2結晶粒子は、マンガンを含み、
前記第2結晶粒子において、チタンに対するマンガンの元素比率は、0.02以上0.10以下である、請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項10】
前記第2結晶粒子は、マンガンを含み、
前記第2結晶粒子において、チタンに対するマンガンの元素比率は、0.02以上0.05以下である、請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項11】
一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有し、コア部と、前記コア部を覆い、希土類元素およびマンガンを含むシェル部と、を有する第1結晶粒子と、
チタンよりもバリウムとカルシウム合計の元素比率が低いチタン酸バリウム複合酸化物であって、マンガンを含み、チタンに対するマンガンの元素比率が0.02以上0.10以下である第2結晶粒子と、を有する誘電体磁器組成物。
【請求項12】
前記チタン酸バリウム複合酸化物は、BaTi4O9、BaTi5O11、BaTi6O13、Ba4Ti11O26、Ba4Ti12O27、Ba4Ti13O30、またはBa6Ti17O40から選ばれる少なくとも1つである、請求項11に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項13】
前記希土類元素は、ガドリニウムである、請求項11に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項14】
チタンに対するバリウムとカルシウム合計の元素比率が0.926以上0.995以下であり、チタンに対するガドリニウムの元素比率が0.005以上0.05以下であり、チタンに対するマンガンの元素比率が0.002以上0.05以下である、請求項13に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項15】
チタンに対して元素比率が0.002以上0.05以下のシリコンと、チタンに対して元素比率が0.00以上0.05以下のマグネシウムと、をさらに有する、請求項11に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項16】
前記シェル部における希土類元素の元素濃度は、前記コア部における希土類元素の元素濃度より大きく、
前記シェル部におけるマンガンの元素濃度は、前記コア部におけるマンガンの元素濃度より大きい、請求項11に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項17】
前記第1結晶粒子の最大粒径は、2μm以下である、請求項11に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項18】
前記第2結晶粒子において、チタンに対するマンガンの元素比率は、0.02以上0.05以下である、請求項11に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項19】
請求項1に記載の誘電体磁器組成物を用いる、積層セラミック電子部品。
【請求項20】
互いに対向する複数の内部電極と、
前記複数の内部電極に挟まれて設けられ、請求項1に記載の誘電体磁器組成物を含む誘電体層と、
前記内部電極に電気的に接続される外部電極と、を備える、請求項19に記載の積層セラミック電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体磁器組成物および積層セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話を代表とする高周波通信用システムなどにおいて、積層セラミックコンデンサ(MLCC:Multi-Layer ceramic capacitor)などの積層セラミック電子部品が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-131669号公報
【特許文献2】特開2016-153359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、車載電子制御装置などの、人の生命に関わる電子回路においても、積層セラミック電子部品の使用用途が拡大しており、高い信頼性が求められると同時に供給量の観点からより高い量産性を求められている。
【0005】
積層セラミック電子部品の誘電体層に用いられる誘電体磁器組成物には、チタン酸バリウム、チタン酸バリウムにカルシウムを固溶したチタン酸バリウムカルシウムなどをコア部とし、各種添加物が固溶したシェル部がコア部を囲むコア-シェル構造の焼結体が利用されている。この構造を取ることで、125℃付近に存在するチタン酸バリウムの強誘電体相から常誘電体相へ変化するキュリー温度近傍における大きな静電容量の発現を、シェル部では各種添加物の効果により低温に遷移させることが可能である。したがって、室温付近の実用となる温度領域において、静電容量をより高める設計が可能となっている。
【0006】
コア-シェル構造は、チタン酸バリウム、チタン酸バリウムカルシウムなどに対して各種添加物を固溶させることで生成されると考えられている。コア-シェル構造は、例えば、1000℃から1400℃における焼成温度域で、主成分のチタン酸バリウム粒子に各種添加物として加えた成分が反応していくことで生成されると考えられている。一般的に、焼成温度が高くなるにしたがって、各種添加物が固溶し、シェル部が厚くなっていく。したがって、積層セラミック電子部品の静電容量を、求められた範囲に収めるためには、焼成温度を精密に制御する必要がある。
【0007】
また、内部電極として安価な卑金属であるNi、Cu、Sn等の卑金属を主成分として用いる場合、内部電極の酸化を抑制するために還元雰囲気で焼成する必要がある。このとき、チタン酸バリウム、チタン酸バリウムカルシウムなどの粒子に大量の酸素欠陥が生じると絶縁性が著しく低下する。したがって、高い信頼性でかつ安価な積層セラミック電子部品を製造する場合、誘電体磁器組成物には対還元性が求められる。
【0008】
コア-シェル構造を伴わないチタン酸バリウムの応用例として、チタン酸バリウム複合酸化物として、Ba4Ti12O27ないし、Ba6Ti17O40を少なくとも1つ含有し、さらにチタン酸バリウムに対して金属換算で0.04質量%以上0.20質量%以下のマンガンを含有している圧電セラミックスが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
また、(Ba1-xCax)a(Ti1-yZry)O3(式中、0.09≦x≦0.30、0.025≦y≦0.085、0.986≦a≦1.020である。)で表される金属酸化物と、該金属酸化物100重量部に対して、金属換算で0.04重量部以上0.36重量部以下のマンガンとを含有し、チタン酸バリウム複合酸化物として、BaTi2O5、BaTi4O9、BaTi5O11、BaTi6O13、BaTi7O14、BaTi8O16、Ba2Ti5O12、Ba2Ti6O13、Ba2Ti9O20、Ba4Ti11O26、Ba4Ti13O30、CaTi2O4、CaTi2O5、CaTi4O9、Ca2Ti5O12、CaZr4O9、Ca2Zr7O16、Ca6Zr19O44、CaZrTi2O7、およびCa2Zr5Ti2O16、から選ばれる少なくとも一つの金属酸化物を含有する圧電セラミックスが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0010】
特許文献1および特許文献2に開示されている圧電セラミックスを積層セラミック電子部品の誘電体層に用いられている誘電体磁器組成物に応用しようとしたところ、特許文献1および特許文献2に開示されているとおりに、結晶粒子の最大粒子径が2μm以上となることが確認され、誘電体層が10um以下となるような積層セラミック電子部品においては、結晶粒界数が少なくなって絶縁性が著しく劣化してしまう課題が生じた。また、該圧電セラミックスの焼成時の昇温速度は高々10℃/minであり、積層セラミック電子部品に求められる高い量産性が得られなかった。
【0011】
近年、誘電体磁器組成物および積層セラミック電子部品の使用用途が拡大していることから、より高い量産性が求められている。高い量産性を得るために、より短時間での焼成、焼成雰囲気の変動に対する静電容量の安定性を求められている。そのために、焼成温度、焼成時の酸素分圧による静電容量の変化を抑制し、温度による静電容量の振れを低減する必要がある。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、焼成温度による静電容量の変化を抑制し、かつ広い焼成雰囲気で絶縁性が高い誘電体磁器組成物および積層セラミック電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る誘電体磁器組成物は、一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有し、コア部と、前記コア部を覆い、希土類元素およびマンガンを含むシェル部と、を有する第1結晶粒子と、チタン酸バリウムカルシウムを主成分とし、チタンに対するバリウムとカルシウム合計の元素比率が0.70以下である第2結晶粒子と、を有する。
【0014】
上記誘電体磁器組成物において、前記希土類元素は、ガドリニウムであってもよい。
【0015】
上記誘電体磁器組成物において、チタンに対するバリウムとカルシウム合計の元素比率が0.926以上0.995以下であり、チタンに対するガドリニウムの元素比率が0.005以上0.05以下であり、チタンに対するマンガンの元素比率が0.002以上0.05以下であってもよい。
【0016】
