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特開2024-175570樹脂添加剤、無機粒子含有樹脂組成物、樹脂添加剤の製造方法、および無機粒子含有樹脂組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175570
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】樹脂添加剤、無機粒子含有樹脂組成物、樹脂添加剤の製造方法、および無機粒子含有樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/02 20060101AFI20241211BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20241211BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
C08L101/02
C08K9/04
C08L63/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093455
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】504005035
【氏名又は名称】三笠産業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】509164164
【氏名又は名称】地方独立行政法人山口県産業技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】110000844
【氏名又は名称】弁理士法人クレイア特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野上 修
(72)【発明者】
【氏名】猪野 陽佳
(72)【発明者】
【氏名】前 英雄
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 翔伍
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA031
4J002AA041
4J002AA051
4J002CD001
4J002DE146
4J002FB086
4J002FB236
4J002FD016
4J002GQ01
4J002HA08
4J002HA09
(57)【要約】
【課題】
無機粒子を樹脂に多量に配合することができ、無機粒子の配合量が多い場合であっても、良好な流動性を有して熱伝導率を向上させると共に、封止樹脂の成形性に影響が生じにくい樹脂添加剤を提供する。
【解決手段】
水酸基を有する封止樹脂に添加される樹脂添加剤であって、無機粒子と、無機粒子の表面に形成された表面処理層と、を含み、表面処理層は有機酸からなり、表面処理層の表面にカルボキシル基を有するものである。封止樹脂は、水酸基を有するエポキシ樹脂を含み、無機粒子は、アルミナからなる粒子を含み、表面処理層は、芳香族ヒドロキシカルボン酸からなる有機酸を含んでもよい。表面処理層と封止樹脂とはエステル結合を形成し、封止樹脂との混錬粘度が、表面処理層を有しない無機粒子よりも低いものである。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基を有する封止樹脂に添加される樹脂添加剤であって、
無機粒子と、前記無機粒子の表面に形成された表面処理層と、を含み、
前記表面処理層は有機酸からなり、前記表面処理層の表面にカルボキシル基を有する、樹脂添加剤。
【請求項2】
前記封止樹脂はエポキシ基をさらに有し、
前記表面処理層の表面に形成された後処理層と、をさらに含み、
前記表面処理層のカルボキシル基は前記後処理層との間でエステル結合を構成し、
前記後処理層は、エポキシ基を有する樹脂化合物を含む、請求項1に記載の樹脂添加剤。
【請求項3】
前記表面処理層と前記封止樹脂とはエステル結合を形成し、
前記封止樹脂との混錬粘度が、前記表面処理層を有しない無機粒子よりも低い、請求項1に記載の樹脂添加剤。
【請求項4】
前記封止樹脂は、水酸基を有するエポキシ樹脂を含み、
前記無機粒子は、アルミナからなる粒子を含み、
前記表面処理層は、芳香族ヒドロキシカルボン酸からなる有機酸を含む、請求項1に記載の樹脂添加剤。
【請求項5】
前記後処理層は、水酸基を有するエポキシ化合物からなる後処理剤を含む、請求項2に記載の樹脂添加剤。
【請求項6】
前記樹脂添加剤と、前記水酸基を有する封止樹脂と、を含む、請求項1に記載の無機粒子含有樹脂組成物。
【請求項7】
前記樹脂添加剤と、前記エポキシ基を有する封止樹脂と、を含む、請求項2に記載の無機粒子含有樹脂組成物。
【請求項8】
無機粒子と、芳香族ヒドロキシカルボン酸を含む有機酸と、pH調整剤とを混合し、pHを前記無機粒子の等電点±1以下に調製した混合物を得る混合工程、
前記無機粒子を前記有機酸で処理し、表面にカルボキシル基を有する表面処理層を形成する前処理工程、を含む、樹脂添加剤の製造方法。
【請求項9】
前記前処理工程が、前記混合物を60℃以上80℃未満に加熱して混合した後に、100℃以上150℃以下に加熱して混合する加熱工程を含む、請求項8に記載の樹脂添加剤の製造方法。
【請求項10】
前記前処理工程で得られた前記無機粒子に、水酸基を有する後処理剤で後処理し、前記無機粒子の表面に後処理層を形成する後処理工程、をさらに含み、
前記後処理剤はエポキシ基を有する樹脂化合物を含み、前記樹脂化合物は水酸基を有する、請求項8に記載の樹脂添加剤の製造方法。
【請求項11】
前記混合工程で混合する前記有機酸のモル量と、前記有機酸が有するカルボキシル基の数との積の値は、前記後処理工程で使用する前記樹脂化合物のモル量と、前記樹脂化合物が有する水酸基の数との積の値と、同じである、請求項10に記載の樹脂添加剤の製造方法。
【請求項12】
前記後処理剤が、水酸基を有するエポキシ樹脂を含み、
前記無機粒子は、アルミナからなる粒子を含み、
前記表面処理層は、芳香族ヒドロキシカルボン酸からなる前記有機酸を含む、請求項10に記載の樹脂添加剤の製造方法。
【請求項13】
請求項8に記載の前処理工程で得られた前記樹脂添加剤と、水酸基を有する封止樹脂とを混合し混錬する混錬工程、を含む、無機粒子含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
請求項10に記載の後処理工程で得られた前記樹脂添加剤と、エポキシ基を有する封止樹脂とを混合し混錬する混錬工程、を含む、無機粒子含有樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂添加剤、無機粒子含有樹脂組成物、樹脂添加剤の製造方法、無機粒子含有樹脂組成物の製造方法に関し、特に、樹脂との相溶性を向上させた樹脂添加剤の製造方法、無機粒子含有樹脂組成物の製造方法、樹脂添加剤、および樹脂添加剤を含む無機粒子含有樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、樹脂中に無機粒子(フィラー)を含有させることにより、様々な機能を発現させる試みがされている。
例えば、特許文献1(特許第7184311号公報)には、無機粒子を樹脂に多量に配合することができ、無機粒子の配合量が多い場合であっても、良好な流動性を有し、また熱伝導率を向上させると共に、吸水率を低下させることができる樹脂添加剤の製造方法が記載されている。
【0003】
特許文献1に記載の樹脂添加剤の製造方法は、機粒子、有機酸、およびpH調整剤を混合してpH5以上9以下の混合物を得る混合工程、無機粒子の表面を有機酸で処理して官能基を有する表面処理層を形成する前処理工程、および表面処理層が形成された無機粒子を、窒素を含有する後処理剤で処理して、無機粒子の表面に後処理層を形成する後処理工程を含むものである。
【0004】
特許文献2(特開2010-189516号公報)には、無機フィラー(金属酸化物など)を均一に分散された形態でかつ高濃度で含有する樹脂粒子(複合樹脂粒子)が提案されている。
【0005】
特許文献2に記載の樹脂粒子(複合樹脂粒子)は、無機フィラー(金属酸化物粒子など)と、高分子と、水溶性多糖類などの助剤とを溶融混合して、無機フィラーを含有する樹脂粒子を分散相とし、前記助剤を連続相とする分散体を調製する際に、前記無機フィラーとして、加水分解縮合性基および反応性を有しない疎水性基を有する疎水化処理剤で表面処理された無機フィラーを選択することにより、無機フィラーを樹脂粒子中に高濃度でかつ均一に分散させるものである。
【0006】
特許文献3(特開2003-171577号公報)には、溶剤や樹脂などの有機媒体への親和性(親油性)および分散性に優れると共に撥水性を有し、さらに溶融混錬機等を用いた高温下での樹脂への分散においても黄変しない高い耐熱性を有する表面処理無機酸化物、その製造方法およびそれを用いた樹脂組成物が提案されている。
