(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017557
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】接地抵抗低減用スラリーの製造方法、接地電極の施工方法、及び接地抵抗低減用スラリー
(51)【国際特許分類】
H01R 43/00 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
H01R43/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120274
(22)【出願日】2022-07-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行者名:一般社団法人電気設備学会、刊行物名:2021年(第39回)電気設備学会全国大会 講演論文集(ダウンロード版)、発行日:2021年8月1日 集会名:2021年(第39回)電気設備学会全国大会、名古屋工業大学(オンライン開催)、開催日:2021年9月3日
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(71)【出願人】
【識別番号】390014649
【氏名又は名称】日本地工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093687
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 元成
(74)【代理人】
【識別番号】100168468
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 曜
(72)【発明者】
【氏名】野口 徹
(72)【発明者】
【氏名】岩本 理恵
(72)【発明者】
【氏名】荘田 崇人
(72)【発明者】
【氏名】廣▲瀬▼ 元
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 栞
(72)【発明者】
【氏名】金野 晴男
(72)【発明者】
【氏名】中田 咲子
【テーマコード(参考)】
5E051
【Fターム(参考)】
5E051DA01
5E051DA05
(57)【要約】
【課題】本発明は、環境への負荷を増加することなく、土壌への流出を抑えることができる接地抵抗低減用スラリーの製造方法、接地電極の施工方法及び接地抵抗低減用スラリーを提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る接地抵抗低減用スラリー20の製造方法は、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを含む水分散液と、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、無水石膏、塩化カリウム及び珪砂を含む接地抵抗低減剤と、を混合することを特徴とする。本発明の一実施形態に係る接地電極の施工方法は、接地抵抗低減用スラリーの製造方法で得られた接地抵抗低減用スラリー20を、地中に配置された接地電極30の周りに充填する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを含む水分散液と、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、無水石膏、塩化カリウム及び珪砂を含む接地抵抗低減剤と、を混合する、接地抵抗低減用スラリーの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記接地抵抗低減用スラリーにおける前記カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの含有量は、前記接地抵抗低減剤の0.8質量%を超え4質量%以下である、接地抵抗低減用スラリーの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の接地抵抗低減用スラリーの製造方法で得られた前記接地抵抗低減用スラリーを、少なくとも土壌と接地電極との隙間に充填する、接地電極の施工方法。
【請求項4】
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーと、水と、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、無水石膏、塩化カリウム及び珪砂を含む接地抵抗低減剤と、を含む、接地抵抗低減用スラリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接地抵抗低減用スラリーの製造方法、接地電極の施工方法、及び接地抵抗低減用スラリーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、送電線、各種の電気・電子機器等を落雷から守るため、これらの機器等のある施設や設備では接地(アース)が使用される。接地工事としては、大地と接地電極を電気的に接続するため、例えば、地面に掘った所定深さの穴の中に接地電極を入れ、接地電極の周囲に接地抵抗低減剤またはこれをスラリー状としたものを充填し、これを硬化させる工事がある(特許文献1)。
