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  • 特開-耐火被覆方法および耐火被覆構造 図1
  • 特開-耐火被覆方法および耐火被覆構造 図2
  • 特開-耐火被覆方法および耐火被覆構造 図3
  • 特開-耐火被覆方法および耐火被覆構造 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175606
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】耐火被覆方法および耐火被覆構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/94 20060101AFI20241211BHJP
【FI】
E04B1/94 D
E04B1/94 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093531
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 平祐
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001EA06
2E001FA01
2E001FA02
2E001GA29
2E001HA32
2E001HA34
(57)【要約】
【課題】短時間で施工することができる耐火被覆方法および耐火被覆構造を提供する。
【解決手段】構造部材16を耐火被覆する耐火被覆方法であって、ブランケット状の耐火被覆材10とシート状の薄形断熱材12とを接着して一体化した重ね張り耐火被覆材14を作製するステップと、前記重ね張り耐火被覆材14のうち前記耐火被覆材10のある側を前記構造部材16の外表面に向けるようにして、前記重ね張り耐火被覆材14によって前記構造部材16の外表面を被覆するステップと、その後、留付材26によって前記重ね張り耐火被覆材14を前記構造部材16の外表面に留め付けるステップとを有するようにする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造部材を耐火被覆する耐火被覆方法であって、
ブランケット状の耐火被覆材とシート状の薄形断熱材とを接着して一体化した重ね張り耐火被覆材を作製するステップと、前記重ね張り耐火被覆材のうち前記耐火被覆材のある側を前記構造部材の外表面に向けるようにして、前記重ね張り耐火被覆材によって前記構造部材の外表面を被覆するステップと、その後、留付材によって前記重ね張り耐火被覆材を前記構造部材の外表面に留め付けるステップとを有することを特徴とする耐火被覆方法。
【請求項2】
構造部材を耐火被覆してなる耐火被覆構造であって、
前記構造部材の外表面を被覆するブランケット状の耐火被覆材と、前記耐火被覆材の外表面に接着したシート状の薄形断熱材と、前記耐火被覆材および前記薄形断熱材を貫通して前記構造部材の外表面に留め付ける留付材とを備えることを特徴とする耐火被覆構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築などの分野で使用される耐火被覆方法および耐火被覆構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、部材の耐火性能を上げるために耐火被覆材の性能を向上させる方法として、耐火被覆材の厚さを増加する、もしくは異種の被覆材を重ね張りする方法が知られている。後者には、例えば、下張被覆材の外周に、より熱伝導率が小さい上張被覆材を取付ける方法がある(例えば、特許文献1を参照)。この方法は、前者の方法よりも薄形性に優れるため、部材を細径化することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2023-1344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の従来の方法では、下張被覆材を施工した後に、上張被覆材を取付ける必要があり、施工に時間を要するなどの問題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、短時間で施工することができる耐火被覆方法および耐火被覆構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る耐火被覆方法は、構造部材を耐火被覆する耐火被覆方法であって、ブランケット状の耐火被覆材とシート状の薄形断熱材とを接着して一体化した重ね張り耐火被覆材を作製するステップと、前記重ね張り耐火被覆材のうち前記耐火被覆材のある側を前記構造部材の外表面に向けるようにして、前記重ね張り耐火被覆材によって前記構造部材の外表面を被覆するステップと、その後、留付材によって前記重ね張り耐火被覆材を前記構造部材の外表面に留め付けるステップとを有することを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る耐火被覆構造は、構造部材を耐火被覆してなる耐火被覆構造であって、前記構造部材の外表面を被覆するブランケット状の耐火被覆材と、前記耐火被覆材の外表面に接着したシート状の薄形断熱材と、前記耐火被覆材および前記薄形断熱材を貫通して前記構造部材の外表面に留め付ける留付材とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る耐火被覆方法によれば、構造部材を耐火被覆する耐火被覆方法であって、ブランケット状の耐火被覆材とシート状の薄形断熱材とを接着して一体化した重ね張り耐火被覆材を作製するステップと、前記重ね張り耐火被覆材のうち前記耐火被覆材のある側を前記構造部材の外表面に向けるようにして、前記重ね張り耐火被覆材によって前記構造部材の外表面を被覆するステップと、その後、留付材によって前記重ね張り耐火被覆材を前記構造部材の外表面に留め付けるステップとを有するので、下張りとなる耐火被覆材の留付工程を省略することができる。このため、短時間で施工することができるという効果を奏する。