【0007】
特許文献3に記載の製造方法およびそれを用いた樹脂組成物は、表面に水酸基を有する多孔質無機酸化物の表面に存在する水酸基の3%以上に、アルコキシル基またはシラノール基を有する芳香族系珪素化合物を反応せしめてなる表面処理無機酸化物、および該表面処理無機酸化物および樹脂を含有する樹脂組成物である。
【0008】
特許文献4(特開2023-33936号公報)には、成形時において流動性が高く成形性に優れるとともに、硬化時において熱伝導率が高く放熱性に優れた封止用樹脂組成物が記載されている。
【0009】
特許文献4に記載の封止用樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、フェノール樹脂硬化剤と、硬化促進剤と、第一の無機フィラーと第二の無機フィラーとを含む無機フィラーと、を含む封止用樹脂組成物であって、前記第一の無機フィラーは、アルミナ粒子であり、前記第二の無機フィラーは、酸化アルミニウムとホウ酸アルミニウムとを含む複合体粒子である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第7184311号公報
【特許文献2】特開2010-189516号公報
【特許文献3】特開2003-171577号公報
【特許文献4】特開2023-33936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
無機粒子は一般に樹脂との相溶性が悪く、そのため無機粒子を樹脂に混合する際の分散性が低下することが知られている。そこで、無機粒子の表面を様々な表面処理剤で表面処理し疎水化させることにより樹脂への分散性を向上させることが検討されている。
【0012】
しかしながら、上記のとおり、各種の無機粒子は樹脂へのフィラー(充填剤)として利用され、シランカップリング剤などの表面処理剤による表面処理により、樹脂への分散性が制御されている。しかし、近年の高密度高性能な半導体は発熱量が大きく、より高い放熱性が求められる。
また、樹脂組成物で封止した半導体が、雰囲気中の水蒸気を吸水すると、はんだ付けのためにリフローを行う際に、クラックが発生するという問題が発生する。
特に、近年は半導体の小型化、高集積化、多機能化が進んでおり、そのようなシリコンチップを封止するためにより高い成形性が必要とされ、封止樹脂の硬化速度を精密に制御することが求められる。
【0013】
例えば、無機粒子に、表面処理剤として3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES、以下アミノシランともいう。)を固定する表面処理では、アミノシランのアミノ基の影響により反応系は塩基性となり、そのため表面処理剤の自己凝集反応が顕著に起こり、無機粒子の表面に表面処理剤のオリゴマーが吸着した構造が形成されることがある。この現象においては、アミノシランのアミノ基が水素結合で無機粒子表面に吸着していることが分析によって説明されている。
すなわち、シリカ粒子などの無機粒子の表面には、OH基(シラノール:Si-OH)が存在している。シラノールは親水性であるため、シリカ粒子を樹脂に配合した場合、シリカ粒子と樹脂とは馴染み難い。そこで、シランカップリング剤を用いてシリカ粒子の表面処理を行った場合、粒子表面にシランカップリング剤が付着すると共に、シランカップリング剤が自己縮合して不均一なポリマー層が形成される。このポリマー層の強度は低いため、硬化後のポリマー層でクラックが発生し易い。また、表面にポリマー層が形成されると、樹脂組成物の粘度は高くなり、流動性は低下する。
この問題により、樹脂組成物中の無機粒子の含有量に上限が生じ、その結果として放熱性に上限が生じていた。
【0014】
また、樹脂と無機粒子との親和性が悪い場合は、混合時の粘度が高くなり、無機粒子の配合量を上げることはできない。同時に、上記のとおり樹脂と無機粒子の境界付近に大きな亀裂が発生し、外部の気体を巻き込むことになる。また、シランカップリング剤の自己縮合が均一にできていないので、無機粒子と樹脂とを大きなトルクで混ぜると無機粒子表面のポリマー層が剥離し、無機粒子と樹脂との界面に亀裂(隙間)が発生する。それゆえ、樹脂組成物の硬化物の熱伝導率が低下し、また吸水率が高いという欠点がある。
【0015】
また、シリコンチップを樹脂組成物で封止するにあたり、一般にトランスファー成形またはコンプレッション成形が用いられる。この場合、金型内に樹脂を注入して硬化後に脱型するため、金型温度、樹脂注入圧力、硬化時間、成形形状などが成形性に影響するが、特に、樹脂の流動性がなくなるまでのゲルタイム(硬化時間)を制御する必要がある。このゲルタイムが短くなると、樹脂の流動性が低くなりやすく金型に対する充填性が低下し、成形性に問題が生じる場合がある。一方でゲルタイムが長くなると、バリが発生しやすくなり、金型の離型性が悪くなる場合がある。また、樹脂組成物中に拡散された添加剤または気泡等が成形中に集合しやすくなるなど、成形性が悪くなる場合がある。
従来、ゲルタイムの制御は、封止樹脂に対する硬化剤および硬化促進剤の種類と量を調製することで主に行われてきた。しかしながら、封止樹脂に樹脂添加剤(無機粒子)を充填することによって封止樹脂の硬化性に影響する場合がある。
特に、近年半導体素子の高性能化に伴い高温部品の放熱性が重視されるところ、無機粒子の含有量が極めて多い樹脂組成物が求められ、かつ、精密な硬化速度の制御が容易な無機粒子含有樹脂組成物が求められている。しかしながら、上述のように、樹脂に対する樹脂添加剤の含有量を上げつつ、硬化速度を精密に制御することは困難であった。
【0016】
本発明は上記の課題を解決するために成されたものであり、その目的は、無機粒子を樹脂に多量に配合することができ、無機粒子の配合量が多い場合であっても、良好な流動性を有して熱伝導率を向上させると共に、封止樹脂の成形性に影響が生じにくい樹脂添加剤、無機粒子含有樹脂組成物およびそれらの製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、安定性に優れた樹脂添加剤、無機粒子含有樹脂組成物およびそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
(1)
一局面に従う樹脂添加剤は、水酸基を有する封止樹脂に添加される樹脂添加剤であって、無機粒子と、無機粒子の表面に形成された表面処理層と、を含み、表面処理層は有機酸からなり、表面処理層の表面にカルボキシル基を有するものである。
【0018】
一局面に従う樹脂添加剤は、実施形態においては前処理品(後処理品の一部を含む)に相当する。この場合、無機粒子の表面に有機酸からなる表面処理層が形成され、表面処理層の表面にはカルボキシル基が存在する。したがって、無機粒子の表面に存在する水酸基と有機酸の水酸基とがエーテル結合(R-O-R’)により結合するので、無機粒子の表面に強固で均一化された表面処理層が好ましく形成される。
さらに、表面処理層の最表面にはカルボキシル基が露出するので、水酸基を有する封止樹脂に対して樹脂添加剤(前処理品)が添加されると、カルボキシル基(COOH)と水酸基(OH)とが反応して、エステル結合が形成される。
これにより、表面処理層と封止樹脂とが化学的に結合して、無機粒子の周囲が封止樹脂によって覆われることになるため、樹脂添加剤と封止樹脂との相溶性が高まる。
このようにして製造された無機粒子含有樹脂組成物は、硬化後も樹脂との界面でクラックが発生し難く、また樹脂中での凝集も起こり難い。また、樹脂組成物における無機粒子の体積率を高めることが容易となり、それによって熱伝導率を向上させると共に、吸水率を低下させることができる。
【0019】
また、表面処理層は、無機粒子とエーテル結合により結合し、さらに封止樹脂と有機酸とが化学的に結合することができるため、混錬または成形等の工程において無機粒子以外の成分が封止樹脂中に剥離または溶出することがない。
無機粒子に添加された物質が混錬以降の工程で剥離等すると、封止樹脂の硬化に遅延が生じてゲルタイムが長くなる場合がある。無機粒子の充填量が多くなるとその影響が大きくなり、成形性が悪くなる場合がある。一方で、成形性を改善するために、成形前に樹脂添加剤を洗浄することも考えられるが、その場合は洗浄によって樹脂添加剤の成分の一部が剥離する結果、封止樹脂に対して無機粒子の充填量を高くすることが困難になる場合がある。
一局面に従う樹脂添加剤によれば、無機粒子の体積率を高めて高い熱伝導率を実現するとともに、封止樹脂の硬化性に影響が生じにくく成形性に優れた無機粒子含有樹脂組成物を得ることができる。
【0020】
(2)
第2の発明に係る樹脂添加剤は、封止樹脂はエポキシ基をさらに有し、表面処理層の表面に形成された後処理層と、をさらに含み、表面処理層のカルボキシル基は後処理層との間でエステル結合を構成し、後処理層は、エポキシ基を有する樹脂化合物を含むものである。
