(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175585
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】蓄熱システム
(51)【国際特許分類】
F28D 20/00 20060101AFI20241211BHJP
F22B 1/16 20060101ALI20241211BHJP
F22G 1/00 20060101ALI20241211BHJP
F22B 1/06 20060101ALI20241211BHJP
F01K 3/02 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
F28D20/00 Z
F22B1/16 Z
F22G1/00
F22B1/06 Z
F01K3/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093483
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100132067
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 喜雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120444
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 雅章
(72)【発明者】
【氏名】村上 幸平
(57)【要約】
【課題】溶融塩を用いた蓄熱材を高温で利用可能としつつ、溶融塩の分解を抑制できるようにすること。
【解決手段】蓄熱システム(10)は、作動流体となる水・蒸気(ST)を加熱するボイラ(11)と、水・蒸気から動力を発生する蒸気タービン(12)と、溶融塩を用いた液相の蓄熱材(HS)を収容する高温タンク(33)及び低温タンク(34)と、水・蒸気と蓄熱材との間での熱交換を行う熱交換器(31)と、高温タンクにて、収容した溶融塩の分解を抑制する抑制部(40)とを備えている。抑制部は、溶融塩の分解によって発生するガスの濃度を測定するガス分析部(42)と、ガスに応じた充填ガスを供給するガス供給部(43)とを備えている。制御部(50)は、ガス分析部の測定結果に基づき、ガス供給部による充填ガスの供給を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体を加熱する加熱装置と、
前記作動流体から動力を発生する動力発生装置と、
溶融塩を用いた液相の蓄熱材を収容する複数のタンクと、
前記作動流体と前記蓄熱材との間での熱交換を行う熱交換器と、
前記複数のタンクの少なくとも1基にて、収容した前記溶融塩の分解を抑制する抑制部とを備えていることを特徴とする蓄熱システム。
【請求項2】
前記抑制部は、前記溶融塩の分解によって発生するガスの濃度を測定するガス分析部と、
前記ガスに応じた充填ガスを供給するガス供給部とを備え、
前記ガス分析部の測定結果に基づき、前記ガス供給部による前記充填ガスの供給を制御する制御部を更に備えていることを特徴とする請求項1に記載の蓄熱システム。
【請求項3】
前記タンク内の前記ガスを放出するガス放出弁を更に備えていることを特徴とする請求項2に記載の蓄熱システム。
【請求項4】
前記抑制部は、前記蓄熱材の液面を覆う位置に設けられる遮蔽部材を備えていることを特徴とする請求項1に記載の蓄熱システム。
【請求項5】
前記抑制部は、前記遮蔽部材を上下方向に駆動する駆動部を更に備えていることを特徴とする請求項4に記載の蓄熱システム。
【請求項6】
前記抑制部は、前記タンクから前記蓄熱材を送出するポンプと、
前記ポンプによって送出される前記蓄熱材の流量を測定する流量測定部とを備え、
前記流量測定部の測定結果に基づき、前記駆動部による前記遮蔽部材の駆動を制御する制御部を更に備えていることを特徴とする請求項5に記載の蓄熱システム。
【請求項7】
前記複数のタンクは、前記蓄熱材を収容する高温タンクと、
前記高温タンクに収容される前記蓄熱材に比べて相対的に低温となる前記蓄熱材を収容する低温タンクとを備え、
前記熱交換器は、前記加熱装置にて加熱された前記作動流体と、前記低温タンクから前記高温タンクに供給される前記蓄熱材との間で熱交換を行い、且つ、前記動力発生装置にて動力発生に用いられた作業流体と、前記高温タンクから前記低温タンクに供給される前記蓄熱材との間で熱交換を行い、