【0009】
また、本発明に係る耐火被覆構造によれば、構造部材を耐火被覆してなる耐火被覆構造であって、前記構造部材の外表面を被覆するブランケット状の耐火被覆材と、前記耐火被覆材の外表面に接着したシート状の薄形断熱材と、前記耐火被覆材および前記薄形断熱材を貫通して前記構造部材の外表面に留め付ける留付材とを備えるので、下張りとなる耐火被覆材の留付工程を省略することができる。このため、短時間で施工することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明に係る耐火被覆方法の実施の形態を示す断面図である。
図2図2は、解析ケースおよび解析結果を示すテーブル図である。
図3図3は、解析による鉄骨梁の温度変化を示す図である。
図4図4は、施工フローの比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係る耐火被覆方法および耐火被覆構造の実施の形態について、構造部材が鉄骨梁である場合を例にとり、図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0012】
まず、図1(1)に示すように、下張りとなる耐火被覆材10と、上張りとなる薄形断熱材12とを接着剤で接着して、一体化した重ね張り耐火被覆材14を作製しておく。重ね張り耐火被覆材14は、平面視で矩形状のブランケット型のものを想定しているが、本発明はこれに限らない。
【0013】
下張りとなる耐火被覆材10は、熱伝導率が0.04[W/m・K]程度以上の一般的な耐火被覆材であり、例えば、耐熱ロックウール、セラミックファイバーブランケット、AESブランケットなどのブランケット状のものを用いることができる。耐火被覆材10の厚さは、要求される耐火性能に応じて適宜設定可能であるが、例えば20mm程度としてもよい。
【0014】
上張りとなる薄形断熱材12は、熱伝導率が0.02[W/m・K]程度の高い遮熱性を有する薄形断熱材であり、例えば、フュームドシリカなどを原料としたシート状のものを用いることができる。薄形断熱材12の厚さは、要求される耐火性能や、一体化する耐火被覆材10の材質や厚さに応じて適宜設定可能であるが、2mm以上15mm以下とするのが好ましい。
【0015】
次に、図1(2)に示すように、重ね張り耐火被覆材14のうち耐火被覆材10のある側を鉄骨梁16(構造部材)の外表面に向けるようにして、鉄骨梁16の外表面を重ね張り耐火被覆材14で被覆する。鉄骨梁16は、上下フランジ18、20とウェブ22を備えたH形鋼からなり、上フランジ18の上面は、上階の床材24の下面に取り付けられている。床材24は、コンクリートやALCなどで構成される。鉄骨梁16の外表面を被覆する際には、例えば、重ね張り耐火被覆材14の左右方向の略中央面を鉄骨梁16の下フランジ20の下面に当て、重ね張り耐火被覆材14の左右側の面を下フランジ20の端部に巻き付けるようにして折り曲げ、下フランジ20の上面、ウェブ22の側面、上フランジ18の下面、小口に沿わせるようにして床材24の下面まで配置する。なお、本発明の構造部材はH形鋼からなる鉄骨梁に限るものではなく、他の断面形状の鉄骨梁でもよい。また、本発明は、構造部材の種別によらず適用可能であり、例えば、形鋼や鋼管などからなる柱などであってもよい。
【0016】
次に、図1(3)、(4)に示すように、溶接ピンやビスなどの留付材26によって重ね張り耐火被覆材14を鉄骨梁16の外表面に留め付ける。具体的には、仮止めした重ね張り耐火被覆材14の外表面から留付材26を鉄骨梁16に向けて刺し入れて、留付材26の鍔状の頭部28を重ね張り耐火被覆材14の外表面に押し当て、留付材26の先端30を鉄骨梁16の外表面に留め付ける。こうすることで、下張りの耐火被覆材10と上張りの薄形断熱材12が、共通の留付材26によって鉄骨梁16へ取り付けられる。留付材26は、ウェブ22の上側と下側の左右両面、上フランジ18の左右端部に配置される場合を図示しているが、これ以外の配置であってもよい。
【0017】
以上の施工手順により、本実施の形態の耐火被覆構造100を施工することができる。本実施の形態によれば、耐火被覆材10と薄形断熱材12とを予め接着した状態で鉄骨梁16へ取り付けることで、下張りの耐火被覆材10の留付工程を省略することができる。また、後述するように、一般的な耐火被覆材と同様の施工方法を適用でき、かつ、単張りの場合と同程度の施工内容となるため、施工性に優れる。このため、本実施の形態によれば、短時間で簡便に施工することができる。
【0018】
また、後述するように、要求される耐火性能が高い部位においても耐火被覆厚を抑えることができるため、耐火被覆材の総厚を抑えながら、遮熱性能を効果的に増大することができる。このため、意匠設計や設備設計の自由度が高い。
【0019】
(本発明の耐火性能の検証)
次に、本発明の耐火性能について検証した解析結果について説明する。
