(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175569
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】金属皮膜の成膜方法およびその成膜装置
(51)【国際特許分類】
C25D 21/08 20060101AFI20241211BHJP
C25D 17/06 20060101ALI20241211BHJP
C25D 5/02 20060101ALI20241211BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20241211BHJP
H05K 3/18 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
C25D21/08
C25D17/06 A
C25D17/06 H
C25D5/02 H
C25D7/00 J
H05K3/18 N
H05K3/18 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093452
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 春樹
(72)【発明者】
【氏名】黒田 圭児
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 功二
【テーマコード(参考)】
4K024
5E343
【Fターム(参考)】
4K024CB26
4K024FA15
5E343AA12
5E343AA22
5E343BB23
5E343BB24
5E343BB25
5E343BB44
5E343CC61
5E343DD43
5E343EE04
5E343EE17
5E343FF12
5E343FF16
5E343GG20
(57)【要約】
【課題】マスキング材の貫通部分の壁面に付着した結晶に起因した金属皮膜の成膜不良を低減することができる。
【解決手段】金属皮膜の成膜方法は、押圧工程S2を継続しながら、収容体15内の陽極11と、基材Bとの間に電圧を印加することにより、金属イオンに由来した金属皮膜Fを、所定のパターンで基材Bに成膜し、その後に、水またはめっき液からなる溶解液Wを、マスキング材60の貫通部分68に供給することにより、貫通部分68を形成する壁面68aに付着した、めっき液Lの組成の結晶Cを溶解する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と基材との間にマスキング材を挟み込んだ状態で、電解めっきにより、所定のパターンを有した金属皮膜を基材に成膜する成膜方法であって、
前記成膜方法は、
所定のパターンの貫通部分が形成された前記マスキング材で、前記基材を覆うとともに、前記電解質膜で収容体内に封止しためっき液の液圧によって、前記電解質膜を介して、前記マスキング材で前記基材を押圧する押圧工程と、
前記押圧工程を継続しながら、前記収容体内の陽極と、前記基材との間に電圧を印加することにより、前記めっき液に含まれる金属イオンを前記電解質膜に通過させ、前記金属イオンに由来した金属皮膜を、前記所定のパターンで前記基材に成膜する成膜工程と、
前記成膜工程後に、水またはめっき液を、前記マスキング材の前記貫通部分に供給することにより、前記貫通部分を形成する壁面に付着した、前記めっき液の組成の結晶を溶解する溶解工程と、を含むことを特徴とする金属皮膜の成膜方法。
【請求項2】
前記成膜工程後に、前記マスキング材を前記基材から引き離す離間工程を含み、
前記離間工程後に、前記溶解工程において、前記基材側から前記マスキング材に向かって、前記水または前記めっき液を、前記マスキング材に吹き付けることを特徴とする請求項1に記載の金属皮膜の成膜方法。
【請求項3】
前記溶解工程において、前記マスキング材による前記基材への押圧を解除した後、前記マスキング材が前記基材に接触した状態で、前記電解質膜と前記マスキング材との間に、前記水または前記めっき液を供給することを特徴とする請求項1に記載の金属皮膜の成膜方法。