これは、一局面に従う樹脂添加剤(前処理品)に対して更に後処理がされた樹脂添加剤であって、実施形態においては後処理品に相当するものである。すなわち、エポキシ基を有する封止樹脂に添加される樹脂添加剤であって、無機粒子と、無機粒子の表面に形成された表面処理層と、表面処理層の表面に形成された後処理層と、を含み、表面処理層と後処理層との間にエステル結合を有し、後処理層は、エポキシ基を有する樹脂化合物を含む樹脂添加剤である。
【0021】
これにより、無機粒子の表面に表面処理層が形成され、さらに表面処理層の表面に後処理層が形成されており、表面処理層のカルボキシル基は後処理層とエステル結合を構成して化学的に結合している。そして、後処理層にはエポキシ基を有する樹脂化合物を含むため、エポキシ基を有する封止樹脂との親和性が高くなる。
このようにして製造された無機粒子含有樹脂組成物は、硬化後も封止樹脂との界面でクラックが発生し難く、また樹脂中での凝集も起こり難い。また、樹脂組成物における無機粒子の体積率を高めることが容易となり、それによって熱伝導率を向上させると共に、吸水率を低下させることができる。
【0022】
また、表面処理層と後処理層とはエステル結合によって化学的に結合しているため、混錬または成形等の工程において後処理層が封止樹脂中に剥離または溶出しにくくなる。また、仮に後処理層が剥離した場合も、後処理層は封止樹脂と同類のエポキシ基を有する樹脂化合物であるため、封止樹脂の硬化性に与える影響が比較的小さい。
従来の樹脂添加剤の場合、無機粒子に添加された物質が混錬以降の工程で剥離等すると、封止樹脂の硬化に遅延が生じてゲルタイムが長くなる場合がある。無機粒子の充填量が多くなるとその影響が大きくなり、成形性が悪くなる場合がある。また、半導体の性能を向上するために封止樹脂には樹脂添加剤以外にも通常様々な化学物質が添加されるが、樹脂添加剤からの剥離成分が添加した化学物質に影響する恐れもある。一方で、成形性を改善するために、成形前に樹脂添加剤を洗浄することも考えられるが、その場合は洗浄によって樹脂添加剤の成分が剥離する結果、封止樹脂に対して無機粒子の充填量を高くすることが困難になる。
第2の発明に係る樹脂添加剤(後処理品)によれば、無機粒子の体積率を高めて高い熱伝導率を実現するとともに、封止樹脂の硬化性に影響が生じにくく成形性に優れた無機粒子含有樹脂組成物を得ることができる。
【0023】
(3)
第3の発明に係る樹脂添加剤は、第1の発明に係る樹脂添加剤であって、表面処理層と封止樹脂とはエステル結合を形成し、封止樹脂との混錬粘度が、表面処理層を有しない無機粒子よりも低いものであってよい。
【0024】
これは実施形態においては封止樹脂に混錬する前処理品に相当する。これにより、表面処理層と封止樹脂とがエステル結合により結合し、無機粒子の周囲が封止樹脂によって覆うことができるので、樹脂添加剤と封止樹脂との相溶性が高まる。また、封止樹脂との混錬が容易であるため、封止樹脂に対する無機粒子の充填量を高くすることが可能となり、より放熱性に優れた無機粒子含有樹脂組成物とすることができる。
【0025】
(4)
第4の発明に係る樹脂添加剤は、第1または第3の発明に係る樹脂添加剤であって、封止樹脂は、水酸基を有するエポキシ樹脂を含み、無機粒子は、アルミナからなる粒子を含み、表面処理層は、芳香族ヒドロキシカルボン酸からなる有機酸を含んでもよい。
【0026】
これは実施形態においては封止樹脂に混錬する前処理品に相当する。これにより、無機粒子を樹脂に更に多量に配合することができ、無機粒子の配合量が多い場合であっても、良好な流動性を有して熱伝導率を更に向上させると共に、封止樹脂の硬化性に影響が更に生じにくい樹脂添加剤にすることができる。
【0027】
(5)
第5の発明に係る樹脂添加剤は、第2の発明に係る樹脂添加剤であって、後処理層は、水酸基を有するエポキシ化合物からなる後処理剤を含んでもよい。
【0028】
これは実施形態においては後処理品に相当する。これにより、後処理層を構成するエポキシ化合物には水酸基があるので、水酸基が表面処理層と好ましく結合することができる。
したがって、後処理層は表面処理層と強固に結合するため、樹脂添加剤から後処理層の成分が剥離等しにくくなる。したがって、封止樹脂と混錬した場合も、封止樹脂または封止樹脂に添加された化学物質に対する影響を最小限にすることができる。よって、無機粒子を樹脂に更に多量に配合することができ、無機粒子の配合量が多い場合であっても、良好な流動性を有して熱伝導率を更に向上させると共に、封止樹脂の硬化性に影響が更に生じにくい樹脂添加剤にすることができる。
【0029】
(6)
他の局面に従う無機粒子含有樹脂組成物は、第1,第3または第4の発明に係る樹脂添加剤と、水酸基を有する封止樹脂と、を含むものである。
【0030】
これは実施形態においては封止樹脂と前処理品とが混錬された無機粒子含有樹脂組成物に相当する。これにより、表面処理層のカルボキシル基と、封止樹脂の水酸基とがエステル結合し、無機粒子の周囲が封止樹脂によって覆われることになるため、樹脂添加剤と封止樹脂との相溶性が高まる。
このようにして製造された無機粒子含有樹脂組成物は、硬化後も樹脂との界面でクラックが発生し難く、また樹脂中での凝集も起こり難い。また、樹脂組成物における無機粒子の体積率を高めることが容易となり、それによって熱伝導率を向上させると共に、吸水率を低下させることができる。
また、表面処理層は封止樹脂とエステル結合によって化学的に結合するため、相溶性が向上する。したがって、無機粒子の体積率を高めて高い熱伝導率を実現するとともに、封止樹脂の硬化性に影響が生じにくく成形性に優れた無機粒子含有樹脂組成物を得ることができる。
【0031】
(7)
第7の発明に係る無機粒子含有樹脂組成物は、第2または第5の発明に係る樹脂添加剤と、エポキシ基を有する封止樹脂と、を含むものである。
【0032】
これは実施形態においては封止樹脂と後処理品とが混錬された無機粒子含有樹脂組成物に相当する。これにより、エポキシ基を有する後処理層と、エポキシ基を有する封止樹脂との親和性が高くなる。
このようにして製造された無機粒子含有樹脂組成物は、硬化後も樹脂との界面でクラックが発生し難く、また樹脂中での凝集も起こり難い。また、樹脂組成物における無機粒子の体積率を高めることが容易となり、それによって熱伝導率を向上させると共に、吸水率を低下させることができる。
また、表面処理層は封止樹脂とエステル結合によって化学的に結合するため、混錬または成形等の工程において無機粒子以外の成分が封止樹脂中に剥離または溶出しにくくなる。
したがって、無機粒子の体積率を高めて高い熱伝導率を実現するとともに、封止樹脂の硬化性に影響が生じにくく成形性に優れた無機粒子含有樹脂組成物を得ることができる。
【0033】
(8)
他の局面に従う樹脂添加剤の製造方法は、無機粒子と、芳香族ヒドロキシカルボン酸を含む有機酸と、pH調整剤とを混合し、pHを無機粒子の等電点±1以下に調製した混合物を得る混合工程、無機粒子を有機酸で処理し、表面にカルボキシル基を有する表面処理層を形成する前処理工程、を含むものである。
【0034】
これは実施形態においては前処理品(後処理品を含む)の製造方法に相当する。この場合、無機粒子の表面に表面処理層が形成され、表面処理層の表面にはカルボキシル基が存在する。したがって、樹脂添加剤の最表面にはカルボキシル基が露出するので、水酸基を有する封止樹脂に対して樹脂添加剤が添加されると、カルボキシル基(COOH)と水酸基(OH)とが反応して、エステル結合が形成される。
これにより、表面処理層と封止樹脂とが化学的に結合して、無機粒子の周囲が封止樹脂によって覆われることになるため、樹脂添加剤と封止樹脂との相溶性が高まる。
【0035】
ここで、混合工程において、混合溶液のpHを無機粒子の等電点と±1の範囲に調製することによって、前処理剤(芳香族ヒドロキシカルボン酸)が無機粒子に対して好ましく結合することができる。すなわち、混合溶液のpHが無機粒子の等電点と比べて酸性側にある場合、無機粒子の表面はM-OH 等のようにプロトンが過剰の状態となり、芳香族ヒドロキシカルボン酸のカルボン酸(COO)側が無機粒子に配向するようになるため、表面処理層の形成がスムーズに進みにくくなる(図1参照)。
一方で、混合溶液のpHを無機粒子の等電点と±1の範囲に調製することによって、無機粒子の表面の水酸基と芳香族ヒドロキシカルボン酸の水酸基とが効率よく結合するので、無機粒子の表面が表面処理層によって好ましく均一化することができる。
【0036】
(9)
第9の発明に係る樹脂添加剤の製造方法は、第8の発明に係る樹脂添加剤の製造方法であって、前処理工程が、混合物を60℃以上80℃未満に加熱して混合した後に、100℃以上150℃以下に加熱して混合する加熱工程を含んでもよい。
【0037】
これは実施形態においては前処理品(後処理品を含む)の製造方法に相当する。これにより、前処理工程の溶液をアルコールと水の混合溶液とすることができ、60℃以上80℃未満に加熱混合することによって、芳香族ヒドロキシカルボン酸と無機粒子とが好ましく混合されつつ、無機粒子の水酸基と芳香族ヒドロキシカルボン酸の水酸基とが互いに近接配向する。そして、さらに溶液を100℃以上150℃以下に加熱混合することにより、無機粒子の水酸基と芳香族ヒドロキシカルボン酸の水酸基とが化学的に結合する。