【0003】
このような接地工事に用いられる接地抵抗低減剤は、環境に負荷をかけないこと、電気的良導体であること、作業性及び土壌との密着性の観点から流動性に優れることが求められる。例えば、接地抵抗低減剤に大量の水を混ぜることでスラリーの流動性を高くしてその充填時の作業性を向上させ、さらに土壌との密着性も向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、接地工事に伴う地質調査を実施すると施設や設備の場所によって地質状況(岩盤、礫、砂、粘土など)が常に一定でなく、流動性の高いスラリーでは固まる前に土壌へ流れ出てしまう地質の場所には施工することができないことがある。一方で、土壌へ流れ出ることを防ぐためにスラリーの流動性を低下させることは、スラリーと土壌との密着性が悪くなることにより接地抵抗低減剤の性能(接地抵抗値)を損なうため、現実的ではない。したがって、このような地質においてスラリーの流動性と密着性を保ったまま土壌への流出を抑えることは難しく、様々な地質状況に合わせて流動性を変え定着させることができるという性能を備えた接地抵抗低減剤は提供されていない。
【0006】
そこで、本発明は、環境への負荷を増加することなく、土壌へスラリーが流出しやすい地質であっても土壌への流出を抑えることができる接地抵抗低減用スラリーの製造方法及び接地電極の施工方法を提供することを目的とする。また、本発明は、環境への負荷を増加することなく、土壌へスラリーが流出しやすい地質であっても土壌への流出を抑えることができる接地抵抗低減用スラリーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は前述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0008】
[1]本発明に係る接地抵抗低減用スラリーの製造方法の一態様は、
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを含む水分散液と、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、無水石膏、塩化カリウム及び珪砂を含む接地抵抗低減剤と、を混合することを特徴とする。
【0009】
[2]前記接地抵抗低減用スラリーの製造方法の一態様において、
前記接地抵抗低減用スラリーにおける前記カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの含有量は、前記接地抵抗低減剤の0.8質量%を超え4質量%以下であることができる。
【0010】
[3]本発明に係る接地電極の施工方法の一態様は、前記接地抵抗低減用スラリーの製造方法のいずれかの態様で得られた前記接地抵抗低減用スラリーを、少なくとも土壌と接地電極との隙間に充填することを特徴とする。
【0011】
[4]本発明に係る接地抵抗低減用スラリーの一態様は、
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーと、水と、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、無水石膏、塩化カリウム及び珪砂を含む接地抵抗低減剤と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る接地抵抗低減用スラリーの製造方法の一態様、接地電極の施工方法の一態様及び接地抵抗低減用スラリーの一態様によれば、天然資源由来のカルボキシメチル化セルロースナノファイバーを用いるため環境への負荷を増やすことがない。また、本発明に係る接地抵抗低減用スラリーの製造方法の一態様、接地電極の施工方法の一態様及び接地抵抗低減用スラリーの一態様によれば、土壌へスラリーが流出しやすい地質であってもスラリーが土壌中に流出する量を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施形態に係る接地電極の施工方法を説明するための模式図である。
【
図2】縦軸に硬化後のスラリーの高さ(mm)、横軸にCNF/低減剤(%)をとった滞留性能試験結果を示すグラフである。
【
図3】縦軸にスラリーの垂直方向における浸透深さ(mm)、横軸にCNF/低減剤(%)をとった滞留性能試験結果を示すグラフである。
【
図4】縦軸にスラリーの水平方向における浸透深さ(mm)、横軸にCNF/低減剤(%)をとった滞留性能試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0015】