前記高温タンクに前記抑制部が設けられることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の蓄熱システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱材を用いた蓄熱システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されるシステムは、溶融塩を加熱する溶融塩加熱部と、溶融塩加熱部によって加熱された溶融塩の熱によって蒸気を発生する蒸気発生部とを備えている。また、特許文献1のシステムは、溶融塩加熱部によって加熱された高温溶融塩を貯留する高温溶融塩タンクと、蒸気発生部で蒸気発生に利用された溶融塩を貯留する低温溶融塩タンクとを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した構成にて、高温溶融塩タンクに貯留される高温溶融塩においては、温度が高くなる程、蒸気発生部で発生される蒸気の温度を上げることができ、蒸気タービンで得られる動力を増大できるメリットがある。しかしながら、溶融塩は所定温度以上で分解、気化が生じるため、溶融塩が減少したり、気化した溶融塩が配管に析出したりする、という問題がある。
【0005】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、溶融塩を用いた蓄熱材を高温で利用可能としつつ、溶融塩の分解を抑制することができる蓄熱システムを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明における一態様の蓄熱システムは、作動流体を加熱する加熱装置と、前記作動流体から動力を発生する動力発生装置と、溶融塩を用いた液相の蓄熱材を収容する複数のタンクと、前記作動流体と前記蓄熱材との間での熱交換を行う熱交換器と、前記複数のタンクの少なくとも1基にて、収容した前記溶融塩の分解を抑制する抑制部とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、抑制部によってタンクに収容した溶融塩の分解を抑制することができる。これにより、溶融塩の分解による溶融塩の減少や、気化した溶融塩の析出を抑制でき、且つ、溶融塩の温度を上げてタンクに蓄えられる蓄熱エネルギー量を増大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施の形態に係る蓄熱システムの概略構成図である。
【
図2】第1の実施の形態に係る蓄熱システムの概略構成図である。
【
図3】第2の実施の形態に係る蓄熱システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の一実施の形態に係る蓄熱システムについて、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1及び
図2は、第1の実施の形態に係る蓄熱システムの概略構成図である。
図1は蓄熱運転中、
図2は放熱運転中の状態を示している。
図1に示すように、蓄熱システム10は、例えば、火力発電システムに用いられる。蓄熱システム10は、作動流体としてH
2Oを用い、以下において、相変化に関わらず作動流体を水・蒸気STと称する。水・蒸気STは、液相の状態では水、気液相の状態では湿り飽和蒸気、気相の状態では過熱蒸気や蒸気となる。
【0010】
蓄熱システム10は、過熱蒸気を生成するボイラ(加熱装置)11と、過熱蒸気から動力を発生する蒸気タービン(動力発生装置)12と、過熱蒸気を凝縮して復水とする復水器(凝縮装置)13とを備えている。
【0011】
ボイラ11は、熱源15により水を加熱して過熱蒸気を生成(液相から気相と)する。特に限定されるものでないが、ボイラ11の熱源15は火力発電用の燃料の燃焼熱を発生するものであり、前記燃料としては、石炭・石油・天然ガス等の化石燃料、各種バイオマス燃料、水素燃料、アンモニア燃料等を使用することができる。なお、熱源15は、燃焼熱に限られず、火力発電システム以外のシステムにおいて太陽光等の自然エネルギーを利用してもよい。
【0012】