したがって、無機粒子の表面を表面処理層によって好ましく均一化しつつ、無機粒子と表面処理層とを確実に結合することができる。
【0038】
(10)
第10の発明に係る樹脂添加剤の製造方法は、第8または第9の発明に係る樹脂添加剤の製造方法であって、前処理工程で得られた無機粒子に、水酸基を有する後処理剤で後処理し、無機粒子の表面に後処理層を形成する後処理工程、をさらに含み、後処理剤はエポキシ基を有する樹脂化合物を含み、樹脂化合物は水酸基を有してもよい。
【0039】
これは実施形態においては後処理品の製造方法に相当する。これにより、後処理剤に用いられるエポキシ化合物には水酸基があるので、後処理剤が表面処理層と好ましく結合することができる。
したがって、後処理層は表面処理層と強固に結合するため、樹脂添加剤から後処理層の成分が剥離等しにくくなる。したがって、封止樹脂と混錬した場合も、封止樹脂または封止樹脂に添加された化学物質に対する影響を最小限にすることができる。よって、無機粒子を樹脂に更に多量に配合することができ、無機粒子の配合量が多い場合であっても、良好な流動性を有して熱伝導率を更に向上させると共に、封止樹脂の硬化性に影響が更に生じにくい樹脂添加剤にすることができる。
【0040】
(11)
第11の発明に係る樹脂添加剤の製造方法は、第8から第10のいずれかの発明に係る樹脂添加剤の製造方法であって、混合工程で混合する有機酸のモル量と、有機酸が有するカルボキシル基の数との積の値は、後処理工程で使用する樹脂化合物のモル量と、樹脂化合物が有する水酸基の数との積の値と、同じであってもよい。
【0041】
これは実施形態においては後処理品の製造方法に相当する。例えば、カルボキシル基が1つの有機酸と水酸基が1つの後処理剤との場合、使用するモル比は1:1とすることが好ましい。これにより、表面処理層を形成する有機酸のカルボキシル基の数と、後処理層を形成する樹脂化合物の水酸基の数(モル比)が同量になるので、有機酸に対して樹脂化合物が過不足なくエステル結合により結合する。
したがって、全ての樹脂化合物が樹脂添加剤と化学的に結合するため、混錬または成形等の工程において無機粒子以外の成分が封止樹脂中に剥離または溶出しにくくなる。
【0042】
(12)
第12の発明に係る樹脂添加剤の製造方法は、第10または第11の発明に係る樹脂添加剤の製造方法であって、後処理剤が、水酸基を有するエポキシ樹脂を含み、無機粒子は、アルミナからなる粒子を含み、表面処理層は、芳香族ヒドロキシカルボン酸からなる有機酸を含むものである。
【0043】
これは実施形態においては後処理品の製造方法に相当する。これにより、無機粒子を樹脂に更に多量に配合することができ、無機粒子の配合量が多い場合であっても、良好な流動性を有して熱伝導率を更に向上させると共に、封止樹脂の硬化性に影響が更に生じにくい樹脂添加剤にすることができる。
【0044】
(13)
他の局面に従う無機粒子含有樹脂組成物の製造方法は、第8または第9の発明に係る前処理工程で得られた樹脂添加剤と、水酸基を有する封止樹脂とを混合し混錬する混錬工程、を含むものである。
【0045】
これは実施形態においては封止樹脂と前処理品とが混錬された無機粒子含有樹脂組成物の製造方法に相当する。これにより、カルボキシル基が露出する前処理層と、水酸基を有する封止樹脂とが反応して、エステル結合が形成される。
このようにして製造された無機粒子含有樹脂組成物は、硬化後も樹脂との界面でクラックが発生し難く、また樹脂中での凝集も起こり難い。また、樹脂組成物における無機粒子の体積率を高めることが容易となり、それによって熱伝導率を向上させると共に、吸水率を低下させることができる。
また、表面処理層は封止樹脂とエステル結合によって化学的に結合するため、混錬または成形等の工程において無機粒子以外の成分が封止樹脂中に剥離または溶出することがない。
したがって、無機粒子の体積率を高めて高い熱伝導率を実現するとともに、封止樹脂の硬化性に影響が生じにくく成形性に優れた無機粒子含有樹脂組成物を得ることができる。
【0046】
(14)
第14の発明に係る無機粒子含有樹脂組成物の製造方法は、第10または第11の発明に係る後処理工程で得られた樹脂添加剤と、エポキシ基を有する封止樹脂とを混合し混錬する混錬工程、を含むものである。
【0047】
これは実施形態においては封止樹脂と後処理品とが混錬された無機粒子含有樹脂組成物の製造方法に相当する。これにより、エポキシ基を有する後処理層と、エポキシ基を有する封止樹脂との親和性が高くなる。
このようにして製造された無機粒子含有樹脂組成物は、硬化後も樹脂との界面でクラックが発生し難く、また樹脂中での凝集も起こり難い。また、樹脂組成物における無機粒子の体積率を高めることが容易となり、それによって熱伝導率を向上させると共に、吸水率を低下させることができる。
また、表面処理層と封止樹脂とはエステル結合によって化学的に結合するため、混錬または成形等の工程において無機粒子以外の成分が封止樹脂中に剥離または溶出しにくくなる。また、仮に後処理層が剥離した場合も、後処理層は封止樹脂と同類のエポキシ基を有する樹脂化合物であるため、封止樹脂の硬化性に与える影響が比較的小さい。
したがって、無機粒子の体積率を高めて高い熱伝導率を実現するとともに、封止樹脂の硬化性に影響が生じにくく成形性に優れた無機粒子含有樹脂組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】本実施形態の無機粒子と前処理剤(有機酸)との関係を説明するための模式的説明図である。
図2】第2実施形態の前処理剤と後処理剤との関係を説明するための模式的説明図である。
図3】本実施形態の樹脂添加剤を洗浄したときの熱重量示差熱分析結果を示す図である。
図4】実施例2および比較例3の樹脂添加剤を洗浄したときの熱重量示差熱分析結果(高温)を示す図である。
図5】本実施形態の樹脂添加剤をエポキシ樹脂に混合した場合の充填率と粘度との関係を示す図である。
図6】第1実施形態の樹脂添加剤をフーリエ変換赤外分光法で測定した結果を示す図である。
図7】第2実施形態の樹脂添加剤をフーリエ変換赤外分光法で測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下に、本実施の形態の樹脂添加剤およびその製造方法を詳細に説明する。本発明の好ましい実施形態は以下の通りであるが、本発明はそれだけに制限されない。また、各実施形態の構成の少なくとも一部は、本発明の精神と範囲から逸脱しない範囲で、他の実施形態の一部と適宜組み合わせることができる。
【0050】
本実施形態の樹脂添加剤は、半導体のシリコンチップ等を封止するための封止樹脂に混錬される樹脂添加剤に関するものである。本実施形態の樹脂添加剤として、以下、第1実施形態および第2実施形態の樹脂添加剤について、説明する。
第1実施形態の樹脂添加剤は、無機粒子と、無機粒子の表面に形成された表面処理層と、を含む樹脂添加剤であって、後処理層を形成することなく、封止樹脂に添加して混錬可能なものである(前処理品とも言う)。
また、第2実施形態の樹脂添加剤は、無機粒子と、無機粒子の表面に形成された表面処理層と、表面処理層の表面に形成された後処理層と、を含む樹脂添加剤であって、封止樹脂に添加して混錬可能なものである(後処理品とも言う)。したがって、第1実施形態の樹脂添加剤に対して後処理層を更に形成することによって、第2実施形態の樹脂添加剤を得ることができる。
本実施形態の樹脂添加剤によれば、表面処理層または後処理層と封止樹脂との相溶性が高いため、封止樹脂に大量に配合した場合であっても、良好な流動性を有して熱伝導率を向上させることができる。更に、封止樹脂の硬化性に影響が生じにくいので、ゲルタイムの制御など封止樹脂の成形性に優れた樹脂添加剤とすることができる。また、樹脂添加剤と封止樹脂との相溶性が高いため、樹脂成形品の内部にクラックが生じにくく吸水率の低い樹脂成形品(半導体)を得ることができる。
【0051】
(第1実施形態の樹脂添加剤)
第1実施形態の樹脂添加剤(前処理品)は、水酸基(OH基)を有する封止樹脂に添加される樹脂添加剤であって、無機粒子と、無機粒子の表面に最表面層として形成された表面処理層と、を含み、表面処理層の表面にカルボキシル基を有する粒子である。無機粒子は、アルミナとすることができ、表面処理層は、芳香族ヒドロキシカルボン酸を含む表面処理剤とすることができ、封止樹脂は、水酸基を有するエポキシ樹脂とすることができる。
無機粒子の表面に存在するOH基等の官能基と、表面処理剤のOH基とがエーテル結合(R-O-R’)しているため、無機粒子と表面処理層とは化学的に強固に結合している。また、表面処理層の表面側(無機粒子と反対側)には、カルボキシル基等の官能基があるため、OH基を有する封止樹脂との間でエステル結合(R-COO-R’)を形成することができ、封止樹脂と樹脂添加剤(無機粒子)との相溶性を向上させることができる。