【請求項4】
電解質膜と基材との間にマスキング材を挟み込んだ状態で、電解めっきにより、所定のパターンを有した金属皮膜を基材に成膜する成膜装置であって、
前記成膜装置は、
成膜用の金属イオンを含むめっき液を収容した状態で、前記めっき液を前記電解質膜で封止した収容体と、
前記電解質膜と対向する位置において前記収容体に取り付けられ、前記所定のパターンの貫通部分が形成され、前記基材を覆うマスキング材と、
前記収容体内の前記めっき液の液圧を前記電解質膜に作用させて、前記電解質膜を介して、前記マスキング材で前記基材を押圧する押圧機構と、
前記収容体に収容され、前記電解質膜に離間して配置された陽極と、
前記押圧機構により前記基材を押圧した状態で、前記陽極と前記基材との間に電圧を印加する電源と、
前記金属皮膜の成膜後に、水またはめっき液を、前記マスキング材の前記貫通部分に供給することにより、前記貫通部分を形成する壁面に付着した、前記めっき液の組成の結晶を溶解させる溶解装置と、を備えること特徴とする金属皮膜の成膜装置。
【請求項5】
前記マスキング材を前記基材から引き離す離間装置を含み、
前記溶解装置は、前記離間装置により、前記マスキング材を前記基材から引き離された後、前記基材側から前記マスキング材に向かって、前記水または前記めっき液を、前記マスキング材に吹き付けることを特徴とする請求項4に記載の金属皮膜の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に所定のパターンの金属皮膜を成膜する成膜方法および成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電解めっきにより、基材の表面に金属を析出させて、金属皮膜を成膜している(たとえば、特許文献1参照)。成膜装置は、めっき液を収容する収容体を備えている。収容体には、開口部が形成されており、開口部は、電解質膜で封止されている。成膜装置は、めっき液の液圧により電解質膜で基材を押圧する押圧機構をさらに備えている。
【0003】
ここで、基材の表面に所定のパターンの金属製の下地層が形成されている場合には、電解質膜の液圧で基材を押圧しながら、陽極と基材との間に電圧を印加する。これにより、下地層の上に所定のパターンの金属皮膜を成膜することができる。ただし、基材に所定のパターンの下地層が形成されていない場合には、たとえば、特許文献2に示すマスキング材を利用することも想定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-001658号公報
【特許文献2】特開2016-108586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2のマスキング材を用いて成膜する際に、めっき液の液圧により、電解質膜で基材を押圧するため、電解質膜から染み出しためっき液(染み出し液)が、マスキング材の貫通部分で乾燥し、貫通部分の壁面で結晶化することがある。内部に空気を取り込んだ状態で、めっき液が結晶化するため、このような状態で、金属皮膜を成膜しようとすると、貫通部分に付着した結晶が溶解し、貫通部分に空気が溜まる。この空気が起因して、金属皮膜の成膜不良が発生することがある。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、マスキング材の貫通部分の壁面に付着した結晶に起因した金属皮膜の成膜不良を低減することができる金属皮膜の成膜方法および成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題に鑑みて、本発明に係る金属皮膜の成膜方法は、電解質膜と基材との間にマスキング材を挟み込んだ状態で、電解めっきにより、所定のパターンを有した金属皮膜を基材に成膜する成膜方法であって、前記成膜方法は、所定のパターンの貫通部分が形成された前記マスキング材で、前記基材を覆うとともに、前記電解質膜で収容体内に封止しためっき液の液圧によって、前