1.接地抵抗低減用スラリーの製造方法
本実施形態に係る接地抵抗低減用スラリーの製造方法は、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを含む水分散液と、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、無水石膏、塩化カリウム及び珪砂を含む接地抵抗低減剤と、を混合する。接地抵抗低減用スラリーは、後述する接地電極の施工後に硬化して硬化体となる。まず、原料について説明し、次に、水分散液と接地抵抗低減剤とを混合する工程について説明する。
【0016】
1.1.カルボキシメチル化セルロースナノファイバー
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの平均繊維径は、0.5nm以上、1nm以上、1.5nm以上又は2nm以上が好ましい。上限は、500nm以下であることが好ましい。従って、平均繊維径が0.5~500nm、1~500nm、1.5~500nm、又は2~500nm程度であることがより好ましい。また、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの平均アスペクト比(アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
)は、通常は50以上である。上限は特に限定されないが、通常は1000以下である。平均繊維径及び平均繊維長がかかる数値範囲を満たすカルボキシメチル化セルロースナノファイバーを用いると、所望の物性値を満たすスラリーを得ることができる。
【0017】
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの平均繊維径、平均繊維長の測定は、例えば、セルロースナノファイバーの0.001質量%水分散液を調製し、この希釈分散液をマイカ製試料台に薄く延ばし、50℃で加熱乾燥させて観察用試料を作製し、原子間力顕微鏡(AFM)にて観察した形状像の断面高さを計測することにより、数平均繊維径あるいは繊維長として算出することができる。
【0018】
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの原料(以下、「セルロース系原料」ともいう)は、木材由来のクラフトパルプ又はサルファイトパルプ、それらを高圧ホモジナイザーやミル等で粉砕した粉末セルロース、或いはそれらを酸加水分解等の化学処理により精製した微結晶セルロース粉末等であってもよい。この他に、ケナフ、麻、イネ、バガス、竹等の植物由来の原料も使用し得る。量産化やコストの観点からは、粉末セルロース、微結晶セルロース粉末、或いはクラフトパルプ又はサルファイトパルプのような化学パルプが好ましい。化学パルプを用いる場合は、公知の漂白処理を施してリグニンを除去することが好ましい。漂白済みパルプとしては、例えば、白色度(ISO2470)が80%以上の漂白済みクラフトパルプ又は漂白済みサルファイトパルプを用いることができる。
【0019】
粉末セルロースは、木材パルプの非結晶部分を酸加水分解により除去した後、粉砕及び篩い分けすることで得られる微結晶性又は結晶性セルロースからなる棒軸状粒子である。粉末セルロースにおいて、セルロースの重合度は100~500程度であり、X線回折法による粉末セルロースの結晶化度は70%~90%であり、レーザー回折式粒度分布装置による体積平均粒子径は通常100μm以下であり、好ましくは50μm以下である。そのような粉末セルロースは、精選パルプを酸加水分解した後に得られる未分解残渣を精製及び乾燥し、粉砕及び篩い分けすることにより調製してもよいし、KCフロック(登録商標)(日本製紙社製)、セオラス(登録商標)(旭化成ケミカルズ社製)、アビセル(登録商標)(FMC社製)等の市販品を用いてもよい。
【0020】
漂白方法は、塩素工程(C)、二酸化塩素漂白(D)、アルカリ抽出(E)、次亜塩素酸塩漂白(H)、過酸化水素漂白(P)、アルカリ性過酸化水素工程段(Ep)、アルカリ性過酸化水素・酸素工程段(Eop)、オゾン工程(Z)、キレート工程(Q)等を組合せて行うことができる。例えば、C/D-E-H-D、Z-E-D-P、Z/D-Ep-D、Z/D-Ep-D-P、D-Ep-D、D-Ep-D-P、D-Ep-P-D、Z-Eop-D-D、Z/D-Eop-D、Z/D-Eop-D-E-D等のシーケンスで行なうことができる。なお、シーケンス中の「/」は、「/」の前後の工程を洗浄なしで連続して行なうことを意味する。
【0021】
また、上記したセルロース系原料を高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式等の分散装置や、湿式の高圧又は超高圧ホモジナイザー等で微細化したものをセルロース系原料として使用することもできる。