上記誘電体磁器組成物は、チタンに対して元素比率が0.002以上0.05以下のケイ素と、チタンに対して元素比率が0.00以上0.05以下のマグネシウムと、をさらに有してもよい。
【0017】
上記誘電体磁器組成物において、前記シェル部における希土類元素の元素濃度は、前記コア部における希土類元素の元素濃度より大きく、前記シェル部におけるマンガンの元素濃度は、前記コア部におけるマンガンの元素濃度より大きくてもよい。
【0018】
上記誘電体磁器組成物において、前記第1結晶粒子の最大粒径は、2μm以下であってもよい。
【0019】
上記誘電体磁器組成物の前記第2結晶粒子において、チタンに対するバリウムとカルシウム合計の元素比率が0.16以上であってもよい。
【0020】
上記誘電体磁器組成物において、前記第2結晶粒子は、BaTi4O9、BaTi5O11、BaTi6O13、Ba4Ti11O26、Ba4Ti12O27、Ba4Ti13O30、またはBa6Ti17O40から選ばれる少なくとも1つであってもよい。
【0021】
上記誘電体磁器組成物において、前記第2結晶粒子は、マンガンを含み、前記第2結晶粒子において、チタンに対するマンガンの元素比率は、0.02以上0.10以下であってもよい。
【0022】
上記誘電体磁器組成物において、前記第2結晶粒子は、マンガンを含み、前記第2結晶粒子において、チタンに対するマンガンの元素比率は、0.02以上0.05以下であってもよい。
【0023】
本発明にかかる他の誘電体磁器組成物は、一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有し、コア部と、前記コア部を覆い、希土類元素およびマンガンを含むシェル部と、を有する第1結晶粒子と、チタンよりもバリウムとカルシウム合計の元素比率が低いチタン酸バリウム複合酸化物であって、マンガンを含み、チタンに対するマンガンの元素比率が0.02以上0.10以下である第2結晶粒子と、を有する。
【0024】
上記誘電体磁器組成物において、前記チタン酸バリウム複合酸化物は、BaTi4O9、BaTi5O11、BaTi6O13、Ba4Ti11O26、Ba4Ti12O27、Ba4Ti13O30、またはBa6Ti17O40から選ばれる少なくとも1つであってもよい。
【0025】
上記誘電体磁器組成物において、前記希土類元素は、ガドリニウムであってもよい。
【0026】
上記誘電体磁器組成物において、チタンに対するバリウムとカルシウム合計の元素比率が0.926以上0.995以下であり、チタンに対するガドリニウムの元素比率が0.005以上0.05以下であり、チタンに対するマンガンの元素比率が0.002以上0.05以下であってもよい。
【0027】
上記誘電体磁器組成物は、チタンに対して元素比率が0.002以上0.05以下のシリコンと、チタンに対して元素比率が0.00以上0.05以下のマグネシウムと、をさらに有してもよい。
【0028】
上記誘電体磁器組成物において、前記シェル部における希土類元素の元素濃度は、前記コア部における希土類元素の元素濃度より大きく、前記シェル部におけるマンガンの元素濃度は、前記コア部におけるマンガンの元素濃度より大きくてもよい。
【0029】
上記誘電体磁器組成物において、前記第1結晶粒子の最大粒径は、2μm以下であってもよい。
【0030】
上記誘電体磁器組成物の前記第2結晶粒子において、チタンに対するマンガンの元素比率は、0.02以上0.05以下であってもよい。
【0031】
本発明に係る積層セラミック電子部品は、いずれかの上記の誘電体磁器組成物を用いる。
【0032】
上記積層セラミック電子部品は、互いに対向する複数の内部電極と、前記複数の内部電極に挟まれて設けられ、上記に記載の誘電体磁器組成物を含む誘電体層と、前記内部電極に電気的に接続される外部電極と、を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、焼成温度による静電容量の変化を抑制することができる誘電体磁器組成物および積層セラミック電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】第1実施形態に係る誘電体磁器組成物を例示する図である。
【
図3】コア-シェル構造の確認手法を例示する図である。
【
図4】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
【
図7】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
【
図8】(a)および(b)は内部電極形成工程を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0036】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る誘電体磁器組成物は、
図1で例示するように、一般式ABO
3で表されるペロブスカイト構造を有する結晶粒子を含むセラミックス多結晶体である。これらのセラミックス多結晶体のうち、少なくとも1つはコア-シェル構造を持つ第1結晶粒子41であり、少なくとも1つはチタンに対してバリウムとカルシウム合計の元素比率が0.70以下となる第2結晶粒子42である。
【0037】
第1結晶粒子41は、略球形状のコア部411と、コア部411を囲むように覆うシェル部412とを備えている。コア部411は、添加化合物が固溶していないかもしくは添加化合物の固溶量が少ない結晶部分である。シェル部412は、添加化合物が固溶しておりかつコア部411の添加化合物濃度よりも高い添加化合物濃度を有している結晶部分である。本実施形態においては、シェル部412は、希土類元素およびマンガンを含んでいる。希土類元素は、特に限定されるものではないが、ガドリニウムなどである。例えば、シェル部412における希土類元素の元素濃度は、コア部411における希土類元素の元素濃度よりも大きくなっている。例えば、シェル部412におけるマンガンの元素濃度は、コア部411におけるマンガンの元素濃度よりも大きくなっている。
【0038】
本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、第1結晶粒子41および第2結晶粒子42を含むことで、焼成温度による静電容量の変化を抑制し、かつ広い焼成雰囲気で絶縁性を高くすることができる。
【0039】
例えば、誘電体磁器組成物の断面において、第1結晶粒子41および第2結晶粒子42が総数として400個以上確認される視野で観察をしたときに、第1結晶粒子41の面積比率は50%以上99.95%以下であり、第2結晶粒子42の面積比率は0.05%以上50%以下である。
【0040】
なお、誘電体磁器組成物は、第1結晶粒子41および第2結晶粒子42以外に、これらとは組成もしくは結晶構造の異なる第3結晶粒子43、空隙44などを含んでいてもよい。例えば、誘電体磁器組成物の断面において、第1結晶粒子41、第2結晶粒子42、および第3結晶粒子43が総数として400個以上確認される視野で観察をしたときに、第3結晶粒子43の面積比率は0.05%以上20%以下である。
【0041】
第1結晶粒子41の主成分である、ペロブスカイト型構造を有する結晶粒子は、
図2で例示するような単位格子を有する。この単位格子には、格子の頂点に位置するAサイト、格子の面心に位置するOサイト、およびOサイトを頂点とする八面体内に位置するBサイトがそれぞれ存在する。ペロブスカイト構造では、Aサイトにバリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)といった二価の陽イオンを取りうるアルカリ土類金属が配座し、Bサイトにハフニウム(Hf),ジルコニウム(Zr),チタン(Ti)といった四価の陽イオンを取りうる金属原子が配座する。
【0042】
ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れた組成式も許容する。すなわち、Aサイト元素とBサイト元素の比率は必ずしも1対1である必要はなく、ペロブスカイト構造を保持しうる範囲で欠陥が生成していていもよい。また、酸素についても欠陥が生成されていてもよい。例えば、組成式AαBO3-βとしたとき、0.98≦α≦1.01、0≦β≦0.20の範囲の組成を許容し得る。
【0043】
しかしながら、例えば酸素欠陥が生成することによって、抵抗率が低下したり、イオン伝導性を示したりすることにより、積層セラミックコンデンサとして用いる場合の電気的寿命が低下したり、誘電損失が大きくなり、実用上用いることができない場合がある。このため、ペロブスカイト構造を有する第1結晶粒子41に対して、必要に応じて、第1遷移元素であるスカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)の少なくとも1つを含ませていてもよい。これにより、抵抗率を向上させたり、電気的長寿命を高めたり、静電容量に対する誘電損失を低減させることが可能である。
【0044】
また、第1結晶粒子41は、必要に応じて、第2遷移元素であるイットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)の少なくとも1つを含んでいてもよい。これにより、抵抗率を向上させたり、電気的長寿命を高めたり、静電容量に対する誘電損失を低減させることが可能である。
【0045】
また、第1結晶粒子41は、必要に応じて、第3遷移元素であるランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)の少なくとも1つを含んでいてもよい。これにより、抵抗率を向上させたり、電気的長寿命を高めたり、静電容量に対する誘電損失を低減させることが可能である。
【0046】