ボイラ11の筐体16には、熱源15により加熱される伝熱管17が収容されている。伝熱管17は、熱源15の燃焼熱を受けて下端部の低温部ライン20から流入する低温の水・蒸気STを加熱し、高温の水・蒸気STに変換して上端部の高温部ライン21から流出させる。高温部ライン21を介して高温の水・蒸気STは蒸気タービン12に流入する。
【0013】
蒸気タービン12は、高温部ライン21を介しボイラ11にて加熱された高圧・高温の水・蒸気STが供給される。蒸気タービン12は、水・蒸気STの熱エネルギーを吸収して出力軸12aを回転する動力を発生し、低温になった水・蒸気STを排出する。蒸気タービン12には、出力軸12aを介して発電機Gが接続され、発電機Gは、出力軸12aの回転により発電する。
【0014】
蒸気タービン12の下方には、熱エネルギーを吸収されて低温になった水・蒸気STを回収する復水器13が設けられている。復水器13内の低温の水・蒸気STは、循環ポンプ25の駆動により、低温部ライン20を介してボイラ11内の伝熱管17に流入する。なお、図示されていないが、低温部ライン20の経路内にドレン設備や熱交換器等を設けてもよい。
【0015】
蓄熱システム10は、低温部ライン20の中間部に分岐して接続される低温接続ライン27と、高温部ライン21の中間部に分岐して接続される高温接続ライン28と、各接続ライン27、28に接続される蓄放熱系30とを更に備えている。
【0016】
図2にも示すように、低温部ライン20と低温接続ライン27との間で低温の水・蒸気STが流入出し、高温部ライン21と高温接続ライン28との間で高温の水・蒸気STが流入出するようになる。
【0017】
蓄放熱系30は、熱交換器31と、複数のタンクとなる高温タンク33及び低温タンク34とを備えている。高温タンク33及び低温タンク34は、液相の蓄熱材HSを貯留(収容)している。
【0018】
蓄熱材HSは、水・蒸気STに対して液相で熱交換する顕熱式の蓄熱材であり、化学的に不活性な硝酸塩系の溶融塩が用いられる。本実施の形態では、硝酸塩系の溶融塩として、NaNO3、KNO3の混合塩が用いられる。高温タンク33に貯留する蓄熱材HSより低温タンク34に貯留する蓄熱材HSの方が相対的に低温とされ、例えば、高温タンク33に貯留する蓄熱材HSが約500[℃]、低温タンク34に貯留する蓄熱材HSが約300[℃]とされる。
【0019】
熱交換器31は、熱交換に適した形状(例えばコイル状)をなす伝熱管36と、伝熱管36及び蓄熱材HSを収容する容器37とを備えた構成が例示できる。伝熱管36には、水・蒸気STが流れる。伝熱管36の一端(下端)には、低温接続ライン27が接続され、伝熱管36の他端(上端)には、高温接続ライン28が接続される。熱交換器31は、伝熱管36に流れる水・蒸気STと、容器37内の蓄熱材HSとの間での熱交換を行う。
【0020】
高温タンク33は、周壁33aと、周壁33aを覆うように設置される屋根33bとを備え、高温タンク33の内部を密閉する構成としている。高温タンク33は、底側にて蓄熱材HSを貯留している。ここで、高温タンク33において、収容している蓄熱材HSの液面より上方で周壁33a及び屋根33bにより閉塞される空間について「気相部33c」と称する。高温タンク33は、高温タンク用ライン38によって、熱交換器31の容器37と接続される。高温タンク用ライン38と熱交換器31との接続位置は、容器37の上部とされる。
【0021】
高温タンク用ライン38は、供給管38a及び回収管38bに分岐され、高温タンク33への接続箇所が2箇所となるよう設置する。供給管38aは、蓄熱材HSを熱交換器31の容器37に供給する際に利用され、回収管38bは、蓄熱材HSを熱交換器31の容器37から回収する際に利用される。供給管38aには、蓄熱材HSを高温タンク33から熱交換器31側に送出するポンプ38cが設けられる。回収管38bには、蓄熱材HSの流れを遮断及び許容する弁38dが設けられる。
【0022】
低温タンク34は、周壁34aと、周壁34aを覆うように設置される屋根34bとを備え、低温タンク34の内部を密閉する構成としている。低温タンク34は、低温タンク用ライン39によって、熱交換器31の容器37と接続される。低温タンク用ライン39と熱交換器31との接続位置は、容器37の下部とされる。
【0023】