記電解質膜を介して、前記マスキング材で前記基材を押圧する押圧工程と、前記押圧工程を継続しながら、前記収容体内の陽極と、前記基材との間に電圧を印加することにより、前記めっき液に含まれる金属イオンを前記電解質膜に通過させ、前記金属イオンに由来した金属皮膜を、前記所定のパターンで前記基材に成膜する成膜工程と、前記成膜工程後に、水またはめっき液を、前記マスキング材の前記貫通部分に供給することにより、前記貫通部分を形成する壁面に付着した、前記めっき液の組成の結晶を溶解する溶解工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
より好ましい態様としては、前記成膜工程後に、前記マスキング材を前記基材から引き離す離間工程を含み、前記離間工程後に、前記溶解工程において、前記基材側から前記マスキング材に向かって、前記水または前記めっき液を、前記マスキング材に吹き付ける。別の好ましい態様としては、前記溶解工程において、前記マスキング材による前記基材への押圧を解除した後、前記マスキング材が前記基材に接触した状態で、前記電解質膜と前記マスキング材との間に、前記水または前記めっき液を供給する。
【0009】
本発明に係る金属皮膜の成膜装置は、電解質膜と基材との間にマスキング材を挟み込んだ状態で、電解めっきにより、所定のパターンを有した金属皮膜を基材に成膜する成膜装置であって、前記成膜装置は、成膜用の金属イオンを含むめっき液を収容した状態で、前記めっき液を前記電解質膜で封止した収容体と、前記電解質膜と対向する位置において前記収容体に取り付けられ、前記所定のパターンの貫通部分が形成され、前記基材を覆うマスキング材と、前記収容体内の前記めっき液の液圧を前記電解質膜に作用させて、前記電解質膜を介して、前記マスキング材で前記基材を押圧する押圧機構と、前記収容体に収容され、前記電解質膜に離間して配置された陽極と、前記押圧機構により前記基材を押圧した状態で、前記陽極と前記基材との間に電圧を印加する電源と、前記金属皮膜の成膜後に、水またはめっき液を、前記マスキング材の前記貫通部分に供給することにより、前記貫通部分を形成する壁面に付着した、前記めっき液の組成の結晶を溶解させる溶解装置と、を備えること特徴とする。
【0010】
より好ましい態様としては、前記マスキング材を前記基材から引き離す離間装置を含み、前記溶解装置は、前記離間装置により、前記マスキング材を前記基材から引き離された後、前記基材側から前記マスキング材に向かって、前記水または前記めっき液を、前記マスキング材に吹き付ける。別の好ましい態様としては、前記溶解装置は、前記マスキング材による前記基材への押圧を解除した後、前記マスキング材が前記基材に接触した状態で、前記電解質膜と前記マスキング材との間に、前記水または前記めっき液を供給する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、マスキング材の貫通部分の壁面に付着しためっき液の結晶に起因した金属皮膜の成膜不良を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】(a)は、本発明の第1実施形態に係る金属皮膜の成膜装置の一例を示す模式的断面図であり、(b)は、スクリーンマスクの模式的斜視図であり、(c)は、(b)のA-A線に沿った部分的な拡大断面図である。
【
図2】(a)は、溶解装置のノズルの位置を示す平面図であり、(b)は、(a)のB-B線に沿った部分的な拡大断面図であり、(c)および(d)は、(b)の変形例である。
【
図3】本発明の実施形態に係る金属皮膜の成膜方法の一例を説明するフロー図である。
【
図4】(a)は、
図2に示す成膜工程を説明するための模式的断面図であり、(b)は、溶解工程を説明するための拡大断面図である。
【
図5】(a)は、
図1(a)に示す変形例に係る成膜装置による成膜工程を説明するための模式図であり、(b)は、溶解工程を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、本発明の実施形態に係る金属皮膜の成膜方法に用いられる成膜装置1について説明する。