例えば、誘電体磁器組成物は、チタンの含有量に対するバリウムとカルシウムの合計の元素比率である(Ba+Ca)/Ti元素比率xが、0.926≦x≦0.995となるように、チタン酸バリウムカルシウム100molに対して、酸化チタン(TiO2)換算で0.5mol以上、8.0mol以下のチタンの添加を行うことが好ましい。チタンを含有する添加物を添加していない場合と比較して相対的にチタン酸バリウム結晶粒子への固溶反応が抑制される。この効果により、一例として、高い量産性が求められている積層セラミックコンデンサに応用することで、より短時間での焼成を達成しながらも、焼成温度の変化、焼成時の酸素分圧の変化による静電容量の変化率を抑制し、高い量産性を得ることが可能となる。
【0047】
さらにより好適には、誘電体組成物は、(Ba+Ca)/Ti元素比率xが、0.940≦x≦0.985となるように、チタン酸バリウムカルシウム100molに対して、酸化チタン(TiO2)換算で1.5mol以上、6.4mol以下のチタンの添加を行うことが好ましい。このとき、十分な量の第2結晶粒子42の誘電体磁器組成物への生成が得られ、さらに良好に焼成温度の変化、焼成時の酸素分圧の変化による静電容量の変化幅を抑制することが可能となる。
【0048】
上記のチタンを含有する添加物としては、好適な例としては酸化チタンであるが、水酸化チタン(Ti(OH)4)、塩化チタン(TiCl4)、炭化チタン(TiC)、硫化チタン(TiS2)などを用いることもできる。
【0049】
さらにまた、誘電体磁器組成物は、チタンの含有量に対するガドリニウムの元素比率であるGd/Ti元素比率yが、0.005≦y≦0.05となるように、チタン酸バリウムカルシウム100molに対して、酸化ガドリニウム(Gd2O3)換算で0.25mol以上、2.5mol以下のガドリニウムの添加を行うことが好ましい。
【0050】
酸化ガドリニウムの添加に加えて、チタンの含有量に対するマンガン元素比率であるMn/Ti元素比率zが、0.002≦z≦0.05となるように、チタン酸バリウム100molに対して、酸化マンガン(MnO)換算で0.2mol以上、5.0mol以下の添加を行うことが好ましい。
【0051】
例えば、0.926≦x≦0.995、0.005≦y≦0.05、および0.002≦z≦0.05が成立する場合に、添加したガドリニウムと、マンガンと、チタンとが、チタン酸バリウムカルシウム結晶粒子の表面で反応し、Gd(Ti,Mn)O3と考えられる複合型ペロブスカイト化合物の様態でシェル部として生成することができる。それにより、誘電体磁器組成物は、焼成温度の変化による静電容量の変化幅を抑制するだけでなく、酸素欠陥が粒界およびシェル部の内部を移動することを抑制し、抵抗率の低下を抑制して、電気的寿命を向上させることが可能となる。
【0052】
さらにより好適には、0.005≦y≦0.02および0.005≦z≦0.02を満足するように、ガドリニウム量およびマンガン量を調整することが望ましい。このとき、誘電体磁器組成物において、過剰となったガドリニウムのチタン酸バリウムカルシウムからなる結晶粒子への過度な固溶や、過剰となったマンガンの誘電体磁器組成物の表面への析出などを抑制することが可能になり、より焼成温度の変化、酸素分圧の変化による静電容量の変化幅を抑制し、尚且高い抵抗率を保持することが可能となる。
【0053】
誘電体磁器組成物において、ガドリニウム、マンガン、およびチタンを含有する添加物に加えて、さらにチタンの含有量に対するケイ素の元素比率であるSi/Ti元素比率aが、0.002≦a≦0.05となるように、酸化ケイ素(SiO2)換算で、0.2mol以上、5.0mol以下のケイ素を添加してもよい。チタンの含有量に対するマグネシウムの元素比率であるMg/Ti元素比率bが、0.00≦b≦0.05となるように、酸化マグネシウム(MgO)換算で、0mol以上、5.0mol以下のマグネシウムを添加してもよい。このとき、誘電体磁器組成物は、ケイ素を含有する第1結晶粒子41もしくはガラス粒子となる第2結晶粒子42を生成し、焼成中に内部で液相を生成することで、より低温で緻密なセラミックを得ることが可能となる。また、酸化マグネシウムを添加することで、Gd(Mg,Ti,Mn)O3、もしくは(Gd,Ca,Ba)(Mg,Ti,Mn)O3の様態でシェル部として生成することが可能となり、酸素欠陥が粒界およびシェル部の内部を移動することをさらに抑制し、抵抗率の低下を抑制することが可能となる。
【0054】
さらにより好適には、0.005≦a≦0.02であることが望ましく、0.002≦b≦0.02であることが望ましい。このとき、過剰な添加物が第3結晶粒子43として生成することを抑えることが可能であり、比誘電率の低下を抑制しつつ、低温で緻密化する効果や、抵抗率の低下を抑制することが可能である。
【0055】
第1遷移金属元素、第2遷移金属元素、第3遷移金属元素において、希土類元素となる、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムを添加物として用いることで、誘電体磁器組成物を得るための1000℃から1400℃における焼成温度域で、第1結晶粒子41の界面から内部へ希土類元素を固溶させて、シェル部412およびコア部411を生成したコア-シェル構造を持った結晶粒子を得ることができる。
【0056】
ところで、コア-シェル構造において、一般的に焼成温度が高くなるにしたがって、各種添加物がチタン酸バリウムカルシウムからなる結晶粒子により多く固溶して、シェル部が厚くなる傾向にある。シェル部においては、チタン酸バリウムカルシウムのキュリー温度近傍である125℃付近における大きな静電容量域が、室温に近づく。それにより、シェル部の厚みによって、室温付近の実用となる温度領域の静電容量が大きく変化する。したがって、一例としては、積層セラミックコンデンサの静電容量を求められた範囲に収めるためには、焼成温度を精密に制御することが好ましい。
【0057】
例えば、本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、1000℃から1300℃にて焼成すること、および焼成過程の昇温速度を3000℃/hから10000℃/hとなる急速な昇温を行うことによって得られる。
【0058】
希土類元素およびマンガンを含有したシェル部412が形成されたコア-シェル構造を持つ第1結晶粒子41は、従来のコア-シェル構造とは生成過程が異なる。具体的には、チタン酸バリウムからなる結晶粒子への希土類元素の固溶のみでなく、添加した希土類元素と、マンガンと、チタンとが、チタン酸バリウム結晶粒子の表面で反応し、Gd(Ti,Mn)O3などの複合型ペロブスカイト化合物の様態でシェル部として生成する。
【0059】
さらに、シェル部412には、さらに添加したマグネシウムがチタン酸バリウム結晶粒子の表面で反応し、Gd(Mg,Ti,Mn)O3などの複合型ペロブスカイト化合物の様態でシェル部として生成していてもよい。
【0060】
そして、Gd(Ti,Mn)O3もしくはGd(Mg,Ti,Mn)O3と考えられる複合型ペロブスカイト化合物の様態でのシェル部412は、周囲の主成分であるチタン酸バリウムカルシウム結晶粒子との反応により、(Gd,Ca,Ba)(Ti,Mn)O3もしくは(Gd,Ca,Ba)(Mg,Ti,Mn)O3としてシェル部412として生成してもよい。
【0061】
例えば、コア-シェル構造におけるコア部411は、チタン酸バリウムカルシウムからなる結晶粒子を主成分とするが、添加した希土類元素、マンガン、マグネシウムなどを含んでいてもよい。ただし、例えば、コア部411よりも、シェル部412に、添加物の内、希土類元素、マンガン、マグネシウムなどが相対的に多く含有している状態であればよい。
【0062】
さらにより具体的には、チタン酸バリウムカルシウムからなる結晶粒子を主成分として、希土類元素およびマンガンを含有したシェルが形成されたコア-シェル構造を持つ結晶粒子は、表面から中心部方向への距離が該当の結晶粒子の直径の10%にある範囲の任意の点において、中心部における希土類元素ないしマンガンのチタンに対する元素比率と比較して、相対的に多く含有していればよい。このようなコア-シェル構造を持つ結晶粒子の存在によって、誘電体磁器組成物を構成する多結晶体は、焼成温度の変化による保持する静電容量の変化幅を抑制するだけでなく、酸素欠陥が粒界およびシェル部の内部を移動することを抑制し、抵抗率の低下を抑制して、電気的寿命を向上させることが可能となる。
【0063】
なお、誘電体磁器組成物における第1結晶粒子41の平均粒子径は、50nmから500nmの範囲内にあり、且つ3μm以上の巨大な粒子を誘電体として電気的に活用する部位には保持しない。例えば、誘電体磁器組成物において、第1結晶粒子の最大粒径は、2μm以下であることが好ましい。そして、含有する結晶粒子の粒子径および組成の分布は比較的狭い範囲内に収まるという一般的なセラミックスの特性から見て、第1結晶粒子41がコア-シェル構造を有するものであることが確認できれば、同様の構造を有する多数の第1結晶粒子41の存在により、誘電磁器組成物の電気的寿命に好影響を及ぼすものと言える。
【0064】