これにより、表面処理層は、一方側が無機粒子と化学的に結合して、他方側が封止樹脂と化学的に結合するため、混錬後の工程において表面処理剤が剥離等しにくく、封止樹脂の硬化性に影響を与えにくい樹脂添加剤とすることができる。
【0052】
(無機粒子)
本実施形態で用いられる無機粒子は特に限定されず、例えば、シリカ、アルミナ、炭化ケイ素、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどが挙げられる。さらに、タルク、クレー、マイカ、ケイ酸アルミニウム、カオリナイトなども使用することができる。
【0053】
この無機粒子を半導体封止剤の樹脂(バインダー)の添加物として用いる場合、熱伝導性を向上させる点から、窒化アルミニウム(AlN)、酸化マグネシウム(MgO)、窒化ホウ素(BN)、炭化ケイ素(SiC)、酸化アルミニウム(Al)、窒化ケイ素(Si4N4)、ケイ素(Si)、酸化ケイ素(SiO)、酸化チタン(TiO)などを用いることができる。
そして、表面処理層を好ましく形成する点からは、前処理剤との結合を効果的に行う点からは、炭化ケイ素(SiC)、酸化チタン(TiO)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ホウ素(BN)、酸化アルミニウム(Al)とすることが好ましい。
さらに、無機粒子の表面に対して表面処理剤を好ましく配向させる点からは、酸化チタン(TiO)、窒化ホウ素(BN)、酸化アルミニウム(Al)とすることがさらに好ましい。
【0054】
無機粒子の粒径および形状などは特に限定されず、その種類、使用目的に応じて適宜選択して使用される。
この無機粒子を半導体封止剤の樹脂(バインダー)の添加物として用いる場合、無機粒子の中心粒子径は2μm以上50μm以下が好ましく、より好ましくは5μm以上20μm以下であり、6μm以上15μm以下がさらに好ましい。粒径を上記範囲とすることで、樹脂成形物の熱伝導率を高めつつ機械的特性を維持することができる。粒子径は種々の組み合わせをすることが可能であり、例えば、大粒径の粒子とサブミクロンの粒子を組み合わせることで無機粒子同士の接点を増加させることができる。この場合も、パーコレーションの観点から無機粒子は樹脂中に均一に充填されることが好ましく、これにより熱伝導率を向上させることができる。
なお、本実施形態の粒径の測定は、ISO 13320に準拠し、マイクロトラックベル社製MT3000IIを用いて行った。
【0055】
この無機粒子の材料、粒径および形状は、使用される樹脂添加剤としての目的に応じて適宜選択することが可能であり、複数の材料、粒径および形状を組み合わせて使用することもできる。
例えば、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、および酸化マグネシウムは、熱伝導性材料として優れており、パワーデバイス用の絶縁グリスまたは絶縁シート、高周波部品用ケースに好適に応用できる。
【0056】
(前処理剤)
本実施形態で使用される前処理剤は有機酸であり、官能基として水酸基およびカルボキシル基を有する有機酸が好ましく、典型的にはヒドロキシカルボン酸である。
そして、無機粒子に対して有機酸の水酸基を好ましく配向させる点から、芳香族ヒドロキシカルボン酸とすることが好ましい。さらに、無機粒子と封止樹脂または後処理剤とを好ましく結合させる観点から、3-ヒドロキシ安息香酸、4-ドロキシ安息香酸、3,4-ジヒドロキシ安息香酸、3,5-ジヒドロキシ安息香酸、3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸(没食子酸)とすることが好ましく、このうち3,4-ジヒドロキシ安息香酸、3,5-ジヒドロキシ安息香酸、3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸(没食子酸)とすることが更に好ましく、3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸(没食子酸)とすることが最も好ましい。
【0057】
有機酸は水酸基を有するため、無機粒子表面に有する官能基(典型的にはヒドロキシ基[-OH])と結合することができる。そして、有機酸は官能基にカルボキシル基を有することにより、OH基を有する封止樹脂との間でエステル結合(R-COO-R’)を形成することができ、封止樹脂と樹脂添加剤(無機粒子)との相溶性を向上させることができる。また、同様にOH基を有する後処理剤との間でもエステル結合(R-COO-R’)を形成することができ、これにより前処理剤と後処理剤とを化学的に結合することができる。
【0058】
(pH調整剤)
無機粒子に対して有機酸を効果的に結合させるためには、無機粒子の水酸基(OH)に対して有機酸の水酸基(OH)を配向させることが好ましい。無機粒子に対して有機酸の水酸基を配向させる方法について、図1を用いて詳説する。
図1は、本実施形態の無機粒子(アルミナの例)と前処理剤(没食子酸の例)との関係を説明するための模式的説明図である。通常、無機粒子は純水に浸漬した場合に、粒子の表面が塩基性になる場合が多い。例えば、酸化アルミニウムの場合、ゼータ電位の等電点が5~9の範囲にあり、浸漬時間に従って粒子表面が塩基性側にシフトする。ここで、有機酸を混合すると、溶液のpHは無機粒子の等電点よりも酸性側にシフトすることになる。
ここで、無機粒子の表面のpHが等電点より酸性となると、無機粒子の表面のOH基がOH2+となるため、図1(a)に示すように、有機酸の酸(例えばCOO)が無機粒子側に配向しやすくなる。そうすると、無機粒子と有機酸との間の化学結合が効果的に進みにくくなる。
【0059】
一方で、混合工程における溶液のpHを、無機粒子の等電点付近となるように調製することによって、無機粒子の表面付近のpHは、弱アルカリ性となるため、無機粒子の表面のOH基がOHとなる。そうすると、図1(b)に示すように、有機酸の酸(例えばCOO)は無機粒子と反対側に向いて、有機酸の水酸基(OH)が無機粒子側に配向するようになる。
このようにして、混合工程において混合物(溶液)のpHを無機粒子の等電点付近に調製することにより、無機粒子の表面に表面処理剤を効果的に結合させることができるので、表面処理層を確実に形成することができる。
これにより、無機粒子と表面処理層とが化学結合により強固に結合するため、後の工程においても無機粒子から有機酸が剥離することがなく、封止樹脂の硬化性に対する影響も生じにくい。
【0060】
この場合において、混合物は、pH調整剤を用いて無機粒子の等電点付近に調製することが好ましく、具体的には、無機粒子の等電点+1以下とすることが好ましく、無機粒子の等電点+0.5以下とすることがより好ましく、無機粒子の等電点+0.3以下とすることが更に好ましい。また、無機粒子の等電点-1以上とすることが好ましく、無機粒子の等電点-0.5以上とすることが好ましく、無機粒子の等電点-0.3以上とすることが更に好ましい。これにより、無機粒子と有機酸との化学結合を好ましく進めることができる。
特に、無機粒子が酸化アルミニウム(等電点9.0)の場合、混合物のpHを等電点以上にすると、水酸化アルミニウムになりやすく析出する場合がある。したがって、酸化アルミニウムを用いる場合、混合物のpHを8.0以上9.0以下とすることが好ましく、混合物のpHを8.5以上8.95以下とすることがより好ましく、混合物のpHを8.7以上8.9以下とすることが更に好ましい。
【0061】
pH調整剤としては、炭酸塩を使用することができ、特に炭酸アンモニウムを用いることが好ましい。炭酸塩を用いることによりカルボン酸と容易に置換され、またアンモニウムを使用することにより、系内にナトリウム・カリウム等のイオンが残留することが防止される。
pH調整剤を使用して表面処理を行う場合、純水とアルコールの混合液を用いて混合物を調製することが好ましい。アルコールの例としては、エチルアルコール(エタノール)を用いることができ、アルコールに対する水の混合比率は、0.05以上0.5以下が好ましく、0.07以上0.3以下がより好ましく、0.08以上0.2以下が更に好ましい。これにより、混合液中(水溶液)に炭酸アンモニウムが溶けてpHの調整を好ましくすることができ、さらに、アルコールにより粒子の凝集を防止することができる。したがって、得られた樹脂添加剤の均一性と粒子性とを好ましく得ることができる。
【0062】
(無機粒子含有樹脂組成物)
本実施形態の無機粒子含有樹脂組成物は、樹脂添加剤と、樹脂とを含むものである。無機粒子含有樹脂組成物を半導体封止剤として用いる場合、封止樹脂(バインダー)としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂などの樹脂からなる群から選択される少なくとも一種を使用することができる。これらのなかでも無機粒子を含有する観点からシリコーン樹脂またはエポキシ樹脂を使用することが好ましく、エポキシ樹脂を使用することがより好ましくい。