図1に示すように、成膜装置1は、電解質膜13と基材Bとの間にマスキング材60を挟み込んだ状態で、電解めっきにより、所定のパターンPの金属皮膜Fを基材Bに成膜する成膜装置である。具体的には、成膜装置1は、陽極11と、電解質膜13と、陽極11と基材Bとの間に電圧を印加する電源14と、を備える。
【0014】
成膜装置1は、陽極11およびめっき液Lを収容した収容体15と、基材Bを載置する載置台40と、収容体15に一体的に取り付けられたマスキング材60と、を備える。マスキング材60のうち、後述するスクリーンマスク62は、電解質膜13と対向する位置において、収容体15に取り付けられている。
【0015】
成膜装置1は、収容体15を昇降させる直動アクチュエータ70を備えている。直動アクチュエータ70は、スクリーンマスク62が基材Bに離接するように、収容体15を移動させる移動装置である。直動アクチュエータ70は、本発明でいう、マスキング材60を基材Bから引き離す「離間装置」に相当する。直動アクチュエータ70は、本体71に対して直動するロッド72を有しており、ロッド72の先端には、収容体15が固着されている。本実施形態では、説明の便宜上、陽極11の下方に電解質膜13を配置し、さらにその下方にマスキング材60および基材Bを配置している。直動アクチュエータ70は、電動式のアクチュエータであり、ボールねじ等(図示せず)によって、モータの回転運動を直動運動に変換する。
【0016】
基材Bは陰極として機能するものである。基材Bは、板状の基材である。本実施形態では、基材Bは、矩形状の基材である。基材Bの表面のうち、電解質膜13(スクリーンマスク62)に対向する対向面が、陰極として機能する成膜面Baである。基材Bは、たとえば、アルミニウムや銅等の金属材料からなってもよい。金属皮膜Fから配線パターンを形成する際には、基材Bは、樹脂等の絶縁性基材の表面に、銅などの下地層が形成された基材を用いる。この場合には、金属皮膜Fの成膜後、金属皮膜Fが成膜された部分以外の下地層をエッチング等で除去する。これにより、絶縁性基材の表面に、金属皮膜Fによる配線パターンを形成することができる。
【0017】
陽極11は、一例として、金属皮膜の金属と同じ金属からなる非多孔質の陽極である。陽極11は、ブロック状または平板状の形状を有する。陽極11は、収容体15に収容され、電解質膜13に離間するように配置されている。陽極11は、電源14の電圧の印加で溶解する。ただし、めっき液Lの金属イオンのみで成膜する場合、陽極11は、めっき液Lに対して不溶性の陽極である。
【0018】
陽極11は、電源14の正極に電気的に接続されている。電源14の負極は、載置台40を介して基材Bに電気的に接続され、さらには、後述するスクリーンマスク62のメッシュ部分64に接続されている。
【0019】
めっき液Lは、成膜すべき金属皮膜の金属をイオンの状態で含有している液である。その金属の一例として、銅、ニッケル、金、または、銀などを挙げることができる。めっき液Lは、これらの金属を、硝酸、リン酸、コハク酸、硫酸、スルファミン酸、またはピロリン酸などの酸で溶解(イオン化)した溶液である。該溶液の溶媒としては、一例として、水やアルコールなどが挙げられる。
【0020】
電解質膜13は、めっき液Lに接触させることにより、めっき液Lとともに金属イオンを内部に含浸(含有)することが可能となる膜である。電解質膜13は、可撓性を有した膜である。電源14により電圧を印加したときに、めっき液Lの金属イオンが、基材B側に移動することができるものであれば、電解質膜13の材料は特に限定されない。電解質膜13の材料としては、たとえばデュポン社製のナフィオン(登録商標)などのフッ素系樹脂などのイオン交換機能を有した樹脂等を挙げることができる。電解質膜13の膜厚は、5μmから200μmの範囲にあることが好ましい。
【0021】