第1結晶粒子41の粒子径は、以下の手順で測定することができる。第1結晶粒子41を持つ誘電体磁器組成物を、切断ないし、研磨する方法により、観察面を露出させる。この露出方法は、特に限定されず、素子を切断ないし研磨する方法等を採用できる。このとき、内部のセラミックス組織を十分に観察するには、最終的に2μm以下のダイヤモンドペースト等を用いて、鏡面と判断できる平滑さが得られることが好ましい。次に、観察面に対して白金もしくはオスミウム等の導電性物質を蒸着した後に、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、第1結晶粒子41の写真を撮影する。次に、撮影した写真中に相互に平行な直線を複数本引き、該各直線を各第1結晶粒子41の周縁で切り取った線分の長さ(各直線が第1結晶粒子41の周縁と交わる2点間の距離)を、第1結晶粒子41の粒子径(粒度)とする。この方法で、第1結晶粒子41の粒度を400個以上の粒子について測定し、得られた結果の平均をもって第1結晶粒子41の平均粒子径とする。また、露出させたセラミックスにおいて、第1結晶粒子41の輪郭が見えにくいものとなっている場合には、白金もしくはオスミウム等の蒸着に先立って、露出させたセラミックスに対して、焼成した温度よりも50℃程度低い温度にて、5分程度の熱処理(サーマルエッチング)を行うとよい。この熱処理に代えて、弗酸、塩酸、硫酸、硝酸など、またそれらを混合した酸をエッチングに適切な濃度として用いて、化学的にエッチングすることも可能である。
【0065】
第1結晶粒子41のコア-シェル構造は、添加したガドリニウム、マンガン、およびチタンが、チタン酸バリウム結晶粒子の表面で反応し、Gd(Ti,Mn)O3と考えられる複合型ペロブスカイト化合物の様態、もしくは、Gd(Mg,Ti,Mn)O3、もしくは、(Gd,Ba,Ca)(Ti,Mn)O3もしくは(Gd,Ba,Ca)(Mg,Ti,Mn)O3の様態でシェル部412として生成する。このとき、添加したチタンが反応に関わっているため、添加していない場合と比較して相対的にチタン酸バリウム結晶粒子への固溶反応が抑制される。この効果により、一例として高い量産性が求められている積層セラミックコンデンサに応用することで、より短時間での焼成を達成しながらも、焼成温度の変化、酸素分圧の変化による静電容量の変化幅を抑制し、高い量産性を得ることが可能となる。
【0066】
ここで、誘電体磁器組成物中に、コア-シェル構造を持つ第1結晶粒子41が存在することは、以下の手順によって確認できる。なお、以下の手順では、一例として、希土類元素としてガドリニウムを用いた場合について説明している。
【0067】
まず、確認対象とする誘電体磁器組成物から、透過型電子顕微鏡(TEM)観察用の試料を切り出す。この切り出しは、収束イオンビーム(FIB)装置等により行うことができる。
【0068】
次に、切り出したTEM観察用の試料を、エネルギー分散型X線分光器(EDS)または波長分散型X線分光器(WDS)を搭載したTEMにて観察し、測定対象とする結晶粒子を決定すると共に、該粒子の外周形状を特定する。
【0069】
次に、
図3で例示するように、測定対象とする結晶粒子(第1結晶粒子41)の外周上に位置する任意の2点を結ぶ線分のうち、長さが最大のものを決定し、該線分の長さLを測定する。そして、この長さLを、測定対象とする結晶粒子の直径とする。また、得られた線分の長さから、該線分の中点Mを決定する。
【0070】
上記の線分の両端からの距離が結晶粒子の直径の10%、すなわち10L/100の長さの範囲の外周上の任意のC点について、EDSまたはWDSにより組成分析を行って、分析する該当元素とチタン元素との元素存在比率を算出する。組成分析においては、例えばEDS測定においては、簡単にはバリウムのK線ないしL線やカルシウムのK線、ガドリニウムのL線、マンガンのK線、マグネシウムのK線に対するチタンのK線強度でもって、特定される。より詳細には、それらの強度から、原子番号効果、吸収効果、蛍光励起効果を勘案した補正(ZAF補正)を行い、チタンの元素含有量に対する各々の比率を算出し、これをシェル部412のチタンに対する各元素の比率とする。また、上記の線分の中点Mについても、同様に組成分析を行って、比率を算出し、これをコア部411のチタンに対する各元素の比率とする。
【0071】
次に、シェル部412のチタンに対する各元素の比率と、コア部411のチタンに対する各元素の比率を比較し、シェル部412の方がコア部411よりも高いことをもって、測定対象とした第1結晶粒子41がコア-シェル構造を持つと判断する。
【0072】
誘電体磁器組成物は、第1結晶粒子41に加えて、第1結晶粒子41以外の第2結晶粒子42として、チタン酸バリウムカルシウムを主成分とし、チタンに対するバリウムとカルシウム合計の元素比率が0.70以下となる第2結晶粒子42を少なくとも1つは保持する。
【0073】
第2結晶粒子42において、チタンに対するバリウムとカルシウム合計の元素比率は、0.16以上であることが好ましい。また、第2結晶粒子42は、マンガンを含んでいてもよい。第2結晶粒子におけるチタンに対するマンガンの元素比率は、0.02以上0.10以下であってもよく、0.02以上0.05以下であってもよい。
【0074】
第2結晶粒子42としては、BaTi4O9、BaTi5O11、BaTi6O13、Ba4Ti11O26、Ba4Ti12O27、Ba4Ti13O30、Ba6Ti17O40などが挙げられる。
【0075】
第2結晶粒子42は、その組成式から明らかであるが、チタンよりもバリウムとカルシウム合計の元素比率が低いチタン酸バリウム複合酸化物である。第2結晶粒子42は、上述したように、本実施形態に係る誘電体磁器組成物において、Gd(Ti,Mn)O3、Gd(Mg,Ti,Mn)O3、(Gd,Ca,Ba)(Ti,Mn)O3または、(Gd,Ca,Ba)(Mg,Ti,Mn)O3と考えられる複合型ペロブスカイト化合物の様態でシェル部412を生成するため、添加物としてチタンを主成分とする添加物を用いた場合に、副次的に生成される結晶粒子となる。第2結晶粒子42を意図的に析出させることによって、第1結晶粒子41が得られるとともに、一例として高い量産性が求められている積層セラミックコンデンサにおいて、焼成温度の変化による静電容量の変化幅を抑制し、高い量産性を得ることが可能となる。また、第2結晶粒子42を伴う本実施形態に係る誘電体磁器組成物に関しては、前記記載の複合型ペロブスカイト化合物の様態でシェル部412を形成させるために比較的高い温度での焼成が必要となる。特許文献1および特許文献2に開示されているような昇温速度が高々10℃/min(600℃/h)で焼成を行うと、第2結晶粒子42が大きく成長してしまい、10μmを超えるような巨大な粒子が生成してしまうことが確認された。これを除くためにも、本実施形態に係る誘電体磁器組成物を3000℃/h~10000℃/hといった急速な昇温を用い、焼成過程に加わる熱エネルギーをできるだけ少なくして、粒子の成長を抑制した焼成を行うことが望ましい。
【0076】
第2結晶粒子42のより好適な例としては、Ba4Ti11O26として挙げられる、単斜晶系で空間群C2/mで示され、格子定数がa=15.160Å、b=3.893Å、c=9.093Å、β=98.6°とされるチタン酸バリウム複合酸化物であることが好ましい。当該チタン酸バリウム複合酸化物は、バリウムとチタンの比率が比較的3に近く、多量のチタンを主成分とする添加物を用いなくても、意図的に析出させることが容易であるからである。当該チタン酸バリウム複合酸化物は、例えば、非特許文献であるActa Cryst.(1979).B35、1590-1593に記載されている。
【0077】
第2結晶粒子42のさらに好適な例としては、Ba4Ti11O26に対して、マンガンが固溶して、その欠陥サイトを専有していること、または、一部のチタンを置換していることが望ましい。上記の非特許文献にて明らかであるが、Ba4Ti11O26は、一部のチタンサイトに欠陥が生じている結晶構造となっている。このため、欠陥位置にて、チタンが四価の陽イオンから、三価の陽イオンに変化しやすく、結果として抵抗率が低下しやすい。これを補完するためにマンガンが固溶していることが効果的である。
【0078】
ここで、誘電体磁器組成物が第2結晶粒子42を含有していることは、以下の手順で確認することができる。
【0079】
まず、確認対象とする誘電体磁器組成物の表面、または該誘電体磁器組成物を粉砕して得た粉末について、Cu-Kα線を用いたX線回折装置(XRD)で回折線プロファイルを測定する。粉末を得るための粉砕手段は、特に限定されず、ハンドミル(乳鉢・乳棒)等を利用できる。また、積層セラミックコンデンサを構成しているセラミックスについて回折線プロファイルの測定を行う際には、素子の表面に形成された電極や被覆、そして積層セラミックコンデンサの誘電体層以外の部位を除去して、誘電体磁器組成物の表面を露出させる。この露出方法は、特に限定されず、素子を切断ないし研磨する方法等を採用できる。また、積層セラミックコンデンサを構成している誘電体磁器組成物の粉末について回折線プロファイルの測定を行う際には、素子に形成された電極や被覆、そして積層セラミックコンデンサの誘電体層以外の部位を除去した後に粉砕することがより好適である。
【0080】
次に、得られた回折線プロファイルにおいて、ペロブスカイト構造由来のプロファイルにおける最強回折線強度に対する、他の構造由来の回折プロファイルにおける最強回折線強度の百分率を算出する。そして、この割合が10%以下であることをもって、確認対象とした誘電体磁器組成物が、ペロブスカイト構造を有する第1結晶粒子41によって構成されるものと判定する。なお、上記の方法で積層セラミックコンデンサの誘電体磁器組成物の表面を露出させた場合や、粉砕した粉末についてXRD測定を行った場合には、電極や被覆を構成する材料のピークも検出されることがあるため、これを除外した上で、上述した回折線強度の割合の算出を行う。
【0081】
次に、ペロブスカイト構造由来のプロファイルにおける回折線強度以外のピークに着目し、結晶相の同定を行っていく。結晶相の同定は、ICDD(International Centre for Diffraction Data;Pennsylvania、USA)発行のPDF(Powder Diffraction File)を検索して、第2結晶粒子42を含有しているかを検索して確認することが望ましい。好適な一例としてのBa4Ti11O26においては、PDF-01-083-1459を参照して同定することによって、その生成を評価することができる。