【0022】
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの部分構造を、一般式(1)に示す。
【0023】
【化1】
(一般式(8)中、Rは、水素原子、アルカリ金属又は一般式(2)で表される基を示す)
【0024】
【化2】
(一般式(2)中、M2は、水素原子又はアルカリ金属を示す)
一般式(1)中のR、一般式(2)中のM2として表されるアルカリ金属としては、例えば、ナトリウム、カリウムが挙げられる。中でも、ナトリウムが好ましい。
【0025】
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は、0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、0.10以上であることが更に好ましい。上限は、0.50以下が好ましく、0.40以下がより好ましい。従って、カルボキシメチル置換度は、0.01~0.50が好ましく、0.1~0.40がより好ましい。
【0026】
グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は、下記の方法で算出し得る。すなわち、1)カルボキシメチル化セルロース繊維(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。2)メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩をプロトンで置換してカルボキシメチルセルロース(以下、水素型カルボキシメチルセルロースともいう)にする。3)水素型カルボキシメチルセルロース(絶乾)を1.5~2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。4)80%メタノール15mLで水素型カルボキシメチルセルロースを湿潤させ、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。5)指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定する。6)カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’-(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(水素型カルボキシメチルセルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型カルボキシメチルセルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)F’:0.1NのH2SO4のファクター
F:0.1NのNaOHのファクター
【0027】
カルボキシメチル化の方法は、特に限定されないが例えば、発底原料としてのセルロース系原料をマーセル化し、その後エーテル化する方法が挙げられる。溶媒としては例えば、水、アルコール(例えば低級アルコール)及びこれらの混合溶媒が挙げられる。低級ア
ルコールとしては例えば、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノールが挙げられる。混合溶媒における低級アルコールの混合割合は、60~95質量%であることが好ましい。溶媒の量は、セルロース系原料に対し通常は3質量倍である。上限は特に限定されないが20質量倍である。従って、溶媒の量は3~20質量倍であることが好ましい。
【0028】
マーセル化は通常、発底原料とマーセル化剤を混合して行う。マーセル化剤としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属が挙げられる。マーセル化剤の使用量は、発底原料の無水グルコース残基当たり0.5倍モル以上が好ましく、1.0倍モル以上がより好ましく、1.5倍モル以上であることが更に好ましい。上限は、通常20倍モル以下であり、10倍モル以下が好ましく、5倍モル以下がより好ましい、従って、0.5~20倍モルが好ましく、1.0~10倍モルがより好ましく、1.5~5倍モルが更に好ましい。マーセル化剤としては、発底原料の無水グルコース残基当たり0.5~20倍モルの水酸化アルカリ金属、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用することが好ましい。
【0029】
マーセル化の反応温度は、通常0℃以上であり、好ましくは10℃以上である。上限は70℃以下、好ましくは60℃以下である。従って、反応温度は、通常0~70℃、好ましくは10~60℃である。反応時間は、通常15分以上、好ましくは30分以上である。上限は、通常8時間以下、好ましくは7時間以下である。従って、反応時間は通常15分~8時間、好ましくは30分~7時間である。
【0030】