収容体15は、めっき液Lに対して不溶性の材料からなる。収容体15には、めっき液Lを収容する収容空間15aが形成されている。収容体15の収容空間15aには、陽極11が配置されている。収容空間15aの基材Bの側には、開口部15dが形成されている。収容体15の開口部15dは、電解質膜13で覆うことにより、めっき液Lを収容した状態で、収容空間15a内のめっき液Lは電解質膜13で封止される。
【0022】
図1(a)および
図4(a)に示すように、直動アクチュエータ70は、電解質膜13とマスキング材60が接離自在となるように、ロッド72を直動させることで収容体15を昇降させる(移動させる)。本実施形態では、載置台40が固定されており、収容体15が直動アクチュエータ70により昇降する。
【0023】
収容体15は、めっき液Lを収容空間15aに供給する供給ポート15bと、めっき液Lを収容空間15aから排出する排出ポート15cを有する。供給ポート15bと排出ポート15cとは、収容空間15aを挟んで形成されている。供給ポート15bは、供給管51に流体的に接続されている。排出ポート15cは、排出管52に流体的に接続されている。
【0024】
成膜装置1は、タンク85と、供給管51と、排出管52と、循環ポンプ88と、をさらに備える。
図1に示すように、タンク85には、めっき液Lが収容されている。供給管51は、タンク85と収容体15とを接続している。供給管51には、循環ポンプ88が設けられている。循環ポンプ88は、タンク85から収容体15へめっき液Lを供給する。排出管52は、タンク85と収容体15とを接続している。排出管52には、圧力調整弁54が設けられている。圧力調整弁54は、収容空間15aのめっき液Lの圧力(液圧)を所定の圧力に調整する。
【0025】
本実施形態では、循環ポンプ88を駆動させることにより、タンク85から供給管51内に、めっき液Lが吸引される。吸引されためっき液Lは、供給ポート15bから収容空間15aに圧送される。収容空間15aのめっき液Lは、排出ポート15cを介してタンク85へ戻される。タンク85と収容体15との間で、めっき液Lを循環させる循環経路50を形成することができる。
【0026】
さらに、循環ポンプ88の駆動を持続することにより、収容空間15aのめっき液Lの液圧を、圧力調整弁54で、所定の圧力に維持することができる。循環ポンプ88は、めっき液Lの液圧を電解質膜13に作用させて、電解質膜13を介して、マスキング材60のスクリーンマスク62で基材Bを押圧するものである。本実施形態では、循環ポンプ88および圧力調整弁54が、本発明でいうところの「押圧機構」に相当する。
【0027】
マスキング材60は、載置台40と対面する側において、電解質膜13と対向する位置で、収容体15に取り付けられている。具体的には、マスキング材60は、枠体61と、スクリーンマスク62と、を備えている。スクリーンマスク62には、金属皮膜Fの所定のパターンPに応じた貫通部分68が形成されている。スクリーンマスク62は、メッシュ部分64とマスク部分65を備えている。スクリーンマスク62は、可撓性を有したマスクである。
【0028】
メッシュ部分64は、枠体61に固着されている。メッシュ部分64は、枠体61の開口を覆うように、所定の張力で張られている。メッシュ部分64は、格子状に複数の開口部64cが形成されている。メッシュ部分64は、配向された複数の線材64a、64bが交差するように、網目状に織り込まれている。複数の線材64a同士は間隔を空けて配列されており、これらに交差する複数の線材64b、64b同士も間隔を空けて配列されている。これにより、メッシュ部分64には、格子状に複数の開口部64cが形成される。
【0029】
マスク部分65は、メッシュ部分64に固着されている。マスク部分65には、所定のパターンPに応じた貫通部分68が形成されている。マスク部分65は、電解質膜13からの押圧により、成膜時に基材Bに密着する部分である。マスク部分65は、電解質膜13からの押圧により、圧縮弾性変形することが好ましい。たとえば、マスク部分65の材料として、樹脂材料またはゴム材料(たとえば、シリコーンゴム)を挙げることができる。所定のパターンPを有したスクリーンマスク62は、乳剤を用いた一般的なシルクスクリーンの製造技術で、製造可能であるため、製造方法の詳細な説明は省略する。