【0082】
次に、第2結晶粒子42が、チタンに対してバリウムとカルシウム合計の元素比率が0.70以下となるチタン酸バリウム複合酸化物からなることは、以下の方法でもって判断する。
【0083】
まず、誘電体磁器組成物の表面を露出させる。この露出方法は、特に限定されず、素子を切断ないし研磨する方法等を採用できる。このとき、内部のセラミックス組織を十分に観察するには、最終的に2μm以下のダイヤモンドペーストなどを用いて、鏡面と判断できる平滑さが得られることが好ましい。
【0084】
次に、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)または透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)に装着したエネルギー分散型X線分光器(EDS:Energy Dispersive X-ray Spectrometry)または波長分散型X線分光器(WDS:Wavelength Dispersive X-ray Spectrometry)、電子線マイクロアナライザー(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer)およびレーザー照射型誘導結合プラズマ質量分析(LA-ICP-MS)などによって、第2結晶粒子42における組成を同定する。
【0085】
例えばEDS測定においては、簡単にはバリウムのK線ないしL線やカルシウムのK線、マンガンのK線に対するチタンのK線強度でもって、特定される。より詳細には、それらの強度から、原子番号効果、吸収効果、蛍光励起効果を勘案した補正(ZAF補正)を行い、チタンの元素含有量に対する各々の比率を算出し、各元素の比率とする。
【0086】
EDS測定を行う際には、特にバリウムのLα線およびチタンのKα線による測定では、そのエネルギーピークが近接しており、十分な元素含有量の比較が難しい場合がある。このため、測定の際に、ピークの被りの無い、バリウムのLβ2線およびLIIIab線が十分な強度で得られていることが望ましい。具体的には、そのピークにおける強度が、10000カウント以上となることが望ましい。このとき、バリウムによる特性X線の強度が特定でき、元素含有量が算出できるから、バリウムのLα線およびTiのKα線が重なり合っていたとしても、チタンのKα線の強度が特定でき、元素含有量が精度良く評価することができる。
【0087】
上記の方法で得られたチタンに対してバリウムとカルシウム合計の元素比率が、0.70以下となる場合に、その結晶粒子が第2結晶粒子42であると判定する。すなわち、周囲に存在するチタン酸バリウムカルシウムからなる第1結晶粒子41と比較して、チタンに対してバリウムとカルシウム合計の元素比率が小さいことでもって、上記のチタン酸バリウム複合酸化物のいずれかであると判断する。このとき、観察の際にSEMを用いている場合には、反射電子像(BSE像:Back Scattered Electron Image)による観察において、第1結晶粒子41に対して、第2結晶粒子42は、相対的に輝度が低く、暗く観察されることが特徴である。また、より好適な判断としては、XRDによる回折プロファイルの評価によって、第2結晶粒子42が同定されていることが望ましい。
【0088】
次に、さらにより詳細には、第2結晶粒子42と判断した部位について、透過型電子顕微鏡(TEM)観察用の試料として切り出し、制限視野回折法を用いて取得した回折像と、既知となる文献によるデータとを比較することによって、BaTi4O9、BaTi5O11、BaTi6O13、Ba4Ti11O26、Ba4Ti12O27、Ba4Ti13O30、ないし、Ba6Ti17O40として判定できるかを確認する。なお、この切り出しは、FIB装置等により行うことができる。
【0089】
第2結晶粒子42へのマンガンの固溶については、EDSまたはWDS、もしくはEPMAによるMnのK線に対するチタンのK線強度によって、確認することができる。より詳細には、それらの強度から、ZAF補正を行いって、チタンの元素含有量に対するマンガンの元素含有量の比率wを算出する。このとき、0.02≦w≦0.10の範囲であることが望ましく、より好適には0.02≦w≦0.05の範囲にあることが望ましい。このとき、一例としては、Ba4Ti11O26におけるTiサイトの欠陥位置に、マンガンが固溶した状態となり、誘電体磁器組成物の抵抗率の低下を抑制できる。
【0090】
さらには、誘電体磁器組成物は、第1結晶粒子41および第2結晶粒子42とは、組成もしくは結晶構造の異なる第3結晶粒子43を含有していてもよい。また、誘電体磁器組成物は、ケイ素を含有する結晶粒子もしくはガラス粒子を含んでいてもよい。このことにより、誘電体磁器組成物を1300℃以下で焼成して十分に緻密化することが可能となる。
【0091】
第3結晶粒子43としては、シリケート(SiO2)、エンスタテイト(MgSiO3)、バリウムマグネシウムシリケート(BaMgSiO4)、フレスノイト(Ba2TiSi2O8)などの結晶粒子もしくはガラス粒子が一般的に挙げられる。
【0092】
その他に、第3結晶粒子43として、ゲイキーライト(MgTiO3)、酸化マンガンニッケル((Mn,Ni)O)、パイロファナイト(MnTiO3)といった添加した物質由来、もしくは電極由来で生じる副化合物が挙げられる。
【0093】
(第2実施形態)
第2実施形態においては、第1実施形態に係る誘電体磁器組成物を用いた積層セラミックコンデンサ100について説明する。
【0094】
図4は、積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。
図5は、
図4のA-A線断面図である。
図6は、
図4のB-B線断面図である。
図4~6で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、略直方体形状を有する積層チップ10と、積層チップ10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a、20bとを備える。なお、積層チップ10の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。外部電極20a、20bは、積層チップ10の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、外部電極20a、20bは、互いに離間している。
【0095】
積層チップ10は、誘電体磁器組成物を含む誘電体層11と、卑金属材料を含む内部電極層12とが、交互に積層された構成を有する。各内部電極層12の端縁は、積層チップ10の外部電極20aが設けられた端面と、外部電極20bが設けられた端面とに、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、誘電体層11と内部電極層12との積層体において、積層方向の最外層には内部電極層12が配置され、当該積層体の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13の材料は、誘電体層11とセラミック材料の主成分が同じである。
【0096】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0097】
内部電極層12は、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Sn(スズ)等の卑金属を主成分とする。内部電極層12として、Pt(白金),Pd(パラジウム),Ag(銀),Au(金)などの貴金属やこれらを含む合金を用いてもよい。
【0098】
図5で例示するように、外部電極20aに接続された内部電極層12と外部電極20bに接続された内部電極層12とが対向する領域は、積層セラミックコンデンサ100において電気容量を生じる領域である。そこで、当該電気容量を生じる領域を、容量領域14と称する。すなわち、容量領域14は、異なる外部電極に接続された隣接する内部電極層12同士が対向する領域である。
【0099】
外部電極20aに接続された内部電極層12同士が、外部電極20bに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域を、エンドマージン15と称する。また、外部電極20bに接続された内部電極層12同士が、外部電極20aに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域も、エンドマージン15である。すなわち、エンドマージン15は、同じ外部電極に接続された内部電極層12が異なる外部電極に接続された内部電極層12を介さずに対向する領域である。エンドマージン15は、電気容量を生じない領域である。
【0100】
図6で例示するように、積層チップ10において、積層チップ10の2側面から内部電極層12に至るまでの領域をサイドマージン16と称する。すなわち、サイドマージン16は、上記積層構造において積層された複数の内部電極層12が2側面側に延びた端部を覆うように設けられた領域である。サイドマージン16も、電気容量を生じない領域である。
【0101】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100においては、容量領域14の誘電体層11の少なくとも一部に
図1で例示した第1結晶粒子41が含まれるとともに、第2結晶粒子42が含まれている。それにより、焼成温度による静電容量の変化を抑制し、かつ広い焼成雰囲気で絶縁性を高くすることができる。その結果、高い量産性を得ることが可能となる。
【0102】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。