低温タンク用ライン39は、供給管39a及び回収管39bに分岐され、低温タンク34への接続箇所が2箇所となるよう設置する。供給管39aは、蓄熱材HSを熱交換器31の容器37に供給する際に利用され、回収管39bは、蓄熱材HSを熱交換器31の容器37から回収する際に利用される。供給管39aには、蓄熱材HSを低温タンク34から熱交換器31側に送出するポンプ39cが設けられる。回収管39bには、蓄熱材HSの流れを遮断及び許容する弁39dが設けられる。
【0024】
蓄熱システム10にあっては、高温タンク33に設けられる抑制部40を更に備えている。抑制部40は、ガス分析部42及びガス供給部43を備えている。
【0025】
ガス分析部42は、例えば、赤外線方式のガス分析装置により構成される。ガス分析部42は、高温タンク33の気相部33cにおけるガス分析を行い、高温となる硝酸塩系の溶融塩の分解によって発生するNOxガス(気相の窒素酸化物)の濃度(NOxガス濃度)を測定する。溶融塩の分解については後述する。
【0026】
ガス供給部43は、蓄熱材HSにおける溶融塩の分解によって発生するNOxガスに応じ、充填ガスとしてNOxガスを高温タンク33に供給する。ガス供給部43は、NOxガスの生成装置や、NOxガスを貯留するボンベ、タンクを備えた構成が例示できる。ガス供給部43は、所定のNOxガス濃度になるよう、NOxガスと大気とを所定割合にて混合した混合ガスを調整し、ポンプ等を介して高温タンク33に供給可能に設けられる。
【0027】
蓄熱システム10は、高温タンク33及び低温タンク34それぞれに設けられるガス放出管44及びガス放出弁45を更に備えている。ガス放出管44は、各タンク33、34の屋根33b、34bや周壁33a、34aの上部に設けられ、各タンク33の内外に連通している。
【0028】
ガス放出弁45は、ガス放出管44に設けられている。ガス放出弁45は、ガス放出管44を開閉する逆止弁により構成することが例示でき、常時は閉弁しつつ、各タンク33、34内の圧力が大気圧以上になった際に開弁し、各タンク33、34内のガスを放出可能に設けられる。ガス放出弁45を設けることで、各タンク33、34内が高圧となって負荷が加わることを防止することができる。
【0029】
上述した各ポンプ25、38c、39c、各弁38d、39d、ガス分析部42及びガス供給部43は、制御部50によって動作が制御される。制御部50は、記憶部及び通信部を有する装置として、プログラマブルコントローラ(PLC)やパーソナルコンピュータ(PC)を例示することができる。制御部50は、中央処理装置(CPU)等を含み、蓄熱システム10の各部の制御を介して全体を制御する。
【0030】
次に、本実施の形態の蓄熱システム10における運転及び出力調整について説明する。
【0031】
ここでは、ボイラ11は、定格運転として熱出力が一定となる条件とし、発電機Gにおける要求出力(発電量)が変化する場合を想定する。また、制御部50によって循環ポンプ25を駆動させ、蒸気タービン12及び復水器13から低温部ライン20を経てボイラ11に流入する水・蒸気STの量を所定量に制御する。
【0032】
発電機Gの要求出力が少ない時間帯は、発電機Gの出力を減らしつつ蓄放熱系30に熱エネルギーを蓄熱する蓄熱運転を行う。かかる蓄熱運転では、
図1に示すように、高温部ライン21から高温接続ライン28を経て熱交換器31の伝熱管36にボイラ11で加熱された高温の水・蒸気STが通過し、容器37内を流れる蓄熱材HSと熱交換する。このとき、制御部50によって各ポンプ38c、39cの駆動及び各弁38d、39dの開閉が以下のように制御される。
【0033】
蓄熱運転にて、制御部50による制御は、低温タンク用ライン39のポンプ39cを駆動し、低温タンク34から供給管39aを経て熱交換器31の容器37に蓄熱材HSを送出する。更に、高温タンク用ライン38の弁38dを開放し、容器37内の蓄熱材HSが回収管38bを経て高温タンク33に流入することを許容する。なお、低温タンク用ライン39の弁39dは閉塞し、高温タンク用ライン38のポンプ38cは駆動を停止するよう制御する。
【0034】
上記の制御によって、熱交換器31の容器37を通じて低温タンク34から高温タンク33に蓄熱材HSが供給される。これにより、高温タンク33では高温となる蓄熱材HSの貯蔵量が次第に増加し、かつ、低温タンク34では低温となる蓄熱材HSの貯蔵量が次第に減少する。
【0035】
よって、蓄放熱系30での蓄熱エネルギーが増加し、ボイラ11の出力が一定の場合、後述する放熱運転と比べると、発電機Gの出力が減少する。熱交換器31にて熱エネルギーが吸収された水・蒸気STは、低温接続ライン27を経て低温部ライン20に流入する。