エーテル化反応は通常、カルボキシメチル化剤をマーセル化後に反応系に追加して行う。カルボキシメチル化剤としては例えば、モノクロロ酢酸ナトリウムが挙げられる。カルボキシメチル化剤の添加量は、セルロース系原料のグルコース残基当たり通常は0.05倍モル以上が好ましく、0.5倍モル以上がより好ましく、0.8倍モル以上であることが更に好ましい。上限は、通常10.0倍モル以下であり、5倍モル以下が好ましく、3倍モル以下がより好ましい、従って、好ましくは0.05~10.0倍モル、より好ましくは0.5~5倍モル、更に好ましくは0.8~3倍モルである。反応温度は、通常30℃以上、好ましくは40℃以上であり、上限は通常90℃以下、好ましくは80℃以下である。従って反応温度は通常30~90℃、好ましくは40~80℃である。反応時間は、通常30分以上であり、好ましくは1時間以上である。上限は、通常は10時間以下、好ましくは4時間以下である。従って反応時間は、通常30分~10時間、好ましくは1時間~4時間である。カルボキシメチル化反応の間必要に応じて、反応液を撹拌してもよい。
【0031】
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーは、天然資源由来であるため、従来の接地抵抗低減剤に比べて環境への負荷を増やすことがない。
【0032】
1.2.接地抵抗低減剤
接地抵抗低減剤は、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、無水石膏、塩化カリウム及び珪砂を含む。
【0033】
接地抵抗低減剤において、酸化カルシウムの含有量は16質量%~30質量%であることができ、酸化アルミニウムの含有量は10質量%~25質量%であることができ、無水石膏の含有量は35質量%~50質量%であることができ、塩化カリウムの含有量は4.5質量%~5.5質量%であることができ、珪砂の含有量は9質量%~11質量%であることができる。
【0034】
接地抵抗低減剤としては、市販されている例えば「チコーゲルパワーI号」を採用でき
る。
【0035】
1.3.混合する工程
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを含む水分散液と接地抵抗低減剤とを混合する工程の前に、当該水分散液を作製する。カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを含む水分散液は、分散処理と好ましくは解繊処理により得られる。
【0036】
(分散処理)
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーは、粉末として提供され、施工現場で溶媒に分散される。これにより後述する混合工程及び必要に応じて行う解繊処理が容易となる。
【0037】
分散体中のカルボキシメチル化セルロースナノファイバーの固形分濃度は、通常、0.1質量%以上であり、0.2質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましい。これにより、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの量に対する液量が適量となり効率的である。上限は、通常、3質量%以下であり、2.5質量%以下が好ましい。これにより、分散処理の際の流動性を保持することができる。
【0038】
また、高圧ホモジナイザーでの解繊処理・分散処理に先立って、必要に応じて、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーに予備処理を施すことも可能である。予備処理は、高速せん断ミキサーなどの混合、攪拌、乳化、分散装置を用いて行えばよい。
【0039】
(解繊処理)
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーは、解繊処理がなされていてもよい。これにより、繊維径、繊維長等のサイズを調整できる。解繊装置は特に限定されないが、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式等の装置を用いて、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの分散体(通常は分散液)に強力なせん断力を印加することが好ましく、湿式の、高圧又は超高圧ホモジナイザーがより好ましい。効率よく解繊するには、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの分散体に印加される圧力は、50MPa以上が好ましく、より好ましくは100MPa以上であり、更に好ましくは140MPa以上である。これにより、解繊を効率的に行うことができる。解繊装置での処理(パス)回数は、1回でもよいし2回以上でもよく、2回以上が好ましい。
【0040】