【0063】
第1実施形態の樹脂添加剤(前処理品)に用いられる封止樹脂としては、水酸基を有する樹脂化合物(プレポリマー)を用いることが好ましい。これにより、樹脂化合物の水酸基(OH)と、表面処理層のカルボキシル基(COOH)とがエステル結合(R-COO-R’)を形成し、封止樹脂内に樹脂添加剤を好ましく取り込むことができる。
水酸基を有する化合物(プレポリマー)としては、水酸基を有するシリコーン樹脂または水酸基を有するエポキシ樹脂を使用することが好ましく、水酸基を有するエポキシ樹脂を使用することがより好ましい。これにより、封止樹脂と樹脂添加剤との相溶性を好ましく向上させることができる。
【0064】
第2実施形態の樹脂添加剤(後処理品)に用いられる封止樹脂としては、特に限定されるものではないが、後処理剤と同じ種類の樹脂を用いることが好ましい。例えば、後処理剤としてエポキシ樹脂を用いた場合は、封止樹脂もエポキシ樹脂を用いることが好ましい。これにより、後処理剤で被覆された樹脂添加剤を封止樹脂内に好ましく取り込むことができる。
【0065】
無機粒子が混錬された無機粒子含有樹脂組成物は、熱伝導性材料として好適に使用でき、パワーデバイス用の絶縁グリスや絶縁シート、高周波部品用ケースに使用することができる。なお、封止樹脂に混合される樹脂添加剤は、1種類であってもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
樹脂添加剤と樹脂とは、その目的と必要な物性に応じて適宜の重量比で混合することができる。この場合、種々の混合機、分散機、混錬機を用いて、樹脂添加剤と樹脂とを混錬すれば良い。例えば、混合は慣用の混練機(例えば、単軸もしくは二軸スクリュー押出機、ニーダー、カレンダーロール、バンバリーミキサー、ブラベンダーなど)を用いて行うことができる。
【0066】
(第1実施形態の樹脂添加剤の製造方法)
第1実施形態の樹脂添加剤および同樹脂添加剤を含む樹脂組成物の製造方法は、以下の通りである。
・混合工程
純水中に、芳香族ヒドロキシカルボン酸を含む有機酸と、pH調整剤とを混合し、さらに水およびアルコールの混合液と、無機粒子とを加え、pHを無機粒子の等電点±1以下に調製した混合物を得る。
水およびアルコールの混合液について、無機粒子(例えば粒径30μm)1kgに対して、純水は50g以上100g以下とすることが好ましく、アルコールは450g以上900g以下とすることが好ましい。また、純水に対するアルコールの混合液の重量比率は、8.0倍以上9.4倍以下が好ましく、8.5倍以上9.1倍以下がより好ましい。これにより、無機粒子を溶液中に好ましく分散することができ、有機酸の水酸基を好ましく配位させることができる。
【0067】
・前処理工程
無機粒子を有機酸で処理し、表面にカルボキシル基を有する表面処理層を形成する。具体的には、以下の加熱工程にて行われる。
混合工程で得られた混合物を、60℃以上80℃未満に加熱しながらミキサーで混合する(第1加熱工程)。この場合の設定温度は、アルコールの沸点以下とすることが好ましく、エタノールの場合60℃以上79℃以下が好ましく、65℃以上75℃以下がより好ましい。また、第1加熱工程の攪拌時間は、1時間以上5時間以下が好ましく、2時間以上4時間以下がより好ましい。
さらに、ミキサーの設定温度を100℃以上150℃以下に加熱して、混合する(第2加熱工程)。この場合の設定温度は、110℃以上130℃以下が好ましく、115℃以上125℃以下がより好ましい。また、第2加熱工程の攪拌時間は、0.5時間以上4時間以下が好ましく、0.8時間以上2時間以下がより好ましい。これにより、無機粒子の表面に対して表面処理層を好ましく形成することができる。
第2加熱工程で得られた粒子を、常温にすることで、第1実施形態の樹脂添加剤を得ることができる。
【0068】
(第2実施形態の樹脂添加剤)
第2実施形態の樹脂添加剤(後処理品)は、第1実施形態の樹脂添加剤に対して後処理を行ったものであり、無機粒子と、無機粒子の表面に形成された表面処理層と、表面処理層の表面に最表面層として形成された後処理層を含む粒子である。
図2は、第2実施形態の前処理剤と後処理剤との関係を説明するための模式的説明図である。図1(b)に示すように、表面処理層の表面には、カルボキシル基(COOH)が露出している。ここに、水酸基を有する後処理剤を反応させることにより、表面処理層に後処理剤がエステル結合(COO)により結合され、後処理層を形成することができる。
このようにして形成された後処理層は、表面処理層と化学的に結合されるため、混錬後の工程において表面処理剤が剥離等しにくく、表面処理剤が封止樹脂の硬化性に影響を与えにくくなる。また、仮に後処理層が剥離等した場合も、後処理層は封止樹脂と同類のエポキシ樹脂であるため、封止樹脂の硬化性に与える影響が最小限となる。
さらに、後処理剤を封止樹脂と同じ種類の樹脂化合物にすることにより、第2実施形態の樹脂添加剤と封止樹脂との相溶性が向上するため、封止樹脂に大量に配合した場合であっても、良好な流動性を有して熱伝導率を向上させることができる。
【0069】
(後処理剤)
第2実施形態に使用される後処理剤としては、水酸基(OH)を有する樹脂化合物(プレポリマー)を使用することができ、例えば、水酸基を有するエポキシ樹脂、水酸基を有するシリコーン樹脂、水酸基を有するウレタン樹脂、水酸基を有するアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも一種を使用することができる。そして、このうち水酸基を有するエポキシ樹脂または水酸基を有するシリコーン樹脂を用いることが好ましく、水酸基を有するエポキシ樹脂を用いることが更に好ましい。これにより、封止樹脂との相溶性が高くなり、樹脂粘度の上昇を抑えて高密度充填が可能となるので熱伝導率が高くなる。また、樹脂が硬化した後も亀裂等が生じにくいため、機械的物性に優れて吸水性が低く安定性に優れた樹脂成形物とすることができる。
【0070】
水酸基を有するエポキシ化合物(プレポリマー)としては、グリシジルエーテル化合物を使用することができる。グリシジルエーテル化合物は、アルコール化合物をグリシジルエーテル化することで得られるものであり、2官能以上のアルコール化合物であることが好ましく、3官能以上のアルコール化合物であることがより好ましい、
水酸基を有するエポキシ化合物(プレポリマー)としては、2つ以上の水酸基を有するグリシジルエーテルを使用することが好ましく、その例としては、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリブタジエンジグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、p-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、フタル酸ジグリシジル、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、等を挙げることができる。
このうち、水酸基を有するエポキシ化合物(プレポリマー)としては、2つ以上の水酸基を有するグリシジルエーテルを使用することが更に好ましく、その例としては、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、等を挙げることができ、このうち、より安定な後処理層を形成する点で、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルは好ましく、さらに、封止樹脂と混錬したときの粘度をより小さくする点で、ソルビトールポリグリシジルエーテルが第2実施形態に使用される後処理剤として特に好適である。
なお、後処理剤は単独で又は2種以上を適宜組み合わせてもよい。
【0071】
後処理工程における後処理剤の配合量は、表面処理剤のカルボキシル基の数と、後処理剤の水酸基の数(モル比)が同量になるよう調製することが好ましい。具体的には、カルボキシル基が1つの有機酸と水酸基が1つの後処理剤との場合、前処理剤のモル量の0.5倍以上1.5倍以下が好ましく、0.8倍以上1.2倍以下がより好ましく、0.9倍以上1.1倍以下が更に好ましく、1倍(1:1)とすることが最も好ましい。この場合、分子中の反応基が2倍の場合は、好適なモル量は1/2とすればよい。
これにより、表面処理層に対して後処理剤が過不足なく結合するので、後の工程において後処理剤が剥離等することがなく、封止樹脂の硬化性に影響を与えることがなくなる。
【0072】
(第2実施形態の樹脂添加剤の製造方法)
第2実施形態の樹脂添加剤の製造方法は、第1実施形態の樹脂添加剤に対して後処理工程を行うものである。
・後処理工程
第1実施形態の樹脂添加剤に対して、水酸基を有する後処理剤で後処理し、無機粒子の表面に後処理層を形成する。