【0030】
スクリーンマスク62は、枠体61に固着されている。本実施形態では、スクリーンマスク62は、矩形状の外形を有している。したがって、枠体61は、矩形の額縁状の形状を有する。枠体61の材料として、ステンレス鋼などの金属材料、ポリエステルなどの樹脂材料を挙げることができる。
【0031】
成膜装置1は、めっき液Lの組成の結晶Cを溶解させる溶解装置80をさらに備える。溶解装置80は、金属皮膜Fの成膜後に、水またはめっき液からなる溶解液Wを、マスキング材60の貫通部分68に供給する。溶解液Wがめっき液である場合、成膜に用いるめっき液Lを用いてもよい。溶解装置80は、貫通部分68を形成する壁面68aに付着した結晶Cを溶解する。溶解装置80は、直動アクチュエータ70により、マスキング材60を基材Bから引き離された後、基材B側からマスキング材60に向かって、溶解液Wをマスキング材60に吹き付ける。
【0032】
具体的には、
図1(a)に示すように、溶解装置80は、溶解液Wをマスキング材60に吹き付ける複数のノズル81が、載置台40に取り付けられている。
図2(a)に示すように、複数のノズル81は、載置台40の凹部41の周りに沿って間隔を空けて配置されている。ノズル81の吹き付け角度は、マスキング材60の内側に向かうように、収容体15の移動方向に対して傾斜している。各ノズル81は、載置台40の流路84に接続されている。流路84は、圧送ポンプ82を介して、溶解液Wを収容した収容タンク83に接続されている。これにより、収容タンク83の溶解液Wを圧送ポンプ82により圧送し、圧送された溶解液Wを、流路84を介してノズル81からマスキング材60に向かって吹き付けることができる。
【0033】
本実施形態では、
図2(b)に示すように、載置台40と基材Bとの間に段差が形成されている。段差は、5~100μmの範囲にあることが好ましい。具体的には、基材Bの成膜面Baが、載置台40の表面40aよりも、凹部41に沈み込んでいる。これにより、溶解液Wを吹き付けた際に、基材Bの表面に付着した溶解液Wの液膜の液切れを抑え、金属皮膜Fまたは基材Bの表面の酸化および変色を抑えることができる。
【0034】
たとえば、
図2(c)に示すように、載置台40の凹部41の周縁に沿って、さらに凹溝42を形成してもよく、
図2(d)に示すように、載置台40の凹部41に基材Bを収容した状態で、基材Bと載置台40との間に、凹溝が形成されるように、基材Bの周縁に傾斜面Bcを形成してもよい。なお、成膜時に、載置台40の表面40aと、基材Bの成膜面Baとを同じ平面上に配置し、溶解液Wを吹き付ける際に、
図2(b)に示す状態となるように、載置台40の凹部41に収容した状態の基材Bを、載置台40に対して沈み込ませてもよい。いずれの場合も、溶解液Wを吹き付けた際に、基材Bの表面に付着した溶解液Wの液膜の液切れを抑え、液膜を安定して形成することができる。
【0035】
成膜装置1は、制御装置90をさらに備えている。制御装置90は、以下の成膜方法において、直動アクチュエータ70の駆動、電源14の通電、圧送ポンプ82、循環ポンプ88の駆動を制御している。ただし、以下に示す成膜方法を、手動で行ってもよく、制御装置90の制御で行ってもよい。
【0036】
以下に、金属皮膜の成膜方法を説明する。この成膜方法では、所定のパターンPの貫通部分68が形成されたスクリーンマスク62を、電解質膜13と基材Bとに間に挟み込んだ状態で、電解めっきにより、基材Bの表面に所定のパターンPの金属皮膜Fを成膜する。
【0037】
まず、載置工程S1で、基材Bを載置台40に載置する。具体的には、載置台40の凹部41に基材Bを収容する。次に、押圧工程S2では、直動アクチュエータ70を駆動させて、収容体15を載置台40側に移動させ、マスキング材60を基材Bの表面に接触させる。これにより、所定のパターンPの貫通部分68が形成されたスクリーンマスク62を、基材Bに配置することができる。