分散処理においては通常、溶媒にカルボキシメチル化セルロースナノファイバーを分散する。溶媒は、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを分散できるものであれば特に限定されないが、例えば、水、有機溶媒(例えば、メタノール等の親水性の有機溶媒)、それらの混合溶媒が挙げられる。セルロース系原料が親水性であることから、溶媒は環境負荷を考慮して水であることが好ましい。
【0041】
混合する工程は、上記分散処理または上記解繊処理により得られたカルボキシメチル化セルロースナノファイバーを含む水分散液と、接地抵抗低減剤と、を混合する。この混合する工程に際して、水分散液における水の量が接地抵抗低減剤のスラリー化に適切な量になるように水を追加してもよい。混合する方法としては、例えば、容器に水分散液を入れ、その容器内の水分散液を手動攪拌、トルネードミキサー、プロペラ型・円筒型などの各種コンクリート撹拌機等で攪拌しながら粉末の接地抵抗低減剤を投入し、さらに例えば10秒~300秒だまのない均一で滑らかな状態になるまで攪拌することで接地抵抗低減用スラリーが得られる。
【0042】
接地抵抗低減用スラリーにおけるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーの含有量は、接地抵抗低減剤の0.8質量%を超え4質量%以下であることができ、1.4質量
%以上4質量%以下であることが好ましく、さらに1.8質量%以上4質量%以下であることが好ましい。また、接地抵抗低減用スラリーにおけるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーの含有量の上限は、接地抵抗低減剤の3質量%以下であることが好ましい。後述する実験結果のようにカルボキシメチル化セルロースナノファイバーの含有量が0.8質量%を超えれば土壌へのスラリーの流出が少なくなる傾向があり、1.4質量%以上であれば接地低減用スラリーにチキソトロピー性が発現し始め、1.8質量%以上であれば接地抵抗低減用スラリーがチキソトロピー性を有する。接地抵抗低減用スラリーが土壌へ適度に浸透し、かつ、土壌へ流出しすぎて散逸しないことでエトリンガイトを効率よく生成すると共に硬化体と土壌との密着性が向上し、その結果として接地性能に優れる。カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの含有量が4質量%以下であればスラリーが攪拌時や圧送時における流動性に優れるため施工しやすく、さらに3質量%以下であれば接地抵抗低減用スラリーを自重によって土壌へ充填した際における土壌と電極の隙間へ浸透しやすい流動性を有しかつ土壌との密着性も良好である。
【0043】
2.接地抵抗低減用スラリー
本実施形態に係る接地抵抗低減用スラリーは、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーと、水と、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、無水石膏、塩化カリウム及び珪砂を含む接地抵抗低減剤と、を含むことを特徴とする。また、本実施形態に係る接地抵抗低減用スラリーは、上記1の製造方法により得ることができる。
【0044】
接地抵抗低減用スラリーは、天然資源由来のカルボキシメチル化セルロースナノファイバーを用いるため、従来の接地抵抗低減剤に比べて環境への負荷を増やすことがない。
【0045】
また、接地抵抗低減用スラリーは、施工箇所への充填時における流動性に優れるため、施工時の作業性に優れる。接地抵抗低減用スラリーは、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを含むことによりせん断速度を変化させて測定した粘度の測定結果が非線形性(チキソトロピー)を示す。すなわち、接地抵抗低減用スラリーは、施工箇所への充填時には混合する工程におけるせん断力により粘度が低く、流動性に優れ、充填後は粘度が上昇してゲル化するため土壌への浸透が止まる。接地抵抗低減用スラリーの流動性の指標としては、例えば、せん断振動型粘度計により測定した23℃、せん断速度が4(1/s)以上の領域で、粘度の最大値が1000mPa・s以下であることが好ましく、さらに600mPa・s以下であることが好ましい。このように、接地抵抗低減用スラリーが充填時において流動性に優れることで、液体に近い状態で施工箇所へ流し込むことができるため作業性に優れると共に、当該施工箇所が形成された土壌への適度な浸透を確保できることで土壌との密着性にも優れる。接地抵抗低減用スラリーが土壌との密着性に優れることにより、硬化後に接地抵抗を効果的に低減させることができる。また、施工箇所へ充填が終了すると、接地抵抗低減用スラリーが土壌の隙間における抵抗力で浸透しにくくなって流れが止まる(せん断速度が低下する)とチキソトロピーの性質により粘度が上昇してゲル状となる。ゲル状となった接地抵抗低減用スラリーは適度に土壌へ浸透した状態で硬化体となり、土壌への望ましくないスラリーの散逸が防止できる。接地抵抗低減用スラリーの充填後の状態の指標としては、例えば、粘度の最大値と最小値の比、すなわちチキソ性指標が10以上であることが望ましい。