【0036】
一方、発電機Gの要求出力が大きい時間帯は、蓄放熱系30に蓄熱した熱エネルギーを放出して発電機Gの出力を増加させる放熱運転を行う。かかる放熱運転では、
図2に示すように、低温部ライン20から低温接続ライン27を経て熱交換器31の伝熱管36に蒸気タービン12で動力発生に用いられた低温の水・蒸気STが通過し、容器37内を流れる蓄熱材HSと熱交換する。このとき、制御部50によって各ポンプ38c、39cの駆動及び各弁38d、39dの開閉が以下のように制御される。
【0037】
放熱運転にて、制御部50による制御は、高温タンク用ライン38のポンプ38cを駆動し、高温タンク33から供給管38aを経て熱交換器31の容器37に蓄熱材HSを送出する。更に、低温タンク用ライン39の弁39dを開放し、容器37内の蓄熱材HSが回収管39bを経て低温タンク34に流入することを許容する。なお、高温タンク用ライン38の弁38dは閉塞し、低温タンク用ライン39のポンプ39cは駆動を停止するよう制御する。
【0038】
上記の制御によって、熱交換器31の容器37を通じて高温タンク33から低温タンク34に蓄熱材HSが供給される。これにより、高温タンク33では高温となる蓄熱材HSの貯蔵量が次第に減少し、かつ、低温タンク34では低温となる蓄熱材HSの貯蔵量が次第に増加する。
【0039】
また、熱交換器31にて熱エネルギーを吸収した水・蒸気STは、高温接続ライン28を経て高温部ライン21に流入し、蒸気タービン12にてエネルギーを放出する。よって、蓄熱システム10においては、蓄放熱系30での蓄熱エネルギーが減少し、ボイラ11の出力が一定の場合、蓄熱運転と比べると発電機Gの出力が増大する。
【0040】
ところで、上述の蓄熱システム10の運転の実施前に、高温タンク33の気相部33cには、蓄熱材HSにおける硝酸塩系の溶融塩の分解を抑制すべく、NOxガス(気相の窒素酸化物)が充填される。その理由について、以下に説明する。
【0041】
本実施の形態における溶融塩は、NaNO
3、KNO
3の混合塩であり、高温タンク33にて溶融しているときはイオン(Na
+、NO
3
-等)の状態で存在している。高温時に分解が生じるのはNO
3
-であり、以下の反応式(1)-(3)により分解が進むと想定される。反応式(1)はNO
3
-のNO
2
-への熱分解、反応式(2)はNO
2
-のNO
xへの分解反応、反応式(3)は硝酸塩(NaNO
3、KNO
3)の気化を示している。
【化1】
【0042】
高温タンク33の気相部33c中にて、溶融塩は、最終的には反応式(2)のようにNOxガスとなって放出されるため、気相部33c中のNOxガス濃度を一定とすることで、溶融塩の分解が抑制されると想定される。
【0043】
一方、上記第1の実施の形態では、蓄放熱系30での蓄熱エネルギーの増減に応じ、高温タンク33内に貯留される蓄熱材HSの貯蔵量が増減する。高温タンク33内の蓄熱材HSが減少する場合、蓄熱材HSの液面が下降するので、高温タンク33内の気相部33cの体積が増加し、気相部33cの圧力は負圧となる。高温タンク33に負荷が加わることを防止するため、かかる負圧から大気圧に近付けるにあたり、高温タンク33の外部から内部へガスを供給する必要がある。
【0044】
このとき、仮に、高温タンク33内に大気を供給すると、高温タンク33の気相部33cにおけるNOxガス濃度が低下し、溶融塩の分解が促進されるおそれがある。そこで、高温タンク33の気相部33c中における溶融塩の分解を抑制すべく、制御部50によって抑制部40が制御される。かかる抑制部40の制御について、以下に説明する。
【0045】
蓄熱システム10の運転中、制御部50の制御によって、ガス分析部42にて高温タンク33の気相部33cにおけるNOxガス濃度の測定が行われ、測定結果が制御部50に出力される。制御部50では、ガス分析部42の測定結果に基づき、ガス供給部43による高温タンク33へのNOxガスの供給が制御される。
【0046】