図7は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0103】
(原料粉末作製工程)
まず、誘電体層11を形成するための誘電体磁器組成物を用意する。誘電体層11に含まれるAサイト元素およびBサイト元素は、通常はABO3の粒子の焼結体の形で誘電体層11に含まれる。例えば、チタン酸バリウムカルシウムは、ペロブスカイト構造を有する室温付近において正方晶系に属する化合物であって、高い比誘電率を示す。このチタン酸バリウムカルシウムは、一般的に、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料、炭酸カルシウムなどのカルシウム原料とを反応させて合成することができる。誘電体層11の主成分となるチタン酸バリウムカルシウムの合成方法としては、従来種々の方法が知られており、例えば固相法、ゾル-ゲル法、水熱法等が知られている。本実施形態においては、これらのいずれも採用することができる。
【0104】
前記の方法によって得られたチタン酸バリウムカルシウム粉末に、所定の添加物を添加する。一例として、第1実施形態に係る誘電体磁器組成物の例で示した範囲における添加物が用いられる。必要に応じて、Zr(ジルコニウム)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Li(リチウム)、B(ホウ素)、Na(ナトリウム)、K(カリウム)、を含有した酸化物もしくはガラスを用いてもよい。また、必要に応じて、Gd以外の希土類元素として、Sc(スカンジウム)、Y(イットリウム)、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)、Pm(プロメチウム)、Sm(サマリウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Y(イッテルビウム)およびLu(ルテチウム)の酸化物を添加してもよい。
【0105】
例えば、チタン酸バリウムカルシウム粉末に添加化合物を含む化合物を湿式混合し、乾燥および粉砕してチタン酸バリウムカルシウム粉末と、添加化合物が混合されたセラミック材料を調製する。例えば、上記のようにして得られたセラミック材料について、必要に応じて粉砕処理して粒径を調節し、あるいは分級処理と組み合わせることで粒径を整えてもよい。具体的には、セラミック材料とともに、イットリウム安定化ジルコニア製ないし、アルミナ製ないし、窒化ケイ素製などの直径0.1mmから3mmのビーズとともに、撹拌処理を10時間から100時間行って、粒子径を調整することができる。以上の工程により、誘電体磁器組成物が得られる。
【0106】
(塗工工程)
次に、得られた誘電体磁器組成物に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリーを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上にセラミックグリーンシート51を塗工して乾燥させる。基材は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである。塗工工程を例示する図は省略した。
【0107】
(内部電極形成工程)
次に、
図8(a)で例示するように、セラミックグリーンシート51の表面に、有機バインダを含む内部電極形成用の金属導電ペーストをスクリーン印刷、グラビア印刷等により印刷することで、極性の異なる一対の外部電極に交互に引き出される内部電極パターン52を配置する。金属導電ペーストには、共材としてセラミック粒子を添加する。セラミック粒子の主成分は、特に限定するものではないが、誘電体層11の主成分セラミックと同じであることが好ましい。例えば、平均粒子径が50nm以下のチタン酸バリウムカルシウムを均一に分散させてもよい。
【0108】
次に、原料粉末作製工程で得られた誘電体磁器組成物に、エチルセルロース系等のバインダと、ターピネオール系等の有機溶剤とを加え、ロールミルにて混練して逆パターン層用の誘電体パターンペーストを得る。
図8(a)で例示するように、セラミックグリーンシート51上において、内部電極パターン52が印刷されていない周辺領域に誘電体パターンペーストを印刷することで誘電体パターン53を配置し、内部電極パターン52との段差を埋める。内部電極パターン52および誘電体パターン53が印刷されたセラミックグリーンシート51を積層単位と称する。
【0109】
その後、
図8(b)で例示するように、内部電極層12と誘電体層11とが互い違いになるように、かつ内部電極層12が誘電体層11の長さ方向の両端面に端縁が交互に露出して極性の異なる一対の外部電極20a,20bに交互に引き出されるように、積層単位を積層していく。例えば、内部電極パターン52の積層数を100~1000層とする。
【0110】
(圧着工程)
図9で例示するように、積層単位が積層された積層体の上下にカバーシート54を所定数(例えば2~10層)だけ積層して熱圧着する。カバーシート54のセラミック材料として、一例としては上述した誘電体磁器組成物を用いることができる。その後、所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)にカットする。
【0111】
(焼成工程)
このようにして得られたセラミック積層体を、N2雰囲気、大気雰囲気、等で脱バインダ処理した後に外部電極20a,20bの下地層となる金属ペーストをディップ法で塗布し、酸素分圧10-10~10-7atmの還元雰囲気中で1100~1300℃で10分~2時間焼成する。このようにして、積層セラミックコンデンサ100が得られる。なお、焼成工程における昇温速度は、例えば、6000℃/hという急速昇温を行なう。これにより、第2結晶粒子42が巨大な粒子となることなく、さらには、焼成における実質的な時間を短縮し、より高い量産性を得ることが可能となる。
【0112】
(再酸化処理工程)
その後、N2ガス雰囲気中で600℃~1000℃で再酸化処理を行ってもよい。
【0113】
(めっき処理工程)
その後、外部電極20a,20bの下地層上に、めっき処理により、Cu,Ni,Sn等の金属コーティングを行う。以上の工程により、積層セラミックコンデンサ100が完成する。
【0114】
サイドマージン部は、上記積層部分の側面に貼り付けまたは塗布してもよい。具体的には、
図10で例示するように、セラミックグリーンシート51と、当該セラミックグリーンシート51と同じ幅の内部電極パターン52とを交互に積層することで、積層部分を得る。次に、積層部分の側面に、誘電体パターンペーストで形成したシートをサイドマージン部55として貼り付けてもよい。
【0115】
本実施形態に係る製造方法によれば、容量領域14の誘電体層11の少なくとも一部に
図1で例示した第1結晶粒子41が形成されるとともに、第2結晶粒子42を含むことができるため、焼成温度による静電容量の変化を抑制し、かつ広い焼成雰囲気で絶縁性を高くすることができる。その結果、高い量産性を得ることが可能となる。
【0116】
積層セラミックコンデンサ100の焼成温度の変化による比誘電率の焼成温度依存性(Δε/℃)については、次の方法で決定する。まず、焼成工程、再酸化処理工程、めっき処理工程を経た積層セラミックコンデンサ100について、静電容量Cp(nF)および直流電流I(nA)の測定を行う。次に、該積層セラミックコンデンサ100について、
図5および
図6で例示したA-A線断面、およびB-B線断面について、切断ないし研磨する方法等で容量領域14を露出させて、最終的に2μm以下のダイヤモンドペースト等を用いて、鏡面と判断できる平滑さが得られている状態にて、内部電極層の有効面積について算出する。
【0117】
有効面積Sは、
図5における容量領域14における内部電極層12の長さLと積層数Nと、
図6における容量領域14における内部電極層12の幅Wとから、S=L×W×(N-1)に従って算出する。
【0118】
また、このとき誘電体層11の各々の厚みについても測定を行い、平均の厚みtを算出する。このとき、比誘電率εは、ε=(Cp×t/S)/ε0、真空の誘電率:ε0=8.8542×10-12F/mに従って計算することができる。
【0119】
また、直流抵抗率ρ(Ω・cm)は、測定時の直流電圧をV(V)としたとき、ρ=(V/I)×(S/t)に従って計算することができる。
【0120】
静電容量Cpに関しては、一般的にはLCRメーターを用いて測定するのが好ましい。測定にあたっては、その測定周波数と測定電圧を決定する必要があるが、測定電圧は、その誘電体層11の厚みに依存した測定電界として決定するのが好ましい。本実施形態においては、25℃の室温下で、測定周波数を1kHzとし、測定電界を0.5Vrms/μm、すなわち誘電体層11の厚みが2μmの場合は、1Vrmsとして、静電容量Cpの測定を行うことができる。
【0121】
そして、直流電流Iに関しては、一般的には絶縁抵抗計を用いて測定することが好ましい。測定にあたっては測定電圧を決定する必要があるが、誘電体層11の厚みに依存した測定電界として決定することが好ましい。本実施形態においては、150℃の恒温槽内に、積層セラミックコンデンサ100を30分保持し、セラミックス製の碍子等を用いて周囲との絶縁性を確保して、恒温槽から外部電極20aおよび20bに接続した電線を通じて、測定電界を30V/μm(例えば、誘電体層11の厚みが2μmの場合は、60Vを30秒)印加して、直流電流Iの測定を行って、直流抵抗率ρを算出することができる。なお、測定に関しては、特に指定のない限り、日本産業規格C5101-22:2021の電子機器用固定コンデンサ-第22部:品種別通則-表面実装用固定積層磁器コンデンサ種類2に準拠して測定を行うこととする。
【0122】