【0046】
また、本実施形態においては、粘度の測定結果における最大値/最小値の値が10以上であるときに、接地抵抗低減用スラリーがチキソトロピー性を有していると判断する。せん断振動型粘度計としては、例えば、音叉振動式粘度計SV-100(A&D社製)を用いることができる。
【0047】
一方、接地抵抗低減用スラリーは、分散・解繊したカルボキシメチル化セルロースナノファイバーがスラリー全体にネットワーク構造を形成しつつ水分を保持するため、施工箇
所へ充填されたスラリーから水分が土壌中に流出する量を抑えることができる。そのため、接地抵抗低減剤が硬化するのに必要な水分を維持することができるので、スラリーが確実に硬化する。一方、接地抵抗低減用スラリーを施工箇所へ充填した後、チキソトロピー性により静止した状態で粘性が高くなった接地抵抗低減用スラリーが掘削した穴の壁が崩壊するのを防止できる。このように水分を流出させやすい土壌であっても本実施形態に係る接地抵抗低減用スラリーであれば水分を保持できるため、従来のような流動性に優れるスラリーでは施工が難しいスラリーが流出しやすい地質であっても施工が可能になる。
【0048】
3.接地電極の施工方法
本実施形態に係る接地電極の施工方法は、上記1における接地抵抗低減用スラリー20の製造方法で得られた接地抵抗低減用スラリー20を、少なくとも土壌と接地電極30との隙間に充填する。
図1を用いて本施工方法の一例である棒状電極(接地電極30)の埋設工法について説明する。
図1は、本実施形態に係る接地電極の施工方法を説明するための模式図である。
【0049】
図1に示すように、地面の所定位置に埋設用の穴10を手掘りまたはボーリング掘削し、穴10の中に接地電極30を挿入して地中に配置する。接地電極30が穴10の所定深さに配置されたら、接地抵抗低減用スラリー20を穴10に注入する。その結果、接地抵抗低減用スラリー20が接地電極30と穴10の壁面(土壌)との隙間に充填される。接地抵抗低減用スラリー20が少なくとも土壌と接地電極30との隙間に充填されればよく、さらに接地電極30を超えた施工箇所まで接地抵抗低減用スラリー20が充填されてもよい。接地抵抗低減用スラリー20は、充填する間、自重による重力を受けて流動し、狭い土壌の隙間に浸透する。なお、本実施形態では棒状電極を縦穴に埋設するが、土壌の埋設箇所は溝状であってもよいし、斜めの穴であってもよく、電極は板状であってもよいし、帯状・ケーブル状の電極であってもよい。溝に埋設する場合には、接地抵抗低減用スラリー20が接地電極30と土壌との隙間だけでなく、接地電極30の横を満たしさらに接地電極30の上を覆うように溝に充填される。また、接地抵抗低減用スラリー20の充填は自重により行う例を説明したが、圧送ポンプを用いて接地抵抗低減用スラリー20に圧力をかけながら行ってもよいし、振動工具を用いて接地抵抗低減用スラリー20に振動を与えながら行ってもよい。
【0050】
穴10に注入された接地抵抗低減用スラリー20の一部は、穴10の壁面から土壌40内部へ浸透する。
図1では土壌40に接地抵抗低減用スラリー20が浸透した領域を浸透域42としてクロスハッチングで示す。土壌40の隙間に浸透した接地抵抗低減用スラリー20は、土壌40中に適度に浸透した後、ゲル化して浸透が停止して滞留し、その後硬化する。土壌40に接地抵抗低減用スラリー20の一部が浸透することにより、土壌40と硬化体との密着性(密着面積が広くなる)が高くなって接地抵抗を効率よく低減できる。特に地盤を構成する土壌40が粗い場合にも接地抵抗低減用スラリー20がゲル化するため浸透しすぎて散逸することを防止できる。そのため、多様な地質の地盤における接地電極30の施工に対応することができる。接地抵抗低減用スラリー20が土壌40に浸透しても、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーは天然資源由来であるため環境への負荷が小さい。また、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーのネットワークにより接地抵抗低減用スラリー20の水分が土壌40中に流出する量を抑えることができる。
【0051】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を
含む。
【実施例0052】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
(1)材料
接地抵抗低減剤:日本地工社製、チコーゲルパワーI号(以下、「低減剤」)。低減剤は、酸化カルシウム16質量%~30質量%、酸化アルミニウム10質量%~25質量%、無水石膏35質量%~50質量%、塩化カリウム4.5質量%~5.5質量%、珪砂9質量%~11質量%で構成される、