かかる制御の例を挙げると、制御部50に対し、高温タンク33の気相部33cにおけるNOxガス濃度の理想値を予め記憶しておく。そして、かかる理想値とガス分析部42の測定結果との差分を制御部50にて求める。制御部50は、該差分に応じて高温タンク33の気相部33cが所定のNOxガス濃度になるよう、ガス供給部43から供給する混合ガスのNOxガスと大気との混合割合を制御する。また、制御部50は、ガス供給部43から高温タンク33への混合ガスの供給量を制御する。これにより、高温タンク33の気相部33cが負圧になることを防止しつつ、気相部33c中のNOxガス濃度が所定範囲内に制御され、抑制部40を介して高温タンク33に収容された溶融塩の分解を抑制することができる。
【0047】
従って、第1の実施の形態では、蓄熱材HSの温度を高く設定しても、溶融塩にて分解が生じることを抑制でき、溶融塩の経時的な減少を回避してランニングコストを抑えることができる。言い換えると、ランニングコストを抑えつつ、高温の蓄熱材HSの温度を高く設定して蓄放熱系30にて蓄えられる蓄熱エネルギーを増大でき、蓄熱システム10の最大出力を高めたり、調整電力としての利用促進を図ったりすることができる。
【0048】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、以下の説明において、第1の実施の形態と同一若しくは同等の構成部分については同一符号を用いる場合があり、説明を省略若しくは簡略にする場合がある。
【0049】
本発明の第2の実施の形態について
図3を参照して説明する。
図3は、第2の実施の形態に係る蓄熱システムの概略構成図である。
図3に示すように、第2の実施の形態では、第1の実施の形態の抑制部40とは異なる抑制部60を設けて構成される。第2の実施の形態の抑制部60は、遮蔽部材61、駆動部62、高温側流量測定部63、及び、低温側流量測定部64に加え、ポンプ38c、39cを備えて構成される。
【0050】
第2の実施の形態にて、遮蔽部材61は、高温タンク33の収容された蓄熱材HSの液面を覆う位置に設けられる。よって、遮蔽部材61は、高温タンク33の気相部33cに対して蓄熱材HSを遮蔽し、高温となる蓄熱材HSの溶融塩が分解、気化することを抑制している。
【0051】
遮蔽部材61は、高温の蓄熱材HSに対する耐食性を有するステンレス等の金属材料によって形成される。遮蔽部材61は、駆動部62を介して高温タンク33の内面側に支持される。
【0052】
駆動部62は、遮蔽部材61を上下方向に駆動する機構が採用され、簡略化して図示したがシリンダや直動モータ、リニアモータ、コンベア、移動ステージ、スライダ、送りねじ構造等を用いた移動機構とすることができる。
【0053】
高温側流量測定部63及び低温側流量測定部64は、例えば、蓄熱材HSの流量を連続測定する電磁流量計や超音波流量計により構成される。高温側流量測定部63は、高温タンク用ライン38の供給管38aに設けられ、ポンプ38cによって高温タンク33から熱交換器31に送出される蓄熱材HSの流量を測定する。低温側流量測定部64は、低温タンク用ライン39の供給管39aに設けられ、ポンプ39cによって低温タンク34から熱交換器31に送出される蓄熱材HSの流量を測定する。
【0054】
第2の実施の形態にて、高温タンク33及び低温タンク34それぞれにガス流通管71が設けられ、ガス流通管71には該ガス流通管71を開閉する開閉弁72が設けられる。開閉弁72は、常時は閉弁しつつ、各タンク33、34内の圧力が負圧になったり大気圧以上になったりした際に開弁する。開閉弁72が開弁したときに、ガス流通管71を通じて各タンク33、34内に大気を導入したり、各タンク33、34内のガスを放出することが可能となる。よって、開閉弁72は各タンク33、34内のガスを放出するガス放出弁としても機能する。
【0055】
第2の実施の形態においては、蓄熱システム10の運転の実施中、制御部50の制御によって、各流量測定部63、64にて各タンク33、34から熱交換器31に送出される蓄熱材HSの流量が測定され、測定結果が制御部50に出力される。制御部50では、各流量測定部63、64の測定結果に基づき、駆動部62による遮蔽部材61の駆動を制御する。
【0056】
かかる制御は、制御部50にて、各流量測定部63、64の測定結果に対し、予め記憶したテーブルや演算式から駆動部62の駆動量が求められ、該駆動量に応じて駆動部62が遮蔽部材61を上下方向に移動する。これにより、高温タンク33内に貯留される蓄熱材HSの貯蔵量が増減することによる液面の高さ変化に応じて遮蔽部材61を上下動することができる。この上下動によって、遮蔽部材61が蓄熱材HSの液面に接触、または、それらの間に大きな空間が生じない状態が維持でき、高温タンク33に収容された溶融塩の気化を抑制することができる。