すなわち、第1実施形態の前処理工程で得られた樹脂添加剤と、後処理剤とをアルコール内に混合し、60℃以上80℃未満に加熱しながらミキサーで混合する(第3加熱工程)。この場合の設定温度は、アルコールの沸点以下とすることが好ましく、エタノールの場合60℃以上79℃以下が好ましく、65℃以上75℃以下がより好ましい。また、第3加熱工程の攪拌時間は、15分以上60分以下が好ましく、20分以上45分以下がより好ましい。
さらに、ミキサーの設定温度を100℃以上150℃以下に加熱して、混合する(第4加熱工程)。この場合の設定温度は、110℃以上130℃以下が好ましく、115℃以上125℃以下がより好ましい。また、第4加熱工程の攪拌時間は、0.5時間以上4時間以下が好ましく、0.8時間以上2時間以下がより好ましい。これにより、表面処理層の表面に対して後処理層を好ましく形成することができる。
第4加熱工程で得られた粒子を、常温にすることで、第2実施形態の樹脂添加剤を得ることができる。
【0073】
各実施例および比較例の製造工程および測定方法を以下に詳述し、表1~2および図1~6に測定結果を示す。
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0074】
(実施例1)
表面処理剤(有機酸)として没食子酸・1水和物(富士化学社製)を0.05重量部、pH調整剤として炭酸アンモニウム(富士フィルム和光純薬社製)を0.08重量部用意し、蒸留水100mL(アルミナ1Kgの場合)に溶解させた。そして、水とエタノールの混合液(水:エタノール=1:9)を900mL加え、pH=8.9となるように調整した。
このようにして得られた溶液に、無機粒子として酸化アルミニウム(粒径30μm)を100重量部加えて、ヘンシェルミキサー(日本コークス社製)で攪拌した。なお、本実施例で使用した酸化アルミニウムは、平均粒径30μm、等電点9.0である。<混合工程>
そして、ヘンシェルミキサーの温度を70℃に設定して3時間攪拌し<第1加熱工程>、続いて、温度を120℃に設定して1時間攪拌した<第2加熱工程>。
このようにして、得られた粒子を常温に戻して、樹脂添加剤とした(前処理品;第1実施形態の樹脂添加剤)。
【0075】
(実施例2)
実施例1で得られた前処理品を100重量部、後処理剤としてエポキシプレポリマーのソルビトールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製EX-614B)を1.0重量部用意し、エタノール500mLに混合し、ヘンシェルミキサーで攪拌した。なお、本実施例で使用したソルビトールポリグリシジルエーテルは、化合物中に水酸基を通常2個含むものである。
そして、ヘンシェルミキサーの温度を70℃に設定して30分間攪拌し<第3加熱工程>、続いて、温度を120℃に設定して1時間攪拌した<第4加熱工程>。
このようにして、得られた粒子を常温に戻して、樹脂添加剤とした(後処理品;第2実施形態の樹脂添加剤)。
【0076】
(実施例3)
実施例2において、ソルビトールポリグリシジルエーテルを0.1重量部とした以外は、実施例2と同様にして、樹脂添加剤(後処理品)を得た。
なお、本実施例は、表面処理剤(没食子酸)と、後処理剤(ソルビトールポリグリシジルエーテル)のモル比が1:1となるように調製したものである。
【0077】
(実施例4)
実施例2において、ソルビトールポリグリシジルエーテル1.0重量部を、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製EX-521)1.0重量部とした以外は、実施例2と同様にして、樹脂添加剤(後処理品)を得た。
なお、本実施例で用いたポリグリセロールポリグリシジルエーテルは、化合物中に水酸基を通常3個含むものである。
【0078】
(実施例5)
実施例2において、ソルビトールポリグリシジルエーテル1.0重量部を、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製EX-252)1.0重量部とした以外は、実施例2と同様にして、樹脂添加剤(後処理品)を得た。
なお、本実施例で用いたビスフェノールAジグリシジルエーテルは、化合物中に水酸基を含まないものである。
【0079】
(実施例6)
実施例2において、ソルビトールポリグリシジルエーテル1.0重量部を、グリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製EX-313)1.0重量部とした以外は、実施例2と同様にして、樹脂添加剤(後処理品)を得た。
なお、本実施例で用いたグリセロールポリグリシジルエーテルは、化合物中に水酸基を通常0~1個含むものである(水酸基なしと水酸基1個との混合物)。
【0080】
(比較例1)
実施例1において、pH調整剤を添加せず混合液のpHを5.5とした以外は、実施例1と同様にして、樹脂添加剤(前処理品)を得た。
【0081】
(比較例2)
実施例2において、ソルビトールポリグリシジルエーテル1.0重量部を、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製KBM-903)1.0重量部とした以外は、実施例2と同様にして、樹脂添加剤(後処理品)を得た。
なお、本実施形態で用いた3-アミノプロピルトリエトキシシランは、アミノ基を有するシランカップリング剤であり、エポキシ基を有しない後処理層を形成したものである。
【0082】
(比較例3)
無機粒子として酸化アルミニウム(粒径30μm)を100重量部、後処理剤としてエポキシプレポリマーのソルビトールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製EX-614B)を1.0重量部用意し、エタノール500mLに混合し、ヘンシェルミキサーで攪拌した。
そして、ヘンシェルミキサーの温度を70℃に設定して30分間攪拌し<第3加熱工程>、続いて、温度を120℃に設定して1時間攪拌した<第4加熱工程>。
このようにして、得られた粒子を常温に戻して、樹脂添加剤とした(後処理品;第2実施形態の樹脂添加剤)。
なお、本比較例は、実施例2において、前処理を行わず後処理のみを行ったものである。
【0083】
(比較例4)
比較例として、何ら処理を行っていない酸化アルミニウムを樹脂添加剤とした。
【0084】
(熱重量示差熱分析)
洗浄しない樹脂添加剤と、洗浄済の樹脂添加剤とを加熱して重量変化を調べた。
各実施例および比較例で得られた樹脂添加剤(処理粒子)を洗浄するために、樹脂添加剤1重量部と、エタノール10重量部とをビーカに入れて、スターラーで1200rpmで3分間攪拌した。その後、常温で1分間放置して、上澄み液をデカンテイション(傾斜法)により除去し、沈降物を乾燥させて、洗浄済の樹脂添加物を得た<洗浄工程>。
洗浄しない樹脂添加剤と、洗浄済の樹脂添加剤とを、それぞれ熱重量示差熱分析装置TG-DTA(リガク社製Thermo Plus EVo2)に入れて300℃までの重量変化を調べた。測定した結果を図3に示す。洗浄しない樹脂添加剤の重量変化率を実線で示し、洗浄済の樹脂添加剤の重量変化率を破線で示した。
【0085】
図3(a)は、実施例1(前処理品)の洗浄有無の比較であり、未洗浄の樹脂添加剤を昇温洗浄しても重量変化がほぼ無いことが確認された。したがって、表面処理層は無機粒子に強固に結合していることが示唆される。
図3(b)は、実施例2(後処理品)の洗浄有無の比較であり、未洗浄の樹脂添加剤を昇温すると、重量がやや減少することが確認された。一方で、洗浄済の樹脂添加剤を昇温しても重量変化がないことから、未洗浄の樹脂添加剤は、後処理層の一部が分解したことが示唆される。
なお、後処理剤(ソルビトールポリグリシジルエーテル)を単独で昇温した場合も、高温に昇温すると同様に重量が減少する。すなわち、未洗浄の樹脂添加剤は、表面処理層と化学的に結合していない後処理剤が分解するので、昇温に伴い重量が減少したものと考えられる。
図3(c)は、実施例3(モル比1:1の後処理品)の洗浄有無の比較であり、未洗浄の樹脂添加剤を昇温洗浄しても重量変化が無いことが確認された。したがって、後処理層は前処理層に強固に結合し化学的安定性も優れていることが示唆される。
また、実施例2と実施例3との比較から、前処理剤のモル比と後処理剤のモル比とを1:1にすることで、後処理剤を過不足なく結合できることが示唆される。そして、実施例2(図3(b))のような重量減少は見られないことから、表面処理層と化学的に結合した後処理剤は、後処理層の安定性が高く、昇温しても実施例2のようには分解しないものと考えられる。
図3(d)は、実施例4(水酸基が3個の後処理品)であり、図3(e)は、実施例5(水酸基がない後処理品)であり、図3(f)は、実施例6(水酸基が0~1個の後処理品)である。
【0086】
未洗浄の樹脂添加剤(実線)について、図3(d)(e)(f)を図3(b)の実施例2(水酸基が2個の後処理品)とも併せて比較すると、重量減少量は次の通りとなっている。
重量減少量: 実施例4(水酸基が3個)<実施例2(水酸基が2個)<実施例6(水酸基が0~1個)<実施例5(水酸基が無い)