図4(a)に示すように、スクリーンマスク62で、基材Bを覆った状態で、電解質膜13で収容体15内に封止しためっき液Lの液圧によって、電解質膜13を介して、スクリーンマスク62で基材Bを押圧する。これにより、めっき液Lを収容空間15aに供給し、収容空間15a内のめっき液Lの圧力を、圧力調整弁54で設定された圧力とすることができる。この結果、めっき液Lの液圧で、電解質膜13を介して、スクリーンマスク62で、基材Bを押圧する。
【0038】
次に、成膜工程S3を行う。ここでは、
図4(a)に示すように、スクリーンマスク62で基材Bを押圧した状態で、めっき液Lに接触した陽極11と、基材Bとの間に、電源14の電圧を印加する。このような結果、めっき液Lに含まれる金属イオンを電解質膜13に通過させ、金属イオンに由来した金属皮膜Fを、所定のパターンPで基材Bに成膜する。
【0039】
このようにして、めっき液Lが貯蔵されたタンク85と、収容体15との循環経路50において、循環ポンプ88を駆動させることにより、めっき液Lを循環させながら、金属皮膜Fの成膜を行うことができる。収容空間15a内のめっき液Lの液圧が、貫通部分68に充填されためっき液にも作用するため、一定の液圧下で、均質な金属皮膜Fを成膜することができる。成膜時には、電圧の印加により、電解質膜13を通過する金属イオンとともに、めっき液Lの一部も、電解質膜13を通過するので、スクリーンマスク62の貫通部分68には、安定して水分が確保される。これにより、基材Bの表面で、金属イオンを安定して析出させることができる。なお、本実施形態では、循環経路50、タンク85、および収容体15のいずれかに、めっき液Lを加熱するヒータを設けてもよい。これにより、めっき液Lを加熱して、金属皮膜Fの成膜速度を高めることができる。
【0040】
次に、成膜工程S3において、所定の時間の通電により、所定の厚みの金属皮膜Fを成膜した後、離間工程S4を行う。この工程では、循環ポンプ88の駆動を停止し、収容体15内のめっき液Lの液圧を除圧する(液圧を大気圧まで降下させる)。直動アクチュエータ70を駆動させて、収容体15を載置台40から離れる方向に移動させ、電解質膜13をマスキング材60から引き離す。マスキング材60は、収容体15に取り付けられているため、めっき液Lの自重が電解質膜13に作用したとしても、電解質膜13の過度な変形を、スクリーンマスク62で保持することができる。なお、
図1(a)に示すように、離間工程S4を行う前に、収容体15の収容空間15aからめっき液Lを排出してもよい。
【0041】
次に、溶解工程S5を行う。この工程では、溶解液Wを、マスキング材60の貫通部分68に供給することにより、貫通部分68を形成する壁面68aに付着した、めっき液の組成の結晶Cを溶解する。具体的には、圧送ポンプ82を駆動させ、複数のノズル81を介して、基材B側からマスキング材60に向かって、溶解液Wを、マスキング材60に吹き付ける。これにより、貫通部分68に溶解液Wが供給され、溶解液Wが貫通部分68に保持されるとともに、貫通部分68に付着した結晶Cを溶解することができる。その後、載置台40から基材Bを取り外し、新しい基材Bに金属皮膜Fを成膜する。本実施形態では、溶解液Wは、めっき液または水(たとえば水滴等も含む)であるので、この溶解液Wに結晶Cが溶解した状態で、そのまま、次の基材Bに成膜を行っても、基材Bに安定して金属皮膜Fを成膜することができる。
【0042】
本実施形態では、めっき液Lの液圧により、電解質膜13で基材Bを押圧するため、電解質膜13から染み出しためっき液Lが、マスキング材60の貫通部分68で乾燥し、貫通部分68の壁面68aで結晶化することがある。しかしながら、めっき液Lは、内部に空気を取り込んだ状態で、結晶化されるが、溶解工程S5において、溶解装置80により、水またはめっき液からなる溶解液Wを、マスキング材60の貫通部分68に供給することにより、貫通部分68を形成する壁面68aに付着した結晶Cを溶解させることができる。これにより、成膜時に、結晶Cの溶解により生成される空気が、貫通部分68に滞留し、成膜不良が生じることを抑えることができる。