次に、直流抵抗率ρを焼成温度毎に得られた積層セラミックコンデンサに対して測定を行い、最も高い抵抗率を保持する焼成温度を最適な焼成温度とする。一般的に、焼成温度が低くすぎると低密度となって、低抵抗率となり、焼成温度が高すぎるとセラミックス粒子が大きくなり、粒界数がすくなくなるため、抵抗率の低下が発生する。
【0123】
次に、最も高い抵抗率を保持する焼成温度で得られた積層セラミックコンデンサの比誘電率εと、その最も高い抵抗率を保持する焼成温度から、-20℃および+20℃の焼成温度で焼成して得られた積層セラミックコンデンサの比誘電率から、これらの焼成温度と比誘電率を元に最小二乗法で直線の傾きを求めて、その値を比誘電率の焼成温度依存性(Δε/℃)を決定し、高い量産性の指標とする。
【0124】
150℃で測定した直流抵抗率は、1.0×108Ω・cm以上であることが望ましい。1.0×108Ω・cm以上になることで、本実施形態の誘電体磁器組成物を用いた積層セラミックコンデンサ100において、十分な抵抗を有することを可能とする。
【0125】
150℃で測定した直流抵抗率は、1.0×1010Ω・cm以上であることがさらに好ましい。1.0×1010Ω・cm以上となることで、本実施形態の誘電体磁器組成物を用いた積層セラミックコンデンサ100において、十分な抵抗を有するのみならず、より厚みを薄く設計し、積層する内部電極の数を増やすことがより容易となるからである。
【0126】
Δε/℃は、12以下となることが好ましい。12以下となるときに、本実施形態の誘電体磁器組成物を用いた積層セラミックコンデンサ100において、より短時間での焼成を達成しながらも、焼成温度の変化による静電容量の変化を抑制し、高い量産性を得ることが可能となる。
【0127】
さらに、Δε/℃は、6以下となることが好ましい。6以下となるときに、本実施形態の誘電体磁器組成物を用いた積層セラミックコンデンサ100において、より短時間での焼成を達成しながらも、さらに、焼成温度の変化による静電容量の変化を抑制し、高い量産性を得ることが可能となる。
【0128】
比誘電率εは、2500以上であることが望ましい。150℃で測定した直流抵抗率が、2.0×108Ω・cm以上であり、比誘電率の焼成温度依存性Δε/℃が、12以下であったとしても、εが小さければ結果として静電容量Cpが不十分な値となり、誘電体磁器組成物を用いた積層セラミックコンデンサ100の用途には不適な特性となる。
【0129】
なお、上記各実施形態においては、積層セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、それに限られない。例えば、バリスタやサーミスタなどの、他の積層セラミック電子部品を用いてもよい。
【実施例0130】
(実施例1)
平均粒径150nm、バリウムとカルシウムがモル比で95:5となるチタン酸バリウムカルシウム(Ba0.95Ca0.05TiO3)粉末を用意し、チタン酸バリウムカルシウム粉末100molに対して、Gd2O3を0.75mol添加し、TiO2を0.5mol添加し、MnCO3を1.5mol添加し、SiO2を1.0mol添加し、MgOを0.5mol添加し、誘電体磁器組成物を得た。(Ba+Ca)/Ti元素比率は、0.995とした。
【0131】
誘電体磁器組成物をエタノール、トルエン、PVB(ポリビニルブチラール)樹脂と混合し、誘電体スラリーを作製した。このスラリーをダイコータでセラミックグリーンシートに成形した。このセラミックグリーンシートを乾燥させた後にニッケルペーストを印刷し内部電極パターンとした。得られた積層単位を積層し、上下に、内部電極パターンを形成していないセラミックグリーンシートを厚く積み重ねた層で圧着し、小片にカットした。その後、2端面にNiペーストを外部電極用の導電性ペーストとしてディップし、窒素ガス中で脱脂を行った。脱脂後の小片を、ニッケルが酸化しない酸素分圧になるように制御した還元雰囲気中で焼成して焼結させ、積層セラミックコンデンサを作製した。焼成温度は、1220℃とした。酸素分圧は、3.1×10-8atmとした。
【0132】
作製された積層セラミックコンデンサのサイズは、1005形状(1.0mm×1.0mm×0.5mm)であった。その後、950℃にて、再酸化処理を行なった。その後、メッキ処理して下地層の表面にCuめっき層、Niめっき層およびSnめっき層を形成し、積層セラミックコンデンサを得た。誘電体層11の平均厚みは、2.0μmであった。
【0133】
(実施例2)
実施例2では、バリウムとカルシウムがモル比で95:5となるチタン酸バリウムカルシウム粉末100molに対して、Gd2O3を0.75mol添加し、TiO2を1.0mol添加し、MnCO3を1.5mol添加し、SiO2を1.0mol添加し、MgOを0.5mol添加し、誘電体磁器組成物を得た。(Ba+Ca)/Ti元素比率は、0.990とした。焼成温度は、1220℃とした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0134】
(実施例3)
実施例3では、バリウムとカルシウムがモル比で95:5となるチタン酸バリウムカルシウム粉末100molに対して、Gd2O3を0.75mol添加し、TiO2を2.0mol添加し、MnCO3を1.5mol添加し、SiO2を1.0mol添加し、MgOを0.5mol添加し、誘電体磁器組成物を得た。(Ba+Ca)/Ti元素比率は、0.980とした。焼成温度は、1230℃とした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0135】
(実施例4)
実施例4では、バリウムとカルシウムがモル比で95:5となるチタン酸バリウムカルシウム粉末100molに対して、Gd2O3を0.75mol添加し、TiO2を4.0mol添加し、MnCO3を1.5mol添加し、SiO2を1.0mol添加し、MgOを0.5mol添加し、誘電体磁器組成物を得た。(Ba+Ca)/Ti元素比率は、0.962とした。焼成温度は、1240℃とした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0136】
(実施例5)
実施例5では、バリウムとカルシウムがモル比で95:5となるチタン酸バリウムカルシウム粉末100molに対して、Gd2O3を0.75mol添加し、TiO2を8.0mol添加し、MnCO3を1.5mol添加し、SiO2を1.0mol添加し、MgOを0.5mol添加し、誘電体磁器組成物を得た。(Ba+Ca)/Ti元素比率は、0.926とした。焼成温度は、1260℃とした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0137】
(比較例1)
比較例1では、バリウムとカルシウムがモル比で95:5となるチタン酸バリウムカルシウム粉末100molに対して、Gd2O3を添加せず、TiO2を2.0mol添加し、MnCO3を1.5mol添加し、SiO2を1.0mol添加し、MgOを0.5mol添加し、誘電体磁器組成物を得た。(Ba+Ca)/Ti元素比率は、0.980とした。焼成温度は、1230℃とした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0138】
(比較例2)
比較例2では、バリウムとカルシウムがモル比で95:5となるチタン酸バリウムカルシウム粉末100molに対して、Gd2O3を0.75mol添加し、TiO2を0.2mol添加し、MnCO3を1.5mol添加し、SiO2を1.0mol添加し、MgOを0.5mol添加し、誘電体磁器組成物を得た。(Ba+Ca)/Ti元素比率は、0.998とした。焼成温度は、1220℃とした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0139】
実施例1~5および比較例1、2のそれぞれの積層セラミックコンデンサについて、LCRメーターによる1kHz、1Vrmsにおける、室温(25℃)での静電容量Cpの測定、絶縁抵抗計による60Vを30秒印加時における150℃での直流電流Iの測定を行った。また、
図4のA-A線断面およびB-B線断面を露出させて、内部電極層の有効面積Sおよび誘電体層の平均厚みtを算出した。有効面積Sおよび平均厚みtから、比誘電率εおよび抵抗率ρを算出した。そして、実施例1~5および比較例1、2の各積層セラミックコンデンサの抵抗率ρを比較して、最も高い抵抗率であった焼成温度で得られた積層セラミックコンデンサから-20℃、+20℃の温度で焼成を行った積層セラミックコンデンサの比誘電率を参照して、これらの焼成温度と比誘電率を元に最小二乗法で直線の傾きを求めて、比誘電率の焼成温度依存性(Δε/℃)と定義した。
【0140】
さらに、露出した誘電体層にオスミウムの導電性物質を蒸着し、SEM観察によって、誘電体層に存在する結晶粒子の写真を撮影した。そして、誘電体層を構成する結晶粒子の平均粒子径を算出した。
【0141】
加えて、積層セラミックコンデンサのSEM観察時には、BSE像において、第2結晶粒子42が存在するかを、その輝度の差異によって確認を行った。相対的に輝度が低く、暗く観察される部位について、EDSによる組成評価の手法により、チタンに対してバリウムの元素比率vが0.70以下となるチタン酸バリウム複合酸化物からなる結晶粒子であるかの確認を行った。また、当該部位について、チタンに対してマンガンの元素比率も確認し、Mn/Tiの元素比率wが、0.02≦w≦0.10を満たすかの確認を行った。
【0142】
そして、各積層セラミックコンデンサについて、誘電体層の結晶粒子におけるシェル部およびコア部の組成の確認のために、TEMによるEDS観察用の試料を、FIBにより切り出しを行って、EDSによる組成評価の手法により、コア-シェル構造を持っているかの確認を行った。
【0143】