【0087】
すなわち、水酸基が無い場合は、重量減少量が多く後処理層が分解しやすいことが示唆され、一方で、後処理剤の分子中に水酸基が多くなるにつれて、後処理層の安定性が向上していることが示唆される。したがって、樹脂添加剤を封止樹脂と混錬した場合も、後処理剤および表面処理層の安定性が高いので、封止樹脂の硬化性、他の添加剤への影響および成形性への影響を最小限にすることができる。
また、実施例6(f)は120℃程度から分解が発生し、実施例5(e)は170℃程度から分解が発生したのに対して、実施例2および4は120℃~170℃ではそれほど重量が減少せず、270℃以上の高温なって分解がみられることから、樹脂添加剤の安定性(化学的安定性)が高いと考えられる。
【0088】
また、洗浄した樹脂添加剤(点線)については、表面処理剤が脱離しているため大きな重量減少は生じないが、高温(270℃~300℃)にしたときの重量減少率を調べた(表1)。
その結果、実施例5(水酸基が無い)、実施例6(水酸基が殆どない)および比較例3(前処理なし)は、高温時の重量減少量がほぼ無い(0.011以下)であるのに対して、実施例2(水酸基が2個)および実施例4(水酸基が3個)は、高温時の重量減少量が0.015以上であった。
すなわち、実施例5、6および比較例3は、表面処理層と未反応の後処理剤が、洗浄によって殆ど脱離したものと考えられるが、実施例2および4は、後処理層が表面処理層と化学的に結合していたため、洗浄では脱離せず、高温(270℃以上)によって分解が生じ、重量が減少したものと考えられる。
【0089】
【表1】
【0090】
図4は、実施例2(前処理をした後処理品)および比較例3(前処理をしない後処理品)の洗浄した樹脂添加剤における250℃~300℃の重量減少を比較したものである。なお、比較のために250℃における重量をゼロとして重量の減少率をプロットした。図4によると、比較例3は、表面処理層がないため、後処理層の殆どが洗浄によって脱離したものと考えられるが、実施例2は、表面処理層と後処理層とが結合しているため、後処理層が安定して形成され、洗浄によっても後処理層が残留し、したがって高温処理による重量変化(後処理層の分解)が生じたものと考えられる。
このことからも、表面処理層と後処理剤との結合が、後処理層の安定性に影響していることが示唆される。
【0091】
(粘度測定)
各実施例および比較例で得られた樹脂添加剤(処理粒子)を封止樹脂に混錬するため、次の通り混錬工程を行った。
エポキシ樹脂(コニシ株式会社社製 ビスフェノールA)と、硬化剤(コニシ株式会社社製 三級アミン・ポリチオール)とを重量比1:1で用意し、これに各実施例の樹脂添加剤を60体積%となるように投入した。
そして、自公転ミキサー(アズワン株式会社製AS-100)を用いて、3,600rpmで30分間混錬し、無機粒子含有樹脂組成物を得た<混錬工程>。
このようにして得られた無機粒子含有樹脂組成物の粘度を、粘度計(FUNGILAB社製Visco Basic Plus)を用いて3.0rpmで測定した。測定した結果を図5に示す。
【0092】
実施例1(pH調製した前処理品)と比較例1(酸性で調製した前処理品)とを比較すると、実施例1の方が粘度が低いことから、表面処理層がより好ましく形成されて、封止樹脂との相溶性が向上したことが示唆される。
実施例1(前処理品)と実施例2(後処理品)とを比較すると、実施例2の方が粘度が低いことから、後処理層が存在することにより、封止樹脂との相溶性が更に向上することが示唆される。
実施例1,2と比較例4(未処理アルミナ)とを比較すると、実施例1,2の方が粘度が低いことから、前処理または後処理層がより好ましく形成されて、封止樹脂との相溶性が向上したことが示唆される。
比較例2(エポキシ基を有しないシランカップリング剤)の場合も、粘度が低く封止樹脂との相溶性が示唆されるが、後述の硬化遅延が発生するので無機粒子含有樹脂組成物の成形性に影響する場合がある。
また、実施例2,4,5を比較すると、いずれも粘度は低いものの、実施例2が最も粘度が低く好ましい結果となった。よって、後処理層の安定性の観点では実施例2(水酸基が2個)および実施例4(水酸基が3個)が好ましいが、封止樹脂の粘度を最も低くする点では、実施例2がより好ましく、さらに、前処理剤および後処理剤の反応基の数を同じ(モル比1:1)とすることが最も好ましい(実施例3)。
【0093】
(吸水率測定)
樹脂と粒子を混錬した成形体の混錬状態を確認するため、オートクレーブ試験(120℃、12時間)により吸水率を測定した。樹脂と粒子の相溶性が優れて、樹脂の粘度が低く、円滑かつ綺麗に混ざることによって亀裂およびポアの少ない無機粒子含有樹脂組成物とすることができる。
実施例1および比較例4(未処理アルミナ)で得られた樹脂添加剤をエポキシ樹脂(三菱ケミカル社製 JER-807)中に分散させ、硬化させて試験片を作成した。この試験片について、オートクレーブ試験(120℃、24時間)により吸水率を測定した。
その結果、実施例1の吸水率は0.5%以下であったのに対して、比較例4の吸水率は1.0%以上であった。
【0094】
(フーリエ変換型赤外分光測定)
実施例および比較例で得られた樹脂添加剤について、フーリエ変換型赤外分光(FTIR)の分析を実施した。
表面処理剤の固着状態を分析するため、処理した粒子をメタノールで洗浄し、拡散型FTIR(日本分光社製FT/IR6300)を用いて粒子の結合状態と自己縮合状態を分析した。得られたFTIRスペクトルを図6~7に示す。
【0095】
図6は、前処理品および未処理品のC=O伸縮のスペクトルであり、実施例1(pH調製した前処理品)と比較例1(酸性で調製した前処理品)とを比較すると、実施例1の方がスペクトルが大きく表れていることから、前処理剤のカルボキシル基が最表面側に露出し、水酸基が無機粒子側に配向していることが示唆される。また、前処理をしていない比較例4は、C=O伸縮が見られない。これにより、表面処理層はpH調製することによってより好ましく形成されることが示唆される。
図7は、後処理品のC=O伸縮のスペクトルを示したFT-IRである。実施例2~4(OH基を含む後処理剤)と実施例6(OH基が少ない後処理剤)とを比較すると、実施例6のみC=O伸縮(約1650cm-1)のスペクトルが見られる。したがって、実施例2~4(OH基を含む後処理剤)は、後処理剤のOH基と表面処理層のカルボン酸とが結合することでカルボン酸が消費されたのに対して、実施例6は、後処理層との結合が十分には生じないためカルボン酸が残存して、C=O伸縮スペクトルが生じたことが示唆される。
なお、比較例2(後処理剤がシランカップリング剤)および比較例4(未処理アルミナ)は、O-H伸縮スペクトルがみられなかった。
【0096】
(封止樹脂硬化試験)
実施例1,実施例2,比較例2および比較例3で得られた樹脂添加剤について、粘度測定で示した混錬工程を行い、粘度が高まり流動性がなくなるまでの硬化時間(ゲルタイム)を調べた(表2)。
その結果、後処理剤としてシランカップリング剤を使用した比較例2は、無機粒子のみの場合(比較例5)と比べて硬化時間が長くなることが確認された。一方で、前処理品の実施例1および後処理品の実施例2は封止樹脂の硬化時間に影響しないことが確認された。すなわち、比較例2の場合、樹脂添加剤との相溶性は向上して混錬粘度は低くなるが、シランカップリング剤の影響により、封止樹脂の硬化性に影響を与えたことが示唆される。
【0097】
【表2】
【0098】
以上のことから、従来例のように無機粒子をそのまま封止樹脂と混錬すると、粘度が高く高密度の充填が困難になる(比較例3)。また、後処理剤としてエポキシ基および水酸基を有しないシランカップリング剤を用いた場合、封止樹脂との相溶性が高く粘度は低くなるが、封止樹脂の硬化性に影響が生じる(比較例2)。
また、酸性で調製した前処理品の場合、無機粒子と前処理剤との結合(エステル結合)が十分でなく、無機粒子の表面に表面処理層が十分に形成されにくいため、封止樹脂と混錬した場合に粘度が高くなる(比較例1)。
一方で、混合工程で無機粒子の等電点付近として前処理剤を配向させてエステル結合を形成することにより、表面処理層が好ましく形成された前処理剤は、封止樹脂の混錬粘度が低く、また封止樹脂の硬化性に影響を与えない(実施例1)。また、前処理品に対して後処理層を形成することにより、封止樹脂との混錬粘度を更に下げることができる(実施例2,3,4,5)。
そして、後処理剤は、水酸基が含まれる化合物を使用することにより、表面処理層との間にエステル結合が形成されて結合が強固となり剥離が生じにくく(実施例2,4,6)、さらに、水酸基が複数含まれることで安定性がより高くなる点で好ましい(実施例2,4)。そして、後処理剤は、前処理剤と反応基の数を同量(モル比を1:1)にすることで、剥離の発生を確実に防止するとともに、後処理層の安定性を特に高くすることができる(実施例3)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7