本検証では、耐熱ロックウール(耐火被覆材)のみで耐火被覆した鉄骨梁と、耐熱ロックウールの外側に薄形断熱材を重ね張りした鉄骨梁を火災加熱した場合の鉄骨梁温度を調べ、本発明の効果を検証した。鉄骨梁温度は集中質点系一次元熱伝導解析により算出した。火災加熱の条件はISO834に規定される標準加熱曲線とした。
【0020】
解析ケースおよび解析結果(鉄骨梁温度の時間変化)を図2図3に示す。解析番号1、3、5が比較例(A~C)に相当し、解析番号2、4が本発明の実施例(A、B)に相当する。これらの図に示すように、厚さ20mmの耐熱ロックウールで耐火被覆して1時間の加熱を行うと(解析番号1:比較例A)、鉄骨梁温度は最高で560℃となる。この耐熱ロックウールの外側に薄形断熱材を2mm重ね張りすると(解析番号2:実施例A)、鉄骨梁温度は最高で500℃となり、温度上昇を60℃抑制できる。
【0021】
次に、2時間の加熱を行うと、耐熱ロックウールのみで耐火被覆した場合(解析番号3:比較例B)、鉄骨梁温度を1時間加熱時と同じ560℃に抑制するためには、被覆厚を60mm以上増大させる必要がある。一方、耐熱ロックウール(厚さ20mm)の外側に薄形断熱材を重ね張りした場合、薄形断熱材を10mm重ね張りするだけで(解析番号4:実施例B)、鉄骨梁温度を560℃に抑制できる。また、薄形断熱材を外側に張ることで、内側に張る場合(解析番号5:比較例C)よりも、温度上昇を60℃抑制できる。すなわち、本発明の実施例Bでは、2時間加熱を受ける鉄骨梁の耐火性能を1時間加熱時と同等にするために必要な被覆厚を、比較例Bに比べ50mm以上削減できることがわかる。
【0022】
(本発明の施工性の検証)
次に、本発明の施工性について、柱(構造部材)を用いて検証した比較結果について説明する。
図4(1)は、上記の特許文献1に記載の施工フローを想定した比較例1である。図4(2)は、一般的な耐火被覆材の従来の施工フローを想定した比較例2である。図4(3)は、本発明の実施例の施工フローである。
【0023】
比較例1では、図4(1)に示すように、施工開始後(ステップT11)、柱を設置し(ステップT12)、柱の外周面にラス網を巻き付けた後(ステップT13)、柱に位置決め用スペーサを設置する(ステップT14)。一方、発泡させた石膏により捨て型枠を製作し(ステップT15)、これを養生・硬化しておく(ステップT16)。その後、柱に捨て型枠(外層耐火被覆材)を取り付けた後(ステップT17)、捨て型枠の内面にラス網を取り付け(ステップT18)、捨て型枠内に石膏(内層耐火被覆材)を充てんし(ステップT19)、施工完了する(ステップT20)。
【0024】
比較例2では、図4(2)に示すように、施工開始後(ステップT21)、柱を設置し(ステップT22)、柱の外周面に下張り耐火被覆材を巻き付け、溶接ピンで固定した後(ステップT23)、柱の外周面(下張り耐火被覆材の外表面)に上張り耐火被覆材を巻き付け、溶接ピンで固定し(ステップT24)、施工完了する(ステップT25)。
【0025】
実施例では、図4(3)に示すように、施工開始後(ステップS1)、柱を設置する(ステップS2)。一方、下張りの耐火被覆材10と上張りの薄形断熱材12を予め接着し、重ね張り耐火被覆材14を作製しておく(ステップS3)。その後、柱の外周面に重ね張り耐火被覆材14を巻き付け、留付材26で固定し(ステップS4)、施工完了する(ステップS5)。図4に示すように、本実施例は、比較例1、2に比べて施工工程が少なく、施工性に優れることがわかる。
【0026】
以上説明したように、本発明に係る耐火被覆方法によれば、構造部材を耐火被覆する耐火被覆方法であって、ブランケット状の耐火被覆材とシート状の薄形断熱材とを接着して一体化した重ね張り耐火被覆材を作製するステップと、前記重ね張り耐火被覆材のうち前記耐火被覆材のある側を前記構造部材の外表面に向けるようにして、前記重ね張り耐火被覆材によって前記構造部材の外表面を被覆するステップと、その後、留付材によって前記重ね張り耐火被覆材を前記構造部材の外表面に留め付けるステップとを有するので、下張りとなる耐火被覆材の留付工程を省略することができる。このため、短時間で施工することができる。
【0027】
また、本発明に係る耐火被覆構造によれば、構造部材を耐火被覆してなる耐火被覆構造であって、前記構造部材の外表面を被覆するブランケット状の耐火被覆材と、前記耐火被覆材の外表面に接着したシート状の薄形断熱材と、前記耐火被覆材および前記薄形断熱材を貫通して前記構造部材の外表面に留め付ける留付材とを備えるので、下張りとなる耐火被覆材の留付工程を省略することができる。このため、短時間で施工することができる。
【0028】
なお、2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。本実施の形態に係る耐火被覆方法および耐火被覆構造は、このSDGsの17の目標のうち、例えば「11.住み続けられるまちづくりを」の目標などの達成に貢献し得る。
【産業上の利用可能性】
【0029】
以上のように、本発明に係る耐火被覆方法および耐火被覆構造は、建物の構造部材を被覆する耐火被覆構造に有用であり、特に、短時間で施工するのに適している。
【符号の説明】
【0030】
10 耐火被覆材
12 薄形断熱材
14 重ね張り耐火被覆材
16 鉄骨梁(構造部材)
18 上フランジ
20 下フランジ
22 ウェブ
24 床材
26 留付材
28 頭部
30 先端
100 耐火被覆構造
図1
図2
図3
図4