【0043】
図5(a)、(b)を参照し、本実施形態の変形例を説明する。この変形例では、マスキング材60のスクリーンマスク62が、電解質膜13と対向する位置において、電解質膜13との間に隙間が形成されるように、収容体15に取り付けられている。マスキング材60の枠体61には、枠体61内の空間に、溶解液Wを供給する供給流路15eと、溶解液Wを排出する排出流路15fとが形成されている。
【0044】
溶解装置80は、制御装置90による金属皮膜の成膜を完了させてから、マスキング材60による基材Bへの押圧を解除した後、マスキング材60が基材Bに接触した状態で、電解質膜13とマスキング材60との間の隙間に、溶解液Wを供給する。具体的には、溶解装置80は、溶解液Wを収容する収容タンク83と、収容タンク83から溶解液Wを圧送する圧送ポンプ82を有しており、圧送ポンプ82は、開閉弁58を介して、供給流路15eに接続されており、電解質膜13とマスキング材60との間の隙間Sに、溶解液Wを圧送する。溶解装置80は、排出流路15fに接続され、電解質膜13とマスキング材60との間の隙間に圧送された溶解液Wを吸引する吸引ポンプ86と、吸引された溶解液Wを回収する回収タンク87をさらに備えている。
【0045】
この変形例では、成膜工程S3において、収容体15の内部のめっき液Lが電解質膜13を透過し、電解質膜13とマスキング材60との間の隙間Sに充填される。その後、この変形例では、
図4に示すフローとは異なり、成膜工程S3後、離間工程S4の前に、溶解工程S5を行う。具体的には、溶解工程S5において、マスキング材60による基材Bへの押圧を解除した後、マスキング材60が基材Bに接触した状態で、電解質膜13とマスキング材60との間に、溶解液Wを供給する。具体的には、圧送ポンプ82を駆動して、収容タンク83の溶解液Wを、電解質膜13とマスキング材60との間に供給し、貫通部分68の壁面68aに付着した結晶Cを溶解する。さらに、吸引ポンプ86を駆動し、電解質膜13とマスキング材60との間の隙間に圧送された溶解液Wを回収タンク87に回収する。このような結果、金属皮膜Fの成膜時に貫通部分68に空気が溜まることを抑えることができる。
【実施例0046】
以下に、本発明の実施例を説明する。
[実施例1]
成膜用の基材として、15cm×15cm、厚さ0.9mmの銅板を準備した。この基材を陰極電解脱脂および純水による洗浄をそれぞれ一分間行い、10%の希硫酸による酸洗および純水による洗浄をそれぞれ一分間行った。次に、
図1に示す成膜装置で銅皮膜の成膜を行った。めっき液には、1mol/LのCuSO
4と、0.2mol/LのH
2SO
4とを含む硫酸銅水溶液を使用した。電解質膜に、デュポン社のナフィオン(登録商標)を用い、陽極にリン含有銅を用い、スクリーンマスクに、総面積1800mm
2の貫通部分が形成されたマスキング材を用いた。成膜条件は、陽極と基材との電極間距離2mm、液圧0.6MPa、電流7ASDである。このような成膜を2回繰り返すとともに、これらの成膜の間に、溶解装置による溶解を行った。
【0047】
[実施例2、3]
実施例1と同じように、基材の表面に銅皮膜を成膜した。実施例2が、実施例1と相違する点は、
図1の成膜装置と異なり、ノズルを載置台に設けずに、載置台とマスキング材との間に設けて、溶解工程を行った点である。実施例3が、実施例1と相違する点は、
図5の成膜装置を用いて、溶解工程を行った点である。
【0048】
[比較例]
実施例と同じように、基材の表面に銅皮膜を成膜した。実施例1と相違する点は、溶解工程を行っていない点である。
【0049】
比較例では、2回目の成膜において銅皮膜に欠陥が発生したが、実施例1~3では、銅皮膜の欠陥は確認できなかった。
1:成膜装置、13:電解質膜、14:電源、15:収容体、60:マスキング材、68:貫通部分、68a:壁面、70:直動アクチュエータ(離間装置)、80:溶解装置、L:めっき液、C:結晶、W:溶解液、F:金属皮膜、P:所定のパターン