【0057】
また、溶融塩の気化を抑制できるので、気化した溶融塩が高温タンク33に接続される各種配管に析出することを防止でき、該析出によって配管が閉塞したり、配管の内径が析出量に応じて小さくなることを回避することができる。これにより、析出に起因して高温タンク33の圧力調整が行い難くなる等の不都合を解消することができる。
【0058】
本発明の実施の形態は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、本発明の技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、本発明の技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。
【0059】
上記各実施の形態では、複数のタンクとして高温タンク33及び低温タンク34を1基ずつとしたが、これに限られるものでない。例えば、複数のタンクにおいて、高温タンク33及び低温タンク34の少なくとも一方を複数としたり、収容される蓄熱材HSの温度が高温タンク33及び低温タンク34の蓄熱材HSの中間の温度となる中温タンクを増設してもよい。
【0060】
また、上記第1の実施の形態にて抑制部40を高温タンク33だけに設けたが、低温タンク34にも同様の抑制部40を設けることを妨げるものでない。更に、上記第2の実施の形態にて、抑制部60の遮蔽部材61及び駆動部62を高温タンク33だけに設けたが、これらを低温タンク34にも同様に設けることを妨げるものでない。収容された蓄熱材HSにおける溶融塩の分解を抑制部40、60によって抑制するタンクは、複数のタンクの何れとしてもよいが、高温の蓄熱材HSを収容するタンクでは溶融塩が分解し易くなるので、抑制部40、60による効果をより良く得ることができる。
【0061】
また、第2の実施の形態の抑制部60にて、各流量測定部63、64に代えて、高温タンク33における蓄熱材HSの液面高さを検出するセンサを有する構成としてもよい。該センサによる検出結果に応じて駆動部62を駆動するよう制御部50にて制御することで、高温タンク33における蓄熱材HSが増減して液面高さが変化しても、該変化に応じて遮蔽部材61を上下方向に移動することができる。
【0062】
また、第2の実施の形態にて、遮蔽部材61が蓄熱材HSの液面上に浮いている構成としてもよく、該構成によれば、駆動部62を省略することができる。
【0063】
また、第1の実施の形態にて、ガス放出弁45は、逆止弁に代えて、制御部50によって開閉動作が制御される開閉弁としてもよい。
【0064】
また、上記各実施の形態では、水・蒸気STを作業流体としたが、該作業流体として、蒸気以外のヘリウムガス等のガスを用いてもよい。
【0065】
また、熱交換器31の構成は、上記各実施の形態と同様に熱交換を行える限りにおいて、伝熱管36を用いた構成とは異なる構成としてもよい。
【0066】
また、動力発生装置は、蒸気タービン12を用いた構成に限られず、ボイラ11等の加熱装置より供給される作業流体から熱エネルギーを取り出し可能な他の熱利用装置としてもよい。
【0067】
また、循環ポンプ25の駆動による水・蒸気STの送出量は一定としても適宜変化させてもよいが、一定とした方が制御を簡略化できる点で有利となる。
【0068】
また、蓄熱材HSに用いられる溶融塩は、作動流体に対して液相で熱交換して化学的に不活性であれば、硝酸塩系の溶融塩に限定されずに他の溶融塩に変更してもよい。溶融塩の変更に応じ、抑制部40のガス分析部42では、濃度を測定するガスの種類が変更され、ガス供給部43では、供給するガスの種類が変更される。
【符号の説明】
【0069】
10 :蓄熱システム
11 :ボイラ(加熱装置)
12 :蒸気タービン(動力発生装置)
31 :熱交換器
33 :高温タンク(タンク)
34 :低温タンク(タンク)
38c :ポンプ
39c :ポンプ
40 :抑制部
42 :ガス分析部
43 :ガス供給部
44 :ガス放出管
45 :ガス放出弁
50 :制御部
60 :抑制部
61 :遮蔽部材
62 :駆動部
63 :高温側流量測定部(流量測定部)
64 :低温側流量測定部(流量測定部)
72 :開閉弁(ガス放出弁)
HS :蓄熱材
ST :水・蒸気(作動流体)