また、各積層セラミックコンデンサについて、容量領域以外となる、カバー層、エンドマージン、サイドマージン、外部電極を、研磨ないし切断することで切り離した後に、容量領域を構成する誘電体層を粉砕して得た粉末について、Cu-Kα線を用いたX線回折装置(XRD)で回折線プロファイルを測定し、Ba4Ti11O26で同定することが可能な第2結晶粒子42が存在するかを確認した。
【0144】
表1および表2に、前記比較例1および2、実施例1~5における添加物の添加量を要約するとともに、その焼成温度、平均粒子径、ε、Δε/℃、そして150℃における抵抗率を要約した。
【表1】
【表2】
【0145】
比較例1は、希土類元素としてガドリニウムを含有しない場合における比較例である。比較例2は、添加するTiO2の量が少ない場合の、下限となる状態における比較例となる。比較例1においては、希土類元素としてガドリニウムを含有していないことで、その焼成における粒子径の制御ができず、2500nmと大きく成長してしまい、結果として低抵抗な状態となってしまった。比較例2においては、希土類元素としてガドリニウムを含有させたため、平均粒子径は550nmとなることで、150℃における抵抗率が5.1×1010Ω・cmとなり、十分な抵抗率を保持することができた。しかしながら、十分なTiO2添加量を有していなかったため、Δε/℃の値について、12.9となり、好ましい12以下の値を得ることができなかった。
【0146】
実施例1~5は、TiO2の添加量を、Ba0.95Ca0.05TiO3を100molに対して0.5molから8.0mol添加し、誘電体層におけるBa/Ti元素比率xを0.926≦x≦0.995の範囲とした。この範囲において、Δε/℃の値は12以下となった。特に、TiO2添加量が1.0mol以上においては、Δε/℃は3以下となった。例えば、生産性効率を上げるために、既存の焼成炉よりも大型の焼成炉を用いた場合においても、炉内の温度分布に対して得られる誘電率、すなわち積層セラミックコンデンサとしてはその静電容量Cpの値が大きな分布を持たなかった。このため、高速昇温による短時間での焼成においても、より大量生産を可能にできる。また平均粒子径も500nm以下であり、抵抗率も2.0×108Ω・cm以上であるから、好ましい電気的寿命を得ることができた。
【0147】
詳細に誘電体層の機構について調べるために、STEM-EDS、SEM-EDSおよび、XRD測定によって、コア-シェル構造が存在するか、Ba
4Ti
11O
26が存在するか、そして第2結晶粒子42におけるTiに対するBaとCa合計の元素比率vが0.16≦v≦0.70の範囲にあるか、Tiに対するMnの元素比率wが0.02≦w≦0.10の範囲にあるか、の調査を、前記比較例1および2、実施例1~5により得られた積層セラミックコンデンサに対して行った。結果について表3にまとめた。
【表3】
【0148】
比較例1においては、希土類元素であるガドリニウムを含有しないため、コア-シェル構造が得られなかった。比較例2においては、TiO2の添加の量が不十分であるため、XRD測定によって、Ba4Ti11O26の存在を明らかにできなかった。また、SEM-EDSにおいて、チタン酸バリウムからなる主結晶粒子に対して、相対的に輝度が低く、暗く観察される第2結晶粒子42の存在を確認することができなかった。
【0149】
他方、実施例1~5においては、コア-シェル構造は存在すると判断され、XRDにおいてBa4Ti11O26が存在し、さらに第2結晶粒子42におけるTiに対するBaの元素比率v、およびTiに対するMnの元素比率w、が0.16≦v≦0.70および0.02≦w≦0.10の範囲にあることで、第2結晶粒子42の存在も明らかであった。また、表1で示したとおり、Δε/℃の値は12以下であり、抵抗率も2.0×108Ω・cm以上であり、且つその平均粒子径は500nm以下の大きさであり、ε>2500以上の誘電率を持っていた。したがって、例えば生産性効率を上げるために、既存の焼成炉よりも大型の焼成炉を用いた場合においても、炉内の温度分布に対して得られる比誘電率、すなわち積層セラミックコンデンサとしてはその静電容量Cpの値が大きな分布を持たない。このため、高速昇温による短時間での焼成においても、より大量生産を可能にでき、なおかつ、十分な信頼性を得ることが可能である。
[焼成工程の酸素分圧による影響確認]
【0150】
(実施例6)
実施例6では、バリウムとカルシウムがモル比で95:5となるチタン酸バリウムカルシウム粉末100molに対して、Gd2O3を0.75mol添加し、TiO2を2.0mol添加し、MnCO3を1.5mol添加し、SiO2を1.0mol添加し、MgOを0.5mol添加し、誘電体磁器組成物を得た。(Ba+Ca)/Ti元素比率は、0.980とした。焼成温度は、1230℃とした。酸素分圧は、5.3×10-9atmとした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0151】
(実施例7)
実施例7では、バリウムとカルシウムがモル比で95:5となるチタン酸バリウムカルシウム粉末100molに対して、Gd2O3を0.75mol添加し、TiO2を2.0mol添加し、MnCO3を1.5mol添加し、SiO2を1.0mol添加し、MgOを0.5mol添加し、誘電体磁器組成物を得た。(Ba+Ca)/Ti元素比率は、0.980とした。焼成温度は、1230℃とした。酸素分圧は、1.1×10-10atmとした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0152】
(比較例3)
比較例3では、バリウムとカルシウムがモル比で95:5となるチタン酸バリウムカルシウム粉末100molに対して、Gd2O3を添加せず、TiO2を2.0mol添加し、MnCO3を1.5mol添加し、SiO2を1.0mol添加し、MgOを0.5mol添加し、誘電体磁器組成物を得た。(Ba+Ca)/Ti元素比率は、0.980とした。焼成温度は、1230℃とした。酸素分圧は、5.3×10-9atmとした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0153】
(比較例4)
比較例4では、バリウムとカルシウムがモル比で95:5となるチタン酸バリウムカルシウム粉末100molに対して、Gd2O3を添加せず、TiO2を2.0mol添加し、MnCO3を1.5mol添加し、SiO2を1.0mol添加し、MgOを0.5mol添加し、誘電体磁器組成物を得た。(Ba+Ca)/Ti元素比率は、0.980とした。焼成温度は、1230℃とした。酸素分圧は、1.1×10-10atmとした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0154】
(比較例5)
比較例5では、バリウムとカルシウムがモル比で95:5となるチタン酸バリウムカルシウム粉末100molに対して、Gd2O3を0.75mol添加し、TiO2を0.2mol添加し、MnCO3を1.5mol添加し、SiO2を1.0mol添加し、MgOを0.5mol添加し、誘電体磁器組成物を得た。(Ba+Ca)/Ti元素比率は、0.998とした。焼成温度は、1220℃とした。酸素分圧は、5.3×10-9atmとした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0155】
(比較例6)
比較例6では、バリウムとカルシウムがモル比で95:5となるチタン酸バリウムカルシウム粉末100molに対して、Gd2O3を0.75mol添加し、TiO2を0.2mol添加し、MnCO3を1.5mol添加し、SiO2を1.0mol添加し、MgOを0.5mol添加し、誘電体磁器組成物を得た。(Ba+Ca)/Ti元素比率は、0.998とした。焼成温度は、1220℃とした。酸素分圧は、1.1×10-10atmとした。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0156】
表4および表5に、比較例1~6、実施例3、6、7における添加物の添加量を要約するとともに、その焼成温度、酸素分圧、平均粒子径、ε、そして150℃における抵抗率を要約した。
【表4】
【表5】
【0157】
比較例1、3,4は、希土類元素としてガドリニウムを含有しない場合における焼成中の酸素分圧を3.1×10-8から1.1×10-10atmの範囲で変更した誘電体磁器組成物の比較例である。比較例1、3,4においては、希土類元素としてガドリニウムを含有していないことで、その焼成における粒子径の制御ができず、2500から2600nmと大きく成長してしまい、結果として低抵抗な状態となってしまった。
【0158】
比較2、5、6は、添加するTiO2の量が少ない場合の、下限となる状態における焼成中の酸素分圧を3.1×10-8から1.1×10-10atmの範囲で変更した誘電体磁器組成物の比較例となる。比較例2、5、6においては、希土類元素としてガドリニウムを含有させたが、酸素分圧の低下した雰囲気で熱処理を行うと平均粒子径が450nmから630nmへ成長し、誘電率が15%程度増加した。酸素分圧の変動に対して誘電率の安定した誘電体は得られなかった。
【0159】
実施例3、6、7は、焼成中の酸素分圧を3.1×10-8から1.1×10-10atmの範囲で変更した誘電体磁器組成物の実施例である。酸素分圧に対する誘電率の変動が1%以下であった。したがって、例えば生産性効率を上げるために、既存の焼成炉よりも大型の焼成炉を用いた場合においても、炉内の焼成雰囲気の分布対して得られる誘電率、すなわち積層セラミックコンデンサとしてはその静電容量Cpの値が大きな分布を持たない。このため、より大量生産を可能にでき、なおかつ、十分な信頼性を得ることが可能である。
【0160】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。