カルボキシメチル化セルロースナノファイバー(粉末):平均繊維径が15nm、アスペクト比が50(以下、「CNF」)、
水:水道水、
土壌:珪砂、JFEミネラル社製、5号、粒径が0.3mm~0.8mm、50kg。
【0054】
なお、CNFは、以下の方法により製造した。パルプを混ぜることができる撹拌機に、パルプ(NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)、日本製紙製)を乾燥質量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥質量で111g(発底原料の無水グルコース残基当たり2.25倍モル)加え、パルプ固形分が20%(w/v)になるように水を加えた。その後、30℃で30分攪拌した後にモノクロロ酢酸ナトリウムを216g(有効成分換算、パルプのグルコース残基当たり1.5倍モル)添加した。30分撹拌した後に、70℃まで昇温し1時間撹拌した。その後、反応物を取り出して中和、洗浄して、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.25のカルボキシルメチル化したパルプを得た。これを水で固形分1%とし、高圧ホモジナイザーにより20℃、150MPaの圧力で5回処理することにより解繊しCNFを得て、乾燥後、CNFの粉末を得た。
【0055】
(2)サンプル調整
撹拌容器に水300gと表1に示す量のCNFの粉末を加え、泡立て器で撹拌した。水中に分散せずかたまりとなっていたCNFは撹拌棒ですりつぶし、かたまりがなくなるまで撹拌を行った。その後、CNFを含む水分散液に、表1に示す量の低減剤を加え、泡立て器を使って3分間撹拌して、低減剤に対するCNFの量が異なる6種類のスラリー(サンプル1~6)を作製した。
【0056】
【0057】
(3)電気抵抗率の測定
接地抵抗率は、256cm3の銅板を160mm間隔開けて設置し、その間にサンプル1~6のスラリーを充填した後、接地抵抗計FT6031を使用して測定した。測定はスラリーが硬化する前の状態で行った。測定結果は、表2に示す。
【0058】
【0059】
表2に示すように、低減剤のみの接地抵抗率が42.0Ωcmであったのに対し,CNFを添加したサンプル1~6の接地抵抗率はわずかに増大したのみであった。本製品の抵抗率の仕様は100Ωcm以下であるため、CNFが2.2質量%以下であれば低減剤の電気的性能には影響がないことがわかった。
【0060】
(4)粘度測定試験
サンプル1~6のスラリーを23℃でせん断振動型粘度計の振動子のふり幅を0.07mm、0.1mm、0.2mm、0.4mm、0.6mm、0.8mm、1.0mm、1.2mm、1.0mm、0.8mm、0.6mm、0.4mm、0.2mm、0.1mm、0.07mmと変化させて粘度(mPa・s)を測定した。測定結果から粘度の最小値及びその時のせん断速度、粘度の最大値及びその時のせん断速度、粘度の最小値に対する最大値の粘度比(max/min)を求めて表3に示した。せん断振動型粘度計は、音叉振動式粘度計SV-100(A&D社製)を用いた。
【0061】
【0062】
表3に示すように、サンプル3~6は粘度比が10以上であり、大きなチキソトロピー性を示した。
【0063】
(5)滞留性能試験
土壌は、大型水槽(600×300×360mm3)に珪砂を任意の高さまで充填させたものを使用した。水槽内にはスラリー充填時の土留用として塩ビ管(半円)を6箇所設置した。塩ビ管の水槽壁面と接触する箇所には、密着性を高めるためビニールテープを貼り付けた。土壌は、珪砂5号、粒径0.3mm~0.8mm、50kg、水分量1.02%、転圧条件は50mm毎とした。
【0064】
土壌に掘削した穴(塩ビ管)へサンプル1~6の同量のスラリーを充填した後、塩ビ管を土壌から抜き取り、スラリー硬化後(充填から20時間後)におけるサンプル1~6のスラリーの硬化物の掘削穴中での高さ、スラリー硬化後の土壌への浸透深さをそれぞれ測定した。サンプル1~3は充填(塩ビ管抜き取り)直後から土壌へ染み出す様子が確認された。測定結果は、表3及び
図2~
図4に示す。
図2は滞留性能試験結果を縦軸に硬化後のスラリーの高さ(mm)、横軸にCNF/低減剤(質量%)のグラフで示し、
図3は滞留性能試験を縦軸にスラリーの垂直方向における浸透深さ(mm)、横軸にCNF/低減剤(質量%)のグラフで示し、
図4は滞留性能試験を縦軸にスラリーの水平方向における浸透深さ(mm)、横軸にCNF/低減剤(質量%)のグラフで示す。
【0065】
【0066】
表4及び
図3~
図4に示すように、低減剤に対するCNFの量が0.8質量%以下のサンプル1~3に比べて、1.4質量%以上のサンプル4~6は、土壌へのスラリーの浸透が少なく、硬化後の硬化物の残存高さも大きくなった。